説明

エンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステム

【課題】 2次元X線画像からCPU処理により高コントラスト分解能の3次元エンボス画像が得られ、患者への最小限負担で汎用性の高いエンボスX線画像処理方法、プログラム及びシステムを提供する。
【解決手段】 本発明は、CPUを用いて、単純X線検査で平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像)をデジタル撮影し、入力画像を二次元行列に変換して、入力画像の移動とサブトラクションを行うためのCPUソフトにより二次元行列を計算し、合成した二次元行列から得た合成画像をグレースケール調整して保存することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な単純X線検査によって得られるX線画像からエンボス画像を得るX線画像処理に関し、特にデジタルX線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能のエンボス画像を得る低コストで利便性の高いエンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科や口腔外科領域の骨や歯などの硬組織に関する疾患及び内科や外科領域の軟組織に関する疾患を診断する単純X線検査から得られるX線画像は、一般的には人体を透過したX線がX線フィルムに露光され、透過X線量の強弱に比例してX線フィルムに潜像ができる。このX線フィルムに現像処理を施すことにより、感光した乳剤の臭化銀が金属銀に変わり、この金属銀量の多少に応じて黒化度が変化し濃淡が現れたX線画像が得られる。
【0003】
近年、X線の受容装置としてX線フィルムや増感紙の他に、人体を透過したX線を、X線フィルムより鋭敏な検出器で受け、これをAD(analogue-digital)変換器でデジタル信号に変えた上で、様々な画像処理を施し、これを再構成してフィルムやモニターに表示するデジタルラジオグラフィ(digital radiography:DR)によるデジタルX線画像が普及している。また、コンピュータ撮影(computed radiography:CR)は、従来の撮影装置をそのまま用いてデジタルラジオグラフィ(digital radiography:DR)によるデジタルX線画像が得られるため、単純X線検査に広く応用されている。
【0004】
患者に放射線を曝射することにより行われるX線検査は、可能な限り少ない被曝線量で多くの情報が得られるようにして、曝射のリスクを最小限に留める必要性がある。そのためには、X線撮影装置、X線フィルムや増感紙などの設備面、実施法及び現像処理などの技術面の充実が望まれる。
【0005】
しかし、何よりも医療従事者のX線画像を撮影する技術及び撮影された画像の読影技術の習熟度が、画像診断精度を左右する最も重要な要因となるが、医療従事者の経験及び知識の量によって治療方針まで左右されるという問題点がある。
【0006】
また、臨床では、単純X線検査のみではなくX線コンピュータ断層撮影(X線CT)や、シンチグラフィーなど、より高度な画像診断装置の開発や、臨床での対応など様々な対策が講じられている。しかし、X線CTなどの高度な画像診断装置の使用は患者への生物学的、時間的、経済的負担が大きく、放射線被曝による癌発生リスクの増大など不必要あるいは過剰な検査に対して日本医学放射線学会による警鐘も鳴らされている。さらに、MRIにおいても、医療従事者の撮影技術によって仕上がった画像に多少の誤差が生じる場合があり、単純X線検査同様に読影技術によっても画像診断精度に誤差が生じる等の問題がある。このような検査及び診断法の欠点であるX線画像読影技術の習熟度の差から生じる種々の問題を取り除いて、患者への負担を最小限に止め、かつ診断に必要な情報量の獲得がなされる検査及び診断法が切望されている。
【0007】
一方、上記単純X線検査では、例えば乳癌診断のように、被写体が主として軟組織のみから構成されるものである場合、組織によるX線減衰量の差がそれほど大きくないため、コントラスト差が小さく、情報量が少ないX線画像しか得られない。このため、被写体を透過することにより生じるX線の位相差を可視化する位相コントラスト撮影方法が提案されている。この位相コントラスト撮影方法は、「X線は光と同様な電磁波であり波が進行して伝搬することから、2つの異なる物質にX線を照射した場合、物質中でのX線の伝わり方の相違により、物質の透過の前後でX線の波の位相が異なり位相差が生じる」という現象に基づき、いわゆるX線の屈折を主に利用して高分解能で被写体の撮影を行うものである。ここで、被写体が軟部の場合には、X線の減衰量の差よりもX線の位相差の方が大きくなるため、位相コントラスト撮影方法により撮影を行ってX線の位相差を位相コントラスト画像として表すことにより、軟組織に含まれる組織の微妙な相違を可視化することができる。
【0008】
そして、微小焦点X線管を用いた輪郭強調X線位相コントラスト撮影法がWilkinsにより考案され、100μm程度の小焦点モリブデン管とイメージングプレートを用いたマンモグラフィーシステムがコニカミノルタエムジー株式会社により開発されたが、この方法は硬組織には適用できず軟組織の被写体の撮影に限定される。
