説明

カビ又は酵母利用製造現場の浄化方法、活性化ガス発生装置及びカビ又は酵母利用製造装置

【課題】食品製造、薬品製造現場等のカビ利用製造現場において、カビ又は酵母以外の微生物を除菌することのできるカビ又は酵母利用製造現場の浄化方法、活性化ガス発生装置、及びカビ又は酵母利用製造装置を提供する
【解決手段】カビ又は酵母を利用して製品を完成させる製造現場内に、除菌可能な活性化ガスを放出することにより、空気中又は製品表面に存在するカビ又は酵母以外の微生物の増殖能力を失わせる事により、カビ又は酵母以外の微生物を除去するカビ利用製造現場の浄化方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、薬品製造現場等のカビ又は酵母利用製造現場において、活性な成分を含む空気を用いて、カビ又は酵母以外の微生物を除菌する事により、製造現場の清浄化を行うカビ又は酵母利用製造現場の浄化方法、活性化ガス発生装置及び、カビ又は酵母利用製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物の仲間であるカビ及び酵母は、食品や抗生物質の製造などの分野で広く利用されている。例えば、日本酒の醸造では、酵母やコウジカビを用いてアルコールが生成させている。また、酒類の製造だけではなく、抗生物質などの製薬の現場でも、カビ類は用いられている。例えば、アオカビの仲間であるペニシリウムは抗生物質のペニシリンを製造する。
【0003】
このようなカビ又は酵母を利用して製造される製品としては、食品類や薬類等の衛生管理の必要なものが多いので、その製造現場においては、機械類を製造する製造現場に比べ、製造現場の空気や製品である食品、薬類の周辺雰囲気には格段の清浄環境が必要とされる。また、特に製品が食品や代謝物質などであることから他の微生物による汚染が懸念されるので、そのような製造現場においては、空気中や製品周辺の雰囲気の微生物コントロールを厳重に行う必要がある。
【0004】
空気中や製品周辺雰囲気に存在する微生物を除去する技術が、特許文献1及び特許文献2に記載されている。特許文献1にはオゾンを用いて除去する方法、特許文献2には紫外線、超音波を用いて除去する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−302079号
【特許文献2】特表2001−526941号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなオゾン、紫外線、超音波などを製品及びその周辺の空気中に発生させ、浮遊菌を除菌する技術は、カビ又は酵母を利用した製造現場において使用されることはなかった。なぜならば、オゾンなどの照射により、食品や薬類等の製造に必要なカビや酵母までが死滅してしまうと考えられていたからである。有用なカビや酵母まで死滅してしまっては、目的の製品を製造することができない。
【0007】
また、特許文献1のように、オゾンを照射する方法は、カビ利用製造現場を清浄にしようとすれば、食品や薬類の製造現場は比較的密閉環境(準クリーンルーム)である事より、オゾンの滞留が起きやすく、その製造現場で作業している作業員の健康をおびやかす事になる。
【0008】
また、特許文献2のように、紫外線や超音波を用いた空気を照射する方法は、除菌力が強力すぎて、必要なカビ、酵母にも大きなダメージを与えてしまう。また、紫外線や超音波への暴露は、製造装置そのものにもダメージを与えるので、その製造装置の寿命を短くしてしまう。また、紫外線は細胞の核に含まれるDNAに直接作用する事から、DNAが損傷された食製品や生成物ができてしまう恐れがある。このようなDNAに異常がある製品を人間が摂取すると最悪の場合、発ガン作用を引き起こされる可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記に鑑み、カビ又は酵母以外の微生物を除菌することのできるカビ又は酵母利用製造現場の浄化方法、活性化ガス発生装置、及びカビ又は酵母利用製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、除菌可能な活性化ガスを照射すれば、不要な細菌等の微生物だけでなく必要なカビ又は酵母までもが死滅してしまうとの従来の考えをくつがえし、活性化ガスによるカビ又は酵母への影響が、ウイルス、細菌等の他の微生物への影響よりも極端に少ないことに着目して、カビ又は酵母を利用して製品を完成させる製造現場内に敢えて、活性化ガスを放出することを特徴とするものである。
