説明

エーテルカルボン酸塩の製造法

【課題】 目的とするエーテルカルボン酸塩が収率よく得られ、高価な触媒の使用量を削減でき、その回収が容易なエーテルカルボン酸塩の製造法を提供することである。
【解決手段】 エーテルカルボン酸塩の製造法は、水性媒体中で、希土類元素を含む触媒の存在下に、水酸基含有有機化合物と、カルボキシル基含有不飽和有機化合物およびカルボキシル基含有エポキシ化合物から選ばれた少なくとも1種のカルボキシル基含有有機化合物とを反応させるエーテル化工程を含む、エーテルカルボン酸塩の製造法において、前記水性媒体のpHが9超13以下であり、前記触媒の使用量が前記カルボキシル基含有有機化合物1モルに対し0.0001〜0.4モルであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素を含む触媒を用いたエーテルカルボン酸塩の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
エーテルカルボン酸塩の一つであるカルボキシメトキシコハク酸ナトリウムは、無リンの洗剤ビルダーとして有用であり、無水マレイン酸とグリコール酸とを水性媒体中で水酸化カルシウムの存在下に反応させて得られる(非特許文献1)。この方法は、水溶性の水酸化カルシウムを触媒として用いるため、均一系反応の利点を有する反面、カルボキシメトキシコハク酸ナトリウムを単離する上で、カルシウムイオンを不溶性の塩として反応液から除く必要がある。このために、反応液に炭酸ナトリウムを添加してカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして沈澱させ、分離するようにしている。
上記と同じ均一系反応において、触媒として、カルシウムイオンの代わりにランタン(III)イオンも使用できることが報告されている(非特許文献2)。すなわち、水中でグリコール酸ナトリウムとマレイン酸ナトリウムとを三塩化ランタンの存在下、pH5〜9で反応させて、カルボキシメトキシコハク酸塩(ナトリウム塩およびランタン塩)を得る方法である。この方法の場合は、イオン交換樹脂などを用いて反応液からランタンイオンを分離するようにしている。
【0003】
触媒としてランタンイオン等の希土類元素イオンを用いる方法は、カルシウムイオンを使用する方法に比べ、触媒としての活性が高く、目的物の選択率および収率が高いという点で優れている。
上記希土類元素イオンを用いる方法では、反応を円滑に進めるために、触媒が多く用いられているが、希土類元素は高価であり、製造コストの低減を図るために、その使用量を削減したり、反応に使用した触媒を回収して再使用したりすることが望まれる。しかし、ランタンイオンの回収は、通常、イオン交換樹脂に吸着させて行われるが、その回収効率は低く、イオン交換樹脂も高価であった。しかも、イオン交換樹脂に吸着させたランタンイオンを再利用するためには、多量の鉱酸(硫酸、塩酸等)を用いてランタンイオンをイオン交換樹脂から脱着させる工程が必要となるため、コストが高いプロセスとならざるを得ないという問題があった。
【非特許文献1】ケミカル・アブストラクト、75、89458(1971)
【非特許文献2】Jeroen van Westrenen et al.,J.Chem.Soc.Dalton Trans.,2723−2728(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記目的を解決するものであり、目的とするエーテルカルボン酸塩が収率よく得られ、高価な触媒の使用量を削減でき、その回収が容易なエーテルカルボン酸塩の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決する方法を検討する過程で、上記非特許文献2の実験を追試し、反応生成物であるカルボキシメトキシコハク酸塩は、pH5〜9では、ナトリウム塩の形ではなく、主にランタン塩の形になっていることと、遊離のランタンイオンが触媒活性を有するのに対して、このランタン塩は触媒活性を有しないことがわかり、pH5〜9で触媒が多量に必要になるのは、活性な遊離のランタンイオンが徐々に消費されるためであると結論づけた。そして、活性な遊離のランタンイオンが消費されないようにする方法を検討し、pHが高ければ、反応生成物であるカルボキシメトキシコハク酸塩は、ランタン塩の形ではなくナトリウム塩の形となり、活性な遊離のランタンイオンが反応中消費されず、その使用量を削減できるという知見を得て、本発明を完成した。
【0006】
したがって、本発明にかかるエーテルカルボン酸塩の製造法は、水性媒体中で、希土類元素を含む触媒の存在下に、水酸基含有有機化合物と、カルボキシル基含有不飽和有機化合物およびカルボキシル基含有エポキシ化合物から選ばれた少なくとも1種のカルボキシル基含有有機化合物とを反応させるエーテル化工程を含む、エーテルカルボン酸塩の製造法において、前記水性媒体のpHが9超13以下であり、前記触媒の使用量が前記カルボキシル基含有有機化合物1モルに対し0.0001〜0.4モルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかるエーテルカルボン酸塩の製造法は、目的とするエーテルカルボン酸塩が収率よく、しかも高選択的に得られ、高価な触媒の使用量を削減でき、その回収が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明にかかるエーテルカルボン酸塩の製造法は、原料化合物を反応させるエーテル化工程を含み、水性媒体中で、希土類元素を含む触媒の存在下に行われる。原料化合物は、水酸基含有有機化合物と、カルボキシル基含有不飽和有機化合物およびカルボキシル基含有エポキシ化合物から選ばれた少なくとも1種のカルボキシル基含有有機化合物とからなる。
水酸基含有有機化合物としては、ヒドロキシカルボン酸化合物、多価アルコール化合物、炭素数6〜22の高級アルコール化合物および糖類を挙げることができ、これらの水酸基含有有機化合物をさらに具体的に説明すると次のとおりである。
ヒドロキシカルボン酸化合物
(a)下記一般式(1)で表される化合物。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、RおよびRは、各々独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基またはアルカノールアンモニウム基を表し、mは1〜10の整数を表す。代表例としては、グリコール酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、乳酸などを挙げることができる。
(b)下記一般式(2)で表される化合物。
【0011】
【化2】

