説明

カプシノイドの製造方法及び安定化法、並びにカプシノイド組成物

【課題】 酵素を用いたエステル化によるカプシノイドの製造方法において、縮合に伴い生成する水やアルコールの補捉剤を用いることなく、短時間かつ高収率でカプシノイドを簡便に製造する方法を提供する。また、得られるカプシノイドの精製を安定条件下に行い、製造したカプシノイドを安定に保存する方法を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるビニルエステルと、一般式(2)で表されるヒドロキシメチルフェノールとを、酵素の存在下で縮合させて、一般式(3)で表されるエステル化合物を製造する。また、一般式(3)で表されるエステル化合物に、一般式(4)で表される脂肪酸を添加して安定化する。
【化1】


(式中、各記号は明細書中の定義と同義である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプシノイドの新規合成法及び安定化法並びにカプシノイド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トウガラシ(Capsicum annuum L.)の辛味成分カプサイシン((E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル]−8−メチル−6−ノネンアミド)は、肥満抑制作用、エネルギー代謝亢進などの生理活性を有するが、辛味が非常に強いために使用量が限定され、食品添加物や医薬品としての用途を妨げていた。
【0003】
近年、矢澤らは、タイ原産の強辛味品種CH−19から選抜した無辛味果実を長年かけて固定化した無辛味品種トウガラシCH−19甘を開発し、報告した(例えば、非特許文献1参照)。
CH−19甘は、辛味の無いカプシノイドを多量に含み、当該カプシノイドは、含量の多い順にカプシエイト、ジヒドロカプシエイト、ノルジヒドロカプシエイトであり、それらは以下の化学式を有する。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
【化3】

【0007】
これらカプシノイドはカプサイシンと同様の生理活性を有していながら、辛味が無いために食品添加物や医薬品として利用できる可能性がある。しかし、天然から高純度カプシノイドを大量に得るためには限界があり、簡便に大量にカプシノイドを生産するための新規合成法が求められている。
【0008】
カプシノイドのエステルを形成するには、バニリルアルコールと脂肪酸誘導体との縮合が一般的である。
しかし、バニリルアルコールの反応点としては、一級水酸基とフェノール性水酸基の二箇所があり、一般的なエステル化法、例えば、バニリルアルコールと脂肪酸の酸塩化物とを塩基存在下縮合するような方法(例えば、非特許文献2参照)では、酸塩化物が、一級水酸基とフェノール性水酸基の両方に反応してしまうために、目的とするカプシノイドの収率が低くなってしまう。
そこで、一般的なエステル化法でカプシノイドを合成するには、バニリルアルコールのフェノール性水酸基を選択的に保護することも考えられるが、エステル化の前後で、保護、脱保護を行う必要があり、その製造において工程の多段階化を招き、好ましくない。また、カプシノイドは不安定ゆえ、脱保護の際に分解し易いという問題点がある。
【0009】
一級水酸基のみを選択的に反応させる方法として、光延反応による方法(例えば、非特許文献3参照)及びLiClO4を用いる方法(例えば、非特許文献4参照)があるが、前者は、反応後にトリフェニルホスフィンオキシド、ジエチルアゾジカルボキシレートの還元体が共生成物として生じるため、精製が困難であるという問題があり、後者は、本発明者らが文献記載の実験を忠実に再現したが記載通りの収率を達成することが困難であったり、いずれも工業的実施には適さない。
【0010】
一方で、酵素を用いたエステル化法によって、一級水酸基のみを選択的に反応させることが可能であり、当該方法は、試薬入手の容易さ、工程の簡便さの観点から、工業的実施に適していると考えられる。酵素を用いた方法の具体例としては、酵素としてリパーゼ(ノボザイム 435、ノボザイムズ社製)を用いてバニリルアルコールと、側鎖脂肪酸又はそのメチルエステルとを縮合させる方法(例えば、特許文献1参照)がある。しかし、この酵素を用いた反応は、エステル化に伴い発生する水又はアルコールとの平衡反応であるため、反応に長時間を要する上、収率が60%程度と低いという問題がある。モレキュラーシーブス等の水やアルコールの補捉剤を添加すれば、収率の向上が見込まれるものの、補捉剤は、濾過して除去する必要があるため、酵素を再利用するには、反応後の濾過物から酵素と補捉剤とを分離しなくてはならないという問題がある。
【0011】
ところで、酢酸ビニルと酵素を用いて水酸基をアセチル化する反応は広く知られており、バニリルアルコールと酢酸ビニルを酵素により縮合して酢酸エステルとする反応(例えば、非特許文献5参照)も既知である。しかしながら一般脂肪酸ビニルエステル、特に長鎖脂肪酸ビニルエステルとバニリルアルコールの縮合により一級水酸基選択的にエステル化を行うことでカプシノイドを合成する反応は知られていない。
【0012】
また、カプシノイドは不安定であり、ある種の有機溶媒に溶解しておくだけで分解が進むことが知られている(例えば、非特許文献6参照)。そのため、工業的にカプシノイドを製造するためには、カプシノイドを安定に精製し、保存する技術も必要となる。
【特許文献1】特開2000−312598号公報
【非特許文献1】Yazawa, S.; Suetome, N.; Okamoto, K.; Namiki, T. J. Japan Soc. Hort. Sci. 1989, 58, 601-607.
【非特許文献2】Kobata, K.; Todo, T.; Yazawa, S.; Iwai, K.; Watanabe, T. J. Agric. Food Chem. 1998, 46, 1695-1697.
【非特許文献3】Appendino, G.; Minassi, A.; Daddario, N.; Bianchi, F.; Tron, G. C. Organic Letters 2002, 4, 3839-3841.
【非特許文献4】Bandgar, B. P.; Kamble, V. T.; Sadavarte, V. S.; Uppalla, L. S. Synlett 2002, 735-738.
【非特許文献5】Allevi, P.; Ciuffreda, P.; Longo, A.; Anastasia, M. Tetrahedron: Asymmetry 1998, 9, 2915-2924.
【非特許文献6】Sutoh, K.; Kobata, K.; Watanabe, T. J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 4026-4030.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、酵素を用いたエステル化によるカプシノイドの製造方法において、縮合に伴い生成する水やアルコールの補捉剤を用いることなく、短時間かつ高収率でカプシノイドを簡便に製造する方法を提供すること、また、その製造に有用な中間体化合物を提供することにある。更に、得られるカプシノイドの精製を安定条件下に行い、製造したカプシノイドを安定に保存する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酵素による縮合反応において、脂肪酸のビニルエステルとバニリルアルコールとを用いて縮合反応を行えば、簡便に、短時間かつ高収率でカプシノイドを得ることができることを見出した。更に、カプシノイドに数%の脂肪酸を共存させておくと、カプシノイドを安定に単離することが可能であり、その上長期保存が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
以下に説明するように、本発明は、カプシノイドの合成に、脂肪酸成分としてビニルエステルを用いる方法、カプシノイド合成原料としてのビニルエステル、及び得られるカプシノイドに対応する脂肪酸を共存させておくことによりカプシノイドを安定に精製及び保存する方法に関する。
【0016】
即ち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕一般式(1)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R1は、炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表されるビニルエステル(以下、ビニルエステル(1)ともいう)と、一般式(2)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R2〜R6は、それぞれ独立に、水素、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるヒドロキシメチルフェノール(以下、ヒドロキシメチルフェノール(2)ともいう)とを、酵素の存在下で縮合させることを特徴とする、一般式(3)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R1〜R6は上記と同義である。)
で表されるエステル化合物(以下、エステル化合物(3)ともいう)の製造方法。
〔2〕ヒドロキシメチルフェノール(2)が、バニリルアルコールである上記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕ビニルエステル(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)とを縮合させる前又は縮合させた後に、一般式(4)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R1’は炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(4)ともいう)を添加する、上記〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕縮合させた後、得られたエステル化合物(3)と、縮合中に副生したビニルエステル(1)に対応する脂肪酸とを、同時に分取する精製工程を更に含むものである、上記〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔5〕縮合させた後、得られたエステル化合物(3)と、脂肪酸(4)とを、同時に分取する精製工程を更に含むものである、上記(3)記載の製造方法。
〔6〕R1が、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基及びドデシル基からなる群より選ばれる基である、上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
〔7〕酵素がリパーゼである上記〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の製造方法。
〔8〕縮合がアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上の溶媒下、又は無溶媒下で行われる上記〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の製造方法。
〔9〕縮合が15℃から90℃で行われる上記〔1〕乃至〔8〕のいずれかに記載の製造方法。
〔10〕ビニルエステル(1)が、一般式(11)
【0025】
【化8】

