説明

カルシウム含有夾雑物除去方法、カルシウム含有夾雑物除去部、メタン発酵前処理システム、並びにメタン発酵システム

【課題】メタン発酵の前処理として、有機性廃棄物から、混入するカルシウム含有夾雑物を除去する手段の提供。
【解決手段】分離槽1内に投入された有機性廃棄物W1からカルシウム含有夾雑物W2を除去するカルシウム含有夾雑物除去方法であって、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するカルシウム含有夾雑物除去方法などを提供する。分離槽1内を攪拌して有機物の可溶化を進行させつつ、カルシウム含有夾雑物の可溶化が進行する前に比重差でカルシウム含有夾雑物W2を底部12に沈殿させ、槽外へ排出することにより、有機物を可溶化でき、かつ、有機性廃棄物から所定量のカルシウム含有夾雑物を除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、メタン発酵槽、堆肥化装置などに有機性廃棄物を投入する際の前処理として、有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を分離・除去する技術などに関連する。より詳細には、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、カルシウム含有夾雑物を選択的に分離・除去するカルシウム含有夾雑物除去方法、及び、その方法に関わるカルシウム含有夾雑物除去部、メタン発酵前処理システム、メタン発酵システムなどに関連する。
【背景技術】
【0002】
食品廃棄物、下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥、家畜排泄物などの有機性廃棄物は、多くの場合、再利用・再資源化されるものを除き、焼却処理などされた後、最終的に埋立てなどされる。人口の急増、生活様式の変化などに伴い、廃棄物が増加する一方、埋立地などの確保は難しくなっている。また、廃棄物の投棄などが増大しており、それによる土壌汚染・地下水汚染・悪臭などの問題なども発生している。
【0003】
そこで、近年、廃棄物の適正処理、廃棄物の減量・再利用・再資源化などを進め、循環型社会形成を構築する努力が行われている。
【0004】
循環型社会形成を構築することにより、廃棄物処理・再資源化などに関する問題を改善できるだけでなく、環境負荷を軽減し、環境保護を促進できる。廃棄物の減量化により、環境負荷を軽減でき、かつ、焼却処理で発生する温室効果ガスを減らすことができる。また、有機性廃棄物は生物由来の有機性資源であるため、いわゆるカーボンニュートラルな資源としてその有効利用を図ることにより、温室効果ガスの排出量を減らすこともできる。
【0005】
メタン発酵法は、有機性廃棄物を嫌気性微生物によって分解させ、メタンガスを発生させる方法である。メタン発酵処理では、有機性廃棄物を種類に応じて前処理した後、発酵槽へ投入する。発酵槽において嫌気性条件下でメタン発酵微生物群により発酵処理し、有機性廃棄物をメタンガスに転換する。
【0006】
メタン発酵により、有機性廃棄物がメタンガス・二酸化炭素・水などに分解され、メタンガスはエネルギー源として利用できる。また、メタン発酵は、嫌気性条件で行われるため、曝気動力などが不要であり、省エネルギーな処理方法である。
【0007】
家庭や飲食店などで発生する食品廃棄物(生ごみ・厨芥類)や、食品工場などで発生する固形の食品廃棄物は、多くの場合、焼却処理などされた後、埋立てなどされる。しかし、食品廃棄物は含水率が高く、焼却処理には多くのエネルギーが使われる。それに対し、メタン発酵を行うことにより、廃棄物からメタンガスを回収し有効利用することができる(例えば、特許文献1参照)。また、全量焼却と比較してエネルギー効率を向上させることができ、温室効果ガスの排出抑制などにより環境負荷も低減できる。
【0008】
下水は、多くの場合、重力沈降、生物学的処理などを組み合わせた方法で処理されるが、その際、多くの下水汚泥が発生する。この下水汚泥をメタン発酵することにより、汚泥の安定化・減量化を行うことができる。メタン発酵処理後の汚泥は、脱水後、焼却・埋立てなどされる。発生したメタンガスは、発電、メタン発酵槽の加温などに利用される。なお、下水汚泥をメタン発酵する際、食品廃棄物・し尿・浄化槽汚泥・家畜排泄物などを混入させることにより、メタンガスの発生量が増加することが知られている。
【0009】
その他、し尿・浄化槽汚泥、家畜排泄物などの処理にも、一部、メタン発酵が利用されている。これらの廃棄物をメタン発酵に利用することにより、廃棄物を適正処理でき、また、廃棄物をバイオガス及び堆肥として有効利用できる。
【0010】
