説明

エンドミル及びエンドミルの製造方法

【課題】切れ刃の強度を高めて、工具寿命の向上を図ることができるエンドミル及びエンドミルの製造方法を提供すること。
【解決手段】エンドミル100によれば、切れ刃21を形成するすくい面22が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されているので、単結晶ダイヤモンドの結晶面の中で最も硬さに優れているとされる(111)結晶面をすくい面22とすることで、切れ刃21の強度を高めることができる。よって、切れ刃21に生じる欠けや摩耗などを抑制することができ、その分、工具寿命の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶ダイヤモンドから構成される刃部を備えたエンドミルに関し、特に、切れ刃の強度を高めて、工具寿命の向上を図ることができるエンドミル及びエンドミルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、切れ刃と、その切れ刃を形成するすくい面とを備える刃部を単結晶ダイヤモンドから構成したエンドミルが知られている。この種のエンドミルとして、例えば、特許文献1には、単結晶ダイヤモンドの(100)結晶面または(110)結晶面により切れ刃のすくい面を構成したエンドミルが開示されている。
【特許文献1】特開2004−148471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、単結晶ダイヤモンドは、極めて硬い性質を備えているものの、結晶面の違いにより硬さが異なり、(100)結晶面や(110)結晶面などは結晶面の中でも比較的に軟らかいとされている。
【0004】
このため、上述した特許文献1に開示されるエンドミルでは、単結晶ダイヤモンドの結晶面の中でも比較的に軟らかい(100)結晶面や(110)結晶面によりすくい面を構成しているので、切れ刃の強度を十分に確保できず、工具寿命が不十分であるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、切れ刃の強度を高めて、工具寿命の向上を図ることができるエンドミル及びエンドミルの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載のエンドミルは、軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端に設けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部とを備えるものであって、前記刃部は、切れ刃と、その切れ刃を形成するすくい面とを備え、そのすくい面は、前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されている。
【0007】
請求項2記載のエンドミルは、請求項1記載のエンドミルにおいて、前記すくい面は、前記刃部にレーザ加工を施して形成されている。
【0008】
請求項3記載のエンドミルは、請求項1又は2に記載のエンドミルにおいて、前記切れ刃は、前記刃部の先端側に形成され回転軌跡が半球状を呈すると共に前記軸心方向の平面視において前記工具本体の回転方向に凸となる円弧状の底刃を備え、その底刃を形成する前記すくい面は、前記軸心に対して螺旋状に形成され前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成されている。
【0009】
請求項4記載のエンドミルは、請求項3記載のエンドミルにおいて、前記底刃は、前記刃部の先端に位置する刃先が前記軸心と交わるように構成され、前記刃先を形成する前記すくい面は、前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されている。
【0010】
請求項5記載のエンドミルの製造方法は、軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端に設けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部とを備え、その刃部に、切れ刃と、その切れ刃を形成するすくい面とを備えたエンドミルの製造方法であって、前記刃部にレーザ加工を施して前記すくい面を形成するすくい面形成工程を備え、そのすくい面形成工程により形成される前記すくい面は、前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されている。
【0011】
請求項6記載のエンドミルの製造方法は、請求項5記載のエンドミルの製造方法において、前記工具本体を形成する工具本体形成工程と、前記刃部を形成する刃部形成工程と、その刃部形成工程により形成された前記刃部を前記工具本体形成工程により形成された前記工具本体に取り付ける刃部取付工程とを備え、その刃部取付工程の後に前記すくい面形成工程を行う。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のエンドミルによれば、切れ刃を形成するすくい面は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されているので、単結晶ダイヤモンドの結晶面の中で最も硬さに優れているとされる(111)結晶面をすくい面とすることで、切れ刃の強度を高めることができる。よって、切れ刃に生じる欠けや摩耗などを抑制することができ、その分、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0013】
請求項2記載のエンドミルによれば、請求項1記載のエンドミルの奏する効果に加え、すくい面は、刃部にレーザ加工を施して形成されているので、硬さに優れるが故に研磨加工などでは加工が困難な単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面をレーザ光により溶融させることで、その(111)結晶面にすくい面を容易に形成することができるという効果がある。
【0014】
