説明

エンジンのオイルジェット装置

【課題】比較的簡素な構成にて適正且つ効率的なピストン冷却作用を発揮し、エンジン性能の向上に有効に寄与するエンジンのオイルジェット装置を提供する。
【解決手段】シリンダ11内のピストン40に対してエンジンオイルを噴射する。シリンダ11内で往復動するピストン40に対して常時、ピストンクラウンの略中央付近を指向するオイルジェットDを形成する位置にオイル噴射口47を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等のエンジン、特に4サイクルエンジンにおいてピストンクラウンの冷却を主目的としてエンジンオイルを噴射する(オイルジェット)装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に高出力エンジンにおいてはピストン温度が高温になり易く、信頼性確保のためにピストンクラウン裏面にオイルを噴射する、即ちピストンに対するオイルジェットによりピストンを冷却する方法が知られている。ピストン温度はシリンダのボア外周部よりもボア中心付近、又はクランク軸に対して排気バルブ側がより高温になる。また、一般にピストンのボア中心付近には、クランク軸線方向と平行にピストンピン、これを支持するピストン自身のボス部、及びこのボス部とピストンスカートを結ぶ略クランク軸線と直交方向の壁部が形成されている。
【0003】
これらの部品もしくは部位が存在するため、これらに制約されることなくピストンクラウン裏側のボア中心付近であって、排気バルブ側に直接オイルを噴射して到達させる必要がある。このためには噴射口の位置は、クランク軸心に対して排気バルブ側となり、また噴射方向としてはシリンダ軸線を含み、クランク軸線と平行な面内においてはシリンダ軸線と平行とし、またシリンダ軸線を含み、クランク軸線と直交する面内においてはシリンダ軸線に対して可能な範囲で広い角度を有することが理想的である。
【0004】
なお、この種のエンジンにおいて特許文献1に記載のピストン冷却装置では、オイルジェットのノズルは、ピストン上死点位置では吸気側ピストン冠裏面に向かってオイルを噴射し、またピストン下死点位置では排気側ピストンスカート部に向かってオイルを噴射するようになっている。
また、特許文献2に記載されるピストン冷却装置では、シリンダブロックの潤滑油路に連通する油路ボスに調圧バルブを有するジョイントボルトにより取り付けた分岐座に、分岐管をピストン群に沿うように取り付け、分岐管に各ピストン裏側に向けノズルを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−288050号公報
【特許文献2】実公昭6038020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンのコンパクト化の要請下ではピストン下死点位置はクランク軸心に可能な限り接近し、これに伴いシリンダボアもクランクシャフトに近づくこととなる。上述した理想的な配置関係の位置にオイルジェットの噴射口を配設する場合そのままでは、空間的な制約やオイル通路を形成するための製造上あるいは信頼性上の制約に拘束されざるを得ない。
【0007】
また、特許文献1あるいは特許文献2に記載のものではオイルジェット用のノズルを別途設ける上、これにオイルを供給するための配管類を引き回すようにしている。部品点数が増加するばかりでなく、構造が複雑化する等の問題がある。
【0008】
本発明はかかる実情に鑑み、比較的簡素な構成にて適正且つ効率的なピストン冷却作用を発揮し、エンジン性能の向上に有効に寄与するエンジンのオイルジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエンジンのオイルジェット装置は、シリンダ内のピストンに対してエンジンオイルを噴射するようにしたエンジンのオイルジェット装置であって、前記シリンダ内で往復動するピストンに対して常時、そのピストンクラウンの略中央付近を指向するオイルジェットを形成する位置にオイル噴射口を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のエンジンのオイルジェット装置において、前記エンジンのクランクケースに肉盛り部を設け、この肉盛り部に前記オイル噴射口に連通するオイル通路を形成し、このオイル通路の末端部にて前記オイル噴射口を開口させたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のエンジンのオイルジェット装置において、前記オイル噴射口は、前記シリンダのボア内側であって、ピストンスカートとクランクシャフトとの間に設定されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のエンジンのオイルジェット装置において、前記クランクケースは左右割りに構成され、その一方にのみ前記オイル通路及び前記オイル噴射口が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オイル通路を形成するための肉盛り部がクランクケースと一体成形され、これにより高い信頼性を得ることができる。また、一体形成であるため、構成を簡素化すると共に、部品点数を実質的に減少することができる。
