説明

エーテルまたはエステルの製造方法

【課題】弱塩基性条件下での水酸基のアルキル化により、多様な官能基を有するエーテルなどを収率よく簡便に合成する方法の提供。
【解決手段】無機塩(リン酸三カリウム、ピロリン酸四カリウム、炭酸カリウム)の存在下、アルコールまたはカルボン酸とアルキル化剤;R-X(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子またはトシラート基を示す。)とを、無溶媒下でまたはアルコールまたはカルボン酸に対して50当量未満の溶媒中で反応させて対応するエーテル化合物またはエステル化合物を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーテルまたはエステルの製造方法に関し、詳しくは、無機塩の存在下、アルコール、カルボン酸等における水酸基をアルキル化することによるエーテルまたはエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸基のアルキル化は、最も基本的な有機合成反応の一つである。アルコールの水酸基をアルキル化することによる古典的なエーテルの合成法としては、金属ナトリウムなどの強塩基を用いてアルコールを金属アルコラートとし、これをアルキルハロゲン化物と反応させることによる方法(Williamson合成法)が知られている。しかし、かかる反応は強塩基条件で行われるため、一般的に、共存可能な官能基の種類が限られている。例えば、第2級または第3級アルキルハロゲン化物を用いた反応では、脱離反応が優先して進行するために目的のエーテルを高収率で得ることが困難である(非特許文献1)。また、反応系中にカルボニル基、ニトリル基等が存在する場合には、酸性水素の脱プロトン化が生じ、多くの副反応が進行する。従って、強塩基条件に耐えることができない官能基は、あらかじめ保護し、反応後に脱保護する必要があった。
多様な官能基を有するエーテルを合成するため、これまでに多くの温和な条件下でのエーテル合成法が検討されてきた。例えば、温和なアルキル化剤を用いた方法(非特許文献2)、触媒的な方法(非特許文献3)などが報告されている。しかしながら、アルキル化剤の調製には手間がかかるばかりか、これらの方法では、多くの副生成物が生じるという問題点があった。また、遷移金属触媒を用いた方法では、不飽和炭素結合を有するエーテル合成への適用が困難であった。
弱塩基を用いるエーテルおよびエステルの製造方法としては、フッ化セシウムを用いる方法が報告されているものの、収率的には全く満足いくものではなかった(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc.、2004年、第126巻、p.7359−7367
【非特許文献2】J. Org. Chem.、2006年、第71巻、p.3923−3927
【非特許文献3】Org. Lett.、2007年、第9巻、p.4299−4302
【非特許文献4】Tetrahedron、2005年、第61巻、p.6652−6656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弱塩基性条件下での水酸基のアルキル化により、多様な官能基を有するエーテルを収率よく簡便に合成する方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、無機塩を用いることにより、無溶媒中、弱塩基性条件下でエーテルを製造する簡便な方法を見出し、さらなる研究により、本発明を完成するに至った。また、本発明者は、当該方法がエステルの製造にも適用可能であることを発見し、さらなる研究により、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]無機塩の存在下、水酸基を有する化合物とアルキル化剤とを、無溶媒下でまたは水酸基を有する化合物に対して50当量未満の溶媒中で反応させることを特徴とする、エーテルまたはエステルの製造方法;
[2]水酸基を有する化合物が、式:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である、上記[1]記載の製造方法;
[3]水酸基を有する化合物が、式:
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である、上記[2]記載の製造方法;
[4]水酸基を有する化合物が、式:
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である、上記[2]記載の製造方法;
[5]アルキル化剤が、式:
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子またはトシラート基を示す。)
で表される化合物である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の製造方法;
[6]無機塩がリン酸塩である、上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の製造方法;
等に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極めて簡便かつ安全な操作により、高収率でエーテルまたはエステルを製造する方法を提供することができる。本発明の製造方法は、弱塩基性の反応条件であるため、多様な官能基を有する化合物に適用可能であり、汎用性が高い。また、無溶媒下または少量の溶媒中で反応が進行し、一般的に過剰な反応試薬を用いる必要がないため、経済的に有利である。さらに、クロマトグラフ法などで分離する必要のある副生物がほとんど発生しないため、精製操作が容易であるという利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法で用いられる「水酸基を有する化合物」としては、化合物中に少なくとも1個の水酸基を有する限り特に限定されず、例えば、アルコール、カルボン酸などが挙げられる。該「水酸基を有する化合物」は、好ましくは、式:
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である。
【0019】
で示される「置換されていてもよいアルキル基」の「アルキル基」とは、直鎖状または分岐鎖状の飽和の脂肪族炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基等のC1−20アルキル基などが挙げられる。好ましくは、C1−6アルキル基である。
【0020】
で示される「置換されていてもよいアルケニル基」の「アルケニル基」とは、炭素−炭素二重結合を少なくとも1つ有する、直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基を意味し、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、4−メチル−3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基等のC2−20アルケニル基が挙げられる。好ましくは、C2−6アルケニル基である。
【0021】
で示される「置換されていてもよいアルキニル基」の「アルキニル基」とは、炭素−炭素三重結合を少なくとも1つ有する、直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基を意味し、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、4−ヘキシニル基、5−ヘキシニル基等のC2−20アルキニル基が挙げられる。好ましくは、C2−6アルキニル基である。
【0022】
で示される「置換されていてもよいシクロアルキル基」の「シクロアルキル基」とは、環状の飽和または部分不飽和の脂肪族炭化水素基を意味し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[3.2.2]ノニル基、ビシクロ[3.3.1]ノニル基、ビシクロ[4.2.1]ノニル基、ビシクロ[4.3.1]デシル基、アダマンチル基等のC3−20シクロアルキル基が挙げられる。好ましくは、C3−6シクロアルキル基である。
【0023】
で示される「置換されていてもよいアリール基」の「アリール基」とは、芳香族炭化水素基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、アセナフチレニル基、ビフェニリル基等のC6−14アリール基が挙げられる。
