説明

オートテンショナ装置

【課題】Vベルト70の張力が増加した際にこれに減衰力を与える減衰機構を備えたオートテンショナ装置において、Vベルト70に動き始めから減衰力を与えるもの、略一体形成されていてスペースをあまり取らないもの、及び摩耗が少なく異音が発生し難いものを得ることを目的とする。
【解決手段】先端部分がVベルト70に当接し基端部分がロータシャフト40に支持されたアーム60と、アーム60をVベルト方向Fに常時押圧しVベルト70に張力を与えるリターンスプリング54とを備え、且つ該ロータシャフト40の軸回りには、油圧による減衰力を発生させる油圧式減衰機構と、摩擦による減衰力を発生させる摩擦式減衰機構とを併せて備えたオートテンショナ装置を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端環状の平ベルト、Vベルト、歯付ベルト、チェーン等の伝動部材に適切な張力(テンション)を自動的に与えるためのオートテンショナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のオートテンショナ装置としては、油圧により減衰力を発生させる従来例1(特許文献1)等の油圧式オートテンショナ装置や、摩擦により減衰力を発生させる従来例2(特許文献2)等の摩擦式オートテンショナ装置がある。
【0003】
従来例1の図5に示す油圧式オートテンショナ装置は、伝動部材99の張力が過大になると、伝動部材99はリターンスプリング95の押圧力を伝えているアーム96を押し下げ反伝動部材方向Roに回動させる。この際に、油圧式減衰機90の油圧油Poが充填された高圧油室91を収縮させ、伝動部材99を押し返す減衰力を発生させる。この減衰力は、高圧油室91内の油圧油Poが透通溝93を通って徐々に低圧油室92にリークしていくに従い、徐々に減少し消滅する。
【0004】
一方、伝動部材99の張力が過小になると逆に、アーム96が、伝動部材99を押し下げ伝動部材方向Foに回動する。このとき、高圧油室91は拡張するが、その際にはすぐに逆止弁94が開き油圧油Poが低圧油室92から高圧油室91に流入するので、減衰力はほとんど発生しない。
【0005】
油圧式オートテンショナ装置は、このように、当接する伝動部材の張力が過大になった際にのみ油圧による減衰力を大きく発生させ、該伝動部材の急激な変動を抑えるものである。
【0006】
それに対して、従来例2等の摩擦式オートテンショナ装置は、当接する伝動部材の張力が変動した際に、摩擦部材によって摩擦による減衰力を発生させ、該伝動部材の急激な変動を抑えるものである。
【特許文献1】特開2000−274502公報
【特許文献2】特開平11−325205公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の油圧式オートテンショナ装置は、(a)油圧により減衰力を発生させるため、高圧油室91がある程度圧縮され油圧が生じるようになるまで押圧力は発生せず、動き始めに減衰力を発生させることができなかった。また、(b)油圧式減衰機90とアーム96とは別体的に設けられているため、装置全体としてスペースを取るという問題点があった。それに加えて、(c)油圧油Poを高圧油室91から低圧油室92に徐々にリークさせる必要があるため、寸法精度要求の高い微小寸法の透通溝93を設ける必要があり、装置の加工が困難であった。
【0008】
一方、従来の摩擦式オートテンショナ装置は、(d)摩擦によってのみ減衰力を発生させるため、摩擦部材の摩耗が激しく異音が発生するという問題点があった。また、(e)張力が過小であるときにも過大であるときと同様に摩擦がかかるため減衰力に方向性を持たせることができず、張力が過小になった際に、伝動部材に当接するアームをすばやく押し戻すことができないという問題点があった。その他にも、(f)摩擦は乾燥状態で発生させることが一般的であるため、湿度等の周辺環境によって摩擦係数が変化し摩擦の発生が不安定になるといった問題点があった。
【0009】
