説明

エンジンの冷却装置

【課題】エンジン1の冷却装置において、比較的簡易な構成でかつ設備コストの嵩まない構成としながら、当該冷却装置に新たな冷媒を充填する際に流路切り換え部10のハウジング20の上側部屋24から下側部屋23へ冷媒を落とし込みやすくする他、昇温促進制御状態において下側部屋23に集まってくるエアを上側部屋24へ抜きやすくする。
【解決手段】流路切り換え部10は、鉛直方向の上下に仕切られる部屋23,24を有するハウジング20と、2つの部屋23,24の仕切り部213に設けられる連通孔214に組み込まれるサーモスタット30とを備える。ハウジング20には上側部屋24と下側部屋23とを連通する連通路51が設けられ、この連通路51には当該連通路51を開閉するための開閉操作部材52が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの温度を冷媒により調節する冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの冷却装置は、一般的に、サーモスタットによって、冷媒の温度が規定温度未満の場合に、エンジンから取り出される冷媒をラジエータをバイパスしてエンジンに戻す状態にすることにより、冷媒の温度を規定温度にまで速やかに上昇させるようにする一方で、冷媒の温度が前記規定温度以上になったときには、エンジンから取り出した冷媒をラジエータに流通させてからエンジンに戻す状態にすることにより、冷媒の温度を規定温度範囲に保つようにしている。
【0003】
ところで、例えば特許文献1の段落0018,0032、図1および図2には、ラジエータからウォーターポンプへ冷却水を流通させる通路と、ラジエータをバイパスするバイパス通路からウォーターポンプへ冷却水を流通させる通路とを、電動式の流量制御弁によって切り換えるようにする構成において、ドレンコックが開放されたことをドレンコックセンサで検知することによって冷却水の交換が通知されると、前記流量制御弁を全開状態にしてラジエータからウォーターポンプへ冷却水を流通させる通路を確保することが記載されている。
【0004】
また、例えば特許文献2の段落0051−0053、図1には、ラジエータの出口側に第1電制サーモスタットが、またラジエータの入口側に第2電制サーモスタットが設置される構成において、エンジンのウォータージャケット内のエアを抜くときには、電子制御ユニットにより第2電制サーモスタットを開くとともにラジエータの注水口を開いて、ウォータージャケット内のエアを戻し管を介してラジエータの注水口から大気放出させることが記載されている。また、シリンダヘッドのウォータージャケットに注水するときには、電子制御ユニットにより第2電制サーモスタットを開くとともにラジエータの注水口を開いて、ラジエータの注水口からの注水によって前記ウォータージャケットから追い出されるエアを戻し管からラジエータの注水口を経て大気放出させることが記載されている。
【0005】
さらに、例えば特許文献3の段落0015−0017、図1および図2には、シリンダヘッドのウォータージャケットにウォーター通路および空気抜き孔を経て外部開口を設け、この外部開口を通路および空気抜き弁を経てデガスボトルに接続した構成において、冷却水の交換時には、前記空気抜き弁を開いた状態でデガスボトルからラジエータに冷却水を注水することにより、ウォーターポンプや通路内部の空気をウォーター通路、空気抜き孔を通って外部に放出させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−247421号公報
【特許文献2】特開2009−185744号公報
【特許文献3】特開平6−257428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3では、冷却水を入れ換えるための注水時や冷却通路内のエアを抜くための構成が開示されているが、特許文献1では、電子制御式の流量制御弁を用いる必要があり、また、特許文献2では、電子制御式のサーモスタットを用いる必要があり、設備コストが嵩むことが懸念される。
【0008】
さらに、特許文献3では、ラジエータに接続されるデガスボトルにシリンダヘッドに設けてある空気抜き孔の外部開口を通路を介して接続するような構成を採用しているので、比較的簡素な構成になっているものの、デガスボトルとシリンダヘッドの空気抜き孔の外部開口とを接続するための通路が必要であり、さらに前記通路に空気抜き弁を設置する必要があるなど、構成をさらに簡素にするうえで改良の余地がある。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明は、エンジンの冷却装置において、比較的簡易な構成でかつ設備コストの嵩まない構成としながら、当該冷却装置に新たな冷媒を充填する際に流路切り換え部のハウジングの上側部屋から下側部屋へ冷媒を落とし込みやすくする他、昇温促進制御状態において下側部屋に集まってくるエアを上側部屋へ抜きやすくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンから取り出される冷媒をラジエータに流通させてからエンジンに戻す温度調節制御状態と、エンジンから取り出される冷媒を前記ラジエータをバイパスしてエンジンに戻す昇温促進制御状態とに切り換えるための流路切り換え部を備え、前記流路切り換え部は、鉛直方向の上下に仕切られる部屋を有するハウジングと、前記2つの部屋の仕切り部に設けられる連通孔に組み込まれるサーモスタットとを備え、かつ前記下側部屋にはエンジンから取り出されてラジエータを通過した冷媒が導入される第1入口が設けられ、前記上側部屋には、エンジンから取り出されて前記ラジエータをバイパスされた冷媒が導入される第2入口と、エンジンに冷媒を戻すための出口とが設けられ、前記サーモスタットは、前記上側部屋内の冷媒の温度が規定温度未満の場合に前記連通孔を閉じると同時に前記第2入口を開くことにより前記昇温促進制御状態を確保する一方で、前記上側部屋内の冷媒の温度が規定温度以上の場合に前記連通孔を開くと同時に前記第2入口を閉じることにより前記温度調節制御状態を確保するものであり、前記ハウジングには前記上側部屋と下側部屋とを連通する連通路が設けられ、この連通路には当該連通路を開閉するための開閉操作部材が設けられている、ことを特徴としている。
