説明

カテーテル

【課題】トルク回転させた際の先端側の暴れを良好に防止可能なカテーテルを提供する。
【解決手段】長尺の管状本体10を有するカテーテル100であって、内部にメインルーメン20を有する内層11と、内層11を被覆する補強層30と、メインルーメン20よりも小径でメインルーメン20の周囲に90度間隔で交互に配置された、2本のサブルーメン80および2本の剛性調整線90と、マーカ40と、補強層30と、サブルーメン80および剛性調整線90を被覆する外層12と、を有する。剛性調整線90は管状本体10のねじり剛性の角度依存性を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、先端部(以下「遠位端部」と呼ぶ)を屈曲させることにより体腔への進入方向が操作可能なカテーテルが提供されている。このカテーテルにおいて、遠位端部は容易に屈曲させるために柔軟に形成することが求められ、中間部や操作側の後端部(以下「近位端部」と呼ぶ)は、体腔内でのトルク制御性や容易な進行を必要とするために、剛性を高く形成することが求められている。なお、「トルク制御性」とは、カテーテルの先端等の角度方向を、所望の方向に向けることができる性質をいう。この種の技術に関し、カテーテルの遠位端部を屈曲させる態様の一つとして、遠位端部に180度間隔で固定された一対の操作線を近位端部側で操作する発明が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1には、一対の操作線が、メインルーメンよりも小径のサブルーメンに挿通されており、一方を引っ張ることで当該操作線が挿通されたサブルーメン側にカテーテルの遠位端部が屈曲するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−144554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
まっすぐな直線状のカテーテルの先端を拘束せずに基端をトルク回転させると、カテーテルは一本の棒のように回転する。この場合、カテーテルの先端と基端との間に大きなねじりが発生しないため、カテーテルを安定してトルク回転させることができる。これに対し、湾曲した血管内に挿置されるなどして屈曲または湾曲した状態のカテーテルをトルク回転させることは困難である。カテーテルの屈曲または湾曲形状を維持したままでこれをトルク回転させるためには、カテーテルが縄跳びの縄のように大きく旋回しようとして血管壁に押し当てられて回転が規制されることを回避しつつ、カテーテルの基端に付与したトルクを先端まで伝達する必要があるからである。以下、明示の場合を除き屈曲と湾曲とを区別しない。湾曲したカテーテルを一回転させる間に、湾曲の内側(インサイド)で圧縮されていたカテーテル管壁の樹脂は、半回転して湾曲の外側(アウトサイド)に移動するに伴って伸長し、更に半回転して元の湾曲の内側(インサイド)に再び移動するに伴って圧縮されることとなる。このようなカテーテル管壁の樹脂の伸長/圧縮変形は、カテーテルを曲げ変形させるときにも発生する。すなわち、血管等の体腔の走行に追随して湾曲したカテーテルをトルク回転させる場合には、カテーテルの曲げ剛性が回転抵抗として働くこととなる。
【0005】
さらに、操作線が挿通されたサブルーメンが2つ以下であると、以下で説明する、いわゆる「暴れ」が発生してトルク制御性が更に低下する。特許文献1を含む従来技術では、カテーテルを周方向に観察した場合に、硬い領域と柔らかい領域とが交互に存在する。特許文献1の場合、軸方向連結要素の配設領域は硬くて軸方向に伸長/圧縮変形しにくく、逆に軸方向連結要素のない領域は柔らかくて軸方向に容易に伸長/圧縮変形する。湾曲形状のカテーテルをトルク回転させようとすると、硬い領域が湾曲の内側(インサイド)または外側(アウトサイド)で大きく伸長/圧縮変形しようとするときに大きな抗力(回転抵抗)が生じる。このため、硬い領域が湾曲の中立位置から内側または外側に向かうときはトルク回転に対する回転抵抗が極めて大きく、逆に内側または外側から中立位置に向かうときは回転抵抗が急激に小さくなる。硬い領域が湾曲の内側を通過する瞬間に、当該硬い領域に対して作用していた圧縮力が、圧縮から伸張に不連続かつ瞬時に変化するためである。逆に湾曲の外側を通過する瞬間には、当該硬い領域に対して作用していた伸長力が、伸長から圧縮に不連続かつ瞬時に変化する。これにより、カテーテルを一回転させる間に回転抵抗が不連続に増減変動する。よって、湾曲したカテーテルを安定してトルク回転させることは困難になり、カテーテルの先端を所望の方向に精度よく制御することは困難になる。以下、カテーテルを一回転させる間に回転抵抗が顕著に増減変動してトルク制御性が低下することを、カテーテルの「暴れ」と表現する場合がある。
【0006】
このカテーテルの「暴れ」の問題は、特許文献1のカテーテルに限らず、操作線が挿通されたサブルーメンが2つで180度対向配置されているカテーテルや、サブルーメンが1つのカテーテルでも発生する。サブルーメンの配設領域が硬い領域となるためである。
【0007】
本発明者は、湾曲状態のカテーテルをトルク回転させる場合の「暴れ」の発生という新たな課題を突き止めた。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、サブルーメンを有するカテーテルにおいて湾曲状態での「暴れ」の発生を良好に防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカテーテルは、内部にメインルーメンを有する内層と、メインルーメンよりも小径でメインルーメンの周囲に配置された1本または複数本のサブルーメンとが形成された長尺の管状本体を備えたカテーテルであって、
サブルーメンと平行であって長手方向に長尺な1本または複数本の、管状本体のねじり剛性の角度依存性を低減するための剛性調整線を有し、
サブルーメンと剛性調整線とが、合わせて3本以上、一定角度間隔でメインルーメンの周囲に配置されていることを特徴とする。
【0009】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、管状本体の遠位端に固定された操作線がサブルーメンに摺動可能に挿通され、操作線の近位端を牽引することによりカテーテルの遠位端部が屈曲するものであってもよい。
【0010】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、管状本体は、内層の外周に、外層をさらに有し、外層の内部に、サブルーメンと剛性調整線とが形成されているものであってもよい。
【0011】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、サブルーメンは、外層を形成する材料よりも硬い材料で形成されたチューブの内腔として形成されているものであってもよい。
