説明

エンボス薄板材料及び車両用シートスライドレール

【課題】金属薄板の少なくとも一部に凹凸を付すことで剛性を高めたエンボス薄板材料において、全体として高剛性であり、かつ方向によって曲げ剛性が異なる(特定の方向には高剛性で、別の方向には比較的低剛性の)エンボス薄板材料を得る。
【解決手段】凹凸を付す前の中立板面を基準にして、その表裏の一方側に間隔をおいて突出する複数の凸部を列状に配置した凸列部と、表裏の他方側に間隔をおいて突出する複数の凹部を列状に配置した凹列部とが交互に配置されていること、及び
該凸列部の凸部と凹列部の凹部は、上記中立板面平面において該凸列部及び凹列部に直交する方向から見たとき、一直線上に位置しない位置関係で配置されていること、を特徴とするエンボス薄板材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄板に凹凸(エンボス)を付すことで剛性(特に曲げ剛性)を高めたエンボス薄板材料(高剛性薄板材料)及び該エンボス薄板材料を用いた車両用シートスライドレールに関する。
【背景技術】
【0002】
金属薄板に微細な(規則的な)凹凸を付すと、一般的に剛性が高まることが知られている。しかし、従来のエンボス薄板材料は、十分な剛性が得られているとは言い難い。また、金属薄板材料は、全方向に一様な高剛性である必要は必ずしもなく、特定の方向の剛性を別の特定の方向の剛性より高めることが求められる場合がある。
【0003】
例えばシートトラック装置のアッパレール用板材は、車両前後方向に長く上下方向には短い。そして、その下端部が車両床面側に支持され、上端部がシート側に固定される。車両の振動が加わったとき、長さの短い上下方向の上端部は、左右方向(車幅方向)に加わる曲げ力により変形のおそれがあるのに対し、長さの長い前後方向の端部間に曲げ力が加わったとしても変形するおそれは少ない。従来のエンボス薄板材料の凹凸の分布は直交二方向に同じ規則性を有しており、方向によって曲げ剛性に強弱を与えるという発想はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56-134023号公報
【特許文献2】特開平2-52125号公報
【特許文献3】特開平8-74469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、金属薄板に凹凸を付すことで剛性を高めたエンボス薄板材料において、全体として高剛性であり、かつ方向によって剛性が異なる(特定の方向には比較的高剛性で、別の特定の方向には比較的低剛性の)エンボス薄板材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属薄板の少なくとも一部に凹凸を付すことにより剛性を高めたエンボス薄板材料において、凹凸を付す前の中立板面を基準にして、その表裏の一方側に間隔をおいて突出する複数の凸部を列状に配置した凸列部と、表裏の他方側に間隔をおいて突出する複数の凹部を列状に配置した凹列部とが交互に配置されていること、及び該凸列部の凸部と凹列部の凹部は、上記中立板面平面において該凸列部及び凹列部に直交する方向から見たとき、一直線上に位置しない位置関係で配置されていること、を特徴としている。
【0007】
凸列部の凸部の配列ピッチと、凹列部の凹部の配列ピッチとは、同一とすることも、異ならせることもできる。
【0008】
中立板面に対応する中立高さ位置(中立位置)は、線状に形成することも、ある程度の幅を持たせた平面とすることもできる。
【0009】
凸部と凹部の形状(平面形状)は、巨視的にみて、截頭四角錐形状(四角形)または截頭六角錐形状(六角形)とすることが実際的である。
【0010】
本発明のエンボス薄板材料は、板面全体に凸列部と凹列部を形成する態様の他に、金属薄板材の一部に凸列部と凹列部を形成する態様で用いることもできる。
【0011】
本発明のエンボス薄板材料は、車両関係部品では、例えば上記凸列部と凹列部の方向を上下方向に向けて、車両用シートスライドレールのアッパレールに用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエンボス薄板材料によると、凹凸を付す前に比べて全体的に薄板材料の剛性が増すのみならず、凸列部と凹列部の延長方向の一端部を固定して他端部に曲げ力を加えたときの曲げ剛性を、凸列部と凹列部の延長方向と直交する方向の一端部を固定して他端部に曲げ力を加えたときの曲げ剛性より大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)、(B)、(C)は、本発明によるエンボス薄板材料の一実施形態を示す平面図、正面図及び側面図である。
