カルシウム結合ペプチド
配列(X−Y−Z)n、式中、Xはアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンおよびグルタミンから選択されるアミノ酸であり、YおよびZはアラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、ホスホスレオニン、およびそれらの誘導体から選択されるアミノ酸である、のペプチドを含む化合物群が本明細書中に開示されている。これらの化合物は、石灰化した表面に堅固にしかも特異的に結合する特性を有し、歯および骨の表面の再鉱化、骨および歯の欠陥の診断、骨および歯の欠陥の治療、石灰化の同定、局在化、または操作が望まれる、インビトロおよびインビボの両方、ならびに産業的、合成の、医学的、歯学的、および研究用途における石灰化した堆積物の存在および局在の分析を含む様々な用途に該化合物を役立たせる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は、2005年9月8日に出願された、米国仮特許出願第60/722,071号に対する優先権を主張する。米国仮特許出願第60/722,071号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
背景
石灰化表面に特異的に結合する化合物には、テトラサイクリン、カルセイン、およびアリザリンなどの小蛍光分子、および象牙質リンタンパク質(dentin phosphoprotein:DPP、多くの場合、ホスホホリンと呼ばれる)およびアメロゲニンなどの巨大カルシウム結合タンパク質が含まれる。DPPは、象牙質細胞外マトリックスに見出される主要な非コラーゲン性タンパク質の1つであって、象牙質の鉱化過程でのヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite:HA)の核生成に関係していると長期間思われてきた(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。ヒトDPPは、象牙質シアロリンタンパク質(dentin sialophosphoprotein:DSPP)のタンパク質分解的切断から誘導される。ヒトDPPは、多数のAsp−Ser−Serアミノ酸のリピート(非特許文献5)から主としてなる非常に柔軟であり(非特許文献6)、非常にリン酸化された(非特許文献1)タンパク質である。DPPの生化学的特徴は、幅広く調査されている。これらの調査により、固相化したDPPは、ヒドロキシアパタイトの核生成の比率を顕著に増加させ、この効果は、溶液中のDPPまたは脱リン酸化されたDPPでは見られないことが明らかになった。さらに、高濃度のDPPは、HA結晶成長を阻害することが示されている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献7)。
【非特許文献1】Lee,S.L.ら、1980,Int J Pept Protein Res 16:231−240
【非特許文献2】Lussi,A.ら、1988,Arch Oral Biol 33:685−691
【非特許文献3】Veis,A.ら、1998,Eur J Oral Sci 106 Suppl 1:234−238
【非特許文献4】Hao,J.ら、2004,Bone 34:921−932
【非特許文献5】Gu,K.ら、2000,Eur J Oral Sci 108:35−42
【非特許文献6】Cross,K.J.ら、2005,J Pept Res 66:59−67
【非特許文献7】Saito,T.ら、2000,J Bone Miner Res 15:1615−1619
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
ある種の態様では、1以上のカルシウム結合ペプチドを含む組成物が提供される。これらのカルシウム結合ペプチドは、3個のアミノ酸のリピート配列(X−Y−Z)n、式中、Xは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンまたはグルタミンであり、YおよびZは、アラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、またはホスホスレオニンであり、nは、1〜40の数である、を含み、該カルシウム結合ペプチドはリン酸カルシウムに結合する。これらの態様のうちある種の態様では、カルシウム結合ペプチドは、約1〜約40回の3個のアミノ酸のリピート(即ち、n=1〜40)を含み、約3〜約120個のアミノ酸長を有する。これらの態様のうちある種の態様では、nは、2〜8の数である。ある種の態様では、Xは、アルパラギン酸であり、YおよびZは、セリンである。これらの態様のうちある種の態様では、カルシウム結合ペプチドは、配列番号12〜15のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有してもよい。
【0004】
