説明

カバードステント

【課題】 マイグレーションの発生を抑えることができるカバードステントを提供する。
【解決手段】
筒状のベアステント(16)と、前記ベアステントの外周を覆う被覆フィルム(50)と、を含むカバードステントであって、前記ベアステントは、当該ベアステントの両端部の間に、筒状の本体の一部が外径方向へと突出する突起部(16a)を備え、前記突起部により構成されるとともに、当該カバードステントの外周表面から外径方向に突出する凸形状(34)を少なくとも1つ含む外形状を有することを特徴とするカバードステント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバードステントに関し、特に、消化器系や血管等に留置した際に、マイグレーションの発生を抑えることができるカバードステントに関する。
【背景技術】
【0002】
胆管、食道、十二指腸、大腸などの消化器系体内管腔や血管が、がん細胞などにより狭窄または閉塞した場合に、体内管腔を確保する目的で、種々のステント(ベアステント)が使用されている。しかし、体内に留置されるステントでは、ステントの周壁を越えてがん細胞等が成長(浸潤)することによって、ステントによって確保された管腔が再度狭窄または閉塞してしまうという問題が発生する場合がある。
【0003】
そこで、これを防止する従来技術として、ベアステントを樹脂フィルムで被覆したカバードステントが提案されている(例えば特許文献1等参照)。カバードステントでは、ベアステントを被覆する樹脂フィルムが、がん細胞の成長などによる体内管腔の狭窄を抑制することができる。また、ベアステントを、多数の空孔が形成された樹脂フィルムで被覆したカバードステントも提案されている(例えば特許文献2、3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−327609
【特許文献2】特開2005−152527
【特許文献3】特開2009−108163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のカバードステントは、ベアステントの外周を樹脂フィルムで被覆しているため、ベアステントに比べて、その外周面が滑らかであり、このため、留置した場所からカバードステントが移動してしまうという問題(マイグレーション)が発生し易いことが判明した。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、消化器系や血管等に留置した際に、マイグレーションの発生を抑えることができるカバードステントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係るカバードステントは、筒状のベアステントと、前記ベアステントの外周を覆う被覆フィルムと、を含むカバードステントであって、
前記ベアステントは、当該ベアステントの両端部の間に、筒状の本体の一部が外径方向へと突出する突起部を備え、
前記突起部により構成されるとともに、当該カバードステントの外周表面から外径方向に突出する凸形状を少なくとも1つ含む外形状を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るカバードステントは、被覆フィルムによってベアステントが覆われているため、被覆フィルムの周壁を越えてベアステント内にがん細胞等が成長することを防止でき、これにより、体内管腔が閉塞するまでの期間を延ばすことができる。さらに、本発明に係るカバードステントは、ステント外周表面から外径方向に突出する凸形状を含む外形状を有するため、ステントが体内管腔に留置された際に、この凸形状が体内管腔に接触してアンカリングする効果を奏し、これにより、前述したマイグレーションを抑えることができる。また、ベアステントの突起部が凸形状を構成することによって、カバードステントは、縮径されたとき、よりコンパクトな状態となることができる。
【0009】
また、前記突起部は、前記ベアステントの周方向に沿って連続するリング形状であってもよい。このような構成によれば、体内管腔により密着し得るため、マイグレーションの発生をより一層抑えることができる。
【0010】
また、例えば、前記突起部は、前記本体に2つ形成されていてもよく、これらの2つの突起部は、前記本体の中央位置を基準として、前記中央位置から前記両端部側に向かって均等距離離れた位置に配置されてもよい。このようなカバードステントは、2つの第2の部分によって構成される2つの凸形状を有するため、マイグレーションの抑制効果が大きく、また、凸形状がステント中央から均等の位置に配置されており、留置時の向きを問わないため、使い易いという効果を奏する。
【0011】
また、例えば、前記ベアステントは、前記両端部の少なくとも一方の端部に設けられるフレア部をさらに含んでいてもよく、前記フレア部は、前記本体側から前記フレア部の末端側に向かうにつれて外径が大きくなるテーパ状に形成されていてもよい。
【0012】
ベアステントのフレア部は、突起部と同様に、カバードステントを体内管腔にアンカリングするための外形状であるフレア形状部を構成するため、マイグレーションを抑えることが可能である。例えば、このようなカバードステントを胆管に留置した場合には、胆管に留置した直後の状態では、凸形状が狭窄中心部付近における胆管の壁面に引っ掛かってマイグレーションを抑制し、さらに、留置して数日経過して、胆管に溜まった胆汁で膨らんでいた胆管がカバードステントによる胆汁の排液にともなって胆管収縮が起こると、凸形状に加えてフレア部によって構成されるフレア形状部も胆管の壁面と接触するため、より効果的にマイグレーションを抑制することができる。
【0013】
また、例えば、前記被覆フィルムは、前記ベアステントの内径方向を向く内側表面を含む内周層と、前記ベアステントの外径方向を向く外側表面を含み当該外側表面に開口する複数の空孔が当該外側表面に沿って規則的に配列されている外周層とを含んでもよい。
【0014】
