説明

カミソリの刃

鋭利化された先端及び隣接する面(facet)(22)により形成される刃先を有する基材(12)と、刃先上に設けられた硬質コーティング層(16)と、硬質炭素コーティング層上に設けられた窒化クロムの保護被膜層(18)と、保護被膜層を覆うポリテトラフルオロエチレンコーティングの外層(20)とを備えた、カミソリの刃(10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カミソリ及びカミソリの刃に対する改善に関する。
【背景技術】
【0002】
カミソリの刃は典型的には、ステンレス鋼などの好適な基材材料で形成され、刃先は、最終的な先端が約1000オングストローム未満、例えば約200〜300オングストロームの半径を有するくさび状に形成される。ダイヤモンド、非晶質ダイヤモンド、ダイヤモンドに類似する炭素(DLC)物質、窒化物、炭化物、酸化物又はセラミックなどの硬質コーティングは、強度、耐食性、及びヒゲ剃り能力を改善するために使用されることが多く、より低い切削抵抗で、より薄い刃先の使用を可能にすると同時に、必要とされる強度を保持する。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)外層は、摩擦低減をもたらすために使用することができる。ニオブ又はクロム含有物質の中間層は、基材、典型的にはステンレス鋼と、DLCなどの硬質炭素コーティングとの結合を改善するのを助けることができる。カミソリの刃の刃先構造及び製造方法の例が、米国特許第5,295,305号、第5,232,568号、第4,933,058号、第5,032,243号、第5,497,550号、第5,940,975号、第5,669,144号、EP0591334、及びPCT92/03330に記載されており、これらは参考として本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
使用する際、硬質コーティング及びポリテトラフルオロエチレン外層を有する刃先の最終的な先端は、繰り返されるヒゲ剃り後により丸くなる可能性があり、その結果、先端半径が増大し、一般的にヒゲ剃り性能の低下が認められる。
【0004】
米国特許第6,684,513号は、これらの問題点に対処するための、クロム含有保護被膜層を有するカミソリの刃について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの態様において、本発明は概して、鋭利化された先端及び隣接する面(facet)により形成される刃先を有する基材と、刃先上に設けられた硬質コーティング層と、硬質コーティング層上に設けられた窒化クロムの保護被膜層と、保護被膜層を覆うポリテトラフルオロエチレンコーティングの外層と、を備えるカミソリの刃を特徴とする。発明者らは、窒化クロムがポリテトラフルオロエチレンコーティングの特に優れた付着をもたらすことを発見した。結果として、ポリテトラフルオロエチレンコーティングは繰り返されるヒゲ剃り後に刃に付着したままであり、その刃で享受できる快適なヒゲ剃りの回数が増える。その上、窒化クロムは、硬く、強く、耐食性があり、結果的に優れた刃先強度及びヒゲ剃り性能の向上をもたらす。
【0006】
本発明の別の態様において、本発明は概して、ハンドルと、鋭利化された先端及び隣接する面により形成される刃先を有する基材と、刃先上に設けられた硬質コーティング層と、硬質コーティング層上に設けられた窒化クロムの保護被膜層と、保護被膜層を覆うポリテトラフルオロエチレンコーティングの外層とを有する刃を付けたカミソリヘッドとを備えたヒゲ剃り用カミソリの刃を特徴とする。
【0007】
本発明の特定の実施形態は、以下の特徴の1つ以上を含んでもよい。特定の実施形態において、硬質コーティング材料は、炭素含有物質(例えばダイヤモンド、非晶質ダイヤモンド又はDLC)、窒化物、炭化物、酸化物又はその他のセラミックで作られる。硬質コーティング層は、2,000オングストローム未満の厚さを有することができる。保護被膜層は、炭素対窒素のパーセント比が10%対50%の窒化クロムで作られる。好ましくは、窒化クロムは、約25〜35原子%の窒素含有量を有する。保護被膜層は、100〜600オングストローム、例えば200〜400オングストロームの厚さとすることができる。刃は、基材と硬質コーティング層との間に中間層を備えることができる。中間層は、ニオブ又はクロム含有物質からなることができる。ポリテトラフルオロエチレンは、デュポン(DuPont)から入手可能なクライトックス(KRYTOX)LW1200(商標)としてよい。PTFE外層は、100〜5000オングストロームの厚さとすることができる。
【0008】
別の態様において、本発明は概して、鋭利化された先端及び隣接する面により形成される刃先を有する基材を準備すること、刃先上に硬質コーティング層を追加すること、硬質コーティング層上に窒化クロムの保護被膜層を追加すること、並びに保護被膜層を覆うポリテトラフルオロエチレンコーティングの外層を追加することによって、カミソリの刃を作ることを特徴とする。
【0009】