ある種の態様では、本明細書中に提供されるカルシウム結合ペプチドは、1以上の結合体(conjugate)または部分に連結することができる。これらの態様のうちある種の態様では、前記結合体または部分は、例えば、発蛍光団、発色団、アフィニティータグ、抗原タグ、放射性標識、またはスピン標識などの検出可能なマーカーである。ある種の他の態様では、前記結合体または部分は、ペプチド、タンパク質、糖質、核酸、脂質、有機化合物、無機化合物、または有機金属化合物である。ある種の他の態様では、前記結合体または部分は、例えば、抗癌もしくは抗菌剤または化合物などの治療剤である。前記結合体または部分が抗菌剤であるこれらの態様のうちある種の態様では、該抗菌剤は、抗菌性ペプチド配列であってもよい。ある種の態様では、前記結合体または部分は、アミノ酸リンカーを介してカルシウム結合ペプチドに連結することができる。
【0005】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物を投与することによって、被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を治療する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドの投与は、歯の表面の再鉱化を誘導することができる。
【0006】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物を投与することによって、被験体における骨の脱塩または骨密度の減少によって特徴付けられる骨の欠損を治療する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドの投与は、骨表面の再鉱化および骨密度の増加を誘導することができる。
【0007】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチド、該ペプチドは検出可能なマーカーに結合体化される、を含む組成物を投与し、次に、裸眼または検出装置のいずれかを用いて、このマーカーを検出することによって、被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を同定する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドは、脱塩を示している歯の部分に選択的または優先的に結合することができる。
【0008】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチド、該ペプチドは検出可能なマーカーに結合体化される、を含む組成物を投与し、次に、裸眼または検出装置のいずれかを用いて、このマーカーを検出することによって、被験体における骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠損を同定する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドは、脱塩を示している骨の部分に選択的または優先的に結合することができる。
【0009】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチド、該ペプチドは検出可能なマーカーに結合体化される、を含む組成物を投与し、次に、裸眼または検出装置のいずれかを用いて、このマーカーを検出することによって、被験体における骨または歯以外の組織における石灰化を同定する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドは、カルシウムおよびシュウ酸カルシウムに結合することができる。この方法を用いて同定され得る石灰化には、例えば、動脈プラーク、腎臓結石、および種子が含まれる。ある種の態様では、例えば、該ペプチドを治療用部分と結合体化させ、該ペプチドを用いて、該治療用部分を石灰化部位に標的化することによって、該ペプチドがこれらの不適切な石灰化を処置するために用いることができる。
【0010】
ある種の態様では、歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠損、または骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠損の治療に使用するための、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物が提供される。ある種の態様では、これらの組成物を用いて、脱塩によって特徴付けられる歯または骨の欠陥を検出または診断することができる。
【0011】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物を含むキットが提供される。これらの態様のうちある種の態様では、前記キットは、使用または投与のための取扱説明書を含む。ある種の態様では、これらのキットは、歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥、または骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠陥を治療するために用いることができる。ある種の態様では、これらの組成物を用いて、脱塩によって特徴付けられる歯または骨の欠陥を検出または診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
