説明

オイルパン

【課題】オイルパン本体に貯留された潤滑油に対して十分な保温性能を発揮しつつ、潤滑油の温度が適正値を超えないように冷却性能も発揮することができるオイルパンを提供すること。
【解決手段】エンジンコントロールユニット40は、エンジン10の運転停止時には真空ポンプ30を運転させるとともに、第1及び第2ソレノイドバルブ33,35を制御して真空ポンプ30とオイルパン空間部26とを連通させた後、真空ポンプ30とオイルパン空間部26との間を遮断することによりオイルパン空間部26を真空状態とさせる。一方で、エンジンコントロールユニット40は、エンジン10の始動後には油温センサ41の検出信号に基づいて潤滑油の温度が所定温度に達したと判断した場合、第1及び第2ソレノイドバルブ33,35を制御して前記真空状態にあるオイルパン空間部26を大気に開放させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の下部に配置されて潤滑油を溜めるオイルパンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関用の潤滑油を貯留させておく装置としてオイルパンが広く用いられている。オイルパンでの潤滑油の保温性能が低いと、内燃機関の運転停止後、オイルパンに貯留された潤滑油が急速に冷えて低温度になる。低温度になるにつれて潤滑油は、粘度が増してその流動性が低下する。このため、保温性能の低いオイルパンを備えた内燃機関では、その始動時に流動性の低い潤滑油を内燃機関に循環させることになるため、該内燃機関の始動性の低下に繋がる。また、内燃機関の始動時の潤滑油の流動性が低いと、潤滑油の温度が適温に上昇するまで、内燃機関内部の各摺動部に十分な潤滑油が供給されずに潤滑油不足が発生する。そして、内燃機関内の各摺動部が潤滑油不足になると、内燃機関の運転に伴うフリクションの増大、ピストンの焼きつき、スラッジの堆積等の多くの不具合が生じ、内燃機関の耐久性及び燃費効率の低下等につながってしまう。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に開示されるオイルパンでは、オイルパンの壁体内部、さらにはバッフルプレートの内部を真空とした2重壁構造とし、真空によって熱伝導率を低下させることで、1重壁構造のオイルパンよりも潤滑油に対する保温性能を向上させている。また、特許文献1に開示されるオイルパンでは、オイルパンを覆うカバーが設けられ、該カバーによってオイルパンに収容された潤滑油がシリンダブロック側に常に開放されることが防止されることにより、潤滑油の保温性能を向上させている。
【0004】
また、特許文献2に開示されるオイルパンにおいては、オイルパンの外周にカバーが配設されることで2重壁構造を有し、オイルパンとカバーとの間の空間部はパイプを介して真空ポンプに接続されている。この真空ポンプはエンジン(内燃機関)にベルトを介して連結されている。そして、エンジンの運転中には真空ポンプも運転されて空間部が真空状態とされ、また、エンジン停止後に真空ポンプが停止されても逆止弁によって真空状態が維持されることでオイルパンからの騒音の伝達が遮断されるとともに、潤滑油の保温性能が向上されている。
【特許文献1】特開2000−227015号公報
【特許文献2】実開平3−114559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1及び特許文献2のオイルパンは、該オイルパンを2重壁構造とし、オイルパンの熱伝導率を低下させることで潤滑油の保温性能を向上させている。しかし、オイルパンの壁体内部や空間部が常に真空状態に維持されているため、例えば、連続して内燃機関の高速運転が行われることによって潤滑油の温度が上昇しても、オイルパンの保温性能が向上されていることから潤滑油が冷却されにくいという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、オイルパン本体に貯留された潤滑油に対して十分な保温性能を発揮しつつ、潤滑油の温度が適正値を超えないように冷却性能も発揮することができるオイルパンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、内燃機関の下部に配置されて潤滑油を溜めるオイルパンであって、空間部を有する2重壁構造から構成される壁部を有し前記潤滑油を溜めるオイルパン本体と、前記壁部の空間部内の空気を吸引する吸引手段と、前記潤滑油の温度を検出する油温検出手段及び前記潤滑油の温度を推定する油温推定手段のうちの少なくとも一方と、前記吸引手段により空気が吸引された状態の壁部の空間部を大気に開放する大気開放手段と、前記吸引手段及び前記大気開放手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