説明

カテーテル固定具

【課題】固定時に患者にあまり負担をかけないにもかかわらず、カテーテルを確実に保持可能であって抜けを防止できるカテーテル固定具を提供すること。
【解決手段】本発明は、管状のカテーテル1を固定するための固定具11に関する。カテーテル固定具11は、固定具本体21と固定部材41とを備える。固定具本体21は、カテーテル保持溝25が形成された保持部22と一対の翼片23とを有する。固定部材41は、固定具本体21の平面方向にスライドし、固定具本体21に対して嵌合可能である。固定部材41においてカテーテル保持溝25に臨む位置に押圧部51を突設する。固定部材41のスライド動作に伴い、押圧部51がカテーテル1に摺接する。その結果、カテーテル1がその軸方向に沿ってカテーテル保持溝25内に順次押し込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルを患者の皮膚に固定する際に用いられるカテーテル固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療現場においては、カテーテルを用いた治療や診断が広く実施されている。このようなカテーテルは、使用する際にカテーテル先端部を治療や診断に適した部位に確実に留めておく必要があるため、一般的に皮膚の外に出ている体外部が患者に固定される。
【0003】
患者に固定する手段として、カテーテルを患者の体表に固定する際に用いられるカテーテル固定具が従来提案されている。この種のカテーテル固定具は、例えば、軟質樹脂からなる固定具本体と、固定具本体よりも剛性の高い金属または樹脂からなる固定部材とを備えている。
【0004】
固定具本体には、カテーテルを挿入配置可能な保持部が設けられている。カテーテルを挿入配置した状態では、カテーテルのほぼ全周が保持部により覆われる。固定具本体に対しては、十分な補強効果を付与するために、固定具本体の上方向から固定部材が被せられる。その結果、保持部が締め付けられてカテーテルが確実に固定されるようになっている。
【0005】
なお、このようなカテーテル固定具の従来技術としては他にもいくつか提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。固定具本体と固定部材とは別々に構成されているものがあるほか、互いに連結されて一体化されているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−154012号公報
【特許文献2】特開2008−212434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のカテーテル固定具では、固定部材を固定具本体の垂直方向から被せて嵌合させる際に、皮膚に対して押圧力が付加されるため、皮膚が圧迫され、患者に物理的な負担がかかってしまう。また、患者の皮膚は弾力を有するので、カテーテルを保持部に挿入しづらいという欠点がある。
【0008】
さらに、上記従来のカテーテル固定具では、保持部における所定の位置にカテーテルをしっかりとセットしないと、保持力が低下してカテーテルが抜けやすくなってしまう。ここで、保持力を向上させてカテーテルの抜けを防止するためには、例えば保持部を狭く形成してそこにカテーテルを押し込むように配置すればよいと考えられる。しかしながら、押し込み動作の際にどうしても大きな押圧力が必要となり、患者の負担が増大してしまう。また、保持部によってカテーテルを径方向に圧縮しすぎると、カテーテルが潰れた断面形状となり、流量が減少してしまう。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、固定時に患者にあまり負担をかけないにもかかわらず、カテーテルを確実に保持でき、抜けを防止することができるカテーテル固定具を提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、流量の減少を伴わないにもかかわらず、カテーテルを確実に保持でき、抜けを防止することができるカテーテル固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして上記課題を解決するための手段1〜6を以下に列挙する。
【0011】
[1]管状のカテーテルを固定するための固定具であって、一対の翼片を有する板状の固定具本体と、前記固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより前記固定具本体に対して嵌合可能な固定部材とを備え、前記固定具本体にカテーテル保持溝を有する保持部を設け、前記固定部材において前記カテーテル保持溝に臨む位置に押圧部を突設し、前記固定部材のスライド動作に伴って前記押圧部が前記カテーテルに摺接することにより、前記カテーテルがその軸方向に沿って前記カテーテル保持溝内に順次押し込まれるようにしたことを特徴とするカテーテル固定具。
