説明

エンコーダ

【課題】 ロボットや工作機械に使用されるエンコーダの通信装置を高速化しロボットや工作機械の高速動作に対応できるようにする。
【解決手段】 被検物の状態に応じた信号を検出する検出部と、この検出部から出力された信号から被検物の位置情報を算出して記憶し、記憶された位置情報を上位装置20にシリアル通信で送信する信号処理部5とから構成されるエンコーダ10において、上位装置20からコマンドデータを受信して、このコマンドデータが双方向通信要求コマンドのときに、要求された位置情報等を送信する双方向通信モードM1と、コマンドデータが単方向通信要求コマンドのときに、単方向送信処理S105を実行して位置情報を送信する単方向通信モードM2と、コマンドデータが疑似単方向通信要求コマンドのときに、疑似単方向送信処理S107を実行して位置情報を送信する疑似単方向通信モードM3とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
エンコーダは、被検体の回転角度や移動長さを計測するものであり、ロボットや工作機械等のセンサとして用いられている。このエンコーダで計測された計測値(角度や長さに関する情報であり、以降の説明では「エンコーダデータ」と呼ぶ)は、通信ラインを介してシリアル通信を行う通信装置により制御装置等の上位装置に送信される。シリアル通信の形態としては、単方向通信若しくは双方向通信が用いられており、単方向通信では、エンコーダはエンコーダデータをシリアルデータに変換し、ある一定サイクル時間毎にデータを出力する。一方、双方向通信では、上位装置からのコマンド信号を受信して、そのコマンド信号の内容に応じて対応するエンコーダデータを送信する構成を取っているのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなエンコーダを用いて被検物の状態をサンプリングする場合、上位装置からエンコーダデータを取得できるサンプリング時間はエンコーダデータの通信時間に制限される。たとえば、図3(a)に示すように単方向通信の場合の通信サイクルT1は、エンコーダデータEDの送信時間TDとウエイト時間TWにより決定され、図3(b)に示すように双方向通信の場合の通信サイクルT2は、コマンドデータCDの送信時間TC、エンコーダデータEDの送信時間TDおよびウエイト時間TW1,TW2により決定される。
【0004】
近年、ロボットや工作機械の動作が高速化し、それに伴い、エンコーダによる状態のサンプリング間隔を短くしたいという要求があり、そのため、エンコーダに用いられる通信装置におけるシリアル通信の高速化が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−317261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上位装置がエンコーダから取得する情報は、従来の角度や長さの計測だけでなく、このエンコーダのステータス情報、温度情報、あるいは、メモリ情報など情報量が増えている。そのため、単方向通信の場合は、データ量の増加により通信時間が増加するためサンプリング間隔を短くすることができない。一方、双方向通信の場合は、上位装置からのリクエスト信号(図3(b)におけるコマンドデータ)に応じてエンコーダから出力する情報を選択可能であるが、一回の通信サイクル内に上位装置からのコマンドデータとエンコーダからのエンコーダデータの送受信が行われるため、全体としての通信サイクルを短くすることができない。このように従来のエンコーダでは、エンコーダデータの通信に時間がかかってしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、通信を高速化することができる通信装置、および、この通信装置が実装されたエンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係るエンコーダは、被検物の位置に応じた信号を検出し、被検物の位置を算出する位置検出部(例えば、実施形態における発光部1、回転円盤2,および、受光部3)と、位置の情報を通信ラインで接続された上位装置に送信する通信装置(例えば、実施形態における信号処理部5)とから構成される。そして、通信装置は、上位装置からコマンドデータを受信して、このコマンドデータが双方向通信要求コマンドのときに、このコマンドデータにより要求された位置情報を上位装置に送信する双方向通信モードと、双方向通信モードにおいて受信されたコマンドデータが単方向通信要求コマンドのときに、位置情報を所定の通信サイクルで上位装置に送信する単方向送信処理を実行する単方向通信モードと、双方向通信モードにおいて受信されたコマンドデータが疑似単方向通信要求コマンドのときに、位置情報を所定の通信サイクルで、所定の送信回数だけ上位装置に送信する疑似単方向送信処理を実行後、所定の時間だけコマンドデータの受信を待ち、コマンドデータを受信したときは双方向通信モードに移行し、コマンドデータが受信されないときは、疑似単方向送信処理を繰り返す疑似単方向通信モードとを有して構成される。
