説明

エンボス加工クレープ紙とその製造方法

【課題】 微細なエンボス形状を明確に成形でき、ふんわり感に優れるため、脂分の吸収性能などに優れたエンボス加工クレープ紙を提供する。
【解決手段】 クレープ原紙にエンボス加工を施すエンボス加工クレープ紙の製造方法であって、前記クレープ原紙として坪量6〜28g/mの原紙を用いることとし、かつ、前記エンボス加工を、坪量当たり0.1〜100重量%の水を供給して湿潤状態にする工程(a)と、湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施す工程(b)と、エンボス加工された湿潤状態のクレープ原紙を乾燥させる工程(c)と、によって施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふんわり感に優れるエンボス加工クレープ紙とその製造方法に関し、詳しくは、クレープ原紙にエンボス加工を施して、化粧用ティシュなどに利用される、ふんわり感に富むクレープ紙とこれを製造する方法を対象にしている。
【背景技術】
【0002】
化粧用などに使用されるティシュ製品には、薄いクレープ紙を2枚あるいは3枚に重ねたものがある。トイレットペーパー製品などでは、クレープ紙にエンボス加工を施して嵩高性や柔軟性などの特性を付与したものがある。
これとは別に、保湿ティシュ製品として、クレープ処理が施された薄いクレープ紙に、グリセリンなどの保湿成分を担持させたものがある。保湿成分が湿気を吸って適度な保湿状態になるため、使用時に、しっとりした柔らかい感触を与え、肌触りが良いものとなる。汚れなどを拭い取り易くなる。
特許文献1には、保湿剤、柔軟剤、抗酸化剤等を含む薬液を、基材紙に塗布しておくことで、しっとり感、柔らかさ等の肌触り性を良好にするとともに、頻繁に肌と接触させても肌がヒリヒリし難い、肌が赤くなり難い家庭用薄葉紙を提供する技術が示されている。
【0003】
クレープ紙を複数枚重ね合わせてなるティシュペーパーや1〜複数枚のクレープ紙をロール状に巻いてなるトイレットペーパーなどの重ね合わせ製品においては、クレープ紙の間に空気層が挟まれていてふんわり感に富むことが求められている。この「ふんわり感」は、使用時などの感触を快いものにさせるだけでなく、汗取り性などの使用特性をも向上させるからである。
そこで、クレープ紙において、クレープ原紙にエンボス加工を施すことで嵩高さを出すことが行われている。すなわち、エンボス加工クレープ紙である。
特許文献2には、クレープ紙に蒸気を吹きつけたあとでエンボス加工を行なうことで、高いロールかさ、高度のロール硬度を与える技術が提案されている。
【0004】
特許文献3には、複数枚のプライ(紙層)からなり、所定のキャリパー(厚み)や生理的表面平滑パラメーターを持つ紙ティシュとその製造技術が示されている。具体例として、エンボス加工が行なわれた3プライ・ティシュにローションを塗布して紙ティシュを得る製造例が示されている。エンボス加工と保湿液の担持との両方を行なっていることになる。
【特許文献1】特開2003−164385号公報
【特許文献2】特表2002−511537号公報
【特許文献3】特表2003−514640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の一般的なティシュ製品におけるエンボス加工は、抄紙されクレープ処理を終えた乾燥状態のクレープ原紙に対して行なわれていた。
乾燥状態のクレープ原紙は、水素結合によって固定されている繊維同士が動き難い。このようなクレープ原紙にエンボス加工を行なうと、繊維がスムーズに移動せず、繊維そのものが壊れたり、繊維間の水素結合が破壊されてしまったりする。その結果、得られたエンボス加工クレープ紙の強度が低下したり、紙粉が発生し易くなったりする。
このような問題を改善するため、紙力剤などによって繊維間の結合を増強したクレープ紙が知られている。繊維間の結合点が多いので、変形に耐えられ、エンボス加工が比較的良好に行え、見掛け密度が低下するという利点がある。しかし、柔らかさやふんわり感などで表現される肌触り性が悪くなり、ティシュ製品としては、商品価値に劣るものとなり易い。
【0006】
特許文献2のように、エンボス加工前に蒸気を吹きつけておく方法では、蒸気によって膨潤した繊維が変形し易くなりエンボス加工は行ない易い。しかし、エンボス加工後に、繊維が乾燥するときに、エンボス加工前の形状に戻ってしまい易い。膨潤した繊維の内部に取り込まれていた水分が蒸発すると、繊維すなわちエンボス形状が収縮して、エンボス加工紙が硬くなってしまうという欠点もある。
抄紙段階で乾燥させる前の高湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施す技術も提案されている。しかし、エンボス加工を施したクレープ原紙を、ヤンキードライヤー処理などで乾燥させると表面は平滑になってエンボス模様の凹凸が消えてしまう。熱風などによる非接触の乾燥処理を行なえば、エンボス形状を損なわずに乾燥できるが、抄紙されたばかりの高湿潤状態のクレープ原紙を非接触で乾燥させるには、長い時間と大きなエネルギーコストがかかり、経済性が劣る。ヤンキードライヤー処理による表面の平滑化や厚みなどの均等化が行なえない。紙面の表面品質が低下したり、厚みや特性に大きなバラツキが生じたりする。抄紙段階では繊維間に十分な水素結合が形成されておらず全く自由に変形および移動ができる状態なので、エンボス加工で、細かな凹凸形状を明確に付与することが難しい。エンボス加工された凹凸形状が、乾燥過程で崩れたり変形したり元に戻ったりし易い。
【0007】
特許文献3のように、エンボス加工を行なった紙材料に保湿液を塗布すると、凹凸のある紙材料には保湿液が均等に塗布できない。保湿液の吸収によってエンボス模様が崩れてしまう。エンボス加工および保湿液の機能が十分に発揮できない。
保湿液による保湿処理を行って製造された保湿ティシュに、後からエンボス加工を行なうことも考えられる。しかし、保湿処理によって柔軟になった保湿ティシュには、通常のエンボス加工を行なうだけでは、エンボス加工による凹凸形状が形成され難い。しかも、保湿処理を行なうと紙強度が低下するので、エンボス加工の際に損傷し易くなり、エンボス加工が難しい。
【0008】
そこで、本発明の課題は、前記した従来におけるエンボス加工クレープ紙の製造技術が有する問題点を解消し、微細なエンボス形状を明確に付与でき、嵩高で柔軟性に優れているとともに強度も十分にあり、脂分などの吸収性能にも優れた、そして、ふんわり感に極めて優れたエンボス加工クレープ紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる、エンボス加工クレープ紙の製造方法は、
クレープ原紙にエンボス加工を施すエンボス加工クレープ紙の製造方法であって、
前記クレープ原紙として坪量6〜28g/mの原紙を用いることとし、かつ、
前記エンボス加工を、
坪量当たり0.1〜100重量%の水を供給して湿潤状態にする工程(a)と、
湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施す工程(b)と、
エンボス加工された湿潤状態のクレープ原紙を乾燥させる工程(c)と、
によって施すようにする。
【0010】
上記本発明の方法を実施するに当たっては、前記エンボス加工の際は複数枚のクレープ原紙の個々に別々にエンボス加工を施すようにし、その後に、加工された複数枚のクレープ原紙を重ね合わせるようにする、ことが好ましい。また、これとは別に、前記エンボス加工の際は複数枚のクレープ原紙を重ね合わせて同時にエンボス加工を施すようにし、その後に、クレープ原紙の重ね合わせ体に対し、加工された個々のクレープ原紙をいったん分離させたあと再び重ね合わせる処理を加える、ことが好ましい。
本発明にかかる、ふんわり感に優れるエンボス加工クレープ紙は、クレープ原紙にエンボス加工を施してなるエンボス加工クレープ紙であって、坪量が6〜28g/mであり、かつ、高低差0.01〜3.00mmで4〜200個/cmのエンボス形状を有する。
【0011】
本発明にかかる、エンボス加工クレープ紙は、その製品形態での好ましい特徴を具体的に述べると、ふんわり感を必要とする重ね合わせ品であり、例えば、クレープ原紙を複数枚重ね合わせてなるティシュペーパーや、1〜複数枚のクレープ原紙をロール状に巻いてなるトイレットペーパーなどであることができる。
本発明の内容を以下に詳しく述べる。
〔クレープ原紙〕
通常のエンボス加工クレープ紙の製造に利用されているクレープ原紙が使用できる。
クレープ原紙は、抄紙された紙材料をヤンキードライヤー処理などで乾燥させる際に、細かい皺すなわちクレープを形成させたものである。
【0012】
クレープ原紙の材料としては、通常のクレープ紙と同様の材料が使用できる。一般的なパルプ繊維原料が使用できる。広葉樹および針葉樹の木材繊維のほか、木材以外の植物繊維、合成繊維などを組み合わせることもできる。
クレープ原紙の抄造、クレープ加工などの処理装置や処理条件も、通常のクレープ紙と共通する技術が適用できる。
保水性、吸水性、強度、抄紙適性、コストなどの点で、クレープ原紙として、繊維原料の70重量%以上が木材パルプからなるものが好ましい。木材パルプは、広葉樹パルプまたは針葉樹パルプからなる群から選ばれる少なくとも1種であるものが好ましい。JIS−P8121で規定されるカナダ標準濾水度300ml以上のものが好ましく、500〜700mlのものが更に好ましい。木材パルプは、叩解が進み過ぎると、繊維間の結合が強くなり過ぎて硬くなるという問題が生じるので、前記濾水度をコントロールすることが重要である。クレープ原紙としては、その坪量が6〜28g/mのものが用いられる。坪量が少な過ぎると繊維の均一な分散が困難になり、強度も弱くなる。坪量が多過ぎると、強度が強くなり過ぎ硬くなる。クレープ原紙としては、そのクレープ率が3〜50%であるものが好ましく、6〜30%であるものがより好ましい。クレープ率が小さ過ぎると、均一なクレープが形成でき難い。クレープ率が大き過ぎると、クレープの形状が粗くなる。
【0013】
クレープ原紙は、1枚だけを用いてエンボス加工クレープ紙を製造することもできるし、複数枚を重ねたマルチプライのエンボス加工クレープ紙を製造することもできる。重ね枚数としては、2〜6枚に設定できる。好ましくは2〜3枚である。
エンボス加工に際しては、クレープ原紙を所定の枚数重ねた状態で、水の供給やエンボス加工、乾燥などの処理工程を行なうことができる。また、処理工程の一部または全部を、単葉のクレープ原紙に対して行ない、その後にクレープ原紙を重ね合わせたり、重ねたのち折り畳んだり、巻き取ったりすることもできる。
〔水の供給〕
クレープ原紙に、液体の状態で水を供給する。水は、クレープ原紙を構成する繊維間に浸入して自由水の形態で存在することになり、繊維間の水素結合を緩める機能を果たす。但し、蒸気と違って、水は繊維そのものの内部までは浸透し難いので、吸水による繊維の膨張はそれほど生じない。