一般的に、食品廃棄物などの有機性廃棄物には、ビニール袋、トレイ、紙、金属片、ガラス片、小石など、多くの異物が混入する。それに対し、メタン発酵処理の前に、有機性廃棄物からそれらの異物を除去する手段がいくつか提案されている。
【0011】
例えば、特許文献2には、筒体内において、廃棄物を板状羽根の回転で砕いて廃棄物中の異物を分離し、その異物を気流で筒体外へ搬出し、異物分離後の廃棄物を筒体の細孔から排出する異物分離装置が記載されている。特許文献3には、貯留槽に堆積した夾雑物を有機性廃棄物とともに排出して脱水機に供給する夾雑物除去用管路が設けられた夾雑物除去装置が、特許文献4には、有機性廃棄物をメタン発酵処理するために所定の水分量に調質する有機性廃棄物処理方法が、特許文献5には、有機性廃棄物スラリーを貯留槽に投入し、所定の攪拌速度で攪拌するメタン発酵処理方法が、それぞれ記載されている。
【特許文献1】特許第2708087号公報
【特許文献2】特許第3666800号公報
【特許文献3】特開2005−103405号公報
【特許文献4】特開2000−61432号公報
【特許文献5】特開2008−194602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
有機性廃棄物、特に食品廃棄物には、上記の異物に加え、卵殻、貝殻、脊椎動物の骨、甲殻類の外骨などのカルシウム含有夾雑物も含まれる場合がある。メタン発酵を行う際、有機性廃棄物からこれらの夾雑物もできるだけ除去されていることが好ましい。そこで、本発明は、有機性廃棄物から、混入するカルシウム含有夾雑物を除去する手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、分離槽内に投入された有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を除去するカルシウム含有夾雑物除去方法であって、前記有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、前記分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、前記有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するカルシウム含有夾雑物除去方法、並びに該方法と関連するカルシウム含有夾雑物除去部、メタン発酵前処理システム、メタン発酵システムを提供する。
【0014】
例えば、有機性廃棄物を粗粉砕後、分離槽内に投入し、該槽内を比較的緩除に攪拌すると、有機性廃棄物中の有機物は加水分解などにより可溶化し、有機性廃棄物のスラリーとなる。一方、有機性廃棄物中に含まれるカルシウム含有夾雑物は、分離槽内へ投入後、はじめはほとんど可溶化が進行せず、一定時間経過後に可溶化が進行する。
【0015】
そこで、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、例えば、分離槽内に投入された有機性廃棄物を攪拌しながら分離槽内に所定時間貯留させ、可溶化の進行した有機物と未可溶化状態のカルシウム含有夾雑物とを比重差により分離し、沈殿したカルシウム含有夾雑物を分離槽の底部から排出することにより、有機性廃棄物から所定量のカルシウム含有夾雑物を選択的に除去できる。
【0016】
なお、本発明において、「カルシウム含有夾雑物」には、食品廃棄物などの有機性廃棄物に混入するカルシウム含有物、例えば、卵殻、貝殻、脊椎動物の骨、甲殻類の外骨などが広く含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、有機性廃棄物中に混入するカルシウム含有夾雑物を所定量除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の例を示す。なお、本発明は、これらの実施形態のみに狭く限定されない。
【0019】
<本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去部について>
本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去部は、有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を除去するカルシウム含有夾雑物除去部であって、下方向略錐状の底部を備え、投入された有機性廃棄物を所定時間貯留させるとともに、該有機性廃棄物中の有機物の可溶化を進行させる分離槽と、分離槽内の有機性廃棄物を攪拌する攪拌手段と、分離槽の底部に形成され、有機性廃棄物を分離槽内に貯留させたまま、底部に沈殿したカルシウム含有夾雑物を槽外へ排出できる夾雑物排出手段とを少なくとも備える構成を有していればよい。