詳細な説明
下記の発明の説明は、発明の種々の態様を例示することを単に意図する。このように、検討されている特定の修飾は、本発明の範囲の限定として構築されるべきではない。種々の同等物、変更物、および修飾物は、本発明の範囲から逸脱することなしに実施され得ること、およびこのような同等の態様は本明細書中に含まれるべきであることは、当業者に明確となる。
省略形
下記の省略形が本明細書中に使用される:BE、基底エナメル質(basal enamel);CE、皮質エナメル質(cortical enamel);CL、齲蝕病変(carious lesion);CLSM、共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy);CPD、髄周象牙質(circumpulpal dentin);D、象牙質(dentin);DEJ、象牙質−エナメル質接合(dentin−enamel junction);DPP、象牙質リンタンパク質(dentin phosphoprotein);E、エナメル質(enamel);DSPP、象牙質シアロリンタンパク質(dentin sialophosphoprotein);HA、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite);MD、マントル象牙質(mantle dentin);MIC、最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration);P、歯髄腔壁(pulp cavity wall);PB、歯周骨(periodontal bone);SEM、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy);RTD、根端象牙質(root tip dentin);λ、励起波長(excitation wavelength)。
【0013】
アミノ酸は、下記に記載される標準的な方式を用いて省略される。
【0014】
【化1】
例えばD−Alaの「D」接頭辞によって他に指示がなければ、本明細書中に記載されるペプチド中のアミノ酸およびアミノアシル残基のアルファ−炭素の立体化学は、天然の立体配置であるかまたは「L」立体配置である。
【0015】
カルシウム結合ペプチド
脱灰された組織の直接的な再鉱化に現在利用可能な化合物は、遊離したまたはタンパク質が結合したリン酸カルシウムおよび/またはフッ化ナトリウムの様々な製剤から主になる。生物組織中での石灰化の増大は、一般的に、骨および歯の前駆細胞における細胞シグナリングを操作することによって、あるいはカルシウム強化食物、食事栄養食品、または遊離したもしくはタンパク質が結合したカルシウムに富んだ他の処置薬を用いて、全カルシウム濃度を増加させることによって達成される。従来の研究では、再鉱化を増大するために歯の表面にリン酸カルシウムを補強する製剤が記載されている(米国特許第6,780,844号を参照されたい)。しかしながら、カルシウムを直接的および特異的に標的化することによる石灰化の増大は示されていない。
【0016】
DPP中に見出されるAsp−Ser−Serモチーフの変異体から作られた一連の小カルシウム結合ペプチドが、本明細書中に開示されている。これらのペプチドは、リン酸カルシウム表面に堅固にしかも特異的に結合することが示されている。さらに、これらのペプチドは、このような表面にリン酸カルシウムを補強し、それらのリン酸化状態に関わらずに石灰化した表面に蛍光ラベルを付着させるための結合部分として使用されることが示されている。
【0017】
本明細書中に開示されているペプチドは、一般的に、DSSペプチドと呼ばれ、DPPの3個のアミノ酸Asp−Ser−Serモチーフもしくはそれらの変異体の様々な数および/または組み合わせから構成されている。利用することが可能な3個のアミノ酸のリピートの例には、限定されないが、Asp−Ser−Ser(DSS、配列番号1)、Glu−Ser−Ser(ESS、配列番号2)、Asp−Thr−Thr(DTT、配列番号3)、Glu−Thr−Thr(ETT、配列番号4)、Asn−Ser−Ser(NSS、配列番号5)、Asn−Thr−Thr(NTT、配列番号6)、Gln−Ser−Ser(QSS、配列番号7)、Gln−Thr−Thr(QTT、配列番号8)、およびそれらの変異体が挙げられる。あるいは、またはこれらのリピート配列に加えて、本明細書中に開示されているペプチドは、これらのリピートの小さな変異体を含んでもよく、限定されないが、Asp−Ser−Thr(DST、配列番号9)、Asp−Ala−Ala(DAA、配列番号10)、またはAla−Ser−Thr(AST、配列番号11)が含まれる。3個のアミノ酸のリピート内の1以上のアミノ酸残基は、化学的に修飾することができる。例えば、該ペプチドは、リン酸基の追加によって水酸基が修飾されている1以上のSerまたはThr残基を含むことが可能である。これらのペプチドは、3個から50個を越えるアミノ酸長で変化することができる。
