説明

オイルポンプ装置

【課題】電動ポンプの設置スペースの確保、部品点数の削減を図ると共に、メカニカルポンプと電動ポンプを円滑に回転支持することのできるオイルポンプ装置の提供。
【解決手段】軸方向に分割された第1ハウジング体11と第2ハウジング体12からなるポンプハウジング10には、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18とを有するポンプ組込空間13が形成されており、ポンプ組込空間13に対し、エンジンにより駆動されるメカニカルポンプ20と、モータ部により駆動される電動ポンプ30と、が軸方向に隣接して組み込まれ、メカニカルポンプ20のアウタギア23の第1環状凸部23aと第1環状凹部11aとが摺動する第1摺動面60と、第2環状凸部37aと第2環状凹部12aとが摺動する第2摺動面70には、流体動圧軸受としてV字状の溝62、72が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオイルポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンの作動時において、各種機構の潤滑、作動、制御等を行うオイルを供給するために、自動変速機にメカニカルポンプが組み込まれることが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
また、車両の一時停止の際、エンジンを一時停止させるアイドリングストップシステムが搭載された車両が知られている。このようなアイドリングストップシステムが搭載された車両において、エンジンの一時停止(アイドルストップ)に伴ってメカニカルポンプが停止するため、自動変速機内のクラッチ機構等に油圧を供給することができなくなる。そのため、アイドリングストップシステムが搭載された車両において、自動変速機内のクラッチ機構等に油圧を供給する電動ポンプを自動変速機の外部に設置することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
ここで、各種形式が異なる車両において、電動ポンプを設置するスペースをいかに確保するかという提案がなされている。
例えば、特許文献4に示されているように、電動モータをポンプの外径側に配置し、電動モータの永久磁石とポンプのアウタギアを一体化することで軸方向の小型化を図った電動ポンプがある。
また、特許文献5に示されているように、電動ポンプは、軸方向に分割された第1ハウジングと第2ハウジングを有している。このうち第1ハウジングが支持シャフト部に固定される構成とされ、第2ハウジングが支持シャフトの軸方向一方側から圧入外嵌される構成である。そして、この第1ハウジングと第2ハウジングがステータ部を軸方向両側から挟持する。また、アウターロータとインナーロータを回転可能に軸方向両側から保持している。これにより、径方向の小型化、部品点数の削減を図った電動ポンプとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−73387号公報
【特許文献2】特開平9−25809号公報
【特許文献3】特開2001−99282号公報
【特許文献4】特開2003−129966号公報
【特許文献5】特開2011−137440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4、5における電動ポンプは、これらを内装するハウジングがメカニカルポンプとは別に必要となる。すなわち、メカニカルポンプとは別に電動ポンプが単独で構成される構造では、電動ポンプの設置スペースの確保、部品点数の削減といった点に更なる改善点を有している。
また、メカニカルポンプと電動ポンプは、各々回転するタイミングが異なる。そのため、メカニカルポンプと電動ポンプの各種構成品の共有化を図る上で、両ポンプ構成品をいかに回転支持するかを考慮しなければならない。
【0006】
而して、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、電動ポンプの設置スペースの確保、部品点数の削減を図ると共に、メカニカルポンプと電動ポンプを円滑に回転支持することのできるオイルポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のオイルポンプ装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明に係るオイルポンプ装置は、軸方向に分割された第1ハウジングと第2ハウジングからなるポンプハウジングには、吸入ポートと吐出ポートとを有するポンプ組込空間が形成されており、該ポンプ組込空間に対し、エンジンにより駆動されるインナギア及びこのインナギアに噛み合うアウタギアを有するメカニカルポンプと、モータ部により駆動されるアウタギア及びこのアウタギアに噛み合うインナギアを有する電動ポンプと、が軸方向に隣接して組み込まれ、前記メカニカルポンプのアウタギアの軸方向側面のうち第1ハウジングに対向する面から