説明

エンジン動力伝達装置及びその方法

建設機械等のトルクコンバータに結合されたエンジンの発進加速時の加速性能を改善するためのエンジン動力伝達装置は、エンジン(1)とトルクコンバータ(2)との間に伝達トルク制御可能なクラッチ(10)と、エンジン回転数に応じてクラッチ(10)のトルク伝達率を制御するコントローラ(15)を備える。エンジン回転数が例えば1000rpm以下の低速回転域では、伝達トルクは、100%以下の範囲内で、エンジン回転数の上昇に伴い増大するように、可変制御される。1000rpmを越え高速回転域では、伝達トルクは100%に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や自動車やその他の作業機械などにおいてエンジンの動力をトルクコンバータに伝達するための装置及び方法に関し、特にエンジンの加速性能を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行駆動装置のクラッチの滑りを制御する装置に関して、例えば特許文献1に自動クラッチの滑りモード制御方法および装置が記載されている。
【0003】
この自動クラッチの滑りモード制御方法および装置によれば、エンジンと、クラッチと、変速機と、デファレンシャルとを有する大型トラックの駆動系統において、クラッチアクチュエータを制御するためのクラッチ作動信号を発生する自動クラッチコントローラが設けられる。自動クラッチコントローラは必要に応じてクラッチを滑らせ、変速機入力速度をエンジン速度に漸近的に接近させるようにして摩擦クラッチを連結させ、クラッチ連結時の駆動系のねじり振動の発生を防止する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−210092号公報(第5−8頁、第1図、第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した自動クラッチの滑りモード制御方法および装置では、スロットル開度が大きいほどクラッチの滑り値が小さくなるように、スロットル開度に応じてクラッチが操作される。しかし、例えばホイールローダのようなトルクコンバータを備えた作業機械においては、機械の発進加速又は重負荷作業開始のために、オペレータがアクセルペダルを踏み込んでエンジンを低速回転状態から急速に加速させようとした場合、トルクコンバータの吸収トルクに対するエンジンの出力トルクの余裕トルクが不足気味になり、エンジンの加速に時間がかかり、また、オペレータが違和感を覚えるという問題が生じることがある。
【0006】
従って、本発明の目的はトルクコンバータに結合されるエンジンの加速性能を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従うエンジン動力伝達装置は、スロットルによって制御されるエンジンと、エンジンの動力を負荷装置に伝達するトルクコンバータと、エンジンとトルクコンバータとの間に設けられた、伝達トルクが制御可能なクラッチと、スロットルを操作するスロットル操作装置と、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出器と、クラッチを操作してその伝達トルクを制御するクラッチ操作装置と、エンジン回転数検出器に応答して、エンジン回転数に応じてクラッチの伝達トルクを制御するようクラッチ操作装置に指示するコントローラとを備える。
【0008】
好適な実施形態では、低速回転域におけるトルク伝達率が、より高速な回転域におけるそれよりも小さくなるように、クラッチが操作される。そして、低速回転域では、エンジン回転数が上昇するのに伴いトルク伝達率が増大するように、クラッチ(10)が操作される。さらに、低速回転域より高速な回転域では、トルク伝達率が一定、例えば100%、になるように、クラッチが操作される。
【0009】
好適な実施形態では、スロットルの開度を検出するスロットル開度検出器が更に備えられる。そして、コントローラが、エンジン回転数検出器及びスロットル開度検出器に応答して、エンジン回転数及びスロットル開度に応じてクラッチの伝達トルクを制御するように、クラッチ操作装置に指示する。
【0010】