【0009】
このような位相コントラスト画像生成方法として、被写体に長波長放射線及び短波長放射線を照射し、被写体を透過した長波長放射線及び短波長放射線を、被写体からの距離が異なる複数位置において検出して、該各位置における長波長放射線による複数の長波長放射線画像及び短波長放射線による複数の短波長放射線画像を取得し、これら複数の長波長放射線画像及び複数の短波長放射線画像に基づいて、被写体を透過することにより生じる長波長放射線及び短波長放射線の位相差をそれぞれ算出し、これらの長波長位相差及び短波長位相差に基づいて、長波長位相差を補正して補正長波長位相差を取得し、該補正長波長位相差に基づいて位相コントラスト画像を生成することが提案されている(特許文献1参照)。
【0010】
さらに、かなりの費用をかけて科学技術振興機構(JST)による国家プロジェクトなどによる位相コントラスト画像生成技術の研究開発が盛んに進められている。しかし、位相コントラスト撮影を行うにはシンクロトロンと単結晶を用いて得られる単色平行X線ビームあるいはマイクロフォーカスX線装置など大掛りな設備が必要となる。
【0011】
また、特許文献1等に記載の位相コントラスト画像生成方法は、図12に示すように、被写体に長波長及び短波長のX線を照射するX線源110と、被写体121を支持する被写体支持部120と、被写体121を透過した長波長及び短波長のX線112L、112Sを検出して被写体121の複数の長波長X線画像を表す画像データSLn(n=1〜N)及び複数の短波長X線画像を表す画像データSSn(n=1〜N)を得る記録部130と、画像データSLn及び画像データSSnを用いて位相コントラスト画像データS1を得る演算部140と、を備えた位相コントラスト撮影装置を用いて、検出パネル131を移動させつつ、被写体121を透過した長波長のX線112Lを検出パネル131に照射し、被写体121に照射された放射線を被写体121からの距離が異なる複数位置において検出して複数の放射線画像を得、これら複数の放射線画像を用いてコンピュータプログラムにより位相コントラスト画像S1を生成することから、大掛りなX線撮影設備や複雑な画像処理によるコストが嵩む。さらに、この位相コントラスト画像生成方法は、人体の骨や歯などの硬組織の被写体に適用するためには、例えばCT技術を組み合せるなどさらに高価な設備技術が必要となる。
【0012】
これに対して最近、整形外科領域の疾患及び口腔外科領域の疾患である顎の骨折、歯牙の破折を診断する単純X線画像の処理のためのシステムであって、図13に示すように、単純X線画像をコンピュータに取込む手段200と、コンピュータに取込んだX線画像にコントラスト処理を施す手段210と、コントラスト処理を施したX線画像にエンボス(隆起)処理を施す手段220と、エンボス化されたX線画像に光照射処理を施す手段230と、一連の画像処理により得られたX線画像を保存及び管理する手段240と、一連の処理により得られたX線画像をコンピュータのモニターに表示及び/又は、プリンターにて印刷する手段250と、を備えたX線画像処理システムが提案されている。(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−336230号公報
【特許文献2】特開2007−61371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献2に記載のX線画像処理システムは、平面であるX線画像より得られる骨像の黒化度の変化(濃淡)に、先ず必要に応じてコントラスト処理を施し骨梁が明瞭に確認できる状態に処理を加え、及び/又はエンボス(隆起)処理を施すことで、平面のX線画像に高さが加わることで2次元化され、さらに、光照射処理を行い2次元化されたX線画像に影をつけることで、高さに奥行が加わり、視覚を通じてあたかも立体的(3次元)に浮き出たように見えるエンボス画像を得ることことから、多段階の処理が煩雑で時間が掛かる。また、このX線画像処理システムは、乳癌診断のような軟組織の被写体には適用できない等の問題点がある。
【0015】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は一般的な単純X線検査において、コンピュータソフトを用いて、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像を取り込み、一方の画像に係数を乗じ、シフトして差し引くことにより、空間分解能を低下させることなく、吸収コントラストを低減し、診断に不要な部位を消して診断に適した高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像が得られる、患者への負担を最小限に止めて低コストで汎用性の高いエンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1の発明のエンボスX線画像処理方法は、一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るX線画像処理方法であって、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