説明

カップ型ブラシ

【課題】ワークの被加工面が湾曲している場合であったとしても、複雑なロボットティーチング作業を必要とすることなく自動加工を行うことができ、加工コストの低減を実現することが可能であるカップ型ブラシを提供する。
【解決手段】全体でカップ形状を成すカップ型ブラシであって、回転力が伝達される軸部2aを有するブラシホルダ2と、ブラシホルダ2の軸部2aを中心にして環状に配置された複数のセグメントブラシ部3を備え、先端にセグメントブラシ部3が装着されてブラシホルダ2に軸方向に移動可能に支持されるブラシ支持棒11と、セグメントブラシ部3とブラシホルダ2との間においてブラシ支持棒11に嵌装されてセグメントブラシ部3に対してブラシホルダ2から離間する方向の力を常時付与するコイルばね12を具備したブラシ支持機構10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークにおける被加工面のばり取や研磨などの加工に用いられるカップ型ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したようなカップ型ブラシとしては、例えば、円板形状を成して中心に回転力が伝達される軸部を有するブラシホルダと、このブラシホルダに円周方向に沿って互いに等間隔で配置された複数のセグメントブラシ部を備えたものがあり、このようなカップ型ブラシは、ロボットアームに取り付けてブラシホルダの軸部をモータに連結して使用したり、ハンドグラインダにブラシホルダの軸部を連結して使用したりするものとなっている。
【0003】
このカップ型ブラシを、例えば、ロボットアームに取り付けてワークの被加工面に対して研磨加工を行う場合には、カップ型ブラシのブラシホルダに回転力を与えて回転させ、このブラシホルダの回転により軸部を中心にして旋回する複数のセグメントブラシ部を被加工面に押し付けながらロボットアームを動作させて、カップ型ブラシをワークの被加工面に沿って移動させるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9-85633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記した従来のカップ型ブラシにおいて、ワークの被加工面が平面である場合には、何ら問題なく研磨加工を行うことができるものの、ワークの被加工面が湾曲している場合には、ロボットアームの動きを制御してカップ型ブラシを被加工面の湾曲状態に倣わせて移動させる必要がある。
つまり、このようにカップ型ブラシに倣い動作を行わせるためには、複雑なロボットティーチング作業が必要になることから、研磨コストの上昇を招いてしまうという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、ロボットアームに取り付けてワークの被加工面を研磨するに際して、ワークの被加工面が湾曲している場合であったとしても、複雑なロボットティーチング作業を必要とすることなく自動研磨加工を行うことができ、その結果、加工コストの低減を実現することが可能であるカップ型ブラシを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、全体でカップ形状を成すカップ型ブラシであって、回転力が伝達される軸部を有するブラシホルダと、このブラシホルダの前記軸部を中心にして環状に配置された複数のセグメントブラシ部を備えたカップ型ブラシにおいて、前記複数のセグメントブラシ部個々を所定の位置に保持すると共に、前記複数のセグメントブラシ部個々に対して前記ブラシホルダに接近する方向の負荷がかかった段階で該複数のセグメントブラシ部個々が前記所定位置から離脱するのを許容するブラシ支持機構を設けた構成としたことを特徴としており、このカップ型ブラシの構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
また、本発明の請求項2に係るカップ型ブラシにおいて、前記ブラシ支持機構は、前記複数のセグメントブラシ部個々を所定位置に保持するべく該複数のセグメントブラシ部個々に対して前記ブラシホルダから離間する方向の力を常時付与すると共に、前記複数のセグメントブラシ部個々に対して前記ブラシホルダに接近する方向の負荷がかかった段階で該複数のセグメントブラシ部個々の前記ブラシホルダ側への移動を許容して前記所定位置から離脱させる構成としている。
【0008】
さらに、本発明の請求項3に係るカップ型ブラシにおいて、前記ブラシ支持機構は、先端に前記セグメントブラシ部が装着されて前記ブラシホルダに軸方向に移動可能に支持されるブラシ支持棒と、前記セグメントブラシ部と前記ブラシホルダとの間において前記ブラシ支持棒に嵌装されて前記セグメントブラシ部に対して前記ブラシホルダから離間する方向の力を常時付与するコイルばねを具備している構成としている。
【0009】
本発明に係るカップ型ブラシのブラシ支持機構において、セグメントブラシ部にブラシホルダに接近する方向の負荷がかかった段階でこのセグメントブラシ部を所定位置から離脱させる手法としては、上記したセグメントブラシ部をブラシホルダに接近離間させる手法を採用することができるほか、例えば、可撓性を有する棒にセグメントブラシ部を取り付けて複数のセグメントブラシ部個々に首振り動作を行わせる手法を採用することができる。
