説明

エンボスロール

【課題】エンボスパターンが疵付いた場合の、エンボスロールの交換や修復が、より少ない手間で簡便に行え、ロール更新のためのコストを大幅に削減する。
【解決手段】エンボスロール2が、ロール本体8と、ロール本体8の外周面に配されるエンボス型体9とを含む。エンボス型体9は、表面にエンボスパターンPを形成した金属シートで形成する。ロール本体8に巻装したエンボス型体9の周方向端部9a、および幅方向端部9bのそれぞれをロール本体8に対して分離可能に固定する。エンボスパターンが疵付いた場合には、エンボス型体9のみを換装することにより、エンボスロール2を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスシートの成形に適用されるエンボスロールに関する。エンボスシートは、例えば液晶モニターのバックライトユニットを構成するプリズムシートとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
本発明のエンボスロールは、ロール本体と、ロール本体の外周面に固定されるエンボス型体とを含むが、このような2層構造のエンボスロールは特許文献1に公知である。そこでは、ロール本体と、ロール本体の外面に固定される外筒ロールとでエンボスロールを構成している。
【0003】
ロール本体は鋼材で形成し、外筒ロールは、微細なエンボスパターンの切削加工に適した銅、アルミニウム、銅合金などで形成されていた。筒構造の外筒ロールは、例えば焼き嵌めによってロール本体の外周面に固定され、さらにボルトで締結固定されていた。同様の提案は特許文献2にもみられる。そこでは、外筒ロールをアルミニウム合金で形成しているが、ロール本体に対する外筒ロールの固定構造については、言及されていない。
【0004】
特許文献3には、エンボスロールと対を為す押さえロールを、ロール本体と、ロール本体の周囲に巻装される外筒とで構成することが開示されている。その外筒は可撓性を有する薄肉金属筒体、例えば厚み寸法が3mmの継目なしステンレス鋼管で形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−57846号公報(段落番号0030、図2)
【特許文献2】特開平9−155974号公報(段落番号0031、図1)
【特許文献3】特開平11−235747号公報(段落番号0017、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2のエンボスロールは、外筒ロールを銅合金やアルミニウム合金で形成するので、微細なエンボスパターンを正確に加工できる。しかし、エンボスパターンが疵付いたり、エンボスパターンに目詰まりを生じたような場合には、新たなエンボスロールに交換し、あるいは再度エンボスパターンを形成し直す必要があり、ロールの交換や修復に多くの手間とコストとが掛かっていた。
【0007】
何種類ものエンボスシートを試作するような場合には、エンボスパターンが異なる毎にエンボスロールを用意しなければならず、エンボスロールの製作に多くのコストと時間とが掛かってしまう。因みに、従来の一般的なエンボスロールは、ロール本体の外周面に直接エンボスパターンを形成するか、ロール本体の外周面に形成した銅メッキ層にエンボスパターンを形成していた。
【0008】
本発明の目的は、エンボスパターンが疵付いた場合の、エンボスロールの交換や修復がより少ない手間で簡便に行え、ロール更新のためのコストを大幅に削減でき、試作のために多種類のエンボスシートを成形する場合でも、成形に要するコストを最小限化できるエンボスロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエンボスロール2は、ロール本体8と、ロール本体8の外周面に配されるエンボス型体9とを有する。エンボス型体9は、表面にエンボスパターンPを有する金属シートで形成されており、ロール本体8に巻装したエンボス型体9が、ロール本体8に対して分離可能に固定される。エンボス型体9は、接着ないし真空吸着によってロール本体8に対して分離可能に固定できる。
【0010】
