説明

エンジン制御パラメータの適合方法および適合装置

【課題】本発明は、エンジン制御パラメータの適合方法および適合装置に関し、応答遅れの生ずる制御デバイスを有するエンジンにおいて、過渡時のエンジン特性の悪化を確実に防止し、且つ、燃費性能を十分に向上することを目的とする。
【解決手段】本発明のエンジン制御パラメータの適合方法は、エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを得るステップと、エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求めるステップと、過渡運転時に応答遅れパラメータに応答遅れが生じることを想定した場合に所定のエンジン特性値が所定の制約条件を満足するように、エンジン制御パラメータの適合値を応答曲面関数を用いて求めるステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御パラメータの適合方法および適合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンでは、排出ガス特性、燃料消費特性、燃焼安定性および動力性能等のエンジン特性がさまざまな要求を満たすべく、複雑な制御が行なわれている。
【0003】
すなわち、エンジンの回転数や負荷に基づき決定されるエンジンの運転状態に応じた最適な燃料噴射量や最適な点火時期等の各制御パラメータの適合値を予め設定しておき、エンジン制御用電子制御ユニット(ECU)に記憶させておく。そして、この設定した適合値を参照しつつ、ECUはエンジンの制御を行なう。さまざまな運転状態に各々対応する適合値を用いることにより、各エンジン特性についてのさまざまな要求が満たされる。
【0004】
各制御パラメータの最適値を求める工程は、通常、次のようなものである。
(1)エンジンの回転数および負荷で規定される2次元の運転領域を格子状に分割する。その各格子点において、各制御パラメータの値を異ならせた多数の制御状態においてエンジンを運転し、各種のエンジン特性を計測する。
(2)上記(1)の計測結果に基づいて、各格子点毎に、複数の制御パラメータを説明変数とし各エンジン特性値を目的変数とするモデル式(応答曲面関数)を求める。
(3)各格子点毎に、上記(2)で求められた応答曲面関数を用いて、排出ガス特性や燃焼安定性(トルク変動)等の特性が所定の制約条件を満足するとともに、燃料消費が最少となる点を求める。この点が各制御パラメータの最適値となる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−40929号公報
【特許文献2】特開2007−9808号公報
【特許文献3】特開昭63−170563号公報
【特許文献4】特開2004−68729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の手法によれば、エンジンの運転領域の各格子点毎に、各制御パラメータの最適値を求めることができる。エンジンの回転数および負荷が一定な定常運転状態にある場合には、各制御パラメータをその格子点に対応する最適値(格子点間にあるときには、格子点の最適値を補間した値)に制御することにより、各種の制約条件を満足し、燃料消費が最少となるような最適な運転状態を実現することができる。
【0007】
しかしながら、自動車用エンジンでは、回転数および負荷が変化する過渡運転状態が多用される。過渡運転状態においては、一部の制御デバイスに応答遅れが生ずる。すなわち、例えば点火時期のような制御パラメータは、瞬時に変更することが可能である。これに対し、例えば可変バルブタイミング機構におけるバルブタイミングは、油圧アクチュエータ等の作動によって変更されるので、瞬時に変更することはできない。このため、加速時や減速時には、可変バルブタイミング機構の応答遅れが生じ易い。
【0008】
バルブタイミングが変化すると、適正な点火時期も変化する。よって、可変バルブタイミング機構の応答遅れが生ずると、点火時期との組み合わせが不適切となり易い。すなわち、点火時期が過進角または過遅角となり、トルク変動が悪化し易い。また、中負荷域では、トランジェントノックが懸念される。
【0009】
上記のような過渡運転時における可変バルブタイミング機構の応答遅れに起因するエンジン特性の悪化を防止するため、実際の適合においては、定常運転時の最適バルブタイミングと比べて変化量を一律に小さく修正したバルブタイミングを適合値としている。その結果、バルブタイミング可変による燃費向上効果を十分に引き出せていないという問題がある。
【0010】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、応答遅れの生ずる制御デバイスを有するエンジンにおいて、過渡時のエンジン特性を悪化させることがなく、且つ、燃費性能を十分に向上することができるエンジン制御パラメータの適合方法および適合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する方法であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得ステップと、
前記エンジン特性データに基づいて、前記エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める応答曲面関数取得ステップと、
前記エンジンの負荷および/または回転数の変化に伴って前記応答遅れパラメータに応答遅れが生じることを想定した場合に所定のエンジン特性値が所定の制約条件を満足するように、前記エンジン制御パラメータの適合値を前記応答曲面関数を用いて求める適合値取得ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記適合値取得ステップは、
前記応答曲面関数を用いて、定常運転時における前記エンジン制御パラメータの最適値である定常最適値を求めるステップと、
前記エンジン制御パラメータの要求値を前記定常最適値として前記エンジンの負荷および/または回転数を変化させた場合における、前記応答遅れパラメータの変動領域を求めるステップと、
前記応答遅れパラメータが前記変動領域内で変動した場合に、前記制約条件が満足されるか否かを判断するステップと、
前記制約条件が満足されないと判断された場合に、前記応答遅れパラメータの定常最適値を補正することにより、前記応答遅れパラメータの適合値を求めるステップと、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記エンジン制御パラメータには、前記応答遅れパラメータより応答性の良い即応パラメータが含まれ、
