説明

オロパタジンの製造方法および中間体

オロパタジンを、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸のエステルまたはアミドを適切なウィッティヒ試薬を用いて、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、反応させる工程を有する方法によって得られる、一般式(II)(Yは、OR(RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基若しくはヘテロ環を示す)またはNR(RおよびRはそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基若しくはアリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成する)を示す)で表される化合物を加水分解する工程を有する方法によって得る。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オロパタジンおよびその塩の製造に有用な、オロパタジンのエステルおよびアミドの製造方法に関する。また、本発明は、オロパタジンおよびその塩の製造に有用な中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式
【化1】

で表されるオロパタジン塩酸塩[(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸塩酸塩]は、ヒスタミンH1受容体の選択的アンタゴニストであり、季節性のアレルギー性結膜炎に代表される眼の症状の治療に用いられている。また、オロパタジン塩酸塩は、湿疹や皮膚炎だけでなく、アレルギー性鼻炎や蕁麻疹の対症療法においても用いられている。オロパタジン塩酸塩は、固体の経口剤形で、または点眼剤として投与され得る。
【0003】
オロパタジンおよびその医薬的に許容される塩については、欧州特許第214779号および米国特許第4871865号、欧州特許第235796号および米国特許第5116863号に記載されている。欧州特許第214779号には、オロパタジンの一般的な製造方法が2通り記載されており、その一つはウィッティヒ反応を含み、他の一つはグリニャール反応を含み、引き続き脱水される。
【0004】
米国特許第5116863号には、幾つかの異なる製造方法により得られたオロパタジン塩酸塩が記載されており、これらのうち2つの方法は、11位に側鎖を導入するためにグリニャール反応を含んでおり、3番目の方法(当該特許では“方法C”と呼ばれている。)では、ウィッティヒ反応によって当該側鎖が11位に導入されている。特定の実施形態(実施例9)では、ウィッティヒ反応は、“イソキセパック(Isoxepac)”としても知られている、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸(3)(基質)に対して行われ、これがn−ブチルリチウムの存在下で、(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスホニウムブロミド臭化水素酸塩と反応し、オロパタジンのZ/E異性体混合物およびリン塩を生じさせる。その後、オロパタジンのメチルエステル(2)に変換することによって精製し、次いで加水分解し、オロパタジン塩酸塩(1)を提供する。以上を、反応スキーム1に示す。
反応スキーム1
【化2】

【0005】
反応スキーム1に示されたプロセスでは、イソキセパック(3)1当量に対してウィッティヒ試薬[(Ph)(CHN(Me)BrHBr]が5倍当量までの過剰量用いられ、危険性のある試薬(n−ブチルリチウム)が用いられている。このプロセスはとても長く、たくさんの抽出、pHの変化、くわえてエステル化その後のケン化を含む。したがって、このプロセスは反応収率がかなり低く、またかなり高価となる。このプロセスで得られるZ/E異性体比率については記載されていない。
【0006】
Ohshima E.,et al.,in J.Med.Chem.,1992,35:2074−2084(米国特許第5116863号の発明者)には、オロパタジン塩酸塩および構造類似の化合物を、いくつかの場合にはグリニャール反応によって、また他の場合にはウィッティヒ反応によって、側鎖(3−ジメチルアミノプロピリデン)を導入し、合成する方法が記載されている。反応スキーム1において示される合成スキームに続いて、彼らは遊離カルボン酸を有する化合物(3)から出発して、(i)塩基としてn−ブチルリチウムを、塩基/遊離のカルボン酸を有する化合物(3)比で7.5当量用い、(ii)ウィッティヒ試薬として(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスホニウムブロミド・臭化水素酸塩を、ウィッティヒ試薬/遊離のカルボン酸を有する化合物(3)比で4.9当量用いている。ウィッティヒ反応を実施したならば、反応生成物をよりよく単離するために、酸を次いでエステル化する。その結果、カラムクロマトグラフィーにより精製して得られたZ/E異性体比率は2:1である。この論文(2077頁)で、著者等はカルボン酸の換わりにエステル基を有する化合物(3)から出発してウィッティヒ反応を同様に行ったところ、反応は起こらず、出発原料は反応せずに回収されたことを認めている。このプロセスには幾つかの欠点がある。なぜなら、このプロセスは、ウィッティヒ試薬および塩基:n−ブチルリチウム(既に述べたとおり危険な試薬である)双方を大量に必要とするからであり、また、このプロセスはエステル化、カラム精製、ケン化、再度の精製を必要とし、プロセス全体として効率的でない。
【0007】
WO2006/010459号には、反応スキーム2に示すように、ウィッティヒ反応は同様に行われるが、開環した基質に対して行われ、最終的に環化して、パラジウム触媒で、オキセピンを形成するプロセスによって、オロパタジン塩酸塩を得ることが記載されている。
反応スキーム2
【化3】

[Rは酸保護基、特にC〜Cのアルキル基である]
【0008】
反応スキーム2に示されるプロセスはいくつかの欠点を有する。すなわち、多数の合成工程、プロセスのコストを増大させるパラジウム触媒の使用、得られるZ/E異性体比率(Z異性体が好ましい)はわずか2.5/1であること、さらには水酸化アルミニウムリチウム、n−ブチルリチウムまたはJones試薬等危険な試薬の使用とともに、イオン交換樹脂、クロマトグラフィーカラムの使用を必要とすることは、工業的規模でのプロセスを実現不可能にさせる。
【0009】
米国公開公報US2007/023814には、反応スキーム3に示すように、塩基として水酸化ナトリウムを用いて、イソキセパック(3)と、対応するウィッティヒ試薬[(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスホニウムハロゲン化物またはその塩]とをウィッティヒ反応させ、これによりオロパタジン塩基を得て、次いで付加塩(有益な生産物の生産および単離のために不可欠である)を形成させ、オロパタジン塩酸塩(1)を精製、回収するプロセスによってオロパタジン塩酸塩を得ることが記載されている。
反応スキーム3
【化4】

【0010】
スキーム3に示されるプロセスでは、使用されるウィッティヒ試薬および塩基の量が非常に多く、ウィッティヒ試薬が塩の形で2.7当量使用される場合、塩基(NaH)は8.1当量使用され、遊離のウィッティヒ試薬が2.7当量使用される場合、塩基(NaH)は4.0当量使用される。これらの条件下では、反応はとても長く(1日以上続く可能性がある。)、得られるZ/E異性体の比率はわずか2.3:1である。このことは、相対的に最終収率が低く、引き続き精製が必要であるという結果となる。さらに、このプロセスは、遅く、うんざりするほどであるから、工業的観点からすると、あまり魅力がない。
【0011】
そこで、これら従来技術として知られた方法に関連する問題の全部または一部を克服する、オロパタジン塩酸塩を得るための代替的な方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、オロパタジンおよびその塩を製造する代替的方法を提供するという課題に対してなされたものであり、これにより、オロパタジンおよびその塩の別の合成方法、特に従来技術に関連してウィッティヒ反応の実施を含む先に述べた合成方法に存在する問題の全部または一部を克服するものである。
【0013】
本発明により提供される解決手段は、次の事実に基づくものである。すなわち、本発明者等は、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬と、エステルまたは6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸アミドとを、塩基、有機溶媒、および場合によって極性非プロトン性有機共溶媒の存在下で、ウィッティヒ反応させ、その後、得られた化合物(オロパタジンのエステルまたはアミド)を加水分解反応し、保護されたカルボン酸を対応する遊離酸(オロパタジン)とし、その後必要な場合は、その化合物を塩に変換する、というプロセスによって、驚くべきことに効率的に(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸(オロパタジン)およびその塩を得ることが可能であることを見出した。
【0014】
本発明によって提供される方法は、いくつかの利点を有する。すなわち、n−ブチルリチウム等の非常に危険な試薬の使用を必要とせず、試薬の使用量は、この種の反応のために先述した従来技術で用いられたよりも相対的に少なくてすみ、コストのかかる精製技術(たとえば、クロマトグラフィー)を使用する必要なしに、有益な生成物をより高度に単離、精製することを可能とし、このプロセスを工業的な観点でより利益のあるものにする。さらに、驚くべきことに、ある場合には、Z/E異性体をその比率が4/1におよぶ高さで得られ、前記したプロセスと比較して反応全体の収率を増大させることができ、有益な生成物を簡単に単離することができる。
【0015】
さらに、ウィッティヒ反応で、ウィッティヒ試薬として(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物またはその塩を使用し、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸エステルを使用して、対応する縮合生産物を得ることはOhshima E.,et al.,in J.Med.Chem.,1992,35:2074−2084では明確に放棄されているが、本発明では反対にこれを開示していることを強調しておく。
【0016】
以上より、ひとつの側面において、本発明は、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸のエステルまたはアミドを、ウィッティヒ試薬として(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物またはその塩を用いて、塩基、一または二以上の有機溶媒、および任意に極性非プロトン性有機共溶媒の存在下で、ウィッティヒ反応させる工程を含んでなる、オロパタジンのエステルまたはアミドを製造するための方法に関する。
【0017】
また、別の側面において、本発明は、前記オロパタジンのエステルまたはアミドを加水分解する工程を含んでなる、オロパタジンの溶媒和物またはその塩を製造するための方法に関する。
【0018】
また、別の側面において、本発明は、(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステルを製造方法であって、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸とイソプロピルアルコールとを、有機溶媒を含む酸性の反応媒体中で反応させ、その後、得られた中間体を、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物またはその塩を用いて、塩基の存在下で、有機溶媒および任意に極性非プロトン性有機共溶媒を含む反応媒体中で、ウィッティヒ反応させる工程を含んでなる方法に関する。
【0019】
また、別の側面において、本発明は、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ジメチルアミド、(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステル、および(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ベンジルエステルから選ばれる化合物に関する。これらの化合物はオロパタジンの合成において有用な中間体である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ひとつの側面において、本発明は一般式(II)で表される化合物の溶媒和物またはその塩の製造方法であって:
【化5】