例えば、低速回転域におけるトルク伝達率が、より高速な回転域におけるそれよりも小さくなるように、クラッチが操作される。そして、低速回転域では、エンジン回転数が上昇するのに伴いトルク伝達率が増大し、且つ、スロットル開度が拡大するのに伴いトルク伝達率が減少するように、クラッチが操作される。さらに、スロットル開度が大きいほど前記低速回転域の上限回転数が上昇するように、低速回転域の上限回転数がスロットル開度に応じて制御される。
【0011】
本発明の別の観点に従う、トルク伝達率が制御可能なクラッチを通じてエンジンの動力をトルクコンバータに伝達する方法は、スロットルに応答してエンジンを制御するステップと、エンジン回転数に応じて伝達トルクを制御するようにクラッチを操作するステップとを有する。
【0012】
本発明によると、エンジンとトルクコンバータとの間に設けられたクラッチのトルク伝達率が、エンジン回転数に応じて制御されることにより、トルクコンバータに結合されるエンジンの加速性能が改善され得る。特に、低速回転域におけるトルク伝達率が、より高速な回転域におけるそれよりも小さくなるように、クラッチが操作されるようにすると、低速回転域におけるエンジンの加速性能が向上する。よって、エンジンの始動発進時などの加速性能が改善される。
【0013】
さらに、エンジン回転数だけでなくスロットル開度に応じてクラッチのトルク伝達率を制御するようにした場合には、オペレータによるスロットル操作に応じて、エンジンの加速性能の向上度合いを調節できる。特に、スロットル開度が拡大するのに伴いトルク伝達率が減少するように、クラッチが操作される場合には、スロットル操作が大きいほどエンジンの加速性能はより大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるエンジン動力伝達装置の構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態においてコントローラ15の記憶装置22に記憶されているトルク伝達率設定値を指示するためのマップ又は関数を説明する図。
【図3】同実施形態においてコントローラ15の演算処理装置21が行うトルク伝達率制御のための処理を示すフローチャート。
【図4】同実施形態におけるクラッチ操作装置13の比例制御電流とクラッチ10のトルク伝達率(縦軸)との関係を示す図。
【図5】エンジン1の出力トルク曲線とトルクコンバータ2の吸収トルク曲線を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるエンジン動力伝達装置の構成を示すブロック図。
【図7】同実施形態においてコントローラ15の記憶装置22に記憶されているトルク伝達率設定値を指示するためのマップ又は関数を説明する図。
【図8】同実施形態においてコントローラ15の演算処理装置21が行うトルク伝達率制御のための処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0015】
1…エンジン、2…トルクコンバータ、5…スロットル、6…スロットル操作装置、10…クラッチ、11…入力軸、12…出力軸、13…クラッチ操作装置、14…エンジン回転数検出器、15…コントローラ、16…スロットル開度検出器
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るエンジン動力伝達装置の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態にかかるエンジン動力伝達装置の構成を示すブロック図である。このエンジン動力伝達装置は、典型的には、ホイールローダのような建設機械に適用することができるが、それだけに限らず、トラックのような車両やその他の各種の作業機械に適用可能である。
【0018】
図1において、エンジン1とトルクコンバータ2との間には、伝達トルクが連続的に又は多段階で制御可能なクラッチ10が設けられえる。クラッチ10とエンジン1とは入力軸11により連結され、クラッチ10とトルクコンバータ2とは出力軸12により連結されている。トルクコンバータ2の出力側には変速機3が配置され、両者は伝導軸4により連結されている。
【0019】
エンジン1には燃料を制御するスロットル5が設けられ、スロットル5はスロットル操作装置6により操作され、それによりスロットル開度が制御される。スロットル操作装置6は、例えばオペレータによって操作されるアクセルペダル或いはアクセルレバー等を含み、アクセルペダル或いはアクセルレバー等の動きに応答して機械式、油圧式、空圧式あるいは電気式等のアクチュエータによってスロットル5を操作する。