前記適合値取得ステップは、前記応答遅れパラメータの適合値が求められた後、燃費が最良となるように前記即応パラメータを最適化するステップを含むことを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記エンジン制御パラメータには、前記応答遅れパラメータより応答性の良い即応パラメータが含まれ、
前記適合値取得ステップは、エンジン運転状態が前記応答遅れパラメータの応答遅れを伴って所定のA点とB点との間を相互に移行する場合に前記制約条件が満足されるように、前記A点および前記B点における前記応答遅れパラメータおよび前記即応パラメータの適合値を求めるステップを含むことを特徴とする。
【0015】
また、第5の発明は、第1の発明において、
前記適合値取得ステップは、前記所定のエンジン特性値の応答曲面関数に、前記応答遅れパラメータの応答遅れによる増分を加算した予測式を用いて、前記応答遅れパラメータの適合値を求めるステップを含むことを特徴とする。
【0016】
また、第6の発明は、第1の発明において、
前記適合値取得ステップは、
前記エンジン制御パラメータとエンジン回転数とエンジン負荷とを説明変数とし、前記所定のエンジン特性値を目的変数とする高次応答曲面関数を求めるステップと、
前記高次応答曲面関数をエンジン負荷で偏微分した式の値が最小となるように、前記エンジン制御パラメータの適合値を求めるステップと、
を含むことを特徴とする。
【0017】
また、第7の発明は、応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する方法であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得ステップと、
前記エンジン特性データに基づいて、複数のエンジン特性値につき、前記エンジン制御パラメータを説明変数とし各エンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める応答曲面関数取得ステップと、
前記複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、前記エンジン制御パラメータの適合値を求める適合値取得ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0018】
また、第8の発明は、応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する装置であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得手段と、
前記エンジン特性データに基づいて、前記エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める応答曲面関数取得手段と、
前記エンジンの負荷および/または回転数の変化に伴って前記応答遅れパラメータに応答遅れが生じることを想定した場合に所定のエンジン特性値が所定の制約条件を満足するように、前記エンジン制御パラメータの適合値を前記応答曲面関数を用いて求める適合値取得手段と、
を備えることを特徴とする。
【0019】
また、第9の発明は、応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する装置であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得手段と、
前記エンジン特性データに基づいて、複数のエンジン特性値につき、前記エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする複数の応答曲面関数を求める応答曲面関数取得手段と、
前記複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、前記エンジン制御パラメータの適合値を求める適合値取得手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明によれば、過渡運転時における応答遅れパラメータの応答遅れを考慮した上で、所定のエンジン特性値が制約条件を満足するように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。これにより、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、エンジン制御パラメータを適合することができる。
【0021】
第2の発明によれば、過渡運転時の制約条件が満足されるように、エンジン制御パラメータの定常最適値を必要に応じて補正することにより、適合値を算出することができる。これにより、過渡運転時の制約条件を満足できる範囲内で、且つ定常最適値になるべく近い値に、エンジン制御パラメータの適合値を設定することができる。このため、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することをより確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十二分に改善することができる。
【0022】
第3の発明によれば、応答遅れパラメータの適合値を求めた後、燃費が最良となるように即応パラメータを最適化することができる。これにより、過渡運転時の特性悪化を確実に抑制しつつ、燃費を最大限に改善することができる。
【0023】
第4の発明によれば、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、応答遅れパラメータおよび即応パラメータの適合値を算出することができる。
【0024】
第5の発明によれば、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。また、適合値の算出が容易であり、処理時間が短縮でき、システム化も容易である。
【0025】
第6の発明によれば、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。
【0026】
第7の発明によれば、複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、エンジン制御パラメータの適合値を求めることができる。これにより、エンジン特性値に対して単純に制約値を当てはめて適合値を求める場合と比べて、複数のエンジン特性値をバランス良く考慮することができる。このため、優れたロバスト性が得られる。よって、過渡運転時にドライバビリティの特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。
【0027】
第8の発明によれば、過渡運転時における応答遅れパラメータの応答遅れを考慮した上で、所定のエンジン特性値が制約条件を満足するように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。これにより、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、エンジン制御パラメータを適合することができる。
