カラゲナン含有水性抗菌性組成物
性感染症の伝染を阻害するための、ラムダカラゲナンを包含するカラゲナンおよび水溶性金属塩などの1つ以上のポリアニオン性殺菌剤と、NNRTIおよびNRTIを含む特定の抗レトロウイルス剤とを含有する組成物を開示する。また、その組成物を作製および使用するための方法も開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国仮特許出願第60/376,400号(2002年4月30日出願)および米国仮特許出願第60/377,050号(2002年5月1日出願)の出願日の利益を主張する国際出願第PCT/US03/13456号(2003年4月30日出願)の継続出願である米国特許出願第10/977,001号(2004年10月29日出願)の部分継続出願である出願第12/587,405号(2009年10月6日出願、表題UNIQUE COMBINATIONS OF ANTIMICROBIAL COMPOSITIONS)の利益を主張しており、これらの出願開示は、参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
カラゲナンは、海藻として一般に知られている紅藻類から得られた多糖である。カラゲナンは、海藻の構成成分であり、3つの主要なタイプ、すなわち、イオタ、カッパおよびラムダとして抽出されるが、カッパ−IIカラゲナン、ミューカラゲナンおよびニューカラゲナンを包含する他のタイプもある。カラゲナンは、食品業界、医薬品業界および化粧品業界において、増粘剤、ゲル化剤、ならびに安定化剤および分散化剤として広範に使用されている。広範な薬理学的および毒物学的な研究が実施されている。カラゲナンは、経口、経皮および吸入の投与経路によって、極めて高い用量であっても無毒性であることが見出されている。したがって、カラゲナンは、1972年にFDAにより「一般に安全と認められる」(GRAS)物質として分類された2。ブタ、ラット、マウス、スナネズミ、モルモット、ケナガイタチ、ハムスター、イヌおよびサルにおいて実施されたさらなる広範な経口薬物動態学的研究3−11は、消化管におけるカラゲナンの分解はあってもごくわずかであり、吸収は事実上存在しないことを示した。
【0003】
国際特許公開WO94/15624は、HIVの細胞間伝播、したがって、後天性免疫不全症候群(AIDS)の性感染、およびクラミジア生物体を阻害するための、硫酸化多糖、例として、イオタカラゲナン、デキストラン硫酸、カッパカラゲナン、ラムダカラゲナン、ヘパリン模倣物質、ヘパラン硫酸、ペントサンポリサルフェート、コンドロイチン硫酸、レンチナン硫酸、カードラン硫酸、脱N−硫酸化ヘパリンおよびフコイダンの使用を教示している。この公開は、イオタカラゲナンが、市販されている硫酸化カラゲナンのうち、in vitroおよびin vivoにおけるHIV感染の予防およびクラミジア感染の遮断において最も効能を示すことを教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人らは、特定のカラゲナン、または種々のカラゲナンの混合物もしくは組合せが、特定の物理学的および化学的な特性を示し、それらのカラゲナンを膣投与用に製剤化すると、それらが抗菌作用の延長をもたらし、性感染症(STI)の伝染の可能性を阻害するか低下させることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明の第1の態様は、カラゲナン(本明細書では「カラゲナン」または「カラゲナン混合物」と呼ぶ)を含む有効量の抗菌剤と、生理学的に許容可能なpH調整剤とを含む水性抗菌性組成物であって、前記カラゲナンが、前記カラゲナンの乾燥重量にの少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンである水性抗菌性組成物を対象とする。本発明の目的のため、用語「抗菌性」は、抗細菌活性および/または抗ウイルス活性を包含することが意図される。
【0006】
本発明の関連する態様は、カラゲナンを含む有効量の抗菌剤と、生理学的に許容可能なpH調整剤とを含む性感染症(STI)阻害組成物であって、前記カラゲナンが、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンである組成物を対象とする。
【0007】
本組成物は、別の抗菌剤および/または膣投与可能な薬物をさらに包含することができ、この場合、カラゲナン成分は、非ラムダカラゲナンを含まないラムダカラゲナンであってよい。追加の薬剤は、カラゲナンと混合および/または会合させてもよく、例えば、錯体の形態であってもよい。したがって、本発明のさらなる態様は、(a)生理学的に許容可能なpH調整剤、および(b)ラムダカラゲナン、またはカラゲナンであって、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンと、抗菌性の生理学的に許容可能な水溶性カチオン性金属塩との錯体を含む有効量の抗菌剤を含む水性抗菌性組成物を対象とする。
【0008】
本発明のさらなる態様は、(a)生理学的に許容可能なpH調整剤、(b)ラムダカラゲナン、またはカラゲナンであって、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量がラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンの錯体を含む有効量の抗菌剤、および(c)リグノスルホン酸を含む水性抗菌性組成物を対象とする。
【0009】
本発明のさらなる態様は、(a)生理学的に許容可能なpH調整剤、(b)ラムダカラゲナン、またはカラゲナンであって、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量がラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンの錯体を含む有効量の抗菌剤、および(c)膣投与可能な薬物、例えば、避妊剤またはホルモン補充療法のための薬剤を含む水性抗菌性組成物を対象とする。
【0010】
本発明のさらなる態様は、ポリアニオン性の殺菌剤、例えば、カラゲナンを含む有効量の抗菌剤と、生理学的に許容可能な水溶性カチオン性金属塩と、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤またはヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤とを含む水性抗菌性組成物であって、カラゲナンが、カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンである水性抗菌性組成物を対象とする。
【0011】
本発明のさらなる態様は、本発明のカラゲナンを加工し、改良し、または安定化させる方法を対象とする。この方法は、無水形態または粉末形態のラムダカラゲナンまたはカラゲナンと、乾燥形態のpH調整剤とを混合し、続いて、カラゲナンを、例えば、水または別の水溶液の添加により水和させるステップを伴う。この方法は、高濃度のカラゲナンを均質な水溶液に加工するための現在の技法に関連するいくつかの欠点を克服し、医薬製剤、例えば、上記の組成物および錯体へのさらなる加工を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のカラゲナンを含有する組成物の長期の活性を示すグラフである。マウスを、組成物の適用後に、HSV−2の95〜100%の感染用量で、種々の時間間隔で接種した。組成物は、24時間後でさえ、HSV−2に対してある程度の活性を保持する。このことは、組成物の使用と性交との間で相当な時間が経過する場合であってさえも、女性を保護し得ることを示唆する。
【図2】脾臓から抽出したRNA由来のRT PCR産物のサザンブロットハイブリダイゼーションを示す図である。レーン2およびレーン3は陽性対照である。レーン4〜8は、ウイルス接種の5分前に本発明のカラゲナンを含有する組成物を用いて前処理したマウスに由来する。レーン9〜14は、HIVを膣接種したマウスに由来する。
【図3】本発明のカラゲナンを含有する組成物、カラゲナンと水溶性亜鉛塩との錯体(「亜鉛−カラゲナン」)、およびリグノスルホン酸(LSA)を含有する別の本発明の組成物の濃度に対するp24(HIV)の濃度を示す棒グラフである。
【図4】HSV−2/マウス系における、カラゲナンおよびLSAを含有する本発明の組成物と、カラゲナンを含有する本発明の組成物との比較を示すグラフである。結果は、LSAおよびカラゲナンを含有する組成物が、カラゲナンを単独で含有する組成物よりも効能を示すことを示す。
【図5】p24のELISAにより測定した場合の、ウイルス複製のLSAによる阻害率を示すプロットである。
【図6】ベロ細胞中でのHSV−2のプラーク形成の阻止における、本発明のカラゲナンを含有する組成物、および亜鉛−カラゲナンを含有する別の本発明の組成物の有効性を、用量の関数として示すグラフである。
【図7】膣接種後のHSV−2感染からのマウスの保護における、本発明のカラゲナンを含有する組成物、および亜鉛−カラゲナンを含有する別の本発明の組成物の有効性を示すグラフである。
【図8】HSV−2の104または100%感染用量のウイルス接種用量にて、2つの公知の製品、すなわちConceptrolおよびAdvantage Sと比べた、亜鉛−カラゲナンを含有する本発明の組成物の長期の活性の比較を示すグラフである。
【図9】本発明のカラゲナンを含有する組成物、および亜鉛−カラゲナンを含有する別の本発明の組成物によるウイルス接種からの保護を示すグラフである。
【図10】本発明のカラゲナンを含有する組成物から放出されたNestoroneの量を示すグラフである。
【図11】HSV−2感染からのマウスの保護における、種々の希釈度の本発明のカラゲナン組成物の有効性の比較を示す棒グラフである。結果は、カラゲナンを1:200に希釈した場合でさえ、カラゲナンは依然として、感染からの40%の保護をもたらすことができたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組成物中で使用するポリアニオン性殺菌剤は、ウイルスの付着を妨げ、結果として、粘膜表面からのHIVの伝播を低下させる殺菌剤である。これらのポリアニオン性殺菌剤として、PRO2000、Buffergel、デキストラン硫酸、セルロース硫酸等の化合物、最も好ましくは、カラゲナンが挙げられる。
【0014】
本発明の組成物中に存在するカラゲナンは、ラムダカラゲナンを包含する。非ラムダカラゲナンが存在する限りにおいて(この場合、組成物のカラゲナン成分を、「カラゲナン」または「カラゲナン混合物」と呼ぶことがある)、カラゲナン混合物は、組成物中のカラゲナンの総乾燥重量の少なくとも約50%(好ましくは、少なくとも50%)のラムダカラゲナンを含有する。より好ましい実施形態では、ラムダカラゲナンの量は、カラゲナン(すなわち、ラムダカラゲナンおよび非ラムダカラゲナン)の総乾燥重量の少なくとも約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%である。他の好ましい量は、少なくとも75%、少なくとも約85%、少なくとも約95%、約85〜約99%および約94%〜約97%のラムダカラゲナンである。
【0015】
ラムダカラゲナンは市販されている(FMC Corp.、Philadelphia)。あるいは、ラムダカラゲナンは、二倍体(胞子体)の海藻植物、例えば、Gigartina radula、Gigartina skottsbergii、Gigartina chamissoi、Gigartina stellata、Iridaea cordata、Chondrus chrispusおよびSarcothalia crispataから生成することができる。海藻からのカラゲナンの単離は、標準的な技法に従って実施する。例えば、海藻を、分離し、清浄し、次いで、乾燥する。ラムダカラゲナンを、熱い希水酸化ナトリウム中で抽出して、4%程度の濃度のラムダカラゲナンを含有するペーストを得る。得られたペーストを遠心分離およびろ過により清澄化して、透明なラムダカラゲナン溶液を得る。蒸発、アルコール沈殿または洗浄の任意の組合せにより水を除去し、乾燥する。
【0016】
本発明の組成物中の残りのカラゲナンは、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンを包含し得る。「非ラムダカラゲナン」とは、ラムダカラゲナン以外の任意のカラゲナン、例えば、カッパ−カラゲナン、イオタカラゲナン、カッパ−IIカラゲナン(これは、カッパカラゲナンおよびイオタカラゲナンを含有する)、ミューカラゲナン、ならびにニューカラゲナンを意味する。また、非ラムダカラゲナンも、市販されており(例えば、FMC Corp.)、または標準的な技法に従って海藻から抽出することができる。例えば、カッパ−IIカラゲナンはまた、上記の海藻種中に天然に存在する。好ましい実施形態では、非ラムダカラゲナンは、カッパカラゲナン、イオタカラゲナンおよびカッパ−IIカラゲナン、ならびにそれらの任意の2つ以上の混合物を包含する。より好ましい実施形態では、非ラムダカラゲナンは、カッパ−IIカラゲナンを包含する。好ましい実施形態では、カラゲナンの非ラムダ成分は、カラゲナンの総乾燥重量の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24%未満または約25%を構成する。より好ましい実施形態では、非ラムダ成分は、カラゲナンの総乾燥重量のおよそ、約25%未満、約15%未満、約5%未満、約1%〜約15%、または約3%〜約6%である。他の好ましい実施形態では、カラゲナン混合物には、食品業界で使用されるカラゲナン中に一般に見出される成分であるデキストロースが実質的にまたは全く含まれない。
【0017】
抗菌作用をもたらすためには、ラムダカラゲナンまたはカラゲナンは一般に、組成物の総重量を基準にして約1%〜約5%の量で存在する。好ましい実施形態では、カラゲナンは、組成物の総重量の約3%の量で存在する。「抗菌性」または「抗菌作用」とは、組成物が、細菌、別の微生物またはウイルスにより引き起こされた性感染症の伝染の可能性を阻害するか低下させることを意味する。本発明の組成物は、性感染症からの、例えば、HIV、HPV、HSV−2およびNeisseria gonorrhoeaeによる感染を阻害することによる保護に有用である。他方、用語「抗菌性」および「抗菌作用」は、感染の伝染の阻害を達成する任意の特定の手段を示唆すること、暗示すること、およびそれらに制限されることを意図しない。任意の特定の動作理論に拘束されることを意図しないが、カラゲナンが、STIの病原体であるウイルス、細菌および他の微生物に非特異的に結合し、それによって、受容体部位を遮断すると考えられる。ラムダカラゲナンまたはカラゲナンを1%未満または5%超の量で含有する組成物も、それらが抗菌作用をもたらし、膣の許容性を保持する限り使用することができる。「膣の許容性」とは、レオロジー特性、例えば、組成物の粘度が、組成物をその意図する目的で使用することを可能にすることを意味する(例えば、組成物が粘度を維持し、その結果、使用者が組成物を適用することができ、組成物は膣空間中に保持され得、美的特性を提供することができ、例えば、実質的に無臭、滑らか、清澄、無色および無味であり得る)。粘度は、組成物が膣空間の上皮の内壁をむらなくコートするのが可能になるように選択される。一般に、組成物の粘度は、約10,000〜約50,000cP、好ましくは、約20,000〜約50,000cP、より好ましくは、約30,000〜約50,000cPである。カラゲナンは、連続した分子量を有する。一般に、本発明のカラゲナン混合物は、最高約2×106ダルトンの分子量を有することができ、約1%未満のカラゲナン分子が、1×105ダルトンの平均分子量を有する(ガス浸透クロマトグラフィーおよび光散乱により決定した場合)。より具体的には、本発明におけるラムダカラゲナンは、約600,000〜約1,200,000ダルトンの重量平均分子量を有する。この物理学的特性は、最終的な製剤に非吸収性をもたらし、続いて、こうした非吸収性は、抗菌活性の延長をもたらす。
【0018】
また、カラゲナン以外の、本発明の組成物中で使用することができる他のポリアニオン性殺菌剤の中には、PRO2000がある。この殺菌剤は、HIVを阻止するための膣用殺菌剤である。さらに、他のそのようなポリアニオン性殺菌剤は、Buffergelも包含し、これは、緩衝活性をもたらして、精液の存在下で膣の保護的な弱酸性を維持する殺菌性殺精子剤である。さらに、細胞表面においてHIVの侵入を遮断するポリアニオンであるデキストラン硫酸を活用することもでき、セルロース硫酸も、そのために活用することができる。
【0019】
組成物は、生理学的に許容可能なpH調整剤、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をさらに含有する。pH調整剤は、組成物のpHを(例えば、約3.5〜約8.5、好ましくは、約5.8〜約7.2、例えば、約6.8〜7.2のレベルに)安定化させることに加えて、pHが顕著に変化する場合がある体内に組成物が導入されると、組成物中の変化のうちのいずれの変化も阻止または低下させる。膣のpHは、3.5〜5.5の間の範囲に及ぶことができる。したがって、pH調整剤の存在により、カラゲナンの抗菌作用が延長する。組成物は、約0.001%〜約1.0%のpH調整剤を包含する。組成物の製剤は、(後述するような)意図する用途に応じて、他の活性な薬剤および/または不活性な成分をさらに含有することができる。
【0020】
本発明のカラゲナンは、いくつかの他の利益をもたらす。それらは、凍結温度、周囲温度または沸騰温度に曝されても、安定な状態を維持する。混合物は、ヒトの膣環境に適合する。任意の特定の動作理論により拘束されることを意図していないが、カラゲナンは、ヒトの膣環境に適合し、基質として作用することも、それ以外に、天然の膣の菌叢の成長を引き起こしたり刺激したりすることもなく、毒性を示すこともなく、結果として、膣内の天然の菌叢のバランスを混乱させることはないと考えられる。本発明のカラゲナンに帰するこの特性とは別に、それらの抗菌活性は、ある期間にわたって延長する。これは、カラゲナンは、全身に吸収されないため、またはヒトに有害な吸収性の任意の副産物に分解されないためである。
【0021】
本発明の別の態様は、水溶性金属塩とカラゲナンとの間の錯体を対象とする。好ましい実施形態では、金属塩は、亜鉛塩である(この抗菌性組成物を、「亜鉛カラゲネート(zinc carrageenate)」と呼ぶ)。亜鉛は、HIVおよびHSV−2等の性感染症の病原体の阻害剤である。酢酸亜鉛および硫酸亜鉛が、細胞培養物におけるHIV感染、ならびに細胞培養物および実験動物の両方におけるHSV−2を阻害することが示されている。亜鉛塩は、in vitroにおけるHIV39、口蹄疫ウイルス、ヒトライノウイルス、インフルエンザAおよびB、セムリキ森林ウイルス、ならびにシンドビスウイルス40による感染を遮断するのに有効であることが示されている。Haraguchiら39は、p24のELISAおよびRTによりアッセイした場合、塩化亜鉛、酢酸カドミウムおよび塩化水銀が、HIV−1の産生を阻害することを見出した。塩化亜鉛は、550μg/mL以下の濃度で存在する場合には、顕著な細胞傷害性は示さなかった。
【0022】
本発明に有用な水溶性の亜鉛塩は、本発明に従って使用した場合、許容できない刺激性を引き起こすことなく、抗菌特性を示す無機塩および有機塩の両方を包含する。好ましい水溶性の亜鉛塩は、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酪酸亜鉛、ギ酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、グリセリン酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛および臭化亜鉛を包含する。ZnSO4、ZnCl2、ZnBr2、Zn(Ac)2等。また、銅および銀の対応する塩も、in vivoにおいて非刺激性であり、ヒトに有害な吸収性の任意の副産物への分解を引き起こさないならば、本発明に有用である。したがって、本発明の組成物は、約0.03%から1.5%、好ましくは、約0.3%〜1.0%の水溶性金属塩を包含する。組成物の抗菌活性は、カラゲナンを唯一の抗菌剤として含有する製剤よりも高い。特定の亜鉛塩を用いる本発明の実施形態では、抗菌活性が著しく増加する。任意の特定の動作理論に拘束されることを意図していないが、金属塩が身体に吸収される速度が比較的制御されることから、製剤の抗菌活性は増強され、同時に、金属塩の刺激性が低下すると考えられる。