【図2】(A)、(B)、(C)は、本発明によるエンボス薄板材料の一実施形態を示す平面図、正面図及び側面図である。
【図3】本発明によるエンボス薄板材料をアッパレールに用いたシートスライド装置の側面図である。
【図4】図3のIV-IV線に沿う断面図である。
【図5】本発明によるエンボス薄板材料をアッパレールに用いたシートスライド装置の別の実施形態を示す、図4に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明による金属製のエンボス薄板材料10の第一の実施形態を示すもので、図では、板厚を線で描いている。このエンボス薄板材料は、図1(A)の上下方向Yを向く互いに平行な凸列部20と凹列部30を有している。凸列部20には、凹凸を付す前の薄板材料面(中立板面、破線で示す中立高さ位置NX)を基準にしてその表裏の一方向(図1(A)の紙面に垂直な手前方向、同(B)の上方、同(C)の左方)に一定間隔(ピッチP)をおいて、Y方向に整列させて複数の凸部21が形成されている。凹列部30には、同中立板面(中立高さ位置NX)から表裏の他方向(図1(A)の紙面に垂直な奥方向、同(B)の下方、同(C)の右方)に一定間隔(ピッチP)をおいて、Y方向に整列させて複数の凹部31が形成されている。凸列部20と凹列部30の間には、Y方向の直線状の中立高さ位置NYが位置している。図1(A)に付した「+」と「−」は、それぞれ凸部と凹部を意味する。この凸部21と凹部31は、同一形状であって、截頭四角錐(頭部を切断した四角錐)形状(平面四角形)をなしている。Y方向に隣り合う凸部21(凹部31)のエッジ間の距離Qは、凸部21(凹部31)の深さd及び四角錐の角度によって変化する。
【0015】
一方、凸列部20の凸部21と凹列部30の凹部31は、中立板面平面(図1(A)の紙面)方向において、Y方向と直交するX方向から見たとき、一直線上に位置しない位置関係で設けられている。図1の実施形態では、X方向の中立高さ位置NX上に必ず凸部21か凹部31が存在している。図示例では、凸部21と凹部31は、Y方向に半ピッチP/2だけ位置がずれているが、このずれ量は、半ピッチでなくてもよい。
【0016】
以上のエンボス薄板材料10は、凸部21と凹部31を付したことにより、全体としての剛性が高まり、かつ剛性(曲げ剛性)が直交二方向で異なることとなる。いま、図1(C)において、エンボス薄板材料の下端を固定し、上端に曲げ力F1を加えたとき(前者)と、図1(B)において、エンボス薄板材料の右端を固定し、左端に曲げ力F2を加えたとき(後者)とを比較すると、後者では、凸列部20と凹列部30の間に、明確なY方向の中立高さ位置NYが存在するため、曲げが比較的生じやすいのに対し、前者は、X方向の中立高さ位置NX上に必ず凸部21または凹部31が存在するため、曲げが生じにくい。つまり、以上のエンボス薄板材料は、後者の方向の曲げ剛性より、前者の方向の曲げ剛性が高い。
【0017】
図2は、本発明によるエンボス薄板材料10の別の実施形態を示している。この実施形態は、図1の実施形態では共に線状であった中立高さ位置NX、NYを、破線を付した中立面NPX、NPYとした点が異なり、図1の実施形態と同一の要素には同一の符号を付した。この実施形態においても、第一の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0018】
以上の実施形態は、凸列部20の凸部21と凹列部30の凹部31の配置位置に規則性、対称性が存在するため、製造が容易であり、かつ、大きな板材から部分的に小板材を取り出しても、該小板材の物性が同一(同様)という利点がある。しかし、態様によっては、凸列部20の凸部21の配列ピッチと凹列部30の凹部31の配列ピッチを異ならせ、あるいは間隔をランダムにすることで、凸列部20の凸部21(の中心)と凹列部30の凹部31(の中心)が、中立板面平面においてX方向から見たとき一直線上に位置しない位置関係で配置することも可能である。凸部21と凹部31の形状は、截頭四角錐形状以外では、截頭六角錐形状(六角形)とするのが実際的である。また、凸部21と凹部31の形状を互いに異ならせてもよい。