【0009】
なお、本発明に係るエンコーダは、単方向通信要求コマンド、若しくは、疑似単方向通信要求コマンドが、通信サイクルの長さを設定するパラメータを有し、このパラメータで設定された通信サイクルにより単方向送信処理若しくは疑似単方向送信処理を実行するように構成されることが好ましい。このとき、不揮発性メモリを有し、単方向通信要求コマンド、若しくは、疑似単方向通信要求コマンドで設定された通信サイクルをこの不揮発性メモリに保持することが好ましい。
【0010】
あるいは、本発明に係るエンコーダは、疑似単方向通信要求コマンドが、送信回数を設定するパラメータを有し、パラメータで設定された送信回数により疑似単方向送信処理を実行するように構成されることが好ましい。このときも、不揮発性メモリを有し、疑似単方向通信要求コマンドで設定された送信回数を不揮発メモリに保持するように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るエンコーダを以上のように構成すると、通信を高速化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、本発明に係る通信装置(後述する信号処理部5)が実装されるエンコーダ10の一例として任意の回転体の回転量を検出するアブソリュートエンコーダについて図1および図2を用いて説明する。
【0013】
エンコーダ10は、発光部1、回転円盤2、受光部3、波形整形回路4、信号処理部5,送受信ドライバ部6、不揮発性メモリ7、および、温度センサ8から構成され、送受信ドライバ部6に接続されたシリアル通信ライン9を介して上位装置20に接続されている。
【0014】
発光部1と受光部3とは対向して配置されており、発光部1から受光部3に照射される光を遮るように回転円盤2が配置されている。この回転円盤2は微小なスリットが円周方向に形成されており、また回転軸は回転量を検出する被検体(図示せず)に接続されて、この被検体とともに回転する。そのため、回転円盤2が回転することにより発光部1から出た光が回転円盤2に遮光される、もしくは、スリットを透過することにより、受光部3で受光される光量が変化する。この光量の変化を受光部3で検出し、波形整形回路4を経由して信号処理部5に送り、この信号処理部5で回転円盤2の位置(角度)、回転方向、回転数等(これらを総称して以降の説明では「位置情報5a」と呼ぶ)が演算処理され、この信号処理部5内に保持される。なお、このような回転円盤2の構成や角度等の検出方法は、例えば、特開平10−206188号公報に開示されている。
【0015】
また、信号処理部5は、必要に応じて不揮発性メモリ7、および、温度センサ8等にアクセスし、これらの温度センサ8または不揮発性メモリ7から読み出された情報を、温度情報5cおよびメモリ情報5dとして保持する。さらに、この信号処理部5は各種信号の異常検出(例えば、受光部3で受光した光から得られる信号にエラーがある等の検出)を行っており、それらの情報がステータス情報5bとして保持される。そして、このようなエンコーダデータ5a〜5dは、送信処理部5から送受信ドライバ部6により通信ライン9を介して上位装置20に送信される。
【0016】
それでは、図2を用いてこのエンコーダ10の送信処理部5がエンコーダデータ5a〜5dを上位装置20に送信するときの通信フローについて説明する。エンコーダ10の主電源が投入されると、双方向通信モードM1となり上位装置20からのコマンドデータの受信を待つコマンド受信モードAとなる(ステップS100)。ここで、双方向通信モードM1とは、図3(b)に示すように、上位装置20から送信されたコマンドデータ(双方向通信要求コマンド)CDを受信し、そのコマンドデータCDの種類に応じたエンコーダデータEDを上位装置20に送信するモードである。すなわち、エンコーダ10は、コマンド受信モードAのときに、コマンドデータCDを受信すると、そのコマンドデータCDがどのコマンドに対応しているのかを検査して対応する処理に移行する(ステップS101)。図2の通信フローにおいては、コマンドデータがコマンドAの場合は、エンコーダデータA(例えば、位置情報5a)を送信し(ステップS102)、コマンドBの場合は、エンコーダデータB(例えば、ステータス情報5b)を送信し(ステップS103)、コマンドCの場合は、エンコーダデータC(例えば、温度情報5c)を送信する(ステップS104)。そして、コマンドA〜Cに対応するエンコーダデータA〜Cを送信した後は、コマンド受信モードA(S100)に戻り、双方向通信モードM1が継続される。