【0023】
本発明の錯体を、標準的なプロセスにより調製することができ、それにより、金属イオンが、多糖の骨格上に天然に存在するカチオンにとって代わる。例えば、亜鉛カラゲナン(これは、亜鉛のカチオンと本発明のカラゲナンとの間の錯体を指す)は、亜鉛(II)をカラゲナンの硫酸基に非共有結合させる手順により合成した化合物である。カラゲナンは、直鎖状に並ぶD−ガラクトースと3,6−アンヒドロD−ガラクトースとの反復単位からなる多糖である。この高分子は、高度に硫酸化しており、各二糖単位当たり3つのSO3基を有する。亜鉛のカラゲナンへの結合は、亜鉛が、未変性のカラゲナンに結合しているナトリウムにとって代わるように開発された化学的プロセスにより達成される。溶解性が高い亜鉛塩(例えば、酢酸亜鉛)の水溶液を、このプロセスでは、亜鉛のカチオンの供給源として使用する。カラゲナンを酢酸亜鉛の濃縮溶液に対して透析して、正に荷電した亜鉛イオンが、拡散して負のカラゲナンの硫酸基と錯体を形成するのを可能にする。次いで、亜鉛の過剰量を、水に対する透析により除去する。
【0024】
本発明に亜鉛II金属のカチオンとカラゲナンとの錯体を包含させることは、亜鉛IIカラゲネートの使用により達成することができる。亜鉛カラゲネートは、天然のカラゲナンのカチオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム)の、亜鉛のカチオンによる置換によって合成する。亜鉛カラゲネートは伝統的に、カラゲナン溶液を酢酸亜鉛IIの濃縮溶液に対して透析することによって調製される。次いで、過剰量の亜鉛のカチオンを水に対する透析により除去してから、濃縮し、例えば、凍結乾燥する。本発明においては、亜鉛IIカラゲネートの使用により、アニオン、例えば、乳酸または酢酸の使用を回避することができる。
【0025】
別のプロセスでは、(a)カラゲナンを、50:50のアルコール:水の液中の約2.5%乳酸亜鉛(または他の適切な溶解性の亜鉛塩)中に2時間浸漬し、(b)分離し、(c)アルコールを用いて洗浄してから、乾燥する必要がある。カラゲナン中の所望の金属含有量を達成するためには、ステップ(a)から(c)を数回繰り返す必要がある場合がある。当量基準で50%超の亜鉛カラゲナンを達成するためには、2サイクルが通常必要である。
【0026】
上記の手順により、水溶性であり、エンベロープウイルス、例えば、HIVおよびHSV−2に対して活性である化合物が生成する。無機または単純な有機の亜鉛塩とは異なり、亜鉛カラゲナンは、好ましいレオロジー特性を維持し、高い分子量(最高2,000,000Da)を有し、このため亜鉛カラゲナンは非刺激性であり、吸収されない膣用製品に製剤化するのに適している。遊離の金属カチオンに組成物を解離させないようにするまたは解離を妨げる、金属とカラゲナンとの間の分子の相互作用が存在するため、組成物を「錯体」と呼ぶ。この金属塩と負に荷電した硫酸化多糖との錯体は、それらの物理学的特性、化学的特性および/または抗菌特性の観点から、水溶性金属塩とカラゲナンとの混合物とは明確に異なる。
【0027】
本発明の別の態様では、出願人らは、水不溶性の金属塩とカラゲナンとの錯体と、特定の抗レトロウイルス剤との組合せが、予想外の利点および相乗的な特性をもたらすことを発見した。特にとりわけ、この成分の特定の組合せは、性感染症の阻害の観点から、特に、膣のSHIV−RT感染(サル/ヒトの免疫不全ウイルス−逆転写酵素)の遮断において、予想外の結果をもたらすことが見出されている。抗レトロウイルス剤は、レトロウイルス、主として、HIVによる感染の治療のために使用する薬物である。HIVの生活環の異なる段階で作用する多数の異なるクラスの抗レトロウイルス薬があり、抗レトロウイルス薬として、例えば、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、インテグラーゼ阻害剤、融合阻害剤およびCCR5アンタゴニストが挙げられる。
【0028】
NNRTIは、それら自体を逆転写酵素に付着させ、逆転写酵素がRNAをDNAに変換するのを阻止する化合物であり、したがって、HIVの遺伝物質が、細胞の健常な遺伝物質中に取り込まれ得ず、細胞が新しいウイルスを産生するのを阻止することができる。これらとして、ネビラピン、デラビルジン、エファビレンツ、エトラビリン、MIV−150、MIV−160、MIV−170、ダピビリン(dapivirine)(TMC−120)、およびUC−781等の薬物が挙げられる。最も好ましくは、NNRTIは、MIV−150であろう。MIV−150は、Medivirにより抗ウイルス治療剤として使用するために開発されたNNRTIである。MIV−150は、迅速な形成および緩慢な解離速度により特徴付けられる、堅固に結合するHIV−RT酵素阻害剤であり、非常に低い濃度でHIVの化学分離株を不活性化させるのに有効である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、出願人らは、本発明のカラゲナンと、水溶性金属塩、好ましくは、例えば亜鉛と、NNRTI、例えばMIV−150との特定の組合せが、膣のSHIV−RT感染を完全に遮断するのに有効であることを発見した。さらに、この特定の組合せは、カラゲナンと、水溶性金属塩、例えば亜鉛との、もしくはカラゲナンとNNRTIとの個々の組合せ、またはカラゲナン自体よりも顕著に有効であることも見出されている。好ましい実施形態では、本発明のカラゲナンと水溶性金属塩とNNRTIとの組合せは、好ましくは、上記で論じたカラゲナンを包含し、カラゲナンは、カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量のラムダカラゲナンを包含し、カラゲナンの残りは、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであり、最も好ましくは、95%ラムダカラゲナンと5%カッパカラゲナンとの組合せを包含し、全体的な組成物は、1%〜5%のカラゲナン、好ましくは約3%のカラゲナンを包含するジェル剤の剤形である。組成物は、水溶性金属塩を包含し、好ましくは、亜鉛塩を、最も好ましくは、酢酸亜鉛または乳酸亜鉛の形態で含み、全体的な組成物中に約0.1重量%〜1.5重量%の金属、最も好ましくは、約0.3重量%の金属、例えば亜鉛を包含し、NNRTI、最も好ましくは、MIV−150を、NNRTI、例えばMIV−150の5μM〜5,000μM(または0.000185%〜0.185%)、好ましくは、10μM〜250μM(または0.00074%〜0.00925%)の量で、最も好ましくは、約50μM(または0.00185%)のMIV−150を包含する。
【0029】
NRTIは、ウイルスのDNA中に組み込まれて、構築プロセスを止める化合物である。したがって、NRTIにより、新しいウイルスを生み出すことができない不完全なDNAが生じる。NRTIとして、アバカビル、テノフォビルおよびジドブジン等の薬物が挙げられる。
【0030】
出願人らは、NNRTIおよびNRTIは、本発明の組成物中で使用すると、特定の予想外の特性を示すことを見出すに至った。
【0031】
本発明の別の態様では、リグノスルホン酸(「LSA」)をラムダカラゲナンまたはカラゲナンと組み合わせて(本明細書ではLSA−カラゲナンと呼ぶ)、抗菌作用の増強を達成する。LSAは、産業用の安定剤、分散化剤および強化剤として商業的に使用される。また、LSAは、家畜飼料中のばら繊維の供給源、ならびにヒトが消費するための特定の食品の加工における乳化剤および分散化剤としても使用される。LSAは、高等植物の細胞壁中に存在する。細胞壁の繊維は一般に、多糖のセルロースからなり、セルロースは、地球上で最も豊富な多糖である。二次細胞壁は、セルロースに加えて、リグニンと呼ばれる別の非常に豊富な物質を含有し、リグニンは、植物をより堅くする多糖である。木片を、重硫酸カルシウム溶液中で、熱および圧力の下で煮ることによって、リグニンを、亜硫酸パルプ廃液として知られている水溶性のリグノスルホン酸(LSA)の溶液に変換する31、32。LSAは、およそ5000ダルトンの平均分子量を有するモル質量が低い化合物である。リグニンは、多くのランダムなカップリングを有する非常に複雑な天然高分子であるため正確な化学構造は不明であるが、リグニンは、基本単位がコニフェリルアルコールの構造に類似するプロピルベンゼンの構造である、スルホン化された高分子の化学構造を有すると考えられている31。市販されているリグノスルホン酸の有用性は、その分散化特性、結合特性、錯体形成特性および乳化特性に由来する。リグノスルホン酸の芳香環構造が、植物に、微生物からの攻撃に抵抗する能力を付与する。LSAは、in vitroにおいて抗HIV活性を示すことが示されている。
【0032】
カラゲナンおよびLSAを含む製剤は、LSAをカラゲナンに、一般に約20:1〜約1:20のLSA−総カラゲナンの重量比で添加することによって調製することができる。金属塩を含有する組成物の場合と同様に、固体の緩衝塩を、カラゲナンと、通常、約1:1〜約10:1の重量比で混合することができる。次いで、得られた混合物を水溶液中に可溶化する。次いで、カラゲナン−LSAの製剤のpHを、約6.0〜約8.0となるように、酸、例えばHCl、または塩基、例えばNaOHを添加することによって調節することができる。水溶液中のLSAは、褐色から茶色の着色をもたらす。着色の強度は、使用する濃度に比例して増加する。したがって、白色化剤、例えば二酸化チタンを、組成物中に包含させることができる。一般に、白色化剤は、組成物の総重量を基準にして約0.1〜約3.0%の量で存在する。また、白色化剤は、抗菌作用に寄与することもできる。
【0033】
任意の特定の動作理論に拘束されることを意図していないが、LSA自体がいかなる抗ウイルス活性を発揮するかは別として、LSAは、カラゲナンに対して分散化剤としても機能し、カラゲナンを解きほぐし、引き伸ばし、したがって、この物質のより高い密度、およびより高い抗菌効力を生み出すと考えられる。他方、カラゲナンは、LSAがかなり水様性の性質であるためそれ自体としては達成することができない、許容可能な有効な膣への投与に(およびさらには直腸への投与に)必要な好ましいレオロジー特性をもたらす。いくつかの実施形態では、カラゲナンとLSAとの組合せが、性感染症の予防または阻害において相乗的に作用する。
【0034】
また、本発明の組成物は、水性製剤中に、膣投与可能な薬物を、pH調整剤およびラムダカラゲナンまたはカラゲナンと併せて含有することもできる。好ましい薬物は、避妊剤、例えば、Salehら、米国特許第5,972,372号(「Saleh」)に開示されているステロイドホルモンであり、この開示は、参照することにより本明細書の一部をなすものとする。本発明に有用な避妊剤の例として、プロゲスチン、ACTH、アンドロゲン、エストロゲン、ゴナドトロピン、ヒト成長ホルモン、メノトロピン、プロゲステロン、プロゲスチン(例えば、レボノルゲストレル、ノルエチンドロン、3−ケト−デソゲストレルおよびゲストデン)、プロゲストーゲン、ウロフォリトロピン、バソプレシン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。好ましい薬剤として、プロゲステロン系化合物(例えば、ノルエチンドロン酢酸、およびNESTORONE(商標)(「NES」)(すなわち、16−メチレン−17.アルファ.−アセトキシ−19−ノルプレグネン−3,20−ジオン))、ならびにプロゲスチン(例えば、レボノルゲストレル(LNG))が挙げられる。
【0035】
好ましい避妊剤は、Nestorone、すなわち、16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオン(以下「NES」)であり、これは、文献では「ST−1435」と特定されている。プロゲステロンの効力を測定する古典的なバイオアッセイを使用した比較研究では、NESは、プロゲステロンの活性よりも100倍高く、レボノルゲストレルの活性よりも10倍高いプロゲステロン活性を有することが見出された53。したがって、排卵の阻害を達成するのに必要であるNESの量はより少ない。この効力は、アンドロゲン活性、エストロゲン活性および糖質コルチコイド様(肝臓におけるグリコーゲンの蓄積)活性がないこと、ならびに脂質または臨床化学のパラメータに対する作用がないことと相まって、避妊剤中のNESの使用に特別な利点を付与する53−55。しかし、NESは、経口投与すると、迅速な代謝および不活性化を受け、このことから、インプラントまたは膣リングを介して投与する場合に授乳中の女性において使用するのに適していることが示されている56、57。ジェル剤の剤形中でK/λカラゲナン混合物と組み合わせる場合のNESの好ましい送達用量は、1日当たり約75μg〜約100μgであり、これは、およそ200ピコモル/LのNESの血漿レベルに達し、月経の間の良好な出血パターンを達成する。他の好ましい膣投与可能な薬物として、ホルモン補充療法のための薬剤、例えば、エストロゲン系物質(例えば、エチニルエストラジオール)、および他のステロイド系化合物が挙げられる。
【0036】
任意の特定の理論に拘束されることを意図していないが、カラゲナンは、殺菌特性をもたらし、避妊剤またはホルモン補充療法のための薬剤に、徐放性の送達システムも提供する二重の機能を有し、したがって、薬剤の活性を増強すると考えられる。
【0037】
本明細書に記載する組成物はいずれも、少なくとも1つの生理学的に不活性な成分、例えば生理学的に許容可能な保存剤をさらに含有することができる。保存剤として、パラヒドロキシ安息香酸のアルキルエステル、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、ヒダントイン誘導体、パラベン、例えば、メチルパラベン、プロピオン酸塩、トリクロサン、トリカルバニリド(tricarbanilide)、チャノキ油、アルコール、ファルネソール、酢酸ファルネソール、ヘキサクロロフェン、ならびに四級アンモニウム塩、例えば、benzolconjure、亜鉛およびアルミニウムの塩、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、ならびにクロロブタノールが挙げられる。一般に、保存剤は、組成物の総重量を基準にして最大で約0.3%までの量で存在する。保存剤は、製造の間に何らかの事情で導入され得る微生物の成長を阻害することに加えて、一旦組成物が体内に導入されれば、正常な身体の菌叢の存在に起因して、組成物中の活性な薬剤に生じる可能性がある有害な作用も阻止する。このことは、組成物中の活性な薬剤が活性な状態を維持する時間の長さを延長する。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明の組成物、例えば、膣投与可能な薬物を含むまたは含まないカラゲナンを唯一の抗菌剤として含有する組成物、および追加の抗菌剤、例えば、カチオン性金属塩またはLSAを含有する組成物は、膣投与される。また、本発明は、直腸投与も包含する。組成物は適切には、医薬品業界における標準的な技法に従って、例えば、ジェル剤、クリーム剤、泡剤、フィルム剤および坐剤に製剤化することができる。ジェル剤が好ましい。製剤を、好ましくは、性的活動、例えば、性交の前に、通常そのような時期の前の約1時間以内に投与する。カラゲナンに基づいた製剤のヒトにおける適用は、性感染症(STI)、例えば、Neisseria gonorrhoeae、ヒトパピローマウイルス、HSV−2およびHIVの伝染を予防または阻害する。
【0039】
本発明のさらに別の態様は、非吸収性のカラゲナンを改良するための方法を対象とする。製剤は、典型的には、固体の緩衝塩と、ラムダカラゲナンまたはカラゲナン混合物とを、約1:1〜約10:1の重量比で混合することによって調製する。次いで、固体の緩衝塩とカラゲナンとの混合物を、水または水溶液中に可溶化して、製剤を作製する。次いで、この製剤のpHを、約6.0〜約8.0となるように調節する。このことは典型的には、酸、例えばHCl、または塩基、例えばNaOHの添加により達成する。一般に、製剤の粘度は、約20,000〜約100,000CPS、好ましくは、約30,000〜約35,000CPSである。少なくとも1つの生理学的に許容可能な保存剤を、製剤に添加することができる。そのような保存剤の例を、本明細書に開示する。保存剤は、種々の薬局方に示されている比率、特に、約80:1〜約10:1、好ましくは、40:1〜約15:1のカラゲナンに対する重量比で存在し得る。
【0040】
固体の緩衝塩は、酢酸、クエン酸、リン酸および乳酸の固体のアルカリ金属塩を包含する。リン酸の場合、固体のアルカリ金属リン酸塩の緩衝剤は、リン酸の三塩基性および二塩基性のアルカリ塩の、好ましくは無水の形態の固体混合物を包含し、アルカリ金属としてはリウムおよびナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。任意の生理学的に許容可能な緩衝剤を使用することができる。しかし、水溶性の亜鉛塩を活用する場合、リン酸塩はあまり好ましくなく、これらの製剤中では、酢酸、クエン酸および乳酸がより好ましい。好ましい実施形態では、これらの緩衝溶液は、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合物、および乳酸と乳酸ナトリウムとの混合物を含む。
【0041】
任意の特定の動作理論に拘束されることを意図していないが、カラゲナンは、大気に曝されると、極めて吸湿性となる乾燥粉末であると考えられる。乾燥成分中に大気中の水分が取り込まれると、材料の凝集が生じる。その後、材料を基剤水溶液中に導入するときに、この問題が悪化するため、カラゲナンを完全に取り込んで均一な水溶液を得ることができない。また、カラゲナンと少なくとも1つの固体の緩衝塩とを一緒に混合することによって、固体の緩衝塩が、カラゲナンが、大気に曝されると吸収するであろう大気中の水分を吸収し、したがって、カラゲナンの凝集を阻止するかまたは実質的に低下させるとも考えられる。さらに、このプロセスは、カラゲナンの水に対する溶解性を増加させるように働き、pHの安定化を達成するとも考えられる。
【0042】
以下の実施例により、本発明の特定の実施形態をさらに例証することを意図するが、決して本発明を制限する意図はない。
【実施例1】
【0043】
[500リットルのカラゲナンの生産]
ラムダカラゲナンまたはカラゲナン混合物の調製において、(1)製剤成分を、清潔な、乾燥した秤量槽中で個々に秤量すべきであり、(2)成分のプロトコールの重量ではなく、「実際の」重量を、両者間の変動がほんのわずかであったとしても、製造生産日誌に記録すべきであり、(3)人工産物(複数可)または混入物を含有する大容量成分容器はいずれも使用してはならず、こうした容器は、閉じ、密封し、「汚染されている」と印を付け、生産領域から除去すべきであり、(4)プロセス中は、製造が完了し、製剤が品質管理試験に合格するまで、生産バッチを1つの槽から別の槽に移してはならず、(5)生産槽は、製造の間は、閉じた状態を維持して、蒸発に起因する水の喪失を、特に加熱を必要とする任意のステップの間は回避すべきである。
【0044】
さらに、カラゲナンは、固体状態でも、凍結または高圧滅菌を包含する多様な不利な条件下の生産状態でも24カ月間安定であることが証明されている。
【0045】
以下は、ラムダ(λ)カラゲナンとカッパ−II(K−II)カラゲナンとのカラゲナン混合物(K−II/λカラゲナン混合物)を含有する製剤を作製するために使用した手順に関する。100mLの実験室サイズのバッチから始め、15リットルおよび30リットルの実験室バッチにスケールアップして、500リットルのバッチの製造手順に仕上げるK−II/λカラゲナン混合物の調製過程において、バッチ間で一貫性のある所望の製剤を得るのが困難となった。本方法は、驚くべきことに、これらの困難を克服し、バッチ間で一貫性のある質を有するK−II/λカラゲナン混合物の製剤を生産した。
【0046】
(機器)
生産槽であるIKA、EMA9/500AIUTLは、生産の間の溶液の迅速な加熱および冷却を可能にする水ジャケット生産槽である。
【0047】
(成分)
K−II/λカラゲナン混合物、
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)[NaClを120ミリモル/L、KClを2.7ミリモル/L、リン酸塩の緩衝剤(一塩基性リン酸カリウムおよび二塩基性リン酸ナトリウム)を10ミリモル/L含有する](Sigma Aldrich、Saint Louis MO)、
