説明

カウルトップパネル及び自動車の前部車体構造

【課題】車体前部の剛性を向上させて操縦安定性や乗り心地を向上させることができ、また、ワイパユニットに対する支持剛性を向上することができ、しかも、エンジン室の空間を拡大できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】カウルトップアウタパネル14には、その車長方向の中央部において車幅方向に直線状に延びる補強用屈曲部25が形成されている。補強用屈曲部25は、ほぼ直角をなす下部フランジ部18、起立部19及び下部平面部20により形成されている。また、カウルトップアウタパネル14には、その補強用屈曲部25の車長方向における前後両位置に、ワイパユニット30の第1ブラケット27及び第2ブラケット28の前後両端部を支持するための下部フランジ部18、下部平面部20及び上部傾斜部23が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイパユニットが搭載されるカウルトップパネル、及び、同カウルトップパネルを備えた自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体前部のエンジン室と車室との間におけるエンジン室側の上部には、フロントシールドの下端においてカウルトップパネルが設けられている。通常、カウルトップパネル上には、ワイパユニットが装着されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された前部車体構造は、図5に示すように、左右のフロントピラー50間に架設される第1カウル51と、この第1カウル51の前方において左右のエプロンアッパメンバ52間に架設される第2カウル53とを備えている。そして、第2カウル53の前部は、上開き断面で直線的に延びる樋状に形成されており、その左右両端部は、左右サスペンションタワー54の頂面にボルトにより結合されている。この第2カウル53により、車体前部の剛性が強化され、ひいては走行中のタイヤの振動に起因する車体前部の振動や騒音の抑制が図られている。そして、ワイパユニットについては、特許文献1に全く記載されていない。
【0004】
また、特許文献2に記載の前部車体構造は、図6に示すように、左右フロントピラー間に架設されるカウルトップリヤ60と、このカウルトップリヤ60の前方において左右エプロンアッパメンバ間に架設されるカウルトップフロント61とを備える。カウルトップリヤ60の両端部にはワイパ支持部62が形成され、そのワイパ支持部62の底部は左右のサスペンションタワー63の頂部に結合されている。すなわち、このワイパユニットは、左右のピボット軸間の間隔が大きく設定され、両ワイパブレードが互いに逆方向に回動するオーバラップタイプである。
【特許文献1】特開平11−115811(公報第3頁、図1)
【特許文献2】特開2004−330939
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワイパユニットが作動したとき、カウルトップパネルにはワイパユニットから大きな曲げモーメントが繰り返し加わる。この曲げモーメントは、ワイパブレードが拭き取り面から受ける反力や、ワイパモータの回転方向切替時や停止時の慣性等によりワイパユニットに加わる荷重に基づくものである。このため、カウルトップパネルの車幅方向における曲げ剛性が十分でないと、ワイパユニットの作動が不安定となり、ワイパの拭き取りが適切に行われなかったり異音が発生したりする。これに対し、特許文献2においては、カウルトップリヤ60が、その両側部においてサスペンションタワー63の頂部に固定されるため、カウルトップリヤ60は変形し難い。
【0006】
しかしながら、一般的に広く採用されているワイパユニットは、特許文献2の構造に採用されるオーバラップタイプではない。すなわち、両ワイパプレードのピボッド軸が車幅方向の中央部に設置され、両ワイパプレードが同じ方向に回動するタンデムタイプである。このようなタンデムタイプのワイパユニットを特許文献2のカウルトップリヤ60の両側部に装着することは困難である。しかも、特許文献2のカウルトップ60は、特許文献1の第2カウル53とは異なり、車幅方向に直線状に延びる形状を持たないので、車体前部の剛性を高める機能が弱い。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、車体前部の剛性を向上させて操縦安定性や乗り心地を向上させることができ、また、ワイパユニットに対する支持剛性を向上することができ、しかも、エンジン室の空間を拡大できるカウルトップパネル、及び、同カウルトップパネルを備えた自動車の前部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、上面側にワイパユニットが搭載されるカウルトップパネルにおいて、車長方向の中央部には、車幅方向に直線状に延びる補強用屈曲部が形成されるとともに、その補強用屈曲部の車長方向における前後両位置にワイパユニットのブラケットの前後両端部を支持するための支持部を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、両端に、サスペンションタワーの上端に固定するための固定部を設けたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のカウルトップパネルを、その両端の固定部において左右のサスペンションタワーの頂部に固定し、前記支持部にワイパユニットのブラケットを支持したことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記カウルトップパネルには、前記補強用屈曲部に隣接して車幅方向に延びる補助補強用屈曲部を形成し、前記ブラケットをその補強用屈曲部及び補助補強用屈曲部を跨ぐように設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記ブラケットを、前記補助補強用屈曲部を跨ぐように設けた第1ブラケットと、第1ブラケットとカウルトップパネルとの間に設けられ、前記補強用屈曲部を跨ぐように設けられた第2ブラケットとしたことを特徴とする。
