説明

カテーテルおよび薬剤投与装置

【課題】微量の薬剤を正確に投与可能であるカテーテルおよび薬剤投与装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、人間を含む哺乳動物の生体組織内に穿刺されて薬剤を投与するカテーテル3であって、内部にルーメン9を有し、ルーメン9と外部を連通させる貫通穴10を有する細長い躯体8と、貫通穴10を覆う不透性の弾性シート11と、弾性シート11よりも外側から貫通穴10を覆い、加圧状態では薬剤が透過可能になる加圧透過性の硬質外装材12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人間を含む哺乳動物の生体組織内に穿刺されて薬剤を投与するカテーテルおよび薬剤投与装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療現場では、生体組織に対して注射器などを用いて直接薬剤を注入する医療行為が行われている。ここで、血管内へは数百mリットル単位で薬剤を注入しても漏れ出ることはないのに対し、臓器などの生体組織に1回あたり投与できる薬剤の量は、数十μリットル程度の微量に設定されている。薬剤の投与量が臓器などの生体組織の薬液吸収速度に依存しており、投与可能な量を超えて薬剤を投与した場合には薬剤が臓器外から漏れ出て体外の皮膚や体内の健康な臓器に薬剤が触れてしまうためである。実際に、臓器等では、固形腫瘍などに対して1回あたりに投与できる量は数十μリットル程度であり、100μリットル程度を超えた投与量で注入すると漏れ出てしまう。このため、臓器などの生体組織に対しては1回で僅かな量の薬剤しか投与できない。
【0003】
一方、腫瘍によっては体内の比較的深い場所に存在するために、体外のシリンジ部と体内の腫瘍部分にまで穿刺した先端の吐出部とが数十cm離れてしまうことも珍しくない。このような場合、例えば薬液10μリットルを内径1mmのチューブで流そうとすると、チューブ中の薬剤が行き渡る長さは約12.7mmでしかなく、この長さから先のチューブ内では薬剤は行き渡らない。したがって、数十μリットルの薬剤を、チューブ先端の吐出部まで送達させることすら困難であった。
【0004】
従来では、このような薬剤の微量投与に関する問題を解決するために、薬剤を希釈し、容量を増やして注入していた。しかしながら、薬液を高濃度で送達する必要がある抗がん剤投与の場合においては、薬剤を希釈するのが適切でない。
【0005】
このため、薬液リザーバーを直接患部まで運び、そのリザーバーを加圧してから直接薬液を放出する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この方法によれば、濃度を落とすことなく患部に直接的に薬液を送達できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−521275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、腫瘍が大きく成長した部分では腫瘍の体積が大きくなっていることから、加圧することによって複数の管の開口部からそれぞれ薬液を吐出する特許文献1に記載の方法では、一部の管の開口部が大きく成長した腫瘍の一部によって塞がれてしまった場合には、この開口部の周囲の腫瘍に対しては薬剤が吐出できないという問題があった。本来であれば、このような腫瘍部分にこそ薬剤を投与すべきであるにも係らず、特許文献1に記載の方法では、逆に薬剤の投与量が少なくなってしまい、必要な薬剤を正確な量で投与することができなかった。
【0008】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、微量の薬剤を正確に投与可能であるカテーテルおよび薬剤投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるカテーテルは、人間を含む哺乳動物の生体組織内に穿刺されて薬剤を投与するカテーテルであって、内部にルーメンを有し、前記ルーメンと外部を連通させる少なくとも1つの貫通穴を有する細長い躯体と、前記貫通穴を覆う不透性の弾性シートと、前記弾性シートよりも外側から前記貫通穴を覆い、加圧状態では前記薬剤が透過可能になる加圧透過性の硬質外装材と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記ルーメンと前記弾性シートとの間に、前記弾性シートの変形の最大量を規制する変形規制部材をさらに有することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記変形規制部材は、前記ルーメン内壁に沿って配設される網状部材であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記変形規制部材は、流体が透過可能に形成され、前記貫通穴に嵌め込み可能な蓋部材であることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記硬質外装材は、非加圧状態では閉じ、加圧状態では開く弁が設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記硬質外装材には、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させるキャピラリーが設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記硬質外装材には、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させるスリットが設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記硬質外装材には、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させる多孔質材料が用いられていることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、当該カテーテルの少なくとも一部を内部に収容し、当該カテーテルの軸方向に対してスライド可能なシースをさらに備え、前記シースは、前記貫通穴を全て覆う第1の位置と前記貫通穴を覆わない第2の位置とにスライド可能であることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記ルーメン内の前記貫通穴に対応する位置に、前記貫通穴を覆う弾性シートを外側に向けて押圧する押圧機構をさらに備えたことを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の外表側に前記貫通穴の周囲を囲む壁面が設けられていることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記いずれか1つに記載されたカテーテルと、前記カテーテルのルーメンと連通し、ルーメン内の圧力を減圧状態または加圧状態に遷移させる加圧減圧ユニットと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、カテーテル本体であって内部のルーメンと外部を連通させる少なくとも1つの貫通穴を有する細長い躯体と、貫通穴を覆う不透性の弾性シートと、弾性シートよりも外側から貫通穴を覆い、加圧状態では薬剤が透過可能になる加圧透過性の硬質外装材とを備えることによって、カテーテルの躯体先端部に直接薬剤を収納でき、さらにカテーテルの躯体先端から薬剤を直接薬剤投与目標部の組織に吐出できるため、微量の薬剤を正確に投与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施の形態における薬剤投与装置の構成の一例を示す図である。
【図2】図2は、図1に示すカテーテルを説明するための図である。
【図3】図3は、図2に示すカテーテルを軸方向に沿って切断した断面図である。
【図4】図4は、図2に示すカテーテル先端部分の分解斜視図である。
【図5】図5は、従来技術にかかる薬剤投与装置による薬剤投与処理を説明するための図である。
【図6】図6は、図5(1)〜(3)に示す各状態でのカテーテルの躯体先端部の断面図である。
【図7】図7は、実施の形態におけるカテーテルの他の例を示す斜視図である。
【図8】図8は、図7(2)に示すカテーテルを軸方向に沿って切断した断面のうちカテーテル先端近傍の断面を示す図である。
【図9】図9は、実施の形態におけるカテーテルの他の例を示す斜視図である。
【図10】図10は、図9に示すカテーテルを軸方向に沿って切断した断面のうちカテーテル先端近傍の断面を示す図である。
【図11】図11は、実施の形態におけるカテーテルの他の例を示す斜視図である。
【図12】図12は、図3に示す硬質外装材の一例を示す図である。
【図13】図13は、図3に示す硬質外装材の一例を示す図である。
【図14】図14は、図3に示す硬質外装材の一例を示す図である。
【図15】図15は、図3に示す硬質外装材の一例を示す図である。
【図16】図16は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す図である。
【図17】図17は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す図である。
【図18】図18は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す図である。
【図19】図19は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す断面図である。
【図20】図20は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す断面図である。
【図21】図21は、図3に示すカテーテルの他の例を示す断面図である。
