説明

オゾン検出センサ

【課題】オゾン濃度を精度よく検出できるコンパクトなオゾン検出センサを提供する。
【解決手段】透光性基板4a、4bの対の対向間隙5にオゾン含有流体Oを装入する測定セル4と、一方の基板4aに紫外光UVを照射する光源20と、他方の基板4bの透光側に設けたドーピング又は真性欠陥により紫外光感度を増大させたP型又はN型の所定膜厚dの酸化亜鉛(ZnO)の薄膜10と、薄膜10に一定電圧を印加する電極対11、12と、電極対11、12間の電流を検知する計測回路16とを備え、酸化亜鉛薄膜10の所定膜厚dをA領域紫外光に対するC領域紫外光の感度比率(UVC/UVA)が所定比率以上となるように選択する。好ましくは、酸化亜鉛薄膜10の所定膜厚dを、電極対11、12間の電流の時定数が所定値以下となる範囲内においてA領域紫外光に対するC領域紫外光の感度比率(UVC/UVA)が最大となるように選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオゾン検出センサに関し、とくに酸化亜鉛薄膜を用いてオゾン含有流体中のオゾン濃度を検出するオゾン検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
オゾン(O)は強い酸化力を有しており、食品や調理機器の殺菌・洗浄、居室や排水処理設備の浄化・脱臭、衣服等の漂白などの様々な民生・工業用途において気相又は液相として広く利用されている。しかし、不適切な濃度で利用すると人体への悪影響や機器・設備の劣化を招くおそれがあるため、適切なオゾン濃度(例えば0.1ppm以下)で利用することが求められる。また最近は、オゾンを利用する場合だけでなく、環境保全や労働衛生等を目的として自然環境や職場環境のオゾン濃度を管理することが求められる場合もある。このような気相又は液相中のオゾン濃度を検出するため、オゾンの極大吸収帯が紫外光の特定波長領域(254nm付近)にあるという性質を利用して、紫外線吸収方式のオゾン濃度検出装置(以下、オゾン検出センサということがある)が開発されている(非特許文献1及び特許文献1参照)。
【0003】
例えば特許文献1は、図8に示すように、中空筒状の測定セル33及び標準セル34をそれぞれランプ31(例えばオゾン極大吸収帯を中心とする単色光を出力する低圧水銀ランプ等)と対向させて配置し、各セル33及び34の中空部にそれぞれオゾン水O及び標準水Rを流入させつつ透光窓33A、34Aからランプ光を中空部内に照射し、その中空部の透過光の光量を各セル33及び34に設けた検出センサ35、46(例えばオゾン極大吸収帯付近に検出感度を有するフォトダイオード、光電管、光電子倍増管等)で検出してオゾン水O中のオゾン濃度を検出する装置を開示している。具体的には、対象セル34の検出センサ46の光量出力値を比較増幅回路48に入力し、比較増幅回路48によって検出センサ46の出力値が常に一定に保持されるようにランプ31の電源32の電圧を制御する。また、検出センサ35の出力値をオゾン濃度演算処理回路36に入力し、演算処理回路36によって検出センサ35の出力値をオゾン水O中のオゾン濃度に変換して表示器44に出力する。対象セル34側で光量が一定となるようにランプ31を制御することにより、測定セル33側でランプの劣化等の影響を避けながらオゾン濃度を精度よく検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS−B−7957「大気中のオゾン及びオキシダントの自動計測器」日本規格協会、2006年3月、インターネット<URL:http://www.jisc.go.jp/app/pager?id=57773>
【0005】
【特許文献1】特開2001−056292号公報
【特許文献2】特開2003−254957号公報