【0028】
第9の発明によれば、複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、エンジン制御パラメータの適合値を求めることができる。これにより、エンジン特性値に対して単純に制約値を当てはめて適合値を求める場合と比べて、複数のエンジン特性値をバランス良く考慮することができる。このため、優れたロバスト性が得られるので、過渡運転時にドライバビリティ等の特性が悪化することを確実に抑制し、且つ、燃費等の特性を十分に改善できるように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1のエンジン制御パラメータの適合装置の構成を示す図である。図1に示すように、エンジン10は、シリンダ11と、ピストン12と、シリンダ11およびピストン12によって区画形成される燃焼室13の上方に配置され、燃料を直接噴射するインジェクタ14と、燃焼室13内の混合気に点火するための点火プラグ15とを備えている。本実施形態では、点火プラグ15による点火時期を符号STで表す。なお、本発明では、図示の構成と異なり、インジェクタ14が吸気ポート内に燃料を噴射するように設けられていてもよい。
【0030】
燃焼室13には吸気通路16から空気が吸入され、これに燃料が噴射され混合気になる。点火により混合気が燃焼した燃焼ガスは、排気として燃焼室13から排気通路17へ排出される。吸気通路16からの空気の吸入および排気通路17への排気の排出の各タイミングは、それぞれ吸気弁18および排気弁19の開弁タイミングによって設定される。図1に示されるエンジン10の場合、吸気弁18のバルブタイミングは、可変バルブタイミング機構20によって連続可変的に設定される。本実施形態では、可変バルブタイミング機構20の制御パラメータ(例えば進角量)を符号VVTで表す。なお、図示を省略するが、エンジン10には、排気弁19のバルブタイミングを可変とする機構が更に設けられていてもよい。
【0031】
一方、エンジン10の燃焼室13に取り込まれる空気量は、吸気通路16の途中に設けられた電子制御スロットル21によって調節される。また、エンジン10においては、排気通路17へ排出された排気ガスの一部をEGR通路22を介して吸気通路16に戻す、EGR(Exhaust Gas Recirculation)を実行可能になっている。そして、この戻される排気量、すなわちEGR量は、EGR弁23の開弁量によって調節される。
【0032】
こうしたエンジン10の制御は、ECU30によって行われる。また、このECU30には、水温センサ26やエンジン10のクランク軸24近傍に設けられたクランク角センサ25等、エンジンの運転状態を計測する各種センサからの情報が計測情報として入力される。
【0033】
本実施形態の適合装置は、エンジン10の各種制御パラメータを適切な値に設定する制御マップの各適合値を算出する。本実施形態の適合装置は、エンジン10のクランク軸24と連結されるダイナモメータ31と、ダイナモメータ31を操作するダイナモ操作盤32と、ダイナモメータ31を所定の条件に制御すべくダイナモ操作盤32に指令を送る自動計測装置33とを備える。
【0034】
ここで、ダイナモメータ31は、エンジン10のクランク軸24の発生するトルクを吸収する。これにより、エンジン10を擬似的に車両に搭載した負荷状態にして各種試験を行うことができる。そして、ダイナモメータ31の吸収するトルクは、自動計測装置33からの指令にしたがって、ダイナモ操作盤32が操作されることで制御される。
【0035】
本実施形態の適合装置は、更に、ECU30と自動計測装置33との間でデータのやりとりを仲介するパネルチェッカー34を備える。そして、自動計測装置33では、パネルチェッカー34を介して、ECU30内に保持されるエンジン10の計測情報を取得する。
【0036】
エンジン10が実際に車両に搭載されるときには、各種センサ等からECU30に入力される計測情報に基づきその運転状態が制御される。これに対し、ダイナモメータ31を用いて擬似的に車両に搭載された状態を作り出す場合には、運転者の意志を反映したアクセルペダルの踏み込み量等のデータがECU30に供給されない。
【0037】
そこで、自動計測装置33は、エンジン10の計測情報を参照してエンジン10の状態をモニタしつつ、パネルチェッカー34を介してアクセルペダルの踏み込み量に相当するデータ等をECU30に供給する。このようにして、自動計測装置33は、エンジン10を所望の運転状態に制御する。
【0038】
一方、ECU30内には、エンジン10の制御情報として、エンジン10に類似する機種のエンジンの制御マップ等、エンジン10を大まかに制御することのできる制御マップが記憶されている。
【0039】
自動計測装置33によるエンジン10やダイナモメータ31を制御する指令は、大きくは自動計測装置33内の条件ファイルに基づいて設定される。この条件ファイルには、基本的には、計測を所望するエンジン10の各運転状態(回転数および負荷)毎に、その制御パラメータ(点火時期ST、燃料噴射量、バルブタイミングVVT、EGR率、燃料噴射タイミング、燃料圧力等)が書込まれている。そして、この各運転状態毎にエンジン10が固定制御されてそのときのエンジン10の出力が計測器35によって計測される。なお、この条件ファイル内に設定される各条件は、条件設定ツール53によって設定される。
【0040】
条件ファイルに設定された各運転状態にエンジン10の運転状態を制御するために、自動計測装置33は、パネルチェッカー34を介してECU30にアクセルペダルの踏み込み量に相当するデータ等を供給する。
【0041】
そして、エンジン10がこの条件ファイルを通じて設定された運転状態に制御されると、自動計測装置33では、パネルチェッカー34を介してECU30内のメモリあるいはレジスタ等にマニュアルフラグをセットする。このマニュアルフラグは、上記制御マップによるエンジン10の制御を禁止するフラグである。
【0042】
エンジン10が上記条件ファイルを通じて設定された運転状態となると、自動計測装置33では、このフラグをセットするとともに、エンジン10の制御パラメータを同条件ファイル内に設定された値に固定制御する。
【0043】
こうして上記条件ファイルに設定されたエンジン運転条件にもとづいて制御パラメータが所定の制御値に固定制御された状態で、燃料消費率BSFCや排気中のNOx濃度、出力トルクの変動量TF等、エンジン10の各特性値が計測器35により計測される。
【0044】
