説明

エンジンカバー取付構造

【課題】衝突荷重の入力時にはエンジンカバーをエンジン側へ変位させることができると共に、エンジンカバーが不要に破損することを防止できる。
【解決手段】本エンジンカバー取付構造では、エンジンカバーに衝突荷重が入力されると、エンジンカバーの脚部14が連結された取付部材16の自由端側が弾性的に撓み変形する。これにより、エンジンカバーをエンジン側へ変位させることができる。しかも、取付部材16の弾性変形によってエンジンカバーを変位させるため、エンジンカバーに脆弱部等を設ける必要がない。したがって、エンジンカバーが不要に破損することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの上部を覆うエンジンカバーをエンジンに取り付けるためのエンジンカバー取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者保護の要請から、エンジンルーム内におけるフードパネルとエンジンとの間には、フードパネルが衝突荷重によって沈み込むことを許容するための十分な衝撃吸収スペースを確保することが求められてきている。このため、当該衝撃吸収スペースに配置されるエンジンカバーには、フードパネルの沈み込みを阻害しないような構造が求められている。例えば、特許文献1に示されるエンジンカバーでは、取付座に脆弱部が設けられており、フードパネルからの荷重の入力によって取付座を破壊させることで、エンジンカバーをエンジン側へ沈み込ませて(変位させて)、衝撃吸収スペースを確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−300950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如きエンジンカバーでは、取付座に脆弱部が設けられた構成であるため、点検サービス等の際のエンジンカバーの着脱によって取付座が亀裂破損する可能性がある。このような亀裂破損を防止するためには、取付座(エンジンカバー)の強度を高くする必要があり、歩行者保護要件の確保と背反してしまう。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、衝突荷重の入力時にはエンジンカバーをエンジン側へ変位させることができると共に、エンジンカバーが不要に破損することを防止できるエンジンカバー取付構造を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係るエンジンカバー取付構造は、エンジンの上部に設けられたエンジン側部材に片持ち状態で固定され、自由端側が弾性的に撓み変形可能とされた取付部材と、前記取付部材の自由端側に連結される脚部を有し、前記エンジンの上部を覆うエンジンカバーと、を備えたことを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載のエンジンカバー取付構造では、エンジンカバーに衝突荷重が入力されると、エンジンカバーの脚部が連結された取付部材の自由端側が弾性的に撓み変形する。これにより、エンジンカバーをエンジン側へ変位させることができる。しかも、取付部材の弾性変形によってエンジンカバーを変位させるため、エンジンカバーに脆弱部等を設ける必要がない。したがって、エンジンカバーが不要に破損することを防止できる。
【0008】
請求項2に記載の発明に係るエンジンカバー取付構造は、請求項1に記載のエンジンカバー取付構造において、前記取付部材は、前記エンジン側部材の水平方向端部に固定され、自由端側が前記エンジン側部材の水平方向外側へ突出していることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載のエンジンカバー取付構造では、取付部材の自由端側がエンジン側部材の水平方向外側(側方)へ突出している。このため、取付部材の撓み変形によってエンジンカバーの脚部が変位するためのスペースをエンジン側部材の側方に設定することができる。したがって、エンジンカバーの脚部が変位するためのスペースがエンジン側部材の上方に設定される場合に比べてエンジンカバーの配置を低くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係るエンジンカバー取付構造では、衝突荷重の入力時にはエンジンカバーをエンジン側へ変位させることができると共に、エンジンカバーが不要に破損することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンカバー取付構造の構成部材であるエンジンカバーの構成を示す概略的な斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエンジンカバー取付構造の主要部の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るエンジンカバー取付構造の主要部の構成を示す側面図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るエンジンカバー取付構造の構成部材である取付部材が撓み変形した状態を説明するための図3に対応する側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るエンジンカバー取付構造の主要部の構成を示し、(A)は通常時の状態を示す概略的な側面図であり、(B)はエンジンカバーが車体下方側へ変位した状態を示す概略的な側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の比較例に係るエンジンカバー取付構造の主要部の構成を示し、(A)は通常時の状態を示す概略的な側面図であり、(B)はエンジンカバーが車体下方側へ変位した状態を示す概略的な側面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の変形例を示す概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1の実施形態>