軸方向に突出する第1環状凸部が形成されており、前記第1環状凸部に対応する前記第1ハウジングには、前記第1環状凸部が嵌込まれて係合する第1環状凹部が形成されており、前記第1環状凸部と第1環状凹部が係合することで前記メカニカルポンプのアウタギアは、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持されており、前記電動ポンプのアウタギアの軸方向側面のうち第2ハウジングに対向する面には、軸方向に突出する第2環状凸部が形成されており、前記第2環状凸部に対応する前記第2ハウジングには、前記第2環状凸部が嵌込まれて係合する第2環状凹部が形成されており、前記第2環状凸部と第2環状凹部が係合することで前記電動ポンプのアウタギアは、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持されており、前記第1環状凸部と前記第1環状凹部とが摺動する第1摺動面と、前記第2環状凸部と前記第2環状凹部とが摺動する第2摺動面には、流体動圧軸受が構成されていることを特徴とする。
【0008】
この第1の発明によれば、ポンプハウジングのポンプ組込空間に対し、メカニカルポンプと電動ポンプとが軸方向に隣接して組み込まれることで、径方向及び軸方向の小型化を図ったオイルポンプ装置とすることができる。また、メカニカルポンプと電動ポンプは、一つのポンプハウジング内に組み込まれているため、電動ポンプの設置スペースを新たに設けることも無い。また、部品点数の削減も図ることができる。
また、両ポンプのアウタギアには、軸方向から突出する第1環状凸部と第2環状凸部が構成されている。これに対応してポンプハウジングには、第1環状凹部と第2環状凹部が構成されている。これらの係合によって、メカニカルポンプと電動ポンプとが軸方向に隣接して組み込まれた構成でも、両ポンプのアウタギアの径方向の支持をすることができる。
また、第1環状凸部と第1環状凹部とが摺動する第1摺動面と、第2環状凸部と第2環状凹部とが摺動する第2摺動面には、流体動圧軸受が構成されていることによって、滑り軸受となる部位に潤滑流体膜に動圧を発生させることにより、第1摺動面と第2摺動面の焼付け防止を図ることができる。また、流体動圧軸受が構成により高い剛性を得ることができるため信頼性の向上が得られ、オイルポンプ装置の設計適用範囲を広げることができる。
【0009】
次に、第2の発明に係るオイルポンプ装置は、上述した第1の発明において、前記メカニカルポンプと前記電動ポンプと、が軸方向に隣接して組み込まれる構成は、前記電動ポンプのアウタギアの外周部位には前記第2環状凸部とは反対方向の軸方向にモータ部の回転子と一体的とされる環状部位が延在形成されており、該延在形成された電動ポンプのアウタギアの環状部位の内周側位置に、前記メカニカルポンプのアウタギアの少なくとも一部が軸方向に重なりあって配設されていることを特徴とする。
【0010】
この第2の発明によれば、電動ポンプのアウタギアの環状部位の内周側位置に、メカニカルポンプのアウタギアの少なくとも一部が軸方向に重なりあって配設される構成にすることで、よりコンパクトに電動ポンプを設置できる。また、両ポンプのアウタギアが重なり合った状態でも、上記流体動圧軸受の構成によって安定して回転支持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記各発明の手段をとることにより、電動ポンプの設置スペースの確保、部品点数の削減を図ると共に、メカニカルポンプと電動ポンプを円滑に回転支持することのできるオイルポンプ装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置のポンプハウジングにメカニカルポンプと電動ポンプとが組み付けられた状態を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置の電動ポンプのモータ部の固定子を示す正面図である。
【図4】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置のメカニカルポンプのインナギアとアウタギアとの噛み合い状態を示す正面図である。
【図5】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置の電動ポンプのインナギアとアウタギアとの噛み合い状態を示す正面図である。
【図6】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置の遮蔽板を示す正面図である。
【図7】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置のメカニカルポンプのアウタギアに構成される流体動圧軸受を示した斜視図である。
【図8】図7のVIII部の部分拡大斜視図である。
【図9】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置の電動ポンプのアウタギアに構成される流体動圧軸受を示した斜視図である。
