説明

オルチプラズの製造方法

オルチプラズの製造方法を提供する。本方法は、メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネートをトルエンとキシレンとの混合溶媒の存在下で五硫化リンと反応させ、続いて再結晶させる段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記化学式1のオルチプラズの製造方法に関する:
【化1】

【背景技術】
【0002】
前記化学式1の構造を有するオルチプラズは本来、1980年にロンプラン(Rhone-Poulenc)社で、住血吸虫(blood flukes)という寄生虫を除去する抗住血吸虫症薬物として開発された。しかし、臨床試験を進めていたところ、従来、寄生虫感染の治療に使用されていたプラジカンテルに比べて、優れた効能を持たないことが明らかになり、開発が中断されていた。
【0003】
その後、1990年代になり、オルチプラズの新しい作用メカニズムを研究した結果、オルチプラズがHIV増殖抑制(Prochaskaら、1995)、癌の予防及び治療、並びにHBV転写抑制(Chiら、1998)に効能があることが発表された。
【0004】
オルチプラズの製造方法が、1978年に公開されたロンプラン社の米国特許第4,110,450号明細書に。そこには、二種のオルチプラズの製造法が開示されているが、そのうちの1つの製造方法は、下記スキーム2のようである。
スキーム2

【0005】
前記製造方法では、オルチプラズを合成するのに、18時間から24時間かかり、時間が長すぎる。また、エチルピラジン-2-カルボキシレートとエチルプロピオネートとのクライゼン縮合反応後には、カラムを利用して分離精製が行われる。さらに、前記スキーム2の二段階反応後に得られる総収率が4.2%と量産するには低すぎる。
【0006】
前記特許に開示されたオルチプラズの他の製造方法は下記スキーム3のようである。
スキーム3

【0007】
前記スキーム3による製造方法では、スキーム2の方法と比べて反応段階が1段階さらに増える。スキーム2による方法と同様に総収率が量産するには低すぎる。
【0008】
さらに他のオルチプラズの製造方法として、2001年8月に公開されたWO01/09118号に記載されたオルチプラズの製造方法は次のスキーム4の通りである。
スキーム4

【0009】
前記方法では、クライゼン縮合反応時に、塩基として水素化ナトリウムを使用するため、反応中に水素が発生して爆発の危険性がある。また、オイルに分散されている水素化ナトリウムを使用するため、オイルを除去する前処理が必要である。特に、ジチオールチオン環の形成においては、過剰量の五硫化リン(P2S5)が、深刻な環境汚染を引き起こす可能性がある。それだけではなく、前記の製造方法と同様に、長い反応時間が必要である。
【0010】
オルチプラズの製造方法において、オルチプラズの総収率に影響を及ぼす段階は、強塩基下でのクライゼン縮合反応段階、及び五硫化リンを使用してジチオールチオン環を形成する段階である。
【0011】
3-オキソエステル化合物のジチオールチオン環化する反応において、五硫化リン、Lawesson試薬、イオウ(S)/五硫化リン、またはヘキサメチルジシロキサン/五硫化リンなど様々な試薬を使用して、収率を高める方法も報告されている(Tetrahedron Letters 2000,p.9965,17〜18)。しかしながら、窒素が含まれたヘテロ環を有する3-オキソエステル化合物の収率は、きわめて低く、特にピラジニル基を持つオルチプラズの収率は、10%未満と非常に低い。
【発明の開示】
【0012】
これにより、本発明者らは、前記の問題の解決策を求めたところ、爆発の危険性のない強塩基の存在下で、3-オキソエステル化合物を高い収率で製造でき、ジチオールチオン環形成の反応時間を著しく短縮させる、オルチプラズの新しい製造方法を開発し、本発明の完成に至った。
【0013】
従って、本発明は、オルチプラズの製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネート(oxopropionate)(化学式4)を、トルエンとキシレンとの混合溶媒下で五硫化リン(P2S5)と反応させ、続いて再結晶させる段階を含む、オルチプラズ(化学式1)の製造方法を提供する。
【化1】

【化4】

【0015】
前記混合溶媒は、トルエン:キシレンの容量比が1:1から1:4の範囲であることが望ましい。
【0016】
トルエンとキシレンとの混合溶媒は、沸点が高いため、還流温度を効果的に高めることができる。反応温度が上昇するほど、五硫化リンの活性が高まる。これは、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、または塩化メチレンを使用した結果、反応温度が高いほど五硫化リンの活性度が高まることにより支持される。この点で、トルエンとキシレンとの混合溶媒を使用することにより反応収率を高めることができる。
【0017】
また、従来の方法では、ジチオールチオンの形成に、18時間から24時間必要であったが、前記混合溶液の使用により、反応時間が4時間から6時間に短縮され、時間上でも効率的である。
【0018】
五硫化リンは、メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネート1当量に対し、0.5当量から3当量使用するのが望ましく、さらに望ましくは1.05当量から1.50当量を使用する。
【0019】
メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネート(化学式4)は、メチルピラジン-2-カルボキシレート(化学式3)及びメチルプロピオネートを強塩基の存在下でクライゼン縮合反応することにより製造可能である。
【化3】

