説明

エンジンにおける補機駆動機構

【課題】エンジンにおける補機駆動機構において、伝動ベルトの調整などのメンテナンスを不要としてランニングコストを低減させ、補機類の駆動軸を支承するベアリング寿命を延ばし、冷却ファンにおけるファン効率を向上させるとともに、エンジンが搭載される作業機などのコンパクト性やメンテナンス性を向上させる。
【解決手段】クランク軸20より動力伝達機構を介してカム軸21、冷却水ポンプ軸23、燃料噴射ポンプ軸28及び潤滑油ポンプ軸29を駆動する構成において、前記動力伝達機構をギヤ式伝達機構とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにおいてクランク軸の動力が伝達されて駆動する補機類の駆動機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンには、冷却水ポンプ、発電機であるダイナモやオルタネータ、冷却ファン等の補機類が具備されており、これらはクランク軸に設けられるクランクプーリ及びVベルトやタイミングベルト等の伝動ベルトを介してクランク軸の動力が伝達されて駆動している。そして、このような伝動ベルトを用いた動力伝達機構において、補機類の駆動軸にそれぞれ設けられるプーリの配置などを工夫することにより、伝動ベルトの張力調整などのメンテナンス性の向上や伝動ベルトの伝動効率の向上を図るための技術がある(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2003−3858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前述したように伝動ベルトを用いた動力伝達機構においては、次のような不具合がある。
すなわち、エンジンの長期使用にともなう伝動ベルトの伸びや摩耗などのため定期的にメンテナンスを行う必要があり、このメンテナンスを怠ると、冷却水ポンプや発電機などの補機類の駆動軸に設けられ伝動ベルトが巻回されるプーリがスリップする。こうしたプーリのスリップ現象は、冷却水ポンプについては冷却水の流量不足によるオーバーヒートを発生させ、ダイナモやオルタネータ等の発電機については充電不良などの問題を引き起こす原因となる。このようなスリップ現象は、伝動ベルトとしてVベルトを用いた場合に比較的生じ易い。
また、伝動ベルトの張力管理が難しく、初期においては補機類のプーリにかかる張力が大きくなりがちであり、この場合、冷却水ポンプや発電機などに過大な荷重がかかって駆動軸を支承するベアリングの寿命が短くなるなどの不具合が生じる。逆に、プーリにかかる張力が小さくなると、前述したようなスリップを生じさせることとなる。
【0004】
また、エンジンに取り付けられる冷却ファンがベルト駆動のため、エンジンが作業機に搭載される場合、作業機のレイアウト上、冷却ファンによる冷却風によりエンジン冷却水を冷却するラジエターの位置が制約されることとなり、作業機のコンパクト性やメンテナンス性に欠ける。
さらに、伝動ベルト交換のために、冷却ファンの外径と冷却ファンの外周に付設されるファンガードとの間に伝動ベルトを通す隙間が必要であり、この隙間のため冷却ファンのファン効率が低下する。
【0005】
そこで、本発明は、伝動ベルトの調整などのメンテナンスを不要としてランニングコストを低減させ、補機類の駆動軸を支承するベアリング寿命を延ばし、冷却ファンにおけるファン効率を向上させるとともに、エンジンが搭載される作業機などのコンパクト性やメンテナンス性を向上させたエンジンにおける補機駆動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、クランク軸より動力伝達機構を介してカム軸、冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸を駆動する構成において、前記動力伝達機構をギヤ式伝達機構としたものである。
【0008】
請求項2においては、請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、前記クランク軸、カム軸、冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸のそれぞれの軸上に設けられるギヤ並びに前記各ギヤの少なくともいずれか二つのギヤと噛合して動力の伝達を行うアイドルギヤを一つのギヤケース内に収容したものである。
【0009】
請求項3においては、請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、エンジンに備えられるダイナモのロータを前記クランク軸上に取り付け、前記ダイナモのコイルをギヤケースに取り付けたものである。