詳しくは、この計測器35は、エンジン10に供給される燃料量を計測する燃費計と、エンジン10の排気通路17から排出されるガス成分中のNOx濃度等を分析する分析計と、エンジン10およびダイナモメータ31間に設置されたトルクメータと、トルクメータの値を計算処理するトルク変動計とを含む。
【0045】
そして、燃料消費率BSFCに関しては、燃費計による計測値が、自動計測装置33内で計算処理される。また、NOx濃度は、分析計で算出された濃度が計測値として用いられ、自動計測装置33によって計算処理される。更に、トルク変動TFは、トルク変動計の値として計測され、自動計測装置33で計算処理される。これら自動計測装置33内で計算処理されたデータが計測データとなる。
【0046】
この適合装置は、更に、計測データを上記各条件ファイル毎に保持するサーバ40と、サーバ40に保持された計測データを各条件ファイルの情報とともに解析する解析ツール50と、解析ツール50による解析結果を表示する表示器51と、解析結果の一部を記憶保持するデータベース52と、これら解析ツール50や条件設定ツール53等を操作するための操作部60とを備える。
【0047】
[実施の形態1における具体的処理]
図2は、上述した適合装置によって実行される、本実施形態のエンジン制御パラメータの適合方法のフローチャートである。本実施形態では、エンジン10の回転数と負荷とで定まる2次元の運転領域を格子状に分割し、その各格子点(例えば120点)におけるエンジン制御パラメータの適合値を算出する。
【0048】
エンジン10の可変バルブタイミング機構20は、油圧アクチュエータあるいは電気モータを備えており、その油圧アクチュエータあるいは電気モータを作動させることにより、バルブタイミングVVTを変化させる。よって、バルブタイミングVVTを変更するには、ある程度の時間がかかる。このため、バルブタイミングVVTの要求値(目標値)が時間とともに変化する過渡運転時においては、可変バルブタイミング機構20の応答遅れが生じ易い。以下に説明するように、本実施形態の適合方法によれば、可変バルブタイミング機構20の応答遅れが生じた場合であっても、トルク変動等の特性が悪化することを確実に防止するとともに、バルブタイミングVVTの可変による燃費改善効果を十分に引き出すことができるように、エンジン制御パラメータの適合値を算出することができる。
【0049】
図2に示すように、本実施形態の適合方法では、まず、実験計画法等の手法によって設定された実験計画に従ってエンジン10の定常運転試験が行われ、この試験において計測されたエンジン特性データに基づいて、特性予測式(応答曲面関数)が算出される(ステップ100)。
【0050】
すなわち、このステップ100では、まず、各格子点毎に、エンジン制御パラメータの値をいくつか設定して、各種のエンジン特性値を計測する。そして、それらの計測結果に基づいて、各格子点毎に、各制御パラメータを説明変数とし、各エンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める。
【0051】
本実施形態では、上記計測する各特性値は、燃料消費率BSFC、トルク変動TF、排気ガス温度、NOx排出量、排気ガスセンサ温度等である。また、上記エンジン制御パラメータには、点火時期STと、バルブタイミングVVTとが含まれる。
【0052】
上記応答曲面関数のモデル式は、例えば、定数項、各制御パラメータの1次項、2次項、および2つの制御パラメータの交互作用項の足し合わせによって表すことができる。例えば、トルク変動TFについては、次のような式で表される。
TF=β0+β1×VVT+β2×ST+β3×VVT2+β4×ST2+β5×VVT×ST
【0053】
上記式中の各係数β0〜β5は、上記定常運転試験で計測されたトルク変動データを基に重回帰分析を行うことにより、決定される。これにより、トルク変動TFの応答曲面関数が求められる。同様にして、他のエンジン特性値についても、応答曲面関数を求めることができる。
【0054】
上記ステップ100の処理に続いて、エンジン10の定常運転時における各制御パラメータ(点火時期STとバルブタイミングVVT)の最適値(以下「定常最適値」と称する)が各格子点毎に算出される(ステップ102)。本実施形態では、このステップ102において、トルク変動TF、排気ガス温度、NOx排出量、排気ガスセンサ温度がそれぞれ所定の制約条件を満足する範囲において、燃料消費率BSFCが最小となる各制御パラメータの組み合わせが、定常最適値として算出される。この際の最適化手法としては、例えば最急降下法、焼きなまし法、遺伝的アルゴリズムなどを用いることができる。
【0055】
なお、上述したステップ100および102の処理については、例えば特開2004−68729号公報、特開2005−42656号公報、特開2006−17698号公報等に記載されており、公知であるので、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0056】
また、図2に示すルーチンによれば、上記ステップ100の処理に続いて、可変バルブタイミング機構20の応答遅れが影響する運転領域における特性予測式(応答曲面関数)が十分な数だけ取得されているか否かが判別される(ステップ104)。そして、特性予測式が十分でないと判別された場合には、追加実験等を行うことによって必要な実験データが確保され(ステップ106)、その追加の実験データに基づいて、特性予測式が補充される。
【0057】
上記の処理に続いて、可変バルブタイミング機構20の応答遅れ特性に基づいて、エンジン10の負荷方向および回転数方向の変動領域が設定される(ステップ108)。図3は、負荷方向の変動領域を設定する手法の一例を説明するための図である。図3に示す例では、負荷率が50%から30%に変化するようにスロットル開度を縮小させた場合を示している。吸入空気量は、スロットル開度の変化に対し、遅れをもって追従する。この吸入空気量(負荷率)の変化に伴い、バルブタイミングVVTの要求値(目標値)が変化する。ここでのVVT要求値は、暫定的に、上記ステップ102で算出された定常最適値としている。実際のバルブタイミングVVTは、VVT要求値の変化に対し、遅れをもって追従する。図3中のΔVVTは、実VVTとVVT要求値との差である。図3に示す例において、ΔVVTは、0〜9の範囲で変動している。よって、この例において、VVTの変動領域(変動範囲)は、0〜9と設定される。
【0058】
図3では、エンジン10の負荷が変化した場合のVVTの変動領域の設定方法について説明したが、エンジン10の回転数が変化した場合のVVTの変動領域についても、同様に設定することができる。
【0059】