(式中、
Yは、
OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、またはヘテロ環を表す)、または
NR(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基、アリール基、アリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRは、それらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成する)を表す)
a)一般式(III)
【化6】

(式中、Yは上記と同じである)
で表される化合物と、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬とを、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で反応させて、一般式(II)で表される化合物を得る工程、そして
b)場合によって、一般式(II)で表される化合物をその溶媒和物または塩に変換する工程
を含んでなる製造方法(以下「本発明の製造方法」という。)に関する。
【0021】
本明細書において、「C〜Cアルキル」という用語は、炭素原子数が1〜7の直鎖のまたは分岐のアルカン、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル若しくはt−ブチル等、またはこれらが場合によって、ハロゲン、ヒドロキシル基、C〜Cハロアルキル基、C〜Cアルキル基およびC〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、に由来するラジカルを意味する。
【0022】
本明細書において、「C〜Cアルキル」という用語は、炭素原子数が1〜3の直鎖のまたは分岐のアルカン、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、またはこれらが場合によって、ハロゲン、ヒドロキシル基、C〜Cハロアルキル基、C〜Cアルキル基およびC〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、に由来するラジカルを意味する。
【0023】
本明細書において、「C〜Cアルケニル」という用語は、炭素原子数が2または3のアルケン、たとえば、エチニル(ビニル)、n−プロペニル、イソプロペニル等、またはこれらが場合によって、ハロゲン、ヒドロキシル基、C〜Cハロアルキル基、C〜Cアルキル基およびC〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、に由来するラジカルを意味する。
【0024】
本明細書において、「アリール」という用語は、芳香族炭化水素、またはこれが場合によって、ハロゲン、C〜Cアルキル基、ヒドロキシル基、C〜Cハロアルキル基およびC〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、たとえば、フェニル、トリル、キシリル等、またはこれらが置換されていないか若しくは前記置換基の1または2以上によって置換されたもの、に由来するラジカルを意味する。好ましくは、「アリール」という用語は、炭素原子数6〜10の基(C〜C10アリール基)を意味する。
【0025】
本明細書において、「アリールアルキル」という用語は、ハロゲン、C〜Cアルキル基、ヒドロキシル基、C〜Cハロアルキル基およびC〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたアリール基、たとえば、ベンジル基等またはこれが置換されていないか若しくは前記置換基の1または2以上によって置換されたものを意味する。好ましくは、「アリールアルキル」という用語は、炭素原子数7〜17の基(C〜C17アリールアルキル基)を意味する。
【0026】
本明細書において、「C〜Cシクロアルキル」という用語は、炭素原子数が3〜7の直鎖のまたは分岐のシクロアルカン、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル等、またはこれらが場合によって、ハロゲン、ヒドロキシル基、C〜Cハロアルキル基、C〜Cアルキル基およびC〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、に由来するラジカルを意味する。
【0027】
本明細書において、「C〜Cハロアルキル」という用語は、炭素原子数が1〜3の直鎖のまたは分岐のアルカンの1または2以上の水素原子がハロゲン(たとえば、フッ素、塩素、臭素等)によって置換されたもの、たとえば、トリフルオロメチル、トリフルオロエチレン等、またはこれらが場合によって、ヒドロキシル基、C〜Cアルキル基、C〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、に由来するラジカルを意味する。ハロアルキルラジカル基上のハロゲンは同じであっても異なってしてもよい。
【0028】
本明細書において、「ヘテロ環」という用語は、炭素原子数が3〜7の環状化合物であって、その環構造の一部に、炭素以外の少なくとも1つの原子(ヘテロ原子、たとえば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)を有するもの、またはこれが場合によって、ハロゲン、C〜Cアルキル基、ヒドロキシル基、C〜Cアルケニル基から選ばれる1または2以上の置換基によって独立して置換されたもの、たとえば、アゾール、ピリジン、フラン、ピロール、オキシラン、イミダゾール、ベンゾフラン、インドール、ピリミジン、チアゾール等、またはこれらが置換されていないか、若しくは前記置換基の一または二以上によって置換されているもの、に由来するラジカルを意味する。
【0029】
本発明の方法はいくつかの利点を有する。まず、(i)本発明の方法を行うために必要なウィッティヒ試薬および塩基の量は、先行技術で開示されている類似のプロセスを行うために必要なこれらの量に比べてかなり少なく、それは、いくつかの理由の中で、式(III)で表される化合物のカルボキシル基が(エステルまたはアミドの形で)保護されているので、ウィッティヒ試薬に対する塩基の作用によって発生するリンイリドの一部が中和(酸塩基反応による)されていないという事実による。その結果、必要なウィッティヒ試薬および塩基の量はより少なくてよいので、本発明の方法は高価ではない。さらに、(ii)より少量のウィッティヒ試薬が使用されるので、プロセスから取り除くことが困難な塩や中間体、たとえばトリフェニルホスフィンオキシド、の発生も少なくなり、その後の処理や有益な生成物の単離が容易になる。
【0030】
本発明の製造方法によれば、ウィッティヒ反応は、式(III)で表される化合物と、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬とを、ウィッティヒ反応条件の下、塩基の存在下で、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、行われる。前記ウィッティヒ試薬は、適切な塩基、たとえば強塩基、の存在下で、リン原子に隣接したプロトンを引き抜くことによって、中間体(リンイリド)を形成し、これが式(III)で表される化合物のカルボニル基を攻撃し、その結果一般式(II)で表される化合物を形成し、その一方で、反応を非常に安定させるのを促進させるトリフェニルホスフィンオキシドを得る。
【0031】
本発明の製造方法で出発物質として使用される一般式(III)で表される化合物は、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸(イソキセパック)のエステルまたはアミドであり、これは、複数の書籍または学術論文、たとえば“Protective groups in Organic Chemistry”,Greene T.W.,Wuts P.G. Wiley−Interscience,Third edition,1999、“Advanced Organic Synthesis:Methos and Techniques”,Richard S.Monson,Academic Press,1971、“Advanced Organic Chemistry”,Francis A.Carey,Richard J.Sundberg,Kluwer Academic/Plenum Publishers,Fourth edition,2000に記載されているとおり、当業者に公知の慣習的な方法で製造され得る。
【0032】
一つの特定の実施形態において、一般式(III)で表される化合物[式中、Yは、OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基またはヘテロ環を示す。)]はエステルであり、イソキセパックからエステル化反応、たとえば酸性媒体中での適切なアルコールとの反応(フィッシャーエステル合成反応)によって得られる。例を挙げれば、Yがイソプロピルのとき、イソプロピルエステルはイソキセパックがイソプロパノールとp−トルエンスルホン酸の存在下で反応することによって得ることができる。
【0033】
別の特定の実施形態において、一般式(III)で表される化合物[式中、Yは、NR(ここで、RおよびRはそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基、アリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成する)]はアミドであり、イソキセパックを酸塩化物または先述したエステルに変換し、その後これをアミンと反応させることにより得られる。
【0034】
式(III)で表される特に好ましい化合物は、
a)YがOR(ここで、RがC〜Cアルキル基、好ましくはエチル基、イソプロピル基を表す)である場合、または、
b)YがOR(ここで、Rがアリール基またはアルキルアリール基、好ましくはベンジル基を表す)である場合、または、
c)YがNR(ここで、RおよびRがそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、またはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を表し、好ましくはRおよびRがメチル基を表す)である場合である。
【0035】
したがって、特定の好ましい実施態様において、式(III)で表される化合物は、式(IIIa)
【化7】

