カスパーゼ−8ならびに炎症、感染および創傷治癒
本発明は、細胞内病原体による感染、炎症および創傷治癒におけるカスパーゼ−8の調節的役割に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内病原体による感染、炎症および創傷治癒におけるカスパーゼ−8の調節的役割に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインプロテアーゼのカスパーゼファミリーは、主に動物細胞のアポトーシス誘導におけるその中心的役割で知られている(Shiら、2002)。カスパーゼには、タンパク質分解部分の上流に位置する「プロドメイン(prodomain)」領域を特徴とし、アポトーシスを開始する役割を果たすものがある。それらのカスパーゼは、そのプロドメインの死−誘導受容体へのまたはこういった受容体に関連するアダプタータンパク質への結合に際して活性化され、一度活性化するとカスパーゼファミリーの他のメンバーを切断し、それによりそれらを活性化する。カスパーゼ−8(以前はMACH/FLICE/Mch4として知られていた)は、TNF/NGFファミリーの受容体のシグナル伝達複合体中で活性化されるイニシエーターカスパーゼであり、Fas−関連デスドメイン(FADD;MORT1とも呼ばれる)とよばれるアダプタータンパク質へのカスパーゼ8プロドメインの結合により召集される(Boldinら、1996、Muzioら、1996およびWallachら、1999)。カスパーゼ−8の活性化は、これらの受容体により誘導されるアポトーシス死の機序(外因性細胞死経路)において決定的な開始事象となる(Varfolomeevら、1998)。カスパーゼ−8およびFADDの両方ともが、いまだ知られていない機序によって多様な非アポトーシス細胞過程に寄与している(たとえば、Varfolomeevら、1998、Zhangら、1998、Walshら、1998,Newtonら、1998、Alamら、1999、Kennedyら、1999、Chunら、2002、Sakamakiら、2002、Salmenaら、2003、Kangら、2004、Suら、2005およびBeisnerら、2005参照)。
【0003】
インビボでのカスパーゼ−8の働きは、多くの遺伝子導入マウスモデルを用いて探求されているが(Varfolomeevら、1998、Salmenaら、2003、Kangら、2004およびBeisnerら、2005)、いまだその酵素の生理学的または病態生理学的重要性についてはほとんど知られていない。
【発明の概要】
【0004】
一側面での本発明は、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用に関する。
【0005】
他の側面での本発明は、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0006】
一実施態様では、組織または器官はカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が、下方調節される細胞を有する。
【0007】
さらなる実施態様では、炎症が組織または器官切除により引き起こされる該組織または器官の損傷後に現れる。
【0008】
他のさらなる実施態様では、器官が肝臓であり、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が肝細胞において下方調節される。
【0009】
また他のさらなる実施態様では、炎症性疾患、障害または症状には、肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染が含まれるが、これに限定されない。
【0010】
本発明は、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用を提供する。
【0011】
また、本発明は、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法を提供する。
【0012】
さらなる側面での本発明は、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用に関する。
【0013】
またさらなる一側面での本発明は、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0014】
本発明の一実施態様では、細胞内病原体には、ミコバクテリア属(Mycobacteria)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルスが含まれるが、これに限定されない。
【0015】
本発明のさらなる実施態様では、感染が、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に現れる。
【0016】
本発明のまたさらなる実施態様では、感染が肝臓に現れる。
【0017】
本発明のまたまたさらなる実施態様では、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞が肝細胞である。
【0018】
本発明のまたまたさらなる実施態様では、感染がたとえばリステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)などのリステリア属により引き起こされる。
【0019】
本発明の一実施態様では、細胞内病原体がウイルスであり、したがって本発明はウイルス性感染などの疾患に関する。
【0020】
またまたさらなる側面では、本発明はカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用に関する。
【0021】
またまたさらなる側面では、本発明はカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する器官または組織において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0022】
本発明の目的は、創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法を提供することである。
【0024】
本発明の一実施態様では、創傷または損傷が、組織または器官切除後に現れる。
【0025】
本発明のさらなる実施態様では、器官が肝臓である。
【0026】
本発明のまたさらなる実施態様では、創傷または損傷が、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断を含まれるが、これに限定されない身体的外傷後に現れる。
【0027】
本発明の他の目的は、損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用を提供することである。
【0028】
本発明の他のさらなる目的は、損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法を提供することである。
【0029】
本発明のある実施態様では、カスパーゼ−8阻害剤には、アンチセンスmRNA、低分子干渉RNA、カスパーゼ−8特異的抗体および阻害低分子が含まれるが、これに限定されない。
【0030】
本発明のさらなる実施態様では、阻害低分子がZ−IETD−FMKなどの100〜5000ダルトンの分子量を有する低分子である。
【0031】
本発明の他のさらなる目的は、損傷した肝臓の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、炎症阻害剤と組み合わせてのカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用を提供することである。
【0032】
本発明の一実施態様では、損傷が肝臓切除後に現れる。
【0033】
本発明のさらなる実施態様では、肝臓の1/3が切除される。
【0034】
本発明の他のさらなる実施態様では、肝臓の2/3が切除される。
【0035】
本発明の他のさらなる実施態様では、カスパーゼ−8阻害剤が、カスパーゼ−8特異的アンチセンスmRNA、カスパーゼ−8特異的低分子干渉RNA、抗−カスパーゼ−8抗体およびカスパーゼ−8阻害低分子より選択される。
【0036】
本発明の他のさらなる実施態様では、阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する。
【0037】
本発明の他のさらなる実施態様では、阻害低分子がZ−IETD−FMKである。
【0038】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤が、マクロファージ、たとえばクッパー細胞などの免疫細胞を阻害することができる薬剤である。
【0039】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤がカスパーゼ−8の阻害剤の後に投与される。
【0040】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤が、肝臓切除後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11日または12日に投与される。
【0041】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤が塩化ガドリニウムを含む。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1−1】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。全ての図において、黒棒はCasp8F/+:Alb−Creマウス(正常肝細胞を有する)を表し、空の棒はCasp8F/-:Alb−Creマウス(カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する)を表す。感染後24時間の、致死量以下での感染の後のマウス脾臓および肝臓から回復した生存リステリア生物。各時点でのF/+またはF/−マウスの各群において、少なくとも5匹のマウスが含まれた。
【図1−2】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。全ての図において、黒棒はCasp8F/+:Alb−Creマウス(正常肝細胞を有する)を表し、空の棒はCasp8F/-:Alb−Creマウス(カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する)を表す。感染後6日の、致死量以下での感染の後のマウス脾臓および肝臓から回復した生存リステリア生物。各時点でのF/+またはF/−マウスの各群において、少なくとも5匹のマウスが含まれた。
【図1−3】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。全ての図において、黒棒はCasp8F/+:Alb−Creマウス(正常肝細胞を有する)を表し、空の棒はCasp8F/-:Alb−Creマウス(カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する)を表す。感染後14日の、致死量以下での感染の後のマウス脾臓および肝臓から回復した生存リステリア生物。各時点でのF/+またはF/−マウスの各群において、少なくとも5匹のマウスが含まれた。
【図1−4】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。(D〜I)リステリア感染後、6日および14日のCasp8F/-:Alb−CreおよびCasp8F/+:Alb−Creマウス由来の肝臓切片の組織学的分析。(D、E)感染後6日の肝臓のH&E染色、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓における白血球の蓄積を明示している(矢印)。(F、G)Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓の感染後14日(G)では、大きな壊死性欠損がみられるが、一方、対照の肝臓では正常である(F)。DからGの倍率(×200)。(H、I)感染後14日の肝臓の抗−Ki67免疫染色、Casp8F/-:Alb−Creにおいては肝細胞の多数の増殖が明示されたが、Casp8F/+:Alb−Cre肝臓では明示されなかった(I;茶色に染色された核)。倍率:×100。
【図2A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。PHx後、早期(2日)および後期(14日)の肝臓の抗−Ki67免疫染色(茶色に染色された核)。倍率:×100。
【図2B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。1/3PHx後の種々の時点での肝細胞増殖、Ki67に対する抗体(またはBrdU;挿入画)で染色された肝細胞の数を決定することにより定量化され、Aで示されるような、10の高倍率視野(field)において数えられた。*P<.05、**P<.01。4つの独立した実験において、時点ごとに少なくとも8匹のマウスが試験された。
【図2C】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。2/3PHx後の種々の時点での肝細胞増殖、Ki67に対する抗体で染色された肝細胞の数を決定することにより定量化され、Aで示されるような、10の高倍率視野において数えられた。*P<.05、**P<.01。4つの独立した実験において、時点ごとに少なくとも8匹のマウスが試験された。
【図2D】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。1/3PHx(左パネル)および2/3PHx(右パネル)後の異なる時点での、肝臓における種々のG1/S−移行関連タンパク質(サイクリンA,サイクリンE,リン酸化網膜芽腫タンパク質)の量。各時点で少なくとも4匹のマウスにおいて行われた試験を代表する結果が示された。
【図2E】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。上のパネル、1/3PHx後2日の抗−サイクリンD1免疫染色。倍率:×400。下のパネル、サイクリンD1の増加の定量、1/3PHx後2日および4日、(上のパネルで示されたように)抗−サイクリンD1抗体で染色された肝細胞を、15の高倍率視野で数えることにより決定された。
【図3A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後4日に得られた、肝臓の代表的軸方向T1強調スピン−エコー画像。Casp8F/+:Alb−Creマウスの肝臓の代表的画像。破線は虚血域の輪郭を描く。矢印は、縫合材料を示す。
【図3B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後4日に得られた、肝臓の代表的軸方向T1強調スピン−エコー画像。Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓の代表的画像。矢印は、縫合材料を示す。
【図3C】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後の異なる時点での、PHx前肝臓体積のパーセンテージで表現された虚血域の体積、対照におけるよりもCasp8F/-:Alb−Creマウスで病変部位のサイズがより速く減少することが明示されている。各時点での各群において、少なくとも8匹のマウスが調査された。
【図3D】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位欠損の領域および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。Casp8F/+:Alb−Cre(■)およびCasp8F/-:Alb−Cre(○)マウスにおけるPHx前のパーセンテージ(平均±SD)で表現されるPHx後の肝臓体積、冠状方向および軸方向MRIスキャンで評価され、カスパーゼ−8欠損マウスの肝臓のより速いサイズ増加および異常に大きいサイズを明示している。*P<.05、**P<.01。早期の時点では(1〜4日)、群あたり少なくとも8匹のマウスが調査され、後期の時点では群あたり少なくとも4匹のマウスが調査された。
【図3E】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後2日のマウス肝臓の虚血域の組織学的分析を示す。上のパネル−PHx後2日のCasp8F/+Alb−Creマウスの肝臓の虚血域のH&E染色した切片。手術域において、肝実質の幽霊細胞および壊死[N]の大きな病巣がある。縫合材料[S]は、壊死性領域内にみられる。壊死性実質は浸潤白血球[I]の縁によって囲まれている。下のパネル、左−上のパネルの挿入部分で示された領域のTUNEL染色、この区域で見出された大量のアポトーシス(染色)を明示している。この領域の上方は、死んだ細胞および幽霊細胞であり(染色なし)、一方下方は生きた細胞(DAPI染色された核)である。下のパネル、右−創傷した肝実質の縁に位置する肝細胞の抗活性カスパーゼ−3免疫染色。細胞質と核の両方が染色されている。倍率:上のパネル×20;下のパネル、左×100;下のパネル、右×400。
【図4A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期灌流および血流力学的変化を示す。再生の間の肝臓における血流力学的変化は、機能的MRIによって評価された。MRIスキャンは、PHx前およびPHx後4日に得られた(各時点で群あたりn=4)。代表的MRI画像、ΔSo2およびΔSco2写像。上列、PHx前;下列、PHx後4日。左欄、T1強調スピン−エコー画像(SE);中欄、ΔSo2写像;右欄、ΔSco2写像。棒=1cm。値は彩色棒に示される通り。
【図4B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期灌流および血流力学的変化を示す。再生の間の肝臓における血流力学的変化は、機能的MRIによって評価された。MRIスキャンは、PHx前およびPHx後4日に得られた(各時点で群あたりn=4)。Casp8F/+:Alb−Cre(黒棒)およびCasp8F/-:Alb−Creマウス(空の棒)における平均ΔSo2およびΔSco2値±SD、*P<.02。
【図5A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的炎症および肝細胞増殖を示す。PHx後4日および6日の肝臓のF4/80免疫染色。倍率:×400。
【図5B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的炎症および肝細胞増殖を示す。材料および方法に記載されたような、正常肝臓のPHx後14日のH&E染色ならびに抗−Ki67および抗−F4/80抗体での免疫染色(F/+、上)、カスパーゼ−8欠損肝臓(F/−、中、同一肝臓における異なる領域を示している)、および塩化ガドリニウムで処置されたマウスのカスパーゼ−8欠損肝臓(GdCl、下)。H&E染色の倍率、×400;抗−Ki67抗体での免疫染色、×200;および抗−F4/80抗体での免疫染色、×100。
【図5C】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的炎症および肝細胞増殖を示す。上のパネル、PHx後14日の肝臓におけるSTAT−3のリン酸化のウェスタンブロッティング分析。下のパネル、PHx後の示した時間での肝臓のp−STAT3免疫染色。倍率:主パネルでは、×200;挿入画では、×400。黒矢印、マクロファージ;白矢印、肝細胞。
【図6A】PHx後の後期におけるカスパーゼ−8欠損肝細胞の増殖の増加は、炎症の次であることを示す。MRIスキャンで評価されたような、PHx後14日目の肝臓体積に対する塩化ガドリニウム処置の効果。各群において少なくとも4匹のマウスが試験された。*P<.05;**P<.01。
【図6B】PHx後の後期におけるカスパーゼ−8欠損肝細胞の増殖の増加は、炎症の次であることを示す。抗−Ki67抗体により染色され、10の高倍率視野内の染まった核を数えることにより評価された、PHx後14日目の肝細胞増殖に対する塩化ガドリニウム処置の効果。各群において少なくとも4匹のマウスが試験された。*P<.05;**P<.01。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明にしたがって、カスパーゼ−8が細胞内病原体による肝臓感染、炎症および治癒において調節的役割を有することが見出された。したがって、本発明は細胞内病原体により引き起こされる感染の治療、炎症の治療および創傷の治癒の円滑化のためのカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の調節に関する。
【0044】
本発明は、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠損の肝機能への効果を調査する間に得られた知見に基づいている。本発明により、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠損は、細胞内病原体リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)による感染に対するマウスの耐性を危うくすること、部分肝切除(PHx)は、肝細胞にカスパーゼ−8が存在しない場合、慢性炎症段階の兆候を伴うこと、肝細胞にカスパーゼ−8が存在しないことが肝臓の外傷の早急な治癒を促進することが発見された。
【0045】
ヒト損傷肝臓の性質は、実施例部分に記載するように、肝臓の中間葉の摘出(30%PHx)または中間、左および右上葉摘出(70%PHx)によるマウスの部分肝切除(PHx)からなる関連実験的動物モデルにより模倣可能であった。本発明により、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠損が、肝臓損傷後の肝臓再生に幾通りかの方法で影響することがPHxモデルを用いて見出された。たとえば、カスパーゼ−8が存在しない場合に、より早急にPHxにおける外傷が治癒する。外傷治癒の改善は、損傷誘導直後、PHx後約2日および4日に観察された。これらの発見を考慮すると、本発明の一側面は、器官または組織における外傷、損傷または創傷の治癒を促進または円滑化するためのカスパーゼ−8の活性および/またはレベルの阻害に関する。一実施態様では、本発明はカスパーゼ−8の活性および/またはレベルを阻害することにより、虚血性外傷の回復を改善することに関する。本発明は、特に創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進するためのカスパーゼ−8レベルおよび/または活性の阻害剤の使用に関する。創傷および損傷は、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断を含むが、これに限定されない身体的外傷により引き起こされ得る。
【0046】
カスパーゼ−8の阻害剤は、器官または組織切除前、中または後の外科的方法において使用され得る。術後のカスパーゼ−8の阻害処理は、肝臓の術後外傷の治癒に有利な効果を有し得る。
【0047】
本発明では、治癒を増進および/または円滑化するための組織切除前、中および/または後のカスパーゼ−8の阻害剤の使用を検討する。本発明の一実施態様では、カスパーゼ−8の阻害は組織切除前に行われる。
【0048】
本発明にしたがって、カスパーゼ−8阻害の創傷治癒に対する有利な効果は、炎症兆候の前に、部分肝切除により引き起こされる損傷後、初期とすでに数日経た後とに検出された(図3D)。したがって、カスパーゼ−8の阻害剤は、損傷および/または器官切除前、中または後の短期間に有利に投与され得る。たとえば、カスパーゼ−8阻害剤は、創傷治癒を増進するために数時間から1、2、3日間および4日未満の間適用され得る。カスパーゼ−8の阻害剤は、創傷治癒を増加させるため10〜60分間、10、20、30もしくは45分間以上または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間まで使用することができる。
【0049】
本発明にしたがって、クッパー細胞の機能を妨害しその除去を誘導する塩化ガドリニウム(GdCl)の注射は、結果として遅延した肝細胞増殖を制止させ、肝細胞において長期にカスパーゼ−8が存在しない場合に生じる肝腫を予防する。PHx後すぐに促進される肝細胞増殖が減少せず、むしろGdCl処理により増強されるという事実を考慮すると、この遅延した肝細胞増殖の制止は特に驚くべきことである。よって、カスパーゼ−8阻害剤を用いた損傷した組織のより長時間の治療には、カスパーゼ−8阻害剤と抗炎症剤または炎症細胞の蓄積を除去することができる薬剤を併用することが有益であり得る。たとえば、カスパーゼ−8の阻害剤は、創傷の治癒、損傷からの組織の回復および/または組織再生の円滑化のために、塩化ガドリニウムなどの抗炎症剤と共に、4日間までまたはより長く、たとえば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日間および1ヵ月間まで投与することができる。
【0050】