【0012】
式中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、nは1〜10の整数を表し、そしてXは一般式(1)におけると同意義である。代表例としてはグリセリン酸、グルコン酸などを挙げることができる。
(c)下記一般式(3)で表される化合物。
OH−CH−(CH−O−CH)p−COOX ・・・(3)
式中、pは1〜10の整数を表し、Xは一般式(1)におけると同意義である。代表例としては、ジエチレングリコールモノカルボン酸などを挙げることができる。
(d)下記一般式(4)で表される化合物。
【0013】
【化3】

【0014】
式中、RおよびRは、各々独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、または水酸基を表し、そしてXは一般式(1)におけると同意義である。代表例としては、リンゴ酸、酒石酸などを挙げることができる。
(e)下記一般式(5)で表される化合物。
【0015】
【化4】

【0016】
式中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xは一般式(1)におけると同意義である。代表例としては、タルトロン酸などを挙げることができる。
(f)下記一般式(6)で表される化合物。
【0017】
【化5】

【0018】
式中、R、R、R10およびR11は、各々独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xは一般式(1)におけると同意義である。代表例としては、クエン酸などを挙げることができる。
多価アルコール化合物
(a)下記一般式(7)で表される化合物。
【0019】
【化6】

【0020】
式中、R12〜R15は、各々独立して、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。代表例としては、エチレングリコール、イソプロピレングリコールなどを挙げることができる。
(b)上記一般式(7)の化合物の2〜10の縮合体。
代表例としては、ジエチレングリコールなどを挙げることができる。
(c)グリセリンおよびその誘導体。
代表例としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどを挙げることができる。
【0021】
(d)ソルビトール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど。
炭素数6〜22の高級アルコール化合物(R−OH)
代表例としては、Rがヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、アラキジル、ベヘニル、オレイル、リノール、リノレニル、2−エチルヘキシルなどであるアルコール類を挙げることができる。
糖類
代表例としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フラクトース、ラクトース、ショ糖などを挙げることができる。
【0022】
エーテル化反応で使用されるカルボキシル基含有不飽和有機化合物としては、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸等を挙げることができ、これらのカルボキシル基含有不飽和有機化合物をさらに具体的に説明すると次のとおりである。
不飽和モノカルボン酸化合物
(a)下記一般式(8)で表される化合物。
【0023】
【化7】

【0024】
式中、R16〜R18は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは一般式(1)におけると同意義である。代表例としては、アクリル酸、メタクリル酸などを挙げることができる。
不飽和ジカルボン酸化合物
(a)下記一般式(9)で表される化合物。
【0025】
【化8】

【0026】
式中、R19およびR20は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは一般式(1)におけると同意義である。代表例としては、マレイン酸などを挙げることができる。なお、この不飽和ジカルボン酸は無水物であってもよい。
カルボキシル基含有エポキシ化合物としては、下記のエポキシ化合物を挙げることができる。
下記一般式(10)で表される化合物
【0027】
【化9】