【特許文献3】特開2008−039665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の紫外線吸収方式のオゾン検出センサは、図8のようにフォトダイオード等の比較的大型の検出センサ35、46を組み込む必要がある。また、検出センサ35、46として用いるフォトダイオード等がオゾン極大吸収帯以外の波長領域(オゾン極大吸収帯より長い波長の可視光等)にも感応するので、図示例のように不必要な光を遮断する光学フィルター33B、34Bも併せて組み込む必要がある。このため、オゾン濃度の検出精度は高いものの、構造が複雑でサイズの小型化を図ることが難しい問題点がある。紫外線吸収以外の方式、例えばオゾンと他の化学物質との反応物質の化学発光を利用してオゾン濃度を検出する化学発光方式(非特許文献1及び特許文献2参照)とすることでオゾン検出センサの小型化を図ることも考えられるが、化学発光方式では紫外線吸収方式のような高精度なオゾン濃度の検出は難しく、またオゾンと反応済みの化学物質を交換しなければならないので計測の繰り返しが難しくなる。様々な環境や機器等で使用されるオゾンの濃度検出に適用するためには、携帯可能又は機器等の内部に取り付け可能な小型サイズで精度よくオゾン濃度を検出できるオゾン検出センサを開発する必要がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、オゾン濃度を精度よく検出できるコンパクトなオゾン検出センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、酸化亜鉛(ZnO)薄膜の紫外光照射による抵抗値の変化(光導電効果)を利用した紫外線検出素子に注目した。例えば特許文献3は、ドーピング又は真性欠陥によって紫外光に対する感度を高めたP型又はN型半導体の酸化亜鉛薄膜を用い、可視光に対して実質的に感応しない(抵抗値が変化しにくい)紫外線検出素子を提案している。このような薄膜状の紫外線検出素子を、例えば図8の検出センサ35、46に代えて用いれば、オゾン検出センサにおいて小型化の障害となる光学フィルター33B、34Bを省略することができる。
【0009】
ただし、特許文献3の開示する紫外線検出素子は紫外光のA領域(波長400〜315nm。以下、UVA領域ということがある)に極大感度周波数(光感度スペクトルの極大周波数)を有しており、オゾン極大吸収帯(254nm付近)を含むC領域(波長280nm未満、以下、UVC領域ということがある)に対する感度は比較的小さい。ドーピング量又は真性欠陥量を制御することで酸化亜鉛薄膜の極大感度周波数を多少移行させることはできるが(特許文献3参照)、極大感度周波数をUVA領域からUVC領域にまで移行させることは困難である。本発明者は、図5に示すように、UVA領域に極大感度周波数を有する酸化亜鉛薄膜であっても、その膜厚を制御することでUVA領域に対するUVC領域の紫外光感度の比率が調整可能であることを実験的に見出した。UVA領域に対するUVC領域の感度比率の高い膜厚の酸化亜鉛薄膜を用いれば、UVC領域に極大吸収帯を有するオゾンの濃度の検出精度を高めることが期待できる。本発明は、この知見に基づく研究開発の結果、完成に至ったものである。
【0010】
図1の実施例を参照するに、本発明によるオゾン検出センサは、透光性基板4a、4bの対の対向間隙5にオゾン含有流体Oを充填する測定セル4、測定セル4の一方の基板4a上に紫外光UVを照射する光源20、測定セル4の他方の基板4bの透光側に設けたドーピング又は真性欠陥により紫外光感度を増大させたP型又はN型の所定膜厚dの酸化亜鉛薄膜10、薄膜10に一定電圧を印加する電極対11、12、及び電極対11、12間の電流を検知する計測回路16を備えてなり、薄膜10の所定膜厚dをA領域紫外光に対するC領域紫外光の感度比率(UVC/UVA)が所定比率以上となるように選択したものである。
【0011】
好ましくは、酸化亜鉛薄膜10の所定膜厚dを、電極対11、12間の電流の時定数が所定値以下となる範囲内においてA領域紫外光に対するC領域紫外光の感度比率(UVC/UVA)が最大となるように選択する。酸化亜鉛薄膜10は、例えば図2(A)に示すように測定セル4の他方の基板4b上に接触させて設け、電極対11、12をその薄膜10上に接触させて設けることができる。或いは図2(C)に示すように、電極対11、12を測定セル4の他方の基板4b上に接触させて設け、酸化亜鉛薄膜10をその電極11、12上に接触させて設けてもよい。
【0012】
酸化亜鉛薄膜10の紫外光感度は、例えばB、Al、Ga、In、Zn、H、I族元素、又はIV族元素をドーピングすることにより増大させることができる。酸化亜鉛薄膜10はP型又はN型の何れの半導体膜としてもよいが、例えば図3(C)に示すように、P型とN型とが絶縁層26を介して積層されたPIN型薄膜とし、電極対11、12をそのPIN型薄膜のP型面とN型面とに分けて配置することができる。
