説明

オイルダンパーの接合部構造

【課題】例えば、建物の架構に組み込まれる制振装置に適用されるオイルダンパーにおいて、架構の面外方向の力を逃がすことができて、無理な荷重が加わることのない接合部構造を提供する。
【解決手段】シリンダ及びロッドの各端部1a,1bに他の部材と回動自在なように連結するためのジョイント11,12をそれぞれ有するオイルダンパー1の接合部構造であって、
前記2つのジョイント11,12のうち少なくとも一方は、二山クレビス部16,24を持ちかつ他の部材と回動自在に連結される第1ジョイント部13,22と、この第1ジョイント部13,22とシリンダ端部1a又はロッド端部1bとを連結して、第1ジョイント部13,22による回動面と直交する回動面を形成する第2ジョイント部14,23とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオイルダンパーの接合部構造に関し、さらに詳細には、建物の架構に組み込まれる制振装置に適用されるオイルダンパーの接合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
制振技術の1つとして建物の架構に組み込まれ、地震などの際に生じる層間変位を増幅してダンパーに伝達する変位増幅機構を備えた制振装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ダンパーは増幅して伝達された変位を減衰させる機能を担い、通常オイルダンパーが用いられている。オイルダンパーは、そのシリンダ端部が1対のブレース部材どうしの連結部にブラケットを介して回動自在に連結され、またロッド端部が架構への取付け枠にブラケットを介して回動自在に連結される。
【0004】
具体的には、シリンダ端部及びロッド端部には回動自在に連結するためのジョイントとして一山クレビスが設けられ、この一山クレビスがブラケット側に設けられた二山クレビスにピンを介して連結されている。この連結構造によるオイルダンパーの回動は、架構の面内での運動であるが、ダンパーには面外方向の力が加わることがある。この面外方向の力に対しては、シリンダ端部及びロッド端部に設けた一山クレビスのピン孔に球面ブッシュを設けることで対応している。
【0005】
ところで、この出願人は、制振装置として図5及び図6に示されるものを開発した。図5は制振機構が1基タイプのもので、1対のブレース部材2,2とオイルダンパー51とを備えている。この制振装置は、各ブレース部材2,2の端部及びオイルダンパー51のロッド端部1bが、架構への取付け枠3のコーナー部に内蔵された状態でピン7,8を介してそれぞれ連結され、回動中心が縦枠部と横枠部の各中心線のなす交点に一致しているという特徴を有している。これに加えて、この制振装置は、オイルダンパー51のシリンダ端部1aがブレース部材2,2どうしの連結部に同一のピン4を介して連結されているという特徴を有している。
【0006】
また、図6は制振機構が2基タイプのもので、1対のブレース部材2,2とオイルダンパー1又はオイルダンパー51とからなる制振機構を2基(2組)備えている。この場合、各組の一方のブレース部材2,2どうしが同一のピン5を介して一方の横枠部の中央に連結されるとともに、各組のオイルダンパー1,51のロッド端部1b,1bどうしが同一のピン6を介して他方の横枠部の中央に連結されるという特徴を有している。
【0007】
以上のような連結構造とした場合、図5に示したオイルダンパー51にあってはシリンダ端部1aのジョイントを二山クレビスとしなければならない。また、図6に示したオイルダンパー1,51に関しては、その一方のオイルダンパー51にあってはシリンダ端部1aのジョイントを二山クレビスとし、他方のオイルダンパー1にあってはシリンダ端部1a及びロッド端部1bのジョイント双方とも二山クレビスとしなければならない。
【0008】
しかるにジョイントを二山クレビスとした場合、従来のような球面ブッシュが適用できず、何らの対策を施さないと面外方向の力を受けてオイルダンパーが破損するおそれがある。このため、架構の面外方向の力を逃がすことができるジョイントを持ったオイルダンパーの開発が要求されていた。
【特許文献1】特開平10−169244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、例えば、建物の架構に組み込まれる制振装置に適用されるオイルダンパーにおいて、架構の面外方向の力を逃がすことができて、無理な荷重が加わることのない接合部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、シリンダ及びロッドの各端部に他の部材と回動自在なように連結するためのジョイントをそれぞれ有するオイルダンパーの接合部構造であって、
前記2つのジョイントのうち少なくとも一方は、二山クレビス部を持ちかつ前記他の部材と回動自在に連結される第1ジョイント部と、この第1ジョイント部とシリンダ端部又はロッド端部とを連結して、前記第1ジョイント部による回動面と直交する回動面を形成する第2ジョイント部とを備えていることを特徴とするオイルダンパーの接合部構造にある。
【0011】
より具体的には、前記第1ジョイント部は、一山クレビス部と、この一山クレビス部に直角となるようにその両側に設けられ、前記一山クレビス部のピン孔と直角なピン孔を持つ二山クレビス部とを有し、