(以下、「入力画像」という)をそれぞれデジタル撮影する入力画像取得段階と、前記入力画像をそれぞれ二次元行列に変換する二次元行列変換段階と、前記入力画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算する二次元行列合成計算段階と、前記合成した二次元行列から合成した合成画像を得る合成画像取得段階と、前記合成画像をグレースケール調整するグレースケール調整段階と、前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像保存段階と、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1記載のエンボスX線画像処理方法であって、前記コンピュータソフトは、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成することを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明のエンボスX線画像処理プログラムは、一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るX線画像処理プログラムであって、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像)をそれぞれデジタル撮影する入力画像取得手順と、前記入力画像をそれぞれ二次元行列に変換する二次元行列変換手順と、前記入力画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算する二次元行列合成計算手順と、前記合成した二次元行列から画像を合成する合成画像取得手順と、前記合成画像をグレースケール調整するグレースケール調整手順と、前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像保存手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は、請求項3記載のエンボスX線画像処理プログラムであって、前記コンピュータソフトは、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成することを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明のエンボスX線画像処理システムは、一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るX線画像処理システムであって、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像)をそれぞれデジタル撮影する入力画像取得手段と、前記入力画像をそれぞれ二次元行列に変換して、前記入力画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算し、前記合成した二次元行列から画像を合成して、前記合成画像をグレースケール調整し、さらに、前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像処理コンピュータシステムと、を有することを特徴とする。
【0021】
請求項6の発明は、請求項5記載のエンボスX線画像処理システムであって、前記コンピュータソフトは、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1、請求項3及び請求項5の発明によれば、一般的な単純X線検査においてコンピュータを用い、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像)をそれぞれデジタル撮影し、画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトを用いて入力画像が変換された二次元行列を計算し、画像を合成することにより、空間分解能を低下させることなく、吸収コントラストを低減し、高いコントラスト分解能のエンボス画像が得られることから、従来のX線CTや目下研究開発中の位相コントラスト画像生成などの高度な画像診断技術に比べて患者への負担を最小限に止め、遥かに低コストで汎用性の高い画期的なエンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステムを提供することが可能となる効果がある。
【0023】
請求項2、請求項4及び請求項6の発明によれば、請求項1、請求項3及び請求項5の発明と同様な効果を有するのに加えて、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成するコンピュータソフトを用いることにより、特殊ソフトを利用する必要はなく、フラットパネルディテクター(FPD)から出力するRAWファイル形式画像を取り込んで二次元行列合成計算を容易に処理することができる。FPDから出力する未画像変換のRAWファイル形式の画像は12bitであるため、従来技術のPhoto Shopなどで代表される8bitの汎用ソフトで処理することは難しく、特殊なソフトを用いてエンボス画像を作成し、取り込み画像や合成(エンボス)画像を見るにはFPDに付属する特殊なソフトを用いる必要があった。これらの特殊なソフトについては後述する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態のエンボスX線画像処理システムの概念を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態のエンボスX線画像処理方法/プログラムを示すフロー図/ブロック図である。