p−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)(Nipa Laboratories、Pontypridd、英国)、
塩酸(HCl)(Merck、Darmstadt、ドイツ)、
精製水(Clean Chemical Sweden AB、Borlange、スウェーデン)。
【0048】
(手順)
(1).以下の分量の成分を秤量する。
【表1】
【0049】
(2).乾燥成分、すなわち、K/λカラゲナン混合物およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を一緒にして注意深くかつ徹底的に混合した。
【0050】
(3).生産槽を検査して、混合チャンバーが清潔であり、乾燥しており、人工産物がなく、底部のバルブが閉じていることを確かめた。
【0051】
(4).生産槽に100.0L(部分I)の精製水を充填し、撹拌を開始した。
タービン、500rpm、およびアンカー、20rpm。水を、3部に分けて添加する。第1部は、メチルパラベンを溶解させるのに十分であった。第2部は、温度を低下させるのに役立ち、カラゲナンの酸加水分解が生じないように、HClを十分に希釈し、一方、十分に低い溶液レベルを維持したため、カラゲナン/PBSの混合物の添加時に、送達ふるいが基剤溶液と接触せず、かつ槽のアクセスハッチよりも低く、そのため過剰な「飛散する」混合物は失わないように、送達ふるいを混合槽中に下げることができた。第3部により、最終濃度を達成した。
【0052】
(5).撹拌を継続し、0.5kgのメチルパラベンおよび0.5kgのHClを添加した。槽のアクセスハッチを閉じ、水を75°〜85℃に加熱した。この温度に達したら、本発明者らは、撹拌を最低限10分間継続して、メチルパラベンを溶解させた。
【0053】
(6).加熱を中断し、250.0kg(部分II)の精製水を添加した。溶液を25°〜30℃に冷却した。水の添加が、冷却プロセスを早めた。成分を次に添加するときに溶液が蒸気を生成しないように、溶液を冷却する必要があった。次の添加のために槽を開ける場合の水の喪失を阻止するほかに、蒸気は、カラゲナン/PBSの混合物の、凝集、および添加において使用したふるいへの固着を引き起こした。
【0054】
(7).アクセスハッチを開け、カラゲナン/PBSの混合物の添加を、開始し、穏やかに振とうしながら、ふるいを通してゆっくり行った。添加はおよそ20分を要した。混合物の添加と同時に、撹拌スピードを、タービン、1200rpm、およびアンカー、20rpmの最大スピードまで増加させた。溶液の粘度が、カラゲナンの添加と共に指数関数的に増加した。撹拌スピードが顕著でない場合、カラゲナンが「防水(hydro−sealed)の」凝集塊を形成し、それらの塊は、決して溶液中に溶解して取り込まれることはなく、それによりバッチが許容できなくなった。(「防水の」凝集塊は、乾燥しているカラゲナンのポケットであり、これらの塊は、部分的に水和しているカラゲナンからなる外側のコーティングで囲まれており、カラゲナンの極めて大きな分子量および柔軟な構造に起因して水が透過できないようになる。)
【0055】
(8).アクセスハッチを閉じ、撹拌を、最大スピード、すなわち、タービン、1200rpm、およびアンカー、20rpmで継続した。134.0kgの精製水(部分III)を添加し、送水線の接続を断ち、バルブを閉じた。溶液を、52%の熱を加えることによって、75°〜80℃に加熱した。さらに、
【0056】
(9).全てのバルブが閉じていることを調べ、槽に400mbarの吸引を適用した。溶液を、吸引下、75°〜80℃、若干低下させたスピード、すなわち、タービン、1100rpm、およびアンカー、20rpmで1.5時間撹拌した。成分の均等な分布および完全な取り込みに必要である溶液の一定の撹拌が、過剰な空気の混入を引き起こした。この空気を、吸引により溶液から引き出した。
【0057】
(10).加熱を止め、撹拌を止め、吸引を止めた。生産槽から試験試料を取り出し、管理試験1番の完全な取り込みおよび均等な分布について試験した。
【0058】
管理試験1番:完全な取り込みおよび均等な分布
およそ90μLの製造過程の混合物を取り出し(大きなオリフィスの200μLピペットの先端を使用して、カラゲナン溶液を取り出すのに役立てた)、500μLエッペンドルフチューブ中の10μLの0.1%メチルブルーTS(1:1、イソプロピルアルコール:dH2O)中に混合した。チューブ中の混合物は、均等な青色に見えるはずである。このことは、K−II/λカラゲナン混合物が、溶液内に均等に分布していることを示す。10μLのこの混合物を用いて、顕微鏡スライドを調製し、カバーガラスを用いて覆い、低倍率(10×)下で眺めた。K−II/λカラゲナン混合物は、大きな紫色の鎖に見えるはずである。このことは、K−II/λカラゲナン混合物が完全に取り込まれており、溶液が「合格」であることを示す。鎖が青色であるかまたは大きな青色の凝集塊が目に見える場合には、K−II/λカラゲナン混合物が完全には取り込まれておらず、溶液は「不合格」である。溶液の加工を、ステップ9番の条件下で継続した。溶液が「合格」するまで、溶液を、30分間隔で再度調べた。
【0059】
(11).管理試験1番について、溶液が「合格」である場合、管理試験2番のpHについて試験する。
【0060】
管理試験2番:pH
試験試料を、試験のために、25℃±2(23℃〜27℃の範囲)に冷却すべきである。pHは、7.0±0.1(6.9〜7.1の範囲)であるはずである。このことは、溶液のpHが一様であり、溶液が「合格」であることを示す。溶液が、許容できるpH範囲(6.9〜7.1)内にない場合には、溶液は「不合格」である。溶液が「不合格」である場合、溶液が「合格」するまで、溶液には、必要に応じて、10%HCl(pHを減少させるため)または1NのNaOH(pHを増加させるため)のいずれかを25mL単位で用いて調節することが必要になる。酸または塩基のいずれかのそれぞれを徐々に添加する度に、pHを再試験する前に、バッチ全体の均等な分布を確実にするために徹底的に撹拌すること(ステップ9番の撹拌および吸引の条件、加熱なし)が必要になる。0.5時間の撹拌/吸引の後に、溶液を再度調べる。溶液が「合格」するまで、このように継続する。
【0061】
(12).管理試験2番について、溶液が「合格」である場合、混合物の冷却を始め、25℃±2°(23℃〜27℃)にする。冷却すると、溶液が濃くなるので、この時点ではOFFである撹拌スピードを増加させる必要がある。初めは、タービン、OFF、およびアンカー、20rpmとして、タービンを20rpm/15mmに増加させ、アンカーを10rpm/30mmに増加させ、タービン、1000rpm、およびアンカー、40rpmで終了する。撹拌を迅速には増加させないことが好ましい。撹拌を迅速に増加させると、空気の混入が生じる可能性がある。空気の混入が生じた場合には、溶液に気泡がなくなるまで、400mbarの吸引を適用する。
【0062】
(13).生産槽から最終試験試料を取り出し、管理試験2番、pHについて再試験し、管理試験3番、粘度について再試験する。
【0063】
管理試験3番:粘度
試験試料を、35℃±2°(33℃〜37℃の範囲)に加熱すべきである。性能を最適化するためには、粘度は、約30,000〜約40,000cPであるべきである。粘度の測定値は、溶液の粘度がPC参照試料およびCCS生産バッチと同様であり、溶液が「合格」であることを示す。溶液が「不合格」である場合、生産槽の上部および底部から試験試料を得、各試料に対して、管理試験2番、pH、および管理試験3番、粘度を実施する。溶液が、依然として「不合格」である場合には、ステップ9番およびステップ12番を繰り返し、管理試験3番、粘度について、溶液を再試験する。溶液が「不合格」である場合、規格外研究に着手して、規格外の生産の供給源を決定するものとする。
【0064】
水を添加して粘度を調節すると、最終生産バッチに不明なパーセント/濃度が生じて、生産バッチが許容できなくなることを発見した。
【0065】
(14).管理試験1番、2番および3番について、溶液が「合格」である場合、この溶液は、許容できる生産のバッチであり、このバッチを加工して、最終管理試験を行うことができる。ろ過バッグを含有する移動チューブを、生産槽の底部のバルブに接続し、製剤を保存容器中に移動させる。アプリケーターに充填する前に、試験試料を微生物学的な試験のために留保する。
【0066】
上記で論じたプロセスにおいて調製した最終的な製剤は、以下の成分を有する。
【表2】
【0067】
最終的な製剤は、HCl溶液、ならびに1:1の比のK3PO4およびNa2HPO4を添加することによって調節した約7.0のpHを有する。
【実施例2】
【0068】
[カラゲナンのHIV感染に対するin vitroでの効果]
PIの研究室を包含するいくつかの研究室により、カラゲナンは、HIVおよび他のエンベロープウイルスを遮断することが示されている15−19。これらの研究では、HIVのいくつかの異なるタイプの標的細胞および標的系統が利用されている。一般に、50%遮断が、数マイクログラム/mLで観察される。この結果は、他の硫酸化多糖、例えば、ヘパリンおよびデキストラン硫酸に類似する。
【実施例3】
【0069】
[膣内のウイルス性感染の研究−HSV−2/マウス]
HSV−2/マウス(Balb/C)系が、殺菌剤の開発に従事するほとんどの研究グループにより広く活用されている。Phillipsが確立した系20−22と他の系との間の重要な差は、ウイルス用量範囲の比較の活用である。他者が殺菌剤の評価のために使用する標準的なウイルス接種用量である100%感染用量または104pfuは、律速的である。開発中の大半の殺菌剤およびOTC殺精子剤のうちの多くが、このウイルス接種用量で、HSV−2感染からの顕著な保護率を示す。しかし、Phillipsは、ウイルス接種用量、すなわち、105、106、および1,000×の100%感染用量における評価を可能にするウイルス濃縮法を活用している。
【0070】
このウイルス接種用量系を使用して、比較研究を実施して、いくつかの開発中の殺菌剤、OTC殺精子剤および潤滑剤、ならびに殺菌剤の有効性を評価するための臨床治験においてプラセボとして使用することが可能な製剤の比較保護率を評価した。K−II/λカラゲナン混合物(また、本明細書では「K/λカラゲナン組成物」とも呼ぶ)を含有する本発明の組成物に加えて、比較試験の製剤は、開発中の殺菌剤、例えば、BufferGel(商標)およびNo Fertil、OTC殺精子剤であるK−Y Plus(登録商標)、Gynol II(登録商標)およびAdvantage S(商標);OTC膣用潤滑剤であるReplens(登録商標)およびK−Y Jelly(登録商標);ならびに可能なプラセボ製剤である2.5%Carbopol(登録商標)および2.5%メチルセルロースであった。
【0071】
試験製剤は、マウスの、膣のHSV−2感染からの保護における有効性に関して3つのカテゴリーに分かれた。104pfuのウイルス接種用量では、K−Y Jelly、Carbopolおよびメチルセルロースを除いて、全ての製剤が、顕著なレベルの、HSV−2からの感染からの保護をもたらした。しかし、105のウイルス接種用量では、K−II/λカラゲナン組成物を除いて、全ての製剤が、最低限のレベルの保護をもたらしたに過ぎない。106pfuのウイルス接種用量では、K−II/λカラゲナン組成物が、ある程度のウイルス性感染からの保護を依然としてもたらす唯一の製剤であった20。種々の製剤をウイルス用量範囲の比較系において評価することによって得られたデータは、K−II/λ組成物がもたらす、ウイルス性感染に対する予想外の高レベルな保護の最初の実証であった。
【0072】
したがって、HSV−2/マウス系を、候補殺菌剤を同じ試験条件下で評価および比較して、潜在的な、有効な殺菌剤を同定し得る手段として利用することができると結論付けることができる。
【実施例4】
【0073】
[活性の持続期間−HSV−2/マウス]
UNAIDS(World Health Organization、AIDS branch)が記載する、理想的な殺菌剤についての判断基準のうちの1つは、「殺菌剤は、挿入時におよび長期間にわたり活性であるべき」であり、このことにより、製品の使用において、より多くの柔軟性を女性に与えると述べている。さらに、細胞を介さないまたは細胞を介するHIVによる感染が生じる時間的経過は、即時でない場合もある。HSV−2/マウス系を利用して、殺菌剤が活性を保持するであろう持続期間を評価することができる。これは、試験製剤を膣内に適用し、設定した期間待ち、次いで、既知の用量のウイルスを用いてマウスを接種することによって行う。「活性の持続期間」試験を、Gynol II(登録商標)(OTC殺精子剤を含有する2%N−9)、BufferGel(登録商標)(開発中のpHが低い殺菌剤)およびK−II/λカラゲナン組成物を使用して、製剤の適用後5分、ならびに1.5時間、3時間、6時間および18時間に実施した。この1.5時間の時点までに、Gynol II(登録商標)は、感染からの保護はもたらさなくなり、BufferGel(登録商標)は、低下して、わずか30%有効であるに過ぎなかった。BufferGelの有効性は、経時的に低下し続け、6時間までには、保護をもたらさなくなった。著しく対照的に、K−II/λカラゲナン組成物は、HSV−2感染から保護するのに85〜100%有効な状態を最高6時間維持し、18時間において、72%有効な状態を維持した。K−II/λカラゲナン組成物は、活性レベルを一部、最高24時間保持し続けた。図1を参照されたい。ウイルス性感染からの保護の持続期間の延長は、カラゲナン、特に、K−II/λカラゲナン組成物に独特である。
【実施例5】
【0074】
[直腸内のウイルス性感染の研究−HSV−2/マウス]
理想的には、HIVによる感染から保護するのに有効である殺菌剤であれば、直腸においても、膣においても使用することができるであろう。HSV−2−/マウス系の直腸内ウイルス接種の改変形態を使用して、殺菌剤の有効性および安全性の評価を探索した。
【0075】
K−II/λカラゲナン組成物を用いた直腸の前処理は、HSV−2を用いた直腸接種の後に感染した動物の数を、PBSまたはメチルセルロース(不活性なプラセボ)を用いた前処理と比較して顕著に低下させた23
【実施例6】
【0076】
[K−II/λカラゲナン組成物の、膣の菌叢に対する効果]
殺菌剤の使用は、天然の膣の菌叢のバランスを混乱させないことが重要である。in vitroにおける研究は、カラゲナンは、膣の菌叢中に存在する最も一般的な細菌であるLactobacillus acidophilusの成長率を増強することも、阻害することもないことを示した。K−II/λカラゲナン組成物の膣の安全性についての第一相臨床治験に参加した35人の女性において実施した研究は、細菌性の膣症の有無により測定した場合、膣の菌叢の顕著な変化がないことを示した13。
【実施例7】
【0077】
[HIV/マウスのウイルス輸送系]
マウスはHIVに感染し得ないが、活性なウイルスまたは不活性化したウイルスをマウスの膣内に滴下注入すると、それに続いて、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)の使用により、ウイルスをリンパ節中に検出され得ることが示されている24。樹状細胞が、ウイルスの取込み、およびそれに続くリンパ節への輸送における役割を果たしたという証拠が提示されている。この結論は、樹状細胞がHIVの性感染の初期段階に関係があるとみなす研究に一致する25。
【0078】
結果は、K−II/λカラゲナン組成物は、HIVがリンパ節に達するのを阻止する際に、おそらく膣からの樹状細胞を介するHIVの輸送を遮断することによって効能を示すことを示している。
【0079】
マウス系およびAldrithol(商標)−2により不活性化したウイルスを使用するHIVの輸送を使用した。これは、ウイルスエンベロープを変えない、HIVを不活性化させるための標準的な方法である。脾臓を、HIVのための代替の貯蔵部位として確立するために、脾臓およびリンパ節をアッセイして、HIVを検出した。脾臓は、(リンパ節とは対照的に)HIVの検出のためのRT−PCRを実施するために、比較的より多くの量のRNAを得るのを可能にする。さらに、脾臓の抽出は、リンパ節を取り出す場合よりも時間のかかる程度が低く、それによって、RNAの分解の確率も低下させる。
【0080】
K−II/λカラゲナン組成物の、HIVが子宮頚部/膣のバリアを横断するのを阻止することにおける有効性を決定するために、マウスを、3つの群、すなわち、1)未処理のPBS対照マウス、2)メチルセルロース(不活性なプラセボ)を用いて前処理したマウス、および3)K−II/λカラゲナン組成物を用いて前処理したマウスに無作為化した。結果を、図2のサザンブロットおよび下記の表に示す。
【表3】
【0081】
PBS(対照)およびメチルセルロース処理、ならびにK−II/λカラゲナン組成物を用いて処理したマウスからのデータは、K−II/λカラゲナン組成物は、陽性の(すなわち、感染した)動物の数を顕著に低下させ、メチルセルロースは、PBS(対照)と比較した場合、効果を示さなかったことを示している。また、データは、K−II/λカラゲナン組成物は、HIVが膣空間から離れるのを阻止するのに有効であったことも示している。
【実施例8】
【0082】
[細胞の移動/マウス系]
HIVの性感染は、精液中のHIVに感染した、生殖器の上皮を横断するリンパ球またはマクロファージにより媒介され得ることが以前に示唆されている26、27。単核血液細胞が膣空間からインタクトな上皮を通って移動するという仮説を試験するために、二重生体染色した活性化された単核血液細胞(マウス)を、マウスの膣内に置いた。4時間後に、動物を屠殺し、腸骨および鼠径部のリンパ節、ならびに脾臓を取り出し、細胞を、解離し、蛍光顕微鏡により数えた。多数の二重染色細胞を、腸骨および鼠径部のリンパ節、ならびに脾臓において観察した28、XX。K−II/λカラゲナン組成物が、このプロセスの遮断に対して示し得る作用を評価するために、試験製剤を用いて動物を前処理してから、標識した細胞を滴下注入した。
【表4】
【0083】
ドナーの細胞は、腸骨および鼠径部のリンパ節中にも、脾臓中にも存在した。マウスに、マクロファージの膣接種のみを与えた場合、レシピエント動物は、平均して、流入領域リンパ節中には55個の標識したドナーの細胞を、脾臓中には558個の細胞をそれぞれ有した。K−II/λカラゲナン組成物(上記の表には、「K−II/λカラゲナン」と示す)の膣事前接種を与えたマウスにおいては、流入領域リンパ節中には、平均してわずか4つの細胞が数えられ、脾臓中には、平均してわずか28個を観察したに過ぎない。未処理動物と、K−II/λカラゲナン組成物により処理した動物との間の差は顕著であった。レシピエントを、メチルセルロースを用いて事前接種した場合、リンパ節および脾臓に達したドナーの細胞の数は、平均して、リンパ節中では26個および脾臓中では153個であった。K−II/λカラゲナン組成物により処理したマウスと、メチルセルロースにより処理したマウスとの間の差は顕著であり、一方、未処理マウスと、メチルセルロースを事前接種したマウスとの間の差は顕著ではなかった。凍結解凍したCMTMR染色マクロファージを接種されていた対照マウスにおいては、蛍光を発する細胞を観察しなかった。
【実施例9】
【0084】
[パピローマウイルスに対する殺菌剤としての効果]
また、K−II/λカラゲナン組成物は、in vitroにおいてウシパピローマウイルス(BPV)の病巣形成の遮断に対して有効であることも証明されている(データ未公開)。K−II/λカラゲナン組成物は、異種移植系において、ヒトパピローマウイルス(HPV)がヒト膣外植片を形質転換させるのを阻止するのに効能を示す。SKIDマウス異種移植系は、円柱状のチューブに巻いたヒト膣組織の外植片を利用し、これらの外植片を、NOD/SKID(免疫不全の)マウスの皮下にグラフトする29。移植片を2週間治癒させ、この時点で、チューブの1つの末端を開け、試験化合物を滴下注入し、続いて、HPV接種を行う。K−II/λカラゲナン組成物を評価する実験では、14個の生理食塩水を用いて処理した対照外植片のうちの14個が、形質転換した。対照的に、17個のK−II/λカラゲナン組成物を用いて処理した外植片のうちのわずか1個のみが形質転換した(データ未公開)。