【0010】
請求項4においては、請求項3記載のエンジンにおける補機駆動機構において、前記ロータに冷却用フィンを設けたものである。
【0011】
請求項5においては、請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、エンジンに備えられるオルタネータの駆動軸上にオルタネータ駆動ギヤを設け、前記クランク軸の回転を前記クランク軸上に設けられるクランクギヤ、ギヤケースに支承されるアイドル軸上に設けられるアイドルギヤ、前記カム軸上に設けられるカムギヤ並びに前記オルタネータ駆動ギヤを介して伝達することにより、前記オルタネータを駆動する構成としたものである。
【0012】
請求項6においては、請求項5記載のエンジンにおける補機駆動機構において、前記クランクギヤ、カムギヤ、アイドルギヤ及びオルタネータ駆動ギヤ並びに前記冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸のそれぞれの軸上に設けられるギヤを一つのギヤケース内に収容したものである。
【0013】
請求項7においては、請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、前記冷却水ポンプ軸上に冷却ファンを設けたものである。
【0014】
請求項8においては、請求項7記載のエンジンにおける補機駆動機構において、前記冷却水ポンプを前記カム軸と前記燃料噴射ポンプ軸との間に配置したものである。
【0015】
請求項9においては、クランク軸より動力伝達機構を介してカム軸、冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸を駆動する構成であって、電動ファンにてラジエターを冷却する構成としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1においては、従来のように伝動ベルト及びプーリを用いる構成と比較して、ベルト調整などの定期的なメンテナンスが不必要となり、エンジンのランニングコストを低減することができる。また、伝動ベルトを用いた場合に発生するプーリのスリップによる補機類の駆動軸の動力不足を防止できるとともに、伝動ベルトの張力が過大となることによる、補機類の駆動軸を支承するベアリングの寿命の短縮を防止することができる。さらに、伝動ベルトを用いる場合は、伝動ベルト交換のために、エンジンに取り付けられる冷却ファンの外径と冷却ファンの外側に付設されるファンガードとの間に伝動ベルトを通す隙間を設ける必要があったが、この隙間を設ける必要がなくなり、冷却ファンのファン効率を向上することができる。
【0018】
請求項2においては、補機類などにクランク軸の動力を伝達する各ギヤをコンパクトに収納することができ、エンジンの省スペース化を図ることができる。また、ギヤケースにより前記各ギヤを塵挨などから保護できるので、円滑かつ効率の良い動力伝達が可能となる。
【0019】
請求項3においては、従来は、エンジンに取り付けられる冷却ファンを駆動するために伝動ベルトとともに用いられていたクランク軸上のクランクプーリの部分にダイナモを備えることができるので、既存の構成及びスペースを有効利用することができる。
【0020】
請求項4においては、ダイナモ自体はもとより、ダイナモの周囲に設けられる冷却水ポンプ等の補機類やエンジン自体を冷却することが可能となるので、ダイナモにおける発電効率や補機類における冷却効率を向上することができ、さらにはエンジンにおける燃費の向上を図ることができる。
【0021】
請求項5においては、オルタネータを有するエンジンにおける補機駆動機構において、請求項1記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【0022】
請求項6においては、補機類などにクランク軸の動力を伝達する各ギヤをコンパクトに収納することができ、エンジンの省スペース化を図ることができる。また、ギヤケースにより前記各ギヤを塵挨などから保護できるので、円滑かつ効率の良い動力伝達が可能となる。
【0023】
請求項7においては、一般的にラジエターに冷却風を送るためにエンジンに取り付けられる冷却ファンに加え、エンジンに付設される冷却ファンが増加するので、エンジンにおける冷却効率の向上が図れる。また、冷却水ポンプ軸上に設けられる冷却ファンによってギヤケース側から冷却風を送ることができ、ラジエターに冷却風を送るためにエンジンに取り付けられる冷却ファンによる冷却を補うことができる。
【0024】