【0011】
このように、カビ又は酵母を利用して製品を完成させる製造現場に、空気中の浮遊菌を除菌する活性化ガスを放出すれば、カビ又は酵母に影響が出る前に、カビ又は酵母以外の微生物に影響が大きくでるため、空気中又は製品表面に存在するカビ又は酵母以外の微生物の増殖能力を失わせ、除去することができる。したがって、製造現場内の衛生状態を良好に保つことができ、カビ又は酵母への他の微生物の混入を防止することができる。また、活性化ガスは、カビ又は酵母以外の微生物以外にも、臭気成分、アレルゲン成分に関しても積極的に分解処理を行なっていくこともできる。なお、除菌とは、菌の殺菌及び菌の低活性化を含む概念である。また、微生物とは、微細な生物のことであって、カビ、酵母、細菌、菌類、ウイルスを含める概念である。
【0012】
カビ又は酵母を利用した製品とは、カビ又は酵母自体を利用して生産される製品や、カビ又は酵母が産生する酵素や抗生物質等の物質を含む概念である。その製品の例としては、パン、ビール、日本酒、焼酎、チーズ、味噌、醤油、納豆、鰹節、甘味料等の食品、ペニシリン等の薬品等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
活性化ガスとは、除菌可能な活性な成分を含む空気のことである。活性化ガスとしては、正イオン、負イオン、プラズマ、ラジカル、オゾン及び水分子のうちいずれかを単独または複合体として含むものが好ましい。これらの活性化ガスを用いれば、積極的に、ウイルス、細菌、アレルゲン成分、臭気成分を除去・不活化する事が出来る。そして、その中でも、特に、活性化ガスとして、正イオン及び/または負イオンを用いる場合が、人体にとってより安全であり、最も好ましい。
【0013】
上記の活性化ガスは、カビ又は酵母の細胞のDNAを破壊せず、空気中若しくは製品表面のカビ以外の微生物の増殖能力を失わせることができる。このように、製品製造に用いているカビ又は酵母に悪影響を及ぼさず、それ以外の細菌等の微生物のみを効果的に除去し、さらにその除菌メカニズムがDNA破壊を伴うものではないので、耐性菌の発生を助長したりすることもない。また、万が一製品製造に使っているカビに作用してしまったとしても、食品のDNAが変性することはない。その結果、遺伝子組み変え食品になるという自体はないので、製品の安全性が維持される。
【0014】
また、活性化ガスの中に含まれる活性種が、除菌対象の微生物の表面で化学反応し、ヒドロキシルラジカルが生成する。ヒドロキシルラジカルを始めとする活性種は、製造に用いているカビ及び酵母に悪影響を及ぼさず、細菌類のみを効果的に除去し、製造現場の清浄化を行う事ができる。
【0015】
活性化ガスを発生させる方式としてはいずれのものを採用してもよいが、例えば、沿面放電素子、コロナ放電素子、プラズマ放電素子等の放電方式や光照射方式により発生させればよい。また、放電素子の電極の形状や材質においても、針型などを含め、あらゆる形状、材質のものを選択することができる。
【0016】
このような活性化ガスを発生する活性化ガス発生手段を設けた活性化ガス発生装置は、カビ又は酵母を利用して製品を完成させる製造現場内に設けるだけで、カビ又は酵母以外の微生物を除菌し、製造現場を浄化することができる。
【0017】
また、製品を十分に製造をすることのできる程度にカビ又は酵母の十分な残存数が保たれ、かつ、その製造に支障を与えない程度に製造現場内のカビ又は酵母以外の微生物の残存数が低く保たれている状態が、カビ又は酵母を利用して製品を完成させる現場の好ましい状態である。このような状態にするには、活性化ガスの放出時間が重要な要素となり、そのような状態になるまでの間、活性化ガスを放出すればよい。
【0018】
その手段として、活性化ガス発生手段の活性化ガス放出を制御する制御手段を設け、一定時間、活性化ガスを放出させるように活性化ガス発生手段を制御すればよい。一定時間で放出を止めれば、カビ又は酵母以外の微生物にはダメージを与えるが、カビ又は酵母には影響が出ないですむ。
【0019】
また、活性化ガスの放出は1回でもよいが、長時間にわたって製品製造する場合は、再びカビ又は酵母以外の微生物の増加が懸念されるので、活性化ガスの一定時間放出後、数時間放出を止める間欠運転をさせるようにすればよい。