そのため、本発明のオートテンショナ装置においては、油圧式オートテンショナの問題点を克服し(i)動き始めから減衰力を発生させること、(ii)装置を略一体的に形成しスペースを取らない構造にすること、及び好ましくは(iii)寸法精度要求を小さくし加工を容易にすること、並びにそれと同時に摩擦式オートテンショナの問題点を克服し(iv)摩耗が少なく異音が発生し難いものにすること、好ましくは(v)発生させる減衰力に方向性を持たせ張力が過小になった際のアームの戻りを速くすること、及び同じく好ましくは(vi)摩擦部材の摩擦係数を安定させ摩擦の発生を安定させること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記(i)(ii)(iv)の目的を達成するため、本発明のオートテンショナ装置は、先端部分が伝動部材に当接し基端部分が回転軸に支持されたアームと、前記アームを伝動部材方向に常時押圧し前記伝動部材に張力を与えるスプリングと、前記伝動部材の張力が増加した際に前記アームを伝動部材方向に押圧し減衰力を与える減衰機構とを備えたオートテンショナ装置において、前記回転軸回りに、油圧による減衰力を発生させる油圧式減衰機構と、摩擦による減衰力を発生させる摩擦式減衰機構とを併せて備えたことを特徴とする。
【0011】
前記油圧式減衰機構及び前記摩擦式減衰機構を設ける位置は、特に限定されないが、前記アームと、該アームを回動可能に支持した前記回転軸との間でもよいし、前記アームを回動不能に支持した回転軸と、該回転軸を回動可能に支持した外部部材との間でもよい。
【0012】
上記(iii)の目的を達成するため、前記油圧式減衰機構に、前記油圧を発生させるための油圧油として、動粘度が100mm/s以上、10000mm/s以下の高粘弾性剤が充填されていることが好ましい。前記油圧油の動粘度は、500mm/s以上、2000mm/s以下であることがより好ましく、500mm/s以上、1000mm/s以下であることが最も好ましい。
【0013】
前記油圧式減衰機構の具体的な形態は、特に限定されないが、前記アームの回転軸回りにループ状に形成され前記高粘弾性剤が充填された油溝が、高圧油室と低圧油室とに分割され形成されたものを例示する。
【0014】
上記(v)の目的を達成するため、前記摩擦式減衰機構は、被摩擦部と、前記伝動部材の張力が増加して前記アームが反伝動部材方向に回動した際には前記被摩擦部を相対的に強く押圧しながら摺動する一方、該張力が減少してアームが伝動部材方向に回動した際には前記被摩擦部を相対的に弱く押圧しながら摺動又は押圧せずに移動する摩擦部とからなることが好ましい。
【0015】
また、上記(vi)の目的を達成するため、前記摩擦式減衰機構は、前記油圧を発生させるための油圧油に常時潤滑されていることが好ましい。
【0016】
前記摩擦式減衰機構の具体的な形態は、特に限定されないが、前記摩擦部が前記回転軸に取り付けられ、前記被摩擦部が前記回転軸回りに円弧状に設けられたものを例示する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のオートテンショナ装置は、(ア)摩擦式減衰機構を備えているので、動きはじめから減衰力を摩擦によって伝動部材に与えることができる。また、(イ)それに加えて油圧式減衰機構を備えているため、動き出した後においては、摩擦と油圧との双方の作用によって減衰力を発生させる。そのため、摩擦の持分による減衰力が減るので、摩擦部材の摩耗、及び異音の発生を少なくすることができる。加えて、(ウ)油圧式減衰機構及び摩擦式減衰機構の双方は、アームの回転軸回りに形成されるので、装置を略一体的に形成し省スペース化を計ることができる。
【0018】
また、本発明の油圧式減衰機構の好ましい形態によれば、(エ)粘度の高い高粘弾性剤を油圧油として使用するため、該高粘弾性剤が透通溝を通過する際に生じる粘性抵抗は大きく、リークする速度が遅い。そのため、リークの速度を抑えるために透通溝を極度に狭く設計する必要はなく、寸法精度要求を低く抑えることができる。
【0019】