請求項8においては、冷却水ポンプ軸上に設けられる冷却ファンによって導かれる冷却風が、燃料噴射ポンプに向けて重点的に送られることとなり、燃料噴射ポンプの冷却効率を向上することができる。
【0025】
請求項9においては、従来のように伝動ベルトを用いる構成の場合、伝動ベルト交換のために、冷却ファンの外径と冷却ファンの外側に付設されるファンガードとの間に伝動ベルトを通す隙間を設ける必要があったが、この隙間を設ける必要がなくなり、ファン効率を向上することができる。また、ラジエターのエンジンに対する配置の自由度が増すので、エンジンが搭載される作業機にレイアウトする時、ラジエターの位置に制約されることなく自由にレイアウトすることが可能となり、作業機のコンパクト性やメンテナンス性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係るエンジンの内部構造を示す正面図、図2は同じく一部側面図、図3はギヤケース内部を示す一部平面図、図4は補機駆動機構の第一実施形態を示す分解斜視図、図5は同じく冷却水ポンプの取付状態を示す側面一部断面図、図6はダイナモを示す分解斜視図、図7は補機駆動機構の第一実施形態におけるギヤトレーンを示す概略図、図8はラジエターの冷却構成を示す斜視図、図9はエンジンに対するラジエターの配置例を示す平面図、図10は補機駆動機構の第一実施形態における別構成を示す分解斜視図、図11は同じく冷却水ポンプの取付状態を示す側面一部断面図、図12は補機駆動機構の第二実施形態を示す分解斜視図、図13は同じくオルタネータの取付状態を示す側面一部断面図、図14は補機駆動機構の第二実施形態におけるギヤトレーンを示す概略図、図15は補機駆動機構の第二実施形態における別構成を示す分解斜視図である。なお、以下においては、図4に示す矢印Aの方向を「前」、その反対側を「後」として説明する。
【0027】
まず、本発明を適用するエンジンの一例としての、作業機などに搭載されるディーゼルエンジン(以下「エンジン1」とする)の概略構成について、図1〜図3を用いて説明する。
エンジン1のシリンダブロック2の下部にはオイルパン5が取り付けられており、このオイルパン5内にはエンジンオイル(潤滑油)が貯溜されている。この潤滑油は、潤滑油ポンプ9により吸入され、潤滑油フィルタ4を介してエンジン1内の各潤滑箇所へ供給される。
【0028】
また、シリンダブロック2の一側には、シリンダブロック2内に形成される燃焼室内へ噴射される燃料を送り込むための燃料噴射ポンプ8が付設されている。この燃料噴射ポンプ8の下部には、エンジン1内へと燃料を供給する燃料フィードポンプ10が設けられている。この燃料フィードポンプ10により、図示せぬ燃料タンク内の燃料が吸入されるとともに送出され、エンジン1の燃料供給路に設けられる燃料フィルタ等を介して燃料噴射ポンプ8へと導入される。
【0029】
シリンダブロック2内にはクランク軸20が回転自在に支持されており、また、このクランク軸20と平行に、動弁機構18を作動させるカム軸21が回転自在に支持されている。そして、シリンダブロック2の前面には、クランク軸20の動力を前記カム軸21や燃料噴射ポンプ8等へ伝達するためのギヤ類が収納されるギヤケース11が取り付けられており、ギヤケースカバー12により覆われている。
【0030】
ギヤケース11内には、その下方略中央部においてクランク軸20の軸端(前端)に固設されるクランクギヤ30が収容されている。また、正面視においてギヤケース11の右上方には、前記カム軸21の軸端(前端)に固設されるカムギヤ31が収容されている。そして、クランクギヤ30とカムギヤ31との間、即ちクランクギヤ30の上方にはアイドルギヤ32が配され、このアイドルギヤ32を介してクランクギヤ30の回転がカムギヤ31に伝達される。つまり、アイドルギヤ32は、クランク軸20の上方にてギヤケース11内に支承されるアイドル軸22に、クランクギヤ30及びカムギヤ31に噛合した状態で軸支されており、クランク軸20の回転がクランクギヤ30、アイドルギヤ32及びカムギヤ31を介してカム軸21に伝達される。
【0031】
また、燃料噴射ポンプ8へのクランク軸20の動力の伝達もアイドルギヤ32を介して行われる。すなわち、クランクギヤ30と噛合した状態でギヤケース11内に収容されるアイドルギヤ32は、燃料噴射ポンプ8の駆動軸である燃料噴射ポンプ軸28の軸端(前端)に固設される燃料噴射ポンプ駆動ギヤ38にも噛合しており、クランク軸20の回転が、クランクギヤ30、アイドルギヤ32及び燃料噴射ポンプ駆動ギヤ38を介して燃料噴射ポンプ軸28に伝達され、燃料噴射ポンプ8が駆動する。ここで、燃料噴射ポンプ駆動ギヤ38は、ギヤケース11内での、シリンダブロック2の側方にて付設される燃料噴射ポンプ8に対応する位置、即ち正面視でギヤケース11の左上方に収容される。