【実施例10】
【0085】
[希釈アッセイにおけるK/λカラゲナン混合物の効果]
また、K/λカラゲナン混合物は、HSV−2マウス系において実証されたように、高い希釈度でも有効である。3%のK−II/λカラゲナン組成物をPBS中に希釈して、1:1、1:5、1:25、1:50、1:100および1:200の希釈度を得た。マウスに、希釈した溶液を、続いて、104(100%感染用量)のHSV−2を膣投与した。これらの実験からの結果は予想外である。抗ウイルス保護率の用量依存性の減少を観察する代わりに、1:50のK−II/λカラゲナン組成物の希釈度は、希釈度のより低い溶液と同様に、抗ウイルス保護率のうちのほとんどを保持した。さらに、顕著な活性が、1:200の溶液に関してさえ保持された。図11を参照されたい。
【実施例11】
【0086】
[K−II/λカラゲナン組成物に基づいた製剤のHIVに対する効果]
本発明のカラゲナンに添加するまたは結合させると、in vitroにおいてPBMCのHIV感染を遮断する有効性が顕著に増加する化合物が同定されている。Zn−カラゲナンおよびLSA−カラゲナンの、PBMCのHIV感染の遮断に対する有効性に関する研究は、両方の製剤が、カラゲナンを単独で含有する組成物よりも低い濃度で有効であることを示している。試験結果を、図3に示す。
【実施例12】
【0087】
[LSA−カラゲナンのHSV−2に対する効果]
結果は、LSA−カラゲナンは、HIV感染の遮断において、カラゲナンよりも効能を示すことを示している。(図4を参照されたい。)当初は、LSAは、茶色に着色するという事実に起因して、殺菌剤のための理想的な候補化合物であるようには思えなかった。しかし、0.25%の濃度のLSAは極めて有効であり、製剤化されるとわずかな着色しかもたらさないことが見出された。LSAが変色をもたらさないことを確かめるために、白色の綿織物を、3%LSA中に一晩浸漬し、次いで、水道水を用いて濯いだ。結果から、織物の色には変化がないことが明らかになった。in vivoにおけるウイルス性感染の遮断における有効性を決定するために、LSA−カラゲナンを、HSV−2/マウス系において、カラゲナンと比較した。予備的な結果は、ウイルス性感染の遮断において、LSA−カラゲナンがカラゲナンよりも効能を示すことを示した。
【0088】
上記に提示した結果に加えて、3つの別個の実験において、LSA−カラゲナンを、K−II/λカラゲナン組成物単独と、106pfuのウイルス接種用量で比較した。全ての実験において、LSA−カラゲナンは、K−II/λカラゲナン組成物単独よりも顕著に有効であった。他の硫酸化高分子を、K−II/λカラゲナン組成物に添加しても、製剤の有効性は増加しなかった。例えば、5%デキストラン硫酸または5%ヘパリンを、K−II/λカラゲナン組成物に添加しても、マウスにおけるHSV−2感染に対する有効性に関して効果を示さなかった。
【0089】
LSAを有するおよびLSAを有さない、K−II/λカラゲナン組成物(下記の3つの表では、「カラゲナン」と呼ぶ)製剤の評価
【0090】
HSV−2の106pfuのウイルス用量は、全ての未保護のマウスを感染させるであろうウイルス用量の100倍に相当する。カラゲナンは、ウイルス性感染を阻害するのに極めて有効であることから、そのような高い用量のウイルスを使用することが必要になる。
【0091】
各製剤を、総数20匹のマウスにおいて最初に試験する。遮断効果を示す化合物または製剤を、別の20匹のマウスにおいて再びアッセイする。感染したマウスの数は、平均である。
【表5】
【0092】
ウイルス用量は、100%感染率の100倍であり、3%カラゲナン以外の化合物は、そのような高いウイルス用量では効果を示さない。
【0093】
それに続いて、LSAの阻害特性をより良好に評価するために、カラゲナンを有さないLSAをアッセイした。LSAを、不活性な増粘剤であるメチルセルロースに添加して、膣用製品(潤滑剤、殺精子剤および殺菌剤)が一般に有するのと同じ粘度を維持した。(データを、下記に示す。)
【表6】
【0094】
LSAは、カラゲナンよりも良好なHSV−2感染の遮断を示し、カラゲナンよりも有効であることが証明された。しかし、2つの成分の組合せは、いずれか1つの単独よりも優っていた。
【実施例13】
【0095】
[殺菌剤中でのLSAの使用]
LSAは、カラゲナンを含んでいてもまたはカラゲナンを含んでいなくても、HSV−2感染、HIVおよび他のSTIに対する殺菌剤として有効である。硫酸化高分子であるLSAは、in vitroにおいてHIV感染から上皮細胞を、およびHSV−2感染からマウスを保護するのに有効である。阻害作用は、他のエンベロープウイルス、例えば、ヒト病原体であるヒトT細胞白血病ウイルスについて観察することができる。さらに、上皮細胞を、エンベロープウイルスではないヒトパピローマウイルスからも保護する。したがって、LSAが阻害性の効能を示すことは、より広い範囲のSTIに及び得る。試験結果を、図5に示す。
【実施例14】
【0096】
[Zn−カラゲナンのHSV−2に対する効果]
Zn−カラゲナンのHSV−2感染に対する有効性に関する研究を、in vitroおよびin vivoにおいて実施した。in vitroにおける研究では、HSV−2のプラークアッセイにおいて、Zn塩単独の、プラーク形成の阻止における効果をアッセイした41。Zn塩は、プラーク形成の低下におけるIC50を50mMの濃度で示すことが見出された。Zn−カラゲナンは、プラーク形成の阻止において、カラゲナンまたはZn塩の単独よりも顕著に有効であり、すなわち、IC50は、10μg/mL未満または25mM未満であることが観察された。試験結果を、図6に示す。
【0097】
また、Zn−カラゲナンを、HSV−2/マウス系においても評価した(図7を参照されたい)。Zn−カラゲナンを、OTC殺精子剤K−Y PlusおよびK−II/λカラゲナン組成物と比較するために、また、103pfuまたは50%感染用量〜107pfuまたは1,000×100%感染用量の範囲に及ぶHSV−2ウイルス接種用量も使用した。出願人らは、K−II/λカラゲナン組成物は、106pfuまたは100×100%感染用量のウイルス接種用量において、いくつかの動物を保護することができることを決定していた。試験した他の候補殺菌剤は、このウイルス用量では保護をもたらすことができなかった。予備的な研究では、Zn−カラゲナンは、この用量でも、107または1,000×100%感染用量のウイルス接種用量でも、マウスをHSV−2感染から顕著に保護することが観察されている。(錯体を形成するための)ZnのK−II/λカラゲナン組成物への添加により抗ウイルス性の保護のレベルが増加するという事実は、最も予想外のことであった。
【実施例15】
【0098】
[Zn−カラゲナンの活性の持続期間]
K−II/λカラゲナン組成物は、マウス膣内において長期間にわたり活性な状態を維持する。類似の実験を実施して、活性の持続期間について、Zn−カラゲナンを、2つのOTC殺精子剤、Advantage SおよびConceptrolと比較した。Zn−カラゲナンは、6時間経っても活性レベルは全く喪失せず、一方、Advantage SおよびConceptrolは、1.5時間で活性の50%の低下を示し、3時間までに保護をもたらすことができなくなることを観察した(図8を参照されたい)。
【実施例16】
【0099】
[ウイルス接種後のZn−カラゲナンの有効性]
ウイルスに対する曝露後に投与する場合であっても有効であり得る殺菌剤であれば、製品の使用が広がって、性交がすでに生じてしまった後になってようやく製品を使用することができる女性、例えば、強姦の犠牲になった女性も包含されるであろう。これまでに、研究者らは、そのような保護をもたらすことができるであろう殺菌剤を同定することができないでいた。Zn−カラゲナンは、マウスにおいて、ウイルス接種後に、HSV−2感染からの保護をもたらすことができる。下記のデータが実証するように、Zn−カラゲナンは、ウイルスに対する曝露後、最高4時間にわたり活性を示したという点で際立つ(図9を参照されたい)。この知見は、HSV−2による接種の直後に投与しない限り、K−II/λカラゲナン組成物がウイルス接種後の感染を予防しなかったという出願人らの観察に照らして目覚しい。
【実施例17】
【0100】
[二重の保護のための避妊殺菌剤]
K−II/λカラゲナン組成物は、最高24時間にわたり膣内に留まって、HIVからの保護のための1日1回の適用、および避妊ホルモンのための膣送達システムとしてのその使用を可能にする。種々のステロイドの膣送達の実現可能性が、避妊膣リングの最近の開発に伴って徹底的に検討されている43。膣粘膜に直接適用されたステロイドは、素早く吸収され、所望の避妊効果を達成するのに、非常に低い用量を必要とするに過ぎないことが示されている48−52。さらに、膣送達には通常、経口避妊剤としばしば関連がある望ましくない副作用の減少が伴う。
【0101】
本発明の膣用製剤は、殺菌剤/避妊剤の組合せとして、二重の保護をもたらし、この組合せは、服薬遵守についての使用者の動機を増強するさらなる利点も有する。避妊ホルモンであるNESが、好ましい避妊剤である。この合成プロゲスチンは、際立って強力な分子であることが示されている。プロゲステロンの効力を測定する古典的なバイオアッセイを使用して、NESは、プロゲステロンよりも100倍活性であることが証明されており、黄体の活性を抑制するのに、非常に低い分量のNESを必要とするに過ぎない。さらに、広範なNESの毒物学の研究も実施されている。
【実施例18】
【0102】
[K/λカラゲナン混合物からのNESの拡散]
K−II/λカラゲナン組成物およびNESを含有する製剤(以下「CARRA/NES」)が、有効な避妊剤であるためには、NESが、カラゲナンから放出され、膣を通して吸収されることが不可欠である。本発明者らは、in vitroにおけるアッセイを実施して、NESがCARRA/NESから放出されるかどうかを決定した。
【0103】
本発明者らは、NESの、1000の分子量カットオフを有する透析膜を通る拡散を調べた。NESの分子量は370である。NESは、HPLCにより測定した場合、透析バッグから一定速度で拡散した。結果を、図10に示す。これらの結果は、NESは、カラゲナンに結合しないことを実証している。しかし、透析膜を通して観察された拡散速度は、ヒト膣内で観察されるであろう拡散速度とは関連がない可能性がある。これは、拡散速度は、透析バッグの表面積に依存したことによる。膣内の条件は、異なるであろう。
【0104】
本発明者らは、また、CARRA/NESの、Ultrafree−15の遠心フィルターおよび管アセンブリを通す、2000gにおける99分間の遠心分離が関与する実験も実施して、放出されたNESのパーセントを計算した。遠心分離機のフィルターは、遠心分離管内にはまるデバイスである。このデバイスは、500未満のMWを有する分子を通り抜けさせる、自由に動くフィルターを底部に有する。このデバイスを使用して、添加したNESの98%超を、ろ液中に回収した。この実験により、NESは、カラゲナンに結合しないことが確認される。
【実施例19】
【0105】
[CARRA/NES(放出速度)]
CARRA/NES
NESの溶液を、濃度を増加させて、K−II/λカラゲナン組成物中に製剤化して、これら2つの化合物の適合性を確立した。K−II/λカラゲナン組成物中の500μg/mLの濃度のNESが、pH、粘度、均一性および目で見る外観により測定した場合、レオロジー特性を保持し、HSV−2/マウスによるアッセイにより測定した場合、強度の保持を示した。NESのこの濃度は、100pg/mLの高用量製剤に必要であることが予測される濃度の40倍を超える。
【0106】
CARRA/NESからのNESの拡散を、2つの異なる方法、すなわち、膜透析およびUltrafree−15遠心分離により検討した。膜透析実験では、膜のカットオフは1,000であり、NESの拡散を、HPLCにより測定した。結果は、NESは、負に荷電したカラゲナンに結合せず、透析膜を通る拡散速度は、in vivoにおける全身性の吸収とは異なるが、拡散は時間依存性の様式で発生することを示している。Ultrafree−15遠心分離の実験では、<500のMWの分子を通過させる、Millipore製Ultrafree−15の遠心フィルターおよび管アセンブリを利用した。NESのMWは370である。この技法の使用により、98.6%のNESが回収されることが実証された。
【実施例20】
【0107】
[Zn/カラゲナン/MIV−150]
本発明の最も好ましいカラゲナンの、水溶性金属としての酢酸亜鉛およびNNRTIとしてのMIV−150と併せた組合せを、組合せ、すなわち、亜鉛/カラゲナン(PC−707)、MIV−150/カラゲナン(PC−815)、ならびにカラゲナン(Carraguard(登録商標))と比較した。特に、これらのジェル剤のそれぞれの最後の用量の8時間または24時間後に、SHIV−RTを用いて動物に接種した場合、PC−707およびPC−815はそれぞれ、膣のSHIV−RT感染を、Carraguard(登録商標)とほぼ同じレベルで遮断し(0.05超のp値を示した)、同時に、両方の時点で、PC−1005は、膣のSHIV−RT感染を、これらの化合物よりも良好に遮断した(0.03未満のp値を示した)。したがって、PC−707およびPC−815は、膣のSHIV−RT感染を最高24時間にわたりある程度遮断するが、酢酸亜鉛とカラゲナンとMIV−150との組合せが、膣のSHIV−RT感染を最高24時間にわたり完全に遮断することは予測できなかった。
【0108】
実験手順を、以下に従って実施した。
700mLのガラス製混合瓶に、1.5グラムの酢酸亜鉛二水和物、15.0グラムのカラゲナン(この場合、95%ラムダカラゲナンおよび5%カッパカラゲナン)、ならびに300.3グラムの滅菌精製水を加えた。内容物を、オーバーヘッドスターラーを用いて、周囲温度、300rpmで3時間混合した。別個に、250mlの三角フラスコに、1.0グラムのメチルパラベンおよび150.9グラムの滅菌精製水を加えた。三角フラスコを、撹拌しながら、60℃に加熱して、透明な溶液を得、フラスコの内容物を、700mlの混合瓶中に含有されている亜鉛−カラゲナンと水との混合物に直ちに添加した。混合物を、周囲温度で2時間撹拌し、この時点で、18.5mgのMIV−150を10mLのジメチルスルホキシド中に溶解させることによって調製したMIV−150/DMSOの保存液5mLを、700mLの混合瓶の内容物に添加した。次いで、この混合物を、周囲温度、300rpmで35分間撹拌し、次いで、26グラムの滅菌精製水を混合瓶に添加し、内容物を周囲温度で30分間撹拌した。
【0109】
マカクザルに、デポ−プロベラ(Depo−Provera)を注射し、3週間後に、1日当たり2mLの上記に従って調製したジェル剤を2週間投与してから、最後のジェル剤の適用後の指定した時間に、1,000TClD50のSHIV−RTを用いて動物に接種した。下記の表1に記載する感染動物の数は、典型的なウイルス血症(血漿中のSIV RNAのコピー)を伴う数を反映する。
【表7】
【0110】
[参考文献]
【表8A】
【表8B】
【表8C】
【表8D】
【表8E】
【表8F】
【0111】
本明細書では、本発明を、特定の実施形態を参照して記載してきたが、これらの実施形態は、本発明の原理および適用例の単なる例示に過ぎないことを理解されたい。したがって、多数の改変を、例示的な実施形態に対して行うができ、他の配置を、添付の特許請求の範囲により定義する本発明の精神および範囲から逸脱することなく考案することができることを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、とりわけ、ヒトに関する抗菌性の阻害の延長のために、好ましくは、女性のために、膣投与により活用することができる抗菌性組成物を提供する。したがって、それらの組成物は、性感染症の伝染を阻害するのにとりわけ有用である。
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国仮特許出願第60/376,400号(2002年4月30日出願)および米国仮特許出願第60/377,050号(2002年5月1日出願)の出願日の利益を主張する国際出願第PCT/US03/13456号(2003年4月30日出願)の継続出願である米国特許出願第10/977,001号(2004年10月29日出願)の部分継続出願である出願第12/587,405号(2009年10月6日出願、表題UNIQUE COMBINATIONS OF ANTIMICROBIAL COMPOSITIONS)の利益を主張しており、これらの出願開示は、参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
カラゲナンは、海藻として一般に知られている紅藻類から得られた多糖である。カラゲナンは、海藻の構成成分であり、3つの主要なタイプ、すなわち、イオタ、カッパおよびラムダとして抽出されるが、カッパ−IIカラゲナン、ミューカラゲナンおよびニューカラゲナンを包含する他のタイプもある。カラゲナンは、食品業界、医薬品業界および化粧品業界において、増粘剤、ゲル化剤、ならびに安定化剤および分散化剤として広範に使用されている。広範な薬理学的および毒物学的な研究が実施されている。カラゲナンは、経口、経皮および吸入の投与経路によって、極めて高い用量であっても無毒性であることが見出されている。したがって、カラゲナンは、1972年にFDAにより「一般に安全と認められる」(GRAS)物質として分類された2。ブタ、ラット、マウス、スナネズミ、モルモット、ケナガイタチ、ハムスター、イヌおよびサルにおいて実施されたさらなる広範な経口薬物動態学的研究3−11は、消化管におけるカラゲナンの分解はあってもごくわずかであり、吸収は事実上存在しないことを示した。
【0003】
国際特許公開WO94/15624は、HIVの細胞間伝播、したがって、後天性免疫不全症候群(AIDS)の性感染、およびクラミジア生物体を阻害するための、硫酸化多糖、例として、イオタカラゲナン、デキストラン硫酸、カッパカラゲナン、ラムダカラゲナン、ヘパリン模倣物質、ヘパラン硫酸、ペントサンポリサルフェート、コンドロイチン硫酸、レンチナン硫酸、カードラン硫酸、脱N−硫酸化ヘパリンおよびフコイダンの使用を教示している。この公開は、イオタカラゲナンが、市販されている硫酸化カラゲナンのうち、in vitroおよびin vivoにおけるHIV感染の予防およびクラミジア感染の遮断において最も効能を示すことを教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人らは、特定のカラゲナン、または種々のカラゲナンの混合物もしくは組合せが、特定の物理学的および化学的な特性を示し、それらのカラゲナンを膣投与用に製剤化すると、それらが抗菌作用の延長をもたらし、性感染症(STI)の伝染の可能性を阻害するか低下させることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明の第1の態様は、カラゲナン(本明細書では「カラゲナン」または「カラゲナン混合物」と呼ぶ)を含む有効量の抗菌剤と、生理学的に許容可能なpH調整剤とを含む水性抗菌性組成物であって、前記カラゲナンが、前記カラゲナンの乾燥重量にの少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンである水性抗菌性組成物を対象とする。本発明の目的のため、用語「抗菌性」は、抗細菌活性および/または抗ウイルス活性を包含することが意図される。
【0006】
本発明の関連する態様は、カラゲナンを含む有効量の抗菌剤と、生理学的に許容可能なpH調整剤とを含む性感染症(STI)阻害組成物であって、前記カラゲナンが、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンである組成物を対象とする。
【0007】
本組成物は、別の抗菌剤および/または膣投与可能な薬物をさらに包含することができ、この場合、カラゲナン成分は、非ラムダカラゲナンを含まないラムダカラゲナンであってよい。追加の薬剤は、カラゲナンと混合および/または会合させてもよく、例えば、錯体の形態であってもよい。したがって、本発明のさらなる態様は、(a)生理学的に許容可能なpH調整剤、および(b)ラムダカラゲナン、またはカラゲナンであって、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンと、抗菌性の生理学的に許容可能な水溶性カチオン性金属塩との錯体を含む有効量の抗菌剤を含む水性抗菌性組成物を対象とする。