更に、典型的には左右一方のクランクケースのみにおいてオイル通路を形成し、他方のクランクケースによりこれを塞ぐことで、部品もしくは部材構成の簡素化と部品点数の減少を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の潤滑装置に係る自動二輪車の全体構成を示す左側面図である。
【図2】本発明の潤滑装置に係るエンジンの後方斜視図である。
【図3】本発明の潤滑装置に係るエンジンの左側面図である。
【図4】本発明の潤滑装置に係るエンジンの右側面図である。
【図5】本発明の潤滑装置における左側クランクケースを内側から見た側面図である。
【図6】本発明の潤滑装置における右側クランクケースを内側から見た側面図である。
【図7】本発明の潤滑装置におけるピストン上死点時のシリンダまわりを示す断面図である。
【図8】本発明の潤滑装置におけるピストン下死点時のシリンダまわりを示す断面図である。
【図9】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図10】図4のB−B線に沿う断面図である。
【図11】図10のC−C線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明によるエンジンのオイルジェット装置の好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る自動二輪車100の側面図である。先ず、図1を用いて、自動二輪車100の全体構成について説明する。なお、図1を含め、以下の説明で用いる図においては、必要に応じて車両の前方を矢印Frにより、車両の後方を矢印Rrにより示し、また、車両の側方右側を矢印Rにより、車両の側方左側を矢印Lにより示す。
【0016】
図1の自動二輪車100は、典型的には所謂オフロード用であってよく、その車体前方上部にはステアリングヘッドパイプ101が配置されており、該ステアリングヘッドパイプ101内には不図示のステアリング軸が回動可能に挿通している。そして、このステアリング軸の上端にはハンドル102が結着されており、同ステアリング軸の下端にはフロントフォーク103が取り付けられ、該フロントフォーク103の下端には操向輪である前輪104が回転可能に軸支されている。
【0017】
また、ステアリングヘッドパイプ101からは左右一対のメインフレーム105が、車体後方に向かって斜め下方に傾斜して延出すると共に、ダウンチューブ106が略垂直下方に延びている。そして、ダウンチューブ106は下部付近でロアフレーム106Aとして左右に分岐し、これら一対のロアフレーム106Aは下方に延びた後に、車体後方に向かって略直角に曲げられ、その後端部は左右一対のボディフレーム107を介してメインフレーム105の各後端部に連結されている。
【0018】
左右一対のメインフレーム105とダウンチューブ106及びロアフレーム106Aとボディフレーム107とによって囲まれる空間には、駆動源である水冷式のエンジン10が搭載され、エンジン10の上方には燃料タンク108が配され、その燃料供給口はキャップ109によって栓止されている。燃料タンク108の後方にはシート110が配されている。また、エンジン10の前方にはラジエータ111が配置されている。
【0019】
車体の前後方向略中央の下部に設けられた左右一対のボディフレーム107には、リヤスイングアーム112の前端部がピボット軸113によって上下に揺動可能に支持されている。リヤスイングアーム112の後端部には駆動輪である後輪114が回転可能に軸支されている。リヤアーム112は、リンク機構115とこれに連結されたショックアブソーバ116(後輪懸架装置)を介して車体に懸架されている。
【0020】
