説明

オキシグルタチオン含有水溶液

【課題】オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液について、オキシグルタチオンの安定性を向上させること。
【解決手段】オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液に、少なくとも1種の塩を配合すれば、オキシグルタチオンの安定性を向上させた水溶液を調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液であって、塩を配合することにより該水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させた水溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オキシグルタチオンは角膜内皮保護作用、水晶体透明性維持作用などを有していることが知られており、特許文献1にはオキシグルタチオンを有効成分とする角膜疾患治療用点眼液が記載されており、特許文献2にはオキシグルタチオンを有効成分とする抗白内障点眼液が記載されている。また、オキシグルタチオンを含有する水溶液は、白内障手術、硝子体手術、緑内障手術等の眼科手術時の眼灌流液および洗浄液として使用されている(非特許文献1)。
【0003】
一方で、医薬品として製品化を行う場合、その医薬組成物(特に薬剤)は経時的な変化を受けず、長期的に安定であることが必要とされる。ここで、オキシグルタチオンは、酸性領域のpHである水溶液中では安定であるが、中性領域以上のpHである水溶液中で不安定になることが知られている。特許文献1および2には、オキシグルタチオンを含有する水溶液としてオキシグルタチオン含有点眼液が記載されているが、これらはすべて点眼液のpHを酸性条件下にすることで、該点眼液中のオキシグルタチオンを安定化させ、長期保存を可能にしている(特許文献1、2)。
【0004】
このように、オキシグルタチオンを含有する水溶液のpHを酸性条件下にすることで、該水溶液中のオキシグルタチオンの長期安定性を確保している。しかし、上記いずれの文献においても、酸性水溶液中に含まれるオキシグルタチオンをさらに安定化させることについて示唆する記載はない。
【特許文献1】特開平2−193931号公報
【特許文献2】特開平2−045420号公報
【非特許文献1】日本眼科紀要,41,1093,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液であって、該水溶液中のオキシグルタチオンの安定性をさらに向上させることは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液に少なくとも1種の塩を配合することで、水溶液中のオキシグルタチオンの安定性が向上することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液であって、少なくとも1種の塩を配合することにより該水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させたオキシグルタチオン含有水溶液、
(2)該水溶液の塩の配合量が2.5〜25%(W/V)である前記(1)記載の水溶液、
(3)該水溶液の塩が塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムまたは塩化カルシウムである前記(1)記載の水溶液、
(4)該水溶液のpHが3〜6である前記(1)記載の水溶液、
(5)オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液に少なくとも1種の塩を配合することからなる、水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させる方法、に関する。
【0008】
本発明の水溶液に含まれるオキシグルタチオンの含有量は、所望の効果が認められる濃度であればよいが、好ましくは0.01〜10%(W/V)であり、より好ましくは、0.1〜1%(W/V)である。
【0009】
本発明の水溶液に配合される塩としては、水溶性の塩であって、医薬組成物に汎用されているものであればよいが、好ましくは塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0010】
本発明の水溶液のpHは酸性領域に設定すればよいが、好ましくは3〜6である。
【0011】
少なくとも1種の塩を配合することにより酸性水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させたオキシグルタチオン含有水溶液であれば、本発明に含まれる。
【0012】
本発明の水溶液は汎用されている方法によって調製することができる。本発明の水溶液を点眼液として用いる場合、必要に応じて等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤等を配合することができる。
【0013】
等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリハロース、シュクロース、ソルビトール、マンニトール等を挙げることができる。
【0014】
緩衝剤としては例えば、リン酸、リン酸塩、ホウ酸、クエン酸、酢酸、ε-アミノカプ
ロン酸、トロメタモール等を挙げることができる。
【0015】
pH調節剤としては、例えば塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0016】
安定化剤としては、例えばエデト酸、エデト酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0017】
防腐剤としては、例えば汎用のソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール等が挙げられ、これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【発明の効果】
【0018】
後述する保存安定性試験の項で詳細に説明するが、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムまたは塩化カルシウムといった塩を配合した本発明の水溶液は、塩を配合しない比較例の水溶液と比べて、明らかに優れた安定性を示すことが認められる。すなわち、少なくとも一種の塩を配合することにより、水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、保存安定性試験を実施して、本発明を詳しく説明するが、これは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
[保存安定性試験]
1.試験1
オキシグルタチオンを含有する水溶液に、塩を配合することによる該水溶液中のオキシグルタチオンの安定性への影響を調べた。
【0021】
1−1.被験溶液の調製方法
【比較例1】
【0022】
精製水80mlにオキシグルタチオン(0.45g)を加えて溶解した後水酸化ナトリウムを用いてpHを4.5に調節し、精製水を加えて全量を100mlとし透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を比較溶液1とする。
【実施例1】
【0023】
さらに塩化カルシウム(0.2g)を添加し、その他の操作は比較例1と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液1とする。
【実施例2】
【0024】
さらに塩化マグネシウム(0.25g)を添加し、その他の操作は比較例1と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液2とする。
【実施例3】
【0025】
さらに塩化ナトリウム(8.25g)を添加し、その他の操作は比較例1と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液3とする。
【実施例4】
【0026】
さらに塩化ナトリウム(8.25g)および塩化カリウム(0.48g)を添加し、その他の操作は比較例1と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液4とする。
【実施例5】
【0027】
さらに塩化ナトリウム(16.5g)および塩化カリウム(0.95g)を添加し、その他の操作は比較例1と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液5とする。
【0028】
表1に、上記操作により調製した被験溶液および比較溶液をそれぞれに示す。
【表1】