記吸引手段を運転させることで前記壁部の空間部内から空気を吸引する一方で、前記油温検出手段及び油温推定手段のうちの少なくとも一方の信号に基づいて潤滑油の温度が所定温度に達したと判断した場合、前記大気開放手段を制御して空気が吸引された状態にある空間部を大気に開放するようにしたことを要旨とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、制御手段が吸引手段を運転させることで、オイルパン本体の空間部を、該空間部内から空気を吸引した状態、例えば真空状態とすることができ、オイルパン本体内の潤滑油は、空気が吸引された状態の空間部(壁部)によって囲まれる。このため、オイルパン本体の壁部における熱伝導率が低下されるとともにオイルパン本体の保温性能が向上され、温度が上昇した潤滑油が急速に冷えることが防止される。一方、潤滑油の温度が上昇し、油温検出手段及び油温推定手段のうちの少なくとも一方からの信号に基づき制御手段が潤滑油の温度が所定温度に達したと判断した場合には、制御手段は大気開放手段及び吸引手段の運転を制御しオイルパン本体の空間部を大気に開放させ、該空間部における空気が吸引された状態を解除する。このため、オイルパン本体の空間部が、空気が吸引された状態にあった場合に比して、オイルパン本体の壁部における熱伝導率が向上され、オイルパン本体の保温性能が低下されるとともに冷却性能が向上される。したがって、温度上昇したオイルパン本体内の潤滑油が冷却され、潤滑油の温度が適正値を超えるまで上昇することが防止される。
【0009】
また、前記オイルパン本体にはバッフルプレートが設けられているとともに、該バッフルプレートには空間部が設けられ、前記吸引手段は前記バッフルプレートの空間部の空気を吸引してもよい。この構成によれば、制御手段が吸引手段を運転させることで、バッフルプレートの空間部も、該空間部から空気が吸引された状態、例えば真空状態とすることができる。したがって、バッフルプレートにおいても、オイルパン本体の壁部と同様に空気が吸引された状態にあるときは潤滑油の保温性能を向上させる一方で、空気が吸引された状態が解除されたときは潤滑油の冷却性能を向上させることができる。そして、バッフルプレートは、オイルパン本体内の潤滑油を覆うようにして設けられるものであるため、潤滑油はオイルパン本体の壁部及びバッフルプレートによって囲まれることとなる。したがって、潤滑油を囲む部材の全てを保温性能を向上させつつ、冷却性能も発揮させることが可能となる。その結果として、例えば、バッフルプレートに空間部が設けられず、オイルパン本体の空間部のみを空気が吸引された状態又は吸引解除状態に切り替える構成とした場合に比して、オイルパンにおける保温性能及び冷却性能を向上させることができる。
【0010】
また、前記潤滑油の温度は、前記オイルパン本体に設けられた前記油温検出手段としての油温センサによって検出されることを要旨とする。この構成によれば、潤滑油の温度は、油温センサによって直接検出される。したがって、例えば、潤滑油の温度を内燃機関の回転数や高速回転の継続時間等から検出する場合に比して、潤滑油の温度を正確かつ速やかに検出して、制御手段による大気開放手段及び吸引手段の制御を速やかに行うことができる。その結果として、潤滑油の温度が所定温度に達した場合には、空間部の空気が吸引された状態を速やかに解除して、冷却性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オイルパン本体に貯留された潤滑油に対して十分な保温性能を発揮しつつ、潤滑油の温度が適正値を超えないように冷却性能も発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を車両の内燃機関に設けられたオイルパンに具体化した一実施形態を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、内燃機関としてのエンジン10の下部にはオイルパン11が取り付けられているとともに、前記オイルパン11には、前記エンジン10内の各摺動部を潤滑するための潤滑油(オイル)が貯留されている。前記オイルパン11は、前記エンジン10の下部に取り付けられたアッパー側本体21と、該アッパー側本体21の下部に接合されたロアー側本体22とからなるオイルパン本体20を有している。前記オイルパン本体20において、前記アッパー側本体21内には、アッパー室21aが囲み形成されているとともに、ロアー側本体22内には、ロアー室22aが囲み形成されている。また、前記ロアー側本体22には、前記ロアー室22a内に貯留された潤滑油を覆うバッフルプレート23が一体的に形成されている。