カスパーゼ−8の阻害剤のみで、または抗炎症剤もしくは炎症細胞の蓄積を除去しうる剤と共に、損傷した肝臓の治癒、損傷からの肝臓の回復および/または肝臓の再生を円滑化するために、たとえば悪性腫瘍、転移または硬変域が肝臓から除去または切除された場合において、使用することができる。
【0051】
生存ドナーと患者間の肝臓提供には、移植片とレムナント肝臓のどちらも提供者および/または移植者の生命を支持するには小さ過ぎるので問題がある。概して、移植片の体重に対する割合が0.8以上であると安全なようである(Leeら、2004)。カスパーゼ−8の阻害のみ、または抗炎症剤もしくは炎症細胞の蓄積を除去することができる薬剤を併用する阻害は、ドナーの肝臓における現在の安全限界より小さい肝臓塊にまで、肝臓切除をさらに拡大することを可能にし得る。
【0052】
本発明は、創傷部位において全身的におよび/または局所的に投与されるカスパーゼ−8の阻害剤の使用を検討する。
【0053】
「カスパーゼ−8の阻害剤」という用語は、本発明の文脈では、カスパーゼ−8産生および/または作用が軽減、減少または部分的に、実質的にもしくは完全に予防もしくは防害されるように、カスパーゼ−8産生および/または作用を調節する任意の分子をいう。用語「カスパーゼ−8阻害剤」は、カスパーゼ−8産生の阻害剤およびカスパーゼ−8作用の阻害剤を含むことを意味する。カスパーゼ−8の阻害剤は、たとえば肝細胞を標的とし得る(以下参照)。
【0054】
産生の阻害剤は、カスパーゼ−8の合成、プロセシングまたは成熟に否定的に影響する任意の分子であり得る。本発明にしたがって、阻害剤はたとえば、カスパーゼ−8の遺伝子発現のサプレッサー、カスパーゼ−8mRNAの転写を減少もしくは予防するため、またはmRNAの分解に導くためのアンチセンスmRNAまたは二本鎖RNA様低分子干渉RNA(Hunterら、1975)、カスパーゼ−8の正確な折り畳みを害するタンパク質、一旦合成された場合、カスパーゼ−8を分解するプロテアーゼ、および活性なカスパーゼ−8を産出するためのプロカスパーゼ−8の開裂の阻害剤であり得ると考えられる。
【0055】
カスパーゼ−8作用の阻害剤は、カスパーゼ−8のアンタゴニストであり得る。アンタゴニストは、充分な親和性および特異性でカスパーゼ−8分子自身に結合または分子を隔離し、部分的にまたは実質的にカスパーゼ−8を中和することができる。
【0056】
カスパーゼ−8作用の阻害剤は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体などのカスパーゼ−8特異的抗体、またはカスパーゼ−8の標的への結合を防止することによりカスパーゼ−8が調節する反応の誘発を減少または防止する他の任意の薬剤または分子であり得る。
【0057】
用語「タンパク質の阻害剤」は、本発明の文脈では、タンパク質の産生および/または作用を、該タンパク質の産生および/または作用を軽減、減少または部分的に、実質的にもしくは完全に予防もしくは妨害するような方法で、下方調節することができるタンパク質(たとえば、抗体)、ポリヌクレオチド(たとえば、アンチセンスおよび低分子干渉RNA)および低分子阻害剤(small inhibitory molecule)などの任意の剤をいう。
【0058】
低分子阻害剤は、100〜5000、200〜5000、200〜2000または200〜1000ダルトンの分子量の有機(炭素を含有する)または無機化合物であり得る。低分子は、代謝産物、代謝類似体、ペプチド、ペプチド類似体、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、ヘテロ有機化合物および有機金属化合物を含むが、これに限定されるものではない。たとえば、カスパーゼ−8阻害低分子は、カスパーゼ結合を首尾よく競合するペプチドであり得る。ペプチドWEHD、VDVADおよびDEVDは、カスパーゼに結合するペプチドの例である。一定のアルデヒド、亜硝酸塩またはケトン化合物にカスパーゼ特異的ペプチドを連結することにより、カスパーゼ活性化の可逆的または不可逆的阻害剤を産出することが可能である。Z−IETD−FMKなどのフルオロメチルケトン(FMK)誘導ペプチドは、効果的な不可逆的阻害剤として作用する。N−末端およびO−メチル側鎖にベンジルオキシカルボニル基(BOCまたはZとして知られる)を有するよう合成された阻害剤は、細胞透過性の増強を示し、それによりインビボでの使用を円滑化する。
【0059】
カスパーゼ−8の阻害剤の例は、(i)cFLIPショート(CASHベータ)、(ii)cFLIPロング(CASHアルファ)、(iii)カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質(CARPs、McDonald ER 3rd,El-Deiry WS,Proc Natl Acad Sci USA.2004 Apr 20;101(16):6170-5)、ならびにIETD−FMK(R&D Systems Cat No. FMK007)などのカスパーゼ−8の化学的阻害剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0060】
用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(MAbs)、キメラ抗体、可溶型または結合型において標識され得る抗体に対する抗−イディオタイプ(抗−Id)抗体、およびヒト化抗体、ならびに酵素的開裂、ペプチド合成または組換え技術などの、しかしこれらに限定されない公知技術により得られるそれらの断片を含むことを意味する。
【0061】
モノクローナル抗体は、実質的に類似のエピトープ結合部位を有する、抗原に特異的な抗体の実質的に均質な集団を含包する。Mabsは当業者に公知の方法により、得られ得る。たとえば、KohlerおよびMilstein, Nature, 256:495-497(1975);米国特許第4,376,110号明細書;Ausubelら編、HarlowおよびLane ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Laboratory(1988);およびColliganら編、Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.およびWiley Interscience N. Y.、(1992-1996)参照、これら参考文献の内容は、本明細書中に参考文献により完全に組み込まれている。これら抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、GILDを含む任意の免疫グロブリン類およびその任意の下位分類であり得る。本発明のmAbを産出するハイブリドーマは、インビトロ、インサイチュまたはインビボで培養され得る。インビボまたはインサイチュでの高力価のMabsの産出は、現在好ましい産出方法である。
【0062】
キメラ抗体は、マウスのMab由来の可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する分子などの、異なる部分が異なる動物種由来の分子である。キメラ抗体は、たとえばマウスMabsがハイブリドーマからのより高い産出高を有するが、ヒトにおいて免疫原性がより高い場合にヒト/マウスキメラMabsが使用されるように、主に適用において免疫原性を減じるためおよび産出において産出高を増加させるために使用される。キメラ抗体およびその産出方法は、その技術分野において公知である(Cabillyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3273-3277(1984);Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984);Boulianneら、Nature 312:643-646(1984);Cabillyら、欧州特許出願公開第125023号明細書(1984年11月14日公開);Neubergerら、Nature 314:268-270(1985);Taniguchiら、欧州特許出願公開第171496号明細書(1985年2月19日公開);Morrisonら、欧州特許出願公開第173494号明細書(1986年3月5日公開);Neubergerら、国際公開第86/01533号パンフレット(1986年3月13日公開);Kudoら、欧州特許出願公開第184187号明細書(1986年6月11日公開);Sahaganら、J. Immunol. 137:1066-lO74(1986);Robinsonら、国際公開第87/02671号パンフレット(1987年5月7日公開);Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443(1987);Sunら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218(1987);Betterら、Science 240:1041-1043(1988);Riechmannら、Nature 332:323-327、ならびにHarlowおよびLane、ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL、上記)。これらの参考文献は、参考文献により完全に本明細書に組み込まれている。
【0063】
「完全ヒト化抗体」は、ヒト免疫グロブリンの可変および定常領域の両方を含んでいる分子である。完全ヒト化抗体は、自己免疫性疾患などの慢性および再発性疾患に繰り返しの治療が必要とされるような治療用途に潜在的に使用することができる。完全ヒト化抗体の1つの製造方法としては、マウス体液免疫システムの「ヒト化」、即ち内因性Ig遺伝子が不活性化されているマウスにヒト免疫グロブリン(Ig)座を導入することにより、ヒトIgを産出できるマウス系統(ゼノマウス(Xenomice))を産出することからなる。Ig座は、その物理的構造、ならびに広い免疫応答を最終的に産出するために必要とされる、遺伝子再配列および発現過程の両方の点において非常に複雑である。抗体の多様性は、主にIg座に存在する異なるV、DおよびJ遺伝子間の組み合わせ再配列により発生する。これらの座は、抗体発現、対立遺伝子排除、クラススイッチおよび親和性成熟を制御する散在性制御エレメントも含有している。マウスへの非再配列ヒトIg導入遺伝子の導入は、マウス組換え機構がヒト遺伝子に適合できることを立証した。さらに、様々なイソ型の抗原特異的hu−mAbsを分泌するハイブリドーマは、抗原でゼノマウスに免疫性を与えることで得られる。
【0064】
完全ヒト化抗体およびその製造方法は、その技術分野において公知である(Mendezら、Nature Genetics 15:146-156(1997);Buggemannら、Eur. J. Immunol. 21:1323-1326(1991);Tomizukaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:722-727(2000)、国際公開第98/24893号パンフレット。
【0065】
ある分子に特異的に反応でき、それにより抗体にその分子を結合するモノクローナル抗体は、その分子に「結合できる」といわれる。用語「エピトープ」は、任意の分子の抗体により結合され得る部分を意味し、その抗体により認識することもできる。エピトープまたは「抗原決定基」は、通例アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面グルーピングからなり、特異的3次元構造特性および特異的電荷特性を有する。
【0066】
本発明にしたがって、カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する肝臓の肝切除は、最終的に炎症を誘発し、したがって、カスパーゼ−8の役割は、炎症の抑制に関連していることが見出された。カスパーゼ−12(Salehら、2006)は炎症性メディエーターを抑制すると報告され、カスパーゼ−1、4、5、11(Martinonら、2004)などの他の哺乳類のカスパーゼは炎症性メディエーター、IL−1およびIL−18の産生を触媒すると報告されたが、炎症におけるこのカスパーゼ−8の新規な役割は、発表されている文献からは予測不可能であった。カスパーゼ−8欠損マウスにおいては、カスパーゼ−8を欠いていない対照同腹子と比較して、肝臓切除後数日では細胞増殖は少ないことが観察されたが、後にカスパーゼ−8の欠損の効果は逆転し、カスパーゼ−8欠損肝細胞は増殖し続けた。過度の増殖は、結果として異常に肥大した肝臓をもたらした。本発明者らによる発見は、持続した肝細胞の増殖は、炎症の結果であることを示唆した。これらの発見を考慮に入れると、本発明は、組織または器官における炎症を予防または減少させるためのカスパーゼ−8活性/レベルの誘導または増強にも関連している。抗炎症剤としてのカスパーゼ−8の使用は有益であるが、カスパーゼ−8レベルまたは活性が下方調節されている細胞を有する組織または器官に限定されるものではない。よって、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤が、炎症性疾患、障害または症状を治療するために使用され得る。炎症性疾患、障害または症状の例としては、肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染があげられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
カスパーゼ−8機能の肝細胞における免疫応答に対する寄与は、カスパーゼ−8欠損肝細胞を有するマウス(Casp8F/―:Alb−Cre)に致死量以下のリステリア モノサイトゲネス(L. monocytogenes)を静脈接種した後の異なる時点での感染からの回復について、対照同腹子(Casp8F/+:Alb−Cre)と比較することで評価された。本発明にしたがって、肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損は、細胞内病原体リステリア モノサイトゲネスに対するマウスの耐性を減じることが見出された。
【0068】
肝臓は、血液循環からのリステリア除去の主たる部位であり、リステリア感染が持続する主要な部位でもある。感染の制止は、感染した肝細胞を殺すための免疫系の細胞の能力に大きく依存している。感染後の早期では、肝細胞にカスパーゼ−8が存在しないことはリステリアの産生量に何ら影響しないようであり、感染の後期ではカスパーゼ−8欠損肝細胞を有するマウスは、増加し持続する肝臓感染を示した。カスパーゼ−8作用の作動機序または様式に関する如何なる説にも縛られず、本発明者らの発見は、カスパーゼ−8は、感染細胞の破壊を増強することにより感染との闘いを補助できることを示唆する。しかしながら、カスパーゼ−8の他の防御機序への寄与は、しかしながら排除できない。本明細書中に示される結果と、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠失が、これらの細胞に受容体Fasの細胞毒効果に対する耐性を与える(Kangら、2004)ことを示す近年の報告とから、カスパーゼ−8欠損肝細胞における増加し持続する細胞内病原体の感染は、Tリンパ球がFasを通して感染肝細胞を除去することに失敗したためである可能性が提起される。
【0069】
概して、細胞内病原体に対する免疫防御の調査に広く採用される動物モデル系を用い、本発明にしたがって、カスパーゼ−8レベルおよび/または活性が肝臓における細胞内病原体に対する防御に関与すること、ならびにカスパーゼ−8レベルおよび/または活性の増加は細胞内病原体の根絶に利用され得ることが見出された。一実施態様では、カスパーゼ−8レベルおよび/または活性の増加は、ヒトの肝細胞から細胞内病原体を根絶するために使用することができる。
【0070】
よって、本発明の他の側面は、哺乳類において細胞内病原体により引き起こされる感染を減じるためにカスパーゼ−8活性および/もしくはレベルを増強または誘導することに関する。細胞内病原体の例には、ミコバクテリア属(Mycobacterium)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルス(Steinertら、2002ならびにGruenheidおよびGros, 2002)が含まれるが、これらに限定されるものではない。ミコバクテリア感染の例には、ミコバクテリア ボビス(Mycobacterium bovis)、ミコバクテリア ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、ミコバクテリア アビウム(Mycobacterium avium)およびミコバクテリア レプラムリウム(Mycobacterium lepraemurium)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
カスパーゼ−8活性および/もしくはレベルを増強または誘導することは、炎症性疾患、障害または症状を治療するために使用され得る、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を使用することにより効果をあげることができる。
【0072】
カスパーゼ−8、ムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体は、カスパーゼ−8またはムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体をコードし、それらを発現することができる発現ベクターを使用し投与することができる。
【0073】
「タンパク質を上方調節することができる薬剤」または「タンパク質のアクチベーター」という用語は、本発明の内容においては、該タンパク質レベルおよび/または活性を上方調節することができるタンパク質、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドおよび低分子などの任意の薬剤もしくはアクチベーターをいう。
【0074】
カスパーゼ−8のアクチベーターの例には、FADD、カスパーゼ−8を開裂できるカスパーゼ−6およびカスパーゼ−3のようなカスパーゼ、ならびに間接的にはTNF/NGFファミリーの様々な死受容体が含まれるが、これらに限定されるものではない。構成された的確な細胞に依っては、cFLIPロングもまたカスパーゼ−8アクチベーターとしての役目を果たし得る。
【0075】
本明細書中で使用されるように、用語「ムテイン」は、元のカスパーゼ−8と比べて結果としてできた産物の活性が相当に変化することなしに、カスパーゼ−8の天然発生要素の1以上のアミノ酸残基が異なるアミノ段残基によって置換されている、もしくは欠損している、または1以上のアミノ酸残基が元のカスパーゼ−8配列に付加されているカスパーゼ−8の類似体をいう。これらのムテインは、公知の合成および/もしくは特定部位の突然変異誘発手法によって、または他の公知なそれに適した手法によって製造される。
【0076】
本発明にしたがって使用されるムテインは、カスパーゼ−8をコードするDNAまたはRNAに、本発明にしたがってストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNAまたはRNAなどの核酸によってコードされるタンパク質を含む。用語「ストリンジェントな条件」は、当業者が通常「ストリンジェント」と呼ぶハイブリダイゼーションおよびそれに続く洗浄条件をいう。Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, 上記、Interscience, N. Y., §§6.3および6.4(1987, 1992)、ならびにSambrookら(Sambrook, J. C., Fritsch, E. F., およびManiatis, T.(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)参照。
【0077】
限定なしに、ストリンジェントな条件の例は、調査下で産出されたハイブリッドのTmの12〜20℃低い洗浄条件を含み、たとえば2×SSCおよび0.5%SDSに5分間、2×SSCおよび0.1%SDSに15分間、0.1×SSCおよび0.5%SDSに37度で30〜60分間ならびにその後0.1×SSCおよび0.5%SDSに68℃で30〜60分間である。当業者は、ストリンジェントな条件はDNA配列、(10〜40塩基などの)オリゴヌクレオチドプローブまたは混合オリゴヌクレオチドプローブの長さにも依存していることを理解する。もし混合プローブが使用される場合、SSCの代わりに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を用いることが好ましい。Ausubel、上記参照。
【0078】
任意のこのようなムテインは、実質的に類似の、またはよりよいカスパーゼ−8に対する活性を有するように、好ましくはカスパーゼ−8のアミノ酸配列を充分に複製したアミノ酸配列を有する。
【0079】
カスパーゼ−8の特徴的活性として、特異的基質部位におけるそのタンパク質分解活性がある。よって、任意の与えられたムテインがカスパーゼ−8と少なくとも実質的に同じ活性を有するかどうかは、決まりきった実験方法によって決定できる。変異体がタンパク質分解活性を有する限り、カスパーゼ−8と実質的に類似の活性を有するとみなすことができる。
【0080】
よって、任意の所定の変異体がカスパーゼ−8と少なくとも実質的に同じ活性を有するかどうかは、たとえば米国特許第6,399,327号明細書の実施例3に記載の基質にこのような変異体をさらすことを含む、決まりきった実験方法によって決定できる。
【0081】
好ましい実施態様では、任意のこのようなムテインはカスパーゼ−8の配列と少なくとも40%の同一性または相同性を有する。より好ましくは、カスパーゼ−8の配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、またはもっとも好ましくは少なくとも90%の同一性または相同性を有する。
【0082】
同一性は、配列を比較することにより決定される、2以上のポリペプチド配列または2以上のポリヌクレオチド配列間の関係を示す。概して、同一性とは、配列の長さの全体にわたって比較される、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチドの、それぞれヌクレオチドに対するヌクレオチドのまたはアミノ酸に対するアミノ酸の正確な一致をいう。
【0083】
正確な一致が存在しない配列には、「%同一性」が決定され得る。概して、比較される2つの配列は、配列間の最大の相関が生じるように並べられる。これには、アライメントの程度を高めるために、配列の片方または両方どちらかに「ギャップ(gap)」の挿入を含んでもよい。%同一性は、比較される配列それぞれの長さ全体にわたって決定され得(いわゆるグローバルアラインメント)、これは同一かかなり類似の配列に特に適しており、またはより短い定義された長さにわたって決定され得(いわゆるローカルアラインメント)、これは不揃いな長さの配列に適している。
【0084】
2以上の配列の同一性および相同性の比較の方法は、その技術分野においてよく知られている。よって、たとえばプログラムBESTFITおよびGAPを例とするウィスコンシン配列分析パッケージ(Wisconsin Sequence Analysis Package)、バージョン9.1(Devereux Jら、1984)で得られるプログラムが、2つのポリヌクレオチド配列間の%同一性ならびに2つのポリペプチド配列間の%同一性および%相同性を決定するために使用され得る。BESTFITは、SmithおよびWaterman(1981)の「ローカル相同性」アルゴリズムを用いており、2つの配列間の類似性が最もよい単一領域を見出す。配列間の同一性および/または類似性を決定するための他のプログラムも、当業者に公知であり、たとえばBLASTファミリーのプログラム(Altschul S Fら、1990、Altschul S Fら、1997、NCBIのホームページwww.ncbi.nlm.nih.govを通じてアクセス可能)およびFASTA(Pearson W R, 1990;Pearson, 1988)がある。
【0085】
本発明にしたがって使用することのできるカスパーゼ−8のムテイン、またはそれをコードする核酸には、本明細書中に示される教示や指導に基づいて、当業者が過度の実験なしに通常得られる置換ペプチドやポリペプチドとして実質的に一致する配列の有限な集合を含む。
【0086】
本発明にしたがったムテインに好ましい変化は、「同類(conservative)置換」として知られるものである。カスパーゼ−8の同類アミノ酸置換には、群のメンバー間の置換が分子の生物学的機能を保持するような、充分に類似の物理化学的特性を有する群内の同義アミノ酸が含まれ得る(Grantham、1974)。アミノ酸の挿入および欠損もまた、それらの機能を変化させることなく、とりわけ挿入または欠損が数個のアミノ酸、たとえば30以下、および好ましくは10以下のみが関与するものである場合、そして機能的配置に重要であるアミノ酸、たとえばシステイン残基を除去または置換しない場合に、前記に定義した配列中で行われてもよい。
【0087】
好ましくは、同義アミノ酸群は表Aに定義されるものである。より好ましくは、同義アミノ酸群は表Bに定義されるものであり、最も好ましくは、同義アミノ酸群は表Cに定義されるものである。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