【0012】
従って、手段1に記載の発明によると、固定部材を固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより、固定具本体に対して固定部材が嵌合する。その際、固定部材の押圧部がカテーテルに摺接することによりカテーテルがその軸方向に沿ってカテーテル保持溝内に順次押し込まれる結果、カテーテル保持溝にカテーテルが固定される。そしてこの構成によれば、固定部材をスライドさせて嵌合する際に、皮膚に対して垂直方向に押圧力が付加されにくくなる。よって、固定時に皮膚が圧迫されず、患者にあまり負担をかけずにカテーテルを確実に保持することができる。ゆえに、カテーテルの抜けを防止することができる。また、カテーテルをカテーテル保持溝内に一気に押し込むのではなく一端側から順次押し込む方式であるため、例えばカテーテル保持溝を狭く形成した場合であっても、比較的小さい力で容易にかつ確実にカテーテルを押し込むことができる。
【0013】
[2]前記押圧部は、前記固定部材の裏面の少なくともスライド始端側において前記カテーテル保持溝に臨む位置に突設された押圧突条であることを特徴とする手段1に記載のカテーテル固定具。
【0014】
従って、手段2に記載の発明によると、固定部材のスライド嵌合動作の際、押圧突条がカテーテル保持溝内に入り込んだ状態となる。この状態で押圧突条がカテーテルに摺接することにより、カテーテルがその軸方向に沿ってカテーテル保持溝内に順次押し込まれる。
【0015】
[3]前記押圧突条の先端側には、前記固定部材の裏面に対して傾斜したガイド面が形成されていることを特徴とする手段2に記載のカテーテル固定具。
【0016】
従って、手段3に記載の発明によると、傾斜したガイド面がカテーテルに摺接するため、摺動抵抗を小さくすることができ、カテーテルをカテーテル保持溝内にスムーズに押し込むことができる。
【0017】
[4]前記固定具本体の平面方向に沿って直線的に延びるガイド部を前記固定具本体の表面側に設け、前記ガイド部に係止可能な被ガイド部を前記固定部材に設けたことを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載のカテーテル固定具。
【0018】
従って、手段4に記載の発明によると、ガイド部に被ガイド部が係止可能であるため、固定部材を固定具本体の平面方向に沿ってガイドしつつ、スムーズにスライドさせることができる。また、固定部材が固定具本体に嵌合した状態では、固定部材が固定具本体から外れにくくなる。
【0019】
[5]前記カテーテル保持溝は、前記カテーテルの外径寸法よりも幅広に形成された開口部と、前記開口部よりも奥に位置しかつ前記カテーテルを包囲して保持する包囲部と、前記開口部と前記包囲部との間に位置しかつ前記カテーテルの外径寸法よりも幅狭に形成された狭窄部とにより構成されていることを特徴とする手段1乃至4のいずれか1項に記載のカテーテル固定具。
【0020】
従って、手段5に記載の発明によると、固定部材の装着前にカテーテルをカテーテル保持溝における狭窄部に仮置きすることができる。そして、この状態で固定部材を固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより、固定具本体に対して固定部材が嵌合する。その際、固定部材の押圧部がカテーテルに摺接することによりカテーテルがその軸方向に沿ってカテーテル保持溝内に順次押し込まれる結果、カテーテルが狭窄部よりも奥側にある包囲部に配置される。この場合、包囲部によってカテーテルが包囲されて保持されるため、カテーテルを径方向に過度に圧縮しなくても、好適な保持力を得ることができる。よって、カテーテルが潰れた断面形状とならず、流量の減少を回避することができる。
【0021】
[6]管状のカテーテルを固定するための固定具であって、一対の翼片を有する板状の固定具本体と、前記固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより前記固定具本体に対して嵌合可能な固定部材とを備え、前記固定部材にカテーテル保持溝を有する保持部を設け、前記固定具本体において前記カテーテル保持溝に臨む位置に押圧部を突設し、前記固定部材のスライド動作に伴って前記押圧部が前記カテーテルに摺接することにより、前記カテーテルがその軸方向に沿って前記カテーテル保持溝内に順次押し込まれるようにしたことを特徴とするカテーテル固定具。
