説明

カバーレイインク

【課題】低温乾燥が可能で耐熱性に優れ、かつ乾燥による熱収縮の影響も少ないカバーレイフィルムに好適インク素材並びにインクを提供することを目的とする。
【解決手段】水トリメリット酸クロライドと分子量の大きな両末端アミノ変形シリコンオイルと、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンから合成されるポリアミドイミド粉末とする。この粉末をインク素材として有機溶媒に溶解させることにより、低温乾燥が可能で耐熱性に優れ、かつ乾燥による熱収縮の影響も少ないカバーレイフィルムに好適なインクとして用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカバーレイインクに好適なインク素材及びインクに関し、例えば、低温乾燥が可能で耐熱性に優れ、かつ乾燥による熱収縮の影響も少ないインク素材並びにインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フレキシブルプリント回路基板においては、回路を保護するため、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムに接着剤を塗布したカバーレイフィルムを被覆している。
カバーレイフィルムを被覆する場合、高温雰囲気中で回路の露出すべき部分をパンチングやドリル等により穴開けした後、回路基板上に位置合わせしつつ重ね合わせ、加熱加圧により一体に接着されるため、回路が複雑になるとカバーレイフィルムの穴明け加工や位置合わせが困難であった。そのうえ、カバーレイフィルムに使用している接着剤が耐熱性や絶縁信頼性等に乏しいため、回路基板としてのこれらの特性も必然的に乏しいものとなる難点があった。また、接着剤を使用すると、フレキシブルプリント基板の厚みが厚くなり、結果、硬くなる。
近年の携帯電話に代表されるモバイル機器の小型化の流れにおいて、上記のようにフレキシブルプリント基板のカバーレイとその工法が問題になる事が増えている。
【0003】
この点を解決するため、基板表面に印刷用インク組成物を塗布するいわゆる印刷法が開発されて広く用いられてきている。例えば、特許文献1では、繰返し単位を有する可溶性ポリイミド分子内に2個以上のエポキシ基を有するエキシ樹脂と硬化剤と溶剤、および揺変剤を含有させたインク組成物があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−172181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のものは、実施例に記載のあるエポキシ樹脂40重量部を添加した場合、半田耐熱のような短時間の耐熱性はあるものの、長時間の耐熱性、例えば200℃100時間においては、劣化による物性低下が発生する事が容易に推測できる。耐熱性が十分ではなく、求められる耐熱要求を満たすインクの提供が求められている。
【0006】
特許文献1にも記載されているが、耐屈曲性が優れた点に着目したポリイミド系のインク組成物も開発されているが、いずれもポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の状態で印刷した後イミド化するものであるため、ポリアミド酸を閉環したときに発生する水が、被覆の発泡を引き起こしたり内部にそのまま残留して特性の低下を招くおそれがあった。
【0007】
また、これら従来のインクを基板上に形成して乾燥させる際に、どうしても高温雰囲気中で乾燥させなければ、十分な耐熱性が得られず、例えば260℃30秒の半田耐熱に耐えられなかった。更にこの高温乾燥で溶媒を拡散させており、どうしてもインクの変形が避けられず、カバーレイフィルムを被覆した基板に反りが出てしまい、信頼性低下を招いていた。
【0008】
このため、製造が簡単かつ容易な低温乾燥を可能とすると共に、基板の反りの発生もない、カバーレイフィルムを形成できるカバーレイインクが求められていた。しかしながら、従来は低温乾燥が可能で基板の反りも少ないカバーレイフィルムは提案されていなかった。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、特に低温乾燥が可能で耐熱性に優れ、かつ乾燥による熱収縮の影響も少ない、例えば、フレキシブルプリント回路基板の回路の保護被覆材等としても好適な印刷用インク組成物として用いることも可能なインク素材並びにインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するための一手段として、例えば本発明に係る一発明の実施の形態例は以下の構成を備える。
即ち、ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホンと、無水トリメリット酸クロライドと、両末端アミノ変形シリコンオイルと、から合成されるポリアミドイミドであることを特徴とするインク素材とする。
【0011】
そして例えば、両末端アミノ変形シリコンオイルとして、分子量の大きな側鎖フェニル基タイプの両末端アミノ変形シリコンオイルを用いることを特徴とする。
【0012】
また例えば、両末端アミノ変形シリコンオイルは、以下の構造式からなることを特徴とする。
【化1】