【0012】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線と外層とは、樹脂材料で形成され、剛性調整線を形成する樹脂材料が、外層を形成する樹脂材料よりも硬いものであってもよい。さらに、剛性調整線と外層とが同種の樹脂材料で形成されていてもよい。
【0013】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線の樹脂材料は、造影剤を含有しているものであってもよい。
【0014】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線とサブルーメンとは、同一の円周上に配置されているものであってもよい。
【0015】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、サブルーメンが外層を形成する材料よりも硬い材料で形成されたチューブの内腔として形成されており、剛性調整線は、チューブよりも曲げ剛性が低く、剛性調整線が、サブルーメンよりも外周側に配置されているものであってもよい。
【0016】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、サブルーメンが外層を形成する材料よりも硬い材料で形成されたチューブの内腔として形成されており、剛性調整線は、チューブよりも曲げ剛性が高く、剛性調整線が、サブルーメンよりも内周側に配置されているものであってもよい。
【0017】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線は、サブルーメンが形成されたチューブと同種のチューブにより形成されているものであってもよい。
【0018】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線を形成するチューブは、遠位端側の先端または近位端側の後端もしくは中間が、閉塞されているものであってもよい。
【0019】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線と、サブルーメンを形成するチューブとは、遠位端の先端の位置が、長尺方向で同一であるものであってもよい。
【0020】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、サブルーメンは、遠位端側に、線材料を巻回してなるコイルが内装されているものであってもよい。
【0021】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、剛性調整線を形成するチューブの内部に、擬似操作線が収納されているものであってもよい。
【0022】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、管状本体は、メインルーメンの周囲に、線材料を巻回してなる補強層を有し、サブルーメンおよび剛性調整線が、補強層の外側に形成されているものであってもよい。
【0023】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のカテーテルは、サブルーメンによる湾曲状態でカテーテルをトルク回転させたときの、いわゆる「暴れ」を良好に防止することができる。その結果、血管選択性等、所望の方向への屈曲性に優れたカテーテルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態にかかるカテーテルの先端部の縦断面模式図である。
【図2】図1のA−A'線断面斜視図(横断面斜視図)である。
【図3】第一の実施形態に係るカテーテルの全体を示す側面図と、先端部の屈曲例を示す側面図であって、(a)はカテーテルを屈曲する前の全体を示す側面図であり、(b)はスライダを操作して先端を上方に屈曲させた状態を示す側面図であり、(c)はスライダを操作して先端を(b)よりも大きな曲率で上方に屈曲させた状態を示す側面図であり、(d)はスライダを操作して先端を下方に屈曲させた状態を示す側面図であり、(e)はスライダを操作して、先端を(d)よりも大きな曲率で下方に屈曲させた状態を示す側面図である。
【図4】(a)から(c)は第一実施形態のカテーテルを湾曲した血管の主管から血管枝に向かって進行させる状態を示す模式図である。
【図5】長尺なカテーテルの湾曲時(屈曲時)の回転抵抗による、ねじり角度依存性が大きいこと、すなわち「暴れ」について説明するための説明図であり、(a)は硬いチューブが入ったサブルーメン部分を内側と外側にしてカテーテルを湾曲させた状態を示す概略図であり、(b)はサブルーメンのない部分を内側と外側にしてカテーテルを湾曲させた状態を示す概略図であり、(c)は湾曲方向を示すためのカテーテルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0027】
〔構成例〕
はじめに、本実施形態のカテーテルの構成の概要について説明する。図1、図2に示すように、本実施形態のカテーテル100は、内部にメインルーメン20を有する内層11と、メインルーメン20よりも小径でメインルーメン20の周囲に180度の角度間隔を介して配置された一対のサブルーメン80(第一サブルーメン80a、第二サブルーメン80b)と、シース10の遠位端DE(DEはカテーテル100の遠位端も兼ねる)に固定され、サブルーメン80(80a、80b)内にそれぞれ摺動可能に挿通された操作線70(第一操作線70a、第二操作線70b)と、サブルーメン80(80a、80b)とは90度の角度間隔を介して、メインルーメン20の周囲に配置された剛性調整線90(第一剛性調整線90a、第二剛性調整線90b)と、サブルーメン80および剛性調整線90とが内部に形成され、内層11の外周を被覆する外層12と、内層の外周に線材料31を巻回形成した補強層30と、リング状に配置されたマーカ40と、外層12の周囲を被覆し、カテーテル100の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性のコート層50と、を有する長尺の管状本体10を備えて構成されている。本実施形態のカテーテル100は、任意でマーカ40、補強層30およびコート層50を有している。
【0028】
なお、カテーテル100の管状本体10を、以下、シース10と呼ぶ。また、シース10とカテーテル100の先端は遠位端DEとよぶが、シース10の後端は近位端PEとよび、カテーテル100の後端は近位端CEとよぶ。また、サブルーメン80はカテーテル100の長手方向(図1における上下方向)に沿って設けられ、図示はしないが、少なくともシース10の近位端PE側が開口している。
【0029】