なお、燃料タンク108内には燃料ポンプユニットが配置され、この燃料ポンプユニットによってエンジン10に燃料を供給する。一方、ショックアブソーバ116の後側にはエアクリーナボックス117が配置され、エアクリーナボックス117とエンジン10の間が吸気通路を介して連結される。なお、図1においては図示を省略するが、吸気通路はエンジン10のシリンダヘッドに設けられたインテークポートに接続され、その途中で吸気通路の一部としてスロットルボディが配置される。このスロットルボディには燃料インジェクタが配設されており、この燃料インジェクタに対して燃料ポンプユニットから所定圧力の燃料が供給されるようになっている。
【0021】
次に、エンジン10の構成について説明する。この例ではエンジン10は4サイクル単筒エンジンとする。図2は、本実施形態におけるエンジン10の全体構成を示している。エンジン10において、クランクシャフト12を回転可能に収容支持するクランクケース11と、ピストンを往復動可能に収容するシリンダ13と、動弁装置を収容するシリンダヘッド14と、シリンダヘッド14に取り付けるシリンダヘッドカバー15とが略上下方向に連接され、即ちシリンダブロックのシリンダ軸線がクランクシャフト12の軸線に対して実質的に鉛直方向に設定される。
【0022】
更に、図2〜図4を参照して説明する。本実施形態においてクランクケース11は図2にも示すように、割り面Pに沿って左右2つ割りに構成され、そのケース隔壁を隔てて後側にはミッション室(もしくはケース)16が、その右側にクラッチ室17が、また左側にはマグネト室18がそれぞれ隣接配置される。ミッション室16にはクランクシャフト12の回転出力を減速して後輪114へと伝達するための複数のミッションギヤが列設されている。クラッチ室17には図4に示されるようにクラッチ装置19が配置され、ハンドル102(図1)のクラッチレバー操作によりクランクシャフト12及びミッションギヤ間の動力伝達を接続/遮断制御するようになっている。マグネト室18には図3に示されるように、ステータコイル20A及びマグネトロータ20Bを含むジェネレータ20が配置される。
【0023】
図2〜図4において、クラッチ室17及びマグネト室18はそれぞれ内部が露呈する状態が図示されているが、各々カバーが被着するようなっている。ミッション室16、クラッチ室17及びマグネト室18はエンジン10他部位との連通部等を除き、実質的に密閉空間として構成される。
【0024】
次に、エンジン10の吸排気系において、先ず吸気側では前述のようにエアクリーナボックス117(図1)とエンジン10のシリンダヘッド14の間に吸気通路が配置構成される。この吸気通路はエンジン10のシリンダヘッド13に設けられたインテークポート21(図2)に接続され、その途中に吸気通路の一部としてスロットルボディが配置される。このスロットルボディには燃料インジェクタが配設されており、この燃料インジェクタに対して燃料タンク108から所定圧力の燃料が供給されるようになっている。
【0025】
また、吸排気系の排気側において、シリンダヘッド14に配設されたエキゾーストポート22(図4)にはエキゾーストパイプが接続され、エンジン10で生成された燃焼後の排気ガスがエキゾーストパイプを通って排気される。エキゾーストパイプは更に排気管としてエンジン10の後方へ延出し、マフラ(排気消音器)118(図1)が結合し、排気は最終的にマフラ118から排出される。
【0026】
次に潤滑系において、図2に示されようにマグネト室18の下部付近にオイルポンプ23(スカベンジポンプ)が配置され、該マグネト室18内に溜まったオイルを吸引する。オイルポンプ23のオイル吐出側は、連通路25b(図5参照)を経由してミッション室16内で開口しており、即ちオイルポンプ23はマグネト室18にて吸い上げたオイルをミッション室16に供給する。ミッション室16にはオイルポンプ23と同心で、且つ同期回転する回転軸を有するオイルポンプ24(フィードポンプ)が配置されている。オイルポンプ24は、図4に示されるようにその一部(右側部位)がクラッチ室17の下部付近に露呈するように配置されるが、後述するオイル通路25を介してエンジン10の各部にオイルを供給するようになっている。
【0027】
ここで図4に示されるように、オイルポンプ24のオイル吐出側はオイル通路25に接続されるが、先ずクラッチ室17内においてクラッチ室カバー(図示せず)の内側に形成されたオイル通路25Aからオイルフィルタ室26へ供給される。その後、連通孔25aを介してクランクケース11(右側)の内側に形成されたオイル通路へ至り、シリンダ13を通り(オイル通路25B)、更にシリンダヘッド14へと至る(オイル通路25C)。オイル通路25Cからはシリンダヘッド14内の動弁装置等にオイルを供給し、その供給されたオイルは主にマグネト室18等に落下して回収されるようになっている。