また、本発明の摩擦式減衰機構の好ましい形態によれば、(オ)該摩擦式減衰機構の摩擦部材は、張力が増加した際にのみ被摩擦部材を比較的強く押圧するように構成されているため、張力が増加した際には減衰力を与える一方、張力が減少した際には減衰力をほとんど与えない。そのため、減衰力に方向性を持たせることができ、張力が減少した際のアームの戻りを速くすることができる。また、アームが戻る際に無用な摩擦が発生することがないので、同時に、この作用によっても摩擦部材の摩耗、及び異音の発生を少なくすることができる。
【0020】
また、(カ)摩擦部と被摩擦部とが油圧油に常時潤滑されているので、周辺環境に左右されずに摩擦力を安定して発生させることができる。そして、このように、油圧式減衰機構において油圧を発生させるための油圧油を、摩擦式減衰機構の摩擦を安定させるための潤滑油としても利用すれば、潤滑油を別途用意する必要性を省くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のオートテンショナ装置は、先端部分がVベルト70に当接し基端部分がロータシャフト40に支持されたアーム60と、アーム60を常時押圧しVベルト70に張力を与えるリターンスプリング54と、Vベルト70の張力が変動した際にアーム60を押圧し減衰力を与える減衰機構とを備えていて、該減衰機構は、油圧による減衰力を発生させる油圧式減衰機構と、摩擦による減衰力を発生させる摩擦式減衰機構との双方から構成されている。この油圧式減衰機構は、ロータシャフト40の軸回りにループ状に形成され高粘弾性剤Pが充填された油溝27が、高圧油室28と低圧油室29とに分割され形成されている。一方、摩擦式減衰機構は、被摩擦部31と、Vベルト70の張力が増加した際には被摩擦部31を強く押圧しながら摺動する一方、該張力が減少した際には被摩擦部31をほとんど押圧せずに移動する摩擦部52とから構成されている。
【実施例1】
【0022】
本発明の図1及び図2に示すオートテンショナ装置は、伝動部材としてのVベルト70に当接するアーム60と、アーム60の回転軸となるロータシャフト40と、該ロータシャフト40を回転可能に支持するケーシング10とからなる。そして、該ロータシャフト40と該ケーシング10との間には、アーム60を常時押圧しVベルト70に張力を与えるリターンスプリング54が取り付けられている他、Vベルト70の張力が変動した際にアーム60を押圧し減衰力を与える油圧式減衰機構と摩擦式減衰機構とがロータシャフト40とケーシング10との双方に跨る形で形成されている。
【0023】
ケーシング10は、ロータシャフト40の基端部分を囲み込みハウジングした状態で該ロータシャフト40を回動可能に支持するためのものであり、中空25を備えた円柱形の形状をしていて、筒部21と蓋部11とに分かれている。
【0024】
蓋部11は、円形板状の形状をしていてその中心には、ロータシャフト40の先端を支持するための支持凹部12が凹設されている。蓋部11には、筒部21をネジ33で螺着するためのネジ通孔15が4箇所に設けられている他、所定の支持個所に該蓋部11を固定するためのネジ通孔13が4箇所に設けられていて、該ネジ通孔13にネジ14が挿通され螺着されている。
【0025】
筒部21は、片側の円形の底面が大きく開口し中空25に開通した円柱状(筒状)の形状をしていて、その反対側の円形の底面の中心部分にはロータシャフト40を挿通させる軸孔22が貫設されている。また、その他、筒部21を蓋部11に連結するためのネジ孔32が、該大きく開口した側の底面の外周縁付近の4箇所に設けられている。そして、ネジ33を蓋部11のネジ通孔15に挿通させてから該ネジ孔32に螺着することにより、蓋部11で筒部21の該開口を閉じる形で、両者は連結されている。
【0026】
ケーシング10に形成された中空25は、ロータシャフト40の拡径部44を収納する収納部26と、油圧を与える油圧油を充填する油溝27とからなる。収納部26は拡径部44の形状と合致した円柱状の空間であり、油溝27はその円柱状の収納部26を曲面側から包み込むループ状の形状をした空間となっている。そして、拡径部44が収納された中空25の油溝27には、油圧油として動粘度が1000mm/s程の高粘弾性剤Pが充填されている。
【0027】