【0020】
即ち、本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去部は、それ自体で一つの装置を形成するカルシウム含有夾雑物除去装置、該部を構成の一部に備えた装置・システムなどもすべて包含する。以下、図1、図2を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去部の例を示す垂直断面模式図、図2は、同じく上方視水平断面模式図である。
【0022】
図1、図2におけるカルシウム含有夾雑物除去部Aは、投入された有機性廃棄物W1を一定時間貯留させる分離槽1と、貯留した有機性廃棄物W1を攪拌する攪拌手段2と、攪拌により沈殿したカルシウム含有夾雑物W2を槽外へ排出できる夾雑物排出手段3と、を少なくとも備える。
【0023】
有機性廃棄物W1は、粗粉砕された後、投入口4から分離槽1に投入され(図中、符号X1参照)、攪拌手段2で比較的緩除に攪拌される。これにより、有機性廃棄物X1中の有機物が可溶化するとともに、カルシウム含有夾雑物W2が比重差により沈殿する。この沈殿物を夾雑物排出手段3で槽外へ排出する(図中、符号X2参照)ことにより、所定量のカルシウム含有夾雑物W2を選択的に除去できる。
【0024】
また、有機性廃棄物W1は、一定時間分離槽1に貯留して可溶化し、スラリーとなって、流出口5から送出され(図中、符号X3参照)、メタン発酵に供される。
【0025】
分離槽1は、胴部11と下方向略錐状の底部12とを備え、分離槽内13に投入された有機性廃棄物W1を所定時間貯留する。
【0026】
分離槽1の形状は、少なくとも底部12が下方向略錐状になっていればよく、特に限定されない。例えば、槽本体11を略円柱状、略多角形状、略卵形状などにすることができ、底部12を略円錐状、略多角錐状などにすることができる。
【0027】
底部12の挟み角度θを鋭角にすると分離槽1の全体の高さが大きくなる。一方、挟み角度θを鈍角にするとカルシウム含有夾雑物W2や未可溶化物などが底部12の内壁面14に沈殿し、夾雑物排出手段3の近傍に沈殿しにくくなる。従って、挟み角度θは、30〜150度が好適であり、60〜120度がより好適である。
【0028】
分離槽1の材質は、公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ステンレスなどの鋼材、合成樹脂、コンクリートなどで形成してもよい。また、例えば、分離槽1の内壁などに、防食剤の塗布などを行ってもよい。
【0029】
分離槽内13に有機性廃棄物W1を貯留させる時間は、有機物の可溶化が進行し、かつ、カルシウム含有夾雑物W2の可溶化が進行していない状態が保持された時間であればよく、その長短によって狭く限定されない。有機性廃棄物の種類によって異なるが、一般的には、約3〜72時間が好適であり、約12〜48時間がより好適であり、約12〜24時間がより好適である。連続運転を行う場合は、投入された有機性廃棄物W1が分離槽内13に平均でこの範囲の時間貯留するように、同槽1への投入量や同槽1からの送出量を適宜調整する。
【0030】
攪拌手段2は、分離槽内13の有機性廃棄物W1を攪拌する部位である。攪拌手段2で分離槽内13の有機性廃棄物W1を攪拌することにより、有機性廃棄物W1に含有する有機物を可溶化でき、かつ、カルシウム含有夾雑物W2を沈殿させることができる。
【0031】
攪拌手段2は、公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、攪拌羽根を槽内13で回転させることなどにより攪拌してもよいし、液循環ポンプで貯留液を循環させることにより液流を形成してもよい。また、分離槽1を振動させることにより、攪拌してもよい。攪拌の強度は、有機性廃棄物W1の粘度などに応じて適宜調整する。
【0032】
例えば、図1に示すように、攪拌手段2として攪拌羽根21を設置し、攪拌羽根21を槽内13で回転させることなどにより攪拌できる。撹拌羽根21は、1個設置してもよく、複数個設置してもよい。設置位置は特に限定されないが、羽根が分離槽底部12に位置するように設置する方が、むらなく攪拌できる点からより好適である。
【0033】
また、例えば、図1、図2に示すように、槽内13の有機性廃棄物W1(液状物)を採取口22から流入させ、液循環ポンプ23を用いて、噴射口24から噴射させることにより、槽内13を攪拌できる。噴射方向は特に限定されないが、分離槽1の側壁に沿った方向(図2中、符号X4参照)に噴射することにより、効率よく攪拌できる。また、採取口22、噴射口24は、一箇所に設置してもよく、複数個所に設置してもよい(噴射口24については、図2参照)。
【0034】