請求項3記載のエンドミルによれば、請求項1又は2に記載のエンドミルの奏する効果に加え、底刃を形成するすくい面は、軸心に対して螺旋状に形成されているので、切削加工時に底刃に作用する切削抵抗の作用方向を多方向へ分散させることができる。よって、底刃が受ける切削抵抗を低減することができ、その分、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。更に、底刃が受ける切削抵抗を低減することで、切削加工時の振れを抑制できるので、切削精度の向上を図ることができるという効果がある。
【0015】
また、底刃を形成するすくい面は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成されているので、底刃において使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位のすくい面を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成することで、かかる部位およびその近傍の底刃の強度を他の部位と比較して相対的に高めることができる。よって、使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位を特定して底刃の強度を高めることで、底刃全体の寿命を均等化できるので、底刃が局所的に劣化することを防止して、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0016】
このように、すくい面が軸心に対して螺旋状に形成される場合には、すくい面全体を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成することは不可能であるところ、すくい面を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成することで、使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位を特定して底刃の強度を高めることができるので、切削精度の向上と工具寿命の向上とを両立して図ることができるという効果がある。
【0017】
なお、請求項3の「単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成されている」との記載は、底刃を形成するすくい面が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面を横切る場合に限られず、底刃を形成するすくい面が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面に接する場合を含む趣旨である。
【0018】
請求項4記載のエンドミルによれば、請求項3記載のエンドミルの奏する効果に加え、底刃の刃先を形成するすくい面は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されているので、かかる刃先の強度を高めることができる。よって、底刃が被加工物へ食い付く際に衝撃荷重を受ける刃先の強度を高めることで、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0019】
請求項5記載のエンドミルの製造方法によれば、すくい面形成工程により形成されるすくい面は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されているので、単結晶ダイヤモンドの結晶面の中で最も硬さに優れているとされる(111)結晶面をすくい面とすることで、切れ刃の強度を高めることができる。よって、切れ刃に生じる欠けや摩耗などを抑制することができ、その分、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0020】
また、すくい面形成工程は、刃部にレーザ加工を施してすくい面を形成するので、硬さに優れるが故に研磨加工などでは加工が困難な単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面をレーザ光により溶融させることで、その(111)結晶面にすくい面を容易に形成することができるという効果がある。
【0021】
請求項6記載のエンドミルの製造方法によれば、請求項5記載のエンドミルの製造方法の奏する効果に加え、刃部取付工程の後にすくい面形成工程を行うので、工具本体を軸心回りに回転させつつ刃部にすくい面を形成することで、レーザ光の照射軌跡を複雑に制御しなくとも、複雑な形状(例えば、螺旋状など)のすくい面を容易に形成することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の第1実施の形態におけるエンドミル100の詳細構成について説明する。
【0023】
図1(a)は、第1実施の形態におけるエンドミル100の上面図であり、図1(b)は、図1(a)の矢印Ib方向視におけるエンドミル100の側面図であり、図1(c)は、図1(a)の矢印Ic方向視におけるエンドミル100の下面図である。また、図1(d)は、図1(a)の矢印Id方向視を拡大して示したエンドミル100の拡大正面図である。なお、図1(a)から(c)では、エンドミル100の軸心O方向の長さを一部省略して図示している。
【0024】
エンドミル100は、マシニングセンタ等の加工機械(図示せず)から伝達される回転力により金型等の自由曲面加工を行うための切削工具であり、図1に示すように、タングステンカーバイト(WC)等を加圧焼結した超硬合金から構成される工具本体10と、その工具本体10の先端(図1(a)〜(c)左側)に取り付けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部20とを備えて構成されている。なお、工具本体10は、超硬合金から構成される場合に限られず、例えば、工具本体10を高速度工具鋼などから構成しても良い。
【0025】
工具本体10は、その後端側に設けられるシャンク11と、そのシャンク11に連設され工具本体10の先端側に設けられるボデー12とを備えて構成されている。シャンク11は、加工機械に保持される部位であり、軸心Oを中心とする円柱状に形成されている。エンドミル100は、このシャンク11を介して工具本体10が加工機械に保持されることで、加工機械から伝達される回転力により軸心O回りに回転して、チップ20により被加工物(図示せず)の切削加工を行う。なお、シャンク11は、円柱状に形成される場合に限られず、例えば、シャンク11を工具本体10の先端側から後端側へ向かうにつれて外径が縮小するテーパ状に形成しても良い。
