説明

カニューレ及びその製造方法

【課題】組織に形成されている切開創を貫通させる際に生じる抵抗の増加率を小さくすることができるカニューレを提供する。
【解決手段】手術を行う際に用いるトロカールBを構成し内部に切開部材Cを着脱可能に挿入する円筒状のカニューレ1であって、先端部分に円筒の片側が突出した傾斜切口2が形成され、傾斜切口2の外周面に、傾斜切口の突出側(点2a側)を非突出側(点2b側)よりも広い幅とした、不均一な幅のテーパ面3が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術を行う際に組織を刺し通して患部に手術用の器具や薬品等を注入するチューブ等を到達させるための通路を形成するトロカールを構成するカニューレと、このカニューレを製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トロカールは筒状のカニューレを有して構成されており、このカニューレを、体表組織の一部を切開して貫通させて配置することで、患部の手術を行うのに必要な手術器具や照明器具、或いは薬品を注入するチューブ等を通すための通路を形成するものである。
【0003】
例えば眼科に於ける硝子体手術では、眼圧を維持するための生理食塩水を注入するチューブを挿入するためのトロカール、患部を切開したり摘出するための鉗子や鋏に代表される手術器具を挿入するためのトロカール、患部にレーザ光を照射するためのプローブを挿入するためのトロカール、等複数のトロカールが使用される。そして、これらのトロカールを結膜、強膜を切開して形成した穴を貫通させてカニューレの先端部分を硝子体に挿入し、この状態で夫々に必要な器具類やチューブ類を挿入して目的の手術を行っている。
【0004】
上記の如き硝子体手術の際には結膜や強膜を切開することが必須であるが、カニューレの太さが極めて小さいため、予めカニューレの内部に切開器具を挿通しておき、この切開器具により結膜、強膜を切開し、引き続いてカニューレを硝子体に挿入している。そして、カニューレを硝子体に挿入した後、切開器具のみを引き出してカニューレを残置させている。
【0005】
眼科手術の場合、治癒に至る期間を短くするために、無縫合で切開部位が閉鎖されることが好ましい。このため、特許文献1に記載された発明が提案されている。この技術は、強膜及び/又は結膜を、手術処置後に、眼内の手術処置を実行するためにそこに作られた開口部(切開創)をその組織が閉鎖することができるような状況に残すようにすることができるものである。この技術では、操作可能な末端が20〜27ゲージという極めて小さい径を持った手術器具を用いて小さい開口部を実現したことによって、開口部の組織が閉鎖することができる。
【0006】
また上記各トロカールでは切開器具を挿通するカニューレの先端部分は軸線に対して直角に切断された状態で形成されている。即ち、カニューレの先端部分には該カニューレの肉厚が平坦な面として露出することになる。このため、切開器具によって切開した結膜、強膜に対し、カニューレの先端部分をねじり込んで貫通させることとなり、切開創の周辺の組織を切り裂いてしまう虞がある。そして、組織を切り裂いてしまった場合、完治するまでに時間がかかってしまうという問題を派生する虞がある。
【0007】
上記問題を解決するために特許文献2に記載された発明が提案されている。この技術は、トロカールを構成するカニューレの先端部分に斜めの切り口を形成すると共に、該斜めの切り口がテーパ状に形成されたものである。この技術では、カニューレの先端部分に形成された斜めの切り口はカニューレの内周面側から外周面側にかけてテーパに応じた傾斜面を有することになる。
【0008】
このため、カニューレに装着した切開器具によって組織に形成した切開創にカニューレを貫通させる際には、先ず切開器具と共に斜めの切り口の尖った部分に形成されているテーパ部分が切開創を通過し、その後、斜めの切り口の傾斜に沿うと共にテーパの太い部分が通過することになる。即ち、カニューレは斜めの切り口とテーパとによって切開創を押し開くようにして貫通するため、組織を切り裂く虞がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−526461号公報