エンボス型体9は、磁気吸着可能な金属を素材とするベースシート32と、ベースシート32の表面に積層形成された型体層33とで構成し、型体層33の表面にエンボスパターンPを形成し、ロール本体8に埋設した磁石34でロール本体8にエンボス型体9を吸着固定できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエンボスロール2では、ロール本体8と、金属シートからなるエンボス型体9とで構成し、エンボス型体9をロール本体8に巻装したうえで、分離可能に固定するので、例えばエンボス型体9の表面に形成したエンボスパターンPが疵付いた場合には、そのエンボス型体9をロール本体8から取り外して、新規なエンボス型体9と換装することによりエンボスロール2を更新できる。
【0012】
したがって、ロール全体を換装していた従来のエンボスロールに比べて、ロールの交換や修復がより少ない手間で簡便に行え、ロール更新に要するコストを大幅に削減できる。短時間でロールの交換や修復を行えるので、その分だけロール成形装置の稼働率を高めて生産性の向上を図れる。
【0013】
金属シートからなるエンボス型体9の表面にエンボスパターンPが形成されているので、ロール外周面にエンボスパターンを形成していた従来ロールに比べて、エンボスパターンPをエッチング法やメッキ法などによって、容易にかつ精密に形成でき、しかもエンボスパターンPの変更を簡便に行える利点もある。多種類のエンボスシートを試作する場合には、予め用意したエンボス型体9をロール本体8に換装してロール成形すればよく、試作すべきエンボスシートに対応していくつものエンボスロールを用意する必要があった従来例に比べて、エンボスシートの成形に要する製作コストが少なくて済む。
【0014】
エンボス型体9をロール本体8に対して接着固定するロール構造によれば、ロール本体8の構造が複雑になるのを避けながら、エンボス型体9を固定できる。必要時には、接着剤を溶剤で溶解除去することによりエンボス型体9をロール本体8から取り外せる。エンボス型体9をロール本体8に対して真空吸着によって固定するロール構造によれば、真空圧の作用を停止することにより、エンボス型体9をロール本体8から簡単に取り外すことができ、エンボス型体9の換装作業をさらに簡単に行える。
【0015】
磁気吸着可能な金属からなるベースシート32と、ベースシート32の表面に積層形成された型体層33とでエンボス型体9を構成し、ロール本体8にこれに埋設した磁石34でエンボス型体9を吸着固定するエンボスロール2によれば、エンボス型体9をワンタッチで簡単に装着できるうえ、着脱する際にエンボス型体9が変形したり、破損したりすることもない。ロール本体8の構造が複雑になるのを避けながらエンボス型体9を固定できる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1ないし図3は本発明に係るエンボスロールの実施例を示す。図2において符号1は押出成形装置の樹脂出口に設けたTダイである。Tダイ1から送給される溶融樹脂Mをロール成形装置で成形することにより、片面にエンボスパターンPが形成された長尺のシートM1を得ることができる。
【0017】
ロール成形装置は、Tダイ1の下方に配置したエンボスロール2と、溶融樹脂をエンボスロール2に押し付ける押さえロール3と、エンボスロール2で成形されたシートM1の成形ひずみを除去する一群のアニールロール4・5・6などで構成する。Tダイ1から送給された溶融樹脂Mは、エンボスロール2を通過する間に固化する。図示例の押さえロール3はゴムロールである。
【0018】
エンボスシートの成形素材としては、透明性と耐熱性に優れたポリカーボネイト、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、非晶性共重合ポリエステル、アクリルなどを適用できる。
【0019】
エンボスロール2は、ロール本体8と、ロール本体8の外周面に配置されるエンボス型体9と、エンボス型体9をロール本体8に固定するための装着リング10とを含む。
【0020】
ロール本体8は、それぞれ研削仕上げされたロール部11と、ロール部11の左右両側に形成したロール軸12とを一体に備えた鋼合金製のロールからなる。ロール部11の外周面の両端寄りには、装着リング10を締結するための4個のねじ孔13が形成され、接着剤Bを充填するための浅い凹部14の一群が、ロール部11の幅方向に沿って一定間隔置きに形成してある。
【0021】