本発明において使用されるための、カスパーゼ−8ポリペプチドのムテインを得るために使用できる、タンパク質におけるアミノ酸置換の製造例には、Markらに対する米国特許第4,959,314号、同第4,588,585号および同第4,737,462号、Kothsらに対する米国特許第5,116,943号、Namenらに対する米国特許第4,965,195号、Chongらに対する米国特許第4,879,111号およびLeeらに対する米国特許第5,017,691号などに紹介されている任意の公知の方法工程、ならびに米国特許第4,904,584号明細書(Shawら)に紹介されているリジン置換タンパク質が含まれる。
【0092】
用語「融合タンパク質」は、たとえば体液中での延長した滞留時間を有するような他のタンパク質に融合した、カスパーゼ−8またはそのムテインもしくは断片を含むポリペプチドをいう。カスパーゼ−8は、よってたとえば免疫グロブリンまたはその断片に融合されてもよい。
【0093】
本明細書中で使用される「機能的誘導体」とは、その技術分野で公知の方法により、残基またはN−もしくはC−末端基上に側鎖として存在する官能基から製造され得る、カスパーゼ−8、ならびにそのムテインおよび融合タンパク質の誘導体に及び、それらが薬学的に許容され得るものである限り、すなわちカスパーゼ−8の活性に実質的に類似するタンパク質の活性を破壊せず、それを含有する組成物に毒性を与えない限り本発明に含まれる。
【0094】
これらの誘導体には、たとえば、抗原部位をマスクし、カスパーゼ−8の体液中での滞留を延長し得るポリエチレングリコール側鎖が含まれ得る。他の誘導体には、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一級もしくは第二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分と形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体(たとえば、アルカノイルまたは炭素環式アロイル基)、またはアシル部分と形成される遊離ヒドロキシル基の(たとえば、セリルまたはスレオニル残基の)O−アシル誘導体が含まれる。
【0095】
本発明にしたがった「活性画分」は、たとえばカスパーゼ−8の断片であってもよい。用語、断片は分子の任意の下位集合、すなわち所望の生物学的活性を保持するより短いペプチドをいう。断片は、カスパーゼ−8分子の両端のいずれかからアミノ酸を除去し、結果として得られた断片をタンパク質分解活性について試験することで容易に製造し得る。ポリペプチドのN−末端またはC−末端のどちらかから一度に1つアミノ酸を除去するためのプロテアーゼが知られており、所望の生物学的活性を保持する断片を決定することにも決まりきった実験のみが関与する。
【0096】
カスパーゼ−8、そのムテインおよび融合タンパク質の活性画分として、該画分がカスパーゼ−8に実質的に類似の活性、たとえばタンパク質分解活性を有するならば、本発明はさらに、タンパク質分子単独の、または関連分子もしくはそこに連結している残基、たとえば糖もしくはリン酸残基と一緒のタンパク質分子の、ポリペプチド鎖の任意の断片または前駆物質、またはタンパク質分子もしくは糖残基のそれら自身による凝集体に及ぶ。
【0097】
本明細書中の用語「塩」は、カルボキシル基の塩およびカスパーゼ−8分子またはその類似体のアミノ基の酸付加塩の両方をいう。カルボキシル基の塩は、その技術分野で知られる方法により形成され得、たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄もしくは亜鉛塩などの無機塩、およびたとえばトリエタノールアミン、アルギニンもしくはリジン、ピペリジン、プロカインなどのアミンと共に形成された塩のような、有機塩基を有する塩を含む。酸付加塩には、たとえば、塩酸または硫酸などの無機酸との塩、およびたとえば酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩が含まれる。もちろん、任意のこれらの塩は、カスパーゼ−8の生物学的活性、たとえばタンパク質分解活性を保持していなくてはならない。
【0098】
カスパーゼ−8の「アイソフォーム」は、タンパク質分解活性を有し得るタンパク質またはその断片であり、選択的スプライシングまたは選択的翻訳開始部位により産出され得る。
【0099】
本明細書中で使用されるように、用語「円順列誘導体」は、末端が直接またはリンカーを介してのいずれかで、互いに接続されることで環状分子が産生され、その後、元の分子の末端と異なる末端を有する新しい直線分子を産生するために、別の位置で環状分子が開環された直線分子をいう。円順列には、環化ついで開環された分子と等価な構造の分子が含まれる。よって、円順列分子は、直線分子としてデノボ合成され得、環状化および開裂工程を経由しない。円順列誘導体の製造は、国際公開第95/27732号パンフレットに記載されている。
【0100】
ペプチド、タンパク質およびオリゴヌクレオチドなどの本発明による物質には、生体の細胞へのそれらの導入を必要とするものがある。この目的のために、ペプチド、タンパク質およびオリゴヌクレオチドの膜透過性を改良することが望ましい。脂溶性構造での誘導体化は、膜透過性を強化したペプチドおよびタンパク質を創出するために用いられ得る。たとえば、上記のような公知の膜屈性ペプチドの配列を、ペプチドまたはタンパク質の配列に加えてもよい。さらに、ペプチドまたはタンパク質を、少なくとも1つの極性または荷電基によって置換されている、上記炭化水素鎖のような部分的な脂容性構造によって誘導体化してもよい。たとえば、ペプチドのラウロイル誘導体が、Muranishiら、1991によって記載されている。ペプチドおよびタンパク質のさらなる修飾には、Zachariaら、1991によって記載されているように、メチオニン残基の酸化が含まれ、それによってスルホキシド基が生じる。Zachariaと共同研究者らはまた、比較的疎水性のペプチド結合が、そのケトメチレンイソエステル(COCH2)によって置換されているペプチドまたは誘導体も記載している。これらのおよび他の、タンパク質およびペプチド化学の技術分野における当業者に公知な修飾が、膜透過性を強化する。
【0101】
膜透過性を強化する他の方法は、ペプチドまたはタンパク質の細胞取り込みを誘導するために、細胞表面上の、ウイルス受容体などの受容体の使用である。この機序は、特定の細胞表面分子に特異的に結合するウイルスなどにより頻繁に用いられる。結合に際して、細胞はウイルスをその内部に取り込む。細胞表面分子は、ウイルス受容体と呼ばれる。たとえば、インテグリン分子CARおよびAdVは、アデノウイルスに対するウイルス受容体として記載されている。Hemmiら、1998およびその参考文献参照。CD4、GPR1、GPR15およびSTRL33分子は、HIVに対する受容体/補助受容体(co-receptor)と認められている。Edingerら、1998およびその参考文献参照。
【0102】
よって、ペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドを、細胞表面受容体に結合すると知られている分子に結合することは、該ペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの膜透過性を強化するであろう。結合体を形成するのに適した基の例としては、糖、ビタミン、ホルモン、サイトカイン、トランスフェリンおよびアシアロ糖タンパク質などの分子がある。Lowらの米国特許第5,108,921号明細書には、ペプチド、タンパク質およびオリゴヌクレオチドの膜透過性を強化することを目的とするこれらの分子の使用、ならびに前記結合体の製法が記載されている。Lowと共同研究者らはさらに、葉酸またはビオチンなどの分子は、これらの分子に対する豊富で非特異的な受容体の発現のため、生体における多くの細胞に対して結合体を標的化するために用いられ得ることを示した。
【0103】
本発明のペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの膜透過性を強化するための、上記の細胞表面タンパク質の使用は、該本発明のペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドを特定の細胞型または組織に対して標的化することに用いてもよい。Wangら、1998は、癌細胞を標的化するための葉酸の使用方法を教示し、Zhangら、1998は、多様な型のがんおよび正常細胞における、上記他の各抗原の相対的存在量を教示する。
【0104】
本発明のタンパク質、ペプチドおよびアンチセンス配列は、ウイルス性ベクターを用いて細胞内に導入してもよい。この目的のためのワクシニアベクターの使用が、Current Protocols in Molecular Biologyの16章に詳述されている。アデノウイルスベクターの使用は、たとえばTeohら、1998、Narumiら、1998、Pedersonら、1998、Guang-Linら、1998、およびその参照、Nishidaら、1998、Schwarzenbergerら、1998、ならびにCaoら、1998に記載されている。アンチセンス配列のレトロウイルス移送は、Danielら、1998に記載されている。
【0105】
ウイルスをベクターとして用いる場合、ウイルスを標的化するためにウイルス性表面タンパク質が一般的に使用される。上記アデノウイルスなどの多くのウイルスが、その細胞向性においてはかなり非特異的であるので、細胞型または組織特異的プロモーターを用いてさらなる特異性を与えることが望まれ得る。Griscelliら、1998は、アデノウイルスによりその移送が媒介される遺伝子の心臓特異的標的化のための、心室特異的心臓ミオシン軽鎖2プロモーターの使用を教示する。
【0106】
あるいは、ウイルス性ベクターは追加のタンパク質をその表面上で発現するために設計されてもよいし、またはウイルス性ベクターの表面タンパク質が、所望のペプチド配列を組み込むように変化させられてもよい。ウイルス性ベクターは、よって、該ウイルス性ベクターを標的化するために用いられ得る1以上の追加のエピトープを発現するように設計されてもよい。たとえば、サイトカインエピトープ、MHCクラスII結合ペプチド、またはホーミング分子由来のエピトープが、本発明の教示にしたがってウイルス性ベクターを標的化するために用いられてもよい。
【0107】
本発明による活性物質を、肝細胞に対して標的化することは有益である。肝細胞に対する標的化は、活性物質を肝細胞へ特異的および有効に送達させる。活性物質の肝細胞に対する標的化は、活性物質を、肝細胞に結合し吸収される化合物またはリガンド、たとえばアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPr)と反応するリガンド[Gromanら、1994;RogersおよびKornfeld、1971;Fiumeら、1997]、[Wuら、2002、Wuら、2004]およびT7リガンド(米国特許第7,071,163号明細書)に結びつけることによって行うことができる。
【0108】
本発明による発見は、創傷の治癒、炎症の治療および細胞内病原体によって引き起こされる感染の治療を円滑化するための、少なくとも1つの許容され得る担体と組み合わせたカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を調節することができる活性物質を含む医薬組成物を設計するための道を開く。
【0109】
本発明は、本発明による活性物質および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供する。たとえば、医薬組成物は、炎症または感染の場合には、以下の本発明の薬剤または物質:(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤、の少なくとも1つを含んでもよい。たとえば、医薬組成物は、創傷治癒の場合には、つぎの本発明の薬剤または物質:カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤、ならびに薬学的に許容され得る担体を含んでもよい。
【0110】
本発明による医薬組成物は、肝臓切除に続く肝不全の治療にも適している。よって、本発明の医薬組成物は、損傷の治癒を円滑化および促進することにより肝不全の確立または進行を予防するために、肝臓移植のドナーにまたは肝臓切除後の患者に投与することができる。本発明の医薬組成物は、たとえば肝臓損傷を治療するために、カスパーゼ8の阻害剤および抗炎症剤を含んでもよい。本発明の組成物により治療される具体的な対象としては、肝炎、アルコール、ウイルス、薬物もしくは未知の原因による肝硬変、または肝癌などの肝臓の疾患のために損傷した肝臓の一部分が部分的に切除された患者、および移植処置のために肝臓の一部が部分的に切除された健康なドナーがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
本発明による医薬組成物は、意図する目的を達成するために充分な量の本発明による物質を含有する。また、医薬組成物は、活性な化合物を医薬として使用される製剤に加工するのを円滑化する、およびこういった製剤を必要とする患者に投与するために安定できる、当業者によく知られた、賦形剤および助剤を含む適切な薬学的に許容され得る担体を含んでもよい。
【0112】
本発明による物質は、それを必要とする患者に多様な方法で投与され得る。投与経路には、肝臓内、皮内、経皮(たとえば徐放処方で)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所および鼻腔内経路が含まれる。さらに、その物質は、薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤およびビヒクルなどの、生物学的に活性な薬剤の他の成分と一緒に投与することができる。
【0113】
単回または複数回用量として個体に投与される投薬量は、物質の薬物動力学的性質、投与経路、患者の状態および特徴(性別、年齢、体重、健康状態、サイズ)、症状の程度、併用治療、治療の頻度ならびに望まれる効果などの種々の因子に依存して変化する。確立した投薬量の範囲の調整および操作は、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0114】
「薬学的に許容され得る」の定義は、活性成分の生物学的活性の効力を妨害しない、そして投与される宿主に対して毒性ではない任意の担体を包含することを意味する。たとえば、非経口投与については、本発明による物質を、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミンおよびリンガー溶液のようなビヒクル中の注射用のユニット剤形で処方してよい。
【0115】
「治療的に有効量」とは、投与したときに、本発明の前記物質が炎症、細胞内病原体の感染および創傷治癒において、有益な効果を誘導する量である。単回または複数回用量として個体に投与される投薬量は、投与経路、患者の状態および特徴(性別、年齢、体重、健康状態、サイズ)、症状の程度、併用治療、治療の頻度ならびに望まれる効果などの種々の因子に依存して変化する。確立した投薬量の調整および操作は、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0116】
本発明に関する化合物は、その薬物動力学的性質と一致した任意の経路より投与されるように調製されてもよい。
【0117】
活性物質または成分は、無菌媒体において非経口投与されてもよい。使用されるビヒクルおよび濃度に応じて、薬物はビヒクル内に懸濁または溶解され得る。
【0118】
用語「投薬量」は、投与の頻度および回数の決定および調節に関する。
【0119】
雑誌論文もしくは要約、公開されたもしくは未公開の米国もしくは外国特許出願、発行された米国もしくは外国特許または任意の他の参考文献を含む、本明細書中で引用されたすべての参考文献が、引用された参考文献中に示されたすべてのデータ、表、図および本文を含んで、完全に本明細書中に参照によって組み込まれている。さらに、本明細書中で引用された参考文献内に引用された参考文献の全内容がまた、すべて参照によって組み込まれている。
【0120】
公知の方法の工程、従来の方法の工程、公知の方法または従来の方法の引用は、決して本発明の任意の側面、記載または実施態様が、関連技術分野において開示、教示または示唆されたことを認めるものではない。
【0121】
本発明は今や説明されたので、例証を経て提供された、そして本発明を限定することを意図するものでない以下の実施例を参照することにより、より容易に理解され得るであろう。
【実施例】
【0122】
材料および方法
(i)マウス系統
カスパーゼ−8ノックアウト対立遺伝子を持つマウスの系統(Casp8-/+)(Varfolomeevら、1998)または条件付きカスパーゼ−8対立遺伝子を持つマウス系統(Casp8F/+)(Kangら、2004)、ならびに肝臓特異的アルブミンプロモーターの制御下にCreを発現するマウス(Alb−Cre)(Kellendonkら、2000)および肝細胞に特異的なカスパーゼ−8遺伝子の欠損のためのその使用(Kangら、2004)に関しては、先に述べた。リステリア感染に関する実験は、C57B1/6系統のマウスとの11回の戻し交配により得られた純粋なC57B1/6バックグラウンドのマウスで行われた。PHx後の肝臓の再生に関する示された実験は、示したように、元の遺伝的に混合したバックグラウンドのマウスおよび純粋なC57B1/6バックグラウンドのマウスで実施された。全てのマウスは、特定の無菌設備内で管理された。マウスは、国立科学アカデミー(the National Academy of Sciences)により作成され、国立保健研究所(the National Institutes of Health)により出版された「実験動物の管理と使用の手引(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」にまとめられた基準にしたがって扱われた。全ての実験は、施設内動物倫理管理委員会により承認された。
【0123】
(ii)リステリア モノサイトゲネス感染および定量化
マウスは、2×103プラーク−形成ユニットのリステリア モノサイトゲネス(10403S株)を静脈内に注射され、その後異なる時間後に殺された。それらの肝臓と脾臓が摘出され、重量が測定された。肝臓および脾臓の一部が、計量され、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の1%Triton X−100に別々にホモジネートされた。器官ホモジネートの連続10倍希釈液は、脳心臓浸出物寒天上でプレート培養された。器官あたりのコロニー形成ユニットの数は、寒天プレートを37℃で24時間インキュベートした後測定された。肝臓および脾臓の残りの部分は、10%中性緩衝ホルマリンに24〜48時間固定された。組織はその後、切り取られ、ごく普通にパラフィンにおいて処理され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)または抗Ki67抗体(ダコサイトネイション(DakoCytonation)、グロストルップ(Glostrup)、デンマーク)で染色された。
【0124】
(iii)部分肝切除および塩化ガドリニウム投与
齢の一致したCasp8F/―:Alb−CreマウスおよびCasp8F/+:Alb−Creマウスは、腹腔内に(i.p.)投与された10mg/g体重のキシラジン(チャネル ファーマシューティカルズ マニュファクチュアリング(Chanelle Pharmaceuticals Manufacturing)、ラックレア(Loughrea)、ゴールウェイ、アイルランド)および450mg/g体重のケタミン(フォート ドッジ アニマル ヘルス(Fort Dodge Animal Health)、フォートドッジ、アイオワ州)で軽く麻酔をかけられた。記載されたように、「1/3」(30%)PHxは肝臓の中間葉を切除し、「2/3」(70%)PHxは中間、左および右上葉を切除することで実施された(Higginsら、1931およびGreeneら、2003)。マウスは、PHx前と後0〜56日間(第1週は1日おきに、その後は毎週)画像をとられた。PHx後10日および12日に、マウスは腹腔内に生理食塩水中の塩化ガドリニウム(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)、セントルイス、ミズーリ州)を10mg/kgの投薬量で注射された。
【0125】
(iv)MRI分析技術
磁気共鳴画像(MRI)実験は、水平方向4.7Tバイオスペック(Biospec)分光計(ブルカー メディカル(Bruker Medical)、エトリンゲン(Ettlingen)、ドイツ)と4.2cmの鳥かご型コイルを用いて行われた。マウスは麻酔をかけられ(腹腔内ペントバルビタール30mg/kgで)、仰向けに肝臓がコイルの中心に位置するよう置かれた。肝臓体積は、マルチスライス冠状方向および軸方向のT1強調スピンエコー画像(反復時間=400ms;エコー時間=18ms;スライスの厚み=1mm)から決定された。簡単に述べると、各スライスにおいて視覚化された肝臓の境界は、画像加工ソフトウェア(NIH イメージ)を用いて輪郭を描かれた。肝臓のピクセル数を領域に変換するために、本発明者らは要素によって多重化した[(視野)2/(マトリクス)2]。合計の肝臓の体積は、スライスの厚みによって多重化された、全てのスライスの領域の合計として計算された。それぞれのマウスごとに、肝臓の体積は、手術前の肝臓体積のパーセンテージで表現された。
【0126】
肝性の灌流および血行力学は、マウスが空気、空気とCO2(95%空気、5%CO2)およびカルボゲン(95%O2、5%CO2)を呼吸している間に得られた、T2*強調傾斜エコー画像(反復時間=100ms;エコー時間=10ms;視野=3.4cm;スライスの厚み=1.2mm)から、先に記載されたように(Abramovitchら、1998および1999)評価された。それぞれの混合気体について、5反復を得た。
【0127】
MRI血行力学データは、IDLソフトウェア(リサーチ システムズ(Research Systems)、ボールダー、コロラド州)を用いて、PCコンピューター上で分析された。異なる気体(S空気、Sco2およびSo2)の吸入の間に得られた各ピクセルの平均信号強度値の写像は、4つの各気体の値の平均から計算された(気体交換中に得られた値は切り捨てられた)。高炭酸ガス(ΔSco2)および高酸素(ΔSo2)により誘導されたMRI信号強度の変化の割合は、以下の方程式にしたがって計算された:
【数1】
【0128】
結果は平均±SDで示した。平均値は、示されたようにn匹のマウスの関心のある領域から、およびマウスあたり3つのスライスから計算された。
【0129】
(v)虚血域の体積の計算
切開域の周囲の、健全な肝臓組織よりも高い信号強度を示している異常域は、MRIによって検出可能であった。この領域は、「虚血域」と称され、その境界および体積が決定された。各マウスにおける体積は、スライスの厚みにより多重化された、全てのスライスの高信号強度の領域の合計として算出された。虚血域の体積は、PHx後2日および4日に、PHx前の肝臓体積に対する割合として算出された。
【0130】
(vi)統計分析
群間の差は、対応のない(unpaired)スチューデントのT検定により同定された。P<0.05の値は、統計的に有意であると考えられた。
【0131】
(vii)組織学および免疫染色
肝臓は10%中性緩衝ホルマリンで固定され、パラフィン内に埋められ、4μmの切片に切られ、H&Eで染色された。プロセシングされたカスパーゼ−3を発現する細胞を検出するために、切片はパラフィンをはがされ、再水和され、ウサギ抗マウス切断カスパーゼ−3(Asp175)抗体(セル シグナリング テクノロジー(Cell Signaling Technology)、ビバーリー(Beverly)、マサチューセッツ州)とともに、製造者の使用説明書にしたがってインキュベートされた。切片はその後、ビオチン化ペルオキシダーゼ抗ウサギ抗体(ダコ エンビジョンプラスシステム(DAKO Envision+System)、グロストルップ、デンマーク)で染色された。
【0132】
Ki67を発現する細胞を検出するために、肝臓パラフィン切片は、パラフィンをはがされ、再水和され、10mMの沸騰クエン酸(pH6.0)内で10分間変性させられた。20分間で室温まで冷却され、その後PBS内で3度洗浄された。3%H2O2内での5分間の処置の後、スライドは、CAS−Block(ザイムド ラボラトリーズ(Zymed Laboratories)、サンフランシスコ、カリフォルニア州)中に1:100で希釈されたラット抗マウスKi67抗体とともに4℃で一晩インキュベートされた。それらはその後、PBSで3度洗浄され、免疫ペルオキシダーゼポリマー抗ラット(ニチレイ バイオサイエンス、東京、日本)とともに1時間インキュベートされ、10分間3,3’−ジアミノベンジジン(シグマ−アルドリッチ)で展開された。
【0133】
F4/80を発現する細胞は、抗原回復のためにパラフィン切片が20mMTris(pH7.5)、0.1%トリプシン、および0.1%塩化カルシウムを含む溶液で、室温で3分間処置されたことを除いて、ラット抗マウスF4/80抗体(セロテック オクスフォード(Serotec Oxford)、イギリス)を用いて同様に検出された。肝臓のマクロファージ含量は、スライド内のF4/80陽性領域をイメージジェイ(ImageJ)1.37rソフトウェアを用いて定量化し決定された。