【図10】図9のX部の部分拡大斜視図である。
【図11】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置のメカニカルポンプに対する流体動圧軸受の変形例1として、ハウジング側に流体動圧軸受に構成した状態を示す正面図である。
【図12】本発明の実施例1に係るオイルポンプ装置の電動ポンプに対する流体動圧軸受の変形例1として、ハウジング側に流体動圧軸受に構成した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0014】
この発明の実施例1に係るオイルポンプ装置を図1〜図10にしたがって説明する。
図1に示すように、自動変速機のトルクコンバータ1に組み付けられるオイルポンプ装置において、自動変速機のケーシング(図示しない)にボルトによって固定されるポンプハウジング10は、図1において左右に分割された第1ハウジング体11と第2ハウジング体12とがボルト9によって結合されることで構成される。そして、第1ハウジング体11と第2ハウジング体12の間には、ポンプ組込空間13が形成される。より具体的には、ポンプ組込空間13は、第1ハウジング体11の第2ハウジング体12に対向する内壁面の中心部に軸方向へ凹んで形成された組込凹部と、第2ハウジング体12の第1ハウジング体11に対向する内壁面とにより形成される。
また、第1ハウジング体11と第2ハウジング体12の対向内壁面には、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18とがそれぞれ形成されている。
また、第2ハウジング体12の中心部には、トルクコンバータ1のスリーブ2内に向けてステータシャフト5が配置形成されている。
【0015】
図2と図4に示すように、ポンプハウジング10のポンプ組込空間13には、エンジンの作動時に駆動されるメカニカルポンプ20と、エンジンの一時停止時に駆動される電動ポンプ30とが軸方向に隣接して組み込まれている。
メカニカルポンプ20は、インナギア21と、アウタギア23とを備え、ポンプ組込空間13の第1ハウジング体11側に組み込まれている。
メカニカルポンプ20のインナギア21は、トルクコンバータ1のスリーブ2に動力伝達可能に結合される中心孔を有し、外周面の周方向には複数の外歯が形成されている。
また、アウタギア23は、インナギア21の回転中心と偏心(図4中、偏心量Aだけ偏心)した位置の回転軸回りに回転する構成であり、かつ内周面の周方向には、インナギア21の複数の外歯と噛み合う複数の内歯が形成されている。
そして、インナギア21の外歯と、アウタギア23の内歯との間にはオイル閉込め部25が形成されており、トルクコンバータ1のスリーブ2からの動力伝達を受けてインナギア21が回転し、これに伴ってアウタギア23が追従回転することでポンプ作用をなすようになっている。
また、この実施例1において、図2に示すように、メカニカルポンプ20のアウタギア23の一側面(第1ハウジング体11の組込凹部の底面に対向する面)には、第1環状凸部23a(本発明の第1環状凸部に相当する)が形成され、この第1環状凸部23aが嵌込まれて係合する第1環状凹部11a(本発明の第1環状凹部に相当する)が第1ハウジング体11の組込凹部の底面に形成されている。
そして、メカニカルポンプ20がポンプ組込空間13内に組み込まれ、第1環状凸部23aと第1環状凹部11aとが回転可能に嵌込まれて係合することによって、第1ハウジング体11にメカニカルポンプ20のアウタギア23が安定よく支持されるようになっている。
【0016】
この第1環状凸部23aと第1環状凹部11aは、アウタギア23を径方向からの回転支持をするために構成されている。
図2に図示されるように、メカニカルポンプ20と電動ポンプ30を軸方向に隣接して組み込む構成は、メカニカルポンプ20のアウタギア23の外周面の一部と、後述する電動ポンプ30のアウタギア37の環状部位37bの内周面37b2とが、軸方向に重なりあう構成とされている。そのため、第1環状凸部23aと第1環状凹部11aの構成によって、アウタギア23を径方向から回転支持している。
【0017】
図2と図5に示すように、電動ポンプ30は、ポンプ組込空間13の第2ハウジング体12側に組み込まれ、固定子31と回転子33とを有するモータ部と、インナギア35と、アウタギア37とを備える。
図2と図3に示すように、電動ポンプ30の固定子31は、鉄心部32aと、その鉄心部32aの内周面の周方向に形成された複数のコイル装着部に装着された複数のコイル32bとを備える。さらに、固定子31は、第1ハウジング体11と第2ハウジング体12を締結するボルト9による締め代をもって第1ハウジング体11と第2ハウジング体12の間に固定される。
また、固定子31の鉄心部32aの外周面の複数箇所(複数のコイル32bの対応する箇所)には、円弧状の切り欠き凹部31aが形成されている。そして、第1ハウジング体11と第2ハウジング体12を複数のボルト9によって締結する際、これら複数のボルト9のねじ部が切り欠き凹部31aを貫通して複数のボルト9のねじ部と、複数の切り欠き凹部31aとが係合する。そして、複数のボルト9のねじ部と、複数の切り欠き凹部31aとの係合力によって固定子31を強固に回り止めしている。
