カダベリン塩の製造方法、並びに、ポリアミド及びその製造方法
【課題】溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法において、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすること。より具体的には、消費したリジンの酸に対する規定比を1よりも大とすること、及び反応液のpHをカダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値とすることである。
【解決手段】リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法において、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすること。より具体的には、消費したリジンの酸に対する規定比を1よりも大とすること、及び反応液のpHをカダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値とすることである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カダベリン塩を製造する方法、並びに、その製造されたカダベリン塩を用いたポリアミドの製造方法、及び、それにより製造されたポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
カダベリン及び酸からなる塩(カダベリン塩)は、ナイロン等のポリアミドの原料等として期待され、需要が高まりつつある。
【0003】
従来、カダベリン塩の製造技術として、触媒を用いる方法(非特許文献1,2、特許文献1)や酵素を用いる方法(特許文献2〜5)等が検討され、開発されつつある。これらの方法においては、カダベリン塩は溶液として得られることになる。
【0004】
しかしながら、実際に工業レベルでカダベリン塩を製造した後、それを用いた重縮合反応を行ない、ポリアミドを製造する場合、カダベリン塩の製造後に精製及び重縮合反応を短時間で行なうことは不可能である。よって、より安定な状態のカダベリン塩の溶液を製造することが重要である。
【0005】
これまでに、カダベリン塩の溶液中に存在する不純物がその後の重縮合反応に影響を与えるという観点に基づき、その製法を改善する手法が提案されている。例としては、カダベリンをカルボン酸塩として製造する方法(特許文献6、7)や、精製工程においてpHを制御し、極性有機溶剤で抽出する工程を含む製造方法(特許文献8)等が挙げられる。
【0006】
【非特許文献1】薬学雑誌、vol.85(6)531(1965)
【非特許文献2】Chemistry letters、898(1986)
【特許文献1】特公平4−10452号公報
【特許文献2】特開2002−223770号公報
【特許文献3】特開2004−223771号公報
【特許文献4】特開2004−114号公報
【特許文献5】特開2004−298034号公報
【特許文献6】特開2005−6650号公報
【特許文献7】特開2004−208646号公報
【特許文献8】特開2004−222569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の各文献等の従来の技術によれば、比較的純度の高いカダベリン塩の溶液を製造した場合でも、そのまま数日放置しておくと不純物が生成したり、着色を生じたりする場合があった。このため、不純物を取り除いて脱色するために、複雑な精製工程を行なわねばならず、手順が煩雑となるとともに、カダベリン塩の収量が低下する等の課題が生じていた。
【0008】
以上の背景から、着色が少なく安定したカダベリン塩の溶液を得る方法であって、生産効率に優れ、経済的にも有効な方法が望まれている。
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造することが可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法において、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすることで、溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法であって、反応終了時における反応液を、カダベリン過剰な状態とすることを特徴とする、カダベリン塩の製造方法に存する(請求項1)。
【0011】
このとき、反応終了時までに使用したリジンの酸に対する規定比を1よりも大きい値とすることが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、反応終了時における反応液のpHを、カダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値とすることが好ましい(請求項3)。
【0013】
さらに、リジンと共存させる酸が、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、及びスルホン酸からなる群より選択される一種以上の酸であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
本発明の別の要旨は、上述のカダベリン塩の製造方法によって得られたカダベリン塩を、重縮合させることを特徴とする、ポリアミドの製造方法に存する(請求項5)。
【0015】
本発明のさらに別の要旨は、上述のポリアミドの製造方法によって得られたことを特徴とする、ポリアミドに存する(請求項6)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造することができる。さらに、得られたカダベリン塩を用いて、高品質なポリアミドを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について実施の形態を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々に変更して実施することができる。
【0018】
本発明のカダベリン塩の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」ということがある)は、リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素(以下「LDC」(Lysine decarboxylase)ということがある)を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法であって、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすることに特徴を有する。
【0019】
以下の記載では、まず、本発明の製造方法によって得られるカダベリン塩(以下、適宜「本発明に係るカダベリン塩」ということがある)について説明し、続いて、本発明の製造方法について説明する。
【0020】
[1.カダベリン塩]
<1−1.カダベリン>
本発明において「カダベリン」とは、1,5−ペンタンジアミン(H2N(CH2)5NH2)をいう。カダベリンは、ポリマー原料や医薬中間体の合成原料として有用な化合物である。
【0021】
<1−2.カダベリン塩>
本発明において「カダベリン塩」とは、カダベリン及び後述する酸から形成される塩のことをいう。
【0022】
なお、後述する反応液中では、カダベリン塩はその大部分が溶解し、イオン(カダベリンイオンとその共役塩基)として解離した状態で存在するが、本発明に係るカダベリン塩は、このように解離した状態で得られたものをも含むものとする。
【0023】
<1−2−1.酸>
本発明に係るカダベリン塩を構成する酸の種類に制限はないが、本発明の製造方法において、カダベリンは反応液に含有されている酸と塩を形成するため、具体的には後述の<2−1−2.酸>で説明する酸と同様である。これらの酸は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0024】
<1−2−2.カダベリン塩の組成>
本発明に係るカダベリン塩1分子を構成するカダベリン及び酸の分子数も任意に選択し得る。カダベリン塩1分子あたり、カダベリン及び酸が共に1分子であってもよく、カダベリン及び酸の一方又は双方が2分子以上であってもよい。例えば、二価の塩基であるカダベリンと二価の酸とから構成される塩の場合、一般的にはカダベリン1分子と二価の酸(例えばアジピン酸)1分子とからカダベリン塩1分子が構成されるが、他の形態を排除するものではなく、2分子以上のカダベリン及び/又は2分子以上の二価の酸から構成されたカダベリン塩が含まれていてもよい。
【0025】
[2.カダベリン塩の製造方法]
本発明の製造方法は、リジン及び酸の共存する溶液にLDCを作用させて脱炭酸反応することにより、カダベリン塩を製造するものである。従って、本発明に係るカダベリン塩は、その大部分が反応液に溶解した状態で、即ち溶液(カダベリン塩溶液)の状態で得られることになる。
【0026】
本発明の製造方法における手順や条件は、上記の反応終了時における反応液がカダベリン過剰な状態となれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。
以下、まずは本発明の製造方法に使用される成分(リジン、酸、溶媒、LDC等)について説明し、その後で、本発明の製造方法の手順について説明する。
【0027】
なお、以下の記載で「反応液」とは、上述の「リジン及び酸の共存する溶液」に制限されるものではなく、リジン、酸及びLDCのうち少なくとも何れかが溶媒に溶解した溶液であって、リジン脱炭酸反応に関与する溶液を、リジン脱炭酸反応の開始や終了の前後に拠らず指すものとする。
【0028】
<2−1.成分>
本発明の製造方法では、カダベリン塩の原料となるリジン及び酸と、溶媒と、LDCとを少なくとも使用する。以下、これらの成分について説明する。なお、LDCについては章を改めて、後出の<2−2.LDC>において説明する。
【0029】
<2−1−1.リジン>
本発明において「リジン」とは、リジン分子又はリジンイオンをいう。リジンイオンは遊離していてもよく、他のイオンと結合して塩を形成していてもよい。すなわち、反応液中において、リジンは全てリジン分子として存在していてもよく、全てリジンイオンとして存在していてもよく、リジン分子とリジンイオンとが任意の組み合わせ及び割合で存在していてもよい。また、リジンイオンは、反応液中で全て遊離している必要はなく、他のイオンと塩(以下、適宜「リジン塩」ということがある)を形成している状態で存在してもよい。
【0030】
リジン塩1分子を構成するリジンイオン及び他のイオンの数も任意に選択し得る。リジン塩1分子あたり、リジンイオン及び他のイオンが共に1分子であってもよく、リジンイオン及び他のイオンの一方又は双方が2分子以上であってもよい。一般的には、一価の塩基の状態であるリジンイオンと、一価の他のイオンとから塩が構成される。しかし、他の形態を排除するものではなく、例えば、一価の塩基の状態であるリジンイオンと、二価の他のイオンとから塩を構成する場合、リジンイオン2分子と二価の他のイオン1分子とからリジン塩1分子が構成されていてもよい。
【0031】
リジンイオンと共に塩を形成するイオンとしては、酸のイオンが挙げられる。但し、本発明の製造方法においては、<2−1−2.酸>の欄で後述する酸のイオンが好ましい。
【0032】
なお、リジンは、酵素的脱炭酸反応によりカダベリンを生成するものであれば、L−リジン、D−リジンの何れであってもよく、これらが任意の比率で混合されたものであってもよいが、通常はL−リジンが好ましい。
【0033】
<2−1−2.酸>
本発明の製造方法に使用される酸の種類に制限はない。無機酸でも有機酸でもよく、また、一価の酸でも二価以上の酸でもよい。酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等が挙げられる。カルボン酸の具体例としては、ギ酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。ただし、本発明の製造方法で得られるカダベリン塩の純度の低下を防止するため、カダベリンと塩を形成したときに、所望のカダベリン塩となる酸を用いることが好ましい。係る観点から、得られるカダベリン塩をナイロン等のポリアミドの製造用途に使用する場合には、カルボン酸が好ましく、特にアジピン酸が好ましい。これらの酸は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0034】
<2−1−3.溶媒>
溶媒としては、上述のリジン及び酸を溶解させることが可能であれば、その種類は任意である。但し、本発明の製造方法では酵素(LDC)の作用により反応を行なうため、酵素反応を進行させる観点から、通常、水又は水を主成分とする混合溶媒が用いられる。ここで「主成分」とは、混合溶媒の通常50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上を占める成分をいう。
【0035】
該混合溶媒の水以外の成分としては、通常、水と混和性を有する親水性溶媒が用いられる。具体的には、アルコール、カルボン酸、エステル等が挙げられる。アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられる。カルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸等が挙げられる。エステル類の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0036】
なお、これらの水以外の成分は、何れか一種の溶媒を水に混合してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合した溶媒を水に混合してもよい。なお、溶媒は、目的とするカタベリン塩溶液の種類や濃度、又は使用する酸を考慮して、適宜選択することが好ましい。
【0037】
<2−1−4.その他>
本発明の製造方法では、上述のリジン、酸及び溶媒、並びに後述するLDCに加えて、その他の一種又は二種以上の成分を反応液に含有させてもよい。その他の成分の種類や含有量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、通常はカダベリン塩の製法や用途に応じて選択される。
【0038】
例えば、反応液のpHは、通常、上述の酸によって調整されるため、他のpH調整剤を用いる必要はない。但し、本発明の製造方法では酵素(LDC)の作用により反応を行なうため、反応に至適なpHを保つために、反応液中に緩衝液を含有させてもよい。緩衝液としては、酢酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。但し、カダベリンと酸との塩を形成させるという点からは、緩衝液等は用いないか、用いる場合であっても低濃度に抑えることが好ましい。
【0039】
<2−2.LDC>
本発明の製造方法に用いられるLDCは、リジンに作用して脱炭酸反応を行ないカダベリンに変換することが出来る酵素であれば、その種類に制限はない。従って、どの生物種由来のLDCを用いてもよい。
【0040】
中でも、本発明の製造方法では、副反応を抑えるために、立体特異性等の基質特異性や、反応選択性が高いLDCを用いることが好ましい。ただし、反応生成物であるカダベリンによるアロステリック効果を受けないものが好ましい。収率が低下する傾向を抑えるためである。
【0041】
また、本発明の製造方法では、工業的に取り扱いが簡便となるよう、反応の至適温度、至適pH、至適な塩濃度のレンジが広いLDCを用いることが好ましい。
【0042】
また、本発明の製造方法では、LDCは、1種類を用いてもよく、2種以上を任意の割合及び比率で併用してもよい。
さらに、アイソザイムが存在するLDCについては、1種類のアイソザイムのみを用いてもよく、2種以上のアイソザイムを任意の割合及び比率で併用していてもよい。
【0043】
本発明で使用されるLDCの例としては、例えば、前述した非特許文献1,2及び特許文献1〜5に記載された酵素等が挙げられる。以下、本発明におけるLDCの産生方法を説明する。
【0044】
LDCを産生する細胞の例としては、微生物(以下、適宜「菌体」という場合がある)、植物細胞、動物細胞等が挙げられるが、微生物が好ましい。微生物としては、細菌、真核生物等が挙げられる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)等のコリネ型細菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtills)等のバチルス属細菌、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)等のセラチア属細菌等が挙げられる。真核生物としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。中でも、菌体としては細菌が好ましく、エシェリヒア属細菌がより好ましく、大腸菌が特に好ましい。菌体は、LDCを産生する限り、野生株でもよく、変異株であってもよい。また、LDC活性が上昇するように改変された組換え株であってもよい。なお、組換え株の詳細については後述する。
【0045】
菌体等の細胞を用いてLDCを産生した後、細胞をそのまま反応液に混合してもよく、LDCを含む細胞培養液又は細胞処理物を反応液に混合してもよく、細胞培養液又は細胞処理物からLDCを精製してから反応液に混合してもよい。細胞処理物としては、細胞の破砕液及びその分画物が挙げられる。
【0046】
なお、以下の記載では、反応液に混合される、LDCを産生する細胞、LDCを含む細胞培養液及び細胞処理物、並びに精製されたLDCを総称して「LDC源」という場合がある。LDC源は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0047】
また、LDCの活性中心の活性化のため、補酵素などの補助因子を併用することも好ましい。
例えば、生産速度及び反応収率向上のため、補酵素としてビタミンB6を用いることが好ましい。ビタミンB6の例としては、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサル、ピリドキサルリン酸等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、ピリドキサルリン酸が好ましい。
【0048】
ビタミンB6の使用量は特に制限されないが、通常、反応液とLDCとを混合した反応液に対して、0.01mM以上、0.5mM以下の範囲が好ましい。ビタミンB6の使用量が少な過ぎると反応速度が遅くなる場合があり、多過ぎると反応液の色が黄色くなる場合がある。
【0049】
ビタミンB6を反応液に含有させる時期や手法に制限はない。反応前に含有させてもよく、反応中に含有させてもよい。また、一度に反応液に含有させてもよく、二度以上に分割して、異なる時期に反応液に含有させてもよい。
【0050】
<2−3.リジンの脱炭酸反応>
本発明の製造方法では、リジン及び酸の共存する溶液にLDCを作用させて脱炭酸反応を生じさせることができれば、その具体的な手順は制限されないが、通常は上述のリジン、酸、溶媒、LDC源等の各成分を混合することにより、脱炭酸反応を行なう。
リジン、酸、溶媒、LDC源等の各成分の混合順は制限されず、任意である。また、各成分は何れも、全量を一度に混合してもよく、全量を分割して複数回に分割して混合してもよく、時間を掛けて連続的又は断続的に混合してもよい。
【0051】
但し、通常は、溶媒に適量のリジン及び酸を溶解させて、後述する至適範囲内のpHを有する反応液を調製した上で、この反応液にLDC源を加えて反応を開始させ、その後はリジン及び/又は酸を反応液に補充することにより、反応液のpHを調整しながら反応を進行させることが好ましい。以下、主にこの手順で反応を行なう場合について説明を行なうが、本発明の製造方法における具体的な手順は以下の説明に制限されるものではない。
【0052】
具体的に、本発明の製造方法において、反応液におけるリジン濃度は、後述の脱炭酸反応が進行すれば任意であるが、通常10g/L以上、好ましくは20g/L以上、また、通常700g/L以下、好ましくは500g/L以下の範囲とすることが望ましい。