【図3】Bmp形式のデジタル画像を用いてエンボス画像を合成するための本発明の一実施形態のコンピュータソフトである。
【図4】フラットパネルディテクター(FPD)から出力されるRAWファイル画像を用いてエンボス画像を合成するための特殊なソフトである。
【図5】RAWファイル画像観察用の特殊なソフトである。
【図6】水平方向移動距離=48μm、鉛直方向移動距離=48μmにおける鉛テストチャートによる空間分解能の測定(シングルネルギー)例で、(a)は等倍(密着)撮影、管電圧=40kV、(b)は等倍(密着)撮影、管電圧=70kV、(c)はシングルエネルギーエンボス撮影、管電圧=40kV、水平方向空間分解能=71μm、(d)はシングルエネルギーエンボス撮影、管電圧=40kV、鉛直方向空間分解能=7lμmの各条件を示す。
【図7】椎骨のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるシングルエネルギーエンボスX線画像である。
【図8】犬の心臓のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるシングルエネルギーエンボスX線画像である。
【図9】ヌードマウスの腹部のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるデュアルエネルギーエンボスX線画像である。
【図10】ヌードマウスの頭部のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるデュアルエネルギーエンボスX線画像である。
【図11】ウサギの心臓のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるデュアルエネルギーエンボスX線画像である。
【図12】従来の位相コントラスト撮影装置の構成例を示す概略ブロック図である。
【図13】従来のX線画像処理システムを利用した例の作業の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のエンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステムを最良に実施するための形態の具体例を、添付図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態のエンボスX線画像処理システムの概念を示すブロック図、図2は本発明の一実施形態のエンボスX線画像処理方法/プログラムを示すフロー図/ブロック図、図3はBmp形式のデジタル画像を用いてエンボス画像を合成するための本発明の一実施形態のコンピュータソフト、図4はフラットパネルディテクター(FPD)から出力されるRAWファイル画像を用いてエンボス画像を合成するための特殊なソフト、図5はRAWファイル画像観察用の特殊なソフトである。
【0027】
デュアルエネルギーエンボス画像は、平均フォトンエネルギーの異なる2つの入力画像1、2をデジタル撮影し、例えば入力画像2を移動(シフト)して入力画像1から差し引くこと(サブトラクション)により得られるが、その方法として次の3つの方法が考えられる。
第1の方法は、X線源を5mmほど移動して入力画像2を撮影する。
第2の方法は、被写体を100μmほど移動して入力画像2を撮影する。
第3の方法は、コンピュータソフトを用いて入力画像2のピクセルを移動させることによりエンボス画像を得ることが可能となる。
【0028】
しかし、第1及び第2の方法は、X線源や被写体を移動するシステム及びそれらの操作・処理等が煩雑で手間が掛かり、コスト高となることから汎用的ではない。そこで本発明者は、第3の方法のコンピュータソフトを用いて低コストで汎用性の高いエンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステムを開発した。
【0029】
本発明の一実施形態のエンボスX線画像処理システムは、図1に示すように、一般的な単純X線検査に用いられ、被写体21にX線11を照射するX線源10、被写体21を支持する被写体支持部20、検出パネル31を介して被写体21を透過したX線を検出する検出手段32を有し、被写体の平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像1、2)をデジタル撮影する入力画像取得手段30と、入力画像1、2をそれぞれ二次元行列に変換して、入力画像1、2の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算し、前記合成した二次元行列から画像を合成して、前記合成画像をグレースケール調整し、さらに、前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像処理コンピュータシステム(CPU)40と、を有する。