【0026】
(式中、R1は上記と同義であり、Rcはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、アリル基又はベンジル基を示す。)
で表されるエステル化合物(以下、エステル化合物(11)ともいう)を加水分解し、塩基と反応させて塩結晶を形成することにより得られた一般式(12)
【0027】
【化9】

【0028】
(式中、R1は上記と同義である。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(12)ともいう)を、 ビニルエステル化して得られたものである上記〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の製造方法。
〔11〕エステル化合物(11)が、一般式(8)
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、Raは、置換基を有していてもよい炭素数1から24のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数2から24のアルケニル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(8)ともいう)を、一般式(9)
【0031】
【化11】

【0032】
(式中、Ra及びXは上記と同義である。)
で表されるグリニア試薬(以下、グリニア試薬(9)ともいう)に変換し、グリニア試薬(9)を、一般式(10)
【0033】
【化12】

【0034】
(式中、Rbは、置換基を有していてもよい炭素数1から24のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数2から24のアルケニル基を示し、ただし、Rbの炭素数に関し、RaとRbの炭素数の和は5から25であり、Rcは上記と同義であり、Yはハロゲン原子、メタンスルフォニルオキシ基、パラトルエンスルフォニルオキシ基又はトリフルオロメタンスルフォニルオキシ基を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(10)ともいう)とのクロスカップリング反応に付すことにより得られたものである、上記〔10〕記載の製造方法。
〔12〕ビニルエステル(1)が、一般式(13)
【0035】
【化13】

【0036】
(式中、Rd及びReは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1から6のアルキル基を示し、mは0又は1、nは1から5の整数である。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(13)ともいう)とそのシス異性体の混合物より、当該混合物を塩基と反応させて塩を形成し、形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて精製することによって、脂肪酸(13)を得、得られた脂肪酸(13)をビニルエステル化して得られたものである上記〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の製造方法。
〔13〕一般式(5)
【0037】
【化14】

【0038】
で表される8−メチルノナン酸ビニルエステル。
〔14〕一般式(6)
【0039】
【化15】

【0040】
で表されるトランスー8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステル。
〔15〕エステル化合物(3)と、一般式(7)
【0041】
【化16】

【0042】
(式中、R1’’は炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(7)ともいう)とを含有してなる組成物(但し、植物体からの油脂抽出物を除く)。
〔16〕脂肪酸(7)が、エステル化合物(3)に対し、0.1重量%から30重量%含有されている上記〔15〕記載の組成物。
〔17〕増量剤又は担体として、油脂組成物、乳化剤、保存剤及び抗酸化剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上の添加物を更に含有してなる上記〔15〕又は〔16〕記載の組成物。
〔18〕エステル化合物(3)に、脂肪酸(4)を添加し、エステル化合物(3)の純度を保持又は向上することを特徴とする、エステル化合物(3)の安定化方法。
〔19〕脂肪酸(4)が、エステル化合物(3)に対し、0.1重量%から30重量%添加される上記〔18〕記載の安定化方法。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、酵素を用いて、カプシノイドを短時間で収率よく簡便に大量生産することができる。また、モレキュラーシーブス等の補捉剤を必要としないため、酵素を濾過により回収するだけで再利用できる。また、生成したカプシノイドは、脂肪酸の共存下で分離することによって、安定、かつ高純度で得ることができる。このように本発明により、カプシノイドを工業的に有利に製造することが可能となる。
更に、本発明の安定化方法によれば、カプシノイドを脂肪酸と共存させることにより、カプシノイドを安定に保存することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明について実施の形態を説明する。
まず、本発明で用いられる用語の定義について説明する。
R1で表される炭素数5から25のアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、例としては、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、6−メチルヘキシル基、ヘプチル基、4,4−ジメチルペンチル基、オクチル基、2,2,4−トリメチルペンチル基、7−メチルオクチル基、ノニル基、8−メチルノニル基、デシル基、9−メチルデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、ペンタコシル基等が挙げられる。その他、これらの種々の分岐鎖異性体を含む。
【0045】
R1で表される炭素数5から25のアルケニル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、二重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、例としては、ペンテニル基(例、4−ペンテニル基、3−ペンテニル基等)、ヘキセニル基(例、2−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基等)、6−メチル−4−ヘキセニル基、ペプテニル基(例、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、5−ヘプテニル基等)、オクテニル基(例、3−オクテニル基、6−オクテニル基等)、7−メチル−5−オクテニル基、ノネニル基(例、3−ノネニル基、7−ノネニル基等)、8−メチル−6−ノネニル基、デセニル基(例、8−デセニル基等)、9−メチル−7−デセニル基、アンデセニル基(例、9−アンデセニル基等)、ドデセニル基(例、10−ドデセニル基等)、テトラデセニル基、4,8,12−テトラデカトリエニル基、ペンタデセニル基(例、13−ペンタデセニル基等)、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基(例、15−ヘプタデセニル基等)、オクタデセニル基(例、16−オクタデセニル基等)、ノナデセニル基(例、17−ノナデセニル基)、イコセニル基(例、18−イコセニル基等)、ヘニコセニル基(例、19−ヘニコセニル基等)、ドコセニル基(例、20−ドコセニル基等)、ペンタコセニル基等が挙げられる。その他、これらの種々の分岐鎖異性体を含む。二重結合部分の立体構造は、トランス型、シス型のいずれであってもよいが、好ましくはトランス型である。
【0046】
R1で表される炭素数5から25のアルキル基及び炭素数5から25のアルケニル基は、任意に1〜4の置換基によって置換されていてもよく、置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アミノ基、水酸基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、チオール基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。炭素数1〜4のアルキルとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基が挙げられる。
【0047】
R1は、得られる化合物(3)のカプシノイドとしての有用性の観点から、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基、ドデシル基等であることが好ましい。
【0048】
ビニルエステル(1)は、単独化合物であっても、R1が上記定義内で異なる2種以上の化合物の混合物であってもよいが、単独化合物であることが好ましい。しかしながら、天然のカプサイシノイドから単離した脂肪酸を用いてバニリルアルコールと縮合してカプシノイドを合成する場合には、ビニルエステル(1)はトランス−8−メチルー6−ノネン酸ビニルエステル、8−メチルノナン酸ビニルエステル及び7−メチルオクタン酸ビニルエステルなどの混合物である。又、天然の存在比であるカプシノイドの組成物を合成物で再現したい場合などは、本法により別途合成したカプシノイドを混合すれば良いが、ビニルエステル(1)として対応する化合物の混合物を用いて本法を適用することによってもその目的を達成することが出来る。
【0049】
R2〜R6で表される炭素数1から25のアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等及び上記R1で表される炭素数5から25のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0050】
R2〜R6で表される炭素数2から25のアルケニル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、二重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等及び上記R1で表される炭素数5から25のアルケニル基と同様のものが挙げられる。
【0051】
R2〜R6で表される炭素数2から25のアルキニル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、三重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、具体例としては、エチニル基、プロピニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、ノニニル基等が挙げられる。
【0052】
R2〜R6で表される炭素数1から25のアルコキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、アルキル部が上記R2〜R6で表される炭素数1から25のアルキル基と同様であるアルコキシ基が例示できる。
【0053】
R2〜R6で表される炭素数2から25のアルケニルオキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、二重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、アルケニル部が上記R2〜R6で表される炭素数2から25のアルケニル基と同様であるアルケニルオキシ基が例示できる。
【0054】
R2〜R6で表される炭素数2から25のアルキニルオキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、三重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、アルキニル部が上記R2〜R6で表される炭素数2から25のアルキニル基と同様であるアルキニルオキシ基が例示できる。
【0055】
R2〜R6は、少なくとも一つが水酸基であり、R4が水酸基であることが好ましい。また、R2〜R6のうち一つだけが水酸基であることが好ましい。
【0056】
R2〜R6として、好ましくは、水素、メトキシ基、エトキシ基、アリル基、ビニル基、ビニルオキシ基である。
【0057】
R2〜R6の好ましい組み合わせとしては、R2、R5及びR6が水素であり、R3がメトキシ基、エトキシ基、アリル基、ビニル基又はビニルオキシ基であり、R4が水酸基である。なかでもR3がメトキシ基である(すなわちヒドロキシメチルフェノール(2)は、バニリルアルコールである)ことが、目的物であるエステル化合物(3)のカプシノイドとしての有用性の観点から最も好ましい。
【0058】
ヒドロキシメチルフェノール(2)は、単独化合物であってもR2〜R6が上記定義内にある2種以上の化合物の混合物であってもよいが、好ましくは単独化合物である。
【0059】
R1’で表される炭素数5から25のアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、R1で表される炭素数5から25のアルキル基と同じものが例示できる。
R1’で表される炭素数5から25のアルケニル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、二重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、R1で表される炭素数5から25のアルケニル基と同じものが例示できる。
【0060】
R1’で表される炭素数5から25のアルキル基及び炭素数5から25のアルケニル基が有していてもよい置換基は、R1で表される炭素数5から25のアルキル基及び炭素数5から25のアルケニル基が有していてもよい置換基と同様である。
【0061】
R1’は、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基、ドデシル基等であることが好ましく、R1として選択された基であることが最も好ましい。すなわち、ビニルエステル(1)のR1と脂肪酸(4)のR1’は、同一の基であることが好ましい。
【0062】
R1’’で表される炭素数5から25のアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、R1で表される炭素数5から25のアルキル基と同じものが例示できる。
R1’’で表される炭素数5から25のアルケニル基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、二重結合の数は1つでも2つ以上であってもよく、R1で表される炭素数5から25のアルケニル基と同じものが例示できる。
【0063】
R1’’で表される炭素数5から25のアルキル基及び炭素数5から25のアルケニル基が有していてもよい置換基は、R1で表される炭素数5から25のアルキル基及び炭素数5から25のアルケニル基が有していてもよい置換基と同様である。
【0064】
R1’’は、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基、ドデシル基等であることが好ましく、R1として選択された基であることが最も好ましい。すなわち、ビニルエステル(1)のR1と脂肪酸(7)のR1’’は、同一の基であることが好ましい。
【0065】
本発明は、ビニルエステル(1)と、ヒドロキシメチルフェノール(2)とを、酵素の存在下で縮合させることを特徴とする、エステル化合物(3)の製造方法である。
【0066】
従来のカルボン酸又はメチルエステルを用いる方法では、エステル化は脱離する水又はメタノールとの平衡反応であるため、収率が上がらず反応時間の延長及び原料残存の問題が生じていたが、ビニルエステル(1)を用いた場合は、脱離する化合物はビニルアルコールであり、このビニルアルコールは異性化して低沸点であるアセトアルデヒドとなって反応系外に放出されるため、エステル化は非平衡反応となる。その結果、エステル化合物(3)を短時間で、90%以上の高収率で、HPLC分析にて99面積%以上の高純度で製造することも可能である。
また、従来のカルボン酸又はメチルエステルを用いる方法では、脱離する水又はメタノールの補足剤としてモレキュラーシーブス等を添加すれば収率の向上が見込まれるが、酵素を濾過後に再利用したい場合、酵素と補足剤とを分離する必要がある。一方、ビニルエステル(1)を用いた場合は、生じるのは低沸点であるアセトアルデヒドのみで、当該アセトアルデヒドは反応液を濃縮する際に溶媒と共に溜去されるため、酵素を単に濾過するだけでそのまま再利用することができる。
【0067】
本発明で使用するビニルエステル(1)は、公知の方法(例えば、特開昭53−127410号公報、Synthesis 1994, 375-377等参照)に準じて対応する脂肪酸をビニルエステル化することにより、1工程で容易に製造して入手することができる。また、対応する脂肪酸の合成に関しては、下記反応スキームで示されるクロスカップリング法が好適である。
【0068】
【化17】