【図22】図22は、実施の形態にかかる薬剤投与装置の他の例を示す断面図である。
【図23】図23は、実施の形態にかかる薬剤投与装置の他の例を示す断面図である。
【図24】図24は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す断面図である。
【図25】図25は、図3に示すカテーテルの躯体の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態として、人間を含む哺乳動物の生体組織内に穿刺されて薬剤を投与するカテーテルおよび薬剤投与装置について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0024】
図1は、本実施の形態にかかる薬剤投与装置の構成の一例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態における薬剤投与装置1はカテーテル3を有し、カテーテル3の基端部は、シリンジ2に接続される。カテーテル3の先端部は、体内組織である臓器7に穿刺される。カテーテル3の先端近傍には、薬剤投与部4が設けられている。この薬剤投与部4は、薬剤投与時において、腫瘍などの薬剤投与目標部7a内に位置するようにカテーテル3は臓器7内に穿刺される。シリンジ2は、シリンダー2aと、シリンダー2a内を往復して気体などの流体を圧送するプランジャー2bとを有する。シリンジ2は、カテーテル3内のルーメンと連通しており、ルーメン内の圧力を加圧状態または減圧状態に遷移させる加圧減圧ユニットとして機能する。
【0025】
図2は、図1に示すカテーテル3を説明するための図である。カテーテル3は、生体適合性のある柔軟な素材(例えば、シリコン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン)で形成された、内部にルーメン9を有する管状の細長い躯体8によって構成されている。躯体8の先端5は、体内への穿刺のため、尖形状となっている。また、躯体8の基端部にも開口部6が設けられており、この基端部の開口部6がシリンジ2のシリンダー2aと連通している。
【0026】
図1に示すシリンジ2は、カテーテル3内のルーメン9と連通し、シリンジ2のプランジャー2bがカテーテル3側へ前進することによって、カテーテル3のルーメン9に流体を圧送して、ルーメン9の圧力状態を加圧状態とする。また、シリンジ2は、シリンジ2のプランジャー2bがカテーテル3側から後退することによって、ルーメン9内の流体を吸引して、ルーメン9の圧力状態を減圧状態とする。なお、図1においては、加圧減圧ユニットとしてシリンジ2を用いた場合について示したが、もちろんこれに限らず、シリンジ2に代えて、ポンプまたはコンプレッサーを用いてもよい。
【0027】
そして、躯体8の先端近傍には薬剤投与部4が設けられている。この薬剤投与部4は、薬剤投与対象である腫瘍7aへ投与する薬剤を収容するとともに、収容した薬剤を腫瘍7aの組織に対して吐出する機能を有する。まず、この薬剤投与部4の構造について説明する。図3は、カテーテル3の軸方向に沿って切断した場合の断面図であり、図4は、薬剤投与部4の構成を説明するためのカテーテル3先端部分の分解斜視図である。
【0028】
図3および図4に示すように、薬剤投与部4においては、ルーメン9と連通する貫通穴10が設けられている。この貫通穴10は、不透性の弾性シート11で覆われる。そして、加圧透過性を有するシート状の硬質外装材12が、この弾性シート11よりも外側から貫通穴10を覆っている。弾性シート11は、端部全周にわたって躯体8と接着しており、硬質外装材12は、端部全周にわたって躯体8または弾性シート11と接着している。さらに、弾性シート11と硬質外装材12とは、少なくとも貫通穴10上に位置する領域では面同士が接着しない状態とされている。
【0029】
弾性シート11は、薬剤等の流体が透過しない不透性材料で形成されている。また、弾性シート11は、両面の圧力差によって変形する弾性を備えている。弾性シートのもつ弾性は、シリンジ2によって惹起されるルーメン9内の圧力変動によって、弾性シート11が変形するのに十分な弾性である。弾性シート11は、例えばシリコンや天然ゴムで形成される。
【0030】
硬質外装材12は、両面の圧力差によって実質的に変形しないか、あるいは少なくとも弾性シート11よりも変形量が少ない硬質性を備えている。具体的には、硬質外装材12は、硬質外装材は、シリンジ2によって惹起されるルーメン9内の圧力変動によって、その外形を実質的には変化させない程度の硬質性を有する。硬質外装材12は、加圧透過性を備えており、外装両側の圧力差が所定の値より小さい非加圧状態では薬剤等の流体を透過させないが、外装両側の圧力差が所定の値以上である加圧状態では薬剤等の流体を透過させる。また、硬質外装材12は、例えばシリコン、PTFE、ePTFE(延伸多孔性PTFE)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、天然ゴム等で形成される。