【0020】
活性化ガスを放出させている時間及び放出を止めている時間は、これらの時間設定のできる入力手段を設ける等して、カビ又は酵母の種類によって適宜選択できるようにするのが好ましい。活性化ガスを放出させている時間は、カビ又は酵母が製品を製造するのに十分な残存数があり、また、カビ又は酵母以外の微生物がカビ又は酵母に支障を与えない程度に減少するのに必要な時間が好ましく、具体的には30〜60分程度が好ましい。30〜60分の時間活性化ガスを放出させれば、カビ又は酵母には大きなダメージを与えず、カビ又は酵母以外の微生物に大きなダメージを与え、除菌することができる。
【0021】
または、活性化ガスを放出させている時間について、活性化ガス発生手段の活性化ガス放出を制御する制御手段を設け、制御手段は、カビ又は酵母の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間を算出し、その算出された時間の間、活性化ガスを放出させるようにしてもよい。一定数とは、カビ又は酵母が、製品を十分に製造するのに必要な最小限の残存数のことである。その一定数よりもカビ又は酵母の数が減少すれば、カビ又は酵母が製品を十分に製造することができない。例えば、カビ又は酵母の数が、活性化ガスの放出前のカビ又は酵母の数に対して6〜7割の数である。このように、支障なく製品を製造することのできる十分な残存数よりも減る前に、活性化ガスの放出を止めることにより、カビ又は酵母の減少を防ぎ、製品製造に支障をきたすのを防ぐことができる。
【0022】
また、制御手段は、製造現場内のカビ又は酵母以外の微生物の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間を算出し、その算出された時間の間、活性化ガスを放出させるようにしてもよい。この場合の一定数とは、カビ又は酵母以外の微生物が、カビ又は酵母の製品製造に支障をきたす、カビ又は酵母以外の微生物の最大限の残存数である。その一定数よりもカビ又は酵母の数が減少すれば、カビ又は酵母の製品製造に支障をきたさないですむ。例えば、カビ又は酵母以外の微生物の数が、活性化ガスの放出前の数に対して3〜4割の数である。このように、カビ又は酵母以外の微生物が、カビ又は酵母の製品製造に支障をきたさない程度にまで減った場合に、その時点で活性化ガスの放出を止めることにより、カビ又は酵母の不要な消滅を防ぐことができる。
【0023】
または、制御手段は、カビ又は酵母の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間と、製造現場内のカビ又は酵母以外の微生物の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間とを算出し、その算出された時間を比較し、短い方の時間の間、活性化ガスを放出させるようにしてもよい。このようにすれば、カビ又は酵母以外の微生物の数が一定数以下に減る前に、カビ又は酵母の数が一定数以下になってしまうのを防ぐことができる。また、カビ又は酵母以外の微生物が一定数以下に減ったにも関わらず、さらに活性化ガスの放出が続くことにより、カビ又は酵母が必要以上に減少してしまうのを防ぐことができる。
【0024】
活性化ガスの放出を止めている時間については、使用者の設定による一定時間としてもよいし、カビ又は酵母以外の微生物の量を検出するセンサを設け、一定量以上になった場合に、活性化ガス放出を開始させるようにしてもよい。
【0025】
上記のような活性化ガス発生装置は、製造現場内や、カビ又は酵母利用製造装置の内部に設けることができる。カビ又は酵母利用製造装置の筐体内に設ければ、カビ又は酵母を利用する製造機器内部でカビによって製品を処理している時に、その処理室内部に、活性化ガスを放出する事により、処理室中若しくは処理されている製品表面のカビ又は酵母以外の微生物の増殖能力を失わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、製造に用いているカビ又は酵母に悪影響を及ぼさず、それ以外の細菌等の微生物のみを効果的に除去し、製造現場の清浄化を行う事ができる。その結果、製造品である食品や薬品に無用の汚染物が侵入したりすることを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態を示す活性化ガス発生装置の概略構成図である。本活性化ガス発生装置1は、活性化ガス発生手段2と、その活性化ガス放出量を制御する制御手段3とからなる。