すなわち、第1ハウジング体11と第2ハウジング体12を複数のボルト9によって締結すると同時に、固定子31の固定を行うことができる。また、複数のボルト9のねじ部が切り欠き凹部31aを貫通することで、第1ハウジング体11と第2ハウジング体12を含む全体の直径寸法が過大となることを抑制することができ、電動ポンプ30の配置スペースの確保が容易となる。
また、回転子33の外周面には、複数のコイル32bに対応するS極と、N極の磁石(図示しない)が周方向に交互に配列される。
【0018】
電動ポンプ30のインナギア35は、ステータシャフト5の外周面に回転可能に嵌挿される中心孔を有し、外周面の周方向には複数の外歯が形成されている。
また、アウタギア37の外周部のうちメカニカルポンプ20のアウタギア23に対向する側の端面は、軸方向に延出する環状部位37bが設けられている。この環状部位37bの外周面37b1とモータ部の回転子33の内周部とは、動力伝達可能に固定されている。
アウタギア37は、インナギア35の中心と偏心(図5中、偏心量Bだけ偏心)した位置の回転軸回りに回転する構成であり、かつ内周面の周方向には、インナギア35の複数の外歯と噛み合う複数の内歯が形成されている。そして、インナギア35の外歯と、アウタギア37の内歯との間にはオイル閉込め部39が形成される。
そして、モータ部からの動力伝達を受けてアウタギア37が回転し、これに伴ってインナギア35が追従回転することでポンプ作用をなすようになっている。
また、この実施例1において、図2に示すように、電動ポンプ30のアウタギア37の一側面(第2ハウジング体12の内壁面に対向する面)には、第2環状凸部37aが形成され、この第2環状凸部37aが回転可能に嵌込まれて係合する第2環状凹部12aが第2ハウジング体12の内壁面に形成されている。そして、電動ポンプ30がポンプ組込空間13内に組み込まれ、第2環状凸部37aと第2環状凹部12aとが回転可能に嵌込まれて係合することによって、第2ハウジング体12に電動ポンプ30のアウタギア37が安定よく支持されるようになっている。
【0019】
この第2環状凸部37aと第2環状凹部12aは、アウタギア37の径方向からの回転支持をするために構成されている。すなわち、図2に図示されるように上述する電動ポンプ30のアウタギア37の環状部位37bの外周面37b1には回転子33が設けられ、この回転子33から径方向外方に離間して固定子31が配置構成されている。そのため、第2環状凸部37aと第2環状凹部12aの構成によって、アウタギア37を径方向から回転支持している。
【0020】
また、電動ポンプ30のインナギア35及びアウタギア37は、メカニカルポンプ20のインナギア21及びアウタギア23と同径に形成されると共に、偏心量A、Bにおいても同じに設定される。
さらに、エンジンの作動時に、各種機構の潤滑、作動、制御等を行うオイルを供給するために必要なオイル量よりも、エンジンの一時停止時に自動変速機内のクラッチ機構等にオイルを供給するために必要なオイル量が数分の一程度少なくて済むため、電動ポンプ30のインナギア35及びアウタギア37は、メカニカルポンプ20のインナギア21及びアウタギア23よりも数分の一程度薄形に形成されている。
なお、電動ポンプ30は、図示しない制御装置に接続され、設定されたプログラムに基づいて回転制御されるようになっている。
【0021】
図2と図6に示すように、メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30との間には、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通を遮蔽する円板状の遮蔽板40が配設されている。
この実施例1において、遮蔽板40の中心孔の内周面には、ステータシャフト5の外周面に形成されたキー溝に係合して回り止めをなすキー40aが形成されている。
また、遮蔽板40の一側面には、第1ハウジング体11の吸入ポート15及び吐出ポート16とオイル圧を均等に保つために、吸入ポート15及び吐出ポート16と同じ大きさ形状のポート溝44、45が必要に応じて形成される。さらに、遮蔽板40の他側面には、第2ハウジング体12の吸入ポート17及び吐出ポート18とオイル圧を均等に保つために、吸入ポート17及び吐出ポート18と同じ大きさ形状のポート溝46、47が必要に応じて形成される。
【0022】
図2、7に図示されるように、メカニカルポンプ20のアウタギア23に構成される第1環状凸部23aと、第1ハウジング体11の第1環状凹部11aとが摺動する第1摺動面60には、相対滑り運動によって潤滑流体膜に動圧を発生させ、径方向の負荷を支持する流体動圧軸受が構成されている。