【0011】
この構成では、冷媒を入れていない状態の冷却装置に新たな冷媒を充填する場合、つまり前記2つの部屋に冷媒が存在していない状態でかつサーモスタットが連通孔を閉じて第2入口を開いた昇温促進制御状態になっている場合において、上側部屋から冷媒を導入しても、この冷媒を下側部屋に落とし込むことができないので、そのような場合に、開閉操作部材で連通路を開くことにより上側部屋と下側部屋とを連通させると、上側部屋に導入される冷媒を前記連通路を通じて下側部屋に比較的円滑に落とし込むことが可能になる。このように冷媒の充填作業や入れ替え作業を容易かつ迅速に行うことが可能になる。
【0012】
また、エンジンの冷間始動時のようにサーモスタットが連通孔を閉じて第2入口を開いた状態でかつ冷媒が第2入口から上側部屋を経て出口へと流れている昇温促進制御状態において、下側部屋にエアが集まってくる場合に、この下側部屋に集まるエアを上側部屋に送り出すことができなくなって下側部屋にエアが滞留するようになるので、そのような場合に、開閉操作部材で連通路を開くことにより下側部屋と上側部屋とを連通させると、前記下側部屋のエアが連通路を通って上側部屋に抜け出るようになる。このように下側部屋からのエア抜き性が良好になる。なお、上側部屋に大気開放部を設けていれば、前記のように上側部屋に抜け出たエアを大気開放部から外部に放出させることが可能になり、エアが混入した冷媒が冷却装置内で循環し続けることを回避できるようになる。
【0013】
さらに、このような冷媒導入性やエア抜き性を良好として車両整備作業性を向上するための構成として、ハウジングに連通路と開閉操作部材とを組み合わせるだけの比較的簡易な構成にしているとともに、開閉操作部材を電子制御により作動させるのではなく手作業で開閉させるような形態にしているから、冷却装置の設備コストの上昇を抑制することが可能になる。
【0014】
好ましくは、前記連通路の下側には、大気に開放する開口が設けられ、この開口が前記開閉操作部材で開閉可能とされる。
【0015】
この構成では、開閉操作部材で前記連通路の下側開口を開放させると、下側部屋内の冷媒はもちろんのこと、上側部屋内の冷媒も連通路を通じて外部へ比較的容易に排出させることが可能になる。これにより、冷却装置内の冷媒を入れ換える場合などにおいて、冷媒の排出が効率良く行えるようになる。
【0016】
好ましくは、前記ハウジングにおいて前記上側部屋の上方には、冷媒導入用およびエア溜め用の容器が中継路を通じて接続される。
【0017】
この構成によれば、前記したように2つの部屋に冷媒を導入する場合には、容器内に冷媒を導入することによって、この冷媒を容器から上側部屋へ導入することが可能になり、また、前記したように下側部屋内のエアを上側部屋に抜く場合には、上側部屋に抜け出たエアが容器内に入るようになって、この容器内に溜めることが可能になる。なお、容器の上部には大気開放口を設けるとともに、この大気開放口に加圧キャップを取り付けることが好ましい。その場合、加圧キャップを取り外すことで、容器への冷媒導入が行えるようになるとともに、容器から外部へのエア放出が行えるようになる。
【0018】
好ましくは、前記ハウジングは、上向きの凹みを有するロアーハウジングと、下向きの凹みを有するアッパーハウジングとを組み合わせたツーピース構造とされる。前記ロアーハウジングの上側開口にはそれを塞ぐように前記仕切り部が設けられる。前記アッパーハウジングの下側開口縁には前記仕切り部と重ね合わされて複数のボルトで締結される外向きフランジが設けられる。前記連通路は、前記アッパーハウジングの外向きフランジ側から上側所定位置に至る領域に外向きに張り出すように設けられる膨出部の内部に前記外向きフランジから鉛直方向下向きに開放するとともに鉛直方向上向きに広がるように設けられる空間と、前記ロアーハウジングの仕切り部側から下側所定位置に至る領域に外向きに張り出すように設けられる膨出部の内部に鉛直方向に沿って貫通するように設けられる縦孔とを組み合わせた構成とされる。前記開閉操作部材は、棒状に形成され、かつ、その長手方向上側には前記縦孔の下側開口から挿入されて前記空間の天井側に螺合される雄ねじ軸部が、また、長手方向下側には前記縦孔の下側開口に嵌合されて当該下側開口を閉塞する蓋部が、さらに長手方向中間には前記縦孔の上側開口寄りに設けられる弁座に当接または離隔される弁部がそれぞれ設けられ、前記開閉操作部材の雄ねじ軸部の螺合深さでもって前記弁座に対する弁部の離隔寸法を調節することにより、前記連通路の開度や当該連通路の下側開口の開度が変更可能とされる。
【0019】
好ましくは、前記サーモスタットは、前記仕切り部の連通孔に合致する中心孔が設けられるフレームと、このフレームに前記中心孔を開閉可能とするように設けられる第1バルブと、この第1バルブで前記中心孔を閉塞させるように当該第1バルブを付勢する圧縮コイルスプリングと、前記第2入口を開閉可能とするように設けられる第2バルブと、前記上側部屋内に配置されるように前記フレームに支持されかつ前記第2入口から上側部屋に導入される冷媒が規定温度以上になったときに前記第1バルブで前記中心孔を開くと同時に前記第2バルブで前記第2入口を閉じる状態にするサーモアクチュエータとを備え、前記フレームは、前記中心孔を有するリングプレートを有し、この各リングプレートの円周所定位置にはそれぞれジグル弁が設けられている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るエンジンの冷却装置は、比較的簡易な構成でかつ設備コストの嵩まない構成としながら、当該冷却装置に新たな冷媒を充填する際に流路切り換え部のハウジングの上側部屋から下側部屋へ冷媒を落とし込みやすくする他、昇温促進制御状態において下側部屋に集まってくるエアを上側部屋へ抜きやすくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るエンジンの冷却装置の一実施形態で、その概略構成を示す図である。
