説明

オイルシール

【課題】確実な密封性を容易に得ることのできるオイルシールを提供する。
【解決手段】シールリップ32に、回転体Sの停止時に密封流体の漏れを防止するための第1シール面33と、この第1シール面33より密封側に並設され、回転体sの回転時における密封流体の漏れを防止するための第2シール面34とを設ける。また、第2シール面34の樹脂層39の表面には複数のねじ40が設けるとともに、第2シール面34のリップ先端37の背面にはガータースプリング42を配設する。さらに、ガータースプリング42は、装着状態においてガータースプリング42のコイル径の中心のシール幅方向における位置が第1シール面33のリップ先端36のシール幅方向における位置と第2シール面34のリップ先端37のシール幅方向における位置との間に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシールに係り、特に、シールリップのシール面に樹脂層が設けられているオイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、潤滑油や作動油などの密封すべき密封流体の漏れを防ぐ密封装置の1種としてオイルシールが知られている。このオイルシールの1種として、ゴムなどのゴム状弾性体により形成されたシールリップの少なくともシール面に、低摩擦、低摩耗、耐薬品性に優れたふっ素樹脂により形成された樹脂層を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この樹脂層を設けたオイルシールは、樹脂層を設けないゴム状弾性体のみにより形成されたシールリップに比較して低摩擦であるため回転体のトルクを低減することができるものの、弾性が低いため密封性に劣るという問題点があった。
【0004】
そこで、本出願人は、密封性を向上させたオイルシールを提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
このオイルシールは、回転体としての回転軸の停止時に密封流体の漏れを防止するための第1シールリップと、第1シールリップの先端から密封側に向かって延出され回転軸の回転時に密封流体の漏れを防止するための第2シールリップとを有しており、第2シールリップのシール面には、密封側から第1シールリップ側に漏れようとする密封流体を密封側に押し戻すポンプ機能を発揮するためのリップ先端に接続された複数のねじが設けられた構成とされている。
【0006】
そして、第2シールリップにより回転軸の回転時における密封性を確保するとともに、第1シールリップにより回転軸の停止時における密封性を確保することで、密封性を向上させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−185028号公報
【特許文献2】特開2011−174570号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の2つのシールリップを有するオイルシールにおいては、第2シールリップが第1シールリップの先端から密封側に向かって延出されているとともに、大気側に配置された第1シールリップの背面に配置されたガータースプリングにより、2つのシールリップの緊迫力が保持されている構成とされているため、シールリップの緊迫力を第1シールリップのリップ先端と第2シールリップのリップ先端とにバランスよく分散させることができず、密封性に劣る場合があるという問題点があった。
【0009】
そこで、確実な密封性を容易に得ることができるオイルシールが求められている。
【0010】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、確実な密封性を容易に得ることができるオイルシールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項1に記載の本発明のオイルシールの特徴は、回転体と静止体との間に装着され、ゴム状弾性体により形成された環状のシールリップを有しているとともに、前記シールリップの少なくともシール面には樹脂層が設けられており、前記シール面のリップ先端が回転体の表面に摺動可能に密接されるように形成されているオイルシールであって、前記シールリップは、回転体の停止時に密封流体の漏れを防止するための第1シール面と、前記第1シール面より密封側に並設され、回転体の回転時における密封流体の漏れを防止するための第2シール面とを有しており、前記第2シール面の樹脂層の表面には複数のねじが設けられており、前記シールリップの背面にはガータースプリングが配設されており、前記ガータースプリングは、装着状態において前記ガータースプリングのコイル径の中心のシール幅方向における位置が前記第1シール面のリップ先端のシール幅方向における位置と前記第2シール面のリップ先端のシール幅方向における位置との間に配置されている点にある。
【0012】