で表される6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ジメチルアミドである。
【0036】
前記式(IIIa)で表されるアミドは、一般式(III)で表される化合物[式中、Yは、OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基またはヘテロ環を示す)]等のエステルから特定の実施形態で得ることができ、たとえば、式(IIIb)
【化8】

で表される6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステルに、ジメチルアミンを加え、有機溶媒中で、または複数の有機溶媒の混合溶媒中で、加熱して得ることができ、上記有機溶媒の例としては芳香族溶媒(たとえば、トルエン、キシレン等)が挙げられる。
【0037】
前記式(IIIa)で表されるアミドは、オロパタジンおよびその塩の合成において中間体として用いられ得るとともに、本発明の別の側面を構成する。
【0038】
本発明の製造方法を実行するための用いられるウィッティヒ試薬は、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩から選ばれるものである。
【0039】
特定の実施形態では、上記ウィッティヒ試薬は、一般式
【化9】

(式中、Phはフェニル基、Xはハロゲン、好ましくは塩素、臭素、ヨウ素、を示す。)
で表される(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物である。さらに特定の実施態様では、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物は、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミドである。
【0040】
別の特定の実施形態では、ウィッティヒ試薬は、一般式
【化10】

(式中、Phはフェニル基、XおよびZはそれぞれ独立してハロゲン、好ましくは塩素、臭素、ヨウ素、を示す。)
で表される(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物の塩である。より特定の実施態様では、前記(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物の塩は、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物の臭化水素酸塩である。
【0041】
ウィッティヒ試薬と式(III)で表される化合物との比率(当量比)は広範な範囲内で変動し得るが、特定の実施形態において、ウィッティヒ試薬と式(III)で表される化合物との比率は、式(III)で表される化合物に対してウィッティヒ試薬1〜2当量である。
【0042】
本発明の製造方法で用いられる塩基は、式(III)で表される化合物を脱プロトン化させる能力を有するほとんどすべての塩基であることができ、好ましくは、あまり求核性が高くない塩基、たとえば、金属水素化物、金属アルコキシド、金属アミド、立体体積の大きいアミド等、およびこれらの混合物が挙げられる。本明細書において「立体体積の大きいアミド」という用語は、極めて強い塩基性を有しながらも、その嵩高い構造によりあまり求核性が高くないアミドを意味し、したがって、このような塩基は、物質に対する望ましくない付加という問題を生じさせない。特定の実施形態において、上記塩基は、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ金属アミド、アルカリ土類金属アミド、立体体積の大きいアミド、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。これらの塩の非制限的な例としては、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミドおよびこれらの組み合わせが挙げられ、好ましくは、水素化ナトリウム、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドおよびこれらの組み合わせである。
【0043】
塩基と式(III)で表される化合物との比率(当量比)は広範な範囲内で変動し得るが、特定の実施形態において、塩基と式(III)で表される化合物との比率は、式(III)で表される化合物1等量に対して塩基1〜2当量である。
【0044】
塩基の存在下での、ウィッティヒ試薬と式(III)で表される化合物とのウィッティヒ反応は、適切な有機溶媒を含む反応媒体中で行われる。一つの特定の実施形態において非プロトン性の有機溶媒が用いられ、たとえば、芳香族溶媒(たとえば、トルエン、キシレン等)、ハロゲン化溶媒(たとえば、塩化メチレン等)、脂肪族エーテル(たとえば、ジイソプロピレンエーテル、ジ−t−ブチルエーテル等)、環状エーテル(たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン(Me−THF))、ジオキサン(たとえば、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、これらの誘導体)その他のエーテル、極性非プロトン性溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等)、およびこれらの混合物が挙げられる。一つの特定の実施態様において、上記非プロトン性の有機溶媒は、芳香族溶媒(たとえば、トルエン、キシレン等)、脂肪族エーテル(たとえば、ジイソプロピレンエーテル等)、環状エーテル(たとえば、THF、ジオキサン等)、およびこれらの混合物であり、好ましくは、THF、トルエンおよびこれらの混合物である。
【0045】
ウィッティヒ試薬と式(III)で表される化合物とのウィッティヒ反応は、0℃乃至用いる溶媒の還流温度の範囲内の温度で、15分以上、一般的には30分〜12時間、通常は3〜6時間、行われる。
【0046】
特定の実施形態では、ウィッティヒ反応は、塩基として金属アルコキシド(たとえば、カリウムエトキシド、カリウム t−ブトキシド等)を用いて、溶媒としてTHFを含んでなる反応媒体中で行われる。
【0047】
好ましい実施形態では、ウィッティヒ反応は、塩基として金属アルコキシド(たとえば、カリウムエトキシド、カリウム t−ブトキシド等)を用いて、溶媒としてトルエンを含んでなる反応媒体中で行われる。
【0048】
さらに、塩基が金属水素化物(たとえば、水素化ナトリウム(NaH))の場合、反応媒体が有機溶媒に加えてさらに極性非プロトン性有機共溶媒を含む場合、驚くべきことに、ウィッティヒ反応が非常によく起こることが観察された。本発明の製造方法では、ほとんどすべての極性非プロトン性有機溶媒を共溶媒として用いることができ、特定の実施形態においては、上記極性非プロトン性有機共溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、N−メチルモルホリン(NMM)およびこれらの混合物から選択され、好ましくは、DMA、DMFおよびこれらの混合物から選択され、より好ましくはDMAである。
【0049】
上記極性非プロトン性有機共溶媒の存在は、溶媒としてTHFまたはトルエンを含む反応媒体中で通常は溶解しない塩基(たとえば、水素化ナトリウムまたは類似化合物)の溶解性を増大させ、これにより反応が非常に速く、効率的になり、短い反応時間でリンイリドが形成され、結果よりよい収率を得ることが可能となる。
【0050】
反応媒体中に最終的に存在する上記極性非プロトン性有機共溶媒の量は、広範な範囲で変動し得るが、特定の実施形態では、反応媒体中に存在する上記極性非プロトン性有機共溶媒の量は2〜50体積%(反応媒体中に存在する溶媒の量に対する共溶媒の量)、好ましくは5〜20体積%である。
【0051】
塩基としての金属水素化物(たとえば、NaH)、および有機溶媒に加えて極性非プロトン性有機共溶媒(たとえば、DMA)を含んでなる反応媒体を用いて、いくつかのイソキセパックエステル(たとえば、エチル、イソプロピル、ベンジル等のエステル)を試験し、イソキセパックエステルがイソプロピルエステルであるとき最良の結果が得られるということを知得した。したがって、特定の実施形態において、ウィッティヒ反応は、式(III)で表される化合物(式中、Yは、OR(Rはエチル、イソプロピルまたはベンジルであり、好ましくはイソプロピル)を用いて、NaHの存在下で、極性非プロトン性有機共溶媒としてDMAを含んでなる反応媒体中で、好ましくは有機溶媒としてTHFを、および極性非プロトン性有機共溶媒としてDMAを含んでなる反応媒体中で行われる。このような条件下では、ウィッティヒ反応は、非常によく起こり、高い反応収率を伴い、非常に少量のウィッティヒ試薬、概ね式(III)で表される化合物1当量に対して1〜1.6当量のウィッティヒ試薬、を用いるだけでよく、これらのことはオロパタジンおよびその塩の工業レベルでのプロセス化や製造を促進する。
【0052】
本発明の製造方法は、得られるZ/E異性体比率を、先行技術文献により期待されるであろうZ/E異性体比率よりも高くすることが可能である。Z/E異性体比率はウィッティヒ反応の出発物質(原料)[式(III)の化合物]のY基に依存して複数のバリエーションをとり得る。特定の実施形態において、出発物質が、YがORで、RがC〜Cアルキル基である式(III)の化合物の場合、Z/E異性体比率は3.5/1であり、所望のZ異性体が高く、すなわちイソキセパックを出発物質として用いて得られるZ/E異性体比率(概ね2.5/1)よりはるかに高い。このZ/E異性体比率は、塩基としてNaH、並びに有機溶媒としてTHFおよび極性非プロトン性有機共溶媒としてDMAを含む反応媒体を用いて得られた。特定の好ましい実施形態では、出発物質はイソキセパックのイソプロピルエステル[式(III)で表される化合物(式中、Yは、OR(Rはイソプロピル))]であり、この場合、得られるZ/E異性体比率は4/1である。
【0053】
本発明の製造方法によれば、式(II)で表される化合物の溶媒和物(水和物を含む)およびその塩を得ることができる。
【0054】
好ましい式(II)で表される化合物は以下のとおりである。
a)Yは、OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、好ましくはエチル基、イソプロピル基である)であり、または
b)Yは、OR(ここで、Rはアリール基、アリールアルキル基、好ましくはベンジル基である)であり、または
c)Yは、NR(ここで、RおよびRはそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基、アリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成し、好ましくはRおよびRはメチル基である)
【0055】
特に好ましい式(II)で表される化合物は以下のものを含む。
式(IIa)
【化11】