【0029】
活性化ガス発生手段2としては、図1に示すように、平板状のアルミナ誘電体4の表面に配置された放電電極5と、アルミナ誘電体4の中に埋め込まれた平板状の対向電極6とからなる放電部と、その両電極5、6に電圧を印加する高圧パルス電源7とから構成される。なお、両電極5、6の間隔は約0.2mmであり、放電電極5は網目状のパターンを形成しており、放電電極5のサイズは約1cm×3cmの長方形形状となっている。高圧パルス電源7からは、正と負からなる高圧パルス電圧(周波数60Hz、尖頭電圧約2kV)が生成され、両電極5、6間に印加される。
【0030】
この放電電極5表面において、沿面放電により生成されたプラズマにより、空気中の酸素(O)および水(HO)等の分子がエネルギーを受けるので、これらの分子が正負イオン化し、空間に放出させられる。この正負両イオンの組成は、主として正イオンとしては、プラズマ放電により空気中の水分子が電離して水素イオンH+が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりH+(HO)(nは0または自然数)を形成したものである。一方、負イオンとしては、プラズマ放電により空気中の酸素分子または水分子が電離して酸素イオンO-が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることにより、O- (HO)(mは0または自然数)を形成したものである。
【0031】
制御手段3は、CPU、ROM及びRAM等から構成され、高圧パルス電源7のON/OFFを切り替えることにより、30〜60分の間、活性化ガス発生手段から活性化ガスを放出させ、数時間の間活性化ガスの放出を停止させる間欠運転をするように制御する。活性化ガス発生手段から活性化ガスを放出させる時間及び、停止させる時間は、その時間を指定する入力手段を設けることにより、使用者により適宜選択可能とされる。
【0032】
<試験>
ここで、放電により生じた活性化ガスを微生物へ照射した場合の試験データを開示する。試験は以下の条件で行った。
【0033】
試験方法としては、基本的に、試験対象の微生物をPBS緩衝溶液(pH=7.4)に懸濁させた後、図2で示すトレイ8内に形成された寒天培地9上に塗布する。そして、試験チャンバー10内で、活性化ガス発生装置1から発生した正負両イオンを寒天培地9上に当てる。その後、72時間、37度で培養を行い、コロニー数を計測する方法を用いた。
【0034】
詳細には、第1の試験として、除菌性能を調べるため、細菌として、Staphylococcus(ブドウ球菌)、Enterococccus(腸球菌)、カビとして、Aspergillus versicolor(コウジカビ)、Penicillum camambertii、 Cladosporium herbarum(黒カビ)を用い、これらの微生物を寒天培地9上に塗布し、8時間の培養(37℃)を行い、コロニーを形成させた。続いて、図2に示すように、正負両イオンを含む空気を矢印で示すように拡散させ、寒天培地9にイオンが行き渡るようにした。
【0035】
なお、試験の箱であるチャンバー10のサイズは、21×14×14cmとした。また、イオン濃度は、寒天培地上で各約3,500個/cm(ただし臨界移動度を1cm/V・cmとして小イオンの濃度を測定。)であった。なお、試験の箱10内部にはファンは設けず、イオンは自然対流と自然拡散により暴露するようにしている。
【0036】
以上の試験において、正負両イオンを異なる時間照射した試験体をそれぞれ、引き続いて72時間、37℃の培養を行い、コロニー数を観測した。そして、その結果である正負両イオンの照射時間と、微生物の残存数との関係を図3及び図4のグラフに示す。図3に細菌の除菌性能の結果を、図4にカビの除菌性能の結果を示す。なお、CFUとは、colony forming unitsの略であって、形成されたコロニー数のことである。コロニーが形成されることにより、そのコロニーを形成する微生物は生存しており、増殖能力があるということが分かる。