そして、このような構成を採用したことにより、シールリップの緊迫力を第1シール面のリップ先端と第2シール面のリップ先端との2箇所にバランスよく分散させることができるので、確実な密封性を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のオイルシールによれば、シールリップの緊迫力を第1シール面のリップ先端と第2シール面のリップ先端とにバランスよく分散させることができるので、確実な密封性を容易に得ることができるなどの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るオイルシールの実施形態の自由状態における概略断面図
【図2】図1のオイルシールの装着状態を示す図1と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に示す実施形態により説明する。
【0016】
図1および図2に示すように、本実施形態の密封装置としてのオイルシール10は、回転体としての回転軸Sと静止体としてのハウジングHとの間に装着され、回転軸SとハウジングHとの間の環状のシール隙間Gを密封することのできる、いわゆる内周リップタイプのものを例示している。
【0017】
本実施形態形態のオイルシール10は、金属あるいは樹脂などにより形成された補強環20に、ゴムなどのゴム状弾性体により形成されたシール本体30が一体に焼き付けられて形成されている。
【0018】
前記補強環20は、円筒部21と、この円筒部21の図1の左側に示す大気側ASの端部から回転軸Sに向かって延出形成された内向きのフランジ部22とを有しており、全体として図1の右側に示す潤滑油や作動油などの密封流体が存在する密封側OSが開口の断面ほぼL字状をなす環状に形成されている。
【0019】
前記シール本体30は、ハウジングHの内面に嵌合される外周シール部31と、回転軸Sに対して適宜な締め代をもって接触するシールリップ32とを有している。そして、外周シール部31は、補強環20の円筒部21の外周を覆うように形成されている。なお、設計コンセプトなどの必要に応じて、補強環20の内周部から大気側ASに向かって徐々に縮径するように形成された環状のダストリップを設けてもよい。
【0020】
前記シールリップ32は、第1シール面33および第2シール面34を有している。すなわち、本実施形態のシールリップ32は、軸方向に沿って並設された2つのシール面33、34を備えている。
【0021】
前記第1シール面33は、回転軸Sの停止時に密封流体の漏れを防止するためのものであり、密封側OSに向かって徐々に縮径するように環状に形成されている。そして、第1シール面33の小径の位置はリップ先端36(以下、第1リップ先端36と記す。)とされている。
【0022】
前記第2シール面34は、回転軸Sの回転時における密封流体の漏れを防止するためのものであり、第1シール面33より図1の右方に示す密封側OSに並設されている。そして、第2シール面34は、第1リップ先端36から密封側OSに向かってほぼ筒状に延出された接続面部34aと、この接続面部34aの図1の右端縁から密封側OSに向かって徐々に縮径するように環状に形成されたシール面部34bとを有している。また、接続面部34aおよびシール面部34bのそれぞれの左右方向に示す長さは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。本実施形態においては、接続面部34aとシール面部34bのそれぞれの長さが等しく形成されている。そして、シール面部34bの小径の位置、ひいては第2シール面34の小径の位置はリップ先端37(以下、第2リップ先端37と記す。)とされている。さらに、図1に示す自由状態における第2リップ先端37は、第1リップ先端36より小径に形成されている。なお、本実施形態のオイルシール10が回転軸SとハウジングHとの間のシール隙間Gに装着された図2に示す装着状態においては、第2シール面34の接続面部34aのうち、第1リップ先端36との接続部分を除く部位は、回転軸Sと非接触状態で対向するように形成されている。また、接続面部34aとしては、径方向外側に凸の環状曲面であってもよい。さらに、第2シール面34の回転軸Sとのなす傾斜角度は、第1シール面33の回転軸Sとのなす傾斜角度より小さく形成されている。さらにまた、本実施形態においては、シール面部34bの図1の左右方向に示す長さは、第1シール面33の図1の左右方向に示す長さと等しく形成されている。勿論、シール面部34bの長さと、第1シール面33の長さとが異なっていてもよい。
【0023】
前記第1シール面33および第2シール面34の表面は、それぞれ樹脂層39で被覆されている(図1に誇張して示してある。)。この樹脂層39は、樹脂シートを一体化したものであってもよいし、樹脂をコーティングして一体化したものであってもよい。また、樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのふっ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂から設計コンセプトなどの必要に応じて選択することができる。さらに、樹脂材料としては、樹脂単独であってもよいし、ガラス繊維、カーボン繊維、グラファイト、モリブデン、カーボンなどを単独あるいは数種類を組み合わせて充填剤としての適宜な量が配合されたものであってもよい。
【0024】
