説明

エレベータ

【課題】地震の発生等に起因する突然の停電に際しても昇降動作を継続し得て、人がかごの中に閉じ込められるといったことがないとともに、かごの動きのぎこちなさといったことのないエレベータを提供する。
【解決手段】人、物を積載するかご1と、滑車5に掛け回される索条6によってかごに連結されるカウンタウエイトと、モータなどの駆動力によって人、物を積載するかごとカウンタウエイトの力をバランスさせるか又は僅かにカウンタウエイトの力が大なる如くトルク設定される定荷重ばね3と、人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構とを有してなるエレベータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定荷重ばね、カウンタウエイトといった受動素子で主要部が構成され、停電時においても人がかごの中に閉じ込められるといったことのないエレベータ、特に本質安全型ホームエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は、確実に高齢化社会へ向かいつつある。而して、下肢(歩行)機能の衰えた高齢者の上下階間の移動或いは家庭で介護等を行うに際しては、ホームエレベータが上下階間の重要な移動手段となる。一方、地震の発生等に起因して停電となったときに、人がエレベータのかごの中に長時間閉じ込められると、人が受ける精神的なダメージは大きなものがある。わけても夜間、突然の暗闇の中、人がエレベータのかごの中に数十分乃至1時間を超える長時間閉じ込められると、それはさらに大きなものとなる。
【0003】
而して、突然の停電に遭遇して、或いは落下防止のためのロック機構の誤動作による非常停止に際して人がエレベータのかごの中に長時間閉じ込められることのない、ホームエレベータが望まれている。一方、従来のエレベータにおいては、落雷などに起因してエレベータの制御系が故障し暴走することがある。機械的な非常制動装置が作動し、エレベータのかごの中の人が死に至ることはないにしても、精神的に大きなショックを受ける。
【0004】
従来、エレベータは、かごとカウンタウエイトをワイヤロープで連結し幾つかの滑車を介して巻き上げ機によってかごを昇降させる方式を採っている。而して、(人+かご)の重さとカウンタウエイトの重さ(通常、カウンタウエイトの重さの方が小さい)の差分をモータで巻き上げている。
【0005】
他方、カウンタウエイトをぜんまいばね或いは定荷重ばねで代替させるようにした介護用移動補助装置が既知である(たとえば、特許文献1参照)。この先行技術にあっては、錘によって見掛けの体重を小さくして、被介護者をその身体保持手段を介して上昇させるようにしている。被介護者をその身体保持手段を介して上昇させるときの推力は、前記錘の質量を変更することによってなされる。而して、この錘に代えて定荷重ばねを用いることもできるとされている(特許文献1(特開2002−336307号公報)の図23の態様)。また、復元用錘もぜんまいばねで代替できるとされている(特許文献1(特開2002−336307号公報)の図24,図25の態様)。
【特許文献1】特開2002−336307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、(人+かご)の重さとカウンタウエイトの重さ(通常、カウンタウエイトの重さの方が小さい)の差分をモータで巻き上げるタイプのエレベータでは、地震の発生等に起因する突然の停電に際し、(人+かご)の重さの方がカウンタウエイトの重さよりも大であるが故にかごの落下防止のためにかごの動きをロックする機構が作動し、かごの中に人が長時間閉じ込められる問題を解決し得ない。エレベータのメーカーの緊急対応要員を派遣するとしても、都市部において上記突発的な停電に際してすべてのエレベータにきわめて短時間に対応することは事実上不可能である。また、落雷などによる電気ノイズに起因してエレベータの制御系が故障し暴走することにも十分に対処し得ない。
【0007】
特許文献1(特開2002−336307号公報)に開示の介護用移動補助装置においては、錘によって見掛けの体重を小さくして、被介護者をその身体保持手段を介して上昇させるようにしている。被介護者をその身体保持手段を介して上昇させるときの推力は、前記錘の質量を変更することによってなされる。而して、錘の位置変更は同公報の図2および図8、図9に示されているように、モータおよびウォーム減速機によってなされており、吊り具の昇降過程(エレベータ40の作動)にモータが必須の要素となっている。従って、突然の停電等に際して、昇降を停止させることなく継続させることができない。
【0008】
