説明

エンロフロキサシン六水和物

本発明は、エンロフロキサシン(化合物(1))の新規六水和物およびそれらの製造方法に関する。本発明はさらに、該六水和物を含む医薬、および、疾病の処置におけるそれらの使用に関する:式(I)


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンロフロキサシン(enrofloxacin)の新規の六水和物、その製造方法、それを含有する医薬、および、闘病におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物エンロフロキサシンは、例えばEP−A49355およびEP−A78362に開示されており、式(I):
【化1】

で定義される。
【0003】
式(I)の化合物は、細菌性疾患の処置に適するフルオロキノロン抗生物質である。エンロフロキサシンを含有する製品は、獣医学で適用され、長年に渡り Baytril(登録商標)の名称で購入できるものである。
【0004】
式(I)の化合物は、EP−A49355およびEP−A78362に記載の通りに製造できる。今日まで、式(I)の化合物のただ1つの結晶変態が知られており、これを以後変態Aと呼ぶ。変態Aは、224℃の融点並びに特徴的なx線回折図、IRスペクトル、ラマンスペクトル、FIRスペクトルおよびNIRスペクトルを有する(表1−5、図1−5)。
【発明の概要】
【0005】
驚くべきことに、この度、式(II)の新規のエンロフロキサシン六水和物があることが見出された。
【化2】

