説明

オンライン冷却型高張力鋼板の製造方法

【課題】特別な装置を必要としないオンライン冷却であっても、安定して強度を高めることができるオンライン冷却型高張力鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】オンライン冷却型高張力鋼板は、C:0.11〜0.18%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.8〜2%、P≦0.03%、S≦0.01%、Al≦0.05%、Cr:0.6〜1.5%、Ti:0.005〜0.02%、B:0.0005〜0.003%、N:0.002〜0.006%、O≦0.004%を含有し、炭素当量≦0.50、溶接割れ感受性組成≦0.28、下記式のBK(%)≧0である鋼スラブを、1000〜1170℃に加熱し、850〜950℃の終了温度で熱間圧延し、冷却速度2〜80℃/秒で300℃未満まで冷却し、450℃以上550℃未満で焼戻しすることによって製造される。
BK(%)=B−11×(N−Ti/3.4)/14

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接性、降伏強さ、及び引張強さに優れた鋼板をオンライン冷却で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築、橋梁、鉄塔、タンクなどの鋼構造物には、溶接性(耐溶接割れ性など)、降伏強さ、及び引張強さに優れた鋼板が求められており、降伏強さは、例えば600MPa以上、引張強さは、例えば700MPa以上にすることが求められている。このような鋼板は、一般に、鋼スラブを熱間圧延し、一旦、室温まで冷却した後、オフラインで再加熱して焼入れ−焼戻し処理することによって製造されている。
【0003】
近年、オフラインでの再加熱焼入れを省略して製造コストを低減するため、圧延直後に直接焼入れ(ダイレクトクエンチ(DQ))や加速冷却などのオンライン冷却が行われる場合がある。しかし、オンライン冷却には、再加熱焼入れに比べ、強度が安定しないという問題がある。また溶接性及びHAZ靭性の改善とコストダウンのため高価な合金元素(Ni、Mo,Nbなど)の使用量を極量低減しながら、強度を高めるために、様々な工夫がなされている。
【0004】
例えば特許文献1では、制御圧延後の加速冷却におけるベイナイト変態途中で再加熱することを提案している。加速冷却途中で再加熱すると、加速冷却時のベイナイト変態による強化に加え、再加熱時の未変態オーステナイトからのフェライト変態時に析出する微細析出物による析出強化も利用でき、高強度化できるとしている。
【0005】
特許文献2では、連続鋳造鋳片を、一旦冷却することなく直ちに熱間圧延し、次いで直接焼入れすることを提案している。連続鋳造鋳片を冷却せずに熱間圧延に供することによって、Nb、Tiなどの窒化物形成元素の固溶を容易にし、これらNb、Tiが極微量でもオーステナイト未再結晶温度域を上昇させ、直接焼入れ後の組織を微細化できるとしている。
【0006】
特許文献3は、熱間圧延後、直接焼入れ−焼戻しする方法に関するものであり、焼戻しの際に、460℃までは1℃/s未満の速度で昇温し、460℃以降は1℃/s以上の昇温をすることを提案している。通常の加熱では、温度が高くなるほど昇温速度が低下していくが、特許文献3のように温度が高いほど昇温速度を高くすると、炭化物の溶解・析出過程をコントロールでき、炭化物を極めて微細に分散析出させることができ、強靱化を達成できるとしている。
【0007】
しかし、特許文献1〜3の方法によれば、製造プロセスが特殊になり、そのための特別な装置を必要とし、初期コストと維持コストが却って上昇する。一般的なオンライン冷却法でも、強度を安定して高めることができる技術が求められている。
【0008】
特許文献4は特別な装置を必要としないオンライン冷却法に関するものであり、直接焼入れを行う場合に、Nb:0.001〜0.05%、B:0.0005〜0.0025%などを添加し、鋼の焼入れ性を高めることが記載されている。しかし、上述したようにHAZ靭性と材質安定性からNbの使用は避けた方がよい。またN量の制御がされておらず、Bの焼入れ性を有効利用できていない。
【0009】
特許文献5も特別な装置を必要としないオンライン冷却法に関するものであり、直接焼入れを行う場合に、B:0.005〜0.002%を添加して鋼板の焼入れ性を高めること、このB添加効果を発揮させるため、Nを0.0045%以下に制御し、かつNをAlNとして固定することが開示されている。この特許文献5は、NをAlNとして固定して無害化することで、Bの焼入れ性を確保している点で、前記特許文献4よりも優れている。
【特許文献1】特開2003−321725号公報
【特許文献2】特開昭62−158817号公報
【特許文献3】特開2005−232562号公報
【特許文献4】特開昭63−190118号公報