【0026】
ボデー12は、刃部20が取り付けられる部位であり、刃部20をろう付けするための取付座13を備えている。取付座13は、軸心Oと平行な平面状に形成され、シャンク11との境界部から工具本体10の先端に至るまで延設されている。よって、取付座13を平面状に形成することで、刃部20を取付座13に密着させると共に、取付座13をシャンク11との境界部から工具本体10の先端に至るまで延設することで、刃部20と取付座13との接触面積を大きく確保することができる。これにより、取付座13への刃部20の取り付け強度を高めることができる。
【0027】
また、ボデー12は、シャンク11に連設され工具本体10の先端側へ向かうにつれて外径が縮小する半円錐状の半円錐部12aと、その半円錐部12aに連設されシャンク11よりも外径の小さい半円柱状の半円柱部12bとを備えて構成され、全体としてシャンク11の外径よりも小さく形成されている。よって、シャンク11の外径の大きさに関わらず刃部20の外周に形成される外周刃21bにより被加工物の切削加工を行うことができる。これにより、高価な単結晶ダイヤモンドから構成される刃部20のサイズをシャンク11の外径とは無関係に小さくできるので、刃部20のコストを低減して、その分、エンドミル100を安価に製造することができる。
【0028】
刃部20は、天然または人工の単結晶ダイヤモンドから短冊状に形成され、切れ刃21と、すくい面22と、逃げ面23と、除去面24とを備えている。切れ刃21は、被加工物を切削加工するためのものであり、すくい面22と逃げ面23とが交差する稜線部に形成され、刃部20の先端側(図1(a)〜(c)左側)に形成される底刃21aと、その底刃21aに連接され刃部20の外周に形成される外周刃21bとを備えている。なお、本実施の形態におけるエンドミル100は、図1(a)に示すように、底刃21aと外周刃21bとの連接部が角形状に形成されるスクエアエンドミルとして構成されている。
【0029】
すくい面22は、切れ刃21による被加工物の切削加工時に切りくずを生成および排出するためのものであり、刃部20の外面であって取付座13にろう付けされる一面により構成され、軸心Oと平行な平面状に形成されている。
【0030】
逃げ面23は、切れ刃21による被加工物の切削加工時に刃部20と被加工物との接触面積を低減するためのものであり、すくい面22に対して所定の逃げ角で傾斜する平面状に形成され、底刃21aに連設される第1底逃げ面23aと、その第1底逃げ面23aに連設されると共に第1底逃げ面23aよりも逃げ角が大きく設定される第2底逃げ面23bと、外周刃21bに連設される第1外周逃げ面23cと、その第1外周逃げ面23cに連設されると共に第1外周逃げ面23cよりも逃げ角が大きく設定される第2外周逃げ面23dとを備えている。なお、逃げ面23は、これら4つの逃げ面23a〜23dを備える場合に限られず、例えば、第2底逃げ面23b及び第2外周逃げ面23dを省略して、第1底逃げ面23a及び第1外周逃げ面23cのみにより逃げ面23を構成しても良い。
【0031】
除去面24は、外周刃21bによる被加工物の切削加工時に刃部20と被加工物との干渉を回避するためのものであり、刃部20の外面であって外周刃21bが形成される端面とは反対側の端面に設けられ、図1(d)に示すように、刃部20が外周刃21bの回転軌跡Tの内側に収まるように、すくい面22に対して所定の角度で傾斜する平面状に形成されている。
【0032】
また、刃部20は、すくい面22を形成する工程において、すくい面22が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面となるように結晶面を選定して形成される。これにより、すくい面22は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されている。
【0033】
次いで、図2を参照して、上述したように構成されるエンドミル100の製造方法について説明する。図2(a)は、刃部20を工具本体10に取り付ける刃部取付工程を示す図であり、図2(b)は、刃部20に切れ刃21を形成する切れ刃形成工程を示す図である。
【0034】
エンドミル100を製造するにあたっては、まず、超硬合金から構成されるブランク(図示せず)にシャンク11及びボデー12を加工して工具本体10を形成すると共に(工具本体形成工程)、天然または人工の単結晶ダイヤモンドから刃部20を形成する(刃部形成工程)。
【0035】
刃部形成工程の後は、すくい面22が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面となるように結晶面を選定しつつ刃部20にレーザ加工を施してすくい面22を形成する(すくい面形成工程)。
【0036】
すくい面形成工程の後は、刃部20を工具本体10に取り付ける(刃部取付工程)。ここで、刃部取付工程では、図2(a)に示すように、すくい面22を取付座13にろう付けして刃部20を工具本体10に取り付ける。
【0037】
刃部取付工程の後は、刃部20にレーザ加工を施して切れ刃21を形成する(切れ刃形成工程)。ここで、切れ刃形成工程では、図2(b)に示すように、工具本体10のシャンク11を加工機械Mに保持すると共に工具本体10を軸心O回りに回転させつつレーザ加工機Rにより刃部20にレーザ光(レーザの種類:ヤグレーザ、パルス出力:4mJ、パルス幅:3ms、パルス周波数:50kHz)を照射して逃げ面23及び除去面24を加工する。これにより、すくい面22と逃げ面23とが交差する稜線部に切れ刃21が形成される。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態におけるエンドミル100によれば、切れ刃21を形成するすくい面22は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されているので、単結晶ダイヤモンドの結晶面の中で最も硬さに優れているとされる(111)結晶面をすくい面22とすることで、切れ刃21の強度を高めることができる。よって、切れ刃21に生じる欠けや摩耗などを抑制することができ、その分、工具寿命の向上を図ることができる。