【0020】
クラッチ10はクラッチ操作装置13により操作され、それによりクラッチ10の伝達トルクが制御される。クラッチ10は例えば油圧制御の多板式摩擦クラッチである。クラッチ操作装置13は、クラッチ10に供給される油圧を比例弁で制御することにより、クラッチ10の摩擦板の滑り量を0から最大まで、つまりクラッチ10のトルク伝達率を100%から0%まで、連続的に又は多段階で制御する。滑り量が0つまりトルク伝達率が100%のとき、出力軸12のトルクと入力軸11のトルクは等しいが、滑り量が0より大きいつまりトルク伝達率が100%未満のときは、出力軸12のトルクは入力軸11のトルクより、トルク伝達率が100%に足りない分だけ小さい。
【0021】
エンジン1にはエンジン回転数検出器14が設けられている。コントローラ15は、例えばプログラムされたコンピュータであり、マイクロプロセッサのような演算処理装置21と、RAM及びROMのような記憶装置22を備える。記憶装置22には、エンジン回転数に応じてクラッチ10のトルク伝達率をどのように制御するべきかという制御方法を演算処理装置21に指示するマップ又は関数が予め記憶されている。コントローラ15では、演算処理装置21が、エンジン回転数検出器14からエンジン回転数の検出値を入力し、記憶装置22に予め記憶されているマップ又は関数に従がい所定の演算をして、クラッチ操作装置13に指示信号を出力するようになっている。クラッチ操作装置13は、コントローラ15からの指示信号に従って、上記比例弁の電流を制御してクラッチ10のトルク伝達率を制御する。
【0022】
図2は、コントローラ15の記憶装置22に記憶されているトルク伝達率制御のためのマップ又は関数を説明する図である。
【0023】
図2において、縦軸はクラッチ10のトルク伝達率(出力軸12のトルク/入力軸11のトルク)〔%〕を示し、横軸はエンジン回転数〔rpm〕を示す。階段状の実線aは、上記マップ又は関数により演算処理装置21に指示される、一例としての、トルク伝達率設定値を示す。演算処理装置21は、クラッチ10のトルク伝達率を、エンジン回転数に応じて、実線aで示すトルク伝達率設定値に一致するように制御する。
【0024】
従って、クラッチ10のトルク伝達率は、実線aに示すトルク伝達率設定値に従って、エンジン回転数が750rpm(これは、例えばアイドリング回転数である)の時は50%にされ、エンジン回転数が800rpmの時は60%にされ、そして、エンジン回転数が1000rpmの時は100%にされる。図2に示すマップ又は関数では規定されてないが、エンジン回転数が1000rpmより大きい範囲(最大値は例えば約3000rpm)では、トルク伝達率は100%で一定に制御される。
【0025】
図2において、破線bはトルク伝達率設定値の他の例を示している。実線a、bに例示されたように、トルク伝達率設定値は、エンジン1やトルクコンバータ11やその他の機械の仕様や用途、或いは、その時の状態などの条件に応じて任意に設定されてよい。
【0026】
このように、アイドリング回転数を含む低速回転域(例えば、実線aの場合の750〜1000rpm)では、エンジン回転数の上昇に伴ってトルク伝達率が一定値(例えば100%)以下の範囲で増大するように制御される。そして、低速回転域より高い回転域(例えば、実線aの場合の1000rpm〜最大回転数(約3000rpm))では、トルク伝達率は上記一定値(例えば100%)で一定に制御される。
【0027】
図3は、コントローラ15の演算処理装置21が行うトルク伝達率制御のための処理の流れを示す。
【0028】