【0069】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Ra及びRbは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1から24のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数2から24のアルケニル基を示し、ただし、RaとRbの炭素数の和は5〜25であり(置換基に炭素が含まれる場合には、置換基の炭素数は除く)、Rcはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、アリル基又はベンジル基であり、Yはハロゲン原子、メタンスルフォニルオキシ基、パラトルエンスルフォニルオキシ基、又はトリフルオロメタンスルフォニルオキシ基を示す。)
【0070】
Ra及びRbは、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数1から24のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数2から24のアルケニル基であって、RaとRbの炭素数の和が5〜25となるような基を示すが、Raで表される基とRbで表される基とが、クロスカップリング反応により結合して、R1で表される基(すなわち、炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基であって、置換基を有していてもよい基)になる。従って、Ra及びRbは、具体的には、R1の構造により適宜決まる。
X及びYで表されるハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは、臭素原子である。
【0071】
当該クロスカップリング法においては、まず化合物(8)をグリニア試薬(9)に変換し、該グリニア試薬(9)を化合物(10)とのクロスカップリング反応に付して、エステル化合物(11)に変換し、更に、該エステル化合物(11)を加水分解する。
【0072】
化合物(8)及び化合物(10)は、公知方法により合成して入手可能であり、市販品があるものについては市販品をそのまま使用することができる。
【0073】
化合物(8)の、グリニア試薬(9)への変換は、化合物(8)を常法に従いマグネシウムと反応させることにより、行うことができる。
【0074】
グリニア試薬(9)と化合物(10)とのクロスカップリング反応は、例えば、グリニア試薬(9)と、グリニア試薬(9)に対し1〜3当量の化合物(10)とを、溶媒中、銅触媒の存在下、低温(好ましくは−5℃〜10℃、より好ましくは−3℃から5℃)で15分〜3時間反応させることにより行うことができる。
溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル類、N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−(1H)−ピリミジン(DMPU)等及びこれらの混合溶媒等を使用することができる。
銅触媒としては、LiCuCl、CuI、CuBr、CuCl、CuBr・MeS等が挙げられ、銅触媒は、化合物(10)に対して0.5〜20モル%、好ましくは1〜3モル%使用される。
また、反応を円滑に進行させるために、トリメチルクロロシラン等の添加剤を、化合物(10)に対して0.5〜4当量(好ましくは1〜2当量)用いてもよい。
【0075】
上記カップリング反応により得られるエステル化合物(11)の加水分解は、公知方法(例、酸を用いた方法、アルカリを用いた方法等)により行うことができる。
【0076】
加水分解により得られる式(12)で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(12)ともいう)は、塩基との塩結晶を形成させることによって、不純物を除去することができる。
塩結晶は、例えば、脂肪酸(12)と塩基とを溶媒中で撹拌することによって形成させることができる。
【0077】
塩基としては、無機塩基(例、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム等)、有機アミン(例、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、シクロヘキシルアミン、4−メトキシベンジルアミン、エタノールアミン、(S)−又は(R)−フェニルグリシノール、(S)−又は(R)−フェニルアラニノール、シス−2−アミノシクロヘキサノール、トランス−4−アミノシクロヘキサノール、(1S,2R)−シス−1−アミノ−2−インダノール、L−リジン、L−アルギニン等)、アンモニア等が挙げられる。塩基の使用量としては、脂肪酸(12)に対して0.8〜1.2当量、好ましくは0.9〜1.1当量である。
【0078】
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の酢酸エステル類;ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、THF等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;アセトン等のケトン類;クロロホルム等のハロゲン溶媒等及びこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0079】
上記のようにして脂肪酸(12)と塩基との塩結晶を形成することによって、必要に応じて次いで再結晶することによって、脂肪酸(12)以外の反応副生物、例えばアルコールやケトンは、容易に効率よく除去することが出来る。
次いで、得られた塩結晶を酸性水溶液(例えば塩酸水溶液)に加え、ヘキサン等で抽出した後、ヘキサン等を留去することによって、目的の脂肪酸(12)を高純度で再生することが出来る。
なお、塩基との塩結晶の形成による脂肪酸の精製は、上述のクロスカップリング方法により得られる脂肪酸に限られず、公知の方法によって得られる種々の脂肪酸の精製方法として応用可能であり、塩形成により精製された脂肪酸は、ビニルエステル化することにより、ビニルエステル(1)に導くことができ、従って、ビニルエステル(1)の好適な材料となる。
【0080】
また、ビニルエステル(1)の材料に用いる脂肪酸(12)が、式(13)
【0081】
【化18】

