説明

オカラの処理方法、オカラ製石鹸およびオカラ製石鹸セット

【課題】 多くが廃棄処理されるオカラを用い、その構成成分を余すところなく有効利用して新規な製品化を得ることのできるオカラの処理方法を提供すること。
【解決手段】 オカラ1をアルカリ水溶液5により水熱処理(P1、水熱処理過程)し、得られる水熱処理物2をタンパク質の含まれる可溶性成分3と、セルロースの含まれる不溶性成分4に分離する(P2、分離過程)ことを、主たる構成とする。可溶性成分3からは、必要な材料6を用い、石鹸製造過程P3により石鹸9を得ることができる。不溶性成分4からは、必要な材料8を用い、紙製造過程P4により紙9を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオカラの処理方法、オカラ製石鹸およびオカラ製石鹸セットに係り、特に、豆腐製造過程でその多くが廃棄処理されるオカラを用い、その構成成分を有効利用して新規な製品化を得ることのできる、オカラの処理方法、オカラ製石鹸およびオカラ製石鹸セットに関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐製造過程において産生されるオカラは、大まかにタンパク質、脂質、セルロース等で構成されている。オカラの利用は、その一部が食品素材等として利用されているものの、多くは低付加価値の利用にとどまり、むしろ実態は、利用されずに廃棄処分されることがほとんどである。このようなオカラの、食品分野以外の利用技術については、従来、若干の提案がなされている。
【0003】
後掲特許文献1では、オカラに酵素処理を施し、構成成分を全てセルロース、タンパク質等に分解して保湿剤・石鹸を製造する提案がなされている。また、後掲特許文献2では、オカラをアルカリ水溶液で処理し、ろ過残分を脱水、成形、乾燥して、紙を製造すする方法を提案している。また、後掲特許文献3では、オカラに処理油を混合し、加熱、減圧脱水、脱油して粉状とし、石炭代用品とする提案がなされている。
【0004】
【特許文献1】特許平9−142975号公報「保湿剤」
【特許文献2】特願平8−84950号公報「食材加工廃棄物を主原料とする生物分解性成形体の製造方法」
【特許文献3】特願2000−113830「油を用いた蛋白質含有廃棄物の処理方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2はそれぞれ、オカラから保湿剤・石鹸を得るもの、オカラから紙を得る技術であるところ、オカラを処理してタンパク質等可溶性成分とセルロース等不溶性成分とに分離し、それらいずれの成分とも同時に利用する研究例は全くない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を除き、豆腐製造過程でその多くが廃棄処理されるオカラを用い、その構成成分を余すところなく有効利用して新規な製品化を得ることのできる、オカラの処理方法、オカラ製石鹸およびオカラ製石鹸セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者が上記課題について検討したところ、オカラは保水性が高く、乾燥して素材化させたのではコストの増大を招いて実用的ではないと考えられた。したがって、乾燥させるのではなく逆に水を用いた処理方法が有効であると考えた。オカラの構成要素であるタンパク質等はアルカリ水溶液に可溶であるが、セルロースは不溶であり、高い温度での処理はさらにその分離効果を増大させる。そこで、高温水を用いたいわゆる水熱処理によって、上記課題の解決が可能であることに想到し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明は、以下のとおりである。
【0008】
(1) オカラをアルカリ水溶液により水熱処理し、得られる水熱処理物をタンパク質の含まれる可溶性成分と、セルロースの含まれる不溶性成分に分離する、オカラの処理方法。
(2) オカラ由来のタンパク質と、アルカリと、油脂とを用いてなるオカラ製石鹸。
(3) オカラをアルカリ水溶液により水熱処理して得られるタンパク質または可溶性成分と、アルカリと、油脂とを用いてなるオカラ製石鹸。
(4) オカラをアルカリ水溶液により水熱処理して得られるセルロースまたは不溶性成分を抄紙してなる紙を用いた紙製品と、(2)または(3)に記載のオカラ製石鹸とからなる、オカラ製石鹸セット。
【0009】