【0012】
(作用)
従って、カウルトップパネルには、直線状の補強用屈曲部により曲げ剛性が付与される。このため、カウルトップパネルの両端部を左右サスペンションタワーの頂部に結合することにより、部品点数を増やすことなく車体前部の剛性が向上する。従って、構成を簡素化できるとともに、エンジン室内の占有スペースを小さくできる。加えて、カウルトップパネルには、補強用屈曲部を跨いで固定されたブラケットを介してワイパユニットが支持される。このため、ワイパユニットから曲げモーメントが加えられてもカウルトップパネルの変形が抑制される。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、車体前部の剛性を向上させて操縦安定性や乗り心地を向上させることができ、また、ワイパユニットに対する支持剛性を向上することができ、しかも、エンジン室の空間を拡大できるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、この発明を具体化した一実施形態を図1〜図4に従って説明する。
図2に示すように、自動車の車体前部におけるエンジン室Eと車室Rとの間には、フロントシールドの下端に位置するカウルトップパネル10が設けられている。このカウルトップパネル10は、左右のフロントピラー11間に設けられるカウルトップインナパネル12と、このカウルトップインナパネル12の前方に位置するカウルトップアウタパネル14とを備えている。カウルトップアウタパネル14はその左右両端部において、左右のフロントサスペンションタワー15の頂部に対して左右それぞれ複数のボルト16により結合されている。
【0015】
図3及び図4(a),(b)に示すように、カウルトップアウタパネル14には、車長方向、車幅方向及び上下方向における曲げ剛性を付与するために車長方向において多段に屈曲されている。すなわち、カウルトップアウタパネル14には、車長方向における屈曲により、下部フランジ部18、起立部19、下部平面部20、下部傾斜部21、上部平面部22、上部傾斜部23及び上部フランジ部24が順に形成されている。下部フランジ部18、起立部19及び下部平面部20はほぼ直角をなし、この下部フランジ部18、起立部19及び下部平面部20により車幅方向に直線状に延びる補強用屈曲部25が形成されている。また、下部平面部20と下部傾斜部21、下部傾斜部21と上部平面部22、上部平面部22と上部傾斜部23、及び、上部傾斜部23と上部フランジ部24とにより補助補強用屈曲部29a,29b,29c,29dがそれぞれ形成されている。起立部19は、図4(a)に示すように、カウルトップアウタパネル14に対する平面視において直線状をなしている。また、カウルトップアウタパネル14の両端部には、前記ボルト16を挿通させるための固定部としての孔26が複数形成されている。
【0016】
図3及び図4(a),(b)に示すように、カウルトップアウタパネル14の上面の左右方向中央部には、第1ブラケット27及び第2ブラケット28が支持固定されている。第1ブラケット27は、下部傾斜部21及び上部平面部22よりなる補助補強用屈曲部29bを跨ぐように配置され、その前後両端部27a,27bが下部平面部20及び上部傾斜部23にそれぞれスポット溶接されている。また、第2ブラケット28は、起立部19、下部平面部20及び下部傾斜部21を跨ぐように配置され、その前後両端部28a,28bが下部フランジ部18及び第1ブラケット27にそれぞれスポット溶接されている。すなわち、第2ブラケット28は、補強用屈曲部25及びそれに隣接する補助補強用屈曲部29a,29bを跨ぐように配置されている。
【0017】
そして、ワイパユニット30は、第2ブラケット28を介してカウルトップアウタパネル14上に固定され、補強用屈曲部25及びこれと隣接する補助補強用屈曲部29a,29bを跨いだ前後位置で支持されている。この実施形態においては、下部フランジ部18、下部平面部20及び上部傾斜部23が支持部を構成する。ワイパユニット30はタンデムタイプであって、DCモータ31、減速ギヤ部32、動力伝達部33及びピボット軸部34等から構成され、一対のピボット軸部34にそれぞれワイパブレード35(図4(b)に図示)が装着される。
【0018】
さて、車両の走行中には、フロントサスペンションの作動に伴って左右フロントサスペンションタワー15に各方向への力が付与される。ここで、左右フロントサスペンションタワー15はその頂部同士が、車幅方向に直線状に延びる補強用屈曲部25を形成したカウルトップアウタパネル14により連結されて拘束されている。従って、走行中における車体前部の変形が抑制され、操縦安定性や乗り心地が向上するとともに騒音の発生が抑制される。
【0019】
また、ワイパユニット30の作動中には、ワイパユニット30からカウルトップアウタパネル14に第1ブラケット27及び第2ブラケット28を介して車幅方向及び車長方向の曲げモーメントが繰り返し加えられる。しかしながら、カウルトップアウタパネル14には、補強用屈曲部25及び補助補強用屈曲部29a〜29d、特に補強用屈曲部25により車幅方向において上下方向の曲げ剛性が付与されている。加えて、ワイパユニット30は、補強用屈曲部25及び補助補強用屈曲部29a,29bを跨いで固定された第1ブラケット27及び第2ブラケット28を介してカウルトップアウタパネル14に支持されている。このため、第1ブラケット27及び第2ブラケット28が補強作用を発揮し、カウルトップアウタパネル14は、ワイパユニット30から曲げモーメントを加えられても車長方向において上下方向に殆ど湾曲することはなく、ワイパユニット30に対する支持が不安定となることはない。従って、ワイパユニット30の動作が不安定となることはなく、その拭き取りが適切に行われなかったり異音が発生したりすることは防止される。