この油溝27は、ケーシング10の内壁に形成された仕切突起23と、ロータシャフト40の拡径部44に設けられた仕切壁部45との2箇所で仕切られることにより、高圧油室28と低圧油室29とに分けられている。仕切突起23には、両油室28、29間に油圧差が生じた際に高粘弾性剤Pを徐々にリークさせるための第一透通溝24が設けられている。その他、油溝27をハウジングしているケーシング10には、油溝27内で高粘弾性剤Pが膨張した際にその逃げ道となる膨張吸収ポケット30が設けられている。また、ケーシング10の内壁において、後述する摩擦部52が当接する部分には、該摩擦部52と協働して摩擦を発生させる被摩擦部31が該内壁に沿って円弧状に形成されている。
【0028】
ロータシャフト40は細長い円柱形の形状をしていて、アーム60を取り付けるための取付部41を先端部分に備えている他、ケーシング10に支持される被支持部43と拡径部44とを基端部分に備えている。被支持部43は、ケーシング10の支持凹部12に挿入され支持されるためのものであり、基端から基端付近にかけて形成されている。拡径部44は、収納部26に収められることによりケーシング10と協働して油溝27を形成するもので、被支持部43より先端よりの部分が一回り拡径され形成された円盤状の形状をしていて、その外周縁には前述した仕切壁部45が設けられている。
【0029】
該仕切壁部45は、高粘弾性剤Pが低圧油室29から高圧油室28への一方向にのみ通過することを許容する弁機構を備えた仕切であり、油溝27を仕切るための仕切ピース50、同じくそれと協働して油溝27を仕切ると伴に仕切ピース50を係止するピース係止突起46、仕切ピース50をピース係止突起46に付勢する仕切バネ49、及び仕切バネ49の一端を拡径部44に係止するバネ係止突起48からなる。
【0030】
ピース係止突起46及びバネ係止突起48は、拡径部の外周縁から外方向に向かって突出形成されていて、ピース係止突起46は仕切ピース50より低圧油室29側に、バネ係止突起48は仕切ピース50より高圧油室28側に位置している。仕切バネ49の一端はバネ係止突起48に係止されていて、他端は仕切ピース50に連結されている。この仕切ピース50は平常時においては仕切バネ49に付勢されることにより、ピース係止突起46に当接している。仕切ピース50は、高粘弾性剤Pをリークさせるための第二透通孔53を備えている他、弁機構が開いた際に高粘弾性剤Pを通過させる弁溝51を備えている。
【0031】
該仕切壁部45は、両油室28、29を仕切る仕切や弁機構としての構造以外にも、摩擦を発生させるための構造を兼ね備えていて、被摩擦部31の上を摺動し摩擦を発生させる摩擦部52と、Vベルトの張力が増加した際に摩擦部52を被摩擦部31に強く押し当てる傾斜部47とを備えている。
【0032】
摩擦部52は、油溝27内の仕切ピース50における被摩擦部31に当接する個所に位置している。このように、摩擦部52及び被摩擦部31は油溝27内に設けられることによって、常時高粘弾性剤Pに潤滑されるようになっている。摩擦部52は、シャフトが回転することにより自己摩擦力で更に被摩擦部31に食い込み大きな摩擦力を発生させるように、その断面がクサビ状の形状をしている。なお、このときの抵抗係数μは、摩擦部52及び被摩擦部31が高粘弾性剤Pで潤滑されているので、0.2以下となる。そして、該クサビの先端角を、11.2度より大きく設定すれば、抵抗係数μを最大の0.2とした場合にも、摩擦が滑り摩擦となり、摩擦部52がセルフロックすることはない。
【0033】
傾斜部47は、ピース係止突起46における仕切ピース50と当接する個所に位置していて、その面の法線方向が、高圧油室28側方向に回動する際の進行方向よりもケーシング10の内壁側よりに傾くように形成されている。また、傾斜部47は、張力が増加した際に摩擦部52を被摩擦部31に強く押し当てる以外にも、仕切バネ49によって押圧された仕切ピース50を該傾斜部47を乗り上げる方向に案内し、平常時等においても、仕切ピース50がケーシング10の内壁に押圧されるようにしている。
【0034】