【0014】
水の供給は、実質的に乾燥状態であるクレープ原紙に対して、坪量当たり0.1〜100重量%の水を供給して湿潤状態にする。水を供給されたクレープ原紙は、坪量当たり0.1〜100重量%の過剰水を含む湿潤状態になる。ここで、過剰水とは、クレープ原紙の繊維間に存在する水のことをいう。
好ましくは、水の供給を坪量当たり0.5〜50重量%に設定できる。さらに好ましくは、1〜20重量%の水を供給する。供給水量が少な過ぎれば、目的とするエンボス加工性の向上などが果たせない。供給水量が多くなり過ぎると、繊維間の水素結合が解除され過ぎてしまい、強度などの特性が低下する。また、原紙にシワが入るなど、加工適性が低下し、乾燥負荷も増大する。
【0015】
水の供給手段としては、液体状態の水を必要な量だけ速やかに供給できれば、通常の紙製造技術、加工技術などで採用されている各種の水供給手段が採用できる。例えば、水をノズルからシャワー状に噴出させてクレープ原紙に水滴を吹きつける方法が採用できる。水を付着させたり吸水させたりしたローラーをクレープ原紙に押しつける方法も採用できる。グラビア印刷ロールなどの印刷ロールを利用してクレープ原紙に水を印刷塗工することができる。
水の温度は特に限定されないが、常温付近でよい。高温になり過ぎると、繊維内への浸透が過剰になったりし易い。通常、5〜40℃に設定することができる。
【0016】
水の供給を、クレープ原紙に何らかの処理を施すための助剤(薬液成分)とともに行なうことができる。具体的には、保湿成分を含む保湿液など、助剤を含有する水溶液または水分散液をクレープ原紙に供給すれば、助剤と水とを同時に供給することができる。水溶液または水分散液に含まれる水分量が水の供給量になる。このような助剤(薬液成分)としては、後述する保湿成分、柔軟成分および接着成分の他、インキ成分などが挙げられる。
〔エンボス加工〕
湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施す。クレープ原紙には所定のエンボス形状が付与される。
【0017】
クレープ原紙は、前記した水の供給を行なったあと、エンボス加工を施す段階で、適切な湿潤状態になっている必要がある。水の供給からエンボス加工までに時間が経過して、クレープ原紙に供給された水が蒸発してしまって、含水割合が少なくなり過ぎていると、目的が達成できない。
したがって、前記供給水量は、エンボス加工が施される直前のクレープ原紙の含水量条件であるとも言える。但し、水の供給を行なう前のクレープ原紙が環境中の水分を吸湿して環境中の水分と平衡状態にある原紙の水分、または、吸湿の途中であり平衡状態に満たない原紙の水分は、供給水による含水量には含まれない。
【0018】
エンボス加工の加工装置、加工方法、加工条件などは、通常のエンボス加工紙の製造技術が適用できる。エンボス加工のうち、特に微小なエンボス形状を付与するマイクロエンボス加工の技術が好ましく適用される。
一般的なエンボス加工として、表面に微細な凹凸が彫られた硬質の表面を有するエンボスロールをクレープ原紙に押圧する方法が採用できる。硬質の表面は、鋼などの金属材料、セラミック材料、硬質合成樹脂材料などで構成できる。表面に各種のコーティング加工が施されたものも使用できる。エンボスロールに対向して配置され、間にクレープ原紙を挟み込む受けロールとして、弾力的に変形可能な表面を有するものが使用できる。エンボスロールの凹凸形状にしたがって受けロールの表面が凹凸状に弾力変形する。受けロールとして、エンボスロールと同様の硬質材料からなる平坦な表面を有するものが使用できる。エンボスロールと受けロールとの隙間が変化することでクレープ原紙に部分的な厚みおよび密度の違いを生じさせ易い。何れもが表面に凹凸形状を有する一対のエンボスロールの間にクレープ原紙を挟み込んでエンボス加工を施すこともできる。この場合は、クレープ原紙の表裏両側にエンボス形状の凹凸が生じる。
【0019】
エンボス加工で形成するエンボス形状の配置パターンや寸法は、通常のエンボス加工クレープ紙と同様に設定できる。エンボス形状には、クレープ紙に嵩高性や柔軟性、吸水性などの特性機能を与えることを主な目的とするもののほか、模様や文字、記号などを表現して意匠機能を持たせることを主な目的とするものや、クレープ紙の側端部など一部に補強や折畳みなどの機能を持たせることを目的とするものなどもある。複数の目的を持つエンボス形状もある。基本的には、クレープ紙の全体に所定の特性機能を付与するエンボス形状を設けるとともに、その他の機能を目的とする別のエンボス形状を部分的に付加することができる。
【0020】
具体的なエンボス形状の寸法条件として、高低差0.01〜3.00mmで4〜200個/cmのエンボス加工を施すことができる。好ましくは、エンボス形状の高低差0.01〜1.00mmで10〜200個/cmに、そして、より好ましくは、高低差0.05〜0.50mmで20〜100個/cmに設定することである。
本発明のエンボス加工クレープ紙が主に対象としているドライ製品や保湿タイプ製品でなく、清掃物品などのウエット製品では、その用途上の要求から、高低差が1.00mmを超える極めて大きなエンボス形状を付与することが求められる。しかし、このようなエンボス形状は、本発明のクレープ紙の用途からすれば、不必要に高すぎることがある。しかも、高低差が1.00mmを超えるエンボス形状を、薄いクレープ紙に適用すると、エンボス形状が高すぎるため、クレープ原紙が破れてしまったり、穴が開いてしまったり、強度が弱くなりすぎてしまったりすることがあるので、高低差は好ましくは1.00mm以下である。
【0021】
本発明のエンボス加工クレープ紙は、その用途を考慮して、坪量の低い薄いクレープ原紙を使用しているので、エンボス形状での高低差が最大1.00mm(好ましくは0.50mm)であっても、本発明のこのエンボス加工クレープ紙に、水性薬剤を含浸させた状態で、0.3kPaの荷重を掛けたときには、その厚みが1.0mmに達することがない。
エンボス加工は、通常、特別な加熱や冷却を行なわずに常温環境で実施できる。また、後述する熱エンボス加工を採用すれば、エンボス加工とその後の速やかな乾燥とを一度に果たすこともできる。
【0022】
また、湿潤したエンボスロールを用いると、水、もしくは助剤を含有する水(以下、水類という)の供給とエンボス加工を同時に行うことができる。具体的には、たとえば、エンボスロールの表面に水類をスプレーするか、あるいは、エンボスロールに水類を供給するロールを接触させてエンボスロール表面に水類を転移させるようにする。また、水類を入れたバット内にエンボスロールをくぐらせてエンボスロールを湿潤状態にすることもできる。これらの湿潤したエンボスロールを用いてクレープ原紙にエンボス加工を施すことで、水類の供給とエンボス加工を同時に行うことができる。
〔乾燥〕
エンボス加工された湿潤状態のクレープ原紙は、速やかに乾燥させることが望ましい。
【0023】
エンボス加工前にクレープ原紙に供給された水は、前記した過剰水としてクレープ原紙を構成する繊維間に存在している。この過剰水が、エンボス加工後の乾燥で蒸発することで、エンボス加工によって付与されたエンボス形状を保ったままで、繊維間に新たな水素結合を生じさせる。その結果、エンボス形状が良好に保持されたエンボス加工クレープ紙が得られる。
エンボス加工後に、エンボスが湿潤状態であると、加工機を走行中や巻取り時、保管時などに変形を受け易く、エンボス形状が崩れたり不明瞭になったりする。繊維間の水素結合が解除されたりして、強度などの特性が低下することも起こる。
【0024】
加工機上でエンボス加工を行う場合、時間を置かずに速やかに乾燥させることで、エンボス形状が良好に保持されたエンボス加工クレープ紙が得られる。
したがって、速やかな乾燥とは、前記した問題が生じない程度に短い時間で乾燥を完了させることである。ここに言う「速やか」とは、具体的には、エンボス加工直後から300秒以内、好ましくは60秒以内に、乾燥を終えることを言う。この「乾燥を終える」とは、例えば、クレープ原紙10が後述する図1の乾燥部50や図3の熱エンボスロール48などの乾燥手段を出る時点を意味する。
乾燥を終えたクレープ原紙は、含水率3〜8%の乾燥状態になる。好ましくは、含水率4〜7%の乾燥状態である。クレープ原紙が、保湿成分を含んでいたりエンボス加工前に保湿液を供給されたりしている場合も、上記含水率条件を満足するように乾燥させることができる。エンボス加工前の含水率に比べて、エンボス加工および乾燥を終えた段階で、含水率が2%以上低下するように、乾燥条件を設定してもよい。
【0025】
乾燥装置および乾燥方法、処理条件などは、通常の紙製造技術における乾燥技術が採用できる。但し、エンボス形状を壊さないように、非接触による乾燥技術を採用する。
具体的な乾燥方法として、加熱雰囲気の通過、熱風の吹き付け、赤外線や遠赤外線の照射、電磁波や超音波の照射による乾燥が適用できる。
乾燥条件として、クレープ原紙を温度40〜200℃で加熱して300秒以内に乾燥させることができる。好ましくは、温度60〜80℃で加熱して60秒以内に乾燥させる。さらに好ましくは、温度60〜80℃で加熱して30秒以内に乾燥させる。
〔エンボス加工クレープ紙の回収〕
乾燥を終えて得られたエンボス付きクレープ紙は、エンボス加工による凹凸形状を有する。
【0026】
単葉のクレープ原紙にエンボス加工を施した場合は、乾燥後のエンボス付きクレープ紙をそのままロールなどに巻回して回収すればよい。ロール状態で保管や輸送、次の工程(重ね合わせ工程など)への搬送が行なえる。エンボス加工クレープ紙を裁断したり、折り畳んだりする別の加工を続けて実施することもできる。
単葉のエンボス加工クレープ紙を複数枚重ねて、たとえば2プライあるいは3プライのティシュペーパーやトイレットペーパーに加工すると、ふんわり感や柔軟性がより優れた製品となる。
複葉のクレープ原紙を重ねてエンボス加工を施した場合は、乾燥後のエンボス付きクレープ紙を、単葉のエンボス付きクレープ原紙毎に分離したあと、再び重ね合わせて、ロールなどに回収することができる。
【0027】
この分離と再重ね合わせによって、エンボス加工クレープ紙の嵩高性や柔軟性をより高めることができる。単葉のクレープ原紙にエンボス加工を施した場合であっても、得られた単葉のエンボス付きクレープ原紙の重ね合わせによって、エンボス加工クレープ紙の嵩高性や柔軟性をより高めることができる。
製造されたエンボス加工クレープ紙には、保湿処理などの液体成分や水を供給する処理は行なわないほうが、エンボス形状が崩れたり強度などの特性が低下したりすることが少ない。
〔助剤の含浸〕
エンボス加工前のクレープ原紙に、助剤として、保湿成分および柔軟成分のうちの少なくとも1つを含浸させておくことができる。この場合、クレープ原紙は、助剤含有クレープ原紙となる。
【0028】
これらの成分は、単独で使用するのも良いが、併用することで、クレープ紙の物性や風合いを適度にコントロールすることができるようになる。
