説明

カカオ成分を含有する大腸炎抑制剤

【課題】大腸炎を抑制する効果に優れた薬理活性を有する食品の提供。
【解決手段】カカオ成分を含有する、あるいは、カカオ由来のカカオポリフェノールを含有する大腸炎抑制剤、並びに食品。該カカオ成分が、カカオマスまたは脱脂カカオである事が好ましい。大腸炎が炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸炎の抑制剤および抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大腸炎には、細菌やウイルスによる感染性大腸炎の他、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患がある。特に、潰瘍性大腸炎は、近年患者数が増加傾向にある。この疾患に罹ると大腸粘膜にびらんや潰瘍ができ、激しい下痢や下血、腹痛を伴う。大腸炎の症状は患者のQOLを著しく損なうが、潰瘍性大腸炎に関しては病因が不明で、完治する方法は未だない。そのため、対症療法的に抗炎症剤を用いることがあるが、強い抗炎症剤は胃粘膜を荒らすなどの副作用が報告されている。症状が重篤な場合は外科的手術を施すが、実施の際、大きな苦痛を伴うことが問題とされた。
食品原料からの抽出物で大腸炎を予防する方法も報告されているが、日常摂取する機会の少ない原料であったり、抽出工程が煩雑であったりするため利便性等に問題が残っていた(特許文献1)。
強い副作用や苦痛を伴わず、かつ、日常的に摂取する食品原料から得られる成分にて大腸炎を予防または抑制することが望まれていた。
【特許文献1】特開2006−232765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、強い副作用を有さず、苦痛を伴わない大腸炎抑制剤または飲食物を、簡便な製造方法で、日常的に摂取できる食品原料を用いて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、日常摂取する機会の多いカカオ成分に大腸炎を抑制する効果に優れた成分が含まれることを見出し、本発明を完成した。
上記課題を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
項目1. カカオ成分を含有する大腸炎抑制剤。
項目2. カカオ成分が、カカオマスまたは脱脂カカオである、項1記載の大腸炎抑制剤。
項目3. カカオ成分が、カカオマスマスまたは脱脂カカオ由来の、カカオポリフェノールを含む抽出物である、項1記載の大腸炎抑制剤。
項目4. 大腸炎が炎症性腸疾患である、項1から3記載の、大腸炎抑制剤。
項目5. 大腸炎が潰瘍性大腸炎である、項1から3記載の、大腸炎抑制剤。
項目6. 大腸炎抑制剤を含む、項1から5記載の飲食物。
項目7. カカオ成分由来のカカオマスを1日に10gから100g摂取する、大腸炎抑制方法。
項目8. カカオ成分由来の脱脂カカオを1日に5gから50g摂取する、大腸炎抑制方法。
項目9. カカオマスマスまたは脱脂カカオ由来の、カカオポリフェノールを含む抽出物粉末を1日に1gから10g摂取する、大腸炎抑制方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の大腸炎抑制剤を用いることで、簡便な製造方法で、日常的に摂取できる食品原料を用いて、大腸炎を抑制できる。また、本発明により、抗炎症剤を用いたときのような強い副作用や、外科的手術を行ったときのような苦痛を伴わないで、大腸炎を抑制することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のカカオ成分は、カカオマスまたは脱脂カカオまたはカカオポリフェノールを含む抽出物である。
本発明のカカオマスは、カカオから製造され、食品原料として一般に用いられているものであれば、品種、生産国、製造方法は問わない。
本発明の脱脂カカオは、カカオマスから常法により油脂成分を完全に、または一部除去したもので、食品原料として一般に用いられているものであれば、品種、生産国、製造方法は問わない。
本発明の、カカオマスマスまたは脱脂カカオ由来の、カカオポリフェノールを含む抽出物は、カカオマス、または、脱脂カカオを水、有機溶媒、または含水有機溶媒から抽出されたものである。
本発明に用いる有機溶媒は、どのような物質でもよいが、食品製造に用いることができるエタノールやアセトンが安全面で好ましい。また、これらを組み合わせてもよい。
含水有機溶媒は、エタノールやアセトンに代表される水に可溶な有機溶媒と水を混合させたもので、これらはどのような比率でもよいが、有機溶媒が30から70体積%の含水有機溶媒が好ましい。
カカオポリフェノールを含む抽出物の抽出方法は、どのような方法でもよいが、温浴中で攪拌しながら加熱するのが効果的である。なお、有機溶媒を用いた場合は、抽出後、常法で有機溶媒を完全に除去する必要がある。
カカオポリフェノールを含む抽出物は、有機溶媒を除去した含水液として用いてもよいが、乾固させて粉末化したものも利便性があるため有用である。
本発明での有効成分はカカオマス、脱脂カカオ、またはカカオポリフェノールを含む抽出物であり、その有効な摂取量は、カカオマスなら1日に10gから100g、好ましくは10gから50g、更に好ましくは20gから40g、脱脂カカオなら1日に5gから50g、好ましくは5gから25g更に好ましくは10gから20g、カカオポリフェノールを含む抽出物なら粉末換算で1日に1gから10g、好ましくは1gから5g、更に好ましくは2gから4gを摂取することで大腸炎抑制が期待できる。これらの範囲よりも少ない摂取量の場合、有効成分が少なくなるため、効果が期待できない。また、これらの範囲よりも多い場合は、日常に摂取できる範囲を超え、適切な摂取形態をなさない。
大腸炎抑制剤は、カカオ成分単独で構成されたものでもよいが、これ以外に、食品素材、食品添加物、医薬品素材と混合した複合の組成物でもよい。
カカオ成分単独の組成物または複合の組成物は、どのような形態でもよく、例えば、固形、粉末または液状などの飲食品形態、錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの製剤形態、飼料形態などが挙げられる。
【実施例】
【0007】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0008】
(実施例1)
脱脂カカオの大腸炎抑制効果試験:
(1)試験方法
(イ)試験群および飼育方法
ガーナ産カカオマス400gにn−ヘキサンを加え攪拌、遠心分離後、乾燥させることにより脱脂カカオ粉末187.5gを得た。
この脱脂カカオ粉末を、マウス用粉末飼料MF(オリエンタル酵母)に混合し、重量換算で0.1%および1%含有する被験飼料を作製した。
6週齢のICRマウスを7日間予備飼育した後、健常群、対照群、脱脂カカオ(DFC)0.1%群およびDFC1%群の4群に分け、それぞれ対照飼料および被験飼料(DFC0.1%および1%含有飼料)で16日間飼育した。健常群以外の3群に、各飼料投与9日目から、飲料水として3%DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)水溶液を、14日目からは5%DSS水溶液を与え、自由に摂取させることにより大腸炎を誘導した。試験期間中、マウスは室温23℃、湿度55%、明暗サイクル12時間の環境で飼育し、飼料、飲料水ともに自由摂取とした。各群の動物数は、健常群5匹、その他の3群はそれぞれ9匹で行った。
(ロ)大腸炎の抑制効果の評価方法および統計解析の方法
大腸炎の抑制効果は、飼育最終日に解剖を行ない、大腸を採取し、その長さを測定することにより判定した。大腸長は盲腸を含んだ長さとした。統計解析は、脱脂カカオ投与群(DFC0.1%群およびDFC1.0%群)と健常群、対照群の間で一元配置分散分析およびTukeyの多重比較により行った。
(2)試験結果
下記表1に示すように、対照群は健常群に比べて大腸長が有意に短縮していることが確認された。脱脂カカオ0.1%群および1%群は、健常群と比較して大腸長に有意な差が無かった。また、脱脂カカオ0.1群%は、対照群と比べて大腸長が有意に長かった。すなわち、脱脂カカオ0.1%含有飼料の摂取によって、大腸炎に伴う大腸長の短縮が有意に抑制された。
【表1】