で表される(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステル
式(IIb)
【化12】

で表される(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ベンジルエステル。
【0056】
式(IIa)および式(IIb)で表されるエステルはオロパタジンおよびその塩の合成における中間体として使用され得るとともに、本発明の別の側面を構成する。
【0057】
式(II)で表される化合物はアミンであり、水中で、有機溶媒中で、または両者の混合液中で、適切な酸と化学量論量で反応した場合、有機酸または無機酸付加塩を形成し得る。好ましい非水系媒体は通常ジイソプロピルエーテル、エチルアセテート、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルである。酸付加塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、およびリン酸塩などの鉱酸付加塩、並びに酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp−トルエンスルホン酸塩などの有機酸付加塩が含まれる。これらの塩は遊離のアミンと目的の酸とを反応させる公知の方法により得ることができる。特定の実施形態において、前記塩は医学的に許容され得る塩、たとえば塩酸塩であり、遊離のアミンと塩酸とを反応させることにより得ることができる。必要な場合は、前記付加塩は、公知の方法、たとえば当該塩を含む溶液のpHを遊離アミンを得るために調整する方法、により、任意に対応する遊離アミンに変換され得る。
【0058】
一般式(II)で表される化合物は遊離の塩基または塩の形で得ることができる。双方いずれの場合も結晶形で得られるのが好ましい。遊離の化合物および溶媒和物(たとえば、水和物)双方いずれの場合も結晶形で、本発明の範囲に含まれる遊離の塩基および塩双方いずれの場合も結晶形で得られるのが好ましい。溶媒和の方法は当業者に一般に知られている。
【0059】
一般式(II)で表される化合物は、オロパタジンおよびその塩を製造するために使用され得る。
【0060】
ゆえに、別の側面において、本発明は式(I)で表されるオロパタジンの溶媒和物またはその塩を得るための製造方法であって:
【化13】

以下の工程a)、b)、c)およびd)を含んでなる方法に関する:
a)一般式(III)
【化14】

(式中、Yは、
OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基または若しくはヘテロ環を示す)、または
NR(ここで、RおよびRはそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基若しくはアリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成する。)
を示す。)
で表される化合物と、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬とを、ウィッティヒ反応条件下で、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、反応させて一般式(II)
【化15】

(式中、Yは上記と同じ)
で表される化合物を得る工程、および
b)必要ならば、一般式(II)で表される化合物をその溶媒和物またはその塩に変換する工程、および
c)一般式(II)で表される化合物を加水分解する工程、および
d)必要ならば、前記式(I)で表される化合物をその塩または溶媒和物に変換する工程。
【0061】
一般式(II)で表される化合物は、先に記載した本発明の製造方法に関連する上記した反応条件に従い得ることができる。一般式(II)で表される化合物のエステル基またはアミド基をこれに対応するカルボン酸にするための加水分解は、慣習的な方法、たとえば“Protective groups in Organic Chemistry”,Greene T.W.,Wuts P.G. Wiley−Interscience,Third edition,1999]、[“Comprehensive Organic Transformation”,Richard C.Larock,VCH,Second edition,1999などの化学書籍に一般的に記載されているすべての脱保護方法、によって行わられ得る。
【0062】
一般式(II)で表される化合物の加水分解は塩基または酸加水分解である。
【0063】
一つの特定の実施形態において、一般式(II)で表される化合物は塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が例示できるがこれらに制限されない。)を用いた反応によって塩基加水分解される。
【0064】
別の特定の実施形態において、一般式(II)で表される化合物は酸、たとえば有機酸(たとえば、メタンスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸等)、無機酸(たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、およびリン酸等)またはこれらの組み合わせ、を用いた反応によって酸加水分解される。
【0065】
特定のより好ましい実施形態において、酸加水分解は塩酸を使用して行う。望まれるならば、塩酸塩としてのオロパタジンの単離ができるからである。
【0066】
一般式(II)で表される化合物の加水分解は、有機溶媒、たとえばアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、ニトリル(アセトニトリル等)若しくはこれらの混合物、または前記有機溶媒と水との混合液、好ましくは、アセトン、イソプロパノール、アセトニトリル、またはこれらと水との混合液、を含んでなる反応媒体中で行われる。特定の実施形態では、上記反応媒体はアセトンを含んでなり、別の実施形態では、上記反応媒体はアセトンおよび水(混合液)を含んでなる。
【0067】
一般式(II)で表される化合物の加水分解は、脱保護が完了するまで、または平衡点に達するまで、広範な温度範囲で行われるが、特定の実施形態においては、加水分解は室温(18〜22℃)乃至用いる溶媒の還流温度の範囲内の温度で、15分以上、一般的には30分〜18時間行われる。一般的には、一般式(II)で表される化合物の加水分解は反応混合液を加熱することにより加速され得る。特定の実施形態では、当該加熱はアセトンの還流温度で行われる。
【0068】
カルボン酸が脱保護された式(I)で表される化合物[オロパタジン]は、慣習的な方法、たとえば反応混合液中に存在する酸が、対応する酸付加塩つまりアミンを、固体の形で沈殿させ、生じさせる方法によって単離され得る。また、当業者に知られている慣用的な技術を用いることによっても単離され得る。例としては、一般式(II)で表される化合物を、一若しくは二以上の有機溶媒またはこれらが部分的に若しくは全体的に水と混合した混合液、たとえばアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、ニトリル(アセトニトリル等)若しくはこれらの混合物または前記有機溶媒と水との混合液、を含んでなる反応媒体中で、酸加水分解させることにより、オロパタジンの酸付加塩の沈殿を生じさせ得る。
【0069】
式(I)で表される化合物[オロパタジン]はアミンであり、水中で、有機溶媒中で、または両者の混合液中で、適切な酸と化学量論量で反応した場合、有機酸または無機酸付加塩を形成し得る。一般的には、好ましい非水系媒体は、ジイソプロピルエーテル、エチルアセテート、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルである。酸付加塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、およびリン酸塩などの鉱酸付加塩、並びに酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp−トルエンスルホン酸塩などの有機酸付加塩が含まれる。これらの塩は遊離のアミンと目的の酸とを反応させる公知の方法により得ることができる。特定の実施形態において、前記塩は医学的に許容され得る塩、たとえば塩酸塩であり、遊離のアミンと塩酸とを反応させることにより得ることができる。必要な場合には、前記付加塩は、公知の方法、たとえば当該塩を含む溶液のpHを遊離アミンを得るために調整する方法により、任意に対応する遊離アミンに変換され得る。別の特定の実施形態では、前記塩は医学的に許容されない塩であり、それゆえ医薬品の製造には用いることができないが、オロパタジンまたはその医薬的に許容され得る塩などの所望の最終生成物の単離および/または精製を目的として当該塩を生成することは興味あることであり得る。さらに、オロパタジンは塩基付加塩または金属塩を形成することができる。塩基付加塩は、オロパタジンを適切な溶媒(たとえば水、有機溶媒、または両者の混合液)中で、適切な塩基、通常は有機塩基とその化学量論量で反応させることにより得ることができる。塩基付加塩は有機アミン(たとえば、トリエチルアミン、モルホリン等)付加塩を含む。この塩は、遊離の酸を目的の塩基と反応させることによる慣習的な方法によって得ることができる。オロパタジンの金属塩はオロパタジンを適切な塩基と反応させて得ることができ、非制限的な例としてはオロパタジンのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等を挙げることができる。
【0070】
式(I)で表される化合物[オロパタジン]は遊離の塩基または塩の形で得ることができる。双方いずれの場合も結晶形で得られるのが好ましい。遊離の化合物および溶媒和物(たとえば、水和物)双方いずれの場合も結晶形で、本発明の範囲に含まれる遊離の塩基および塩双方いずれの場合も結晶形で得られるのが好ましい。溶媒和の方法は当業者に一般に知られている。
【0071】
一つの特定の実施形態において、上記付加塩は医薬的に許容され得る塩、たとえば塩酸塩である。上記塩は、式(I)で表される化合物[オロパタジン]に存在する遊離アミンと塩酸とを、適切な溶媒、好ましくはアセトンを用いて、反応させることにより得ることができる。
【0072】
式(I)で表される化合物を得るためには、一般式(II)で表される化合物を出発材料として、これを単離することなしに、または単離し、必要な場合は精製して行う。特定の実施形態では、式(I)で表される化合物は、本発明の製造方法によって、単離される必要なしに、直接的に得られる式(II)で表される化合物から得られる。別の特定の実施形態では、式(I)で表される化合物は、本発明の製造方法によって、単離され、必要な場合は精製され、得られる式(II)で表される化合物から得られる。いずれの場合も、式(II)で表される化合物は、式(II)で表される化合物を式(I)で表される化合物、および必要な場合は式(I)で表される化合物をその塩または溶媒和物に変換させたもの、を得るために加水分解させる肯定を含んでなるプロセスを通じて、オロパタジン(I)、その溶媒和物、またはその塩に変換され得る。
【0073】
別の側面において、本発明は、式(IIa)で表される(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステルおよびその塩の製造方法であって:
【化16】