【0010】
また、このようなブラシ支持機構におけるセグメントブラシ部をブラシホルダに接近離間させる手法において、上記したブラシ支持棒及びコイルばねを用いる方式のほかに、スライダを用いた直動方式を採用することができる。
本発明に係るカップ型ブラシは、ワークの被加工面のばり取や研磨などの加工に用いることができ、とくに被加工面に形成されている孔の縁部におけるばりや丸み付けに適している。
【0011】
本発明に係るカップ型ブラシでは、例えば、ロボットアームに取り付けてワークの被加工面に研磨加工を行うに際して、ブラシホルダに軸部を介して回転力を与えて回転させ、このブラシホルダの回転により軸部を中心にして旋回する複数のセグメントブラシ部を被加工面に押し付けつつ、ロボットアームを動作させてカップ型ブラシをワークの被加工面に沿って移動(必要に応じて往復移動)させると、この被加工面の研磨がなされることとなる。
【0012】
このとき、ワークの被加工面が湾曲面である場合には、被加工面の凸部分通過時のような複数のセグメントブラシ部個々に対してブラシホルダに接近する方向の負荷がかかる時点において、セグメントブラシ部は、ブラシ支持機構によって所定位置からの離脱が許容されているので、ロボットアームに平坦な移動動作を行わせたとしても、複数のセグメントブラシ部はいずれも所定の位置から適宜離れて湾曲状の被加工面に倣うこととなる。
【0013】
つまり、ロボットアーム自体を倣い制御する際のような複雑なロボットティーチング作業が不要となって、研磨加工コストの低減が図られることとなる。
ここで、ワークの被加工面に孔がある場合には、被加工面上を押し付けられつつ移動するセグメントブラシ部の毛先が孔の中に入り込むことから、カップ型ブラシがワークの被加工面上を往復移動するようにプログラミングすれば、孔の縁部のばり取りが成されるのに加えて、必要に応じて孔の縁部に丸み付け加工を行い得ることとなる。
【0014】
また、上記したように、ブラシホルダに摺動可能に支持されるブラシ支持棒及びこのブラシ支持棒に嵌装されるコイルばねからブラシ支持機構を構成すれば、簡単な構造で複数のセグメントブラシ部を湾曲状の被加工面に倣わせ得ることとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1及び2に係るカップ型ブラシでは、上記した構成としているので、例えば、ロボットアームに取り付けてワークの被加工面を研磨する場合において、ワークの被加工面が湾曲していたとしても、複雑なロボットティーチング作業を必要とすることなく自動研磨加工を行うことができ、したがって、加工コストの低減を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るカップ型ブラシでは、上記した構成としたため、簡単な構造で複数のセグメントブラシ部を湾曲状の被加工面に倣わせることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るカップ型ブラシを図面に基づいて説明する。
図1〜図4は、本発明に係るカップ型ブラシの一実施形態を示しているおり、この実施形態では、本発明に係るカップ型ブラシをロボットアームに取り付けてワークの被加工面に研磨加工を行う場合を例に挙げて説明する。
図1及び図2に示すように、このカップ型ブラシ1は、円板形状を成すブラシホルダ2と、複数のセグメントブラシ部3を備えている。
【0018】
ブラシホルダ2は、その中心に軸部2aを有しており、この軸部2aは、図外のモータ出力軸と仮想線で示すカップリング4を介して連結されるようになっている。
一方、複数のセグメントブラシ部3は、ブラシホルダ2の軸部2aを中心にして等間隔で且つ環状に配置されており、いずれもブラシ支持機構10を介してブラシホルダ2に個々に支持されている。
【0019】
このブラシ支持機構10は、先端にセグメントブラシ部3が装着され且つ基端にストッパ11aが配置されてブラシホルダ2に設けた貫通孔2bに摺動可能に支持されるブラシ支持棒11と、セグメントブラシ部3の根元大径部分及びブラシホルダ2の貫通孔2bにおける縁部分に挟まれた状態でブラシ支持棒11に嵌装されるコイルばね12を具備しており、このコイルばね12は、セグメントブラシ部3に対してブラシホルダ2から離間する方向(図2下方向)の力を常時付与して、図2に示すセグメントブラシ部3のブラシホルダ2に対する所定の位置、すなわち、ブラシ支持棒11のストッパ11aがブラシホルダ2の貫通孔2bの縁部分に係止される位置にセグメントブラシ部3を保持するようになっている。
【0020】
この実施形態に係るカップ型ブラシ1を図外のロボットアームに取り付けてワークWの被加工面Waに研磨加工を行う場合には、まず、カップ型ブラシ1をロボットアームに取り付けると共に、カップリング4を介してブラシホルダ2の軸部2aをモータ出力軸に連結する。
このようにして、ロボットアームへのセットが終了した後、モータから軸部2aを介して回転力を伝達してブラシホルダ2を回転させ、このブラシホルダ2の回転により軸部2aを中心にして旋回する複数のセグメントブラシ部3をワークWの被加工面Waに押し付けつつ、ロボットアームを動作させてカップ型ブラシ1をワークWの被加工面Waに沿って移動(必要に応じて往復移動)させると、この被加工面Waの研磨がなされることとなる。
