説明

オイルポンプ

【目的】歯数を増やして騒音の発生を抑えながらも、更に耐久性を向上させたオイルポンプとすること。
【構成】ポンプボディ1と、外歯21を有するインナーロータ2と、内歯31を有するアウターロータ3とからなること。ポンプボディ1のロータ室1aには吸入ポート11の終端側11tと、吐出ポート12の始端側12sとの間に最大間仕切り部13が形成され、インナーロータ2の外歯21と、アウターロータ3の内歯31とによって構成されるセルSにおいて、最大間仕切り部13箇所に位置する中央セルSaとその回転方向の前後に位置する隣接セルSbは、共に外歯21と内歯31同士の接触でそれぞれ密封されること。中央セルSa及び隣接セルSb以外のセルSを構成する外歯21と内歯31とは非接触としてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯数を増やして騒音の発生を抑えながらも、更に耐久性を向上させたオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
少ない歯数のロータでは一つのセル当たりの吐出量が多くなるため、脈動が大きくなりオイルポンプのボディなどを振動させ、騒音が発生するという課題があった。そこで、脈動を小さくし騒音を抑える方法としては、歯数を多くする方法が採用されることが多い。一般的なトロコイド形状の歯形と比較して歯数を多くした文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−85256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、歯先から歯底までの寸法であるいわゆる歯丈を縮小することで歯数を増やしている。すなわち特許文献1の歯形は、一般的なトロコイド形状の歯形に対して、径方向に押し潰されたような歯形形状となっている。一般的なトロコイド形状の歯形に対して径方向に押し潰されたような歯形形状となっていることで、歯先と歯底の中間領域である(特許文献1の)図1の一点鎖線上(基礎円A)近傍が相対的に周方向外側に張
り出す形状となる。
【0005】
インナーロータ10とアウターロータ20とは最低限食い込まずに回転する必要があるため、それぞれの外歯及び内歯は、通常の歯形形状よりは、えぐられた形状となっている。特許文献1の図1において、左右方向に配置されたインナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21(右側2枚、左側1枚)は接しているが、それ以外の歯である図1の上側2箇所、下側2箇所に配置された歯と歯は接触せずに大きな隙間が空いていることが見て取れる。
【0006】
ところで、特許文献1では、上記構成を有するために下記の課題が存在する。すなわち、インナーロータ10の外歯11と、アウターロータ20の内歯21とが接している歯が少ない(3枚の)ため、接している部分に、より大きな応力(力、ストレス)が発生してしまうので、ロータの耐久性が低下するという課題があった。
【0007】
なお従来より広く使用されているトロコイド形状を有する歯形のオイルポンプでは、インナーロータの外歯とアウターロータの内歯は全歯接している。
【0008】
上記ロータの耐久性の課題が発生しないのはトロコイド形状の歯形のみであり、吐出量や効率を向上させようとして非トロコイド形状の歯形を使用すれば全歯接しないために発生してしまう課題である。
【0009】
本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、非トロコイド形状でありながら接触させる歯の枚数を多くすることで、歯に加わる応力を小さくしてロータの耐久性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、ポンプボディと、外歯を有するインナーロータと、内歯を有するアウターロータとからなり、前記ポンプボディのロータ室には吸入ポートの終端側と、吐出ポートの始端側との間に最大間仕切り部が形成され、前記インナーロータの前記外歯と、前記アウターロータの前記内歯とによって構成されるセルにおいて、前記最大間仕切り部箇所に位置する中央セルと該中央セルの回転方向の前後に位置する隣接セルは、共に前記外歯と前記内歯同士の接触でそれぞれ密封され、且つ前記中央セル及び隣接セル以外のセルを構成する前記外歯と前記内歯とは非接触としてなるオイルポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【0011】
請求項2の発明を、請求項1において、前記インナーロータの前記外歯の歯先は、前記アウターロータの前記内歯と接触する接触領域とし、前記外歯の歯先と歯底との間の側面は、前記内歯と接触しない非接触領域としてなるオイルポンプとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1において、前記アウターロータの前記内歯の歯先は、前記インナーロータの前記外歯と接触する接触領域とし、前記内歯の歯先と歯底との間の側面は、前記外歯と接触しない非接触領域としてなるオイルポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、特許文献1等の従来技術に比較して、作動時にインナーロータの外歯と、アウターロータの内歯との接触する枚数を増やすことができ、接触する1枚当たりの応力や衝撃力を減らすことができる。これによって、インナーロータとアウターロータの耐久性を向上させることができる。
【0013】