【特許文献5】特開昭63−190117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、本発明者の検討によれば、NをAlNとして固定しても、安定して強度を高めることが難しいことが判明した。
【0011】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、特別な装置を必要としないオンライン冷却であっても、安定して強度を高めることができるオンライン冷却型高張力鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オフライン冷却でのBの焼入れ性を確保するためには、AlによってNをAlNとして固定する方法は有効であったが、オンライン冷却では、冷却前のAlNの安定性が低く、BNになる場合があり、高強度の鋼板を安定して得られないことが判明した。そこでTiを添加すると、Nは結合力の強いTiによってTiNとして固定され、しかも圧延後の冷却前でもTiNは安定であり、Bの焼入れ性も安定することが判った。そしてさらに検討を進め、Ti、B、Nのバランスを適切にし、かつオンライン冷却−焼戻し条件を適切に設定すれば、安定して強度が高まることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明に係るオンライン型冷却高張力鋼板の製造方法では、C:0.11〜0.18%(質量%の意味。以下、同じ)、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.8〜2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:0.6〜1.5%、Ti:0.005〜0.02%、B:0.0005〜0.003%、N:0.002〜0.006%、及びO:0.004%以下(0%を含まない)を含有し、残部が鉄及び不可避不純物であり、下記式によって求まる炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成Pcm及びBK値が、Ceq(%):0.50以下、Pcm(%):0.28以下、BK(%):0以上になっている鋼スラブを用いる。
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
Pcm(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B
BK(%)=B−11×(N−Ti/3.4)/14
(式中、C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V、Cu、B、N、Tiは鋼スラブ中の各元素の含有量(質量%)を示す)
【0014】
そして本発明の製造方法では、前記鋼スラブを加熱温度:1000〜1170℃の条件で加熱し、圧延終了温度:850〜950℃の条件で熱間圧延し、Ar3点より高い温度から300℃未満までの範囲を冷却速度2〜80℃/秒で冷却した後、温度:450以上550℃未満の条件で焼戻しする。このようにすれば、降伏強さ600MPa以上、引張強さ700MPa以上の耐溶接割れ性に優れたオンライン冷却型高張力鋼板が得られる。
【0015】
前記鋼スラブは、さらにCa:0.004%以下(0%を含まない)、REM:0.04%以下(0%を含まない)、V:0.06%以下(0%を含まない)、Ni:0.4%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Mo:0.2%以下(0%を含まない)などを適宜含有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Ti、B、Nのバランスを適切にし、かつオンライン冷却−焼戻し条件を適切に設定しているため、特別な装置を用いないオンライン冷却であっても、鋼板の降伏強さ、引張強さなどを安定して高めることができる。またCeq、Pcmなどを適切にしているため、溶接性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、鋼スラブを加熱し、熱間圧延した後、速やかに急冷し、焼き戻すことによってオンライン冷却型高張力鋼板を製造する方法に関するものであり、鋼スラブの成分組成は、以下の通りである。
【0018】
C:0.11〜0.18%(質量%の意味。以下、同じ)
Cは強度を確保するために重要な元素であり、合金元素を少なくしながらも所定の強度を確保するには、0.11%以上添加することが必要である。好ましくは0.12%以上、さらに好ましくは0.13%以上である。一方、Cが多くなると、母材靭性、母材延性が劣化し、溶接時に硬化組織が生成して溶接部に割れが生じやすくなる。従ってCは、0.18%以下、好ましくは0.17%以下、さらに好ましくは0.16%以下にする。
【0019】
Si:0.05〜0.5%