そして、オイルパン11において、オイルパン本体20内は、バッフルプレート23によって前記アッパー室21aとロアー室22aとに区画されているとともに、該バッフルプレート23によって、車両の傾きに伴う潤滑油の偏りが防止されている。また、オイルパン本体20内にはオイルストレーナ12が配設され、該オイルストレーナ12の吸い込み口側は、前記バッフルプレート23を貫通してロアー室22a内に配設されている。前記オイルストレーナ12は、オイルパン11からオイルポンプ(図示せず)への潤滑油の吸い込み口であるとともに、前記オイルポンプは、エンジン10の回転に基づき駆動され、潤滑油をオイルパン11から汲み上げるようになっている。そして、オイルポンプによって汲み上げられた潤滑油はエンジン10内の各摺動部に供給され、各摺動部の潤滑、冷却及び清浄等に使用されるようになっている。潤滑等に使用された潤滑油はエンジン10内を流れ落ち、再びオイルパン11内に貯留されるようになっている。潤滑油は、潤滑や冷却能力等を発揮するのに必要な流動性(粘度)が損なわれることを防ぐため、潤滑油の温度が適正値を超えないようにオイルパン11内に貯留されている。
【0013】
前記オイルパン本体20のロアー側本体22の壁部28は、内壁24と該内壁24の外周側に配設された外壁25によって2重壁構造をなすとともに、内壁24と外壁25の間には、オイルパン本体20における壁部28の空間部としてのオイルパン空間部26が形成されている。また、前記バッフルプレート23は内側にバッフルプレート23の空間部としてのバッフルプレート空間部27が形成されている。ロアー側本体22において、前記外壁25には前記オイルパン空間部26に連通する接続口25aが形成され、該接続口25aには、前記バッフルプレート空間部27内及びオイルパン空間部26内の空気を吸引する吸引手段としての真空ポンプ30が、接続管31を介して接続されている。すなわち、オイルパン本体20の壁部28には、真空ポンプ30が接続管31を介して接続され、オイルパン空間部26と真空ポンプ30とは接続管31を介して連通可能となっている。なお、真空ポンプ30は、車両に設けられたバッテリに電気的に接続され、バッテリからの電力供給によって運転されるようになっている。さらに、バッフルプレート23には、前記バッフルプレート空間部27に連通する接続口23aが形成され、該接続口23aには連通管32が接続されている。この連通管32は前記接続管31に接続され、バッフルプレート空間部27と真空ポンプ30とは、前記連通管32及び接続管31を介して連通可能となっている。
【0014】
前記接続管31には、該接続管31を開閉する第1ソレノイドバルブ33が設けられ、該第1ソレノイドバルブ33は、該接続管31の開閉を行うことで前記オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27の大気開放・遮断を可能とする大気開放手段を構成している。また、第1ソレノイドバルブ33は、エンジン10を制御するエンジンコントロールユニット40に電気的に接続されている。前記第1ソレノイドバルブ33は前記エンジンコントロールユニット40からの指令信号によって開閉される。なお、本実施形態においては、第1ソレノイドバルブ33は、エンジンコントロールユニット40からのオン信号に基づいて通電されると、接続管31を閉状態としてオイルパン空間部26と真空ポンプ30とを非連通とし、オイルパン空間部26と真空ポンプ30との間を遮断する。一方、第1ソレノイドバルブ33は、エンジンコントロールユニット40からのオフ信号に基づいて非通電となされると、接続管31を開状態とし、オイルパン空間部26と真空ポンプ30とを連通させる。
【0015】
また、前記接続管31において、前記第1ソレノイドバルブと真空ポンプ30とを連結する部分の前記接続管31には、接続管31の一部を構成する分岐管34が接続されている。この分岐管34には、該分岐管34を開閉する第2ソレノイドバルブ35が設けられ、該第2ソレノイドバルブ35は分岐管34の開閉を行うことで前記オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27の大気開放・遮断を可能とする大気開放手段を構成している。この第2ソレノイドバルブ35は前記エンジンコントロールユニット40に電気的に接続されている。前記第2ソレノイドバルブ35は、前記エンジンコントロールユニット40からの指令信号によって開閉されるようになっている。なお、本実施形態においては、第2ソレノイドバルブ35は、エンジンコントロールユニット40からのオン信号に基づいて通電されると、分岐管34を閉状態とするとともに、エンジンコントロールユニット40からのオフ信号に基づいて非通電となされると、分岐管34を開状態とするように構成されているものとする。
【0016】