本発明の特定の実施形態は、以下の特徴の1つ以上を含んでもよい。特定の実施形態において、反応性物理気相成膜法(例えば、マグネトロンスパッタリング又は陰極アーク)、又は化学気相成膜法により層を追加することができる。窒化クロムの成膜は、アーク成膜を含んでもよい。アーク成膜は、約100Amps〜200Ampsの陰極アーク電流、及び−40V〜−100Vの基材バイアスを使って行うことができる。成膜は、0.0001(10−6Torr)〜1.3Pa(10−2Torr)の圧力で行われることができ、また窒素又は窒素/アルゴンの空気中で行われることができる。窒素とアルゴンとの混合物が使用される場合、N対Arの比は約1:3〜3:1とすることができる。あるいは、適切なRFバイアス又はDCバイアスのスキームを使用して、窒素又はアルゴン/窒素混合物の下で反応性マグネトロンスパッタリングにより同等の窒化クロム層を得ることができる。
【0010】
本発明の実施形態は、以下の利点の1つ以上を含んでもよい。窒化クロムの保護被膜層を使用することにより、硬質コーティング層へのポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluorethylene)外層の付着が改善される。カミソリの刃は、硬質コーティングによりもたらされる改善された刃先強度を有し、かつ繰り返されるヒゲ剃りで先端が丸くなるのを低減させている。先端が丸くなるのを低減すると、切削抵抗の増加が最低限に抑えられ、その結果、優れたヒゲ剃り性能が維持される。カミソリの刃は、最初のヒゲ剃りから以降、優れたヒゲ剃り特性を持つ。
【0011】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付図面及び以下の説明に示す。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面、並びに請求項から明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1を参照すると、基材12、中間層14、硬質コーティング層16、保護被膜層18、及び外層20を備えるカミソリの刃10が示される。基材12は、通常、ステンレス鋼で作られ(他の基材を用いることができるが)、1,000オングストローム未満、好ましくは200〜300オングストロームの先端半径まで鋭利にされた最終的な刃先を有し、先端から40ミクロンのところで測定したときに15度〜30度、好ましくは約19度の挟角でサイドファセット22を有する断面を持つ。
【0013】
中間層14は、硬質コーティング層と基材との結合を促進するために使用される。中間層の好適な材料の例は、ニオブ及びクロム含有物質である。特定の中間層は、100オングストロームを超え、かつ好ましくは500オングストローム未満の厚さのニオブで作られる。PCT92/03330は、ニオブ中間層の使用について記載する。
【0014】
硬質コーティング層16は、改善された強度、耐食性及びヒゲ剃り能力をもたらし、炭素含有物質(例えば、ダイヤモンド、非晶質ダイヤモンド又はDLC)、窒化物(例えば、窒化ホウ素、窒化ニオブ又は窒化チタン)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)、酸化物(例えば、アルミナ、ジルコニア)又はその他のセラミックス物質から作られることができる。炭素含有物質は、他の元素、例えばタングステン、チタン又はクロムで、例えばスパッタリングによる塗布中にこれらの添加物を目的物に含めることにより、ドープされてもよい。物質は水素、例えば水素添加DLCを組み込んでもよい。好ましくは、コーティング層16は、ダイヤモンド、非晶質ダイヤモンド又はDLCで作られる。特定の実施形態は、2,000オングストローム未満、好ましくは1,000オングストローム未満のDLCを含む。DLC層及び成膜方法は、米国特許第5,232,568号に記載されている。「物理気相成膜(PVD)加工のハンドブック(Handbook of Physical Vapor Deposition (PVD) Processing)」に記載されるように、DLCは、ダイヤモンドの望ましい特性の多くを示すがダイヤモンドの結晶構造を持たない非晶質炭素物質である。
【0015】
保護被膜層18は、硬質コーティングを施した刃先の先端が丸くなるのを低減させ、外層と硬質コーティングとの結合を促進すると同時になお両方の利点を維持させるために使用される。保護被膜層18は、窒化クロムで作られる。窒化クロムは、約10%〜50%(化学量論的又は非化学量論的)のCr/Nのパーセント比を有することができる。ある実施形態において、窒化クロムは、約30原子%の窒素を含んでもよい。ある実施形態において、窒化クロムは、約200〜400オングストロームの厚さの層にアーク成膜される。刃10は、保護被膜層なしの場合よりも、繰り返されるヒゲ剃りにより丸くなるのが少ない刃先を有する。
【0016】
外層20は、摩擦の低減をもたらすために使用され、ポリテトラフルオロエチレンからなり、テロマーと呼ばれることがある。特定のポリテトラフルオロエチレン物質は、デュポン(DuPont)から入手可能なクライトックス(Krytox)LW1200である。この物質は、安定した分散体をもたらす小粒子から成る、不燃性で安定なドライ潤滑剤である。これは、20重量%固形物の水性分散体として供給され、浸漬、噴霧、又ははけ塗りにより塗布されて、その後空気乾燥、又は溶融コーティングされることができる。層は、好ましくは5,000オングストローム未満であり、典型的には1,500オングストローム〜4,000オングストロームであることができ、連続的なコーティングが維持されるなら100オングストロームほど薄くてもよい。連続的なコーティングが得られるならば、テロマーコーティングの厚さの減少により、改善された最初のヒゲ剃り結果をもたらすことができる。米国特許第5,263,256号及び第5,985,459号は、適用されるテロマー層の厚さを減少するために使用できる技法を記載しており、この特許を参考として本明細書に組み込む。