【0032】
また、前述したようにオイルパン5内の潤滑油を吸入する潤滑油ポンプ9は、クランク軸20の動力が伝達されて駆動する。すなわち、潤滑油ポンプ9の駆動軸である潤滑油ポンプ軸29には潤滑油ポンプ駆動ギヤ39が固設されており、この潤滑油ポンプ駆動ギヤ39がクランクギヤ30に噛合している。そして、クランク軸20の回転が、クランクギヤ30及び潤滑油ポンプ駆動ギヤ39を介して潤滑油ポンプ軸29に伝達され、潤滑油ポンプ9が駆動する。これにより、オイルパン5内に貯溜されている潤滑油がストレーナ6を介して潤滑油供給管7を通じて潤滑油ポンプ9により吸入される。潤滑油ポンプ9により吸入された潤滑油は、図示せぬ潤滑油経路を介してシリンダブロック2内に形成される潤滑油メインギャラリ16に送出されてエンジン1内の各潤滑箇所へ導かれる。
【0033】
このような構成のエンジン1においては、クランク軸20の動力が動力伝達機構を介して伝達されて駆動する補機類として、エンジン冷却水を循環させるための冷却水ポンプ、発電機としてのダイナモやオルタネータ、冷却風を送るための冷却ファン等が具備されている。これら補機類の駆動機構について以下において説明する。
【0034】
まず、本発明に係るエンジン1における補機駆動機構の特徴として、クランク軸20から補機類へ動力を伝達する動力伝達機構をギヤ式伝達機構としている。つまり、従来においてランク軸20の動力の伝達に用いられていたVベルトやタイミングベルト等の伝動ベルト及びプーリを用いることなく、ギヤの噛合のみによる動力の伝達を行う。以下、クランク軸20からの動力伝達機構をギヤ式伝達機構としたエンジン1における補機駆動機構の実施形態について説明する。
【0035】
まず、エンジン1における補機駆動機構の第一実施形態について図4〜図11を加えて説明する。
本実施形態においては、クランク軸20の動力が伝達されて駆動する補機として、冷却水ポンプ13及びダイナモ14を備える構成としている。そして、冷却水ポンプ13は、その駆動軸である冷却水ポンプ軸23の軸端に冷却水ポンプ駆動ギヤ33を有し、この冷却水ポンプ駆動ギヤ33により前記アイドルギヤ32及びカムギヤ31を介してクランク軸20の動力を得る構成としている。
【0036】
すなわち、ギヤケース11の上方略中央部には、冷却水ポンプ13を取り付けるための冷却水ポンプ取付部11aが形成されており、この冷却水ポンプ取付部11aにおいてギヤケース11の前面側から冷却水ポンプ13を取り付ける。この際、冷却水ポンプ13は、図5に示すように、ポンプハウジング13aに形成されるフランジ部13bをギヤケース11の前面にボルト等の締結具60により締結固定することによって取り付けられる。そして、冷却水ポンプ13がギヤケース11に取り付けられた状態で、冷却水ポンプ駆動ギヤ33がギヤケース11内に収容されてカムギヤ31と噛合した状態となる。これにより、クランク軸20の回転がクランクギヤ30、アイドルギヤ32、カムギヤ31及び冷却水ポンプ駆動ギヤ33を介して冷却水ポンプ軸23に伝達され、冷却水ポンプ13が駆動する。
【0037】
また、ダイナモ14は、図6等に示すように、固定部であり励磁側としてのコイル41と、回転部であり発電側としてのロータ42とを備えており、固定された状態のコイル41に対して、そのコイル41の周囲にてロータ42が回転することにより電気が発生する。ここで得られる電気が、コイル41から延設される端子43が接続される導線を介して図示せぬバッテリに充電される。
【0038】
そして、このような構成のダイナモ14が、ロータ42をクランク軸20上に取り付け、コイル41をギヤケース11に取り付けることによって備えられる。
具体的には、図2及び図4に示すように、固定部としてのコイル41は、ギヤケース11の下方略中央部においてクランク軸20が挿通されるクランク軸孔部11bの前面側、即ちギヤケースカバー12の前面側にボルト等の締結具61によって固定されて取り付けられる。また、回転部としてのロータ42は、クランク軸20上においてクランクギヤ30よりもさらに前側にボルト等の締結具62によって間座64を介して固設されるクランクプーリ40に、ボルト等の締結具63によって固定されて取り付けられる。ここで、締結具63は、ロータ42に形成されるボルト孔42aを介してクランクプーリ40に形成されるボルト孔40aに螺挿される。
【0039】