【0082】
(式中、Rd及びReは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1から6のアルキル基を示し、mは0又は1、nは1から5の整数である。)
【0083】
で表される構造を有する化合物(以下、脂肪酸(13)ともいう)であり、入手できた材料が脂肪酸(13)とそのシス異性体との混合物であって、脂肪酸(13)のみを分離して使用したい場合には、その混合物を塩基と反応させて塩を形成し、形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて脂肪酸(13)の塩をそのシス異性体との塩と分離することができる。
【0084】
Rd及びReで表される炭素数1から6のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、好ましくは、Rd及びRe共にメチル基である。
mは、0又は1であり、好ましくは0である。nは、1から5の整数であり、好ましくは3又は4であり、より好ましくは4である。
【0085】
脂肪酸(13)とそのシス異性体との分離において、塩の形成は、上述した脂肪酸(12)と塩基との塩結晶の形成と同様にして行うことができる。
形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて脂肪酸(13)の塩をそのシス異性体との塩と分離する方法としては、晶析、スラリー洗浄、再結晶等が挙げられる。
【0086】
脂肪酸(13)とそのシス異性体との分離の一例を示すと、トランス−8−メチル−6−ノネン酸とそのシス異性体(シス−8−メチル−6−ノネン酸)との混合物(トランス体88%、シス体12%)においては、シス−2−アミノシクロヘキサノールを塩基として用い、2、3回の晶析によってシス異性体を分離して、トランス−8−メチル−6−ノネン酸の比率を97%以上にまで高めることができる。
【0087】
得られた塩結晶を酸性水溶液(例えば塩酸水溶液)に加え、ヘキサン等で抽出した後、ヘキサン等を留去することによって、脂肪酸(13)のフリー体を得ることが出来る。
【0088】
主要天然カプシノイドの構成成分である8−メチルノナン酸及び8−メチル−6−ノネン酸のビニルエステルである8−メチルノナン酸ビニルエステル 及び8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステルは、文献検索の結果、CAS登録番号が付されておらず、脂肪酸ビニルエステルとして新規物質であり、本発明の一部を構成する。
【0089】
本発明で使用されるヒドロキシメチルフェノール(2)は、公知化合物であり、公知方法により合成して入手することができる。市販品があるものについては、市販品を使用することができる。
【0090】
縮合のための操作としては、ビニルエステル(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)との縮合反応が進行する限り特に制限はないが、例えば、ビニルエステル(1)を溶媒に溶解させ、そこへヒドロキシメチルフェノール(2)及び酵素を添加する等が挙げられる。
【0091】
本発明に用いられる酵素は、ビニルエステル(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)の縮合反応を媒介しうるものであれば、特に制限無く使用することができ、代表的にはエステラーゼが用いられる。エステラーゼとしては通常リパーゼが使用され、微生物起源のものでもよいし、動物起源、或は植物起源のものも使用できる。
リパーゼとしては、リパーゼPS「アマノ」、リパーゼAK「アマノ」、リパーゼAS「アマノ」、リパーゼAYS「アマノ」(以上、天野エンザイム(株)製)等が挙げられる。
また、酵素の形態は、反応溶液中に添加し得る限り、どのような形態で用いても良いが、固定化酵素を用いることが、その後の酵素回収などが容易となるため好ましい。固定化酵素としては、リパーゼPS−C「アマノ」I(セラミック固定)、リパーゼPS−C「アマノ」II(セラミック固定)、リパーゼPS−D「アマノ」I(けいそう土固定)(以上、天野エンザイム社製)、ノボザイム 435(ノボザイムズ社製)等のリパーゼの固定化酵素を用いることができるが、安価である点ではリパーゼPS「アマノ」が望ましく、再利用が可能である点ではリパーゼPS−C「アマノ」等のリパーゼの固定化酵素が望ましい。また、リパーゼPS−C「アマノ」或はリパーゼPS−D「アマノ」Iを用いると反応液が若干着色を伴うことがあるが、ノボザイム 435を用いると着色が無いという点ではノボザイム 435が望ましい。
酵素の添加量はその酵素の活性によるが、重量で、ビニルエステル(1)の0.01から60重量%、望ましくは0.1から30重量%の範囲から選択することができる。また、反応の途中で更に酵素を添加し、過剰に用いても良い。
【0092】
溶媒としては、アセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等及びこれらの混合溶媒等の有機溶媒を適宜用いることができるが、安価である又は反応収率が高い等の点から、アセトン、4−メチル−2−ペンタノン、テトラヒドロフラン、トルエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。溶媒の使用量としては、ビニルエステル1gに対し、通常1〜70ml、好ましくは5〜15mlである。
更に、無溶媒下で反応を行うこともできる。無溶媒下で反応を行った場合には、溶媒の除去操作が不要であり、また、ヒドロキシメチルフェノール(2)の使用量を減らしても、反応が収率よく進行するという利点がある。
【0093】
反応の際に使用するビニルエステル(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)は、最も高収率でエステル化合物(3)を生成するモル比率で用いれば良く、当業者であれば、目的とするエステル化合物(3)の側鎖に対応するビニルエステル(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)との比率を、簡単な予備実験により決定することが出来る。一例を挙げると、ビニルエステル(1):バニリルアルコールの比率は、モル比で0.8:1から1:6の範囲、更に望ましくは0.9:1から1:3の範囲から適宜選択することができる。酵素としてリパーゼPS「アマノ」を用いた場合、バニリルアルコールも1.2〜1.4当量と小過剰に用いれば十分である。バニリルアルコールを3当量程度用いる、或いは合計3当量程度まで追加投入すると更に反応速度は増加する。過剰に用いたバニリルアルコールについては反応終了後の後処理において、反応溶液にヘキサンやヘプタンを加えるとバニリルアルコールが沈殿するため、濾過することで酵素と共に除去又は回収が可能である。
【0094】
反応温度は、用いる酵素が最も効率よく反応する温度を選択すれば良く、当業者であれば簡単な予備実験により容易に設定可能である。使用する酵素によって至適温度はそれぞれ異なるため、一概には言えないが、一般には15℃から90℃を、更に望ましくは35℃から65℃を選択することができる。一例を挙げると、酵素としてリパーゼPS「アマノ」を選択した場合、50℃程度に加熱すると反応が促進される。
【0095】
反応時間としては、用いる酵素の活性、各試薬の濃度等を考慮に入れ、収率等の観点から適宜選択されるが、通常1時間から72時間であり、好ましくは、3時間から48時間である。
【0096】
反応終了後、常法に従い、エステル化合物(3)を回収することができる。例えば、ヒドロキシメチルフェノール(2)が不溶の溶媒(例えば、ヒドロキシメチルフェノール(2)がバニリルアルコールの場合は、ヘキサンやヘプタン等)を添加して未反応のヒドロキシメチルフェノール(2)を析出させ、ヒドロキシメチルフェノール(2)及び酵素を濾別する。濾液から溶媒を溜去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて分離、精製することによりエステル化合物(3)を得ることができる。また、反応終了後に反応溶液にヘキサンやヘプタンを加えて濾過した後に、濾液に対して例えば10%クエン酸水溶液等と分液操作を行い、有機層を減圧濃縮するだけで高純度のエステル化合物(3)が得られ、簡便である。酵素を再利用したい場合には、先に酵素だけを濾別すれば良い。その際、ヒドロキシメチルフェノールが酵素に混入していたら、混合物のまま次回の反応に用いることができるし、ヒドロキシメチルフェノールだけを有機溶媒に溶解することによって除去した後に酵素だけを次回の反応に用いることも出来る。
【0097】
得られたエステル化合物(3)は、脂肪酸(4)と共存させることにより、安定化することができる。
【0098】
エステル化合物(3)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製する際、反応系内で微量に生成する(おそらく、反応系中に存在する微量の水分による加水分解による)、ビニルエステル(1)に対応する脂肪酸(すなわち、R1COOHで表される脂肪酸)は、エステル化合物(3)とRf値が近いものであるが、本発明者らは、これらをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで完全に分離、精製してみたところ、得られた純品のエステル化合物(3)は分解しやすいことを見出した。例えば、デカン酸とバニリルアルコールからデカン酸バニリルを合成後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにてデカン酸を分離、精製した純品のデカン酸バニリルをアセトニトリルに溶解し、HPLC分析を行ったところ、デカン酸バニリルの純度は、95.6面積%であった。ところが、同サンプルを62時間後再度分析すると、82.0面積%と純度が低下し、デカン酸バニリルの分解が見られた。
【0099】
カプシノイドを含有する植物体から抽出して得るカプシノイドについては、抽出時に用いる油性基材中において比較的安定であることは知られていたが、合成して得られるカプシノイドを安定化させる手法はこれまで知られていない。
発明者らは、Rf値の近い脂肪酸と共に溶出させて得たエステル化合物(3)は安定であり、即ち、当該脂肪酸がエステル化合物(3)の安定化に寄与していることを見出し、本発明の安定化方法を完成するに至った。例えばジヒドロカプシエイトを合成後、反応中生じる2重量%程度の脂肪酸と共に分取して精製したジヒドロカプシエイトに対してHPLC分析を行ったところ、その純度は、99面積%以上と高純度であり、ヘキサン中5℃において少なくとも30日間全く分解することなく安定に保存可能であることがわかった。
【0100】
従って、上記縮合の反応混合物より、エステル化合物(3)と反応中に副生した、ビニルエステル(1)に対応する脂肪酸とを同時に分取して精製することにより、エステル化合物(3)を高純度で安定して得ることができる。
また、ビニルエステル(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)とを縮合させる前又は縮合させた後に、脂肪酸(4)を添加し、エステル化合物(3)と脂肪酸(4)とを、同時に分取して精製することにより、エステル化合物(3)を高純度で安定して得ることができる。
この脂肪酸(4)の入手方法としては、上記で説明したクロスカップリング法による合成方法及び脂肪酸の塩結晶化による精製方法が好適である。
【0101】