【0134】
ブロモデオキシウリジン(BrdU)を、マウスの殺される3時間前に腹腔内に注射し、アマシャム細胞増殖キット(アマシャム バイオサイエンス(Amersham Bioscience)、ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)を使用し、製造者の使用説明書にしたがって検出した。
【0135】
転写3タンパク質のホスホシグナルトランスデューサーおよびアクチベーター(p−STAT3、炎症中に活性化するシグナル伝達タンパク質)の免疫組織化学的検出のために、パラフィン切片はパラフィンをはがされ、再水和され、内因性のペルオキシダーゼを失活させるために3%過酸化水素内で10分間インキュベートされ、その後、1mMのEDTA(pH8.0)内で15分間煮沸することにより抗原回復を受けた。スライドはその後、TBS+0.5%Tween20(TBST)で3度洗浄され、ウサギ抗マウスp−STAT3(Tyr705)抗体(セル シグナリング テクノロジー、1:500)とともに4℃で一晩インキュベートされた。一連のTBST内でのすすぎ洗いの後、それらはビオチン化ヤギ抗ウサギ二次抗体(ジャクソン イムノリサーチ ラボラトリーズ(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、ウェスト グローブ(West Grove)、ペンシルベニア州)においてインキュベートされた。結合抗体はTSAビオチンシステム(Biotin System)(パーキン エルマー(Perkin Elmer)、ボストン、マサチューセッツ州)を用いて検出した。免疫活性は、3−アミノ−9−エチルカルバゾール高感度基質色素体(ダコ)との5〜10分間のインキュベーション後に可視化された。
【0136】
(viii)ウェスタン分析
PHx後の異なる時間後に、肝臓組織は摘出され、すぐに液体窒素の中で凍結され、使用まで−80℃で保存された。凍結組織の0.3mgの試料を計量し、ホモジネート緩衝液[50mM β−グリセロホスフェート pH7.3、1.5mM EGTA、1mM EDTA、および1’完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ ダイアグノスティクス(Roche Diagnostics)、マンハイム(Mannheim)、ドイツ)を含む1mMジチオスレイトール]にホモジネートされ、10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル上に分画され、ニトロセルロースにブロットし、ウサギ抗マウスサイクリンA抗体、ウサギ抗マウスホスホSTAT−3抗体(両方ともサンタ クルーズ バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology))、ウサギ抗マウスサイクリンE抗体(アップステート(Upstate)、シカゴ、イリノイ州)、ウサギ抗マウスホスホ−Rb抗体(セル シグナリング テクノロジー)、ラット抗マウスカスパーゼ−8モノクローナル抗体(1G12、親切にもA.Strasser博士およびL.A.O’Reilly博士から寄贈された、WEHI、メルボルン、オーストラリア)、またはモノクローナル抗−β−アクチン抗体(シグマ)とともに4℃で一晩インキュベートされた。これは、続いて西洋わさびペルオキシダーゼ共役二次抗体(ジャクソン イムノリサーチ ラボラトリーズ、ウェスト グローブ、ペンシルベニア州)とともにインキュベートされ、1:5000に希釈された。特異的バンドが、化学発光により可視化された。
【0137】
実施例1 肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損がリステリア感染への耐性を危うくする
肝臓は、真核細胞の細胞質に侵入し、そこで多数化するグラム陽性菌、リステリア モノサイトゲネスの複製の主な部位である。マウスの実験的感染後の肝臓からこの病原体を根絶することが、よって細胞内病原体に対する免疫防御の機序の研究のモデルシステムとして広く用いられた(Wingら、2002)。カスパーゼ−8機能の肝細胞における免疫応答への寄与を調査するために、カスパーゼ−8欠損肝細胞を有するマウス(Casp8F/-:Alb−Cre)に致死量以下のリステリア モノサイトゲネスが静脈内に接種された後異なる時点で、その感染からの回復がその対照同腹子(Casp8F/+:Alb−Cre)と比較された。
【0138】
感染1日後では、Casp8F/-:Alb−Creマウスの器官内の菌量は、その対照同腹子と同様であった。6日目には、しかしながら、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓と脾臓の双方において、菌力価が10〜100倍その対照よりも高かった(図1−1、1−2)。14日目までに、対照マウスの肝臓および脾臓双方から病原体は完全に消えており、一方Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓内の力価は高いままであった(図1−3)。長引く感染は、結果として炎症(図1−4、D、E)および肝臓の壊死性病変の進行(図1−4、F、G)、ならびに肝細胞の増殖の増加(図1−4、H、I)につながった。感染後6日目までには、Casp8F/-:Alb−Creマウスの15%が死に至ったが、対照マウスでは死に至るものはなかった。
【0139】
実施例2 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖反応の弱化
損傷からの組織回復に対するカスパーゼ−8の寄与を評価するために、肝細胞からカスパーゼ−8が欠損することのPHx後の肝臓再生に対する効果が評価された。先の報告と一致して、PHxは肝細胞の爆発的増殖を促すことが見いだされた(Faustoらにより概説された、2006)。Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓においては、しかしながら、増殖ならびにG1/S移行に関連するいくつかの分子の変化の誘導(サイクリンA、DおよびEの発現、および網膜芽腫タンパク質のリン酸化の増加)もまた、対照同腹子におけるよりも有意に少なく生じた(図2A〜2E)。この減少は、1/3PHxおよび2/3PHxの後に観察され、それがより旺盛で良好な同調したDNA合成およびより効果的な細胞周期の進行につながる(Mitchellら、2005 19)。切除後の最初の数時間の死亡数は2/3PHx後で有意に高かったので、その後の全てのカスパーゼ−8欠損の効果の分析は1/3PHxからのマウスの回復に限定された。
【0140】
実施例3 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:虚血病変部位の回復の改善
インビボでの細胞増殖の厳格な制御は、その通常のサイズを維持する肝臓の能力および切開後の元のサイズの正確な回復により印象的に現れた(Diehl、2000、ならびにMichalopoulosおよびDeFrances、1997)。種々の病原体症状では、しかしながら、この制御は失敗し、結果として異常に肥大する(肝腫)(Adachiら、1995、Andersら、2005およびZimmersら、2003)。PHx後の肝臓の回復に対するカスパーゼ−8欠損の効果をさらに評価するために、肝臓体積の変化がMRIを使用して監視された。肝切除前は、Casp8F/-:Alb−Creマウスの平均肝臓体積は、Casp8F/+:Alb−Creマウスのものと同一であった(データは示していない)。PHx後は、しかし、この2群は肝臓成長の反応速度において有意に異なった(図3C)。T1強調スピンエコーMRI上で、2つの領域は肝切除術を受けた肝臓において区別が可能であり:切開の結果として生み出された虚血病変部位には、壊死性組織および死んだ細胞が含まれることが組織学的分析で見出され(図3E)、そのサイズは再生の間に徐々に減少し;肝臓の残りの部分では切開した組織の喪失を補うためにサイズが増加した。Casp8F/-:Alb−Creマウスにおける虚血病変部位のサイズの減少は、対照マウスにおけるよりも有意に速く(図3A〜3C)、肝細胞におけるカスパーゼ−8の不在が、その部位での組織の迅速な治癒または吸着を促すことを示唆する。
【0141】
実施例4 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的な遅延した肝細胞増殖
驚くべきことに、カスパーゼ−8欠損肝細胞の初期の増殖反応は、正常肝細胞におけるよりも穏やかで、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓の残りの部分のサイズの増加は、その対照同腹子におけるよりゆっくりではなく、有意に速かった。その上、対照マウスの肝臓は、一旦その元のサイズに至ると成長を止めるのに対し、Casp8F/-:Alb−Creマウスにおける肝臓の最終的なサイズは正常よりも有意に大きく(図3D)、PHx前のサイズの120%に至った。
【0142】
肝切除後の後期における肝細胞増殖の評価に際して、対照マウスでは肝臓における細胞増殖は初期の突発の後治まるが、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝細胞の増殖は切開後数週間続く;よって最終的に、初期の抑制にも関わらず、正常マウスを有意に上回ることが見出された(図2A、下のパネル、および図2B)。同様なPHx後の持続的な遅延した増加は、サイクリンAおよびEの肝細胞レベルにおいても観察された(図2D)。
【0143】
実施例5 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:慢性炎症反応
Casp8F/-:Alb−Cre肝細胞はPHx後長く増殖を続けるとの本観察は、肝切除後の後期においてこれらのマウスの肝臓のサイズが持続的に増加することに一致するようである。しかしながら、より速い体積増加は既に肝切除の数日後には認識できるという事実は(図3D)、カスパーゼ−8欠損肝細胞の増殖率が正常よりもまだ遅い時には、この差異にも付加的な因子が寄与していることを示唆した。
【0144】
高炭酸ガスおよび高酸素と組み合わせた機能的MRIプロトコールは、病理学的変化の多様性に起因する灌流および血流力学的変化の感度のよい方法を提供する(Barashら、2006)。この研究では、対照マウスでは肝臓血管分布像および血液容量の減少を反映し、PHxの後にΔSco2およびΔSo2の双方において減少した。対照的に、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓では、PHxの4日後双方のパラメーターが、血液体積および流量の増加の結果として増加した(図4A、4B)。こういった増加は炎症状態に関連して起きることが見出された(Barash H、非公開データ)。組織学的分析は、当然、肝切除されたCasp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓での白血球の大量の蓄積を明らかにし、炎症を示唆した。抗−F4/80抗体での染色は、蓄積する白血球はマクロファージであることを示唆した(図5A、5B)。ウェスタン分析は、リン酸化STAT−3、炎症中に活性化するシグナル伝達タンパク質の、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓における有意な増加を明らかにした(図5C)。
【0145】
上述したように、Casp8F/-:Alb−Creマウスにおける炎症および増強した肝細胞増殖は、それらのリステリア モノサイトゲネス感染後にも観察された(図1−4、D、E、H、I)。本発明者らのマウスは、特定の無菌設備で管理され、にもかかわらず、リステリア感染のこの効果を考慮し、PHx後に観察された炎症および増強した肝臓成長が、本発明者らが気付かなかったいくつかの病原体の効果を反映する可能性をさらに排除しようと試みた。したがって、帝王切開術により再び得られ、ノトバイオートの養母と共に置かれ、その後無菌アイソレータ内に保たれたマウスで繰り返された。これらの再び得られたマウスの部分肝切除は、再び得る前に観察されたのと同じ慢性炎症状態を起こした(データは示さない)。
【0146】
実施例6 部分肝切除からの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:慢性炎症反応の結果として起きる持続する遅延した肝細胞増殖
持続した肝細胞増殖期間中の肝切除されたCasp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓由来の異なる切片の比較組織学的分析は、細胞成長の程度における切片間の多様性が対応する領域において蓄積するマクロファージ数と相関することを開示し(図5B)、肝細胞増殖および肝臓の炎症状態には因果関係があると示唆した。この関係をさらに調査するために、マウスは塩化ガドリニウム、クッパー細胞の一時的な消耗を誘導する薬剤(Canbayら、2003)を、その炎症が最高潮に至ったPHx後10日および12日に注射された。図5B(下のパネル)ならびに図6Aおよび6Bで示されたように、実質的にCasp8F/-:Alb−Cre肝臓に蓄積した炎症細胞を減少させることに加えて、この治療はまた、これらのマウスにおける肝細胞増殖の増加を実質的に一掃した。さらに、それらの肝臓のサイズの過度の増加(おそらく部分的には炎症に関連した血液体積および流量の増加ならびにクッパー細胞の増加が原因で、また部分的には同時に主に起きる肝細胞数の増加が原因である)は、削減された。これらの発見は、肝切除後の後期のCasp8F/-:Alb−Creマウスにおける肝細胞の構成的な成長は、それらの肝臓で起きる持続的炎症の結果であることを示唆する。
【0147】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内病原体による感染、炎症および創傷治癒におけるカスパーゼ−8の調節的役割に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインプロテアーゼのカスパーゼファミリーは、主に動物細胞のアポトーシス誘導におけるその中心的役割で知られている(Shiら、2002)。カスパーゼには、タンパク質分解部分の上流に位置する「プロドメイン(prodomain)」領域を特徴とし、アポトーシスを開始する役割を果たすものがある。それらのカスパーゼは、そのプロドメインの死−誘導受容体へのまたはこういった受容体に関連するアダプタータンパク質への結合に際して活性化され、一度活性化するとカスパーゼファミリーの他のメンバーを切断し、それによりそれらを活性化する。カスパーゼ−8(以前はMACH/FLICE/Mch4として知られていた)は、TNF/NGFファミリーの受容体のシグナル伝達複合体中で活性化されるイニシエーターカスパーゼであり、Fas−関連デスドメイン(FADD;MORT1とも呼ばれる)とよばれるアダプタータンパク質へのカスパーゼ8プロドメインの結合により召集される(Boldinら、1996、Muzioら、1996およびWallachら、1999)。カスパーゼ−8の活性化は、これらの受容体により誘導されるアポトーシス死の機序(外因性細胞死経路)において決定的な開始事象となる(Varfolomeevら、1998)。カスパーゼ−8およびFADDの両方ともが、いまだ知られていない機序によって多様な非アポトーシス細胞過程に寄与している(たとえば、Varfolomeevら、1998、Zhangら、1998、Walshら、1998,Newtonら、1998、Alamら、1999、Kennedyら、1999、Chunら、2002、Sakamakiら、2002、Salmenaら、2003、Kangら、2004、Suら、2005およびBeisnerら、2005参照)。
【0003】
インビボでのカスパーゼ−8の働きは、多くの遺伝子導入マウスモデルを用いて探求されているが(Varfolomeevら、1998、Salmenaら、2003、Kangら、2004およびBeisnerら、2005)、いまだその酵素の生理学的または病態生理学的重要性についてはほとんど知られていない。
【発明の概要】
【0004】
一側面での本発明は、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用に関する。
【0005】
他の側面での本発明は、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0006】
一実施態様では、組織または器官はカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が、下方調節される細胞を有する。
【0007】
さらなる実施態様では、炎症が組織または器官切除により引き起こされる該組織または器官の損傷後に現れる。
【0008】
他のさらなる実施態様では、器官が肝臓であり、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が肝細胞において下方調節される。
【0009】
また他のさらなる実施態様では、炎症性疾患、障害または症状には、肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染が含まれるが、これに限定されない。
【0010】
本発明は、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用を提供する。
【0011】
また、本発明は、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法を提供する。
【0012】
さらなる側面での本発明は、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用に関する。
【0013】
またさらなる一側面での本発明は、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0014】
本発明の一実施態様では、細胞内病原体には、ミコバクテリア属(Mycobacteria)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルスが含まれるが、これに限定されない。
【0015】
本発明のさらなる実施態様では、感染が、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に現れる。
【0016】
本発明のまたさらなる実施態様では、感染が肝臓に現れる。
【0017】
本発明のまたまたさらなる実施態様では、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞が肝細胞である。
【0018】
本発明のまたまたさらなる実施態様では、感染がたとえばリステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)などのリステリア属により引き起こされる。
【0019】
本発明の一実施態様では、細胞内病原体がウイルスであり、したがって本発明はウイルス性感染などの疾患に関する。
【0020】
またまたさらなる側面では、本発明はカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用に関する。
【0021】
またまたさらなる側面では、本発明はカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する器官または組織において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法に関する。
【0022】
本発明の目的は、創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法を提供することである。
【0024】
本発明の一実施態様では、創傷または損傷が、組織または器官切除後に現れる。
【0025】
本発明のさらなる実施態様では、器官が肝臓である。
【0026】
本発明のまたさらなる実施態様では、創傷または損傷が、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断を含まれるが、これに限定されない身体的外傷後に現れる。
【0027】
本発明の他の目的は、損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用を提供することである。
【0028】
本発明の他のさらなる目的は、損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法を提供することである。
【0029】
本発明のある実施態様では、カスパーゼ−8阻害剤には、アンチセンスmRNA、低分子干渉RNA、カスパーゼ−8特異的抗体および阻害低分子が含まれるが、これに限定されない。
【0030】
本発明のさらなる実施態様では、阻害低分子がZ−IETD−FMKなどの100〜5000ダルトンの分子量を有する低分子である。
【0031】
本発明の他のさらなる目的は、損傷した肝臓の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、炎症阻害剤と組み合わせてのカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用を提供することである。
【0032】
本発明の一実施態様では、損傷が肝臓切除後に現れる。
【0033】
本発明のさらなる実施態様では、肝臓の1/3が切除される。
【0034】
本発明の他のさらなる実施態様では、肝臓の2/3が切除される。
【0035】
本発明の他のさらなる実施態様では、カスパーゼ−8阻害剤が、カスパーゼ−8特異的アンチセンスmRNA、カスパーゼ−8特異的低分子干渉RNA、抗−カスパーゼ−8抗体およびカスパーゼ−8阻害低分子より選択される。
【0036】
本発明の他のさらなる実施態様では、阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する。
【0037】
本発明の他のさらなる実施態様では、阻害低分子がZ−IETD−FMKである。
【0038】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤が、マクロファージ、たとえばクッパー細胞などの免疫細胞を阻害することができる薬剤である。
【0039】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤がカスパーゼ−8の阻害剤の後に投与される。
【0040】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤が、肝臓切除後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11日または12日に投与される。
【0041】
本発明の他のさらなる実施態様では、炎症阻害剤が塩化ガドリニウムを含む。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1−1】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。全ての図において、黒棒はCasp8F/+:Alb−Creマウス(正常肝細胞を有する)を表し、空の棒はCasp8F/-:Alb−Creマウス(カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する)を表す。感染後24時間の、致死量以下での感染の後のマウス脾臓および肝臓から回復した生存リステリア生物。各時点でのF/+またはF/−マウスの各群において、少なくとも5匹のマウスが含まれた。
【図1−2】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。全ての図において、黒棒はCasp8F/+:Alb−Creマウス(正常肝細胞を有する)を表し、空の棒はCasp8F/-:Alb−Creマウス(カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する)を表す。感染後6日の、致死量以下での感染の後のマウス脾臓および肝臓から回復した生存リステリア生物。各時点でのF/+またはF/−マウスの各群において、少なくとも5匹のマウスが含まれた。
【図1−3】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。全ての図において、黒棒はCasp8F/+:Alb−Creマウス(正常肝細胞を有する)を表し、空の棒はCasp8F/-:Alb−Creマウス(カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する)を表す。感染後14日の、致死量以下での感染の後のマウス脾臓および肝臓から回復した生存リステリア生物。各時点でのF/+またはF/−マウスの各群において、少なくとも5匹のマウスが含まれた。