【0021】
このとき、図3に示すように、ワークWの被加工面Waが湾曲面である場合には、カップ型ブラシ1が被加工面Waの凸部分Wcを乗り越える段階において、すなわち、複数のセグメントブラシ部3個々に対してブラシホルダ2に接近する方向(図2上方向)の負荷がかかる段階において、これらの複数のセグメントブラシ部3は、ブラシ支持機構10のブラシ支持棒11及びコイルばね12により、ブラシホルダ2側への移動が許容されているので、ロボットアームに平坦な移動動作を行わせたとしても、複数のセグメントブラシ部3は、ブラシホルダ2に対する所定の位置からそれぞれ適宜離れて湾曲状の被加工面Waに倣うこととなる。
【0022】
つまり、ロボットアーム自体を倣い制御する際のような複雑なロボットティーチング作業が不要となって、研磨加工コストの低減が図られることとなる。
また、図4に示すように、ワークWの被加工面Waに孔Wbがある場合には、被加工面Wa上を押し付けられつつ移動するセグメントブラシ部3の毛先3aが、孔Wbの中に入り込むことから、カップ型ブラシ1がワークWの被加工面Wa上を往復移動するようにプログラミングすれば、孔Wbの縁部のばり取りも良好に成されるうえ、必要に応じて孔Wbの縁部に丸みWdを形成し得ることとなる。
【0023】
上記した実施形態に係るカップ型ブラシ1では、ブラシ支持機構10が、ブラシホルダ2に摺動可能に支持されるブラシ支持棒11及びこのブラシ支持棒11に嵌装されるコイルばね12を具備したものとしているので、簡単な構造で複数のセグメントブラシ部3を湾曲状の被加工面Waに倣わせ得ることとなる。
本発明に係るカップ型ブラシにおいて、セグメントブラシ部3を支持するブラシ支持機構は、上記したセグメントブラシ部3をブラシホルダ2に接近離間させるブラシ支持機構10の構成に限定されるものではなく、他の構成として、例えば、可撓性を有する棒にセグメントブラシ部3を取り付けて複数のセグメントブラシ部3個々に首振り動作を行わせる構成のブラシ支持機構としてもよい。
【0024】
また、セグメントブラシ部3を支持するブラシ支持機構は、上記したブラシ支持棒11及びコイルばね12を用いるブラシ支持機構10の構成に限定されるものではなく、他の構成として、スライダを用いた直動方式のブラシ支持機構としてもよい。
上記した実施形態では、カップ型ブラシ1をロボットアームに取り付けてワークWの被加工面Waに研磨加工を行う場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、カップ型ブラシ1をハンドグラインダに取り付けて研磨加工を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るカップ型ブラシの一実施形態を示す平面説明図である。
【図2】図1に示したカップ型ブラシの図1A−A線位置に基づく断面説明図である。
【図3】図1におけるカップ型ブラシの動作を示す図1A−A線相当位置に基づく断面説明図である。
【図4】図1におけるカップ型ブラシの動作を示す部分拡大断面説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 カップ型ブラシ
2 ブラシホルダ
2a 軸部
3 セグメントブラシ部
10 ブラシ支持機構
11 ブラシ支持棒
12 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体でカップ形状を成すカップ型ブラシであって、
回転力が伝達される軸部を有するブラシホルダと、
このブラシホルダの前記軸部を中心にして環状に配置された複数のセグメントブラシ部を備えたカップ型ブラシにおいて、
前記複数のセグメントブラシ部個々を所定の位置に保持すると共に、前記複数のセグメントブラシ部個々に対して前記ブラシホルダに接近する方向の負荷がかかった段階で該複数のセグメントブラシ部個々が前記所定位置から離脱するのを許容するブラシ支持機構を設けた
ことを特徴とするカップ型ブラシ。
【請求項2】
前記ブラシ支持機構は、前記複数のセグメントブラシ部個々を所定位置に保持するべく該複数のセグメントブラシ部個々に対して前記ブラシホルダから離間する方向の力を常時付与すると共に、前記複数のセグメントブラシ部個々に対して前記ブラシホルダに接近する方向の負荷がかかった段階で該複数のセグメントブラシ部個々の前記ブラシホルダ側への移動を許容して前記所定位置から離脱させる請求項1に記載のカップ型ブラシ。
【請求項3】
前記ブラシ支持機構は、先端に前記セグメントブラシ部が装着されて前記ブラシホルダに軸方向に移動可能に支持されるブラシ支持棒と、前記セグメントブラシ部と前記ブラシホルダとの間において前記ブラシ支持棒に嵌装されて前記セグメントブラシ部に対して前記ブラシホルダから離間する方向の力を常時付与するコイルばねを具備している請求項2に記載のカップ型ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89187(P2010−89187A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259592(P2008−259592)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】