【0030】
検出手段32は、検出パネル31を構成する複数の検出素子から電気信号を読み出して平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像である入力画像1、2データを得る。
【0031】
本発明の一実施形態のエンボスX線画像処理方法は、図2に示すように、先ず、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像である入力画像1、2をそれぞれデジタル撮影する(入力画像取得段階11S、21S)。
【0032】
次いで、入力画像1、2をそれぞれ二次元行列に変換する(二次元行列変換段階12S、22S)。
【0033】
次に、前記二次元行列に変換した画像データを合成するためのサブトラクション係数、直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数などの合成条件を設定し、予め数式化された合成数式(合成数式化段階2S)に入力する(合成条件の入力段階1S)。
【0034】
引き続き、前記合成数式に従って行列の計算を行って(合成行列計算段階3S)、合成した二次元行列に変化した画像データを得る(二次元行列変換画像データ取得段階4S)。
【0035】
前記二次元行列に変換した画像データは、Windows(登録商標)環境で標準に使用されるペイント系の画像形式ファイルであるBMP形式である。このBMP形式のデジタル画像データを用いてエンボス画像を合成するために、図3に示すような合成数式を有するコンピュータソフトが用いられ、前記合成した二次元行列から画像を合成する(合成画像取得段階5S)。
【0036】
この際、例えば、検出パネル31に48μmのフラットパネルディテクター(FPD)を用いた場合、X、Y軸方向の移動ピクセル数が3ピクセルでは入力画像2を144μm移動することになる。なお、コンピューターラジオグラフィー(CR)を用いた場合、ピクセルサイズはサンプリングピッチに相当する。
【0037】
このように、入力画像1、2を取り込み、サブトラクション係数及びX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成するコンピュータソフト(図3)を用いることにより、特殊ソフト(次に述べる図4、5)を利用する必要はなく、FPDから出力するRAWファイル形式画像を取り込んで二次元行列合成計算を容易に処理することができる。
【0038】
このFPDから出力する未画像変換のRAWファイル形式の画像は12bitであるため、従来技術のPhoto Shopなどで代表される8bitの汎用ソフトで処理することは難しく、図4に示すような2次元方向の移動ピクセル、フィルター無/有の係数等を入力して画像を合成する特殊なソフトを用いてエンボス画像を作成し、取り込み画像や合成(エンボス)画像を見るには、公知であるため詳細な説明を省略するが、FPDに付属する図5に示すような特殊なソフトを用いる必要があった。本発明の上記コンピュータソフト(図3)を用いることにより、かような特殊なソフト(図4、5)を用いる必要性がなくなる。
【0039】
次いで、前記合成画像を白から黒までの明暗だけで表現し、色の情報は含まない「モノクロ」によるグレースケール調整を行う(グレースケール調整段階6S)。
【0040】
そして、前記グレースケール調整された合成画像を保存する(合成画像保存段階7S)。
【0041】
このように、一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るための本発明のエンボスX線画像処理プログラムは、同じく図2に示すように、平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像である入力画像1、2をそれぞれデジタル撮影する入力画像取得手順と、入力画像1、2をそれぞれ二次元行列に変換する二次元行列変換手順と、入力画像1、2の移動とサブトラクションを行うための前記コンピュータソフトにより二次元行列を計算する二次元行列合成計算手順と、前記合成した二次元行列から画像を合成する合成画像取得手順と、前記合成画像をグレースケール調整するグレースケール調整手順と、前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像保存手順と、をコンピュータに実行させる。
【実施例1】
【0042】
図6は、水平方向移動距離=48μm、鉛直方向移動距離=48μmにおける鉛テストチャートによる空間分解能の測定(シングルネルギー)例で、(a)は等倍(密着)撮影、管電圧=40kV、(b)は等倍(密着)撮影、管電圧=70kV、(c)はシングルエネルギーエンボス撮影、管電圧=40kV、水平方向空間分解能=71μm、(d)はシングルエネルギーエンボス撮影、管電圧=40kV、鉛直方向空間分解能=7lμmの各条件を示す。
【0043】
図6の空間分解能測定用テストチャートの撮影例では、(b)を除いて(a)、(c)及び(d)とも40kVの管電圧で撮影した。(c)及び(d)の画像はシングルエネルギーサブトラクション法により撮影され、XとY方向の移動距離は両方とも48μmであった。(a)の等倍撮影と比較して(c)及び(d)のエンボス撮影での空間分解能は向上し、約71μmであった。