【0053】
但し、本発明の製造方法では、酵素による反応を行なっているため、酵素量に対して基質(リジン)濃度が高くなりすぎると、反応効率が低下する傾向がある。従って、反応液中のリジン濃度は、反応期間の大部分に亘って上述の範囲とすることが好ましい。そのため、LDCの量に対して、最適なリジン濃度で反応させ、反応の進行とともに反応液から減少したリジンを順次補うように加えてもよい。
【0054】
なお、反応液中のリジン濃度は、種々の分析機器で測定することが可能である。分析手法は限定されないが、リジンセンサー、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等を用いて測定するのが一般的である。これらのリジンセンサーやクロマトグラフィーによって測定を行なう場合、測定対象となる溶液をそのまま、或いは必要に応じて所定の濃度範囲となるように希釈して測定に供する。また、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーの場合は、溶液中の成分が有する特定の官能基(主にリジンのアミノ基)を誘導体化してから測定に供することが好ましい。
【0055】
また、反応液のpHは任意であるが、通常は反応液中のリジンと酸との比率を調整することにより、反応液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHとなるように調整することが好ましい。具体的には、反応液のpHを、通常4.0以上、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、また、通常8.0以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは7.0以下の範囲とすることが望ましい。反応液のpHが低過ぎても高過ぎても、充分な反応速度が得られない場合がある。
【0056】
上述したように、通常は、適量のリジン及び酸を溶媒に溶解させて、上述の至適範囲内のpHを有する反応液を調製し、この反応液にLDC源を混合して反応を開始させる。反応の開始後は、脱炭酸反応の進行に伴い、リジンから遊離される二酸化炭素が炭酸ガスとなって反応液から放出され、反応液のpHが上昇する。従って、反応中も反応液のpHが前記範囲内に保たれるように、反応液に酸を加えてpHを調整することが好ましい(後述する反応終了前の一定期間を除く)。酸は反応液に連続的に加えてもよく、pHが前記範囲に維持される限り、分割して断続的に加えてもよい。
【0057】
リジン脱炭酸反応時におけるその他の条件は、LDCがリジンに作用してカダベリンを生成させる条件であれば特に制限はないが、一般的には以下の通りである。
【0058】
反応方式は、連続式でもバッチ式でもよい。反応中に反応液に酸を容易に混合する観点からは、バッチ式で反応を行なうことが好ましい。また、一種又は二種以上のLDC源を固定化した担体を用いた移動床カラムクロマトグラフィーによって反応を行なうこともできる。その場合は、反応系のpHが所定の範囲に維持されたまま反応が進行するように、リジン及び/又は酸をカラムの適当な部位に注入すればよい。
【0059】
反応時の反応液の温度は、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常60℃以下、好ましくは40℃以下の範囲とすることが望ましい。反応液の温度が低過ぎると反応が進行しない場合があり、高過ぎると酵素が失活する場合がある。
【0060】
反応時の雰囲気は任意であるが、通常は空気、炭酸ガス又は窒素ガス雰囲気下が好ましい。
反応時の圧力も任意であるが、通常は常圧或いはそれに近い圧力下で行なう。
また、反応液に攪拌を加えてもよい。
【0061】
<2−4.カダベリン過剰な状態>
本発明の製造方法は、反応終了時にける反応液をカダベリン過剰な状態とすることに特徴を有する。ここで、本発明において「カダベリン過剰な状態」とは、反応液中のカダベリンの物質量が、酸の物質量に比べて多いことをいう。
【0062】
上述したように、本発明の製造方法では通常、反応時にリジン及び/又は酸を反応液に補充しながら反応を進行させる。そこで、反応終了前の一定期間において、リジン及び/又は酸の反応液への供給量を調整する(通常は、酸の供給量を減少させる)ことにより、反応終了時にける反応液をカダベリン過剰な状態とすることが可能である。その際、反応液中のカダベリン及び酸の物質量を測定し、それを基準にしてリジン及び/又は酸の反応液への供給量を調整することが好ましい。この酸供給量の調整は、LCDの種類や、反応温度、pH、反応容量等の条件によって異なるが、通常、2時間以下、好ましくは1時間以下、さらに好ましくは0.5時間以下で行なうことが好ましい。
なお、酸供給量の調節後、通常2時間以上、好ましくは4時間以上、さらに好ましくは6時間以上、反応を継続させてから終了することが好ましい。酸供給量の調整後、一定時間経過することで、反応が完全に終了し、溶液の状態が安定するためである。
【0063】
反応液中のカダベリン及び酸の物質量は、種々の分析機器で測定することが可能である。分析手法は限定されないが、通常、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等を用いて測定される。これらのクロマトグラフィーによって測定を行なう場合、測定対象となる反応液をそのまま、或いは必要に応じて所定の濃度範囲となるように希釈して測定に供する。また、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーの場合は、反応液中の成分が有する特定の官能基(主にカダベリンのアミノ基)を誘導体化してから測定に供することが好ましい。中でも、本発明においては、液体クロマトグラフィーで測定を行なうことが好ましい。なお、これらのクロマトグラフィーを用いた測定法を、以下「直接法」という場合がある。
【0064】
また、直接的にカダベリンや酸の物質量を測定しなくても、反応液のpHを測定することで、間接的にカダベリン塩溶液におけるカダベリンと酸との物質量の比を予測することが出来る。即ち、カダベリン及び酸を含有する溶液(例えば反応液。これを以下「共存溶液」という場合がある。)中のカダベリンに対する酸の物質量の比と、当該共存溶液のpHとの間には相関がある。よって、本発明の製造方法に用いる酸を含有する共存溶液を用いて、この相関を予め測定し、把握しておけば、反応液のpHを測定することによって、酸の物質量に対するカダベリンの物質量の比を間接的に予測することが可能となる。この方法は、副生成物の少ない系においては、非常に有効であり、正確に物質量比を予測することができる。本発明の反応系は、これに当てはまる。なお、このpHを用いた予測法を、以下「間接法」という場合がある。
【0065】
上述の、クロマトグラフィーを用いた直接法と、pHを用いた間接法の何れの方法でも、反応液中の酸の物質量に対するカダベリンの物質量の比を求めることが出来る。ただし、pHを用いた間接法は、液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを用いた直接法に比べて、簡便であるという利点がある。
【0066】
なお、反応量論から、酸の規定数に対するリジンの規定数の比(規定比)が1であるとき、カタベリンと酸との物質量が等しくなる。従って、上述のようなカダベリン過剰な状態は、反応終了時までに使用した酸に対するリジンの規定比を1よりも大きな値にすることにより得られる。中でも、溶液の状態における着色が防止された安定なカダベリン塩を製造するためには、該規定比を1以上にするのが好ましく、1.005以上にするのが更に好ましい。
【0067】
また、酸と塩基との中和の理論から、反応液のpHが、カダベリンと酸との中和点におけるpHのときに、カダベリンと酸との物質量が等しくなる。従って、上述のようなカダベリン過剰な状態は、反応終了時における反応液のpHを、カダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値にすることにより得られる。
具体的には、上記の酸が、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸の場合には、pHが4.5以上になると、強酸に比べてカダベリンの物質量が過剰な状態となる。また、炭酸、カルボン酸、リン酸等の弱酸の場合には、pHが7.2以上になると、弱酸に比べてカダベリンの物質量が過剰な状態となる。
従って、例えば、カダベリンとアジピン酸との場合は、反応液のpHが7.2以上のときに、カダベリン過剰な状態となる。中でも、溶液の着色が防止され安定なカダベリン類の溶液を製造するためには、該pHを7.20以上にするのが好ましく、7.40以上にするのが更に好ましい。
【0068】
本発明の製造方法では、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすることにより、得られるカダベリン塩の溶液が着色の少なく安定したものになる、という効果が得られる。
【0069】
更に、本発明の製造方法により得られたカダベリン塩を、ポリアミドの製造原料の用途に用いる場合には、コストや効率の面でも利点がある。
即ち、従来のカダベリン塩の製造方法では、LDCの至適pHのまま反応を終了させていたので、反応終了後の反応液は酸が過剰に存在する状態となっていた。このため、得られた反応液をポリアミドの製造原料の用途に用いる場合には、カダベリンを追加してカダベリン(イオン)と酸(共役塩基)との物質量比を概ね等量に調整していたが、カダベリンは高価であったため、コストや効率の面で不利であった。
これに対し、本発明の製造方法では、反応終了後の反応液がカダベリン過剰な状態となっているため、反応液に酸を補充することによりカダベリン(イオン)と酸(共役塩基)とを概ね等量に調整することができ、コストや効率の面で有利である。
【0070】
<2−5.その他>
以上の手順により、リジンの酵素的脱炭酸反応によってカダベリンが生成する。これにより、得られた反応液中には、生成したカダベリンと、酸とが共存することになる。なお、これらのカダベリン及び酸は通常、その大部分がイオンとなって反応液中に溶解した状態で存在する。こうして、本発明の製造方法により、カダベリン塩が反応液中で解離した状態で(即ち、カダベリン塩の溶液として)得られることになる。
【0071】
なお、上述したように、反応終了時の反応液はカダベリン過剰な状態であるため、カ ダベリンイオンの物質量がその共役塩基の物質量よりも多い状態となっているが、本発 明ではこのような場合も含め、カダベリンイオンとその共役塩基とを含有する溶液を包 括して「カダベリン塩溶液」というものとする。
【0072】
[3.カダベリン塩の用途及び保存]
本発明の製造方法により得られたカダベリン塩(本発明に係るカダベリン塩)は、任意の用途に使用することが可能であるが、例としては56ナイロン等のポリアミドの製造原料としての用途が挙げられる。
【0073】
本発明に係るカダベリン塩は、その用途によって、上述の反応終了後に得られた反応液の状態のままで用いてもよいが、何らかの処理を加えてから用いてもよい。処理の内容は任意であるが、例としては、カダベリン及び/又は酸の追加、反応液の滅菌・濾過、溶媒の除去・追加によるカダベリン塩の濃度調整等の処理が挙げられる。
【0074】
また、以上の反応により得られた反応液から、カダベリン塩を精製・単離してもよい。精製・単離の手法は任意であり、公知の手法を適宜選択して用いればよい。例としては、晶析、蒸留等が挙げられる。精製・単離されたカダベリン塩を含む固体成分を任意の溶媒に溶解させることにより、本発明に係るカダベリン塩を含有する溶液を新たに調製することも可能である。
但し、本発明に係るカダベリン塩をポリアミドの製造原料としての用途に使用する場合には、複雑な精製や単離を行なうことなく、上述のように反応終了後の反応液に酸を追加して、カダベリン(イオン)と酸(共役塩基)との物質量を等量に調整することができ、コストや効率の面で好ましい。
【0075】
なお、本明細書では、本発明の製造方法における反応終了後の反応液か、その反応液に各種の処理を加えて得られた溶液かを問わず、本発明に係るカダベリン塩を含有する溶液を「本発明に係るカダベリン塩溶液」と総称するものとする。
【0076】
本発明に係るカダベリン塩溶液は、調製後にすぐ使用に供してもよいが、使用までに時間がある場合には、以下に説明する方法で保存することが好ましい(この保存方法を以下「本発明に係る保存方法」という場合がある。)。
【0077】
本発明に係る保存方法では、上述した本発明に係るカダベリン塩溶液のpHを、酸性或いは塩基性に調整して保存する。
【0078】
具体的に、カダベリン塩溶液のpHを酸性に調整する場合、そのpHは、通常6.4以下、好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.5以下である。
一方、カダベリン塩溶液のpHをアルカリ性に調整する場合、そのpHは、通常7.5以上、好ましくは8.0以上、更に好ましくは8.5以上である。
上述のように、カダベリン塩溶液のpHを酸性或いは塩基性に調整して保存することにより、カダベリン塩溶液を着色の少ない状態で安定に保存することができる。
【0079】
カダベリン塩溶液のpHを上記範囲内となるように調整する手法は制限されないが、例としては、以下に挙げる二種の手法が挙げられる。
【0080】
まず、第一の手法として、カダベリン塩溶液の製造時にその条件を調整することにより、得られるカダベリン塩溶液のpHを上記範囲内にするという手法が挙げられる。具体例として、上述のLDCを用いたリジンの酵素的脱炭酸反応によってカダベリン塩溶液を製造する場合、反応時に反応液に加える酸の量を調整したり、或いはカダベリンやカダベリン塩を加えることにより、反応終了時における反応液、即ちカダベリン塩溶液のpHが上記範囲内となるように調整することができる。
【0081】
また、第二の手法として、カダベリン塩溶液を製造した後に、pH調整剤を用いてそのpHを上記範囲内に調整するという手法が挙げられる。
pH調整剤の種類は制限されない。保存するカダベリン塩溶液の成分や用途等に応じて適宜選択することができる。
【0082】
pH調整剤は主に、酸と塩基とに分けられる。
酸の種類は任意であるが、例としては、上述のカダベリン塩を構成する酸として例示したものが挙げられる。
塩基としては、無機塩基でも有機塩基でもよく、また、一価の塩基でも二価以上の塩基でもよい。塩基の例としては、カダベリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アンモニア等が挙げられる。中でも、カダベリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらの塩基は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0083】
なお、pH調整剤とともに、緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤の種類は任意であるが、例としては、酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液等が挙げられる。これらの緩衝剤は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0084】
但し、本発明の製造方法により得られた反応液が、上述のpHの範囲を満たしている場合(例えば、pH7.5以上の場合)には、更なるpHの調整を行なうことなく、そのまま保存に供してもよい。
【0085】
本発明に係るカダベリン塩溶液の保存時におけるその他の条件は任意であるが、通常は以下の通りである。
即ち、保存時の温度は特に制限されないが、通常は常温以下とすることが望ましい。具体的には、通常30℃以下、好ましくは25℃以下が望ましい。また、例えば通常10℃以下、好ましくは5℃以下の低温に冷却して保存を行なってもよい。保存時の温度が高過ぎると、変色が進んだり、不純物が発生したりする場合がある。
保存時の雰囲気は任意であるが、通常は空気又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
保存時の圧力も任意であるが、通常は常圧或いはそれに近い圧力とする。
本発明に係るカダベリン塩溶液の保存時における状態も制限されないが、通常は静置状態で保存する。
【0086】
本発明に係る保存方法によれば、本発明に係るカダベリン塩溶液を、着色の少ない状態で安定に保存することができる。具体的には、本発明に係る保存方法によりカダベリン塩溶液を7日間保存した場合、下記式[1]により規定される、波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化が、通常0.13以下、好ましくは0.125以下、更に好ましくは0.12以下である。この値が低いほど、可視光領域における吸光度の変化が少なく、ひいては着色が少ないといえる。
【0087】
(波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化)
= (保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
/(カダベリン塩溶液中のカダベリンのモル濃度) [1]
【0088】
上記式[1]中、「保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化」は、下記式[2]により求められる値である。
【0089】
(保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
= (保存7日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度)
− (保存0日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度) [2]
【0090】
なお、カダベリン塩溶液の波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化は、25℃の室内環境下でカダベリン塩溶液を7日間保存するとともに、その前後における吸
光スペクトルを分光光度計(例えば日立製作所製U−3500)で測定し、得られた吸光スペクトルから求めることが可能である。
【0091】
[4.LDC遺伝子の発現の増強]
次に、微生物をLDC活性が上昇するように改質する方法について例示する。なお、他の細胞についても、それに適するように下記の方法を適宜改変することによって、同様にLDC活性を上昇させることができる。
【0092】
LDC活性は、例えば、LDCをコードする遺伝子(LDC遺伝子)の発現を増強することによって上昇する。LDC遺伝子の発現の増強は、LDC遺伝子のコピー数を高めることによって達成される。例えば、LDC遺伝子断片を、微生物で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換すればよい。
【0093】
LDC遺伝子のコピー数の増大は、LDC遺伝子を微生物の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。微生物の染色体DNA上に遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行なう。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2−109985号公報に開示されているように、目的遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。
【0094】
LDC活性の上昇は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上又はプラスミド上のLDC遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開第00/18935号パンフレットに開示されているように、遺伝子のプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換又は改変によりLDC遺伝子の発現が強化され、LDC活性が上昇する。これら発現調節配列の改変は、遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