図1においてエンボス型体9は、表面にエンボスパターンPを形成した四角形の金属シートで形成されており、例えば、めっき用の母形にニッケルめっきをして形成する。その場合のエンボス型体9の全厚は100〜300μmとした。エンボス型体9の左右側縁には平滑面17を形成してあり、平滑面17に沿って4個の挿通孔18を形成してある。4個の挿通孔18のうち、ひとつの挿通孔18は、平滑面17の周方向端部9aのそれぞれに半円状の孔として形成してある(図1参照)。
【0022】
エンボスパターンPは例えばダイヤ模様として形成するが、実施例においては形状を理解しやすくするために、パターン要素を拡大して表現した。実際のエンボスパターンPは、山部の隣接ピッチが100μm、山部の高さが50μmと極めて微細なパターン要素で構成した。
【0023】
装着リング10は、ロール部11に外嵌するリング状の周回壁20と、周回壁20の一側に連続する端壁21とを備えた皿状の旋削品からなる。周回壁20の4箇所にはボルト25用の挿通孔22を形成し、端壁21の中央にはロール軸12用の逃げ口23が形成されている。
【0024】
エンボス型体9は、ロール本体8に対して分離可能に巻装して固定する。まず、凹部14が真上に位置する状態でロール本体8を定置して、凹部14に接着剤Bを充填し、凹部14の列線上に位置する左右のねじ孔13にボルト25を螺合して仮組みする。この状態で、エンボス型体9をロール本体8に巻装するが、その片方の周方向端部9aに形成される挿通孔18を仮組みしたボルト25にあてがうことにより、エンボス型体9をロール本体8の周方向と幅方向とに、同時に位置決めできる。エンボス型体9をロール本体8に周回状に巻装したうえで、凹部14の外面で隣接する周方向端部9aを押さえ治具で固定する。
【0025】
仮組みしたボルト25を取り外したのち、装着リング10の周回壁20がエンボス型体9の幅方向端部9bに外嵌する状態でロール本体8に組み、挿通孔22・18を介してねじ孔13にボルト25をねじ込むことにより、エンボス型体9をロール本体8に締結固定する。凹部14に充填した接着剤Bが完全に固化したのち、押さえ治具を取り外すことによりエンボスロールを完成できる。上記構成のエンボスロール2を用いてロール成形を行うことにより、エンボスパターンPが一定間隔置きに形成された長尺のシートが得られ、長尺のシートを切断することによってエンボスシートを形成できる。
【0026】
例えば、異物の混入によってエンボスパターンPが疵付いたり、あるいは経時的理由からエンボスパターンPに目詰まりを生じたような場合には、エンボス型体9をロール本体8から取り外して、新たなエンボス型体9に交換する。具体的には、ボルト25をロール本体8から抜き取って、装着リング10をロール部11から取り外す。このとき、ロール本体8は必ずしも成形装置から外す必要はなく、成形装置の駆動系に連結した状態のままでもよい。
【0027】
次に、ロール本体8を回転操作して周方向端部9aを真上に位置させ、この状態で溶剤をエンボス型体9の周方向端部9aに流し込んで接着剤Bを除去し、傷んだエンボス型体9をロール本体8から取り外す。溶剤や凹部14内に残っている接着剤Bを取り除いて、ロール部11の表面を清浄したのち、先に説明した手順で新たなエンボス型体9をロール本体8に固定する。
【0028】
かかるエンボスロール2によれば、傷んだエンボス型体9を新規なエンボス型体9と交換するだけで、エンボスロール2の修復をより少ない手間で簡便に行え、従来のエンボスロールに比べてロールの修復に要するコストと時間を著しく削減できる。ロールの修復に要する時間が短く済む分だけ、ロール成形装置の稼働率を高めてエンボスシートの生産性を向上できる。試作のために多種類のエンボスシートを成形する場合でも、予めエンボスパターンが異なるエンボス型体9を用意しておいて、ロール本体8に換装するだけでよく、多種類のエンボスシートを試作するためのコストを最小限化できる。
【0029】
エンボス型体9は、真空圧を利用してロール本体8に吸着固定してもよい。具体的には、図4に示すように、ロール本体8の内部に真空通路27と、真空通路27から放射状に伸びる一群の分岐通路28とを形成しておき、真空通路27に真空圧を作用させることにより、エンボス型体9の全体をロール本体8の外周面に吸着固定できる。ロール本体8の外周面には分岐通路28に通じる一群の吸着凹部29が形成されており、その内部に硬質の連続多孔体からなる吸着ピース30を固定してある。エンボス型体9の幅方向端部9bは、先の実施例と同様に装着リング10で締結固定しておく。