演算処理装置21は、エンジン1が作動している間、トルク伝達率制御が実質的に常時継続して行われているとみなせる程度の短い時間間隔で繰り返し、図3に示すルーチンを実行する。図3のルーチンが開始されると、演算処理装置21は、ステップS1で、エンジン回転数検出器14から現在のエンジン回転数の検出値を入力し、ステップS2で、現現在のエンジン回転数が、上述した低速回転域の最大回転数、例えば1000rpm以下かどうか(つまり、低速回転域に入っているかどうか)をチェックする。その結果、現在のエンジン回転数が低速回転域に入っていると判断されると、演算処理装置21は、ステップS3で、記憶装置22内のマップ又は関数に基づいて、そのエンジン回転数に対応するトルク伝達率設定値を決定する。また、ステップS2で現在のエンジン回転数が低速回転域より高い回転域にあると判断された場合には、演算処理装置21は、ステップS4で、トルク伝達率設定値を100%と決定する。その後、ステップS4で、演算処理装置21は、決定されたトルク伝達率設定値を指示する指示信号をクラッチ操作装置13に送る。クラッチ操作装置13は、その指示信号に応答して、クラッチ10を油圧で操作するための比例制御電流を制御する。図4に示すように、クラッチ10のトルク伝達率(縦軸)は、上記比例制御電流にほぼ比例するようになっている。結果として、クラッチ10のトルク伝達率は、トルク伝達率設定値に一致するように制御される。
【0029】
上述したトルク伝達率の制御により、既に図2を参照して説明したように、エンジン回転数が低速回転域にあるときには、クラッチ10のトルク伝達率は100%より小さい値に制御され、エンジン回転数の上昇に伴いトルク伝達率が増大し、そして、エンジン回転数が低速回転域を超えると、トルク伝達率は100%に維持される。従って、作業機械の発進加速時のように、作業機械のオペレータがスロットル操作装置6を操作してエンジン1を低速状態(例えばアイドル状態)から加速しようとする場合、エンジン回転数が低速回転域(例えば1000rpm以下)にある間は、クラッチ10の出力軸12の回転数(つまり、トルクコンバータ2の入力回転数)が、入力軸11の回転数(つまり、エンジン回転数)よりも低くなる。その結果、トルク伝達率が100%である場合に比較して、エンジン1を加速するための余裕トルクが増し、よって、より短時間にエンジン1が所望回転数まで加速する。
【0030】
上記したエンジンを加速するための余裕トルクが増大する状況は、図5に示す性能曲線を参照することで、一層容易に理解される。
【0031】
図5において、縦軸はトルクを示し、横軸はエンジン回転数を示す。曲線cはエンジン1のトルク曲線を示し、曲線dはトルクコンバータ2の吸収トルク曲線を示す。実線dで示される吸収トルク曲線は、トルクコンバータ2の入力回転数がエンジン回転数と同一であるとき、つまり、クラッチ10のトルク伝達率が100%である場合に対応する。
【0032】
上述したように低速回転域においては、クラッチ10のトルク伝達率が100%より小さいから、クラッチ10の出力軸12の回転数、つまりトルクコンバータ2の入力回転数は、クラッチ10の入力軸12の回転数、つまりエンジン回転数より低い。そのため、図5に破線eで示すように、トルクコンバータ2への入力トルクは、実線dで示すエンジン回転数トルクコンバータ2の吸収トルクより小さい。例えばエンジン回転数がNである時、エンジン1の出力トルクとトルクコンバータ2の入力トルクとの差Bは、エンジン1の出力トルクとエンジン回転数Nに対応するトルクコンバータ2の吸収トルクとの差Aよりも大となる。すなわち、エンジンを加速するための余裕トルクが、トルク伝達率が100%の場合に比較して、トルク差分B−Aだけ大きい。従って、エンジン1の低速回転域におけるエンジンの加速性能が向上し、発進加速タイム或いは積込等の作業のサイクルタイムの短縮が図れる。
【0033】
図6は、本発明の第2実施形態にかかるエンジン動力伝達装置の構成を示すブロック図である。図6において、既に説明した第1実施形態と同種の要素には同一符号を付し、同一の部分についての重複説明は省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0034】
図6に示すように、スロットル開度検出器16がスロットル5に設けられ、その出力がコントローラ15に接続される。コントローラ15の演算制御装置21は、エンジン回転数検出器14からのエンジン回転数の検出値とともに、スロットル開度検出器16からのスロットル開度の検出値も入力する。そして、演算処理装置21は、記憶装置22に予め記憶されているマップ又は関数を用いて所定の演算処理を行うことで、現在のエンジン回転数とスロットル開度に対応したトルク伝達率設定値を決定し、そして、ラッチ操作装置13に指示信号を出力して、クラッチ10のトルク伝達率をトルク伝達率設定値に制御させる。低速回転域において、クラッチ10のトルク伝達率が100%以下に制御され、出力軸12のトルクが入力軸11のトルクより小さくなる。その際、エンジン回転数だけでなく、オペレータにより操作されるスロットル開度に応じても、トルク伝達率が変化する。