紙の嵩や柔軟性の向上と紙強度の向上を目的として、従来、パルプスラリー中に嵩高性向上剤や柔軟剤、紙力増強剤などの助剤を混合し、これらをパルプに吸着させておいて、抄紙することが行われている。いわゆる内添法である。しかし、内添法では、助剤をパルプに十分に吸着させることが困難である。そのため、吸着しない助剤が抄紙機の白水循環系に残存し、ピッチ状に凝集して、紙に汚点を生じさせたり、ドライヤーに付着して紙の剥離不良を起こしたりなどし、抄紙工程に悪影響をもたらすことがあった。
【0029】
これに対し、抄紙後の紙に対し、後加工で助剤の添加を行うと、嵩の向上や柔軟化、強度の向上を十分に図ることができる。その結果、内添法による前述の悪影響が生じず、しかも、助剤の歩留まりも高い。さらに、少量の湿潤水の中に助剤が存在する状態であっても、本発明によれば、エンボス加工を行うことで、助剤をパルプ繊維間に十分に行き渡らせることができ、上記の諸効果を十分に発現させることができるのである。
含浸技術としては、基本的には、通常の保湿紙の製造技術などが適用できる。
助剤は、水を溶媒とする水溶液、乳化液もしくは水分散液の形態で使用することもできるし、有機溶媒などを用いる非水溶液の形態で使用することもできる。
【0030】
助剤液が溶媒として水を含む場合は、クレープ原紙を湿潤状態にするための水の一部または全部を、助剤液に含まれる水として供給することができる。
助剤液に含まれる水の量が、クレープ原紙を所定の含水割合にするのに十分な量であれば、助剤液の供給工程が、水の供給工程を兼ねることができる。
助剤液に含まれる水の量が、クレープ原紙を所定の湿潤状態にするのに十分な量よりも少なければ、クレープ原紙に助剤液を供給する工程を行ったあとで、クレープ原紙に水を供給する工程を行なうことができる。この場合は、水を供給する工程では、助剤液によって供給された水の量を差し引いた量の水を供給することができる。
【0031】
助剤液の供給装置や供給方法は、前記した水の供給技術と共通する技術が適用できる。
<保湿成分>
保湿成分は、エンボス加工クレープ紙にしっとり感を与える。しかし、保湿成分を含有するクレープ紙に通常のエンボス加工を行っても、紙が柔らかいためエンボス加工による凹凸模様が時間の経過とともに消えやすい。水分を供給してからエンボスする本発明の方法により初めて、このような柔らかいクレープ紙にエンボス形状を明瞭に付与することが可能になる。
保湿成分を含む助剤液、すなわち、保湿液としては、通常の保湿ティシュなどに利用されている保湿成分を含むものが使用できる。保湿成分として、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビット、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、オリゴ糖アルコール、マルチトール、還元澱粉加水分解物、果糖、ブドウ糖、オリゴ糖、トレハロース、グリシンベタイン、ピロリドンカルボン酸、ピロリドンカルボン酸塩、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、乳酸、乳酸塩、尿素などが挙げられる。
【0032】
保湿成分の含浸量は、パルプ当たり1%〜100%が好ましい。更に好ましくは5%〜30%である。1%より少ないと保湿成分の効果が現れにくい。100%より多くなると、クレープ紙の強度が低下し、また、含浸量が多くなりすぎて、エンボスが形成しにくい。
保湿液が供給されたクレープ原紙において、環境中から保湿成分によって取り込まれた水分が存在する場合、この水分は、クレープ原紙を構成する繊維間に自由水として存在する。そのため、エンボス加工後に乾燥させれば、前記した水を供給した場合と同様に、本発明の目的を達成できる。なお、保湿成分に取り込まれた水分は、揮発し難くなっている。そのため、比較的に高い温度で短時間に乾燥が行なえるように乾燥条件を設定することが望ましい。例えば、前記乾燥条件の範囲において、乾燥温度50℃以上に設定することが好ましい。乾燥温度60℃以上がより好ましい。乾燥時間は30秒以内が好ましく、10秒以内がより好ましい。
【0033】
<柔軟成分>
柔軟成分は、親油性物質や親油基を持つ成分からなる。クレープ原紙の湿潤水の中に柔軟成分が共存することで、湿潤水の乾燥に伴い起きるパルプ繊維間の水素結合が強くなり過ぎるのを制限することができ、柔軟なクレープ紙とすることができる。また、クレープ原紙に含まれる柔軟成分がクレープ原紙のパルプ表面の親水性を低減させるので、湿潤水が蒸発するときにパルプ繊維同士の距離が縮まり難くなってクレープ原紙の嵩が向上するため、ふんわりと柔らかいクレープ紙にすることが出来る。
柔軟成分は水に乳化、分散または溶解させた状態で供給することが好ましい。そのため、必要に応じて、乳化剤、分散剤、可溶化剤を用いる。
【0034】
柔軟成分としては、炭化水素類、油脂類、エステル油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン類、ロウ類、界面活性剤類などが挙げられる。具体的には、炭化水素類として、流動パラフィン、スクワランなどがあり、油脂類として、オリーブ油、ツバキ油、ヒマシ油、大豆油、やし油、牛脂、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、トリカプリル酸グリセリンなどがあり、エステル油類として、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチルなどがあり、脂肪酸類として、脂肪酸、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステルなどがあり、脂肪酸として、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸などがあり、脂肪酸塩として、前記各種脂肪酸のナトリウム、カリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミンなどの塩類があり、グリセリン脂肪酸エステルとして、前記各脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどがあり、高級アルコール類として、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール,ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ベヘニルアルコールなどがあり、シリコーン類として、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、ポリエーテル変性、ポリグリセリン変性の変性シリコーンオイル、ジメチルポリシロキサンなどがあり、ロウ類として、ミツロウ、カルナバロウ、ラノリンなどがある。界面活性剤としては、陰イオン性、陽イオン性、両性、非イオン性の界面活性剤が用いられ、非イオン性界面活性剤の場合、HLB価は12以下であることが好ましい。
【0035】
柔軟成分の含浸量は、パルプ当たり0.01%〜30%が好ましい。更に好ましくは0.1%〜10%である。0.01%より少ないと、柔軟成分の効果が現れにくい。30%より多くなると、べたつき感、油性感が強くなりすぎて、触感が低下する。
<接着成分>
接着成分を助剤とともに添加することができる。接着成分は、パルプ繊維間の水素結合を増強することができる。そのため、接着成分の含浸により、つぎのような効果が期待できる。すなわち、しっとり感や、柔らかさとふんわり感を強調するために保湿成分や柔軟成分を増やすとクレープ紙のエンボス形状や必要強度を保てなくなる恐れがあるが、このとき、接着成分を加えることで、パルプ繊維間の水素結合強度が増すため、しっとり感、柔らかさ、エンボス形状保持による嵩高性(とふんわり感)を高く維持しながら、必要十分な強度を同時に実現することが出来るようになる。
【0036】
接着成分としては、でんぷん類、セルロース誘導体、海藻類、合成糊料、ポリアクリルアミド樹脂などがある。具体的には、でんぷん類として、小麦でんぷん、トウモロコシでんぷん、タピオカでんぷんなどがあり、セルロース誘導体として、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)などがあり、海藻類として、アルギン酸ソーダなどがあり、合成糊料として、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルなどがある。
接着成分の含浸量は、エンボス加工クレープ紙の重量当たり0.01%以上、1.0%未満であり、最大0.8%が好ましく、最大0.5%がより好ましい。0.01%より少ないと接着成分の効果が現れにくい。しかし、接着成分の含浸量が1.0%以上もの多量になりすぎると、本発明が意図している「ふんわり感」が損なわれる。
【0037】
すなわち、前述した清掃物品などのウエット製品では、その用途上の要求から、本発明が意図する以上の嵩高さが必要となる。そこで、原紙に対しエンボス加工を施す際に、本発明のごとく、原紙に水を供給しておいてエンボス加工することにより十分な嵩高さを付与することが考えられる。しかし、製品段階では、このようにして嵩高さを付与した基材に対し、その重量の数倍に達する多量の水や薬液を含浸させておく必要があり、そのため、この製品で対象物を擦るなどする使用時の負担により、その嵩高さが簡単に崩れる。そこで、嵩高さの崩れを防ぐため、基材に対して1重量%以上もの多量のバインダーを含浸させておくことが必要となるのである。しかし、その結果、製品の強度が強くなりすぎ、硬くて、肌ざわりに劣り、化粧用ティシュなどの用途には使用し難いものとなる。何よりも、本発明が意図している「ふんわり感」が失われるのである
本発明のエンボス加工クレープ紙においては、用途により、接着成分を含まないこともある。
【0038】
〔熱エンボスロール〕
エンボス加工に熱エンボスロールを使用すれば、湿潤状態のクレープ原紙に対して、エンボス加工と速やかな乾燥との両方を実質的に同時に行なうことができる。
熱エンボスロールは、エンボスロールの表面が加熱できるようになっている以外は、前記した通常のエンボスロールと共通する材料や構造を有するものが使用できる。エンボスロールの加熱手段として、伝熱性の良好な材料を用い、電熱ヒーターなどの加熱機構を内蔵しておくことができる。スチーム、熱湯などの熱媒が流通する通路や空間を設けておき、外部で加熱された熱媒を供給することもできる。
【0039】
熱エンボスロールの表面温度を40〜200℃に設定できる。好ましくは60〜120℃である。
〔エンボス加工クレープ紙〕
本発明のエンボス加工クレープ紙は、クレープ原紙にエンボス加工を施してなるものであり、たとえば、前記本発明の製造方法によって製造できる。
エンボス加工クレープ紙は、特に、クレープ原紙を複数枚(たとえば、2、3枚)重ねて用いたとき、嵩高性や強度、吸液性などの機能により優れたものとなる。