上記ステップ108の処理に続いて、実VVTが上記変動領域内で変動した場合に、トルク変動TFが過渡時の制約値以下となるようなVVTの適合値を求める(ステップ110)。図4は、上記ステップ110の処理の具体例を説明するための図である。図4において、下段のグラフは軽負荷時のトルク変動TFの応答曲面関数であり、中段のグラフは中負荷時のトルク変動TFの応答曲面関数であり、上段のグラフは燃料消費率BSFCの応答曲面関数である。また、横軸は点火時期STである。
【0060】
図4の各段のグラフには、応答曲面関数が、異なる3つのVVT値での断面として描かれている。軽負荷時のトルク変動TFのグラフ(下段のグラフ)において、最も左側の曲線は、VVT値が軽負荷時の定常最適値である場合の応答曲面関数である。この曲線上でトルク変動TFが定常時の制約値以下となり、且つ、燃料消費率BSFCが最小となる点火時期STは、図中の二重丸で示す点となる。よって、この点が軽負荷時の定常最適点火時期となる。
【0061】
一方、中負荷時のトルク変動TFのグラフ(中段のグラフ)において、最も右側の曲線は、VVT値が中負荷時の定常最適値である場合の応答曲面関数である。この曲線上でトルク変動TFが定常時の制約値以下となり、且つ、燃料消費率BSFCが最小となる点火時期STは、図中の黒丸で示す点となる。よって、この点が中負荷時の定常最適点火時期となる。
【0062】
次に、上記二重丸で示す軽負荷時の定常最適点でエンジン10が定常運転されている状態から、加速を行い、中負荷域へ移行する過渡の場合について説明する。この場合には、上記ステップ110で設定されたVVTの変動領域(応答遅れ)を考慮すると、エンジン10の動作点は、上記二重丸から図中の矢印に示すように中段のグラフの一重丸へと移行する。この一重丸の点におけるトルク変動TFは、過渡時の制約値以下となっている。従って、この例においては、軽負荷時におけるバルブタイミングVVTおよび点火時期STの適合値を、上記二重丸で示す定常最適点とした場合であっても、過渡時に問題は生じないと判断できる。
【0063】
これに対し、上記黒丸で示す中負荷時の定常最適点でエンジン10が定常運転されている状態から、減速を行い、軽負荷域へ移行する過渡の場合には、次のようになる。上記ステップ110で設定されたVVTの変動領域(応答遅れ)を考慮すると、エンジン10の動作点は、図4に示すように、上記黒丸から図中の矢印に示すように移行する。この移行先の曲線(下段のグラフの最も右側の曲線)上では、点火時期STをどのように制御しても、トルク変動TFを過渡時の制約値以下とすることができない。従って、この場合には、中負荷時におけるバルブタイミングVVTおよび点火時期STの適合値を、上記黒丸で示す定常最適点とすると、減速時に軽負荷域でトルク変動TFが制約値(許容値)を超えてしまうと判断できる。
【0064】
本実施形態では、上記のような場合、すなわち過渡時にトルク変動TFが制約値を超えてしまうと判断される場合には、可変バルブタイミング機構20の作動範囲が小さくなる方向にVVT要求値を修正した上で、図3と同様の手順により、VVTの変動領域を再度算出する。すなわち、VVTの変動領域が小さくなるように、VVT要求値を設定し直す。そして、その修正後のVVT変動領域の場合に、過渡時のトルク変動TFが制約値以下となるか否かを確認する。
【0065】
図4に示す例に帰って説明すると、中段のグラフの破線の曲線は、中負荷時のVVT要求値を修正した場合のトルク変動TFの応答曲面関数である。この修正後のVVT値でエンジン10が中負荷定常運転されている状態から減速を行って軽負荷域へ移行する過渡の場合に、エンジン10の動作点は、中段のグラフの二重丸から図中の矢印に示すように移行する。すなわち、この場合のトルク変動TFは、上記修正後のVVT変動領域を考慮すると、下段のグラフの破線の曲線で表される。よって、この破線の曲線上の一重丸で示す点火時期STに制御すれば、トルク変動TFを過渡時の制約値以下とすることができることが分かる。従って、中負荷時においては、上記修正後のVVT要求値をバルブタイミングVVTの適合値とすることにより、過渡時のトルク変動TFを制約値以下に確実に抑えることができる。
【0066】
なお、修正後のVVT要求値においても過渡時のトルク変動TFが制約値以下とならない場合には、VVT要求値を再度修正して同様の手順を繰り返せばよい。上記ステップ110においては、以上のような手順を、対象とする運転領域をずらしながら繰り返し行うことにより、全運転領域においてバルブタイミングVVTの適合値を求める。
【0067】
図2に示すルーチンによれば、上記ステップ110において全運転領域(各格子点)におけるVVT適合値が決定されると、次に、そのVVT適合値の下で燃料消費率BSFCが最小となるように、点火時期STの適合値が各格子点毎に決定される(ステップ112)。これにより、エンジン10の燃費性能を更に改善することができる。
【0068】
図5は、上記ステップ110において求められたVVT適合値を示すマップである。図5に示すように、本実施形態によれば、VVTの適合値を設定するに当たって、各領域毎に、過渡時のトルク変動TFを制約値以下に抑えることができる範囲内で、且つ定常最適値になるべく近い値に、VVTの適合値を設定することができる。すなわち、過渡時のトルク変動TFを制約値以下に確実に抑制し、且つ、可変バルブタイミング機構20による燃費改善効果が最大限に得られるように、VVTの適合値を設定することができる。よって、ドライバビリティと燃費性能の双方を共に改善することができる。
【0069】
更に、本実施形態によれば、上述したような処理を図1に示す適合装置において実行することにより、各格子点における制御パラメータの適合値を自動的に算出することができる。このため、エンジン開発効率を著しく向上することができる。
【0070】
上述した実施の形態1においては、トルク変動TFが前記第1および第8の発明における「所定のエンジン特性値」に、バルブタイミングVVTが前記第1および第8の発明における「応答遅れパラメータ」に、点火時期STが前記第3の発明における「即応パラメータ」に、上記ステップ100が前記第1の発明における「データ取得ステップ」および「応答曲面関数取得ステップ」に、上記ステップ102,108および110が前記第1の発明における「適合値取得ステップ」に、それぞれ相当している。また、上記適合装置が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第8の発明における「データ取得手段」および「応答曲面関数取得手段」が、上記ステップ102,108および110の処理を実行することにより前記第8の発明における「適合値取得手段」が、それぞれ実現されている。
【0071】
なお、本実施形態では、過渡時における可変バルブタイミング機構20の応答遅れに対処する場合を中心に説明したが、本発明は、他の各種の制御デバイス(例えば、排気弁19の可変バルブタイミング機構、外部EGR装置など)の応答遅れに対処する場合にも同様に適用可能である。
【0072】
実施の形態2.