また、特許文献1(特開2002−336307号公報)に開示の技術的手段をホームエレベータに適用したとしても、地震等に起因する突然の停電に際し、かごの中に人が長時間閉じ込められる問題を解決し得ない。
【0009】
本発明の発明者は、上記問題を解決するための本質安全型ホームエレベータを、特願2006−094280にて提案した。この提案になる本質安全型ホームエレベータによれば、地震の発生等に起因する突然の停電に際しても、昇降動作を継続し得て、人がかごの中に閉じ込められるといったことがない。
【0010】
しかしながら、発明者がこの本質安全型ホームエレベータを試作して運転してみると、定荷重ばねのみでかごを昇降させると、諸所の摩擦に起因してかごの動きがぎこちなくふらつくといった問題があった。また、索条の伸び(永久歪み)により停止階での停止位置が不正確になる問題もあった。
【0011】
本発明は、地震の発生等に起因する突然の停電に際しても、昇降動作を継続し得て、人がかごの中に閉じ込められるといったことがないとともに、前述のかごの動きのぎこちなさといった問題を解決した本質安全設計に基づくエレベータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、人、物を積載するかごと、滑車に掛け回される索条によって前記かごに連結されるカウンタウエイトと、モータなどの駆動力によって前記人、物を積載するかごとカウンタウエイトの力をバランスさせるか又は僅かにカウンタウエイトの力が大なる如くトルク設定される定荷重ばねと、前記人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構とを有してなるエレベータである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構が、かごの昇降用空間を形成する架構にラックギアを立設し、該ラックギアに噛合するピニオンギアをかご内部から延在する軸の一端に枢支するとともに前記軸の他端をモータ、変速ギア、クラッチからなる駆動系に接続し、前記モータの回転駆動によって人、物を積載するかごを昇降せしめるよう構成したものである請求項1に記載のエレベータである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構が、かごの昇降用空間を形成する架構に鉛直方向に延在する面を立設し、該面に押圧されるとともにかご内部から延在する軸の一端に枢支される回転体をモータで駆動し、人、物を積載するかごを昇降せしめるよう構成したものである請求項1に記載のエレベータである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の本質安全設計に基づくエレベータは、カウンタウエイト、定荷重ばねといった受動素子で主要部が構成され、かごの昇降は、定荷重ばねによってカウンタウエイトの重さの方が(人+荷物+かご)の重さよりもたとえば5kg大きいといった僅かにアンバランスに設定された状態の下で、20W〜60Wといった小容量のモータでなされる。而して、突然の停電に際しても人、物を積載するかごは僅かにアンバランスに設定されたカウンタウエイトによって上の階に上昇して機械的制動手段によって静かに停止し、機械的にドアを開き安全に外部に出ることができる。また、落雷等に起因する電気ノイズによる制御トラブルに起因する暴走や異常停止を生じることもない。
【0016】
また、万一、定荷重ばねが破断した場合でも、カウンタウエイトの重量を(かご+人或いは荷物)の重量よりも重く設定して置くことによって、かごは落下することなく上昇しバンパーの作動と相俟って系は安全側に移行する。このように、本発明のホームエレベータは本質的安全設計に基づいている。また、定荷重ばねのトルク設定をモータ及びウォーム減速機によって行うことならびにかごの昇降を20W〜60Wといった小容量のモータで行うのみであるから電力消費量がきわめて小さい。
【0017】
さらに、地震の発生等に起因する突然の停電に際しても、かごの昇降を手動で簡単に行えるからかごの昇降動作を継続し得て所望の階に行くことができ、この面からも人がかごの中に閉じ込められることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、エレベータたとえばホームエレベータを設計するに際して、突然の停電に際してもかごの中に人が閉じ込められるといった事態を招くことなくまた、かごが落下するといったことがない、本質的に安全なものをつくることを大前提としている。本発明のエレベータは、定員は2名程度で、1階と2階乃至3階間を移動することを念頭においている。以下、本発明をその好ましい実施例に則して説明する。
【実施例1】
【0019】