請求項2の発明では、インナーロータの外歯の歯先は、アウターロータの内歯と接触する接触領域とし、前記外歯の歯先と歯底との間の側面は、前記内歯と接触しない非接触領域としたことにより、インナーロータ及びアウターロータとを最も簡単な形状にて、請求項1の発明を実現することができる。また、インナーロータ形状を金型の形状により成形可能であり、特段の機械加工は不要であるため、コストが高くなることを防止し、低価格にて提供することができる。請求項3の発明では、請求項2と同様の効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は本発明の構成を示す正面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)はポンプボディの正面図である。
【図2】(A)はインナーロータの外歯の正面拡大図、(B)は外歯の歯先の接触領域と内歯とが接触している状態の要部拡大図、(C)は外歯の側面の非接触領域と内歯とが接触していない状態の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の主な構成部品は、図1(A)に示すように、主に、ポンプボディ1、インナーロータ2、アウターロータ3とからなる。オイルポンプとしては車両用オイルポンプとして通常広く使用されるものである。車両用のオイルポンプには、ポンプボディ1と図示されないカバーを組み合わせたものよりなり、ポンプボディ1又はカバーのどちらか一方にはロータ室1aが形成される。またロータ室1aには、インナーロータ2を回転駆動する駆動軸の軸受孔1bが形成されており、駆動軸4が挿通される〔図1(A),(C)参照〕。
【0016】
本発明の実施形態では、ポンプボディ1側にロータ室1aが形成されたものとして説明を行う〔図1(C)参照〕。ポンプボディ1のロータ室1aには、吸入ポート11と吐出ポート12が形成される。吸入ポート11の終端側11tと、吐出ポート12の始端側12sとの間には平坦面である最大間仕切り部13が形成され、前記吐出ポート12の終端側12tと、前記吸入ポート11の始端側11sとの間には平坦面である最小間仕切り部14が形成されている〔図1(C)参照〕。
【0017】
ロータ室1aには、複数の外歯21を有する略歯車形状のインナーロータ2と、複数の内歯31を有する略環状のアウターロータ3とが配置される〔図1(A)参照〕。具体的には、アウターロータ3の内部にインナーロータ2が配置され、それぞれの回転中心が離間している。インナーロータ2の複数の外歯21,21,…と、アウターロータ3の複数の内歯31,31,…によって、セルSと呼ばれる歯間空間が形成される〔図1(A)参照〕。
【0018】
インナーロータ2の外歯21の歯形は非トロコイド形状の歯形を有し、2次又はそれ以上の次数の曲線又は該曲線を組み合わせた曲線に形成されている。アウターロータ3の内歯31の歯形は、他の通常の車両用オイルポンプのアウターロータと同様に、インナーロータ2を回転させた時の最外軌跡形状である包絡線によって形成されている。
【0019】
本発明の実施形態では、インナーロータ2の外歯21の歯数は6枚であり、アウターロータ3の内歯31の歯数は7枚である。もちろん、インナーロータ2の外歯21及びアウターロータ3の内歯31の歯数の組み合わせは、上記に限定されるものではない。インナーロータ2及びアウターロータ3は、同一の方向に回転するものである。そして、インナーロータ2及びアウターロータ3の回転方向に対して、任意の外歯21又は内歯31を設定し、回転する先の部分を前方側と称し、手前の部分を後方側と称する。
【0020】
上記構成のオイルポンプのポンプボディ1に対して、インナーロータ2とアウターロータ3とが図1(A)に示すように、インナーロータ2の回転中心Qaを通過する垂直線Lに対して、上方に位置する2個の外歯21,21が左右対称となるように配置されている〔図1(A)参照〕。この左右対称となる方向は、インナーロータ2の回転方向に沿うものである〔図1(B)参照〕。
【0021】
この状態で、アウターロータ3の回転中心Qbを通過する垂直線Lに対して、上方の2個の内歯31,31も左右対称となる〔図1(A),(B)参照〕。この左右対称となる方向についても、インナーロータ2の回転方向に沿うものである。アウターロータ3の回転方向は、インナーロータ2の回転方向と同一である。またインナーロータ2の回転中心Qaと、アウターロータ3の回転中心Qbとは、同一垂直線L上に位置しており、回転中心Qaと回転中心Qbとは垂直方向にずれている〔図1(A)参照〕。
【0022】
前述した、回転中心Qa,Qbを通過する垂直線Lに対して左右対称となる外歯21,21と、内歯31,31が接触して、最大間仕切り部13上に密封された状態のセルSが構成される。セルSは複数形成されるが、前記最大間仕切り部13上を移動するセルSを中央セルSaと称する〔図1(A),(B)参照〕。そして、該中央セルSaを構成する外歯21,21の歯先21a,21aと、これらと対応するアウターロータ3の内歯31,31の歯先31a,31a同士が接触する。
【0023】
この接触箇所を接触点P1と称する。そして、回転中心Qaを通過する垂直線Lに対し
て2個の接触点P1,P1が左右対称に位置する〔図1(B)参照〕。また、このとき、最小間仕切り部14では、回転中心Qaを通過する垂直線L上に2個の外歯21,21が左右対称に配置され、1個の内歯31が前述した2個の外歯21,21間に食い込むように噛み合う構成となっている〔図1(A)参照〕。
【0024】