【図2】図1の流路切り換え部を示す断面図である。
【図3】図2の流路切り換え部のハウジングを分解して示す斜視図である。
【図4】図2の(4)−(4)線断面の矢視図であり、サーモスタットのサーモワックスが凝固収縮して第1バルブが閉弁している状態にしているとともに、ハウジングのドレンボルトを締め付けて下側部屋と上側部屋とを遮断させた状態を示している。
【図5】図4に対応する図であり、サーモスタットのサーモワックスが溶融膨張して第1バルブが開弁している状態を示している。
【図6】図2の(6)−(6)線断面の矢視図である。
【図7】図4のサーモスタット単体を示す斜視図である。
【図8】図4に対応する図であり、ハウジングのドレンボルトを緩めて下側部屋と上側部屋とを連通させた状態を示している。
【図9】図4に対応する図であり、ハウジングのドレンボルトを取り外して下側部屋および上側部屋を大気開放させた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1から図9に、本発明の一実施形態を示している。なお、以下の説明において、「上流」および「下流」は、冷媒の流れ方向を基準としている。
【0024】
図1に示されるように、エンジン1の冷却装置は、ウォーターポンプ2、ラジエータ3、熱交換路4、還流路5、バイパス路6、流路切り換え部10などを備えている。
【0025】
ウォーターポンプ2は、エンジン1によって駆動されることによって、エンジン1内の冷却水などの冷媒を熱交換路4やバイパス路6へと一旦取り出してからエンジン1に戻すように循環させるための動力源である。なお、このウォーターポンプ2は電動式とすることも可能である。
【0026】
ラジエータ3は、熱交換路4の途中に設置されており、冷媒の熱を放熱させることにより冷却する。このラジエータ3の最上部には、大気開放口(図示省略)が設けられており、この大気開放口には加圧キャップ15が着脱可能に取り付けられている。また、ラジエータ3の最下部には、排出口(図示省略)が設けられており、この排出口にはドレンプラグ16が着脱可能に取り付けられている。このドレンプラグ16を取り外すと、ラジエータ3内の冷媒を排出させることが可能になる他、熱交換路4、還流路5、バイパス路6、流路切り換え部10内の冷媒を排出させることも可能になる。
【0027】
熱交換路4は、ウォーターポンプ2によりエンジン1内から取り出される冷媒をラジエータ3に流通させるための流路である。熱交換路4においてラジエータ3よりも上流側には、エア抜き用のドレン7が設けられている。
【0028】
還流路5は、ウォーターポンプ2によりエンジン1内から取り出される冷媒をエンジン1に戻すための流路である。
【0029】
バイパス路6は、ウォーターポンプ2によりエンジン1から取り出される冷媒をラジエータ3をバイパスして還流路5に導くための流路である。このバイパス路6の上流端は、熱交換路4の上流側に接続されている。
【0030】
流路切り換え部10は、エンジン1から取り出される冷媒を熱交換路4の下流から還流路5に流して冷媒を規定温度に保つ温度調節制御状態、あるいはエンジン1から取り出される冷媒をバイパス路6から還流路5に流して冷媒を昇温促進させる昇温促進制御状態を確保するための装置である。
【0031】
なお、この実施形態では、熱交換路4の上流から冷媒を取り出して車両室内に設置されるヒータコア8に流通させてから流路切り換え部10の上側部屋24を経て還流路5に流すためのヒータ通路9が設けられている。また、流路切り換え部10の上側部屋24には、デガスボトル(加圧式リザーブタンク)11が中継路12を経て接続されている。
【0032】
このデガスボトル11は、本発明に係る冷却装置内の冷媒の温度変化に伴う冷媒の膨張、収縮を吸収するための冷媒溜まりや、冷却装置内に混入するエアの溜まりとなる容器である。このデガスボトル11の最上位置には、大気開放口(図示省略)が設けられており、この上側の大気開放口には加圧キャップ13を取り付けられている。例えば冷却装置の冷媒を入れ換える際にデガスボトル11に冷媒を導入する場合や、デガスボトル11内のエアを外部に放出させる場合には、加圧キャップ13を取り外して行う。
【0033】
次に、図2から図6を参照して、流路切り換え部10を詳しく説明する。流路切り換え部10は、ハウジング20、2つのサーモスタット30,40などを備えている。
【0034】
詳しくは、この実施形態では、ハウジング20をロアーハウジング21とアッパーハウジング22とを組み合わせたツーピース構造にしており、以下で説明するような形態で鉛直方向の上下に仕切られる部屋23,24が設けられている。
【0035】
ロアーハウジング21は、下向きに凹むボディ211と、ボディ211の底壁における長手方向一端寄りから外側横向きに突出する円筒形の第1入口212と、ボディ211における楕円形の上側開口縁に設けられる蓋状の仕切り部213とを備えている。
【0036】
なお、第1入口212には、熱交換路4の下流端が接続される。仕切り部213は、平面から見てほぼ長方形の平板形状に形成されており、この仕切り部213には、板厚方向(鉛直方向)に貫通する2つの連通孔214,215が長手方向に並んで設けられている。
【0037】