【0095】
発現調節配列の置換は、例えば、温度感受性プラスミドを用いた遺伝子置換と同様にして行うことができる。大腸菌の温度感受性複製起点を有するベクターとしては、例えば国際公開第99/03988号パンフレットに記載のプラスミドpMAN997等が挙げられる。また、λファージのレッド・リコンビナーゼ(Red recombinase)を利用した方法(Datsenko, K. A., PNAS (2000) 97(12), 6640-6645)によっても、発現調節配列の置換を行うことができる。
【0096】
LDC遺伝子としては、コードされるLDCが、リジンの脱炭酸反応に有効利用できるものであれば特に制限されないが、例えば、バクテリウム カダベリス、大腸菌等の細菌や、カラス豆等の植物、更には、特開2002−223770号公報に記載の微生物のLDC遺伝子が挙げられる。
【0097】
宿主微生物として大腸菌を用いる場合は、大腸菌由来のLDC遺伝子が好ましい。
大腸菌のLDC遺伝子としては、cadA遺伝子及びldc遺伝子(米国特許第5827698号明細書)が知られているが、これらの中ではcadA遺伝子が好ましい。大腸菌のcadA遺伝子は配列が知られており(N. Watson et al., Journal of Bacteriology (1992) vo.174, p.530-540; S. Y. Meng et al. Journal of Bacteriology (1992) vo.174, p.2659-2668; GenBank accession No.M76411)、その配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCRにより、大腸菌染色体DNAから単離することができる。このようなプライマーとしては、配列番号1及び2に示す塩基配列を有するプライマーが挙げられる。
【0098】
取得されたLDC遺伝子とベクターを連結して組換えDNAを調製するには、LDC遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断し、T4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて前記遺伝子とベクターを連結すればよい。大腸菌用のベクターとしては、pUC18、pUC19、pSTV29、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pBR322、pACYC184、pMW219等が挙げられる。
【0099】
LDC遺伝子は、野生型であってもよいし、変異型であってもよい。例えばcadA遺伝子は、コードされるLDCの活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むLDCをコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2個以上、また、通常50個以下、好ましくは30個以下、より好ましくは10個以下である。
【0100】
上記のようなLDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むようにcadA遺伝子の塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線、又は、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)若しくはエチルメタンスル
ホン酸(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0101】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、LDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有するLDCをコードするDNA又はこれを保持する細胞から、例えばcadA遺伝子(GenBank accession No.M76411)のコード領域の配列、又は同配列の一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、LDCと同等の活性を有するタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それにより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、或いは、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である、温度約60℃で、通常は1倍濃度SSC又は0.1%SDSに相当する塩濃度、好ましくは0.1倍濃度SSC又は0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0102】
プローブとしてcadA遺伝子の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、公知のcadA遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、cadA遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、例えば温度約50℃、2倍濃度SSC又は0.1%SDSに相当する塩濃度という条件が挙げられる。
【0103】
LDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして、具体的には、公知のcadA遺伝子がコードするアミノ酸配列と、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の相同性を有し、且つ、LDC活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0104】
組換えDNAの微生物への導入は、これまでに報告されている形質転換法に従って行なえばよい。例えば、大腸菌K12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・サブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Ducan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., Gene, 1, 153 (1997))がある。或いは、バチルス・サブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラスト又はスフェロプラストの状態にして、組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979); Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A., Nature, 274, 398 (1978); Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978))も応用できる。更には、電気パルス法(特開平2−207791号公報)によっても、微生物の形質転換を行なうことができる。
【0105】
LDCを産生する微生物又は細胞を得るための培養は、用いる微生物又は細胞に応じて、LDCの産生に適した方法によって行なえばよい。
【0106】
例えば、培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地を用いればよい。
【0107】
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、澱粉の加水分解物等の糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。
【0108】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
【0109】
有機微量栄養素としては、ビタミンB1等のビタミン類、アデニンやRNA等の核酸類などの要求物質又は酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。
【0110】
これらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を少量使用してもよい。
【0111】
培養条件としては、大腸菌の場合、好気的条件下で16〜72時間程度実施するのがよく、培養温度は30〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御するのがよい。なお、pH調整には、無機又は有機の酸性又はアルカリ性物質、アンモニアガス等を使用することができる。
なお、LDC遺伝子の発現が、誘導可能なプロモーターによって調節されている場合には、誘導剤を培地に含有させてもよい。
【0112】
培養後、細胞を遠心分離機や膜により集めることにより、培養液から回収することができる。
回収された細胞は、そのまま用いてもよいが、LDCを含むそれらの処理物を用いる場合は、細胞を超音波、フレンチプレス、又は酵素的処理により破砕して酵素を抽出し、無細胞抽出液とする。更に、そこからLDCを精製する場合には、常法に従い、硫安塩折、各種クロマトグラフィーを使用することによって精製することができる。
【0113】
[5.ポリアミド]
本発明のポリアミドは、本発明の製造方法によって得られたカダベリン塩を、重縮合させる工程を経て製造される。本発明のポリアミドの製造方法は、上記特徴を有していればよいが、本発明の効果を著しく損なわない限り、その他の任意の工程を有することが出来る。
本発明のポリアミドの製造方法の具体例としては、[2.カダベリン塩の製造方法]で得られたカダベリン塩を重縮合する方法が考えられる。以下、この方法を中心に説明する。
なお、本明細書では、ポリアミドの構成単位を、その由来となる重合成分又は共重合成分に「単位」を付して表わす場合がある。例えば、「ジカルボン酸単位」とは、ジカルボン酸に由来する構成単位である。
【0114】
<5−1.ポリアミドの構成単位>
本発明のポリアミドは、その分子構造の構成成分として、カダベリン単位、及び、ジカルボン酸単位とを有してなる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、それ以外の共重合成分の構成単位を有していてもよい。
【0115】
(ジカルボン酸単位)
本発明のポリアミドが有するジカルボン酸単位としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等に由来するジカルボン酸単位が挙げられる。
【0116】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、アジピン酸、等の脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;等が挙げられる。
【0117】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、等が挙げられる。
【0118】
これらのジカルボン酸単位の種類によって、用途に応じた様々なポリアミドを製造することができる。例えば、アジピン酸を用いた場合には56−ナイロン、スベリン酸を用いた場合は58−ナイロン、セバシン酸を用いた場合は510−ナイロン、テレフタル酸を用いた場合は5T−ナイロン、イソフタル酸を用いた場合は5I−ナイロンを得ることができる。
【0119】
(共重合成分)
また、共重合成分を用いる場合、その具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸、等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、等のラクタム;エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタン、等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン、等の芳香族ジアミン;等が挙げられる。
【0120】
これらの共重合成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合、及び比率で併用してもよい。
【0121】
<5−2.ポリアミドの製造方法>
本発明のポリアミドの製造方法としては、公知の方法が使用できる。具体例としては「ポリアミド樹脂ハンドブック」(日刊工業社出版:福本修編)等に開示されている。
【0122】
(加熱重縮合反応)
例えば、ポリアミド56を製造する場合、本発明の製造方法で得られるアジピン酸とのカダベリン塩(以下、適宜「カダベリン・アジピン酸塩」という。)を、水の存在下で加熱して、脱水反応(加熱重縮合反応)を進行させることができる。
【0123】
加熱重縮合反応における、反応物の最高到達温度としては、通常200℃以上、好ましくは250℃以上、さらに好ましくは260℃以上、また、通常320℃以下、好ましくは300℃以下、さらに好ましくは290℃以下である。この範囲を上回ると、重合反応時の熱安定性が低下する可能性がある。
【0124】
また、加熱重縮合反応の反応方式にも制限は無く、バッチ式、回分式、連続方式を用いることができる。
【0125】
上記の方法で製造されたポリアミドは、加熱重縮合後に更に固相重合することができる。これにより、ポリアミドの分子量を高くすることができる。固相重合は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上、また、通常ポリアミドの融点以下の温度で、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより行うことができる。
【0126】
(ポリアミドの物性)
本発明のポリアミドの重合度には制限はないが、硫酸溶液(0.01g/ml、25℃)に対する相対粘度が、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、また、好ましくは8.0以下、さらに好ましくは5.5以下になるように重合度を調整することが好ましい。相対粘度が上記範囲を下回ると、実用的強度が不足する可能性がある。一方、上回ると、流動性が低下し、成形加工性が損なわれる可能性がある。
また、成形性の観点から、フィルム、繊維、モノフィラメント等を押出成形をする場合、上記相対粘度が3.0以上、5.5以下が特に好ましく、射出成形する場合、上記相対粘度が2.0以上、3.5以下が特に好ましい。
【0127】
本発明のポリアミドの数平均重合度は、通常95以上、好ましくは98以上、更に好ましくは100以上である。この範囲を下回ると、ポリアミドを用いた製品の強度が低下する可能性がある。
【0128】
(添加剤)
本発明のポリアミドには、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を混合してもよい。
例えば、酸化防止剤や熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)、等を混合することができる。
【0129】
添加剤は、樹脂の重合から成形までの任意の段階で混合することができるが、ドライブレンド、あるいは押出機を用いて溶融混練するのが好ましい。
【0130】
また、本発明のポリアミドをフィルム用途に用いる場合には、滑り性向上のため、タルク、カオリン、焼成カオリン、シリカ、ゼオライトなどの無機フィラー、特に微粒子状の無機フィラーの配合が好ましい。更に好ましくは無機フィラーと離型剤および/または滑剤とを併用する態様が挙げられる。無機フィラーの配合量としては、本発明のポリアミド100重量部当り0.005重量部以上、0.1重量部以下が好ましく用いられる。また、離型剤および/または滑剤の配合量としては、本発明のポリアミド100重量部当たり0.01重量部以上、0.5重量部以下が好ましく用いられる。
【0131】
(ポリアミドの形成)
本発明のポリアミドは、射出成形、フィルム成形、溶融紡糸、ブロー成形、真空成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形することができる。例えば、射出成形品、フィルム、シート、フィラメント、テーパードフィラメント、繊維、等にすることができる。また、本発明のポリアミドは接着剤、塗料などにも使用することができる。
【0132】
本発明のポリアミドのフィルムは公知の方法で成形することができる。たとえば、ポリアミドに離型剤や滑剤等をドライブレンドしたポリアミド組成物の溶融体を連続的にT−ダイより押出し、キャスティングロールにて冷却しながらフィルム状に成形するT−ダイ法、環状のダイスより連続的に押出し、水を接触させて冷却する水冷インフレーション法、同じく環状のダイスより押出し、空気によって冷却する空冷インフレーション法などが用いられる。また、これらの成形法で他の材料を同時に押し出す共押出法で多層のフィルムを得ることもできる。
【0133】
また、必要に応じて一軸または二軸延伸フィルムとして使用することも可能である。延伸方法についても公知の方法が応用でき、例えば、T−ダイ法にて成形したフィルムについては縦延伸(一軸延伸)はロール方式を用い、さらに横方向に延伸する際にはテンター方式を使用した逐次二延伸法、環状ダイより成形したチューブ状フィルムについては上記の逐次二軸法以外に縦横同時に延伸できるチューブラー延伸法が用いられる。共押出しフィルムについても同様の方法で各層を同時に延伸(共延伸)することができる。尚、延伸倍率は縦方向、横方向とも通常2以上、また、通常4倍以下、好ましくは3.5倍以下である。
【0134】
このときのポリアミドのフィルムの厚みは、好ましくは1μm以上、また、好ましくは70μm以下である。1μmを下回ると強度が不充分になる傾向があり、70μmを上回ると繰り返し屈曲疲労性が低下する傾向がある。また、ポリアミドのフィルムがポリアミド単層フィルムである場合、上記フィルムの厚みは、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、また、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。一方、ポリアミドのフィルムが多層フィルムである場合、ポリアミド層としての厚みは、2μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、また、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。
【0135】
本発明のポリアミドのフィルムは、印刷性の改良や、ラミネート性(接着性)の改良のために片面、または両面にコロナ処理した後使用することもできる。
【0136】
本発明のポリアミドを用いた射出成形品は、射出成形方法により所望の形状に成形を行うことによって得られる。
【0137】
<5−3.ポリアミドの用途>
本発明のポリアミドの具体的な用途例としては、自動車・車両関連部品として、インテークマニホールド、ヒンジ付きクリップ(ヒンジ付き成形品)、結束バンド、レゾネーター、エアークリーナー、エンジンカバー、ロッカーカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、ガソリンタンク、ガソリンサブタンク、ラジエータータンク、インタークーラータンク、オイルリザーバータンク、オイルパン、電動パワステギヤ、オイルストレーナー、キャニスター、エンジンマウント、ジャンクションブロック、リレーブロック、コネクター、コルゲートチューブ、プロテクター等の自動車用アンダーフード部品、ドアハンドル、フェンダー、フードバルジ、ルーフレールレグ、ドアミラーステー、バンパー、スポイラー、ホイールカバー等の自動車用外装部品、カップホルダー、コンソールボックス、アクセルペダル、クラッチペダル、シフトレバー台座、シフトレバーノブ等の自動車用内装部品が挙げられる。
【0138】