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。本実施形態は、実施の形態1と同様の図1に示すシステムを用いて実現することができる。
【0073】
本実施形態では、エンジン10の加減速時に、エンジン10の動作点がA点とB点との間を相互に移行するとした場合に、点火時期STは移行先の制御値に変更されるが、バルブタイミングVVTは応答遅れのために元の動作点の制御値のままとなっているような場合であっても、トルク変動が制約値を超えないように、バルブタイミングVVTおよび点火時期STの適合値を算出する。
【0074】
以下、本実施形態におけるバルブタイミングVVTおよび点火時期STの適合値の算出方法について、図6の例に基づき、具体的に説明する。図6は、前述した実施の形態1の図4とほぼ同様の図である。図6中、Aは、VVTが軽負荷時の適合値に制御されている場合のトルク変動TFの応答曲面関数である。ここで、中負荷域への加速時に、VVTが軽負荷時の適合値のままとなっている場合を想定する。この場合、トルク変動TFの応答曲面関数は、中段のグラフのBで示す曲線となる。この曲線B上でトルク変動TFが過渡時の制約値以下となる点は、図中のCである。そこで、中負荷時の点火時期STの適合値を図中のDと決定する。
【0075】
次に、中負荷時において点火時期STが上記D点である場合に燃料消費率BSFCが少なくなるようにバルブタイミングVVTを算出する。点火時期STがD点であるときに燃料消費率BSFCの小さくなる応答曲面関数は、上段のグラフのEで示す曲線で表される。よって、このときのVVT値を中負荷時のVVT適合値に決定する。中段のグラフのFで示す曲線は、そのVVT適合値の場合のトルク変動TFの応答曲面関数である。すなわち、図中のG点が中負荷時の点火時期STおよびバルブタイミングVVTの適合値となる。
【0076】
次に、上記G点から、軽負荷域へ減速する場合を考える。この場合、VVTが中負荷時の適合値のままとなっているとすると、トルク変動TFの応答曲面関数は、下段のグラフのHで示す曲線となる。この曲線H上でトルク変動TFが過渡時の制約値以下となる点は、図中のIである。そこで、軽負荷時の点火時期STの適合値を図中のJ点と決定する。
【0077】
本実施形態では、上述したような手順を軽負荷域から高負荷域まで順に実施することにより、バルブタイミングVVTおよび点火時期STの適合値を算出する。これにより、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0078】
なお、上述した実施の形態2では、点火時期STが前記第4の発明における「即応パラメータ」に相当している。
【0079】
実施の形態3.
次に、図7を参照して、本発明の実施の形態3について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。本実施形態は、実施の形態1と同様の図1に示すシステムを用いて実現することができる。
【0080】
本実施形態では、バルブタイミングVVTの適合値を算出するに当たり、トルク変動TFの応答曲面関数に、VVTの応答遅れによる増分を加算した予測式を求める。そして、その予測式により算出される過渡時のトルク変動TFが制約値以下となるように、VVTの適合値を算出する。
【0081】
ここでは、下記式のように、トルク変動TFの応答曲面関数を関数fで表す。
TF=f(VVT,ST)
【0082】
過渡時のトルク変動をTF’とし、VVT遅れ量を例えば5度とすると、過渡時のトルク変動TF’の予測式は、下記式で表される。
TF’=f(VVT,ST)+|{∂f/∂VVT}×5deg|
【0083】
以上の関係を図示すると、図7のようになる。そして、本実施形態では、過渡時のトルク変動TF’が制約値以下となるような点(図7中のA)を、VVTの適合値に決定する。
【0084】
以上説明した本実施形態の適合方法によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、トルク変動TFの応答曲面関数fは、VVTとSTの関数として既に求めてあるので、これをVVTで偏微分した項は容易に求めることができる。このため、適合値の算出が容易であり、処理時間が短縮でき、システム化も容易である。更に、排気弁19の可変バルブタイミング機構やEGR装置等の、他の応答遅れデバイスも考慮する必要がある場合には、それらの制御パラメータで応答曲面関数fを偏微分した項を上記予測式に更に加算すればよく、システムの拡張性にも優れる。
【0085】
実施の形態4.