【特許文献2】特開2008−142533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載されたトロカールを構成するカニューレでは、組織に形成されている切開創を貫通する際に該組織を切り裂く虞はない。しかし、この技術であっても未だ完全なものではなく、幾つかの改良すべき課題が存在する。
【0011】
例えば、カニューレの先端に形成された斜めの切り口に形成されたテーパが、該斜めの切り口の中心軸を基準として形成されているため、カニューレの最先端部分のテーパ面のカニューレを構成する筒体の軸芯に対する角度が大きくなる。このため、カニューレを切開創に貫通させる際に斜めの切口が切開創を通過する長さに対する径の増加率が大きくなり、これに伴って刺し通す際の抵抗(刺通抵抗)の増加率も大きくなる。
【0012】
微妙な操作が要求される眼科手術では、切開部材によって結膜、強膜に切開創を形成し、引き続きこの切開創にカニューレを貫通させる際に、操作に要する力が大きく変動することは好ましくない。即ち、操作に要する力の変動が大きいと、カニューレを過大な深さまで貫通させてしまう虞が生じる。
【0013】
本発明の目的は、組織に形成されている切開創を貫通させる際に生じる抵抗の増加率を小さくすることができるカニューレを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係るカニューレは、手術を行う際に用いるトロカールを構成し内部に切開部材を着脱可能に挿入する円筒状のカニューレであって、先端部分に円筒の片側が突出した傾斜切口が形成され、前記傾斜切口の外周面に、前記傾斜切口の突出した側を突出していない側よりも広い幅とした、不均一な幅のテーパ面が形成されているものである。
【0015】
また本発明に係るカニューレの製造方法は、上記カニューレを製造するための方法であって、円筒状素材の端部に円筒の片側が突出した傾斜切口を形成し、前記傾斜切口の外周面を研削又は研磨する際に研削又は研磨の進行に対応させて研削面又は研磨面に対する円筒の軸芯の角度を変化させることで、傾斜切口の外周面に、前記傾斜切口の突出した側を突出していない側よりも広い幅とした、不均一な幅のテーパ面を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るカニューレでは、円筒状素材の先端部分に該円筒状素材の片側が円筒に沿って他方側よりも突出した傾斜切口が形成され、この傾斜切口の外周面に、円筒状素材の突出した側(突出側)を突出していない側(非突出側)よりも広い幅とした、不均一な幅を持ったテーパ面が形成されている。即ち、突出側のテーパ面の幅(円筒の軸に沿った方向の幅)が非突出側のテーパ面の幅よりも大きいことによって、突出側のテーパ面の円筒状素材の軸芯に対する角度を非突出側のテーパ面の円筒状素材の軸芯に対する角度よりも小さくすることができる。
【0017】
このため、カニューレの内部に切開部材を挿通したとき、該切開部材の外周面と円筒状素材の突出側のテーパ面とのなす角度が小さくなる。従って、カニューレが切開部材によって組織に形成した切開創を通過する際に、傾斜切口の突出側が通過する際の刺通抵抗を小さくすることができる。また、傾斜切口の突出側が切開創を通過した後、該傾斜切口の通過長さが増加するのに伴って突出側から非突出側が順次通過するが、このとき、傾斜切口が通過する長さに応じた傾斜切口の外径寸法の増加率が小さくなる。
【0018】
従って、傾斜切口の通過に伴う刺通抵抗の増加率を小さくすることができ、組織に対して切開創を形成すると共にカニューレを通過させる操作を行うに際し、この操作に要する力の変動を小さくすることができる。
【0019】
また本発明に係るカニューレの製造方法では、カニューレを構成する円筒状素材の端部に円筒の片側が円筒に沿って突出した傾斜切口を形成し、この傾斜切口の外周面を研削又は研磨する際に研削又は研磨の進行に対応させて研削面又は研磨面に対する円筒状素材の軸芯の角度を変化させることで、傾斜切口の外周面に、前記傾斜切口の突出した側を突出していない側よりも広い幅とした、不均一な幅のテーパ面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】カニューレの構成を説明する図である。