さらに、本発明のポリアミドは、釣り糸、漁網などの漁業関連資材、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、キャスター、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、ターミナルのハウジング、ベアリングリテーナー、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイド等に代表される電気・電子関連部品、家庭・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品など各種用途に使用することができる。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではではない。
【0140】
実施例及び比較例で使用したカダベリン・アジピン酸水溶液(カダベリン塩溶液)は、リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増幅株を用い、リジン・アジピン酸塩を原料として調製した。リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増幅株の作製手順と、それを用いたカダベリン・アジピン酸水溶液の調製手順について、以下に詳述する。
【0141】
[実施例1]
(1)リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増強株の作製:
図1は、リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)を組み込んだプラスミドpCAD1の構築手順の概要を示す図である。具体的には、以下に説明する手順により行なった。
【0142】
(A)大腸菌DNA抽出:
LB培地[組成:トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、塩化ナトリウム(NaCl)5gを蒸留水1Lに溶解]10mLに、大腸菌(Escherichia coli)JM109株を対数増殖期後期まで培養し、得られた菌体を、10mg/mLのリゾチームを含む10mMNaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mMエチレンジアミン四酢酸ジナトリウム(EDTA・2Na)水溶液0.15mLに懸濁した。
【0143】
次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。更にドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロホルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに、10mM トリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0144】
(B)cadAのクローニング:
大腸菌cadAの取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されている大腸菌K12−MG1655株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.U00096)を基に設計した合成DNA(下記の配列番号1及び配列番号2で表わされる配列からなるDNA)をプライマーとして用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行なった。
【0145】
・配列番号1:
GTTGCGTGTTCTGCTTCATCGCGCTGATG
・配列番号2:
ACCAAGCTGATGGGTGAGATAGAGAATGAGTAAG
【0146】
なお、反応液は、鋳型DNA1μL及びPlatinum(登録商標) Pfx DNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.2μLに、各プライマーが0.3μM、MgSO4が1mM、デオキシヌクレオチド3リン酸(dNTPs)が0.25μMとなるように、1倍濃度Pfx Amplification Buffer(インビトロジェン社製)を加えて全量を20μLとすることにより調製した。
【0147】
また、反応温度条件としては、DNAサーマルサイクラー(MJResearch社製PTC−200)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で2.5分からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は10分とした。
【0148】
PCRの終了後、増幅産物をエタノール沈殿により精製し、制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断した。得られたDNA標品を、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離した後、臭化エチジウム染色を用いて可視化することにより、cadAを含む約2.6kbの断片を検出し、QIA Quick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて目的DNA断片の回収を行なった。
【0149】
回収したDNA断片を、大腸菌プラスミドベクターpUC18(タカラバイオ社製)を制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断して調製したDNA断片と混合し、ライゲーションキットver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結後、得られたプラスミドDNAを用いて大腸菌(JM109株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLアンピシリン、0.2mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)及び50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0150】
この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断することにより、約2.5kbの挿入断片が認められることを確認した。このプラスミドをpCAD1と命名し、pCAD1を含む大腸菌株をJM109/pCAD1と命名した。
【0151】
(2)cadA増幅株の培養:
大腸菌株JM109/pCAD1をLB培地で前培養した後、1000mLの培養液を99Lの培地(ミーストP1G 10g/L、ポリペプトンN 20g/L、NaCl 10g/L、アンピシリンNa 50mg/L)が入った200L容ジャーファーメンターに接種し、通気量250ml/分、35℃、700rpmで通気攪拌培養を行なった。15時間培養後、培養液全量を3m3の培地(ミーストP1G 10g/L、ポリペプトンN20g/L、NaCl 10g/L、アンピシリンNa 50mg/L)が入った5m3容タンクに接種して更に培養を行なった。5m3ジャーでの培養条件は、通気量0.5vvm、35℃、Agit:100rpmであった。培養4時間目に、300gのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を5Lの水に溶解した後、フィルターを通して加えた。その後21時間培養を続けた。
【0152】
(3)菌体の分離:
6400rpm、フィード速度750L/hrの条件下で、アルファラバル分離機により培養液からの菌体回収を行った。回収された菌体の湿重量は36.9Kgであった。この湿菌体を10mMの酢酸ナトリウム溶液160Lに懸濁したのち、15000rpm、フィード速度1.0L/minの条件下でシャープレス遠心機により再度菌体回収を行ない、18.7kgの湿菌体を取得した。
【0153】
(4)カダベリン・アジピン酸塩の製造:
50重量体積%のリジン水溶液にpHが6.5となるようにアジピン酸スラリーを加え、リジン・アジピン酸塩溶液を調製し、基質溶液とした(リジン換算濃度125.0g/L)。ピリドキサルリン酸を0.1mMとなるように加えて反応液を調製し、これに大腸菌株JM109/pCAD1の菌体液(仕込み湿菌体濃度0.28g/L)を添加し、反応を開始した。反応は、5Lジャーファーメンターに3Lの反応液を仕込んで行なった。また、反応中に適宜、アジピン酸スラリーを反応液に添加することにより、反応液のpHを6.5となるように制御した。リジンセンサーでリジンの量をモニタリングし、反応の進行程度に従ってアジピン酸スラリーの添加量を徐々に少なくした。リジンの量が、リジンセンサーの検出限界以下になった後、さらに16時間反応を続け、リジンのほぼ100%がカダベリンに変換された(総消費リジン量370.8g)。得られた反応液のpHは7.45であった。得られた反応液を「実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。
【0154】
(5)カダベリン濃度のHPLCによる測定:
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液中のガダベリン濃度を、HPLC(High performance liquid chromatography)によって測定した。このとき、カラムとしてはL−column(化学物質評価機構、4.6×250mm)を40℃で用いた。また、移動相としては10mM酢酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルとを72:28(容量比)で混合したものを用いて、流速1.0mL/分で展開した。検出は245nmのUVで行なった。
【0155】
測定をするにあたり、実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液(測定サンプル)に、前処理を行なった。前処理は、キットとしてAccQ・Fluor Reagent Kit(ウオーターズ、P/N:WATO52880)を用いて行なった。0.2mg/mL以下になるようにカダベリンの濃度を調整した測定サンプルの希釈水溶液10μLに、該キットのアクタグ1液70μL、2A液20μLを順次加え、55℃で10分加熱した。前処理した測定サンプルを、そのままHPLCに10μL注入して測定を行なった。
【0156】
(6)アジピン酸濃度のHPLCによる測定:
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液中のアジピン酸濃度を、HPLC(High performance liquid chromatography)によって測定した。測定には、カラムとしてULTRON PS−80H(信和化学工業社製、8.0×300mm)を60℃で用いた。また、移動相としては10mM過塩素酸水溶液を用いて、流速1.0mL/分で展開した。検出はRIで行った。測定は、実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液のサンプルを、100倍希釈してHPLCに10μL注入して行った。
【0157】
(7)保存試験:
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液10mLを、50mlコニカルチューブ(Becton Dickinson製)に入れ、25℃の室内環境下で保存した。保存0日目(保存開始日)及び保存7日目に、分光光度計(日立製作所製U−3500)を用いて、その吸光スペクトルを測定した。
【0158】
また、得られた吸光スペクトルから、下記式[1]により、波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化を求めた。
(波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化)
= (保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
/(カダベリン・アジピン酸塩溶液中のカダベリンのモル濃度) [1]
【0159】
なお、上記式[1]中、「保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化」は、下記式[2]により求められる値である。
(保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
= (保存7日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度)
− (保存0日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度) [2]
【0160】
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化を、後述の表1に示す。また、実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図2に示す。
【0161】
[実施例2]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを7.66にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「実施例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、実施例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図3に示す。
【0162】
[実施例3]
実施例1において、反応開始時のリジン仕込み濃度を88g/L(リジン換算濃度)にして反応を行い、反応終了時における反応液のpHを8.03にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「実施例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、実施例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図4に示す。
【0163】
[実施例4]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを8.36にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「実施例4のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、実施例4のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図5に示す。
【0164】
[比較例1]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを7.17にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「比較例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、比較例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図6に示す。
【0165】
[比較例2]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを6.92にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「比較例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、比較例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図7に示す。
【0166】
[比較例3]
実施例1において、反応開始時のリジン仕込み濃度を88g/L(リジン換算濃度)にして反応を行い、反応終了時における反応液のpHを6.50にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「比較例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、比較例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図8に示す。
【0167】
[参考例]
ガダベリンとアジピン酸とを表2に記載の重量ずつ、水に溶解させて得られた水溶液のpHを、それぞれ測定した。結果を表2に示す。なお、表2中、物質量の値は、添加した重量から算出した値である。なお、そのときのグラフを図9及び図10に示す。
【0168】
[結果]
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
表1及び図2〜8の結果から、反応終了時の反応液をカダベリン過剰な状態とした実施例1〜4の方が、比較例1〜3と比べて、得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存時における着色が少なく、安定に保存できていることが分かる。
また、上記結果に加え、さらに表2及び図9〜10の結果から、反応液のpHを測定することで、間接的にカダベリン塩溶液におけるカダベリンと酸との物質量の比を測定することが出来ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明を利用可能な分野は制限されず、カダベリン塩が用いられる任意の分野に利用することが可能であるが、特にナイロン等のポリアミドの製造分野において好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)を組み込んだプラスミドpCAD1の構築手順の概要を示す図である。
【図2】実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図3】実施例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図4】実施例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図5】実施例4のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図6】比較例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図7】比較例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図8】比較例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図9】カダベリンの量[g/L]とアジピン酸の量[g/L]との比の値(CAD/AD[(g/L)/(g/L)])と、pHとの相関を表わすグラフである。
【図10】カダベリンの量[mol]とアジピン酸の量[mol]との比の値(CAD/AD[mol/mol])と、pHとの相関を表わすグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カダベリン塩を製造する方法、並びに、その製造されたカダベリン塩を用いたポリアミドの製造方法、及び、それにより製造されたポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
カダベリン及び酸からなる塩(カダベリン塩)は、ナイロン等のポリアミドの原料等として期待され、需要が高まりつつある。
【0003】
従来、カダベリン塩の製造技術として、触媒を用いる方法(非特許文献1,2、特許文献1)や酵素を用いる方法(特許文献2〜5)等が検討され、開発されつつある。これらの方法においては、カダベリン塩は溶液として得られることになる。
【0004】
しかしながら、実際に工業レベルでカダベリン塩を製造した後、それを用いた重縮合反応を行ない、ポリアミドを製造する場合、カダベリン塩の製造後に精製及び重縮合反応を短時間で行なうことは不可能である。よって、より安定な状態のカダベリン塩の溶液を製造することが重要である。
【0005】
これまでに、カダベリン塩の溶液中に存在する不純物がその後の重縮合反応に影響を与えるという観点に基づき、その製法を改善する手法が提案されている。例としては、カダベリンをカルボン酸塩として製造する方法(特許文献6、7)や、精製工程においてpHを制御し、極性有機溶剤で抽出する工程を含む製造方法(特許文献8)等が挙げられる。