【0037】
図3より、細菌は、イオンの照射時間が30分〜60分の照射でも、培地上の6〜8割の菌が増殖能力を無くしてしまう事が分かる。また、図4より、60分位の照射では、培地上のカビは1〜2割程度が増殖能力を失うのみという事が分かる。なお、イオン濃度は、上記のように約3,500個/cmの濃度に限定されるものではなく、それ以上のイオン濃度でも、同様の効果が認められた。
【0038】
したがって、30〜60分の間、活性化ガスを微生物に照射すると、カビ又は酵母以外の微生物の大部分が増殖能を失い、除菌されるが、カビ又は酵母には大きな影響を与えないことが分かる。
【0039】
また、正負両イオンにはDNAの損傷力がなく、発がん作用がないと考えられる。これは、以下の第2の試験により実証される。
【0040】
第2の試験では、正負両イオンをEnterococcus、Bacillus(枯草菌)に、2時間又は8時間照射した菌からそれぞれ抽出したDNAについてアガロースゲル電気泳動を行った。
【0041】
図5はこのDNAのアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真である。図5のレーン1〜3は、正負両イオンを2時間照射した菌のDNAを抽出したもの、レーン6〜8は、正負両イオンを8時間照射した菌のDNAを抽出したもの、レーン4及び5は、比較例としての断片化されたDNAである。図5より、DNAはイオンの照射を受けても単一なバンドとして現れたことから、断片化が起こっていないことが明らかとなった(レーン1〜3、6〜8)。つまり、イオンの照射を行っても、DNAには損傷がないことがわかった。イオンの照射を行なったカビで製造した食品等を口にしても発がん性の危険性はないといえる。
【0042】
なお、本願発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本実施形態においては、正イオンとしてH+(HO)(nは0または自然数)、負イオンとしてO- (HO)(mは0または自然数)を主に放出するような放電条件を選んでいるが、放電により生成される活性な粒子は以上の物質に限られるものではない。正イオンのみ又は負イオンのみとしてもよいし、それ以外の物質、たとえば、N+、O+、NO-、CO-等のイオンやラジカル等を含んでいたとしても同様の効果が期待できる。また、活性化ガスとして、プラズマ、ラジカル、オゾン及び水分子等の他の活性化物質を、単独または複合体として含むものでもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、活性化ガスの放出時間を30〜60分の一定時間としたが、カビ又は酵母の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間と、製造現場内のカビ又は酵母以外の微生物の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間とを算出し、そのうち短い方の時間としてもよい。
【0044】
カビ又は酵母の残存数の一定値とは、カビ又は酵母が、製品を十分に製造するのに必要な最低限の残存数のことである。これに限定されるものではないが、例えば、活性化ガスの放出前のカビ又は酵母の数に対して6割の値である。カビ又は酵母が、支障なく製品を製造することのできる十分な残存数よりも減ることによって製品製造に支障をきたすのを防ぐことができる。
【0045】
製造現場内のカビ又は酵母以外の微生物の残存数の一定値とは、カビ又は酵母以外の微生物が、カビ又は酵母の製品製造に支障をきたす最大限の残存数である。これに限定されるものではないが、例えば、カビ又は酵母以外の微生物の数が、活性化ガスの放出前の数に対して3割の数である。カビ又は酵母以外の微生物が、カビ又は酵母の製品製造に支障をきたさない程度にまで減らすことができる。
【0046】
そして、両者のうち短い方の時間とすることにより、カビ又は酵母以外の微生物の数を一定数以下に減らす前に、カビ又は酵母の数が一定数以下になってしまうのを防ぐことができる。また、カビ又は酵母の数の減少を最低限に抑えることができる。
【0047】
上記の時間の算出方法としては、予めカビ又は酵母、その他の微生物の種類ごとに、活性化ガス照射時間と、その生存量との関係を統計化した基準データを制御部のメモリに記憶させておき、この基準データと、微生物の量を測定するために予め設けられたセンサにより検出した微生物の数とを照合することにより、必要な放出時間を判断すればよい。