【図1−4】肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損のリステリア モノサイトゲネス感染への効果を示す。(D〜I)リステリア感染後、6日および14日のCasp8F/-:Alb−CreおよびCasp8F/+:Alb−Creマウス由来の肝臓切片の組織学的分析。(D、E)感染後6日の肝臓のH&E染色、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓における白血球の蓄積を明示している(矢印)。(F、G)Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓の感染後14日(G)では、大きな壊死性欠損がみられるが、一方、対照の肝臓では正常である(F)。DからGの倍率(×200)。(H、I)感染後14日の肝臓の抗−Ki67免疫染色、Casp8F/-:Alb−Creにおいては肝細胞の多数の増殖が明示されたが、Casp8F/+:Alb−Cre肝臓では明示されなかった(I;茶色に染色された核)。倍率:×100。
【図2A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。PHx後、早期(2日)および後期(14日)の肝臓の抗−Ki67免疫染色(茶色に染色された核)。倍率:×100。
【図2B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。1/3PHx後の種々の時点での肝細胞増殖、Ki67に対する抗体(またはBrdU;挿入画)で染色された肝細胞の数を決定することにより定量化され、Aで示されるような、10の高倍率視野(field)において数えられた。*P<.05、**P<.01。4つの独立した実験において、時点ごとに少なくとも8匹のマウスが試験された。
【図2C】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。2/3PHx後の種々の時点での肝細胞増殖、Ki67に対する抗体で染色された肝細胞の数を決定することにより定量化され、Aで示されるような、10の高倍率視野において数えられた。*P<.05、**P<.01。4つの独立した実験において、時点ごとに少なくとも8匹のマウスが試験された。
【図2D】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。1/3PHx(左パネル)および2/3PHx(右パネル)後の異なる時点での、肝臓における種々のG1/S−移行関連タンパク質(サイクリンA,サイクリンE,リン酸化網膜芽腫タンパク質)の量。各時点で少なくとも4匹のマウスにおいて行われた試験を代表する結果が示された。
【図2E】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖応答の減少を示す。上のパネル、1/3PHx後2日の抗−サイクリンD1免疫染色。倍率:×400。下のパネル、サイクリンD1の増加の定量、1/3PHx後2日および4日、(上のパネルで示されたように)抗−サイクリンD1抗体で染色された肝細胞を、15の高倍率視野で数えることにより決定された。
【図3A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後4日に得られた、肝臓の代表的軸方向T1強調スピン−エコー画像。Casp8F/+:Alb−Creマウスの肝臓の代表的画像。破線は虚血域の輪郭を描く。矢印は、縫合材料を示す。
【図3B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後4日に得られた、肝臓の代表的軸方向T1強調スピン−エコー画像。Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓の代表的画像。矢印は、縫合材料を示す。
【図3C】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後の異なる時点での、PHx前肝臓体積のパーセンテージで表現された虚血域の体積、対照におけるよりもCasp8F/-:Alb−Creマウスで病変部位のサイズがより速く減少することが明示されている。各時点での各群において、少なくとも8匹のマウスが調査された。
【図3D】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位欠損の領域および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。Casp8F/+:Alb−Cre(■)およびCasp8F/-:Alb−Cre(○)マウスにおけるPHx前のパーセンテージ(平均±SD)で表現されるPHx後の肝臓体積、冠状方向および軸方向MRIスキャンで評価され、カスパーゼ−8欠損マウスの肝臓のより速いサイズ増加および異常に大きいサイズを明示している。*P<.05、**P<.01。早期の時点では(1〜4日)、群あたり少なくとも8匹のマウスが調査され、後期の時点では群あたり少なくとも4匹のマウスが調査された。
【図3E】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:一連のMRIスキャニングおよび組織学的分析により評価された、病変部位および残りの肝臓組織における体積回復への異なる効果を示す。PHx後2日のマウス肝臓の虚血域の組織学的分析を示す。上のパネル−PHx後2日のCasp8F/+Alb−Creマウスの肝臓の虚血域のH&E染色した切片。手術域において、肝実質の幽霊細胞および壊死[N]の大きな病巣がある。縫合材料[S]は、壊死性領域内にみられる。壊死性実質は浸潤白血球[I]の縁によって囲まれている。下のパネル、左−上のパネルの挿入部分で示された領域のTUNEL染色、この区域で見出された大量のアポトーシス(染色)を明示している。この領域の上方は、死んだ細胞および幽霊細胞であり(染色なし)、一方下方は生きた細胞(DAPI染色された核)である。下のパネル、右−創傷した肝実質の縁に位置する肝細胞の抗活性カスパーゼ−3免疫染色。細胞質と核の両方が染色されている。倍率:上のパネル×20;下のパネル、左×100;下のパネル、右×400。
【図4A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期灌流および血流力学的変化を示す。再生の間の肝臓における血流力学的変化は、機能的MRIによって評価された。MRIスキャンは、PHx前およびPHx後4日に得られた(各時点で群あたりn=4)。代表的MRI画像、ΔSo2およびΔSco2写像。上列、PHx前;下列、PHx後4日。左欄、T1強調スピン−エコー画像(SE);中欄、ΔSo2写像;右欄、ΔSco2写像。棒=1cm。値は彩色棒に示される通り。
【図4B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期灌流および血流力学的変化を示す。再生の間の肝臓における血流力学的変化は、機能的MRIによって評価された。MRIスキャンは、PHx前およびPHx後4日に得られた(各時点で群あたりn=4)。Casp8F/+:Alb−Cre(黒棒)およびCasp8F/-:Alb−Creマウス(空の棒)における平均ΔSo2およびΔSco2値±SD、*P<.02。
【図5A】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的炎症および肝細胞増殖を示す。PHx後4日および6日の肝臓のF4/80免疫染色。倍率:×400。
【図5B】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的炎症および肝細胞増殖を示す。材料および方法に記載されたような、正常肝臓のPHx後14日のH&E染色ならびに抗−Ki67および抗−F4/80抗体での免疫染色(F/+、上)、カスパーゼ−8欠損肝臓(F/−、中、同一肝臓における異なる領域を示している)、および塩化ガドリニウムで処置されたマウスのカスパーゼ−8欠損肝臓(GdCl、下)。H&E染色の倍率、×400;抗−Ki67抗体での免疫染色、×200;および抗−F4/80抗体での免疫染色、×100。
【図5C】PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的炎症および肝細胞増殖を示す。上のパネル、PHx後14日の肝臓におけるSTAT−3のリン酸化のウェスタンブロッティング分析。下のパネル、PHx後の示した時間での肝臓のp−STAT3免疫染色。倍率:主パネルでは、×200;挿入画では、×400。黒矢印、マクロファージ;白矢印、肝細胞。
【図6A】PHx後の後期におけるカスパーゼ−8欠損肝細胞の増殖の増加は、炎症の次であることを示す。MRIスキャンで評価されたような、PHx後14日目の肝臓体積に対する塩化ガドリニウム処置の効果。各群において少なくとも4匹のマウスが試験された。*P<.05;**P<.01。
【図6B】PHx後の後期におけるカスパーゼ−8欠損肝細胞の増殖の増加は、炎症の次であることを示す。抗−Ki67抗体により染色され、10の高倍率視野内の染まった核を数えることにより評価された、PHx後14日目の肝細胞増殖に対する塩化ガドリニウム処置の効果。各群において少なくとも4匹のマウスが試験された。*P<.05;**P<.01。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明にしたがって、カスパーゼ−8が細胞内病原体による肝臓感染、炎症および治癒において調節的役割を有することが見出された。したがって、本発明は細胞内病原体により引き起こされる感染の治療、炎症の治療および創傷の治癒の円滑化のためのカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の調節に関する。
【0044】
本発明は、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠損の肝機能への効果を調査する間に得られた知見に基づいている。本発明により、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠損は、細胞内病原体リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)による感染に対するマウスの耐性を危うくすること、部分肝切除(PHx)は、肝細胞にカスパーゼ−8が存在しない場合、慢性炎症段階の兆候を伴うこと、肝細胞にカスパーゼ−8が存在しないことが肝臓の外傷の早急な治癒を促進することが発見された。
【0045】
ヒト損傷肝臓の性質は、実施例部分に記載するように、肝臓の中間葉の摘出(30%PHx)または中間、左および右上葉摘出(70%PHx)によるマウスの部分肝切除(PHx)からなる関連実験的動物モデルにより模倣可能であった。本発明により、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠損が、肝臓損傷後の肝臓再生に幾通りかの方法で影響することがPHxモデルを用いて見出された。たとえば、カスパーゼ−8が存在しない場合に、より早急にPHxにおける外傷が治癒する。外傷治癒の改善は、損傷誘導直後、PHx後約2日および4日に観察された。これらの発見を考慮すると、本発明の一側面は、器官または組織における外傷、損傷または創傷の治癒を促進または円滑化するためのカスパーゼ−8の活性および/またはレベルの阻害に関する。一実施態様では、本発明はカスパーゼ−8の活性および/またはレベルを阻害することにより、虚血性外傷の回復を改善することに関する。本発明は、特に創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進するためのカスパーゼ−8レベルおよび/または活性の阻害剤の使用に関する。創傷および損傷は、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断を含むが、これに限定されない身体的外傷により引き起こされ得る。
【0046】
カスパーゼ−8の阻害剤は、器官または組織切除前、中または後の外科的方法において使用され得る。術後のカスパーゼ−8の阻害処理は、肝臓の術後外傷の治癒に有利な効果を有し得る。
【0047】
本発明では、治癒を増進および/または円滑化するための組織切除前、中および/または後のカスパーゼ−8の阻害剤の使用を検討する。本発明の一実施態様では、カスパーゼ−8の阻害は組織切除前に行われる。
【0048】
本発明にしたがって、カスパーゼ−8阻害の創傷治癒に対する有利な効果は、炎症兆候の前に、部分肝切除により引き起こされる損傷後、初期とすでに数日経た後とに検出された(図3D)。したがって、カスパーゼ−8の阻害剤は、損傷および/または器官切除前、中または後の短期間に有利に投与され得る。たとえば、カスパーゼ−8阻害剤は、創傷治癒を増進するために数時間から1、2、3日間および4日未満の間適用され得る。カスパーゼ−8の阻害剤は、創傷治癒を増加させるため10〜60分間、10、20、30もしくは45分間以上または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間まで使用することができる。
【0049】
本発明にしたがって、クッパー細胞の機能を妨害しその除去を誘導する塩化ガドリニウム(GdCl)の注射は、結果として遅延した肝細胞増殖を制止させ、肝細胞において長期にカスパーゼ−8が存在しない場合に生じる肝腫を予防する。PHx後すぐに促進される肝細胞増殖が減少せず、むしろGdCl処理により増強されるという事実を考慮すると、この遅延した肝細胞増殖の制止は特に驚くべきことである。よって、カスパーゼ−8阻害剤を用いた損傷した組織のより長時間の治療には、カスパーゼ−8阻害剤と抗炎症剤または炎症細胞の蓄積を除去することができる薬剤を併用することが有益であり得る。たとえば、カスパーゼ−8の阻害剤は、創傷の治癒、損傷からの組織の回復および/または組織再生の円滑化のために、塩化ガドリニウムなどの抗炎症剤と共に、4日間までまたはより長く、たとえば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日間および1ヵ月間まで投与することができる。
【0050】
カスパーゼ−8の阻害剤のみで、または抗炎症剤もしくは炎症細胞の蓄積を除去しうる剤と共に、損傷した肝臓の治癒、損傷からの肝臓の回復および/または肝臓の再生を円滑化するために、たとえば悪性腫瘍、転移または硬変域が肝臓から除去または切除された場合において、使用することができる。
【0051】
生存ドナーと患者間の肝臓提供には、移植片とレムナント肝臓のどちらも提供者および/または移植者の生命を支持するには小さ過ぎるので問題がある。概して、移植片の体重に対する割合が0.8以上であると安全なようである(Leeら、2004)。カスパーゼ−8の阻害のみ、または抗炎症剤もしくは炎症細胞の蓄積を除去することができる薬剤を併用する阻害は、ドナーの肝臓における現在の安全限界より小さい肝臓塊にまで、肝臓切除をさらに拡大することを可能にし得る。
【0052】
本発明は、創傷部位において全身的におよび/または局所的に投与されるカスパーゼ−8の阻害剤の使用を検討する。
【0053】
「カスパーゼ−8の阻害剤」という用語は、本発明の文脈では、カスパーゼ−8産生および/または作用が軽減、減少または部分的に、実質的にもしくは完全に予防もしくは防害されるように、カスパーゼ−8産生および/または作用を調節する任意の分子をいう。用語「カスパーゼ−8阻害剤」は、カスパーゼ−8産生の阻害剤およびカスパーゼ−8作用の阻害剤を含むことを意味する。カスパーゼ−8の阻害剤は、たとえば肝細胞を標的とし得る(以下参照)。
【0054】
産生の阻害剤は、カスパーゼ−8の合成、プロセシングまたは成熟に否定的に影響する任意の分子であり得る。本発明にしたがって、阻害剤はたとえば、カスパーゼ−8の遺伝子発現のサプレッサー、カスパーゼ−8mRNAの転写を減少もしくは予防するため、またはmRNAの分解に導くためのアンチセンスmRNAまたは二本鎖RNA様低分子干渉RNA(Hunterら、1975)、カスパーゼ−8の正確な折り畳みを害するタンパク質、一旦合成された場合、カスパーゼ−8を分解するプロテアーゼ、および活性なカスパーゼ−8を産出するためのプロカスパーゼ−8の開裂の阻害剤であり得ると考えられる。
【0055】
カスパーゼ−8作用の阻害剤は、カスパーゼ−8のアンタゴニストであり得る。アンタゴニストは、充分な親和性および特異性でカスパーゼ−8分子自身に結合または分子を隔離し、部分的にまたは実質的にカスパーゼ−8を中和することができる。
【0056】
カスパーゼ−8作用の阻害剤は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体などのカスパーゼ−8特異的抗体、またはカスパーゼ−8の標的への結合を防止することによりカスパーゼ−8が調節する反応の誘発を減少または防止する他の任意の薬剤または分子であり得る。
【0057】
用語「タンパク質の阻害剤」は、本発明の文脈では、タンパク質の産生および/または作用を、該タンパク質の産生および/または作用を軽減、減少または部分的に、実質的にもしくは完全に予防もしくは妨害するような方法で、下方調節することができるタンパク質(たとえば、抗体)、ポリヌクレオチド(たとえば、アンチセンスおよび低分子干渉RNA)および低分子阻害剤(small inhibitory molecule)などの任意の剤をいう。
【0058】
低分子阻害剤は、100〜5000、200〜5000、200〜2000または200〜1000ダルトンの分子量の有機(炭素を含有する)または無機化合物であり得る。低分子は、代謝産物、代謝類似体、ペプチド、ペプチド類似体、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、ヘテロ有機化合物および有機金属化合物を含むが、これに限定されるものではない。たとえば、カスパーゼ−8阻害低分子は、カスパーゼ結合を首尾よく競合するペプチドであり得る。ペプチドWEHD、VDVADおよびDEVDは、カスパーゼに結合するペプチドの例である。一定のアルデヒド、亜硝酸塩またはケトン化合物にカスパーゼ特異的ペプチドを連結することにより、カスパーゼ活性化の可逆的または不可逆的阻害剤を産出することが可能である。Z−IETD−FMKなどのフルオロメチルケトン(FMK)誘導ペプチドは、効果的な不可逆的阻害剤として作用する。N−末端およびO−メチル側鎖にベンジルオキシカルボニル基(BOCまたはZとして知られる)を有するよう合成された阻害剤は、細胞透過性の増強を示し、それによりインビボでの使用を円滑化する。
【0059】
カスパーゼ−8の阻害剤の例は、(i)cFLIPショート(CASHベータ)、(ii)cFLIPロング(CASHアルファ)、(iii)カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10関連RINGタンパク質(CARPs、McDonald ER 3rd,El-Deiry WS,Proc Natl Acad Sci USA.2004 Apr 20;101(16):6170-5)、ならびにIETD−FMK(R&D Systems Cat No. FMK007)などのカスパーゼ−8の化学的阻害剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0060】
用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(MAbs)、キメラ抗体、可溶型または結合型において標識され得る抗体に対する抗−イディオタイプ(抗−Id)抗体、およびヒト化抗体、ならびに酵素的開裂、ペプチド合成または組換え技術などの、しかしこれらに限定されない公知技術により得られるそれらの断片を含むことを意味する。
【0061】
モノクローナル抗体は、実質的に類似のエピトープ結合部位を有する、抗原に特異的な抗体の実質的に均質な集団を含包する。Mabsは当業者に公知の方法により、得られ得る。たとえば、KohlerおよびMilstein, Nature, 256:495-497(1975);米国特許第4,376,110号明細書;Ausubelら編、HarlowおよびLane ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Laboratory(1988);およびColliganら編、Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.およびWiley Interscience N. Y.、(1992-1996)参照、これら参考文献の内容は、本明細書中に参考文献により完全に組み込まれている。これら抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、GILDを含む任意の免疫グロブリン類およびその任意の下位分類であり得る。本発明のmAbを産出するハイブリドーマは、インビトロ、インサイチュまたはインビボで培養され得る。インビボまたはインサイチュでの高力価のMabsの産出は、現在好ましい産出方法である。
【0062】
キメラ抗体は、マウスのMab由来の可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する分子などの、異なる部分が異なる動物種由来の分子である。キメラ抗体は、たとえばマウスMabsがハイブリドーマからのより高い産出高を有するが、ヒトにおいて免疫原性がより高い場合にヒト/マウスキメラMabsが使用されるように、主に適用において免疫原性を減じるためおよび産出において産出高を増加させるために使用される。キメラ抗体およびその産出方法は、その技術分野において公知である(Cabillyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3273-3277(1984);Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984);Boulianneら、Nature 312:643-646(1984);Cabillyら、欧州特許出願公開第125023号明細書(1984年11月14日公開);Neubergerら、Nature 314:268-270(1985);Taniguchiら、欧州特許出願公開第171496号明細書(1985年2月19日公開);Morrisonら、欧州特許出願公開第173494号明細書(1986年3月5日公開);Neubergerら、国際公開第86/01533号パンフレット(1986年3月13日公開);Kudoら、欧州特許出願公開第184187号明細書(1986年6月11日公開);Sahaganら、J. Immunol. 137:1066-lO74(1986);Robinsonら、国際公開第87/02671号パンフレット(1987年5月7日公開);Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443(1987);Sunら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218(1987);Betterら、Science 240:1041-1043(1988);Riechmannら、Nature 332:323-327、ならびにHarlowおよびLane、ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL、上記)。これらの参考文献は、参考文献により完全に本明細書に組み込まれている。
【0063】
「完全ヒト化抗体」は、ヒト免疫グロブリンの可変および定常領域の両方を含んでいる分子である。完全ヒト化抗体は、自己免疫性疾患などの慢性および再発性疾患に繰り返しの治療が必要とされるような治療用途に潜在的に使用することができる。完全ヒト化抗体の1つの製造方法としては、マウス体液免疫システムの「ヒト化」、即ち内因性Ig遺伝子が不活性化されているマウスにヒト免疫グロブリン(Ig)座を導入することにより、ヒトIgを産出できるマウス系統(ゼノマウス(Xenomice))を産出することからなる。Ig座は、その物理的構造、ならびに広い免疫応答を最終的に産出するために必要とされる、遺伝子再配列および発現過程の両方の点において非常に複雑である。抗体の多様性は、主にIg座に存在する異なるV、DおよびJ遺伝子間の組み合わせ再配列により発生する。これらの座は、抗体発現、対立遺伝子排除、クラススイッチおよび親和性成熟を制御する散在性制御エレメントも含有している。マウスへの非再配列ヒトIg導入遺伝子の導入は、マウス組換え機構がヒト遺伝子に適合できることを立証した。さらに、様々なイソ型の抗原特異的hu−mAbsを分泌するハイブリドーマは、抗原でゼノマウスに免疫性を与えることで得られる。
【0064】
完全ヒト化抗体およびその製造方法は、その技術分野において公知である(Mendezら、Nature Genetics 15:146-156(1997);Buggemannら、Eur. J. Immunol. 21:1323-1326(1991);Tomizukaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:722-727(2000)、国際公開第98/24893号パンフレット。
【0065】
ある分子に特異的に反応でき、それにより抗体にその分子を結合するモノクローナル抗体は、その分子に「結合できる」といわれる。用語「エピトープ」は、任意の分子の抗体により結合され得る部分を意味し、その抗体により認識することもできる。エピトープまたは「抗原決定基」は、通例アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面グルーピングからなり、特異的3次元構造特性および特異的電荷特性を有する。
【0066】