【0006】
【非特許文献1】薬学雑誌、vol.85(6)531(1965)
【非特許文献2】Chemistry letters、898(1986)
【特許文献1】特公平4−10452号公報
【特許文献2】特開2002−223770号公報
【特許文献3】特開2004−223771号公報
【特許文献4】特開2004−114号公報
【特許文献5】特開2004−298034号公報
【特許文献6】特開2005−6650号公報
【特許文献7】特開2004−208646号公報
【特許文献8】特開2004−222569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の各文献等の従来の技術によれば、比較的純度の高いカダベリン塩の溶液を製造した場合でも、そのまま数日放置しておくと不純物が生成したり、着色を生じたりする場合があった。このため、不純物を取り除いて脱色するために、複雑な精製工程を行なわねばならず、手順が煩雑となるとともに、カダベリン塩の収量が低下する等の課題が生じていた。
【0008】
以上の背景から、着色が少なく安定したカダベリン塩の溶液を得る方法であって、生産効率に優れ、経済的にも有効な方法が望まれている。
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造することが可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法において、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすることで、溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法であって、反応終了時における反応液を、カダベリン過剰な状態とすることを特徴とする、カダベリン塩の製造方法に存する(請求項1)。
【0011】
このとき、反応終了時までに使用したリジンの酸に対する規定比を1よりも大きい値とすることが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、反応終了時における反応液のpHを、カダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値とすることが好ましい(請求項3)。
【0013】
さらに、リジンと共存させる酸が、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、及びスルホン酸からなる群より選択される一種以上の酸であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
本発明の別の要旨は、上述のカダベリン塩の製造方法によって得られたカダベリン塩を、重縮合させることを特徴とする、ポリアミドの製造方法に存する(請求項5)。
【0015】
本発明のさらに別の要旨は、上述のポリアミドの製造方法によって得られたことを特徴とする、ポリアミドに存する(請求項6)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶液の状態において、着色が少なく安定したカダベリン塩を、効率よく製造することができる。さらに、得られたカダベリン塩を用いて、高品質なポリアミドを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について実施の形態を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々に変更して実施することができる。
【0018】
本発明のカダベリン塩の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」ということがある)は、リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素(以下「LDC」(Lysine decarboxylase)ということがある)を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法であって、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすることに特徴を有する。
【0019】
以下の記載では、まず、本発明の製造方法によって得られるカダベリン塩(以下、適宜「本発明に係るカダベリン塩」ということがある)について説明し、続いて、本発明の製造方法について説明する。
【0020】
[1.カダベリン塩]
<1−1.カダベリン>
本発明において「カダベリン」とは、1,5−ペンタンジアミン(H2N(CH2)5NH2)をいう。カダベリンは、ポリマー原料や医薬中間体の合成原料として有用な化合物である。
【0021】
<1−2.カダベリン塩>
本発明において「カダベリン塩」とは、カダベリン及び後述する酸から形成される塩のことをいう。
【0022】
なお、後述する反応液中では、カダベリン塩はその大部分が溶解し、イオン(カダベリンイオンとその共役塩基)として解離した状態で存在するが、本発明に係るカダベリン塩は、このように解離した状態で得られたものをも含むものとする。
【0023】
<1−2−1.酸>
本発明に係るカダベリン塩を構成する酸の種類に制限はないが、本発明の製造方法において、カダベリンは反応液に含有されている酸と塩を形成するため、具体的には後述の<2−1−2.酸>で説明する酸と同様である。これらの酸は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0024】
<1−2−2.カダベリン塩の組成>
本発明に係るカダベリン塩1分子を構成するカダベリン及び酸の分子数も任意に選択し得る。カダベリン塩1分子あたり、カダベリン及び酸が共に1分子であってもよく、カダベリン及び酸の一方又は双方が2分子以上であってもよい。例えば、二価の塩基であるカダベリンと二価の酸とから構成される塩の場合、一般的にはカダベリン1分子と二価の酸(例えばアジピン酸)1分子とからカダベリン塩1分子が構成されるが、他の形態を排除するものではなく、2分子以上のカダベリン及び/又は2分子以上の二価の酸から構成されたカダベリン塩が含まれていてもよい。
【0025】
[2.カダベリン塩の製造方法]
本発明の製造方法は、リジン及び酸の共存する溶液にLDCを作用させて脱炭酸反応することにより、カダベリン塩を製造するものである。従って、本発明に係るカダベリン塩は、その大部分が反応液に溶解した状態で、即ち溶液(カダベリン塩溶液)の状態で得られることになる。
【0026】
本発明の製造方法における手順や条件は、上記の反応終了時における反応液がカダベリン過剰な状態となれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。
以下、まずは本発明の製造方法に使用される成分(リジン、酸、溶媒、LDC等)について説明し、その後で、本発明の製造方法の手順について説明する。
【0027】
なお、以下の記載で「反応液」とは、上述の「リジン及び酸の共存する溶液」に制限されるものではなく、リジン、酸及びLDCのうち少なくとも何れかが溶媒に溶解した溶液であって、リジン脱炭酸反応に関与する溶液を、リジン脱炭酸反応の開始や終了の前後に拠らず指すものとする。
【0028】
<2−1.成分>
本発明の製造方法では、カダベリン塩の原料となるリジン及び酸と、溶媒と、LDCとを少なくとも使用する。以下、これらの成分について説明する。なお、LDCについては章を改めて、後出の<2−2.LDC>において説明する。
【0029】
<2−1−1.リジン>
本発明において「リジン」とは、リジン分子又はリジンイオンをいう。リジンイオンは遊離していてもよく、他のイオンと結合して塩を形成していてもよい。すなわち、反応液中において、リジンは全てリジン分子として存在していてもよく、全てリジンイオンとして存在していてもよく、リジン分子とリジンイオンとが任意の組み合わせ及び割合で存在していてもよい。また、リジンイオンは、反応液中で全て遊離している必要はなく、他のイオンと塩(以下、適宜「リジン塩」ということがある)を形成している状態で存在してもよい。
【0030】
リジン塩1分子を構成するリジンイオン及び他のイオンの数も任意に選択し得る。リジン塩1分子あたり、リジンイオン及び他のイオンが共に1分子であってもよく、リジンイオン及び他のイオンの一方又は双方が2分子以上であってもよい。一般的には、一価の塩基の状態であるリジンイオンと、一価の他のイオンとから塩が構成される。しかし、他の形態を排除するものではなく、例えば、一価の塩基の状態であるリジンイオンと、二価の他のイオンとから塩を構成する場合、リジンイオン2分子と二価の他のイオン1分子とからリジン塩1分子が構成されていてもよい。
【0031】
リジンイオンと共に塩を形成するイオンとしては、酸のイオンが挙げられる。但し、本発明の製造方法においては、<2−1−2.酸>の欄で後述する酸のイオンが好ましい。
【0032】
なお、リジンは、酵素的脱炭酸反応によりカダベリンを生成するものであれば、L−リジン、D−リジンの何れであってもよく、これらが任意の比率で混合されたものであってもよいが、通常はL−リジンが好ましい。
【0033】
<2−1−2.酸>
本発明の製造方法に使用される酸の種類に制限はない。無機酸でも有機酸でもよく、また、一価の酸でも二価以上の酸でもよい。酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等が挙げられる。カルボン酸の具体例としては、ギ酸、マロン酸、酢酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。ただし、本発明の製造方法で得られるカダベリン塩の純度の低下を防止するため、カダベリンと塩を形成したときに、所望のカダベリン塩となる酸を用いることが好ましい。係る観点から、得られるカダベリン塩をナイロン等のポリアミドの製造用途に使用する場合には、カルボン酸が好ましく、特にアジピン酸が好ましい。これらの酸は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0034】
<2−1−3.溶媒>
溶媒としては、上述のリジン及び酸を溶解させることが可能であれば、その種類は任意である。但し、本発明の製造方法では酵素(LDC)の作用により反応を行なうため、酵素反応を進行させる観点から、通常、水又は水を主成分とする混合溶媒が用いられる。ここで「主成分」とは、混合溶媒の通常50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上を占める成分をいう。
【0035】
該混合溶媒の水以外の成分としては、通常、水と混和性を有する親水性溶媒が用いられる。具体的には、アルコール、カルボン酸、エステル等が挙げられる。アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられる。カルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸等が挙げられる。エステル類の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0036】
なお、これらの水以外の成分は、何れか一種の溶媒を水に混合してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合した溶媒を水に混合してもよい。なお、溶媒は、目的とするカタベリン塩溶液の種類や濃度、又は使用する酸を考慮して、適宜選択することが好ましい。
【0037】
<2−1−4.その他>
本発明の製造方法では、上述のリジン、酸及び溶媒、並びに後述するLDCに加えて、その他の一種又は二種以上の成分を反応液に含有させてもよい。その他の成分の種類や含有量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、通常はカダベリン塩の製法や用途に応じて選択される。
【0038】
例えば、反応液のpHは、通常、上述の酸によって調整されるため、他のpH調整剤を用いる必要はない。但し、本発明の製造方法では酵素(LDC)の作用により反応を行なうため、反応に至適なpHを保つために、反応液中に緩衝液を含有させてもよい。緩衝液としては、酢酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。但し、カダベリンと酸との塩を形成させるという点からは、緩衝液等は用いないか、用いる場合であっても低濃度に抑えることが好ましい。
【0039】
<2−2.LDC>
本発明の製造方法に用いられるLDCは、リジンに作用して脱炭酸反応を行ないカダベリンに変換することが出来る酵素であれば、その種類に制限はない。従って、どの生物種由来のLDCを用いてもよい。
【0040】
中でも、本発明の製造方法では、副反応を抑えるために、立体特異性等の基質特異性や、反応選択性が高いLDCを用いることが好ましい。ただし、反応生成物であるカダベリンによるアロステリック効果を受けないものが好ましい。収率が低下する傾向を抑えるためである。
【0041】
また、本発明の製造方法では、工業的に取り扱いが簡便となるよう、反応の至適温度、至適pH、至適な塩濃度のレンジが広いLDCを用いることが好ましい。
【0042】
また、本発明の製造方法では、LDCは、1種類を用いてもよく、2種以上を任意の割合及び比率で併用してもよい。
さらに、アイソザイムが存在するLDCについては、1種類のアイソザイムのみを用いてもよく、2種以上のアイソザイムを任意の割合及び比率で併用していてもよい。
【0043】
本発明で使用されるLDCの例としては、例えば、前述した非特許文献1,2及び特許文献1〜5に記載された酵素等が挙げられる。以下、本発明におけるLDCの産生方法を説明する。
【0044】
LDCを産生する細胞の例としては、微生物(以下、適宜「菌体」という場合がある)、植物細胞、動物細胞等が挙げられるが、微生物が好ましい。微生物としては、細菌、真核生物等が挙げられる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)等のコリネ型細菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtills)等のバチルス属細菌、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)等のセラチア属細菌等が挙げられる。真核生物としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。中でも、菌体としては細菌が好ましく、エシェリヒア属細菌がより好ましく、大腸菌が特に好ましい。菌体は、LDCを産生する限り、野生株でもよく、変異株であってもよい。また、LDC活性が上昇するように改変された組換え株であってもよい。なお、組換え株の詳細については後述する。
【0045】
菌体等の細胞を用いてLDCを産生した後、細胞をそのまま反応液に混合してもよく、LDCを含む細胞培養液又は細胞処理物を反応液に混合してもよく、細胞培養液又は細胞処理物からLDCを精製してから反応液に混合してもよい。細胞処理物としては、細胞の破砕液及びその分画物が挙げられる。
【0046】
なお、以下の記載では、反応液に混合される、LDCを産生する細胞、LDCを含む細胞培養液及び細胞処理物、並びに精製されたLDCを総称して「LDC源」という場合がある。LDC源は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0047】
また、LDCの活性中心の活性化のため、補酵素などの補助因子を併用することも好ましい。
例えば、生産速度及び反応収率向上のため、補酵素としてビタミンB6を用いることが好ましい。ビタミンB6の例としては、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサル、ピリドキサルリン酸等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、ピリドキサルリン酸が好ましい。
【0048】
ビタミンB6の使用量は特に制限されないが、通常、反応液とLDCとを混合した反応液に対して、0.01mM以上、0.5mM以下の範囲が好ましい。ビタミンB6の使用量が少な過ぎると反応速度が遅くなる場合があり、多過ぎると反応液の色が黄色くなる場合がある。
【0049】
ビタミンB6を反応液に含有させる時期や手法に制限はない。反応前に含有させてもよく、反応中に含有させてもよい。また、一度に反応液に含有させてもよく、二度以上に分割して、異なる時期に反応液に含有させてもよい。
【0050】
<2−3.リジンの脱炭酸反応>
本発明の製造方法では、リジン及び酸の共存する溶液にLDCを作用させて脱炭酸反応を生じさせることができれば、その具体的な手順は制限されないが、通常は上述のリジン、酸、溶媒、LDC源等の各成分を混合することにより、脱炭酸反応を行なう。
リジン、酸、溶媒、LDC源等の各成分の混合順は制限されず、任意である。また、各成分は何れも、全量を一度に混合してもよく、全量を分割して複数回に分割して混合してもよく、時間を掛けて連続的又は断続的に混合してもよい。
【0051】
但し、通常は、溶媒に適量のリジン及び酸を溶解させて、後述する至適範囲内のpHを有する反応液を調製した上で、この反応液にLDC源を加えて反応を開始させ、その後はリジン及び/又は酸を反応液に補充することにより、反応液のpHを調整しながら反応を進行させることが好ましい。以下、主にこの手順で反応を行なう場合について説明を行なうが、本発明の製造方法における具体的な手順は以下の説明に制限されるものではない。
【0052】
具体的に、本発明の製造方法において、反応液におけるリジン濃度は、後述の脱炭酸反応が進行すれば任意であるが、通常10g/L以上、好ましくは20g/L以上、また、通常700g/L以下、好ましくは500g/L以下の範囲とすることが望ましい。
【0053】
但し、本発明の製造方法では、酵素による反応を行なっているため、酵素量に対して基質(リジン)濃度が高くなりすぎると、反応効率が低下する傾向がある。従って、反応液中のリジン濃度は、反応期間の大部分に亘って上述の範囲とすることが好ましい。そのため、LDCの量に対して、最適なリジン濃度で反応させ、反応の進行とともに反応液から減少したリジンを順次補うように加えてもよい。
【0054】
なお、反応液中のリジン濃度は、種々の分析機器で測定することが可能である。分析手法は限定されないが、リジンセンサー、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等を用いて測定するのが一般的である。これらのリジンセンサーやクロマトグラフィーによって測定を行なう場合、測定対象となる溶液をそのまま、或いは必要に応じて所定の濃度範囲となるように希釈して測定に供する。また、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーの場合は、溶液中の成分が有する特定の官能基(主にリジンのアミノ基)を誘導体化してから測定に供することが好ましい。
【0055】
また、反応液のpHは任意であるが、通常は反応液中のリジンと酸との比率を調整することにより、反応液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHとなるように調整することが好ましい。具体的には、反応液のpHを、通常4.0以上、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、また、通常8.0以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは7.0以下の範囲とすることが望ましい。反応液のpHが低過ぎても高過ぎても、充分な反応速度が得られない場合がある。
【0056】
上述したように、通常は、適量のリジン及び酸を溶媒に溶解させて、上述の至適範囲内のpHを有する反応液を調製し、この反応液にLDC源を混合して反応を開始させる。反応の開始後は、脱炭酸反応の進行に伴い、リジンから遊離される二酸化炭素が炭酸ガスとなって反応液から放出され、反応液のpHが上昇する。従って、反応中も反応液のpHが前記範囲内に保たれるように、反応液に酸を加えてpHを調整することが好ましい(後述する反応終了前の一定期間を除く)。酸は反応液に連続的に加えてもよく、pHが前記範囲に維持される限り、分割して断続的に加えてもよい。
