説明

オイルシール

【課題】緊迫力のばらつきを防止しつつシールリップの共振を防止する。製造コストの増加を抑える。
【解決手段】シールリップ1と、シールリップ1を締め付けるばね2,3とを備えるオイルシールであって、一のシールリップ1に対してばね定数の異なる2種類のばね2,3を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルシールに関する。更に詳しくは、本発明は、一又は複数のシールリップと、当該シールリップを回転軸等に押し付けるばねとを備えるオイルシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸や往復運動する軸等(以下、回転軸等という)と当該回転軸等を囲むハウジング等との間をシールするオイルシールには、シールリップを回転軸等に押し付けるばねを有するものがある。このばねを有するオイルシールとして、例えば実開平3−7575号(実願平1−67748号)に開示されたものがある。このオイルシールを図5に、オイルシールに使用されているばね101を図6にそれぞれ示す。このオイルシールのばね101は、線条のばね材を巻き回して形成されており、密に巻き回した所謂ガーター巻き部分102と、間隔をあけて粗に巻き回した所謂ピッチ巻き部分103とが交互に形成されている。ガーター巻き部分102とピッチ巻き部分103とを形成することで径方向の振動に対するばね定数を部分的に変えることができ、オイルシールのシールリップ104の円環振動を抑制している。
【0003】
【特許文献1】実開平3−7575号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のオイルシールでは、ガーター巻き部分102とピッチ巻き部分103とからなるばね101を使用してシールリップ104を回転軸等に押し付けているので、シールリップ104を全周に亘り同一の緊迫力で押さえ付けることができないことがあり、その場合には、回転軸等に対するシールリップ104先端の接触面圧にばらつきが生じ、その結果、密封性が低下する。また、ばね101を製造する際、ばね材の巻き方の粗密の製造工程が複雑であると共に、製造したばね101の特性管理が難しく、製造コストが増加する。
【0005】
本発明は、緊迫力のばらつきを防止しつつシールリップの共振を防止することができ、しかも製造コストの増加を抑えることができるオイルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、シールリップと、当該シールリップを締め付けるばねとを備えるオイルシールにおいて、一のシールリップに対してばね定数の異なる2種類のばねを設けたものである。
【0007】
したがって、シールリップは2種類のばねによって締め付けられてその先端部が回転軸や往復運動する軸等の外周面に押し付けられる。2種類のばねのばね定数は異なっており、固有振動数が異なる。スティックスリップ等の振動数が片方のばねの固有振動数に一致し共振しようとしても、もう片方のばねは共振せずにシールリップを良好に締め付ける。
【0008】
また、請求項2記載のオイルシールは、2種類のばねがシールリップの長さ方向に並べられているものである。したがって、シールリップの広い面積が2種類のばねによって軸に押し付けられることになり、接触面圧を任意に分散させることができる。また、2種類のばねのばね定数の大小関係、例えばどちらのばねのばね定数が大きいか、どのぐらい大きさに差があるのか等の関係を変えることで、シールリップの接触面圧の分布を調整することができる。
【0009】
さらに、請求項3記載のオイルシールは、2種のばねが同心円状に並べられているものである。したがって、ばねによって軸に押し付けられるシールリップの面積が狭くなり、集中的に締め付けることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載のオイルシールでは、一のシールリップに対してばね定数の異なる2種類のばねを設けているので、スティックスリップ等の振動数が片方のばねの固有振動数に一致し共振しようとした場合であっても、もう一方のばねによってシールリップを良好に締め付けることができる。このため、シールリップの共振を防止することができ、接触面圧の低下を防いで密封対象物の漏れを防止することができる。また、ばねによってシールリップを全周に亘り均一に締め付けることができるので、この点からもシール性能を良好に維持することができる。さらに、規格品・汎用品のばねを使用することができるので、たとえばねの使用数が増加したとしても、特別な構造のばねを使用する場合に比べて製造コストの増加を抑えることができると共に、品質管理が容易である。また、使用するばねを異なるばね定数のものと交換するだけでオイルシールの振動特性を変更することができ、スティックスリップ等の振動数が異なる部位に使用可能となり汎用性を向上させることができる。