【0031】
次に、図1に示す薬剤投与装置1における薬剤の収納と、収納した薬剤の生体組織への投与について説明する。図5は、薬剤投与装置の薬剤の収納および薬剤の投与を説明するための図であり、図6は、図5(1)〜(3)に示す各状態でのカテーテル3の躯体8先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【0032】
カテーテル3を構成する躯体8先端の薬剤投与部4に薬剤を収納する場合について説明する。まず、図5(1)に示すように、容器B内の薬剤L内に、カテーテル3を構成する躯体8先端の薬剤投与部4が浸される。シリンジ2のプランジャー2bの進退はない状態では、図6(1)のように、ルーメン9は非加圧状態であり、弾性シート11は変形しておらず、薬剤投与部4には薬剤がまだ収容されていない。
【0033】
次に、図5(2)の矢印Y1に示すように、シリンジ2のプランジャー2bを引き出して後退させる。この結果、図6(2)に示すように、ルーメン9内は、矢印Y1a方向の圧力が生じる減圧状態となる。この矢印Y1a方向の圧力によって、弾性シート11がルーメン9内部に引っ張られ、弾性シート11が貫通穴10を介してルーメン9内に膨出する。さらに、弾性シート11外側の硬質外装材12にも矢印Y1a方向の圧力がかかる。この矢印Y1a方向の圧力が印加されることによって、矢印Y1b方向に硬質外装材12を薬剤が透過可能となり、躯体8外部の薬剤Lが、硬質外装材12を透過して、硬質外装材12と、ルーメン9内に膨張した弾性シート11との間に浸入し、保持される。
【0034】
したがって、薬剤投与装置1においては、図5(2)の矢印Y1のように、薬剤Lに薬剤投与部4を浸した状態でシリンジ2のプランジャー2bを後退させることによって、薬剤投与部4の硬質外装材12と、ルーメン9内に膨張した弾性シート11との間に薬剤Lを収納することができる。
【0035】
次に、薬剤投与部4に収納した薬剤を腫瘍7aに薬剤を投与する場合について説明する。カテーテル3全体が容器から抜かれ、カテーテル3の周囲に付着した薬剤が拭われた後に、カテーテル3の躯体8先端の薬剤投与部4が腫瘍などの薬剤投与目標部7aに到達するまでカテーテル3が臓器7に穿刺される。その後、図5(3)に示すように、シリンジ2のプランジャー2bを押し入れて前進させる。この結果、図6(3)に示すように、ルーメン9内は、矢印Y2a方向の圧力が生じる加圧状態となる。この矢印Y2a方向の圧力によって、弾性シート11が矢印Y2bのように貫通穴10上方に押し出される。さらに、弾性シート11の外側の硬質外装材12にも矢印Y2b方向の圧力がかかるため、矢印Y2c方向に硬質外装材12を薬剤Lが透過可能となり、弾性シート11と硬質外装12との間に収納されていた薬剤Lが硬質外装12を透過して、腫瘍7aに対して吐出、投与される。ここで、貫通穴10の内径、弾性シート11の弾性を調整することによって、薬剤投与部4によって収納される薬剤の容量を制御することができる。薬剤投与部4は、貫通穴10の内径、弾性シート11の弾性を調整することによって、臓器などの生体組織の薬液吸収速度に応じた、たとえば、数十μリットルの微量の薬剤を収納可能である。
【0036】
したがって、薬剤投与装置1においては、図5(3)の矢印Y2のように、カテーテル3の躯体8先端を薬剤投与目標部7aまで穿刺した後に、シリンジ2のプランジャー2bを前進させることによって、薬剤投与部4が収納する微量の薬剤Lを薬剤投与目標部7aに投与することができる。
【0037】
このように、実施の形態では、シリンジ2のプランジャー2bを往復動作させることによって、薬剤投与目標部7aまで穿刺される躯体8先端の薬剤投与部4内に微量の薬剤を予め収納して、薬剤投与目標部7aまでカテーテル3の躯体8を穿刺した後に先端の薬剤投与部4から直接薬剤投与目標部7aに微量の薬剤を吐出している。したがって、実施の形態では、躯体8のルーメン9全体に薬剤を流入させずとも、所定の微量の薬剤を所望の濃度のままで薬剤投与目標部7aに正確に投与できる。そして、カテーテル3先端の薬液投与部4を薬剤投与目標部7aまで穿刺してから薬剤投与部4から薬剤を吐出させればよいため、薬剤投与目標部7aが体表から深い位置にある場合であっても、微量の薬剤を正確に投与できる。さらに、本実施の形態においては、加圧状態となることによって加圧透過性の硬質外装材12から染み出すように躯体8外部に薬剤が吐出されるため、薬剤投与部4が腫瘍などと接触していた場合であっても腫瘍によって薬剤の吐出が阻害されることはなく、薬剤投与目標部7aに正確な量で薬剤を供給することができる。
【0038】
そして、次に述べるように実施の形態においては、弾性シート11の変形の最大量を規制できる変形規制部材をさらに加えることによって、弾性シート11の変形の最大量を規制して薬剤投与部4内に収納される薬剤の最大容量を規定できるようにしてもよい。
【0039】