詳しくは、図8に図示されるようにアウタギア23の第1環状凸部23aの外周面の全周において、V字状の溝62が複数隣接して形成されている。ここで、V字状の溝62は、谷部64が回転方向の後方側に配置されるように形成されている。このV字状の溝62に沿って流れた油は、谷部64に集まることで動圧を発生させる。
【0023】
同様に、図2、9に図示されるように、電動ポンプ30のアウタギア37に構成される第2環状凸部37aと、第2ハウジング体12の第2環状凹部12aとが摺動する第2摺動面70には、相対滑り運動によって潤滑流体膜に動圧を発生させ、径方向の負荷を支持する流体動圧軸受が構成されている。
詳しくは、図10に図示されるようにアウタギア37の第2環状凸部37aの外周面の全周において、V字状の溝72が複数隣接して形成されている。ここで、V字状の溝72は、谷部74が回転方向の後方側に配置されるように形成されている。このV字状の溝72に沿って流れた油は、谷部74に集まることで動圧を発生させる。
【0024】
この実施例1に係るオイルポンプ装置は上述したように構成される。
したがって、エンジンの作動時には、トルクコンバータ1のスリーブ2からの動力伝達を受けてメカニカルポンプ20のインナギア21が回転し、これに伴ってアウタギア23が追従回転することで、第1ハウジング体11の吸入ポート15から吸入されたオイルがインナギア21と、アウタギア23との間のオイル閉込め部25を経て吐出ポート16から吐出され、各種機構に供給される。これによって各種機構の潤滑、作動、制御等がなされる。
【0025】
エンジンの一時停止(アイドルストップ)時には、電動ポンプ30のモータ部が作動し、その回転子33の動力伝達を受けてアウタギア37が回転する。アウタギア37の回転に伴ってインナギア35が追従回転することで、第2ハウジング体12の吸入ポート17から吸入されたオイルがインナギア35とアウタギア37との間のオイル閉込め部39を経て吐出ポート18から吐出され、自動変速機内のクラッチ機構等に供給される。
【0026】
また、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18とを有するポンプハウジング10のポンプ組込空間13に対し、メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30とを軸方向に隣接させて容易に組み込むことができる。
このため、ポンプハウジング10の外部に電動ポンプ30を設置するスペースを確保する必要性を解消することができ、アイドリングストップシステムを容易に採用することができる。
【0027】
また、メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30との間に遮蔽板40を配設してポンプハウジング10の吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通を遮蔽することができる。このため、電動ポンプ30の作動時に、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通が原因となるオイルの供給不足を防止することができる。
【0028】
また、前記実施例1においては、エンジンの作動時には、電動ポンプ30が停止するように回転制御される場合を例示したが、エンジンの作動時にも、電動ポンプ30のモータ部に電流を供給して電動ポンプ30を駆動制御するように構成にすることも可能である。
この場合、エンジンの作動時に電動ポンプ30が停止している場合と比較して、電動ポンプ30によるオイルの供給量に相当する分だけメカニカルポンプ20を小型化することができる。
また、エンジンの作動時のメカニカルポンプ20の回転速度よりも電動ポンプ30の回転速度を、高速(例えば、1.5〜2倍程度高速)に回転制御することも可能である。
この場合、電動ポンプ30を高速回転する分だけ、電動ポンプ30やメカニカルポンプ20の小型化を図ることが可能となる。
【0029】
また、第1環状凸部23aと第1環状凹部11aとが係合する構成によって、メカニカルポンプ20のアウタギア23の径方向の支持をすることができる。同様に、第2環状凸部37aと第2環状凹部12aとが係合する構成によって、電動ポンプ30のアウタギア37の径方向の支持をすることができる。
更に、アウタギア23の第1環状凸部23aの外周面の全周(第1摺動面60)には、流体動圧軸受として構成されるV字状の溝62が形成されている。また、アウタギア37の第2環状凸部37aの外周面の全周(第2摺動面70)には、流体動圧軸受として構成されるV字状の溝72が形成されている。そのため、滑り軸受となる部位に潤滑流体膜に動圧を発生させることにより、第1摺動面60と第2摺動面70の部位の焼付け防止を図ることができる。また、流体動圧軸受のV字状の溝62、72の構成により高い剛性を得ることができるため信頼性の向上が得られ、オイルポンプ装置の設計適用範囲を広げることができる。
【0030】