つまり、クランク軸20のクランクギヤ30よりも前方に突出する部分は、ギヤケース11のクランク軸孔部11bにおいて、環状に形成されているコイル41を挿通するとともに軸端にクランクプーリ40が取り付けられ、このクランクプーリ40に、ロータ42が取り付けられる。ここで、コイル41及びロータ42は、コイル41がロータ42内に収納された状態となり、ロータ42の回転により発電が行われるように配置される。このような構成においては、ギヤケース11に固定されているコイル41に対して、クランク軸20の回転によるクランクプーリ40の回転にともないロータ42が回転し、これによりダイナモ14における発電が行われる。
【0040】
このようにしてエンジン1における発電機としてのダイナモ14を設けることにより、従来は、エンジンに取り付けられる冷却ファンを駆動するために伝動ベルトとともに用いられていたクランクプーリ40の部分にダイナモ14を備えることができるので、既存の構成及びスペースを有効利用することができる。
【0041】
また、ダイナモ14を構成するロータ42には、冷却フィン44・44・・・が設けられている。本実施形態においては、図6に示すように、正面視で円環状となるロータ42の前面において、ロータ42の回転軸心に対して放射状となるように形成される。ここで、冷却フィン44・44・・・の形状及び設ける位置は、図示の場合に限定されず、ボルト孔42aを確保するとともに、クランク軸20の回転やダイナモ14における発電、その他補機などの妨げにならない範囲で形成することが可能である。
【0042】
このように、ダイナモ14のロータ42に冷却フィン44・44・・・を設けることにより、ダイナモ14自体はもとより、ダイナモ14の周囲に設けられる冷却水ポンプ13等の補機類やエンジン1自体を冷却することが可能となるので、ダイナモ14における発電効率や補機類における冷却効率を向上することができ、さらにはエンジン1における燃費の向上を図ることができる。
【0043】
このような構成である補機駆動機構の第一実施形態におけるギヤケース11内のギヤトレーンは、正面視で図7に示すようになる。すなわち、クランク軸20に設けられるクランクギヤ30には、その左下側において潤滑油ポンプ軸29に設けられる潤滑油ポンプ駆動ギヤ39が噛合しており、左上側においてはアイドル軸22に設けられるアイドルギヤ32が噛合している。このアイドルギヤ32には、その右側においてカム軸21に設けられるカムギヤ31が噛合しており、左側においては燃料噴射ポンプ軸28に設けられる燃料噴射ポンプ駆動ギヤ38が噛合している。また、カムギヤ31の左上側には冷却水ポンプ軸23に設けられる冷却水ポンプ駆動ギヤ33が噛合している。そして、これらクランクギヤ30、カムギヤ31、冷却水ポンプ駆動ギヤ33、燃料噴射ポンプ駆動ギヤ38、潤滑油ポンプ駆動ギヤ39及びアイドルギヤ32が一つのギヤケース11内に収容されている。
【0044】
このように、前記各ギヤを一つのギヤケース11内に収容することにより、補機類などにクランク軸20の動力を伝達する各ギヤをコンパクトに収納することができ、エンジン1の省スペース化を図ることができる。また、ギヤケース11により各ギヤを塵挨などから保護できるので、円滑かつ効率の良い動力伝達が可能となる。
【0045】
ところで、エンジン1においては、エンジン冷却水を冷却するためのラジエターがエンジン1の近傍に備えられており、このラジエター及びエンジン1に冷却風を送る冷却ファンが備えられる。そして、この冷却ファンは、従来においてはクランク軸20の動力が伝動ベルト及びプーリを介して伝達されて駆動していた。そこで、前述した各実施形態のように伝動ベルトを用いることなく補機駆動機構を構成する本構成においては、冷却ファンを伝動式としている。つまり、図8に示すように、ラジエター17に冷却風を送る冷却ファンを電動ファン70とし、クランク軸20からの機械的な動力を用いない構成としている。
【0046】
具体的には、電動ファン70は、電動モータなどから構成される駆動部71を有しており、この駆動部71から突出される駆動軸(図示略)に冷却ファン72が取り付けられる。つまり、駆動部71には、前述したダイナモ14やオルタネータ15によって発電された電気が充電されているバッテリから導線などを介して電力が供給され、これにより、前記駆動軸が回転駆動することによって冷却ファン72が回転し冷却風を送る。そして、この電動ファン70は、ラジエター17のカバー部材73において、このカバー部材73に形成される取付孔73aに取り付けられ、ラジエター17に電動ファン70が付設した状態となる。この電動ファン70が付設されたラジエター17がエンジン1の近傍に配置され、電動ファン70によってラジエター17及びエンジン1に冷却風が送られる。
【0047】