図7は、実施の形態におけるカテーテルの他の例を示す斜視図であり、図8は、図7(2)のカテーテルを軸方向に沿って切断した断面のうちカテーテル先端近傍の断面を示す図である。この変形規制部材として、図7(1)に示すように、筒状の網状部材13を躯体8のルーメン9に挿入する。この結果、網状部材13は、ルーメン9内壁に沿って配設される。躯体8先端近傍には、貫通穴10上を弾性シート11および硬質外装材12によって覆われた薬剤投与部4が形成されていることから、この網状部材13は、図7(2)および図8に示すように、ルーメン9と弾性シート11との間に配設されることとなる。図8に示すように、網状部材13をルーメン内に設けたカテーテル3aでは、弾性シート11は、シリンジ2のプランジャー2bの後退によって生じた矢印Y1a方向の圧力によってルーメン9内部に引っ張られても、網状部材13によって変形が規制され、網状部材13の配設位置までしか変形できない。このため、矢印Y1b方向のように硬質外装材12を透過した薬剤Lは、この弾性シート11の変形の最大量に対応した容量V1で収納される。このように、網状部材13によって弾性シート11の変形の最大量が規制されるため、薬剤Lの容量もばらつきなく精度よく収納できる。
【0040】
また、変形規制部材として、筒状の網状部材13に代えて、図9および図10に示す貫通穴10に嵌め込み可能な蓋部材14を用いてもよい。図9は、実施の形態におけるカテーテルの他の例を示す斜視図であり、図10は、図9のカテーテルを軸方向に沿って切断した断面のうちカテーテル先端近傍の断面を示す図である。この蓋部材14は、たとえば線材によって蓋状に形成されているため、流体である薬剤は透過可能であるが、個体の透過は阻害する。薬剤投与部4は、図9に示すように、この蓋部材14を、貫通穴10に嵌め込んだ状態で、貫通穴10上を弾性シート11および硬質外装材12で覆われることによって形成される。したがって、この蓋部材14は、図10に示すように、ルーメン9と弾性シート11との間に配設されることとなる。このため、蓋状部材14が設けられたカテーテル3bでは、弾性シート11は、シリンジ2のプランジャー2bの後退によって生じた矢印Y1a方向の圧力によってルーメン9内部に引っ張られても、蓋状部材14によって変形が規制され、網状部材13の配設位置までしか変形できない。この結果、矢印Y1b方向のように硬質外装材12を透過した薬剤Lは、この弾性シート11の変形の最大量に対応した容量V2で収納される。この場合も、蓋状部材14によって、弾性シート11の変形の最大量が規制されるため、薬剤Lの容量もばらつきなく精度よく収納できる。
【0041】
また、図11に示すように、カテーテル3の少なくとも一部を内部に収容し、カテーテル3の軸方向に対してスライド可能なシース15をさらに設けてもよい。このシース15は、薬剤投与部4の少なくとも貫通穴10全てを覆う第1の位置(図11(1)を参照。)と、矢印Y3のように薬剤投与部4の貫通穴を全く覆わない第2の位置(図11(2)を参照。)とに、カテーテル3の軸方向にスライド可能である。薬剤投与部4に薬剤を収容した後に薬剤投与部4の貫通穴を覆うようにシース15をスライドさせることによって、薬剤投与部4から薬剤が不用意に吐出し、意図しない部位に薬剤が付着することを防止することができる。そして、薬剤投与目標部7aまでカテーテル3先端を穿刺する場合は、シース15を図11(2)の矢印Y3のようにカテーテル3の基端方向にスライドし、薬剤投与部4を露出させてから、穿刺を行えばよい。
【0042】
また、硬質外装材12として、図12に示すように、非加圧状態では閉じ、加圧状態では開く弁121が設けられたシート部材12aを用いることができる。また、硬質外装材12として、図13に示すように、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させるキャピラリーが設けられたシート部材12bを用いることができる。また、硬質外装材12として、図14に示すように、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させるスリット123が設けられたシート部材12cを用いることができる。また、硬質外装材12として、図15に示すように、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させる微細な孔124を複数有する多孔質材料によって形成されたシート部材12dを用いることができる。
【0043】
また、薬剤投与部4を構成する貫通穴10は、円形に限らず、図16(1)の躯体8aに設けられた貫通穴10aのように、矩形であってもよい。また、図16(2)に示す躯体8bのように、複数の貫通穴10を設けてもよい。さらに、図17に示すように、板状の躯体8cをカテーテル本体として用いてもよく、さらに複数の貫通穴10を設けてもよい。また、図18に示す躯体8dのように、円形、矩形など種々の形状を有する貫通穴10,10a,10bを設けてもよい。薬剤の投与量に対応させて、貫通穴の形状および貫通穴の個数を選択すればよい。そして、図18に示すように、これらの全ての貫通穴10,10a,10bを一枚の弾性シート11および硬質外装材12で覆ってもよく、所定数の貫通穴10ごとに複数枚の弾性シート11および硬質外装材12で覆ってもよい。