エンボス加工クレープ紙は、その坪量が6〜28g/mである。坪量が少な過ぎると繊維の均一な分散が困難になり、強度も弱くなる。坪量が多過ぎると、強度が強くなり過ぎ硬くなる。
【0040】
エンボス形状として、高低差0.01〜3.00mmで4〜200個/cmのエンボス形状、好ましくは高低差0.01〜1.00mmで10〜200個/cmのエンボス形状を有するものであり、より好ましくは、高低差0.05〜0.50mm、20〜100個/cmのエンボス形状を有するものである。このエンボス形状が適切であることは、見掛け密度や吸油性能を向上させることにも結びつく。エンボスの平面形状は、円や長円、楕円などの曲線形状、矩形その他の多角形を構成する直線形状、曲線と直線とを組み合わせた形状などがある。
エンボス加工クレープ紙の縦方向の引張強さが、実施例の欄で規定される式により求められる裂断長に換算して0.15〜1.5kmであることが好ましく、0.3〜1.0kmであることが更に好ましい。0.15kmより弱いと、ティシュペーパーやトイレットペーパーとして使用する際に、破れやすくて使用できない。1.5kmより強いと、使用時に硬い触感を与え、ふんわり感が損なわれる。
【0041】
エンボス加工クレープ紙は、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.09g/cm以下であることが好ましい。また、エンボス加工クレープ紙を2枚重ねにして測定したときの見かけ密度(荷重下)が、未エンボス加工のクレープ原紙(保湿成分等の助剤は含有しないもの)を2枚重ねにして測定したときの値より、20%以上小さくなったものが好ましい。ここで規定される見掛け密度は、実施例の欄で規定される試験方法で得られた値であり、荷重10gf/cmで測定された厚みから算出された荷重条件下での見掛け密度を意味する。以下で説明する各特性値も、実施例の欄で規定される試験方法で規定される値である。クレープ原紙に対する見掛け密度の減少割合が大きくなるほど、エンボス加工による嵩高性の向上が有効に機能していることを示す。
【0042】
ティシュやペーパータオルとして使用する際に要求される油(脂)の拭き取り吸収機能に優れたものが好ましい。具体的には、エンボス加工クレープ紙を2枚重ねにして測定したときの保油量が、未エンボス加工のクレープ原紙(保湿成分等の助剤は含有しないもの)を2枚重ねにして測定したときの値よりも20%以上多くなったものが望ましい。同様に、エンボス加工クレープ紙を2枚重ねにして測定したときの吸油速さが、未エンボス加工のクレープ原紙(保湿成分等の助剤は含有しないもの)を2枚重ねにして測定したときの値よりも30%以上短くなったものが望ましい。
エンボス加工クレープ紙は、2枚重ねで測定したときの柔軟度が70mN/100mm以下であるものが好ましい。柔軟度の試験方法も後述する実施例の欄で規定される。
【0043】
〔助剤含浸エンボス加工クレープ紙〕
本発明にかかるエンボス加工クレープ紙において、これに保湿成分および柔軟成分のうちの少なくとも1つを含浸させることにより得られる助剤含浸エンボス加工クレープ紙のうち、保湿成分を含む保湿成分含有エンボス加工クレープ紙は、特に、製造時点では乾燥状態であっても、保管流通および使用の環境において、環境中の水分を吸収保持して、水分を含む状態になる。適切な水分率を有することで、しっとりとした肌触りを与え、拭き取り機能も良好になる。
保湿成分含有エンボス加工クレープ紙の特性条件も、基本的には、前記エンボス加工クレープ紙全般について規定された条件を満足することが望ましい。
【0044】
保湿成分含有エンボス加工クレープ紙の場合、特に、2枚重ねで測定したときの前記見掛け密度(荷重下)が、前記エンボス加工を施しておらずに前記保湿成分を含有する保湿成分含有クレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも10%以上小さいものが、柔らかさ、ふんわり感など、肌触りを良好にできるので好ましい。2枚重ねで測定したときの保油量が、前記エンボス加工を施しておらずに前記保湿成分を含有する保湿成分含有クレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも30%以上多いものが、油(脂)の拭き取り吸収機能に優れ好ましい。さらに、2枚重ねで測定したときの吸油速さ(s)として、前記エンボス加工を施しておらずに前記保湿成分を含有する保湿成分含有クレープ原紙2枚重ねで測定したときの50%以下の短い吸油速さ(s)を示すものが好ましい。
【0045】
クレープ原紙を2枚重ねで用いた保湿成分含有エンボス加工クレープ紙として、見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm以下、柔軟度が40mN/100mm以下、縦方向の引張強さが実施例の欄で規定される式により求められる裂断長に換算して0.15〜1.5kmであるものが好ましい。クレープ原紙を3枚重ねで用いた保湿成分含有エンボス加工クレープ紙として、見掛け密度(荷重下)が0.11g/cm以下、柔軟度が60mN/100mm以下であるものが好ましい。
上記助剤含浸エンボス加工クレープ紙のうち、柔軟成分を含む柔軟成分含有エンボス加工クレープ紙の特性条件も、基本的には、前記エンボス加工クレープ紙全般について規定された条件を満足することが望ましい。
【0046】
柔軟成分含有エンボス加工クレープ紙の場合、特に、2枚重ねで測定したときの前記見掛け密度(荷重下)が、前記エンボス加工を施しておらずに前記柔軟成分を含有する柔軟成分含有クレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも15%以上小さいものが、柔らかさ、ふんわり感など、肌触りを良好にできるので好ましい。2枚重ねで測定したときの保油量が、前記エンボス加工を施しておらずに前記柔軟成分を含有する柔軟成分含有クレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも15%以上多いものが、油(脂)の拭き取り吸収機能に優れ好ましい。さらに、2枚重ねで測定したときの吸油速さ(s)として、前記エンボス加工を施しておらずに前記柔軟成分を含有する柔軟成分含有クレープ原紙2枚重ねで測定したときの20%以下の短い吸油速さ(s)を示すものが好ましい。
【0047】
クレープ原紙を2枚重ねで用いた柔軟成分含有エンボス加工クレープ紙として、見掛け密度(荷重下)が0.11g/cm以下、柔軟度が70mN/100mm以下、縦方向の引張強さが実施例の欄で規定される式により求められる裂断長に換算して0.15〜1.5kmであるものが好ましい。
そして、本発明にかかるエンボス加工クレープ紙は、保湿成分とは別に、もしくは、保湿成分と併せて、柔軟成分、場合により接着成分をも含浸させた場合、紙質、特に、その強度や風合いを適当にコントロールできて、多種多用な用途に合わせることができる。
〔本発明のエンボス加工クレープ紙の特性〕
本発明のエンボス加工クレープ紙としては、たとえば、以下のような特性を持つエンボス加工クレープ紙が好ましい。
【0048】
クレープ原紙は、その繊維原料の70重量%以上が広葉樹パルプおよび/または針葉樹パルプ(これらのパルプのカナダ標準濾水度は300ml以上が望ましい)であって、坪量が6〜28g/m、クレープ率が3〜50%であり、エンボス加工クレープ紙は、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.09g/cm以下、柔軟度が70mN/100mm以下、縦方向の引張強さが実施例の欄で規定される式により求められる裂断長に換算して0.15〜1.5kmである、エンボス加工クレープ紙。
2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が、未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも20%以上小さい、エンボス加工クレープ紙。
【0049】
2枚重ねで測定したときの保油量が、未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも20%以上多い、エンボス加工クレープ紙。
保湿成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm以下、柔軟度が40mN/100mm以下、縦方向の引張強さが実施例の欄で規定される式により求められる裂断長に換算して0.15〜1.5kmである、エンボス加工クレープ紙。
保湿成分を含有し、重ね合わせ枚数が3枚であり、見掛け密度(荷重下)が0.11g/cm以下、柔軟度が60mN/100mm以下である、エンボス加工クレープ紙。
【0050】
保湿成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が、保湿成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも10%以上小さい、エンボス加工クレープ紙。
保湿成分を含有し、2枚重ねで測定したときの保油量が、保湿成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも30%以上多い、エンボス加工クレープ紙。
柔軟成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.11g/cm以下、柔軟度が70mN/100mm以下、縦方向の引張強さが実施例の欄で規定される式により求められる裂断長に換算して0.15〜1.5kmである、エンボス加工クレープ紙。
【0051】
柔軟成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が、柔軟成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも15%以上小さい、エンボス加工クレープ紙。
柔軟成分を含有し、2枚重ねで測定したときの保油量が、柔軟成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも15%以上多い、エンボス加工クレープ紙。
〔エンボス加工クレープ紙の用途〕
本発明のふんわり感に優れる、このエンボス加工クレープ紙は、嵩高性や柔軟性、油などの吸収性、拭き取り性能などを要求される各種用途に使用することができる。従来、エンボス加工クレープ紙が使用されていた用途に使用できる。特に、保湿成分含有エンボス加工クレープ紙は、従来、保湿ティシュなどの保湿紙が使用されていた用途に使用できる。
【0052】
例えば、化粧用のティシュがある。ペーパータオル、トイレットペーパー、キッチンペーパーなどがある。特に、保湿ティシュ、保湿トイレットペーパーなどに好適に用いられる。
【発明の効果】
【0053】