空孔が形成されていない内周層は、空孔が形成されている外周層に比べて破れにくいため、このような被覆フィルムは、カバードステントが変形を繰り返した場合にも破損しにくい。また、このようなカバードステントは、内周層の厚さ等を適切に設定することによって、カバードステントの柔軟性を確保して、マイグレーションを抑制することができる。
【0015】
本発明に係るカバードステントは、胆管、十二指腸、大腸などを含む消化器に対して好適に用いられるが、胆管に用いられる胆管ステントとして特に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るカバードステントの概略図である。
【図2】図2は、図1に示すカバードステントに含まれるベアステントの一部を表す部分平面図である。
【図3】図3は、図1に示すカバードステントにおける各部の寸法を説明した概念図である。
【図4】図4は、図1に示すカバードステントの断面図である。
【図5】図5は、図4の一部を拡大した拡大断面図である。
【図6】図6は、図1に示すカバードステントに含まれる第2のポリマーフィルムのスケッチ図である。
【図7】図7は、図6に示す第2のポリマーフィルムの断面形状を表した拡大断面図である。
【図8】図8は、図1に示すカバードステント10を、胆管に留置した状態を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るカバードステント10の概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るカバードステント10は、フレーム17により形成される筒状のベアステント16と、ベアステント16の外周を覆う被覆フィルム部50とを含む。
【0018】
図2は、図1に示すカバードステント10に含まれるベアステント16の一部を表す平面図である。ベアステント16は、筒状のベアステント本体部160と、ベアステント16の両端部に設けられるベアステントフレア部16cとを備える。ベアステント本体部160には、ベアステント本体部160の一部が外径方向へと突出するベアステント突出部16aが形成されている。すなわちベアステント本体部160は、所定の外径を有するベアステント筒部16bと、ベアステント筒部16bから外径方向に突出するベアステント突出部16aとを備える。ベアステント突出部16aは、ベアステント16の周方向に沿って連続するリング形状である。ベアステント突出部16aは、ベアステント本体部160に2つ形成されており、これら2つのベアステント突出部16aは、ベアステント本体部160aの中央位置を基準として、中央位置からベアステント16の両端部に向かって等距離離れた位置に配置される。
【0019】
ベアステントフレア部16cは、ベアステント本体部160側から、当該ベアステントフレア部16cの末端側に向かうにつれて外径が大きくなるテーパ状に形成されている。具体的には、ベアステントフレア部16cは、カバードステント本体部100の両端に位置するベアステント筒部16bより径が大きいベアステント末端部16eと、ベアステント本体部160との接続部からベアステント末端部16に向かって、ストラット10bがベアステント16の軸方向に対して傾斜しているベアステント傾斜部16dとを備える。ベアステント末端部16eの軸方向の長さは、特に限定されず、長さが0mm(ベアステント傾斜部16dの先端がベアステント末端部16e)であってもよい。図2に示すように、軸方向に沿って一定の径を有するベアステント末端部16eを備えることによって、カバードステント10は安定した胆管への引っ掛かり(アンカリング)効果を発現し、高いマイグレーション抑制効果を奏する。
【0020】
ベアステント16は、金属製の線状部材であるフレーム17により形成されている。ここでベアステントは編込みで形成されたタイプでもパイプをレーザーカットで形成したレーザーカットタイプでも構わないが、長軸方向の長さが伸び縮みし難いレーザーカットタイプであればより好ましい。フレーム17の断面形状は四角形状や円状とすることができる。ベアステント16は、フレーム17によって円環状に形成される複数のストラット170aと、隣接するストラット間を接続するブリッジ170bとを備えている。ストラット170aは、フレーム17をベアステントの軸方向に沿ってジグザグに折り返し、ベアステント16の周方向に沿って三角波状に連続する円環状に形成されている。また、ブリッジ170bは、S字状に形成されており、隣接するストラット170aにおける三角波の頂点である頂点部17aの一部を軸方向に接続している。このようにして複数のストラット170aが接続されることにより、筒状のベアステント16が構成されている。ここで、隣接する2つのストラット170aは、複数のブリッジ170bによって接続されている。隣接する2つのストラット170aを接続するブリッジ170bの数は、どのストラット170a間でも同じであるが、隣接する2つのストラット170aを接続するブリッジ170bの位置は、軸方向に並んで形成されることはなく、周方向にずれている。
【0021】
なお、ベアステント突出部16aやベアステントフレア部16cは、ベアステント筒部16bより膨らんでいるため、ベアステント筒部16bは、ベアステント突出部16aやベアステントフレア部16cに比べてフレーム17が密に配置されている。ベアステント突出部16aやベアステントフレア部16cのストラット170aは、ベアステント筒部16bのストラット170aより密度が低い。
【0022】
図1に示すように、被覆フィルム部50は、図2に示すようなベアステント16の周壁形状を追従しつつ、ベアステント16を被覆している。したがって、カバードステント10は、ベアステント16の周壁形状に対応する外形状を有する。具体的には、カバードステント10は、カバードステント10の両端部に設けられるフレア形状部38と、カバードステント10の両端部の間に設けられるカバードステント本体部100とを含む外形状を有する。
【0023】