また、図2に図示されるように、メカニカルポンプ20と電動ポンプ30を軸方向に隣接して組み込まれた構成は、電動ポンプ30のアウタギア37の環状部位37bの内周面37b2に、メカニカルポンプ20のアウタギア23の外周面の一部が、軸方向に重なりあって配設される構成とされている。
このような構成でも、アウタギア23の回転支持は、第1環状凸部23aと第1環状凹部11aが担い、アウタギア37の回転支持は、第2環状凸部37aと第2環状凹部12aが担う。これにより、両アウタギア23、37は、安定して回転支持することができる。
【0031】
なお、流体動圧軸受の構成は、V字状の溝62、72に限られない。図11及び図12は本実施例1の変形例1を示している。
例えば、図2、11に図示されるように、第1ハウジング体11の第1環状凹部11aの内周面にくさび状の溝80を周方向に複数構成するものであってもよい。このくさび状の溝80は、アウタギア23の回転方向の前方側に向かって漸次閉塞する傾斜面82が形成されており、この傾斜面82とアウタギア23の間に油が集まることで動圧を発生させる。
同様に、図2、12に図示されるように、第2ハウジング体12の第2環状凹部12aの内周面にくさび状の溝90を周方向に複数構成するものであってもよい。このくさび状の溝90は、アウタギア37の回転方向の前方側に向かって漸次閉塞する傾斜面92が形成されており、この傾斜面92とアウタギア37の間に油が集まることで動圧を発生させる。
【0032】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、その他各種の形態で実施することができるものである。
【符号の説明】
【0033】
10 ポンプハウジング
11 第1ハウジング体
11a 第1環状凹部
12 第2ハウジング体
12a 第2環状凹部
13 ポンプ組込空間
15、17 吸入ポート
16、18 吐出ポート
20 メカニカルポンプ
21 インナギア
23 アウタギア
23a 第1環状凸部
30 電動ポンプ
33 回転子
35 インナギア
37 アウタギア
37a 第2環状凸部
37b 環状部位
37b1 環状部位の外周面
37b2 環状部位の内周面
40 遮蔽板
60 第1摺動面
62 V字状の溝
64 谷部
70 第2摺動面
72 V字状の溝
74 谷部
80 くさび状の溝
82 傾斜面
90 くさび状の溝
92 傾斜面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に分割された第1ハウジングと第2ハウジングからなるポンプハウジングには、吸入ポートと吐出ポートとを有するポンプ組込空間が形成されており、
該ポンプ組込空間に対し、エンジンにより駆動されるインナギア及びこのインナギアに噛み合うアウタギアを有するメカニカルポンプと、モータ部により駆動されるアウタギア及びこのアウタギアに噛み合うインナギアを有する電動ポンプと、が軸方向に隣接して組み込まれ、
前記メカニカルポンプのアウタギアの軸方向側面のうち第1ハウジングに対向する面から軸方向に突出する第1環状凸部が形成されており、
前記第1環状凸部に対応する前記第1ハウジングには、前記第1環状凸部が嵌込まれて係合する第1環状凹部が形成されており、
前記第1環状凸部と第1環状凹部が係合することで前記メカニカルポンプのアウタギアは、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持されており、
前記電動ポンプのアウタギアの軸方向側面のうち第2ハウジングに対向する面には、軸方向に突出する第2環状凸部が形成されており、
前記第2環状凸部に対応する前記第2ハウジングには、前記第2環状凸部が嵌込まれて係合する第2環状凹部が形成されており、
前記第2環状凸部と第2環状凹部が係合することで前記電動ポンプのアウタギアは、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持されており、
前記第1環状凸部と前記第1環状凹部とが摺動する第1摺動面と、前記第2環状凸部と前記第2環状凹部とが摺動する第2摺動面には、流体動圧軸受が構成されていることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルポンプ装置であって、
前記メカニカルポンプと前記電動ポンプと、が軸方向に隣接して組み込まれる構成は、
前記電動ポンプのアウタギアの外周部位には前記第2環状凸部とは反対方向の軸方向にモータ部の回転子と一体的とされる環状部位が延在形成されており、該延在形成された電動ポンプのアウタギアの環状部位の内周側位置に、前記メカニカルポンプのアウタギアの少なくとも一部が軸方向に重なりあって配設されていることを特徴とするオイルポンプ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−72370(P2013−72370A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212254(P2011−212254)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】