本発明にかかるエンボス加工クレープ紙の製造方法は、クレープ原紙に水を供給して適切な湿潤状態にしてからエンボス加工を施し、そのあと乾燥させる。適切な湿潤状態のクレープ原紙は、エンボス加工が良好に行なえ、細かなエンボス形状も明瞭に形成させることができる。クレープ原紙を構成する繊維の損傷や繊維間の水素結合の破壊などが少なく、クレープ原紙の特性が損なわれ難い。エンボス加工を終えた湿潤状態のクレープ原紙を乾燥させれば、形成されたエンボス形状が崩れたり変形したりすることなく固定化されて、明瞭なエンボス形状を有するエンボス加工クレープ紙が得られる。エンボス加工による強度の低下も起こり難い。
【0054】
得られたエンボス加工クレープ紙は、細かく明瞭なエンボス形状を有し、密度が小さく嵩高性、柔軟性などの特性に優れたものになる。何よりも、原紙を複数枚(たとえば、2、3枚)重ねて用いたとき、「ふんわり感」により優れたものとなり、化粧用のティシュ製品などに要求される保油量や吸油速度がより優れ、拭き取り機能により優れたものとなる。このより優れた「ふんわり感」に基づく保油量、吸油速度や拭き取り機能などの良さは、本発明のエンボス加工クレープ紙が、トイレットペーパーなどの巻き取り状態である場合も、また、これを巻き取り状態から解くか、単葉のままで折り畳むかして、重ね合わせ状態にしたときも、好適に生きてくるのである。
【0055】
本発明によれば、湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施すときに、保湿成分が存在しておればしっとり感が向上し、柔軟成分が存在すればふんわり感が向上する。保湿成分と柔軟成分、場合により接着成分を併用することで、強度、嵩高性、保油量、吸油速さ、柔軟度、ふんわり感、しっとり感など各特性に優れた製品とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
〔製造ラインの構成〕
図1は、3プライ(3枚重ね)の保湿ティシュ等となる助剤含浸エンボス加工クレープ紙であるエンボス加工クレープ紙Tの製造ラインを模式的に示している。
製造ラインの最上流部には、3基の原紙ロール12が設置されている。それぞれの原紙ロール12…から帯状のクレープ原紙10a、10b、10cが引き出されて3枚重ねにされ、3枚重ねのクレープ原紙10として、連続的に走行させられる。
原紙ロール12の下流側には、助剤液供給部20が配置されている。助剤液供給部20は、貯留槽に溜められた助剤液22を、一対の塗工ロール間を通過するクレープ原紙10に塗工する。助剤液22が供給される側の塗工ロールに接触するクレープ原紙10の表面側に助剤液22が塗工されるので、2個所の助剤液供給部20で、クレープ原紙10の両面に順次、助剤液22が塗工されるようになっている。その結果、クレープ原紙10を構成する各層のクレープ原紙10a〜10cの全体に助剤液22が吸収担持される。助剤液22は、グリセリンなどの保湿成分、ステアリルアルコールなどの柔軟成分、および/または、CMC−Naなどの接着成分とともに水が配合されている場合もあるが、助剤液22に含まれる水分量は比較的に少量である。
【0057】
助剤液供給部20の下流側には、水供給部30が配置されている。走行するクレープ原紙10の上下両面にクレープ原紙10の全幅にわたって配置されたシャワー配管から水をシャワー状に噴出させて、クレープ原紙10の全体に水を供給し吸収保持させる。吸水したクレープ原紙10は、繊維間における水素結合が少し緩んだ状態になる。
水供給部30の下流側には、エンボス加工部40が配置されている。走行するクレープ原紙10にエンボス加工を施す。水を吸収保持して湿潤状態になったクレープ原紙10にエンボス加工を施すことになる。クレープ原紙10の内部で、吸水し水素結合が少し緩んだ繊維同士は比較的に容易に動くことができ、細かいエンボス形状も明瞭に付与される。但し、水が供給されたすぐ後では、繊維そのものの内部までは水が取り込まれておらず、繊維の膨張は生じていない。
【0058】
エンボス加工部40の下流側には、乾燥室などの乾燥部50が配置されている。乾燥部50は、クレープ原紙10を走行させながら、ヒーターで加熱したり熱風を吹き付けたりすることで、クレープ原紙10に吸収保持されている水分を蒸発させ、急速に乾燥させる。吸水によって緩んだ水素結合が再結合することになり、エンボス加工されたエンボス形状がそのままの形状で迅速に固定される。
乾燥部50の下流側には、紙分離部60が設置されている。3枚重ねでエンボス加工を施されたクレープ原紙10を、個々の原紙10a、10b、10cに一度分離させたあと、再び重ね合わせる。この作業は、上下の原紙10a…において、エンボス加工による凹凸が引き離され、再び重ね合わせたときに、上下の凹凸の位置がわずかにずれることで、各原紙10a…間に隙間が生じる。クレープ原紙10全体の嵩高性が向上する。
【0059】
紙分離部60の下流側には、助剤が含浸されエンボス加工が施されたエンボス加工クレープ紙Tを回収保持する回収ロール70が配置されている。
回収ロール70は、必要に応じて、次の製造工程に送られたり、輸送や保管の作業に送られたりすることになる。
図1の実施形態においては、クレープ原紙がエンボス加工後に重ね合わされ、そののち、乾燥部に送り込まれるようであっても良い。
〔エンボス加工の詳細〕
図2に示すように、エンボス加工には、3種類の形態がある。
【0060】
図2(a)のように、表面にエンボス加工用の凹凸が形成され、鋼材などの硬質材料からなるエンボスロール42と、ゴムなどの弾力的に変形できる材料からなり表面が平坦な受けロール44との間に、クレープ原紙10を挟み込めば、エンボスロール42の凹凸形状にしたがって、クレープ原紙10だけでなく受けロール44の表面も変形する。クレープ原紙10には凹凸形状が形成され、エンボス加工が施される。クレープ原紙10は、その厚み自体はあまり変わらずに上下に屈曲するように変形するので、ほぼ同じ厚みで上下両面に凹凸形状が形成されることになる。
図2(b)では、弾力的に変形する受けロール44の代わりに、エンボスロール42と同様の硬質材料からなる受けロール46を用いる。この場合、クレープ原紙10は、下面については平坦な受けロール46の表面にしたがって平坦な状態を維持する。エンボスロール42の凹凸形状と受けロール46との隙間の大きさが周期的に変化するので、クレープ原紙10の上面側には、エンボスロール42の凹凸形状に対応する凹凸形状が形成されるとともに、表面の凹凸形状にしたがって、クレープ原紙10の厚みが変化する。3枚重ねのクレープ原紙10の場合、エンボスロール42側の原紙10cは、大きく上下に波打つような凹凸成形が施されるとともに厚みの変化も生じる。受けロール46に近い原紙10aは、下面が平坦なままで厚みの変化だけが断続的に生じることになる。
【0061】
但し、図2(a)と図2(b)の形態は、両者の違いを判り易く説明するために模式的かつ単純化して示している。実際のエンボス加工では、両形態の中間の形態になることも多い。特に、図2(a)でゴム製の受けロール44を使用した場合も、凹凸形状にしたがって、クレープ原紙10の厚みにもある程度の変化が断続的に生じることが多い。
さらに、図2(c)では、一対のロールの何れにも、表面にエンボス加工用の凹凸を有する硬質材料からなるエンボスロール42、42を用いる。但し、一対のエンボスロール42、42で、凹凸の配置がずれている。このような一対のエンボスロール42,42でクレープ原紙10をエンボス加工すると、表側と裏側とに交互にエンボス加工による凹み形状が形成される。エンボスロール42、42における凹凸形状の配置は、山形の先端と相手側の谷底との距離が狭く、山形の側面と相手側の山形の側面との距離が広く設定されている。その結果、エンボス形状のうち、凹み形状の底辺部分は、その両側の側辺部分よりも厚みが薄くなっており、部分的に厚みの違いが生じている。
【0062】
以上に説明したエンボス加工において、例えば、一対のロール、例えばエンボスロール42と受けロール44との間隔を調整したり、加圧する圧力を調整したりすることで、クレープ原紙10の厚み変化を大きくしたり小さくしたりすることができる。
このような厚みの変化を付けておくことで、製造されたエンボス加工クレープ紙をティシュ製品などに使用したときに、油を吸収した状態が視認し易くなる。すなわち、厚みの違いは、紙の密度の違いとなる。厚みが薄く密度の高くなった部分は、吸油速度が速く吸油量が飽和し易い。飽和した油はパルプ繊維間に溜まって、その部分が透明になる。周囲の密度が低い部分では、吸油量がまだ飽和していないので、透明にはならない。その結果、紙に部分的に透明度あるいは色の違う部分が生じる。油を吸収した部分が明瞭に視認できる。例えば、ティシュの使用時に、順次、油を吸収した部分を避けて油を吸収していない部分を使用するようにすれば、ティシュ全体を効率的に使用することが可能になる。しかも、凹凸の隙間にできる空間に油を溜めることで、全体としての吸油量を増やすこともできる。
【0063】
なお、前記した紙分離部60による処理では、エンボス加工で図2(a)〜(c)のように3枚の原紙10a〜10cの凹凸がぴったりと重なった状態になったクレープ原紙10が、原紙10a〜10cを上下に分離して再び重ね合わせることで、それぞれの凹凸が水平方向でわずかにずれた状態で重ねられることになり、原紙10a〜10c同士の間に微小な隙間が形成されることになる。図2(a)〜(c)のエンボス加工直後における形態よりも格段に嵩高いものになる。
〔別の実施形態その1〕
図3に示す製造ラインは、前記図1の実施形態と少し装置構成が異なる。共通する部分については説明を省略し、異なる構成を主にして説明する。
【0064】
最上流部分に、3基の原紙ロール12が設置され、3枚のクレープ原紙10a、10b、10cが引き出され、3枚重ねのクレープ原紙10が供給されるのは、前記実施形態と同じである。
原紙ロール12の下流側に配置された2個所の助剤液供給部20も、前記実施形態と共通している。但し、助剤液供給部20で供給する助剤液22として、保湿成分などの助剤のほかに比較的に大量の水を含む助剤液22が使用される。したがって、クレープ原紙10には、助剤に加えて十分な量の水が供給される。クレープ原紙10は、水を吸収担持した状態になる。
【0065】
助剤液供給部20の下流側に配置されたエンボス加工部40は、熱エンボスロール48を備えている点が、前記実施形態と異なる。
熱エンボスロール48は、基本的には、前記したように、金属材料などで構成され表面に凹凸形状を有しているとともに、内部に電熱ヒーターなどの加熱機構を備えている。ロール表面が加熱状態になっている。そのため、クレープ原紙10は、エンボス加工を施されると同時に加熱される。加熱されたクレープ原紙10は、水分が蒸発して急速に乾燥する。エンボス加工と乾燥とが、ほぼ同時に行なわれることになる。厳密には、クレープ原紙10が、上下をエンボスロールで挟まれている状態では水分が蒸発し難いので、エンボスロールから外れた時点から、加熱状態のクレープ原紙10からの水分蒸発すなわち乾燥が開始されるものと考えられる。
【0066】
エンボス加工部40の下流側に、紙分離部60および回収ロール70が配置されているのは前記実施形態と共通している。回収ロール70には、助剤が含浸されエンボス加工が施されたエンボス加工クレープ紙Tが回収される。