【0022】
従って、手段6に記載の発明によると、固定部材を固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより、固定具本体に対して固定部材が嵌合する。その際、固定具本体の押圧部がカテーテルに摺接することによりカテーテルがその軸方向に沿ってカテーテル保持溝内に順次押し込まれる結果、カテーテル保持溝にカテーテルが固定される。そしてこの構成によれば、固定部材をスライドさせて嵌合する際に、皮膚に対して垂直方向に押圧力が付加されにくくなる。よって、固定時に皮膚が圧迫されず、患者にあまり負担をかけずにカテーテルを確実に保持することができる。ゆえに、カテーテルの抜けを防止することができる。また、カテーテルをカテーテル保持溝内に一気に押し込むのではなく一端側から順次押し込む方式であるため、例えばカテーテル保持溝を狭く形成した場合であっても、比較的小さい力で容易にかつ確実にカテーテルを押し込むことができる。
【0023】
上記各手段において、固定部材の完全嵌合状態のときに押圧部はカテーテルに接触した状態を維持していることがよい。従ってこの構成によると、カテーテルが包囲部により包囲されるばかりでなく、押圧部により上方からも押圧されるため、カテーテルをより確実に保持することができる。
【0024】
上記各手段において、固定具本体に保持部を設けかつ固定部材に押圧部を設けた場合には、固定部材を固定具本体よりも硬質な材料で構成することがよい。逆に、固定部材に保持部を設けかつ固定具本体に押圧部を設けた場合には、固定具本体を固定部材よりも硬質な材料で構成することがよい。従ってこれらの構成によると、押圧部が相対的に硬質であることから、摺動による摩耗や変形等が起きにくい。また、保持部が相対的に軟質であることから、狭窄部を通過して包囲部にカテーテルを移行させる際に一時的に狭窄部が拡がりやすい。よって、比較的小さい押圧力でもカテーテルを包囲部に容易に移行させることができる。ゆえに、カテーテルを確実に押圧してカテーテル保持溝内に押し込むことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によると、固定時に患者にあまり負担をかけないにもかかわらず、カテーテルを確実に保持でき、抜けを防止することができるカテーテル固定具を提供することができる。請求項5に記載の発明によると、さらに流量の減少を伴わないにもかかわらず、カテーテルを確実に保持でき、抜けを防止することができるカテーテル固定具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明を具体化した第1の実施形態におけるカテーテル固定具の固定部材を裏面側から見たときの斜視図、(b)は固定部材を示す底面図、(c)は固定部材を示す背面図、(d)は固定部材を示す側面図、(e)は(b)のA−A断面図。
【図2】(a)は上記カテーテル固定具の固定具本体を示す平面図、(b)は固定具本体を示す正面図、(c)は(b)のB−B断面図。
【図3】(a)〜(c)は第1の実施形態において固定具本体に固定部材を嵌合させる手順を説明するための斜視図。
【図4】(a)は固定具本体に固定部材を嵌合させた状態を示す平面図、(b)は正面図、(c)は嵌合させる前の状態を示す要部拡大図、(d)は嵌合させた状態を示す要部拡大図。
【図5】(a)は第2の実施形態におけるカテーテル固定具の固定部材を裏面側から見たときの斜視図、(b)は固定部材を示す底面図、(c)は固定部材を示す背面図、(d)は固定具本体を示す正面図、(e)は嵌合させる前の状態を示す要部拡大図、(f)は嵌合させた状態を示す要部拡大図。
【図6】(a)は第3の実施形態におけるカテーテル固定具の固定部材を裏面側から見たときの斜視図、(b)は固定部材を示す底面図、(c)は固定部材を示す背面図、(d)は固定具本体を示す正面図、(e)は嵌合させる前の状態を示す要部拡大図、(f)は嵌合させた状態を示す要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を具体化した一実施の形態のカテーテル固定具11を図1〜図4に基づき詳細に説明する。
【0028】
本実施形態のカテーテル固定具11は、管状のカテーテル1を固定する際に用いる医療機器である。このカテーテル固定具11は、図3,図4に示されるように、基本的に2つの部材(固定具本体21及び固定部材としてのカバー41)により構成されている。
【0029】