カバードステント本体部100は、ベアステント突起部16a(図2)によって構成されるとともに、ステント外周表面12から外径方向に突出する2つの凸形状部34と、ベアステント筒部16b(図2)によって構成される筒形状部36とを備える。凸形状部34は、カバードステント10の周方向に沿って連続するリング形状である。2つの凸形状部34は、カバードステント本体部100の中央位置を基準として、当該中央位置からカバードステント10の両端部に向かって等距離離れた位置に配置される。凸形状部34は、留置された際に体内管腔に引っ掛かり、カバードステント10が留置位置から軸方向に移動することを抑制することができる。
【0024】
フレア形状部38は、ベアステントフレア部16c(図2)によって構成されるとともに、カバードステント本体部100側からフレア形状部38の末端側に向かうにつれて外径が大きくなるテーパ状に形成されている。フレア形状部38は、ベアステント傾斜部16dによって構成される傾斜形状部42と、ベアステント末端部16eによって構成されるベアステント末端部40とを備える。フレア形状部38も、留置された際に体内管腔に引っ掛かり、カバードステント10が留置位置から軸方向に移動することを抑制することができる。
【0025】
図3は、図1に示すカバードステント10における各部の寸法を説明した概念図である。カバードステント10の全長Hは、カバードステント10を留置する体内管腔の大きさや、狭窄部の大きさに応じて決定されるが、30mm〜200mmとすることができ、40mm〜120mmとすることが好ましい。また、カバードステント10における筒形状部36の径Dも、カバードステント10を留置する体内管腔の大きさや、狭窄部の大きさに応じて決定されるが、φ2mm〜φ20mmとすることができ、φ4mm〜φ15mmとすることが好ましく、φ6mm〜φ10mmとすることがさらに好ましい。
【0026】
凸形状部34の径Eは、筒形状部36の径Dに対して1.1〜2.1倍(E/D=1.1〜2.1)とすることが好ましく、1.2〜1.6倍(E/D=1.2〜1.6)とすることがさらに好ましい。凸形状部34の径Eと筒形状部36の径Dの比率を適切に設定することにより、体内管腔を適切に確保しつつ、カバードステント10の留置位置からの移動を抑制することができる。また、凸形状部34の軸方向の長さFは、筒形状部36の径Dに対して0.2〜2.1倍(F/D=0.2〜2.1)とすることが好ましく、0.4〜1.6倍(F/D=0.4〜1.6)とすることがさらに好ましい。凸形状部34の長さFと筒形状部36の径Dの比率を適切に設定することにより、カバードステント10を留置した際に、凸形状部34が、体内管腔の壁面に対して適切に引っ掛かり、好適なアンカリング効果を奏することができる。
【0027】
さらに、カバードステント10の端部から凸形状部34の中央部までの距離Aは、カバードステント10の全長Hに対して、0.1〜0.4倍(A/H=0.1〜0.4)とすることが好ましく、0.3〜0.4倍(A/H=0.3〜0.4)とすることがさらに好ましい。距離Aと全長Hの比率を適切に設定することによって、カバードステント10を留置した際に、凸形状部34を狭窄部の中央部付近もしくは中央部付近からややカバードステント10の端部側寄りに配置することができ、凸形状部34が好適なアンカリング効果を奏することができる。なお、凸形状部34は、カバードステント10における軸方向の中心位置であるステント中央10bから均等の位置に2つ配置されることが好ましい。カバードステントは一般的に胆管狭窄に対して中心に留置することでカバードステントの中心付近で狭窄を拡張させることでもれなく狭窄全体を拡張することを目指すが、このような凸形状配置とすることによって、凸部が胆管狭窄の前後に位置し易くなって胆管内にアンカリングし易くなり高いマイグレーション抑制効果を奏する。
【0028】
フレア形状部38における末端形状部40の径Cは、筒形状部36の直径Dに対して1.1〜2.1倍(C/D=1.1〜2.1)とすることが好ましく、1.2〜1.6倍(C/D=1.2〜1.6)とすることがさらに好ましい。末端形状部40の径Cと筒形状部36の径Dの比率を適切に設定することにより、体内管腔を適切に確保しつつ、カバードステント10の留置位置からの移動を抑制することができる。フレア形状部38の長さGは、カバードステント10の全長Hに対して、0.1〜0.4倍(G/H=0.1〜0.4)とすることが好ましく、0.1〜0.3倍(G/H=0.1〜0.3)とすることがさらに好ましい。フレア形状部38が好適なアンカリング効果を奏し、かつ、カバードステント10の残余部分(カバードステント本体部100)に凸形状部34を適切に配置できるようにするためである。
【0029】
凸形状部34の径Eと末端形状部40の径Cは、同じ(E=C)であることが好ましい。凸形状部34の径Eと末端形状部40の径Cを同じとすることによって、カバードステント10は、小さい直胴部外径Dと外径E及び外径Cの外径における段差を最大限にしてアンカリング効果を発揮しつつ、端部と中間部の拡張力(ラディアルフォース)のばらつきを抑えて出来るだけ均等に胆管狭窄を拡張させるという効果を奏する。さらに、ステント中央部10bを挟んで両側に配置される2つの凸形状部34は、互いに同一形状であることが好ましく、また、カバードステント中央部10bを挟んで両側に配置される2つのフレア形状部38も、互いに同一形状であることが好ましい。
【0030】
図2に示すベアステント16は、被覆フィルム部50によって被覆されたカバードステントとしてだけでなく、フィルム等で被覆されないベアステントとしても使用可能なものであってもよい。ベアステント16を構成するフレーム17の線径は、0.05〜1mmであることが好ましい。また、フレーム17の断面が矩形である場合には、フレーム17の断面における長辺方向の長さが1〜10mmであって、短辺方向の長さが0.05〜5mmであることが好ましい。
【0031】
