説明

カプセル含有樹脂部材及び直動装置用シール

【課題】樹脂部材自体が摺動部(内部)から発生した熱を吸収し、外部に放熱させやすくして、長時間にわたり直動装置用としてのシールの機能を維持すること。
【解決手段】カプセル含有樹脂部材は、直鎖アルキル、アルコール、有機酸のいずれかがカプセル全重量に対して30質量%以上内包されたカプセルが、成形後の樹脂全量に対して、2質量%以上50質量%未満配合されている。また、直動装置用シールは、上述したカプセル含有樹脂部材を包含している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リニアガイド、ボールねじ等の直動装置のシールに用いられるカプセル含有樹脂部材及び直動装置用シールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、潤滑油含有合成樹脂として知られる含有ポリマの樹脂材料には、潤滑油を吸収し易いポリオレフィン樹脂や、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等が単独または混合して使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエチレン樹脂を用いた軸受用潤滑組成物が示されている。
【0004】
これは、ポリエチレン樹脂と潤滑グリースとを混合してなる含油性組成物を、被潤滑部材である軸受等に塗布または封入し、昇温後冷却し、樹脂を固化させる方法で製造される。
【特許文献1】特公昭63−23239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、こういった含有ポリマは、金属と比べて熱伝導性に乏しいため、放熱性が悪く、近年における直動装置の往復速度の増大に伴う発熱には対応できなくなってきている。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、樹脂部材自体が摺動部である内部から発生した熱を吸収し、外部に放熱させやすくして、長時間にわたり直動装置用としてのシールの機能を維持することができる、カプセル含有樹脂部材及び直動装置用シールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係るカプセル含有樹脂部材は、
直鎖アルキル、アルコール、有機酸のいずれかがカプセル全重量に対して30質量%以上内包されたカプセルが、成形後の樹脂全量に対して、2質量%以上50質量%未満配合されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る直動装置用シールは、
樹脂部材を含む直動装置用シールにおいて、
前記樹脂部材は、請求項1に記載のカプセル含有樹脂部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂部材自体が摺動部である内部から発生した熱を吸収し、外部に放熱させやすくして、長時間にわたり直動装置用としてのシールの機能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るカプセル含有樹脂部材及び直動装置用シールを図面を参照しつつ説明する。
【0011】
本実施の形態に係るカプセル含有樹脂部材は、直鎖アルキル、アルコール、有機酸のいずれかがカプセル全重量に対して30質量%以上内包されたカプセルが、成形後の樹脂全量に対して、2質量%以上50質量%未満配合されている。
【0012】
また、本実施の形態に係る直動装置用シールは、上述したカプセル含有樹脂部材を包含している。
【0013】
使用されるカプセルの内包物である直鎖アルキル、アルコール、有機酸は、吸熱材としての作用を期待するものであり、種類等は特に限定されるものではないが、融点が40℃以上のものが好ましい。
【0014】
また、高温で使用する場合はより融点が高いものを用いても構わない。
【0015】
カプセル内包物のカプセル全重量に対する割合は、30質量%以上が好ましい。30質量%末満では、樹脂部材全体としての吸熱効果が小さくなってしまう。
【0016】
カプセルの成形後の樹脂部材全量に対する配合量は2質量%以上50質量%未満が好ましい。2質量%未満であると吸熱効果がほとんど得られない。
【0017】
また、50質量%以上とすると成形時の樹脂の機械的特性に問題が生じてしまう。より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0018】
樹脂部材とカプセルはそれぞれを加熱して混合させ成形するが、混合時の分散状態が良くなるよう一次粒径は小さいほど好ましく、20μm未満が好ましい。更に好ましくは10μm未満、最も好ましいのは5μmである。
【0019】
本実施の形態に使用されるカプセルの膜材は、特に限定されるものではないが、樹脂部材成形時の温度に耐えられるものを選ぶ必要がある。
【0020】
具体的には、メチロール化メラミン膜、ポリウレタン系膜、ポリイミド系膜等が挙げられ、耐熱面を考えるとin situ法によって合成されるメチロール化メラミン膜が特に好ましい。
【0021】
樹脂並びに必要に応じて配合される充填材は、直接溶融混練機を用いて混練してもよいし、予めこれらの材料をヘンシェルミキサー、タンブラー、リボンミキサー等の混合機で予備混合した後に溶融混練機へ供給する事もできる。
【0022】
溶融混練する際の温度は、充填材を除く各成分の溶融が十分進行し、且つ分解しない温度を適宜選定すればよい。
【0023】
尚、本実施の形態のカプセル含有樹脂部材は、カプセルと母材を必須の構成成分とし、必要に応じて充填材を配合して形成されるが、本実施の形態の目的を損なわない範囲で、更に適量の各種充填材(剤)や各種安定剤を配合してもよい。
【0024】
例えば、有機充填材、無機充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光保護剤、耐熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、過酸化物分解剤、流動性改良剤、非粘着性付与剤、離型剤、増核剤、固体潤滑剤、顔料、染料等を含んでいてもよい。
【0025】
以上から、本実施の形態によれば、樹脂部材自体が摺動部である内部から発生した熱を吸収し、外部に放熱させやすくして、長時間にわたり直動装置用としてのシールの機能を維持することができる。
【0026】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の効果を説明するために実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
また、本発明は主に直動装置等に使用される直動装置用シールを対象として説明しているが、本発明の直動装置用シールに用いられるカプセル含有樹脂部材は他の部分でも目的が同様なら使用が可能である。
【0029】
母材として、ポリエチレン粉末(PE)を使用し、これに鉱油(70mm/s 40℃)とin situ法により合成したステアリン酸内包メラミン樹脂膜カプセル(一次平均粒径3μm、ステアリン酸(融点70℃)含有量40質量%)を表1に示す配合比で150℃で混合させて射出成形することにより、試験用の成形体を作製した。
【0030】
【表1】