本発明にしたがって、カスパーゼ−8欠損肝細胞を有する肝臓の肝切除は、最終的に炎症を誘発し、したがって、カスパーゼ−8の役割は、炎症の抑制に関連していることが見出された。カスパーゼ−12(Salehら、2006)は炎症性メディエーターを抑制すると報告され、カスパーゼ−1、4、5、11(Martinonら、2004)などの他の哺乳類のカスパーゼは炎症性メディエーター、IL−1およびIL−18の産生を触媒すると報告されたが、炎症におけるこのカスパーゼ−8の新規な役割は、発表されている文献からは予測不可能であった。カスパーゼ−8欠損マウスにおいては、カスパーゼ−8を欠いていない対照同腹子と比較して、肝臓切除後数日では細胞増殖は少ないことが観察されたが、後にカスパーゼ−8の欠損の効果は逆転し、カスパーゼ−8欠損肝細胞は増殖し続けた。過度の増殖は、結果として異常に肥大した肝臓をもたらした。本発明者らによる発見は、持続した肝細胞の増殖は、炎症の結果であることを示唆した。これらの発見を考慮に入れると、本発明は、組織または器官における炎症を予防または減少させるためのカスパーゼ−8活性/レベルの誘導または増強にも関連している。抗炎症剤としてのカスパーゼ−8の使用は有益であるが、カスパーゼ−8レベルまたは活性が下方調節されている細胞を有する組織または器官に限定されるものではない。よって、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤が、炎症性疾患、障害または症状を治療するために使用され得る。炎症性疾患、障害または症状の例としては、肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染があげられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
カスパーゼ−8機能の肝細胞における免疫応答に対する寄与は、カスパーゼ−8欠損肝細胞を有するマウス(Casp8F/―:Alb−Cre)に致死量以下のリステリア モノサイトゲネス(L. monocytogenes)を静脈接種した後の異なる時点での感染からの回復について、対照同腹子(Casp8F/+:Alb−Cre)と比較することで評価された。本発明にしたがって、肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損は、細胞内病原体リステリア モノサイトゲネスに対するマウスの耐性を減じることが見出された。
【0068】
肝臓は、血液循環からのリステリア除去の主たる部位であり、リステリア感染が持続する主要な部位でもある。感染の制止は、感染した肝細胞を殺すための免疫系の細胞の能力に大きく依存している。感染後の早期では、肝細胞にカスパーゼ−8が存在しないことはリステリアの産生量に何ら影響しないようであり、感染の後期ではカスパーゼ−8欠損肝細胞を有するマウスは、増加し持続する肝臓感染を示した。カスパーゼ−8作用の作動機序または様式に関する如何なる説にも縛られず、本発明者らの発見は、カスパーゼ−8は、感染細胞の破壊を増強することにより感染との闘いを補助できることを示唆する。しかしながら、カスパーゼ−8の他の防御機序への寄与は、しかしながら排除できない。本明細書中に示される結果と、肝細胞におけるカスパーゼ−8の欠失が、これらの細胞に受容体Fasの細胞毒効果に対する耐性を与える(Kangら、2004)ことを示す近年の報告とから、カスパーゼ−8欠損肝細胞における増加し持続する細胞内病原体の感染は、Tリンパ球がFasを通して感染肝細胞を除去することに失敗したためである可能性が提起される。
【0069】
概して、細胞内病原体に対する免疫防御の調査に広く採用される動物モデル系を用い、本発明にしたがって、カスパーゼ−8レベルおよび/または活性が肝臓における細胞内病原体に対する防御に関与すること、ならびにカスパーゼ−8レベルおよび/または活性の増加は細胞内病原体の根絶に利用され得ることが見出された。一実施態様では、カスパーゼ−8レベルおよび/または活性の増加は、ヒトの肝細胞から細胞内病原体を根絶するために使用することができる。
【0070】
よって、本発明の他の側面は、哺乳類において細胞内病原体により引き起こされる感染を減じるためにカスパーゼ−8活性および/もしくはレベルを増強または誘導することに関する。細胞内病原体の例には、ミコバクテリア属(Mycobacterium)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルス(Steinertら、2002ならびにGruenheidおよびGros, 2002)が含まれるが、これらに限定されるものではない。ミコバクテリア感染の例には、ミコバクテリア ボビス(Mycobacterium bovis)、ミコバクテリア ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、ミコバクテリア アビウム(Mycobacterium avium)およびミコバクテリア レプラムリウム(Mycobacterium lepraemurium)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
カスパーゼ−8活性および/もしくはレベルを増強または誘導することは、炎症性疾患、障害または症状を治療するために使用され得る、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を使用することにより効果をあげることができる。
【0072】
カスパーゼ−8、ムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体は、カスパーゼ−8またはムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体をコードし、それらを発現することができる発現ベクターを使用し投与することができる。
【0073】
「タンパク質を上方調節することができる薬剤」または「タンパク質のアクチベーター」という用語は、本発明の内容においては、該タンパク質レベルおよび/または活性を上方調節することができるタンパク質、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドおよび低分子などの任意の薬剤もしくはアクチベーターをいう。
【0074】
カスパーゼ−8のアクチベーターの例には、FADD、カスパーゼ−8を開裂できるカスパーゼ−6およびカスパーゼ−3のようなカスパーゼ、ならびに間接的にはTNF/NGFファミリーの様々な死受容体が含まれるが、これらに限定されるものではない。構成された的確な細胞に依っては、cFLIPロングもまたカスパーゼ−8アクチベーターとしての役目を果たし得る。
【0075】
本明細書中で使用されるように、用語「ムテイン」は、元のカスパーゼ−8と比べて結果としてできた産物の活性が相当に変化することなしに、カスパーゼ−8の天然発生要素の1以上のアミノ酸残基が異なるアミノ段残基によって置換されている、もしくは欠損している、または1以上のアミノ酸残基が元のカスパーゼ−8配列に付加されているカスパーゼ−8の類似体をいう。これらのムテインは、公知の合成および/もしくは特定部位の突然変異誘発手法によって、または他の公知なそれに適した手法によって製造される。
【0076】
本発明にしたがって使用されるムテインは、カスパーゼ−8をコードするDNAまたはRNAに、本発明にしたがってストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNAまたはRNAなどの核酸によってコードされるタンパク質を含む。用語「ストリンジェントな条件」は、当業者が通常「ストリンジェント」と呼ぶハイブリダイゼーションおよびそれに続く洗浄条件をいう。Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, 上記、Interscience, N. Y., §§6.3および6.4(1987, 1992)、ならびにSambrookら(Sambrook, J. C., Fritsch, E. F., およびManiatis, T.(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)参照。
【0077】
限定なしに、ストリンジェントな条件の例は、調査下で産出されたハイブリッドのTmの12〜20℃低い洗浄条件を含み、たとえば2×SSCおよび0.5%SDSに5分間、2×SSCおよび0.1%SDSに15分間、0.1×SSCおよび0.5%SDSに37度で30〜60分間ならびにその後0.1×SSCおよび0.5%SDSに68℃で30〜60分間である。当業者は、ストリンジェントな条件はDNA配列、(10〜40塩基などの)オリゴヌクレオチドプローブまたは混合オリゴヌクレオチドプローブの長さにも依存していることを理解する。もし混合プローブが使用される場合、SSCの代わりに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を用いることが好ましい。Ausubel、上記参照。
【0078】
任意のこのようなムテインは、実質的に類似の、またはよりよいカスパーゼ−8に対する活性を有するように、好ましくはカスパーゼ−8のアミノ酸配列を充分に複製したアミノ酸配列を有する。
【0079】
カスパーゼ−8の特徴的活性として、特異的基質部位におけるそのタンパク質分解活性がある。よって、任意の与えられたムテインがカスパーゼ−8と少なくとも実質的に同じ活性を有するかどうかは、決まりきった実験方法によって決定できる。変異体がタンパク質分解活性を有する限り、カスパーゼ−8と実質的に類似の活性を有するとみなすことができる。
【0080】
よって、任意の所定の変異体がカスパーゼ−8と少なくとも実質的に同じ活性を有するかどうかは、たとえば米国特許第6,399,327号明細書の実施例3に記載の基質にこのような変異体をさらすことを含む、決まりきった実験方法によって決定できる。
【0081】
好ましい実施態様では、任意のこのようなムテインはカスパーゼ−8の配列と少なくとも40%の同一性または相同性を有する。より好ましくは、カスパーゼ−8の配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、またはもっとも好ましくは少なくとも90%の同一性または相同性を有する。
【0082】
同一性は、配列を比較することにより決定される、2以上のポリペプチド配列または2以上のポリヌクレオチド配列間の関係を示す。概して、同一性とは、配列の長さの全体にわたって比較される、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチドの、それぞれヌクレオチドに対するヌクレオチドのまたはアミノ酸に対するアミノ酸の正確な一致をいう。
【0083】
正確な一致が存在しない配列には、「%同一性」が決定され得る。概して、比較される2つの配列は、配列間の最大の相関が生じるように並べられる。これには、アライメントの程度を高めるために、配列の片方または両方どちらかに「ギャップ(gap)」の挿入を含んでもよい。%同一性は、比較される配列それぞれの長さ全体にわたって決定され得(いわゆるグローバルアラインメント)、これは同一かかなり類似の配列に特に適しており、またはより短い定義された長さにわたって決定され得(いわゆるローカルアラインメント)、これは不揃いな長さの配列に適している。
【0084】
2以上の配列の同一性および相同性の比較の方法は、その技術分野においてよく知られている。よって、たとえばプログラムBESTFITおよびGAPを例とするウィスコンシン配列分析パッケージ(Wisconsin Sequence Analysis Package)、バージョン9.1(Devereux Jら、1984)で得られるプログラムが、2つのポリヌクレオチド配列間の%同一性ならびに2つのポリペプチド配列間の%同一性および%相同性を決定するために使用され得る。BESTFITは、SmithおよびWaterman(1981)の「ローカル相同性」アルゴリズムを用いており、2つの配列間の類似性が最もよい単一領域を見出す。配列間の同一性および/または類似性を決定するための他のプログラムも、当業者に公知であり、たとえばBLASTファミリーのプログラム(Altschul S Fら、1990、Altschul S Fら、1997、NCBIのホームページwww.ncbi.nlm.nih.govを通じてアクセス可能)およびFASTA(Pearson W R, 1990;Pearson, 1988)がある。
【0085】
本発明にしたがって使用することのできるカスパーゼ−8のムテイン、またはそれをコードする核酸には、本明細書中に示される教示や指導に基づいて、当業者が過度の実験なしに通常得られる置換ペプチドやポリペプチドとして実質的に一致する配列の有限な集合を含む。
【0086】
本発明にしたがったムテインに好ましい変化は、「同類(conservative)置換」として知られるものである。カスパーゼ−8の同類アミノ酸置換には、群のメンバー間の置換が分子の生物学的機能を保持するような、充分に類似の物理化学的特性を有する群内の同義アミノ酸が含まれ得る(Grantham、1974)。アミノ酸の挿入および欠損もまた、それらの機能を変化させることなく、とりわけ挿入または欠損が数個のアミノ酸、たとえば30以下、および好ましくは10以下のみが関与するものである場合、そして機能的配置に重要であるアミノ酸、たとえばシステイン残基を除去または置換しない場合に、前記に定義した配列中で行われてもよい。
【0087】
好ましくは、同義アミノ酸群は表Aに定義されるものである。より好ましくは、同義アミノ酸群は表Bに定義されるものであり、最も好ましくは、同義アミノ酸群は表Cに定義されるものである。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
本発明において使用されるための、カスパーゼ−8ポリペプチドのムテインを得るために使用できる、タンパク質におけるアミノ酸置換の製造例には、Markらに対する米国特許第4,959,314号、同第4,588,585号および同第4,737,462号、Kothsらに対する米国特許第5,116,943号、Namenらに対する米国特許第4,965,195号、Chongらに対する米国特許第4,879,111号およびLeeらに対する米国特許第5,017,691号などに紹介されている任意の公知の方法工程、ならびに米国特許第4,904,584号明細書(Shawら)に紹介されているリジン置換タンパク質が含まれる。
【0092】
用語「融合タンパク質」は、たとえば体液中での延長した滞留時間を有するような他のタンパク質に融合した、カスパーゼ−8またはそのムテインもしくは断片を含むポリペプチドをいう。カスパーゼ−8は、よってたとえば免疫グロブリンまたはその断片に融合されてもよい。
【0093】
本明細書中で使用される「機能的誘導体」とは、その技術分野で公知の方法により、残基またはN−もしくはC−末端基上に側鎖として存在する官能基から製造され得る、カスパーゼ−8、ならびにそのムテインおよび融合タンパク質の誘導体に及び、それらが薬学的に許容され得るものである限り、すなわちカスパーゼ−8の活性に実質的に類似するタンパク質の活性を破壊せず、それを含有する組成物に毒性を与えない限り本発明に含まれる。
【0094】
これらの誘導体には、たとえば、抗原部位をマスクし、カスパーゼ−8の体液中での滞留を延長し得るポリエチレングリコール側鎖が含まれ得る。他の誘導体には、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一級もしくは第二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分と形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体(たとえば、アルカノイルまたは炭素環式アロイル基)、またはアシル部分と形成される遊離ヒドロキシル基の(たとえば、セリルまたはスレオニル残基の)O−アシル誘導体が含まれる。
【0095】
本発明にしたがった「活性画分」は、たとえばカスパーゼ−8の断片であってもよい。用語、断片は分子の任意の下位集合、すなわち所望の生物学的活性を保持するより短いペプチドをいう。断片は、カスパーゼ−8分子の両端のいずれかからアミノ酸を除去し、結果として得られた断片をタンパク質分解活性について試験することで容易に製造し得る。ポリペプチドのN−末端またはC−末端のどちらかから一度に1つアミノ酸を除去するためのプロテアーゼが知られており、所望の生物学的活性を保持する断片を決定することにも決まりきった実験のみが関与する。
【0096】
カスパーゼ−8、そのムテインおよび融合タンパク質の活性画分として、該画分がカスパーゼ−8に実質的に類似の活性、たとえばタンパク質分解活性を有するならば、本発明はさらに、タンパク質分子単独の、または関連分子もしくはそこに連結している残基、たとえば糖もしくはリン酸残基と一緒のタンパク質分子の、ポリペプチド鎖の任意の断片または前駆物質、またはタンパク質分子もしくは糖残基のそれら自身による凝集体に及ぶ。
【0097】
本明細書中の用語「塩」は、カルボキシル基の塩およびカスパーゼ−8分子またはその類似体のアミノ基の酸付加塩の両方をいう。カルボキシル基の塩は、その技術分野で知られる方法により形成され得、たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄もしくは亜鉛塩などの無機塩、およびたとえばトリエタノールアミン、アルギニンもしくはリジン、ピペリジン、プロカインなどのアミンと共に形成された塩のような、有機塩基を有する塩を含む。酸付加塩には、たとえば、塩酸または硫酸などの無機酸との塩、およびたとえば酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩が含まれる。もちろん、任意のこれらの塩は、カスパーゼ−8の生物学的活性、たとえばタンパク質分解活性を保持していなくてはならない。
【0098】
カスパーゼ−8の「アイソフォーム」は、タンパク質分解活性を有し得るタンパク質またはその断片であり、選択的スプライシングまたは選択的翻訳開始部位により産出され得る。
【0099】
本明細書中で使用されるように、用語「円順列誘導体」は、末端が直接またはリンカーを介してのいずれかで、互いに接続されることで環状分子が産生され、その後、元の分子の末端と異なる末端を有する新しい直線分子を産生するために、別の位置で環状分子が開環された直線分子をいう。円順列には、環化ついで開環された分子と等価な構造の分子が含まれる。よって、円順列分子は、直線分子としてデノボ合成され得、環状化および開裂工程を経由しない。円順列誘導体の製造は、国際公開第95/27732号パンフレットに記載されている。
【0100】
ペプチド、タンパク質およびオリゴヌクレオチドなどの本発明による物質には、生体の細胞へのそれらの導入を必要とするものがある。この目的のために、ペプチド、タンパク質およびオリゴヌクレオチドの膜透過性を改良することが望ましい。脂溶性構造での誘導体化は、膜透過性を強化したペプチドおよびタンパク質を創出するために用いられ得る。たとえば、上記のような公知の膜屈性ペプチドの配列を、ペプチドまたはタンパク質の配列に加えてもよい。さらに、ペプチドまたはタンパク質を、少なくとも1つの極性または荷電基によって置換されている、上記炭化水素鎖のような部分的な脂容性構造によって誘導体化してもよい。たとえば、ペプチドのラウロイル誘導体が、Muranishiら、1991によって記載されている。ペプチドおよびタンパク質のさらなる修飾には、Zachariaら、1991によって記載されているように、メチオニン残基の酸化が含まれ、それによってスルホキシド基が生じる。Zachariaと共同研究者らはまた、比較的疎水性のペプチド結合が、そのケトメチレンイソエステル(COCH2)によって置換されているペプチドまたは誘導体も記載している。これらのおよび他の、タンパク質およびペプチド化学の技術分野における当業者に公知な修飾が、膜透過性を強化する。
【0101】
膜透過性を強化する他の方法は、ペプチドまたはタンパク質の細胞取り込みを誘導するために、細胞表面上の、ウイルス受容体などの受容体の使用である。この機序は、特定の細胞表面分子に特異的に結合するウイルスなどにより頻繁に用いられる。結合に際して、細胞はウイルスをその内部に取り込む。細胞表面分子は、ウイルス受容体と呼ばれる。たとえば、インテグリン分子CARおよびAdVは、アデノウイルスに対するウイルス受容体として記載されている。Hemmiら、1998およびその参考文献参照。CD4、GPR1、GPR15およびSTRL33分子は、HIVに対する受容体/補助受容体(co-receptor)と認められている。Edingerら、1998およびその参考文献参照。
【0102】
よって、ペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドを、細胞表面受容体に結合すると知られている分子に結合することは、該ペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの膜透過性を強化するであろう。結合体を形成するのに適した基の例としては、糖、ビタミン、ホルモン、サイトカイン、トランスフェリンおよびアシアロ糖タンパク質などの分子がある。Lowらの米国特許第5,108,921号明細書には、ペプチド、タンパク質およびオリゴヌクレオチドの膜透過性を強化することを目的とするこれらの分子の使用、ならびに前記結合体の製法が記載されている。Lowと共同研究者らはさらに、葉酸またはビオチンなどの分子は、これらの分子に対する豊富で非特異的な受容体の発現のため、生体における多くの細胞に対して結合体を標的化するために用いられ得ることを示した。
【0103】
本発明のペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの膜透過性を強化するための、上記の細胞表面タンパク質の使用は、該本発明のペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドを特定の細胞型または組織に対して標的化することに用いてもよい。Wangら、1998は、癌細胞を標的化するための葉酸の使用方法を教示し、Zhangら、1998は、多様な型のがんおよび正常細胞における、上記他の各抗原の相対的存在量を教示する。
【0104】
本発明のタンパク質、ペプチドおよびアンチセンス配列は、ウイルス性ベクターを用いて細胞内に導入してもよい。この目的のためのワクシニアベクターの使用が、Current Protocols in Molecular Biologyの16章に詳述されている。アデノウイルスベクターの使用は、たとえばTeohら、1998、Narumiら、1998、Pedersonら、1998、Guang-Linら、1998、およびその参照、Nishidaら、1998、Schwarzenbergerら、1998、ならびにCaoら、1998に記載されている。アンチセンス配列のレトロウイルス移送は、Danielら、1998に記載されている。
【0105】
ウイルスをベクターとして用いる場合、ウイルスを標的化するためにウイルス性表面タンパク質が一般的に使用される。上記アデノウイルスなどの多くのウイルスが、その細胞向性においてはかなり非特異的であるので、細胞型または組織特異的プロモーターを用いてさらなる特異性を与えることが望まれ得る。Griscelliら、1998は、アデノウイルスによりその移送が媒介される遺伝子の心臓特異的標的化のための、心室特異的心臓ミオシン軽鎖2プロモーターの使用を教示する。
【0106】
あるいは、ウイルス性ベクターは追加のタンパク質をその表面上で発現するために設計されてもよいし、またはウイルス性ベクターの表面タンパク質が、所望のペプチド配列を組み込むように変化させられてもよい。ウイルス性ベクターは、よって、該ウイルス性ベクターを標的化するために用いられ得る1以上の追加のエピトープを発現するように設計されてもよい。たとえば、サイトカインエピトープ、MHCクラスII結合ペプチド、またはホーミング分子由来のエピトープが、本発明の教示にしたがってウイルス性ベクターを標的化するために用いられてもよい。
【0107】
本発明による活性物質を、肝細胞に対して標的化することは有益である。肝細胞に対する標的化は、活性物質を肝細胞へ特異的および有効に送達させる。活性物質の肝細胞に対する標的化は、活性物質を、肝細胞に結合し吸収される化合物またはリガンド、たとえばアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPr)と反応するリガンド[Gromanら、1994;RogersおよびKornfeld、1971;Fiumeら、1997]、[Wuら、2002、Wuら、2004]およびT7リガンド(米国特許第7,071,163号明細書)に結びつけることによって行うことができる。
【0108】
本発明による発見は、創傷の治癒、炎症の治療および細胞内病原体によって引き起こされる感染の治療を円滑化するための、少なくとも1つの許容され得る担体と組み合わせたカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を調節することができる活性物質を含む医薬組成物を設計するための道を開く。
【0109】
本発明は、本発明による活性物質および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供する。たとえば、医薬組成物は、炎症または感染の場合には、以下の本発明の薬剤または物質:(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤、の少なくとも1つを含んでもよい。たとえば、医薬組成物は、創傷治癒の場合には、つぎの本発明の薬剤または物質:カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤、ならびに薬学的に許容され得る担体を含んでもよい。