a)式(III)
【化17】

で表される化合物を少なくとも有機溶媒を含んでなる酸性の反応媒体中でイソプロピルアルコールと反応させて、式(IIIb)
【化18】

で表される化合物を得る工程、および
b)前記式(IIIb)で表される化合物を、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬を用いて、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、ウィッティヒ反応させて、前記式(IIa)で表される化合物を得る工程、および
c)場合によって、式(IIa)で表される化合物をその塩に変換する工程
を含んでなる製造方法に関する。
【0074】
この製造方法によれば、イソキセパック(III)のカルボキシル基は、イソプロピルエステル[工程a)]の形成によって保護され、これはイソキセパックとイソプロパノールとが一または二以上の有機酸または無機酸、たとえばp−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、を含んでなる酸性の反応媒体中で反応させる工程を有するエステル化反応によりなされる。
【0075】
上記反応媒体は、イソプロパノールまたはイソプロパノールと有機溶媒とを含む混合液を含んでなる。ほとんどすべての有機溶媒がイソプロパノールとともに使用できるが、一つの特定の実施形態においては、上記有機溶媒は反応で生成される水を取り除くことができる、たとえばトルエン、キシレン等の溶媒である。より好ましい実施形態においては、使用される溶媒はイソプロパノールのみである。イソプロパノールも、蒸留により、同様に反応で生成される水を取り除くことができ、さらに温度が低下すると溶解しなくなって形成される生成物のろ過による単離を可能にする。
【0076】
工程b)では、式(IIIb)で表される化合物が、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬と、ウィッティヒ反応条件下で、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、ウィッティヒ反応し、前記式(IIa)で表される化合物が得られる。反応条件は、本発明の製造方法に関して先に述べた反応条件と同じであり、このプロセスにも、ウィッティヒ反応を行うことに関する先に述べた別のプロセスが適用可能である。
【0077】
特定の実施形態において、ウィッティヒ試薬は一般式
【化19】

(式中、Phはフェニル基、Xはハロゲン、好ましくは塩素、臭素、ヨウ素、を示す。)
で表される(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物である。さらに特定の実施態様では、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物は、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミドである。
【0078】
別の特定の実施形態では、ウィッティヒ試薬は、一般式
【化20】