【0028】
なお、この実施形態において上述のようにエンジン10は水冷式とし、このためラジエータ111を含む冷却系を備えている。エンジン10の前方に搭載されたラジエータ111によって冷却された冷却水は、なお図示を省略するが、ホースを通ってウォータポンプへと導かれ、ウォータポンプはその冷却水をホースを介して、エンジン10のシリンダブロック等に形成されたウォータジャケットへと給送する。これによりエンジン10の冷却が行われる。
【0029】
また、本実施形態におけるエンジン10は所謂DOHC型であり、シリンダヘッド14において吸気側及び排気側それぞれにカムシャフト27,28を有する(図3参照)。エンジン10の左側部位にてカムチェーン29が実質的に鉛直方向に装架され(図2参照)、このカムチェーン29を介してクランクシャフト12とカムシャフト27,28が連結される。この場合、シリンダ13及びシリンダヘッド14を含むシリンダブロックの左側部位に図2の点線により示すように、カムチェーントンネル30が構成される。このカムチェーントンネル30についても実質的に略鉛直方向に沿って配置構成される。
【0030】
図3に示すように吸気側カムシャフト27の左端部にスプロケット31が固着し、排気側カムシャフト28の左端部にもスプロケット32が固着する。クランクシャフト12の左端部付近には図2に示すようにドライブスプロケット33が固着し、スプロケット31,32とドライブスプロケット33との間にカムチェーン29が巻回装架される。
【0031】
上記のように装架されるカムチェーン29の排気側領域には、その走行をガイドするカムチェーンガイド34が配置される。このカムチェーンガイド34はカムチェーン29の所謂、張り側に配置される。カムチェーンガイド34の上部側はカムチェーントンネル30内に入り込んで、排気側のスプロケット32の近傍まで延設され、シリンダブロック(カムチェーントンネル30の内壁等)の適所に固定される。一方、カムチェーン29の吸気側領域にはそのカムチェーンテンショナ35が配置される。カムチェーンテンショナ35は、カムチェーン29に接触して張力を付与するようになっている。カムチェーンテンショナ35の下端部は図2に示されるように、クランクシャフト12の上方に配置された支軸36のまわりに回動可能に支持される。なお、カムチェーントンネル30内にはカムチェーンテンショナアジャスタが配設されており、このカムチェーンテンショナアジャスタはカムチェーンテンショナ35のカムチェーン29に対する押圧力を調整し、これによりカムチェーン29が常に適正走行するようにする。
【0032】
ここで、クランクケース11(右側及び左側とも)の底部には、図5(クランクケース11(左側)を内側から見たものである)及び図6(クランクケース11(右側)を内側から見たものである)にそれぞれ示すように連通路37が設けられる。この例では略矩形状の通路断面とし、右側のクランクケース11に形成された連通路37とクランクケース11内部が繋がっていて、クランクケース11内に流入又は溜まったオイルは先ず、連通路37の右側から流入する。
【0033】
連通路37は更に、クランクケース11の左側のマグネト室18に開口し、これにより連通路37とマグネト室18が連通する。また、マグネト室18において図2及び図3に示すように、その底部を下方に膨出させてなる膨出部38が形成されている。オイルポンプ23はマグネト室18の下部付近に配置されるが(図3)、オイルポンプ23の本体自体は、膨出部38よりも適度に上方に配置される(図2)。オイルポンプ23のオイル吸入側にはオイル吸入部39が付帯結合しており、このオイル吸入部39は下方に開口する吸入口を有する。オイル吸入部39は言わば碗を被せたような形態を呈し、適度の隙間を有してその外形が概ね膨出部40内壁と合致して収容されるかたちで配置される。オイルポンプ23は膨出部38に溜まったオイルを、オイル吸入部39の吸入口から吸い上げることができる。
【0034】
次に、エンジン10におけるシリンダ13まわりを説明する。図7(及び図8)に示されるようにシリンダ13は、左右2つ割りのクランクケース11(なお、図7では右側のクランクケース11が図示される)により左右両側から抱き込まれるように結合支持される。シリンダ13内にはピストン40が往復動(この例では実質的に略上下動)可能に収容され、ピストンクラウンに装着されたピストンリング41がシリンダ13の内周面に摺接するようになっている。また、このピストン40はスカート40aを有する。ピストン40とクランクシャフト12とはコネクティングロッド42を介して連結され、即ちピストン40の裏側にてボス部40bにより横架支持されたピストンピン43にはコネクティングロッド42の小端部42aが連結され、一方クランクシャフト12のクランクピン44にはコネクティングロッド42の大端部42bが連結される。なお、クランクピン44はクランクシャフト12のクランクウェブ45と結合している。