つまり本発明は、オカラの構成要素である可溶性のタンパク質等と不溶性のセルロースを水酸化ナトリウム等アルカリ水溶液を用いて分離し、それぞれを石鹸と紙に有効利用するものである。さらに述べれば本発明は、オカラを水酸化ナトリウム等アルカリ水溶液を用いた水熱処理により、タンパク質等とセルロースに分離し、ろ過したタンパク質等が含まれるろ液を中和処理することなくダイレクトに油、水、水酸化ナトリウム等が原料となる石鹸の製造に用い、ろ過残分であるセルロースは紙化し有効利用するというものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオカラの処理方法、オカラ製石鹸およびオカラ製石鹸セットは上述のように構成されるため、これによれば、豆腐製造過程でその多くが廃棄処理されるオカラを用いて、その構成成分を余すところなく有効利用して新規な製品化を得ることができる。分離されたいずれの画分ともそれを原料とした製品化を行えるため、ろ液の中和処理やろ過残分の廃棄処理などが不要であり、ゼロ・エミッション、環境負荷防止を実現でき、また工程としても効率を高めることができ、製造コストも低減できる。
【0011】
さらに、オカラ製石鹸セットのような構成は、廃棄物の完全利用製品として環境志向性が認められ、商品価値を高めることができ、オカラの有効利用をさらに活性化させることができる。
【0012】
なお、本願出願に先立って、特許文献・学術文献の検索調査を行ったので、その概要を記す。特許電子図書館(IPDL)を用いて行った、特許等の検索調査の概要は、以下の通りである。使用メニューは、特・実公報テキスト検索、要約+請求の範囲中のキーワード検索を用いた。
a)オカラand石鹸・・・結果2件 本願発明に該当する技術なし。
b)オカラand紙・・・結果53件 紙に関してはあるが、本願発明に該当する技術なし。
c)オカラand処理方法andシステム・・・結果53件 本願発明に該当する技術なし。
【0013】
また、JOISを用いた論文検索調査(キーワード検索)の概要は、以下の通りである。
d)オカラand石鹸・・・結果2件 本願発明に該当する技術なし。
e)オカラand紙・・・結果42件 紙に関してはあるが、本願発明に該当する技術なし。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面も用いつつ詳細に説明する。
図1は、本発明のオカラの処理方法の構成を示すフロー図である。図示するように本法は、オカラ1をアルカリ水溶液5により水熱処理(P1、水熱処理過程)し、得られる水熱処理物2をタンパク質の含まれる可溶性成分3と、セルロースの含まれる不溶性成分4に分離する(P2、分離過程)ことを、主たる構成とする。
【0015】
かかる構成により、本処理方法によれば、水熱処理過程P1においてオカラ1はアルカリ水溶液5により水熱処理されて水熱処理物2が得られ、ついで分離過程P2において該水熱処理物2がタンパク質の含まれる可溶性成分3と、セルロースの含まれる不溶性成分4に分離される。
【0016】
前記水熱処理過程P2に用いる前記アルカリ水溶液5には、水酸化ナトリウム等を容易かつ好適に用いることができる。また、水熱処理条件は、温度範囲50〜150℃、処理時間1〜10時間など、適宜の条件にて行うことができるが、特に、温度範囲70〜90℃、処理時間4〜6時間の条件は、好適に用いることができる例である。
【0017】
前記分離過程P2では、簡便には吸引ろ過などのろ過操作を用いることができる。
【0018】
図において本発明処理方法では、分離された可溶性成分3に油脂・水・水酸化ナトリウムといった鹸化に必要な材料6を加えて石鹸7を得るための石鹸製造過程P3を設けることができる。該過程P3を経ることにより、タンパク質を含む該可溶性成分3は、これをアルカリ中和処理して廃液とする必要なく、石鹸7の製造に用いることができる。
【0019】
図において本発明処理方法では、分離された不溶性成分4に水など紙化に必要な材料8を加えて紙9を得るための紙製造過程P4を設けることができる。該過程P4を経ることにより、セルロースを含む該不溶性成分4は、これを廃棄処分する必要なく、紙9の製造に用いることができる。
【0020】
このようにして、本発明のオカラ処理方法を用いることにより、オカラ1由来のタンパク質と、アルカリと、油脂とを用いて(P3)なるオカラ製石鹸7を得ることができる。これはすなわち、オカラ1をアルカリ水溶液5により水熱処理(P1)して得られるタンパク質または可溶性成分(3)と、アルカリ・油脂(6)とを用いてなるオカラ製石鹸7である。
【0021】
また、上述のようにしてオカラ1をアルカリ水溶液5により水熱処理(P1)して得られるセルロースまたは不溶性成分(4)を抄紙(P4)してなる紙9が得られ、これを用いた紙製品と、上記のオカラ製石鹸7とから、オカラを完全利用してなるオカラ製石鹸セット10を構成することができる。紙製品としては、たとえば石鹸7自体の包装、外箱(パッケージ)、内包する説明書用紙等が可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1 タンパク質等とセルロースの分離条件>