【0008】
本発明のさらなる態様は、(a)生理学的に許容可能なpH調整剤、(b)ラムダカラゲナン、またはカラゲナンであって、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量がラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンの錯体を含む有効量の抗菌剤、および(c)リグノスルホン酸を含む水性抗菌性組成物を対象とする。
【0009】
本発明のさらなる態様は、(a)生理学的に許容可能なpH調整剤、(b)ラムダカラゲナン、またはカラゲナンであって、前記カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量がラムダカラゲナンであり、前記カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンの錯体を含む有効量の抗菌剤、および(c)膣投与可能な薬物、例えば、避妊剤またはホルモン補充療法のための薬剤を含む水性抗菌性組成物を対象とする。
【0010】
本発明のさらなる態様は、ポリアニオン性の殺菌剤、例えば、カラゲナンを含む有効量の抗菌剤と、生理学的に許容可能な水溶性カチオン性金属塩と、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤またはヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤とを含む水性抗菌性組成物であって、カラゲナンが、カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、カラゲナンの残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンである水性抗菌性組成物を対象とする。
【0011】
本発明のさらなる態様は、本発明のカラゲナンを加工し、改良し、または安定化させる方法を対象とする。この方法は、無水形態または粉末形態のラムダカラゲナンまたはカラゲナンと、乾燥形態のpH調整剤とを混合し、続いて、カラゲナンを、例えば、水または別の水溶液の添加により水和させるステップを伴う。この方法は、高濃度のカラゲナンを均質な水溶液に加工するための現在の技法に関連するいくつかの欠点を克服し、医薬製剤、例えば、上記の組成物および錯体へのさらなる加工を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のカラゲナンを含有する組成物の長期の活性を示すグラフである。マウスを、組成物の適用後に、HSV−2の95〜100%の感染用量で、種々の時間間隔で接種した。組成物は、24時間後でさえ、HSV−2に対してある程度の活性を保持する。このことは、組成物の使用と性交との間で相当な時間が経過する場合であってさえも、女性を保護し得ることを示唆する。
【図2】脾臓から抽出したRNA由来のRT PCR産物のサザンブロットハイブリダイゼーションを示す図である。レーン2およびレーン3は陽性対照である。レーン4〜8は、ウイルス接種の5分前に本発明のカラゲナンを含有する組成物を用いて前処理したマウスに由来する。レーン9〜14は、HIVを膣接種したマウスに由来する。
【図3】本発明のカラゲナンを含有する組成物、カラゲナンと水溶性亜鉛塩との錯体(「亜鉛−カラゲナン」)、およびリグノスルホン酸(LSA)を含有する別の本発明の組成物の濃度に対するp24(HIV)の濃度を示す棒グラフである。
【図4】HSV−2/マウス系における、カラゲナンおよびLSAを含有する本発明の組成物と、カラゲナンを含有する本発明の組成物との比較を示すグラフである。結果は、LSAおよびカラゲナンを含有する組成物が、カラゲナンを単独で含有する組成物よりも効能を示すことを示す。
【図5】p24のELISAにより測定した場合の、ウイルス複製のLSAによる阻害率を示すプロットである。
【図6】ベロ細胞中でのHSV−2のプラーク形成の阻止における、本発明のカラゲナンを含有する組成物、および亜鉛−カラゲナンを含有する別の本発明の組成物の有効性を、用量の関数として示すグラフである。
【図7】膣接種後のHSV−2感染からのマウスの保護における、本発明のカラゲナンを含有する組成物、および亜鉛−カラゲナンを含有する別の本発明の組成物の有効性を示すグラフである。
【図8】HSV−2の104または100%感染用量のウイルス接種用量にて、2つの公知の製品、すなわちConceptrolおよびAdvantage Sと比べた、亜鉛−カラゲナンを含有する本発明の組成物の長期の活性の比較を示すグラフである。
【図9】本発明のカラゲナンを含有する組成物、および亜鉛−カラゲナンを含有する別の本発明の組成物によるウイルス接種からの保護を示すグラフである。
【図10】本発明のカラゲナンを含有する組成物から放出されたNestoroneの量を示すグラフである。
【図11】HSV−2感染からのマウスの保護における、種々の希釈度の本発明のカラゲナン組成物の有効性の比較を示す棒グラフである。結果は、カラゲナンを1:200に希釈した場合でさえ、カラゲナンは依然として、感染からの40%の保護をもたらすことができたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組成物中で使用するポリアニオン性殺菌剤は、ウイルスの付着を妨げ、結果として、粘膜表面からのHIVの伝播を低下させる殺菌剤である。これらのポリアニオン性殺菌剤として、PRO2000、Buffergel、デキストラン硫酸、セルロース硫酸等の化合物、最も好ましくは、カラゲナンが挙げられる。
【0014】
本発明の組成物中に存在するカラゲナンは、ラムダカラゲナンを包含する。非ラムダカラゲナンが存在する限りにおいて(この場合、組成物のカラゲナン成分を、「カラゲナン」または「カラゲナン混合物」と呼ぶことがある)、カラゲナン混合物は、組成物中のカラゲナンの総乾燥重量の少なくとも約50%(好ましくは、少なくとも50%)のラムダカラゲナンを含有する。より好ましい実施形態では、ラムダカラゲナンの量は、カラゲナン(すなわち、ラムダカラゲナンおよび非ラムダカラゲナン)の総乾燥重量の少なくとも約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%である。他の好ましい量は、少なくとも75%、少なくとも約85%、少なくとも約95%、約85〜約99%および約94%〜約97%のラムダカラゲナンである。
【0015】
ラムダカラゲナンは市販されている(FMC Corp.、Philadelphia)。あるいは、ラムダカラゲナンは、二倍体(胞子体)の海藻植物、例えば、Gigartina radula、Gigartina skottsbergii、Gigartina chamissoi、Gigartina stellata、Iridaea cordata、Chondrus chrispusおよびSarcothalia crispataから生成することができる。海藻からのカラゲナンの単離は、標準的な技法に従って実施する。例えば、海藻を、分離し、清浄し、次いで、乾燥する。ラムダカラゲナンを、熱い希水酸化ナトリウム中で抽出して、4%程度の濃度のラムダカラゲナンを含有するペーストを得る。得られたペーストを遠心分離およびろ過により清澄化して、透明なラムダカラゲナン溶液を得る。蒸発、アルコール沈殿または洗浄の任意の組合せにより水を除去し、乾燥する。
【0016】
本発明の組成物中の残りのカラゲナンは、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンを包含し得る。「非ラムダカラゲナン」とは、ラムダカラゲナン以外の任意のカラゲナン、例えば、カッパ−カラゲナン、イオタカラゲナン、カッパ−IIカラゲナン(これは、カッパカラゲナンおよびイオタカラゲナンを含有する)、ミューカラゲナン、ならびにニューカラゲナンを意味する。また、非ラムダカラゲナンも、市販されており(例えば、FMC Corp.)、または標準的な技法に従って海藻から抽出することができる。例えば、カッパ−IIカラゲナンはまた、上記の海藻種中に天然に存在する。好ましい実施形態では、非ラムダカラゲナンは、カッパカラゲナン、イオタカラゲナンおよびカッパ−IIカラゲナン、ならびにそれらの任意の2つ以上の混合物を包含する。より好ましい実施形態では、非ラムダカラゲナンは、カッパ−IIカラゲナンを包含する。好ましい実施形態では、カラゲナンの非ラムダ成分は、カラゲナンの総乾燥重量の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24%未満または約25%を構成する。より好ましい実施形態では、非ラムダ成分は、カラゲナンの総乾燥重量のおよそ、約25%未満、約15%未満、約5%未満、約1%〜約15%、または約3%〜約6%である。他の好ましい実施形態では、カラゲナン混合物には、食品業界で使用されるカラゲナン中に一般に見出される成分であるデキストロースが実質的にまたは全く含まれない。
【0017】
抗菌作用をもたらすためには、ラムダカラゲナンまたはカラゲナンは一般に、組成物の総重量を基準にして約1%〜約5%の量で存在する。好ましい実施形態では、カラゲナンは、組成物の総重量の約3%の量で存在する。「抗菌性」または「抗菌作用」とは、組成物が、細菌、別の微生物またはウイルスにより引き起こされた性感染症の伝染の可能性を阻害するか低下させることを意味する。本発明の組成物は、性感染症からの、例えば、HIV、HPV、HSV−2およびNeisseria gonorrhoeaeによる感染を阻害することによる保護に有用である。他方、用語「抗菌性」および「抗菌作用」は、感染の伝染の阻害を達成する任意の特定の手段を示唆すること、暗示すること、およびそれらに制限されることを意図しない。任意の特定の動作理論に拘束されることを意図しないが、カラゲナンが、STIの病原体であるウイルス、細菌および他の微生物に非特異的に結合し、それによって、受容体部位を遮断すると考えられる。ラムダカラゲナンまたはカラゲナンを1%未満または5%超の量で含有する組成物も、それらが抗菌作用をもたらし、膣の許容性を保持する限り使用することができる。「膣の許容性」とは、レオロジー特性、例えば、組成物の粘度が、組成物をその意図する目的で使用することを可能にすることを意味する(例えば、組成物が粘度を維持し、その結果、使用者が組成物を適用することができ、組成物は膣空間中に保持され得、美的特性を提供することができ、例えば、実質的に無臭、滑らか、清澄、無色および無味であり得る)。粘度は、組成物が膣空間の上皮の内壁をむらなくコートするのが可能になるように選択される。一般に、組成物の粘度は、約10,000〜約50,000cP、好ましくは、約20,000〜約50,000cP、より好ましくは、約30,000〜約50,000cPである。カラゲナンは、連続した分子量を有する。一般に、本発明のカラゲナン混合物は、最高約2×106ダルトンの分子量を有することができ、約1%未満のカラゲナン分子が、1×105ダルトンの平均分子量を有する(ガス浸透クロマトグラフィーおよび光散乱により決定した場合)。より具体的には、本発明におけるラムダカラゲナンは、約600,000〜約1,200,000ダルトンの重量平均分子量を有する。この物理学的特性は、最終的な製剤に非吸収性をもたらし、続いて、こうした非吸収性は、抗菌活性の延長をもたらす。
【0018】
また、カラゲナン以外の、本発明の組成物中で使用することができる他のポリアニオン性殺菌剤の中には、PRO2000がある。この殺菌剤は、HIVを阻止するための膣用殺菌剤である。さらに、他のそのようなポリアニオン性殺菌剤は、Buffergelも包含し、これは、緩衝活性をもたらして、精液の存在下で膣の保護的な弱酸性を維持する殺菌性殺精子剤である。さらに、細胞表面においてHIVの侵入を遮断するポリアニオンであるデキストラン硫酸を活用することもでき、セルロース硫酸も、そのために活用することができる。
【0019】
組成物は、生理学的に許容可能なpH調整剤、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をさらに含有する。pH調整剤は、組成物のpHを(例えば、約3.5〜約8.5、好ましくは、約5.8〜約7.2、例えば、約6.8〜7.2のレベルに)安定化させることに加えて、pHが顕著に変化する場合がある体内に組成物が導入されると、組成物中の変化のうちのいずれの変化も阻止または低下させる。膣のpHは、3.5〜5.5の間の範囲に及ぶことができる。したがって、pH調整剤の存在により、カラゲナンの抗菌作用が延長する。組成物は、約0.001%〜約1.0%のpH調整剤を包含する。組成物の製剤は、(後述するような)意図する用途に応じて、他の活性な薬剤および/または不活性な成分をさらに含有することができる。
【0020】
本発明のカラゲナンは、いくつかの他の利益をもたらす。それらは、凍結温度、周囲温度または沸騰温度に曝されても、安定な状態を維持する。混合物は、ヒトの膣環境に適合する。任意の特定の動作理論により拘束されることを意図していないが、カラゲナンは、ヒトの膣環境に適合し、基質として作用することも、それ以外に、天然の膣の菌叢の成長を引き起こしたり刺激したりすることもなく、毒性を示すこともなく、結果として、膣内の天然の菌叢のバランスを混乱させることはないと考えられる。本発明のカラゲナンに帰するこの特性とは別に、それらの抗菌活性は、ある期間にわたって延長する。これは、カラゲナンは、全身に吸収されないため、またはヒトに有害な吸収性の任意の副産物に分解されないためである。
【0021】
本発明の別の態様は、水溶性金属塩とカラゲナンとの間の錯体を対象とする。好ましい実施形態では、金属塩は、亜鉛塩である(この抗菌性組成物を、「亜鉛カラゲネート(zinc carrageenate)」と呼ぶ)。亜鉛は、HIVおよびHSV−2等の性感染症の病原体の阻害剤である。酢酸亜鉛および硫酸亜鉛が、細胞培養物におけるHIV感染、ならびに細胞培養物および実験動物の両方におけるHSV−2を阻害することが示されている。亜鉛塩は、in vitroにおけるHIV39、口蹄疫ウイルス、ヒトライノウイルス、インフルエンザAおよびB、セムリキ森林ウイルス、ならびにシンドビスウイルス40による感染を遮断するのに有効であることが示されている。Haraguchiら39は、p24のELISAおよびRTによりアッセイした場合、塩化亜鉛、酢酸カドミウムおよび塩化水銀が、HIV−1の産生を阻害することを見出した。塩化亜鉛は、550μg/mL以下の濃度で存在する場合には、顕著な細胞傷害性は示さなかった。
【0022】
本発明に有用な水溶性の亜鉛塩は、本発明に従って使用した場合、許容できない刺激性を引き起こすことなく、抗菌特性を示す無機塩および有機塩の両方を包含する。好ましい水溶性の亜鉛塩は、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酪酸亜鉛、ギ酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、グリセリン酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛および臭化亜鉛を包含する。ZnSO4、ZnCl2、ZnBr2、Zn(Ac)2等。また、銅および銀の対応する塩も、in vivoにおいて非刺激性であり、ヒトに有害な吸収性の任意の副産物への分解を引き起こさないならば、本発明に有用である。したがって、本発明の組成物は、約0.03%から1.5%、好ましくは、約0.3%〜1.0%の水溶性金属塩を包含する。組成物の抗菌活性は、カラゲナンを唯一の抗菌剤として含有する製剤よりも高い。特定の亜鉛塩を用いる本発明の実施形態では、抗菌活性が著しく増加する。任意の特定の動作理論に拘束されることを意図していないが、金属塩が身体に吸収される速度が比較的制御されることから、製剤の抗菌活性は増強され、同時に、金属塩の刺激性が低下すると考えられる。
【0023】
本発明の錯体を、標準的なプロセスにより調製することができ、それにより、金属イオンが、多糖の骨格上に天然に存在するカチオンにとって代わる。例えば、亜鉛カラゲナン(これは、亜鉛のカチオンと本発明のカラゲナンとの間の錯体を指す)は、亜鉛(II)をカラゲナンの硫酸基に非共有結合させる手順により合成した化合物である。カラゲナンは、直鎖状に並ぶD−ガラクトースと3,6−アンヒドロD−ガラクトースとの反復単位からなる多糖である。この高分子は、高度に硫酸化しており、各二糖単位当たり3つのSO3基を有する。亜鉛のカラゲナンへの結合は、亜鉛が、未変性のカラゲナンに結合しているナトリウムにとって代わるように開発された化学的プロセスにより達成される。溶解性が高い亜鉛塩(例えば、酢酸亜鉛)の水溶液を、このプロセスでは、亜鉛のカチオンの供給源として使用する。カラゲナンを酢酸亜鉛の濃縮溶液に対して透析して、正に荷電した亜鉛イオンが、拡散して負のカラゲナンの硫酸基と錯体を形成するのを可能にする。次いで、亜鉛の過剰量を、水に対する透析により除去する。
【0024】
本発明に亜鉛II金属のカチオンとカラゲナンとの錯体を包含させることは、亜鉛IIカラゲネートの使用により達成することができる。亜鉛カラゲネートは、天然のカラゲナンのカチオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム)の、亜鉛のカチオンによる置換によって合成する。亜鉛カラゲネートは伝統的に、カラゲナン溶液を酢酸亜鉛IIの濃縮溶液に対して透析することによって調製される。次いで、過剰量の亜鉛のカチオンを水に対する透析により除去してから、濃縮し、例えば、凍結乾燥する。本発明においては、亜鉛IIカラゲネートの使用により、アニオン、例えば、乳酸または酢酸の使用を回避することができる。
【0025】
別のプロセスでは、(a)カラゲナンを、50:50のアルコール:水の液中の約2.5%乳酸亜鉛(または他の適切な溶解性の亜鉛塩)中に2時間浸漬し、(b)分離し、(c)アルコールを用いて洗浄してから、乾燥する必要がある。カラゲナン中の所望の金属含有量を達成するためには、ステップ(a)から(c)を数回繰り返す必要がある場合がある。当量基準で50%超の亜鉛カラゲナンを達成するためには、2サイクルが通常必要である。
【0026】
上記の手順により、水溶性であり、エンベロープウイルス、例えば、HIVおよびHSV−2に対して活性である化合物が生成する。無機または単純な有機の亜鉛塩とは異なり、亜鉛カラゲナンは、好ましいレオロジー特性を維持し、高い分子量(最高2,000,000Da)を有し、このため亜鉛カラゲナンは非刺激性であり、吸収されない膣用製品に製剤化するのに適している。遊離の金属カチオンに組成物を解離させないようにするまたは解離を妨げる、金属とカラゲナンとの間の分子の相互作用が存在するため、組成物を「錯体」と呼ぶ。この金属塩と負に荷電した硫酸化多糖との錯体は、それらの物理学的特性、化学的特性および/または抗菌特性の観点から、水溶性金属塩とカラゲナンとの混合物とは明確に異なる。
【0027】
本発明の別の態様では、出願人らは、水不溶性の金属塩とカラゲナンとの錯体と、特定の抗レトロウイルス剤との組合せが、予想外の利点および相乗的な特性をもたらすことを発見した。特にとりわけ、この成分の特定の組合せは、性感染症の阻害の観点から、特に、膣のSHIV−RT感染(サル/ヒトの免疫不全ウイルス−逆転写酵素)の遮断において、予想外の結果をもたらすことが見出されている。抗レトロウイルス剤は、レトロウイルス、主として、HIVによる感染の治療のために使用する薬物である。HIVの生活環の異なる段階で作用する多数の異なるクラスの抗レトロウイルス薬があり、抗レトロウイルス薬として、例えば、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、インテグラーゼ阻害剤、融合阻害剤およびCCR5アンタゴニストが挙げられる。
【0028】