アッパーハウジング22は、上向きに凹むボディ221と、ボディ221の一方短側壁から外側横向きに突出する円筒形の出口222と、ボディ221の天井壁において長手方向に並ぶ2ヶ所から外側上向きに突出してから合流して横向きに突出する円筒形の第2入口223と、ボディ221の天井壁において長手方向中央から外側上向きに突出する円筒形の第3入口224と、ボディ221の天井壁において長手方向一端側から外側上向きに突出する円筒形の第4入口225と、ボディ221における楕円形の下側開口縁に設けられる外向きフランジ226とを備えている。
【0038】
なお、出口222には還流路5の上流端が接続され、第2入口223にはバイパス路6の下流端が接続され、第3入口224にはヒータ通路9の下流端が接続され、第4入口225にはデガスボトル11からの中継路12の下流端が接続される。
【0039】
そして、ロアーハウジング21の仕切り部213とアッパーハウジング22の外向きフランジ226とが重ね合わされて、それらが複数のボルト25・・・などで締結されている。
【0040】
仕切り部213には、その厚み方向に貫通するとともにボルト25がルーズに挿通される挿通孔(符号省略)が設けられており、外向きフランジ226には、その厚み方向に貫通するとともにボルト25が螺合される雌ねじ孔(符号省略)が設けられている。これにより、ロアーハウジング21のボディ211の凹部が下側部屋23となり、アッパーハウジング22の凹部が上側部屋24となり、ロアーハウジング21の仕切り部213が下側部屋23と上側部屋24とを仕切るための隔壁になる。
【0041】
この仕切り部213の2つの連通孔214,215にサーモスタット30,40が組み付けられることにより、2つのサーモスタット30,40によって2つの連通孔214,215が個別に開閉されるようになる。これにより、2つのサーモスタット30,40が、第1入口212または第2入口223から導入される冷媒を出口222に向けて流す方向に直列に並んで設けられるようになる。これにより、下側部屋23は冷媒流れ方向の上流側に、また、上側部屋24は冷媒流れ方向の下流側に位置するようになっている。
【0042】
ところで、この実施形態での冷却装置を構成する各要素の鉛直方向での設置位置は、図1に示すような関係に設定されているものとする。
【0043】
次に、図2、図4〜図7を参照して、2つのサーモスタット30,40を詳しく説明する。
【0044】
2つのサーモスタット30,40は、同じ諸元(外形、構成部品、最大開口面積など)とされる。このサーモスタット30,40は、共に、フレーム31,41(図2、図7参照)、サーモアクチュエータ32,42、第1バルブ33,43、円筒形圧縮コイルスプリング34,44、第2バルブ35,45、円錐形圧縮コイルスプリング36,46などを備えている。
【0045】
フレーム31,41は、リングプレート311,411の上側にアーチ312,412を設けて、リングプレート311,411の下側にアーチ313,413を設けた構成になっている。リングプレート311,411の円周所定位置には、ジグル弁314,414が設けられている。このジグル弁314,414の機能は、下側部屋23に流入する気泡を細かくして上側部屋24に送り出すものである。
【0046】
サーモアクチュエータ32,42は、冷媒の温度変化を感知して第1バルブ33,43と第2バルブ35,45とを連係して同時に昇降させるための駆動源であり、フレーム31,41に支持されている。このサーモアクチュエータ32,42は、有底円筒形の感熱筒321,421、円筒形のガイドメンバ322,422、プッシュロッド323,423、弾性シールスプール324,424、サーモワックス325,425などを備えている。
【0047】
そして、感熱筒321,421の下側開口にガイドメンバ322,422を取り付け、プッシュロッド323,423の上側を感熱筒321,421内に入れた状態でプッシュロッド323,423の下側をガイドメンバ322,422の中心孔に挿通して感熱筒321,421の下側開口から外側下向きに突出させた状態にし、さらにガイドメンバ322,422に弾性シールスプール324,424を取り付け、感熱筒321,421と弾性シールスプール324,424との間の内部密閉空間内にサーモワックス325,425を充填している。
【0048】
サーモワックス325,425は、感熱筒321,421の温度の高低変化に応じて、凝固収縮する状態や、溶融膨張する状態に変化するものであって、一般的に周知のものが用いられる。感熱筒321,421の下側開口の外周とガイドメンバ322,422の外周との間に第1バルブ33,43が取り付けられ、また、感熱筒321,421の凸軸部に第2バルブ35,45が止め輪(符号省略)で抜け止めされた状態で取り付けられている。
【0049】
このサーモアクチュエータ32,42は、フレーム31,41の上側アーチ312,412と下側アーチ313,413との間に組み込まれている。プッシュロッド323,423の上端が上側アーチ312,412の中央に固定され、感熱筒321,421が下側アーチ313,413に相対変位可能に支持され、第1バルブ33,43がリングプレート311,411の中心孔(符号省略)を開いたり塞いだりするように配置されている。なお、第1バルブ33,43がリングプレート311,411の中心孔を開いた状態が開弁状態であり、塞いだ状態が閉弁状態である。
【0050】
このリングプレート311,411は、その中心孔をロアーハウジング21の仕切り部213の2つの連通孔214,215に合致させるようにして、仕切り部213の上面において連通孔214,215の周囲に当接される。これにより、リングプレート311,411の中心孔および仕切り部213の2つの連通孔214,215が、ハウジング20の下側部屋23と上側部屋24とを連通するための孔となる。なお、リングプレート311,411に設けられているジグル弁314,414は、仕切り部213の2つの連通孔214,215の内径側に配置されるようになっている。