図2,図3等に示されるように、固定具本体21は平面視楕円形状の板状部材であり、比較的軟質な合成樹脂材料(例えばポリアミド系エラストマー)を用いて形成されている。ポリアミド系エラストマーのほか、例えばポリ塩化ビニル、シリコーンゴム、軟質ポリウレタン、ポリアミド系エラストマー等といった軟質の合成樹脂材料を選択してもよい。ここで、固定具本体21は直接皮膚に接触する部材であるので、患者に与える違和感を軽減するために可撓性・弾性を有する材料を用いることが好ましい。また、固定具本体21を形成している合成樹脂材料は、カテーテル1の管状体材料よりも軟質であることが望ましい。その理由は、固定具本体21にカテーテル1を保持させて押圧力を付加したときにカテーテル1が変形して内腔が潰れてしまうのを回避するためである。
【0030】
固定具本体21は一対の翼片23を有している。これらの翼片23には円形状の穴24が設けられている。これらの穴24は、縫合糸を挿通させるための貫通穴である。なお、固定具本体21の裏面側には、固定具本体21を皮膚に接着固定するための粘着層が、粘着剤の塗布あるいは粘着シートの貼付により形成されていてもよい。また、使用前の状態においてその粘着層を保護するための離型フィルムが貼着されていてもよい。固定具本体21の表面側の中央部には、保持部22が突設されている。
【0031】
図2,図3,図4(c),(d)等に示されるように、保持部22には、カテーテル1を保持可能なカテーテル保持溝25が形成されている。カテーテル保持溝25は、固定具本体21を横断する方向に沿って延びるとともに、固定具本体21の表面側にて開口している。本実施形態のカテーテル保持溝25は、3つの部分(即ち、開口部25a、包囲部25b及び狭窄部25c)により構成されている。開口部25aは、カテーテル1の外径寸法よりも幅広(例えば1.5倍〜2倍程度)に形成されている。カテーテル1の軸方向に直交する断面において、この開口部25aは、溝中心に向かって底面がいくぶん傾斜した形状を有している。包囲部25bは、開口部25aよりも奥に位置しており、カテーテル1を包囲して保持する部分として形成されている。本実施形態の包囲部25bは、略円形の断面形状を有しているとともに、カテーテル1の断面において半周の長さ分よりも多い長さ分(具体的には全周の70%〜80%程度)を包囲している。なお、包囲部25bの直径は、カテーテル1の外径と同寸法あるいは若干小さい寸法に設定されている。狭窄部25cは、開口部25aと包囲部25bとの間に位置し、カテーテル1の外径寸法よりも幅狭に形成されている。
【0032】
図2,図3等に示されるように、保持部22は、一端側(嵌合始端側S1)から他端側(嵌合終端側S2)に向かって幅広になるように形成されている。そして、保持部22の嵌合終端側S2には、カバー41の移動終端位置を規定するストッパ壁30が配設されている。
【0033】
図2,図3等に示されるように、保持部22の上端部には、ガイド部26が、固定具本体21の平面方向に沿ってかつ一対の翼片23に平行に、左右一対延設されている。これらガイド部26についても、嵌合始端側S1から嵌合終端側S2に向かって幅広になるように形成されている。ガイド部26の嵌合始端側S1には相対的に幅狭の第1領域31が配置され、ガイド部26の嵌合終端側S2には相対的に幅広の第2領域32が配置されている。ガイド部26の第1領域31と固定具本体21の表面との間には第1凹部33が形成され、ガイド部26の第2領域32と固定具本体21の表面との間には第2凹部34が形成されている。なお、図2(a),(c)等に示されるように、保持部22において第2凹部34がある箇所には、係止突起27が左右一対設けられている。
【0034】
図1,図3等には固定部材としてのカバー41が示されている。このカバー41は、固定具本体21を構成している合成樹脂材料よりも硬質の合成樹脂材料(例えばポリプロピレン)を用いて形成されている。ポリプロピレンのほか、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、硬質ポリウレタン、ABS等といった硬質の合成樹脂材料を選択してもよい。カバー41は、表面42を有するとともに、ガイド部26の上面に接触して配置される裏面44を有している。このカバー41は、裏面44側をガイド部26の上面に接触させた状態でガイド部26を全体的に覆うことができる程度の大きさを有している。
【0035】