【図2】トロカールの構成を説明する斜視図である。
【図3】トロカールを構成する切開部材とカニューレとの関係を説明する図である。
【図4】図3の要部を拡大した説明図である。
【図5】カニューレの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るカニューレの構造、及びその製造方法について説明する。本発明に係るカニューレは、着脱可能に装着した切開部材によって組織に切開創を形成すると共に該切開創を刺し通して患部に手術用の器具や薬品等を注入するチューブ等を到達させるための通路を形成するトロカールを構成するものである。
【0022】
本発明のカニューレは、以下の知見に基づいてなされたものである。即ち、カニューレの外径と内径が同じ値(肉厚が等しい)である場合、該カニューレの先端部分の形状に関わらずこのカニューレが組織を通過する際に生じる刺通抵抗の最大値は同じである。しかし、カニューレの先端部分が組織を通過する際の通過長さの増加に伴う抵抗値の増加率は、該先端部分の形状に応じて変化する。そして、医師が手術を行う際には、抵抗値の変化率が小さい方がより安定した操作を行うことが可能である。
【0023】
また本発明のカニューレは、組織を貫通して配置されたとき、該組織から受ける力に対抗して形状を維持し得る強度を有することが必要である。この場合、切開部材を引き抜く際にカニューレが変形しない程度の強度、或いはカニューレが変形可能な程度の強度の両方のカニューレを使用することが可能である。このような強度を発揮し得る材料としては、ステンレス鋼に代表される金属、合成樹脂があり、これらの材料からなるパイプを好ましく用いることが可能である。なお、特にカニューレの中に挿入した器具を動かして使用する際には、変形可能なカニューレを用いることが好ましい。
【0024】
本実施例に係るカニューレ1の構成を説明するのに先立って、図2により、カニューレ1を有するカニューレ部材Aを設けたトロカールBの構成について説明する。図に示すトロカールBは眼科手術の際に用いるように構成されており、結膜、強膜を切開して該切開創にカニューレ部材Aを挿通して残置し、このカニューレ部材Aを利用して手術器具やチューブを挿通し得るように構成したものである。
【0025】
トロカールBは、切開部材Cを着脱可能に装着したカニューレ部材Aを、更にハンドルDに着脱可能に装着して構成されている。そしてハンドルDを医師が把持して操作することで、生体に於ける目的の部位を切開して切開創を形成し、更なる操作に伴って、カニューレ部材Aを切開部材Cと共に移動させて切開創に挿通した後、ハンドルDをカニューレ部材Aから離脱させ、更に、カニューレ部材Aから切開部材Cを離脱させることで、カニューレ部材Aによって切開創に貫通する孔を形成し得るように構成されている。
【0026】
このため、同図(a)に示すように、ハンドルDは医師が把持して操作するのに充分な長さと太さとを有し、更に、把持し易い形状に形成されている。また同図(b)に示すように、カニューレ部材Aのソケット10に設けた切欠部や溝にハンドルDの先端部分を係合させることで装着し、且つこの係合を解除することで離脱させることが可能なように構成されている。
【0027】
次に、本実施例に係るカニューレ1の構成について図1、3、4により説明する。図に示すカニューレ部材Aは、円筒状に形成され内部に切開部材Cを着脱可能に装着するカニューレ1と、カニューレ1を取り付けたソケット10とを有して構成されている。カニューレ1は金属製のパイプ、或いは剛性を持った合成樹脂製のパイプからなり、先端部分に傾斜切口2が形成され、他方側の端部がソケット10に嵌挿された状態で該ソケット10に固定されている。
【0028】
カニューレ1は患部の手術に際し、切開器具Cによって形成した組織の切開創を貫通し、この貫通状態を維持して、手術器具やチューブ等を挿通する通路を形成するものである。このため、適度な剛性を持った円筒状の部材によって構成されている。
【0029】
カニューレ1の先端部分には傾斜切口2が形成されており、この傾斜切口2の外周面にはテーパ部3が形成されている。傾斜切口2は、カニューレ1を構成する円筒状の部材の端部に於ける円周の点2aを頂点とし、この点2aの反対側の点2bを底点として形成されている。即ち、点2aに対応する部位が突出側となり、点2bに対応する部位が非突出側となる。