このように、ラジエター17に冷却風を送る冷却ファンを電動ファン70とすることにより、従来のように伝動ベルトを用いる構成の場合、伝動ベルト交換のために、冷却ファンの外径と冷却ファンの外側に付設されるファンガードとの間に伝動ベルトを通す隙間を設ける必要があったが、この隙間を設ける必要がなくなり、ファン効率を向上することができる。
【0048】
また、ラジエター17に冷却風を送る冷却ファンを電動ファン70とすることにより、エンジン1における冷却ファンの位置が制限されないので、電動ファン70が付設されるラジエター17の配置の自由度が増すこととなる。この場合、図9に示すように、種々の配置が考えられる。すなわち、図9(a)に示すように、従来の伝動ベルト等を用いてクランク軸の動力を得る構成の場合と同様にエンジン1の前側(ギヤケース11側)に設けることができるのはもとより、同図(b)に示すように、エンジン1の後側(ホイル側)、即ちシリンダブロック2においてクランク軸20の後端部に設けられるフライホイールを覆うフライホイールハウジング19が取り付けられる側に設けることができる。また、同図(c)に示すように、エンジン1が搭載される作業機において一般的に非操縦側となるエンジン1の一側側方に設けることができ、さらに、同図(d)に示すように、その反対側の操縦側となるエンジン1の他側側方に設けることができる。
【0049】
このように、ラジエター17のエンジン1に対する配置の自由度が増すことにより、エンジン1が搭載される作業機にレイアウトする時、ラジエター17の位置に制約されることなく自由にレイアウトすることが可能となり、作業機のコンパクト性やメンテナンス性を向上することができる。
【0050】
以上のように、エンジン1における補機駆動機構において、クランク軸20からの動力を伝達する動力伝達機構をギヤ式伝達機構とすることにより、従来のように伝動ベルト及びプーリを用いる構成と比較して次のような効果を得ることができる。
すなわち、ベルト調整などの定期的なメンテナンスが不必要となり、エンジン1のランニングコストを低減することができる。また、伝動ベルトを用いた場合に発生するプーリのスリップによる補機類の駆動軸の動力不足を防止できるとともに、伝動ベルトの張力が過大となることによる、補機類の駆動軸を支承するベアリングの寿命の短縮を防止することができる。
【0051】
ところで、以上説明したエンジン1における補機駆動機構の第一実施形態においては、次のような構成とすることもできる。すなわち、図10及び図11に示すように、冷却水ポンプ13の冷却水ポンプ軸23上に冷却ファン46を設ける。
【0052】
この場合、前述した構成における図5に示すような冷却水ポンプ13において、ポンプハウジング13aに、ボルト等の締結具13cによって取り付けられてポンプハウジング13aの前側面を覆う蓋体13dの代わりに、図11に示すように、冷却水ポンプ軸23が挿通されて支承される軸孔部45aを有する支承板45を用いる。この支承板45は、前記蓋体13dと同様にして冷却水ポンプ13のポンプハウジング13aの前側面に締結具13eによって取り付けられ、ポンプハウジング13aの前面を覆うとともに、冷却水ポンプ軸23の端部を支承する。そして、冷却水ポンプ軸23の前端側を前方に向けて延設するとともに前記軸孔部45aを介して前側に突出させ、この突出した部分に冷却ファン46を取り付ける。ここで、冷却ファン46は、冷却水ポンプ軸23の前端に固設されるフランジ部材47にボルト等の締結具48によって固定されて取り付けられる。つまり、冷却水ポンプ軸23には、後側の軸端に冷却水ポンプ駆動ギヤ33が取り付けられ、前側の軸端に冷却ファン46が取り付けられる。
このような構成においては、冷却水ポンプ軸23に取り付けられる冷却ファン46は、エンジン1の作動中、即ちクランク軸20が回転している間は、クランクギヤ30、アイドルギヤ32、カムギヤ31及び冷却水ポンプ駆動ギヤ33を介して回転する冷却水ポンプ軸23とともに常時回転することとなる。
【0053】
このように、冷却水ポンプ駆動軸上に冷却ファン46を設けることにより、ラジエター17に冷却風を送るための冷却ファンである電動ファン70に加え、エンジン1に付設される冷却ファンが増加するので、エンジン1における冷却効率の向上が図れる。また、前述したように、ラジエター17をエンジン1に対してギヤケース11側(前側)と異なる位置に配置する場合に、冷却水ポンプ軸23上に設けられる冷却ファン46によってギヤケース11側から冷却風を送ることができ、この場合の冷却を補うことができる。
【0054】
また、本構成においては、冷却水ポンプ13をカム軸21と燃料噴射ポンプ駆28との間に配置することが好ましい。つまり、冷却水ポンプ13をカム軸21と燃料噴射ポンプ軸28との間に配置することにより、冷却水ポンプ軸23に取り付けられる冷却ファン46を燃料噴射ポンプ8の近傍に配置させる。