【0017】
刃10は一般に、上記の参照特許に記載される方法により作られる。特定の実施形態は、ニオブ中間層14、DLC硬質コーティング層16、窒化クロム保護被膜層18、及びクライトックス(Krytox)LW1200ポリテトラフルオロエチレン外側被膜層20を含む。窒化クロム保護被膜層18は、最低100オングストローム及び最高600オングストロームまで成膜される。これはアーク成膜によって成膜される。アーク成膜は、約100Amps〜200Amps、例えば約150Ampsの陰極アーク電流、及び−40V〜−100V、例えば−65Vの基材バイアスを使って行われることができる。成膜は、0.0001Pa(10−6Torr)〜1.3Pa(10−2Torr)、例えば約0.013Pa(10−4Torr)の圧力で行われることができ、また窒素又は窒素/アルゴンの空気中で行われることができる。窒素とアルゴンとの混合物が使用される場合、N対Arの比は約1:3〜3:1であることができる。
【0018】
刃10は、保護被膜層18の塗布後で外層20の追加前にSEMによって測定したときに、好ましくは約200〜400オングストロームの先端半径を有する。
【0019】
図2を参照すると、刃10は、ヒゲ剃り用カミソリ110で使用されることができ、これにはハンドル112と、交換可能なヒゲ剃り用カートリッジ114とを備える。カートリッジ14は、ハウジング116を備えており、これは3枚の刃10、ガード120及びキャップ122を入れる。刃10は、例えば参考として組み込まれる米国特許第5,918,369号に記載されるように可動に取り付けられる。カートリッジ114はまた、ハウジング116が2つのアーム128で枢動可能に取り付けられる相互接続部材124を備える。相互接続部材124は、交換可能にハンドル112に接続される基部127を備える。あるいは、刃10は、1つ、2つ又は3つ以上の刃、両面刃を有する他のカミソリ、及び可動刃又はカートリッジが交換可能であるか若しくはカミソリのハンドルに永久的に取り付けられる枢動ヘッドを持たないカミソリで使用されることができる。
【0020】
使用する際、カミソリの刃10は、最初のヒゲ剃りから以降、優れたヒゲ剃り特性を持つ。刃10は、優れたヒゲ剃り特性を維持しながらも硬質コーティングによりもたらされる改善された刃先強度を有し、かつ繰り返されるヒゲ剃りで先端が丸くなるのを保護層コーティング(overlayer coating)により低減させる。
【0021】
他の実施形態は、添付の請求項の範囲内にある。
【0022】
例えば、所望であれば、他の成膜技術、例えば、DCバイアス(−50ボルトより負、好ましくは−200ボルトより負)及び窒素若しくはアルゴン/窒素の混合物を使用するミリトール範囲の圧力又は適切なRFバイアスを使ったマグネトロンスパッタリングを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カミソリの刃の刃先部分の垂直断面図。
【図2】図1のカミソリの刃を備えるヒゲ剃り用カミソリの斜視図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋭利化された先端及び隣接する面(facet)により形成される刃先を有する基材と、前記刃先上に設けられた硬質コーティング層と、前記硬質コーティング層上に設けられた窒化クロムの保護被膜層と、前記保護被膜層を覆うポリテトラフルオロエチレンコーティングの外層と、を備えたことを特徴とするカミソリの刃。
【請求項2】
前記硬質コーティングが、炭素含有物質からなることを特徴とする請求項1に記載の刃。
【請求項3】
前記炭素含有物質が、ダイヤモンドからなることを特徴とする請求項2に記載の刃。
【請求項4】
前記硬質炭素コーティングが、ダイヤモンドに類似する炭素物質からなることを特徴とする請求項2に記載の刃。
【請求項5】
前記硬質炭素コーティングが、非晶質ダイヤモンド物質からなることを特徴とする請求項2に記載の刃。
【請求項6】
前記保護被膜層が、約100〜600オングストロームの厚さを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の刃。
【請求項7】
前記基材と前記硬質炭素コーティング層との間に中間層を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の刃。
【請求項8】
前記中間層が、ニオブからなることを特徴とする請求項7に記載の刃。
【請求項9】
前記中間層が、クロム含有物質からなることを特徴とする請求項7に記載の刃。
【請求項10】
前記基材と前記硬質コーティングとの間にニオブ中間層を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の刃。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−543377(P2008−543377A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515946(P2008−515946)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/022400
【国際公開番号】WO2006/138153
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(593093249)ザ ジレット カンパニー (349)
【Fターム(参考)】