また、前記真空ポンプ30はエンジンコントロールユニット40に電気的に接続され、エンジンコントロールユニット40からの指令信号によってオン・オフ制御されるようになっている。そして、本実施形態においては、エンジンコントロールユニット40が、真空ポンプ30(吸引手段)の運転、第1ソレノイドバルブ33(大気開放手段)及び第2ソレノイドバルブ35(大気開放手段)の開閉を制御する制御手段を構成している。前記ロアー側本体22には、油温検出手段としての油温センサ41が取り付けられているとともに、該油温センサ41は前記エンジンコントロールユニット40に電気的に接続されている。そして、油温センサ41によってロアー室22a内の潤滑油の温度が検出信号としてエンジンコントロールユニット40に出力されるようになっている。
【0017】
前記エンジンコントロールユニット40は、エンジン10の停止時に、真空ポンプ30にオン信号を出力して真空ポンプ30を運転させる制御を行うとともに、真空ポンプ30が所定時間運転された後に、真空ポンプ30にオフ信号を出力して真空ポンプ30の運転を停止させる制御を行うようになっている。なお、エンジンコントロールユニット40が真空ポンプ30にオフ信号を出力することとなる所定時間とは、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27を真空状態とするために真空ポンプ30を運転させるのに必要な時間に設定されている。なお、真空ポンプ30を運転させる時間(所定時間)は、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27の容積に応じて適宜変更される。
【0018】
また、前記エンジンコントロールユニット40は、真空ポンプ30の運転時間が前記所定時間に達した場合に、第1ソレノイドバルブ33にオン信号を出力するようになっている。さらに、前記エンジンコントロールユニット40は、エンジン10の停止時には第2ソレノイドバルブ35にオン信号を出力するようになっている。また、前記エンジンコントロールユニット40は、前記油温センサ41によって検出された潤滑油の温度が所定温度に達した場合に、前記第1ソレノイドバルブ33及び第2ソレノイドバルブ35にオフ信号を出力するようになっている。なお、エンジンコントロールユニット40が、両ソレノイドバルブ33,35にオフ信号を出力することとなる所定温度とは、潤滑油の潤滑、冷却、清浄等の能力を発揮するのに必要な流動性(粘度)が損なわれる温度(本実施形態では120°Cを超えた温度であり適正値を超えた温度)よりも若干低い温度(110°C)に設定されている。なお、エンジンコントロールユニット40がオフ信号を出力する所定温度はエンジン10に用いられる潤滑油の性能、エンジン10の性能等によって適宜変更される。
【0019】
さて、上記構成のオイルパン11を備えたエンジン10が搭載された車両において、エンジン10の停止時には、エンジンコントロールユニット40は真空ポンプ30にオン信号を出力して真空ポンプ30を運転させる。また、エンジンコントロールユニット40は、第2ソレノイドバルブ35にオン信号を出力して第2ソレノイドバルブ35により分岐管34を閉状態とし、接続管31と大気との間を遮断する。なお、このとき、第1ソレノイドバルブ33は非通電とされているため、接続管31は開状態となっている。そして、真空ポンプ30が所定時間運転されると、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27から空気が吸引され、両空間部26,27が真空状態(空気が吸引された状態)となる。
【0020】
真空ポンプ30が所定時間運転されると、エンジンコントロールユニット40は、真空ポンプ30にオフ信号を出力して真空ポンプ30の運転を停止させる。また、エンジンコントロールユニット40は、第1ソレノイドバルブ33にオン信号を出力して第1ソレノイドバルブ33により接続管31を閉状態とする。なお、このとき、第2ソレノイドバルブ35はオン信号が出力されたままであり、通電されているため分岐管34は閉状態となっている。すると、接続管31が遮断されてオイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27と大気との間が遮断されるとともに、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27が真空状態に維持される。したがって、ロアー室22a内に貯留された潤滑油は、真空状態となった壁部28(オイルパン空間部26)を介して外気と接触する状態となっている。また、ロアー室22aの上側も真空状態となったバッフルプレート空間部27を介してシリンダブロック側に面している。このため、ロアー側本体22の壁部28及びバッフルプレート23における熱伝導率を低くし、オイルパン本体20内に貯留された潤滑油の保温性能を向上させることができる。