分取は、エステル化合物(3)と脂肪酸とを同時に他の成分から分離して得ることができるのであれば、その方法については特に制限はなく、例えば、固定相にシリカゲルを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより行うことができる。
【0102】
シリカゲルクロマトグラフィーにより分取を行う場合、その条件として、粗生成物1gに対して10gのシリカゲルを充填させたカラムを用い、ジエチルエーテル:ヘキサン=15:85の混合溶媒を流すとエステル化合物(3)と脂肪酸がほぼ同時に溶出する。溶出したフラクションを集めて減圧濃縮すると精製されたエステル化合物(3)と少量の脂肪酸の混合物が得られる。
【0103】
このように、エステル化合物(3)と脂肪酸とを同時に分取すれば、エステル化合物(3)のみを単離する場合に比べ、精製に用いるシリカゲルの量は少量でよく、得られるエステル化合物(3)の安定性を高くできる。
【0104】
また、エステル化合物(3)を、単独で単離した場合又は安定化するには不十分の量の脂肪酸と共に回収した場合(これらの場合において、エステル化合物(3)は、本発明とは別の製造方法により得られたものであってもよい)でも、エステル化合物(3)に脂肪酸(4)を添加することにより、エステル化合物(3)を安定化することができる。
例えば、デカン酸と分離した純品のデカン酸バニリルに対してアセトニトリル中、9.1重量%のデカン酸を添加すると19.5時間後でも97.6面積%と高純度に維持された。
上述のように、エステル化合物(3)は小過剰量の脂肪酸を共存させておけば極めて安定であることを本発明者らが発見したが、一方、エステル化合物(3)は脂肪酸と分離してしまうと純度が経時的に低下して行く。本発明者らがこの現象について解析を行った結果、脂肪酸と分離するなどして一旦純度の低下した、エステル化合物(3)に新たに小過剰量の脂肪酸(4)を添加すると、エステル化合物(3)の純度を向上(回復)させることができることを発見した。言い換えると、エステル化合物(3)に脂肪酸(4)を添加することにより、エステル化合物(3)を精製することもできる。
【0105】
添加される脂肪酸(4)は、エステル化合物(3)と脂肪酸(4)を含む組成物の用途に応じて適宜選択されるが、一般式(4)におけるR1’が、エステル化合物(3)の一般式(3)におけるR1と同一の基である脂肪酸(4)、特に側鎖脂肪酸が最も好ましい。
【0106】
脂肪酸は、エステル化合物(3)に対して0.1重量%から30重量%の範囲で共存させれば良く、更に1重量%から5重量%の範囲で共存させることが望ましい。従って、エステル化合物(3)の単離後に、安定化のために脂肪酸(4)を添加する場合、上記の範囲内となるように添加することが好ましい。
【0107】
エステル化合物(3)が、例えば上記製造方法によって得られ、反応中に副生したビニルエステル(1)に対応する脂肪酸を含むものである場合には、必要に応じて更に脂肪酸(4)を添加して、全体として上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0108】
本発明の組成物は、エステル化合物(3)と脂肪酸(7)とを含有してなる組成物である。当該組成物は、植物体より油脂抽出物として抽出したものではなく、人工的に、例えば上記のような方法により得られた組成物であり、肥満抑制作用、エネルギー代謝亢進などの生理活性を有するため、食品添加物や医薬品に利用できる。
脂肪酸(7)は、エステル化合物(3)に混入される成分であり、例えば、上記の製造方法により反応中に副生したビニルエステル(1)に対応する脂肪酸、別途添加される脂肪酸(4)等に由来する。
【0109】
当該組成物において、脂肪酸(7)はエステル化合物(3)に対し、0.1重量%から30重量%の範囲で含有されることが好ましく、更に好ましくは1重量%から5重量%の範囲で含有される。
当該組成物には、油脂組成物、乳化剤、保存剤及び抗酸化剤からなる群より選ばれる1種または2種以上の添加物が含まれていてもよい。これら添加物を含む場合においても、エステル化合物(3)の安定化に脂肪酸(7)の共存が有効であることは言うまでもない。
【0110】
本発明のエステル化合物(3)と脂肪酸(7)とを含有してなる組成物は、長期間分解することなく安定に保存可能なものであり、合成して得たエステル化合物を、サプリメントや外用剤に調製する際にあっては、高濃度の原体として長期にわたって安定な保管が可能であり、きわめて有用である。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、合成された化合物の構造は核磁気共鳴スペクトル(Bruker AVANCE400 (400MHz))によって同定した。GC−MSは、HEWLETT PACKARD社5890SERIESII、5972SERIES、7673CONTROLLERを用いて測定した。遊離脂肪酸含有量については核磁気共鳴スペクトルのピーク積分値から算出するか、或はYMC社・脂肪酸分析キットを用いて分析した。
カプシノイドのHPLC測定条件は以下の通りである。
HPLC条件:
カラム: Inertsil C8 3um (直径4.0mm x 100mm)
溶離液: 以下に示す溶離液-A、Bと緩衝液との混合溶媒をグラジェント溶離法にて溶出した。
緩衝液: 30mM KH2PO4(pH=2.0, H3PO4)
溶離液-A: CH3CN:緩衝液=80:20
溶離液-B: CH3CN:緩衝液=0:100
グラジェント条件: 0分:A/B=(20/80); 15分:A/B=(70/30); 30分:A/B=(100/0); 45分:A/B=(100/0); 45.1分:A/B=(20/80); 50分:A/B=(20/80)
検出: UV210 nm
温度: 室温
【0112】
〔実施例1〕8−メチルノナン酸の合成(クロスカップリング法の例)
アルゴン雰囲気下、Mg切削片状(6.12 g, 252 mmol)をTHF(10 ml)に懸濁させた。イソアミルブロミド(34.6 g, 229 mmol)のうち200 mgを室温にて加え、発熱、発泡を確認した。THF(50 ml)を加え、イソアミルブロミドの残り全量のTHF(65 ml)溶液を室温にて1時間かけてゆっくり滴下した後、さらに2時間撹拌した。この時緩やかな還流状態となった。反応溶液をTHFで洗いながら綿栓濾過し、イソアミルマグネシウムブロミドのTHF溶液(全体量180 ml)を調製した。
アルゴン雰囲気下、塩化銅(I)(426 mg, 4.30 mmol)をNMP(55.2 ml, 575 mmol)に溶解させた。反応容器を0℃(氷浴)に冷却し、5−ブロモ吉草酸エチルエステル(30.0 g, 144 mmol)のTHF(35 ml)溶液を10分かけて滴下した。続いて先に調製したイソアミルマグネシウムブロミドのTHF溶液を0℃(氷浴)にて1.5時間かけてゆっくり滴下した。さらに同温度にて45分間撹拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液(200 ml)にて注意深く反応をクエンチし、ヘプタン(200 ml)にて2回抽出した。合わせたヘプタン層を飽和塩化アンモニウム水溶液(100 ml)、水(100 ml)、飽和食塩水(100 ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して減圧濃縮することにより、薄黄色油状物質(30.8 g)を得た。このうち29.6 gに対して減圧蒸留を行い(1.2 mmHg, 69〜71℃)、8−メチルノナン酸エチルエステル(20.6 g, 収率74.7%)を無色透明油状物質として得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.860 (d, 6H, J=6.63Hz), 1.13-1.33 (m, 11H), 1.48-1.64 (m, 3H), 2.28 (t, 2H, J=7.55Hz), 4.12(q, 2H, J=7.13Hz).
13C-NMR (CDCl3, δ): 14.60, 22.98, 25.36, 27.56, 28.30, 29.54, 29.89, 34.75, 39.31, 60.47, 174.2
得られた8−メチルノナン酸エチルエステルのうち、19.20 gをエタノール(72.0 ml)に溶解し、0℃(氷浴)にて2M NaOH水溶液(72.0 ml)をゆっくりと加えた。続いて60℃の油浴を用いて1時間加熱撹拌した後、反応容器を室温に戻し、エタノールを減圧溜去した。2M NaOH(30 ml)、水(30 ml)、t−ブチルメチルエーテル(100 ml)を加えて分液操作を行った後、水層に対してさらにt−ブチルメチルエーテル(100 ml)を加えて分層した。水層に対して2M HCl水溶液(150 ml)を注意深く加えて酸性にし、ヘプタン(150 ml)にて2回抽出した。合わせたヘプタン層を水(100 ml)、続いて飽和食塩水(100 ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して減圧濃縮することにより、8−メチルノナン酸(15.9 g, 粗収率96.6%)を薄黄色油状の粗生成物として得た。GCMS分析により、構造未決定の不純物A(0.01%)、B(0.03%)、C(0.04%)、D(0.07%)を含み、8−メチルノナン酸の純度は99.6%だった。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.862 (d, 6H, J=6.64Hz), 1.14-1.17 (m, 2H), 1.26-1.35 (m, 6H), 1.48-1.65 (m, 3H), 2.35 (t, 2H, J=7.52Hz).
13C-NMR (CDCl3, δ): 22.95, 25.04, 27.55, 28.12, 29.47, 29.88, 34.51, 39.31, 181.0.
GC-MS: M=172.
【0113】
〔実施例2〕8−メチルノナン酸のシクロヘキシルアミン塩形成による精製(脂肪酸塩結晶による精製の例)
実施例1で得られた8−メチルノナン酸粗生成物のうち、8.00 gをヘプタン(30 ml)に溶解させた。0℃(氷浴)にてシクロヘキシルアミン(6.91 ml, 60.4 mmol)をゆっくり滴下した後、室温にて20分間撹拌した。反応液を濾過して8−メチルノナン酸シクロヘキシルアミン塩(15.7 g)を得た。
1H-NMR(CDCl3,δ):0.81-0.85(m,6H), 1.11-1.20(m,3H), 1.24-1.35(m,10H), 1.46-1.68(m,4H), 1.73-1.81(m,2H), 1.96-2.02(m,2H), 2.15-2.19(t,2H), 2.77-2.88(m,1H).
融点:70.1-70.6℃
このうち15.6 gの塩に対して10%クエン酸水溶液(50 ml)、ヘプタン(50 ml)を加えて分液操作を行った。さらに水層からヘプタン(50 ml)で抽出し、合わせたヘプタン層を10%クエン酸水溶液(50 ml)、水(50 ml)、飽和食塩水(50 ml)にて洗浄した。ヘプタン層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して濾液を減圧濃縮し、8−メチルノナン酸(7.69 g)を無色透明油状物質として得た。
このうち7.18 gに対して減圧蒸留(1.1 mmHg、103℃)を行い、8−メチルノナン酸蒸留物(6.80 g、8−メチルノナン酸粗生成物から収率91.0%)を得た。GCMS分析を行うと、前記不純物A、B、C、Dは検出限界以下であり、8−メチルノナン酸の純度は99.7%だった。
【0114】
〔実施例3〕cis−2−アミノシクロヘキサノール塩による8−メチル−6−ノネン酸のtrans体、cis体の分割(脂肪酸塩結晶形成による精製法の例)