(シヤルピー衝撃試験)
衝撃試験用に成形したそれぞれの樹脂部材でシヤルピー衝撃試験(JIS K7111にて規定)を行い比較例1の結果より強度が同程度、またはそれ以上のものを合格とした。
【0031】
(放熱性確認試験)
図1に示すように、厚さ3mm、縦30mm、横30mmの樹脂部材(平板)を蓋とした装置を作製し、ヒーター部の温度を80℃に設定し、装置内の樹脂付近の温度が75℃に達するまでの時間を測定した。
【0032】
比較例1での時間を1とし、その相対値で評価した。
【0033】
また、カプセル添加量と放熱性確認試験の結果を図2に示した。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、直鎖アルキル、アルコール、有機酸がカプセル全重量に対して30質量%以上内包されたカプセルが配合された樹脂部材を使用することによって従来の強度を保ちつつ(実施例と比較例1より)、且つ良好な放熱性能を示すことが分かる。
【0035】
また、図2より、カプセルの配合量が成形後の樹脂部材全量に対して2質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましいことがわかる。
【0036】
また、50質量%以上ではほとんど効果が同様であるため、強度を考えると50質量%未満が好ましく、40質量%以下がさらに好ましいことがわかる。
【0037】
このようなカプセル含有樹脂部材を直動装置に用いれば十分な強度、及び放熱性能が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】放熱性確認試験のための装置の模式図である。
【図2】カプセル添加量と放熱性確認試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖アルキル、アルコール、有機酸のいずれかがカプセル全重量に対して30質量%以上内包されたカプセルが、成形後の樹脂全量に対して、2質量%以上50質量%未満配合されていることを特徴とするカプセル含有樹脂部材。
【請求項2】
樹脂部材を含む直動装置用シールにおいて、
前記樹脂部材は、請求項1に記載のカプセル含有樹脂部材であることを特徴とする直動装置用シール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−94974(P2008−94974A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278876(P2006−278876)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】