【0039】
また、すくい面22は、刃部20にレーザ加工を施して形成されているので、硬さに優れるが故に研磨加工などでは加工が困難な単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面をレーザ光により溶融させることで、その(111)結晶面にすくい面22を容易に形成することができる。
【0040】
次いで、図3を参照して、第2実施の形態におけるエンドミル200の詳細構成について説明する。なお、第1実施の形態と同一の構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0041】
図3(a)は、第2実施の形態におけるエンドミル200の上面図であり、図3(b)は、図3(a)の矢印IIIb方向視におけるエンドミル200の側面図であり、図3(c)は、図3(a)の矢印IIIc方向視におけるエンドミル200の下面図である。また、図3(d)は、図3(a)の矢印IIId方向視を拡大して示したエンドミル200の拡大正面図である。なお、図3(a)から(c)では、エンドミル200の軸心O方向の長さを一部省略して図示している。
【0042】
図3に示すように、エンドミル200は、工具本体10と、その工具本体10の先端(図3(a)〜(c)左側)に取り付けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部220とを備えて構成されている。
【0043】
刃部220は、天然または人工の単結晶ダイヤモンドから舌片状に形成され、切れ刃221と、すくい面22と、逃げ面23と、除去面24とを備えている。切れ刃221は、被加工物を切削加工するためのものであり、すくい面22と逃げ面23とが交差する稜線部に形成され、刃部220の先端側(図3(a)〜(c)左側)に形成される底刃221aと、その底刃221aに連接され刃部220の外周に形成される外周刃221bとを備えている。なお、本実施の形態におけるエンドミル200は、図3(a)に示すように、底刃221aが工具本体10の先端側に凸となる円弧状に形成され、底刃221aの回転軌跡が半球状を呈するボールエンドミルとして構成されている。
【0044】
また、刃部220は、すくい面22を形成する工程において、すくい面22が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面となるように結晶面を選定して形成される。これにより、すくい面22は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されている。
【0045】
上述したように構成されるエンドミル200の製造方法については、第1実施の形態におけるエンドミル100の製造方法と同様であるため、その説明を省略する。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態におけるエンドミル200によれば、底刃221aの回転軌跡が半球状を呈するボールエンドミルにおいても、単結晶ダイヤモンドの結晶面の中で最も硬さに優れているとされる(111)結晶面をすくい面22とすることで、切れ刃221の強度を高めて、工具寿命の向上を図ることができる。
【0047】
次いで、図4を参照して、第3実施の形態におけるエンドミル300の詳細構成について説明する。なお、第1実施の形態と同一の構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0048】
図4(a)は、第3実施の形態におけるエンドミル300の上面図であり、図4(b)は、図4(a)の矢印IVb方向視におけるエンドミル300の側面図であり、図4(c)は、図4(a)の矢印IVc方向視におけるエンドミル300の下面図である。また、図4(d)は、図4(a)の矢印IVd方向視を拡大して示したエンドミル300の拡大正面図である。なお、図4(a)から(c)では、エンドミル300の軸心O方向の長さを一部省略して図示している。
【0049】
図4に示すように、エンドミル300は、工具本体10と、その工具本体10の先端(図4(a)〜(c)左側)に取り付けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部320とを備えて構成されている。
【0050】
刃部320は、天然または人工の単結晶ダイヤモンドから舌片状に形成され、切れ刃321と、ギャッシュ325と、すくい面322と、逃げ面23と、除去面24とを備えている。
【0051】
切れ刃321は、被加工物を切削加工するためのものであり、すくい面322と逃げ面23とが交差する稜線部に形成され、刃部320の先端側(図4(a)〜(c)左側)に形成される底刃321aと、その底刃321aに連接され刃部320の外周に形成される外周刃321bとを備えている。なお、本実施の形態におけるエンドミル300は、図4(a)に示すように、底刃321aが工具本体10の先端側に凸となる円弧状に形成され、底刃321aの回転軌跡が半球状を呈するボールエンドミルとして構成されている。
【0052】
また、底刃321aは、図4(a)及び(b)に示すように、刃部320の先端に位置する刃先Eが軸心Oと交わるように構成されると共に、図4(d)に示すように、軸心O方向の平面視において工具本体10の回転方向(矢印R方向)に凸となる円弧状に形成されている。
【0053】
ギャッシュ325は、切れ刃321による被加工物の切削加工時に切りくずを収容および排出するためのものであり、刃部320の外面であって取付座13にろう付けされる一面に切れ刃321に沿って凹設されている。
【0054】
すくい面322は、切れ刃321による被加工物の切削加工時に切りくずを生成および排出するためのものであり、ギャッシュ325の溝底面により構成され、外周刃321bを形成する範囲が軸心Oと平行な平面状に形成されると共に、底刃321aを形成する範囲(以下、「底刃321aを形成するすくい面322」と称す。)が軸心Oに対して螺旋状に形成されている。よって、底刃321aを形成するすくい面322を軸心Oに対して螺旋状に形成する(即ち、底刃321aを形成するすくい面322をスパイラルギャッシュにより構成する)ことで、切削加工時に底刃321aに作用する切削抵抗の作用方向を多方向へ分散させることができる。これにより、底刃321aが受ける切削抵抗を低減することができ、その分、工具寿命の向上を図ることができる。更に、底刃321aが受ける切削抵抗を低減することで、切削加工時の振れを抑制できるので、切削精度の向上を図ることができる。