【0028】
式中、R21〜R24は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または−(CH)n−COOX(ここで、nは0〜10の整数であり、Xは一般式(1)におけると同意義である)を表し、その少なくとも1つは−(CH)n−COOXである。代表例としては、グリシド酸、エポキシコハク酸などを挙げることができる。
本発明の製造法の好適な態様としては、たとえば、下記水酸基含有有機化合物(A)と、下記カルボキシル基含有不飽和有機化合物(B1)および/または下記カルボキシル基含有エポキシ化合物(B2)とをエーテル化反応させる方法を挙げることができる。
水酸基含有有機化合物(A)としては、たとえば、グリコール酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、乳酸、グリセリン酸、グルコン酸、ジエチレングリコールモノカルボン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、クエン酸などのヒドロキシカルボン酸;エチレングリコール、イソプロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの多価アルコール;炭素数6〜22の高級アルコール;およびグルコース、マンノース、ガラクトース、フラクトース、ラクトース、ショ糖などの糖類から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。これらのうちでも、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸およびタルトロン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0029】
カルボキシル基含有不飽和有機化合物(B1)としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和モノカルボン酸;(無水)マレイン酸などの不飽和ジカルカルボン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。これらのうちでも(無水)マレイン酸が好ましい。
カルボキシル基含有エポキシ化合物(B2)としては、たとえば、グリシド酸およびエポキシコハク酸から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。これらのうちでもエポキシコハク酸が好ましい。
水酸基含有有機化合物とカルボキシル基含有有機化合物との割合については特に限定はないが、好ましくは、水酸基含有有機化合物/カルボキシル基含有有機化合物(モル比)が0.5〜2の範囲、さらに好ましくは0.8〜1.2の範囲である。上記モル比が0.5未満または2を超えると、一方の原料化合物が反応終了時に残存するようになり、これを除去する精製工程が必要になるおそれがある。
【0030】
本発明の製造法で使用される触媒としては、希土類元素を含む、均一系触媒を挙げることができる。これらの触媒は、通常、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、塩化物、酸化物、水酸化物等の形態になっている。
希土類元素としては、たとえば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム等のランタノイド系元素;スカンジウム;イットリウム等を挙げることができ、これらのうちでも、ランタンは、比較的安価で、入手しやすいため、好適に用いられる。
触媒の使用量は、カルボキシル基含有有機化合物1モルに対し0.0001〜0.4モル、好ましくは0.0005〜0.25モル、さらに好ましくは0.001〜0.1モルである。触媒の使用量がカルボキシル基含有有機化合物1モルに対し0.0001モル未満であると、エーテル化反応が進行しにくくなる。他方、触媒の使用量が0.4モルを超えると、触媒の絶対量が多くなるため、その回収が困難となり、その回収に大いなる時間と労力を要し、その結果、エーテルカルボン酸塩の製造コストが高くなる。
【0031】
本発明で使用される水性媒体としては、一般に水が使用されるが、適宜、アルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチレンホスホリックトリアミドなども使用されることがある。