【0044】
シングルエネルギーサブトラクション法は、例えばX線管とX線検出器からなるX線撮影系統を一組有するシングルプレーンX線撮影装置において、X線管の管電圧を異なる値に設定して2度回転撮影して得られた2つの入力画像1、2をデジタル撮影し、例えば入力画像2を移動(シフト)して入力画像1から差し引くこと(サブトラクション)により、血管以外の情報を含んだ画像を得るエンボスX線画像処理方法である。
【0045】
また、シングルエネルギーサブトラクション法として、造影剤を投与する前のマスク像と投与後のライブ像をサブトラクション処理して血管像のみを得るという回転DSA(Digital Subtraction Angiography)機能を備えるエンボスX線画像処理方法もある。
【実施例2】
【0046】
図7は、椎骨のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるシングルエネルギーエンボスX線画像である。
【0047】
乾燥した骨のように被写体の構成成分が1つの場合には、診断に不要な部位を消す必要がないため、一般に、シングルエネルギーエンボス撮影が用いられる。椎骨の撮影では、図7(b)に示すように、コントラスト分解能が向上し、立体的なエンボス画像を得ることができた。
【実施例3】
【0048】
図8は、犬の心臓のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)本発明によるシングルエネルギーエンボスX線画像である。
【0049】
犬の心臓は、人間のものとほとんど同じ大きさであり、図8(b)に示すように、シングルエネルギーエンボス撮影により冠動脈が凹凸付きで観察することができた。
【実施例4】
【0050】
図9は、ヌードマウスの腹部のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるデュアルエネルギーエンボスX線画像、図10は、ヌードマウスの頭部のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるデュアルエネルギーエンボスX線画像である。
【0051】
デュアルエネルギーサブトラクション法では、平均フォトンエネルギーの異なる2つの入力画像1、2を用いて、例えば入力画像2を移動(シフト)して入力画像1から差し引くこと(サブトラクション)により、診断に不要な部位を消す画像を得ることができる。平均フォトンエネルギーを変化させるため、この実施例のデュアルエネルギー撮影では70kVと40kVの管電圧で得られた2つの入力画像を用いた。
【0052】
ヌードマウスの腹部の撮影では、図9(b)に示すように、デュアルエネルギーサブトラクションにより筋肉が消え、体内の糞が凹凸像として観察することができた。
【0053】
次いで頭部の撮影では、図10(b)に示すように、体内に残留した酸化セリウムナノ粒子が鮮明に観察することができた。
【0054】
「ナノ粒子」は、一般的には、1〜100nm(ナノメートル)程度の微粒子である。
【実施例5】
【0055】
図11は、ウサギの心臓のX線撮影画像の比較例で、(a)は一般の単純X線検査によるX線画像、(b)は本発明によるデュアルエネルギーエンボスX線画像である。
【0056】
ウサギの心臓の造影では、図11(b)に示すように、心筋が消え、冠動脈が凹凸付きで観察することができた。
【0057】
上記したように、本発明によるエンボスX線画像は、前記位相コントラスト撮影で得られる位相微分画像に匹敵するように酷似している。位相コントラスト撮影ではX線の屈折を主に利用する煩雑でコストが嵩むエンボスX線画像処理方法であるが、本発明のエンボスX線画像処理方法ではコンピュータソフトを用いて2つのデジタル入力画像にサブトラクション係数を乗じ、一方の画像を移動して差し引くという簡潔な方法により位相コントラスト撮影と同等の画像を得ることができた。
【0058】
また、デュアルエネルギーエンボス撮影を利用し、吸収コントラストを低減し、診断等に必要な撮影目標とする部位のコントラスト分解能を最大値1.0に近付けることができた。
【0059】
これまで可視光の領域において、エンボス画像処理は標準の画像処理法となりつつあるが、X線画像は透過画像であるため、改めて画像診断に有用なエンボスX線画像処理のためのコンピュータソフトを作成する必要があった。一般的なX線診断の観点から考えれば、空間分解能とコントラスト分解能が高く見易いことが理想である。実験では、最大値1.0のコントラスト分解能が得られ、その結果として空間分解能も若干向上した。しかし、エンボス撮影での空間分解能は画像の移動距離を増すことにより低下するので、撮影目的に合わせた移動距離に調整する必要がある。
【0060】