【0030】
本発明に於いて、傾斜切口2のカニューレ1の軸心1aに対する角度θを限定するものではないが、本実施例では約60度の角度で形成されている(図4参照)。
【0031】
尚、本実施例では傾斜切口2を直線的に形成しているが、この構成に限定するものではなく、カニューレ1を構成する円筒状の部材の端部に於ける点2aが他の円周部よりも突出していれば良い。即ち、カニューレ1の点2aを右側とした側面視に於いて、傾斜切口2の形状が図4に示すように直線状であって良い。また傾斜切口2の側面視の形状は曲線状であって良く、直線と曲線とを組み合わせた形状であっても良い。
【0032】
テーパ部3は傾斜切口2の外周面に形成されている。このテーパ部3は中心を可及的にカニューレ1の軸心1aに一致させるように形成されており、該テーパ部3とカニューレ1の外周面との境界線であるテーパの切上線4が軸心1aに対し略直角になるように形成されている。
【0033】
テーパ部3は傾斜切口2の外周面の全周にわたって均一なテーパ角度を持って形成されているものではなく、全周面にわたって異なるテーパ角度と異なるテーパ面で形成されている。即ち、傾斜切口2を構成する突出側の幅となる点2aから切上線4までの長さは、非突出側の幅となる点2bから切上線4までの長さよりも大きい。このため、テーパ部3の幅となる傾斜切口2の周から切上線4までの寸法は全周にわたって不均一となる。
【0034】
このようなテーパ部3では、カニューレ1の軸心1aに対するテーパ角度(軸心1aとテーパ面とのなす角度)も均一ではなく、全周にわたって異なるテーパ角度となる。即ち、テーパ部3に於ける突出側となる点2a側のテーパ面と軸心1aとのなす角度は、非突出側となる点2b側のテーパ面と軸心1aとのなす角度よりも小さくなる。
【0035】
また、テーパ部3の外周面全面に形成されたテーパ面の形状も側面視が直線となるものではなく、曲線によって構成されている。特に、この曲線は曲率を規定した単純な曲線ではなく、軸心1aに沿った方向に対応して曲率が変化した複雑な曲線となる。このようなテーパ面は、後述する製造方法を採用することで形成することが可能である。
【0036】
上記の如きテーパ部3を構成することで、カニューレ1の軸心1aに対するテーパ部3の傾斜角度が小さくなり、傾斜切口2を構成する点2aから点2bを経て切上線4に至る間の軸心1aに対する外径の増加率を小さくすることが可能である。このため、カニューレ1を組織に形成された切開創を貫通させる際に、傾斜切口2の点2aが切開創を通過し順次点2aから点2bに向かって傾斜切口2が通過し更に切上線4まで通過する際に生じる抵抗の増加率は外径の増加率に対応して小さくなる。
【0037】
従って、医師の操作によって切開部材Cによって組織に切開創を形成した後、引き続く操作に伴ってカニューレ1を貫通させる際に、傾斜切口2が切開創の通過を開始したときに抵抗が増加する。しかし、傾斜切口2の突出側である点2aに対応するテーパ部3の角度が小さいため、抵抗の増加は小さい。その後、テーパ部3の通過に伴って抵抗が増加するものの増加率は小さく、操作に要する力の変動を小さくすることが可能である。そして、切上線4の通過に伴うカニューレ1の貫通時の抵抗は最大値となり、この最大値はカニューレ1の内径と外径とが同じであれば先端部分の形状に関わらず同じ値となる。
【0038】
このように、本実施例のカニューレ1では、切開部材Cによって形成された切開創にカニューレ1を貫通させる際に該カニューレ1を回転させる必要がなく、従って組織を切り裂くことがない。このため、術後に於ける切開創の治癒期間が長くなるようなことがない。
【0039】
ソケット10はハンドルDに着脱可能に装着されるものであり、前述したように、切開部材Cを挿通したカニューレAをソケット10を介してハンドルDに装着し、このハンドルDを医師が操作することによって、切開部材Cによって組織に切開創を形成すると共に切開部材Cを更に組織内に挿入するのに伴ってカニューレ1を組織に貫通させることが可能となる。
【0040】