【0020】
従って、この実施形態の前部車体構造は、以下の効果を発揮する。
(1) カウルトップアウタパネル14は、車長方向の中央部において車幅方向に直線状に延びる補強用屈曲部25により車幅方向における曲げ剛性が向上されている。そして、カウルトップアウタパネル14はその両端部が左右フロントサスペンションタワー15の頂部に結合されている。従って、カウルトップアウタパネル14により左右フロントサスペンションタワー15同士を拘束できることから、車体剛性を向上でき、走行中における車体前部の変形を抑制し、操縦安定性や乗り心地を向上させるとともに騒音の発生を抑制することができる。
【0021】
(2) カウルトップアウタパネル14は、左右のエプロンアッパメンバ13間を直線的に連絡する形状であるので、一般的なタンデムタイプのワイパユニット30を装着することに適す。
【0022】
(3) ワイパユニット30を、補強用屈曲部25及び補助補強用屈曲部29a,29bを跨いで固定した第1ブラケット27及び第2ブラケット28を介してカウルトップアウタパネル14に支持させたので、ワイパユニット30からカウルトップアウタパネル14に加わる曲げモーメントに対する剛性を有効に向上させることができる。従って、前記と同様に車体剛性を向上でき、しかも、ワイパユニット30に対するカウルトップアウタパネル14の支持剛性を向上させ、その拭き取り動作を安定化したり異音の発生を防止したりすることができる。
【0023】
(4) 補強用屈曲部25を、カウルトップアウタパネル14の車長方向における中央部に一体形成したので、部品点数が増えることはない。このため、カウルトップアウタパネル14に取り付けられる部品がエンジン室Eの空間を小さくすることを防止して補器類の設置を制約しないようにすることができるとともに車両軽量化に寄与できる。
【0024】
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・起立部19及び補助補強用屈曲部29a〜29dを構成する平面部、斜面部の数を変更すること。すなわち、補助補強用屈曲部の数を変更すること。
【0025】
・第1ブラケット27を省略し、第2ブラケット28の前端部をカウルトップアウタパネル14に直接固定すること。
・補強用屈曲部25を直角以外の角度、例えば起立部19を下部フランジ部18、下部平面部20に対して鋭角状にすること。
【0026】
・補強用屈曲部25の数を変更すること。すなわち、起立部19を複数箇所に設けること。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態の前部車体構造を示す斜視図。
【図2】車体前部の一部を示す斜視図。
【図3】カウルトップアウタパネルを示す斜視図。
【図4】(a)カウルトップアウタパネルを示す平面図、(b)(a)におけるa−a線断面図。
【図5】従来の前部車体構造を示す斜視図。
【図6】従来の前部車体構造を示す斜視図。
【符号の説明】
【0028】
10…カウルトップパネル、12…カウルトップインナパネル、14…カウルトップアウタパネル、15…フロントサスペンションタワー、16…固定部としてのボルト孔、18…補強用屈曲部を構成する支持部としての下部フランジ部、19…補強用屈曲部を構成する起立部、20…補強用屈曲部を構成する支持部としての下部平面部、23…支持部としての上部傾斜部、25…補強用屈曲部、26…固定部としての孔、27…第1ブラケット、27a,27b…(第1ブラケットの)端部、28…第2ブラケット、28a,28b…(第2ブラケットの)端部、29a〜29d…補助補強用屈曲部、30…ワイパユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側にワイパユニットが搭載されるカウルトップパネルにおいて、
車長方向の中央部には、車幅方向に直線状に延びる補強用屈曲部が形成されるとともに、その補強用屈曲部の車長方向における前後両位置にワイパユニットのブラケットの前後両端部を支持するための支持部を設けたことを特徴とするカウルトップパネル。
【請求項2】
両端に、サスペンションタワーの上端に固定するための固定部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のカウルトップパネル。
【請求項3】
請求項2に記載のカウルトップパネルを、その両端の固定部において左右のサスペンションタワーの頂部に固定し、前記支持部にワイパユニットのブラケットを支持したことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項4】
前記カウルトップパネルには、前記補強用屈曲部に隣接して車幅方向に延びる補助補強用屈曲部を形成し、前記ブラケットをその補強用屈曲部及び補助補強用屈曲部を跨ぐように設けたことを特徴とする請求項3に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項5】
前記ブラケットを、前記補助補強用屈曲部を跨ぐように設けた第1ブラケットと、第1ブラケットとカウルトップパネルとの間に設けられ、前記補強用屈曲部を跨ぐように設けられた第2ブラケットとしたことを特徴とする請求項4に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−190620(P2009−190620A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34753(P2008−34753)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】