【0019】
本実施形態のエンボス薄板材料10は、例えば車両のシートトラック装置のアッパレール材として用いることができる。図3、図4はその実施形態を示している。周知のように、シートトラック装置40は、車両床面に固定されるロアレール41と、このロアレール41に摺動自在に嵌合するアッパレール42を有し、車両前後方向に長い。アッパレール42は、その下端部がロアレール41を介して車両床面側に支持され、上端部がシート43に固定されるため、車両に加わる振動により、上端部が左右方向に揺れやすい。そこで、本エンボス薄板材料10をアッパレール42に用いる態様では、図1のエンボス薄板材料10のX方向を車両前後方向とし、Y方向を上下方向として、少なくとも断面逆T字状をなすアッパレール42のハッチングを付した上下方向壁42V(の少なくとも一方)として用いる。図1、図2の(C)におけるF1の方向は、車両左右方向の力に相当し、本エンボス薄板材料10は、この方向の曲げ剛性が高いから、より効果的にシートの左右方向の揺れ(振動)を防止することができる。
【0020】
図5は、シートトラック装置50のアッパレール52の別の断面形状例を示している。このアッパレール52は、いわゆるハット断面をなすもので、少なくともハッチングを付した上下方向壁52Vに本エンボス加工を施す。
【0021】
以上のようなアッパレール42、52は、金属板材の一部の上下方向壁42V、52V形成部分に、凸列部20と凹列部30(エンボス)を形成し、これを後に曲げ加工して形成する。
【0022】
本発明のエンボス薄板材料は、車両関係では、前後方向に長い長尺材、例えばシャーシ用骨材、車両ドア内パネル等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0023】
10 エンボス薄板材料
20 凸列部
21 凸部
30 凹列部
31 凹部
40 シートレール装置
42 アッパレール
XY NPX NPY 中立高さ位置
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板の少なくとも一部に凹凸を付すことにより剛性を高めたエンボス薄板材料において、凹凸を付す前の中立板面を基準にして、その表裏の一方側に間隔をおいて突出する複数の凸部を列状に配置した凸列部と、表裏の他方側に間隔をおいて突出する複数の凹部を列状に配置した凹列部とが交互に配置されていること、及び
該凸列部の凸部と凹列部の凹部は、上記中立板面平面において該凸列部及び凹列部に直交する方向から見たとき、一直線上に位置しない位置関係で配置されていること、
を特徴とするエンボス薄板材料。
【請求項2】
請求項1記載のエンボス薄板材料において、上記凸列部の凸部の間、凹列部の凹部の間、及び凸列部と凹列部の間にはそれぞれ上記中立板面が存在しているエンボス薄板材料。
【請求項3】
請求項1または2記載のエンボス薄板材料において、上記凸列部の凸部の配列ピッチと、凹列部の凹部の配列ピッチとは同一であるエンボス薄板材料。
【請求項4】
請求項1または2記載のエンボス薄板材料において、上記凸列部の凸部の配列ピッチと、凹列部の凹部の配列ピッチとは異なっているエンボス薄板材料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のエンボス薄板材料において、上記凸部と凹部の形状は、巨視的にみて截頭四角錐形状または截頭六角錐形状であるエンボス薄板材料。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載のエンボス薄板材料において、上記凸列部と凹列部は、金属薄板材の一部に形成されているエンボス薄板材料。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載のエンボス薄板材料を、車両用シートスライドレールのアッパレールに用い、上記凸列部と凹列部の方向を上下方向に向けた車両用シートスライドレール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115882(P2012−115882A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268964(P2010−268964)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】