【0051】
円筒形圧縮コイルスプリング34,44は、第1バルブ33,43と下側アーチ313,413との間に弾性的に圧縮した状態で介装されており、この円筒形圧縮コイルスプリング34,44の弾性復元力でもって、第1バルブ33,43をリングプレート311,411に押し付けることによってリングプレート311,411の中心孔を閉塞するように付勢する。
【0052】
円錐形圧縮コイルスプリング36,46は、感熱筒321,421の底部と第2バルブ35,45との間に弾性的に圧縮した状態で介装されており、この円錐形圧縮コイルスプリング36,46は、その弾性復元力でもって、第2バルブ35,45をアッパーハウジング22の第2入口223に押し付けることによって第2入口223を閉塞するように付勢する。
【0053】
次に、冷却装置の基本的な動作を説明する。
【0054】
まず、エンジン1の冷間始動時のようにエンジン1から取り出される冷媒が規定温度(例えば暖機完了温度)未満の場合、この比較的低温の冷媒がバイパス路6からハウジング20の第2入口223を通って上側部屋24に流入することになる。
【0055】
つまり、2つのサーモスタット30,40のサーモワックス325,425の周辺が前記規定温度未満の場合には、サーモワックス325,425が凝固収縮してワックス圧が低くなるので、弾性シールスプール324,424が広がってプッシュロッド323,423に対する感熱筒321,421の嵌め合い深さが深くなる。これにより、円筒形圧縮コイルスプリング34,44および円錐形圧縮コイルスプリング36,46が共に伸張して、図4に示すように、第1バルブ33,43がリングプレート311,411に圧接されて第1バルブ33,43がリングプレート311,411の中心孔および連通孔214,215を閉塞する閉弁状態になる一方で、第2バルブ35,45が第2入口223から引き離されて第2入口223を開放する開弁状態になる。
【0056】
したがって、この状態では、エンジン1から取り出される冷媒が、図1の実線矢印Aで示すように、バイパス路6からハウジング20の第2入口223を通って上側部屋24に流入する。この上側部屋24に流入した冷媒は、ハウジング20の出口222から還流路5に排出されてエンジン1に戻される。つまり、冷媒はエンジン1→バイパス路6→第2入口223→上側部屋24→出口222→還流路5→エンジン1の経路で循環されるようになる。この循環形態では、冷媒がラジエータ3に流入しないので、エンジン1の熱によって冷媒が速やかに昇温されることになる。この状態が、昇温促進制御状態である。
【0057】
なお、このような昇温促進制御状態で冷媒が循環している状況において、流路切り換え部10の下側部屋23にエアが集まってくると、このエアは2つのサーモスタット30,40のジグル弁314,414によって細かくされながら上側部屋24に送り出された後、第4入口225および中継路12を経てデガスボトル11に溜められるようになる。
【0058】
この後、エンジン1から取り出される冷媒がバイパス路6からハウジング20の第2入口223を通って上側部屋24に流入して出口222から還流路5に流出している状態において、前記冷媒の温度が規定温度以上になると、この比較的高温の冷媒が2つのサーモスタット30,40のサーモワックス325,425に触れることになる。
【0059】
これにより、2つのサーモスタット30,40のサーモワックス325,425が溶融膨張されてワックス圧が高くなるので、弾性シールスプール324,424が絞られて感熱筒321,421に対するプッシュロッド323,423の嵌め合い深さが浅くなる。これにより、感熱筒321,421が上昇するために、図5に示すように、第1バルブ33,43が円筒形圧縮コイルスプリング34,44を圧縮しながらリングプレート311,411から引き離されてリングプレート311,411の中心孔および連通孔214,215を開放する開弁状態になると同時に、第2バルブ35,45が第2入口223に押し付けられて第2入口223を閉塞する閉弁状態になる。このとき、円錐形圧縮コイルスプリング36,46が圧縮されることになって、その弾性復元力で第2バルブ35,45が第2入口223に圧接された状態になる。
【0060】
この状態では、エンジン1から取り出される冷媒が、図1の一点鎖線矢印Bで示すように、熱交換路4を経てラジエータ3に流入するとともに、このラジエータ3を通過した冷媒が、ハウジング20の第1入口212を通って下側部屋23に流入され、さらにこの下側部屋23からリングプレート311,411の中心孔および仕切り部213の連通孔214,215を通って上側部屋24に流入し、ハウジング20の出口222から還流路5に排出されてエンジン1に戻される。
【0061】
つまり、冷媒はエンジン1→熱交換路4→第1入口212→下側部屋23→上側部屋24→出口222→還流路5→エンジン1の経路で循環されるようになる。この循環形態では、冷媒がラジエータ3に流入して冷却されるので、冷媒の温度が規定温度に保たれるようになる。この状態が温度調節制御状態である。
【0062】
但し、サーモスタット30,40は、上側部屋24に流入する冷媒の温度に応じてプッシュロッド323,423に対しガイドメンバ322,422および感熱筒321,421が軸方向に無段階に変位するので、その変位位置に応じて第1バルブ33,43によるリングプレート311,411の中心孔および仕切り部213の連通孔214,215の開口面積が無段階に調節されるようになる。これにより、エンジン1から取り出される冷媒が熱交換路4とバイパス路6とに分配されるようになって、ラジエータ3への冷媒流通量が調節されるようになるので、冷媒の温度が調節される。
【0063】