【0048】
例えば、図3及び図4の試験結果を用いれば、コウジカビを利用した製造現場において除菌する場合、コウジカビが約6割となる活性化ガスの放出時間は図4(a)より算出すると2時間強であり、細菌が3割以下となる活性化ガスの放出時間は図3より算出すると約50分である。両者の時間を比較すると、50分の方が短いので、50分間の間活性化ガス放出手段より活性化ガスを放出させる。50分間の活性化ガスの放出により、製造現場内のコウジカビ以外の細菌は3割以下に減少するが、コウジカビの減少は8割にとどまるため、コウジカビの製品製造能力が落ちることなく、他の不要な細菌を除菌することができる。
【0049】
また、活性化ガス発生装置に、送風手段を設けることにより、発生した活性化ガスを製造現場内のすみずみまで行き渡らせるようにしてもよい。
【0050】
<第2の実施形態>
第2の実施形態は、第1の実施形態の活性化ガス発生装置をビールの製造工場に適用したものである。図6はビールの製造過程を示す図、図7は図6に示す発酵工程の現場に、第1の実施形態の活性化ガス発生装置をビールの製造工場に適用した製造現場の図である。
【0051】
図6に示すように、ビールの製造工程は、まずビール大麦(二条大麦)を麦芽にし、この麦芽を粉砕後、米等の副原料と共に温水に混ぜ、麦芽中の糖化酵素によりデンプンを糖分にまで分解する(糖化)。この糖化液をろ過した後にホップを加えて煮沸する。その後このろ過液を約5℃程度まで冷却して酵母を加え発酵させて若ビールを製造する。この若ビールを貯酒タンクにおいて数十時間かけて熟成させることによりビールができあがる。
【0052】
図7に示すように、発酵工程の製造現場では、一定の気流を維持するための空調機器11が備えられており、その空気の流れの道に格子状の天井12を設置して、これに活性化ガス発生装置1を設置する。さらにこの製造現場には、カビ又は酵母を利用した発酵容器を有するカビ又は酵母利用製造装置13が設置されている。この活性化ガス発生装置1からは正及び負のイオンが放出され、イオンを空調機器の気流で製造現場内に十分に拡散することにより、イオン濃度の均一化を図る。
【0053】
また、イオンの放出は、制御手段3の制御により、長時間の連続運転をするのではなく、30分〜60分運転し、数時間放出を止めるという形で間欠運転を行う。
【0054】
このような製造現場では、空気中の浮遊微生物はイオンにより除去されていくが、もし製造装置の外を満たしているイオンが製造装置の中に侵入しても、ビール製造の原料である糖化液に加えられる真菌である酵母にはダメージを与える事がない。その結果、空気中の浮遊微生物が常に除去されており、清浄な製造現場を提供することができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、空調機器の気流を利用して活性化ガス発生装置1の活性化ガスを製造現場に充満させたが、活性化ガス発生装置1自体に送風手段を設けるようにしてもよい。
【0056】
<第3の実施形態>
第3の実施形態は、第1の実施形態の活性化ガス発生装置1を、カビ利用製造装置に適用したものである。図8は本発明の第3の実施の形態を示すカビ利用製造装置の構成図である。
【0057】
カビ利用製造装置13とは、カビを利用して製品を製造させる装置であって、カビ及び原料を収容する発酵容器14と、発酵容器14の内面に、発酵中の温度を維持し、緩やかな一定の気流を維持するために設けられた空調機器11と、その気流中に設けられた第1の実施形態の活性化ガス発生装置1とから構成されている。
【0058】
発酵容器14の中には、カビを利用して醗酵させる原料である糖化液15が保持されている。また、空調機器11は、吸い込み口16から発酵容器14内の空気を送風ファン17によって吸引し、熱交換器18を通過させ、温度調節された空気が吹き出し口19より吹き出す。
【0059】
活性化ガス発生装置は、空調機器の内部の吹き出し口19の手前に設置されており、発生した正及び負のイオンが、温度調節された空気気流に乗り、発酵容器14の中に放出されていく。また、イオンは空調機器11の循環気流に乗り十分に発酵容器14内に拡散されていく。
【0060】