【0024】
で示される「置換されていてもよいアルキル基」、「置換されていてもよいアルケニル基」、および「置換されていてもよいアルキニル基」の「アルキル基」、「アルケニル基」および「アルキニル基」は、置換可能な任意の位置に任意の数(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個)の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の方法における弱塩基性条件下で悪影響を受けないものであれば特に制限はなく、例えば、
(i) 水酸基、
(ii) ハロゲン原子、
(iii) 置換されていてもよいアリール基、
(iv) シアノ基、
(v) ニトロ基、
(vi) アルコキシ基、
(vii) アリールカルボニルオキシ基、
(viii) アルキルカルボニル基、
(ix) アルコキシカルボニル基
等が挙げられる。置換基が2個以上である場合、各置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0025】
ここで、置換基としての「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0026】
ここで、置換基としての「置換されていてもよいアリール基」の「アリール基」としては、上記Rで示される「置換されていてもよいアリール基」の「アリール基」と同様のものが挙げられる。該「置換されていてもよいアリール基」は、好ましくは、置換されていてもよいC6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)であり、より好ましくは、1〜3個(好ましくは、1個)のC1−6アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、2−メチルブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等;好ましくは、メトキシ基)で置換されていてもよいC6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)であり、特に好ましくは、C6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)である。
【0027】
ここで、置換基としての「アルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、2−メチルブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等のC1−6アルコキシ基等が挙げられ、好ましくは、メトキシ基である。
【0028】
ここで、置換基としての「アリールカルボニルオキシ基」としては、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基、アントリルカルボニルオキシ基、フェナントリルカルボニルオキシ基、アセナフチレニルカルボニルオキシ基、ビフェニリルカルボニルオキシ基等のC6−14アリール−カルボニルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、ベンゾイルオキシ基である。
【0029】
ここで、置換基としての「アルキルカルボニル基」としては、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、イソブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基等のC1−6アルキル−カルボニル基等が挙げられ、好ましくは、アセチル基である。
【0030】
ここで、置換基としての「アルコキシカルボニル基」としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、2−メチルブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基等のC1−6アルコキシ−カルボニル基等が挙げられ、好ましくは、メトキシカルボニル基である。
【0031】
で示される「置換されていてもよいシクロアルキル基」および「置換されていてもよいアリール基」の「シクロアルキル基」および「アリール基」は、置換可能な任意の位置に任意の数(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個)の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の方法における弱塩基性条件下で悪影響を受けないものであれば特に制限はなく、例えば、
(i) 水酸基、
(ii) ハロゲン原子、
(iii) 置換されていてもよいアリール基、
(iv) シアノ基、
(v) ニトロ基、
(vi) アルコキシ基、
(vii) アリールカルボニルオキシ基、
(viii) アルキルカルボニル基、
(ix) アルコキシカルボニル基、
(x) アルキル基
等が挙げられる。置換基が2個以上である場合、各置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0032】
ここで、置換基としての「ハロゲン原子」、「置換されていてもよいアリール基」、「アルコキシ基」、「アリールカルボニルオキシ基」、「アルキルカルボニル基」および「アルコキシカルボニル基」としては、上記Rで示される「置換されていてもよいアルキル基」、「置換されていてもよいアルケニル基」、および「置換されていてもよいアルキニル基」の「アルキル基」、「アルケニル基」および「アルキニル基」が有していてもよい置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0033】
ここで、置換基としての「アルキル基」としては、上記Rで示される「置換されていてもよいアルキル基」の「アルキル基」と同様のものが挙げられる。好ましくは、C1−6アルキル基であり、より好ましくは、メチル基、イソプロピル基である。
【0034】
は、好ましくは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基または置換されていてもよいアリール基であり、より好ましくは、(1)C6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)、シアノ基、およびC6−14アリール−カルボニルオキシ基(好ましくは、ベンゾイルオキシ基)から選択される1〜3個(好ましくは、1個)の置換基で置換されていてもよいC1−20アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基、より好ましくは、エチル基、プロピル基)、(2)C3−20シクロアルキル基(好ましくは、C3−6シクロアルキル基、より好ましくは、シクロヘキシル基)、(3)C6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)である。
【0035】
特に、式:
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、Rは上記と同意義を示す。)
【0038】
で表される化合物において、Rは、好ましくは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基または置換されていてもよいアリール基であり、より好ましくは、(1)C6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)、シアノ基、およびC6−14アリール−カルボニルオキシ基(好ましくは、ベンゾイルオキシ基)から選択される1〜3個(好ましくは、1個)の置換基で置換されていてもよいC1−20アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基、より好ましくは、エチル基)、(2)C3−20シクロアルキル基(好ましくは、C3−6シクロアルキル基、より好ましくは、シクロヘキシル基)、(3)C6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)である。
【0039】
特に、式:
【0040】
【化7】