【0017】
ところで、このコマンド受信モードA(S100)において、上位装置20からコマンドP(単方向通信要求コマンド)が送信されると、エンコーダ10は単方向通信モードM2に移行し(ステップS101)、単方向送信処理(エンコーダデータPを送信する処理)が実行される(ステップS105)。この単方向通信モードM1は、所定のデータのみ(例えば、位置情報5aとステータス情報5b)をエンコーダデータPとして所定の通信サイクルT1で上位装置20に送信し続けるモードである(図3(a))。本実施例におけるエンコーダ10においては、この単方向通信モードM2に移行すると、電源を再投入しない限りこのモードから抜けることはできない。
【0018】
一方、コマンド受信モードA(S100)において、上位装置20からコマンドQ(疑似単方向通信要求コマンド)が送信されると、疑似単方向通信モードM3に移行する(ステップS101)。疑似単方向通信モードM3においては、エンコーダ10は、エンコーダデータQを所定の回数(n回)だけ連続して単方向送信を行う疑似単方向送信処理が実行される(ステップS107)。このときのエンコーダデータQも所定のデータのみが所定の通信サイクルT1で上位装置20に送信される。そして所定の回数の送信が終わると、一旦、コマンド受信モードBに移行し、上位装置20からのコマンドデータの受信を待つ(ステップS108)。このコマンド受信モードB(S108)では、エンコーダ10は、上位装置20からコマンドデータを受信するか、若しくは、所定の時間が経過してタイムアウトするとコマンド内容の判断処理に移行する(ステップS109)。この判断処理(S109)においては、コマンド受信モードB(S108)でタイムアウトしたときは、上述の疑似単方向送信処理(S107)に移行し、所定のコマンドが上位装置20から送信されたときは、双方向通信処理M1、すなわち、コマンド受信モードA(S100)に移行する。
【0019】
なお、疑似単方向送信処理(S107)において、エンコーダ10は、コマンド受信モードBに移行する直前のエンコーダデータQ(n回目に送信されるエンコーダデータQ)にコマンド受信モードBに移行することを示すフラグを立てる。すなわち、このエンコーダデータの所定のビットを、コマンド受信モードBに移行するときは”1”に設定し、それ以外の場合は”0”に設定する。これにより、上位装置20は、エンコーダ10がいつコマンド受信モードBに移行するのかをこのビットを見て判断することができる。
【0020】
このように、エンコーダ10に疑似単方向通信モードM3を設けることにより、単方向通信の形態を取り通信サイクルを可能な限り短くして被検物の状態のサンプリング量を多く(サンプリング間隔を短く)することができる。また、同時に、所定の間隔でコマンド受信可能として必要に応じて双方向通信の形態(双方向通信モードM1)に戻り、必要なエンコーダデータをこのエンコーダ10から取得することが可能となる。また、再度、コマンドQを送信することにより、疑似単方向通信モードM3に切り替えることもできる。
【0021】
双方向通信モードM1は、通常はシステムの起動時や自己診断に用いられ、位置情報以外のエンコーダデータを上位装置20が受信することができる。単方向通信モードM2若しくは疑似単方向通信モードM3では、上述のようにエンコーダデータP,Qは、例えば、ロボットの制御に必要な所定のデータ(位置情報5aとステータス情報5b)のみを送信するように構成することにより、通信サイクルを可能な限り短くすることができ、それにより、このロボットの高速な動作が可能となる。
【0022】
なお、上位装置20から送信されるコマンドデータに、単方向通信モードM2および疑似単方向通信モードM3における通信サイクル時間(例えば、図3におけるT1)を設定するパラメータを設けることにより、上位装置20から通信サイクルを任意に変化させることができる。なおこの通信サイクルは、システムが動作中でも変更することができる。また、疑似単方向通信モードM3における繰り返し回数nを設定するパラメータをコマンドデータに設けることにより、連続で何回エンコーダデータを送信するかの設定も上位装置20から可能となり、疑似単方向通信時の通信タイミングを変化させることができる。これらの設定情報(パラメータ値)は、不揮発性メモリ7に格納され、信号処理部5は起動時にこの情報を読み込んで通信サイクルや繰り返し回数を設定するように構成することも可能である。なお、これらのパラメータは、不揮発性メモリ7に直接アクセスするコマンドを使用して設定しても構わない。