【0021】
エンジン10の始動後は、第1ソレノイドバルブ33による接続管31の遮断によって、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27の真空状態が維持され、オイルパン本体20の保温性能が向上された状態が維持される。そして、例えば、エンジン10の高速回転状態が継続されて潤滑油の温度が上昇したとする。このとき、油温センサ41の検出信号に基づきエンジンコントロールユニット40が潤滑油の温度が所定温度に達したと判断した場合、該エンジンコントロールユニット40は、第1ソレノイドバルブ33にオフ信号を出力して第1ソレノイドバルブ33により接続管31を閉状態から開状態へ移行させる。また、第2ソレノイドバルブ35にオフ信号を出力して第2ソレノイドバルブ35により分岐管34を開状態とする。すると、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27が接続管31及び分岐管34を介して大気開放され、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27にて空気が吸引された状態(真空状態)が解除される(非真空状態)。その結果、オイルパン本体20において、ロアー側本体22の壁部28及びバッフルプレート23における熱伝導率が高まり、空冷等によってロアー側本体22の壁部28及びバッフルプレート23が冷却されると、ロアー室22a内の潤滑油も冷却され、潤滑油の温度上昇が防止されて潤滑油の温度が適正値を超えることが防止される。
【0022】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)オイルパン本体20(ロアー側本体22)を2重壁構造として壁部28にオイルパン空間部26を設け、オイルパン本体20内の潤滑油をオイルパン空間部26で囲む構成とした。さらに、オイルパン空間部26に真空ポンプ30を接続管31を介して接続するとともに、接続管31に第1ソレノイドバルブ33及び第2ソレノイドバルブ35を設けた。そして、第1ソレノイドバルブ33及び第2ソレノイドバルブ35の開閉をエンジンコントロールユニット40によって制御することにより、真空ポンプ30によってオイルパン空間部26内の空気を吸引して真空状態にすることが可能であるとともに、オイルパン空間部26を大気に開放可能に構成した。したがって、エンジン10停止後においては、オイルパン空間部26を真空状態とすることでオイルパン本体20における潤滑油の保温性能を向上させることができる。このため、例えば、エンジン10停止後に、温度上昇した潤滑油の温度低下が抑制され、エンジン10の始動時の潤滑油の流動性の低下を抑えることができ、該流動性の低下に起因したエンジン10の摺動部での潤滑油不足を防止することができる。その結果として、フリクションの増大、ピストンの焼きつき、スラッジの堆積等の不具合の発生を抑制することができ、エンジン10の耐久性及び燃費効率の低下等を抑制することができる。
【0023】
一方、エンジン10始動後に、潤滑油の温度が上昇して所定温度に達した場合には、エンジンコントロールユニット40の制御によりオイルパン空間部26を大気に開放し、真空状態を解除することで(非真空状態)、オイルパン本体20における潤滑油の保温性能を低下させると同時に冷却性能を向上させることができる。その結果として、潤滑油を冷却してその温度上昇を抑えることができ、潤滑油の温度が適正値を超えることを防止することができる。すなわち、本実施形態のオイルパン11は、オイルパン空間部26を空気が吸引された状態(真空状態)空気が吸引された状態を解除した状態(非真空状態)とに切り替えることを可能とした。このため、潤滑油を保温したい場合(例えば、エンジン10の停止後)にはオイルパン本体20の保温性能が向上された状態を維持し、潤滑油を冷却したい場合(例えば、高速運転の継続時)にはオイルパン本体20の保温性能を維持させるのではなく冷却性能を向上させることが可能となり、潤滑油に対する2つの性能を兼ね備えることが可能となる。
【0024】
(2)オイルパン本体20はバッフルプレート23を備え、該バッフルプレート23も2重壁構造としてバッフルプレート空間部27を設けた。そして、バッフルプレート空間部27に真空ポンプ30を接続管31及び連通管32を介して接続するとともに、接続管31に第1ソレノイドバルブ33及び第2ソレノイドバルブ35を設けた。そして、第1ソレノイドバルブ33及び第2ソレノイドバルブ35の開閉をエンジンコントロールユニット40によって制御することにより、真空ポンプ30によってバッフルプレート空間部27を真空状態にすることが可能であるとともに、バッフルプレート空間部27を大気に開放可能に構成した(非真空状態)。したがって、例えば、真空状態と非真空状態に切り替えることができる空間部がオイルパン空間部26だけの場合に比して、潤滑油の保温性能及び冷却性能をより一層向上させることができる。