ところで、この実施形態では、図4、図5、図6、図8、図9に示すように、流路切り換え部10にドレン機構50を設けているので、以下で詳しく説明する。
【0064】
このドレン機構50は、ハウジング20において下側部屋23と上側部屋24とを連通するように設けられる連通路51と、この連通路51を開閉するための開閉操作部材としてのドレンボルト52とを備えている。
【0065】
連通路51は、ハウジング20のロアーハウジング21およびアッパーハウジング22の一側に設けられている。詳しくは、ロアーハウジング21のボディ211の長手方向途中の一側において仕切り部213側から底部に至る領域には、外向きに膨出する膨出部53が設けられており、この膨出部53の内部には鉛直方向上下に貫通する縦孔531が設けられている。この縦孔531の上側開口寄りには、ドレンボルト52の下記弁部522のテーパ面が圧接または離隔されるテーパ形状の弁座532が設けられている。
【0066】
また、アッパーハウジング22のボディ221の長手方向途中の一側において外向きフランジ226側から天井部に至る領域には、外向きに膨出する膨出部54が設けられており、この膨出部54の内部には外向きフランジ226から鉛直方向下向きに開放するとともに鉛直方向上向きに広がる空間541が設けられているとともに、この空間541の天井側に雌ねじ孔542が設けられている。この空間541と前記縦孔531とが組み合わされて連通路51が構成されている。
【0067】
ドレンボルト52は、棒状に形成され、かつ、その長手方向上側には雄ねじ軸部521が設けられており、長手方向中間には径方向外向きに張り出す弁部522が設けられており、さらに長手方向下側には径方向外向きに張り出す蓋部523が設けられている。
【0068】
なお、ドレンボルト52の最下端部分の外形は、例えば図3に示すように、ボルトの六角頭のような形状に形成されていて、例えばスパナのような工具が係合可能になっている。それ以外に、このドレンボルト52の最下端部分の外形を六角形にせずに、当該最下端部分の底部中心に、例えば六角棒レンチのような工具が係合可能となる六角形状の凹部を設けるようにしてもよい。
【0069】
そして、ドレンボルト52の雄ねじ軸部521は、空間541の雌ねじ孔542に螺合されるようになっている。弁部522は、上向きに漸次細くなるテーパ形に形成されており、この弁部522は、縦孔531の弁座532に当接または離隔されるようになっている。蓋部523は、円柱形に形成されており、その外周には周溝(符号省略)が設けられており、この周溝内にOリングなどのシールリング524が装着されている。この蓋部523は、縦孔531の下側領域にルーズフィットあるいはジャストフィット状態で嵌合されるようになっており、この蓋部523と縦孔531の下側領域との嵌合面をシールリング534でもって密封するようになっている。
【0070】
しかも、この実施形態では、ドレンボルト52を、ハウジング20のロアーハウジング21とアッパーハウジング22とを締結するための複数のボルト25のうちの1つとして利用するようになっている。そのようにするために、ドレンボルト52や連通路51を、仕切り部213と外向きフランジ226との重合締結部分の一部領域に設置するようにしている。
【0071】
次に、ドレン機構50の機能について説明する。
【0072】
まず、連通路51内に、その下からドレンボルト52を挿入して、連通路51の雌ねじ孔542にドレンボルト52の雄ねじ軸部521を螺合することにより、例えば図4に示すように、ドレンボルト52の弁部522のテーパ面を縦孔531のテーパ形状の弁座532に圧接させると、下側部屋23と上側部屋24とが完全に仕切られた完全閉弁状態になるとともに、ドレンボルト52の蓋部523が縦孔531の下側開口に完全に嵌合して、その嵌合面がシールリング524で密封されるようになって、縦孔531の下側開口が完全閉弁状態になる。
【0073】
このドレンボルト52を緩めることにより、雌ねじ孔542に対する雄ねじ軸部521の螺合深さを浅く調節すると、例えば図8に示すように、弁部522のテーパ面が弁座532から離隔する開弁状態にすることができる。この開弁状態では、ハウジング20の下側部屋23と上側部屋24とが連通する開弁状態になる。このとき、ドレンボルト52の蓋部523は縦孔531の下側開口に嵌合していて、抜け出ていないので、下側開口は閉弁した状態に保たれる。
【0074】
さらに、ドレンボルト52を緩めることにより、雌ねじ孔542から雄ねじ軸部521を取り外すと、例えば図9に示すように、ドレンボルト52の蓋部523が縦孔531の下側開口から抜け出るので、ハウジング20の下側部屋23および上側部屋24が大気開放されるようになって、下側開口が完全開弁状態になる。
【0075】
なお、前記したドレンボルト52の螺合作業や緩み作業は、作業者が前記した工具を用いて手作業で行うようになっている。
【0076】
ここで、例えば冷媒を入れていない状態の冷却装置の構成要素(3,4,5,6,9,10)に新たな冷媒を充填する場合の手順、ならびに様子を説明する。
【0077】
デガスボトル11の加圧キャップ13と、ラジエータ3の加圧キャップ15とを取り外すとともに、ドレン機構50のドレンボルト52を図8に示す開弁状態にする。このようにしてから、デガスボトル11の上側の大気開放口およびラジエータ3の大気開放口から新たな冷媒を入れる。
【0078】
これにより、デガスボトル11の大気開放口から入れられた新冷媒は中継路12および第4入口225から流路切り換え部10の上側部屋24に流入することになる。そして、この上側部屋24に流入した冷媒は、第2入口223を通ってバイパス路6に流入するようになり、また、出口222を通って還流路5に流入するようになり、さらに、上側部屋24内の冷媒が第3入口224を通ってヒータ通路9に流入するようになる。この他に、上側部屋24に流入した冷媒は、連通路51を通って下側部屋23に流入してから、第1入口212を通って熱交換路4に流入するようになる。このように冷媒を比較的円滑に入れることが可能になる。