Siは鋼の脱酸に必要な元素であり、0.05%以上添加する。好ましいSi量は、0.10%以上、特に0.15%以上である。一方、Siが過剰になると溶接性が劣化する。従ってSiは、0.5%以下、好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.35%以下とする。
【0020】
Mn:0.8〜2%
Mnは強度と靭性を向上させるのに有効である。所定の強度を確保するには、0.8%以上添加することが必要である。好ましくは0.85%以上、さらに好ましくは0.90%以上である。一方、Mnが過剰になると溶接性が劣化する。従ってMnは、2%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.3%以下とする。Mn量の上限を小さくしても、本発明によれば、所定の強度を確保できる。
【0021】
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは靭性を劣化させるため、少ないほど望ましい。従ってPは、0.03%以下、好ましくは0.025%以下である。
【0022】
S:0.01%以下(0%を含まない)
Sもまた少ないほど望ましい。Sが多く残ると、板厚方向の性能が劣化し、また板厚方向中心部にMnS系介在物が生成し、曲げ加工時に割れの起点になる。従ってSは、0.01%以下、好ましくは0.08%以下である。
【0023】
Al:0.05%以下(0%を含まない)
Alは脱酸のために添加される。好ましい量は、0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上、特に0.020%以上である。しかし過剰に添加すると靭性が劣化する。従ってAlは、0.05%以下、好ましくは0.04%以下である。
【0024】
Cr:0.6〜1.5%
Crは強度を確保するために重要な元素である。またHAZ靭性と材質安定性の点でNbよりも有効であるため、本発明では積極的に添加する。Cr量は、0.6%以上、好ましくは0.65%以上である。一方、Crが過剰になると溶接性が劣化する。従ってCrは、1.5%以下、好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは1.0%以下(特に0.9%以下)である。Cr量の上限を小さくしても、本発明によれば、所定の強度を確保できる。
【0025】
Ti:0.005〜0.02%
TiはNをTiNとして固定するため、重要な元素である。TiNはAlNよりも安定性が高く、熱間圧延後の冷却前にNを奪われてBNを形成する虞が低く、固溶Bを安定して確保することができ、焼入れ性を安定して高めることができる。Tiは、0.005%以上、好ましくは0.007%以上、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、Tiが0.02%を超えると、粗大な窒化物や酸化物が生成して靭性が劣化する。従ってTiは、0.02%以下、好ましくは0.017%以下にする。
【0026】
B:0.0005〜0.003%
Bは低コストで強度を高めるために重要な元素であり、0.0005%以上、好ましくは0.0007%以上、さらに好ましくは0.0010%以上にする。一方、Bが過剰になると、粗大な介在物を生成する。また固溶Bも過剰になり、溶接性が劣化する。従ってBは、0.003%以下、好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0023%以下にする。
【0027】
N:0.002〜0.006%
NはTiNとして析出し、加熱時のオーステナイト粒の粗大化を防止する。またHAZ靭性と母材靭性を改善するのに有効である。従ってNは、0.002%以上、好ましくは0.003%以上である。しかしNが多いと、Bと結合して固溶Bを低減し、Bの焼入れ性効果を阻害する。従ってN量は、0.006%以下、好ましくは0.005%以下にする。
【0028】
O:0.004%以下(0%を含まない)
Oは少ないほど望ましい。Oが多いと、粗大な酸化物が生成し、HAZ靭性や母材靭性を劣化する。従ってO量は、0.004%以下、好ましくは0.003%以下である。
【0029】
本発明は合金成分が少なくても所定の強度を確保できる点で優れている。残部が鉄及び不可避不純物の場合、合金成分が少なくコストを低減できる点で優れているが、必要に応じて、さらに追加の成分を添加してもよい。
【0030】
例えば、鋼スラブは、さらにCa:0.0040%以下(0%を含まない)及びREM:0.04%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。これらCaやREMは、MnS系介在物の形態を制御して、板厚方向の特性を改善するのに有効である。Caの好ましい添加量は、0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上、特に0.0020%以上である。またREMの好ましい添加量は、0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上、特に0.020%以上である。しかしCaやREMを添加し過ぎると、コスト高になるだけでなく、粗大な介在物を生成して割れの原因となる。従ってCa量は、0.004%以下、好ましくは0.003%以下とする。またREM量は、0.04%以下、好ましくは0.03%以下とする。
