説明

オイルカーボン付着を阻止するための、構成部分の接着防止被膜

本発明は、炭素化合物と接触する構成部分のための被膜に関する。この場合、本発明によれば、前記被膜は、耐熱性の有機・無機ハイブリッドポリマーより成る被膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載した、炭素化合物と接触する構成部分のための被膜に関する。
【0002】
例えばオイルカーボン等の構成部分における有害付着物は、炭素化合物に接触する構成部分上に形成される。このようないわゆるオイルカーボンは、約180℃(これ以下だと炭化が形成されない)〜約380℃(これ以上だとオイルカーボンは既に燃焼開始される)の間の温度で形成される。例えば内燃機関の燃焼室(この燃焼室内にピストンが配置されている)内で炭素を含有する燃料・空気混合気が燃焼される、内燃機関のピストン、弁及びこれと類似のものにおいて、オイルカーボンの堆積、いわゆるオイルカーボン付着が形成される。このような燃焼室内において温度に基づいてオイルカーボンは燃焼されず、不都合なオイルカーボン付着が生じることになる。
【0003】
従来技術によれば、以上のようなオイルカーボンが構成部分に付着するのを避けるための措置が講じられているが、これらの措置は従来ではすべて不満足なものであった。ヨーロッパ特許第0874066号明細書によれば、プラズマ析出によって製作される、シリコンを含有する非結晶の水素化炭素層が公知である。このようなプラズマ析出は、構成部分の大量生産においては高価であって、費用がかかり、前記炭素層も所望の特性を有してはいない。ドイツ連邦共和国特許公開第10004132号明細書によれば、汚れ付着防止層を製造するための被膜構成要素が公知であって、この場合、オイルカーボン付着の問題は指摘されていない。ドイツ連邦共和国特許公開第10118352号明細書には、疎水性構造による自己浄化式の表面について開示されており、またドイツ連邦共和国特許公開第10106213号明細書によれば、自己浄化式の塗料被膜及び方法、並びにこの塗料被膜を製造するための手段について記載されており、この場合も、表面が炭素化合物と接触する点については記載されていない。
【0004】
そこで本発明の課題は、オイルカーボンの堆積を効果的に阻止することができるような、炭素化合物と接触する構成部分のための被膜を提供することである。
【0005】
この課題は、請求項1の特徴によって解決された。
【0006】
本発明によれば、被膜(コーティング)が、耐熱性の有機・無機ハイブリッドポリマーより成る被膜である。このような被膜は、例えば「Sol−Gel−Verfahren(ゾルゲル法)」で製造することができる。
【0007】
有機・無機ハイブリッドポリマーは、燃焼可能な金属・アルコキシド及び/又は、前駆物質としての重合化可能な有機金属化合物によって有機溶剤中で形成される。
【0008】
金属は、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Al(アルミニウム)、Sn(錫)又はCe(Cer)のグループであってよい。この場合、配列は完全ではない。これらの金属は、特に燃焼室内の温度において燃焼(熱分解)中に、完全に又は部分的に酸化物に変換され、互いに焼結され、それによって高温耐熱性の層が形成される。
【0009】
この被膜は、構成部分に対する高い接着強さ及び高い耐熱性を特徴としている。有機・無機ハイブリッドポリマー(これ自体、液体によって濡れにくく、ひいては接着防止作用を有している)は、例えばテフロン材料によって公知であるように、例えばペルフルオロ化された基の添加によって良好な粘着特性を有している。勿論、テフロンはその熱的な使用限界が300℃である、という欠点を有しており、これに対して、本発明による有機・無機ハイブリッドポリマーはこの上限を越える温度でも問題なく使用することができる。
【0010】
さらにまた、所望の接着防止特性は、表面のナノ構造によって、及び親水性の悪い材料を使用することによって得られるので、専門家の間で「Lotus−Effekt(ロータス作用)」として知られている作用が得られる。
【0011】
本発明の実施態様によれば、前記被膜にインキの色素が混合されている。この場合、混合されたインキの色素は同様に耐熱性であることは明らかである。従って例えば、放射線吸収を高めるために黒又はその他の暗い色素を使用することができ、その結果、熱導出の改善が得られる。
【0012】
本発明の別の実施態様によれば、前記被膜に金属の色素が混合されている。このような金属の色素は、反射率を高めるために使用され、これによって構成部分の温度が低下され、ひいては、高熱ガス腐食を効果的に阻止することができる。しかも、金属の色素によって、構成部分の熱膨張係数と被膜の熱膨張係数とは互いに適合されるので、被膜と構成部分との間の熱応力が逃がされるようになっている。