また、前記中央セルSaの回転方向の前後の位置には、それぞれ隣接セルSb,Sbが存在する〔図1(A),(B)参照〕。両隣接セルSb,Sbは、回転方向の前方側と後方側に左右対称(略左右対称も含む)に配置され、中央セルSaを構成する外歯21,21と内歯31,31と、さらにこれらの外歯21,21と内歯31,31に対して回転方向の前方側と後方側に位置する外歯21,21と内歯31,31によって構成される〔図1(A),(B)参照〕。
【0025】
前記両隣接セルSb,Sbについても、外歯21の歯先21aの形成領域と内歯31とが接触している。この接触箇所を接触点P2と称する。つまり、中央セルSの密封状態は
、接触点P1,P1同士によって構成され、隣接セルSbの密封状態は、接触点P1と接触
点P2とから構成される〔図1(B)参照〕。中央セルSや隣接セルSbは密封されるこ
とによりオイルを運搬することができる。
【0026】
本発明の実施形態では、最大間仕切り部13上に位置する中央セルSa及び該中央セルSaに対して回転方向の前方側及び後方側に位置する両隣接セルSb,Sbの計3つのセルSは、全て密封されている。接触点P1及び接触点P2は、外歯21の歯先21aの領域と、内歯31の歯先31aの領域同士の接触となる。接触点P2より接触点P1の方が歯先21a、歯先31aに近い。
【0027】
そのため外歯21の歯先21aの全範囲又は全範囲よりも少し狭い範囲をアウターロータ3の内歯31と接触する接触領域としている〔図2(A),(B)参照〕。外歯21は、歯先21aの接触領域でのみ内歯31の歯先31aと接触する接触点P1及び接触点P2を構成する。
【0028】
最小間仕切り部14側寄りの箇所では複数のセルS,S,…が形成されている。最小間仕切り部14の回転方向前方側及び後方側に構成されるセルSは、2つの外歯21,21の間に少し離れた距離に内歯31が食い込むような構成であり、体積は小さいがゼロでは無く、セルSとしての構成は存在しているものである〔図1(A)参照〕。
【0029】
図1(A)において、最小間仕切り部14側のセルS,Sはそれぞれ連通している。これは、最小間仕切り部14付近に位置するインナーロータ2の外歯21の歯先21aと、アウターロータ3の内歯31の歯先31aとは、セルSとセルSとを密封できるほどには近接していないため、連通することになる。
【0030】
中央セルSaの回転方向後方側の密封された隣接セルSbと、その他のセルSとの境目となる位置に存在する外歯21は、回転方向前方側では、内歯31との接触点P2が存在
し、回転方向後方側では、内歯31との接触点が存在しない。このような構成とするために、外歯21において、歯先21aと歯底21cとの間では、従来の外歯の歯形の外形よりも僅かに内方側にへこむ側面21bが形成されている。該側面21bは、アウターロータ3の内歯31と接触しない非接触領域としている〔図2(A),(C)参照〕。非接触領域によって、最小間仕切り部14側寄りに構成されるセルS,S,…は連通することができる。
【0031】
インナーロータ2の外歯21及びアウターロータ3の内歯31の枚数が増える分には密封するセルSを5つ、7つと増やせば良い。また、連通するセルS,Sを本実施形態のような2つずつでは無く、3つずつ、4つずつと増やすことは容易である。
【0032】
接触領域と非接触領域とは、アウターロータ3の内歯31に適用されてもかまわない。すなわち、内歯31の歯先31aは、インナーロータ2の外歯21との接触領域となる。また、歯先31aと歯底31c側と歯先31a側との間では、従来の外歯の歯形の外形よりも僅かに内方側にへこむ側面31bが形成され、該側面31bは、インナーロータ2の外歯21と接触しない非接触領域となる。
【符号の説明】
【0033】
1…ポンプボディ、1a…ロータ室、11…吸入ポート、12…吐出ポート、
13…最大間仕切り部、2…インナーロータ、21…外歯、21a…歯先、
21b…側面、3…アウターロータ、31…内歯、31a…歯先、31b…側面、
S…セル、Sa…中央セル、Sb…隣接セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプボディと、外歯を有するインナーロータと、内歯を有するアウターロータとからなり、前記ポンプボディのロータ室には吸入ポートの終端側と、吐出ポートの始端側との間に最大間仕切り部が形成され、前記インナーロータの前記外歯と、前記アウターロータの前記内歯とによって構成されるセルにおいて、前記最大間仕切り部箇所に位置する中央セルと該中央セルの回転方向の前後に位置する隣接セルは、共に前記外歯と前記内歯同士の接触でそれぞれ密封され、且つ前記中央セル及び隣接セル以外のセルを構成する前記外歯と前記内歯とは非接触としてなることを特徴としたオイルポンプ。
【請求項2】
請求項1において、前記インナーロータの前記外歯の歯先は、前記アウターロータの前記内歯と接触する接触領域とし、前記外歯の歯先と歯底との間の側面は、前記内歯と接触しない非接触領域としてなることを特徴とするオイルポンプ。
【請求項3】
請求項1において、前記アウターロータの前記内歯の歯先は、前記インナーロータの前記外歯と接触する接触領域とし、前記内歯の歯先と歯底との間の側面は、前記外歯と接触しない非接触領域としてなることを特徴とするオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−7365(P2013−7365A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142075(P2011−142075)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】