【0031】
また鋼スラブは、さらにV:0.06%以下(0%を含まない)を含有していてもよい。Vは強度と靭性を向上させるのに有効である。Vの好ましい添加量は、0.01%以上、さらに好ましくは0.02%以上、特に0.03%以上である。しかしVを過剰に添加すると、コスト高になるだけでなく、HAZ靭性が劣化する。従ってVは、0.06%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0032】
また鋼スラブは、さらにNi:0.4%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、及びMo:0.2%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。これらの元素は強度上昇に有効である。またNiやCuは、靭性向上にも有効である。Niの好ましい添加量は、0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上、特に0.15%以上である。Cuの好ましい添加量は、0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上、特に0.15%以上である。Moの好ましい添加量は、0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上、特に0.10%以上である。しかしNi、Cu、又はMoを添加し過ぎると、コスト高になるだけでなく、溶接性が劣化する。従ってNiは、0.4%以下、好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.25%以下にする。Cuは、0.5%以下、好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下にする。Moは、0.2%以下、好ましくは0.15%以下にする。
【0033】
本発明で用いる鋼スラブは、炭素当量(Ceq)、及び溶接割れ感受性組成(Pcm)の観点からも成分制御されている。炭素当量(Ceq)は溶接部の硬度と相関があり、下記式によって算出される。なお下記式は、JIS G 0203に基づく。
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
(式中、C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、及びVは、鋼スラブ中の各元素の含有量(質量%)を示す)
【0034】
また溶接割れ感受性組成(Pcm)は、溶接部の割れ発生と相関があり、下記式によって算出される。なお下記式は、WES 3009に基づく。
Pcm(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B
(式中、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、鋼スラブ中の各元素の含有量(質量%)を示す)
【0035】
本発明の鋼スラブでは、前記Ceq(%)が、0.50以下(好ましくは0.49以下)になり、かつ前記Pcm(%)が、0.28以下(好ましくは0.27以下)になるように合金成分が抑制されている。そのため溶接部の硬化を抑制でき、割れを防止できる。
【0036】
そして本発明の鋼スラブでは、下記式によって求まるBK値(%)が0以上である点に大きな特徴がある。
BK(%)=B−11×(N−Ti/3.4)/14
(式中、B、N、Tiは鋼スラブ中の各元素の含有量(質量%)を示す)
【0037】
前記BK値は、NをTiで固定した後の残ったフリーNに対して、Bがどの程度余分に存在するかを示しており、BK値が0又は正の値のときは、固溶Bを確保できることを意味している。オフライン冷却では、AlでNを固定してフリーのBを確保することができるが、オンライン冷却では、冷却前の段階でAlNが不安定であってBNになることから、AlによるNの固定を期待することはできない。上記式は、オンライン冷却の場合には、TiによるNの固定化だけを期待し、残ったNはAlで固定されるのではなくBと結合してしまうものと覚悟し、そのような場合であってもフリーのB(固溶B)を確実に残すことを意図したものである。
【0038】
図1は上記BK値に対する考え方を、実験的に示すグラフである。この図1は、板厚30mmに圧延した鋼板を空冷した場合に対する、空冷することなくオンラインで直接焼入れした場合の引張強度の上昇値ΔTS(MPa)と、BK値との関係を示している。図1より明らかなように、BK値が負の値の場合、固溶Bが実質的に残っていないことからΔTSが低い値に留まっているのに対し、BK値が正の値になると急激にΔTSが向上することが判る。