夾雑物排出手段3は、攪拌により沈殿したカルシウム含有夾雑物W2を槽外へ排出する部位である。上述の通り、有機性廃棄物W1を攪拌することにより、比重差で、カルシウム含有協雑物W2が分離槽1の底部12に沈殿し、底部12の内壁面14の傾斜により、排出流路31の中の排出領域R1に蓄積する。その領域R1に蓄積したカルシウム含有夾雑物W2を下方へ引き抜くことにより(図1中、符号X2参照)、有機性廃棄物W1を分離槽1に貯留・攪拌させた状態のまま、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出できる。
【0035】
夾雑物排出手段3は、公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、電動バルブなどの開閉手段を用いて、カルシウム含有夾雑物W2の排出を行ってもよい。
【0036】
夾雑物排出手段3に、その排出流路31の開閉を調節できる開閉手段を二以上連続して形成してもよい(符号32、33)。
【0037】
例えば、カルシウム含有夾雑物W2を槽外へ排出する際、まず、その上流側の開閉手段32を開き、下流側の開閉手段33を閉じた状態にしておき、排出領域R1’にカルシウム含有夾雑物W2を沈殿させ、次に、その上流側の開閉手段32を閉じ、下流側の開閉手段33を開くことにより、有機性廃棄物W1を分離槽1に貯留・攪拌させた状態のまま、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する。なお、開閉手段32、33には、公知のバルブなどを用いることができる。
【0038】
分離槽底部12、又は、二つの開閉手段32、33の間に、底部12又は排出領域R1、R1’に沈殿したカルシウム含有夾雑物W2の洗浄を行う供液手段34を設けてもよい。
【0039】
供液手段34は、底部12又は排出領域R1、R1’に供液できるものであればよく、特に限定されない。例えば、液を供給するための電動ポンプ35と、その噴射口36を備える構成にしてもよい。また、供液する液は、水、メタン発酵液など、目的・用途に沿ったものを適宜用いることができる。
【0040】
例えば、上流側の開閉手段32を開き、下流側の開閉手段33を閉じた状態で、供液手段34により、底部12又は排出領域R1、R1’に供液し、沈殿物を巻き上げた後、再沈殿させる。これにより、沈殿物中における未可溶化有機物の含有量を下げ、カルシウム含有夾雑物W2の含有量を上げることができる。即ち、有機性廃棄物W1の可溶化効率及びカルシウム含有夾雑物W2の除去効率を向上できる。
【0041】
投入口4は、粗粉砕などされた有機性廃棄物W1を分離槽1内に投入する入口である。例えば、有機性廃棄物を異物除去・粗粉砕処理を行った後、投入口4を通過し、分離槽1内へ投入する。
【0042】
流出口5は、分離槽1内で可溶化した有機性廃棄物スラリーが槽外へ送出される出口である。有機性廃棄物スラリーは、流出口5を通過し、メタン発酵槽などに送出される。流出口5から送出する方法については、特に限定されないが、例えば、溢流によって送出させてもよいし、ポンプなどで能動的に送出させてもよい。
【0043】
分離槽1の槽内13には、略上下方向の仕分け部材6を設けてもよい。
【0044】
仕分け部材6は、分離槽内13上側における有機性廃棄物W1の投入口4付近の領域R2と貯留液の流出口5付近の領域R3とを仕切る部材である。仕切り部材6によって両領域R2、R3を区切ることにより、投入口4より投入された有機性廃棄物W1がほとんど貯留・滞留することなく、流出口5から流出することを防ぐことができる。即ち、有機性廃棄物W1を一定時間、分離槽内13に滞留させることができる。
【0045】
仕切り部材6は、少なくとも分離槽内13の下部領域R4に仕切られていない領域が保持されていることが望ましい。これにより、貯留液の攪拌が行われた状態のまま、有機性廃棄物W1の投入口4付近の領域R2と貯留液の流出口5付近の領域R3とを仕切ることができる。
【0046】
仕切り部材6の材質などは公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ステンレスなどの鋼材、合成樹脂、コンクリートなどで形成してもよい。
【0047】
<本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去方法について>
本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去方法は、分離槽内に投入された有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を除去するカルシウム含有夾雑物除去方法であって、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、前記有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するものを全て包含する。以下、図3を用いて説明する。