【0020】
強塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド、またはナトリウムアミドなどを使用でき、このうちカリウムt-ブトキシドを使用することが望ましい。
【0021】
縮合反応の反応溶媒としては、一般的に有機反応に使われる非反応性溶媒、すなわちトルエン、塩化メチレン、またはテトラヒドロフランを使用でき、このうちテトラヒドロフランが望ましい。
【0022】
従来の方法では、クライゼン反応後に分離及び/もしくは精製工程、またはさらに反応段階が含まれており、工業的に非効率的であった。前記のような最適の条件下では、分離及び/または精製工程がなく高い純度を有する生成物を得ることができる。また、単一溶媒は蒸留して再使用が可能なので、コスト節減効果に寄与する。
【0023】
強塩基は、メチルピラジン-2-カルボキシレート1当量に対し、1.5から2.5当量を使用することが望ましく、さらに望ましくは1.8から2.0当量を使用する。
【0024】
メチルピラジン-2-カルボキシレート(化学式3)は、ピラジン-2-カルボン酸(化学式2)を硫酸などの酸触媒の存在下でメタノール溶液で還流しつつ、エステル化反応を行うことにより製造可能である。
【化2】

【0025】
エステル化反応では、酸触媒の量と反応時間とに密接な関係があることが分かった。酸触媒の量を増加させつつ、反応副産物の不純物の量の増減についての研究により、本発明者らは酸触媒を増加させることにより、不純物を生成せずに反応時間を短縮し、先行技術に比べて生産効率を高めることが可能であることを見出した。
【0026】
エステル化反応に使用可能な酸触媒は、一般的に工業的に使用可能な無機酸であり、例えば硫酸、塩酸、リン酸である。最も望ましい酸触媒は、硫酸である。従来の48時間の還流時間とは異なり、酸触媒量の増加により、4〜5時間還流して不純物の増加なくピラジン-2-カルボキシレートが得られる。望ましい酸触媒の量は、メチルピラジン-2-カルボン酸1moleに対し、5.8×10-3から25.0×10-3当量の範囲である。
【0027】
オルチプラズ製造方法の全反応を以下に要約する。
スキーム1