【0035】
図7は、コントローラ15の記憶装置22に記憶されているトルク伝達率制御のためのマップ又は関数を説明する図である。図7は、エンジン回転数〔rpm〕及びスロットル開度〔%〕とトルク伝達率設定値〔%〕との関係を示している。
【0036】
図7に示すように、アイドル回転数(例えば750rpm)を含む低速回転域において、トルク伝達率設定値はエンジン回転数に応じて変化し、低速回転域より高速の回転域では、トルク伝達率設定値は一定値(例えば100%)になる。そして、スロットル開度が大きいほど低速回転域の上限回転数が高くなるように、スロットル開度に応じて上限回転数が変化する。例えば、上限回転数はスロットル開度が50%以下ではアイドル回転数であり(よって、全回転数域にてトルク伝達率設定値は100%で一定である)、スロットル開度が60%では800rpm、80%で900rpm、100%で1000rpmである。そして、低速回転域では、エンジン回転数の上昇に伴ってトルク伝達率設定値は増大し、かつ、スロットル開度の増大に伴ってともなってトルク伝達率設定値は減少する。
【0037】
コントローラ15の演算処理装置21は、上記のようなエンジン回転数とスロットル開度の関数として定められたトルク伝達率設定値に一致するように、クラッチ10のトルク伝達率を制御する。
【0038】
図8は、コントローラ15の演算処理装置21が行うトルク伝達率制御のための処理の流れを示す。
【0039】
エンジン1が作動している間、演算処理装置21は、トルク伝達率制御が実質的に継続的に行われているみなせる程度の短い時間間隔で、図8に示されてルーチンを繰り返し実行する。図8に示されるルーチンを開始すると、演算処理装置21は、ステップS11とS12で、エンジン回転数とスロットル開度の検出値を入力し、ステップS13で、現在のエンジン回転数が低速回転域の最大回転数(図7に示した例の場合は1000rpm)以下であり、且つ、スロットル開度がトルク伝達率の可変制御が必要な最低開度(図7に示した例の場合は50%)以上であるか(つまり、現在のエンジン回転数とスロットル開度との組み合わせで定義される動作点が、トルク伝達率の可変制御が必要な範囲内であるかどうか)を判断する。その結果、可変制御が必要な範囲内であると判断されると、演算処理装置21は、ステップS14で、記憶装置22に記憶されたマップ又は関数に基づいて、図7に示したような現在のエンジン回転数とスロットル開度とに対応したトルク伝達率設定値を決定する。また、ステップS13で可変制御が必要な範囲外であると判断されると、演算処理装置21は、ステップS15で、トルク伝達率設定値を100%に決定する。その後、演算処理装置21は、ステップS16で、クラッチ操作装置13に指示してクラッチ10を操作させて、クラッチ10のトルク伝達率を、決定されたトルク伝達率設定値に一致するように制御する。
【0040】
上記の制御によれば、低速回転域においてトルク伝達率が100%より低くなることにより、エンジン加速性能が向上する。また、同じエンジン回転数であっても、スロットル開度が大きいほどトルク伝達率はより小さくなるので、エンジン加速性能が向上はより大きくなる。よって、オペレータのスロットル操作量に合ったエンジン加速性能が得られ、オペレータは自分の操作感覚に合った運転操作を行うことができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。
【0042】
上記実施形態において、油圧制御の多板式摩擦クラッチが用いられているが、空圧式、磁力式あるいは機械式等のクラッチも使用可能である。また、上記実施形態では、スロットル開度検出器を用いて直接スロットル開度を検出するようにしているが、これに代えて、アクセルペダルあるいはスロットル操作レバー等の操作角度、又は操作量等を検出するようにしても良い。
【0043】
本発明は、ホイールローダやクレーン車等の建設機械だけでなく、動力伝達系にトルクコンバータを用いている種々の作業機械に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル(5)によって制御されるエンジン(1)と、