【0048】
図3は、本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去方法の工程の例を示す工程図である。
【0049】
図3では、分離槽内に有機性廃棄物を投入する投入工程S1と、分離槽内に投入された有機性廃棄物を貯留させ攪拌する攪拌工程S2と、カルシウム含有夾雑物の排出流路に、その開閉を調節できる開閉手段を二以上連続して形成し、分離槽底部、又は、前記二つの開閉手段の間に供液する供液工程S3と、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する排出工程S4と、排出されたカルシウム含有夾雑物を搬出する搬出工程S5とを含む。なお、本発明は、これらの工程のいずれかを含むものを全て包含し、これらの全ての工程を含む場合のみに狭く限定されない。
【0050】
投入工程S1では、分離槽内に有機性廃棄物を投入する。投入する有機性廃棄物は、ビニール袋、トレイ、紙、金属片、ガラス片、小石などの異物を除去し、さらに、粗粉砕したものであることが好ましい。異物除去・粗粉砕した有機性廃棄物を分離槽に投入することにより、分離槽内における有機性廃棄物の可溶化を促進できる。
【0051】
異物除去手段・粗粉砕手段については、公知のものを用いることができ、特に限定されない。
【0052】
例えば、略水平に設置された筒状体内で、羽根状などのせん断部材を回転させることにより、有機性廃棄物を粗粉砕し、筒状体の下側面に形成された貫通孔から粗粉砕物を排出するとともに、その筒状体内を長手方向に流通する気流を形成し、その気流により、ビニール袋などの異物を除去する異物除去・粗粉砕手段を採用してもよい。これにより、異物除去・粗粉砕・カルシウム含有夾雑物除去・有機性廃棄物の可溶化までの工程、即ち、メタン発酵の前処理を、本発明で簡易、連続的、かつ一体的に行うことができる。なお、この異物除去・粗粉砕手段を用いることにより、粗粉砕物中に残存する細かな金属片、ガラス片、小石、果実の種子なども同時に除去できる。
【0053】
攪拌工程S2では、分離槽内に投入された有機性廃棄物を分離槽内に貯留させ、比較的緩徐に攪拌する。これにより、有機性廃棄物中の有機物が加水分解などにより可溶化し、有機性廃棄物のスラリーとなる。有機物のスラリーは分離槽から送出され、メタン発酵に供される。
【0054】
一方、有機性廃棄物中に含まれるカルシウム含有夾雑物は、分離槽内へ投入後、はじめはほとんど可溶化が進行せず、一定時間経過後に可溶化が進行する。そこで、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、例えば、分離槽内に投入された有機性廃棄物を攪拌しながら分離槽内に所定時間貯留させることにより、可溶化の進行した有機物と未可溶化状態のカルシウム含有夾雑物とが比重差で分離され、カルシウム含有夾雑物が沈殿する。
【0055】
分離槽内13に有機性廃棄物W1を貯留させる時間は、上述の通り、有機物の可溶化が進行し、かつ、カルシウム含有夾雑物の可溶化が進行していない状態が保持された時間であればよく、その長短によって狭く限定されない。有機性廃棄物の種類によって異なるが、一般的には、約3〜72時間が好適であり、約12〜48時間がより好適であり、約12〜24時間がより好適である。連続運転を行う場合は、投入された有機性廃棄物が分離槽内に平均でこの時間貯留するように、同槽への投入量や同槽からの送出量を適宜調整する。
【0056】
攪拌の強度は、投入する有機性廃棄物の種類・状態などに応じて適宜設定する。また、分離槽に投入する有機性廃棄物の粘性が高く、攪拌が容易でない場合には、水などを混合し、希釈してもよい。有機性廃棄物と水などとの混合比率は、例えば、1:0〜1:5の範囲が好適である。
【0057】
供液工程S3では、カルシウム含有夾雑物の排出流路に、その開閉を調節できる開閉手段を二以上連続して形成し、分離槽底部、又は、その二つの開閉手段の間に供液する。
【0058】
これらの部位には、攪拌により、カルシウム含有夾雑物が沈殿している。しかし、沈殿物の中には、カルシウム含有夾雑物のほかに、未可溶化有機物も混入している。
【0059】
そこで、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する前に、これらの部位に供液し、沈殿物を巻き上げた後、再沈殿させる。これにより、沈殿物中における未可溶化有機物の含有量を下げ、カルシウム含有夾雑物の含有量を上げることができる。即ち、有機性廃棄物の可溶化効率及びカルシウム含有夾雑物の除去効率を向上できる。