【0011】
また、請求項2記載のオイルシールでは、2種類のばねがシールリップの長さ方向に並べられているので、シールリップの軸接触面に作用する面圧を分散させることができ、シールリップの摩耗を抑制することができる。また、2種類のばねのばね定数の大小関係を変えることで、シールリップの接触面圧の分布を調節することができる。
【0012】
さらに、請求項3記載のオイルシールでは、2種のばねが同心円状に並べられているので、シールリップの軸接触面に作用する面圧を部分的に大きくすることができ、接触面圧の確保が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1に本発明のオイルシールの実施形態の一例を示す。オイルシールは、シールリップ1と、当該シールリップ1を締め付けるばね2,3とを備えており、一のシールリップ1に対してばね定数の異なる2種類のばね2,3を設けたものである。シールリップ1は、例えば1つ設けられている。シールリップ1の後面角θは、例えば15度以上に設定されている。
【0015】
本実施形態のオイルシールは金属環4を有している。ただし、金属環4を省略しても良い。また、本実施形態のオイルシールはダストリップ5を有している。ただし、ダストリップ5を省略しても良い。
【0016】
2種類のばね2,3は、シールリップの長さ方向、即ち軸7の軸線方向に並べられており、シールリップ1の外周を締め付け、リップ先端部1aを軸7の外周面に押し付けている。ばね2,3を構成するばね材の太さや材質、ばね2,3自体の太さ(コイル径)等の寸法的な条件を変えたり、材質的な条件を変えることで、2種類のばね2,3のばね定数を異ならせることができる。シールリップ1の外周面には全周に亘って環状溝6が2本形成されており、各環状溝6に各ばね2,3がそれぞれ配置されている。主となる第1のばね2はリップ先端部1aに対応する位置(リップ先端部1aの径方向外側の位置)よりも若干、ダストリップ5側の位置にオフセットして設けられている。ただし、ダストリップ5とは反対側の位置にオフセットさせても良い。また、副となる第2のばね3は第1のばね2のダストリップ5側の位置に設けられている。2種類のばね2,3のばね定数は、第1のばね2の方が大きくても良く、あるいは第2のばね3の方が大きくても良い。
【0017】
第1のばね2の緊迫力aと第2のばね3の緊迫力bとの大小関係はa≧bとなっている。また、シールリップ1の後面角θは15度以上となっている。これらにより、軸7に対するリップ接触面圧の確保を容易にすることができる。ただし、a<bとしても良く、また、シールリップ1の後面角θを15度未満にしても良い。
【0018】
次に、オイルシールの作用を説明する。本発明のオイルシールでは、ばね定数の異なる2種類のばね2,3によってシールリップ1を締め付け、リップ先端部1aを軸7の外周面に押し付けている。2種類のばね2,3のばね定数は異なっているので、固有振動数も異なる。このため、スティックスリップ等の振動数が片方のばね2又は3の固有振動数に一致し共振しようとしても、もう片方のばね3又は2は共振せずにシールリップ1の締め付けを良好に維持できる。このため、密封対象物の漏れを防止することができる。
【0019】
また、2種類のばね2,3として規格品、汎用品を使用することができるので、ばねの使用数は多くなるものの、特殊なばねを使用する場合に比べて製造コストの増加を抑制することができると共に、部品管理、品質管理を容易にすることができる。
【0020】
また、ばね2,3によってシールリップ1を全周に亘り均一に締め付けることができるので、この点からもシール性能を良好に維持することができ、密封対象物の漏れを防止することができる。
【0021】
さらに、ばね2,3の一方又は両方をばね定数の異なるものと交換するだけで、当該ばねの固有振動数を変えることができるので、共振振動数の調節が容易であり、様々な種類の軸7に適用でき汎用性を向上させることができる。
【0022】
また、2種類のばね2,3をシールリップ1の長さ方向に並べているので、シールリップ1のリップ先端部1aの広い面積を2種類のばね2,3によって軸7に押し付けることができ、接触面圧を分散させることができる。このため、シールリップ1のリップ先端部1aの摩耗を抑制することができる。また、2種類のばね2,3のばね定数を変えることで、シールリップ1の接触面圧の分布を調節することができる。