【0013】
望ましくは、図4に示すように、透光性基板7a、7bの対の対向間隙8に非オゾン含有流体Rを装填する対照セル7を設け、光源20により測定セル4及び対照セル7の一方の基板4a、7a上にそれぞれ紫外光UVを照射し、酸化亜鉛薄膜10、13及び電極対(10、11)、(14、15)を測定セル4及び対照セル7の他方の基板4b、7b上にそれぞれ設け、計測回路16により測定セル4の電極対10、11間と参照セル7の電極対14、15間との電流差を検知する。
【0014】
測定セル4及び対照セル7は、それぞれオゾン含有流体O又は非オゾン含有流体Rが充填可能な中空部5とその中空部5を介して対向する透光性基板対4a、4bとを有する筒状セル2とすることができる。また、測定セル4及び対照セル7を一体型の筒状セル2とすることができ、例えば図4に示すように、中間隔壁3により中空部5が二通路に仕切られた単一の筒状セル2とすることができる。酸化亜鉛薄膜13の紫外光感度も、例えばB、Al、Ga、In、Zn、H、I族元素、又はIV族元素をドーピングすることにより増大させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のオゾン検出センサは、測定セル4に間隙5を介して対向する一対の透光性基板4a、4bを設け、一方の透光性基板4bの外側(間隙5と反対側)にUVA領域に対するUVC領域の感度比率(UVC/UVA)が所定比率以上となる膜厚dの酸化亜鉛薄膜10を設けると共にその薄膜10に一定電圧を印加する電極対11、12を設け、他方の透光性基板4aの外側(間隙5と反対側)から紫外光UVを照射しつつ両基板4a、4bの対向間隙5にオゾン含有流体Oを充填し、対向間隙5を透過した紫外光UVの照射による酸化亜鉛薄膜10の抵抗値の変化(光導電効果)を電極対11、12に接続した計測回路16により検知してオゾン含有流体O中のオゾン濃度を検出するので、次の効果を奏する。
【0016】
(イ)極めて薄い酸化亜鉛薄膜10を用いてオゾン濃度を検出するので、実質的にオゾン含有流体Oを充填する測定セル4と光源20とを格納できる大きさの極めてコンパクトなオゾン検出センサとすることができる。
(ロ)また、可視光に対して実質的に感応しない酸化亜鉛薄膜10を用いるので、可視光を遮断する光学フィルター等を用いる必要がなく、オゾン検出センサの小型化と共に構造の簡単化を図ることができる。
(ハ)酸化亜鉛薄膜10の膜厚dの選択によってUVA領域に対するUVC領域の感度比率(UVC/UVA)を所定比率以上とするので、オゾン極大吸収帯(254nm付近)に生じる電流変化、すなわちオゾン含有流体中のオゾン濃度を十分な精度で検出することができる。
【0017】
(ニ)酸化亜鉛薄膜10の膜厚dを大きくすると酸化亜鉛薄膜10に流れる電流の時定数(電流が最大値の63%に立ち上がるまでの時間)が長くなり、結果的にオゾン濃度の検出が遅延することにもなるが、許容される時定数が得られる範囲内においてUVA領域に対するUVC領域の感度比率が最大となるように酸化亜鉛薄膜10の膜厚dを選択することで、オゾン濃度の検出時間及び精度を共に最適化することができる。
(ホ)非オゾン含有流体Rを充填する対照セル7を設け、測定セル4と参照セル7との電流差によりオゾン含有流体Oのオゾン濃度を検出することにより、光源20の劣化等に起因する検出誤差を防止し、オゾン濃度の検出精度の更なる向上を図ることができる。
(ヘ)また、中間隔壁3により中空部5が二通路に仕切られた単一の筒状セル2を用いて測定セル4及び対照セル7とすることにより、対照セル7の付加に伴うオゾン検出センサの大型化を避けつつ検出精度の高いオゾン検出センサとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【図1】本発明によるオゾン検出センサの一実施例の説明図である。
【図2】オゾン検出センサにおける酸化亜鉛薄膜10の配置を示す他の実施例の説明図である。
【図3】酸化亜鉛薄膜10に対する電極対11、12の配置を示す実施例の説明図である。
【図4】本発明によるオゾン検出センサの他の実施例の説明図である。
【図5】酸化亜鉛薄膜の膜厚に対する周波数別の紫外光検出感度(検出電流変化)の相違を示すグラフの一例である。