【0041】
(式中、Rは上記と同意義を示す。)
【0042】
で表される化合物において、Rは、好ましくは、置換されていてもよいアルキル基であり、より好ましくは、C1−20アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基、より好ましくは、プロピル基)である。
【0043】
本発明の方法で用いられる「アルキル化剤」は、上記「水酸基を有する化合物」における水酸基をアルキル化し得る限り特に限定されず、例えば、アルキルハロゲン化物、アルキルトシレートなどが挙げられる。該「アルキルハロゲン化物」は、第2級ハロゲン化物、第2級アルキルトシラート等であってもよく、例えば、式:
【0044】
【化8】

【0045】
(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子またはトシラート基を示す。)
で表される化合物である。
【0046】
で示される「置換されていてもよいアルキル基」の「アルキル基」とは、直鎖状または分岐鎖状の飽和の脂肪族炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基等のC1−20アルキル基などが挙げられる。好ましくは、C1−6アルキル基である。
【0047】
で示される「置換されていてもよいアルキル基」の「アルキル基」は、置換可能な任意の位置に任意の数(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個)の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の方法における弱塩基性条件下で悪影響を受けないものであれば特に制限はなく、例えば、置換されていてもよいアリール基等が挙げられる。置換基が2個以上である場合、各置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0048】
ここで、置換基としての「置換されていてもよいアリール基」の「アリール基」としては、上記Rで示される「置換されていてもよいアリール基」の「アリール基」と同様のものが挙げられる。該「置換されていてもよいアリール基」は、好ましくは、置換されていてもよいC6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)であり、より好ましくは、1〜3個(好ましくは、1個)のC1−6アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、2−メチルブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等;好ましくは、メトキシ基)で置換されていてもよいC6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)である。
【0049】
は、好ましくは、置換されていてもよいC1−20アルキル基であり、より好ましくは、置換されていてもよいC6−14アリール基から選択される1〜3個(好ましくは、1個)の置換基で置換されていてもよいC1−20アルキル基であり、さらに好ましくは、1〜3個(好ましくは、1個)のC1−6アルコキシ基(好ましくは、メトキシ基)で置換されていてもよいC6−14アリール基(好ましくは、フェニル基)から選択される1〜3個(好ましくは、1個)の置換基で置換されていてもよいC1−20アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基、より好ましくは、メチル基、エチル基)であり、特に好ましくは、メチル基、エチル基、ベンジル基、パラメトキシベンジル基、1−フェニルエチル基である。
特に、式:
【0050】
【化9】