【0044】
また、図19の躯体8eに示すように、同一のルーメン9eに複数の貫通穴101〜103を設けた場合には、ルーメン9eに連通する単数のシリンジ2のプランジャー2bを進退させることによって、矢印Y3のように貫通穴101〜103の薬剤収納および薬剤吐出をまとめて行うことができ、カテーテル使用者の薬剤投与処理を容易化できる。もちろん、図20の躯体8fに示すように、2つの貫通穴101aと貫通穴102aとでそれぞれ流路を分けてもよい。この場合、貫通穴101a,102aにそれぞれ対応するように2つのルーメン91f,92fと、各ルーメン91f,92fに連通する各シリンジ21,22とを設ける。シリンジ21に収容されたプランジャー(不図示)を進退させることによって、矢印Y3aのように、貫通穴101a、弾性シート111および硬質外装材121によって構成される薬剤投与部41への薬剤収納および薬剤吐出を行うことができる。また、シリンジ22に収容されたプランジャー(不図示)を進退させることによって、貫通穴102a、弾性シート112および硬質外装材122によって構成される薬剤投与部42への薬剤収納および薬剤吐出を、薬剤投与部41とは別個に行うことができる。このように、貫通穴101a,102aそれぞれに対して流路を分けることによって、貫通穴101a,102aごとに薬剤収納処理および薬剤投与処理を行えるようにしてもよい。また、貫通穴101a,102aの内径を変えることによって、薬剤投与部41と薬剤投与部42とで異なる容量の薬剤を収納、投与できるようにしてもよい。
【0045】
また、ルーメン9内を満たす流体は、もちろん気体に限らず液体であってもよい。この場合には、図21のように、ルーメン9内部を液体Wで満たし、シリンダー2におけるプランジャー2bの往復によって矢印Y5aのようにこの液体を薬剤投与部4へ圧送し、薬剤投与部4への薬剤の収納、および薬剤投与部4から外部への薬剤Lの投与を行う。
【0046】
また、貫通穴10を覆う弾性シート11を外側に向けて押圧する押圧機構をさらに設けて、薬剤投与部4から外部への薬剤の投与を行ってもよい。たとえば、図22に示すように、管16bと接続するバルーン16aを備えたバルーン部材16を用いて弾性シート11を外側に向けて押圧する。この場合には、バルーン16aが貫通穴10の配設位置に対応する位置となるまでバルーン部材16を挿入した後に、矢印Y4のように、管16bから流体を流入することによってバルーン16aを膨張させ、矢印Y5bのように弾性シート11を躯体8外部へ押し出して薬剤投与部4から薬剤を投与する。また、図23に示すように、ジャッキ部材17を用いて弾性シート11を躯体8外部へ押し出してもよい。この場合、ジャッキ部材17を、内部のルーメン9に挿入する。そして、先端の押出部材17a、17bが貫通穴10の配設位置に対応する位置まで挿入した後に、矢印Y4cのように基端部材17c、17dを操作して、先端の押出部材17a,17bを矢印Y5cのように押し広げることによって、矢印Y5dのように弾性シート11を躯体8外部へ押し出して薬剤投与部4から薬剤を投与する。
【0047】
また、図24の躯体8gに示すように、躯体8gの外表側に凹部81gを設け、この凹部81gの底部に貫通穴10が設けられるようにしてもよい。この場合、凹部81gを形成する壁面10gが貫通穴10周囲を囲むことになる。このため、貫通穴10、弾性シート11および硬質外装材12によって形成される薬剤投与部4gは、躯体8gの凹部81gの底部分に位置することとなり、薬剤投与目標部7aの組織とは、直接接触しない。言い換えると、薬剤投与目標部7aの組織は、薬剤投与部4を閉塞することがない。このため、薬剤投与部4gから躯体8g外部に吐出された薬剤Lは、凹部81g内の領域S1に一度溜められた状態で、薬剤投与目標部7aの組織に徐々に吸収される。したがって、凹部81gは、外部に吐出される薬剤を溜めておくバッファ領域として機能する。
【0048】
このように、バッファ領域を介して薬剤Lを薬剤投与目標部7aの組織に投与する場合には、薬剤投与部4g内に収納された薬剤Lをこのバッファ領域に吐出できるだけの圧力を加えるだけでよい。図6に示すように、薬剤投与目標部7aの組織に薬剤投与部4が直接接触する場合には、接触している薬剤投与目標部7aの組織と薬剤投与部4との間に薬剤が染み出せる隙間ができる程度に、圧力を躯体内側から加える必要がある。これに対して、図24に示すようにバッファ領域を設けた場合には、このバッファ領域内に薬剤を吐出できれば足り、薬剤投与目標部7aの組織と薬剤投与部との間に隙間を作る必要がないため、薬剤投与のために加える躯体内側からの圧力を小さくすることができ、薬剤投与処理の容易化を図ることができる。また、壁面10gによって形成される凹部81gは、底部の貫通穴10側から上部に向けて断面形状が拡がるように形成されているため、組織に対して薬剤等を広く行き渡らせることができる。