【図6】酸化亜鉛薄膜の膜厚と、UVA領域に対するUVC領域の光感度比率(UVC/UVA)との関係を示すグラフの一例である。
【図7】酸化亜鉛薄膜の膜厚と、紫外光照射時に酸化亜鉛薄膜に流れる電流の時定数との関係を示すグラフである。
【図8】従来のオゾン濃度検出装置の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明のオゾン検出センサの一実施例を示す。図示例のオゾン検出センサ1は、中空部5を有する筒状の測定セル4と、紫外光UVを発光する光源20とを有する。図示例の測定セル4は、中空部5を介して対向する周壁の少なくとも一部分を透光性基板対4a、4bとすると共に、中空部5に外部と連通する送入開口6a、6bを設け、基板対4a、4bの対向間隙5(すなわち中空部5)にオゾン含有流体Oを充填可能としたものである。光源20は、対向間隙5内に紫外光UVが入射されるように、測定セル4の一方の透光性基板4aの外面と対向させて配置する。また、図示例の測定セル4は、他方の透光性基板4bの透光側(外面側)に設けた所定膜厚dのP型又はN型の酸化亜鉛薄膜10と、その薄膜10に一定電圧を印加する電極対11、12と、その電極対11、12の間の酸化亜鉛薄膜10に流れる光電流(酸化亜鉛薄膜10の抵抗値)を検知する計測回路16とを有する。
【0020】
測定セル4は、例えば透明なガラス(石英ガラス、耐熱ガラス、強化ガラス等)又は透明なプラスチック(ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等)製の中空筒状セル2とし、その筒状セル2の対向する一対の壁面を透光性基板4a、4bとすることができる。ただし、透光性基板4a、4bは対向壁面の少なくとも一部分に設ければ足り、他の部分は非透光壁面4cとしてもよい。また、本発明で用いる測定セル4は筒状セル製のものに限定されず、透光性基板4a、4bの対向間隙5にオゾン含有流体Oを充填できるものであれば足りる。例えば、少なくとも一部分が透明なガラス又はプラスチック製の基板4a、4bを所定間隙5で対向させて保持し、両基板4a、4bの周縁から対向間隙5にオゾン含有流体Oを送入して充填する測定セル4としてもよい。必要に応じて、対向間隙5にオゾン含有流体Oを導入するための送入又は吸引装置(ポンプ等)を測定セル4に含めてもよい。
【0021】
光源20は、例えばオゾン極大吸収帯(254nm付近)に発光中心を有する図8と同様の低圧水銀ランプ等とすることができる。ただし、後述するよう本発明では酸化亜鉛薄膜10のUVA領域に対するUVC領域の紫外光感度比率(UVC/UVA)を大きくすることでオゾン極大吸収帯以外の影響を小さく抑えることができるので、発光中心がオゾン極大吸収帯以外の紫外線ランプ等を使用することも可能である。光源20の選択の幅を広げることにより、オゾン検出センサ1の小型化を図ることが期待できる。
【0022】
酸化亜鉛薄膜10は、例えばB、Al、Ga、In、Zn、H、I族元素(アルカリ金属元素)、又はIV族元素(Si、Ge等)より選択した1以上の不純物のドーピングにより紫外光感度を増大させた酸化亜鉛、又は酸素原子を欠落させた真性欠陥により紫外光感度を増大させた無添加の酸化亜鉛を、例えば適当な基盤(例えばガラス又はプラスチック製)上に所定膜厚dで積層することにより形成することができる。酸化亜鉛は可視光領域にも感度を有しているが、例えばキャリア濃度が10×1018cm−3以上(好ましくは1×1019cm−3以上、更に好ましくは1×1020cm−3以上)となるようにドーピング量又は酸素原子の欠落量を制御することにより、不純物バンドを形成して極大周波数帯を低波長(高エネルギー)側に移行させ、可視光に対して実質上透明な酸化亜鉛薄膜10とすることができる。好ましくは、不純物としてGaをドーピングした酸化亜鉛薄膜10を用いる。
【0023】