【0079】
このようにして新たな冷媒を充填する過程において、充填される冷媒によって冷却装置の構成要素(3,4,5,6,9,10)内に存在しているエアは、ラジエータ3の大気開放口から外部へ放出される他、冷却装置において最上部から2番目の高さに配置されている流路切り換え部10の下側部屋23や上側部屋24に集められることになる。このうち、下側部屋23内に集まってくるエアは、ジグル弁314,414によって細かくされて上側部屋24に送り出されるだけでなく、連通路51を経て上側部屋24に抜かれるようになる。そして、上側部屋24内に集められたエアは、第4入口225および中継路12を経てデガスボトル11に導入されるようになって、最終的に、このデガスボトル11の大気開放口から外部へ排出されるようになる。
【0080】
次に、例えば冷却装置の冷媒を入れ換える場合の手順、ならびに様子を説明する。まず、デガスボトル11の加圧キャップ13と、ラジエータ3の加圧キャップ15およびドレンプラグ16とを取り外すとともに、ドレン機構50のドレンボルト52を連通路51から取り外す。これにより、図9に示すように、ハウジング20の下側部屋23および上側部屋24が大気開放される状態になるので、ラジエータ3の排出口から外部へ冷媒が排出されるとともに、流路切り換え部10の下側部屋23内の冷媒だけでなく上側部屋24内の冷媒も縦孔531の下側開口から外部へ排出されるようになる。
【0081】
このように、冷却装置において最上位に配置されるデガスボトル11の下側の流路切り換え部10の連通路51を大気開放しているので、冷却装置の構成要素(3,4,5,6,9,10)内の冷媒を比較的容易かつ迅速に抜き取ることが可能になる。
【0082】
そして、冷却装置の構成要素(3,4,5,6,9,10)内の冷媒を抜き取った後、ラジエータ3の排出口にドレンプラグ16を取り付けるとともに、ドレン機構50の連通路51にドレンボルト52を挿入してから、このドレンボルト52を図8に示す開弁状態にする。このようにしてから、デガスボトル11の上側の大気開放口およびラジエータ3の大気開放口から新たな冷媒を入れる。
【0083】
これにより、デガスボトル11の大気開放口から入れられた新冷媒は中継路12および第4入口225から流路切り換え部10の上側部屋24に流入することになる。そして、この上側部屋24に流入した冷媒は、第2入口223を通ってバイパス路6に流入するようになり、また、出口222を通って還流路5に流入するようになり、さらに、上側部屋24内の冷媒が第3入口224を通ってヒータ通路9に流入するようになる。この他に、上側部屋24に流入した冷媒は、連通路51を通って下側部屋23に流入してから、第1入口212を通って熱交換路4に流入するようになる。このように冷媒を比較的円滑に入れることが可能になる。
【0084】
このようにして冷媒を入れ換える過程において、充填される冷媒によって冷却装置の構成要素(3,4,5,6,9,10)内に存在しているエアは、ラジエータ3の大気開放口から外部へ放出される他、冷却装置において最上部から2番目の高さに配置されている流路切り換え部10の下側部屋23や上側部屋24に集められることになる。このうち、下側部屋23内に集まってくるエアは、ジグル弁314,414によって細かくされて上側部屋24に送り出されるだけでなく、連通路51を経て上側部屋24に抜かれるようになる。そして、上側部屋24内に集められたエアは、第4入口225および中継路12を経てデガスボトル11に導入されるようになって、最終的に、このデガスボトル11の大気開放口から外部へ排出されるようになる。
【0085】
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、鉛直方向上下に仕切られる2つの部屋23,24を有するハウジング20の仕切り部213にサーモスタット30,40を設置した構成の流路切り換え部10を備える冷却装置において、流路切り換え部10のハウジング20に連通路51とドレンボルト52とを組み合わせたドレン機構50を設けることにより、必要に応じて、下側部屋23と上側部屋24とを連通可能にしているとともに、下側部屋23と上側部屋24とを大気開放可能にしている。
【0086】
これにより、上記したように、冷却装置に冷媒を新たに充填する場合や入れ換える場合などにおいて、サーモスタット30,40の第1バルブ33,43が仕切り部213の連通孔214,215を閉じて第2バルブ35,45が第2入口223を開いた状態になっていても、ドレンボルト52で連通路51を開くだけで、上側部屋24に導入される冷媒を連通路51を通じて下側部屋23に比較的円滑に落とし込むことが可能になるなど、冷媒の充填作業や入れ換え作業を容易かつ迅速に行うことが可能になる。
【0087】
また、上記したエンジン1の冷間始動時のように、冷媒がハウジング20の第2入口223から上側部屋24を経て出口222へと流れている昇温促進制御状態において、下側部屋23にエアが集まってくる場合に、ドレンボルト52で連通路51を開くだけで、前記下側部屋23のエアをそこに滞留させることなく連通路51を通じて上側部屋24に送り出すことが可能になるなど、下側部屋23からのエア抜き性が良好になる。しかも、上側部屋24に抜け出たエアは第4入口225および中継路12を通ってデガスボトル11に溜められるので、エアが混入した冷媒が冷却装置内で循環し続けることを回避できるようになる。
【0088】
さらに、このような冷媒導入性やエア抜き性を良好として車両整備作業性を向上するための構成として、連通路51とドレンボルト52とを組み合わせるだけの比較的簡易な構成にしているとともに、ドレンボルト52を電子制御により作動させるのではなく手作業で開閉させるような形態にしているから、冷却装置の設備コストの上昇を抑制することが可能になる。