NNRTIは、それら自体を逆転写酵素に付着させ、逆転写酵素がRNAをDNAに変換するのを阻止する化合物であり、したがって、HIVの遺伝物質が、細胞の健常な遺伝物質中に取り込まれ得ず、細胞が新しいウイルスを産生するのを阻止することができる。これらとして、ネビラピン、デラビルジン、エファビレンツ、エトラビリン、MIV−150、MIV−160、MIV−170、ダピビリン(dapivirine)(TMC−120)、およびUC−781等の薬物が挙げられる。最も好ましくは、NNRTIは、MIV−150であろう。MIV−150は、Medivirにより抗ウイルス治療剤として使用するために開発されたNNRTIである。MIV−150は、迅速な形成および緩慢な解離速度により特徴付けられる、堅固に結合するHIV−RT酵素阻害剤であり、非常に低い濃度でHIVの化学分離株を不活性化させるのに有効である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、出願人らは、本発明のカラゲナンと、水溶性金属塩、好ましくは、例えば亜鉛と、NNRTI、例えばMIV−150との特定の組合せが、膣のSHIV−RT感染を完全に遮断するのに有効であることを発見した。さらに、この特定の組合せは、カラゲナンと、水溶性金属塩、例えば亜鉛との、もしくはカラゲナンとNNRTIとの個々の組合せ、またはカラゲナン自体よりも顕著に有効であることも見出されている。好ましい実施形態では、本発明のカラゲナンと水溶性金属塩とNNRTIとの組合せは、好ましくは、上記で論じたカラゲナンを包含し、カラゲナンは、カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量のラムダカラゲナンを包含し、カラゲナンの残りは、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであり、最も好ましくは、95%ラムダカラゲナンと5%カッパカラゲナンとの組合せを包含し、全体的な組成物は、1%〜5%のカラゲナン、好ましくは約3%のカラゲナンを包含するジェル剤の剤形である。組成物は、水溶性金属塩を包含し、好ましくは、亜鉛塩を、最も好ましくは、酢酸亜鉛または乳酸亜鉛の形態で含み、全体的な組成物中に約0.1重量%〜1.5重量%の金属、最も好ましくは、約0.3重量%の金属、例えば亜鉛を包含し、NNRTI、最も好ましくは、MIV−150を、NNRTI、例えばMIV−150の5μM〜5,000μM(または0.000185%〜0.185%)、好ましくは、10μM〜250μM(または0.00074%〜0.00925%)の量で、最も好ましくは、約50μM(または0.00185%)のMIV−150を包含する。
【0029】
NRTIは、ウイルスのDNA中に組み込まれて、構築プロセスを止める化合物である。したがって、NRTIにより、新しいウイルスを生み出すことができない不完全なDNAが生じる。NRTIとして、アバカビル、テノフォビルおよびジドブジン等の薬物が挙げられる。
【0030】
出願人らは、NNRTIおよびNRTIは、本発明の組成物中で使用すると、特定の予想外の特性を示すことを見出すに至った。
【0031】
本発明の別の態様では、リグノスルホン酸(「LSA」)をラムダカラゲナンまたはカラゲナンと組み合わせて(本明細書ではLSA−カラゲナンと呼ぶ)、抗菌作用の増強を達成する。LSAは、産業用の安定剤、分散化剤および強化剤として商業的に使用される。また、LSAは、家畜飼料中のばら繊維の供給源、ならびにヒトが消費するための特定の食品の加工における乳化剤および分散化剤としても使用される。LSAは、高等植物の細胞壁中に存在する。細胞壁の繊維は一般に、多糖のセルロースからなり、セルロースは、地球上で最も豊富な多糖である。二次細胞壁は、セルロースに加えて、リグニンと呼ばれる別の非常に豊富な物質を含有し、リグニンは、植物をより堅くする多糖である。木片を、重硫酸カルシウム溶液中で、熱および圧力の下で煮ることによって、リグニンを、亜硫酸パルプ廃液として知られている水溶性のリグノスルホン酸(LSA)の溶液に変換する31、32。LSAは、およそ5000ダルトンの平均分子量を有するモル質量が低い化合物である。リグニンは、多くのランダムなカップリングを有する非常に複雑な天然高分子であるため正確な化学構造は不明であるが、リグニンは、基本単位がコニフェリルアルコールの構造に類似するプロピルベンゼンの構造である、スルホン化された高分子の化学構造を有すると考えられている31。市販されているリグノスルホン酸の有用性は、その分散化特性、結合特性、錯体形成特性および乳化特性に由来する。リグノスルホン酸の芳香環構造が、植物に、微生物からの攻撃に抵抗する能力を付与する。LSAは、in vitroにおいて抗HIV活性を示すことが示されている。
【0032】
カラゲナンおよびLSAを含む製剤は、LSAをカラゲナンに、一般に約20:1〜約1:20のLSA−総カラゲナンの重量比で添加することによって調製することができる。金属塩を含有する組成物の場合と同様に、固体の緩衝塩を、カラゲナンと、通常、約1:1〜約10:1の重量比で混合することができる。次いで、得られた混合物を水溶液中に可溶化する。次いで、カラゲナン−LSAの製剤のpHを、約6.0〜約8.0となるように、酸、例えばHCl、または塩基、例えばNaOHを添加することによって調節することができる。水溶液中のLSAは、褐色から茶色の着色をもたらす。着色の強度は、使用する濃度に比例して増加する。したがって、白色化剤、例えば二酸化チタンを、組成物中に包含させることができる。一般に、白色化剤は、組成物の総重量を基準にして約0.1〜約3.0%の量で存在する。また、白色化剤は、抗菌作用に寄与することもできる。
【0033】
任意の特定の動作理論に拘束されることを意図していないが、LSA自体がいかなる抗ウイルス活性を発揮するかは別として、LSAは、カラゲナンに対して分散化剤としても機能し、カラゲナンを解きほぐし、引き伸ばし、したがって、この物質のより高い密度、およびより高い抗菌効力を生み出すと考えられる。他方、カラゲナンは、LSAがかなり水様性の性質であるためそれ自体としては達成することができない、許容可能な有効な膣への投与に(およびさらには直腸への投与に)必要な好ましいレオロジー特性をもたらす。いくつかの実施形態では、カラゲナンとLSAとの組合せが、性感染症の予防または阻害において相乗的に作用する。
【0034】
また、本発明の組成物は、水性製剤中に、膣投与可能な薬物を、pH調整剤およびラムダカラゲナンまたはカラゲナンと併せて含有することもできる。好ましい薬物は、避妊剤、例えば、Salehら、米国特許第5,972,372号(「Saleh」)に開示されているステロイドホルモンであり、この開示は、参照することにより本明細書の一部をなすものとする。本発明に有用な避妊剤の例として、プロゲスチン、ACTH、アンドロゲン、エストロゲン、ゴナドトロピン、ヒト成長ホルモン、メノトロピン、プロゲステロン、プロゲスチン(例えば、レボノルゲストレル、ノルエチンドロン、3−ケト−デソゲストレルおよびゲストデン)、プロゲストーゲン、ウロフォリトロピン、バソプレシン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。好ましい薬剤として、プロゲステロン系化合物(例えば、ノルエチンドロン酢酸、およびNESTORONE(商標)(「NES」)(すなわち、16−メチレン−17.アルファ.−アセトキシ−19−ノルプレグネン−3,20−ジオン))、ならびにプロゲスチン(例えば、レボノルゲストレル(LNG))が挙げられる。
【0035】
好ましい避妊剤は、Nestorone、すなわち、16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオン(以下「NES」)であり、これは、文献では「ST−1435」と特定されている。プロゲステロンの効力を測定する古典的なバイオアッセイを使用した比較研究では、NESは、プロゲステロンの活性よりも100倍高く、レボノルゲストレルの活性よりも10倍高いプロゲステロン活性を有することが見出された53。したがって、排卵の阻害を達成するのに必要であるNESの量はより少ない。この効力は、アンドロゲン活性、エストロゲン活性および糖質コルチコイド様(肝臓におけるグリコーゲンの蓄積)活性がないこと、ならびに脂質または臨床化学のパラメータに対する作用がないことと相まって、避妊剤中のNESの使用に特別な利点を付与する53−55。しかし、NESは、経口投与すると、迅速な代謝および不活性化を受け、このことから、インプラントまたは膣リングを介して投与する場合に授乳中の女性において使用するのに適していることが示されている56、57。ジェル剤の剤形中でK/λカラゲナン混合物と組み合わせる場合のNESの好ましい送達用量は、1日当たり約75μg〜約100μgであり、これは、およそ200ピコモル/LのNESの血漿レベルに達し、月経の間の良好な出血パターンを達成する。他の好ましい膣投与可能な薬物として、ホルモン補充療法のための薬剤、例えば、エストロゲン系物質(例えば、エチニルエストラジオール)、および他のステロイド系化合物が挙げられる。
【0036】
任意の特定の理論に拘束されることを意図していないが、カラゲナンは、殺菌特性をもたらし、避妊剤またはホルモン補充療法のための薬剤に、徐放性の送達システムも提供する二重の機能を有し、したがって、薬剤の活性を増強すると考えられる。
【0037】
本明細書に記載する組成物はいずれも、少なくとも1つの生理学的に不活性な成分、例えば生理学的に許容可能な保存剤をさらに含有することができる。保存剤として、パラヒドロキシ安息香酸のアルキルエステル、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、ヒダントイン誘導体、パラベン、例えば、メチルパラベン、プロピオン酸塩、トリクロサン、トリカルバニリド(tricarbanilide)、チャノキ油、アルコール、ファルネソール、酢酸ファルネソール、ヘキサクロロフェン、ならびに四級アンモニウム塩、例えば、benzolconjure、亜鉛およびアルミニウムの塩、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、ならびにクロロブタノールが挙げられる。一般に、保存剤は、組成物の総重量を基準にして最大で約0.3%までの量で存在する。保存剤は、製造の間に何らかの事情で導入され得る微生物の成長を阻害することに加えて、一旦組成物が体内に導入されれば、正常な身体の菌叢の存在に起因して、組成物中の活性な薬剤に生じる可能性がある有害な作用も阻止する。このことは、組成物中の活性な薬剤が活性な状態を維持する時間の長さを延長する。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明の組成物、例えば、膣投与可能な薬物を含むまたは含まないカラゲナンを唯一の抗菌剤として含有する組成物、および追加の抗菌剤、例えば、カチオン性金属塩またはLSAを含有する組成物は、膣投与される。また、本発明は、直腸投与も包含する。組成物は適切には、医薬品業界における標準的な技法に従って、例えば、ジェル剤、クリーム剤、泡剤、フィルム剤および坐剤に製剤化することができる。ジェル剤が好ましい。製剤を、好ましくは、性的活動、例えば、性交の前に、通常そのような時期の前の約1時間以内に投与する。カラゲナンに基づいた製剤のヒトにおける適用は、性感染症(STI)、例えば、Neisseria gonorrhoeae、ヒトパピローマウイルス、HSV−2およびHIVの伝染を予防または阻害する。
【0039】
本発明のさらに別の態様は、非吸収性のカラゲナンを改良するための方法を対象とする。製剤は、典型的には、固体の緩衝塩と、ラムダカラゲナンまたはカラゲナン混合物とを、約1:1〜約10:1の重量比で混合することによって調製する。次いで、固体の緩衝塩とカラゲナンとの混合物を、水または水溶液中に可溶化して、製剤を作製する。次いで、この製剤のpHを、約6.0〜約8.0となるように調節する。このことは典型的には、酸、例えばHCl、または塩基、例えばNaOHの添加により達成する。一般に、製剤の粘度は、約20,000〜約100,000CPS、好ましくは、約30,000〜約35,000CPSである。少なくとも1つの生理学的に許容可能な保存剤を、製剤に添加することができる。そのような保存剤の例を、本明細書に開示する。保存剤は、種々の薬局方に示されている比率、特に、約80:1〜約10:1、好ましくは、40:1〜約15:1のカラゲナンに対する重量比で存在し得る。
【0040】
固体の緩衝塩は、酢酸、クエン酸、リン酸および乳酸の固体のアルカリ金属塩を包含する。リン酸の場合、固体のアルカリ金属リン酸塩の緩衝剤は、リン酸の三塩基性および二塩基性のアルカリ塩の、好ましくは無水の形態の固体混合物を包含し、アルカリ金属としてはリウムおよびナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。任意の生理学的に許容可能な緩衝剤を使用することができる。しかし、水溶性の亜鉛塩を活用する場合、リン酸塩はあまり好ましくなく、これらの製剤中では、酢酸、クエン酸および乳酸がより好ましい。好ましい実施形態では、これらの緩衝溶液は、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合物、および乳酸と乳酸ナトリウムとの混合物を含む。
【0041】
任意の特定の動作理論に拘束されることを意図していないが、カラゲナンは、大気に曝されると、極めて吸湿性となる乾燥粉末であると考えられる。乾燥成分中に大気中の水分が取り込まれると、材料の凝集が生じる。その後、材料を基剤水溶液中に導入するときに、この問題が悪化するため、カラゲナンを完全に取り込んで均一な水溶液を得ることができない。また、カラゲナンと少なくとも1つの固体の緩衝塩とを一緒に混合することによって、固体の緩衝塩が、カラゲナンが、大気に曝されると吸収するであろう大気中の水分を吸収し、したがって、カラゲナンの凝集を阻止するかまたは実質的に低下させるとも考えられる。さらに、このプロセスは、カラゲナンの水に対する溶解性を増加させるように働き、pHの安定化を達成するとも考えられる。
【0042】
以下の実施例により、本発明の特定の実施形態をさらに例証することを意図するが、決して本発明を制限する意図はない。
【実施例1】
【0043】
[500リットルのカラゲナンの生産]
ラムダカラゲナンまたはカラゲナン混合物の調製において、(1)製剤成分を、清潔な、乾燥した秤量槽中で個々に秤量すべきであり、(2)成分のプロトコールの重量ではなく、「実際の」重量を、両者間の変動がほんのわずかであったとしても、製造生産日誌に記録すべきであり、(3)人工産物(複数可)または混入物を含有する大容量成分容器はいずれも使用してはならず、こうした容器は、閉じ、密封し、「汚染されている」と印を付け、生産領域から除去すべきであり、(4)プロセス中は、製造が完了し、製剤が品質管理試験に合格するまで、生産バッチを1つの槽から別の槽に移してはならず、(5)生産槽は、製造の間は、閉じた状態を維持して、蒸発に起因する水の喪失を、特に加熱を必要とする任意のステップの間は回避すべきである。
【0044】
さらに、カラゲナンは、固体状態でも、凍結または高圧滅菌を包含する多様な不利な条件下の生産状態でも24カ月間安定であることが証明されている。
【0045】
以下は、ラムダ(λ)カラゲナンとカッパ−II(K−II)カラゲナンとのカラゲナン混合物(K−II/λカラゲナン混合物)を含有する製剤を作製するために使用した手順に関する。100mLの実験室サイズのバッチから始め、15リットルおよび30リットルの実験室バッチにスケールアップして、500リットルのバッチの製造手順に仕上げるK−II/λカラゲナン混合物の調製過程において、バッチ間で一貫性のある所望の製剤を得るのが困難となった。本方法は、驚くべきことに、これらの困難を克服し、バッチ間で一貫性のある質を有するK−II/λカラゲナン混合物の製剤を生産した。
【0046】
(機器)
生産槽であるIKA、EMA9/500AIUTLは、生産の間の溶液の迅速な加熱および冷却を可能にする水ジャケット生産槽である。
【0047】
(成分)
K−II/λカラゲナン混合物、
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)[NaClを120ミリモル/L、KClを2.7ミリモル/L、リン酸塩の緩衝剤(一塩基性リン酸カリウムおよび二塩基性リン酸ナトリウム)を10ミリモル/L含有する](Sigma Aldrich、Saint Louis MO)、
p−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)(Nipa Laboratories、Pontypridd、英国)、
塩酸(HCl)(Merck、Darmstadt、ドイツ)、
精製水(Clean Chemical Sweden AB、Borlange、スウェーデン)。
【0048】
(手順)
(1).以下の分量の成分を秤量する。
【表1】
【0049】
(2).乾燥成分、すなわち、K/λカラゲナン混合物およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を一緒にして注意深くかつ徹底的に混合した。
【0050】
(3).生産槽を検査して、混合チャンバーが清潔であり、乾燥しており、人工産物がなく、底部のバルブが閉じていることを確かめた。
【0051】
(4).生産槽に100.0L(部分I)の精製水を充填し、撹拌を開始した。
タービン、500rpm、およびアンカー、20rpm。水を、3部に分けて添加する。第1部は、メチルパラベンを溶解させるのに十分であった。第2部は、温度を低下させるのに役立ち、カラゲナンの酸加水分解が生じないように、HClを十分に希釈し、一方、十分に低い溶液レベルを維持したため、カラゲナン/PBSの混合物の添加時に、送達ふるいが基剤溶液と接触せず、かつ槽のアクセスハッチよりも低く、そのため過剰な「飛散する」混合物は失わないように、送達ふるいを混合槽中に下げることができた。第3部により、最終濃度を達成した。
【0052】
(5).撹拌を継続し、0.5kgのメチルパラベンおよび0.5kgのHClを添加した。槽のアクセスハッチを閉じ、水を75°〜85℃に加熱した。この温度に達したら、本発明者らは、撹拌を最低限10分間継続して、メチルパラベンを溶解させた。
【0053】
(6).加熱を中断し、250.0kg(部分II)の精製水を添加した。溶液を25°〜30℃に冷却した。水の添加が、冷却プロセスを早めた。成分を次に添加するときに溶液が蒸気を生成しないように、溶液を冷却する必要があった。次の添加のために槽を開ける場合の水の喪失を阻止するほかに、蒸気は、カラゲナン/PBSの混合物の、凝集、および添加において使用したふるいへの固着を引き起こした。
【0054】
(7).アクセスハッチを開け、カラゲナン/PBSの混合物の添加を、開始し、穏やかに振とうしながら、ふるいを通してゆっくり行った。添加はおよそ20分を要した。混合物の添加と同時に、撹拌スピードを、タービン、1200rpm、およびアンカー、20rpmの最大スピードまで増加させた。溶液の粘度が、カラゲナンの添加と共に指数関数的に増加した。撹拌スピードが顕著でない場合、カラゲナンが「防水(hydro−sealed)の」凝集塊を形成し、それらの塊は、決して溶液中に溶解して取り込まれることはなく、それによりバッチが許容できなくなった。(「防水の」凝集塊は、乾燥しているカラゲナンのポケットであり、これらの塊は、部分的に水和しているカラゲナンからなる外側のコーティングで囲まれており、カラゲナンの極めて大きな分子量および柔軟な構造に起因して水が透過できないようになる。)
【0055】
(8).アクセスハッチを閉じ、撹拌を、最大スピード、すなわち、タービン、1200rpm、およびアンカー、20rpmで継続した。134.0kgの精製水(部分III)を添加し、送水線の接続を断ち、バルブを閉じた。溶液を、52%の熱を加えることによって、75°〜80℃に加熱した。さらに、
【0056】
(9).全てのバルブが閉じていることを調べ、槽に400mbarの吸引を適用した。溶液を、吸引下、75°〜80℃、若干低下させたスピード、すなわち、タービン、1100rpm、およびアンカー、20rpmで1.5時間撹拌した。成分の均等な分布および完全な取り込みに必要である溶液の一定の撹拌が、過剰な空気の混入を引き起こした。この空気を、吸引により溶液から引き出した。
【0057】
(10).加熱を止め、撹拌を止め、吸引を止めた。生産槽から試験試料を取り出し、管理試験1番の完全な取り込みおよび均等な分布について試験した。
【0058】
管理試験1番:完全な取り込みおよび均等な分布