【0057】
リジン脱炭酸反応時におけるその他の条件は、LDCがリジンに作用してカダベリンを生成させる条件であれば特に制限はないが、一般的には以下の通りである。
【0058】
反応方式は、連続式でもバッチ式でもよい。反応中に反応液に酸を容易に混合する観点からは、バッチ式で反応を行なうことが好ましい。また、一種又は二種以上のLDC源を固定化した担体を用いた移動床カラムクロマトグラフィーによって反応を行なうこともできる。その場合は、反応系のpHが所定の範囲に維持されたまま反応が進行するように、リジン及び/又は酸をカラムの適当な部位に注入すればよい。
【0059】
反応時の反応液の温度は、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常60℃以下、好ましくは40℃以下の範囲とすることが望ましい。反応液の温度が低過ぎると反応が進行しない場合があり、高過ぎると酵素が失活する場合がある。
【0060】
反応時の雰囲気は任意であるが、通常は空気、炭酸ガス又は窒素ガス雰囲気下が好ましい。
反応時の圧力も任意であるが、通常は常圧或いはそれに近い圧力下で行なう。
また、反応液に攪拌を加えてもよい。
【0061】
<2−4.カダベリン過剰な状態>
本発明の製造方法は、反応終了時にける反応液をカダベリン過剰な状態とすることに特徴を有する。ここで、本発明において「カダベリン過剰な状態」とは、反応液中のカダベリンの物質量が、酸の物質量に比べて多いことをいう。
【0062】
上述したように、本発明の製造方法では通常、反応時にリジン及び/又は酸を反応液に補充しながら反応を進行させる。そこで、反応終了前の一定期間において、リジン及び/又は酸の反応液への供給量を調整する(通常は、酸の供給量を減少させる)ことにより、反応終了時にける反応液をカダベリン過剰な状態とすることが可能である。その際、反応液中のカダベリン及び酸の物質量を測定し、それを基準にしてリジン及び/又は酸の反応液への供給量を調整することが好ましい。この酸供給量の調整は、LCDの種類や、反応温度、pH、反応容量等の条件によって異なるが、通常、2時間以下、好ましくは1時間以下、さらに好ましくは0.5時間以下で行なうことが好ましい。
なお、酸供給量の調節後、通常2時間以上、好ましくは4時間以上、さらに好ましくは6時間以上、反応を継続させてから終了することが好ましい。酸供給量の調整後、一定時間経過することで、反応が完全に終了し、溶液の状態が安定するためである。
【0063】
反応液中のカダベリン及び酸の物質量は、種々の分析機器で測定することが可能である。分析手法は限定されないが、通常、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等を用いて測定される。これらのクロマトグラフィーによって測定を行なう場合、測定対象となる反応液をそのまま、或いは必要に応じて所定の濃度範囲となるように希釈して測定に供する。また、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーの場合は、反応液中の成分が有する特定の官能基(主にカダベリンのアミノ基)を誘導体化してから測定に供することが好ましい。中でも、本発明においては、液体クロマトグラフィーで測定を行なうことが好ましい。なお、これらのクロマトグラフィーを用いた測定法を、以下「直接法」という場合がある。
【0064】
また、直接的にカダベリンや酸の物質量を測定しなくても、反応液のpHを測定することで、間接的にカダベリン塩溶液におけるカダベリンと酸との物質量の比を予測することが出来る。即ち、カダベリン及び酸を含有する溶液(例えば反応液。これを以下「共存溶液」という場合がある。)中のカダベリンに対する酸の物質量の比と、当該共存溶液のpHとの間には相関がある。よって、本発明の製造方法に用いる酸を含有する共存溶液を用いて、この相関を予め測定し、把握しておけば、反応液のpHを測定することによって、酸の物質量に対するカダベリンの物質量の比を間接的に予測することが可能となる。この方法は、副生成物の少ない系においては、非常に有効であり、正確に物質量比を予測することができる。本発明の反応系は、これに当てはまる。なお、このpHを用いた予測法を、以下「間接法」という場合がある。
【0065】
上述の、クロマトグラフィーを用いた直接法と、pHを用いた間接法の何れの方法でも、反応液中の酸の物質量に対するカダベリンの物質量の比を求めることが出来る。ただし、pHを用いた間接法は、液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを用いた直接法に比べて、簡便であるという利点がある。
【0066】
なお、反応量論から、酸の規定数に対するリジンの規定数の比(規定比)が1であるとき、カタベリンと酸との物質量が等しくなる。従って、上述のようなカダベリン過剰な状態は、反応終了時までに使用した酸に対するリジンの規定比を1よりも大きな値にすることにより得られる。中でも、溶液の状態における着色が防止された安定なカダベリン塩を製造するためには、該規定比を1以上にするのが好ましく、1.005以上にするのが更に好ましい。
【0067】
また、酸と塩基との中和の理論から、反応液のpHが、カダベリンと酸との中和点におけるpHのときに、カダベリンと酸との物質量が等しくなる。従って、上述のようなカダベリン過剰な状態は、反応終了時における反応液のpHを、カダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値にすることにより得られる。
具体的には、上記の酸が、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸の場合には、pHが4.5以上になると、強酸に比べてカダベリンの物質量が過剰な状態となる。また、炭酸、カルボン酸、リン酸等の弱酸の場合には、pHが7.2以上になると、弱酸に比べてカダベリンの物質量が過剰な状態となる。
従って、例えば、カダベリンとアジピン酸との場合は、反応液のpHが7.2以上のときに、カダベリン過剰な状態となる。中でも、溶液の着色が防止され安定なカダベリン類の溶液を製造するためには、該pHを7.20以上にするのが好ましく、7.40以上にするのが更に好ましい。
【0068】
本発明の製造方法では、反応終了時における反応液をカダベリン過剰な状態とすることにより、得られるカダベリン塩の溶液が着色の少なく安定したものになる、という効果が得られる。
【0069】
更に、本発明の製造方法により得られたカダベリン塩を、ポリアミドの製造原料の用途に用いる場合には、コストや効率の面でも利点がある。
即ち、従来のカダベリン塩の製造方法では、LDCの至適pHのまま反応を終了させていたので、反応終了後の反応液は酸が過剰に存在する状態となっていた。このため、得られた反応液をポリアミドの製造原料の用途に用いる場合には、カダベリンを追加してカダベリン(イオン)と酸(共役塩基)との物質量比を概ね等量に調整していたが、カダベリンは高価であったため、コストや効率の面で不利であった。
これに対し、本発明の製造方法では、反応終了後の反応液がカダベリン過剰な状態となっているため、反応液に酸を補充することによりカダベリン(イオン)と酸(共役塩基)とを概ね等量に調整することができ、コストや効率の面で有利である。
【0070】
<2−5.その他>
以上の手順により、リジンの酵素的脱炭酸反応によってカダベリンが生成する。これにより、得られた反応液中には、生成したカダベリンと、酸とが共存することになる。なお、これらのカダベリン及び酸は通常、その大部分がイオンとなって反応液中に溶解した状態で存在する。こうして、本発明の製造方法により、カダベリン塩が反応液中で解離した状態で(即ち、カダベリン塩の溶液として)得られることになる。
【0071】
なお、上述したように、反応終了時の反応液はカダベリン過剰な状態であるため、カ ダベリンイオンの物質量がその共役塩基の物質量よりも多い状態となっているが、本発 明ではこのような場合も含め、カダベリンイオンとその共役塩基とを含有する溶液を包 括して「カダベリン塩溶液」というものとする。
【0072】
[3.カダベリン塩の用途及び保存]
本発明の製造方法により得られたカダベリン塩(本発明に係るカダベリン塩)は、任意の用途に使用することが可能であるが、例としては56ナイロン等のポリアミドの製造原料としての用途が挙げられる。
【0073】
本発明に係るカダベリン塩は、その用途によって、上述の反応終了後に得られた反応液の状態のままで用いてもよいが、何らかの処理を加えてから用いてもよい。処理の内容は任意であるが、例としては、カダベリン及び/又は酸の追加、反応液の滅菌・濾過、溶媒の除去・追加によるカダベリン塩の濃度調整等の処理が挙げられる。
【0074】
また、以上の反応により得られた反応液から、カダベリン塩を精製・単離してもよい。精製・単離の手法は任意であり、公知の手法を適宜選択して用いればよい。例としては、晶析、蒸留等が挙げられる。精製・単離されたカダベリン塩を含む固体成分を任意の溶媒に溶解させることにより、本発明に係るカダベリン塩を含有する溶液を新たに調製することも可能である。
但し、本発明に係るカダベリン塩をポリアミドの製造原料としての用途に使用する場合には、複雑な精製や単離を行なうことなく、上述のように反応終了後の反応液に酸を追加して、カダベリン(イオン)と酸(共役塩基)との物質量を等量に調整することができ、コストや効率の面で好ましい。
【0075】
なお、本明細書では、本発明の製造方法における反応終了後の反応液か、その反応液に各種の処理を加えて得られた溶液かを問わず、本発明に係るカダベリン塩を含有する溶液を「本発明に係るカダベリン塩溶液」と総称するものとする。
【0076】
本発明に係るカダベリン塩溶液は、調製後にすぐ使用に供してもよいが、使用までに時間がある場合には、以下に説明する方法で保存することが好ましい(この保存方法を以下「本発明に係る保存方法」という場合がある。)。
【0077】
本発明に係る保存方法では、上述した本発明に係るカダベリン塩溶液のpHを、酸性或いは塩基性に調整して保存する。
【0078】
具体的に、カダベリン塩溶液のpHを酸性に調整する場合、そのpHは、通常6.4以下、好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.5以下である。
一方、カダベリン塩溶液のpHをアルカリ性に調整する場合、そのpHは、通常7.5以上、好ましくは8.0以上、更に好ましくは8.5以上である。
上述のように、カダベリン塩溶液のpHを酸性或いは塩基性に調整して保存することにより、カダベリン塩溶液を着色の少ない状態で安定に保存することができる。
【0079】
カダベリン塩溶液のpHを上記範囲内となるように調整する手法は制限されないが、例としては、以下に挙げる二種の手法が挙げられる。
【0080】
まず、第一の手法として、カダベリン塩溶液の製造時にその条件を調整することにより、得られるカダベリン塩溶液のpHを上記範囲内にするという手法が挙げられる。具体例として、上述のLDCを用いたリジンの酵素的脱炭酸反応によってカダベリン塩溶液を製造する場合、反応時に反応液に加える酸の量を調整したり、或いはカダベリンやカダベリン塩を加えることにより、反応終了時における反応液、即ちカダベリン塩溶液のpHが上記範囲内となるように調整することができる。
【0081】
また、第二の手法として、カダベリン塩溶液を製造した後に、pH調整剤を用いてそのpHを上記範囲内に調整するという手法が挙げられる。
pH調整剤の種類は制限されない。保存するカダベリン塩溶液の成分や用途等に応じて適宜選択することができる。
【0082】
pH調整剤は主に、酸と塩基とに分けられる。
酸の種類は任意であるが、例としては、上述のカダベリン塩を構成する酸として例示したものが挙げられる。
塩基としては、無機塩基でも有機塩基でもよく、また、一価の塩基でも二価以上の塩基でもよい。塩基の例としては、カダベリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アンモニア等が挙げられる。中でも、カダベリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらの塩基は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0083】
なお、pH調整剤とともに、緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤の種類は任意であるが、例としては、酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液等が挙げられる。これらの緩衝剤は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0084】
但し、本発明の製造方法により得られた反応液が、上述のpHの範囲を満たしている場合(例えば、pH7.5以上の場合)には、更なるpHの調整を行なうことなく、そのまま保存に供してもよい。
【0085】
本発明に係るカダベリン塩溶液の保存時におけるその他の条件は任意であるが、通常は以下の通りである。
即ち、保存時の温度は特に制限されないが、通常は常温以下とすることが望ましい。具体的には、通常30℃以下、好ましくは25℃以下が望ましい。また、例えば通常10℃以下、好ましくは5℃以下の低温に冷却して保存を行なってもよい。保存時の温度が高過ぎると、変色が進んだり、不純物が発生したりする場合がある。
保存時の雰囲気は任意であるが、通常は空気又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
保存時の圧力も任意であるが、通常は常圧或いはそれに近い圧力とする。
本発明に係るカダベリン塩溶液の保存時における状態も制限されないが、通常は静置状態で保存する。
【0086】
本発明に係る保存方法によれば、本発明に係るカダベリン塩溶液を、着色の少ない状態で安定に保存することができる。具体的には、本発明に係る保存方法によりカダベリン塩溶液を7日間保存した場合、下記式[1]により規定される、波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化が、通常0.13以下、好ましくは0.125以下、更に好ましくは0.12以下である。この値が低いほど、可視光領域における吸光度の変化が少なく、ひいては着色が少ないといえる。
【0087】
(波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化)
= (保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
/(カダベリン塩溶液中のカダベリンのモル濃度) [1]
【0088】
上記式[1]中、「保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化」は、下記式[2]により求められる値である。
【0089】
(保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
= (保存7日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度)
− (保存0日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度) [2]
【0090】
なお、カダベリン塩溶液の波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化は、25℃の室内環境下でカダベリン塩溶液を7日間保存するとともに、その前後における吸
光スペクトルを分光光度計(例えば日立製作所製U−3500)で測定し、得られた吸光スペクトルから求めることが可能である。
【0091】
[4.LDC遺伝子の発現の増強]
次に、微生物をLDC活性が上昇するように改質する方法について例示する。なお、他の細胞についても、それに適するように下記の方法を適宜改変することによって、同様にLDC活性を上昇させることができる。
【0092】
LDC活性は、例えば、LDCをコードする遺伝子(LDC遺伝子)の発現を増強することによって上昇する。LDC遺伝子の発現の増強は、LDC遺伝子のコピー数を高めることによって達成される。例えば、LDC遺伝子断片を、微生物で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換すればよい。
【0093】
LDC遺伝子のコピー数の増大は、LDC遺伝子を微生物の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。微生物の染色体DNA上に遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行なう。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2−109985号公報に開示されているように、目的遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。
【0094】
LDC活性の上昇は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上又はプラスミド上のLDC遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開第00/18935号パンフレットに開示されているように、遺伝子のプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換又は改変によりLDC遺伝子の発現が強化され、LDC活性が上昇する。これら発現調節配列の改変は、遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
【0095】
発現調節配列の置換は、例えば、温度感受性プラスミドを用いた遺伝子置換と同様にして行うことができる。大腸菌の温度感受性複製起点を有するベクターとしては、例えば国際公開第99/03988号パンフレットに記載のプラスミドpMAN997等が挙げられる。また、λファージのレッド・リコンビナーゼ(Red recombinase)を利用した方法(Datsenko, K. A., PNAS (2000) 97(12), 6640-6645)によっても、発現調節配列の置換を行うことができる。
【0096】
LDC遺伝子としては、コードされるLDCが、リジンの脱炭酸反応に有効利用できるものであれば特に制限されないが、例えば、バクテリウム カダベリス、大腸菌等の細菌や、カラス豆等の植物、更には、特開2002−223770号公報に記載の微生物のLDC遺伝子が挙げられる。
【0097】
宿主微生物として大腸菌を用いる場合は、大腸菌由来のLDC遺伝子が好ましい。
大腸菌のLDC遺伝子としては、cadA遺伝子及びldc遺伝子(米国特許第5827698号明細書)が知られているが、これらの中ではcadA遺伝子が好ましい。大腸菌のcadA遺伝子は配列が知られており(N. Watson et al., Journal of Bacteriology (1992) vo.174, p.530-540; S. Y. Meng et al. Journal of Bacteriology (1992) vo.174, p.2659-2668; GenBank accession No.M76411)、その配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCRにより、大腸菌染色体DNAから単離することができる。このようなプライマーとしては、配列番号1及び2に示す塩基配列を有するプライマーが挙げられる。
【0098】
取得されたLDC遺伝子とベクターを連結して組換えDNAを調製するには、LDC遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断し、T4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて前記遺伝子とベクターを連結すればよい。大腸菌用のベクターとしては、pUC18、pUC19、pSTV29、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pBR322、pACYC184、pMW219等が挙げられる。