酸化亜鉛薄膜10の膜厚dは、薄膜10のUVA領域に対するUVC領域の紫外光感度比率(UVC/UVA)が所定比率以上となるように選択する。酸化亜鉛薄膜10によってオゾン濃度を精度よく検出するためには、オゾン極大吸収帯(254nm付近)における感度(光導電効果)の高い薄膜10とすることが望ましい。しかし、図5に示すように、酸化亜鉛薄膜10に流れる光電流(感度)の極大周波数はUVA領域(350〜360nm付近)に存在しており、オゾン極大吸収帯における光電流(感度)は相対的に小さい。図5は、膜厚d=5nm、65nm、120nm、205nmの酸化亜鉛薄膜10にそれぞれ周波数掃引しながら紫外光UVを照射し、各薄膜10に流れる光電流(任意単位)を周波数別に測定した実験結果(光感度スペクトル)を示している。例えば膜厚d=5nmの薄膜10では、オゾン極大吸収帯の感度が極めて小さいため、オゾン濃度の検出誤差が大きくなりうる。他方で図5は、酸化亜鉛薄膜10の極大感度周波数の光電流(感度)は膜厚dに拘わらずほぼ一定であるが、オゾン極大吸収帯を含むUVC領域における光電流(感度)は膜厚dに依存して増大することを示している。酸化亜鉛薄膜10の膜厚dを選択してUVA領域に対するUVC領域の光感度比率を大きくすれば、オゾン極大吸収帯に生じる光電流変化の検出精度を高め、オゾン濃度の検出に必要な精度を確保することができる。
【0024】
図6は、図5の実験結果に基づき、酸化亜鉛薄膜10の膜厚dに依存するUVA領域の光電流(感度)に対するUVC領域の光電流(感度)の比率(UVC/UVA)の変化をプロットしたものである。図6のグラフは、酸化亜鉛薄膜10の光感度比率(UVC/UVA)が薄膜10の膜厚dとほぼ比例的関係にあること、すなわち薄膜10の膜厚dの選択によって光感度比率が調整できることを示している。従って、要求されるオゾン濃度の検出精度に応じて光感度比率を決定し、その比率以上となるような膜厚dを図6に基づいて選択することにより、要求される精度でオゾン濃度を検出できる酸化亜鉛薄膜10とすることができる。例えば、光感度比率=0.05〜0.1で充分な精度が得られる場合は酸化亜鉛薄膜10の膜厚dとして25〜50nmを選択し、更に高い精度が要求される場合は光感度比率=0.15〜0.2となるような膜厚d=50〜80nmを選択する。なお、図6に示す光感度比率(UVC/UVA)と膜厚dとの比例係数その他の具体的数値は、酸化亜鉛薄膜10の製膜条件やドーピング量等によって相違するので、製膜条件やドーピング量等を決定したうえで図6と同様のグラフを実験的に作成して決定することが望ましい。
【0025】
ただし、本発明者の実験によれば、酸化亜鉛薄膜10の膜厚dが大きくなると、紫外線UVの照射時に酸化亜鉛薄膜10の光電流の時定数(光電流が最大値の63%に立ち上がるまでの時間)が長くなり、結果として紫外光UVの照射時に薄膜10に流れる光電流の検知(オゾン濃度の検出)が遅延することになる。図7のグラフは、酸化亜鉛薄膜10の膜厚dを変えながら、波長350nmの紫外光照射時の検知電流の時定数を測定した実験結果を示す。図7から分かるように、薄膜10が膜厚d=10nm程度であれば光電流の時定数が50秒程度であるのに対し、膜厚d=20nm程度になると時定数が200秒程度となり、膜厚d=50nm程度になると時定数が400秒程度と長くなる。
【0026】
従って、オゾン濃度の迅速な検出が要求される場合は、図6に基づいて必要な検出精度が得られる膜厚dの範囲を決定すると共に、図7に基づいて許容される時定数が得られる膜厚dの範囲を決定し、その両範囲を満足するように膜厚dを選択する。好ましくは、許容される時定数が得られる膜厚dの範囲内において、UVA領域に対するUVC領域の光感度比率(UVC/UVA)が最大となる膜厚dを選択することにより、オゾン濃度の検出時間及び精度を共に最適化する。例えば、オゾン濃度を250秒程度で検出する必要がある場合は、図7において膜厚dを28nm程度以下とする必要があるので、図6に基づきその範囲内で光感度比率が最大となる膜厚d=28nmを選択する。なお、図7に示す時定数と膜厚dとの比例係数その他の具体的数値も、酸化亜鉛薄膜10の製膜条件やドーピング量等によって相違するので、製膜条件やドーピング量等を決定したうえで実験的に決定することが望ましい。
【0027】
電極対11、12は、上述したように膜厚dで積層した酸化亜鉛薄膜10の表面に接触させて設けることができ、例えばオーミック電極とすることができる。例えば、薄膜10の表面にオーミック性接触の得やすい金属(例えばアルミニウム、インジウム、金、銀、亜鉛、又はこれらの合金等)を蒸着することにより電極対11、12を形成する。ただし、電極対11、12はショットキー電極(MS構造)、又は図3(A)に示すように絶縁層25を介したショットキー電極(MIS構造)としてもよく、電極対11、12の片側をオーミック電極とし他方をショットキー電極としてもよい。