【0055】
このようにすることにより、冷却ファン46によって導かれる冷却風が、燃料噴射ポンプ8に向けて重点的に送られることとなり、燃料噴射ポンプ8の冷却効率を向上することができる。
【0056】
次に、エンジン1における補機駆動機構の第二実施形態について図12〜図15を用いて説明する。なお、第一実施形態と重複する部分については、同一部材には同符号を付すとともにその説明を省略する。
本実施形態においては、クランク軸20の動力が伝達されて駆動する補機として、第一実施形態の場合に加え、オルタネータ15を備える構成としている。オルタネータ15は周知の構成のものであり、図13に示すように、ハウジング15a内において、固定部であり発電側としてのステータ51と、回転部であり励磁側としてのロータ52とを備えており、固定された状態のステータ51の内側にてロータ52が回転することにより電気が発生する。つまり、オルタネータ15の駆動軸であるオルタネータ軸25の回転にともないロータ52が回転して発電が行われる。そして、オルタネータ15のオルタネータ軸25の軸端にオルタネータ駆動ギヤ35を設け、このオルタネータ駆動ギヤ35により前記アイドルギヤ32及びカムギヤ31を介してクランク軸20の動力を得る構成としている。
【0057】
すなわち、正面視においてギヤケース11の右上方に形成されているカムギヤ収容部11cの周囲(本実施形態においては右側)にオルタネータ15を取り付けるためのオルタネータ取付部11dを形成し、このオルタネータ取付部11dにおいてギヤケース11の前面側からオルタネータ15を取り付ける。この際、オルタネータ15は、ハウジング15aに形成されるフランジ部15bをギヤケース11の前面にボルト等の締結具65により締結固定することによって取り付けられる。そして、オルタネータ15がギヤケース11に取り付けられた状態で、オルタネータ駆動ギヤ35がギヤケース11内に収容されてカムギヤ31と噛合した状態となる。これにより、クランク軸20の回転が、クランクギヤ30、アイドルギヤ32、カムギヤ31及びオルタネータ駆動ギヤ35を介してオルタネータ軸25に伝達され、オルタネータ15が駆動する。
【0058】
このような構成である補機駆動機構の第二実施形態におけるギヤケース11内のギヤトレーンは、正面視で図14に示すようになる。すなわち、図7に示す第一実施形態の場合に加え、カムギヤ31の右側においてオルタネータ軸25に設けられるオルタネータ駆動ギヤ35が噛合している。そして、クランクギヤ30、カムギヤ31、冷却水ポンプ駆動ギヤ33、燃料噴射ポンプ駆動ギヤ38、潤滑油ポンプ駆動ギヤ39、アイドルギヤ32及びオルタネータ駆動ギヤ35が一つのギヤケース11内に収容されている。
【0059】
以上のように、オルタネータ15を有するエンジン1における補機駆動機構において、クランク軸20からの動力を伝達する動力伝達機構をギヤ式伝達機構とすることにより、従来のように伝動ベルト及びプーリを用いる構成と比較して第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
なお、以上説明したエンジン1における補機駆動機構の第二実施形態においても、第一実施形態の場合と同様に、ラジエター17は電動ファン70にて冷却する構成とし、また、図15に示すように、冷却水ポンプ13の冷却水ポンプ軸23上に冷却ファン46を設ける構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るエンジンの内部構造を示す正面図。
【図2】同じく一部側面図。
【図3】ギヤケース内部を示す一部平面図。
【図4】補機駆動機構の第一実施形態を示す分解斜視図。
【図5】同じく冷却水ポンプの取付状態を示す側面一部断面図。
【図6】ダイナモを示す分解斜視図。
【図7】補機駆動機構の第一実施形態におけるギヤトレーンを示す概略図。
【図8】ラジエターの冷却構成を示す斜視図。
【図9】エンジンに対するラジエターの配置例を示す平面図。
【図10】補機駆動機構の第一実施形態における別構成を示す分解斜視図。
【図11】同じく冷却水ポンプの取付状態を示す側面一部断面図。
【図12】補機駆動機構の第二実施形態を示す分解斜視図。
【図13】同じくオルタネータの取付状態を示す側面一部断面図。
【図14】補機駆動機構の第二実施形態におけるギヤトレーンを示す概略図。
【図15】補機駆動機構の第二実施形態における別構成を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン
8 燃料噴射ポンプ