〔別の実施形態その2〕
図4に示す製造ラインは、3枚のクレープ原紙10a、10b、10cが3つのエンボス部40で個々別々にエンボス加工を施されるようになっている点で、3枚合わせてエンボス加工される図3の実施形態と異なる。したがって、図1や図3の実施形態と共通する部分については説明を省略する。
【0067】
図4の実施形態においては、別々にエンボス加工されたクレープ原紙は、乾燥部50で乾燥された後、互いに重ね合わされているが、エンボス加工後に重ね合わされ、そののち、乾燥部50に送り込まれるようであっても良い。また、図3のごとく、熱エンボスロール48でエンボス加工と乾燥を兼ねるようであっても良い。
クレープ原紙を重ね合わせてエンボス加工すると、厚みが大きいことが原因になって、原紙の種類などによっては設計どおりのエンボス形状を付与することが難しい場合がある。図3のように、3枚重ねでエンボス加工すると、真ん中の原紙のエンボス形状が鮮明さを欠くことがある。その点、図4のごとくに、クレープ原紙を個々別々にエンボス加工すると、常に鮮明なエンボス形状を得ることができる。
【実施例】
【0068】
具体的にエンボス加工クレープ紙を製造し、その特性や性能を評価した。
〔測定方法〕
<供給水量>
水を供給したあとのクレープ原紙の重量から、水を供給する前のクレープ原紙の重量を差し引いて、供給された水の重量を測定し、クレープ原紙の重量当たりの、供給水の重量を、%で表示した。
水が含まれている助剤液を使用する場合は、元々から助剤液に含まれていた水の量と、試験の際に助剤液に追加された水の量と、両者を合わせた合計の水の量とをそれぞれ測定あるいは算出した。
【0069】
<エンボス形状>
エンボス加工を終えて得られたエンボス加工クレープ紙を観察して、エンボス形状の明瞭さを、以下の基準で評価した。
○:明確である、△:やや明確である、×:不明瞭である。
<引張強さ>
JIS−S3104(1999)に規定されるティシュペーパーの引張強さ試験に準じて、乾燥状態の紙に対して、縦方向の引張強さ(N)を測定した。
<裂断長>
縦方向の引張強さ(N)より、下記の式によって求めた。
【0070】
裂断長(km)=縦方向の引張強さ(N)×1000/(9.81×試験片の幅(25mm×2)×坪量(g/m))
<見掛け密度>
常法にしたがって圧縮特性試験を行ない、測定された紙の厚さと坪量とから、下式で算出した。
見掛け密度(g/cm)=坪量(g/m)/〔厚さ(mm)×1000〕
ここで、紙の坪量は、JIS−P8124で規定されるメートル坪量である。但し、見掛け密度の計算では、助剤が含浸されたクレープ紙の坪量は、助剤を除いたクレープ紙のみの坪量を意味する。
【0071】
紙の厚さは、圧縮試験機KES−FB3(製品名、カトーテック社製)を用いて測定した。測定条件は、標準高感度測定、加圧板2cm、圧縮スピード0.0067mm/sに設定した。
以下の各測定条件における測定値を求めた。何れの場合も、見掛け密度が小さいほど、嵩高性に優れていることになる。
無荷重:圧縮特性試験を実質的に無負荷とみなせる測定荷重0.5gf/cmで行なった。
荷重下:圧縮特性試験を測定荷重10gf/cmで行なった。実際の使用時に手に持って肌を拭いたりする際に加わる荷重状態に近い荷重条件である。
【0072】
圧縮時:圧縮特性試験の前に、100gf/cmの圧力を1分間かけて紙を圧縮変形させたあとで圧力を解放し、1分後に圧縮特性試験を行なった。圧縮変形の回復性能を評価する。
<保油量>
パット内に試験用の油を溜めておき、紙の試料をパット内の油に十分に浸漬したあと取りだした。取り出した試料を、水平面に対して30度傾けて配置された金網の上に載せ、2分間静置した。そのあと、油を保持する試料の重量を測定した。試験前における試料の重量から試料に保持された油の重量を求めた。試料の坪量に対する油の重量の倍率を、保油量(倍)とする。保油量が大きいほど、大量の油などを吸収することができる。
【0073】
試験用油として、流動パラフィン(クリストールN72、エクソンモービル社製)を用い、温度23℃で試験を行なった。
<吸油速さ>
JIS−S3104(1999)に規定されるティシュペーパーの吸水度試験に準じて測定した。水の替わりに、油〔流動パラフィン(クリストールN72、エクソンモービル社製)〕を用い、温度23℃で滴下量を0.03mlに設定して測定した。測定値を、吸油速さ(s)で表した。吸油速さ(s)が短いほど、速やかに油を吸収できることになる。
【0074】
<柔軟度>
「JAPAN、TAPPI、NO.34、紙−柔らかさ試験方法」に規定される試験方法に準じ、以下の条件で測定した。
試料を試験機のスリット間に押し込み、そのときの抵抗力(mN/100mm)を測定した。試料の縦方向と横方向とについてそれぞれ測定し、その平均値を求めた。数値が小さいほど、抵抗が少なく、柔らかいと判断される。
試験機:ハンドルオメーター(熊谷理機工業社製)、試料寸法:10×10cm、スリット幅:6.35mm。
【0075】
<ふんわり感>
モニター10名により官能試験を行ない、下記の基準で評価し、平均点を求めた。
大変ふんわりしている:4点、ふんわりしている:3点、ややふんわりしている:2点、ふんわりしていない:1点。
<加工適性>
エンボス加工時に、走行中の紙にシワが発生するか否かを観察し、下記の基準で評価した。
シワの発生なし:○、シワの発生あり:×。
【0076】

〔実施例1〕
<クレープ原紙>
LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ)60重量%、NBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ)40重量%の配合からなるパルプ原料をカナダ標準濾水度620〜630mlに叩解し、湿潤紙力剤0.2重量%(対パルプ原料)を添加し、常法によりクレープ原紙を抄紙した。
得られたクレープ原紙は、坪量13g/m、クレープ率18%であった。
【0077】
<エンボス加工クレープ紙の製造>
乾燥状態のクレープ原紙を2枚重ねにし、下表に示す量の水をクレープ原紙表面にスプレーして吸水させた。供給水量は、クレープ原紙の重量当たりの、供給水の重量を%で表した。
湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施した。エンボス加工は、鋼製のエンボスロールと、ラバー製の受けロールとを備えるエンボス加工装置を用い、圧力70kPaをかけた。エンボス加工によって形成されたエンボスパターンは、1辺が約0.7mmの正方形であり、エンボスの深さは約0.08mmであり、1cm当たり50個のエンボス単位を有していた。
【0078】
エンボス加工されたクレープ原紙を、乾燥装置(ヒーター加熱)を用いて、60℃で1分加熱することで乾燥させた。乾燥終了後、重ねたクレープ原紙を1枚づつに剥がし、再び重ねて、エンボス加工ティシュペーパーを得た。
これらの処理作業を、クレープ原紙を4m/分で走行させながら連続的に行なった。
製造されたエンボス加工クレープ紙に前記した各測定試験を行なった。
〔比較例1〕
比較例として、水を全く供給しない、環境水分と平衡状態にあるクレープ原紙を用いた場合(比較例1−1)と、大量の水を供給した場合(比較例1−2)と、紙力剤を配合したクレープ原紙に水を供給しないでエンボス加工を行なった場合(比較例1−3)と、エンボス加工を施さないクレープ原紙(原紙)についても、同様の試験を行なった。比較例1−3のクレープ原紙は、乾燥紙力剤DS4336(星光PMC社製)を対パルプ当たり固形分で2%配合して抄紙されたものである。
【0079】
試験の結果を下表に示す。なお、表中、引張強さ、見掛け密度、保油量、吸油速さの項では、原紙に対する変化率(%)を併記している。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
<評価>
(1) 湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施した各実施例では、乾燥状態のクレープ原紙にエンボス加工を施した比較例1−1に比べて、エンボス形状が明瞭であり、引張強さが向上した。見掛け密度は小さく、嵩高性が向上した。保油量が増え、吸油速さも優れている。ふんわり感が向上している。
(2) 実施例における各特性値の原紙に対する変化率をみると、引張強さは6〜17%向上し、荷重下における見掛け密度は30〜48%減少している。保油量は22〜27%増えている。吸油速さは31〜48%短い時間で吸油できる。
【0083】
このような各特性の大幅な向上が、湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施すという比較的に簡単な作業で達成できることは、産業的に極めて有用である。
(3) 実施例の中でも供給水量の違いにより各特性に差が生じる。
例えば、引張強さは、供給水量が増えるほど向上し、供給水量20%(実施例1−5)で最も強くなるが、供給水量50%(実施例1−6)では少し弱くなる。比較例1−2のように供給水量200%になるほど大量の水を供給すると、エンボス加工が行なえなくなった。
見掛け密度は、測定条件によって少し異なるが、供給水量10%(実施例1−4)あるいは供給水量20%(実施例1−5)付近が、総合的に最も見掛け密度が小さく嵩高性に優れたものになる。
【0084】
(4) 比較例1−3は、紙力剤の配合によって繊維間の結合を増強させて紙の強度を向上させたクレープ原紙を用いている。エンボス加工は比較的良好に行なえ、見掛け密度も小さくなっているが、紙が硬くなり、柔軟度やふんわり感が劣っている。ティシュ製品など、肌触りの良さなどが要求される用途には使用し難い。

〔実施例2〕
<保湿ティシュ:2枚重ね>
前記実施例1と同様のクレープ原紙を2枚重ねにし保湿成分を保持させて製造された保湿ティシュ「アヴォンリー キース」(商品名、河野製紙社製)の製造用紙を用いた。この保湿ティシュ用紙は、保湿加工前の坪量12.7g/m、保湿加工後の坪量15.6g/mである。
【0085】
保湿成分には、グリセリンおよびソルビットが含まれている。また、保湿成分を供給する保湿液には水も含まれていたが、クレープ原紙に保湿液を供給したあとで十分な時間を放置しておいた。その結果、保湿ティシュ用紙は、保湿成分に環境中の水分と平衡状態にある水分が含まれた状態になっている。
<エンボス加工保湿ティシュ用紙の製造>
保湿ティシュ用紙に、下表に示す量の水をスプレーして吸水させた。供給水量は、保湿ティシュ用紙の重量当たりの重量を%で表した。
湿潤状態の保湿ティシュ用紙に、実施例1と同様にして、エンボス加工を施し、乾燥させ、1枚づつに分離し、再び重ねて、エンボス加工保湿ティシュを得た。
【0086】
製造されたエンボス加工保湿ティシュに、実施例1と同様の試験を行なった。
〔比較例2〕