【0028】
なお、図1では酸化亜鉛薄膜10の片側面に電極対11、12を蒸着形成しているが、例えば図3(B)に示すように、電極対11、12を酸化亜鉛薄膜10の片側面と反対側面とに分けて形成してもよい。また、本発明ではP型又はN型の何れの酸化亜鉛薄膜10も使用可能であるが、例えば図3(C)に示すようにP型とN型とが絶縁層26を介して積層されたPIN型の酸化亜鉛薄膜10を用い、電極対11、12をそのPIN型薄膜のP型面とN型面とに分けて形成することもできる。PIN型の酸化亜鉛薄膜10を用いることで薄膜10の高速動作が可能となり、紫外線UVの照射時に生じる薄膜10の光電流の時定数を短縮することが期待できるので、上述した薄膜10の膜厚dの選択の幅を広げることができる。
【0029】
図1のオゾン検出センサは、適当な透明基盤(例えばガラス又はプラスチック製)上に所定膜厚dで積層すると共にその積層表面に電極対11、12を蒸着した酸化亜鉛薄膜10を用い、その酸化亜鉛薄膜10を測定セル4に設けた保持部材22に係止することにより、酸化亜鉛薄膜10の透明基盤を透光性基板4bの透光側と対向させて保持している。この実施例では、透光性基板4bの透過紫外光UVが透明基盤経由で酸化亜鉛薄膜10に照射され、その照射時に薄膜10に流れる電流を電極対11、12で検出する。ただし、図2(B)に示すように、酸化亜鉛薄膜10を透光性基板4bと対向させて保持し、透光性基板4bを透過した紫外光UVが酸化亜鉛薄膜10に直接照射するように保持することも可能である。
【0030】
また、図1のように予め基盤上に積層された酸化亜鉛薄膜1を用いるのではなく、図2(A)に示すように、酸化亜鉛薄膜10を測定セル4の透光性基板4b上に直接積層することもできる。透光性基板4b上への酸化亜鉛薄膜10の製膜方法は、透光性基板4上に製膜可能な方法であればとくに制限はないが、好ましくは真空蒸発させた金属蒸気(亜鉛蒸気又は酸化亜鉛蒸気)と反応ガス(酸素ガス及び/又は不純物ガス)とのプラズマ支援反応により透光性基板4bの表面上に酸化亜鉛薄膜10を成長させるイオンプレーティング法を用いる。イオンプレーティング法は、基板4bの温度上昇が少なく、200℃以下の低温においても密着強度の高い薄膜10を成長させることができるので、高温に弱いプラスチック製基板4b上にも酸化亜鉛薄膜10を形成できる利点がある。
【0031】
或いは、図2(C)に示すように、電極対11、12を測定セル4の透光性基板4b上に接触させて設け、適当な基盤(非透明なものを含む)上に積層した酸化亜鉛薄膜10をその電極11、12上に接触させて配置することも可能である。この実施例では、透光性基板4b上に一対の金属(例えば金等)23、24を蒸着し、その金属対23、24と酸化亜鉛薄膜10上に蒸着した電極対11、12とを接着させることにより、酸化亜鉛薄膜10を透光性基板4bの透光側に保持している。図2(A)及び図2(C)のように透光性基板4bと酸化亜鉛薄膜10又は電極対11、12とを接触させることにより、図1及び図2(B)のような保持部材22を省略し、オゾン検出センサの一層のコンパクト化を図ることができる。
【0032】
図1又は図2のオゾン検出センサ1を用いてオゾン濃度の検出する場合は、センサ1の対向間隙5に濃度検出対象のオゾン含有流体Oを充填したうえで、酸化亜鉛薄膜10に電極対11、12を介して一定電圧を印加しつつ、センサ1の透光性基板4aの外面に光源20からUVC領域の紫外光UV(好ましくは、254nm付近のオゾン極大吸収帯を中心とする紫外光UV)を入射し、対向間隙5の透過光の照射に応じて薄膜10の電極対11、12の間に流れる電流値(酸化亜鉛薄膜10の抵抗値)を計測回路16によって検知する。
【0033】
図1の実施例では、計測回路16にコンピュータ等の演算装置18を接続し、計測回路16で検知した電流値を演算装置18に入力してオゾン含有流体O中のオゾン濃度を検出する。演算装置18には、例えばオゾン濃度が既知のオゾン含有流体Oを用いた予備実験により、UVC領域の紫外光UVに対する計測回路16の検知電流値とオゾン含有流体Oのオゾン濃度との関係式(テーブル等)18aを予め求めて記憶しておくことができる。図示例の演算手段18は、計測回路16から入力された検知電流値を関係式18aに基づきオゾン濃度に変換し、変換後のオゾン濃度を例えばディスプレイ等の表示装置19に出力する。