図1乃至図3に、本発明の一実施例に係るエレベータを示す。図1において、1はかごであって、人や荷物を搭載する。2はカウンタウエイトであり、本発明においては、(人或いは荷物+かご)の重さよりも重く設定されている。3は定荷重ばねであって、図示しないモータによって駆動される減速機4によって巻回、巻き解きがなされる。この定荷重ばねによって、(人+荷物+かご1)の重さとカウンタウエイト3の重さの関係において、カウンタウエイトの重さが僅かに、たとえば5kg重くなるように設定される。即ち、ウォームギア減速機4を介してモータの回転により、定荷重ばね3のトルクを調節して図1に示す定荷重ばね3とかご1の下面間の索条3の引っ張り力Fを調整して、(人或いは荷物+かご)の重さとカウンタウエイト3の重さの関係を設定する。
【0020】
5は滑車であり、索条(ワイヤ)6が巻回されかご1とカウンタウエイト2を変位自在に連結している。カウンタウエイトの重さを、設計段階で種々変更することは勿論可能である。かご1とカウンタウエイト2を変位自在に連結している索条(ワイヤ)6は、1本でも耐えることができるものを3本用いている。1本では劣化によって切断することがある。3本にしておいて、若し1本が切断した場合でも2本の状態にしておき、如何なる場合も索条(ワイヤ)6が1本という状況をつくらないようにしている。
【0021】
図2に、本発明で用いる定荷重ばねを示す。図2に示すように、内部に渦巻き状にぜんまいばね11が入っており、このぜんまいばね11に直結された軸に円錐状ドラムDが固定されている。このドラムDの外周面にワイヤ6を巻回、巻き解きするための索溝が螺旋状に彫設されている。図1に示す、モータによって駆動されるウォームギア減速機4による初期巻きによって荷重を設定すると、ぜんまいがある程度巻かれる。ワイヤ6を引き出すことによってぜんまいばね11はさらに巻かれてトルクが大きくなる。
【0022】
ワイヤ6にかかる力をF、ワイヤ6の引き出し位置でのドラムD断面半径をr、発生するトルクをTとすると、T=r×Fとなる。而して、ドラムDの軸から、ワイヤ6がドラムDから引き出されてドラムDから離れる点までの距離が最適値になるようにドラムDの傾斜を設定することによってほぼ定荷重を実現できる。しかし、ぜんまいばねの力は厳密には線形ではないので、全体の巻き数のうち線形とみなせる20%〜80%の間を使用している。モータによって駆動されるウォームギア減速機4による巻回によって一定荷重範囲内で設定荷重を調節できる。
【0023】
定荷重ばねは、以下のような特長をもっている。
1)ロックが解除されたら、ばねの弾性力のみで動く。
2)初期巻きの変更によって、簡単に力制御を行うことができる。
3)省エネルギーである。
【0024】
図3に、本発明の本質安全型ホームエレベータにおけるかごの昇降用駆動系を示す。図3において、1はかご、5は滑車、6は索条、17はモータ、18は減速機、19はクラッチである。クラッチ19は、この実施例においては、アクティブクラッチであり、電源が切れると負荷との接続が断たれる。21はピニオンギア、22はラックギア、26は軸である。而して、モータ17、減速機18、クラッチ19からなる駆動系によってピニオンギア21が回転せしめられ、ピニオンギア21とラックギア22の噛み合いによってかご1が昇降せしめられる。モータ17としては、バッテリーを電源とする直流モータを用いることもできるが、交流同期電動機が好ましい。交流同期電動機は、負荷の如何にかかわらず回転数が一定であり、かご1の昇降速度が変化しない点で好ましい。モータ17の容量は、20W〜60W程度の範囲である。
【0025】
20は手動用スプロケットホイールであって、モータの電源が停電等によって断たれたときに、手回し用スプロケットホイール23を手回し用クランク25を人手で回すことによってチェーン24を介して軸26に枢支されているピニオン21を回転させてかご1を下降させる。
【0026】
この実施例の本質安全型ホームエレベータの動作を説明する。カウンタウエイト2の重さは、これを(人+荷物+かご)の重さよりも重くしておく。カウンタウエイト2の重さと(人+荷物+かご)の重さを考慮して、モータの回転によりウォームギア減速機4を介して定荷重ばね3の設定トルクを調節し、カウンタウエイト2の重さを(人+荷物+かご)の重さよりも僅かに、たとえば5kg大きくする。その状態で、図3に示すモータ17を回転させ、かご1を昇降させる。かご1はカウンタウエイト2の重さによって上昇するから、モータ17には逆トルクが入力される。而して、かご1を下降させるときには、カウンタウエイト2の方が(人+荷物+かご)の重さよりもたとえば5kg重く設定されているから、(人+荷物+かご)の重さがたとえば5kg重くなるようにモータ17の回転トルクを与えかご1を下降させる。
【0027】