【0018】
石灰化した表面に対する、本明細書中に開示されているペプチドの結合親和性は、リピートの組成および数を変更することによって調節可能である。例えば、1以上のAsp−Ser−Ser(配列番号1)リピートの含有によって、ペプチドの結合親和性が増加し、それは、この配列が試験した任意のリピート中で最大の親和性を示すためである。3個のアミノ酸のリピートの数を増加させることによって、該ペプチドの結合親和性を増加させることもできる。6を超えるリピートを含むペプチドは、より少ないリピートを有するペプチドよりも大きな結合親和性を示す。ある種の態様では、本明細書中に開示されているペプチドは、ヒドロキシアパタイトに対する結合親和性(KA)が15,000M−1を超えてもよい。ある種の態様では、この結合親和性は50,000M−1を超えてもよく、他の態様では100,000M−1を超え、他の態様では200,000M−1を超え、他の態様では300,000M−1を超えてもよい。
【0019】
ある種の態様では、前記ペプチドは、3個のアミノ酸のリピート配列の一部ではない1以上の追加のアミノ酸を含むことが可能である。例えば、ある種の態様では、該ペプチドのリピート部分は、追加の官能性を有するアミノ酸配列、例えば、2c−4、PL135、またはb−34ペプチド配列などの抗菌性ペプチド配列に融合されてもよい。ある種のこれらの態様では、該ペプチドのリピート部分は、リンカー配列、例えば、トリグリシン配列を介して追加のアミノ酸配列に融合されてもよい。
【0020】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているペプチドは、配列(X−Y−Z)n、式中、Xは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンおよびグルタミンから選択されるアミノ酸であり、YおよびZは、アラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、ホスホスレオニン、およびそれらの誘導体から選択されるアミノ酸であり、nは、1〜20の数である、を含む。ある種の態様では、nは1〜15であり、他の態様では、nは1〜10であり、ある種の態様では、nは3〜8である。
【0021】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドは、処置条件に応じて、脱塩したエナメル質、および脱塩した象牙質と脱塩していない象牙質との両方でリン酸カルシウム結晶の成長を増すことが示されている。同様に、該ペプチドは、骨の再鉱化を誘導することが示されている。このようにして、ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、浮遊しているリン酸カルシウム粒子を石灰化した表面に補強することによって鉱化を増大させることができる。これらのペプチドは、石灰化した表面および/または浮遊しているリン酸カルシウム凝集体に結合することが可能である。石灰化した表面および浮遊している凝集体の同時結合は、石灰化した表面近傍のリン酸カルシウム濃度を結果として増加させ、該表面の再鉱化の増大へと導く。前記ペプチドの大きさおよび結合親和性を調節することによって、該表面に結合したカルシウム量を変更することができる。ある種の態様では、歯の再鉱化は、結果として、完全であるかまたは部分的な象牙質細管の閉塞をもたらす。
【0022】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、歯を再鉱化し、歯の脱塩を阻害するかまたは遅らせ、歯の損傷、欠陥、病気、もしくは異常を治療し、歯の表面でもしくはその下で鉱物層を形成させ、歯の鉱物密度を変更し、例えば、鉱物密度を増加させるかもしくは減少させ、または歯部位を密封することが可能である。同様に、これらの組成物を用いて、骨の欠陥、傷害、腫瘍、異常成長、病気、もしくは骨の喪失を治療し、骨の表面でもしくはその下で鉱物層の形成を引き起こし、または、例えば密度を増加もしくは減少させることによって骨の密度を変更することができる。これらの態様では、上述した1以上のカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、影響を受けている骨または複数の骨の部位でまたはその近傍で適用される。ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、石灰化、石灰質病変、または動脈プラークを含む、骨以外の組織および臓器における鉱化した欠陥を治療することができる。
【0023】
状態を「治療すること」またはその「治療」とは、本明細書中で使用するとき、該状態を妨げるかもしくは修復すること、該状態の開始もしくは発症速度を遅延させるかもしくは遅らせること、該状態の発症の危険性を低下させること、該状態と関連した症状の発症を妨げるかもしくは遅延させること、該状態と関連した症状を低減させるかもしくは終わらせること、該状態の完全なもしくは部分的な退行を生じさせること、またはそれらのいくつかの組み合わせを意味し得る。