【0110】
本発明による医薬組成物は、肝臓切除に続く肝不全の治療にも適している。よって、本発明の医薬組成物は、損傷の治癒を円滑化および促進することにより肝不全の確立または進行を予防するために、肝臓移植のドナーにまたは肝臓切除後の患者に投与することができる。本発明の医薬組成物は、たとえば肝臓損傷を治療するために、カスパーゼ8の阻害剤および抗炎症剤を含んでもよい。本発明の組成物により治療される具体的な対象としては、肝炎、アルコール、ウイルス、薬物もしくは未知の原因による肝硬変、または肝癌などの肝臓の疾患のために損傷した肝臓の一部分が部分的に切除された患者、および移植処置のために肝臓の一部が部分的に切除された健康なドナーがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
本発明による医薬組成物は、意図する目的を達成するために充分な量の本発明による物質を含有する。また、医薬組成物は、活性な化合物を医薬として使用される製剤に加工するのを円滑化する、およびこういった製剤を必要とする患者に投与するために安定できる、当業者によく知られた、賦形剤および助剤を含む適切な薬学的に許容され得る担体を含んでもよい。
【0112】
本発明による物質は、それを必要とする患者に多様な方法で投与され得る。投与経路には、肝臓内、皮内、経皮(たとえば徐放処方で)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所および鼻腔内経路が含まれる。さらに、その物質は、薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤およびビヒクルなどの、生物学的に活性な薬剤の他の成分と一緒に投与することができる。
【0113】
単回または複数回用量として個体に投与される投薬量は、物質の薬物動力学的性質、投与経路、患者の状態および特徴(性別、年齢、体重、健康状態、サイズ)、症状の程度、併用治療、治療の頻度ならびに望まれる効果などの種々の因子に依存して変化する。確立した投薬量の範囲の調整および操作は、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0114】
「薬学的に許容され得る」の定義は、活性成分の生物学的活性の効力を妨害しない、そして投与される宿主に対して毒性ではない任意の担体を包含することを意味する。たとえば、非経口投与については、本発明による物質を、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミンおよびリンガー溶液のようなビヒクル中の注射用のユニット剤形で処方してよい。
【0115】
「治療的に有効量」とは、投与したときに、本発明の前記物質が炎症、細胞内病原体の感染および創傷治癒において、有益な効果を誘導する量である。単回または複数回用量として個体に投与される投薬量は、投与経路、患者の状態および特徴(性別、年齢、体重、健康状態、サイズ)、症状の程度、併用治療、治療の頻度ならびに望まれる効果などの種々の因子に依存して変化する。確立した投薬量の調整および操作は、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0116】
本発明に関する化合物は、その薬物動力学的性質と一致した任意の経路より投与されるように調製されてもよい。
【0117】
活性物質または成分は、無菌媒体において非経口投与されてもよい。使用されるビヒクルおよび濃度に応じて、薬物はビヒクル内に懸濁または溶解され得る。
【0118】
用語「投薬量」は、投与の頻度および回数の決定および調節に関する。
【0119】
雑誌論文もしくは要約、公開されたもしくは未公開の米国もしくは外国特許出願、発行された米国もしくは外国特許または任意の他の参考文献を含む、本明細書中で引用されたすべての参考文献が、引用された参考文献中に示されたすべてのデータ、表、図および本文を含んで、完全に本明細書中に参照によって組み込まれている。さらに、本明細書中で引用された参考文献内に引用された参考文献の全内容がまた、すべて参照によって組み込まれている。
【0120】
公知の方法の工程、従来の方法の工程、公知の方法または従来の方法の引用は、決して本発明の任意の側面、記載または実施態様が、関連技術分野において開示、教示または示唆されたことを認めるものではない。
【0121】
本発明は今や説明されたので、例証を経て提供された、そして本発明を限定することを意図するものでない以下の実施例を参照することにより、より容易に理解され得るであろう。
【実施例】
【0122】
材料および方法
(i)マウス系統
カスパーゼ−8ノックアウト対立遺伝子を持つマウスの系統(Casp8-/+)(Varfolomeevら、1998)または条件付きカスパーゼ−8対立遺伝子を持つマウス系統(Casp8F/+)(Kangら、2004)、ならびに肝臓特異的アルブミンプロモーターの制御下にCreを発現するマウス(Alb−Cre)(Kellendonkら、2000)および肝細胞に特異的なカスパーゼ−8遺伝子の欠損のためのその使用(Kangら、2004)に関しては、先に述べた。リステリア感染に関する実験は、C57B1/6系統のマウスとの11回の戻し交配により得られた純粋なC57B1/6バックグラウンドのマウスで行われた。PHx後の肝臓の再生に関する示された実験は、示したように、元の遺伝的に混合したバックグラウンドのマウスおよび純粋なC57B1/6バックグラウンドのマウスで実施された。全てのマウスは、特定の無菌設備内で管理された。マウスは、国立科学アカデミー(the National Academy of Sciences)により作成され、国立保健研究所(the National Institutes of Health)により出版された「実験動物の管理と使用の手引(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」にまとめられた基準にしたがって扱われた。全ての実験は、施設内動物倫理管理委員会により承認された。
【0123】
(ii)リステリア モノサイトゲネス感染および定量化
マウスは、2×103プラーク−形成ユニットのリステリア モノサイトゲネス(10403S株)を静脈内に注射され、その後異なる時間後に殺された。それらの肝臓と脾臓が摘出され、重量が測定された。肝臓および脾臓の一部が、計量され、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の1%Triton X−100に別々にホモジネートされた。器官ホモジネートの連続10倍希釈液は、脳心臓浸出物寒天上でプレート培養された。器官あたりのコロニー形成ユニットの数は、寒天プレートを37℃で24時間インキュベートした後測定された。肝臓および脾臓の残りの部分は、10%中性緩衝ホルマリンに24〜48時間固定された。組織はその後、切り取られ、ごく普通にパラフィンにおいて処理され、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)または抗Ki67抗体(ダコサイトネイション(DakoCytonation)、グロストルップ(Glostrup)、デンマーク)で染色された。
【0124】
(iii)部分肝切除および塩化ガドリニウム投与
齢の一致したCasp8F/―:Alb−CreマウスおよびCasp8F/+:Alb−Creマウスは、腹腔内に(i.p.)投与された10mg/g体重のキシラジン(チャネル ファーマシューティカルズ マニュファクチュアリング(Chanelle Pharmaceuticals Manufacturing)、ラックレア(Loughrea)、ゴールウェイ、アイルランド)および450mg/g体重のケタミン(フォート ドッジ アニマル ヘルス(Fort Dodge Animal Health)、フォートドッジ、アイオワ州)で軽く麻酔をかけられた。記載されたように、「1/3」(30%)PHxは肝臓の中間葉を切除し、「2/3」(70%)PHxは中間、左および右上葉を切除することで実施された(Higginsら、1931およびGreeneら、2003)。マウスは、PHx前と後0〜56日間(第1週は1日おきに、その後は毎週)画像をとられた。PHx後10日および12日に、マウスは腹腔内に生理食塩水中の塩化ガドリニウム(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)、セントルイス、ミズーリ州)を10mg/kgの投薬量で注射された。
【0125】
(iv)MRI分析技術
磁気共鳴画像(MRI)実験は、水平方向4.7Tバイオスペック(Biospec)分光計(ブルカー メディカル(Bruker Medical)、エトリンゲン(Ettlingen)、ドイツ)と4.2cmの鳥かご型コイルを用いて行われた。マウスは麻酔をかけられ(腹腔内ペントバルビタール30mg/kgで)、仰向けに肝臓がコイルの中心に位置するよう置かれた。肝臓体積は、マルチスライス冠状方向および軸方向のT1強調スピンエコー画像(反復時間=400ms;エコー時間=18ms;スライスの厚み=1mm)から決定された。簡単に述べると、各スライスにおいて視覚化された肝臓の境界は、画像加工ソフトウェア(NIH イメージ)を用いて輪郭を描かれた。肝臓のピクセル数を領域に変換するために、本発明者らは要素によって多重化した[(視野)2/(マトリクス)2]。合計の肝臓の体積は、スライスの厚みによって多重化された、全てのスライスの領域の合計として計算された。それぞれのマウスごとに、肝臓の体積は、手術前の肝臓体積のパーセンテージで表現された。
【0126】
肝性の灌流および血行力学は、マウスが空気、空気とCO2(95%空気、5%CO2)およびカルボゲン(95%O2、5%CO2)を呼吸している間に得られた、T2*強調傾斜エコー画像(反復時間=100ms;エコー時間=10ms;視野=3.4cm;スライスの厚み=1.2mm)から、先に記載されたように(Abramovitchら、1998および1999)評価された。それぞれの混合気体について、5反復を得た。
【0127】
MRI血行力学データは、IDLソフトウェア(リサーチ システムズ(Research Systems)、ボールダー、コロラド州)を用いて、PCコンピューター上で分析された。異なる気体(S空気、Sco2およびSo2)の吸入の間に得られた各ピクセルの平均信号強度値の写像は、4つの各気体の値の平均から計算された(気体交換中に得られた値は切り捨てられた)。高炭酸ガス(ΔSco2)および高酸素(ΔSo2)により誘導されたMRI信号強度の変化の割合は、以下の方程式にしたがって計算された:
【数1】
【0128】
結果は平均±SDで示した。平均値は、示されたようにn匹のマウスの関心のある領域から、およびマウスあたり3つのスライスから計算された。
【0129】
(v)虚血域の体積の計算
切開域の周囲の、健全な肝臓組織よりも高い信号強度を示している異常域は、MRIによって検出可能であった。この領域は、「虚血域」と称され、その境界および体積が決定された。各マウスにおける体積は、スライスの厚みにより多重化された、全てのスライスの高信号強度の領域の合計として算出された。虚血域の体積は、PHx後2日および4日に、PHx前の肝臓体積に対する割合として算出された。
【0130】
(vi)統計分析
群間の差は、対応のない(unpaired)スチューデントのT検定により同定された。P<0.05の値は、統計的に有意であると考えられた。
【0131】
(vii)組織学および免疫染色
肝臓は10%中性緩衝ホルマリンで固定され、パラフィン内に埋められ、4μmの切片に切られ、H&Eで染色された。プロセシングされたカスパーゼ−3を発現する細胞を検出するために、切片はパラフィンをはがされ、再水和され、ウサギ抗マウス切断カスパーゼ−3(Asp175)抗体(セル シグナリング テクノロジー(Cell Signaling Technology)、ビバーリー(Beverly)、マサチューセッツ州)とともに、製造者の使用説明書にしたがってインキュベートされた。切片はその後、ビオチン化ペルオキシダーゼ抗ウサギ抗体(ダコ エンビジョンプラスシステム(DAKO Envision+System)、グロストルップ、デンマーク)で染色された。
【0132】
Ki67を発現する細胞を検出するために、肝臓パラフィン切片は、パラフィンをはがされ、再水和され、10mMの沸騰クエン酸(pH6.0)内で10分間変性させられた。20分間で室温まで冷却され、その後PBS内で3度洗浄された。3%H2O2内での5分間の処置の後、スライドは、CAS−Block(ザイムド ラボラトリーズ(Zymed Laboratories)、サンフランシスコ、カリフォルニア州)中に1:100で希釈されたラット抗マウスKi67抗体とともに4℃で一晩インキュベートされた。それらはその後、PBSで3度洗浄され、免疫ペルオキシダーゼポリマー抗ラット(ニチレイ バイオサイエンス、東京、日本)とともに1時間インキュベートされ、10分間3,3’−ジアミノベンジジン(シグマ−アルドリッチ)で展開された。
【0133】
F4/80を発現する細胞は、抗原回復のためにパラフィン切片が20mMTris(pH7.5)、0.1%トリプシン、および0.1%塩化カルシウムを含む溶液で、室温で3分間処置されたことを除いて、ラット抗マウスF4/80抗体(セロテック オクスフォード(Serotec Oxford)、イギリス)を用いて同様に検出された。肝臓のマクロファージ含量は、スライド内のF4/80陽性領域をイメージジェイ(ImageJ)1.37rソフトウェアを用いて定量化し決定された。
【0134】
ブロモデオキシウリジン(BrdU)を、マウスの殺される3時間前に腹腔内に注射し、アマシャム細胞増殖キット(アマシャム バイオサイエンス(Amersham Bioscience)、ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)を使用し、製造者の使用説明書にしたがって検出した。
【0135】
転写3タンパク質のホスホシグナルトランスデューサーおよびアクチベーター(p−STAT3、炎症中に活性化するシグナル伝達タンパク質)の免疫組織化学的検出のために、パラフィン切片はパラフィンをはがされ、再水和され、内因性のペルオキシダーゼを失活させるために3%過酸化水素内で10分間インキュベートされ、その後、1mMのEDTA(pH8.0)内で15分間煮沸することにより抗原回復を受けた。スライドはその後、TBS+0.5%Tween20(TBST)で3度洗浄され、ウサギ抗マウスp−STAT3(Tyr705)抗体(セル シグナリング テクノロジー、1:500)とともに4℃で一晩インキュベートされた。一連のTBST内でのすすぎ洗いの後、それらはビオチン化ヤギ抗ウサギ二次抗体(ジャクソン イムノリサーチ ラボラトリーズ(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、ウェスト グローブ(West Grove)、ペンシルベニア州)においてインキュベートされた。結合抗体はTSAビオチンシステム(Biotin System)(パーキン エルマー(Perkin Elmer)、ボストン、マサチューセッツ州)を用いて検出した。免疫活性は、3−アミノ−9−エチルカルバゾール高感度基質色素体(ダコ)との5〜10分間のインキュベーション後に可視化された。
【0136】
(viii)ウェスタン分析
PHx後の異なる時間後に、肝臓組織は摘出され、すぐに液体窒素の中で凍結され、使用まで−80℃で保存された。凍結組織の0.3mgの試料を計量し、ホモジネート緩衝液[50mM β−グリセロホスフェート pH7.3、1.5mM EGTA、1mM EDTA、および1’完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ ダイアグノスティクス(Roche Diagnostics)、マンハイム(Mannheim)、ドイツ)を含む1mMジチオスレイトール]にホモジネートされ、10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル上に分画され、ニトロセルロースにブロットし、ウサギ抗マウスサイクリンA抗体、ウサギ抗マウスホスホSTAT−3抗体(両方ともサンタ クルーズ バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology))、ウサギ抗マウスサイクリンE抗体(アップステート(Upstate)、シカゴ、イリノイ州)、ウサギ抗マウスホスホ−Rb抗体(セル シグナリング テクノロジー)、ラット抗マウスカスパーゼ−8モノクローナル抗体(1G12、親切にもA.Strasser博士およびL.A.O’Reilly博士から寄贈された、WEHI、メルボルン、オーストラリア)、またはモノクローナル抗−β−アクチン抗体(シグマ)とともに4℃で一晩インキュベートされた。これは、続いて西洋わさびペルオキシダーゼ共役二次抗体(ジャクソン イムノリサーチ ラボラトリーズ、ウェスト グローブ、ペンシルベニア州)とともにインキュベートされ、1:5000に希釈された。特異的バンドが、化学発光により可視化された。
【0137】
実施例1 肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損がリステリア感染への耐性を危うくする
肝臓は、真核細胞の細胞質に侵入し、そこで多数化するグラム陽性菌、リステリア モノサイトゲネスの複製の主な部位である。マウスの実験的感染後の肝臓からこの病原体を根絶することが、よって細胞内病原体に対する免疫防御の機序の研究のモデルシステムとして広く用いられた(Wingら、2002)。カスパーゼ−8機能の肝細胞における免疫応答への寄与を調査するために、カスパーゼ−8欠損肝細胞を有するマウス(Casp8F/-:Alb−Cre)に致死量以下のリステリア モノサイトゲネスが静脈内に接種された後異なる時点で、その感染からの回復がその対照同腹子(Casp8F/+:Alb−Cre)と比較された。
【0138】
感染1日後では、Casp8F/-:Alb−Creマウスの器官内の菌量は、その対照同腹子と同様であった。6日目には、しかしながら、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓と脾臓の双方において、菌力価が10〜100倍その対照よりも高かった(図1−1、1−2)。14日目までに、対照マウスの肝臓および脾臓双方から病原体は完全に消えており、一方Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓内の力価は高いままであった(図1−3)。長引く感染は、結果として炎症(図1−4、D、E)および肝臓の壊死性病変の進行(図1−4、F、G)、ならびに肝細胞の増殖の増加(図1−4、H、I)につながった。感染後6日目までには、Casp8F/-:Alb−Creマウスの15%が死に至ったが、対照マウスでは死に至るものはなかった。
【0139】
実施例2 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:早期増殖反応の弱化
損傷からの組織回復に対するカスパーゼ−8の寄与を評価するために、肝細胞からカスパーゼ−8が欠損することのPHx後の肝臓再生に対する効果が評価された。先の報告と一致して、PHxは肝細胞の爆発的増殖を促すことが見いだされた(Faustoらにより概説された、2006)。Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓においては、しかしながら、増殖ならびにG1/S移行に関連するいくつかの分子の変化の誘導(サイクリンA、DおよびEの発現、および網膜芽腫タンパク質のリン酸化の増加)もまた、対照同腹子におけるよりも有意に少なく生じた(図2A〜2E)。この減少は、1/3PHxおよび2/3PHxの後に観察され、それがより旺盛で良好な同調したDNA合成およびより効果的な細胞周期の進行につながる(Mitchellら、2005 19)。切除後の最初の数時間の死亡数は2/3PHx後で有意に高かったので、その後の全てのカスパーゼ−8欠損の効果の分析は1/3PHxからのマウスの回復に限定された。
【0140】
実施例3 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:虚血病変部位の回復の改善
インビボでの細胞増殖の厳格な制御は、その通常のサイズを維持する肝臓の能力および切開後の元のサイズの正確な回復により印象的に現れた(Diehl、2000、ならびにMichalopoulosおよびDeFrances、1997)。種々の病原体症状では、しかしながら、この制御は失敗し、結果として異常に肥大する(肝腫)(Adachiら、1995、Andersら、2005およびZimmersら、2003)。PHx後の肝臓の回復に対するカスパーゼ−8欠損の効果をさらに評価するために、肝臓体積の変化がMRIを使用して監視された。肝切除前は、Casp8F/-:Alb−Creマウスの平均肝臓体積は、Casp8F/+:Alb−Creマウスのものと同一であった(データは示していない)。PHx後は、しかし、この2群は肝臓成長の反応速度において有意に異なった(図3C)。T1強調スピンエコーMRI上で、2つの領域は肝切除術を受けた肝臓において区別が可能であり:切開の結果として生み出された虚血病変部位には、壊死性組織および死んだ細胞が含まれることが組織学的分析で見出され(図3E)、そのサイズは再生の間に徐々に減少し;肝臓の残りの部分では切開した組織の喪失を補うためにサイズが増加した。Casp8F/-:Alb−Creマウスにおける虚血病変部位のサイズの減少は、対照マウスにおけるよりも有意に速く(図3A〜3C)、肝細胞におけるカスパーゼ−8の不在が、その部位での組織の迅速な治癒または吸着を促すことを示唆する。
【0141】
実施例4 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:持続的な遅延した肝細胞増殖
驚くべきことに、カスパーゼ−8欠損肝細胞の初期の増殖反応は、正常肝細胞におけるよりも穏やかで、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓の残りの部分のサイズの増加は、その対照同腹子におけるよりゆっくりではなく、有意に速かった。その上、対照マウスの肝臓は、一旦その元のサイズに至ると成長を止めるのに対し、Casp8F/-:Alb−Creマウスにおける肝臓の最終的なサイズは正常よりも有意に大きく(図3D)、PHx前のサイズの120%に至った。
【0142】
肝切除後の後期における肝細胞増殖の評価に際して、対照マウスでは肝臓における細胞増殖は初期の突発の後治まるが、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝細胞の増殖は切開後数週間続く;よって最終的に、初期の抑制にも関わらず、正常マウスを有意に上回ることが見出された(図2A、下のパネル、および図2B)。同様なPHx後の持続的な遅延した増加は、サイクリンAおよびEの肝細胞レベルにおいても観察された(図2D)。
【0143】
実施例5 PHxからの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:慢性炎症反応
Casp8F/-:Alb−Cre肝細胞はPHx後長く増殖を続けるとの本観察は、肝切除後の後期においてこれらのマウスの肝臓のサイズが持続的に増加することに一致するようである。しかしながら、より速い体積増加は既に肝切除の数日後には認識できるという事実は(図3D)、カスパーゼ−8欠損肝細胞の増殖率が正常よりもまだ遅い時には、この差異にも付加的な因子が寄与していることを示唆した。
【0144】
高炭酸ガスおよび高酸素と組み合わせた機能的MRIプロトコールは、病理学的変化の多様性に起因する灌流および血流力学的変化の感度のよい方法を提供する(Barashら、2006)。この研究では、対照マウスでは肝臓血管分布像および血液容量の減少を反映し、PHxの後にΔSco2およびΔSo2の双方において減少した。対照的に、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓では、PHxの4日後双方のパラメーターが、血液体積および流量の増加の結果として増加した(図4A、4B)。こういった増加は炎症状態に関連して起きることが見出された(Barash H、非公開データ)。組織学的分析は、当然、肝切除されたCasp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓での白血球の大量の蓄積を明らかにし、炎症を示唆した。抗−F4/80抗体での染色は、蓄積する白血球はマクロファージであることを示唆した(図5A、5B)。ウェスタン分析は、リン酸化STAT−3、炎症中に活性化するシグナル伝達タンパク質の、Casp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓における有意な増加を明らかにした(図5C)。
【0145】