また、本実施形態では、図1に示すように、シース10の遠位端DEにおいて、操作線70(70a、70b)の先端部71(71a、71b)は、球状に形成されており、外層12内に埋設されることで、操作線70(70a、70b)の先端部71(71a、71b)が遠位端DEに固定されている。そのため、サブルーメン80(80a、80b)にそれぞれ摺動可能に挿通され各操作線70(70a、70b)は、近位端72(72a、72b)を牽引することによりカテーテル100の遠位端部15が屈曲する(図3(b)から(d)を参照)。また、本実施形態のカテーテル100は、牽引する操作線70(70a、70b)の選択により、屈曲する遠位端部15の曲率と方向とが複数通りに変化する。
【0030】
ここで、操作線70(70a、70b)を挿通するサブルーメン80(80a、80b)をメインルーメン20と離間して設けることにより、メインルーメン20を通じて薬剤等を供給したり光学系を挿通したりする際に、これらがサブルーメン80(80a、80b)に脱漏することがない。サブルーメン80(80a、80b)および剛性調整線90は補強層30の外側に設けられている。本実施形態のようにサブルーメン80(80a、80b)を補強層30の外側に設けることにより、シース10内を摺動する操作線70(70a、70b)に対して、補強層30の内部、すなわちメインルーメン20が保護される。このため、かりに操作線70(70a、70b)がカテーテル100の遠位端部15から外れたとしても、操作線70(70a、70b)がメインルーメン20の周壁を開裂してしまうことがない。
【0031】
また本実施形態のカテーテル100は、外層12内に形成された長尺な円筒状の空間部81(第一空間部81a、第二空間部81b)内に、外層12を形成する材料よりも硬い樹脂材料で形成されたチューブ82(82a、82b)を埋設することで形成されている。以下、チューブ82a、82bを、それぞれ第一チューブ、第二チューブと呼称する場合がある。樹脂材料の硬度の大小はショアD硬度で対比することができる。サブルーメン80(80a、80b)は、これらチューブ82(82a、82b)の内腔として形成されている。さらに、チューブ82(82a、82b)は、空間部81(81a、81b)において、シース10の遠位端DEまで埋設されておらず、当該遠位端DE側の空間部81(81a、81b)内に、線材料83を巻回形成したコイル84(第一コイル84a、第二コイル84b)が埋設され、これらコイル84(84a、84b)の内腔が、チューブ82(82a、82b)の内腔と面一のサブルーメン80(80a、80b)を形成している。以上、チューブ82の内腔により形成されたサブルーメン80を第一領域80A(第一領域80Aa、第一領域80Ab)、コイル84の内腔により形成されたサブルーメン80を第二領域80B(第二領域80Ba、第二領域80Bb)と呼ぶ。
【0032】
なお、剛性調整線90(90a、90b)とは、カテーテル100の湾曲時の回転抵抗の角度依存性を低減してトルク回転時の「暴れ」を抑制するための機能部材である。シース10の内部に剛性調整線90を有することにより、カテーテル100のトルク制御性能が向上する。その結果、「暴れ」を良好に防止して、体腔内壁への影響などの防止効果を向上させることができる。このように、「暴れ」を良好に防止するためには、サブルーメン80と剛性調整線90との合計本数が、3本以上が一定角度間隔で配置されていることが好ましく、1本または2本では「暴れ」防止効果は低い。
【0033】
上記3本以上とする理由について、図5(a)から(c)を用いて詳細に説明する。まず、硬いチューブ82(82a、82b)が一対(すなわち2本)、180度の角度間隔で配置された長尺体(カテーテル100)を想定する。チューブ82(82a、82b)の内部空間がサブルーメン80(80a、80b)にあたる。次に、サブルーメン80が二本形成されたカテーテル100を屈曲させた場合の角度依存性について説明する。カテーテル100を、図5(c)の一対のサブルーメン80が並ぶX線方向が内側と外側とになるよう屈曲させる場合、図5(a)に示すように、屈曲部分の外側と内側とに、硬く伸縮性に乏しいチューブ82a、82bが存在することになる。このため、カテーテル100にはX線方向の屈曲に対して強い抵抗力が作用する。この抵抗力は、X線方向に屈曲したカテーテル100をトルク回転させる際の回転抵抗となる。これに対して、カテーテル100を、サブルーメン80が存在しない方向である図5(c)のY線方向が内側と外側とになるよう屈曲させる場合、図5(b)に示すように、チューブ82aおよび図示しないチューブ82bが屈曲の中立線上に位置するため、カテーテル100の屈曲を阻害することがなくトルク回転に対する回転抵抗をチューブ82a、82bは実質的に生じない。屈曲したカテーテル100をトルク回転させる場合、図5(a)の状態から図5(b)の状態に変化する瞬間に、チューブ82bに作用していた圧縮力が瞬時に解消する。また、チューブ82aに作用していた伸張力も瞬時に解消される。この瞬間に、カテーテル100は急激にトルク回転しようとして屈曲部の「暴れ」が生じる。この「暴れ」の発生は、一対のチューブ82a、82bが180度対向して配置されている場合に限らず、1本のサブルーメン80と1本の剛性調整線90の合計2本が180度対向配置されている場合にも同様に生じる。また、チューブ82または剛性調整線90がいずれか1本だけ配設されている場合にも同様の現象が生じる。
【0034】
このように、サブルーメン80や剛性調整線90の数が2本以下であると、屈曲させる位置、すなわち、屈曲させる角度によって、屈曲性やねじり容易性にバラつきを生じる。この屈曲位置の違いによるバラつきが、ねじり剛性の「角度依存性」である。これに対して、本実施形態では、合計3本以上のサブルーメン80および剛性調整線90を一定角度間隔で配置しているため、いずれの位置で屈曲させても、屈曲性やねじり容易性にバラつきを生じることがない。3本以上を等角度間隔に配置した場合には、カテーテル100のトルク回転時に任意の1本のサブルーメン80または剛性調整線90が湾曲の内側または外側を通過する瞬間(図5(a)に相当する状態)に、他のサブルーメン80または剛性調整線90が湾曲の中立位置(図5(b)に相当する状態)またはその近傍に存在することとなる。そして、合計3本以上のサブルーメン80および剛性調整線90がいずれの回転位置に存在するときもカテーテル100の湾曲時回転抵抗は一定となる。そのため、カテーテル100の全周において内外の回転抵抗が均一となり、角度依存性が解消され、トルク伝達が円滑に行われる。その結果、カテーテル100の回転時のねじり剛性による「暴れ」を良好に防止することができる。なお、後述の変形例で詳細に説明するが、サブルーメン80と剛性調整線90との径方向の位置が完全には一致していない場合でも、これらの剛性および径方向の位置を適宜調整することで、カテーテル100の湾曲時回転抵抗の角度依存性を解消することができる。
【0035】