以下、図1〜図6を参照して、本発明の第1の実施形態に係るエンジンカバー取付構造ついて説明する。なお、図中矢印UPは車両上方向を示している。
【0013】
本第1実施形態に係るエンジンカバー取付構造は、図1に示されるエンジンカバー10を、図示しない車両のフロントエンジン(以下、単に「エンジン」という)に取り付けるための取付構造である。エンジンカバー10は、図示しないフードパネルとエンジンとの間に配置され、エンジンの上部を覆うものであり、図1に示されるように、略板状に形成されたカバー本体12と、このカバー本体12の下面(裏面)から下側へ向けて突出した複数(ここでは4つ)の脚部14とを備えている。脚部14は角柱状に形成されており、下端側へ向かうに従い細くなっている。脚部14の下端部にはフランジ状の連結部14Aが設けられている。この連結部14Aは、図2に示される取付部材16に対応している。
【0014】
取付部材16は、ゴム等の弾性材料によって長尺な板状ないし角棒状に形成されたものであり、長手方向一端側(以下、「固定端側」という)がエンジン側部材20に固定されている。なお、図2、図3、図6ではエンジン側部材20の一部のみが図示されている。このエンジン側部材20は、本第1実施形態ではエンジンの上部を構成しており(エンジンの構造体であり)、エンジンの上方に突出した固定部20Aを有している。この固定部20Aは、ブロック状に形成されており、取付部材16の固定端側は固定部20Aの上面に固定されている。なお、図示はしないが、本第1実施形態ではエンジンの上部(エンジン側部材20)には、エンジンカバー10の4つの脚部14に対応して4つの固定部20Aが設けられており、各固定部20Aのそれぞれに取付部材16が固定されている。
【0015】
取付部材16は、固定部20Aに片持ち状態で固定されており、長手方向他端側(以下、「自由端側」という)が固定部20Aの水平方向外側(側方)へ突出している。取付部材16の自由端側の下方には、取付部材16を撓み変形させるための空間22が確保されている。
【0016】
また、取付部材16には、エンジンカバー10の脚部14を連結するための連結溝24(アリ溝)が長手方向に沿って形成されている。この連結溝24は、図4に示されるように断面形状が逆T字状に形成されており、細幅側が取付部材16の上面で開口している。また、取付部材16の固定端側には、脚部14の連結部14Aを連結溝24に挿入するための挿入口26が形成されている。
【0017】
この挿入口26に上方から連結部14Aを挿入し(図2の矢印A参照)、脚部14を取付部材16の自由端側へスライドさせると(図2の矢印B及び図3参照)、連結部14Aが連結溝24に嵌合し(図4参照)、脚部14が取付部材16の自由端側に連結される。この状態では、図5に示されるように、連結溝24の底面に設けられた断面三角形の戻り防止凸部28が連結部14Aに引っ掛かるようになっている。これにより、取付部材16の固定端側(挿入口26側)への脚部14の不要なスライドが防止され、脚部14が取付部材16の自由端側に拘束される。
【0018】
このようにしてエンジンカバー10の4つの脚部14がエンジン側の4つの取付部材16に連結されると、エンジンカバー10がエンジンに装着される。この装着状態では、エンジンの上部がカバー本体12によって覆われるようになっている。
【0019】
なお、取付部材16の戻り防止凸部28の高さ寸法は、車両走行時の振動等によって脚部14が挿入口26側へスライドしようとした際には当該スライドを防止するが、エンジンの点検サービス等のために作業者等がエンジンカバー10をエンジンに対して脱着する際には軽い力で連結部14Aが戻り防止凸部28を通り越せるように設定されている。
【0020】
次に、本第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0021】
本第1実施形態では、車両のフードパネルに衝突物が衝突し、フードパネルがエンジン側へ沈み込むと、エンジンカバー10にはフードパネルからエンジン側(車体下方側)へ向いた過大な衝突荷重が入力される。この場合、図6に示されるように、エンジンカバー10の脚部14が連結された取付部材16の自由端側が弾性的に車体下方側へ撓み変形することで(図6の矢印D参照)、エンジンカバー10の車体下方側(エンジン側)への変位(沈み込み)が許容される。これにより、フードパネルがエンジン側へ沈み込むためのスペース(衝撃吸収スペース)が拡大され、フードパネルの沈み込み量(変形量)が増加される。これにより、衝突物の衝突エネルギがフードパネルの変形エネルギに変換されるため、衝突物が受けるダメージを軽減することができる。
【0022】
一方、エンジンカバー10をエンジンから取り外す際には、脚部14が取付部材16の固定端側(挿入口26側)へスライドするようにエンジンカバー10に水平方向の軽い力を付与すればよい。これにより、脚部14の連結部14Aが戻り防止凸部28を弾性変形させて乗り越えるので、脚部14を挿入口26側へスライドさせることができる。この状態でエンジンカバー10を上方へ引き上げれば、連結部14Aを取付部材16の上方へ引き抜くことができ、エンジンカバー10をエンジンから取り外すことができる。
【0023】