【0023】
さらに、2種類のばね2,3をシールリップ1の長さ方向に並べるようにしているので、後述するように、2種類のばね2,3を同心円状に並べるスペース的な余裕がなくても、2種類のばね2,3を設けることができる。
【0024】
本発明のオイルシールは、軸7の心ずれや往復動、スティックスリップ等に伴いシールリップ1に振動が発生するオイルシールへの適用に適している。また、共振現象が起こり易いオイルシールとして、例えば内燃エンジンのクランク軸用オイルシール等、高周速、低トルク、断面コンパクト設計のオイルシールへの適用に適している。また、その他のオイルシールに適用しても良い。
【0025】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0026】
例えば、図2に示すように、シールリップ1の2種類のばね2,3の間の位置に突起1bを設けても良い。シールリップ1の外側面に突起1bを設けることでばね2,3同士の接触を防止してこれらの干渉を回避することができる。また、突起1bを設けることで、オイルシール装着時にシールリップ1が捲れたとしてもばね2,3が外れ難くなる。なお、突起1bの高さはばね2又は3のコイル径の1/3以上の高さが好ましい。1/3以上の高さにすることで、ばね2,3の外れをより確実に防止できる。
【0027】
また、上述の説明では、2種類のばね2,3をシールリップ1の長さ方向に並べていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、図3に示すように、2種類のばね8,9を同心円状に並べても良い。この場合には、例えば2種類のばね8,9をシールリップ1の長さ方向に並べて配置するスペース的な余裕が無いときにも2種類のばね8,9を設けることができる。2種類のばね8,9のうち、内側のばね8よりも外側のばね9の方のばね定数を大きくしても良く、逆に小さくしても良い。また、内側のばね8よりも外側のばね9の方の緊迫力を大きくしても良く、逆に小さくしても良い。
【0028】
また、上述の説明では、シールリップ1の数は1つであったが、例えば、図4に示すように、シールリップ1の数は2つでも良い。即ち、2つのシールリップ1を反対方向に向けて設け異なる液体を分離させる場合等に使用するオイルシールに適用しても良い。この場合にも一のシールリップ1に対してばね定数の異なる2種類のばね2,3を設けている。2つのシールリップ1の第1のばね2のばね定数を同じにしても良く、相違させても良い。また、2つのシールリップ1の第2のばね3のばね定数を同じにしても良く、相違させても良い。さらに、一方のシールリップ1の第1のばね2と他方のシールリップ1の第2のばね3とのばね定数を同じにしても良く、相違させても良い。また、一方のシールリップ1の第2のばね3と他方のシールリップ1の第1のばね2とのばね定数を同じにしても良く、相違させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のオイルシールの第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のオイルシールの第2の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明のオイルシールの第3の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明のオイルシールの第4の実施形態を示す断面図である。
【図5】従来のオイルシールの一部切り欠き斜視図である。
【図6】図5のオイルシールのばねの平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 シールリップ
2,3,8,9 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールリップと、当該シールリップを締め付けるばねとを備えるオイルシールにおいて、一のシールリップに対してばね定数の異なる2種類のばねを設けたことを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
前記2種類のばねは前記シールリップの長さ方向に並べられていることを特徴とする請求項1記載のオイルシール。
【請求項3】
前記2種のばねは同心円状に並べられていることを特徴とする請求項1記載のオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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