また、剛性調整線90(90a、90b)と外層12とは、後述する樹脂材料で形成されている。剛性調整線90(90a、90b)を形成する樹脂材料は、外層12を形成する樹脂材料よりも硬い樹脂材料である。外層12内に形成された長尺な円筒状の中空部91(第一中空部91a、第二中空部91b)内に、外層12よりも硬い樹脂材料で形成された擬似操作線92(第一擬似操作線92a、第二擬似操作線92b)が収納されていることで剛性調整線90(90a、90b)が形成されている。すなわち、本実施形態の擬似操作線92は剛性調整線90にあたる。擬似操作線とは、操作線70に沿ってカテーテル100の内部に配置された線状体であって、操作部60を操作してもカテーテル100の先端を屈曲させる機能を持たない要素である。
【0036】
このように剛性調整線90(90a、90b)の樹脂材料を外層12の樹脂材料より硬くする手段として、例えば、外層12と同一または同種の樹脂材料に造影剤を混合するとよい。これにより、剛性調整線90(90a、90b)が硬くなるだけでなく、剛性調整線90をX線等で観察しながらカテーテル100を操作することができる。そのため、カテーテル100の位置や向きを良好に把握することができる。したがって、従来のように、外層全体に造影剤を含有させることで、カテーテルの柔軟性を損なうこととなる、メインルーメン20内に造影剤を注入して位置確認をした後に、治療を行う、等の手間を省くことができる。
【0037】
剛性調整線90と外層12とは同種の樹脂材料で形成されていてもよい。すなわち、剛性調整線90の樹脂材料を、外層12の樹脂材料と同種の樹脂材料であってかつ硬度がより高い材料としてもよい。同種の樹脂材料とは、同じ化学構造形態を有する樹脂材料であって、品番(銘柄)を問わない。一例として、剛性調整線90および外層12を共にポリエーテルブロックアミド共重合体(ナイロンエラストマー)で作成するとともに、剛性調整線90にはショアD硬度が外層12よりも高い品番の樹脂材料を選択するとよい。これにより、剛性調整線90に所望の曲げ剛性を与えつつ、外層12と剛性調整線90との間で良好な密着性を得ることができる。また、剛性調整線90と外層12とが同種の樹脂材料であることで両者の線膨張係数が略等しい。このため、カテーテル100の熱成形時と常温冷却時とで剛性調整線90が外層12に追随して熱変形するため両者の界面が剥離することがない。
【0038】
本実施形態の剛性調整線90はカテーテル100の実質的に全長に亘って外層12の内部に配設されている。ただし、カテーテル100の湾曲時回転抵抗の角度依存性を低減するという剛性調整線90の目的から、剛性調整線90はカテーテル100のうち屈曲する長さ領域、具体的には遠位端部15から中間部16のみに配設されていてもよい。
【0039】
また、サブルーメン80(80a、80b)は、シース10の遠位端部に配置したマーカ40付近まで形成されている。これに対して、剛性調整線90(90a、90b)を埋設する中空部91(91a、91b)は、サブルーメン80(80a、80b)と平行であるが、サブルーメン80より遠位端DE側においてサブルーメン80よりも短尺である。
【0040】
補強層30は、カテーテル100の遠位端部15から近位端部17に向かって曲げ剛性が段階的または連続的に増大する。遠位端DEから5乃至20mm程度の遠位端部15において、補強層30の曲げ剛性が不連続に変化する箇所を設けてもよい。この不連続箇所の基端側における補強層30の曲げ剛性を、先端側の曲げ剛性よりも有意に大きくすることで、操作線70を牽引した場合のカテーテル100の屈曲位置を当該不連続箇所に特定することができる。
【0041】
剛性調整線90の先端は、補強層30の曲げ剛性の当該不連続箇所よりも僅かに遠位側に位置するとよい。または、剛性調整線90の先端は、補強層30の先端よりも僅かに遠位側に位置するとよい。操作線70の先端は、剛性調整線90の先端よりも更に遠位側においてシース10に固定されている。これにより、操作線70を牽引したときに、補強層30の曲げ剛性の不連続箇所や補強層30の先端におけるカテーテル100のキンクを防止することができる。外層12よりも曲げ剛性が高い剛性調整線90が補強層30の当該不連続箇所または先端よりも遠位側に突出していることにより、補強層30の不連続箇所または先端に集中するカテーテル100の曲げ応力が剛性調整線90によって分散されるためである。
【0042】
すなわち、上記のカテーテル100において、剛性調整線90はシース10よりも高剛性の弾性体からなり、シース10の先端部における管壁部に埋設されてシース10の長手方向に延在している。カテーテル100は、シース10における剛性調整線90の配設領域よりも曲げ剛性が大きい高剛性領域を、剛性調整線90の配設領域よりも基端側に有している。そして、剛性調整線90の配設領域よりも曲げ剛性が小さい低剛性領域を、剛性調整線90の先端と操作線70の先端との間に有している。これにより、上記の曲げ剛性が大きい高剛性領域(補強層30の不連続箇所または先端)において、カテーテル100をキンクさせずに屈曲させることができる。
【0043】
中空部91の遠位端DE側は、外層12の樹脂材料121で閉塞されている。すなわち、この閉塞部分の先端の位置が、サブルーメン80(80a、80b)のチューブ82(82a、82b)の先端と長尺方向で同一である。中空部91(91a、91b)内の全長に渡って剛性調整線90(90a、90b)が埋設されているので、シース10の遠位端DE側のみならず、中空部91の全長が閉塞されている。ただしこれに代えて、シース10の近位端PE側(後端)または中間(先端と後端の間のいずれかの部分)が閉塞されていて中空部91の先端が開放されていてもよい。このように中空部91の少なくとも一部が閉塞されていることにより、剛性調整線90を中空のチューブで形成した場合でも、中空部91の内部に体液等の異物が侵入することが抑制される。
【0044】
また、本実施形態では、剛性調整線90とサブルーメン80のチューブ82とは、同一の円周上に配置されている。剛性調整線90とチューブ82との曲げ剛性がほぼ同一の場合にこのような配置とするのが好ましい。なお、「同一の円周上」とは、剛性調整線90とサブルーメン80の中心が同一の円周上に配置されることが最も好ましいが、必ずしも中心が一致するだけでなく、剛性調整線90またはサブルーメン80の中心が他の剛性調整線90またはサブルーメン80の外周内に存在すればよい。また、ほぼ同一の円周上において、剛性調整線90の外周とサブルーメン80の外周との少なくとも一部が円周方向で重なっていることを含んでもよい。いずれの場合でも、ねじり剛性のバランスが良好で、角度依存性が解消されればよい。この構成により、サブルーメン80(80a、80b)と剛性調整線90(90a、90b)とは、同一円周上に、同一角度間隔(90度)で交互に配置される。このような配置により、カテーテル100の先端の「暴れ」を良好に防止することができる。その「暴れ」を防止する原理の詳細は後述する。
【0045】
また、図3に示すように、カテーテル100は、第一操作線70aおよび第二操作線70bを個別に牽引してカテーテル100の遠位端部15を屈曲させる操作部60が、カテーテル100の近位端部17に設けられている。また、遠位端部15と近位端部17との間を中間部16と呼ぶ。