公知の方法(J. Org. Chem. 1989, 54, 3477-3478)で得られた8−メチル−6−ノネン酸(異性体比trans:cis=88:12, 800 mg, 4.70 mmol)をクロロホルム(10 ml)に溶解し、クロロホルム(5 ml)にcis−2−アミノシクロヘキサノール (460 mg, 4.00 mmol)を溶解した溶液を室温で滴下した。反応液を減圧濃縮し、残渣を再びクロロホルム(4 ml)に溶解し、ヘキサン(12 ml)を滴下した。反応液を室温で3日間攪拌し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶にヘキサン(10 ml)を加え、10%クエン酸水溶液(8 ml)で3回、飽和食塩水(10 ml)で1回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮して8−メチル−6−ノネン酸 (異性体比trans:cis=29:1, 408 mg, 2.40 mmol)を得た。
この得られた8−メチル−6−ノネン酸を再びクロロホルム(10 ml)に溶解し、クロロホルム(5 ml)にcis−2−アミノシクロヘキサノール (249 mg, 2.16 mmol)を溶解した溶液を室温で滴下した。反応液を減圧濃縮し、残渣を再びクロロホルム(3 ml)に溶解し、ヘキサン(12 ml)を滴下した。反応液を室温で一夜攪拌し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶にヘキサン(15 ml)を加えて、10 %クエン酸水溶液(10 ml)で3回、飽和食塩水(10 ml)で1回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮してtrans−8−メチル−6−ノネン酸 (250 mg, 1.47 mmol, 純度98.8 %, 収率35.1 %)得た。
1H-NMR (CDCl3, δ):0.96 (d, 6H, J=6.8Hz), 1.38-1.46 (m, 2H), 1.60-1.70 (m, 2H), 1.95-2.05 (m, 2H), 2.18-2.38 (m, 1H), 2.35 (t, 2H, J=7.4Hz), 5.28-5.42 (m, 2H).
【0115】
〔実施例4〕8−メチルノナン酸ビニルエステルの合成(1)
8−メチルノナン酸 (1.00 g; 5.80 mmol)、酢酸ビニル(4.0 ml; 43.4 mmol)、炭酸カリウム(160 mg; 1.15 mmol)及び酢酸パラジウム (39.0 mg; 0.173 mmol)を順番に室温にて加えた。続いて50 ℃の油浴を用いて終夜(17時間)加熱撹拌した後、室温へと戻した。室温にてヘキサン(8 ml)を加え、生じた沈殿をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮して薄黄色油状物質を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(エーテル:ヘキサン=3:97の溶離液)にて精製して1.03 g (収率89%)の8−メチルノナン酸ビニルエステルを得た。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.86 (d, 6H, J=6.64Hz), 1.15-1.35 (m, 8H), 1.48-1.55 (m, 1H), 1.61-1.69 (m, 2H), 2.37 (t, 2H, J=7.52Hz), 4.47-4.59 (m, 1H), 4.82-4.92 (m, 1H), 7.21-7.36 (m, 1H)
13C-NMR (CDCl3,δ): 22.93, 24.94, 27.52, 28.28, 29.42, 29.83, 34.23, 39.28, 97.54, 141.57, 170.98
【0116】
〔実施例5〕8−メチルノナン酸ビニルエステルの合成(2)
8−メチルノナン酸(7.30 g; 42.4 mmol)に、酢酸ビニル (11.7 ml; 126 mmol)、炭酸カリウム (585 mg; 4.23 mmol)及び酢酸パラジウム (476 mg; 2.12 mmol)を室温にて加え、60℃の油浴を用いて終夜(15時間)加熱撹拌した。TLCにて原料の残存を確認したため、炭酸カリウム (292 mg; 2.11 mmol)及び酢酸パラジウム (190 mg; 0.84 mmol)を追加し、更に4時間60℃にて加熱撹拌した。室温に戻した後、ヘキサン(10 ml)を加え、生じた沈殿をセライト濾過した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮して褐色油状物を得た。これを蒸留精製し(2.9 mmHg; 60℃)、8−メチルノナン酸ビニルエステル (5.11 g; 25.8 mmol; 収率61%)を無色透明油状物として得た。
【0117】
〔実施例6〕8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステルの合成
8−メチル−6−ノネン酸(1.00 g; 5.88 mmol)、酢酸ビニル(4.0 ml; 43.4 mmol)、炭酸カリウム(162 mg; 1.17 mmol)及び酢酸パラジウム (39.5 mg; 0.176 mmol)を順番に室温にて加えた。続いて50 ℃の油浴を用いて終夜(17時間)加熱撹拌した後、室温へと戻した。室温にてヘキサン(8 ml)を加え、生じた沈殿をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮して薄黄色油状物質を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(エーテル:ヘキサン=3:97の溶離液)にて精製して1.01 g (収率88%)の8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステルを得た。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.95 (d, 6H, J=6.80Hz), 1.36-1.43 (m, 2H), 1.61-1.69 (m, 2H), 1.97-2.02 (m, 2H), 2.18-2.26 (m, 1H), 2.37 (t, 2H, J=7.48Hz), 4.58 (d, 1H, J=6.32Hz), 4.82-4.87 (m, 1H), 5.28-5.46 (m, 2H), 7.20-7.36 (m, 1H)
13C-NMR (CDCl3,δ): 22.97, 24.19, 24.38, 29.31, 31.33, 32.40, 34.07, 97.59, 126.68, 138.51, 141.56, 170.90
【0118】
〔実施例7〕カプシエイトの合成
8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステル (450 mg)のアセトン (4 ml)溶液に、バニリルアルコール (530 mg)及びリパーゼPS「アマノ」 (287 mg)を室温にて添加し、50℃の油浴にて加熱撹拌した。4時間後リパーゼPS「アマノ」 (353 mg)を追加投入し、更に3.5時間後リパーゼPS「アマノ」 (287 mg)を加え、19時間加熱撹拌した。室温にて反応液にヘキサンを10 ml加え、析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた油状物質をHPLC分析したところ、生成したカプシエイトは92.2 面積%と高純度であった。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、カプシエイトと8−メチル−6−ノネン酸の混合物 (609 mg)を得た。分析の結果、カプシエイトの収率は83%、HPLCによる分析では純度は97.8 面積%と高純度だった。混合物にはカプシエイトに対して8−メチル−6−ノネン酸が3.32重量%含まれていた。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.95 (d, 6H, J=6.74Hz), 1.33-1.40 (m, 2H), 1.59-1.67 (m, 2H), 1.94-1.99 (m, 2H), 2.18-2.23 (m, 1H), 2.33 (t, 2H, J=7.52Hz), 3.89 (s, 3H), 5.02 (s, 2H), 5.26-5.39 (m, 2H), 5.63 (br, 1H), 6.83-6.90 (m, 3H)
【0119】
〔実施例8〕ジヒドロカプシエイトの合成(1)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (453 mg)のアセトン(4 ml)溶液に、バニリルアルコール (705 mg)及びリパーゼPS「アマノ」 (113 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。13時間後バニリルアルコール (105 mg)を追加投入し、更に3.5時間後 バニリルアルコール (247 mg)を加え、1時間加熱撹拌した。室温にて反応液にヘキサンを10 ml加え、析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた油状物質をHPLC分析したところ、生成したジヒドロカプシエイトは89.0 面積%だった。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、ジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物 (649 mg)を得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は90%、HPLCによる分析では純度は99.3 面積%と高純度だった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が2.63 重量%含まれていた。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.86 (d, 6H, J=6.60Hz), 1.12-1.37 (m, 8H), 1.46-1.64 (m, 3H), 2.32 (t, 2H, J=7.56Hz), 3.89 (s, 3H), 5.02 (s, 2H), 5.63 (br, 1H), 6.83-6.90 (m, 3H)
【0120】
〔実施例9〕ジヒドロカプシエイトの合成(2)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (400 mg)のアセトン(4 ml)溶液に、バニリルアルコール (933 mg)及びリパーゼPS-C「アマノ」I (セラミック固定化酵素) (100 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。14時間後、室温にて反応液にヘキサンを15 ml加え、析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、ジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物 (583 mg)を得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は90%、HPLCによる分析では純度は99.4 面積%と高純度だった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が3.61 重量%含まれていた。