前記実施例では、汎用の大焦点X線管とデジタルX線撮影システムを用いている。これらのエンボスX線画像は、被写体を密着(等倍)撮影することにより得られたが、マイクロフォーカスX線装置を用いた拡大撮影の場合には、拡大倍率を増すことにより空間分解能が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、患者への負担を最小限に止め、一般的な単純X線検査によって得られるデジタルX線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能のエンボス画像を得る低コストで利便性の高いエンボスX線画像処理方法及びプログラム並びにシステムであることから、単純X線検査により骨や歯などの硬組織に関する疾患を診断して治療する整形外科や口腔外科領域から軟組織に関する疾患を診断して治療する内科や外科領域に亘る広範な医療分野、さらにはその他のX線画像に関係する産業分野に汎用的に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1、2 入力画像
10 X線源
11 X線
20 被写体支持部
21 被写体
30 入力画像取得手段
31 検出パネル
32 検出手段
40 合成画像処理コンピュータシステム(CPU)
1S 合成条件の入力段階
2S 合成数式化段階
3S 合成行列計算段階
4S 二次元行列変換画像データ取得段階
5S 合成画像取得段階
6S グレースケール調整段階
7S 合成画像保存段階


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るX線画像処理方法であって、
平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(以下、「入力画像」という)をデジタル撮影する入力画像取得段階と、
前記入力画像をそれぞれ二次元行列に変換する二次元行列変換段階と、
前記入力画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算する二次元行列合成計算段階と、
前記合成した二次元行列から画像を合成する合成画像取得段階と、
前記合成画像をグレースケール調整するグレースケール調整段階と、
前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像保存段階と、を有することを特徴とするエンボスX線画像処理方法。
【請求項2】
前記コンピュータソフトは、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成することを特徴とする請求項1記載のエンボスX線画像処理方法。
【請求項3】
一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るX線画像処理プログラムであって、
平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像)をそれぞれデジタル撮影する入力画像取得手順と、
前記入力画像をそれぞれ二次元行列に変換する二次元行列変換手順と、
前記入力画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算する二次元行列合成計算手順と、
前記合成した二次元行列から画像を合成する合成画像取得手順と、
前記合成画像をグレースケール調整するグレースケール調整手順と、
前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像保存手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とするエンボスX線画像処理プログラム。
【請求項4】
前記コンピュータソフトは、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成することを特徴とする請求項3記載のエンボスX線画像処理プログラム。
【請求項5】
一般的な単純X線検査によって得られる2次元X線画像からコンピュータソフトを用いて高いコントラスト分解能の3次元エンボス画像を得るX線画像処理システムであって、
平均フォトンエネルギーの異なる2つの2次元X線画像(入力画像)をそれぞれデジタル撮影する入力画像取得手段と、
前記入力画像をそれぞれ二次元行列に変換して、前記入力画像の移動とサブトラクションを行うためのコンピュータソフトにより二次元行列を計算し、前記合成した二次元行列から画像を合成して、前記合成画像をグレースケール調整し、さらに、前記グレースケール調整された合成画像を保存する合成画像処理コンピュータシステムと、を有することを特徴とするエンボスX線画像処理システム。
【請求項6】
前記コンピュータソフトは、前記入力画像を取り込み、サブトラクション係数及び直交2軸のX、Y軸方向の移動ピクセル数を予め数式化された合成数式にそれぞれ入力して合成することを特徴とする請求項5記載のエンボスX線画像処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図12】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−279418(P2010−279418A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132970(P2009−132970)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(507148456)学校法人 岩手医科大学 (19)
【Fターム(参考)】