上記水性媒体のpHは、反応中、9超13以下であり、好ましくは9.2以上12以下、さらに好ましくは9.5以上11以下である。水性媒体のpHが、反応中9以下であると、触媒が生成物の希土類元素塩として消費されてしまい、エーテル化反応が進行しなくなる。他方、水性媒体のpHが、反応中13を超えると、エーテル化反応は進行するが、その反応速度が大きく低下する。
【0032】
本発明の製造法は、水性媒体中で反応が行われ、原料化合物および触媒を水性媒体に添加して仕込む方法等については特に限定はないが、たとえば、原料化合物と水性媒体とを混合して、一旦水性媒体のpHを6未満、好ましくはpH4未満に調整した後、触媒を溶解させ、次に、塩基性物質をさらに添加して、水性媒体のpHを9超13以下の範囲に調整する方法を挙げることができる。
上記塩基性物質としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン等のアンモニウム性塩基などが用いられるが、特に水酸化ナトリウムが好適に用いられる。
【0033】
上記pH調整後に、この範囲のpHでエーテル化反応を行うが、この反応は反応液を40〜150℃、好ましくは70〜120℃の範囲の温度で加熱することにより容易に進行する。反応は十分に撹拌しながら行うのがよい。
反応圧力は常圧または加圧のいずれでもよいが、通常、常圧下で反応は行われる。
上記エーテル化反応後に、希土類元素を水不溶性塩として分離、回収することができる。この水不溶性塩としては、たとえば、希土類元素の炭酸塩や希土類元素の水酸化物を挙げることができる。
希土類元素の炭酸塩は、反応後の反応液に、たとえば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の炭酸塩;カルウシム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンの炭酸塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンの炭酸塩;エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等のポリアミンの炭酸塩;炭酸アンモニウム等のアンモニウム性炭酸塩等のアルカリ性の炭酸塩を混合して、反応液中の希土類元素イオンを炭酸塩に変換することによって得られる。上記アルカリ性の炭酸塩の添加量は希土類元素イオンを炭酸塩に変換するのに十分な量であればよく、その具体的な量は使用した希土類元素イオン量から容易に決定することができる。なお、この場合、反応液のpHが少なくとも8以上、特に9〜14の範囲となるような量のアルカリ性炭酸塩を混合するのがよい。
【0034】
反応液とアルカリ性の炭酸塩を混合する方法は特に限定されず、反応液中にアルカリ性の炭酸塩の粉末または水溶液を添加してもよく、アルカリ性の炭酸塩の粉末または水溶液中に反応液を添加しても良い。混合時の温度も特に限定されないが、目的とするエーテルカルボン酸の分解を抑制するためには反応温度以下、特に40〜90℃が好ましい。
希土類元素の炭酸塩は、反応生成物であるエーテルカルボン酸塩を含む、中性ないしはアルカリ性の水溶液中には難溶であって、ろ過などの通常の分離手段によって容易に反応液から分離することができる。
希土類元素の水酸化物は、反応後に反応液のpHを10〜14、好ましくは12〜14の範囲に調整することにより、難溶性の固体として析出し、ろ過などの通常の分離手段によって容易に反応液から分離することができる。
【0035】
上記反応液から分離した水不溶性塩は、新たなエーテル化反応用の希土類元素の供給源として再使用でき、前記エーテル化反応を繰り返し行うことができる。
本発明のエーテルカルボン酸の製造法として、グリコール酸を水酸基含有有機化合物として用い、マレイン酸をカルボキシル基含有不飽和有機化合物として用いた場合と、グリコール酸を水酸基含有有機化合物として用い、エポキシコハク酸をカルボキシル基含有エポキシ化合物として用いた場合とを例にして、それぞれの化学反応式を示すと次のとおりである。なお、これらの式においては、カルボン酸塩は相当するカルボン酸として示している。
グリコール酸とマレイン酸との反応
【0036】
【化10】