【0089】
特に、この実施形態では、ドレンボルト52を、ロアーハウジング21とアッパーハウジング22とを結合するためのボルト25のうちの1つとして利用しているから、ドレン機構50を独立した専用の場所に設置する場合に比べると、専用設置場所を確保する必要が無くなるなど、コンパクト設計が可能になる点で有利になる。
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、冷却装置の各構成要素については本発明の特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜変更することが可能である。例えばこの実施形態では、2つのサーモスタット30,40を用いるタイプの流路切り換え部10を例に挙げているが、単一のサーモスタットを用いるタイプの流路切り換え部に対しても本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 エンジン
2 ウォーターポンプ
3 ラジエータ
4 熱交換路
5 還流路
6 バイパス路
10 流路切り換え部
11 デガスボトル
20 流路切り換え部のハウジング
21 ロアーハウジング
212 第1入口
213 仕切り部
214 上流側連通孔
215 下流側連通孔
22 アッパーハウジング
222 出口
223 第2入口
23 下側部屋
24 上側部屋
30 上流側サーモスタット
40 下流側サーモスタット
31,41 フレーム
311,411 リングプレート
32,42 サーモアクチュエータ
33,43 第1バルブ
34,44 円筒形圧縮コイルスプリング
35,45 第2バルブ
50 ドレン機構
51 連通路
52 ドレンボルト
53 ロアーハウジングの膨出部
54 アッパーハウジングの膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから取り出される冷媒をラジエータに流通させてからエンジンに戻す温度調節制御状態と、エンジンから取り出される冷媒を前記ラジエータをバイパスしてエンジンに戻す昇温促進制御状態とに切り換えるための流路切り換え部を備え、
前記流路切り換え部は、鉛直方向の上下に仕切られる部屋を有するハウジングと、前記2つの部屋の仕切り部に設けられる連通孔に組み込まれるサーモスタットとを備え、かつ前記下側部屋にはエンジンから取り出されてラジエータを通過した冷媒が導入される第1入口が設けられ、前記上側部屋には、エンジンから取り出されて前記ラジエータをバイパスされた冷媒が導入される第2入口と、エンジンに冷媒を戻すための出口とが設けられ、
前記サーモスタットは、前記上側部屋内の冷媒の温度が規定温度未満の場合に前記連通孔を閉じると同時に前記第2入口を開くことにより前記昇温促進制御状態を確保する一方で、前記上側部屋内の冷媒の温度が規定温度以上の場合に前記連通孔を開くと同時に前記第2入口を閉じることにより前記温度調節制御状態を確保するものであり、
前記ハウジングには前記上側部屋と下側部屋とを連通する連通路が設けられ、この連通路には当該連通路を開閉するための開閉操作部材が設けられている、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの冷却装置において、
前記連通路の下側には、大気に開放する開口が設けられ、この開口が前記開閉操作部材で開閉可能とされる、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンの冷却装置において、
前記ハウジングにおいて前記上側部屋の上方には、冷媒導入用およびエア溜め用の容器が中継路を通じて接続される、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のエンジンの冷却装置において、
前記ハウジングは、上向きの凹みを有するロアーハウジングと、下向きの凹みを有するアッパーハウジングとを組み合わせたツーピース構造とされ、
前記ロアーハウジングの上側開口にはそれを塞ぐように前記仕切り部が設けられ、前記アッパーハウジングの下側開口縁には前記仕切り部と重ね合わされて複数のボルトで締結される外向きフランジが設けられ、
前記連通路は、前記アッパーハウジングの外向きフランジ側から上側所定位置に至る領域に外向きに張り出すように設けられる膨出部の内部に前記外向きフランジから鉛直方向下向きに開放するとともに鉛直方向上向きに広がるように設けられる空間と、前記ロアーハウジングの仕切り部側から下側所定位置に至る領域に外向きに張り出すように設けられる膨出部の内部に鉛直方向に沿って貫通するように設けられる縦孔とを組み合わせた構成とされ、
前記開閉操作部材は、棒状に形成され、かつ、その長手方向上側には前記縦孔の下側開口から挿入されて前記空間の天井側に螺合される雄ねじ軸部が、また、長手方向下側には前記縦孔の下側開口に嵌合されて当該下側開口を閉塞する蓋部が、さらに長手方向中間には前記縦孔の上側開口寄りに設けられる弁座に当接または離隔される弁部がそれぞれ設けられ、
前記開閉操作部材の雄ねじ軸部の螺合深さでもって前記弁座に対する弁部の離隔寸法を調節することにより、前記連通路の開度や当該連通路の下側開口の開度が変更可能とされる、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−21492(P2012−21492A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161321(P2010−161321)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】