【0046】
操作部60は、カテーテル100の長手方向に延びる軸部61と、軸部61に対してカテーテル100の長手方向にそれぞれ進退するスライダ64(64a、64b)と、軸部61を軸回転するハンドル部62と、シース10が回転可能に挿通された把持部63とを備えている。また、シース10の近位端部17は、軸部61に固定されている。また、ハンドル部62と軸部61とは一体に構成されている。そして、把持部63とハンドル部62とを相対的に軸回転させることで、操作線70を含むシース10全体が軸部61とともにトルク回転する。
【0047】
したがって、本実施形態の操作部60は、管状本体(シース10)の遠位端部15を回転操作する。なお、本実施形態においては、シース10をトルク回転させる回転操作部としてのハンドル部62と、シース10を屈曲させるための屈曲操作部としてのスライダ64とが一体に設けられている。しかし、本発明がこれに限定されるものではなく、ハンドル部62とスライダ64とが別個に設けられていてもよい。
【0048】
第一操作線70aの近位端72(72a)は、シース10の近位端部17から基端側に突出し、操作部60のスライダ64aに接続されている。また、第二操作線70bの近位端72(72b)も同様に、操作部60のスライダ64bに接続されている。そして、スライダ64aとスライダ64bを軸部61に対して個別に基端側にスライドさせることにより、これに接続された第一操作線70aまたは第二操作線70bが牽引され、シース10の遠位端部15に引張力が与えられる。これにより、牽引された当該操作線70の側に遠位端部15が屈曲する。
【0049】
カテーテル100のシース10の遠位端DEには、X線等の放射線が不透過な材料からなるリング状のマーカ40が設けられている。具体的には、マーカ40には白金などの金属材料を用いることができる。本実施形態のマーカ40は、メインルーメン20の周囲であって外層12の内部に設けられている。
【0050】
前述したように、操作線70(70a、70b)の先端部(遠位端71(71a、71b))が球状で外層12に埋設されていることで、操作線70(70a、70b)の先端はシース10の遠位端DEに固定されている。しかし、操作線70(70a、70b)の先端を遠位端DEに固定する態様は特に限定されない。たとえば、操作線70(70a、70b)の先端をマーカ40に締結してもよく、シース10の遠位端DEに溶着してもよく、または接着剤によりマーカ40またはシース10の遠位端DEに接着固定してもよい。
【0051】
内層11には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料(樹脂材料111)を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。内層11にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル100のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0052】
外層12には熱可塑性ポリマー(樹脂材料121)が広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0053】
補強層30を構成する線材料31、およびサブルーメン80の第二領域80B(第二領域80Ba、第二領域80Bb)を構成する線材料83には、ステンレス鋼(SUS)やニッケルチタン合金などの金属細線のほか、PI、PAIまたはPETなどの高分子ファイバーの細線を用いることができる。また、線材料31、83の断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
【0054】
操作線70(第一操作線70aおよび第二操作線70b)をサブルーメン80(80a、80b)に挿通する方法は、種々をとることができる。予めサブルーメン80(80a、80b)が貫通して形成されたカテーテル100のシース10に対して、その一端側から操作線70を挿通してもよい。または、シース10の押出成形時に、サブルーメン80(80a、80b)用のコイル84(84a、84b)およびチューブ82(82a、82b)と共に操作線70(70a、70b)を押し出して、サブルーメン80(80a、80b)の内部に挿通してもよい。
【0055】
操作線70(70a、70b)をコイル84(84a、84b)およびチューブ82(82a、82b)と共に押し出してサブルーメン80(80a、80b)に挿通する場合、操作線70(70a、70b)には、シース10を構成する樹脂材料の溶融温度以上の耐熱性が求められる。かかる操作線70の場合、具体的な材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。一方、予め成形されたシース10のサブルーメン80に対して操作線70を挿通する場合など、操作線70に耐熱性が求められない場合は、上記各材料に加えて、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。
【0056】
サブルーメン80(80a、80b)の第一領域80A(80Aa、80Ab)のチューブ82(82a、82b)および剛性調整線90(90a、90b)は、上記外層12と同様の樹脂材料を用いてもよいが、外層12よりも硬い樹脂材料で形成することが好ましい。なお、本実施形態では、外層12よりも硬い樹脂材料として、チューブ82(82a、82b)をPTFEまたはPEEKで形成している。また、前述したように、剛性調整線90(90a、90b)は、外層12と同様の樹脂材料に、造影剤を含有させて外層12よりも硬く形成した擬似操作線92(92a、92b)により形成している。
【0057】
この擬似操作線92をシース10の内部に配設する方法は特に限定されない。擬似操作線92を中実の長尺の棒状に予め成形し、一方で外層12に中空部91を貫通形成しておき、かかる中空部91の一端から擬似操作線92を挿入してもよい。または、擬似操作線92と外層12とを共押出してもよい。
【0058】
しかしながら、擬似操作線92の材料が必ずしもこれに限定されるものではなく、樹脂材料に造影剤を含有させることなく、硬度自体が外層12より硬い樹脂材料を用いて擬似操作線92を埋設して剛性調整線90を形成してもよいし、フィラーを含有する等、他の手段を用いてもよい。また、必要に応じて、サブルーメン80のチューブ82等よりも柔らかい樹脂材料または硬い樹脂時材料、同種のチューブ等で形成してもよい。その詳細は、変形例で説明する。
【0059】
コート層50の樹脂材料51には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。
【0060】