【0055】
また、刃部320は、取付座13にろう付けされる一面が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面となるように結晶面を選定して形成されると共に、すくい面322を形成する工程において、すくい面322が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように形成される。これにより、底刃321aの刃先Eを形成するすくい面322は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されている。
【0056】
上述したように構成されるエンドミル300を製造するにあたっては、まず、工具本体形成工程を行うと共に刃部形成工程を行う。刃部形成工程の後は、刃部取付工程を行うと共にすくい面形成工程および刃部形成工程を行う。なお、すくい面形成工程では、工具本体10のシャンク11を加工機械に保持すると共に工具本体10を軸心O回りに回転させつつレーザ加工機により刃部320にレーザ光を照射してギャッシュ325を加工する(図2(b)参照)。これにより、ギャッシュ325の溝底面にすくい面322が形成される。このように、工具本体10を軸心O回りに回転させつつ刃部320にすくい面322を形成することで、レーザ光の照射軌跡を複雑に制御しなくとも、螺旋状のすくい面322を容易に形成することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態におけるエンドミル300によれば、底刃321aを形成するすくい面322は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成されているので、底刃321aにおいて使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位のすくい面322を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成することで、かかる部位およびその近傍の底刃321aの強度を他の部位と比較して相対的に高めることができる。よって、使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位を特定して底刃321aの強度を高めることで、底刃321a全体の寿命を均等化できるので、底刃321aが局所的に劣化することを防止して、工具寿命の向上を図ることができる。
【0058】
本実施の形態のように、すくい面322が軸心Oに対して螺旋状に形成される場合には、すくい面322全体を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成することは不可能であるところ、すくい面322を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成することで、使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位を特定して底刃321aの強度を高めることができるので、切削精度の向上と工具寿命の向上とを両立して図ることができる。
【0059】
また、底刃321aの刃先Eを形成するすくい面322は、単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されているので、刃先Eの強度を高めることができる。よって、底刃321aが被加工物へ食い付く際に衝撃荷重を受ける刃先Eの強度を高めることで、工具寿命の向上を図ることができる。
【0060】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0061】
例えば、上記第1実施の形態では、底刃21aと外周刃21bとの連接部が角形状に形成され、エンドミル100がスクエアエンドミルとして構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、底刃21aと外周刃21bとの連接部を円弧状に形成して、エンドミル100をラジアスエンドミルとして構成しても良い。
【0062】
上記第3実施の形態では、刃部320の取付座13にろう付けされる一面が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面とされ、底刃321aの刃先Eを形成するすくい面322が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、底刃321aと外周刃32bとの連接部のすくい面322を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成しても良く、或いは、外周刃321bを形成するすくい面322を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成しても良い。また、上記第3実施の形態では、底刃321aの刃先Eを形成するすくい面322が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面とされ、底刃321aを形成するすくい面322が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と接するように構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、底刃321aの一部分の範囲(例えば、底刃321aの全長の10%に対応する幅など)を形成するすくい面322が単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成しても良い。
【0063】