カバー41の裏面44側における中央部には、カバー前後方向に沿って延びる溝部43が形成されている。この溝部43は、カバー41におけるスライド始端側E1からスライド終端側に向かって若干広がっている。カバー41におけるスライド終端側の側面46は、操作時に容易に指で把持できるように、スライド始端側の側面に比べて細めに形成されている。また、カバー41の裏面44側において溝部43を挟むその左右両側には、ガイド部26に係止可能な被ガイド部47,48が2組形成されている。相対的に面積の小さい被ガイド部48は、カバー41におけるスライド終端側に配置されている。完全嵌合時において、被ガイド部48は第1凹部33に位置することで、ガイド部26の第1領域31に係止した状態となる。このとき、被ガイド部48の内端縁は保持部22の側面に対して左右両側から接触する。一方、相対的に面積の大きい被ガイド部47は、カバー41におけるスライド始端側E1に配置されている。完全嵌合時において、被ガイド部47は第2凹部34に位置することで、ガイド部26の第2領域32に係止した状態となる。このとき、被ガイド部47の内端縁は保持部22の側面に対して左右両側から接触する。なお、図1(a),(b)に示されるように、被ガイド部47の内端縁には、ガイド部26の係止突起27に係止可能な係止凹部45が形成されている。
【0036】
図1(a)〜(e)等に示されるように、本実施形態のカバー41は、カテーテル1を下方に押圧する押圧部としての押圧突条51を備えている。押圧突条51は、カバー41の裏面44のスライド始端側E1において、カテーテル保持溝25に臨む位置にて一体的に突設されている。本実施形態の押圧突条51は、カバー41の前後方向の長さの1/4〜1/3程度の長さとなっている。また、押圧突条51は下面中央部が最も下方に突出しており、山型の断面形状を有している。押圧突条51の先端は、カバー41のスライド始端側E1から若干突出しており、その突出した先端の下面は、カバー41の裏面44に対して傾斜したアール状のガイド面52となっている。押圧突条51の幅及び高さは、カテーテル保持溝25における開口部25aの幅及び深さより若干小さくなるように設計されている。
【0037】
次に、上記のように構成された本実施形態のカテーテル固定具11を使用してカテーテル1を固定する手順を図3,図4に基づいて説明する。
【0038】
例えば、カテーテル1の先端が経皮的に鎖骨下静脈に導かれ、残余のカテーテル1が患者の前胸部の穿刺部から皮膚の外に導出されているものとする。そして、カテーテル固定具11は、カテーテル1において皮膚の外に導出されている体外部に取り付けられるものとする。
【0039】
まず、固定具本体21を皮膚の上に配置する。固定具本体21の裏面側に粘着層がある場合には、この段階で粘着層を介して固定具本体21を皮膚に接着してもよい。次に、カテーテル1の体外部を、保持部22に形成されたカテーテル保持溝25の狭窄部25c上に配置する(図3(a)を参照)。狭窄部25cはカテーテル1の外径寸法よりも幅狭に形成されているので、カテーテル1をそこに仮置きすることができる。
【0040】
次に、カバー41のスライド始端側E1を固定具本体21の嵌合始端側S1に向けて配置する。そして、カバー41をその位置から固定具本体21に対してアクセスさせ、嵌合終端側S2に向けて(即ち固定具本体21の平面方向A1に沿って)直線的にスライドさせる(図3(a),(b)を参照)。具体的には、カバー41の溝部43の一端側から、保持部22及びガイド部26を挿入させていく。このとき、術者はカバー41におけるスライド終端側の側面46を指で両側から把持することができるので、比較的容易に操作することができる。なお、保持部22及びガイド部26の嵌合始端側S1は幅狭に形成されている一方、溝部43のスライド始端側E1は幅広に形成されている。このため、溝部43に保持部22及びガイド部26を容易に挿入することができる。また、カバー41の水平移動の際には、被ガイド部47,48がガイド部26の下方に導入されることで、カバー41がガイド部26に沿ってガイドされる。ゆえに、カバー41をスムーズにスライドさせることができる。
【0041】
図4(c)等に示されるように、カバー41の裏面44に突設された押圧突条51は、カテーテル保持溝25を臨んだ状態で配置される。このとき、押圧突条51の下端中央部がカテーテル1に当接し、カテーテル1に下向きの押圧力を与える。そして、カバー41を嵌合始端側S1から嵌合終端側S2に向けてスライドさせる動作を行うと、押圧突条51の下端中央部がカテーテル1に摺接することにより、カテーテル1がその軸方向に沿ってカテーテル保持溝25内に順次押し込まれる(図3(c)参照)。具体的には、図4(d)に示されるように、カテーテル1が狭窄部25cよりも奥側にある包囲部25bに配置され、包囲部25bによって包囲されることで保持される。なお、傾斜したガイド面52は、押圧突条51の先端側に位置していることから、カテーテル1に対して最初に摺接することで摺動抵抗が小さくなる。
【0042】