【0030】
エンボス型体9は、磁力を利用してロール本体8に吸着固定してもよい。その場合のエンボス型体9は、図5に示すごとく磁気吸着可能な金属、例えば鉄系合金やニッケル系合金を素材とするベースシート32と、ベースシート32の表面に形成された型体層33とで構成する。型体層33はベースシート32に銅または銅合金をメッキして形成する。そのうえで、型体層33の表面にエッチング法や切削法などでエンボスパターンPを形成する。
【0031】
ロール本体8側には、その幅方向全長にわたって磁石34を埋設しておき、エンボス型体9の周方向端部9bを磁石34で吸着固定する。必要に応じて、ロール本体8の周方向に多数個の磁石34を埋設して、エンボス型体9の内面全体を吸着固定してもよい。この実施例におけるエンボス型体9の幅方向端部9bは、装着リング10で締結固定してもよいが、必ずしも必要ではない。磁石34は電磁チャックで形成することができ、その場合には電磁チャックへの通電を停止するだけでエンボス型体9を開放できる。
【0032】
エンボス型体9は電鋳法によって無端筒状に形成することができる。詳しくは、半円筒状の一対の母形要素で電鋳用の母形を構成し、その内面にエンボスパターンPを形成するための雌型を形成しておく。電鋳用の母形を電鋳液に浸漬し、ゆっくりと回転駆動させながら析出金属を成長させたのち母形を取り出し、母形要素を離型することにより、外表面にエンボスパターンPが形成された無端筒状のエンボス型体9を得ることができる。
【0033】
無端筒状のエンボス型体9の着脱を容易化するために、ロール部11の直径寸法はエンボス型体9の内径寸法より僅かに小さく設定する。ロール部11にエンボス型体9を外嵌したのち、その幅方向端部9bを封止固定し、エンボス型体9とロール部11との間の空間に流体圧を作用させて円筒形状を保持する。
【0034】
上記以外にエンボス型体9は、その周方向端部9aどうしを接着や溶接によって接合して、円筒状に形成してもよい。エンボス型体9をロール本体8に装着した後で、切削法によってエンボス型体9の表面にエンボスパターンPを形成することができる。ロール本体8は、ロール軸12を省略してロール部11のみで構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】エンボスロールの分解斜視図である。
【図2】エンボスロールの適用例を示す概念図である。
【図3】エンボス型体の固定構造を示す平面図である。
【図4】エンボス型体の別の固定構造を示す縦断面図である。
【図5】エンボス型体の更に異なる固定構造を示す一部破断平面図である。
【符号の説明】
【0036】
2 エンボスロール
8 ロール本体
9 エンボス型体
14 凹部
P エンボスパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボスロールが、ロール本体と、前記ロール本体の外周面に配されるエンボス型体とを含み、
前記エンボス型体は、表面にエンボスパターンを有する金属シートで形成されており、
前記ロール本体に巻装した前記エンボス型体が、前記ロール本体に対して分離可能に固定してあるエンボスロール。
【請求項2】
前記エンボス型体が、接着ないし真空吸着によって前記ロール本体に対して分離可能である請求項1記載のエンボスロール。
【請求項3】
前記エンボス型体が、磁気吸着可能な金属を素材とするベースシートと、前記ベースシートの表面に積層形成された型体層とで構成されていて、前記型体層の表面にエンボスパターンが形成されており、
前記ロール本体に埋設した磁石で、前記ロール本体に前記エンボス型体が吸着固定される請求項2記載のエンボスロール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−347071(P2006−347071A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177947(P2005−177947)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】