【0037】
グリコール酸とエポキシコハク酸との反応
【0038】
【化11】

【0039】
本発明の製造法によって得られるエーテルカルボン酸塩は、原料化合物が特定されれば、上記式にしたがって容易に特定することができる。なお、このようにして得られたエーテルカルボン酸塩は、通常、その一部または全てのカルボキシル基がアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルキルアミン塩基、アルカノールアミン塩基、ポリアミン塩基、アンモニウム塩基等で置換されたものである。
上で得られたエーテルカルボン酸塩、特にナトリウム塩は、前記のとおり、洗剤用ビルダーとして有用なものであり、各種の洗剤組成物に利用することができる。その他、キレート剤などとして使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
−実施例1−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと酸化ランタン1.6g(対無水マレイン酸モル比:0.025)とを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを9.8に調整し、80℃で10時間反応を行った。反応終了後、反応液が60℃になった時点で、炭酸ナトリウム3.2gを加え、60℃で1時間攪拌した後、析出した炭酸ランタンを主成分とする固体(1)をろ過操作により分離、回収し、ろ液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、カルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、91.4モル%の収率で得られた。なお、CMOS−3Naの同定は、H−NMRおよび13C−NMRにより行った。また、ろ液をICPにより分析した結果、ろ液中のランタンイオン濃度は10ppm以下であり、酸化ランタンを構成していた大部分のランタンが固体(1)として回収された。
【0041】
−実施例2−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと実施例1で分離、回収した固体(1)とを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを9.8に調整し、80℃で10時間反応を行った。反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、ろ液中にカルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、90.8モル%の収率で得られた。また、ろ液をICPにより分析した結果、ろ液中のランタンイオン濃度は10ppm以下であり、酸化ランタンを構成していた大部分のランタンが固体(2)として回収された。
【0042】
−実施例3−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと酸化ランタン0.1g(対無水マレイン酸モル比:0.0015)とを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを9.8に調整し、80℃で20時間反応を行った。反応終了後、反応液が60℃になった時点で、炭酸ナトリウム0.2gを加え、60℃で1時間攪拌した後、析出した炭酸ランタンを主成分とする固体(3)をろ過操作により分離、回収し、ろ液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、カルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、80.3モル%の収率で得られた。なお、CMOS−3Naの同定は、H−NMRおよび13C−NMRにより行った。また、ろ液をICPにより分析した結果、ろ液中のランタンイオン濃度は10ppm以下であり、酸化ランタンを構成していた大部分のランタンが固体(3)として回収された。
【0043】
−実施例4−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと実施例1で分離、回収した固体(1)とを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを9.8に調整し、80℃で20時間反応を行った。反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、ろ液中にカルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、81.0モル%の収率で得られた。また、ろ液をICPにより分析した結果、ろ液中のランタンイオン濃度は10ppm以下であり、酸化ランタンを構成していた大部分のランタンが固体(4)として回収された。
【0044】
−実施例5−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと酸化ランタン0.8g(対無水マレイン酸モル比:0.012)とを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを9.8に調整し、80℃で12時間反応を行った。反応終了後、反応液が60℃になった時点で、水酸化ナトリウムを加え、反応液のpHを13付近に調整し、1時間攪拌した後、析出した水酸化ランタンを主成分とする固体(5)をろ過操作により分離、回収し、ろ液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、カルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、84.5モル%の収率で得られた。なお、CMOS−3Naの同定は、H−NMRおよび13C−NMRにより行った。また、ろ液をICPにより分析した結果、ろ液中のランタンイオン濃度は10ppm以下であり、酸化ランタンを構成していた大部分のランタンが固体(5)として回収された。
【0045】
−実施例6−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと実施例1で分離、回収した固体(1)とを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを9.8に調整し、80℃で12時間反応を行った。反応終了後、実施例5と同様の操作を行い、ろ液中にカルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、84.7モル%の収率で得られた。また、ろ液をICPにより分析した結果、ろ液中のランタンイオン濃度は10ppm以下であり、酸化ランタンを構成していた大部分のランタンが固体(6)として回収された。
【0046】
−比較例1−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと酸化ランタン1.6gとを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを8.5に調整し、80℃で10時間反応を行った。反応終了後、実施例1と同様に操作して、ろ液中にカルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、11.8モル%の収率で得られた。
−比較例2−
無水マレイン酸19.6gを水50gに溶解させた後、70重量%グリコール酸水溶液21.7gと酸化ランタン0.8gとを添加し、室温下、反応液が均一になるまで攪拌した。攪拌後、水酸化ナトリウムで反応液のpHを13.5に調整し、80℃で12時間反応を行った。反応終了後、実施例1と同様に操作して、ろ液中にカルボキシメトキシコハク酸トリナトリウム塩(CMOS−3Na)が、28.7モル%の収率で得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中で、希土類元素を含む触媒の存在下に、水酸基含有有機化合物と、カルボキシル基含有不飽和有機化合物およびカルボキシル基含有エポキシ化合物から選ばれた少なくとも1種のカルボキシル基含有有機化合物とを反応させるエーテル化工程を含む、エーテルカルボン酸塩の製造法において、
前記水性媒体のpHが9超13以下であり、前記触媒の使用量が前記カルボキシル基含有有機化合物1モルに対し0.0001〜0.4モルであることを特徴とする、エーテルカルボン酸塩の製造法。
【請求項2】
反応後に前記希土類元素を水不溶性塩として分離、回収する工程をさらに含む、請求項1に記載のエーテルカルボン酸塩の製造法。
【請求項3】
前記水不溶性塩が炭酸塩および/または水酸化物である、請求項2に記載のエーテルカルボン酸塩の製造法。
【請求項4】
前記水不溶性塩を触媒として再使用する工程をさらに含む、請求項2または3に記載のエーテルカルボン酸塩の製造法。


【公開番号】特開2008−138010(P2008−138010A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8430(P2008−8430)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【分割の表示】特願平10−165119の分割
【原出願日】平成10年6月12日(1998.6.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】