【0051】
(式中、Rは上記と同意義を示す。)
【0052】
で表される化合物との反応においては、Rは、好ましくは、置換されていてもよいベンジル基であり、より好ましくは、1〜3個(好ましくは、1個)のC1−6アルコキシ基(好ましくは、メトキシ基)で置換されていてもよいベンジル基であり、特に好ましくは、ベンジル基、パラメトキシベンジル基である。
【0053】
Xで示される「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。好ましくは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。
【0054】
該「アルキル化剤」は、好ましくは、ベンジルブロミド、パラメトキシベンジルクロリド、(1−ブロモエチル)ベンゼン、(2−ヨードエチル)ベンゼン、2−プロペニルブロミド、1−メチル−2−プロペニルブロミド、3−フェニル−2−プロペニルブロミド、メチルトシラート、エチルトシラート、2−フェニルエチルトシラート等である。
特に、式:
【0055】
【化10】

【0056】
(式中、Rは上記と同意義を示す。)
【0057】
で表される化合物との反応においては、該「アルキル化剤」は、好ましくは、ベンジルブロミド、パラメトキシベンジルクロリド等であり、より好ましくは、パラメトキシベンジルクロリドである。
【0058】
本発明の方法で用いられる「無機塩」としては、上記「アルキル化剤」と反応しない、あるいは相対的に反応が遅い無機塩であれば特に限定されず、例えば、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸四カリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等のリン酸塩、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。好ましくはリン酸塩であり、より好ましくはリン酸三カリウム、ピロリン酸四カリウムである。
別の態様において、「無機塩」は、好ましくは、リン酸三カリウム、ピロリン酸四カリウム、炭酸カリウムである。
【0059】
本反応は、無溶媒下または少量の溶媒中で進行する。本反応に用いられ得る溶媒としては、ジメチルホルムアミド、1,2−ジクロロベンゼン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等が挙げられる。
本反応に用いられる溶媒の量は、基質である「水酸基を有する化合物」に対して、50当量未満である。好ましくは、10当量未満である。
本反応は、溶媒を必要としないため経済的に有利であるばかりか、無溶媒下で行うことにより、反応の促進または高収率化が可能となる。従って、本反応は無溶媒下で行うことが好ましい。
【0060】
本発明の方法では、上記「水酸基を有する化合物」、「アルキル化剤」および「無機塩」を混合することにより、水酸基を有する化合物中の水酸基がアルキル化されたエーテルまたはエステルを得ることができる。
例えば、水酸基を有する化合物として、式:
【0061】
【化11】

【0062】
(式中、Rは上記と同意義を示す。)
で表される化合物を用い、アルキル化剤として、式:
【0063】
【化12】

【0064】
(式中、各記号は上記と同意義を示す。)
で表される化合物を用いる場合、これらを無機塩と共に混合することにより、式:
【0065】
【化13】

【0066】
(式中、各記号は上記と同意義を示す。)
で表されるエーテルまたはエステルを得ることができる。
【0067】
本反応の反応温度は、通常80℃以上、好ましくは120〜150℃である。
本反応の反応時間は、通常30分〜16時間、好ましくは2.5時間である。
【0068】
本発明の方法に用いられる水酸基を有する化合物:アルキル化剤:無機塩のモル比は、例えば、1.0:1.0〜2.0:0.5〜2.0であり、1.0:1.1:1.0とすることが好ましい。これらの化合物をこのような比率で混合することにより、定量的にカップリング反応を進行させることが可能である。なお、反応によっては、アルキル化剤をより過剰に加えたほうが有利な場合もある。
【0069】
本発明の方法では、反応系中にヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム等を添加することにより、反応を促進することが可能である。このようなヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム等の使用量は、基質である「水酸基を有する化合物」に対して、通常、0.05〜1.5当量、好ましくは0.1〜0.2当量である。
【0070】
本発明の方法で得られたエーテルまたはエステルは、自体公知の精製手段により単離・精製することが可能である。例えば、濾過により、または弱酸水で処理することにより無機塩を除去することが可能である。また、例えば、過剰なアルキル化剤がパラメトキシベンジルクロリドである場合は、10%硫酸水素ナトリウム水で処理することにより単離が可能である。
【0071】
本発明の方法に用いられる水酸基を有する化合物において、水酸基が複数存在する場合には、酸性度が高い水酸基が優先的に反応する傾向があり、例えば、フェノール性水酸基>アルコール性水酸基の順である。従って、各水酸基を順次選択的に反応させることにより、目的のエーテルを高収率で合成することが可能となる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下、特に記載しない限り、「当量」は「モル当量」を意味し、「%」は「重量%」を意味する。「収率a)」は単離収率を示し、「収率b)」は、HPLCにより測定された収率を示す。
【0073】
実施例1
【0074】
【化14】