本実施形態のカテーテル100の代表的な寸法について説明する。メインルーメン20の半径は200〜300μm程度、内層11の厚さは10〜30μm程度、外層12の厚さは50〜150μm程度、補強層30の厚さは20〜30μmとすることができる。そして、カテーテル100の軸心からサブルーメン80の中心までの半径は300〜450μm程度、サブルーメン80の径(チューブ82の内径)は40〜100μm程度とし、操作線70の太さを30〜60μm程度とすることができる。そして、カテーテル100の最外径は350〜490μm程度である。
【0061】
すなわち、本実施形態のカテーテル100の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル100に関しては、操作線70(70a、70b)の牽引により進行方向が自在に操作されるため、たとえば分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル100を進入させることが可能である。
【0062】
〔動作例〕
次に、本実施形態のカテーテル100の動作例について詳細に説明する。まず、本実施形態のカテーテル100において、操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)の近位端72(72aまたは72b)を牽引すると、カテーテル100の遠位端部15に引張力が与えられて、当該操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)が挿通されたサブルーメン80(サブルーメン80aまたはサブルーメン80b)の側に向かって遠位端部15の一部または全部が屈曲する。一方、操作線70の近位端72をカテーテル100に対して押し込んだ場合には、当該操作線70からカテーテル100の遠位端部15に対して押込力が実質的に与えられることはない。
【0063】
なお、カテーテル100の遠位端部15とは、カテーテル100の遠位端DEを含む所定の長さ領域をいう。同様に、カテーテル100の近位端部17とは、カテーテル100の近位端CEを含む所定の長さ領域をいう。中間部16とは、遠位端部15と近位端部17との間の所定の長さ領域をいう。また、カテーテル100が屈曲するとは、カテーテル100の一部または全部が、湾曲または折れ曲がって曲がることをいう。
【0064】
本実施形態のカテーテル100では、図2に示すように、操作線70(70a、70b)がそれぞれ挿通された一対(2本)のサブルーメン80(80a、80b)と、一対(2本)の剛性調整線90(90a、90b)とが、メインルーメン20の周方向に90度の角度間隔を介して交互に配置されている。
【0065】
本実施形態のカテーテル100では、牽引する操作線70を、第一操作線70aのみとするか、第二操作線70bのみとするか、または2本の操作線70a、70bを同時に牽引するかにより、屈曲する遠位端部15の曲率が複数通りに変化する。これにより、さまざまな角度に分岐する体腔に対してカテーテル100を自在に進入させることができる。
【0066】
本実施形態のカテーテル100は、複数本の操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)の近位端72をそれぞれ個別に牽引することができる。そして、この牽引する操作線70によって、屈曲方向を変化させることができる。具体的には、図3(b)、(c)のように第一操作線70aを牽引すると、第一操作線70aを設けた側に屈曲し、図3(d)、(e)のように第二操作線70bを牽引すると、第二操作線70bを設けた側に屈曲する。また、各操作線70(70a、70b)の牽引量を調整することによって、屈曲の曲率(曲率半径)を変化させることができる。具体的には、図3(b)、(d)に示すように、第一または第二操作線70a、70bを少し牽引した場合、遠位端部15は小さな曲率(曲率半径が大きい)で屈曲する。一方、図3(c)、(e)に示すように、第一または第二操作線70a、70bをより長く牽引した場合、遠位端部15は大きな曲率(曲率半径が小さい)で屈曲する。
【0067】
ここで、本実施形態のカテーテル100では、シース10の可撓性が、近位端PE側から遠位端DE側にむかって増大するよう形成するのが好ましい。すなわち、カテーテル100でいえば長手方向に沿って遠位端部15、中間部16、および近位端部17に区画されており、近位端部17のシース10部分および中間部16は剛性が高く、遠位端部15は可撓性が高くなっている。ここで、カテーテル100の可撓性とは、径方向に単位荷重を付与した場合の曲がり易さをいう。
【0068】
カテーテル100の可撓性を変化させるためには種々の方法をとることができる。たとえば、シース10の径を近位端部17、中間部16、遠位端部15の順に細くしてもよい。または、補強層30の線材料31の巻回を近位端部17では密巻きとし、中間部16では、狭いピッチ巻きとし、遠位端部15は屈曲性を高めるため、広いピッチ巻きとしてもよい。
【0069】
また、シース10を、カテーテル100の近位端部17から中間部16の曲げ剛性を高くすることで、トルク伝達性を向上させることができる。本実施形態によれば、カテーテル100の近位端部17近傍における耐モーメント性を維持しつつ、中間部16を十分に屈曲変形させることができる。
【0070】
そして、カテーテル100を遠位端部15において最も柔軟にすることにより、操作線70の牽引による遠位端部15の追従性が良好となり、遠位端部15を含む先端部を当該操作線70の側に容易に屈曲させることができる。一方、カテーテル100の自重に起因する曲げモーメントがもっとも負荷される近位端部17の剛性を高くすることにより、カテーテル100のコシを強くして形態安定性を保つことができる。しかしながら、このような剛性の違いにより、カテーテル100の回転時のトルク制御性能が低下し、先端部の「暴れ」が生じ易い。そこで、本実施形態では、外層12に剛性調整線90を配置することで、トルク制御性能を向上させ、トルクの円滑な伝達を可能とし、「暴れ」を良好に防止することを可能としている。
【0071】
図4(a)〜(c)は、本実施形態のカテーテル100の使用状態を説明する模式図である。図4(a)は、湾曲した血管200内に挿通されたカテーテル100の遠位端部15が、血管200の分岐部201に至った状態を示している。ここで、分岐部201において主管204から血管枝203に向かってカテーテル100を進行させることを試みる。そこで、図4(a)に回転矢印で示すようにカテーテル100の全体をトルク回転させて、操作線70の1本(第一操作線70a)を屈曲予定方向の内側、すなわち血管枝203の延在方向まで回転移動させる。便宜上、操作線70(第一操作線70a)を実線で図示してある。かかる状態を図4(b)に示す。図4(b)の状態で、操作部60(図3各図を参照)を操作して、直線矢印で示すように第一操作線70aを基端側に牽引する。これにより、図4(c)に示すようにカテーテル100の先端部71は血管枝203に向かって屈曲する。かかる状態からカテーテル100の全体を押し込むことで、カテーテル100は主管204から血管枝203に進入する。