【0009】
以上の結果から、脱脂カカオは、大腸炎に起因する大腸短縮を抑制し、大腸炎を抑制する作用を有していると結論した。なお、マウスの平均摂餌量(5.9g)および体重(30g)から、脱脂カカオ0.1%混餌投与群における脱脂カカオ摂取量は、体重60kgのヒトで1日あたり11.8gに相当する。
【0010】
(実施例2)
大腸炎抑制用製剤(錠剤)の製造:
(1) カカオポリフェノールを含む抽出物の作製方法
実施例1で得た脱脂カカオ粉末10gに50%エタノール水溶液を加え、80℃で3時間還流することにより抽出を行った。遠心分離後、上清を回収し、エタノールを除去し、凍結乾燥によりカカオポリフェノールを含む抽出物粉末を得た。
(2) 大腸炎抑制用製剤(錠剤)の製造
上記方法で得た抽出物粉末を用い、下記表2の組成で錠剤を作製した。
【表2】

【0011】
(実施例3)
大腸炎抑制用製剤(飲料)の製造:
実施例2(1)で得られた抽出物粉末を用い、下記表3の組成で飲料を作製した。実施例3で得られた飲料は比較例3と比べて味も良好であり、飲料として好ましい風味を持つものであった。
【表3】

【0012】
(実施例4)
大腸炎抑制クッキーの製造:
実施例2(1)で得られた抽出物粉末を用い、下記表4の組成でクッキーを作製した。実施例4で得られたクッキーは比較例4と比べて味も良好であり、食品として好ましい風味を持つものであった。

【表4】

【0013】
(実施例5)
大腸炎抑制チョコレートの製造:
実施例2(1)で得られた抽出物粉末を用い、下記表5の組成でチョコレートを作製した。実施例5で得られたチョコレートは比較例5と比べて味も良好であり、食品として好ましい風味を持つものであった。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0014】
大腸炎を抑制する組成物および食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ成分を含有する大腸炎抑制剤。
【請求項2】
カカオ成分が、カカオマスまたは脱脂カカオである、請求項1記載の大腸炎抑制剤。
【請求項3】
カカオ成分が、カカオマスマスまたは脱脂カカオ由来の、カカオポリフェノールを含む抽出物である、請求項1記載の大腸炎抑制剤。
【請求項4】
大腸炎が炎症性腸疾患である、請求項1から3記載の大腸炎抑制剤。
【請求項5】
大腸炎が潰瘍性大腸炎である、請求項1から3記載の大腸炎抑制剤。
【請求項6】
大腸炎抑制剤を含む、請求項1から5記載の飲食物。

【公開番号】特開2008−195652(P2008−195652A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32547(P2007−32547)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】