【0023】
以上説明したように、このエンコーダ10は、双方向通信モードM1から単方向通信モードM2若しくは疑似単方向通信モードM3に移行させることができるため、通信サイクル時間の短縮化が可能となり、通信の無駄時間を無くして上位装置20とエンコーダ10との間で効率的なデータのやり取りを行うことができる。なお、以上の説明においては、被検体の回転角度等を計測するアブソリュートエンコーダを例に説明したが、本発明がこの実施例に限定されることはなく、リニアエンコーダ等に用いても良いし、その他の計測装置において上位装置に計測データを送信する場合に用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るエンコーダの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るエンコーダの通信フローを示すフローチャートである。
【図3】シリアル通信の通信サイクルを示す説明図であり、(a)は単方向シリアル通信の場合であり、(b)は双方向シリアル通信の場合である。
【符号の説明】
【0025】
1 発光部(位置検出部)
2 回転円盤(位置検出部)
3 受光部(位置検出部)
5 信号処理部
7 不揮発性メモリ
9 通信ライン
10 エンコーダ
20 上位装置
M1 双方向通信モード
M2 単方向通信モード
M3 疑似単方向通信モード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物の位置に応じた信号を検出し、前記被検物の位置を算出する位置検出部と、
前記位置の情報を通信ラインで接続された上位装置に送信する通信装置とを有し、
前記通信装置は、
前記上位装置からコマンドデータを受信して、前記コマンドデータが双方向通信要求コマンドのときに、前記コマンドデータにより要求された前記位置情報を前記上位装置に送信する双方向通信モードと、
前記双方向通信モードにおいて受信された前記コマンドデータが単方向通信要求コマンドのときに、前記位置情報を所定の通信サイクルで前記上位装置に送信する単方向送信処理を実行する単方向通信モードと、
前記双方向通信モードにおいて受信された前記コマンドデータが疑似単方向通信要求コマンドのときに、前記位置情報を所定の通信サイクルで、所定の送信回数だけ前記上位装置に送信する疑似単方向送信処理を実行後、所定の時間だけ前記コマンドデータの受信を待ち、前記コマンドデータを受信したときは前記双方向通信モードに移行し、前記コマンドデータが受信されないときは、前記疑似単方向送信処理を繰り返す疑似単方向通信モードとを有することを特徴とするエンコーダ。
【請求項2】
前記単方向通信要求コマンド、若しくは、前記疑似単方向通信要求コマンドが、前記通信サイクルの長さを設定するパラメータを有し、
前記パラメータで設定された前記通信サイクルにより前記単方向送信処理若しくは前記疑似単方向送信処理を実行するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項3】
不揮発性メモリを有し、
前記単方向通信要求コマンド、若しくは、前記疑似単方向通信要求コマンドで設定された前記通信サイクルを前記不揮発性メモリに保持することを特徴とする請求項2に記載のエンコーダ。
【請求項4】
前記疑似単方向通信要求コマンドが、前記送信回数を設定するパラメータを有し、
前記パラメータで設定された前記送信回数により前記疑似単方向送信処理を実行するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項5】
不揮発性メモリを有し、
前記疑似単方向通信要求コマンドで設定された前記送信回数を前記不揮発性メモリに保持するように構成されたことを特徴とする請求項4に記載のエンコーダ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−41892(P2007−41892A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226163(P2005−226163)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(593152661)株式会社仙台ニコン (63)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】