【0013】
以上のいずれかの構成を備えるインク素材に溶解可能な有機溶剤を添加したことを特徴とするインクとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低温乾燥が可能で耐熱性に優れ、かつ乾燥による熱収縮の影響も少ない、例えば、フレキシブルプリント回路基板の回路の保護被覆材等としても好適な印刷用インク組成物として用いることも可能なインク素材並びにインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る一発明の実施の形態例を詳細に説明する。本実施の形態例は、耐熱性、機械的強度に優れた低沸点溶媒可溶性樹脂を用いることにより低温乾燥を可能とし、かつ乾燥時の熱収縮の影響が少ない、基板のカバーレイフィルムとして利用可能なインク素材並びにインクについて説明する。
【0016】
本実施の形態例では、カバーレイフィルムを形成させても、200℃以下の低温乾燥が可能で基板の反りも発生しないインクについて説明する。
本実施の形態例のインクを発明するにあたって、以下の点を目指して開発を行った。
【0017】
反り対策として、乾燥収縮後の内部応力を緩衝できるように、『低弾性率(数百Mp程度)』を目標とし、更に、低温乾燥で半田耐熱試験合格を達成する為に、『溶媒が揮発しやすい分子構造』を目指すこととした。
【0018】
このために、公知の技術情報を参考に以下の2点を検討することとした。即ち、第1点目は「シリコーンオイルの両末端をアミンに変性したもと共重合し、シロキサン変性する」こと、第2点目は「脂肪族ジアミンとの共重合し、変性する」ことである。
【0019】
具体的には、硬い部分で耐熱性がある構成として「芳香環」「イミド基」を備え、この硬い部分間を柔らかい部分で低弾性が期待できる「シリコーン部位」「脂肪族部位」で結合させる構成を目指すこととした。
【0020】
本実施の形態例では、第1点目について、構造式1に示す両末端アミノ変形シリコンオイルのうち、耐熱性の維持と大きな弾性率低下を両立させるために、分子量の比較的大きなオイルを用いる必要があることを見いだし、最終的には各種市販製品の中で分子量の比較的大きな信越シリコーン社製の側鎖フェニル基タイプの変形シリコンオイル「X22−1660B−3(分子量4360)」を選択した。
【0021】
構造式1 両末端アミノ変形シリコンオイル:本実施の形態例樹脂材料1(変性ジアミン)
【化1】

【0022】
第2点目の脂肪族部位を持つ主ジアミン材料としては、耐熱性を維持する必要性から芳香環を持ち、また反応性維持のために、末端が芳香族アミン構造になっているものから選択することとし、構造式2に示す和歌山精化製の「DA5MG」を選択した。
【0023】
構造式2
【化2】

そして、以上の2点について検討をした結果、最終的には、合成する際に主ジアミン素材として構造式3に示すビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(以下、「BAPS」)を選択した。
【0024】
構造式3 BAPS:本実施の形態例粉末材料2(主ジアミン)
【化3】

【0025】
そして変性ジアミン素材として構造式1に示す変性ジアミン(信越シリコーン社製「X22−1660B−3」)を選択し、更に、酸として構造式4に示す無水トリメリット酸クロライド(以下「TAC」)を選択し、少なくともこれらの3つの素材を合成して、本実施の形態例のインク素材であるポリアミドイミド粉末(開発品)を生成している。
【0026】
構造式4 TAC(本実施の形態例粉末材料3(酸)
【化4】