【0060】
排出工程S4では、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する。
【0061】
上述の通り、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、可溶化の進行した有機物と未可溶化状態のカルシウム含有夾雑物とを比重差により分離し、沈殿したカルシウム含有夾雑物を分離槽の底部から排出することにより、有機性廃棄物から所定量のカルシウム含有夾雑物を選択的に槽外へ除去できる。
【0062】
例えば、カルシウム含有夾雑物の排出流路に、その開閉を調節できる開閉手段を二以上連続して形成する。そして、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する際、まず、その上流側の開閉手段を開き、下流側の開閉手段を閉じた状態にしておき、カルシウム含有夾雑物を沈殿させ、次に、その上流側の開閉手段を閉じ、下流側の開閉手段を開くことにより、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する。これにより、分離槽に貯留・攪拌させた状態のまま、カルシウム含有夾雑物を排出することができる。
【0063】
搬出工程S5では、排出されたカルシウム含有夾雑物を搬出する。
【0064】
例えば、排出されたカルシウム含有夾雑物を、水切り、脱水などの処理を行った後、廃棄物などとして、搬出する。これにより、廃棄物の適正処理、カルシウム含有物の再利用・再資源化などを図ることができる。
【0065】
<本発明に係るシステムについて>
本発明は、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、前記有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するカルシウム含有夾雑物除去部を少なくとも備えたメタン発酵前処理システム、メタン発酵処理システムなどにも適用できる。以下、図4を用いて説明する。
【0066】
図4は、本発明に係るメタン発酵システムの構成の例を示す図である。
【0067】
図4のメタン発酵システムBでは、有機性廃棄物中の異物除去・粗粉砕を行う異物除去・粗粉砕部B1と、有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用してカルシウム含有夾雑物の選択的除去を行うカルシウム含有夾雑物除去部B2と、可溶化した有機性廃棄物(スラリー)を貯留するスラリー貯留部B3と、以上、メタン発酵の前処理を行う各部と、メタン発酵を行うメタン発酵部B4と、発生したバイオガス(メタンガス、二酸化炭素など)を回収するバイオガス貯留部B5と、メタン発酵で発生した消化汚泥を脱水処理する脱水処理部B6と、を備えている。
【0068】
上述の通り、下水汚泥をメタン発酵する際、食品廃棄物・し尿・浄化槽汚泥・家畜排泄物などを混入させることにより、メタンガスの発生量が増加することが知られている。
【0069】
そこで、図4に示す通り、下水処理部B7から下水汚泥・濃縮汚泥をメタン発酵部B4に投入し、前記の有機性廃棄物もメタン発酵部B4に投入し、メタン発酵を行ってもよい。その場合には、脱硫部B8などで処理を行ってから、バイオガス貯留部B5でバイオガス(メタンガス、二酸化炭素など)を回収する。
【実施例1】
【0070】
実施例1では、カルシウム含有夾雑物除去部を備えたカルシウム含有夾雑物除去装置の実機を試作し、有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を有効に除去できるか、試験を行った。
【0071】
試作機は、図1に示すカルシウム含有夾雑物除去部に準じて作製した。容量は50L、材質にはSUS304を用いた。
【0072】
攪拌手段には、羽根板を用いて、100rpmで連続的に回転させた。
【0073】
家庭系生ごみを上述の異物除去手段・粗粉砕手段でビニール袋などの異物を除去、粗粉砕した後、家庭系生ごみと井水を1:1の割合で混合し、その有機性廃棄物を分離槽に投入し、48時間攪拌した。
【0074】
その結果、分離槽の底部に沈殿物を確認できた。また、有機性廃棄物は48時間経過後には、全体的に流動化しており、スラリー化した。この結果は、分離槽内を攪拌して有機物の可溶化を進行させつつ、カルシウム含有夾雑物の可溶化が進行する前に比重差でカルシウム含有夾雑物を底部に沈殿させることにより、有機物を可溶化でき、かつ、有機性廃棄物から所定量のカルシウム含有夾雑物を除去できることを示す。