上述したように、Casp8F/-:Alb−Creマウスにおける炎症および増強した肝細胞増殖は、それらのリステリア モノサイトゲネス感染後にも観察された(図1−4、D、E、H、I)。本発明者らのマウスは、特定の無菌設備で管理され、にもかかわらず、リステリア感染のこの効果を考慮し、PHx後に観察された炎症および増強した肝臓成長が、本発明者らが気付かなかったいくつかの病原体の効果を反映する可能性をさらに排除しようと試みた。したがって、帝王切開術により再び得られ、ノトバイオートの養母と共に置かれ、その後無菌アイソレータ内に保たれたマウスで繰り返された。これらの再び得られたマウスの部分肝切除は、再び得る前に観察されたのと同じ慢性炎症状態を起こした(データは示さない)。
【0146】
実施例6 部分肝切除からの回復に対する肝細胞におけるカスパーゼ−8欠損の効果:慢性炎症反応の結果として起きる持続する遅延した肝細胞増殖
持続した肝細胞増殖期間中の肝切除されたCasp8F/-:Alb−Creマウスの肝臓由来の異なる切片の比較組織学的分析は、細胞成長の程度における切片間の多様性が対応する領域において蓄積するマクロファージ数と相関することを開示し(図5B)、肝細胞増殖および肝臓の炎症状態には因果関係があると示唆した。この関係をさらに調査するために、マウスは塩化ガドリニウム、クッパー細胞の一時的な消耗を誘導する薬剤(Canbayら、2003)を、その炎症が最高潮に至ったPHx後10日および12日に注射された。図5B(下のパネル)ならびに図6Aおよび6Bで示されたように、実質的にCasp8F/-:Alb−Cre肝臓に蓄積した炎症細胞を減少させることに加えて、この治療はまた、これらのマウスにおける肝細胞増殖の増加を実質的に一掃した。さらに、それらの肝臓のサイズの過度の増加(おそらく部分的には炎症に関連した血液体積および流量の増加ならびにクッパー細胞の増加が原因で、また部分的には同時に主に起きる肝細胞数の増加が原因である)は、削減された。これらの発見は、肝切除後の後期のCasp8F/-:Alb−Creマウスにおける肝細胞の構成的な成長は、それらの肝臓で起きる持続的炎症の結果であることを示唆する。
【0147】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚以外の組織もしくは器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項2】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が、組織または器官の細胞において下方調節される請求項1記載の使用。
【請求項3】
炎症が組織または器官の損傷後に現れる請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
損傷が組織または器官切除により引き起こされる請求項3記載の使用。
【請求項5】
器官が肝臓であり、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が肝細胞において下方調節される請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染より選択される炎症性疾患、障害または症状の治療および/または予防のための請求項1記載の使用。
【請求項7】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項8】
細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項9】
細胞内病原体が、ミコバクテリア属(Mycobacteria)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルスより選択される請求項8記載の使用。
【請求項10】
感染が、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に現れる請求項8記載の使用。
【請求項11】
器官が肝臓である請求項10記載の使用。
【請求項12】
細胞が肝細胞である請求項10または11記載の使用。
【請求項13】
感染がリステリア属(Listeria)により引き起こされる請求項8〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
リステリア属がリステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)である請求項13記載の使用。
【請求項15】
細胞内病原体がウイルスである請求項9記載の使用。
【請求項16】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項17】
創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用。
【請求項18】
創傷または損傷が、組織または器官切除後に現れる請求項17記載の使用。
【請求項19】
器官が肝臓である請求項18記載の使用。
【請求項20】
創傷または損傷が、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断より選択される身体的外傷後に現れる請求項17〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用。
【請求項22】
カスパーゼ−8阻害剤が、アンチセンスmRNA、低分子干渉RNA、カスパーゼ−8特異的抗体および阻害低分子より選択される請求項17〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する請求項22記載の使用。
【請求項24】
阻害低分子がZ−IETD−FMKである請求項23記載の使用。
【請求項25】
カスパーゼ−8の阻害剤が、数時間から約1、2、3日間および4日未満の間使用される請求項17〜24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
損傷した肝臓の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、炎症阻害剤と組み合わせてのカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用。
【請求項27】
損傷が肝臓切除後に現れる請求項25記載の使用。
【請求項28】
肝臓の1/3が切除される請求項26または27記載の使用。
【請求項29】
肝臓の2/3が切除される請求項26または27記載の使用。
【請求項30】
カスパーゼ−8阻害剤が、カスパーゼ−8特異的アンチセンスmRNA、カスパーゼ−8特異的低分子干渉RNA、抗−カスパーゼ−8抗体およびカスパーゼ−8阻害低分子より選択される請求項26〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する請求項30記載の使用。
【請求項32】
阻害低分子がZ−IETD−FMKである請求項31記載の使用。
【請求項33】
炎症阻害剤が、免疫細胞を阻害することができる薬剤である請求項26〜32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項34】
免疫細胞がマクロファージである請求項33記載の使用。
【請求項35】
マクロファージがクッパー細胞である請求項34記載の使用。
【請求項36】
炎症阻害剤がカスパーゼ−8の阻害剤の後に投与される請求項26〜35のいずれか1項に記載の使用。
【請求項37】
炎症阻害剤が、肝臓切除後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11日および/または12日に投与される請求項26〜35のいずれか1項に記載の使用。
【請求項38】
カスパーゼ−8が、4日間以上5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日間まで、および肝臓切除の1ヵ月後まで投与される請求項26〜37のいずれか1項に記載の使用。
【請求項39】
炎症阻害剤が塩化ガドリニウムを含む請求項26〜38のいずれか1項に記載の使用。
【請求項40】
皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項41】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が、組織または器官の細胞において下方調節される請求項40記載の方法。
【請求項42】
炎症が組織または器官の損傷後に現れる請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
損傷が組織または器官切除により引き起こされる請求項42記載の方法。
【請求項44】
器官が肝臓であり、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が肝細胞において下方調節される請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染より選択される炎症性疾患、障害または症状の治療および/または予防のための請求項44記載の方法。
【請求項46】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項47】
細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項48】
細胞内病原体が、ミコバクテリア属(Mycobacteria)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルスより選択される請求項47記載の方法。
【請求項49】
感染が、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に現れる請求項46記載の方法。
【請求項50】
器官が肝臓である請求項47記載の方法。
【請求項51】
細胞が肝細胞である請求項47または48記載の方法。
【請求項52】
感染がリステリア属(Listeria)により引き起こされる請求項46〜49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
リステリア属がリステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)である請求項52記載の方法。
【請求項54】
細胞内病原体がウイルスである請求項47または48記載の方法。
【請求項55】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する器官または組織において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項56】
創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項57】
創傷または損傷が、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断より選択される身体的外傷後に現れる請求項56記載の方法。
【請求項58】
創傷または損傷が、組織または器官切除後に現れる請求項57記載の方法。
【請求項59】
器官が肝臓である請求項58記載の方法。
【請求項60】
損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項61】
カスパーゼ−8阻害剤が、カスパーゼ−8特異的アンチセンスmRNA、カスパーゼ−8特異的低分子干渉RNA、カスパーゼ−8特異的抗体およびカスパーゼ−8阻害低分子より選択される請求項56〜60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
カスパーゼ−8阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する請求項61記載の方法。
【請求項63】
カスパーゼ−8阻害低分子がZ−IETD−FMKである請求項61記載の方法。
【請求項64】
カスパーゼ−8の阻害剤が、数時間から約1、2、3日間および4日未満の間投与される請求項56〜63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
皮膚以外の組織もしくは器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤、ならびに(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項2】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が、組織または器官の細胞において下方調節される請求項1記載の使用。
【請求項3】
炎症が組織または器官の損傷後に現れる請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
損傷が組織または器官切除により引き起こされる請求項3記載の使用。
【請求項5】
器官が肝臓であり、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が肝細胞において下方調節される請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染より選択される炎症性疾患、障害または症状の治療および/または予防のための請求項1記載の使用。
【請求項7】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項8】
細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項9】
細胞内病原体が、ミコバクテリア属(Mycobacteria)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルスより選択される請求項8記載の使用。
【請求項10】
感染が、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に現れる請求項8記載の使用。
【請求項11】
器官が肝臓である請求項10記載の使用。
【請求項12】
細胞が肝細胞である請求項10または11記載の使用。
【請求項13】
感染がリステリア属(Listeria)により引き起こされる請求項8〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
リステリア属がリステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)である請求項13記載の使用。
【請求項15】
細胞内病原体がウイルスである請求項9記載の使用。
【請求項16】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療するための医薬の製造における、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤の使用。
【請求項17】
創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用。
【請求項18】
創傷または損傷が、組織または器官切除後に現れる請求項17記載の使用。
【請求項19】
器官が肝臓である請求項18記載の使用。
【請求項20】
創傷または損傷が、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断より選択される身体的外傷後に現れる請求項17〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用。
【請求項22】
カスパーゼ−8阻害剤が、アンチセンスmRNA、低分子干渉RNA、カスパーゼ−8特異的抗体および阻害低分子より選択される請求項17〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する請求項22記載の使用。
【請求項24】
阻害低分子がZ−IETD−FMKである請求項23記載の使用。
【請求項25】
カスパーゼ−8の阻害剤が、数時間から約1、2、3日間および4日未満の間使用される請求項17〜24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
損傷した肝臓の治癒を円滑化または増進するための医薬の製造における、炎症阻害剤と組み合わせてのカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤の使用。
【請求項27】
損傷が肝臓切除後に現れる請求項25記載の使用。
【請求項28】
肝臓の1/3が切除される請求項26または27記載の使用。
【請求項29】
肝臓の2/3が切除される請求項26または27記載の使用。
【請求項30】
カスパーゼ−8阻害剤が、カスパーゼ−8特異的アンチセンスmRNA、カスパーゼ−8特異的低分子干渉RNA、抗−カスパーゼ−8抗体およびカスパーゼ−8阻害低分子より選択される請求項26〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する請求項30記載の使用。
【請求項32】
阻害低分子がZ−IETD−FMKである請求項31記載の使用。
【請求項33】
炎症阻害剤が、免疫細胞を阻害することができる薬剤である請求項26〜32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項34】
免疫細胞がマクロファージである請求項33記載の使用。
【請求項35】
マクロファージがクッパー細胞である請求項34記載の使用。
【請求項36】
炎症阻害剤がカスパーゼ−8の阻害剤の後に投与される請求項26〜35のいずれか1項に記載の使用。
【請求項37】
炎症阻害剤が、肝臓切除後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11日および/または12日に投与される請求項26〜35のいずれか1項に記載の使用。
【請求項38】
カスパーゼ−8が、4日間以上5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日間まで、および肝臓切除の1ヵ月後まで投与される請求項26〜37のいずれか1項に記載の使用。
【請求項39】
炎症阻害剤が塩化ガドリニウムを含む請求項26〜38のいずれか1項に記載の使用。
【請求項40】
皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項41】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が、組織または器官の細胞において下方調節される請求項40記載の方法。
【請求項42】
炎症が組織または器官の損傷後に現れる請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
損傷が組織または器官切除により引き起こされる請求項42記載の方法。
【請求項44】
器官が肝臓であり、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が肝細胞において下方調節される請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
肝炎、炎症性腸疾患、脈管炎、関節炎症、静脈洞炎、強膜炎、歯周炎、子宮頚炎、ブドウ膜炎、外陰膣炎、結膜炎、肺胞炎、食道炎、急性糸球体腎炎、腎炎、急性気管支炎、急性胆嚢炎、膵炎および耳感染より選択される炎症性疾患、障害または症状の治療および/または予防のための請求項44記載の方法。
【請求項46】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する組織または器官に発現し、該組織または器官の損傷後に現れる、皮膚以外の組織または器官の炎症を予防および/または治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項47】
細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項48】
細胞内病原体が、ミコバクテリア属(Mycobacteria)、リステリア属(Listeria)、リーシュマニア属(Leishmania)、レジオネラ属(Legionella)、サルモネラ属(Salmonella)およびウイルスより選択される請求項47記載の方法。
【請求項49】
感染が、カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を含む組織または器官に現れる請求項46記載の方法。
【請求項50】
器官が肝臓である請求項47記載の方法。
【請求項51】
細胞が肝細胞である請求項47または48記載の方法。
【請求項52】
感染がリステリア属(Listeria)により引き起こされる請求項46〜49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
リステリア属がリステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)である請求項52記載の方法。
【請求項54】
細胞内病原体がウイルスである請求項47または48記載の方法。
【請求項55】
カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性が下方調節される細胞を有する器官または組織において現れ、細胞内病原体により引き起こされる感染を治療する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量の、(i)カスパーゼ−8またはそのムテイン、アイソフォーム、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列誘導体もしくは塩、(ii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性を上方調節することができる薬剤および(iii)カスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の天然阻害剤の阻害剤から選択される少なくとも1つの薬剤を投与することを含む方法。
【請求項56】
創傷または損傷した組織または器官の治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項57】
創傷または損傷が、外科的手術、咬傷、スポーツ事故、事故、組織または器官切除および切断より選択される身体的外傷後に現れる請求項56記載の方法。
【請求項58】
創傷または損傷が、組織または器官切除後に現れる請求項57記載の方法。
【請求項59】
器官が肝臓である請求項58記載の方法。
【請求項60】
損傷した肝臓の創傷治癒を円滑化または増進する方法であって、必要とする患者に治療的に有効量のカスパーゼ−8のレベルおよび/または活性の阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項61】
カスパーゼ−8阻害剤が、カスパーゼ−8特異的アンチセンスmRNA、カスパーゼ−8特異的低分子干渉RNA、カスパーゼ−8特異的抗体およびカスパーゼ−8阻害低分子より選択される請求項56〜60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
カスパーゼ−8阻害低分子が100〜5000ダルトンの分子量を有する請求項61記載の方法。
【請求項63】
カスパーゼ−8阻害低分子がZ−IETD−FMKである請求項61記載の方法。
【請求項64】
カスパーゼ−8の阻害剤が、数時間から約1、2、3日間および4日未満の間投与される請求項56〜63のいずれか1項に記載の方法。
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4B】
【図6A】
【図6B】
【図1−4】
【図2A】
【図2D】
【図2E】
【図4A】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図1−2】
【図1−3】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4B】
【図6A】
【図6B】
【図1−4】
【図2A】
【図2D】
【図2E】
【図4A】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【公表番号】特表2009−542621(P2009−542621A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517601(P2009−517601)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000786
【国際公開番号】WO2008/001370
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【出願人】(500545311)ハダシット メディカル リサーチ サービシーズ アンド ディベロップメント リミテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000786
【国際公開番号】WO2008/001370
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【出願人】(500545311)ハダシット メディカル リサーチ サービシーズ アンド ディベロップメント リミテッド (8)
【Fターム(参考)】
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