かご1の昇降動作中に停電となったときには、クラッチ19が切れてモータ17による駆動が断たれ、カウンタウエイト2と定荷重ばね3の設定荷重のアンバランス量に従ってかご1は上昇する。かご1の昇降動作中に停電となったときには、かご1はカウンタウエイト2によって最上階へ移動するが、最上階から所望の下層階に行きたい場合は、図3に示す手回しクランク25によって手回し用スプロケットホイール23を回転させ、チェーン24を介して手動用スプロケットホイール20を回転させて軸26に枢支されているピニオン21を回転せしめ、かご1を下降させる。
【実施例2】
【0028】
実施例1におけるラック22に代えて、表裏に粗面をもつ板状体をかご1の昇降空間を形成する架構に立設し、ピニオン21に代えて大きな摩擦係数を有する一対のタイヤを、前記表裏に粗面をもつ板状体を一対のタイヤ間に張設された引張りばねによって挟圧する如く配設し、タイヤの一方を回転自在とし、他方のタイヤをモータ17、減速機18、クラッチ19からなる駆動系によって回転駆動し、かご1を昇降させる構成とした。その余の構成および動作は、実施例1におけると同様である。
【実施例3】
【0029】
モータ17、減速機18、クラッチ19からなる駆動系をかご1の昇降空間の下方に固設し、ピニオンギア21に代えて索条巻回、巻き解き用滑車とし、一方、索条の一端をかご1の下端に連結し、索条の巻き込み、巻き解きによってかご1を昇降せしめるよう構成した。
【0030】
本発明を実施例によって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、モータ17、減速機18、クラッチ19からなる駆動系によって駆動される種々のかご1の昇降手段を採ることができる。また、かごを昇降させる駆動機構として、流体圧シリンダや電動シリンダ等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例に係る本質安全型ホームエレベータの基本構造を示す模式図
【図2】本発明の一実施例に係る本質安全型ホームエレベータに用いる定荷重ばねの構造を示す模式図
【図3】本発明の一実施例に係る本質安全型ホームエレベータの構造を示す模式図
【符号の説明】
【0032】
1 かご
2 カウンタウエイト
3 定荷重ばね
4 ウォームギア減速機
5 滑車
6 索条(ワイヤ)
11 ぜんまいばね
17 モータ
18 減速機
19 クラッチ
20 手動用スプロケットホイール
21 ピニオンギア
22 ラックギア
23 手回し用スプロケットホイール
24 チェーン
25 手回し用クランク
26 軸
D ドラム
F 力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人、物を積載するかごと、滑車に掛け回される索条によって前記かごに連結されるカウンタウエイトと、モータなどの駆動力によって前記人、物を積載するかごとカウンタウエイトの力をバランスさせるか又は僅かにカウンタウエイトの力が大なる如くトルク設定される定荷重ばねと、前記人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構とを有してなるエレベータ。
【請求項2】
人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構が、かごの昇降用空間を形成する架構にラックギアを立設し、該ラックギアに噛合するピニオンギアをかご内部から延在する軸の一端に枢支するとともに前記軸の他端をモータ、変速ギア、クラッチからなる駆動系に接続し、前記モータの回転駆動によって人、物を積載するかごを昇降せしめるよう構成したものである請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
人、物を積載するかごを昇降させる駆動機構が、かごの昇降用空間を形成する架構に鉛直方向に延在する面を立設し、該面に押圧されるとともにかご内部から延在する軸の一端に枢支される回転体をモータで駆動し、人、物を積載するかごを昇降せしめるよう構成したものである請求項1に記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−83974(P2009−83974A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253980(P2007−253980)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 独立行政法人科学技術振興機構、地域発技術シーズ発表会ものづくり・情報通信発表資料集、平成19年9月10日
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】