次に、図8を参照して、本発明の実施の形態4について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。本実施形態は、実施の形態1と同様の図1に示すシステムを用いて実現することができる。
【0086】
前述した実施の形態では、バルブタイミングVVTおよび点火時期STをパラメータとして、トルク変動TFの応答曲面関数を表している。これに対し、本実施形態では、エンジン10の回転数(符号NEで表す)と負荷(符号KLで表す)もパラメータに加えた高次応答曲面関数としてトルク変動TFを表す。すなわち、下記式を算出する。
TF=α0+α1×VVT+α2×ST+α3×NE+α4×KL+α5×VVT2
+α6×ST2+α7×NE2+α8×KL2+α9×VVT×ST+・・・
+αp×VVT×KL++αq×ST×KL+αx×NE×KL
【0087】
上記の高次応答曲面関数を負荷KLで偏微分すると、次式が得られる。
∂TF/∂KL=α4×KL+2×α8×KL+αp×VVT+αq×ST+αx×NE
【0088】
一般に、各制御パラメータの変化に対するトルク変動TFの変化が大きい場合ほど、ドライバビリティは悪化し易い。このため、過渡時のドライバビリティを改善するには、各制御パラメータの変化に対するトルク変動TFの変化をなるべく小さくすることが好ましい。そこで、本実施形態では、対象とする領域で各制御パラメータを規準化したときの係数が大きいもので上記∂TF/∂KLの値が最小となるように、制御パラメータの適合値を算出することとした。
【0089】
ここで、制御パラメータの規準化とは、例えば、VVTを0から30に変化させる領域と、エンジン回転数NEを1000rpmから2000rpmに変化させる領域との比較が可能となるように、何れのパラメータも−1から1に変化し、平均値が0、変化分が1となるように無次元化することを言う。
【0090】
以下、図8に示す例について説明する。図8に示す例では、エンジン回転数NEの変化に対するトルク変動TFの変化割合は、常に一定である。このため、NEについての偏微分係数は小さい。これに対し、点火時期STの変化に対するトルク変動TFの変化割合は、マイナスからプラスへと大きく変化している。そこで、この例においては、点火時期STの変化によるトルク変動TFの変化を抑制するべく、点火時期STの変化に対するトルク変動TFの変化がゼロとなるST=−0.5の点を適合値に決定する。
【0091】
上記のようにして点火時期STの適合値が算出された場合には、次に、上記∂TF/∂KLの値が最小となるように、VVTの適合値を算出する。このような本実施形態の適合方法によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0092】
実施の形態5.
次に、図9および図10を参照して、本発明の実施の形態5について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。本実施形態は、実施の形態1と同様の図1に示すシステムを用いて実現することができる。
【0093】
本実施形態は、複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、エンジン制御パラメータの適合値を求めることを特徴とする。
【0094】
ところで、図1に示すエンジン10は、前述したように、排気通路17へ排出された排気ガスの一部をEGR通路22を介して吸気通路16に戻す、いわゆる外部EGRを実行可能になっている。このEGRの制御パラメータ(以下、EGR率とする)は、EGR弁23の開弁量等によって調節される。しかしながら、EGRガスは、EGR通路22や吸気通路16を通って燃焼室13内に還流するので、輸送遅れが生ずる。このため、過渡運転時には、EGRの応答遅れが生じ易い。
【0095】
本実施形態は、可変バルブタイミング機構20の応答遅れのほかに、上記のような外部EGRの応答遅れも考慮する場合に、特に好適に適用することができる。
【0096】
以下、本実施形態のエンジン制御パラメータの適合方法について説明する前に、理解を容易にするため、比較例の適合方法について、図9を参照して説明する。図9には、トルク変動TFと燃料消費率BSFCの各々の応答曲面関数が示されている。図9においては、制御パラメータの増大に伴い、トルク変動TFは単調に増加し、燃料消費率BSFCは単調に減少している。すなわち、この例においては、トルク変動TFの観点からは制御パラメータが小さいことが好ましく、一方、燃料消費率BSFCの観点からは制御パラメータが大きいことが好ましいこととなる。そこで、この場合には、トルク変動TFを、ある制約値以下に抑制することを制約条件としている。従って、トルク変動TFが制約値を超える領域(図9中の斜線部)は不可となり、それ以外の領域において燃料消費率BSFCが最小となる点が適合値として決定される。
【0097】
一方、図10は、本実施形態の適合方法を説明するための図である。図10には、燃料消費率BSFCの応答曲面関数のほかに、吸気温度上昇分Tairの応答曲面関数が示されている。図10において、制御パラメータ(例えばEGR率)の増大に伴い、燃料消費率BSFCは単調に減少し、吸気温度上昇分Tairは単調に増加している。吸気温度が高くなり過ぎると、ノッキングが起こり易くなる。このため、ノッキングを確実に防止するためには、吸気温度上昇分Tairがなるべく小さいことがよい。よって、この例においては、燃料消費率BSFCの観点からは制御パラメータが大きいことが好ましく、一方、吸気温度上昇分Tairの観点からは制御パラメータが小さいことが好ましいこととなる。
【0098】
上述した図10のような場合において、吸気温度上昇分Tairを、ある制約値(ノッキングが回避できる上限値)以下にすることを制約条件とすると、次のような懸念がある。前述したように、EGRには応答遅れが生ずる。そして、過渡時の応答遅れにより、制御パラメータが、適合値よりも大きな方向にずれた場合には、吸気温度上昇分Tairが制約値を超えてしまうことになり、ノッキングが起きるおそれが大きくなる。
【0099】
本実施形態では、上記のような懸念に対し、ロバスト性を高めてこれを確実に回避するため、次のようにして適合値を算出することとした。すなわち、燃料消費率BSFCの応答曲面関数と、吸気温度上昇分Tairの応答曲面関数とに、それぞれ重み係数(図10の例では、何れも0.5としている)を乗じた上でそれらを加算してなる評価関数Fancを作成する。そして、この評価関数Fancが最小となるときの制御パラメータ値を適合値として決定する。このような手法によれば、上記の各重み係数を適宜設定することにより、複数のエンジン特性値(ここでは燃料消費率BSFCと吸気温度上昇分Tair)をバランス良く考慮して、適合値を決定することができる。このため、過渡運転時のロバスト性を高めることができ、ドライバビリティと燃費の双方を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施の形態1のエンジン制御パラメータの適合装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図3】負荷方向の変動領域を設定する手法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1の適合方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1の適合方法により算出された適合値を示すマップである。