比較例2−1は、水を全く供給せず、エンボス加工後の乾燥を行なっていない場合である。比較例2−2は、保湿ティシュ原紙として、紙力剤を配合した原紙に前記保湿ティシュ「アヴォンリー キース」と同様の保湿加工を施したクレープ原紙を用い、水を供給しないでエンボス加工を行なった。比較例1−3と同じく、乾燥紙力剤DS4336(星光PMC社製)を対パルプ当たり固形分で2%配合して抄紙されたものである。
試験の結果を下表に示す。表中において、原紙とは、保湿ティシュ用紙すなわち保湿成分含有クレープ原紙を意味する。
【0087】
【表3】

【0088】
<評価>
(1) 実施例1のクレープ原紙と同様に、実施例2の保湿ティシュ用紙の場合も、湿潤状態でエンボス加工を施すことが有用であることが実証された。
(2) エンボス加工を施していない保湿ティシュ用紙(原紙)に対する各特性値の変化率をみると、引張強さは5〜8%向上し、荷重下における見掛け密度は31〜42%減少している。保油量は31〜35%増えている。吸油速さは67〜68%も短い時間で吸油できる。
従来、保湿ティシュ製品は、通常のティシュ製品に比べて、強度などの特性が低下することはやむを得ないと考えられていたが、上記のような各特性の向上が達成できれば、保湿ティシュ製品の性能向上、新たな用途の拡大に大きく貢献できることになる。
【0089】
(3) 比較例2−2は、前記比較例1−3と同様に、紙の強度が高く硬いので、水を供給しなくてもエンボス形状は明瞭であり見掛け密度も低下しているが、柔軟度やふんわり感が劣り、ティシュ製品としての商品価値は劣るものになる。

〔実施例3〕
<保湿ティシュ:3枚重ね>
クレープ原紙を3枚重ねにした保湿ティシュ「ふふふ」(商品名、河野製紙社製)の製造用紙を用いた。保湿加工前の坪量11.0g/m、保湿加工後の坪量12.0g/mである。
【0090】
<エンボス加工保湿ティシュ用紙の製造>
実施例2と共通する工程を経て、エンボス加工保湿ティシュを得た。製造されたエンボス加工保湿ティシュに、実施例1と同様の試験を行なった。
〔比較例3〕
比較例3−1は、水を全く供給しなかった場合である。比較例3−2は、保湿ティシュ原紙として、紙力剤を配合した原紙に、前記保湿ティシュ「ふふふ」と同様の保湿加工を施したクレープ原紙を用い、水を供給しないでエンボス加工を行なった場合である。比較例1−3と同じく、乾燥紙力剤DS4336(星光PMC社製)を対パルプ当たり固形分で2%配合して抄紙されたものである。
【0091】
試験の結果を下表に示す。表中において、原紙とは、保湿ティシュ用紙すなわち保湿成分含有クレープ原紙を意味する。
【0092】
【表4】

【0093】
<評価>
(1) 実施例2の保湿ティシュ用紙(2枚重ね)と同様に、保湿ティシュ用紙(3枚重ね)でも、湿潤状態でエンボス加工を施すことが非常に有用である。
(2) エンボス加工を施していない保湿ティシュ用紙(原紙)に対する各特性値の変化率をみると、引張強さは11〜24%向上し、荷重下における見掛け密度は11〜35%減少している。保油量は45〜51%増えている。吸油速さは56〜64%も短い時間で吸油できる。
(3) 実施例2と比較すると、保湿ティシュ用紙としては、2枚重ねよりも3枚重ねのほうが、保油量および吸油速さに優れている。また、保油量の増加の程度が密度の変化に比べて高いのは、エンボス加工前の保湿ティシュ用紙の保油量が少ないためであり、これは、エンボス加工前の保湿ティシュ用紙では、油を含浸させたときに油の張力で引っ張られて紙層間の空間を保てないためである。しかしながら、エンボス加工によって紙層間に構造的な空間が形成されると、張力に逆らって油を保持する空間を保てるようになるので、保油量が顕著に増加するのである。このように、保湿ティシュ用紙にエンボス加工を行う効果が顕著に現れている。
【0094】
(4) 比較例3−2は、前記比較例1−3と同様に、紙の強度が高く硬いので、水を供給しなくてもエンボス形状は明瞭であり見掛け密度も低下しているが、柔軟度やふんわり感が劣り、ティシュ製品としての商品価値は劣るものになる。

〔実施例4〕
<保湿液および水の供給>
グリセリンとソルビットと水とを、6:2:3の重量比率で含む保湿液を用いた。図1に示す構造を有する保湿液の供給部および水の供給部を用いて、クレープ原紙に保湿液の供給および水の供給を行なった。保湿液の供給にはグラビア印刷ロールを用いた。
【0095】
実施例4−1〜4−3は、水の供給量は異なるが、保湿液の供給量は共通している。保湿成分として、クレープ原紙の重量に対してグリセリン6重量%、ソルビット2重量%が保持されるとともに、保湿液に含まれる水3重量%が供給される。実施例2、3とは異なり、保湿液を供給したあとで乾燥処理を行なわずに、引き続いて水の供給を行なうので、追加供給された追加水量と保湿液の含水量とを足し合わせた合計供給水量が、クレープ原紙に供給された状態になる。
<エンボス加工クレープ紙の製造>
前記した各実施例と同様の工程で、エンボス加工クレープ紙を製造した。得られたエンボス加工クレープ紙は、保湿成分を保持するエンボス加工保湿ティシュである。
【0096】
試験の結果を下表に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
<評価>
(1) 保湿液の供給と水の供給とを組み合わせても、前記各実施例と同様に、エンボス形状を明瞭に形成できることが実証された。

〔実施例5〕
<保湿液および水の供給>
実施例4と同様にして、クレープ原紙に保湿液と水とを供給した。
但し、実施例5−1は、保湿液を塗工後、環境中に24時間放置し、環境中の水分と平衡状態にした。このときの含水量は3%であった。実施例5−2は、実施例5−1の状態にさらに水を1.5%追加供給した。
【0099】
<エンボス加工クレープ紙の製造>
前記した各実施例と同様の工程で、エンボス加工クレープ紙を製造した。但し、エンボス加工に熱エンボスロールを用い、エンボス加工後の乾燥工程は行なう必要がない。
熱エンボスロールは、エンボス表面温度60℃に加熱されていた。圧力70kPaに設定した。その他の処理条件は、実施例1と共通している。得られたエンボス加工クレープ紙は、保湿成分を保持するエンボス加工保湿ティシュである。
試験の結果を下表に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
<評価>
(1) エンボス加工を、熱エンボスロールを用いて行なえば、エンボス加工の工程とその後の乾燥工程を一度に実施でき、製造工程が簡略化されるとともに、前記各実施例と同様に良好なエンボス加工の仕上がりが得られることが実証された。
(2) 実施例5−1では、エンボス加工前のクレープ原紙には、保湿成分に取り込まれた平衡状態にある水分しか含まれていない。この場合でも、熱エンボスロールを使用するなど、クレープ原紙と熱源とが密着して、エンボス形状の形成とほぼ同時に乾燥が行なわれるような方法を採用すれば、エンボス形状が良好に形成され乾燥後も維持される。このような平衡状態にある保湿成分が担持されたクレープ原紙に熱エンボスロールによるエンボス加工を行なうと、保湿成分に取り込まれている水分が揮発して乾燥状態になる。しかし、その後の処理工程や保管流通、使用の環境において、保湿成分が環境中の水分を吸収して、再び平衡状態に戻る。
【0102】
(3) 湿潤状態にはないが、環境中の水分を吸湿して平衡状態にあるクレープ原紙、または、吸湿の途中であり平衡状態に満たないクレープ原紙に、エンボスロールまたは熱エンボスロールによるエンボス加工を行うことも考えられるが、このようなクレープ原紙においては、パルプ繊維間の水素結合を緩ませたり再結合させたりするための水が繊維間に存在しないため、良好なエンボスが形成できない。

以下では、助剤の違いによる効果の違いを見た。
[実施例6]
実施例1と同様にしてクレープ原紙を抄紙した。得られたクレープ原紙は、坪量13.4g/m、クレープ率18%のものであった。乾燥状態のこのクレープ原紙の表面に、表7に示す助剤と水を含む溶液をスプレーしてクレープ原紙を湿潤状態にしておいて、実施例1と同様に、エンボス加工するとともに2枚重ねし、実施例6−1〜6−7のクレープ紙を得た。
【0103】
助剤は、保湿成分としてグリセリン、柔軟成分としてステアリルアルコール、接着成分としてCMC−Naを用いた。グリセリンとCMC−Naは水に溶解させ、ステアリルアルコールは、乳化剤としてモノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンとモノステアリン酸ソルビタンを3:1の重量割合で混合したものを用いて乳化液とした。
表7に示す数値はクレープ原紙の重量当たりの含浸率(重量%)を示す。
〔比較例6〕
比較例6−1は、実施例6と同じクレープ原紙に、ステアリルアルコール1部をイソプロピルアルコール20部に溶解した溶液をクレープ原紙の重量当たり21%となるようスプレーした後、標準状態(23℃、50%RH)で放置してイソプロピルアルコールを揮発させ、エンボス加工なしで、2枚重ねして、クレープ紙を得た場合である。比較例6−2は、比較例6−1において、イソプロピルアルコールの揮発を終えたのちのクレープ原紙に対し、水の供給なしで、実施例6と同様のエンボス加工を施して、エンボス加工クレープ紙を得た場合である。
【0104】
表7の下欄に評価結果を併記した。
表7における「しっとり感」の評価は以下のようにして得た。
<しっとり感>
モニター10名により官能試験を行い、下記の基準で評価し、平均点を求めた。
大変しっとりしている:4点、しっとりしている:3点、ややしっとりしている:2点、しっとりしていない:1点。
【0105】
【表7】

【0106】
<評価>
以下に、実施例6シリーズ(2枚重ねティシュ)の評価を示す。
引張強さ
実施例(6−1〜6−7)とドライエンボス加工品(比較例6−2)とを比べると、実施例は引張強さ(N)が高い。接着成分としてカルボキシメチルセルロースナトリウムを配合した実施例(6−5〜6−7)は、接着成分の配合量が最適化されているため、接着成分未配合の実施例(6−2〜6−4)と比べて、それぞれ、ふんわり感を維持したまま強度が向上している。
【0107】
見掛け密度
実施例(6−1〜6−7)と、エンボス加工なし品(比較例6−1)およびドライエンボス加工品(比較例6−2)とを比べると、実施例 < ドライエンボス品 < エンボス加工なし品 の順に見かけ密度が小さくなっている。接着成分としてカルボキシメチルセルロースナトリウムを配合した実施例(6−5〜6−7)は、接着成分未配合の実施例(6−2〜6−4)と比べて、それぞれ見掛け密度が小さくなっている。
柔軟度
エンボス加工品(実施例6−1〜6−7と比較例6−2)は、総じて、測定値が高くなっている。これは、表面のエンボス形状が滑りに対して抵抗となっているためである。
【0108】
保油量
実施例 > ドライエンボス品 > エンボス加工なし品 の順に保油量が向上している。
吸油速さ
実施例 >ドライエンボス品 > エンボス加工なし品 の順に吸油速さが優れている。
ふんわり感