【0075】
なお、分離槽内に有機性廃棄物を貯留させる時間(有機物の可溶化が進行し、カルシウム含有夾雑物の可溶化が進行していない状態を保持できる時間)は、有機性廃棄物の種類によって異なるが、約3〜72時間が好適であり、約12〜24時間がより好適であると推測する。
【実施例2】
【0076】
実施例2では、カルシウム含有夾雑物除去部を備えたカルシウム含有夾雑物除去装置の実機を別途試作し、有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を有効に除去できるか、試験を行った。
【0077】
試作機は、実施例1と同様、図1に示すカルシウム含有夾雑物除去部に準じて作製した。円柱状の胴部と下方向略円錐状の底部を有する分離槽を作成した。容量は20m、材質にはSUS304を用いた。
【0078】
攪拌手段には、攪拌ポンプを用いて、0.1m/minで連続的に噴出させた。
【0079】
分離槽の底部に夾雑物排出手段として排出管を設け、そこに上下二つの開閉手段を設けた。開閉手段には、それぞれ、手動のバルブを採用した。
【0080】
分離槽に生ごみを投入し、48時間攪拌した。その結果、分離槽の底部に沈殿物を確認できた。
【0081】
そこで、まず、その上流側の開閉手段を開き、下流側の開閉手段を閉じて、排出管内にカルシウム含有夾雑物W2を沈殿させ、次に、その上流側の開閉手段を閉じ、下流側の開閉手段33を開いて、沈殿物を下側から引き抜き、採取した。その結果、引き抜いたはじめの0.3mまでの沈殿物中には、卵殻・貝殻・骨片などのカルシウム含有夾雑物、及び、果物の種子などの難生分解性有機物を多く含有する混合物が採取でき、所定量のカルシウム含有夾雑物を除去できた。一方、それ以降の沈殿物中には、未可溶化有機物の含有量が多く、カルシウム含有夾雑物はほとんど採取できなかった。この結果は、分離槽内の攪拌により、比重差で、カルシウム含有夾雑物が最も下層に多く沈殿することを示しており、本発明が、カルシウム含有夾雑物の除去に有効であることを示す。
【0082】
また、分離槽内に貯留する有機性廃棄物の粘性を調べた。その結果、有機性廃棄物を分離槽に投入した当初の粘性は50cpであったのに対し、投入から48時間経過した後は、16cpまで下がった。この結果は、分離槽内の攪拌により、有機性廃棄物の可溶化が進行したことを示す。
【0083】
次に、カルシウム含有夾雑物の除去を行った後の有機性廃棄物スラリーについて、そのカルシウム濃度及び比重を、分離槽へ投入する前の有機性廃棄物と比較した。
【0084】
その結果、分離槽へ投入する前の有機性廃棄物では全カルシウム濃度が1,900mg/Lだったのに対し、カルシウム含有夾雑物の除去を行った後の有機性廃棄物スラリーでは400mg/Lだった。この結果は、本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去手段により、カルシウム含有夾雑物を有効に除去できたことを示す。
【0085】
なお、除去したカルシウム含有夾雑物中に含有した卵殻の比重は約2.6、貝殻の比重は約2.8、骨の比重は約2.0、カルシウム含有夾雑物の除去を行った後の有機性廃棄物スラリーの比重は1.01だった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
上述の通り、本発明により、比較的簡易、低コストに有機性廃棄物の可溶化とカルシウム含有夾雑物の除去を同時に行うことができる。従って、本発明は、例えば、食品廃棄物などの有機性廃棄物を用いたメタン発酵における前処理手段として、有用である。
【0087】
また、上述の通り、下水汚泥をメタン発酵する際、食品廃棄物・し尿・浄化槽汚泥・家畜排泄物などを混入させることにより、メタンガスの発生量が増加することが知られている。従って、本発明は、下水汚泥などのメタン発酵槽に、食品廃棄物などを混入させる際の前処理手段としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去部の例を示す垂直断面模式図。
【図2】本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去部の例を示す上方視水平断面模式図。
【図3】本発明に係るカルシウム含有夾雑物除去方法の工程の例を示す工程図。
【図4】本発明に係るメタン発酵システムの構成の例を示す図。
【符号の説明】
【0089】
1 分離槽
2 攪拌手段
21 攪拌羽根
23 液循環ポンプ
3 夾雑物排出手段
32、33 開閉手段
34 供液手段
4 投入口
5 流出口
6 仕切り部材
A カルシウム含有夾雑物除去部
B メタン発酵システム
B1 異物除去・粗粉砕部
B2 カルシウム含有夾雑物除去部
B3 スラリー貯留部