本実施例の油圧式減衰機構は、このように、高圧油室28と低圧油室29とに分割され高粘弾性剤Pが充填された油溝27、及びその内側において回動可能に支持され仕切壁部45を備えたロータシャフト40から構成されている。また、本実施例の摩擦式減衰機構は、摩擦部52を備えた同じくロータシャフト40、及び摩擦部52が当接する被摩擦部31から構成されている。
【0035】
ロータシャフト40とケーシング10との間に取り付けられたリターンスプリング54は、コイル状のバネであり、その一端がケーシング10の軸孔22付近に設けられた第一係止部34に係止されていて、他端がロータシャフト40に設けられた第二係止部55に係止されている。なお、図2に示すように、ケーシング10における蓋部11と筒部21との間、及び筒部21の軸孔22の内壁とロータシャフト40との間には、シール用のOリング35、16がそれぞれ装着されている。
【0036】
アーム60は、一枚の細長い板状の形状をしていて、基端部分にはロータシャフト40に取り付けられるための取付孔64が貫接されている。そして、該取付孔64にロータシャフト40の取付部41が挿通されその上に取付キャップ42が嵌め込まれることにより、アーム60はロータシャフト40に対して回動不能に固着されている。一方、先端部分にはVベルト70に当接するプーリ61が、ネジ63に回動可能に支持されたベアリング62を介して取り付けられている。
【0037】
以上に述べたオートテンショナ装置における油圧式減衰機構及び摩擦式減衰機構の作用を、Vベルト70の張力が過大になった過大張力時と、該張力が過小になった過小張力時とに分けて以下に説明する。なお、該作用を説明するに当たっては、次の図4bに示すイメージ図を参照する。この図4bは、アーム60を図4aに示す周波数の異なった、それぞれ高速、中速、低速、及び超低速の正弦波で加振した際に発生する減衰力の様子を示したものである。正弦波を示す図4aは、横軸に経過時間を示し、縦軸にアーム60の先端部の変位を示している。但し、反Vベルト方向Rへの変位を正とし、Vベルト方向Fへの変位を負としている。一方、発生する減衰力を示す図4bは、横軸に該変位を示し、縦軸に発生する減衰力を示している。但し、Vベルト方向Fへの力を正とし、反Vベルト方向Rへの力を負としている。
【0038】
(過大張力時)
Vベルト70の張力(テンション)が過負荷等により過大になった際には、Vベルト70がアーム60を押し下げ、図3aに示すようにロータシャフト40反Vベルト方向Rに回動させる。このとき、仕切ピース50は、ピース係止突起46に押圧されることにより、ロータシャフト40に遅れることなく移動するため、これと一体的に回動し高圧油室28側に移動する。この際には、図4bのD点→A点→B点に示すように、Vベルト70を押し返す減衰力が発生する。その様子を以下に説明する。
【0039】
摩擦式減衰機構はにおいては、このとき、次のような作用が生じる。ピース係止突起46の傾斜部47は、その面の法線方向が進行方向よりもケーシング10の内壁側よりに傾くように形成されているため、該移動の際には、仕切ピース50をケーシング10の内壁に押圧することにより、摩擦部52を被摩擦部31に押し付けながら摺動させ、摩擦による減衰力を発生させる。また、摩擦部52は、もともと上述のように、仕切バネ49の押圧力によっても被摩擦部31に押圧されているため、この分の摩擦もこのとき同時に発生する。
【0040】
油圧式減衰機構においては、この回動により、高圧油室28が収縮され低圧油室29が拡張される。この際には、一時的に高圧油室28の油圧が上昇し低圧油室29の油圧が低下するが、徐々に高粘弾性剤Pが、両透通孔24、53を通って高圧油室28から低圧油室29にリークするので、両油室28、29の油圧はやがて等しい状態に戻される。そのため、非常にゆっくりとロータシャフト40が回動したときには、両油室28、29間に油圧差はほとんど発生せず、図4bの超低速の場合に示すように、油圧によってはVベルト70の変動を抑える減衰力がほとんど発生しない。この際には、傾斜部47も仕切ピース50をほとんど押圧しないので、仕切バネ49の押圧分による摩擦のみが発生する。
【0041】