【0049】
もちろん、図25のように、躯体8hの外表側に、突出するように形成されたリング状の壁面10hを設けて、薬剤投与部4hと薬剤投与目標部7aの組織との間にバッファ領域S2が形成されるようにしてもよい。また、薬剤投与部4を囲むように壁面10gまたは壁面10hを形成したシート部材を薬剤投与部4に対応する位置に添付して、バッファ領域ができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 薬剤投与装置
2,21,22 シリンジ
2a シリンダー
2b プランジャー
3 カテーテル
4,4g,4h,41,42 薬剤投与部
6 開口部
7 臓器
7a 薬剤投与目標部
8,8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g,8h 躯体
9,9e,91f,92f ルーメン
10,10a,10b,101〜103 貫通穴
10g,10h 壁面
11,111,112 弾性シート
12,121,122 硬質外装材
13 網状部材
14 蓋部材
15 シース
16 バルーン部材
17 ジャッキ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間を含む哺乳動物の生体組織内に穿刺されて薬剤を投与するカテーテルであって、
内部にルーメンを有し、前記ルーメンと外部を連通させる少なくとも1つの貫通穴を有する細長い躯体と、
前記貫通穴を覆う不透性の弾性シートと、
前記弾性シートよりも外側から前記貫通穴を覆い、加圧状態では前記薬剤が透過可能になる加圧透過性の硬質外装材と、
を備えたことを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記ルーメンと前記弾性シートとの間に、前記弾性シートの変形の最大量を規制する変形規制部材をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記変形規制部材は、前記ルーメン内壁に沿って配設される網状部材であることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記変形規制部材は、流体が透過可能に形成され、前記貫通穴に嵌め込み可能な蓋部材であることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記硬質外装材は、非加圧状態では閉じ、加圧状態では開く弁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記硬質外装材には、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させるキャピラリーが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記硬質外装材には、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させるスリットが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記硬質外装材には、非加圧状態では薬剤を透過させず、加圧状態では薬剤を透過させる多孔質材料が用いられていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項9】
当該カテーテルの少なくとも一部を内部に収容し、当該カテーテルの軸方向に対してスライド可能なシースをさらに備え、
前記シースは、前記貫通穴を全て覆う第1の位置と前記貫通穴を覆わない第2の位置とにスライド可能であることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記ルーメン内の前記貫通穴に対応する位置に、前記貫通穴を覆う弾性シートを外側に向けて押圧する押圧機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記躯体の外表側に前記貫通穴の周囲を囲む壁面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載されたカテーテルと、
前記カテーテルのルーメンと連通し、ルーメン内の圧力を減圧状態または加圧状態に遷移させる加圧減圧ユニットと、
を備えたことを特徴とする薬剤投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−147663(P2011−147663A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12455(P2010−12455)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】