およそ90μLの製造過程の混合物を取り出し(大きなオリフィスの200μLピペットの先端を使用して、カラゲナン溶液を取り出すのに役立てた)、500μLエッペンドルフチューブ中の10μLの0.1%メチルブルーTS(1:1、イソプロピルアルコール:dH2O)中に混合した。チューブ中の混合物は、均等な青色に見えるはずである。このことは、K−II/λカラゲナン混合物が、溶液内に均等に分布していることを示す。10μLのこの混合物を用いて、顕微鏡スライドを調製し、カバーガラスを用いて覆い、低倍率(10×)下で眺めた。K−II/λカラゲナン混合物は、大きな紫色の鎖に見えるはずである。このことは、K−II/λカラゲナン混合物が完全に取り込まれており、溶液が「合格」であることを示す。鎖が青色であるかまたは大きな青色の凝集塊が目に見える場合には、K−II/λカラゲナン混合物が完全には取り込まれておらず、溶液は「不合格」である。溶液の加工を、ステップ9番の条件下で継続した。溶液が「合格」するまで、溶液を、30分間隔で再度調べた。
【0059】
(11).管理試験1番について、溶液が「合格」である場合、管理試験2番のpHについて試験する。
【0060】
管理試験2番:pH
試験試料を、試験のために、25℃±2(23℃〜27℃の範囲)に冷却すべきである。pHは、7.0±0.1(6.9〜7.1の範囲)であるはずである。このことは、溶液のpHが一様であり、溶液が「合格」であることを示す。溶液が、許容できるpH範囲(6.9〜7.1)内にない場合には、溶液は「不合格」である。溶液が「不合格」である場合、溶液が「合格」するまで、溶液には、必要に応じて、10%HCl(pHを減少させるため)または1NのNaOH(pHを増加させるため)のいずれかを25mL単位で用いて調節することが必要になる。酸または塩基のいずれかのそれぞれを徐々に添加する度に、pHを再試験する前に、バッチ全体の均等な分布を確実にするために徹底的に撹拌すること(ステップ9番の撹拌および吸引の条件、加熱なし)が必要になる。0.5時間の撹拌/吸引の後に、溶液を再度調べる。溶液が「合格」するまで、このように継続する。
【0061】
(12).管理試験2番について、溶液が「合格」である場合、混合物の冷却を始め、25℃±2°(23℃〜27℃)にする。冷却すると、溶液が濃くなるので、この時点ではOFFである撹拌スピードを増加させる必要がある。初めは、タービン、OFF、およびアンカー、20rpmとして、タービンを20rpm/15mmに増加させ、アンカーを10rpm/30mmに増加させ、タービン、1000rpm、およびアンカー、40rpmで終了する。撹拌を迅速には増加させないことが好ましい。撹拌を迅速に増加させると、空気の混入が生じる可能性がある。空気の混入が生じた場合には、溶液に気泡がなくなるまで、400mbarの吸引を適用する。
【0062】
(13).生産槽から最終試験試料を取り出し、管理試験2番、pHについて再試験し、管理試験3番、粘度について再試験する。
【0063】
管理試験3番:粘度
試験試料を、35℃±2°(33℃〜37℃の範囲)に加熱すべきである。性能を最適化するためには、粘度は、約30,000〜約40,000cPであるべきである。粘度の測定値は、溶液の粘度がPC参照試料およびCCS生産バッチと同様であり、溶液が「合格」であることを示す。溶液が「不合格」である場合、生産槽の上部および底部から試験試料を得、各試料に対して、管理試験2番、pH、および管理試験3番、粘度を実施する。溶液が、依然として「不合格」である場合には、ステップ9番およびステップ12番を繰り返し、管理試験3番、粘度について、溶液を再試験する。溶液が「不合格」である場合、規格外研究に着手して、規格外の生産の供給源を決定するものとする。
【0064】
水を添加して粘度を調節すると、最終生産バッチに不明なパーセント/濃度が生じて、生産バッチが許容できなくなることを発見した。
【0065】
(14).管理試験1番、2番および3番について、溶液が「合格」である場合、この溶液は、許容できる生産のバッチであり、このバッチを加工して、最終管理試験を行うことができる。ろ過バッグを含有する移動チューブを、生産槽の底部のバルブに接続し、製剤を保存容器中に移動させる。アプリケーターに充填する前に、試験試料を微生物学的な試験のために留保する。
【0066】
上記で論じたプロセスにおいて調製した最終的な製剤は、以下の成分を有する。
【表2】
【0067】
最終的な製剤は、HCl溶液、ならびに1:1の比のK3PO4およびNa2HPO4を添加することによって調節した約7.0のpHを有する。
【実施例2】
【0068】
[カラゲナンのHIV感染に対するin vitroでの効果]
PIの研究室を包含するいくつかの研究室により、カラゲナンは、HIVおよび他のエンベロープウイルスを遮断することが示されている15−19。これらの研究では、HIVのいくつかの異なるタイプの標的細胞および標的系統が利用されている。一般に、50%遮断が、数マイクログラム/mLで観察される。この結果は、他の硫酸化多糖、例えば、ヘパリンおよびデキストラン硫酸に類似する。
【実施例3】
【0069】
[膣内のウイルス性感染の研究−HSV−2/マウス]
HSV−2/マウス(Balb/C)系が、殺菌剤の開発に従事するほとんどの研究グループにより広く活用されている。Phillipsが確立した系20−22と他の系との間の重要な差は、ウイルス用量範囲の比較の活用である。他者が殺菌剤の評価のために使用する標準的なウイルス接種用量である100%感染用量または104pfuは、律速的である。開発中の大半の殺菌剤およびOTC殺精子剤のうちの多くが、このウイルス接種用量で、HSV−2感染からの顕著な保護率を示す。しかし、Phillipsは、ウイルス接種用量、すなわち、105、106、および1,000×の100%感染用量における評価を可能にするウイルス濃縮法を活用している。
【0070】
このウイルス接種用量系を使用して、比較研究を実施して、いくつかの開発中の殺菌剤、OTC殺精子剤および潤滑剤、ならびに殺菌剤の有効性を評価するための臨床治験においてプラセボとして使用することが可能な製剤の比較保護率を評価した。K−II/λカラゲナン混合物(また、本明細書では「K/λカラゲナン組成物」とも呼ぶ)を含有する本発明の組成物に加えて、比較試験の製剤は、開発中の殺菌剤、例えば、BufferGel(商標)およびNo Fertil、OTC殺精子剤であるK−Y Plus(登録商標)、Gynol II(登録商標)およびAdvantage S(商標);OTC膣用潤滑剤であるReplens(登録商標)およびK−Y Jelly(登録商標);ならびに可能なプラセボ製剤である2.5%Carbopol(登録商標)および2.5%メチルセルロースであった。
【0071】
試験製剤は、マウスの、膣のHSV−2感染からの保護における有効性に関して3つのカテゴリーに分かれた。104pfuのウイルス接種用量では、K−Y Jelly、Carbopolおよびメチルセルロースを除いて、全ての製剤が、顕著なレベルの、HSV−2からの感染からの保護をもたらした。しかし、105のウイルス接種用量では、K−II/λカラゲナン組成物を除いて、全ての製剤が、最低限のレベルの保護をもたらしたに過ぎない。106pfuのウイルス接種用量では、K−II/λカラゲナン組成物が、ある程度のウイルス性感染からの保護を依然としてもたらす唯一の製剤であった20。種々の製剤をウイルス用量範囲の比較系において評価することによって得られたデータは、K−II/λ組成物がもたらす、ウイルス性感染に対する予想外の高レベルな保護の最初の実証であった。
【0072】
したがって、HSV−2/マウス系を、候補殺菌剤を同じ試験条件下で評価および比較して、潜在的な、有効な殺菌剤を同定し得る手段として利用することができると結論付けることができる。
【実施例4】
【0073】
[活性の持続期間−HSV−2/マウス]
UNAIDS(World Health Organization、AIDS branch)が記載する、理想的な殺菌剤についての判断基準のうちの1つは、「殺菌剤は、挿入時におよび長期間にわたり活性であるべき」であり、このことにより、製品の使用において、より多くの柔軟性を女性に与えると述べている。さらに、細胞を介さないまたは細胞を介するHIVによる感染が生じる時間的経過は、即時でない場合もある。HSV−2/マウス系を利用して、殺菌剤が活性を保持するであろう持続期間を評価することができる。これは、試験製剤を膣内に適用し、設定した期間待ち、次いで、既知の用量のウイルスを用いてマウスを接種することによって行う。「活性の持続期間」試験を、Gynol II(登録商標)(OTC殺精子剤を含有する2%N−9)、BufferGel(登録商標)(開発中のpHが低い殺菌剤)およびK−II/λカラゲナン組成物を使用して、製剤の適用後5分、ならびに1.5時間、3時間、6時間および18時間に実施した。この1.5時間の時点までに、Gynol II(登録商標)は、感染からの保護はもたらさなくなり、BufferGel(登録商標)は、低下して、わずか30%有効であるに過ぎなかった。BufferGelの有効性は、経時的に低下し続け、6時間までには、保護をもたらさなくなった。著しく対照的に、K−II/λカラゲナン組成物は、HSV−2感染から保護するのに85〜100%有効な状態を最高6時間維持し、18時間において、72%有効な状態を維持した。K−II/λカラゲナン組成物は、活性レベルを一部、最高24時間保持し続けた。図1を参照されたい。ウイルス性感染からの保護の持続期間の延長は、カラゲナン、特に、K−II/λカラゲナン組成物に独特である。
【実施例5】
【0074】
[直腸内のウイルス性感染の研究−HSV−2/マウス]
理想的には、HIVによる感染から保護するのに有効である殺菌剤であれば、直腸においても、膣においても使用することができるであろう。HSV−2−/マウス系の直腸内ウイルス接種の改変形態を使用して、殺菌剤の有効性および安全性の評価を探索した。
【0075】
K−II/λカラゲナン組成物を用いた直腸の前処理は、HSV−2を用いた直腸接種の後に感染した動物の数を、PBSまたはメチルセルロース(不活性なプラセボ)を用いた前処理と比較して顕著に低下させた23
【実施例6】
【0076】
[K−II/λカラゲナン組成物の、膣の菌叢に対する効果]
殺菌剤の使用は、天然の膣の菌叢のバランスを混乱させないことが重要である。in vitroにおける研究は、カラゲナンは、膣の菌叢中に存在する最も一般的な細菌であるLactobacillus acidophilusの成長率を増強することも、阻害することもないことを示した。K−II/λカラゲナン組成物の膣の安全性についての第一相臨床治験に参加した35人の女性において実施した研究は、細菌性の膣症の有無により測定した場合、膣の菌叢の顕著な変化がないことを示した13。
【実施例7】
【0077】
[HIV/マウスのウイルス輸送系]
マウスはHIVに感染し得ないが、活性なウイルスまたは不活性化したウイルスをマウスの膣内に滴下注入すると、それに続いて、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)の使用により、ウイルスをリンパ節中に検出され得ることが示されている24。樹状細胞が、ウイルスの取込み、およびそれに続くリンパ節への輸送における役割を果たしたという証拠が提示されている。この結論は、樹状細胞がHIVの性感染の初期段階に関係があるとみなす研究に一致する25。
【0078】
結果は、K−II/λカラゲナン組成物は、HIVがリンパ節に達するのを阻止する際に、おそらく膣からの樹状細胞を介するHIVの輸送を遮断することによって効能を示すことを示している。
【0079】
マウス系およびAldrithol(商標)−2により不活性化したウイルスを使用するHIVの輸送を使用した。これは、ウイルスエンベロープを変えない、HIVを不活性化させるための標準的な方法である。脾臓を、HIVのための代替の貯蔵部位として確立するために、脾臓およびリンパ節をアッセイして、HIVを検出した。脾臓は、(リンパ節とは対照的に)HIVの検出のためのRT−PCRを実施するために、比較的より多くの量のRNAを得るのを可能にする。さらに、脾臓の抽出は、リンパ節を取り出す場合よりも時間のかかる程度が低く、それによって、RNAの分解の確率も低下させる。
【0080】
K−II/λカラゲナン組成物の、HIVが子宮頚部/膣のバリアを横断するのを阻止することにおける有効性を決定するために、マウスを、3つの群、すなわち、1)未処理のPBS対照マウス、2)メチルセルロース(不活性なプラセボ)を用いて前処理したマウス、および3)K−II/λカラゲナン組成物を用いて前処理したマウスに無作為化した。結果を、図2のサザンブロットおよび下記の表に示す。
【表3】
【0081】
PBS(対照)およびメチルセルロース処理、ならびにK−II/λカラゲナン組成物を用いて処理したマウスからのデータは、K−II/λカラゲナン組成物は、陽性の(すなわち、感染した)動物の数を顕著に低下させ、メチルセルロースは、PBS(対照)と比較した場合、効果を示さなかったことを示している。また、データは、K−II/λカラゲナン組成物は、HIVが膣空間から離れるのを阻止するのに有効であったことも示している。
【実施例8】
【0082】
[細胞の移動/マウス系]
HIVの性感染は、精液中のHIVに感染した、生殖器の上皮を横断するリンパ球またはマクロファージにより媒介され得ることが以前に示唆されている26、27。単核血液細胞が膣空間からインタクトな上皮を通って移動するという仮説を試験するために、二重生体染色した活性化された単核血液細胞(マウス)を、マウスの膣内に置いた。4時間後に、動物を屠殺し、腸骨および鼠径部のリンパ節、ならびに脾臓を取り出し、細胞を、解離し、蛍光顕微鏡により数えた。多数の二重染色細胞を、腸骨および鼠径部のリンパ節、ならびに脾臓において観察した28、XX。K−II/λカラゲナン組成物が、このプロセスの遮断に対して示し得る作用を評価するために、試験製剤を用いて動物を前処理してから、標識した細胞を滴下注入した。
【表4】
【0083】
ドナーの細胞は、腸骨および鼠径部のリンパ節中にも、脾臓中にも存在した。マウスに、マクロファージの膣接種のみを与えた場合、レシピエント動物は、平均して、流入領域リンパ節中には55個の標識したドナーの細胞を、脾臓中には558個の細胞をそれぞれ有した。K−II/λカラゲナン組成物(上記の表には、「K−II/λカラゲナン」と示す)の膣事前接種を与えたマウスにおいては、流入領域リンパ節中には、平均してわずか4つの細胞が数えられ、脾臓中には、平均してわずか28個を観察したに過ぎない。未処理動物と、K−II/λカラゲナン組成物により処理した動物との間の差は顕著であった。レシピエントを、メチルセルロースを用いて事前接種した場合、リンパ節および脾臓に達したドナーの細胞の数は、平均して、リンパ節中では26個および脾臓中では153個であった。K−II/λカラゲナン組成物により処理したマウスと、メチルセルロースにより処理したマウスとの間の差は顕著であり、一方、未処理マウスと、メチルセルロースを事前接種したマウスとの間の差は顕著ではなかった。凍結解凍したCMTMR染色マクロファージを接種されていた対照マウスにおいては、蛍光を発する細胞を観察しなかった。
【実施例9】
【0084】
[パピローマウイルスに対する殺菌剤としての効果]
また、K−II/λカラゲナン組成物は、in vitroにおいてウシパピローマウイルス(BPV)の病巣形成の遮断に対して有効であることも証明されている(データ未公開)。K−II/λカラゲナン組成物は、異種移植系において、ヒトパピローマウイルス(HPV)がヒト膣外植片を形質転換させるのを阻止するのに効能を示す。SKIDマウス異種移植系は、円柱状のチューブに巻いたヒト膣組織の外植片を利用し、これらの外植片を、NOD/SKID(免疫不全の)マウスの皮下にグラフトする29。移植片を2週間治癒させ、この時点で、チューブの1つの末端を開け、試験化合物を滴下注入し、続いて、HPV接種を行う。K−II/λカラゲナン組成物を評価する実験では、14個の生理食塩水を用いて処理した対照外植片のうちの14個が、形質転換した。対照的に、17個のK−II/λカラゲナン組成物を用いて処理した外植片のうちのわずか1個のみが形質転換した(データ未公開)。
【実施例10】
【0085】
[希釈アッセイにおけるK/λカラゲナン混合物の効果]
また、K/λカラゲナン混合物は、HSV−2マウス系において実証されたように、高い希釈度でも有効である。3%のK−II/λカラゲナン組成物をPBS中に希釈して、1:1、1:5、1:25、1:50、1:100および1:200の希釈度を得た。マウスに、希釈した溶液を、続いて、104(100%感染用量)のHSV−2を膣投与した。これらの実験からの結果は予想外である。抗ウイルス保護率の用量依存性の減少を観察する代わりに、1:50のK−II/λカラゲナン組成物の希釈度は、希釈度のより低い溶液と同様に、抗ウイルス保護率のうちのほとんどを保持した。さらに、顕著な活性が、1:200の溶液に関してさえ保持された。図11を参照されたい。
【実施例11】
【0086】
[K−II/λカラゲナン組成物に基づいた製剤のHIVに対する効果]
本発明のカラゲナンに添加するまたは結合させると、in vitroにおいてPBMCのHIV感染を遮断する有効性が顕著に増加する化合物が同定されている。Zn−カラゲナンおよびLSA−カラゲナンの、PBMCのHIV感染の遮断に対する有効性に関する研究は、両方の製剤が、カラゲナンを単独で含有する組成物よりも低い濃度で有効であることを示している。試験結果を、図3に示す。
【実施例12】
【0087】
[LSA−カラゲナンのHSV−2に対する効果]
結果は、LSA−カラゲナンは、HIV感染の遮断において、カラゲナンよりも効能を示すことを示している。(図4を参照されたい。)当初は、LSAは、茶色に着色するという事実に起因して、殺菌剤のための理想的な候補化合物であるようには思えなかった。しかし、0.25%の濃度のLSAは極めて有効であり、製剤化されるとわずかな着色しかもたらさないことが見出された。LSAが変色をもたらさないことを確かめるために、白色の綿織物を、3%LSA中に一晩浸漬し、次いで、水道水を用いて濯いだ。結果から、織物の色には変化がないことが明らかになった。in vivoにおけるウイルス性感染の遮断における有効性を決定するために、LSA−カラゲナンを、HSV−2/マウス系において、カラゲナンと比較した。予備的な結果は、ウイルス性感染の遮断において、LSA−カラゲナンがカラゲナンよりも効能を示すことを示した。
【0088】
上記に提示した結果に加えて、3つの別個の実験において、LSA−カラゲナンを、K−II/λカラゲナン組成物単独と、106pfuのウイルス接種用量で比較した。全ての実験において、LSA−カラゲナンは、K−II/λカラゲナン組成物単独よりも顕著に有効であった。他の硫酸化高分子を、K−II/λカラゲナン組成物に添加しても、製剤の有効性は増加しなかった。例えば、5%デキストラン硫酸または5%ヘパリンを、K−II/λカラゲナン組成物に添加しても、マウスにおけるHSV−2感染に対する有効性に関して効果を示さなかった。
【0089】
LSAを有するおよびLSAを有さない、K−II/λカラゲナン組成物(下記の3つの表では、「カラゲナン」と呼ぶ)製剤の評価
【0090】
HSV−2の106pfuのウイルス用量は、全ての未保護のマウスを感染させるであろうウイルス用量の100倍に相当する。カラゲナンは、ウイルス性感染を阻害するのに極めて有効であることから、そのような高い用量のウイルスを使用することが必要になる。
【0091】
各製剤を、総数20匹のマウスにおいて最初に試験する。遮断効果を示す化合物または製剤を、別の20匹のマウスにおいて再びアッセイする。感染したマウスの数は、平均である。
【表5】
【0092】
ウイルス用量は、100%感染率の100倍であり、3%カラゲナン以外の化合物は、そのような高いウイルス用量では効果を示さない。
【0093】
それに続いて、LSAの阻害特性をより良好に評価するために、カラゲナンを有さないLSAをアッセイした。LSAを、不活性な増粘剤であるメチルセルロースに添加して、膣用製品(潤滑剤、殺精子剤および殺菌剤)が一般に有するのと同じ粘度を維持した。(データを、下記に示す。)
【表6】
【0094】
LSAは、カラゲナンよりも良好なHSV−2感染の遮断を示し、カラゲナンよりも有効であることが証明された。しかし、2つの成分の組合せは、いずれか1つの単独よりも優っていた。
【実施例13】
【0095】
[殺菌剤中でのLSAの使用]
LSAは、カラゲナンを含んでいてもまたはカラゲナンを含んでいなくても、HSV−2感染、HIVおよび他のSTIに対する殺菌剤として有効である。硫酸化高分子であるLSAは、in vitroにおいてHIV感染から上皮細胞を、およびHSV−2感染からマウスを保護するのに有効である。阻害作用は、他のエンベロープウイルス、例えば、ヒト病原体であるヒトT細胞白血病ウイルスについて観察することができる。さらに、上皮細胞を、エンベロープウイルスではないヒトパピローマウイルスからも保護する。したがって、LSAが阻害性の効能を示すことは、より広い範囲のSTIに及び得る。試験結果を、図5に示す。