その後、ソケット10をハンドルDから離脱させ、更に、カニューレAから切開部材Cを引き抜くことで、カニューレ部材A(カニューレ1)を切開創に残置させ、これにより、患部に至る通路を形成し、該通路を通して手術器具による患部の手術や、チューブ類を通した薬品の供給を行うことが可能となる。
【0041】
図3に示すように、カニューレ部材Aのカニューレ1には切開部材Cが着脱可能に挿通されている。切開部材Cは、丸棒状の中実材からなりカニューレ部材Aの長さよりも充分に長く形成された本体20と、本体20の先端部に形成された切刃21と、を有して構成されている。
【0042】
本体20の外径はカニューレ部材Aを構成するカニューレ1の内径よりも僅かに小さい寸法を有しており、略直針状に形成されている。即ち、切刃21を形成した先端部とは反対側の尾部20aを医師が把持して引き抜き操作することで、切開部材Cを容易にカニューレ1から排除し得るように構成されている。
【0043】
しかし、本体20の外径のカニューレ1の内径に対する寸法差が余り大きいと簡単に離脱してしまい好ましくはなく、両者の差が余りに小さいと切開部材Cをカニューレ1に挿通し或いは引き抜く際の操作が容易ではなく好ましくはない。従って、本体20の外径はカニューレ1の内径に対し僅かに小さい程度であることが好ましい。尚、カニューレ1の内側へ入らない尾部20a側については、先端部側から連なる直針状としても良いし、或いはテーパー状等の異なった形状としても良く、外径については限定するものではない。
【0044】
また、カニューレ1が可撓性を有し変形可能な構成となっている場合には、本体20の外径をカニューレ1の内径に対して大きくすることも可能である。
【0045】
切開部材Cには、中実、中空の両方の針を使用可能であり、縫合針、注射針等の各種針先形状を有する針を使用することができる。また縫合針の針先形状を使用する場合、切刃21は先端側から見て一文字状にすることが好ましいが、必ずしも本体20の中心を通る直線と一致して形成されたものである必要はなく、中心から変位した位置を通る直線、或いは中心から変位した位置を通る緩い曲線であっても良く、直線と直線の組合せ、或いは直線と緩曲線の組合せであっても良い。
【0046】
切開部材Cを構成する素材は特に限定するものではなく、ピアノ線や鋼線、ステンレス鋼の線材等を選択的に用いることが可能である。しかし、流通過程での錆の発生を考慮したとき、防錆性に優れたステンレス鋼の線材であることが好ましい。特に、生体適合性に対し高い信頼性を持ったオーステナイト系ステンレス鋼からなる線材を用いることが好ましく、更に、所定の径を持ったオーステナイト系ステンレス線材を予め設定された減面率で冷間線引き加工することで、組織をファイバー状に伸長させた線材は適度な弾性と可撓性を有し且つ高い靱性を有するため好ましい。
【0047】
本件発明者は、本発明に係るカニューレ1を有するトロカールと、特許文献2に記載したカニューレを有するトロカールと、を用いて比較実験を試みた。この実験は、両者ともカニューレの内径と外径を同一とし、これらのカニューレに同一仕様の切開部材を挿通すると共に該切開部材のカニューレ端部からの突出寸法を同一寸法とし、更に、同一の被膜からなる試験材を刺通する際の抵抗(荷重N)を測定した。
【0048】
その結果、特許文献2に記載したトロカール(比較例)の場合、カニューレが試験材に対する刺通を開始した後、0.5mm通過する間に荷重が0.797N増加したのに対し、本発明の場合、0.5mmの間に増加した荷重は0.363Nであった。また試験材を貫通したときの最大荷重は両者とも、3.5Nであった。
【0049】
従って、抵抗の増加率は比較例のカニューレが本発明のカニューレの約2.2倍であった。また、カニューレが試験材を通過するのに伴う抵抗が増加に転じる位置は両者とも同じであった。しかし、最大荷重を生じた位置は、比較例のカニューレよりも本発明のカニューレの方が後方であり、両者の間に約0.8mmの差が生じている。
【0050】
このような結果は、比較例のカニューレが、先端に形成された斜めの切り口の中心軸を基準としたテーパを形成しているのに対し、本発明のカニューレが、先端に形成された傾斜切口の突出側の幅を非突出側の幅よりも広くした不均一な幅のテーパを形成したことに起因しているものといえる。
【0051】