式(II)の六水和物は、23.1%の水和水を含有する。
【0006】
本発明は、式(II)のエンロフロキサシン六水和物に関する。
驚くべきことに、本発明による六水和物は、変態Aより良好な濾過特性を示し、容易に乾燥する。さらに、本発明による六水和物は、変態Aより良好な空間−時間収率で、良好な二次成分プロフィールで製造できる。
【0007】
既知の変態Aが乾燥により六水和物から製造されると、改良された生成物の特性は維持される。
【0008】
変態Aと比較して、式(II)の六水和物は、明確に区別できるX線回折図、IRスペクトル、ラマンスペクトル、FIRスペクトルおよびNIRスペクトルを有する(図1−5)。
【0009】
本発明は、特に、X線回折図において2シータ角24.2での反射を有するエンロフロキサシン六水和物に関する。
【0010】
本発明は、さらに、特に、NIRスペクトルにおいて5097cm−1のバンドを有するエンロフロキサシン六水和物に関する。
【0011】
本発明は、さらに、細菌性疾患の処置および/または予防のための、式(II)の六水和物の使用に関する。エンロフロキサシン六水和物は、本質的に、エンロフロキサシンおよびその医薬的に許容され得る塩と同じ適応症に用いることができる。
【0012】
本発明は、さらに、疾患、特に細菌性疾患の処置および/または予防のための本発明による化合物の使用に関する。
【0013】
本発明は、さらに、疾患、特に細菌性疾患の処置および/または予防用の医薬を製造するための本発明による化合物の使用に関する。
【0014】
本発明は、さらに、適量のエンロフロキサシン六水和物を投与する、細菌性疾患の処置方法に関する。
【0015】
本発明は、さらに、本発明による化合物を、慣習的には1種またはそれ以上の不活性、非毒性の医薬的に許容し得る補助剤と共に含む医薬、並びに、上述の目的のためのそれらの使用に関する。
【0016】
本発明は、さらに、特に上述の疾患の処置および/または予防のための、本発明による化合物、および、必要に応じて、1種またはそれ以上のさらなる活性物質を含む医薬に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のX線回折図。
【図2】図2:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物の赤外スペクトル。
【図3】図3:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のラマンスペクトル。
【図4】図4:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のFIRスペクトル。
【図5】図5:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のNIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0018】
エンロフロキサシンおよびその塩と同様に、エンロフロキサシン六水和物も、低い毒性を示し、例えば、ペニシリン類、セファロスポリン類、アミノグリコシド類、スルホンアミド類、テトラサイクリン類などの様々な抗生物質に耐性であるものを含む、幅広い範囲の微生物に対して有効である。エンロフロキサシン六水和物は、グラム陰性およびグラム陽性の細菌および細菌様微生物の制御に使用でき、そして、これらの病原体に起因する疾患を、予防、緩和および/または治癒できる。従って、六水和物は、ヒトの医学および獣医学において、これらの病原体に起因する局所的および全身的感染の予防および化学療法に適する。
【0019】
それは、さらにまた、無機および有機物質、特に様々なタイプの有機物質、例えば、ポリマー、滑沢剤、着色料、繊維、皮、紙および木材、食糧並びに水の保存用の物質として適する。
【0020】
六水和物は、様々な医薬製剤中で使用できる。言及し得る好ましい医薬製剤は、糖衣錠を含む錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、坐剤、注射用の液剤、懸濁剤および乳剤、経口用の液剤、懸濁液および乳剤、さらに、ペースト、軟膏、ジェル、クリーム、ローション、粉末剤および噴霧剤である。
【0021】
通常、医薬製剤は、安定性の理由で、主に式(II)の六水和物を含有し、実質的な量の他の形態、例えば、式(II)の化合物の他の変態または溶媒和物を含有しない。医薬は、好ましくは、それが含有する化合物の総量を基準として、90重量%より多い、特に好ましくは95重量%より多い、式(II)の六水和物を含有する。
【0022】
エンロフロキサシン六水和物は、温血種に対して好都合な毒性を有し、好ましくは、動物の飼育および動物の育種において、生産用家畜、育種用家畜、動物園の動物、試験動物、実験動物および愛玩動物で生じる細菌性疾患と闘うのに適する。これに関して、それらは、全てまたは個々の発生段階に対して、そして、耐性および通常の感受性の系統に対して活性である。活性物質の使用によってより経済的かつ簡潔な動物の飼育を可能とし、細菌性疾患を排除することより、疾病、死亡および性能の低下(例えば、食肉、乳、羊毛、皮、卵、蜂蜜などの製造において)を低減することを企図する。生産用家畜および育種用家畜には、哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、スイギュウ、ロバ、ウサギ、シカ、トナカイ、毛皮を有する動物、例えば、ミンク、チンチラ、アライグマ、鳥類、例えば、ニワトリ、ガチョウ、シチメンチョウ、アヒル、ハト、家庭内および動物園で飼育される鳥類の種が含まれる。それらには、さらに、養殖魚および観賞魚が含まれる。
【0023】
試験および実験動物には、マウス、ラット、モルモット、ゴールデンハムスター、イヌおよびネコが含まれる。
愛玩動物には、イヌおよびネコが含まれる。
【0024】
一般に、有効な結果を達成するために、体重1kg当たり、1日当たり、活性物質約0.5ないし約50mg、好ましくは1ないし20mgの量を投与することが有利であると明らかになった。活性物質は、動物の飼料または飲用水と共に投与することもできる。
【0025】
飼料および食糧は、通常、0.01ないし100ppm、好ましくは0.5ないし50ppmの活性物質を、適する食用物質と組み合わせて含有する。
【0026】
そのような飼料および食糧は、治療目的および予防目的の両方に使用できる。
そのような飼料または食糧は、0.5ないし30重量%、好ましくは1ないし20重量%の活性物質を含有する常套の飼料、濃厚飼料または配合飼料を、食用の有機または無機担体との混合物中で混合することにより製造する。食用担体の例は、好ましくは少量の食用防塵油、例えば、トウモロコシ油またはダイズ油を含有する、トウモロコシ粉末またはトウモロコシおよびダイズ粉末または無機塩である。次いで、かくして得られた混合物を、動物に与える前に、完全な飼料に添加できる。
【0027】
本発明は、さらに、不活性溶媒または溶媒/水混合物中に変態Aの式(I)の化合物を溶解し、5℃ないし25℃、好ましくは20ないし25℃の温度での水の添加によって活性物質を式(II)の六水和物に変換することによる、式(II)の六水和物の製造方法に関する。沈殿を単離し、室温で乾燥させる。これにより、式(II)の六水和物を得る。式(II)の六水和物の特定(identity)は、例えば、X線回折および熱重量分析(TGA)により確認できる。
【0028】
本発明は、さらに、変態Aの式(I)の化合物を水に懸濁し、そして、懸濁液の撹拌または振盪によりそれを式(II)の六水和物に変換することによる、式(II)の六水和物の製造方法に関する。残渣を単離し、室温で乾燥させる。式(II)の六水和物の特定は、例えば、X線回折および熱重量分析(TGA)により確認できる。
【0029】
適する不活性溶媒は、主に、約120℃までの沸点を有する水混和性溶媒、例えば、低級アルコール類、特に、1個のヒドロキシル基および1個ないし4個の炭素原子を有する脂肪族アルコール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたは他の揮発性溶媒、例えば、アセトニトリル、または、上述の溶媒の混合物、または、上述の溶媒の水との混合物である。好ましいのは、アセトニトリル、メタノールおよびイソプロパノールまたは上述の溶媒の混合物または上述の溶媒の水との混合物、ことさら特に好ましくは、エタノールまたはエタノールと水の混合物である。
【0030】
式(II)の六水和物は、好ましくは、変態Aの式(I)の化合物を、エタノール/水(1:1)またはメタノールに溶解し、5ないし25℃の温度で、好ましくは20ないし25℃の温度での水の添加により六水和物を沈殿させることにより製造する。沈殿を単離し、乾燥させる。これにより、式(II)の六水和物を得る。
【0031】
本発明は、さらに、精製された形態の変態Aのエンロフロキサシンの製造方法に関する。ここで、変態Aの水性懸濁液に式(II)の六水和物を播くことにより六水和物を製造し、続いて溶媒を除去し、六水和物を変態Aに変換し戻す。この最終段階は、高温、真空で、低い大気湿度で乾燥させることにより、または、例えば無水エタノールなどの無水溶媒中で撹拌することにより、実行できる。
【0032】
使用の実施例
Perkin-Elmer の Differential Scanning Calorimeter DSC 7 または Pyris-1(加熱速度2K/分、乾燥窒素を通気しながら)および Thermogravimetric Analyser TGA 7 (加熱速度10K/分、乾燥窒素を通気しながら)を使用して、DSCおよびTGAサーモグラムを得た。X線回折図は、CuKα放射を使用して、Stoe 透過型回折計に登録した。IR、FIR、NIRおよびラマンスペクトルは、Fourier IR 分光計 IFS 66/IFS 66 v (IR) で32回のスキャンおよび分解能2cm−1を用いて、IFS 66v (FIR) で100回のスキャンおよび分解能2cm−1を用いて、IFS 28/N (NIR) で15回のスキャンおよび分解能8cm−1を用いて、そして、RFS 100 (ラマン)で64回のスキャンおよび解像度2cm−1を用いて、記録した(Brukerより)。
【0033】
エンロフロキサシンの六水和物の製造
実施例1
変態Aのエンロフロキサシン約100mgを、水約2mlに懸濁し、25℃で振盪する。8日後、残渣を濾過し、室温で乾燥させる。それはX線回折計で分析され、六水和物としての表題化合物に相当する。
【0034】
実施例2
変態Aのエンロフロキサシン約100mgを、加熱しながらアセトニトリル約10mlに溶解する。溶液を濾過し、水約100mlで処理し、冷凍庫で静置する。翌日、沈殿した活性物質を濾過し、室温で乾燥させる。それは熱重量分析により分析され、六水和物としての表題化合物に相当する。
【0035】
実施例3
変態Aのエンロフロキサシン約100mgを、加熱しながらメタノール約10mlに溶解する。溶液を濾過し、水約10mlで処理する。溶媒が蒸発するまで、溶液を室温で静置する。残渣は熱重量分析により分析され、六水和物としての表題化合物に相当する。
【0036】
実施例4
変態Aのエンロフロキサシン約100mgを、イソプロパノール:水(1:1)約2mlに懸濁し、5℃で振盪する。1週間後、残渣を濾過し、室温で乾燥させる。それは熱重量分析により分析され、六水和物としての表題化合物に相当する。
【0037】
実施例5
変態Aのエンロフロキサシン約4gをエタノール:水(1:1)約80mlに懸濁し、室温で撹拌する。1週間後、残渣を濾過し、室温で乾燥させる。それは熱重量分析により分析され、六水和物としての表題化合物に相当する。
【0038】
実施例6
変態Aのエンロフロキサシン約500mgを、エタノール:水(1:1)約20mlに懸濁し、室温で撹拌する。1.5時間後、懸濁液に六水和物を播く。24時間後、残渣を濾過し、室温で乾燥させる。それは熱重量分析により分析され、六水和物としての表題化合物に相当する。
【0039】
エンロフロキサシン六水和物からの変態Aの製造
実施例7
エンロフロキサシン六水和物100mgを、乾燥オーブン中、60℃で1時間乾燥させる。残渣は熱重量分析により分析され、変態Aの表題化合物に相当する。
【0040】
実施例8
エンロフロキサシン六水和物100mgを、無水エタノール約2mlに懸濁し、25℃で振盪する。24時間後、残渣を濾過し、室温で乾燥させる。それは熱重量分析により分析され、変態Aの表題化合物に相当する。
【0041】
実施例9
エンロフロキサシン六水和物100mgを、真空中、室温で24時間乾燥させる。残渣は熱重量分析により分析され、変態Aの表題化合物に相当する。
【0042】
実施例10
エンロフロキサシン六水和物100mgを、五酸化リン上で、室温で24時間乾燥させる。残渣は熱重量分析により分析され、変態Aの表題化合物に相当する。
【0043】
表1:X線回折法
【表1】