【0099】
LDC遺伝子は、野生型であってもよいし、変異型であってもよい。例えばcadA遺伝子は、コードされるLDCの活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むLDCをコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2個以上、また、通常50個以下、好ましくは30個以下、より好ましくは10個以下である。
【0100】
上記のようなLDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むようにcadA遺伝子の塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線、又は、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)若しくはエチルメタンスル
ホン酸(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0101】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、LDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有するLDCをコードするDNA又はこれを保持する細胞から、例えばcadA遺伝子(GenBank accession No.M76411)のコード領域の配列、又は同配列の一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、LDCと同等の活性を有するタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それにより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、或いは、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である、温度約60℃で、通常は1倍濃度SSC又は0.1%SDSに相当する塩濃度、好ましくは0.1倍濃度SSC又は0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0102】
プローブとしてcadA遺伝子の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、公知のcadA遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、cadA遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、例えば温度約50℃、2倍濃度SSC又は0.1%SDSに相当する塩濃度という条件が挙げられる。
【0103】
LDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして、具体的には、公知のcadA遺伝子がコードするアミノ酸配列と、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の相同性を有し、且つ、LDC活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0104】
組換えDNAの微生物への導入は、これまでに報告されている形質転換法に従って行なえばよい。例えば、大腸菌K12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・サブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Ducan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., Gene, 1, 153 (1997))がある。或いは、バチルス・サブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラスト又はスフェロプラストの状態にして、組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979); Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A., Nature, 274, 398 (1978); Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978))も応用できる。更には、電気パルス法(特開平2−207791号公報)によっても、微生物の形質転換を行なうことができる。
【0105】
LDCを産生する微生物又は細胞を得るための培養は、用いる微生物又は細胞に応じて、LDCの産生に適した方法によって行なえばよい。
【0106】
例えば、培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地を用いればよい。
【0107】
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、澱粉の加水分解物等の糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。
【0108】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
【0109】
有機微量栄養素としては、ビタミンB1等のビタミン類、アデニンやRNA等の核酸類などの要求物質又は酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。
【0110】
これらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を少量使用してもよい。
【0111】
培養条件としては、大腸菌の場合、好気的条件下で16〜72時間程度実施するのがよく、培養温度は30〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御するのがよい。なお、pH調整には、無機又は有機の酸性又はアルカリ性物質、アンモニアガス等を使用することができる。
なお、LDC遺伝子の発現が、誘導可能なプロモーターによって調節されている場合には、誘導剤を培地に含有させてもよい。
【0112】
培養後、細胞を遠心分離機や膜により集めることにより、培養液から回収することができる。
回収された細胞は、そのまま用いてもよいが、LDCを含むそれらの処理物を用いる場合は、細胞を超音波、フレンチプレス、又は酵素的処理により破砕して酵素を抽出し、無細胞抽出液とする。更に、そこからLDCを精製する場合には、常法に従い、硫安塩折、各種クロマトグラフィーを使用することによって精製することができる。
【0113】
[5.ポリアミド]
本発明のポリアミドは、本発明の製造方法によって得られたカダベリン塩を、重縮合させる工程を経て製造される。本発明のポリアミドの製造方法は、上記特徴を有していればよいが、本発明の効果を著しく損なわない限り、その他の任意の工程を有することが出来る。
本発明のポリアミドの製造方法の具体例としては、[2.カダベリン塩の製造方法]で得られたカダベリン塩を重縮合する方法が考えられる。以下、この方法を中心に説明する。
なお、本明細書では、ポリアミドの構成単位を、その由来となる重合成分又は共重合成分に「単位」を付して表わす場合がある。例えば、「ジカルボン酸単位」とは、ジカルボン酸に由来する構成単位である。
【0114】
<5−1.ポリアミドの構成単位>
本発明のポリアミドは、その分子構造の構成成分として、カダベリン単位、及び、ジカルボン酸単位とを有してなる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、それ以外の共重合成分の構成単位を有していてもよい。
【0115】
(ジカルボン酸単位)
本発明のポリアミドが有するジカルボン酸単位としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等に由来するジカルボン酸単位が挙げられる。
【0116】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、アジピン酸、等の脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;等が挙げられる。
【0117】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、等が挙げられる。
【0118】
これらのジカルボン酸単位の種類によって、用途に応じた様々なポリアミドを製造することができる。例えば、アジピン酸を用いた場合には56−ナイロン、スベリン酸を用いた場合は58−ナイロン、セバシン酸を用いた場合は510−ナイロン、テレフタル酸を用いた場合は5T−ナイロン、イソフタル酸を用いた場合は5I−ナイロンを得ることができる。
【0119】
(共重合成分)
また、共重合成分を用いる場合、その具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸、等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、等のラクタム;エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタン、等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン、等の芳香族ジアミン;等が挙げられる。
【0120】
これらの共重合成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合、及び比率で併用してもよい。
【0121】
<5−2.ポリアミドの製造方法>
本発明のポリアミドの製造方法としては、公知の方法が使用できる。具体例としては「ポリアミド樹脂ハンドブック」(日刊工業社出版:福本修編)等に開示されている。
【0122】
(加熱重縮合反応)
例えば、ポリアミド56を製造する場合、本発明の製造方法で得られるアジピン酸とのカダベリン塩(以下、適宜「カダベリン・アジピン酸塩」という。)を、水の存在下で加熱して、脱水反応(加熱重縮合反応)を進行させることができる。
【0123】
加熱重縮合反応における、反応物の最高到達温度としては、通常200℃以上、好ましくは250℃以上、さらに好ましくは260℃以上、また、通常320℃以下、好ましくは300℃以下、さらに好ましくは290℃以下である。この範囲を上回ると、重合反応時の熱安定性が低下する可能性がある。
【0124】
また、加熱重縮合反応の反応方式にも制限は無く、バッチ式、回分式、連続方式を用いることができる。
【0125】
上記の方法で製造されたポリアミドは、加熱重縮合後に更に固相重合することができる。これにより、ポリアミドの分子量を高くすることができる。固相重合は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上、また、通常ポリアミドの融点以下の温度で、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより行うことができる。
【0126】
(ポリアミドの物性)
本発明のポリアミドの重合度には制限はないが、硫酸溶液(0.01g/ml、25℃)に対する相対粘度が、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、また、好ましくは8.0以下、さらに好ましくは5.5以下になるように重合度を調整することが好ましい。相対粘度が上記範囲を下回ると、実用的強度が不足する可能性がある。一方、上回ると、流動性が低下し、成形加工性が損なわれる可能性がある。
また、成形性の観点から、フィルム、繊維、モノフィラメント等を押出成形をする場合、上記相対粘度が3.0以上、5.5以下が特に好ましく、射出成形する場合、上記相対粘度が2.0以上、3.5以下が特に好ましい。
【0127】
本発明のポリアミドの数平均重合度は、通常95以上、好ましくは98以上、更に好ましくは100以上である。この範囲を下回ると、ポリアミドを用いた製品の強度が低下する可能性がある。
【0128】
(添加剤)
本発明のポリアミドには、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を混合してもよい。
例えば、酸化防止剤や熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)、等を混合することができる。
【0129】
添加剤は、樹脂の重合から成形までの任意の段階で混合することができるが、ドライブレンド、あるいは押出機を用いて溶融混練するのが好ましい。
【0130】
また、本発明のポリアミドをフィルム用途に用いる場合には、滑り性向上のため、タルク、カオリン、焼成カオリン、シリカ、ゼオライトなどの無機フィラー、特に微粒子状の無機フィラーの配合が好ましい。更に好ましくは無機フィラーと離型剤および/または滑剤とを併用する態様が挙げられる。無機フィラーの配合量としては、本発明のポリアミド100重量部当り0.005重量部以上、0.1重量部以下が好ましく用いられる。また、離型剤および/または滑剤の配合量としては、本発明のポリアミド100重量部当たり0.01重量部以上、0.5重量部以下が好ましく用いられる。
【0131】
(ポリアミドの形成)
本発明のポリアミドは、射出成形、フィルム成形、溶融紡糸、ブロー成形、真空成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形することができる。例えば、射出成形品、フィルム、シート、フィラメント、テーパードフィラメント、繊維、等にすることができる。また、本発明のポリアミドは接着剤、塗料などにも使用することができる。
【0132】
本発明のポリアミドのフィルムは公知の方法で成形することができる。たとえば、ポリアミドに離型剤や滑剤等をドライブレンドしたポリアミド組成物の溶融体を連続的にT−ダイより押出し、キャスティングロールにて冷却しながらフィルム状に成形するT−ダイ法、環状のダイスより連続的に押出し、水を接触させて冷却する水冷インフレーション法、同じく環状のダイスより押出し、空気によって冷却する空冷インフレーション法などが用いられる。また、これらの成形法で他の材料を同時に押し出す共押出法で多層のフィルムを得ることもできる。
【0133】
また、必要に応じて一軸または二軸延伸フィルムとして使用することも可能である。延伸方法についても公知の方法が応用でき、例えば、T−ダイ法にて成形したフィルムについては縦延伸(一軸延伸)はロール方式を用い、さらに横方向に延伸する際にはテンター方式を使用した逐次二延伸法、環状ダイより成形したチューブ状フィルムについては上記の逐次二軸法以外に縦横同時に延伸できるチューブラー延伸法が用いられる。共押出しフィルムについても同様の方法で各層を同時に延伸(共延伸)することができる。尚、延伸倍率は縦方向、横方向とも通常2以上、また、通常4倍以下、好ましくは3.5倍以下である。
【0134】
このときのポリアミドのフィルムの厚みは、好ましくは1μm以上、また、好ましくは70μm以下である。1μmを下回ると強度が不充分になる傾向があり、70μmを上回ると繰り返し屈曲疲労性が低下する傾向がある。また、ポリアミドのフィルムがポリアミド単層フィルムである場合、上記フィルムの厚みは、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、また、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。一方、ポリアミドのフィルムが多層フィルムである場合、ポリアミド層としての厚みは、2μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、また、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。
【0135】
本発明のポリアミドのフィルムは、印刷性の改良や、ラミネート性(接着性)の改良のために片面、または両面にコロナ処理した後使用することもできる。
【0136】
本発明のポリアミドを用いた射出成形品は、射出成形方法により所望の形状に成形を行うことによって得られる。
【0137】
<5−3.ポリアミドの用途>
本発明のポリアミドの具体的な用途例としては、自動車・車両関連部品として、インテークマニホールド、ヒンジ付きクリップ(ヒンジ付き成形品)、結束バンド、レゾネーター、エアークリーナー、エンジンカバー、ロッカーカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、ガソリンタンク、ガソリンサブタンク、ラジエータータンク、インタークーラータンク、オイルリザーバータンク、オイルパン、電動パワステギヤ、オイルストレーナー、キャニスター、エンジンマウント、ジャンクションブロック、リレーブロック、コネクター、コルゲートチューブ、プロテクター等の自動車用アンダーフード部品、ドアハンドル、フェンダー、フードバルジ、ルーフレールレグ、ドアミラーステー、バンパー、スポイラー、ホイールカバー等の自動車用外装部品、カップホルダー、コンソールボックス、アクセルペダル、クラッチペダル、シフトレバー台座、シフトレバーノブ等の自動車用内装部品が挙げられる。
【0138】
さらに、本発明のポリアミドは、釣り糸、漁網などの漁業関連資材、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、キャスター、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、ターミナルのハウジング、ベアリングリテーナー、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイド等に代表される電気・電子関連部品、家庭・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品など各種用途に使用することができる。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではではない。
【0140】
実施例及び比較例で使用したカダベリン・アジピン酸水溶液(カダベリン塩溶液)は、リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増幅株を用い、リジン・アジピン酸塩を原料として調製した。リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増幅株の作製手順と、それを用いたカダベリン・アジピン酸水溶液の調製手順について、以下に詳述する。
【0141】
[実施例1]
(1)リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増強株の作製:
図1は、リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)を組み込んだプラスミドpCAD1の構築手順の概要を示す図である。具体的には、以下に説明する手順により行なった。
【0142】
(A)大腸菌DNA抽出:
LB培地[組成:トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、塩化ナトリウム(NaCl)5gを蒸留水1Lに溶解]10mLに、大腸菌(Escherichia coli)JM109株を対数増殖期後期まで培養し、得られた菌体を、10mg/mLのリゾチームを含む10mMNaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mMエチレンジアミン四酢酸ジナトリウム(EDTA・2Na)水溶液0.15mLに懸濁した。
【0143】