【0034】
或いは、図1に点線で示すように、オゾン検出センサ1にUVC領域の紫外光UVを照射する光源20と共にUVA領域の紫外光UVを照射する光源21を含め、光源20、21から透光性基板4a、4bを介してUVA領域及びUVC領域の紫外光を酸化亜鉛薄膜10に順次照射し、両紫外光の照射に応じて酸化亜鉛薄膜10の電極対11、12の間に流れる電流値の比を計測回路16(又は演算装置18)により検知することも可能である。この場合は、オゾン濃度が既知のオゾン含有流体Oを用いた予備実験により、UVA領域及びUVC領域の紫外光照射による計測回路16の検知電流値の比とオゾン含有流体Oのオゾン濃度との関係式18aを予め求めて演算装置18に記憶しておき、計測回路16で検知された電流比から関係式18aに基づきオゾン濃度を求める。
【0035】
本発明のオゾン検出センサ1は、可視光に対して実質上透明な酸化亜鉛薄膜10を用いるので光学フィルター等を組み込む必要がなく、また測定セル4とオゾン濃度を検出する酸化亜鉛薄膜10とを一体的に構成することができるので、図8のような従来のオゾン検出センサに比して構造が簡単でコンパクトな大きさとすることができる。また、UVA領域に対するUVC領域の感度比率(UVC/UVA)が大きくなるように酸化亜鉛薄膜10の膜厚dを選択しているので、UVC領域のオゾン極大吸収帯に生じる光電流の変化を十分な精度で検知し、オゾン濃度を十分な精度で検出できる。
【0036】
こうして本発明の目的である「オゾン濃度を精度よく検出できるコンパクトなオゾン検出センサ」の提供を達成することができる。
【実施例1】
【0037】
図4は、測定セル4と共に対照セル7を設けた本発明のオゾン検出センサ1の他の実施例を示す。対照セル7は、透光性基板7a、7bの対向間隙8に非オゾン含有流体Rを装填するものであり、例えば図1の測定セル4と同様の中空部5を有する筒状セル2とすることができる。対照セル7の一方の透光性基板7b上には、測定セル4と同様に、酸化亜鉛薄膜13を同じ膜厚dで積層すると共に、その薄膜13に一定電圧を印加する電極対14、15を設ける。また、光源20から測定セル4及び対照セル7の一方の基板4a、7a上にそれぞれ紫外光UVを照射し、計測回路16によって測定セル4の電極対10、11間の酸化亜鉛薄膜10に流れる電流と参照セル7の電極対14、15間の酸化亜鉛薄膜13に流れる電流との電流差を検知する。
【0038】
図1のように測定セル4のみでオゾン検出センサ1を構成した場合は、例えば光源20mの劣化や測定セル4の透光性基板4a、4bの汚れ等によってオゾン濃度に検出誤差が生じるおそれがある。これに対して図4の実施例では、測定セル4で検知された光電流と対照セル7で検知された光電流とを比較することにより、上述した図8の場合と同様に、光源20の劣化や透光性基板4、7の汚れ等の影響を避けることにより検出誤差を防止し、オゾン濃度の検出精度の劣化を防ぐことができる。なお、図示例では単独の光源20から測定セル4と対照セル7とにそれぞれ紫外光UVを照射しているが、測定セル4と対照セル7とにそれぞれ別々の光源20を設けてもよい。また必要に応じて、光源20と測定セル4及び対照セル7との間に適当な光学系を設けることができる。図8のように単独の光源20を挟んで両側に測定セル4と対照セル7とを配置することも可能である。
【0039】
また図4(B)に示すように、中間隔壁3により中空部5が二通路に仕切られた単一の筒状セル2を用い、その一方及び他方の通路をそれぞれ測定セル4及び対照セル7とすることにより、測定セル4及び対照セル7を一体型のものとすることができる。図4のように単一の筒状セル2を用いて測定セル4及び対照セル7を一体型とすることにより、対照セル7を付加に伴うオゾン検出センサ1の大型化を避け、図1の大きさと実質上同程度のコンパクトなオゾン検出センサ1とすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1…オゾン検出センサ 2…筒状セル
3…閉塞部 4…測定セル
4a、4b…透光性基板(透光壁) 4c…非透光壁
5…対向間隙(中空部) 6、6a、6b…開口
7…対照セル 7a、7b…透光性基板(透光壁)
8…対向間隙(中空部) 9、9a…開口
10…酸化亜鉛薄膜 11、12…電極