【0044】
表2:IR分光法
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
表3:ラマン分光法
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表4:FIR分光法
【表6】

【0049】
表5:NIR分光法
【表7】

【0050】
図面
図1:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のX線回折図。
図2:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物の赤外スペクトル。
図3:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のラマンスペクトル。
図4:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のFIRスペクトル。
図5:エンロフロキサシン変態Aおよび六水和物のNIRスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)
【化1】

のエンロフロキサシン六水和物。
【請求項2】
X線回折図において2シータ角24.2での反射を有する、請求項1に記載のエンロフロキサシン六水和物。
【請求項3】
NIRスペクトルにおいて5097cm−1にバンドを有する、請求項1に記載のエンロフロキサシン六水和物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のエンロフロキサシン六水和物を含む医薬。
【請求項5】
医薬を製造するための請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のエンロフロキサシン六水和物の使用。
【請求項6】
適量の請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のエンロフロキサシン六水和物を、処置される個体に投与することを含む、細菌性疾患の処置方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のエンロフロキサシン六水和物から、無水溶媒中での乾燥または撹拌によって結晶水を除去することによる、変態Aのエンロフロキサシンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−516793(P2010−516793A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547572(P2009−547572)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000357
【国際公開番号】WO2008/092576
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(508270727)バイエル・アニマル・ヘルス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】BAYER ANIMAL HEALTH GMBH
【Fターム(参考)】