このインク素材であるポリアミドイミド粉末を可溶な有機溶剤に溶解させてインクを作製することになる。
【0027】
酸(TAC)と主ジアミン(BAPS)、変性ジアミン(信越化学社製)とをトリエチルアミンなどの塩基存在下、DMAc溶液中で一定時間反応させポリアミ酸溶液を得る。
【0028】
この溶液に、無水酢酸とピリジンを添加した後に更に一定時間攪拌してイミド化を行ない、得られた反応溶液を、水とメタノールの混合溶液に添加て粉末化し、得られた粉末を水洗、乾燥することによりポリアミドイミド粉末を得る。
【0029】
本実施の形態例ポリアミドイミド粉末の物性を評価するため、以下の条件で特性試験を行った。試験は、実施例1として、酸であるTAC、主ジアミンであるBAPSに対して分子量の大きなシリコン変性ジアミンである信越シリコーン社製X−22−1660B−3を10(mol%)合成した例、実施例2として分子量の大きなシリコン変性ジアミンである信越シリコーン社製X−22−1660B−3を12(mol%)合成した例について試験した。なお、比較例1として、分子量の大きな変性ジアミンに変えて分子量の小さなシリコン変性ジアミン、例えば東レダウコーティング社製の「BY16−853U(分子量960)」を20(mol%)合成して粉末化した例、比較例2として、ジアミンの変性をしていないTACとBAPSとを合成して粉末化した例、比較例3として、主ジアミンに4,4−オキシジアニリン(以下、「4,4−ODA」)を用い合成して粉末化した例、比較例4として主ジアミンにビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(以下、「BAPS‐M」)を用い合成して粉末化した例、比較例5として主ジアミンに4,4−ODA、変性ジアミンにDA5MGを20(mol%)使用し合成した例についても同じ条件で試験を行った。
【0030】
(物性評価試験の条件)
(1) 溶解性
有機溶媒に対し、粉末を20W%となるように添加し、溶解性を確認した。方法は、調整した溶液を15日間室温にて放置した後、不溶物がなく、流動性がある事を目視で確認することで溶解性があると判定した。
有機溶媒としては、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジヒドロフラン−2(3H)−オン(GBL)、シクロペンタノン(CPN)、(ビス(2−メトキシエチル)エーテル(DG)、〔1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン〕(TG)についての溶解性を調べ全ての溶媒に対する溶解性が確認できた。
【0031】
(2) 引張強度、弾性率、伸び率
可溶な有機溶剤に対し、粉末を溶解させたインクを作製した。このインクをブレードコーターにて、表面に離剥処理を行ったガラス上にコーティングする。これを、120℃、15分程度乾燥した後、ガラスより塗膜を剥がし、これを250℃40分乾燥することにより、厚み25μmの測定用フィルムを得た。
上記、光学特性測定用フィルムと同じ手順で25μm厚みのフィルムを作製し、このフィルムを東洋精機製作所製社製STROGRAPH E-Lを使用して以下の条件で測定した。
サンプルサイズ:10mm×130mm、引張スピード:10mm/min
【0032】
(3) ガラス転移温度
先述と同じ手順で厚み25μmのフィルムを作製し、Rigaku社製Thermo Plus TMA8310を使用して以下の条件で測定した。
サンプルサイズ:5mm×15mm、測定方式:TMA方式、測定範囲:室温〜300℃、昇温速度:10℃/min
【0033】
(4)半田耐熱試験
新日鐵化学社製片面銅張積層板(ESPANEX MC12-12-00CE、銅箔12μm、PI層12μm)の銅箔面に、ブレードコーターにて、ポリアミドイミドインクをコーティングする。これを、120℃で15分程度乾燥した後、180℃で30分、もしくは250℃で30分乾燥し、25μm厚みの塗膜を形成した。
これを、50mm角に切り出し、260℃の半田槽へ30秒間ディップした。その試験片の外観に膨れ、割れ等の異常の有無を目視で確認し、以上が確認された場合を不良とした。
【0034】
(6)反り量
半田耐熱試験と同じ方法で試験片を作製した。50mm角に切り出した試験片を平らな台の上に置き、反った量を定規で測定した。
(物性評価試験の結果)
試験結果を表1に示す。表1に示すように試験を行った本実施の形態例のポリアミドイミド粉末は、信越シリコーン社製X22−1660B−3で10〜12%変性したものであり、良好な結果が得られると共に、インク溶媒の選択性も大きい事が確認された。
【0035】
表1:物性評価結果
【表1】

表1:試験結果一覧
【0036】
上記表1に示すように、NMP、GBL、CPN、DG、TGという多くの溶媒に溶解するため、これらの有機溶媒を用いてコーティング用インクとでき、NMPのような作業環境の湿度管理を必要とする溶媒以外を選択する事が出来コーティングを容易に出来ることができ、また、コーティング膜の特性においても、耐熱性が230℃以上が確保され、また、弾性率も低く抑えることができた。基板をコーティングした状態においても、十分な耐半田熱特性が確認できたほか、基板の反り量も無いことが出来るのは実施例1および、2のみである。
【0037】
(絶縁信頼性試験)
実施例1を使用し、フレキシブルプリント基板を作製し、絶縁信頼性試験を実施した。試験は、新日鐵化学社製両面銅張積層板(ESPANEX MB12-12-12REG、銅箔12μm、PI層12μm)の片面にL/S=0.07μm/0.07μmのパターンをエッチングしたものに、実施例1の20w%γブチロラクトン溶液を両面にスクリーン印刷にて塗布し、110℃5分、180℃30分間乾燥したものをテストクーポンに使用し、環境負荷前後の線間絶縁抵抗値を測定した。
線間絶縁抵抗値は、YOKOGAWA-HEWELETT-PACKARD社製 4329A HIGH RESISTANCE METERを使用し、100Vの電圧を1分間印加後に測定した。
【0038】
(絶縁信頼性試験結果)
絶縁信頼性試験結果を表2に示す。
表2:絶縁信頼性試験結果
【表2】

環境負荷前後とも、1012Ωの抵抗値があり、カバーレイインクとして十分使用できる事が確認できた。
【0039】
以上の説明したように本実施の形態例の開発品によれば、低温乾燥が可能で耐熱性に優れ、かつ乾燥による熱収縮の影響も少ない、例えば、フレキシブルプリント回路基板の回路の保護被覆材等としても好適な印刷用インク組成物として用いることも可能なインク素材並びにインクを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホンと、水トリメリット酸クロライドと、両末端アミノ変形シリコンオイルと、から合成されるポリアミドイミドであることを特徴とするインク素材。
【請求項2】
両末端アミノ変形シリコンオイルとして、分子量の大きな側鎖フェニル基タイプの両末端アミノ変形シリコンオイルを用いることを特徴とする請求項1記載のインク素材。
【請求項3】
両末端アミノ変形シリコンオイルは、以下の構造式からなることを特徴とするインク素材。
【化1】

【請求項4】
請求項1記載のインク素材に溶解可能な有機溶剤を添加したことを特徴とするインク。

【公開番号】特開2012−180421(P2012−180421A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43128(P2011−43128)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(390032230)ニッポン高度紙工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】