【0072】
ここで、図4(a)から図4(b)の状態までカテーテル100をトルク回転させるにあたり、剛性調整線90(図2を参照)が外層12に埋設されてシース10のねじり剛性の角度依存性が低減されていることで、カテーテル100を所望の回転角度だけ安定してトルク操作することができる。これにより、第一操作線70aを精度よく、かつ迅速に屈曲予定方向の内側まで回転移動させることができる。
【0073】
また、本実施形態では、サブルーメン80(80a、80b)形成用の空間部81(81a、81b)の遠位端部15側にコイル84(84a、84b)を内装し、それ以外はチューブ82(82a、82b)を挿通している。このように構成することにより、遠位端部15において、コイル84を内装した第二領域80B(第二領域80Ba、第二領域80Bb)は柔軟性に優れ、屈曲し易くなる。そして、チューブ82を配置した第一領域80A(第二領域80Aa、第二領域80Ab)との境目を基点として、シース10が屈曲する。この第二領域80Bの屈曲性と、操作線70(70a、70b)の牽引量の微調整とにより、カテーテル100の遠位端部15を、所望の曲率に、より自在に調整することが可能となる。
【0074】
以上より、本実施形態では、湾曲した血管から分岐する血管枝に対して迅速かつ確実にカテーテル100を進入させることができる。また、さまざまな血管内でさまざまな方向にカテーテル100を回転させる場合、剛性調整線90により、カテーテル100の曲げ剛性、ねじり剛性の角度依存性を好適に解消することができる。その結果、カテーテル100のトルク制御性能が安定して、近位端部17から遠位端部15までのトルク伝達を円滑に行うことができる。そして、先端が急激に回転するような、いわゆる「暴れ」を良好に防止することが可能となり、操作性に優れ、体腔内壁への影響も少ないカテーテル100を提供することができる。
【0075】
<変形例>
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0076】
たとえば上記実施形態においては二本の操作線と二本のサブルーメン80(80a、8b)のうち、いずれか一本の操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)を選択して個別に牽引する態様を例示的に説明したが、本発明はこれに限られない。すなわち、前述したように、三本以上の操作線70をシース10に挿通した上でその一本もしくは二本以上を牽引してもよい。また、二本の操作線70(70a、70b)の先端部71(71a、71b)が、それぞれ別個にシース10の遠位端DEに固定されているが、一本の連続した操作線を用いて、両端部をダイヤル式の操作部に巻き付け、ダイヤルを操作することによって牽引方向や牽引量を調整してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、サブルーメン80と剛性調整線90とを2本ずつ、合計4本形成しているが、合計3本以上であって、等角度間隔に周方向に配置されていれば、4本に限られることはない。たとえば、シース10に3本のサブルーメン80を120度間隔に設けて、それぞれに操作線70を挿通してもよい。そして、各サブルーメン80間に、剛性調整線90を配置してもよい。このような構成では、任意の一本または二本の操作線70を選択して牽引することにより、当該操作線70の方向、または当該二本の操作線70の中間方向にシース10を屈曲させることができる。
【0078】
また、サブルーメン80を4本以上配置してもよく、各操作線70の牽引量を微調整することにより、所望の曲率や所望の方向に遠位端DEを向けるようにしてもよい。この場合も、サブルーメン80の位置や本数に応じて、剛性調整線90を設け、各サブルーメン80と剛性調整線90とが、一定角度間隔で周方向に配置されるように調整する。
【0079】
また、上記実施形態では、剛性調整線90を、サブルーメン80と同一円周上に配置している。すなわち、剛性調整線90とチューブ82との硬さを同一にして、同一円周上に配置することで、角度依存性による曲げ剛性から生じる「暴れ」を、剛性調整線90で良好に低減して、円滑な回転が可能となるためである。しかし、剛性調整線90がチューブ82よりも曲げ剛性が低い場合は、剛性調整線90を、サブルーメン80よりも外周側に配置するのが望ましい。一方、剛性調整線90がチューブ82よりも曲げ剛性が高い場合は、剛性調整線90を、サブルーメン80よりも内周側に配置するのが望ましい。このように剛性調整線90の位置を調整することにより、チューブ82と剛性調整線90との間に多少の曲げ剛性の差が生じていても、径方向の配置位置を変えて微調整を行うことで、剛性調整線90の機能を良好に発揮でき、カテーテルの曲げ剛性の角度依存性を好適に解消することができる。また、チューブ82と剛性調整線90との曲げ剛性を厳密に一致させる必要がなく、径方向の位置を調整するだけでよいため、カテーテル100の製造を効率的に行うことができる。
【0080】
また、剛性調整線90は、サブルーメン80を形成するためのチューブ82と同種のチューブにより形成してもよい。同種のチューブとは、同一の寸法および材料のチューブのほか、材質等が異なっても、ねじり剛性がほぼ同じで、サブルーメン80と剛性調整線90とで、ねじりの角度依存性を好適に解消することができるものを含む。このように形成することにより、剛性調整線90とサブルーメン80との製造手順を減らすことができるとともに、剛性調整線90とチューブ82との曲げ剛性を同一に形成することが容易となり、カテーテル100の効率的な製造が可能となる。
【0081】
また、上記実施形態では、剛性調整線90を、操作線70を有するサブルーメン80と同数の2本で形成しているが、剛性調整線90の本数を必ずしもサブルーメン80と同数にしなくともよい。たとえば、カテーテル100の使用目的や曲げ剛性、ねじり剛性に対応して、サブルーメン80の本数よりも少なくてもよいし、多くてもよい。具体的には、合計4本の場合、サブルーメン80を1本とし剛性調整線90を3本としてもよいし、サブルーメン80を3本とし剛性調整線90を1本としてもよい。また、最も少ない3本とする場合は、サブルーメン80を1本とし剛性調整線90を2本としてもよいし、サブルーメン80を2本とし剛性調整線90を1本としてもよい。また、サブルーメン80と剛性調整線90との組み合わせ合計を5本以上としてもよく、より微細な方向や曲率での屈曲ができるとともに、「暴れ」の防止効果も保持することができる。ただし、サブルーメンを区画形成する管壁の硬度が外層12の硬度と同等またはそれ以下であるなど、サブルーメンを内包する管状の局所領域の曲げ剛性が外層12の曲げ剛性(外層12を形成する樹脂材料を上記管状の局所領域と同形状に成形した場合の曲げ剛性)よりも低い場合には、当該サブルーメンの数を上記本数から除くものとする。たとえば、エアーを注入するためのサブルーメンや、軽量化するための中空部等、外層12に単に通孔形成されたサブルーメンの数は上記本数から除く。