【実施例14】
【0096】
[Zn−カラゲナンのHSV−2に対する効果]
Zn−カラゲナンのHSV−2感染に対する有効性に関する研究を、in vitroおよびin vivoにおいて実施した。in vitroにおける研究では、HSV−2のプラークアッセイにおいて、Zn塩単独の、プラーク形成の阻止における効果をアッセイした41。Zn塩は、プラーク形成の低下におけるIC50を50mMの濃度で示すことが見出された。Zn−カラゲナンは、プラーク形成の阻止において、カラゲナンまたはZn塩の単独よりも顕著に有効であり、すなわち、IC50は、10μg/mL未満または25mM未満であることが観察された。試験結果を、図6に示す。
【0097】
また、Zn−カラゲナンを、HSV−2/マウス系においても評価した(図7を参照されたい)。Zn−カラゲナンを、OTC殺精子剤K−Y PlusおよびK−II/λカラゲナン組成物と比較するために、また、103pfuまたは50%感染用量〜107pfuまたは1,000×100%感染用量の範囲に及ぶHSV−2ウイルス接種用量も使用した。出願人らは、K−II/λカラゲナン組成物は、106pfuまたは100×100%感染用量のウイルス接種用量において、いくつかの動物を保護することができることを決定していた。試験した他の候補殺菌剤は、このウイルス用量では保護をもたらすことができなかった。予備的な研究では、Zn−カラゲナンは、この用量でも、107または1,000×100%感染用量のウイルス接種用量でも、マウスをHSV−2感染から顕著に保護することが観察されている。(錯体を形成するための)ZnのK−II/λカラゲナン組成物への添加により抗ウイルス性の保護のレベルが増加するという事実は、最も予想外のことであった。
【実施例15】
【0098】
[Zn−カラゲナンの活性の持続期間]
K−II/λカラゲナン組成物は、マウス膣内において長期間にわたり活性な状態を維持する。類似の実験を実施して、活性の持続期間について、Zn−カラゲナンを、2つのOTC殺精子剤、Advantage SおよびConceptrolと比較した。Zn−カラゲナンは、6時間経っても活性レベルは全く喪失せず、一方、Advantage SおよびConceptrolは、1.5時間で活性の50%の低下を示し、3時間までに保護をもたらすことができなくなることを観察した(図8を参照されたい)。
【実施例16】
【0099】
[ウイルス接種後のZn−カラゲナンの有効性]
ウイルスに対する曝露後に投与する場合であっても有効であり得る殺菌剤であれば、製品の使用が広がって、性交がすでに生じてしまった後になってようやく製品を使用することができる女性、例えば、強姦の犠牲になった女性も包含されるであろう。これまでに、研究者らは、そのような保護をもたらすことができるであろう殺菌剤を同定することができないでいた。Zn−カラゲナンは、マウスにおいて、ウイルス接種後に、HSV−2感染からの保護をもたらすことができる。下記のデータが実証するように、Zn−カラゲナンは、ウイルスに対する曝露後、最高4時間にわたり活性を示したという点で際立つ(図9を参照されたい)。この知見は、HSV−2による接種の直後に投与しない限り、K−II/λカラゲナン組成物がウイルス接種後の感染を予防しなかったという出願人らの観察に照らして目覚しい。
【実施例17】
【0100】
[二重の保護のための避妊殺菌剤]
K−II/λカラゲナン組成物は、最高24時間にわたり膣内に留まって、HIVからの保護のための1日1回の適用、および避妊ホルモンのための膣送達システムとしてのその使用を可能にする。種々のステロイドの膣送達の実現可能性が、避妊膣リングの最近の開発に伴って徹底的に検討されている43。膣粘膜に直接適用されたステロイドは、素早く吸収され、所望の避妊効果を達成するのに、非常に低い用量を必要とするに過ぎないことが示されている48−52。さらに、膣送達には通常、経口避妊剤としばしば関連がある望ましくない副作用の減少が伴う。
【0101】
本発明の膣用製剤は、殺菌剤/避妊剤の組合せとして、二重の保護をもたらし、この組合せは、服薬遵守についての使用者の動機を増強するさらなる利点も有する。避妊ホルモンであるNESが、好ましい避妊剤である。この合成プロゲスチンは、際立って強力な分子であることが示されている。プロゲステロンの効力を測定する古典的なバイオアッセイを使用して、NESは、プロゲステロンよりも100倍活性であることが証明されており、黄体の活性を抑制するのに、非常に低い分量のNESを必要とするに過ぎない。さらに、広範なNESの毒物学の研究も実施されている。
【実施例18】
【0102】
[K/λカラゲナン混合物からのNESの拡散]
K−II/λカラゲナン組成物およびNESを含有する製剤(以下「CARRA/NES」)が、有効な避妊剤であるためには、NESが、カラゲナンから放出され、膣を通して吸収されることが不可欠である。本発明者らは、in vitroにおけるアッセイを実施して、NESがCARRA/NESから放出されるかどうかを決定した。
【0103】
本発明者らは、NESの、1000の分子量カットオフを有する透析膜を通る拡散を調べた。NESの分子量は370である。NESは、HPLCにより測定した場合、透析バッグから一定速度で拡散した。結果を、図10に示す。これらの結果は、NESは、カラゲナンに結合しないことを実証している。しかし、透析膜を通して観察された拡散速度は、ヒト膣内で観察されるであろう拡散速度とは関連がない可能性がある。これは、拡散速度は、透析バッグの表面積に依存したことによる。膣内の条件は、異なるであろう。
【0104】
本発明者らは、また、CARRA/NESの、Ultrafree−15の遠心フィルターおよび管アセンブリを通す、2000gにおける99分間の遠心分離が関与する実験も実施して、放出されたNESのパーセントを計算した。遠心分離機のフィルターは、遠心分離管内にはまるデバイスである。このデバイスは、500未満のMWを有する分子を通り抜けさせる、自由に動くフィルターを底部に有する。このデバイスを使用して、添加したNESの98%超を、ろ液中に回収した。この実験により、NESは、カラゲナンに結合しないことが確認される。
【実施例19】
【0105】
[CARRA/NES(放出速度)]
CARRA/NES
NESの溶液を、濃度を増加させて、K−II/λカラゲナン組成物中に製剤化して、これら2つの化合物の適合性を確立した。K−II/λカラゲナン組成物中の500μg/mLの濃度のNESが、pH、粘度、均一性および目で見る外観により測定した場合、レオロジー特性を保持し、HSV−2/マウスによるアッセイにより測定した場合、強度の保持を示した。NESのこの濃度は、100pg/mLの高用量製剤に必要であることが予測される濃度の40倍を超える。
【0106】
CARRA/NESからのNESの拡散を、2つの異なる方法、すなわち、膜透析およびUltrafree−15遠心分離により検討した。膜透析実験では、膜のカットオフは1,000であり、NESの拡散を、HPLCにより測定した。結果は、NESは、負に荷電したカラゲナンに結合せず、透析膜を通る拡散速度は、in vivoにおける全身性の吸収とは異なるが、拡散は時間依存性の様式で発生することを示している。Ultrafree−15遠心分離の実験では、<500のMWの分子を通過させる、Millipore製Ultrafree−15の遠心フィルターおよび管アセンブリを利用した。NESのMWは370である。この技法の使用により、98.6%のNESが回収されることが実証された。
【実施例20】
【0107】
[Zn/カラゲナン/MIV−150]
本発明の最も好ましいカラゲナンの、水溶性金属としての酢酸亜鉛およびNNRTIとしてのMIV−150と併せた組合せを、組合せ、すなわち、亜鉛/カラゲナン(PC−707)、MIV−150/カラゲナン(PC−815)、ならびにカラゲナン(Carraguard(登録商標))と比較した。特に、これらのジェル剤のそれぞれの最後の用量の8時間または24時間後に、SHIV−RTを用いて動物に接種した場合、PC−707およびPC−815はそれぞれ、膣のSHIV−RT感染を、Carraguard(登録商標)とほぼ同じレベルで遮断し(0.05超のp値を示した)、同時に、両方の時点で、PC−1005は、膣のSHIV−RT感染を、これらの化合物よりも良好に遮断した(0.03未満のp値を示した)。したがって、PC−707およびPC−815は、膣のSHIV−RT感染を最高24時間にわたりある程度遮断するが、酢酸亜鉛とカラゲナンとMIV−150との組合せが、膣のSHIV−RT感染を最高24時間にわたり完全に遮断することは予測できなかった。
【0108】
実験手順を、以下に従って実施した。
700mLのガラス製混合瓶に、1.5グラムの酢酸亜鉛二水和物、15.0グラムのカラゲナン(この場合、95%ラムダカラゲナンおよび5%カッパカラゲナン)、ならびに300.3グラムの滅菌精製水を加えた。内容物を、オーバーヘッドスターラーを用いて、周囲温度、300rpmで3時間混合した。別個に、250mlの三角フラスコに、1.0グラムのメチルパラベンおよび150.9グラムの滅菌精製水を加えた。三角フラスコを、撹拌しながら、60℃に加熱して、透明な溶液を得、フラスコの内容物を、700mlの混合瓶中に含有されている亜鉛−カラゲナンと水との混合物に直ちに添加した。混合物を、周囲温度で2時間撹拌し、この時点で、18.5mgのMIV−150を10mLのジメチルスルホキシド中に溶解させることによって調製したMIV−150/DMSOの保存液5mLを、700mLの混合瓶の内容物に添加した。次いで、この混合物を、周囲温度、300rpmで35分間撹拌し、次いで、26グラムの滅菌精製水を混合瓶に添加し、内容物を周囲温度で30分間撹拌した。
【0109】
マカクザルに、デポ−プロベラ(Depo−Provera)を注射し、3週間後に、1日当たり2mLの上記に従って調製したジェル剤を2週間投与してから、最後のジェル剤の適用後の指定した時間に、1,000TClD50のSHIV−RTを用いて動物に接種した。下記の表1に記載する感染動物の数は、典型的なウイルス血症(血漿中のSIV RNAのコピー)を伴う数を反映する。
【表7】
【0110】
[参考文献]
【表8A】
【表8B】
【表8C】
【表8D】
【表8E】
【表8F】
【0111】
本明細書では、本発明を、特定の実施形態を参照して記載してきたが、これらの実施形態は、本発明の原理および適用例の単なる例示に過ぎないことを理解されたい。したがって、多数の改変を、例示的な実施形態に対して行うができ、他の配置を、添付の特許請求の範囲により定義する本発明の精神および範囲から逸脱することなく考案することができることを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、とりわけ、ヒトに関する抗菌性の阻害の延長のために、好ましくは、女性のために、膣投与により活用することができる抗菌性組成物を提供する。したがって、それらの組成物は、性感染症の伝染を阻害するのにとりわけ有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンと生理学的に許容可能な水溶性金属塩とを含む有効量の抗菌剤と、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤およびヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤からなる群から選択される抗レトロウイルス剤とを含む水性抗菌性組成物。
【請求項2】
生理学的に許容可能なpH調整剤を包含する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
生理学的に許容可能な保存剤を包含する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
前記生理学的に許容可能なpH調整剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤および乳酸緩衝剤からなる群から選択される請求項2に記載の抗菌性組成物。
【請求項5】
前記酢酸緩衝剤が、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物を含む請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項6】
前記クエン酸緩衝剤が、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合物を含む請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項7】
前記乳酸緩衝剤が、乳酸と乳酸ナトリウムとの混合物を含む請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項8】
前記生理学的に許容可能な保存剤が、メチルパラベンを含む請求項3に記載の抗菌性組成物。
【請求項9】
前記抗レトロウイルス剤が、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を含む請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項10】
前記非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤が、MIV−150を含む請求項9に記載の抗菌性組成物。
【請求項11】
前記MIV−150が、約5μM〜5,000μMの量で存在する請求項10に記載の抗菌性組成物。
【請求項12】
前記MIV−150が、約20μM〜250μMの量で存在する請求項11に記載の抗菌性組成物。
【請求項13】
前記抗菌剤の前記有効量が、前記組成物の総重量の約1%〜約5%である請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項14】
前記抗菌剤の前記有効量が、前記組成物の総重量の約3%である請求項13に記載の抗菌性組成物。
【請求項15】
約3.5〜約8.5のpHを有する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項16】
pHが約6.8〜約7.2である請求項15に記載の抗菌性組成物。
【請求項17】
前記金属が、亜鉛、銅または硫黄である請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項18】
前記金属塩が酢酸亜鉛である請求項17に記載の抗菌性組成物。
【請求項19】
前記金属塩が乳酸亜鉛である請求項17に記載の抗菌性組成物。
【請求項20】
前記金属塩が、前記組成物の総重量を基準にして約0.03%〜約1.5%の量で存在する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項21】
前記金属塩が、前記組成物の総重量を基準にして約0.3%〜約1.0%の量で存在する請求項20に記載の抗菌性組成物。
【請求項1】
カラゲナンの乾燥重量の少なくとも約50%の量においてラムダカラゲナンであり、残りが、少なくとも1つの非ラムダカラゲナンであるカラゲナンと生理学的に許容可能な水溶性金属塩とを含む有効量の抗菌剤と、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤およびヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤からなる群から選択される抗レトロウイルス剤とを含む水性抗菌性組成物。
【請求項2】
生理学的に許容可能なpH調整剤を包含する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
生理学的に許容可能な保存剤を包含する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
前記生理学的に許容可能なpH調整剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤および乳酸緩衝剤からなる群から選択される請求項2に記載の抗菌性組成物。
【請求項5】
前記酢酸緩衝剤が、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物を含む請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項6】
前記クエン酸緩衝剤が、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合物を含む請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項7】
前記乳酸緩衝剤が、乳酸と乳酸ナトリウムとの混合物を含む請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項8】
前記生理学的に許容可能な保存剤が、メチルパラベンを含む請求項3に記載の抗菌性組成物。
【請求項9】
前記抗レトロウイルス剤が、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を含む請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項10】
前記非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤が、MIV−150を含む請求項9に記載の抗菌性組成物。
【請求項11】
前記MIV−150が、約5μM〜5,000μMの量で存在する請求項10に記載の抗菌性組成物。
【請求項12】
前記MIV−150が、約20μM〜250μMの量で存在する請求項11に記載の抗菌性組成物。
【請求項13】
前記抗菌剤の前記有効量が、前記組成物の総重量の約1%〜約5%である請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項14】
前記抗菌剤の前記有効量が、前記組成物の総重量の約3%である請求項13に記載の抗菌性組成物。
【請求項15】
約3.5〜約8.5のpHを有する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項16】
pHが約6.8〜約7.2である請求項15に記載の抗菌性組成物。
【請求項17】
前記金属が、亜鉛、銅または硫黄である請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項18】
前記金属塩が酢酸亜鉛である請求項17に記載の抗菌性組成物。
【請求項19】
前記金属塩が乳酸亜鉛である請求項17に記載の抗菌性組成物。
【請求項20】
前記金属塩が、前記組成物の総重量を基準にして約0.03%〜約1.5%の量で存在する請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項21】
前記金属塩が、前記組成物の総重量を基準にして約0.3%〜約1.0%の量で存在する請求項20に記載の抗菌性組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2013−506712(P2013−506712A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533233(P2012−533233)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/051303
【国際公開番号】WO2011/044034
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(599092479)ザ・ポピュレイション・カウンシル,インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/051303
【国際公開番号】WO2011/044034
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(599092479)ザ・ポピュレイション・カウンシル,インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
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