【0035】
図8はピストン40がその下死点に移動した状態を示している。この下死点ではピストンのスカート40aの下端が、略シリンダ13の下端まで到達している。図7のようにピストン40の上死点時には最低位置にあったクランクシャフト12のクランクウェブ45(具体的にはそのバランスウェイト部45a)は、ピストン40の下死点時には最高位置に移動する。なお、クランクシャフト12においてクランクウェブ45の部位が最大外径となる。
【0036】
さて、本発明のオイルジェット装置においてシリンダ13内のピストン40に対してエンジンオイルを噴射する。この場合、シリンダ13内で往復動するピストン40に対して常時、そのピストンクラウン裏面の略中央付近を指向するオイルジェットを形成する位置にオイル噴射口が設けられる。ピストンクラウン裏面の略中央付近にはピストンピン43を軸支するボス部40bが形成されていて熱的環境の厳しい部位であるので、集中的にオイルを噴射することで冷却効果を高めることができる。
この実施形態において、図7(及び図8)に示すようにクランクケース11に肉盛り部46を設け、この肉盛り部46にオイル通路48を形成し、このオイル通路48の末端部にてオイル噴射口47を開口させている。なお、肉盛り部46は、クランクケース11と一体成形される。
【0037】
先ず、オイル通路48は図9のように右側のクランクケース11において形成される。この場合、オイルポンプ24から給油されるオイルフィルタ室26を起点として、クランクケース11の(左斜め)前方へ向けてオイル通路48Aが延出し、その後オイル通路48Bが左方へ折曲してクランクケース11の左右合せ面(割り面P)まで延出する。この例ではオイル通路48Bは右側のクランクケース11の合せ面で開口する。
【0038】
上記のように形成されるオイル通路48の末端部に設けられるオイル噴射口47は、図8に示されるように下死点にあるピストン40よりも下方に位置し、且つ図10及び図11等にも示すように下死点にあるピストン40における排気バルブ側であって、左右方向略中央(クランク軸線方向で見てシリンダ軸線付近)に位置する。また、クランクシャフト12の最大外径を形成するクランクウェブ45よりも外周側に配置される。更に、オイル噴射口47はシリンダ13のボアよりも内側に設定され、且つこの場合、シリンダ13の軸線方向に関してピストン40のスカート40aとクランクシャフト12(のクランクウェブ45)との間に配置される。
【0039】
なお、この実施形態におけるオイル通路48は右側のクランクケース11のみにおいて形成され、即ち左側のクランクケース11には形成されない。この場合、左側のクランクケース11においては、少なくとも右側のクランクケース11の肉盛り部46の対応する部位に肉盛り部46′が形成される。左右のクランクケース11が結合した際、肉盛り部46,46′同士が当接し、これによりオイル通路48の末端部側を栓止する。
【0040】
本発明のオイルジェット装置は上記のように構成されており、次にその作用等について説明する。前述したようにオイル潤滑系においてマグネト室18内に溜まったオイルは、オイルポンプ23により吸い上げられ、オイルポンプ23から吐出されたオイルはミッション室16を経由した後、オイルポンプ24からオイルフィルタ室26へ供給される。エンジンオイルは更に、オイルフィルタ室26から上述のオイル通路48を通ってその末端のオイル噴射口47へ供給され、これにより図7及び図8に示されるようにピストン40のピストンクラウン裏面の略中央付近を指向するオイルジェットDが形成される。
【0041】
本発明では先ず、ピストン40の作動中、好適位置から適正にオイルジェットを噴射することでピストン40を効率よく冷却することが可能となる。この場合オイル通路48を形成するための肉盛り部46(肉盛り部46′も含む)がクランクケース11と一体成形されている。オイル通路48を形成するための空間的制約や製造上制約等に拘束されず、これにより高い信頼性を得ることができる。また、一体形成であり、即ちオイルジェットのための別部材等をわざわざ設ける必要がなく、構成を簡素化すると共に、部品点数を実質的に減少することができる。
【0042】