ベアステント16の外径寸法は、上述したカバードステント10の寸法とほぼ同様である。しかし、ベアステント16およびカバードステント10の径は、カバードステント10が留置位置まで搬送される際などには、留置される際の寸法である上述の値に対して、数分の1程度に縮径されていてもよい。
【0032】
ベアステント16の材料としては、合成樹脂または金属が使用される。ベアステント16に使用される合成樹脂としては、適切な硬度と弾性を有するものを使用することが可能であり、生体適合性樹脂であることが好ましい。ベアステント16の材料として使用される合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂などが挙げられる。また、ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。また、フッ素樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。
【0033】
ベアステント16に使用される金属としては、ニッケルチタン(Ni−Ti)合金、ステンレス鋼、タンタル、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金等が挙げられるが、Ni−Ti合金のような超弾性合金が好ましい。ベアステント16に使用される超弾性合金の具体例としては、49〜58原子%NiのTi−Ni合金が挙げられる。また、Ti−Ni合金中の原子のうち0.01%〜10.0%を他の原子で置換したTi−Ni−X合金(X=Co、Fe、Mn、Cr、V、Al、Nb、W、Bなど)や、Ti−Ni合金中の原子のうち0.01〜30.0%を他の原子で置換したTi−Ni―X合金(X=Cu、Pb、Zr)等も、ベアステント16の材料として好適である。これらの超弾性合金の機械的特性は、冷却加工率および/または最終熱処理の条件を選択することにより調整される。
【0034】
ベアステント16の成形は、例えば、YAGレーザー等を用いたレーザー加工、放電加工、化学エッチング、切削加工等によって、チューブ状もしくはパイプ状の母材を加工することによって行うことができる。なお、図2に示すようなベアステント突出部16aやベアステントフレア部16cを、ベアステント16に形成する方法としては、特に限定されないが、例えばレーザー加工後の直胴(円筒状)のベアステント16に、ベアステント突出部16a等に相当する突起を有する芯材を挿入した後、ベアステント16を熱処理する方法が挙げられる。
【0035】
ベアステント16には、単数または複数のX線マーカーが設置されていることが好ましい。X線マーカーは、例えば、X線造影性材料(X線不透過材料)によって構成される。カバードステント10を体内管腔に留置した場合、X線造影下でX線マーカーの位置を確認することによって、カバードステント10の留置位置を把握することができる。
【0036】
図4は、図1に示すカバードステント10の断面図である。ただし、図4は、図1に示す状態から、2分の1に径を縮小した状態を表している。図4に示すように、ベアステント16の表面はコーティング膜26で覆われており、また、コーティング膜26は、隣接するフレーム17の間を埋めるように広がっており、ベアステント16の外周面を被覆している。コーティング膜26によって覆われたベアステント16の外周は、第1のポリマーフィルム30と第2のポリマーフィルム14とを含む被覆フィルム部50によって覆われている。
【0037】
コーティング膜26によってベアステント16を被覆することによって、カバードステント10の内周面であるステント内周表面10aを、平滑にすることができる。ステント内周表面10aを平滑にすることで、カバードステント10を消化器管に留置した場合は、ステント内周表面10aに老廃物が堆積し難くなり、感染症が防止されるとともに、管腔が再度狭窄または閉塞してしまうことを防止できる。
【0038】
コーティング膜26の材料としては、樹脂等のポリマーが用いられるが、その中でも、有機溶媒に溶解し毒性の少ないものが好ましい。コーティング膜26に用いることができるポリマーとしては、例えば非生体分解性樹脂や生体分解性樹脂を使用できるが、生体内で容易に分解されない非生体分解性樹脂を用いることが好ましく、非生体分解性樹脂の中でも、ポリウレタンを用いることが特に好ましい。なお、コーティング膜26を構成する樹脂には、必要に応じて、抗がん剤や抗血栓剤などの薬剤や、老化防止剤などの添加剤を配合しても良い。
【0039】
ベアステント16の表面にコーティング膜26を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、拡径されているベアステント16を、回転可能な軸部材に外嵌して軸回転させ、軸回転するベアステント16に樹脂溶液を滴下し、ベアステント16に樹脂を付着させる方法が挙げられる。この際、樹脂溶液に用いる溶媒は、揮発性が高いものであることが好ましく、例えば、コーティング膜26をポリウレタンで構成する場合には、テトロヒドロフランまたはテトロヒドロフランと1,4−ジオキサンとの混合溶媒を用いることができる。
【0040】
図1に示すように、カバードステント10の外周表面であるステント外周表面12は、被覆フィルム部50によって構成されている。図4に示すように、ベアステント16の外周を覆う被覆フィルム部50は、第1のポリマーフィルム30と第2のポリマーフィルム14を含む。第1のポリマーフィルム30は、ベアステント16と第2のポリマーフィルム14の間に配置されており、ベアステント16の外周を被覆する。
【0041】
第1のポリマーフィルム30の厚さは、第1のポリマーフィルム30全体の平均値で考えて、4〜20μmとすることが好ましい。第1のポリマーフィルム30が厚すぎると、カバードステント10の柔軟性が不足するおそれがある。また、第1のポリマーフィルム30が薄すぎると、第2のポリマーフィルム14を、ベアステント16による穿孔等から保護できなくなるおそれがある。
【0042】