前記エンジン(1)の動力を負荷装置に伝達するトルクコンバータ(2)と、
前記エンジン(1)と前記トルクコンバータ(2)との間に設けられた、伝達トルクが制御可能なクラッチ(10)と、
前記スロットル(5)を操作するスロットル操作装置(6)と、
前記エンジン(1)の回転数を検出するエンジン回転数検出器(14)と、
前記クラッチ(10)を操作して前記伝達トルクを制御するクラッチ操作装置(13)と、
前記エンジン回転数検出器(14)に応答して、前記エンジン回転数に応じて前記クラッチ(10)の伝達トルクを制御するよう前記クラッチ操作装置(13)に指示するコントローラ(15)と
を備えたエンジン動力伝達装置。
【請求項2】
前記スロットル(5)の開度を検出するスロットル開度検出器(16)を更に備え、
前記コントローラが、前記エンジン回転数検出器(14)及び前記スロットル開度検出器(16)に応答して、前記エンジン回転数及び前記スロットル開度に応じて前記クラッチ(10)の伝達トルクを制御するように、前記クラッチ操作装置(13)に指示する請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
低速回転域における前記トルク伝達率が、より高速な回転域におけるそれよりも小さくなるように、前記クラッチ(10)が操作される請求項1又は2記載のエンジン動力伝達装置。
【請求項4】
前記低速回転域では、前記エンジン回転数が上昇するのに伴い前記トルク伝達率が増大するように、前記クラッチ(10)が操作される請求項3記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記より高速な回転域では、前記トルク伝達率が一定になるように、前記クラッチ(10)が操作される請求項4記載のエンジン動力伝達装置。
【請求項6】
前記より高速な回転域では、前記トルク伝達率が100%になるように、前記クラッチ(10)が操作される請求項4記載のエンジン動力伝達装置。
【請求項7】
低速回転域における前記トルク伝達率が、より高速な回転域におけるそれよりも小さくなるように、前記クラッチ(10)が操作され、
前記低速回転域では、前記エンジン回転数が上昇するのに伴い前記トルク伝達率が増大し、且つ、前記スロットル開度が拡大するのに伴い前記トルク伝達率が減少するように、前記クラッチ(10)が操作される請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記スロットル開度が大きいほど前記低速回転域の上限回転数が上昇するように、前記低速回転域の上限回転数が前記スロットル開度に応じて制御される請求項7記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記より高速な回転域では、前記トルク伝達率が一定になるように、前記クラッチ(10)が操作される請求項7又は8記載の動力伝達装置。
【請求項10】
トルク伝達率が制御可能なクラッチ(10)を通じてエンジン(1)の動力をトルクコンバータ(2)に伝達する方法において、
スロットル(5)に応答して前記エンジン(1)を制御するステップと、
前記エンジン回転数に応じて前記伝達トルクを制御するように前記クラッチ(10)を操作するステップと
を有するエンジン動力伝達方法。
【請求項11】
前記クラッチ(10)を操作するステップでは、低速回転域における前記トルク伝達率が、より高速な回転域におけるそれよりも小さくなるように、前記クラッチ(10)が操作される請求項10記載のエンジン動力伝達方法。
【請求項12】
前記低速回転域では、前記エンジン回転数が上昇するのに伴い前記トルク伝達率が増大するように、前記クラッチ(10)が操作される請求項11記載のエンジン動力伝達方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/040629
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514939(P2005−514939)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015244
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】