また、この実施形態では右側のクランクケース11のみにおいてオイル通路48及びオイル噴射口47を形成し、左側のクランクケース11の肉盛り部46′によって該オイル通路48を塞ぐようにしている。この場合もオイル通路48を塞ぐための部品もしくは部材を設けないで済むため、構成の簡素化と部品点数の減少を図ることができる。
【0043】
更に、左右割りのクランクケース11はシリンダ締結用ボルト(図示せず)により左右方向に締結されるが、左右のクランクケース11にそれぞれ形成される肉盛り部46及び肉盛り部46′は該締結用ボルトと同一方向に緊締固定される。これによりクランクケース11の結合剛性を有効に強化することができる。シリンダ13の下端前部付近は高い燃焼圧を受けて下降するピストン40の作動により、シリンダ13の下端を前方へ押す力が作用するが、肉盛り部46を左右方向に架渡したためクランクケース11の耐久性を高めることができる。
【0044】
なお、上記の場合左右のクランクケース11の合せ面から機械加工あるいは鋳抜き等によりオイル通路48を形成することができる。これによりクラッチカバー側からの機械加工や鋳抜きでオイル通路48が形成可能とし、製造もしくは加工の容易化を図ることができる等の利点がある。
【0045】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態において右側のクランクケース11においてオイル噴射口47を形成する例を説明したが、左右のクランクケース11の合せ面を跨いでオイル通路48を形成し、即ち右側のクランクケース11に形成したオイル通路48を、更に左側のクランクケース11まで適度な長さ延長形成し、左右のクランクケース11それぞれにオイル噴射口を設定することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 エンジン、11 クランクケース、12 クランクシャフト、13 シリンダ、14 シリンダヘッド、15 シリンダヘッドカバー、16 ミッション室、17 クラッチ室、18 マグネト室、19 クラッチ装置、20 ジェネレータ、20A ステータコイル、20B マグネトロータ、21 インテークポート、22 エキゾーストポート、23 オイルポンプ(スカベンジポンプ)、24 オイルポンプ(フィードポンプ)、25 オイル通路、26 オイルフィルタ室、27,28 カムシャフト、29 カムチェーン、30 カムチェーントンネル、31,32 スプロケット、33 ドライブスプロケット、34 カムチェーンガイド、35 カムチェーンテンショナ、36 支軸、37 連通路、38 膨出部、39 オイル吸入部、40 ピストン、41 ピストンリング、42 コネクティングロッド、43 ピストンピン、44 クランクピン、45 クランクウェブ、46 肉盛り部、47 オイル噴射、48 オイル通路、100 自動二輪車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内のピストンに対してエンジンオイルを噴射するようにしたエンジンのオイルジェット装置であって、
前記シリンダ内で往復動するピストンに対して常時、そのピストンクラウンの略中央付近を指向するオイルジェットを形成する位置にオイル噴射口を設けたことを特徴とするエンジンのオイルジェット装置。
【請求項2】
前記エンジンのクランクケースに肉盛り部を設け、この肉盛り部に前記オイル噴射口に連通するオイル通路を形成し、このオイル通路の末端部にて前記オイル噴射口を開口させたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンのオイルジェット装置。
【請求項3】
前記オイル噴射口は、前記シリンダのボア内側であって、ピストンスカートとクランクシャフトとの間に設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンのオイルジェット装置。
【請求項4】
前記クランクケースは左右割りに構成され、その一方にのみ前記オイル通路及び前記オイル噴射口が形成されることを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンのオイルジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−47360(P2011−47360A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198337(P2009−198337)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】