第1のポリマーフィルム30は、ベアステント16の外周を、1周以上1周半未満周回するように、ベアステント16に巻きつけられている。第1のポリマーフィルム30の巻回数を1周〜1周半とすることによって、第2のポリマーフィルム14をベアステント16による穿孔等から保護しつつ、カバードステント10の柔軟性が不足することを防止することができる。
【0043】
第1のポリマーフィルム30の材料としては、ゴムや樹脂等のポリマーが用いられるが、その中でも、有機溶媒に溶解し毒性の少ないものが好ましい。また、第2のポリマーフィルム14をベアステント16による穿孔等から保護するために、第1のポリマーフィルム30の材料としては、第2のポリマーフィルム14に用いた樹脂に比べて、高い強度を有する樹脂を用いることが好ましい。たとえば、第1のポリマーフィルム30をポリウレタンによって構成し、第2のポリマーフィルム14をポリブタジエンによって構成することが好ましい。
【0044】
図4に示すように、第2のポリマーフィルム14は、第1のポリマーフィルム30に対して、ベアステント16の外径方向側に配置されている。第2のポリマーフィルム14は、第1のポリマーフィルム30に被覆されたベアステント16を、第1のポリマーフィルム30の上から覆っている。
【0045】
第2のポリマーフィルム14は、ベアステント16の外周に2周以上巻きつけられることによって、カバードステント10の最外周面に位置する部分をベアステント16の突起等による穿孔から保護できる。また、第2のポリマーフィルム14の周回数が多すぎると、カバードステント10の柔軟性が不足しマイグレーションが発生し易くなる場合がある。
【0046】
図5は、図4の一部を拡大した拡大断面図である。第2のポリマーフィルム14は、ベアステント16の内径方向を向く内側表面18aを含む内周層18と、ベアステント16の外径方向を向く外側表面20aを含む外周層20を含む。外周層20には、複数の空孔22が形成されている。第2のポリマーフィルム14は、第2のポリマーフィルム14の厚さ方向に沿って内周層18と外周層20とが積層された2層構造を有している。第2のポリマーフィルム14は、管状の外形状を有するカバードステント10の外周表面であるステント外周表面12を構成しており、第2のポリマーフィルム14の厚さ方向は、カバードステント10の径方向と略一致する。
【0047】
図7は、第2のポリマーフィルム14の部分拡大断面図である。内周層18と外周層20とを合わせた第2のポリマーフィルム14の全体の厚さLは、第2のポリマーフィルム14の全体における平均値で考えて、2〜50μmとすることが好ましい。
【0048】
外周層20に形成されている複数の空孔22は、第2のポリマーフィルム14の外側表面20aに開口する。図7に示すように、空孔22に対して内径方向には、空孔22が形成されていない内周層18が存在するため、空孔22は、内側表面18a側には開口していない。
【0049】
また、複数の空孔22は、第2のポリマーフィルム14の外側表面20aに沿って規則的に配列されている。図6は、図1に示すカバードステント10に含まれる第2のポリマーフィルム14を、外側表面20aの側(カバードステント10の外周側)から観察したレーザー顕微鏡写真のスケッチ図である。図6に示すように、外周層20に形成されている複数の空孔22は、互いに略等しい形状を有している。このように、外周層20は、互いに略等しい形状を有する複数の空孔22が配列されたハニカム様構造を有している。空孔22の孔径K(図7参照)の平均値は、0.1〜10μmとすることが好ましい。
【0050】
図7に示すように、空孔22の孔径Kとは、空孔22の開口形状に対する最大内接円の直径を指す。したがって、空孔22の孔径Kとは、空孔22の開口形状が実質的に円形状である場合はその円の直径を指し、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径を指し、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さを指し、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さを指すものである。空孔22の孔径Kの測定は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や、レーザー顕微鏡等を用いて行うことができる。
【0051】
図7に示すように、外周層20の厚さJは、第2のポリマーフィルム14全体における平均値で考えて、1.0〜19.5μmとすることが好ましい。これに対して、内周層18の厚さIは、第2のポリマーフィルム14全体における平均値で考えて、0.5〜3.0μmとすることが好ましい。
【0052】
カバードステント10において、第2のポリマーフィルム14における外周層20と内周層18は、互いに連続する単一の膜を構成している。すなわち、外周層20と内周層18は略同一の組成を有しており、外周層20と内周層18の間に組成的な変化はなく、接合部分等も存在しない。
【0053】
第2のポリマーフィルム14を構成する材料としては、ゴムや樹脂等のポリマーが用いられるが、例えば、非生体分解性樹脂や生体分解性樹脂等を使用できる。生体内において細胞増殖抑制作用を長期間持続させる観点からは、生体内で容易に分解されない非生体分解性樹脂から形成されてなるものが好ましい。
【0054】