(式中、Phはフェニル基、XおよびZはそれぞれ独立してハロゲン、好ましくは塩素、臭素、ヨウ素、を示す。)
で表される(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスホニウムハロゲン化物の塩である。一つの特定の実施態様では、前記(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物の塩は、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミドの臭化水素酸塩である。
【0079】
一つの特定の実施形態において、ウィッティヒ試薬と式(IIIb)で表される化合物との比率は、式(IIIb)で表される化合物1当量に対してウィッティヒ試薬1〜2当量である。
【0080】
実際上は、式(IIIb)で表される化合物を脱プロトン化させる能力を有するすべての塩基を本発明の塩基として用いることができ、好ましくは、あまり求核性が高くない塩基、たとえば、金属水素化物、金属アルコキシド、金属アミド、立体体積の大きいアミド等、およびこれらの混合物が挙げられる。特定の実施形態において、上記塩基は、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ金属アミド、アルカリ土類金属アミド、立体体積の大きいアミド、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。これらの塩の非制限的な例としては、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドおよびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、水素化ナトリウム、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドおよびこれらの組み合わせである。特定の実施形態において、塩基と式(IIIb)で表される化合物との比率は、式(IIIb)で表される化合物1当量に対して塩基1〜2当量である。
【0081】
塩基の存在下での、ウィッティヒ試薬と式(IIIb)で表される化合物とのウィッティヒ反応は、適切な有機溶媒を含む反応媒体中で行われる。上記適切な有機溶媒としては、たとえば、芳香族溶媒(たとえば、トルエン、キシレン等)、ハロゲン化溶媒(たとえば、塩化メチレン等)、脂肪族エーテル(たとえば、ジイソプロピレンエーテル、ジ−t−ブチルエーテル等)、環状エーテル(たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン(Me−THF))、ジオキサン(たとえば、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、これらの誘導体)その他のエーテル、極性非プロトン性溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等)、およびこれらの混合物が挙げられる。特定の実施態様において、上記有機溶媒は、芳香族溶媒(たとえば、トルエン、キシレン等)、脂肪族エーテル(たとえば、ジイソプロピレンエーテル等)、環状エーテル(たとえば、THF、Me−THF、ジオキサン等)、およびこれらの混合物であり、好ましくは、THF、トルエンおよびこれらの混合物である。上記ウィッティヒ反応は、0℃〜用いる溶媒の還流温度の範囲内の温度で、15分以上、一般的には30分〜12時間、通常は3〜6時間、行われる。
【0082】
一つの特定の実施形態では、ウィッティヒ反応は、塩基として金属アルコキシド(たとえば、カリウムエトキシド、カリウム t−ブトキシド等)を用いて、溶媒としてTHFを含んでなる反応媒体中で行われる。
【0083】
好ましい実施形態では、ウィッティヒ反応は、塩基として金属アルコキシド(たとえば、カリウムエトキシド、カリウム t−ブトキシド等)を用いて、溶媒としてトルエンを含んでなる反応媒体中で行われる。
【0084】
さらに、塩基が金属水素化物(たとえば、水素化ナトリウム(NaH))の場合、反応媒体が有機溶媒に加えてさらに極性非プロトン性有機共溶媒を含む場合、驚くべきことに、ウィッティヒ反応が非常によく起こることが観察された。特定の実施形態においては、上記極性非プロトン性有機共溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、N−メチルモルホリン(NMM)およびこれらの混合物から選択される。好ましくは、DMA、DMFおよびこれらの混合物から選択され、より好ましくは、DMAである。特定の実施形態では、反応媒体中の上記極性非プロトン性有機共溶媒の量は、2〜50体積%であり、好ましくは反応媒体中の溶媒の量に対して5〜20体積%である。
【0085】
塩基と溶媒との組合せをいくつか試験し、塩基として金属アルコキシド(カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等)、および溶媒としてTHFまたはトルエンを用いた場合に良い結果が得られたことが観察された。また、塩基として金属水素化物(NaH等)、並びに溶媒としてTHFおよび極性非プロトン性有機共溶媒としてDMAを用いた場合も良い結果が得られた。このような条件下では、ウィッティヒ反応は、非常によく起こり、高い反応収率を伴い、非常に少量のウィッティヒ試薬、概ね式(IIIa)で表される化合物1当量に対して1〜1.6当量のウィッティヒ試薬、を用いるだけでよく、これらのことはオロパタジンおよびその塩の工業レベルでのプロセス化や製造を促進する。
【0086】
最後に、必要な場合は、式(IIa)で表される化合物が、一般式(II)で表される化合物に関して先に述べたような慣習的な方法で、その塩に変換され得る。
【実施例】
【0087】
以下の実施例で本発明を説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものとしてされるべきではない。
【0088】
実施例1
エチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル アセテート
6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸10gをエタノール(EtOH)50mlに溶解し、この溶液にp−トルエンスルホン酸(p−TsOH)1g(0.005モル)を加えた。得られた溶液を大気圧下で加熱還流しながら、EtOHを蒸留し、このEtOHはすぐさま反応媒体に戻した。この操作を90分間複数回繰り返した。その後、反応を20〜25℃まで冷却し、酢酸カリウム0.54g(0.005モル)を加えた。その後、残留物(残渣)が得られるまで減圧下で濃縮し、これに40mlのCHClおよび10mlのHOを加えた。この混合液を5分間撹拌し、デカントし(相を分け)有機相を水相と分離した。この有機相を残留物が得られるまで減圧下で濃縮し、これに20mlの酢酸エチル(AcOEt)を加えた。得られた懸濁液を30分間室温(18〜22℃)で撹拌した。その後、懸濁液を冷却し、0〜5℃に30分置いた後、濾過し、得られた固体を0〜5℃でAcOEtで洗浄し、空気循環式の乾燥機内で50〜55℃で乾燥させ、白色の固体10.2g(0.034モル,93%)を得た。この白色の固体は、以下のスペクトル特性を有し上記タイトルに示した化合物として同定された。
【0089】
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz), δ: 1.24 (t, 3H); 3.61 (s, 2H); 4.14 (q, 2H); 5.15 (m, 2H), 7.00 (d, 1H); 7.33 (d, 1H); 7.42 (m, 2H); 7.52 (m, 1H); 7.86 (d,1H); 8.09 (d, 1H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 400 MHz), δ: 14.28; 40.33; 61.04; 73.68; 121.09; 125.20; 127.87; 128.02;129.30;129.54; 132.49; 132.82; 135.64; 136.41; 140.52; 160.50; 171.49; 190.88 ppm.
MS, M++1:297.10.
【0090】
実施例2
イソプロピル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル アセテート
6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸10g(0.037モル)をイソプロパノール(iPrOH)150mlに溶解し、この溶液にp−トルエンスルホン酸(p−TsOH)2g(0.01モル)を加えた。得られた溶液を大気圧下で加熱還流しながら、100mlのiPrOHを反応溶媒から蒸留した。反応を40〜45℃まで冷却し、1ml(0.007モル)のEtNを加えた。その後、この反応混合液を静置、冷却して、20〜25℃とし、30分間この温度で攪拌した。その後、この懸濁液を静置、冷却して、5〜10℃とし、濾過して、濾過物をiPrOHで洗浄した。そして、白色の固体11g(0.035モル,96%)を得た。この白色の固体は、以下のスペクトル特性を有し上記タイトルに示した化合物として同定された。
【0091】
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz), δ: 1.21 (d, 6H); 3.59 (s, 2H); 4.12 (m, 1H); 5.11 (s, 2H), 6.97 (d, 1H); 7.29 (d, 1H); 7.38 (m, 2H); 7.47 (m, 1H); 7.84 (d, 1H); 8.08 (d, 1H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 400 MHz), δ: 21.78 (2); 40.22; 68.35; 73.55; 120.95; 125.10; 127.93; 129.18; 129.42; 132.34; 132.72; 135.55; 136.31; 140.39; 160.40; 170.90; 171.37; 190.71 ppm.
MS, M++1:311.12
【0092】
実施例3
ベンジル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル アセテート
6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸10g(0.037モル)をトルエン100mlに溶解し、この溶液にp−トルエンスルホン酸(p−TsOH)2g(0.01モル)およびベンジルアルコール17.5ml(0.169モル)を加えた。反応は、ディーン・スターク装置を用いて行い、水/トルエンの混合液を蒸留した。反応は水が0.7ml採取されるまで続けた。反応を20〜25℃まで冷却し、1.5ml(0.011モル)のEtNを加えた。得られた溶液を減圧下で濃縮し、残留物を得て、これをイソプロパノール(50ml)に溶解し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を20〜25℃で30分間攪拌し、その後0〜5℃に冷却した。攪拌は、この温度で30分間続けた。その後、懸濁液を濾過、洗浄し、白色の固体12.5g(0.036モル,98%)を得た。この白色の固体は、以下のスペクトル特性を有し上記タイトルに示した化合物として同定された。
【0093】
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz), δ: 3.70 (s, 2H); 5.14 (m, 4H), 7.02 (d, 1H), 7.33 (m, 1H); 7.41-7.46 (m, 4H), 7.52 (m, 3H); 7.88 (m, 2H); 8.15 (d, 1H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 400 MHz), δ: 39.95; 66.56; 73.37; 120.88; 124.92; 127.48; 127.64; 128.04 (2); 128.10; 128.39 (2); 129.05; 129.25; 132.32; 132.58; 135.33;135.53; 136.20; 140.60; 160.72; 171.48; 191.01.
MS, M++1:358.12.
【0094】
実施例4
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
パートA:(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸エチルエステル
フラスコ中、(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスフィンブロミド21.49g(0.050モル)をテトラヒドロフラン(THF)80mlに混合し、窒素気流下で反応させた。1.86g(0.046モル)の60%NaHを慎重に加えながら、懸濁液を20〜25℃に維持した。その後、この懸濁液に10mlのジメチルアセトアミドをゆっくり加えた。得られた混合液を35〜40℃で1時間加熱した。この1時間の終わりに、この溶液に、30mlのTHFに溶解させた10g(0.031モル)のエチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩を滴下した。この混合液を静置し10℃未満まで冷却し、その後混合液に150mlの水を加えた。溶剤は減圧下で蒸留することによって除去され、水性残留物に100mlのトルエンを加えた。その後、有機相と水相をデカントし分離した。その有機相を濃塩酸(2×50ml)で洗浄した。その後、有機相と水相をデカントし分離した。得られた水相を集め、これに100mlのトルエンおよび2×10mlの20%NaCO溶液を加えた。有機相と水相をデカントし分離し、その有機相を減圧下で濃縮し、残留物を得た。この残留物はパートBで精製しないで用いた。
【0095】
得られた生成物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製された後同定された。上記タイトルの化合物がジクロロメタン/メタノール/アンモニア(95/5/1)混合液で溶離された。この化合物のスペクトル特性は以下のとおりであった。
【0096】
1H-NMR (CDCl3, 400MHz), δ: 1.24 (t, 3H), 2.80 (s, 6H), 2.89 (m, 2H), 3.20 (m, 2H), 3.51 (s, 2H), 4.11 (m, 2H), 5.15 (bs, 2H), 5.63 (t, 1H), 6.82 (d, 1H), 7.04 (m, 2H), 7.25 (m,4H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 400MHz), δ: 14.41; 25.03; 40.12; 43.14; 57.33; 61.16; 70.93; 120.34; 123.95: 125.44; 126.34; 126.63; 127.72; 128.27; 129.33; 130.85; 131.64; 133.66; 143.74; 144.12; 154.96; 163.34; 172.27 ppm.