B4 メタン発酵部
B5 バイオガス貯留部
B6 脱水処理部
B7 下水処理部
W1 有機性廃棄物
W2 カルシウム含有夾雑物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離槽内に投入された有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を除去するカルシウム含有夾雑物除去方法であって、
前記有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、
前記分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、前記有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するカルシウム含有夾雑物除去方法。
【請求項2】
前記分離槽内に有機性廃棄物を3〜72時間貯留させる請求項1記載のカルシウム含有夾雑物除去方法。
【請求項3】
前記分離槽内に投入された有機性廃棄物を攪拌し、
可溶化の進行した前記有機物と未可溶化状態のカルシウム含有夾雑物とを比重差により分離し、沈殿したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去する請求項1記載のカルシウム含有夾雑物除去方法。
【請求項4】
沈殿したカルシウム含有夾雑物を、前記分離槽の底部から排出する工程を含む請求項3記載のカルシウム含有夾雑物除去方法。
【請求項5】
カルシウム含有夾雑物の排出流路に、その開閉を調節できる開閉手段を二以上連続して形成し、
カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する際、まず、その上流側の開閉手段を開き、下流側の開閉手段を閉じた状態にしておき、カルシウム含有夾雑物を沈殿させ、次に、その上流側の開閉手段を閉じ、下流側の開閉手段を開くことにより、カルシウム含有夾雑物を槽外へ排出する工程を含む請求項4記載のカルシウム含有夾雑物除去方法。
【請求項6】
前記分離槽底部、又は、前記二つの開閉手段の間に、供液することにより、前記底部に沈殿したカルシウム含有夾雑物の洗浄を行う工程を含む請求項5記載のカルシウム含有夾雑物除去方法。
【請求項7】
有機性廃棄物からカルシウム含有夾雑物を除去するカルシウム含有夾雑物除去部であって、
下方向略錐状の底部を備え、投入された有機性廃棄物を所定時間貯留させるとともに、該有機性廃棄物中の有機物の可溶化を進行させる分離槽と、
前記分離槽内の前記有機性廃棄物を攪拌する攪拌手段と、
前記分離槽の底部に形成され、前記有機性廃棄物を前記分離槽内に貯留させたまま、底部に沈殿したカルシウム含有夾雑物を槽外へ排出できる夾雑物排出手段と、
を少なくとも備えるカルシウム含有夾雑物除去部。
【請求項8】
前記夾雑物排出手段に、その排出流路の開閉を調節できる開閉手段が二以上連続して形成された請求項7記載のカルシウム含有夾雑物除去部。
【請求項9】
前記分離槽底部、又は、前記二つの開閉手段の間に、沈殿したカルシウム含有夾雑物の洗浄を行う供液手段が設けられた請求項8記載のカルシウム含有夾雑物除去部。
【請求項10】
前記分離槽の槽内に略上下方向に形成された仕分け部材が設けられ、
該仕分け部材によって、該槽内上側における有機性廃棄物の投入口付近の領域と貯留液の流出口付近の領域とが仕切られた請求項7記載のカルシウム含有夾雑物除去部。
【請求項11】
有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、
分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、前記有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するカルシウム含有夾雑物除去部を少なくとも備えたメタン発酵前処理システム。
【請求項12】
有機性廃棄物中の有機物とカルシウム含有夾雑物との可溶化時間の差を利用して、
分離槽内に有機性廃棄物を所定時間貯留させ、前記有機物の可溶化を進行させるとともに、未可溶化状態で残存したカルシウム含有夾雑物を選択的に除去するカルシウム含有夾雑物除去部を少なくとも備えたメタン発酵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−167604(P2011−167604A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32308(P2010−32308)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】