第2のポリマーフィルム14を構成する材料としては、ポリブタジエン(1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などの共役ジエン系高分子;ポリε−カプロラクトン;ポリウレタン;酢酸セルロース、セルロイド、硝酸セルロース、アセチルセルロース、セロファンなどのセルロース系高分子;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド46などのポリアミド系高分子;ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、パーフルオロエチレン−プロピレン共重合体などのフッ素高分子;ポリスチレン、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体、塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリルースチレン共重合体などのスチレン系高分子;ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテンなどのオレフィン系高分子;フェノール樹脂、アミノ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などのホルムアルデヒド系高分子;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系高分子;エポキシ樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体などの(メタ)アクリル系高分子;ノルボルネン系樹脂;シリコン樹脂;ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリグリコール酸などのヒドロキシカルボン酸の重合体;などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
これらの中でも、規則性の高い空孔サイズを有したフィルムを得るためには、共役ジエン系高分子、スチレン系高分子またはポリウレタンの使用がより好ましく、1,2−ポリブタジエンの使用が特に好ましい。また、第2のポリマーフィルム14は、第1のポリマーフィルム30より加水分解されにくい樹脂によって構成されることが、カバードステント10を体内管腔に長期間留置させる観点から好ましい。第2のポリマーフィルム14は、第1のポリマーフィルム30を被覆しているため、第1のポリマーフィルム30より体液に曝され易いからである。たとえば、第1のポリマーフィルム30をポリウレタンによって構成し、第2のポリマーフィルム14をポリブタジエンによって構成することが好ましい。
【0056】
また、第2のポリマーフィルム14を構成する樹脂には、両親媒性物質を添加してもよい。添加する両親媒性物質としては、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体;アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性樹脂;ヘパリンやデキストラン硫酸、核酸(DNAやRNA)などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス;ゼラチン、コラーゲン、アルブミンなどの水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性樹脂;ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体などの両親媒性樹脂;などが挙げられる。
【0057】
第2のポリマーフィルム14を作製する方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂の有機溶媒溶液を基板上にキャストし、キャストした有機溶媒溶液に対して加湿空気を吹き付け、該有機溶媒を蒸散させるとともにキャストした有機溶媒液表面で水滴を結露させ、さらに結露により生じた微少水滴を蒸発させる方法が挙げられる。すなわち、第2のポリマーフィルム14は、樹脂の有機溶媒溶液の液面において結露を発生させ、結露により生じた微少水滴を鋳型として利用する方法によって作製することができる。このような作製方法によれば、一方の表面にのみ開口する空孔22が表面方向に沿って規則的に配列されている第2のポリマーフィルム14を作製することができる。また、このような方法によれば、孔径Kの均一性が高いハニカム様構造を有する第2のポリマーフィルム14を作製することができる。
【0058】
上述した方法では、樹脂の有機溶媒溶液を用いる。樹脂の有機溶媒溶液に用いる有機溶媒は、キャスト液表面上に微少水滴を形成させるために、非水溶性であることが好ましい。樹脂の有機溶媒溶液に用いる有機溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの飽和炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;二硫化炭素;などが挙げられる。これらの有機溶媒は1種単独で、あるいはこれらの2種以上からなる混合溶媒として使用することができる。
【0059】
有機溶媒溶液において、有機溶媒に溶解する樹脂の濃度は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。樹脂濃度が0.01重量%より低いと得られるフィルムの力学的強度が不足し望ましくない。また、樹脂濃度が10重量%以上では、所望の多孔構造(ハニカム様構造)が得られなくなるおそれがある。
【0060】
上述した第1の方法または第2の方法により第2のポリマーフィルム14を作製する場合には、先述の両親媒性物質を、樹脂に添加することが好ましい。両親媒性物質を樹脂に添加することによって、結露により生じた微少水滴の融合が抑制され、微少水滴の形状が安定するため、第2のポリマーフィルム14に形成される空孔22の孔径Kが均一化される。
【0061】
第2のポリマーフィルム14における空孔22の孔径K、第2のポリマーフィルム14の厚さL、外周層20の厚さJおよび内周層18の厚さI等は(図7参照)、第2のポリマーフィルム14の作製条件を調整することによって制御される。このような第2のポリマーフィルム14の作製条件には、キャストする有機溶媒溶液の液量、有機溶媒溶液における樹脂濃度、キャストされた溶液周辺の雰囲気、加湿空気の温度および湿度、加湿空気の流量、有機溶媒溶液における溶媒の蒸発スピード、結露スピード等が挙げられる。
【0062】