また、空調機器11は24時間運転を行うが、活性化ガス発生装置1は、第1の実施の形態と同様に長時間の連続運転をするのではなく、30分〜60分運転し、数時間放出を止めるという形で間欠運転を行う。
【0061】
このような発酵容器14内では、空気中の浮遊微生物はイオンにより除去されていくが、製造の原料である糖化液15に加えられる真菌である酵母にはダメージを与える事がない。その結果、空気中の浮遊微生物が常に除去されており、清浄な製造現場を提供することができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、活性化ガス発生装置1を空調機器11の内部に設け、その気流を利用して活性化ガスを製造現場に充満させたが、空調機器11と別個独立に設け、その気流中に設けてもよいし、または、活性化ガス発生装置1自体に送風手段を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す活性化ガス発生装置の概略構成図
【図2】試験用トレイを示す図
【図3】細菌の除菌性能の結果
【図4】カビの除菌性能の結果であって、(a)はAspergillus versicolor(コウジカビ)、(b)はPenicillum camambertii、 (c)はCladosporium herbarum(黒カビ)
【図5】DNAのアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真
【図6】ビールの製造過程を示す図
【図7】第2の実施形態を示す、活性化ガス発生装置をビールの製造工場に適用した製造現場の図
【図8】第3の実施の形態を示すカビ利用製造装置の構成図
【符号の説明】
【0064】
1 活性化ガス発生装置
2 活性化ガス発生手段
3 制御手段
4 アルミナ誘導体
5 放電電極
6 対向電極
7 高圧パルス電源
8 トレイ
9 寒天培地
10 チャンバー
11 空調機器
12 天井
13 カビ又は酵母利用製造装置
14 発酵容器
15 糖化液
16 吸い込み口
17 ファン
18 熱交換機
19 吹き出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カビ又は酵母を利用して製品を完成させる製造現場内に、除菌可能な活性化ガスを放出することにより、空気中又は製品表面に存在するカビ又は酵母以外の微生物を除菌することを特徴とするカビ又は酵母利用製造現場の浄化方法。
【請求項2】
活性化ガスは、間欠的に放出されることを特徴とする請求項1記載のカビ又は酵母利用製造現場の浄化方法。
【請求項3】
前記活性化ガスは、正イオン、負イオン、プラズマ、ラジカル、オゾン及び水分子のうちいずれかを単独または複合体として含むことを特徴とする請求項1又は2記載のカビ又は酵母利用製造現場の浄化方法。
【請求項4】
ガス又は酵母を利用して製品を完成させる製造現場に用いられる活性化ガス発生装置であって、除菌可能な活性化ガスを放出する活性化ガス発生手段が設けられたことを特徴とする活性化ガス発生装置。
【請求項5】
前記活性化ガス発生手段の活性化ガス放出を制御する制御手段が設けられ、該制御手段は、前記活性化ガス発生手段から活性化ガスを間欠的に放出させることを特徴とする請求項4記載の活性化ガス発生装置。
【請求項6】
前記制御手段は、カビ又は酵母の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間と、製造現場内のカビ又は酵母以外の微生物の残存数が一定数以下となるのに必要な活性化ガスの放出時間とを算出し、両者を比較し、短い方の時間の間、活性化ガスを放出させることを特徴とする請求項5記載の活性化ガス発生装置。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の活性化ガス発生装置が設けられたことを特徴とするカビ又は酵母利用製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−247297(P2006−247297A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72062(P2005−72062)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】