13…酸化亜鉛薄膜 14、15…電極
16…計測回路 17…計測回路(アンプ)
18…演算装置 19…表示装置
20、21…光源 22…保持部材
23、24…接触電極 25、26…絶縁層
31…水銀ランプ 32…高圧発生電源
33…測定セル 33A…透光窓
33B…光学フィルター 34…標準セル
34A…透光窓 34B…光学フィルター
35…検出センサ(フォトダイオード) 36…処理回路
37…演算回路 38…プリアンプ
39…比較増幅器 40…比較増幅器
41…基準設定回路 42…基準設定回路
43…カウンタ 44…表示器
45…タイマ 46…検出センサ
47…プリアンプ 48…比較増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板の対の対向間隙にオゾン含有流体を充填する測定セル、前記測定セルの一方の基板上に紫外光を照射する光源、前記測定セルの他方の基板の透光側に設けたドーピング又は真性欠陥により紫外光感度を増大させたP型又はN型の所定膜厚の酸化亜鉛薄膜、前記薄膜に一定電圧を印加する電極対、及び前記電極対間の電流を検知する計測回路を備えてなり、前記薄膜の所定膜厚をA領域紫外光に対するC領域紫外光の感度比率が所定比率以上となるように選択してなるオゾン検出センサ。
【請求項2】
請求項1の検出センサにおいて、前記酸化亜鉛薄膜の所定膜厚を、前記電極対間の電流の時定数が所定値以下となる範囲内においてA領域紫外光に対するC領域紫外光の感度比率が最大となるように選択してなるオゾン検出センサ。
【請求項3】
請求項1又は2の検出センサにおいて、前記酸化亜鉛薄膜を測定セルの他方の基板上に接触させ、前記電極対をその薄膜上に接触させて設けてなるオゾン検出センサ。
【請求項4】
請求項1又は2の検出センサにおいて、前記電極対を測定セルの他方の基板上に接触させ、前記酸化亜鉛薄膜をその電極上に接触させて設けてなるオゾン検出センサ。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの検出センサにおいて、前記酸化亜鉛薄膜をP型とN型とが絶縁層を介して積層されたPIN型薄膜とし、前記電極対をPIN型薄膜のP型面とN型面とに分けて配置してなるオゾン検出センサ。
【請求項6】
請求項1から5の何れかの検出センサにおいて、前記光源によりA領域紫外光とC領域紫外光とを順次照射し、前記計測回路により両紫外光照射時の電流比を検知してなるオゾン検出センサ。
【請求項7】
請求項1から5の何れかの検出センサにおいて、透光性基板の対の対向間隙に非オゾン含有流体を充填する対照セルを設け、前記光源により測定セル及び対照セルの一方の基板上にそれぞれ紫外光を照射し、前記酸化亜鉛薄膜及び電極対を測定セル及び対照セルの他方の基板上にそれぞれ設け、前記計測回路により測定セルの電極対間と参照セルの電極対間との電流差を検知してなるオゾン検出センサ。
【請求項8】
請求項7の検出センサにおいて、前記測定セル及び対照セルをそれぞれオゾン又は非オゾン含有流体が充填可能な中空部とその中空部を介して対向する透光性基板対とを有する筒状セルとしてなるオゾン検出センサ。
【請求項9】
請求項8の検出センサにおいて、前記測定セル及び対照セルを、中間隔壁により中空部が二通路に仕切られた単一の筒状セルとしてなるオゾン検出センサ。
【請求項10】
請求項7から9の何れかの検出センサにおいて、前記光源によりA領域紫外光とC領域紫外光とを順次照射し、前記計測回路により両紫外光照射時の電流差の比を検知してなるオゾン検出センサ。
【請求項11】
請求項1から10の何れかの検出センサにおいて、前記酸化亜鉛をB、Al、Ga、In、Zn、H、I族元素、又はIV族元素がドーピングされたものとしてなるオゾン検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169875(P2011−169875A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36678(P2010−36678)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(595175264)ヘンミ計算尺株式会社 (4)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】