キャストされた有機溶媒溶液(キャスト液)に吹き付ける加湿空気は、キャスト液表面において加湿空気中の水分が結露するように、その湿度を調整される。加湿空気の湿度は、相対湿度で20〜100%とすることが好ましく、30〜80%とすることがさらに好ましい。また、キャスト液に吹き付ける加湿空気の代わりに、水蒸気を含む窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いてもよい。
【0063】
キャスト液に吹き付ける加湿空気の流量は、キャスト液の液面において結露が発生することができ、かつ、キャスト液に含まれる溶媒を蒸発させることができるように調整される。加湿空気の流量は、有機溶媒溶液がキャストされる基板の大きさ等に応じて調整される。例えば、直径10cmのガラスシャーレに有機溶媒溶液をキャストして第2のポリマーフィルム14を作製する場合には、加湿空気の流量は、1〜5L/minであることが好ましい。
【0064】
図1および4等に示すカバードステント10は、コーティング膜26によって被覆されたベアステント16に対して、第1のポリマーフィルム30を巻きつけた後、さらに第2のポリマーフィルム14を巻きつけることによって作製することができる。第1のポリマーフィルム30または第2のポリマーフィルム14は、ベアステント16の周面全体を被覆していてもよいし、ベアステント16の外周面のうち、一部のみを被覆していてもよい。
【0065】
第1のポリマーフィルム30や第2のポリマーフィルム14を、ベアステント16に取り付ける取り付け方法としては、第1および第2のポリマーフィルム30,14を巻きつけるだけの方法には限定されず、接着剤による固定、溶媒を用いた融着、加熱による融着などの方法を用いることができる。
【0066】
カバードステント10は、図1に示すように、ベアステント16の外周を覆う被覆フィルム部50を有するため、カバードステント10の周壁を超えてがん細胞等が成長することを防止することができる。また、カバードステント10は、ステント外周表面12から外径方向に突出する凸形状部34を含む外形状を有するため、凸形状部34が体内管腔の周壁に引っ掛かることにより、マイグレーションを抑制することができる。
【0067】
図8は、カバードステント10を、胆管に留置した直後の状態<(a)留置時>と、胆管に留置して1日〜3日経過後<(b)留置後1日〜3日>の状態を模式的に示したものである。図8における<(a)留置時>に示すように、カバードステント10の留置時においては、狭窄中心部より上部側(肝臓側)の部分は、狭窄の影響により圧力が溜まり胆管が広がっている場合がある。しかし、カバードステント10は、凸形状部34を含む外形状を有するため、凸形状部34が狭窄中心部付近における胆管の壁面に引っ掛かることにより、留置時の状態でもマイグレーションが起こり難い。すなわち、カバードステント10は、狭窄中心部とカバードステント10の軸方向中心部とを略一致させるように留置した場合でも、凸形状部34が狭窄中心部付近における胆管の壁面に引っ掛かってカバードステント10をアンカリングすることにより、留置位置からカバードステント10が移動する現象を防止できる。
【0068】
図8における<(b)留置後1日〜3日>に示すように、カバードステント10を留置して数日後には、ドレナージによる脱圧が起こり、胆管が収縮する。そうすると、フレア形状部38も胆管の壁面と接触するようになり、フレア形状部38もカバードステント10をアンカリングする効果を奏することができる。このように、カバードステント10は、狭窄部分等にカバードステント10を配置した場合に、留置後のマイグレーションを防止して、体内管腔を好適に確保することができる。なお、図8においては、十二指腸側に配置されている凸形状部およびフレア形状部も、カバードステント10のマイグレーションを防止する効果を奏する。
【0069】
また、図1に示すように、カバードステント10は、リング形状の凸形状部34が、カバードステント10の両端部の間に配置されている。そのため、カバードステント10は、リング形状の凸形状部34によって、カバードステント10が留置位置からいずれの方向へ移動することも防止する効果を奏する。
【0070】
また、図2に示すように、ベアステント16は、ベアステント突起部16aやベアステント末端部16eを有しており、カバードステント10の凸形状部34やフレア形状部38は、被覆フィルム部50がベアステント16の周壁に追従することによって形成される。ここで、ベアステント16を縮径した場合、ベアステント突出部16aやベアステント末端部16eのベアステント筒部16bに対する突出量は、ベアステント16の径に略比例して減少する。したがって、カバードステント10の外形状は、凸形状部34やフレア形状部38を含むにもかかわらず、カバードステント10を縮径して留置位置まで搬送する場合等には、デリバリーカテーテル等の内部にコンパクトに収納することができる。
【0071】
また、図1に示すように、カバードステント10は、ベアステント16が被覆フィルム部50によって覆われているため、ベアステント16における尖った部分が、体内管腔を傷つけることを防止できる。例えば、カバードステント10は、体内管腔に一定期間留置された後に抜去する場合でも、抜去の際に留置位置付近の体内管腔を傷つけることを防止できる。
【0072】
また、図5に示すように、ベアステント16を覆う第2のポリマーフィルム14は、内周層18と、空孔22が配列されている外周層20とを含む。図7に示すように、空孔22が形成されていない内周層18は、外周層20に比べて破れにくいため、第2のポリマーフィルム14は、カバードステント10が変形を繰り返した場合にも破損しにくい。また、空孔22が配列されている外周層20は柔軟であるため、内周層18の厚さIを0.5〜3.0μmとすることによって、カバードステント10の柔軟性を確保して、マイグレーションを抑制することができる。カバードステント10は、体内管腔に留置された後、カバードステント10の留置位置周辺における体内管腔の屈曲に柔軟に対応することができるからである。また、カバードステント10は、留置後の位置ズレに伴って発生する周辺部位の炎症や、穿孔などの合併症を抑制する効果を奏する。