【0075】
窒素雰囲気下、2−フェニルエタノール(1mmol)、パラメトキシベンジルクロリド(PMBCl)(1.1mmol)およびリン酸三カリウム(2mmol)を、磁気攪拌子を備えた反応容器に入れた。混合物を150℃の浴槽で2.5時間還流した。反応混合物に、酢酸エチル(5mL)および10%硫酸水素ナトリウム水を加えた。有機層を酢酸エチルで3回抽出した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、さらに精製を行い、1−メトキシ−4−(フェネトキシメチル)ベンゼン(以下、化合物Aと称する)を得た(収率a):98%)。
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 2.94(2H, t, J=7.2Hz), 3.67(2H, t, J=7.2Hz), 3.79(3H, s), 4.45(2H, s), 6.85(2H, d, J=8.4Hz), 7.24(7H, m).
【0076】
実施例2
リン酸三カリウムの代わりに炭酸カリウムを用いた以外は、実施例1と同様の条件により、化合物Aを得た(収率b):82%)。
【0077】
実施例1と同様の方法により、以下の実施例3〜11の化合物を得た。
【0078】
実施例3
【0079】
【化15】

【0080】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 1.10-1.35(5H, m), 1.44-1.56(1H, m), 1.62-1.76(2H, m), 1.82-1.95(2H, m), 2.78(2H, t, J=7.4Hz), 3.23(1H, td, J=8.8, 3.8Hz), 3.65(2H, t, 7.4Hz), 5.28(2H, s), 7.14-7.32(5H, m).
【0081】
実施例4
【0082】
【化16】

【0083】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 1.48(10H, m), 3.32(1H, sep, J=3.9Hz), 3.77(3H, s), 4.46(2H, s), 6.84(H, d, J=9.0Hz), 7.25(2H, d, J=9.0Hz).
【0084】
実施例5
【0085】
【化17】

【0086】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 1.83(2H, quintet, J=6.3Hz), 1.935(1H, t, J=2.7Hz), 2.32(2H, m), 3.57(3H, t, J=6.0Hz), 4.52(2H, s), 7.34(5H, m).
【0087】
実施例6
【0088】
【化18】

【0089】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 0.94(3H, t, J=7.4Hz), 1.59-1.74(2H, m), 2.31(2H, t, 7.5Hz), 3.81(3H, s), 5.05(2H, s), 6.88(2H, d, 9.0Hz), 7.28(2H, d, 9.0Hz).
【0090】
実施例7
【0091】
【化19】

【0092】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 2.61(2H, t, J=6.3Hz), 3.65(2H, t, J=6.3Hz), 3.80(3H, s), 4.51(2H, s), 6.88(2H, d, J=8.7Hz), 7.25(2H, d, J=8.7Hz), 7.25(2H, d, J=8.7Hz).
【0093】
実施例8
【0094】
【化20】

【0095】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 2.89(3H, t, J=7.1Hz), 3.36(3H, s), 3.61(2H, t, 7.1Hz), 7.19-7.32(5H, m).
【0096】
実施例9
【0097】
【化21】

【0098】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 1.20(3H, t, J=7.0Hz), 2.89(2H, t, 7.4Hz), 3.50(2H, q, 6.9Hz), 3.63(2H, t, 7.4Hz), 7.17-7.31(5H, m).
【0099】
実施例10
【0100】
【化22】

【0101】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 3.44(3H, s), 3.72-3.76(2H, m), 4.47-4.50(2H, m), 3.63(2H, t, 7.4Hz), 7.42-7.47(2H, m), 7.54-7.59(1H, m), 8.06-8.09(2H, m).
【0102】
実施例11
【0103】
【化23】

【0104】
1H-NMR (300MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ: 1.24(3H, t, 7.0Hz), 3.59(2H, q, 6.9Hz), 3.76-3.79(2H, m), 4.46-4.49(2H, m), 7.42-7.47(2H, m), 7.54-7.59(1H, m), 8.06-8.08(2H, m).
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の製造方法によれば、極めて簡便かつ安全な操作により、医薬、農薬およびそれらの中間体などの製造に利用可能な多様な官能基を有するエーテルまたはエステルを高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機塩の存在下、水酸基を有する化合物とアルキル化剤とを、無溶媒下でまたは水酸基を有する化合物に対して50当量未満の溶媒中で反応させることを特徴とする、エーテルまたはエステルの製造方法。
【請求項2】
水酸基を有する化合物が、式:
【化1】


(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水酸基を有する化合物が、式:
【化2】


(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
水酸基を有する化合物が、式:
【化3】


(式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)
で表される化合物である、請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
アルキル化剤が、式:
【化4】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子またはトシラート基を示す。)
で表される化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
無機塩がリン酸塩である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−201671(P2012−201671A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70674(P2011−70674)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】