MS, M++1:366.06.
【0097】
パートB:(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸エチルエステル(パートAで得られた残留物)を反応フラスコ中のアセトン100mlに溶解した。この溶液に3.4ml(0.040モル)のHClを加えた。10分間加熱還流しながら反応させた。反応中、溶液は懸濁液に変化する。その後、反応は20〜25℃になるまで冷却された。固体は濾過され、洗浄され、50〜55℃の空気循環式の乾燥器内で乾燥され、その結果、5.2g(0.015モル,50%)の白色の固体を得た。この白色の固体は、以下のスペクトル特性を有する、塩酸塩として単離された、(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸として同定された。
【0098】
1H-NMR (DMSO, 400MHz), δ: 2.69 (s, 6H); 2.77 (m, 2H); 3.24 (m, 2H);3.56 (s, 2H); 5.15 (bs, 2H); 5.62 (t, 1H); 6.76 (d, 1H); 7.06 (m, 2H); 7.30 (m,4H) ppm.
13C-NMR (DMSO, 400MHz), δ: 25.12;40.13; 42.44(2); 56.02; 70.26; 119.95; 123.43; 126.62; 127.64; 128.03;128.47(2); 129.85; 131.34; 132.57; 134.12; 141.63; 145.25; 154.52; 173.67 ppm.
MS, M++1:338.17
【0099】
実施例5
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
パートA:(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステル
エチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩の換わりにイソプロピル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩を用いること以外は実施例4のパートAに記載したプロセスと同一のプロセスを繰り返した。得られた残留物はパートBで精製しないで用いた。
【0100】
得られた生成物は、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製された後同定された。(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステルとして同定された上記タイトルの化合物がヘプタン/酢酸エチル/トリエチルアミン(20/10/0.5)混合液で溶離された。この化合物のスペクトル特性は以下のとおりであった。
【0101】
1H-NMR (DMSO, 400MHz), δ: 1.13(d, 6H); 2.06 (s, 6H); 2.34 (m, 2H); 2.46 (m, 2H); 3.50 (s, 2H); 4.85 (m, 1H);5.15 (bs, 2H); 5.64 (t, 1H); 6.74 (d, 1H); 7.05 (m, 2H); 7.32 (m, 4H) ppm.
13C-NMR (DMSO, 400MHz), δ: 22.21;28.13; 40.32; 45.65; 59.34; 68.11; 70.14; 119.86; 123.85; 126.43; 126.94;128.14; 128.48; 129.86; 130.74; 131.94; 132.63; 134.14; 139.38; 146.05; 154.53;171.42 ppm.
MS, M++1:380.21
【0102】
パートB:(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸(塩酸塩として単離)として同定された6.6g(0.02モル,67%)の白色の固体が、上記パートAの残留物から、実施例4のパートBと同一のプロセスによって得られ、この固体のスペクトル特性は実施例4に記載されたとおりであった。
【0103】
実施例6
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
パートA:(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ベンジルエステル
エチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩の換わりにベンジル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩を用いること以外は実施例4のパートAに記載したプロセスと同一のプロセスを繰り返した。得られた残留物はパートBで精製しないで用いた。
【0104】
得られた生成物は、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製された後同定された。(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ベンジルエステルとして同定された上記タイトルの化合物が、ヘプタン/酢酸エチル/トリエチルアミン(50/10/1)混合液で溶離された。この化合物のスペクトル特性は以下のとおりであった。
【0105】
1H-NMR (CDCl3, 400MHz): δ2.08 (m, 2H); 2.25 (s, 6H); 2.42 (m, 2H); 3.53 (s, 2H); 5.24 (s, 2H);5.34 (m, 2H); 5.98 (t, 1H); 6.63 (m, 1H); 6.85 (m, 1H); 6.99 (s, 1H); 7.08 (m,1H); 7.16 (m, 2H); 7.24 (d, 1H); 7.32-7.38 (m, 5H) ppm.
13C-NMR (CDCl3, 400MHz): δ24.28; 45.93(2); 48.36; 68.41; 75.71; 113.28; 114.78; 115.33; 126.94;127.08; 127.18(2); 127.72; 127.82; 128.27; 128.82; 128.93; 129.06(2); 135.21;137.03; 140.10; 158.45, 171.24 ppm.
MS, M++1:428.21
【0106】
パートB:(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸(塩酸塩として単離)として同定された12.8g(0.03モル,61%)の白色の固体が、上記パートA残留物から、実施例4のパートBと同一のプロセスによって得られた。この固体のスペクトル特性は実施例4に記載されたとおりであった。
【0107】
実施例7
6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ジメチルアミド
8g(0.029モル)の6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸を30mlのアセトニトリルに溶解し、この溶液に0.15mlのDMFを加えた。20〜25℃で、この溶液に2.3ml(0.032モル)の塩化チオニルを加えた。この反応が一旦終了した後、反応混合液はゆっくり40%MeNH(14.4g,0.32モル)水溶液に注がれ、0〜5℃に冷却され、この温度を維持したまま30分間攪拌された。次いで、減圧下で有機成分を蒸留し、80mlの塩化メチレンを加えた。相をデカントし、有機相を分離した。溶媒を蒸留し、収率60%の上記タイトルの化合物を含む油を得た。
【0108】
実施例8
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
出発物質として、6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ジメチルアミド[実施例7]を用いる以外は実施例6に記載されたプロセスと同一のプロセスによって、上記タイトルの生成物を得た。
【0109】
実施例9
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
反応フラスコ中で、(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスフィンブロミド3.98g(0.009モル)およびエチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸2.0g(0.006モル)をテトラヒドロフラン(THF)10mlに懸濁し、窒素気流下で反応させた。得られた懸濁液を30〜35℃に維持しながら、0.98g(0.009モル)のカリウム t−ブトキシドを慎重に加えた。得られた混合液を35〜40℃で3時間加熱した。この3時間の終わりに、この混合液を静置し10℃未満まで冷却し、その後混合液に50mlの水を加えた。溶剤を減圧下での蒸留により除去し、得られた水性残留物に50mlのトルエンを加えた。その後、有機相と水相をデカントし分離した。その有機相を濃塩酸(2×20ml)で洗浄した。その後、有機相と水相をデカントし分離した。得られた水相を集め、これに40mlのトルエンおよび2×5mlの20%NaCO溶液を加えた。有機相と水相をデカントし分離し、その有機相を減圧下で濃縮し、残留物を得た。この残留物は、精製しないで用いられ、実施例4のパートBに記載された処理と類似の処理を受けた。
【0110】
塩酸塩として単離された、上記タイトルの生成物を0.88g(0.003モル)、収率44%で得た。スペクトル特性は実施例4に記載したとおりであった。
【0111】
実施例10
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
反応フラスコ中で、(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスフィンブロミド3.96g(0.009モル)をテトラヒドロフラン(THF)30mlに懸濁し、窒素気流下で反応させた。得られた懸濁液を20〜25℃に保ちながら、0.73g(0.009モル)のカリウムエトキシド(EtOK)を加えた。得られた混合液を50〜60℃で1時間加熱した。
【0112】
この1時間の終わりに、この混合液に10mlのTHFに溶解させた2.0g(0.006モル)のエチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩を滴下した。得られた反応混合液を2時間50〜60℃に保った。この2時間の終わりに、この反応混合液を静置し10℃未満まで冷却し、その後混合液に50mlの水を加えた。溶剤を減圧下で蒸留により除去し、得られた水性残留物に50mlのトルエンを加えた。その後、有機相と水相をデカントし分離した。その有機相を濃塩酸(2×20ml)で洗浄した。その後、有機相と水相をデカントし分離した。得られた水相を集め、これに40mlのトルエンおよび2×5mlの20%NaCO溶液を加えた。有機相と水相をデカントし分離し、その有機相を減圧下で濃縮し、残留物を得た。この残留物は、精製しないで用いられ、実施例4のパートBに記載された処理と類似の処理を受けた。
【0113】
塩酸塩として単離された、上記タイトルの生成物を0.62g(0.002モル)、収率32%で得た。スペクトル特性は実施例4に記載したとおりであった。
【0114】
実施例11
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
フラスコ中、(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスフィンブロミド16.12g(0.037モル)をテトラヒドロフラン(THF)60mlに混合し、窒素気流下で反応させた。1.51g(0.035モル)の60%NaHを慎重に加えながら、懸濁液を20〜25℃に維持した。得られた混合液を35〜40℃で1時間加熱した。この1時間の終わりに、この溶液に、22mlのTHFに溶解させた7.4g(0.023モル)のエチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩を滴下した。得られた反応混合液を2時間、35〜40℃に保った。この2時間の終わりに、この反応混合液を10℃未満まで冷却し、その後混合液に110mlの水を加えた。溶剤を減圧下での蒸留により除去し、得られた水性残留物に75mlのトルエンを加えた。その後、有機相と水相をデカントし分離した。その有機相を濃塩酸(2×40ml)で洗浄した。その後、有機相と水相をデカントし分離した。得られた水相を集め、これに100mlのトルエンおよび2×8mlの20%NaCO溶液を加えた。有機相と水相をデカントし分離し、その有機相を減圧下で濃縮し、残留物を得た。この残留物は、精製しないで用いられ、実施例4のパートBに記載された処理と類似の処理を受けた。
【0115】
塩酸塩として単離された、上記タイトルの生成物を2.96g(0.008モル)、収率41%で得た。スペクトル特性は実施例4に記載したとおりであった。
【0116】
実施例12
(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
フラスコ中、(3−ジメチルアミノプロピル)−トリフェニルホスフィンブロミド9.02g(0.020モル)をテトラヒドロフラン(THF)30mlに混合し、窒素気流下で、温度を20〜25℃に維持して、反応させた。この温度で、2.19g(0.020モル)のカリウム t−ブトキシドを慎重に加え、さらに温度を35℃以下に保って9mlのTHFに溶解させた3.0g(0.009モル)のエチル 6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−イル酢酸塩を滴下し、35〜40℃で1時間静置した。
【0117】
得られた混合液を35〜40℃で3時間加熱した。3時間経過後、この反応混合液を10℃未満まで冷却し、その後混合液に15mlの水を加え、引き続き16mlのトルエンを加えた。その後、有機相と水相をデカントし分離した。その有機相を濃塩酸(2×20ml)で洗浄した。その後、有機相と水相をデカントし分離した。得られた水相を集め、これに30mlのトルエンおよび2×5mlの20%NaCO溶液を加えた。有機相と水相をデカントし分離し、その有機相を減圧下で濃縮し、アセトン(21ml)および塩酸(1.5ml)を加え、6時間加熱還流した。その後、混合液を20〜25℃に冷却し、得られた固体を濾過した。
【0118】
塩酸塩として単離された、上記タイトルの生成物を1.91g(0.006モル)、収率64%で得た。スペクトル特性は実施例4に記載したとおりである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II)で表される化合物の溶媒和物またはその塩の製造方法であって:
【化1】