200ccテフロン容器に2%水酸化ナトリウム水溶液を100ccとその中に含水率75%のオカラ10g、15g、20g、30gを入れ、それぞれ1時間、2時間、4時間水熱処理し、ろ過後(二倍量にてろ過)、ろ過残分を乾燥、重量を測定し、分離条件の比較検討を行った。
【0023】
図2は、各オカラ投入量のろ過残分と水熱処理時間との関係を示したグラフである。30gに関しては、膨潤が激しく処理が困難であると考えられるため、現処理条件でのオカラ投入上限は20gとした。各条件とも1時間では分離が不充分であったが、4時間の処理でろ過残分が21%程度を示し、オカラ中(乾燥重量)のセルロースは18%程度であるので、おおむねタンパク質等とセルロースが分離されたことが確認できた。
【0024】
<実施例2 水熱処理によって分離されたろ液を原料とした石鹸>
実施例1でオカラ20g、4時間水熱処理で行ったもののろ液、水酸化ナトリウムおよび廃油を用いて、表1に示す条件で石鹸の製造を試みたところ、何ら支障なく石鹸を製造することができた。
【0025】
【表1】

【0026】
また、これらについてJISK3304(石けん試験方法)に準じてpH値の測定を行い、さらに硬化状態を確認するために、サンプルを20X10X10mm角のサイコロ状に切断し、クロスヘッドスピード1mm/minで圧縮試験を行った。
図3は、各製造条件ごとのpHおよび圧縮試験測定結果を示すグラフである。各条件において、pHは概ね10〜11台であった。また、圧縮強度は一部の製造条件では0.1MPaより小さかったものの、他では0.3MPa前後あるいは約0.4MPa程度の強度を示した。
【0027】
<実施例3 水熱処理によって分離されたセルロース分を原料とした紙>
実施例1でオカラ20g、4時間水熱処理で行ったもののろ過残分の長さを、(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置にて測定したところ、266.3μmであった。次に、その3g(絶乾状態)を250ccの水に加え、4分間フードプロセッサーにて攪拌後、紙すきした。このようにして得た紙について、JISP8113(紙および板紙-引張特性の試験方法)に準じて、その引張強さを測定したところ、米坪218.7g/m、引張強さ15.7KN/mであり、充分な強度を備えた紙を製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のオカラの処理方法、オカラ製石鹸およびオカラ製石鹸セットは上述のように構成されているため、オカラの全てを余すところなく付加価値の高い製品にすることができるものであり、オカラの処理技術として極めて有効な技術である。したがって、産業上利用価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のオカラの処理方法の構成を示すフロー図である。
【図2】各オカラ投入量のろ過残分と水熱処理時間との関係を示したグラフである。
【図3】各製造条件ごとのpHおよび圧縮試験測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…オカラ
2…水熱処理物
3…可溶性成分
4…不溶性成分
5…アルカリ水溶液
6…鹸化に必要な材料
7…石鹸
8…紙化に必要な材料
9…紙
10…オカラ製石鹸セット
P1…水熱処理過程
P2…分離過程
P3…石鹸製造過程
P4…紙製造過程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オカラをアルカリ水溶液により水熱処理し、得られる水熱処理物をタンパク質の含まれる可溶性成分と、セルロースの含まれる不溶性成分に分離する、オカラの処理方法。
【請求項2】
オカラ由来のタンパク質と、アルカリと、油脂とを用いてなるオカラ製石鹸。
【請求項3】
オカラをアルカリ水溶液により水熱処理して得られるタンパク質または可溶性成分と、アルカリと、油脂とを用いてなるオカラ製石鹸。
【請求項4】
オカラをアルカリ水溶液により水熱処理して得られるセルロースまたは不溶性成分を抄紙してなる紙を用いた紙製品と、請求項2または3に記載のオカラ製石鹸とからなる、オカラ製石鹸セット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142255(P2006−142255A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338717(P2004−338717)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591005453)青森県 (52)
【出願人】(591009004)太子食品工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】