一方、ある程度速い速度でロータシャフト40が回動したときには、高圧油室28から低圧油室29に高粘弾性剤Pがリークする速度が、両油室28、29間の油圧差の発生を抑えこむのに必要な速度に追いつかず、高圧油室28の油圧が低圧油室29の油圧よりも大きくなる。そのため、Vベルト70をVベルト方向Fに押し返す減衰力が、図4bの高速、中速、及び低速の場合に示すように、該油圧差によって発生する。この減衰力は、高粘弾性剤Pが徐々に両透通孔24、53を通って高圧油室28から低圧油室29にリークし両油室28、29間の油圧差が減少し消滅するのに伴い、同じく減少し消滅する。
【0042】
このように、ゆっくりと反Vベルト方向Rに回動した際には、摩擦式減衰機構によってのみ減衰力が発生する一方、ある程度速く同方向に回動した際には摩擦式減衰機構と油圧式減衰機構との双方によって減衰力が発生する。
【0043】
(過小張力時)
次に、Vベルト70の張力が過小になった際の作用を説明する。このときには、リターンスプリング54がアーム60を押し戻し、図3bに示すように、ロータシャフト40を上記とは逆方向のVベルト方向Fに回動させる。このとき、仕切ピース50には、それ自体の慣性力、及び両油室28、29間の油圧差等によってその場に留まろうとする力が働くため、仕切ピース50は、仕切バネ49をたわませピース係止突起46から離脱する。離脱した仕切ピース50は、その後、仕切バネ49の押圧力によって、ピース係止突起46と当接する元のロータシャフト40との相対位置にまで戻される。このように、仕切ピース50は、ロータシャフト40に対してわずかに遅れて移動する。この際には上記の際とは相違し、わずかな減衰力が、図4bのB点→C点→D点に示すように、発生するのみである。その様子を以下に説明する。
【0044】
摩擦式減衰機構においては、このとき、仕切ピース50は、ピース係止突起46の傾斜部47から解離するので、該傾斜部47や仕切バネ49によってケーシング10の内壁に強く押圧されることがない。よって、摩擦部52が被摩擦部31に強く押圧されることがなく、摩擦による減衰力はほとんど発生しない。
【0045】
油圧式減衰機構においては、この回動により、高圧油室28が拡張され低圧油室29が収縮される。このため、一時的に高圧油室28の油圧が低下し低圧油室29の油圧が上昇する。しかし、この際には、高粘弾性剤Pが両透通孔24、53を通って、上記の場合とは反対に低圧油室29から高圧油室28にリークする以外にも、それと同時に次の動作が行われるため、両油室28、29の油圧はすぐに略等しい状態へと戻される。
【0046】
すなわち、ピース係止突起46とケーシング10との間を通り抜けた低圧油室29内の高粘弾性剤Pが、仕切ピース46の離脱によりできた隙間を通って弁溝51に流れ込み更にここを通過し高圧油室28に流れ込むことにより、両油室28、29の油圧を均衡させる。たとえ、ロータシャフト40が速く回動しても、ピース係止突起46とケーシング10との間隔、及び弁溝51は充分大きく、且つ、速くなるのに伴い仕切ピース50が仕切バネ49をたわませて形成する該仕切ピース50とピース係止突起46との隙間が大きくなり弁溝51に高粘弾性剤Pが更に流れ込み易くなるので、油圧差は、発生してもすぐに押さえ込まれる。そのため、油圧による減衰力はほとんど発生しない。
【0047】
このように、張力が過小になりアーム60がVベルト方向Fに回動した際には、摩擦及び油圧差の双方がほとんど発生しないので、減衰力はほとんど発生しない。
【0048】
本実施例のオートテンショナ装置は、摩擦式減衰機構を備えているので、減衰力を、動きはじめから摩擦によってVベルト70に与えることができる。また、それに加えて、油圧式減衰機構を備えているため、動き出した後においては、摩擦と油圧との双方の作用によって減衰力を発生させる。そのため、摩擦の持分により発生させる減衰力が減り摩擦の発生を抑えられるので、摩擦部材の摩耗、及び異音の発生を少なくすることができる。
【0049】