【0039】
BK値は大きいほどよく、好ましくは0.001以上であり、引張強度を極めて大きくする場合には、0.0015以上(特に0.0020以上)にしてもよい。
【0040】
本発明によれば上記のような適切な鋼スラブを用いているため、特別な装置を必要としない熱間圧延−オンライン冷却法であっても、安定して強度を高めることができる。なお強度を確実に所定値以上にするためには、製造条件を適切な範囲に設定する。
【0041】
鋼スラブの加熱温度は、1000〜1170℃である。加熱温度が低すぎると、熱間圧延終了温度、オンライン冷却開始温度なども低下してしまい、焼入れが不足する虞がある。また加熱温度が高すぎると、オーステナイト結晶粒が粗大化し、圧延後の靭性が劣化する。好ましい加熱温度は、1050〜1100℃である。
【0042】
加熱した鋼スラブは、熱間圧延する。熱間圧延の終了温度は、850〜950℃に設定する。熱間圧延終了温度が低すぎると、オーステナイト結晶粒が微細化するとともに、冷却開始温度が低下するため、強度が大きく低下する。一方、熱間圧延終了温度が高すぎると、オーステナイト結晶粒が粗大になり、靭性及び強度が不足する。
【0043】
熱間圧延終了後は、オンラインで急冷し、組織の主体(例えば、面積率で50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上)を下部ベイナイトやマルテンサイトなどの焼入れ組織にし、強度を確保する。
【0044】
冷却開始温度は、所望の組織を得るために設定され、Ar3点より高い温度(例えば、Ar3点+20℃以上、好ましくはAr3点+40℃以上)である。なおAr3点は、下記式(鉄と鋼(1981)、第143頁)によって求まる。
Ar3=910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo+0.35×(t−8)
(式中、C、Mn、Cu、Cr、Ni、Moは鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。tは板厚(mm)を示す)
【0045】
冷却終了温度も所望の組織を得るために設定され、300℃以下、好ましくは200℃以下である。なお冷却終了温度の下限は特に限定されないが、通常、室温以上である。
【0046】
冷却速度も所望の組織を得るために設定され、2℃/秒以上、好ましくは5℃/秒以上、さらに好ましくは10℃/秒以上である。なお冷却速度が80℃/秒を超えると、靭性が劣化する。従って冷却速度は、80℃/秒以下、好ましくは70℃/秒以下、さらに好ましくは50℃/秒以下とする。
【0047】
前記のようにしてオンラインで焼入れした鋼は、焼戻し処理して靭性を高める。焼戻し(再加熱)温度は、450℃以上、好ましくは470℃以上、さらに好ましくは480℃以上である。しかし焼戻し温度が高すぎると、強度が低下する。従って焼戻し温度は、550℃未満、好ましくは540℃以下、さらに好ましくは530℃以下とする。
【0048】
以上のようにして得られる鋼板の降伏強さは、600MPa以上、好ましくは680MPa以上であり、さらに好ましくは700MPa以上であり、最も優れている場合には750MPa以上にできる場合もある。また引張強さは、700MPa以上、好ましくは780MPa以上であり、さらに好ましくは800MPa以上であり、最も優れている場合には850MPa以上にできる場合もある。降伏強さの上限は特に設定されないが、降伏強さ800MPa未満の鋼板も本発明の鋼板に含まれる。また引張強さの上限も特に設定されないが、引張強さ900MPa未満の鋼板も本発明に含まれる。
【0049】
また以上のようにして得られる鋼板は、靭性や溶接性(耐溶接割れ)にも優れており、温度0℃でのvノッチシャルピー吸収エネルギー(vE0)は、例えば、100J以上、好ましくは150J以上、さらに好ましくは200J以上である。なおvE0の上限は特に設定されないが、vE0が300J以下の鋼板も本発明に含まれる。
【0050】
本発明の鋼板の板厚は、例えば、25〜80mm程度、好ましくは30〜60mm程度である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
実験例1〜24
表1に示す成分の鋼スラブA〜Oを、表2に示す条件で加熱し、熱間圧延した後、ただちに冷却し、焼戻しした。得られた鋼板の降伏強さ(YS)、引張強さ(TS)、シャルピー吸収エネルギー(vE0)を測定した。またJIS Z 3158「y形溶接割れ試験」に基づき、溶接入熱量1.8kJ/mmとして室温(25℃)で溶接割れ試験を行い、JIS規格通り5断面で割れを観察した。
【0053】