上記の如く、本発明のカニューレでは、医師が操作して組織の切開創にカニューレを貫通させる際に抵抗の増加率が小さく、従って、過大な力を付与する必要がないため、安定した状態で操作することが可能となる。
【0052】
次に、上記の如く構成されたカニューレを製造する方法について図4、5により説明する。本発明は、円筒状素材の先端部分に形成された傾斜切口の外周面に、傾斜切口の突出側のテーパ面の幅を非突出側のテーパ面の幅よりも広い幅とした不均一な幅を持ったテーパ面を形成して図4に示すカニューレ1を製造するための方法である。
【0053】
カニューレ1を製造するに際し、予め目的のカニューレ1の材質や内径及び外径と一致した円筒状の材料を目的のカニューレ1の長さに対応した長さに切断した素材25が用意される。この素材25の一方側の端部は予め設定された角度で切断され、傾斜切口2が形成される。
【0054】
上記の如くして構成された円筒状の素材25の傾斜切口2の外周面を研削又は研磨することによって、外周面にテーパ部3を形成する。円筒状の素材25の外周面にテーパ部3を形成する際に、該円筒状の素材25を研削するか研磨するかは限定するものではなく、円筒状の素材25の材質や外径寸法等の条件に応じて適宜設定することが好ましい。本実施例では、円筒状の素材25を研削することでテーパ部3を形成している。
【0055】
図5はカニューレ1を製造するための研削装置を模式的に示す図である。図に示すように研削装置は、可撓性を持った研削ベルト30と、研削ベルト30を繰り出す供給部31と、研削ベルト30を巻き取る巻取部32と、研削ベルト30を略一定の速度で移送する移送部33と、を有して構成されている。
【0056】
研削ベルト30は、一定の速度で連続して一定方向に移送し得るように構成されていても良く、また一定の長さ範囲を一定の速度で往復移動させつつ一定方向に移動し得るように構成されていても良い。
【0057】
特に、上記研削装置では、研削ベルト30に対し素材25を圧接させる部位に該研削ベルト30を支持するための部材は設けられていない。従って、研削ベルト30に素材25を圧接させたとき、該研削ベルト30には圧接力に応じた撓みが生じることになる。そして、この撓みに対応した研削が行われる。
【0058】
研削ベルト30は可撓性を有する長尺状のベルトの一方側の面に研削材を固着して構成されており、未使用状態で供給部31に巻き付けられている。研削ベルト30を構成する可撓性を有するベルトの材質や、このベルトに固着する研削材の材質及び粒度等の仕様は限定するものではなく、円筒状の素材25の材質や外径等の条件に対応して適宜設定することが好ましい。
【0059】
供給部31は、未使用状態の研削ベルト30を巻き付けておくリールと、このリールを矢印方向に駆動する駆動部材と、を有して構成されている。そして、研削ベルト30による円筒状の素材25の研削の進行に伴って、研削ベルト30を繰り出して供給し得るように構成されている。
【0060】
巻取部32は、使用済の研削ベルト30を巻き取るリールと、このリールを駆動する駆動部材と、を有して構成されている。そして、研削ベルト30による円筒状の素材25の研削の進行に伴って移送された使用済の研削ベルト30を巻き取り得るように構成されている。
【0061】
移送部33は、研削ベルト30を略一定の速度で移送すると共に一定トルクを付与して研削ベルト30に一定の張力を作用させる機能を有するものであり、この機能を有する構造であれば採用することが可能である。このような機能を有するものとして、例えば、研削ベルト30を挟持する一対のローラーからなるローラー対を予め設定された距離だけ離隔して配置しておき、前記ローラー対を一定の回転数のもとに駆動し得るように構成したものがある。また、一対のロードセルを予め設定された距離だけ離隔して配置しておき、このロードセルの出力に対応させて供給部31及び、又は巻取部32を駆動し得るように構成したものもある。更に、前記ローラー対を駆動する駆動モーターとしてトルクモーターを用いる構成であっても良い。
【0062】
移送部33によって研削ベルト30を略一定の速度で移送することによって、円筒状の素材25を研削する際には常に新しい研削材によって研削することが可能となり、確実で安定した研削を実現することが可能となる。
【0063】