なお、本実施形態においては、第1シール面33およびこれに並設された第2シール面34の両者を樹脂層39で被覆する構成としたが、第1シール面33および第2シール面34のうちのシール面部34bのみを樹脂層39で被覆する構成としてもよい。この場合、第1シール面33の樹脂層39と、第2シール面34のシール面部34bの樹脂層39とを同じ樹脂材料としてもよいし、異なる樹脂材料としてもよい。
【0025】
前記第2シール面34の表面、詳しくは第2シール面34のシール面部34bの表面には、第2リップ先端37に接続された複数のねじ40が設けられている(図1および図2に誇張して示してある。)。この複数のねじ40は、周知の如く、回転軸Sの回転時に、密封側OSから大気側ASに向かって漏れようとする図示しない潤滑油などの密封流体を密封側OSに押し戻すポンプ機能を発揮するものである。また、ポンプ機能は、第1リップ先端36と第2リップ先端37との間に存在する密封流体を密封側OSに吸引するように流動させることができるものでもある。
【0026】
前記ねじ40としては、シール面部34bの表面に凸設されているものであってもよいし、凹設されているものであってもよい。また、ねじ40の断面形状としては、三角形、台形などの各種の形状から選択することができる。また、ねじ40としては、回転軸Sの正回転および逆回転のうちのいずれか一方の回転方向に対してポンプ機能を発揮するものであってもよいし、正回転および逆回転の両回転方向に対してポンプ機能を発揮するものであってもよい。
【0027】
本実施形態の複数のねじ40は、シール面部34bに断面三角山形に凸設されているとともに、回転軸Sの正回転によりポンプ機能を発揮するものが用いられている。なお、複数のねじ40の傾斜角度、高さ、ピッチなどのその他の構成については、従来公知のものと同様とされているので、その詳しい説明については省略する。
【0028】
また、複数のねじ40は、回転軸Sの表面に対して回転軸Sの周方向に沿って複数箇所で接触するように形成されていてもよいし、回転軸Sと全周に亘って連続的に接触するように形成されていてもよい。但し、回転軸Sに対するフリクション(摺動抵抗)、すなわち回転軸Sの回転時のトルクを低減することができるという意味で、複数のねじ40が回転軸Sの表面に対して回転軸Sの周方向に沿って複数箇所で接触するように形成されていることが好ましい。勿論、ねじ40としては、従来公知の各種のものから選択使用することができる。
【0029】
前記シールリップ32の背面、本実施形態においては第2リップ先端37の径方向外側の背面には、径方向外側に開口する断面ほぼ半円形に形成された環状のばね装着溝41が凹設されており、このばね装着溝41には、シールリップ32と回転軸Sとの間のラジアル方向の緊迫力を保持するためのガータースプリング42が配設されている。なお、ガータースプリング42は、シールリップ32の回転軸Sへの緊迫力を補う機能(締め代調整機能)も備えている。
【0030】
ここで、本実施形態におけるシールリップ32は、図2に示す装着状態において、シールリップ32の緊迫力を第1シール面33の第1リップ先端36と第2シール面34の第2リップ先端37との2箇所にバランスよく分散させるように形成されている。
【0031】
具体的には、図2に示す装着状態におけるガータースプリング42のコイル径の中心dcの図2の左右方向に示す軸方向であるシール幅方向における位置が第1リップ先端36のシール幅方向における位置と第2リップ先端37のシール幅方向における位置との間に配置されている。すなわち、装着状態におけるガータースプリング42のコイル径の中心dcを含む仮想平面が、装着状態における第1リップ先端36を含む仮想平面と、装着状態における第2リップ37を含む仮想平面との間に配置されている構成とされている。なお、本実施形態において、図1に示す自由状態におけるガータースプリング42のコイル径の中心dcのシール幅方向における位置は、第2リップ先端37のシール幅方向における位置とほぼ等しい位置に配置されている。
【0032】
なお、第1シール面33が回転軸Sの停止時に密封流体の漏れを防止するためのものであるから、第1リップ先端36による緊迫力を、第2リップ先端37による緊迫力より若干大きくなるように形成してもよい。
【0033】
また、本実施形態において、シールリップ32の図1の右側に示す最も密封側OSの自由端の位置は、図1に示す自由状態および図2に示す装着状態の何れの状態であっても外周シール部31の最も密封側OSに位置する端面よりも大気側ASに配置されており、シールリップ32の自由端がオイルシール10の外部に突出しないように形成されている。
【0034】
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の作用について説明する。
【0035】
本実施形態のオイルシール10によれば、回転軸Sの回転時には、第2シール面34に設けられた複数のねじ40が密封側OSから大気側ASである第1シール面33側に漏れようとする密封流体を密封側OSに押し戻すポンプ作用を発揮するので、回転軸Sの回転時における密封性を確保することができる。
【0036】
また、本実施形態のオイルシール10によれば、回転軸Sの停止時には、密封側OSの密封流体が第2リップ先端37を通過して第1リップ先端36側に向かって滲出する状態となるが、第1リップ先端36側に滲出する密封流体は、第1リップ先端36が回転軸Sの外周面の全周に亘って密着していることにより封止されるので、大気側ASに漏れることはなく、回転軸Sの停止時における密封性を確実かつ容易に確保することができる。