また、図3(c)に示されるように、カバー41を嵌合終端側S2までスライド移動させると、被ガイド部47の端部がストッパ壁30に当接することで、カバー41がそれ以上移動不能となる。また、カバー41側の係止凹部45が、固定具本体21側の係止突起27の位置に到達し、それらが互いに係合する。このとき、術者は指先にクリック感を得るため、完全嵌合状態になったことを触感をもって把握することができる。そして、このような完全嵌合状態では、押圧突条51はカテーテル1に接触した状態を維持する。また、カバー41の裏面44とガイド部26の上面とが接触状態になるとともに、カバー41により保持部22及びガイド部26がほぼ全体的に覆われた状態となる。そしてこの後、必要に応じてカテーテル固定具11及び刺入部にドレッシングを貼り付けて保護するようにしてもよい。
【0043】
そして、カテーテル固定具11による固定を解除してカテーテル1を外したい場合には、上記嵌合時のときと逆の動作を行う。ドレッシングを貼り付けてある場合には、まずそのドレッシングを剥離してカテーテル固定具11を露出させる。その際、カテーテル固定具11の上方向に力が加わりやすい反面、カバー41を離脱させる方向には力が加わりにくいため、ドレッシングと一緒にカバー41が外れるリスクが極めて小さくなる。なお、ガイド部26に被ガイド部47,48が係止していることも、カバー41の外れ防止に寄与している。次に、カバー41を嵌合終端側S2の方向にスライド移動させて、カバー41を固定具本体21から離脱させる。
【0044】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0045】
(1)本実施形態のカテーテル固定具11の構成によれば、スライド動作の際にカバー41の押圧突条51がカテーテル1に摺接し、カテーテル1がその軸方向に沿ってカテーテル保持溝25内に順次押し込まれる。その結果、カテーテル保持溝25にカテーテル1が固定される。そしてこの構成によれば、カバー41をスライドさせて嵌合する際に、皮膚に対して垂直方向に押圧力が付加されにくくなる。よって、固定時に皮膚が圧迫されず、患者にあまり負担をかけずにカテーテル1を確実に保持することができる。ゆえに、カテーテル1の抜けを防止することができる。また、カテーテル1をカテーテル保持溝25内に一気に押し込むのではなく一端側から順次押し込む方式であるため、例えばカテーテル保持溝25を狭く形成した場合であっても、比較的小さい力で容易にかつ確実にカテーテル1を押し込むことができる。
【0046】
(2)本実施形態のカテーテル固定具11では、ガイド部26に被ガイド部47が係止可能であるため、カバー41を固定具本体21の平面方向A1に沿ってガイドしつつ、スムーズにスライドさせることができる。また、カバー41が固定具本体21に嵌合した状態では、カバー41が固定具本体21から外れにくくなるという利点がある。
【0047】
(3)本実施形態のカテーテル固定具11では、カテーテル保持溝25が開口部25aと包囲部25bと狭窄部25cとにより構成されているため、いわば途中で括れたような断面形状となっている。このため、カバー41の装着前にカテーテル1を狭窄部25cに仮置きすることができる。そして、この状態でカバー41を固定具本体21の平面方向A1に沿ってスライドさせると、押圧突条51の摺接によってカテーテル1がカテーテル保持溝25内に順次押し込まれる。すると、カテーテル1は狭窄部25cよりも奥側にある包囲部25b側に移行する。この場合、包囲部25bによってカテーテル1が包囲されて保持されるため、カテーテル1を径方向に過度に圧縮しなくても、好適な保持力を得ることができる。よって、カテーテル1が潰れた断面形状とならず、流量の減少を回避することができる。
【0048】
(4)本実施形態のカテーテル固定具11では、固定具本体21に保持部22を設けかつカバー41に押圧部51を設けているため、カバー41を固定具本体21よりも硬質な合成樹脂材料で構成している。カバー41側に設けられた押圧部51は相対的に硬質であることから、摺動による摩耗や変形等が起きにくい。また、固定具本体21側に設けられた保持部22は、相対的に軟質であることから、狭窄部25cを通過させて包囲部25bにカテーテル1を移行させる際に、一時的に狭窄部25cが拡がりやすい。よって、比較的小さい押圧力でもカテーテル1を包囲部25bに容易に移行させることができる。ゆえに、カテーテル1を確実に押圧してカテーテル保持溝25内に押し込むことができる。しかも、本実施形態では、固定具本体21及びカバー41がともに合成樹脂材料製であって金属材料を使用していないことから、核磁気共鳴画像法(MRI)を用いた検査の際でも特に取り外す必要がないという利点がある。
【0049】
[第2の実施の形態]
