説明

カチオン電着塗料への消泡剤の添加方法およびそれに用いる添加剤

【課題】電着塗料に対して効果の高い疎水性消泡剤を電着塗料に安定に添加する方法の提供。
【解決手段】カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料用顔料分散樹脂に、該顔料分散樹脂の100重量部(固形分)に対して消泡剤5〜1,000重量部(固形分)の量で予め分散したものを添加することを特徴とするカチオン電着塗料中への消泡剤の添加方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料中への消泡剤の効率的な添加方法およびそれに用いる添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は浸漬塗装であり、被塗装物は塗料液の中に浸漬され、通電されることによって塗装がなされる。被塗装物が電着塗料漕に入る際、及び/または出る際に、被塗装物が塗料漕に泡を発生させることが多い。泡を放置すると、泡沫凝集を起こし塗装ブツ不良の原因となる。また、被塗装物が泡を噛んだ状態で塗装されることによって、塗膜に泡の跡を生じ該部位が未塗装になるといった不良の原因ともなる。このため、電着塗料に種々の消泡剤を用いることが一般に行われる。
【0003】
電着塗料のみならず、水性塗料で効果を発現する消泡剤の多くは疎水性である。疎水性は、泡膜表面に不溶な油滴を形成するのに必要であり、そのことで泡膜中の表面張力が不均一になる。その結果、泡膜が不安定になり破泡する。このような消泡剤は疎水性を示すため、消泡剤を水性塗料に配合する場合は、強く撹拌しシェアをかけて分散する。また電着塗料においては、塗料用樹脂を乳化する際に予め配合しておくことが行われている。しかし、塗装プラントの特性によっては、消泡剤を塗料を形成した後あるいは既に稼働している塗料浴中に配合する、いわゆる「後添加」するという要求も発生し得る。
【0004】
ところが、消泡剤を電着塗料のような低粘度、かつ高いシェアがかかるのを期待できないものに後添加しようとした場合、塗料液中に均一に混じらず、大きな油滴状になって塗料中に不均一に偏在するという現象が起きる。その結果、消泡剤が本来持っている機能を十分に発揮できないばかりか、前記油滴状になった消泡剤が塗膜に不均一に付着し、未焼付塗装面の表面張力の均一性を損ね、ハジキのような重大な塗膜欠陥を発生する場合がある。
【0005】
その対策として、電着塗料に消泡剤を後添加する際には、消泡剤を溶剤等に溶解させてから添加するという手法がしばしば採られる。しかし、この方法でも消泡剤の分散は不十分となることが多く、即効性に欠ける。また、溶解した溶剤の種類によっては、添加時に溶剤が塗料を凝集不安定化させ、ブツ等の不良が発生することがある。
【0006】
カチオン電着塗料中へ添加される消泡剤については、いくつかの特許出願が存在するが、それらの全てが消泡剤の組成からの検討であって、消泡剤の添加方法についての検討は殆どなされていないのが現状である。
【0007】
例えば、特開2004−339364号公報(特許文献1)には、特定のポリアルキレン化合物を含む界面活性剤を消泡剤として使用し、消泡性と水分散性を改善することが示されている。また、特開2002−126404号公報(特許文献2)には、ショ糖とアルキレンオキシドとの化合物(A)およびモノアルコールとアルキレンオキシドとの化合物(B)を含有する消泡剤組成物が示されており、優れた消泡性と泡切れ性を発揮することが示されている。さらに、特開2002−60682号公報(特許文献3)および特開2002−58905号公報(特許文献4)等にも、消泡剤の組成を検討した技術が開示されている。しかし、いずれの技術も、消泡剤自体の組成を検討したものであって、消泡剤の添加方法を検討したものではない。
【特許文献1】特開2004−339364号公報
【特許文献2】特開2002−126404号公報
【特許文献3】特開2002−60682号公報
【特許文献4】特開2002−58905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電着塗料に対して効果の高い疎水性消泡剤を電着塗料に安定に添加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料用顔料分散樹脂に、該顔料分散樹脂の100重量部(固形分)に対して消泡剤5〜1,000重量部(固形分)の量で予め分散したものを添加することを特徴とするカチオン電着塗料中への消泡剤の添加方法を提供する。
【0010】
本発明では、カチオン電着塗料は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤および顔料を含有し、該顔料が前記カチオン電着塗料用顔料分散樹脂で予め分散した顔料ペーストの形態で混入される。
【0011】
本発明では、カチオン電着塗料用顔料分散樹脂と消泡剤を混合した添加剤を形成し、該添加剤をカチオン電着塗料中に混入する。
【0012】
本発明の消泡剤はノニオン系またはアセチレンジオール系であるのが好ましい。
【0013】
本発明は、また、消泡剤およびカチオン電着塗料用顔料分散樹脂を含有するカチオン電着塗料の消泡性添加剤を提供する。
【0014】
上記消泡剤はカチオン電着塗料用顔料分散樹脂に予め分散されることが好ましい。
【0015】