詳細を下記表1〜2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実験例1、2(スラブA)、実験例10(スラブB)、実験例12〜13(スラブC〜D)、実験例21〜24(スラブL〜〜O)は、いずれもスラブ組成が適切でありかつ製造条件も適切であるため、強度、靭性及び溶接性に優れた鋼板が得られた。
【0057】
一方、実験例3〜9(スラブA)及び実験例11(スラブB)は、スラブ組成は適切であるが、製造条件が不適切であるため、強度又は靭性が劣化した。また実験例14〜20は、製造条件は適切であるが、スラブ組成が不適切であるため、強度又は溶接性が劣化した。
【0058】
実験例25〜39
表3に示す成分の鋼を以下の条件で熱間圧延し、オンラインで直接冷却した。得られた鋼板の引張強さ(TS1)を測定した。
加熱温度:1100℃
圧延終了温度:880〜930℃
冷却開始温度:820〜860℃
冷却速度:30℃/s
冷却停止温度:200℃以下
【0059】
また冷却条件を空冷にする以外は、前記と同様にして鋼板を得た。得られた鋼板の引張強さ(TS2)を測定した。引張強さの差(ΔTS=TS1−TS2)を求め、BK値との関係を整理した。結果を図1に示す。図中、黒丸はTiを本発明の範囲で含んでいる例(No.25〜36)に対応し、白丸はTiが不足する例(No.37〜39)に対応する。
【0060】
図1より明らかなように、Tiが不足する例(白丸)では、ΔTSが大きくばらつく。これに対してTiを所定量以上添加した例(黒丸)では、BK値が0以上になると、急速にΔTSが安定して向上する。
【0061】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は引張強度の上昇値ΔTS(MPa)と、BK値との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.11〜0.18%(質量%の意味。以下、同じ)、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.8〜2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:0.6〜1.5%、Ti:0.005〜0.02%、B:0.0005〜0.003%、N:0.002〜0.006%、及びO:0.004%以下(0%を含まない)を含有し、残部が鉄及び不可避不純物であり、下記式によって求まる炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成Pcm及びBK値が、Ceq(%):0.50以下、Pcm(%):0.28以下、BK(%):0以上になっている鋼スラブを、
加熱温度:1000〜1170℃の条件で加熱し、圧延終了温度:850〜950℃の条件で熱間圧延し、Ar3点より高い温度から300℃未満までの範囲を冷却速度2〜80℃/秒で冷却した後、温度:450℃以上550℃未満の条件で焼戻しすることを特徴とする、
降伏強さ600MPa以上、引張強さ700MPa以上の耐溶接割れ性に優れたオンライン冷却型高張力鋼板の製造方法。
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
Pcm(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B
BK(%)=B−11×(N−Ti/3.4)/14
(式中、C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V、Cu、B、N、Tiは鋼スラブ中の各元素の含有量(質量%)を示す)
【請求項2】
前記鋼スラブが、さらにCa:0.004%以下(0%を含まない)及びREM:0.04%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載のオンライン冷却型高張力鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼スラブが、さらにV:0.06%以下(0%を含まない)を含有する請求項1又は2に記載のオンライン冷却型高張力鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼スラブが、さらにNi:0.4%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、及びMo:0.2%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のオンライン冷却型高張力鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−248359(P2008−248359A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94129(P2007−94129)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】