次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。更にドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロホルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに、10mM トリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0144】
(B)cadAのクローニング:
大腸菌cadAの取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されている大腸菌K12−MG1655株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.U00096)を基に設計した合成DNA(下記の配列番号1及び配列番号2で表わされる配列からなるDNA)をプライマーとして用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行なった。
【0145】
・配列番号1:
GTTGCGTGTTCTGCTTCATCGCGCTGATG
・配列番号2:
ACCAAGCTGATGGGTGAGATAGAGAATGAGTAAG
【0146】
なお、反応液は、鋳型DNA1μL及びPlatinum(登録商標) Pfx DNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.2μLに、各プライマーが0.3μM、MgSO4が1mM、デオキシヌクレオチド3リン酸(dNTPs)が0.25μMとなるように、1倍濃度Pfx Amplification Buffer(インビトロジェン社製)を加えて全量を20μLとすることにより調製した。
【0147】
また、反応温度条件としては、DNAサーマルサイクラー(MJResearch社製PTC−200)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で2.5分からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は10分とした。
【0148】
PCRの終了後、増幅産物をエタノール沈殿により精製し、制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断した。得られたDNA標品を、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離した後、臭化エチジウム染色を用いて可視化することにより、cadAを含む約2.6kbの断片を検出し、QIA Quick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて目的DNA断片の回収を行なった。
【0149】
回収したDNA断片を、大腸菌プラスミドベクターpUC18(タカラバイオ社製)を制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断して調製したDNA断片と混合し、ライゲーションキットver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結後、得られたプラスミドDNAを用いて大腸菌(JM109株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLアンピシリン、0.2mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)及び50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0150】
この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断することにより、約2.5kbの挿入断片が認められることを確認した。このプラスミドをpCAD1と命名し、pCAD1を含む大腸菌株をJM109/pCAD1と命名した。
【0151】
(2)cadA増幅株の培養:
大腸菌株JM109/pCAD1をLB培地で前培養した後、1000mLの培養液を99Lの培地(ミーストP1G 10g/L、ポリペプトンN 20g/L、NaCl 10g/L、アンピシリンNa 50mg/L)が入った200L容ジャーファーメンターに接種し、通気量250ml/分、35℃、700rpmで通気攪拌培養を行なった。15時間培養後、培養液全量を3m3の培地(ミーストP1G 10g/L、ポリペプトンN20g/L、NaCl 10g/L、アンピシリンNa 50mg/L)が入った5m3容タンクに接種して更に培養を行なった。5m3ジャーでの培養条件は、通気量0.5vvm、35℃、Agit:100rpmであった。培養4時間目に、300gのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を5Lの水に溶解した後、フィルターを通して加えた。その後21時間培養を続けた。
【0152】
(3)菌体の分離:
6400rpm、フィード速度750L/hrの条件下で、アルファラバル分離機により培養液からの菌体回収を行った。回収された菌体の湿重量は36.9Kgであった。この湿菌体を10mMの酢酸ナトリウム溶液160Lに懸濁したのち、15000rpm、フィード速度1.0L/minの条件下でシャープレス遠心機により再度菌体回収を行ない、18.7kgの湿菌体を取得した。
【0153】
(4)カダベリン・アジピン酸塩の製造:
50重量体積%のリジン水溶液にpHが6.5となるようにアジピン酸スラリーを加え、リジン・アジピン酸塩溶液を調製し、基質溶液とした(リジン換算濃度125.0g/L)。ピリドキサルリン酸を0.1mMとなるように加えて反応液を調製し、これに大腸菌株JM109/pCAD1の菌体液(仕込み湿菌体濃度0.28g/L)を添加し、反応を開始した。反応は、5Lジャーファーメンターに3Lの反応液を仕込んで行なった。また、反応中に適宜、アジピン酸スラリーを反応液に添加することにより、反応液のpHを6.5となるように制御した。リジンセンサーでリジンの量をモニタリングし、反応の進行程度に従ってアジピン酸スラリーの添加量を徐々に少なくした。リジンの量が、リジンセンサーの検出限界以下になった後、さらに16時間反応を続け、リジンのほぼ100%がカダベリンに変換された(総消費リジン量370.8g)。得られた反応液のpHは7.45であった。得られた反応液を「実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。
【0154】
(5)カダベリン濃度のHPLCによる測定:
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液中のガダベリン濃度を、HPLC(High performance liquid chromatography)によって測定した。このとき、カラムとしてはL−column(化学物質評価機構、4.6×250mm)を40℃で用いた。また、移動相としては10mM酢酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルとを72:28(容量比)で混合したものを用いて、流速1.0mL/分で展開した。検出は245nmのUVで行なった。
【0155】
測定をするにあたり、実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液(測定サンプル)に、前処理を行なった。前処理は、キットとしてAccQ・Fluor Reagent Kit(ウオーターズ、P/N:WATO52880)を用いて行なった。0.2mg/mL以下になるようにカダベリンの濃度を調整した測定サンプルの希釈水溶液10μLに、該キットのアクタグ1液70μL、2A液20μLを順次加え、55℃で10分加熱した。前処理した測定サンプルを、そのままHPLCに10μL注入して測定を行なった。
【0156】
(6)アジピン酸濃度のHPLCによる測定:
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液中のアジピン酸濃度を、HPLC(High performance liquid chromatography)によって測定した。測定には、カラムとしてULTRON PS−80H(信和化学工業社製、8.0×300mm)を60℃で用いた。また、移動相としては10mM過塩素酸水溶液を用いて、流速1.0mL/分で展開した。検出はRIで行った。測定は、実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液のサンプルを、100倍希釈してHPLCに10μL注入して行った。
【0157】
(7)保存試験:
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液10mLを、50mlコニカルチューブ(Becton Dickinson製)に入れ、25℃の室内環境下で保存した。保存0日目(保存開始日)及び保存7日目に、分光光度計(日立製作所製U−3500)を用いて、その吸光スペクトルを測定した。
【0158】
また、得られた吸光スペクトルから、下記式[1]により、波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化を求めた。
(波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化)
= (保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
/(カダベリン・アジピン酸塩溶液中のカダベリンのモル濃度) [1]
【0159】
なお、上記式[1]中、「保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化」は、下記式[2]により求められる値である。
(保存前後の波長400〜500nmにおける平均吸光度の変化)
= (保存7日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度)
− (保存0日目の波長400〜500nmにおける平均吸光度) [2]
【0160】
実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける平均モル吸光度の変化を、後述の表1に示す。また、実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図2に示す。
【0161】
[実施例2]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを7.66にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「実施例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、実施例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図3に示す。
【0162】
[実施例3]
実施例1において、反応開始時のリジン仕込み濃度を88g/L(リジン換算濃度)にして反応を行い、反応終了時における反応液のpHを8.03にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「実施例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、実施例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図4に示す。
【0163】
[実施例4]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを8.36にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「実施例4のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、実施例4のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図5に示す。
【0164】
[比較例1]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを7.17にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「比較例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、比較例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図6に示す。
【0165】
[比較例2]
実施例1において、反応終了時における反応液のpHを6.92にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「比較例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、比較例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図7に示す。
【0166】
[比較例3]
実施例1において、反応開始時のリジン仕込み濃度を88g/L(リジン換算濃度)にして反応を行い、反応終了時における反応液のpHを6.50にした以外は、実施例1と同様の手順により、カダベリン・アジピン酸塩溶液の製造、測定、保存試験等を行なった。得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液(これを「比較例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液」という。)のカダベリン濃度、アジピン酸濃度、平均モル吸光度の変化の結果を表1に示す。また、比較例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存0日目及び保存7日目の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを図8に示す。
【0167】
[参考例]
ガダベリンとアジピン酸とを表2に記載の重量ずつ、水に溶解させて得られた水溶液のpHを、それぞれ測定した。結果を表2に示す。なお、表2中、物質量の値は、添加した重量から算出した値である。なお、そのときのグラフを図9及び図10に示す。
【0168】
[結果]
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
表1及び図2〜8の結果から、反応終了時の反応液をカダベリン過剰な状態とした実施例1〜4の方が、比較例1〜3と比べて、得られたカダベリン・アジピン酸塩溶液の保存時における着色が少なく、安定に保存できていることが分かる。
また、上記結果に加え、さらに表2及び図9〜10の結果から、反応液のpHを測定することで、間接的にカダベリン塩溶液におけるカダベリンと酸との物質量の比を測定することが出来ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明を利用可能な分野は制限されず、カダベリン塩が用いられる任意の分野に利用することが可能であるが、特にナイロン等のポリアミドの製造分野において好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)を組み込んだプラスミドpCAD1の構築手順の概要を示す図である。
【図2】実施例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図3】実施例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図4】実施例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図5】実施例4のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図6】比較例1のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図7】比較例2のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図8】比較例3のカダベリン・アジピン酸塩溶液の波長400〜500nmにおける吸光スペクトルを示す図である。実線は保存0日目の吸光スペクトルを、破線は保存7日目の吸光スペクトルをそれぞれ示している。
【図9】カダベリンの量[g/L]とアジピン酸の量[g/L]との比の値(CAD/AD[(g/L)/(g/L)])と、pHとの相関を表わすグラフである。
【図10】カダベリンの量[mol]とアジピン酸の量[mol]との比の値(CAD/AD[mol/mol])と、pHとの相関を表わすグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法であって、
反応終了時における反応液を、カダベリン過剰な状態とする
ことを特徴とする、カダベリン塩の製造方法。
【請求項2】
反応終了時までに使用したリジンの酸に対する規定比を1よりも大きい値とする
ことを特徴とする、請求項1記載のカダベリン塩の製造方法。
【請求項3】
反応終了時における反応液のpHを、カダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値とする
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のカダベリン塩の製造方法。
【請求項4】
リジンと共存させる酸が、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、及びスルホン酸からなる群より選択される一種以上の酸である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のカダベリン塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項の製造方法によって得られたカダベリン塩を、重縮合させる工程を有する
ことを特徴とする、ポリアミドの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法によって得られた
ことを特徴とする、ポリアミド。
【請求項1】
リジン及び酸の共存する溶液にリジン脱炭酸酵素を作用させ、脱炭酸反応によりカダベリン塩を製造する方法であって、
反応終了時における反応液を、カダベリン過剰な状態とする
ことを特徴とする、カダベリン塩の製造方法。
【請求項2】
反応終了時までに使用したリジンの酸に対する規定比を1よりも大きい値とする
ことを特徴とする、請求項1記載のカダベリン塩の製造方法。
【請求項3】
反応終了時における反応液のpHを、カダベリンと酸との中和点におけるpHよりも高い値とする
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のカダベリン塩の製造方法。
【請求項4】
リジンと共存させる酸が、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、カルボン酸、リン酸、及びスルホン酸からなる群より選択される一種以上の酸である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のカダベリン塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項の製造方法によって得られたカダベリン塩を、重縮合させる工程を有する
ことを特徴とする、ポリアミドの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法によって得られた
ことを特徴とする、ポリアミド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−220239(P2008−220239A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61856(P2007−61856)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】
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