本発明は、更に、カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料の顔料の分散に用いられる顔料分散用樹脂に顔料分散樹脂固形分100重量部に対して消泡剤の固形分5〜1,000重量部の量で予め分散することを特徴とするカチオン電着塗料中での消泡剤の消泡性の増大方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料の顔料の分散に用いられる顔料分散用樹脂に顔料分散樹脂固形分100重量部に対して消泡剤の固形分5〜1,000重量部の量で予め分散することを特徴とするカチオン電着塗料中での消泡剤による悪影響の防止方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、消泡剤が主樹脂であるカチオン性エポキシ樹脂に添加されたり、溶剤との混合物としてカチオン電着塗料に添加されるのではなく、顔料分散樹脂と共にかつ混合された状態でカチオン電着塗料に添加されるのである。この方法によれば、消泡剤を添加してからの即効性に優れ、消泡効果も損なうことはない。また、ハジキ等の塗膜欠陥がなく、添加時の塗料凝集も起きにくい利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。一般にカチオン電着塗料は、カチオン性のエポキシ樹脂(特に、アミン変性エポキシ樹脂)とその樹脂の硬化剤(特に、ブロック化イソシアネート硬化剤)を基本的成分としており、その他に顔料や添加剤を含み、水性媒体中に分散したものである。顔料は、一般に顔料を顔料分散用樹脂とよばれる樹脂と混練した顔料ペーストの形でカチオン電着塗料中に添加される。
【0019】
本発明では、消泡剤をカチオン電着塗料用顔料分散樹脂(本明細書中では単に、「顔料分散樹脂」と呼ぶこともある。)と組み合わせてカチオン電着塗料中に添加される。添加は、電着塗料形成時であっても、または電着塗料を形成した後に添加する、いわゆる「後添加」であってもよい。また、既に塗装を継続している電着塗料浴に後添加してもよい。本発明では、特に後添加において高い消泡効果を期待できる。消泡剤と顔料分散樹脂は、通常、ディスパーなどの分散器で分散した状態で添加剤として使用される。
【0020】
消泡剤
本発明で使用する消泡剤は、カチオン電着塗料の消泡剤として使用されているものであれば、どのようなものあってもよいが、特に疎水性消泡剤に属するものが好ましい。消泡剤は、動植物油系、脂肪酸系、ノニオン系(特に、ポリエーテル系)、アセチレンジオール系、フッ素系、シリコーン系、鉱物油系、リン酸エステル系等が存在するが、動植物油系、脂肪酸系、ノニオン系(特に、ポリエーテル系)、アセチレンジオール系が好ましい。より好ましくは、ノニオン系(特に、ポリエーテル系)またはアセチレンジオール系である。特に、エアープロダクツ社製のアセチレンジオール系の消泡剤(サーフィノール124)が有効である。
【0021】
消泡剤の使用量は、特に限定的ではないが、顔料分散樹脂固形分100重量部に対して消泡剤の固形分5〜1,000重量部、好ましくは5〜500重量部、より好ましくは20〜200重量部である。5重量部より少ないと、消泡効果が十分ではなく、1,000重量部を超えると「顔料分散樹脂で分散した消泡剤」において、消泡剤の分散性が悪く不安定である。
【0022】
消泡剤は、前述の様に、顔料分散樹脂と混合して用いられる。顔料分散樹脂については、下記のカチオン電着塗料組成物の説明の中で詳しくのべる。
【0023】
カチオン電着塗料組成物
本発明の電着塗装方法において、一般に使用される任意のカチオン電着塗料組成物を用いることができる。カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤および必要に応じて顔料や添加剤を含むものが挙げられる。以下、それぞれの成分について説明する。
【0024】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0025】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0026】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0027】
【化1】

【0028】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0029】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0030】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0031】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0032】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0033】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0034】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0035】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0036】
硬化剤
本発明で使用する硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートが好ましく、ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0037】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0038】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーも硬化剤として使用してよい。
【0039】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。形成される塗膜が耐候性に優れるからである。
【0040】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0041】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0042】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0043】
カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤とを含むバインダーは、一般に、電着塗料組成物の全固形分の25〜85質量%、好ましくは40〜70質量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0044】
顔料
本発明で用いられる電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0045】
顔料は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の1〜35質量%、好ましくは10〜30質量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0046】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0047】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂ワニスとしては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂ワニスは5〜40質量部、顔料は10〜30質量部の固形分比で用いる。
【0048】
上記顔料分散樹脂ワニスおよび顔料を、樹脂固形分100質量部に対し10〜1000質量部混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0049】
本発明では、上記顔料分散樹脂を顔料の分散だけではなく、消泡剤の混合・分散にも用いる点が従来と大きく相違する点である。分散は前述のように、ディスパーなどの分散器で顔料分散樹脂と消泡剤を分散・混合することに行われる。
【0050】
消泡剤と顔料分散樹脂との混合添加剤は、後述するカチオン電着塗料組成物の調製時に、配合してもよい。また、予め調製されたカチオン電着塗料組成物に添加剤として加えてもよい。さらに、既に電着塗装を行っているカチオン電着塗料浴中に、消泡剤の添加剤として、加えた後若干の混合を行って、塗料浴中に均一混合してもよい。
【0051】
電着塗料組成物の調製
電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤、及び顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0052】
硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分質量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0053】
電着塗料は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。鉛を実質的に含まないものが好ましいため、その量はブロックポリイソシアネート化合物の0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0054】
電着塗料組成物は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び顔料などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。前述の消泡剤も、もちろん添加剤に含まれる。
【0055】
本発明のpH緩衝剤は、電着塗料組成物に直接添加しても良いが、前述の樹脂や顔料ペーストに予め配合した形で電着塗料組成物中に導入しても良い。
【0056】
電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合の被塗物は、予め、浸漬、スプレー方法等によりリン酸亜鉛処理等の表面処理の施された導体であることが好ましいが、この表面処理が施されていないものであっても良い。また、導体とは、電着塗装を行うに当り、陰極になり得るものであれば特に制限はなく、金属基材が好ましい。
【0057】
電着が実施される条件は一般的に他の型の電着塗装に用いられるものと同様である。印加電圧は大きく変化してもよく、1ボルト〜数百ボルトの範囲であってよい。電流密度は通常約10アンペア/m〜160アンペア/mであり、電着中に減少する傾向にある。
【0058】
本発明の電着塗装方法によって電着した後、被膜を昇温下に通常の方法、例えば焼付炉中、焼成オーブン中あるいは赤外ヒートランプで焼付ける。焼付け温度は変化してもよいが、通常約140℃〜180℃である。本発明の電着塗装システムによって塗装された塗装物は、最終水洗の後、乾燥、焼付けされることによって、硬化電着塗膜が形成され、これにより塗装工程が完了する。
【実施例】
【0059】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。
【0060】
製造例1(スルホニウム基を有する顔料分散樹脂ワニスの製造)
攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIという)222.0部を入れ、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)39.1部で希釈した後、ジブチルスズラウレート0.2部を加えた。その後、50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌しながら、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDIが得られた。
【0061】