いずれの場合にも、切れ刃321において使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位のすくい面322を単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成することで、かかる部位およびその近傍の切れ刃321の強度を他の部位と比較して相対的に高めることができる。よって、使用頻度の高い部位または加工条件が厳しく欠けや摩耗などが生じ易い部位を特定して切れ刃321の強度を高めることで、切れ刃321全体の寿命を均等化できるので、切れ刃321が局所的に劣化することを防止して、工具寿命の向上を図ることができる。
【0064】
上記各実施の形態では、刃部20,220,320が取付座13にろう付けされて刃部20,220,320が工具本体10に取り付けられる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、接着剤などを用いて刃部20,220,320を工具本体10に取り付けても良く、或いは、ねじ等を用いて刃部20,220,320を工具本体10に取り付けても良い。
【0065】
上記第1実施の形態では、刃部取付工程の後に切れ刃形成工程を行う場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、刃部形成工程の後であって刃部取付工程の前に切れ刃形成工程を行っても良い。
【0066】
また、上記各実施の形態では、エンドミル100,200,300の製造工程において、工具本体形成工程の後に刃部形成工程を行う場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、工具本体形成工程の前に刃部形成工程を行っても良く、或いは、工具本体形成工程と刃部形成工程とを同時に行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)は、第1実施の形態におけるエンドミルの上面図であり、(b)は、図1(a)の矢印Ib方向視におけるエンドミルの側面図であり、(c)は、図1(a)の矢印Ic方向視におけるエンドミルの下面図であり、(d)は、図1(a)の矢印Id方向視を拡大して示したエンドミルの拡大正面図である。
【図2】(a)は、刃部を工具本体に取り付ける刃部取付工程を示す図であり、(b)は、刃部に切れ刃を形成する切れ刃形成工程を示す図である。
【図3】(a)は、第2実施の形態におけるエンドミルの上面図であり、(b)は、図3(a)の矢印IIIb方向視におけるエンドミルの側面図であり、(c)は、図3(a)の矢印III方向視におけるエンドミルの下面図であり、(d)は、図3(a)の矢印III方向視を拡大して示したエンドミルの拡大正面図である。
【図4】(a)は、第3実施の形態におけるエンドミルの上面図であり、(b)は、図4(a)の矢印IVb方向視におけるエンドミルの側面図であり、(c)は、図4(a)の矢印IVc方向視におけるエンドミルの下面図であり、(d)は、図4(a)の矢印IVd方向視を拡大して示したエンドミルの拡大正面図である。
【符号の説明】
【0068】
100,200,300 エンドミル
10 工具本体
20,220,320 刃部
21,221,321 切れ刃
22,322 すくい面
321a 底刃
E 刃先
O 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端に設けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部とを備えたエンドミルにおいて、
前記刃部は、切れ刃と、その切れ刃を形成するすくい面とを備え、
そのすくい面は、前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されていることを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記すくい面は、前記刃部にレーザ加工を施して形成されていることを特徴とする請求項1記載のエンドミル。
【請求項3】
前記切れ刃は、前記刃部の先端側に形成され回転軌跡が半球状を呈すると共に前記軸心方向の平面視において前記工具本体の回転方向に凸となる円弧状の底刃を備え、
その底刃を形成する前記すくい面は、前記軸心に対して螺旋状に形成され前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面と交わるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項4】
前記底刃は、前記刃部の先端に位置する刃先が前記軸心と交わるように構成され、
前記刃先を形成する前記すくい面は、前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されていることを特徴とする請求項3記載のエンドミル。
【請求項5】
軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端に設けられ単結晶ダイヤモンドから構成される刃部とを備え、その刃部に、切れ刃と、その切れ刃を形成するすくい面とを備えたエンドミルの製造方法において、
前記刃部にレーザ加工を施して前記すくい面を形成するすくい面形成工程を備え、
そのすくい面形成工程により形成される前記すくい面は、前記単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面により構成されていることを特徴とするエンドミルの製造方法。
【請求項6】
前記工具本体を形成する工具本体形成工程と、
前記刃部を形成する刃部形成工程と、
その刃部形成工程により形成された前記刃部を前記工具本体形成工程により形成された前記工具本体に取り付ける刃部取付工程とを備え、
その刃部取付工程の後に前記すくい面形成工程を行うことを特徴とする請求項5記載のエンドミルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−23192(P2010−23192A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188279(P2008−188279)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】