【0037】
ここで、回転軸Sの停止時に第2リップ先端37を通過して第1リップ先端36側に滲出した密封流体は、回転軸Sが回転した際に、第2シール面34のシール面部34bに形成された複数のねじ40との接触により、ねじ40のポンプ機能によって密封側OSに戻すことができる。
【0038】
すなわち、回転軸Sの停止時に、第2リップ先端37を通過して第1リップ先端36側に滲出した密封流体は、第2リップ先端37と第1リップ先端36との間に存在することになる。そして、回転軸Sの停止時に、第2リップ先端37と第1リップ先端36との間に存在する密封流体は、回転軸Sの回転により発揮されるねじ40のポンプ機能によって密封側OSに戻すことができる。
【0039】
つまり、本実施形態のオイルシール10によれば、回転軸Sの回転時におけるシール性を第2シール面34が分担し、回転軸Sの停止時におけるシール性を第1シール面33が分担するから、回転軸Sの停止時および回転時における密封性を確実に確保することができる。
【0040】
また、本実施形態のオイルシール10によれば、1つのシールリップ32に、回転軸Sの停止時に密封流体の漏れを防止するための第1シール面33と、第1シール面33より密封側OSに並設され、回転軸Sの回転時における密封流体の漏れを防止するための第2シール面34とが設けられているとともに、装着状態におけるガータースプリング42のコイル径の中心cdのシール幅方向における位置が第1リップ先端36のシール幅方向における位置と第2リップ先端37のシール幅方向における位置との間に配置されているから、第1リップ先端の背面にガータースプリングが配設されている従来の2つのシールリップを備えたオイルシールと異なり、シールリップ32の緊迫力を第1リップ先端36と第2リップ先端37との2箇所にバランスよく分散させることができる。その結果、確実な密封性を容易に得ることができるし、長期間に亘り安定した密封性を得ることができるから、信頼性の高いものとすることができる。
【0041】
また、本実施形態のオイルシール10によれば、1つのシールリップ32に、回転軸Sの停止時に密封流体の漏れを防止するための第1シール面33と、第1シール面33より密封側OSに並設され、回転軸Sの回転時における密封流体の漏れを防止するための第2シール面34とが設けられているとともに、第1リップ先端の背面にガータースプリングが配設されている従来の2つのシールリップを備えたオイルシールと異なり、第2リップ先端37の背面にガータースプリング42が配設されているから、従来の2つのシールリップを備えたオイルシールに比較して、軸方向の寸法であるシール幅を小さくすることができるので、小型化、軽量化を図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態のオイルシール10は、ハウジングHの内周面に固定され、回転軸Sの外周に摺動接触するものであるが、回転軸Sの外周面に固定され、ハウジングHの内周面に摺動接触する構成とすることができる。そして、このような構成とすることで、本実施形態と同等もしくはこれに準ずる効果を奏することができる。
【0043】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 オイルシール
20 補強環
21 円筒部
22 フランジ部
30 シール本体
31 外周シール部
32 シールリップ
33 第1シール面
34 第2シール面
34a 接続面部
34b シール面部
36 第1リップ先端
37 第2リップ先端
39 樹脂層
40 ねじ
41 装着溝
42 ガータースプリング
AS 大気側
OS 密封側
H ハウジング
S 回転軸
G シール隙間
dc (ガータースプリングのコイル径の)中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と静止体との間に装着され、ゴム状弾性体により形成された環状のシールリップを有しているとともに、前記シールリップの少なくともシール面には樹脂層が設けられており、前記シール面のリップ先端が回転体の表面に摺動可能に密接されるように形成されているオイルシールであって、
前記シールリップは、回転体の停止時に密封流体の漏れを防止するための第1シール面と、前記第1シール面より密封側に並設され、回転体の回転時における密封流体の漏れを防止するための第2シール面とを有しており、
前記第2シール面の樹脂層の表面には複数のねじが設けられており、
前記シールリップの背面にはガータースプリングが配設されており、
前記ガータースプリングは、装着状態において、前記ガータースプリングのコイル径の中心のシール幅方向における位置が前記第1シール面のリップ先端のシール幅方向における位置と前記第2シール面のリップ先端のシール幅方向における位置との間に配置されていることを特徴とするオイルシール。

【図1】
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【図2】
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