【0028】
前記の全反応が完了した後、最終生成物であるオルチプラズ粗結晶を得る。オルチプラズ粗結晶の結晶化溶媒としては、メタノール、エタノール、エチルアセテート、またはアセトニトリルを使用でき、最も望ましい結晶化溶媒は、メタノールである。
【0029】
オルチプラズ粗結晶は、アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びそれらの混合溶媒からなる群から選択された再結晶溶媒を使用して、精製可能である。
【0030】
再結晶溶媒として、アセトニトリルを使用する場合には、オルチプラズ粗結晶1重量部に対し、30容積部から40容積部のアセトニトリルを使用することが望ましい。
【0031】
再結晶溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド及びアセトニトリルを使用する場合には、オルチプラズ粗結晶1重量部に対し、15から20容積部のN,N-ジメチルホルムアミド及び30から40容積部のアセトニトリルを使用することが望ましい。
【0032】
再結晶溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド及びメタノールの混合溶媒を使用する場合には、オルチプラズ粗結晶1重量部に対し、15から20容積部のN,N-ジメチルホルムアミド及び30容積部から40容積部のメタノールを使用することが望ましい。
【0033】
再結晶溶媒量が上記の範囲外では、生成物の収率が顕著に低下する。また、生成物内に再結晶溶媒が残る可能性がある。
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の説明のためにのみ提供するものであり、これにより本発明の範囲がいかなる形にも制限されるものではない。
【実施例1】
【0035】
メチルピラジン-2-カルボキシレート(化学式3)
ピラジン-2-カルボン酸20.0g(805.8mmole)をメタノール160mlに入れて撹拌しつつ、濃硫酸1.0mlをゆっくり滴加した。反応液を80〜85℃で5時間還流した。反応液の温度を20〜22℃まで下げた後、25mlまで濃縮した。塩化メチレン80ml、水40mlを濃縮物に加えて飽和重曹水40mlをゆっくり滴加して中和させつつ、pHを8.5にした。有機層を分離し、水層を塩化メチレン40mlを用いて再抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後、塩化メチレン20mlで洗浄した。濾過液を濃縮し、薄褐色の固体状の標題化合物21.1g(収率:94.8%)を収得した。
融点:60〜61℃。
【実施例2】
【0036】
メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネート(化学式4)
反応器にテトラヒドロフラン1.2L、カリウムt-ブトキシド87.8g(0.78mole)を入れた後、0℃に冷却した。メチルプロピオネート71.5ml(0.74mole)を反応器に滴加した後、0℃で30分間撹拌した。前記実施例1で製造したメチルピラジン-2-カルボキシレート60g(0.434mole)をテトラヒドロフラン500mlに溶かし30分間滴加した後、20℃から25℃で3時間撹拌して反応させた。反応液に蒸留水0.5L及び飽和塩化アンモニウム0.5Lを入れて30分間撹拌した。反応液を1.0Lまで濃縮した後、塩化メチレン1.0Lで抽出した。抽出物を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。濾過液を濃縮し、濃褐色の粘性のあるオイル状の標題化合物75.0g(収率:89.0%)を得た。
NMR(δ,CDCl3):1.50(d,3H)、3.65(s,3H)、4.70(q,1H)、8.60(d,1H)、8.80(d,1H)、9.21(s,1H)
【実施例3】
【0037】
オルチプラズの合成及び再結晶
反応器にトルエン300ml及びキシレン350mlを入れ、五硫化リン48.0g(216mmole)を入れて温度を120℃から122℃まで上げた。トルエン100mlに前記実施例2で製造したメチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネート40.0g(206mmole)を溶かした後で反応器に滴加した。135℃で4時間還流して反応させた。反応液を20℃に冷却させた後、蒸留水500ml、メタノール500mlを加え、28%のアンモニア水(ほぼ51ml)を加えてpHを8.5に調節した。有機層を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ濾過した後、減圧濃縮した。濃縮物にメタノール150mlを加えた後で1時間撹拌し、濾過した。濾液をメタノール100mlで洗浄し、湿性のオルチプラズ粗結晶(12.0〜13.0g)を得た。
【0038】
反応器にオルチプラズ粗結晶を入れ、アセトニトリル400mlを入れた後で80℃で溶解させた。活性炭1.4gを加え、30分間撹拌した後で濾過し、アセトニトリル100mlで洗浄し、20℃〜25℃で2時間撹拌して結晶化させた後、10℃で1時間さらに撹拌した。生成された結晶を濾過し、アセトニトリル20mlで洗浄し、40℃で真空乾燥させ、オルチプラズを6.37g(収率:13.6%、純度が99.5%以上)収得した。
NMR(δ,CDCl3):2.51(s,3H)、8.70(d,1H)、8.80(d,1H)、9.21(s,1H)
【実施例4】
【0039】
オルチプラズの再結晶
反応器に前記実施例3と同じ方法で製造したオルチプラズ粗結晶及びN,N-ジメチルホルムアミド180mlを入れ、80℃で溶解させた後、活性炭1.4gを入れた。30分間撹拌した後で濾過し、N,N-ジメチルホルムアミド20mlで洗浄した。80℃でアセトニトリル360mlを滴加し、20℃から25℃で2時間撹拌して結晶化させた後、10℃で1時間さらに撹拌した。生成された結晶を濾過し、アセトニトリル20mlで洗浄した。40℃で真空乾燥し、オルチプラズ7.15g(収率:15.6%、純度が99.6%以上)を収得した。
NMR(δ,CDCl3):2.51(s,3H)、8.70(d,1H)、8.80(d,1H)、9.21(s,1H)
【実施例5】
【0040】
オルチプラズの再結晶
反応器に実施例3と同じ方法で製造したオルチプラズ粗結晶及びN,N-ジメチルホルムアミド180mlを入れ、80℃で溶解させた後で活性炭1.4gを入れた。30分間撹拌した後で濾過し、N,N-ジメチルホルムアミド20mlで洗浄した。80℃でメタノール360mlを滴加した後、20℃〜25℃で2時間撹拌して結晶化させた後、10℃で1時間さらに撹拌した。生成された結晶を濾過し、メタノール20mlで洗浄した。40℃で真空乾燥し、オルチプラズを7.53g(収率:16.1%、純度が99.6%以上)収得した。
NMR(δ,CDCl3):2.51(s,3H)、8.70(d,1H)、8.80(d,1H)、9.21(s,1H)
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法によれば、発生する水素の爆発の危険性がなく、反応時間が短縮されるだけではなく、中間の反応工程で不純物の分離及び精製工程が不要であることにより、オルチプラズの経済的な量産が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネートをトルエンとキシレンとの混合溶媒の存在下で五硫化リンと還流反応させ、オルチプラズ粗結晶を生成し、続いて再結晶させる段階を含む、オルチプラズの製造方法。
【請求項2】
混合溶媒中のトルエン:キシレンの容量比が1:1から1:4である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチル2-メチル-3-(ピラジン-2-イル)-3-オキソプロピオネートは、メチルピラジン-2-カルボキシレート及びメチルプロピオネートを強塩基の存在下で縮合反応させて製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
強塩基は、カリウムt-ブトキシドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
縮合反応の溶媒は、テトラヒドロフランである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
再結晶溶媒がアセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びそれらの混合溶媒からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
オルチプラズ粗結晶1重量部に対し、30容積部から40容積部のアセトニトリルを再結晶に使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
オルチプラズ粗結晶1重量部に対し、15容積部から20容積部のN,N-ジメチルホルムアミド及び30容積部から40容積部のアセトニトリルを再結晶に使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
オルチプラズ粗結晶1重量部に対し、15容積部から20容積部のN,N-ジメチルホルムアミド及び30容積部から40容積部のメタノールを再結晶に使用する、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2006−511508(P2006−511508A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555112(P2004−555112)
【出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002552
【国際公開番号】WO2004/048369
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(505196200)シージェー コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】