研削ベルト30と対向する位置には図示しないロボット機構が配置されている。このロボット機構は、円筒状の素材25の傾斜切口2が形成された端部とは反対の端部側を把持するチャックを有している。このチャックは、回転可能に且つ研削ベルト30に対する姿勢を変化させることが可能なように構成されている。即ち、チャックは、把持した素材25の研削ベルト30に対する傾斜角度を変化させることが可能で、且つ研削ベルト30に対する高さ方向及び出入り方向の位置を変化させることが可能なように構成されている。
【0064】
上記の如く構成された研削装置によって、端部に傾斜切口2が形成された円筒状の素材25を研削して前記傾斜切口2の外周面にテーパ部3を形成する手順について説明する。
【0065】
先ず、巻取部32を駆動すると共に移送部33を作動させて研削ベルト30を移送する。同時に図示しないチャックによって円筒状の素材25を把持し、この状態で、図5(a)に示すように、素材25を研削ベルト30の移送方向に対し垂直に、且つ同図(b)に示すように、研削ベルト30の幅方向に対し角度α(例えば45度)を持って傾斜させた姿勢に保持する。
【0066】
その後、チャックを回転させて円筒状の素材25を軸心を中心として回転させつつ下降させ、傾斜切口2の点2aを研削ベルト30に圧接させる。この圧接によって研削ベルト30には図に示すような撓みが生じる。そして、素材25の先端部分を研削ベルト30に圧接させて予め設定された回数だけ回転したとき、点2aを含む該点2aの近傍の外周面を曲面状に研削してテーパ部3の一部を形成することが可能である。
【0067】
チャックが所定の回転数を終了したとき、チャックを上昇させて素材25を研削ベルト30から離隔させる。チャックを上昇させて円筒状の素材25を研削ベルト30から離隔させた後、このチャックの傾斜角度を角度αよりも小さい第2の角度(例えば40度)に変化させると共に該チャックの研削ベルト30の幅方向への位置を変化させて、素材25の傾斜切口2を構成する点2aをより研削ベルト30の幅方向中心側に位置させる。
【0068】
その後、チャックを回転させて円筒状の素材25を軸心を中心として回転させつつ下降させ、既にテーパ部3の一部が形成された傾斜切口2の外周面を研削ベルト30に圧接させる。この圧接によって研削ベルト30に撓みが生じ、素材25の先端部分を研削ベルト30に圧接させて予め設定された回数だけ回転したとき、既に形成されているテーパ部3の一部を含んで曲面状に研削することが可能となる。即ち、角度αの姿勢で形成したテーパ部3の一部を連続して伸長させたテーパ部3を形成することが可能となる。
【0069】
チャックが所定の回転数を終了したとき、チャックを上昇させて素材25を研削ベルト30から離隔させた後、このチャックの傾斜角度を上記第2の角度よりも小さい角度α(例えば35度)に変化させると共に該チャックの研削ベルト30の幅方向への位置を変化させて、素材25の傾斜切口2を構成する点2aをより研削ベルト30の幅方向中心側に位置させる。その後、前述したようにチャックを回転させて円筒状の素材25を軸心を中心として回転させつつ下降させ、既にテーパ部3の一部が形成された傾斜切口2の外周面を研削ベルト30に圧接させて予め設定された回数だけ回転させることで、既に形成されているテーパ部3の一部を含んで曲面状に研削し、第2の角度の姿勢で形成したテーパ部3の一部を更に伸長させたテーパ部3を形成することが可能となる。
【0070】
上記したチャックの傾斜角度αを角度α〜角度αのように順に小さくなるように変化させると共に研削ベルト30の幅方向への位置を変化させ、チャックを回転させつつ下降させて円筒状の素材25に形成された傾斜切口2の外周面を研削ベルト30に圧接させて研削する作業を繰り返すことで、傾斜切口2の外周面に形成されたテーパ部3を伸長させることが可能である。チャックの傾斜角度αを角度α〜角度αのように順に小さくなるように変化させる場合、角度を段階的に変化させても良く、連続的に変化させても良い。
【0071】
特に、チャックの傾斜角度が小さくなるのに従って傾斜切口2を構成する点2a、及び点2aを含む近傍は研削ベルト30から離隔することとなり、研削が進行しない。そして、チャックの傾斜を最も小さい角度α(例えば25度)に設定して円筒状の素材25を研削ベルト30に圧接させたとき、研削ベルト30による素材25に対する研削部位は傾斜切口2から離隔した位置となる。このときの研削によって、テーパ部3と素材25の円筒部分の外周面とが切上線4を介して円滑に連続する。