【0082】
また、剛性調整線90は、サブルーメン80のチューブ82(第一領域80A)の先端と長さ方向で同一位置としている。このように形成することで、外層12より硬いチューブ82と剛性調整線90との位置を合わせて、剛性のバランスを保持している。しかし、本発明がこれに限定されるものではなく、サブルーメン80の先端、すなわち、コイル84(第二領域80B)の先端と同一位置としてもよい。この場合も剛性調整線90の第二領域80Bと一致する長さ領域は、コイル84の柔軟性を損なわないように、当該コイル84と同様の柔軟性を有するように形成することが好ましい。このように、剛性調整線90は、位置によって剛性が不連続であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
10 管状本体(シース)
11 内層
12 外層
15 遠位端部
16 中間部
17 近位端部
20 メインルーメン
30 補強層
31、83 線材料(補強層)
40 マーカ
50 コート層
51 樹脂材料
60 操作部
61 軸部
62 ハンドル部
63 把持部
64 スライダ
70 操作線
70a 第一操作線
70b 第二操作線
71 遠位端(先端部)
71a 遠位端(第一操作線)
71b 遠位端(第二操作線)
72 近位端
72a 近位端(第一操作線)
72b 近位端(第二操作線)
80 サブルーメン
80a 第一サブルーメン
80b 第二サブルーメン
80A、80Aa、80Ab 第一領域
80B、80Ba、80Bb 第二領域
81 空間部
82 チューブ
84 コイル
84a 第一コイル
84b 第二コイル
90 剛性調整線
90a 第一剛性調整線
90b 第二剛性調整線
91 中空部
92 擬似操作線
92a 第一擬似操作線
92b 第二擬似操作線
100 カテーテル
111 樹脂材料(内層)
121 樹脂材料(外層)
200 血管
201 分岐部
203 血管枝
204 主管
DE 遠位端
PE 近位端
CE 近位端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にメインルーメンを有する内層と、前記メインルーメンよりも小径で前記メインルーメンの周囲に配置された1本または複数本のサブルーメンとが形成された長尺の管状本体を備えたカテーテルであって、
前記サブルーメンと平行であって長手方向に長尺な1本または複数本の、前記管状本体のねじり剛性の角度依存性を低減するための剛性調整線を有し、
前記サブルーメンと前記剛性調整線とが、合わせて3本以上、一定角度間隔で前記メインルーメンの周囲に配置されていることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記管状本体の遠位端に固定された操作線が前記サブルーメンに摺動可能に挿通され、前記操作線の近位端を牽引することにより前記カテーテルの遠位端部が屈曲する請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記管状本体は、前記内層の外周に、外層をさらに有し、
前記外層の内部に、前記サブルーメンと前記剛性調整線とが形成されている請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記サブルーメンは、前記外層を形成する材料よりも硬い材料で形成されたチューブの内腔として形成されている請求項3に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記剛性調整線と前記外層とは、樹脂材料で形成され、前記剛性調整線を形成する前記樹脂材料が、前記外層を形成する前記樹脂材料よりも硬い請求項3に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記剛性調整線と前記外層とが同種の樹脂材料で形成されている請求項5に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記剛性調整線の前記樹脂材料は、造影剤を含有している請求項5または6に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記剛性調整線と前記サブルーメンとは、同一の円周上に配置されている請求項1から7のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記サブルーメンが、前記外層を形成する材料よりも硬い材料で形成されたチューブの内腔として形成されており、
前記剛性調整線は、前記チューブよりも曲げ剛性が低く、前記剛性調整線が、前記サブルーメンよりも外周側に配置されている請求項1から7のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記サブルーメンが、前記外層を形成する材料よりも硬い材料で形成されたチューブの内腔として形成されており、
前記剛性調整線は、前記チューブよりも曲げ剛性が高く、前記剛性調整線が、前記サブルーメンよりも内周側に配置されている請求項1から7のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記剛性調整線は、前記サブルーメンが形成された前記チューブと同種のチューブにより形成されている請求項4に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記剛性調整線を形成する前記チューブは、遠位端側の先端または近位端側の後端もしくは中間が、閉塞されている請求項11に記載のカテーテル。
【請求項13】
前記剛性調整線と、前記サブルーメンを形成する前記チューブとは、遠位端側の先端の位置が、長尺方向で同一である請求項11または12に記載のカテーテル。
【請求項14】
前記サブルーメンは、遠位端側に、線材料を巻回してなるコイルが内装されている請求項1から13のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項15】
前記剛性調整線を形成する前記チューブの内部に、擬似操作線が収納されている請求項11から13のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項16】
前記管状本体は、前記メインルーメンの周囲に、線材料を巻回してなる補強層を有し、前記サブルーメンおよび前記剛性調整線が、前記補強層の外側に形成されている請求項1から15のいずれか一項に記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−213627(P2012−213627A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−75709(P2012−75709)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】