【0013】
本発明の実施態様によれば、前記被膜にセラミックのナノ粒子が混合されている。このセラミックの被膜は、被膜の潤滑性を高めるので、高熱ガス腐食だけでなく、被膜の摩擦も低減される。
【0014】
本発明の別の実施態様によれば、複数の種類の前記色素が互いに組み合わされている。
【0015】
本発明による被膜は、炭素化合物に関連した、内燃機関の構成部分において特に有利に使用することができる。従って一方では、内燃機関の噴射ノズルは本発明による被膜を備えている。これによって、噴射ノズルにおけるオイルカーボン付着が阻止される。何故ならば、そうでなければ、オイルカーボン付着は、噴射された燃料の噴射流形成を妨害して、不都合な出力低下、若しくは燃料消費増大及び排ガス増大を招くことになるからである。これは被膜された噴射ノズルによって効果的に阻止される。しかも、被膜された噴射ノズルによって、内燃機関の噴射ポンプを破壊するような対抗圧力を高めるオイルカーボン付着は発生しない。
【0016】
また、内燃機関の点火プラグの点火電極に、前記本発明による被膜が設けられている。これによって、点火プラグの部分特に点火電極にオイルカーボンが付着しないようになっているので、イグニッションスパークの形成が妨害を受けることはないか、又は阻止されることはない。
【0017】
さらにまた、内燃機関のピストン若しくはピストンリングに本発明による被膜を設けてもよい。これらの構成部分においてオイルカーボンが堆積すると、オイルカーボンの多孔性に基づいて内燃機関の燃料消費及び有害物質排出が不都合な作用を受ける。ピストン、ピストンリング、弁等の可動な部分においては、付着したオイルカーボンは、滑動特性を低下させ、焼付きが発生する。しかも、黒いオイルカーボンは、特に放射熱によるピストンの加熱を生ぜしめ、ひいては同様に前記不都合な作用を生ぜしめる。このような不都合な作用は、本発明の被膜によって取り除くことができるので、内燃機関の燃料消費及び有害物質排出は低下される。そうでなければ、このような内燃機関の燃料消費及び有害物質排出の低下は、燃料に添加剤として混合することによってしか得られない。しかしながらこのような添加剤は高価であって、内燃機関が組み込まれている自動車のユーザーに追加的な負担を強いることになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素化合物と接触する構成部分のための被膜において、
該被膜が、耐熱性の有機・無機ハイブリッドポリマーより成る被膜であることを特徴とする、炭素化合物と接触する構成部分のための被膜。
【請求項2】
前記被膜に金属の色素が混合されている、請求項1記載の被膜。
【請求項3】
前記被膜に不動態色素が混合されている、請求項1記載の被膜。
【請求項4】
前記被膜にインキの色素が混合されている、請求項1記載の被膜。
【請求項5】
前記被膜にセラミックのナノ粒子が混合されている、請求項1記載の被膜。
【請求項6】
前記被膜に、少なくとも2種類の色素が混合されている、請求項2から5までのいずれか1項記載の被膜。
【請求項7】
内燃機関の噴射ノズルにおいて、
請求項1から6までのいずれか1項記載の被膜を備えていることを特徴とする、内燃機関の噴射ノズル。
【請求項8】
内燃機関の点火プラグにおいて、
請求項1から6までのいずれか1項記載の被膜を備えた点火電極が設けられていることを特徴とする、内燃機関の点火プラグ。
【請求項9】
内燃機関のピストンにおいて、
請求項1から6までのいずれか1項記載の被膜を備えていることを特徴とする、内燃機関のピストン。
【請求項10】
内燃機関のピストンリングにおいて、
請求項1から6までのいずれか1項記載の被膜を備えていることを特徴とする、内燃機関のピストンリング。
【請求項11】
内燃機関の吸気又は排出弁において、
請求項1から6までのいずれか1項記載の被膜を備えていることを特徴とする、内燃機関の吸気又は排出弁。

【公表番号】特表2008−530440(P2008−530440A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555493(P2007−555493)
【出願日】平成18年2月4日(2006.2.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000989
【国際公開番号】WO2006/087113
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504233247)カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
【住所又は居所原語表記】Karl−Schmidt−Strasse, D−74172 Neckarsulm, Germany
【Fターム(参考)】