【0121】
〔実施例10〕ジヒドロカプシエイトの合成(3)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (400 mg)のアセトン(4 ml)溶液に、バニリルアルコール (933 mg)及びリパーゼPS-C「アマノ」II (セラミック固定化酵素) (100 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。18時間後、室温にて反応液にヘキサンを15 ml加え、析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、ジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物 (586 mg)を得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は91%、HPLCによる分析では純度は99.6 面積%と高純度だった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が3.11 重量%含まれていた。
【0122】
〔実施例11〕ジヒドロカプシエイトの合成(4)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (402 mg)のアセトン(4 ml)溶液に、バニリルアルコール (938 mg)及びリパーゼPS-D「アマノ」I (けいそう土固定化酵素) (100 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。21時間後、室温にて反応液にヘキサンを15 ml加え、40分撹拌した。析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した後、得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、ジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物 (573 mg)を得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は90%、HPLCによる分析では純度は98.5 面積%と高純度だった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が2.23 重量%含まれていた。
【0123】
〔実施例12〕ジヒドロカプシエイトの合成(5)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (401 mg)のアセトン(4 ml)溶液に、バニリルアルコール (936 mg)及びリパーゼAK「アマノ」 (100 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。21時間後、室温にて反応液にヘキサンを15 ml加え、30分撹拌した。析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した後、得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、ジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物 (599 mg)を得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は94%、HPLCによる分析では純度は99.7 面積%と高純度だった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が1.96 重量%含まれていた。
【0124】
〔実施例13〕ジヒドロカプシエイトの合成(6)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (451 mg)のアセトン(4 ml)溶液に、バニリルアルコール (1.05 g)及びリパーゼPS「アマノ」 (56.4 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。16.5時間後、室温にて反応液にヘキサンを15 ml加え、30分撹拌した。析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮した後、得られた油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (エーテル:ヘキサン=15:85の溶離液)にて精製し、ジヒドロカプシエイト (482 mg, 収率69%)を得た。得られたジヒドロカプシエイトをHPLC分析したところ、99.6 面積%と高純度だった。
【0125】
〔実施例14〕ジヒドロカプシエイトの合成(7)
8−メチルノナン酸ビニルエステル (1.00 g)に、バニリルアルコール (816 mg)及びノボザイム 435 (8.16 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。18時間後、室温にて反応液にヘプタンを5 ml加え、30分撹拌した。析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮して油状物質 (1.57 g)を得た。そのうち1.51 gについて以下のように抽出処理を行った。ヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)にて分液操作を行い、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン層を水 (15 ml)、続いて飽和食塩水 (15 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物1.49 gを油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は99.3%、HPLCによる分析では、96.8面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が0.397 重量%含まれていた。
【0126】
〔実施例15〕バニリルデカノエイトの合成
デカン酸ビニルエステル (1.00 g)に、バニリルアルコール (816 mg)及びノボザイム 435 (20.4 mg)を室温にて添加し、55℃の油浴にて加熱撹拌した。18時間後、室温にて反応液にヘプタンを5 ml加え、30分撹拌した。析出したバニリルアルコール及び酵素をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮して油状物質 (1.49 g)を得た。そのうち1.44 gについて以下のように抽出処理を行った。ヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)にて分液操作を行い、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン層を水 (15 ml)、続いて飽和食塩水 (15 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮してバニリルデカノエイトとデカン酸の混合物1.43 gを油状物として得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は94.0%、HPLCによる分析では、96.7面積%であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が1.29 重量%含まれていた。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.87 (t, 3H, J=7.1Hz), 1.18-1.30 (m, 12H), 1.55-1.65 (m, 2H), 2.33 (t, 2H, J=7.7Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.64 (br, 1H), 6.80-6.90 (m, 3H)
13C-NMR (CDCl3, δ): 14.49, 23.05, 25.37, 29.52, 29.65, 29.65, 29.81, 32.25, 34.78, 56.27, 66.70, 111.70, 114.80, 122.38, 128.38, 146.18, 146.92, 174.26
【0127】
〔参考例1〕脂肪酸非共存下でのカプシノイドの安定性について
バニリルアルコールとデカン酸とのエステル(デカン酸バニリル)を別途合成し、安定性を調べた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにてデカン酸を分離除去して精製したデカン酸バニリルの純品を、アセトニトリルに溶解し、HPLC分析を行ったところ、純度は95.6面積%であった。更に同サンプルを62時間後再度分析すると82.0面積%と純度が低下し、デカン酸バニリルが分解していることを確かめた。
【0128】
〔実施例16〕脂肪酸共存による安定化の例(1)
シリカゲルカラムクロマトグラフィーにてデカン酸を分離除去して精製した純品デカン酸バニリルを、アセトニトリルに溶解し、9時間後にHPLC分析したところ、90.4面積%であった。一方、この純品デカン酸バニリルのアセトニトリル溶液に9.1重量%のデカン酸を添加して19.5時間後にHPLC分析を行ったところ、97.6面積%と純度が向上した。同様にデカン酸バニリルに16.7重量%、28.7重量%、44.8重量%のデカン酸を添加するとそれぞれ98.1面積%、98.1面積%、97.9面積%とデカン酸を添加しない場合より高純度となった。
【0129】
〔実施例17〕脂肪酸共存による安定化の例(2)
実施例7の方法にて合成し、脂肪酸3.2重量%と共に精製したカプシエイトに対してHPLC分析を行ったところ、97.8面積%と高純度だった。このカプシエイトをヘキサン溶媒中、5℃にて30日間保存した後HPLC分析を行ったところ、97.6面積%と高純度を保っていた。
【0130】
〔実施例18〕脂肪酸共存による安定化の例(3)
実施例8と同様の方法にて合成し、脂肪酸2.0重量%と共に精製したジヒドロカプシエイトに対してHPLC分析を行ったところ、99.2面積%と高純度だった。このジヒドロカプシエイトをヘキサン溶媒中、5℃にて30日間保存後HPLC分析を行ったところ、99.3面積%と高純度を保っていた。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の製造方法は、安価な酵素を用いて操作が簡便でかつ、既存の技術より短時間で、高収率、高純度でカプシノイドを工業生産できうる点で有用である。更に、エステル化合物(カプシノイド)を脂肪酸と共存させることにより、従来不安定であったカプシノイドを安定に供給、保存することが可能となった。従って、本発明のエステル化合物と脂肪酸との組成物は、食品添加物や医薬品に利用できる。更に、8−メチルノナン酸ビニルエステル及び8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステルは新規物質であって、本発明の製造方法に極めて有利に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