また、エンジンカバー10をエンジンに取り付ける際には、脚部14の連結部14Aを上方から挿入口26に挿入すると共に、脚部14が取付部材16の自由端側へスライドするようにエンジンカバー10に水平方向の軽い力を付与すればよい。これにより、連結部14Aが連結溝24に嵌合すると共に、戻り防止凸部28によって連結部14A(脚部14)が取付部材16の自由端側に拘束され、脚部14が取付部材16の自由端側に連結される。
【0024】
このように、本第1実施形態では、工具を使わずにワンタッチでエンジンカバー10をエンジンに対し着脱することができるため、エンジンの点検サービス等の作業性を向上させることができる。しかも、この着脱の際には、エンジンカバー10に強い力を加える必要がないため、脚部14等に過大な荷重が付与されることを防止できる。したがって、点検サービス等の際の脱着によりエンジンカバー10に亀裂破損が生じることを防止できる。
【0025】
さらに、上述の如く車両の衝突時には取付部材16の弾性変形によってエンジンカバー10を変位(退避)させる構成であるため、エンジンカバー10に脆弱部等を設ける必要がない。したがって、エンジンカバー10の強度を充分に確保することができ、エンジンカバー10の不要な破損を防止することができるので、比較的高価なエンジンカバー10の交換コストが発生することを防止できる。
【0026】
なお、上記第1実施形態では、エンジンカバー10に4つの脚部14が設けられ、エンジン側に4つの取付部材16が設けられた構成にしたが、本発明はこれに限らず、脚部及び取付部材の数は適宜変更することができる。また、上記第1実施形態では、脚部14が角柱状に形成され、取付部材16が板状ないし角棒状に形成された構成にしたが、本発明はこれに限らず、脚部及び取付部材の形状は適宜変更することができる。また、上記第1の実施形態では、脚部14に設けられたフランジ状の連結部14Aが、取付部材16に設けられた断面逆T字状の連結溝24に嵌合することで脚部14が取付部材16に連結される構成にしたが、本発明はこれに限らず、脚部と取付部材の連結構造は適宜変更することができる。
【0027】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、前記第1の実施形態と基本的に同様の構成・作用については、前記第1の実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
<第2の実施形態>
図7(A)及び図7(B)には、本発明の第2の実施形態に係るエンジンカバー取付構造の部分的な構成が概略的な側面図にて示されている。この実施形態は、前記第1の実施形態と基本的に同様の構成とされているが、この実施形態では、取付部材16の固定端側がエンジン側部材20の水平方向端部に固定されている。
【0028】
この実施形態では、エンジンカバー10を取付部材16の撓み変形によって車体下方側へ変位させる際には、図7(B)に示されるように、脚部14をエンジン側部材20の水平方向外側(側方)でストロークさせることができる。したがって、脚部14をストロークさせるためのスペースがエンジン側部材20の上方に設定されている場合に比べて、通常時のカバー本体12の配置を低くすることができる。
【0029】
すなわち、図8(A)及び図8(B)に示される比較例(従来例)のように、エンジンカバー10の脚部14をストロークさせるためのスペースがエンジン側部材20の上方に設定されている場合、カバー本体12を距離aだけストロークさせるためには、カバー本体12とエンジン側部材20との間に距離2aの隙間を確保しておく必要がある。なお、図8(A)及び図8(B)において、30は脚部14を支持するための台座であり、図8(B)においては台座30又は脚部14が底づきすることでエンジンカバー10の車体下方側への変位が阻止されている。この比較例の場合、通常時のカバー本体12の配置が高くなってしまうため、図示しないフードパネルとエンジン側部材20との間の衝撃吸収スペースが不要に侵食されてしまう。
【0030】
これに対し、この実施形態では、脚部14をエンジン側部材20の水平方向外側(側方)でストロークさせることができるため、カバー本体12を距離aだけストロークさせるためには、カバー本体12とエンジン側部材20との間に距離aの隙間を確保しておけばよく、通常時のカバー本体12の配置を大幅に低くすることができる。したがって、フードパネルとエンジン側部材20との間の衝撃吸収スペースを充分に確保することが困難な車両に対して特に好適である。
【0031】
なお、図9に示されるように、カバー本体12とエンジン側部材20との間に発泡材等からなる衝撃吸収体32を配置させる構成にしてもよい。この衝撃吸収体32は、エンジンカバー10のストローク(変位)を阻害しないものであればよい。
【符号の説明】
【0032】
10 エンジンカバー
14 脚部
16 取付部材
20 エンジン側部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの上部に設けられたエンジン側部材に片持ち状態で固定され、自由端側が弾性的に撓み変形可能とされた取付部材と、
前記取付部材の自由端側に連結される脚部を有し、前記エンジンの上部を覆うエンジンカバーと、
を備えたエンジンカバー取付構造。
【請求項2】
前記取付部材は、前記エンジン側部材の水平方向端側に固定され、自由端側が前記エンジン側部材の水平方向外側へ突出していることを特徴とする請求項1に記載のエンジンカバー取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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