以下、本発明を具体化した第2の実施の形態のカテーテル固定具11Aを図5に基づき詳細に説明する。ここでは、第1の実施の形態と相違する点について主に説明し、共通する点については同じ部材番号を付すものとして説明を省略する。
【0050】
本実施形態のカテーテル固定具11Aでは、カバー41Aに設けられた押圧突条51Aの形状、固定具本体21におけるカテーテル保持溝25Aの形状が、上記実施形態のものと相違している。即ち、この押圧突条51Aは、カバー41Aの裏面44側における中央部にて、カバー前後方向に沿って延びるように突設されている。ただし、押圧突条51Aの長さは上記実施形態のものよりも長く、カバー前後方向の長さとほぼ等しくなっている。また、押圧突条51Aは下面中央部が最も下方に突出しており、山型の断面形状を有している。なお、押圧突条51Aは、上記実施形態のものに比べていくぶん滑らかで曲線的な断面形状を有している。また、この押圧突条51Aの先端は、カバー41Aのスライド始端側E1から突出しておらず、全体的に溝部43内に位置している。
【0051】
一方、固定具本体21の保持部22には、開口部25aと包囲部25bと狭窄部25cとにより構成されるカテーテル保持溝25Aが形成されている。このカテーテル保持溝25Aは、上記実施形態のときと同様に、途中で括れたような断面形状を有している。ただし、開口部25aの断面形状が上記実施形態のものとは若干異なっており、押圧突条51Aの断面形状に沿ったものとされている。
【0052】
そして以上のような構成のカテーテル固定具11Aも、固定時に患者にあまり負担をかけることなく、流量の減少を伴わないにもかかわらず、カテーテル1を確実に保持でき、抜けを防止することができる。
【0053】
[第3の実施の形態]
以下、本発明を具体化した第3の実施の形態のカテーテル固定具11Bを図6に基づき詳細に説明する。ここでは、第1の実施の形態と相違する点について主に説明し、共通する点については同じ部材番号を付すものとして説明を省略する。
【0054】
本実施形態のカテーテル固定具11Bでは、カバー41Bに設けられた押圧突条51Bの形状、固定具本体21におけるカテーテル保持溝25Bの形状が、上記実施形態のものと相違している。即ち、この押圧突条51Bは、カバー41Bの裏面44側における中央部にて、カバー前後方向に沿って延びるように突設されている。ただし、押圧突条51Bの長さは上記実施形態のものよりも長く、カバー前後方向の長さとほぼ等しくなっている。また、押圧突条51Bは全体的に下方に突出しているものの、下面中央部は谷状に凹んでいる。
【0055】
一方、固定具本体21の保持部22には、開口部25aと包囲部25bと狭窄部25cとにより構成されるカテーテル保持溝25Bが形成されている。このカテーテル保持溝25Bは、上記実施形態のときと同様に、途中で括れたような断面形状を有している。ただし、開口部25aの断面形状が上記実施形態のものとは若干異なっており、押圧突条51Bの断面形状に沿ったものとされている。
【0056】
そして以上のような構成のカテーテル固定具11Bも、固定時に患者にあまり負担をかけることなく、流量の減少を伴わないにもかかわらず、カテーテル1を確実に保持でき、抜けを防止することができる。
【0057】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0058】
・上記実施形態では、固定具本体21にカテーテル保持溝25を有する保持部22を設ける一方、カバー41においてカテーテル保持溝25に臨む位置に押圧突条51を突設したが、これに限定されない。例えば、カバー41にカテーテル保持溝25を有する保持部22を設ける一方、固定具本体21においてカテーテル保持溝25に臨む位置に押圧突条51を突設した構成としてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、押圧部が突条であったが、突条以外の形状(例えば突起等)であってもよい。
【0060】
・上記実施形態では、カバー41の完全嵌合状態のときに押圧突条51がカテーテル1に接触した状態を維持するように構成したが、必ずしもそうでなくてもよく、非接触状態を維持するものでもよい。
【0061】
・上記実施形態では、カバー41を不透明樹脂材料からなるものとしたが、透明樹脂材料からなるものとしてもよい。
【0062】
次に、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1)上記手段1乃至6のいずれか1項において、前記固定具本体及び前記固定部材はともに樹脂製であること。
(2)上記手段1乃至6のいずれか1項において、前記ガイド部は、前記カテーテル保持溝の一端側から他端側に向かって幅広になっていること。