摩擦式減衰機構及び油圧式減衰機構の双方による減衰力は、張力が増加した際には大きく発生する一方、張力が減少した際にはほとんど発生しない。そのため、該減衰力は方向性を備えていて、張力が減少した際には、アーム60がリターンスプリング54の押圧力によってすばやく押し戻される。そして、この際には、無用な摩擦が発生することもないので、ここでも、摩擦部52及び被摩擦部31の摩耗、及び異音の発生が少なく抑えられている。なお、これら油圧式減衰機構及び摩擦式減衰機構の双方は、ロータシャフト40の軸回りに略一体的に形成されているため、省スペース化にも貢献している。
【0050】
また、摩擦式減衰機構においては、摩擦部52と被摩擦部31とが、高粘弾性剤Pに常時潤滑されているので、摩擦力がその周辺環境に左右させずに安定して発生する。そして、このように、油圧式減衰機構において油圧を発生させるための油圧油が、摩擦式減衰機構において摩擦の発生を安定させるための潤滑油としても兼用されることにより、潤滑油を別途用意する必要性が省かれている。
【0051】
また、油圧式減衰機構においては、粘度の高い高粘弾性剤Pを油圧油として使用しているため、該高粘弾性剤Pが両透通溝24、53を通過する際に発生する粘性抵抗は大きくリークする速度が遅い。そのため、リークの速度を抑えるために両透通溝24、53を極度に狭く設計する必要はなく、寸法精度要求が低く抑えられている。
【0052】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。例えば、油圧式減衰機構及び摩擦式減衰機構を、実施例1のように、アーム60が取り付けられたロータシャフト40と、それらにとって外部部材であるケーシング10との間に設けるのではなくアームの内部に油溝を設け、同様の油圧式減衰機構及び摩擦式減衰機構を、該アームと、該アームを回動可能に支持した回転軸との間に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例1のオートテンショナ装置を示す全体斜視図である。
【図2】同実施例のオートテンショナ装置を示す断面図である。
【図3】同実施例において、オートテンショナ装置が回動したときの様子を示す断面図である。
【図4】同実施例において、aはアームを加振する正弦波、bはそれにより発生する減衰力を示すイメージ図である。
【図5】従来例1のオートテンショナ装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
31 被摩擦部
40 回転軸としてのロータシャフト
52 摩擦部
54 (リターン)スプリング
60 アーム
70 伝動部材としてのVベルト
P 高粘弾性剤
F 伝動部材方向(Vベルト方向)
R 反伝動部材方向(反Vベルト方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部分が伝動部材に当接し基端部分が回転軸に支持されたアームと、前記アームを伝動部材方向に常時押圧し前記伝動部材に張力を与えるスプリングと、前記伝動部材の張力が増加した際に前記アームを伝動部材方向に押圧し減衰力を与える減衰機構とを備えたオートテンショナ装置において、前記回転軸回りに、油圧による減衰力を発生させる油圧式減衰機構と、摩擦による減衰力を発生させる摩擦式減衰機構とを併せて備えたことを特徴とするオートテンショナ装置。
【請求項2】
前記油圧式減衰機構に、前記油圧を発生させるための油圧油として、動粘度が100mm/s以上、10000mm/s以下の高粘弾性剤が充填された請求項1記載のオートテンショナ装置。
【請求項3】
前記摩擦式減衰機構は、被摩擦部と、前記伝動部材の張力が増加して前記アームが反伝動部材方向に回動した際には前記被摩擦部を相対的に強く押圧しながら摺動する一方、該張力が減少してアームが伝動部材方向に回動した際には前記被摩擦部を相対的に弱く押圧しながら摺動又は押圧せずに移動する摩擦部とからなる請求項1又は2記載のオートテンショナ装置。
【請求項4】
前記摩擦式減衰機構は、前記油圧を発生させるための油圧油に常時潤滑された請求項1、2又は3記載のオートテンショナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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