(式中、R1は、炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表されるビニルエステルと、一般式(2)
【化2】


(式中、R2〜R6は、それぞれ独立に、水素、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるヒドロキシメチルフェノールとを、酵素の存在下で縮合させることを特徴とする、一般式(3)
【化3】


(式中、R1〜R6は上記と同義である。)
で表されるエステル化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(2)で表されるヒドロキシメチルフェノールが、バニリルアルコールである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるビニルエステルと一般式(2)で表されるヒドロキシメチルフェノールとを縮合させる前又は縮合させた後に、一般式(4)
【化4】


(式中、R1’は炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表される脂肪酸を添加する、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
縮合させた後、得られた一般式(3)で表されるエステル化合物と、縮合中に副生した一般式(1)で表されるビニルエステルに対応する脂肪酸とを、同時に分取する精製工程を更に含むものである、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項5】
縮合させた後、得られた一般式(3)で表されるエステル化合物と、一般式(4)で表される脂肪酸とを、同時に分取する精製工程を更に含むものである、請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
R1が、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基及びドデシル基からなる群より選ばれる基である、請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
酵素がリパーゼである請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
縮合がアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上の溶媒下、又は無溶媒下で行われる請求項1乃至7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
縮合が15℃から90℃で行われる請求項1乃至8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
一般式(1)で表されるビニルエステルが、一般式(11)
【化5】


(式中、R1は上記と同義であり、Rcはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、アリル基又はベンジル基を示す。)
で表されるエステル化合物を加水分解し、塩基と反応させて塩結晶を形成することにより得られた一般式(12)
【化6】


(式中、R1は上記と同義である。)
で表される脂肪酸を、 ビニルエステル化して得られたものである請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(11)で表されるエステル化合物が、一般式(8)
【化7】


(式中、Raは、置換基を有していてもよい炭素数1から24のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数2から24のアルケニル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を、一般式(9)
【化8】


(式中、Ra及びXは上記と同義である。)
で表されるグリニア試薬に変換し、一般式(9)で表されるグリニア試薬を、一般式(10)
【化9】


(式中、Rbは、置換基を有していてもよい炭素数1から24のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数2から24のアルケニル基を示し、ただし、Rbの炭素数に関し、RaとRbの炭素数の和は5から25であり、Rcは上記と同義であり、Yはハロゲン原子、メタンスルフォニルオキシ基、パラトルエンスルフォニルオキシ基又はトリフルオロメタンスルフォニルオキシ基を示す。)
で表される化合物とのクロスカップリング反応に付すことにより得られたものである、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
一般式(1)で表されるビニルエステルが、一般式(13)
【化10】


(式中、Rd及びReは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1から6のアルキル基を示し、mは0又は1、nは1から5の整数である。)
で表される脂肪酸とそのシス異性体の混合物より、当該混合物を塩基と反応させて塩を形成し、形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて精製することによって、一般式(13)で表される脂肪酸を得、得られた一般式(13)で表される脂肪酸をビニルエステル化して得られたものである請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
一般式(5)
【化11】

で表される8−メチルノナン酸ビニルエステル。
【請求項14】
一般式(6)
【化12】

で表されるトランスー8−メチル−6−ノネン酸ビニルエステル。
【請求項15】
一般式(3)
【化13】


(式中、R1は、炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよく、R2〜R6は、水素、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるエステル化合物と、一般式(7)
【化14】


(式中、R1’’は炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表される脂肪酸とを含有してなる組成物(但し、植物体からの油脂抽出物を除く)。
【請求項16】
一般式(7)で表される脂肪酸が、一般式(3)で表されるエステル化合物に対し、0.1重量%から30重量%含有されている請求項15記載の組成物。
【請求項17】
増量剤又は担体として、油脂組成物、乳化剤、保存剤及び抗酸化剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上の添加物を更に含有してなる請求項15又は16記載の組成物。
【請求項18】
一般式(3)
【化15】


(式中、R1は、炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよく、R2〜R6は、水素、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるエステル化合物に、一般式(4)
【化16】


(式中、R1’は炭素数5から25のアルキル基又は炭素数5から25のアルケニル基を示し、置換基を有していてもよい。)
で表される脂肪酸を添加し、一般式(3)で表されるエステル化合物の純度を保持又は向上することを特徴とする、一般式(3)で表されるエステル化合物の安定化方法。
【請求項19】
一般式(4)で表される脂肪酸が、一般式(3)で表されるエステル化合物に対し、0.1重量%から30重量%添加される請求項18記載の安定化方法。

【公開番号】特開2006−223233(P2006−223233A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43121(P2005−43121)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】