前記第2ジョイント部は、前記シリンダ端部又はロッド端部に設けられ、前記第1ジョイント部の前記一山クレビス部が嵌合されてそのピン孔と整列するピン孔を持つ二山クレビス部を有している。
【0012】
あるいは、前記第1ジョイント部は、ピン孔が互いに直角をなす2つの二山クレビス部を前後に有し、
前記第2ジョイント部は、前記シリンダ端部又はロッド端部に設けられ、前記第1ジョイント部の前記後部クレビス部に嵌合されてそのピン孔と整列するピン孔を持つ一山クレビス部からなる構造とすることもできる。
【0013】
なお、クレビス(clevis)とは、本来の意味は英和辞典によれば「U状の連結器、Uリンク、U字形のかぎ」のことであるが、U状の連結部材の場合、必ずこれと対になってI状の連結部材が用いられる。他方、U状の連結部材を二山クレビス、I状の連結部材を一山クレビスと称することもある。一山クレビスと称する場合、英語本来の意味からはずれることとなるが、この明細書で使用されている二山クレビス(部)及び一山クレビス(部)は、それぞれU状の連結部材(部)及びI状の連結部材(部)のことである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、オイルダンパーを例えば建物の架構に組み込まれる制振装置に適用した場合、オイルダンパーに作用する架構の面外方向の力を逃がすことができて、無理な荷重が加わることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。図2は、同実施形態のものの分解斜視図である。この実施形態によるオイルダンパー1は、シリンダの端部1aと、シリンダ内に収容されて伸縮するロッドの端部1bとに設けられるジョイント11,12が、いずれも二山クレビス部を持つジョイントとなっている。このようなジョイントを持つオイルダンパー1は、図6に示したオイルダンパー1に適用される。
【0016】
シリンダ端部1aに設けられるジョイント11は、第1ジョイント部13と第2ジョイント部14とからなっている。第1ジョイント部13は一山クレビス部15を有し、この一山クレビス部15に直角となるようにその両側に二山クレビス部16が設けられている。一山クレビス部15及び二山クレビス部16には互いに直角をなすピン孔17,18が設けられている。
【0017】
第2ジョイント部14はシリンダ端部1aに固着され、この第2ジョイント部14は二山クレビス部19を有している。二山クレビス部19には第1ジョイント部13の一山クレビス部15が嵌合される。二山クレビス部19は第1ジョイント部13の一山クレビス部15が嵌合された際に、そのピン孔17と整列するピン孔20を有している。これらのピン孔20,15に挿入されるピン21により、第1ジョイント部13と第2ジョイント部14とが連結される。
【0018】
ロッド端部1b(図2では端部のみが示され、この端部とシリンダ内のロッド本体が着脱自在に連結される)に設けられるジョイント12も、第1ジョイント部22と第2ジョイント部23とからなっている。第1ジョイント部22は前後に2つの二山クレビス部24,25を有し、これらの二山クレビス部24,25のピン孔26,27は互いに直角をなしている。
【0019】
第2ジョイント部23は一山クレビス部からなっている。この一山クレビス部23は、第1ジョイント部22の後部二山クレビス部25に嵌合され、その際ピン孔27と整列するピン孔28を有している。これらのピン孔27,28に挿入されるピン29により、第1ジョイント部22と第2ジョイント部23とが連結される。
【0020】
図3は、別の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。この実施形態によるオイルダンパー51は、シリンダ端部1aに設けられるジョイントが、二山クレビス部を持つジョイント11となっている。詳細構造は、図1,2に示したジョイント11と全く同様である。ロッド端部1bに設けられるジョイントは、一山クレビスのみによるジョイント30となっている。このジョイント30のピン孔31には、図示しないが、球面ブッシュが装着される。このようなジョイント11,30を持つオイルダンパー51は、図5に示したオイルダンパー51や、図6に示したオイルダンパー51に適用される。
【0021】
オイルダンパー1のロッド端部1bとオイルダンパー51のロッド端部1bとは、図6に示した制振機構が2基タイプの制振装置において、取付け枠3の横枠部中央に同一のピン6を介して連結される。図4は、その連結状態を示す平面図である。すなわち、オイルダンパー1のロッド端部1bにおける第1ジョイント部22の前部二山クレビス部24に、オイルダンパー51のロッド端部1bにおける一山クレビス部30が嵌合され、ピン6により取付け枠3に連結される。なお、オイルダンパー51のロッド端部1bにおける一山クレビス部30は、図5に示した制振機構が1基タイプの制振装置において、取付け枠3のコーナー部にピン8を介して連結される。
【0022】