【0072】
従って、図1〜図4では切上線4を明瞭な線として記載したが、実際のカニューレ1では切上線4が明確な不連続部として現れることはない。
【0073】
上記の如く、可撓性を有する研削ベルト30を用いることによって、円筒状の素材25の研削すべき先端部分を圧接させたときに該研削ベルト30に撓みが生じ、撓んだ研削ベルト30によって素材25の圧接部分を包み込むようにして研削することが可能となる。即ち、素材25の研削すべき先端部分を直線的に研削するのではなく、曲面的に研削することが可能となる。
【0074】
従って、素材25に形成された傾斜切口2の外周面を、該素材25の研削ベルト30に対する傾斜角度αを順に小さくなるように変化させて研削することによって、点2a及び該点2aを含む近傍では大きな曲率を持った曲面状に形成され、点2b及び該点2bを含む近傍では前記曲率よりも小さい曲率を持った曲面状に形成され、点2bよりも素材25の長手方向に離隔した部位では更に小さい曲率を持った曲面状に形成される。
【0075】
そして、上記の如く、異なる曲率を持った曲面は、研削ベルト30が可撓性を有することにより互いに円滑に連続してテーパ部3を構成する。特に、最終段階での研削時に於ける素材25の傾斜角度を極めて小さくすることによって、テーパ部3と素材25の円筒部分の外周面との境界線である切上線4を素材25の軸心(カニューレ1の軸心1a)に対し略直角に形成することが可能となる。
【0076】
従って、点2aから切上線4までの寸法(突出側の幅)は点2bから切上線4までの寸法(非突出側の幅)よりも大きい不均一なテーパ幅を持ったテーパ部3を構成することが可能となる。
【0077】
上記手順を経ることにより、円筒状の素材25からカニューレ1を製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本実施例では眼科用手術に用いるカニューレとその製造方法について説明したが、このカニューレは内視鏡手術に際し、表面組織に形成した切開創を貫通させるカニューレとして利用することが可能であり、このようなカニューレを製造する際に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
A カニューレ部材
B トロカール
C 切開部材
D ハンドル
1 カニューレ
1a 軸心
2 傾斜切口
2a、2b 点
3 テーパ部
4 切上線
10 ソケット
20 本体
20a 尾部
21 切刃
25 素材
30 研削ベルト
31 供給部
32 巻取部
33 移送部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術を行う際に用いるトロカールを構成し内部に切開部材を着脱可能に挿入する円筒状のカニューレであって、先端部分に円筒の片側が突出した傾斜切口が形成され、前記傾斜切口の外周面に、前記傾斜切口の突出した側を突出していない側よりも広い幅とした、不均一な幅のテーパ面が形成されていることを特徴とするカニューレ。
【請求項2】
請求項1に記載したカニューレを製造するための方法であって、円筒状素材の端部に円筒の片側が突出した傾斜切口を形成し、前記傾斜切口の外周面を研削又は研磨する際に研削又は研磨の進行に対応させて研削面又は研磨面に対する円筒の軸芯の角度を変化させることで、傾斜切口の外周面に、前記傾斜切口の突出した側を突出していない側よりも広い幅とした、不均一な幅のテーパ面を形成することを特徴とするカニューレの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−45604(P2011−45604A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197630(P2009−197630)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(390003229)マニー株式会社 (66)
【Fターム(参考)】