次に適当な反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ダウ・ケミカル・カンパニー社製)382.2部とビスフェノールA117.8部を仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱した。その反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで120℃に冷却した後、上記で調整された2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)209.8部を加えた。140〜150℃で1時間反応させた後、ポリアルキレンオキサイド化合物(三洋化成社製、商品名BPE−60,Rがエチレン基でm+nが約6)205部を加え、60〜65℃に冷却した。そこへ、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.0部、脱イオン水144.0部、ジメチロールプロピオン酸134部を加え、酸価が1となるまで65〜75℃で反応させ、エポキシ樹脂に3級スルホニウム基を導入し、脱イオン水1595.2部を加えて3級化を終了させることにより、3級スルホニウム基を含有する顔料分散樹脂ワニス(固形分30%)を得た。
【0062】
(実施例1)
消泡剤と顔料分散樹脂との混合添加剤の調製
消泡剤(エアープロダクツ社製のアセチレンジオール系消泡剤サーフィノール124)100g、製造例1で合成した顔料分散樹脂ワニス(固形分100g)および純水を不揮発分30重量%になる量でビーカーに秤量し、それら混合物をディスパーにより撹拌、分散し、消泡剤を分散樹脂で混練した混合添加剤を得た。
【0063】
電着塗料への配合
次に、予め調製された4kgの電着塗料(パワーニックス140/日本ペイント製)に、前記混合添加剤(消泡剤原液6gに相当)を添加し、マグネッチックスターラーで毎分400回転相当の撹拌を1時間与え、消泡剤を塗料中に溶解させた。この時点で、消泡剤を評価した。その後に、各塗料液でテストパネルを電着塗装し、外観(ハジキの発生有無)を検査した。また、500メッシュのナイロン製フィルターで各塗料液を濾過し、凝集によって発生した残渣の有無を検査した。評価の結果を表1に示す。
【0064】
消泡性
No.4フォードカップに各塗料液を満たし、フォードカップの穴の下に1000mlメスシリンダーを設置した。フォードカップの穴からメスシリンダーの床面までの高さを1mに保ち、フォードカップの穴から塗料液を自然落下させ、落下直後および所定時間経過後の泡の体積(ml)を測定した。
ハジキの評価
ハジキの評価は目視で以下の基準で行った。
○・・・0個
△・・・1〜5個
×・・・6個以上
凝集物の発生
凝集物の発生は以下の基準で行った。
○・・・0〜20mg
△・・・21〜100mg
×・・・101mg以上
【0065】
(比較例1)
予め調製された4kgの電着塗料(パワーニックス140/日本ペイント製)に、消泡剤原液6gを直接滴下することによって添加し、マグネチックスターラーで毎分400回転相当の撹拌を1時間与え、消泡剤を塗料中に溶解させた。以下、実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
消泡剤溶液は、上記消泡剤100gを、溶剤であるジプロピレングリコール233.3gに溶解し、不揮発分30重量%に調製した。
【0067】
予め調製された4kgの電着塗料(パワーニックス/日本ペイント製)に、前記溶剤に溶解し調製した消泡剤液(消泡剤原液6gに相当)を直接滴下することによって添加し、マグネッチックスターラーで毎分400回転相当の撹拌を1時間与え、消泡剤を塗料中に溶解させた。実施例と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
上記表1の結果から明らかなように、本発明のように、消泡剤を顔料分散樹脂で混合分散した添加剤は、消泡性、ハジキ発生性、凝集物の発生の全ての点で優れている。一方、発泡剤を原液で添加した比較例1では、消泡性とハジキ発生性において評価がかなり悪くなる。また、従来例のように消泡剤を有機溶剤に混合した形で添加した比較例2では、消泡性やハジキ発生性が比較例1よりも若干改善したが、凝集物の発生が多く見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料用顔料分散樹脂に、該顔料分散樹脂の100重量部(固形分)に対して消泡剤5〜1,000重量部(固形分)の量で予め分散したものを添加することを特徴とするカチオン電着塗料中への消泡剤の添加方法。
【請求項2】
カチオン電着塗料が、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤および顔料を含有し、該顔料が前記カチオン電着塗料用顔料分散樹脂で予め分散した顔料ペーストの形態で混入される請求項1記載の消泡剤の添加方法。
【請求項3】
カチオン電着塗料用顔料分散樹脂と消泡剤を混合した添加剤を形成し、該添加剤をカチオン電着塗料中に混入する請求項2記載の消泡剤の添加方法。
【請求項4】
消泡剤がノニオン系またはアセチレンジオール系である請求項3記載の消泡剤の添加方法。
【請求項5】
消泡剤およびカチオン電着塗料用顔料分散樹脂を含有するカチオン電着塗料の消泡性添加剤。
【請求項6】
該消泡剤がカチオン電着塗料用顔料分散樹脂に予め分散された請求項5記載のカチオン電着塗料の消泡性添加剤。
【請求項7】
該消泡剤がノニオン系またはアセチレンジオール系である請求項6記載のカチオン電着塗料の消泡性添加剤。
【請求項8】
カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料の顔料の分散に用いられる顔料分散用樹脂に顔料分散樹脂固形分100重量部に対して消泡剤の固形分5〜1,000重量部の量で予め分散することを特徴とするカチオン電着塗料中での消泡剤の消泡性の増大方法。
【請求項9】
カチオン電着塗料中に消泡剤を添加する際に、該消泡剤をカチオン電着塗料の顔料の分散に用いられる顔料分散用樹脂に顔料分散樹脂固形分100重量部に対して消泡剤の固形分5〜1,000重量部の量で予め分散することを特徴とするカチオン電着塗料中での消泡剤による悪影響の防止方法。

【公開番号】特開2008−37888(P2008−37888A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209948(P2006−209948)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】