【図6】本発明の実施の形態2の適合方法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態3の適合方法を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態4の適合方法を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態5に対する比較例の適合方法を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態5の適合方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0101】
10 エンジン
11 シリンダ
12 ピストン
13 燃焼室
14 インジェクタ
15 点火プラグ
16 吸気通路
17 排気通路
18 吸気弁
19 排気弁
20 可変バルブタイミング機構
21 電子制御スロットル
22 EGR通路
23 EGR弁
24 クランク軸
25 クランク角センサ
26 水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する方法であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得ステップと、
前記エンジン特性データに基づいて、前記エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める応答曲面関数取得ステップと、
前記エンジンの負荷および/または回転数の変化に伴って前記応答遅れパラメータに応答遅れが生じることを想定した場合に所定のエンジン特性値が所定の制約条件を満足するように、前記エンジン制御パラメータの適合値を前記応答曲面関数を用いて求める適合値取得ステップと、
を備えることを特徴とするエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項2】
前記適合値取得ステップは、
前記応答曲面関数を用いて、定常運転時における前記エンジン制御パラメータの最適値である定常最適値を求めるステップと、
前記エンジン制御パラメータの要求値を前記定常最適値として前記エンジンの負荷および/または回転数を変化させた場合における、前記応答遅れパラメータの変動領域を求めるステップと、
前記応答遅れパラメータが前記変動領域内で変動した場合に、前記制約条件が満足されるか否かを判断するステップと、
前記制約条件が満足されないと判断された場合に、前記応答遅れパラメータの定常最適値を補正することにより、前記応答遅れパラメータの適合値を求めるステップと、
を含むことを特徴とするエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項3】
前記エンジン制御パラメータには、前記応答遅れパラメータより応答性の良い即応パラメータが含まれ、
前記適合値取得ステップは、前記応答遅れパラメータの適合値が求められた後、燃費が最良となるように前記即応パラメータを最適化するステップを含むことを特徴とする請求項2記載のエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項4】
前記エンジン制御パラメータには、前記応答遅れパラメータより応答性の良い即応パラメータが含まれ、
前記適合値取得ステップは、エンジン運転状態が前記応答遅れパラメータの応答遅れを伴って所定のA点とB点との間を相互に移行する場合に前記制約条件が満足されるように、前記A点および前記B点における前記応答遅れパラメータおよび前記即応パラメータの適合値を求めるステップを含むことを特徴とする請求項1記載のエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項5】
前記適合値取得ステップは、前記所定のエンジン特性値の応答曲面関数に、前記応答遅れパラメータの応答遅れによる増分を加算した予測式を用いて、前記応答遅れパラメータの適合値を求めるステップを含むことを特徴とする請求項1記載のエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項6】
前記適合値取得ステップは、
前記エンジン制御パラメータとエンジン回転数とエンジン負荷とを説明変数とし、前記所定のエンジン特性値を目的変数とする高次応答曲面関数を求めるステップと、
前記高次応答曲面関数をエンジン負荷で偏微分した式の値が最小となるように、前記エンジン制御パラメータの適合値を求めるステップと、
を含むことを特徴とする請求項1記載のエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項7】
応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する方法であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得ステップと、
前記エンジン特性データに基づいて、複数のエンジン特性値につき、前記エンジン制御パラメータを説明変数とし各エンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める応答曲面関数取得ステップと、
前記複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、前記エンジン制御パラメータの適合値を求める適合値取得ステップと、
を備えることを特徴とするエンジン制御パラメータの適合方法。
【請求項8】
応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する装置であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得手段と、
前記エンジン特性データに基づいて、前記エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする応答曲面関数を求める応答曲面関数取得手段と、
前記エンジンの負荷および/または回転数の変化に伴って前記応答遅れパラメータに応答遅れが生じることを想定した場合に所定のエンジン特性値が所定の制約条件を満足するように、前記エンジン制御パラメータの適合値を前記応答曲面関数を用いて求める適合値取得手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御パラメータの適合装置。
【請求項9】
応答遅れが生じ易い応答遅れパラメータを含む複数のエンジン制御パラメータを適合する装置であって、
エンジンを定常運転した場合のエンジン特性データを計測するデータ取得手段と、
前記エンジン特性データに基づいて、複数のエンジン特性値につき、前記エンジン制御パラメータを説明変数としエンジン特性値を目的変数とする複数の応答曲面関数を求める応答曲面関数取得手段と、
前記複数のエンジン特性値についての応答曲面関数の各々に重み係数を乗じて加算した評価関数を用いて、前記エンジン制御パラメータの適合値を求める適合値取得手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御パラメータの適合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−210426(P2009−210426A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53837(P2008−53837)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】