(式中、Yは、
OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基またはヘテロ環を示す)、または
NR(ここで、RおよびRはそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基、アリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成する)
を示す。)
a)一般式(III)
【化2】

(式中、Yは上記と同じである)
で表される化合物と、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬とを、ウィッティヒ反応条件の下、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、反応させて一般式(II)で表される化合物を得る工程、および
b)必要な場合には、一般式(II)で表される化合物をその溶媒和物または塩に変換する工程
を含んでなる、製造方法。
【請求項2】
前記ウィッティヒ試薬が(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミドまたはその塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ウィッティヒ試薬と前記一般式(III)で表される化合物との比が、一般式(III)で表される化合物1等量あたり、ウィッティヒ試薬1乃至2等量の間にある、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩基が、金属水素化物、金属アルコキシド、金属アミド、立体体積の大きいアミドおよびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記塩基が、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウム t−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、およびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、芳香族溶剤、ハロゲン化溶剤、エーテル、極性非プロトン性溶媒、およびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、トルエン、キシレン、塩化メチレン、ジイソプロピルエーテル、ジ−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、メチル−テトラヒドロフラン(Me−THF)、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、およびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ウィッティヒ反応が、金属アルコキシドを塩基として用い、溶媒としてTHFを含んでなる反応媒体中で行われるか、または、金属アルコキシドを塩基として用い、溶媒としてトルエンを含んでなる反応媒体中で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ウィッティヒ反応が、カリウム t−ブトキシドを塩基として用い、溶媒としてトルエンを含んでなる反応媒体中で行われる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記反応媒体が、さらに極性非プロトン性有機共溶媒を含んでなる、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記極性非プロトン性有機共溶媒が、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、N−メチルモルホリン(NMM)、およびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記塩基が水素化ナトリウムであり、前記反応媒体が溶媒と極性非プロトン性有機共溶媒とを含んでなる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ウィッティヒ反応が、金属水素化物を塩基として用い、溶媒としてTHFを、極性非プロトン性有機共溶媒としてDMAを含んでなる反応媒体中で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
得られた式(II)で表される化合物を、式(I)
【化3】

で表されるオロパタジンの溶媒和物またはその塩に変換され、そのプロセスが
a)一般式(II)
【化4】

(式中、Yは、
OR(ここで、RはC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基またはヘテロ環を示す)、または
NR(RおよびRはそれぞれ独立してC〜Cアルキル基、アリール基、アリールアルキル基を示し、あるいはRおよびRはそれらが結合している窒素原子とともに3〜7員のヘテロ環を形成する)
を示す)で表される化合物を加水分解する工程、そして場合によって、
b)一般式(I)で表される化合物をその塩または溶媒和物に変換する工程を含んでなる方法によって行われる、請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
式(IIa)で表される(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステルおよびその塩の製造方法であって:
【化5】

a)式(III)
【化6】

で表される化合物を少なくとも有機溶媒を含んでなる酸性の反応媒体中でイソプロピルアルコールと反応させ、式(IIIb)
【化7】

で表される化合物を得る工程、
b)前記式(IIIb)で表される化合物を、(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムハロゲン化物およびその塩からなる群から選ばれるウィッティヒ試薬を用いて、ウィッティヒ反応条件の下、塩基の存在下、有機溶媒を含んでなる反応媒体中で、ウィッティヒ反応させて、前記式(IIa)で表される化合物を得る工程、そして場合によって
c)式(IIa)で表される化合物をその塩に変換する工程
を含んでなる、製造方法。
【請求項16】
以下のa)、b)およびc)からなる群から選ばれる化合物:
a)式(IIIa)
【化8】

で表される6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ジメチルアミド、
b)式(IIa)
【化9】

で表される(11Z)−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸イソプロピルエステル、および
c)式(IIb)
【化10】

で表される(11Z)−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸ベンジルエステル。

【公表番号】特表2011−528017(P2011−528017A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517904(P2011−517904)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058974
【国際公開番号】WO2010/007056
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511014792)
【氏名又は名称原語表記】RAGACTIVES, S.L.U.
【Fターム(参考)】