【0073】
さらに、カバードステント10は、第1のポリマーフィルム30と第2のポリマーフィルム14によって二重に被覆されているので、カバードステント10が変形を繰り返した場合に、第2のポリマーフィルム14が、ベアステント16の突起等によって穿孔され、破損することを防止できる。
【0074】
また、カバードステント10は、ベアステント16を被覆するコーティング膜26を備えるため、フレーム17の表面にスラッジ等が堆積することを防止できる。また、フレーム17の表面をコーティング膜26によって被覆することによって、第1のポリマーフィルム30および第2のポリマーフィルム14が、ベアステント16の加工時に発生した突起等により穿孔され、破損することを防止できる。
【0075】
カバードステント10は、例えば、胆管、食道、十二指腸、大腸など、消化器系体内管腔に留置するステントとして好適に用いることができるが、胆管に留置する胆管ステントとして特に好適に用いることができる。また、カバードステント10は、血管等に留置するステントとして用いることもできる。
【0076】
その他の実施形態
上述の実施形態に係るカバードステント10においては、ベアステント突出部が凸形状部を形成していたが、ステント外周表面12に凸形状部34等を形成するための構造としては、図2に示すものには限定されない。たとえば、図2に示すフレーム17の頂点部17aを、外径方向に向かって折り曲げることによって、凸形状部34を形成してもよい。また、被覆フィルム部50の一部に突起を設けることによって、凸形状部34を形成してもよい。カバードステント10の外形状に含まれる凸形状部34は、ベアステント16の径方向に突出する形状であれば特に限定されず、半リング状であったり、周方向に断続的に形成される形状であっても良い。
【0077】
また、上述の実施形態に係るカバードステント10においては、カバードステント10の両端部にフレア形状部38を備えているが、カバードステント10の外形状はこれに限定されない。カバードステント10は、カバードステント本体部100のいずれか一方の端部側のみに、フレア形状部38を備えるものであってもよく、また、フレア形状部38を備えず、カバードステント本体部100のみを備えるものであってもよい。
【0078】
上述の実施形態に係るカバードステント10のステント外周表面12には、2つの凸形状部34が形成されているが、ステント外周表面12に形成される凸形状部34の数は、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。また、カバードステント10は、図3に示すように、ステント中央10bから両端部方向に対称な形状を有していても良いが、非対称な形状を有していても良い。例えば、ベアステントフレア部16cは、ベアステント16の一方の端部のみに設けられ、カバードステント10の一方の端部にのみフレア形状部38が形成されていても良い。
【符号の説明】
【0079】
10…カバードステント
100…カバードステント本体部
12…ステント外周表面
14…第2のポリマーフィルム
16…ベアステント
160…ベアステント本体部
16a…ベアステント突出部
16b…ベアステント筒部
16c…ベアステントフレア部
16d…ベアステント傾斜部
16e…ベアステント末端部
17…フレーム
170a…ストラット
170b…接続部
18…内周層
18a…内側表面
20…外周層
20a…外側表面
22…空孔
34…凸形状部
36…筒形状部
38…フレア形状部
40…末端形状部
42…傾斜形状部
50…被覆フィルム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のベアステントと、
前記ベアステントの外周を覆う被覆フィルムと、を備えるカバードステントであって、
前記ベアステントは、当該ベアステントの両端部の間に、筒状の本体の一部が外径方向へと突出する突起部を備え、
前記突起部により構成されるとともに、当該カバードステントの外周表面から外径方向に突出する凸形状を少なくとも1つ含む外形状を有することを特徴とするカバードステント。
【請求項2】
前記突起部は、前記本体に2つ形成されており、
これらの2つの突起部は、前記本体の中央位置を基準として、前記中央位置から前記両端部側に向かって均等距離離れた位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載のカバードステント。
【請求項3】
前記ベアステントは、前記両端部の少なくとも一方の端部に設けられるフレア部をさらに含み、
前記フレア部は、前記本体側から前記フレア部の末端側に向かうにつれて外径が大きくなるテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカバードステント。
【請求項4】
前記突起部は、前記ベアステントの周方向に沿って連続するリング形状であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のカバードステント。
【請求項5】
前記被覆フィルムは、前記ベアステントの内径方向を向く内側表面を含む内周層と、前記ベアステントの外径方向を向く外側表面を含み当該外側表面に開口する複数の空孔が当該外側表面に沿って規則的に配列されている外周層とを含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のカバードステント。
【請求項6】
胆管ステントである請求項1から請求項5までのいずれかに記載のカバードステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−156085(P2011−156085A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19191(P2010−19191)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】