【0029】
1−2.試験方法
「1−1.水溶液の調製」で得た水溶液をガラス容器に入れて、温度70℃で7日間保存後、高速液体クロマトグラフィー法にて各容器中のオキシグルタチオンの残存率を測定した。これらの結果を図1に示す。また、オキシグルタチオンの残存率は、それぞれの保存開始時の含有量を基準(100%)として、算出した。
【0030】
1−3.考察
図1から明らかなように、塩を配合した被験溶液(本発明水溶液)は、塩を配合していない比較溶液と比べてオキシグルタチオンの残存率が高く、保存安定性に優れていることが認められた。従って、オキシグルタチオンを含有する水溶液に、塩を配合することによりオキシグルタチオンの安定性が向上することが確認された。
【0031】
2.試験2
塩を配合したオキシグルタチオン含有水溶液において、該水溶液のpHを変化させたときのオキシグルタチオンの安定性への影響を調べた。
【0032】
2−1.被験溶液の調製方法
【実施例6】
【0033】
精製水80mlにオキシグルタチオン(0.92g)、塩化ナトリウム(16.6%)、塩化カリウム(0.95%)を加えて溶解した後、精製水を加えて全量を100mlとし透明な水溶液を得た。pHは2.5であった。以下、この水溶液を被験溶液6とする。
【実施例7】
【0034】
水酸化ナトリウムを用いてpHを3.5に調節し、その他の操作は実施例6と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液7とする。
【実施例8】
【0035】
水酸化ナトリウムを用いてpHを4.5に調節し、その他の操作は実施例6と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液8とする。
【実施例9】
【0036】
水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調節し、その他の操作は実施例6と同様に行って、透明な水溶液を得た。以下、この水溶液を被験溶液9とする。
【0037】
表2に、上記操作により調製した被験溶液および比較溶液をそれぞれに示す。
【表2】

【0038】
2−2.試験方法
「2−1.水溶液の調製」で得た水溶液をガラス容器に入れて、温度40℃で3ヶ月間保存後、高速液体クロマトグラフィー法にて各容器中のオキシグルタチオンの残存率を測定した。これらの結果を図2に示す。また、オキシグルタチオンの残存率は、それぞれの保存開始時の含有量を基準(100%)として、算出した。
【0039】
2−3.考察
図2の結果から、塩を配合して水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させた被験溶液(本発明水溶液)は、pHが3.5〜5.5において特に保存安定性に優れていることが認められ、また、pHが4.5で最も安定であることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】オキシグルタチオンの残存率を示すグラフである。
【図2】オキシグルタチオンの残存率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液であって、少なくとも1種の塩を配合することにより該水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させたオキシグルタチオン含有水溶液。
【請求項2】
該水溶液の塩の配合量が2.5〜25%(W/V)である請求項1記載の水溶液。
【請求項3】
該水溶液の塩が塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムまたは塩化カルシウムである請求項1記載の水溶液。
【請求項4】
該水溶液のpHが3〜6である請求項1記載の水溶液。
【請求項5】
オキシグルタチオンを含有する酸性の水溶液に少なくとも1種の塩を配合することからなる、水溶液中のオキシグルタチオンの安定性を向上させる方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−16005(P2007−16005A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201563(P2005−201563)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】