【0024】
ある種の態様では、本明細書中に開示しているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、所望の化学部分または粒子が石灰化した表面、例えば骨および歯の表面に特異的に接着するための手段として用いることが可能である。遊離したまたはタンパク質が結合したカルシウムの製剤で口腔を溢れさせることに頼る、歯の表面の再鉱化への現在のアプローチとは異なって、これらの化合物は、リン酸カルシウム凝集体が歯の表面に特異的に付着するようにさせ、したがって、カルシウムおよびリン酸塩の局所濃度を増加させ、このリン酸カルシウムが歯の所定領域に取り込まれるようになるという可能性を増加させる。石灰化した組織の傷害または疾患に対する現在の製剤治療は、ある画分が石灰化した表面と相互作用するであろうと期待して、対象とする治療化合物の遊離溶液を用いて、直接的(局所的)投与または全身投与のいずれかによって、所望の表面の領域を取り囲むことに依存する。
【0025】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、不適切な石灰化のためのインサイチュー(in situ)およびインビボアッセイ用に用いることができる。例えば、これらの組成物を用いて、石灰化、石灰性病変、または例えば動脈プラーク、腎臓結石、もしくは種子を含む、骨以外の組織および臓器における鉱化した欠陥を診断し、特定し、突き止め、または治療することができる。石灰化の存在を測定するために現在使用されているアッセイには、色素結合法、放射性同位体の取り込み、X線透過分析、および定量化学分析が挙げられる。これらの方法の各々は、ある種の欠点に悩まされている。色素結合法では、試料は、テトラサイクリン、カルセイン、またはアリザリンなどのカルシウムキレート化蛍光色素に晒され、対象とする組織に該色素の取り込みが視覚化される。この色素をインビボに導入させることはできるが、シグナルの視覚化は、対象とする組織の切除を必要とする。固定された組織の銀イオンによる処置(フォン・コッサ(von Kossa)染色)は、石灰化の部位を同定するために用いることもできるが、この方法は、インビボでは適用することができず、顕著なレベルのバックグラウンド染色を被る。45Caなどの放射性同位元素の取り込みによって、インビボでの石灰化の位置および速度についての正確であり、定量的な情報が与えられるが、実験被験体を高レベルの電離放射線に晒すという欠点を有する。X線透過分析は、高空間分解能を与え、生存動物で行うことは可能であるが、X線画像で見ることができる様々な他の特徴の中でカルシウム沈着を一意的に同定することができない。カルシウム沈着のインビトロでの定量化学分析は、存在する鉱物のタイプおよび量の直接的な測定を与えるが、これらの方法は、大きな労力を伴うものであり、結果として、関与している組織の位置および構造についての情報を失うことになる。
【0026】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、蛍光的にまたは別の方法で標識され、対象とする組織において石灰化した領域を視覚化する改良された手段として利用可能である。これらのペプチドは、容易に、高収率で合成することができ、現在利用可能な方法と比較して、改善された安全性、毒性、および使用容易性を有する。該ペプチドの配列または組成は、特異組織または表面タイプに対するペプチドの相対的親和性を変化させるために変更することが可能である。これによって、該ペプチドは、象牙質、エナメル質、骨、および他の石灰化した組織または表面の間、ならびに、健常および疾患組織の間を識別できるようになる。この特性によって、これらの化合物は、石灰化した組織における損傷または病変に対するプローブとして使用可能となる。前記ペプチドは、単独で用いられてもよく、または石灰化を検出するための他に知られている方法と併用して用いられてもよい。蛍光を保持しながらカルシウムイオンをキレートすることができるものに限定される、現在利用可能なカルシウムを結合している発蛍光団と対比して、本明細書中に記載されているペプチドは、任意の発蛍光団に付着可能である。これは、石灰化した表面を標識するために使用され得る色のパレットを大きく拡張し、それぞれ個々の実験に対する発光波長および検出技術の正確な調整を可能にする。これらのペプチドを蛍光、発色、放射活性、NMR−活性、または他の色素もしくは指示薬で結合体化し、生物試料をこれらの結合体で処理することによって、試料を固定し、大幅に妨害することなしにインサイチューおよびインビボで石灰化の程度を定量的に観察することが可能になる。高い特異性および高い結合率により、このような結合体は、フォン・コッサ/銀イオン染色法よりも低いバックグラウンド染色を与えることができる。これらのカルシウム結合ペプチドに付着され得る広範囲な標識は、結合条件および検出法に関して非常に大きな柔軟性を提供し、それによって、生物学的、生物医学的、生物工学的、環境的、および他のリサーチが実行され得る容易性および特性が大いに増加される。