また、オイルダンパー1のシリンダ端部1b及びオイルダンパー51のシリンダ端部1bは、図5あるいは図6に示した制振装置において、ブレース部材2,2どうしの連結部に同一のピン4を介して連結される。すなわち、詳細は図示しないが、シリンダ端部1aのジョイント11における第1ジョイント部13の二山クレビス部16に、ブレース部材2,2の各端部に設けられた二山クレビス部あるいは一山クレビス部が嵌合され、ピン4によりこれらの部材が連結される。
【0023】
上記のようなジョイント11,12を有するオイルダンパー1によれば、シリンダ端部1aにおいては第1ジョイント部13に対してその回動面と直交する回動面を形成する第2ジョイント部14が設けられている。このため、シリンダ端部1aにおいて架構の面外方向の力が加わっても、オイルダンパー1が図1の矢印A方向に回動して当該力を逃がすこととなり、オイルダンパー1に無理な力が加わることがない。
【0024】
また、ロッド端部1bにおいても同様に、第1ジョイント部22に対してその回動面と直交する回動面を形成する第2ジョイント部23が設けられている。このため、ロッド端部1bにおいて架構の面外方向の力が加わっても、オイルダンパー1が図1の矢印B方向に回動して当該力を逃がすこととなり、オイルダンパー1に無理な力が加わることがない。
【0025】
また、オイルダンパー1のジョイント11と同様のジョイント11を有するオイルダンパー51についても、同様の作用効果が得られる(図3の矢印A参照)。なお、このオイルダンパー51のロッド端部1bにおいては、前述したように、一山クレビス30のピン孔31に従来と同様の球面ブッシュが設けられているので、この球面ブッシュの作用により面外方向の力を逃がすことができる。
【0026】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の改変が可能である。例えば、オイルダンパー1において、シリンダ端部1a及びロッド端部1bに設けられたジョイントを互いに取り替える、すなわち寸法は異なるけれどもシリンダ端部1aにジョイント12をロッド端部1bにジョイント1bを設けるようにすることもできる。また、この発明によるオイルダンパーは、制振装置以外の装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】同実施形態のものの分解斜視図である。
【図3】別の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】図1及び図3に示したオイルダンパーのロッド端部どうしの連結状態を示す平面図である。
【図5】この発明のオイルダンパーが適用される制振装置の一例を示す正面図である。
【図6】この発明のオイルダンパーが適用される制振装置の別の例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 オイルダンパー
1a シリンダ端部
1b ロッド端部
2 ブレース部材
3 取付け枠
4 ピン
5 ピン
6 ピン
8 ピン
11 ジョイント
12 ジョイント
13 第1ジョイント部
14 第2ジョイント部
15 一山クレビス部
16 二山クレビス部
17 ピン孔
18 ピン孔
19 二山クレビス部
20 ピン孔
21 ピン
22 第1ジョイント部
23 第1ジョイント部(一山クレビス部)
24 前部二山クレビス部
25 後部二山クレビス部
26 ピン孔
27 ピン孔
29 ピン
30 ジョイント(一山クレビス部)
31 ピン孔
51 オイルダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ及びロッドの各端部に他の部材と回動自在なように連結するためのジョイントをそれぞれ有するオイルダンパーの接合部構造であって、
前記2つのジョイントのうち少なくとも一方は、二山クレビス部を持ちかつ前記他の部材と回動自在に連結される第1ジョイント部と、この第1ジョイント部とシリンダ端部又はロッド端部とを連結して、前記第1ジョイント部による回動面と直交する回動面を形成する第2ジョイント部とを備えていることを特徴とするオイルダンパーの接合部構造。
【請求項2】
前記第1ジョイント部は、一山クレビス部と、この一山クレビス部に直角となるようにその両側に設けられ、前記一山クレビス部のピン孔と直角なピン孔を持つ二山クレビス部とを有し、
前記第2ジョイント部は、前記シリンダ端部又はロッド端部に設けられ、前記第1ジョイント部の前記一山クレビス部が嵌合されてそのピン孔と整列するピン孔を持つ二山クレビス部を有していることを特徴とする請求項1記載のオイルダンパーの接合部構造。
【請求項3】
前記第1ジョイント部は、ピン孔が互いに直角をなす2つの二山クレビス部を前後に有し、
前記第2ジョイント部は、前記シリンダ端部又はロッド端部に設けられ、前記第1ジョイント部の前記後部クレビス部に嵌合されてそのピン孔と整列するピン孔を持つ一山クレビス部からなることを特徴とする請求項1記載のオイルダンパーの接合部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−38117(P2006−38117A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219580(P2004−219580)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(504289473)川口テクノソリューション株式会社 (7)
【Fターム(参考)】