9 潤滑油ポンプ
11 ギヤケース
13 冷却水ポンプ
14 ダイナモ
15 オルタネータ
17 ラジエター
20 クランク軸
21 カム軸
22 アイドル軸
23 冷却水ポンプ軸
25 オルタネータ軸
28 燃料噴射ポンプ軸
29 潤滑油ポンプ軸
30 クランクギヤ
31 カムギヤ
32 アイドルギヤ
33 冷却水ポンプ駆動ギヤ
35 オルタネータ駆動ギヤ
38 燃料噴射ポンプ駆動ギヤ
39 潤滑油ポンプ駆動ギヤ
40 クランクプーリ
41 コイル
42 ロータ
44 冷却フィン
46 冷却ファン
70 電動ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸より動力伝達機構を介してカム軸、冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸を駆動する構成において、
前記動力伝達機構をギヤ式伝達機構としたことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
前記クランク軸、カム軸、冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸のそれぞれの軸上に設けられるギヤ並びに前記各ギヤの少なくともいずれか二つのギヤと噛合して動力の伝達を行うアイドルギヤを一つのギヤケース内に収容したことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項3】
請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
エンジンに備えられるダイナモのロータを前記クランク軸上に取り付け、前記ダイナモのコイルをギヤケースに取り付けたことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項4】
請求項3記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
前記ロータに冷却用フィンを設けたことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項5】
請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
エンジンに備えられるオルタネータの駆動軸上にオルタネータ駆動ギヤを設け、前記クランク軸の回転を前記クランク軸上に設けられるクランクギヤ、ギヤケースに支承されるアイドル軸上に設けられるアイドルギヤ、前記カム軸上に設けられるカムギヤ並びに前記オルタネータ駆動ギヤを介して伝達することにより、前記オルタネータを駆動する構成としたことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項6】
請求項5記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
前記クランクギヤ、カムギヤ、アイドルギヤ及びオルタネータ駆動ギヤ並びに前記冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸のそれぞれの軸上に設けられるギヤを一つのギヤケース内に収容したことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項7】
請求項1記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
前記冷却水ポンプ軸上に冷却ファンを設けたことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項8】
請求項7記載のエンジンにおける補機駆動機構において、
前記冷却水ポンプを前記カム軸と前記燃料噴射ポンプ軸との間に配置したことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。
【請求項9】
クランク軸より動力伝達機構を介してカム軸、冷却水ポンプ軸、燃料噴射ポンプ軸及び潤滑油ポンプ軸を駆動する構成であって、
電動ファンにてラジエターを冷却する構成としたことを特徴とするエンジンにおける補機駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−9655(P2006−9655A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186514(P2004−186514)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】