【0025】
(3)エンジンコントロールユニット40がオイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27の真空状態を解除する温度は、潤滑油の潤滑等の各種能力を発揮するのに必要な流動性(粘度)が損なわれることとなる温度よりも若干低い温度に設定されている。したがって、オイルパン11においては、潤滑油の流動性が損なわれる前に、オイルパン本体20の保温性能を低下させるとともに冷却性能を向上させて潤滑油を冷却するため、潤滑油の流動性が損なわれることを確実に防止することができる。
【0026】
(4)潤滑油の温度は、オイルパン本体20(ロアー側本体22)に設置された油温センサ41によって直接検出される。また、真空ポンプ30の制御は、エンジン10の駆動を制御するエンジンコントロールユニット40によって行われる。したがって、真空ポンプ30を設け、オイルパン11と真空ポンプ30を接続管31及び連通管32で接続するといった簡単な構成で保温性能を向上させつつ、冷却性能も発揮させることができる。
【0027】
(5)エンジンコントロールユニット40は、真空ポンプ30が所定時間運転され、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27が真空状態となった後、真空ポンプ30にオフ信号を出力して真空ポンプ30の運転を停止させる。したがって、真空ポンプ30が運転され続けることを防止して、バッテリの浪費を防止することができる。
【0028】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 大気開放手段として、第1ソレノイドバルブ33及び第2ソレノイドバルブ35の代わりに三方弁を用いてもよい。この場合、エンジンコントロールユニット40は、三方弁のみを制御すればよいため、大気開放手段として第1ソレノイドバルブ33と第2ソレノイドバルブ35を用いる場合に比して、オイルパン11の構成を簡素化しつつ、制御系統を簡素化することができる。
【0029】
○ 潤滑油の温度は、油温検出手段としての油温センサ41によって直接検出するのではなく、例えば、エンジンコントロールユニット40がエンジン10の回転数、エンジン10の高速回転の継続時間、ラジエータ水の温度等から潤滑油の温度を演算して推定してもよい。この場合、エンジンコントロールユニット40は制御手段と油温推定手段を兼ねることとなる。又は、エンジンコントロールユニット40とは別に、エンジン10の回転数、エンジン10の高速回転の継続時間、ラジエータ水の温度等から潤滑油の温度を演算処理する演算手段を設け、この演算手段を油温を推定する油温推定手段としてもよく、該油温推定手段からの信号に基づいてエンジンコントロールユニット40は潤滑油の温度を判断してもよい。そして、オイルパン11は、油温検出手段(油温センサ41)と油温推定手段(エンジンコントロールユニット40又は演算手段)の両方を備えていてもよく、いずれか一方だけ備えていてもよい。
【0030】
○ 接続管31から第1ソレノイドバルブ33、分岐管34及び第2ソレノイドバルブ35を削除するとともに、真空ポンプ30に、オイルパン11とは反対側へ延びる延設管を接続し、この延設管に大気開放手段としての開閉弁(例えば、ソレノイドバルブ)を設けてもよい。そして、この開閉弁の開閉によりオイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27を真空状態にしたり、大気へ開放したりしてもよい。
【0031】
○ バッフルプレート23は2重壁構造とせず、バッフルプレート空間部27が設けられていなくてもよい。
○ 第1ソレノイドバルブ33を、通電されると接続管31を開状態とする一方で、非通電とされると接続管31を閉状態とする構成としてもよい。また、第2ソレノイドバルブ35を、通電されると接続管31を開状態とする一方で、非通電とされると接続管31を閉状態とする構成としてもよい。
【0032】
○ エンジンコントロールユニット40が真空状態を解除させることとなる潤滑油の温度(所定温度)を、潤滑油の種類やエンジン10の性能に応じて任意に変更してもよい。
○ 油温センサ41をロアー側本体22に設け、ロアー室22a内の潤滑油の温度を直接検出したが、油温センサ41はエンジン10を循環する潤滑油の通路上の任意の位置に設けてもよい。
【0033】
○ オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27は、真空状態となるまで吸引されなくてもよく、例えば、吸引手段として、真空ポンプ30の代わりに吸引ポンプを用い、該吸引ポンプによってオイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27から空気を吸引して大気圧未満に減圧された状態でもよい。
【0034】
○ オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27が真空状態となった後、真空ポンプ30を停止させなくてもよい。
○ オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27に圧力計を設け、該圧力計をエンジンコントロールユニット40に電気的に接続する。そして、オイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27の圧力が所定値にまで減圧された場合に、エンジンコントロールユニット40は真空ポンプ30にオフ信号を出力して真空ポンプ30の運転を停止させる構成としてもよい。
【0035】
○ 真空ポンプ30(吸引手段)によってオイルパン空間部26及びバッフルプレート空間部27から空気を吸引するタイミングはエンジン10(内燃機関)の停止後でなくてもよく、例えば、潤滑油の温度を所定の温度に保温するために、潤滑油が所定の温度より下がったタイミングとしてもよい。
【0036】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(1)前記制御手段は、前記内燃機関の運転停止時に吸引ポンプを運転させる請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のオイルパン。
【0037】
(2)前記制御手段は、前記内燃機関の運転停止時にて、前記空間部が真空状態となった場合には前記真空ポンプの運転を停止させる請求項1〜請求項3、及び技術的思想(1)のうちいずれか一項に記載のオイルパン。
【0038】
(3)前記吸引手段は真空ポンプであり、前記空間部は前記真空ポンプによって真空状態とされる請求項1〜請求項3、技術的思想(1)及び技術的思想(2)のうちいずれか一項に記載のオイルパン。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態のオイルパンを模式的に示す概略構成図。
【符号の説明】
【0040】
10…内燃機関としてのエンジン、11…オイルパン、20…オイルパン本体、23…バッフルプレート、26…空間部としてのオイルパン空間部、27…空間部としてのバッフルプレート空間部、28…壁部、30…吸引手段としての真空ポンプ、33…大気開放手段としての第1ソレノイドバルブ、35…大気開放手段としての第2ソレノイドバルブ、40…制御手段及び油温推定手段としてのエンジンコントロールユニット、41…油温検出手段としての油温センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の下部に配置されて潤滑油を溜めるオイルパンであって、
空間部を有する2重壁構造から構成される壁部を有し前記潤滑油を溜めるオイルパン本体と、
前記壁部の空間部内の空気を吸引する吸引手段と、
前記潤滑油の温度を検出する油温検出手段及び前記潤滑油の温度を推定する油温推定手段のうちの少なくとも一方と、
前記吸引手段により空気が吸引された状態の壁部の空間部を大気に開放する大気開放手段と、
前記吸引手段及び前記大気開放手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記吸引手段を運転させることで前記壁部の空間部内から空気を吸引する一方で、前記油温検出手段及び油温推定手段のうちの少なくとも一方の信号に基づいて潤滑油の温度が所定温度に達したと判断した場合、前記大気開放手段を制御して空気が吸引された状態にある空間部を大気に開放するようにしたことを特徴とするオイルパン。
【請求項2】
前記オイルパン本体にはバッフルプレートが設けられているとともに、該バッフルプレートには空間部が設けられ、前記吸引手段は前記バッフルプレートの空間部の空気を吸引する請求項1に記載のオイルパン。
【請求項3】
前記潤滑油の温度は、前記オイルパン本体に設けられた前記油温検出手段としての油温センサによって検出される請求項1又は請求項2に記載のオイルパン。

【図1】
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【公開番号】特開2007−224823(P2007−224823A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47139(P2006−47139)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】