(3)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記固定部材は前記固定具本体よりも硬質な樹脂材料からなること。
(4)上記手段6において、前記固定具本体は前記固定部材よりも硬質な樹脂材料からなること。
(5)上記手段1乃至6のいずれか1項において、前記固定具本体は皮膚に固定可能であること。
(6)上記手段1乃至6のいずれか1項において、前記押圧部はスライド嵌合完了状態においても前記カテーテルの押圧を維持すること。
(7)上記手段5において、前記カテーテル保持溝における前記包囲部は、前記カテーテル保持溝及び前記カテーテルの軸方向に直交する切断面において、前記カテーテルの半周の長さ分よりも多く包囲していること。
(8)上記手段1乃至6のいずれかにおいて、前記固定部材は不透明樹脂材料からなること。
(9)上記手段1乃至6のいずれかにおいて、前記固定部材の完全嵌合時に前記固定部材の前記被ガイド部に形成された係止凹部が係止可能な係止突起を前記保持部に設けたこと。
(10)上記手段1乃至6のいずれかにおいて、前記固定部材は前記カテーテルの軸方向(前記カテーテル保持溝の延びる方向)に沿って直線的にスライドすること。
【符号の説明】
【0063】
1,11A,11B…カテーテル
11…カテーテル固定具
21…固定具本体
22…保持部
23…翼片
25,25A,25B…カテーテル保持溝
25a…開口部
25b…包囲部
25c…狭窄部
26…ガイド部
29…固定具本体の表面側
41,41A,41B…固定部材としてのカバー
44…固定部材の裏面
47…被ガイド部
51,51A,51B…押圧部としての押圧突条
52…ガイド面
A1…(固定具本体の)平面方向
E1…スライド始端側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のカテーテルを固定するための固定具であって、
一対の翼片を有する板状の固定具本体と、前記固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより前記固定具本体に対して嵌合可能な固定部材とを備え、
前記固定具本体にカテーテル保持溝を有する保持部を設け、
前記固定部材において前記カテーテル保持溝に臨む位置に押圧部を突設し、
前記固定部材のスライド動作に伴って前記押圧部が前記カテーテルに摺接することにより、前記カテーテルがその軸方向に沿って前記カテーテル保持溝内に順次押し込まれるようにした
ことを特徴とするカテーテル固定具。
【請求項2】
前記押圧部は、前記固定部材の裏面の少なくともスライド始端側において前記カテーテル保持溝に臨む位置に突設された押圧突条であることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル固定具。
【請求項3】
前記押圧突条の先端側には、前記固定部材の裏面に対して傾斜したガイド面が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル固定具。
【請求項4】
前記固定具本体の平面方向に沿って直線的に延びるガイド部を前記固定具本体の表面側に設け、前記ガイド部に係止可能な被ガイド部を前記固定部材に設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカテーテル固定具。
【請求項5】
前記カテーテル保持溝は、前記カテーテルの外径寸法よりも幅広に形成された開口部と、前記開口部よりも奥に位置しかつ前記カテーテルを包囲して保持する包囲部と、前記開口部と前記包囲部との間に位置しかつ前記カテーテルの外径寸法よりも幅狭に形成された狭窄部とにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカテーテル固定具。
【請求項6】
管状のカテーテルを固定するための固定具であって、
一対の翼片を有する板状の固定具本体と、前記固定具本体の平面方向に沿ってスライドさせることにより前記固定具本体に対して嵌合可能な固定部材とを備え、
前記固定部材にカテーテル保持溝を有する保持部を設け、
前記固定具本体において前記カテーテル保持溝に臨む位置に押圧部を突設し、
前記固定部材のスライド動作に伴って前記押圧部が前記カテーテルに摺接することにより、前記カテーテルがその軸方向に沿って前記カテーテル保持溝内に順次押し込まれるようにした
ことを特徴とするカテーテル固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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