実施例はいずれも、ふんわり感に優れている。柔軟成分(ステアリルアルコール)を配合した実施例(6−3,6−4,6−6,6−7)は特に、ふんわり感の評価が高い。
【0109】
しっとり感
保湿成分を配合した実施例は、未配合の実施例と比較してしっとり感に優れている。

[実施例7]
実施例1と同様にしてクレープ原紙を抄紙した。得られたクレープ原紙は、坪量12.0g/m、クレープ率18%のものであった。乾燥状態のこのクレープ原紙の表面に、表8に示す助剤と水を含む溶液をスプレーしてクレープ原紙を湿潤状態にしておいて、実施例1と同様に、エンボス加工するとともに3枚重ねし、実施例7−1〜7−7のクレープ紙を得た。助剤と乳化剤は実施例6と同様のものを、同様にして用いた。
【0110】
〔比較例7〕
比較例7−1〜7−2は、クレープ原紙として実施例7のものを使用して3枚重ねするほかは、比較例6−1〜6−2と同様にしてクレープ紙を得た。
評価結果を表8に示す。表中の助剤と水の量は表7と同様の意味合いを持っている。同表の下欄に評価結果を併記した。
【0111】
【表8】

【0112】
<評価>
実施例7シリーズ(3枚重ねティシュ)についての評価は、実施例6シリーズ(2枚重ねティシュ)についての評価と、基本的には同じであった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明で得られたエンボス加工クレープ紙は、例えば、保湿成分を担持させた保湿ティシュとして利用できる。細かいエンボス形状が明瞭に形成され、嵩高性や柔軟性に優れるとともに、保湿成分による、しっとりとした肌触りや柔らかさを備えた商品価値の高い保湿ティシュ製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態を表す製造装置の配置構造図
【図2】エンボス加工を示す要部拡大構造図
【図3】別の実施形態を表す製造装置の配置構造図
【図4】別の実施形態を表す製造装置の配置構造図
【符号の説明】
【0115】
10 クレープ原紙
12 原紙ロール
20 助剤液供給部
22 助剤液
30 水供給部
40 エンボス加工部
42 エンボスロール
48 熱エンボスロール
50 乾燥部
60 紙分離部
70 製品ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレープ原紙にエンボス加工を施すエンボス加工クレープ紙の製造方法であって、
前記クレープ原紙として坪量6〜28g/mの原紙を用いることとし、かつ、
前記エンボス加工を、
坪量当たり0.1〜100重量%の水を供給して湿潤状態にする工程(a)と、
湿潤状態のクレープ原紙にエンボス加工を施す工程(b)と、
エンボス加工された湿潤状態のクレープ原紙を乾燥させる工程(c)と、
によって施す、
エンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項2】
前記エンボス加工の際は複数枚のクレープ原紙の個々に別々にエンボス加工を施すようにし、その後に、加工された複数枚のクレープ原紙を重ね合わせるようにする、請求項1に記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項3】
前記エンボス加工の際は複数枚のクレープ原紙を重ね合わせて同時にエンボス加工を施すようにし、その後に、クレープ原紙の重ね合わせ体に対し、加工された個々のクレープ原紙をいったん分離させたあと再び重ね合わせる処理を加える、請求項1に記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、前記クレープ原紙に、高低差0.01〜3.00mmで4〜200個/cmのエンボス形状を付与する、請求項1から3までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項5】
前記エンボス形状が、高低差0.01〜1.00mmで10〜200個/cmのエンボス形状である、請求項4に記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)と前記工程(b)とを、湿潤したエンボスロールを用いて同時に行う、請求項1から5までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)と前記工程(c)とを、熱エンボスロールを用いて同時に行う、請求項1から6までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)が、保湿成分および柔軟成分のうちの少なくとも1つを含む助剤溶液を前記クレープ原紙に供給する工程(a−1)と、工程(a−1)のあとで、前記クレープ原紙に水を供給して前記湿潤状態にする工程(a−2)とを含む、請求項1から7までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、保湿成分および柔軟成分のうちの少なくとも1つを含む水を前記クレープ原紙に供給して前記湿潤状態にする、請求項1から7までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙の製造方法。
【請求項10】
クレープ原紙にエンボス加工を施してなるエンボス加工クレープ紙であって、坪量が6〜28g/mであり、かつ、高低差0.01〜3.00mmで4〜200個/cmのエンボス形状を有する、エンボス加工クレープ紙。
【請求項11】
前記エンボス形状が、高低差0.01〜1.00mmで10〜200個/cmのエンボス形状である、請求項10に記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項12】
クレープ原紙は、その繊維原料の70重量%以上が広葉樹パルプおよび/または針葉樹パルプであって、坪量が6〜28g/m、クレープ率が3〜50%であり、
エンボス加工クレープ紙は、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.09g/cm以下、柔軟度が70mN/100mm以下、縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15〜1.5kmである、
請求項10または11に記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項13】
2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が、未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも20%以上小さい、請求項10から12までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項14】
2枚重ねで測定したときの保油量が、未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも20%以上多い、請求項10から13までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項15】
保湿成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm以下、柔軟度が40mN/100mm以下、縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15〜1.5kmである、請求項10または11に記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項16】
保湿成分を含有し、重ね合わせ枚数が3枚であり、見掛け密度(荷重下)が0.11g/cm以下、柔軟度が60mN/100mm以下である、請求項10または11に記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項17】
保湿成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が、保湿成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも10%以上小さい、請求項10、11および15のいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項18】
保湿成分を含有し、2枚重ねで測定したときの保油量が、保湿成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも30%以上多い、請求項10、11、15および17のいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項19】
柔軟成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.11g/cm以下、柔軟度が70mN/100mm以下、縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15〜1.5kmである、請求項10または11に記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項20】
柔軟成分を含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が、柔軟成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも15%以上小さい、請求項10、11および19のいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項21】
柔軟成分を含有し、2枚重ねで測定したときの保油量が、柔軟成分を含む未エンボス加工のクレープ原紙2枚重ねで測定したときよりも15%以上多い、請求項10、11、19および20のいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項22】
複数枚が重ね合わされてなり、ふんわり感に優れる、請求項10から21までのいずれかに記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項23】
ティシュペーパーである、請求項22に記載のエンボス加工クレープ紙。
【請求項24】
ロール状の巻き取り製品である、請求項22に記載のエンボス加工クレープ紙。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−15379(P2007−15379A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158842(P2006−158842)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(592002776)河野製紙株式会社 (10)
【Fターム(参考)】