【0027】
本明細書中に記載されているペプチドは、診断薬として大きな可能性を有するが、これは、視覚的または放射線観察に主として依存する、石灰化した組織の傷害、感染、腫瘍または他の病変を同定する現在の方法とは異なって、本明細書中に開示されているペプチドを用いて、ヒトの目に頼ることなしに、このようなイベントを検出することができるからである。本明細書中に開示されているDSSペプチドは、脱塩したエナメル質および脱塩していない象牙質を特異的に標的にすることが示された。特に、これらのペプチドは、虫歯病変に選択的に結合する能力を示している。さらに、種々のDSSペプチド変異体は、例えば、根端象牙質、基底エナメル質、マントル象牙質、皮質エナメル質、およびエナメル質表面などの歯の構造の正確な小部分(subportion)を標的にする能力を示している。種々の検出可能な部分、例えば、蛍光、発色、放射活性、NMR−活性または他の色素もしくは指示薬に結合体化したカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、歯の特定部分を標的化するために、ならびに脱塩または他の損傷を示す歯の特定部分を同定するために被験体に投与することができる。前記ペプチドのアミノ酸組成は、特定のタイプの組織または組織損傷が標的化され得るように選択されてもよい。これらのペプチドの使用は、あまりにも小さすぎて見られなかったかまたは他には分かりにくかったかもしれない領域を含む損傷を受けた領域の特異的な同定を可能にし、これらの病変に対する診断の容易さおよび正確さが非常に高まる。同様に、ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、X線、コンピュータ断層撮影、または磁気共鳴画像のための造影剤として用いることができる。
【0028】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、骨、歯、または他の石灰化した組織の表面に治療化合物を標的化するために用いることが可能である。例えば、ペプチドは、抗菌化合物、骨および歯の発達調節剤、または該ペプチドに付着されてもよい任意の他の化合物と結合体化することが可能である。治療化合物とこれらのペプチドの1つとの結合体化を用いて、石灰化した表面に治療化合物を局在化することができ、該化合物の局所濃度の増加および有効性の増大をもたらす。対象とする組織に該化合物を局在化することによって、これらのペプチドは、所望の効果を達成するのに必要とされる化合物濃度を減少させることになる。有効性の改善に加えて、対象とする組織に治療化合物を特異的に標的化することは、該化合物の潜在的な損傷効果から標的ではない組織を救う。該ペプチドの組成または長さは、組織の傷害領域または疾患領域に特異的な標的化を可能にするように調整されてもよい。
【0029】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、例えば、細菌感染などの微生物感染を治療することができる。これらの態様では、該ペプチドは、例えば、2c−4、b−34、またはPL−135ペプチド(それぞれ、配列番号:26、30、および32)などの抗菌性ペプチドに連結されてもよい。
【0030】
カルシウムまたはリン酸カルシウムに選択的に結合する、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドの能力に基づいて、これらのペプチドを含む組成物は、飲料水、廃水、工業用溶液、食物、飲料、研究用途、カルシウムの存在の決定が望まれる任意の溶液中のカルシウムを検出するためのセンサーに組み込まれてもよい。同様に、これらの組成物を用いて、例えば、産業用途、製造用途、医療用途、研究用途、家庭用途、または個人的用途におけるカルシウム鉱物の沈着を調節することができる。さらに、これらの組成物を使用して、例えば、細胞培養、組織、実験動物、試験的なヒト被験体、または他の研究用途における種々のカルシウム鉱物の存在または量を測定することができる。
【0031】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドは、直接的であるかまたは間接的に、1以上の結合体または部分に共有結合的または非共有結合的に連結され得る。このような結合体は、部分であって、限定されないが、他のペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖質、核酸、脂質、有機化合物、無機化合物、有機金属化合物、例えば抗癌剤または抗菌剤などの治療用部分が含まれる。本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドに連結し得る結合体または部分の他の例には、例えば、発蛍光団、発色団、アフィニティータグ、放射性標識、またはスピン標識などの検出可能なマーカーが挙げられる。さらに、カルシウム結合ペプチドまたは付着した結合体もしくは部分の1以上の原子は、放射活性またはNMR活性同位元素と置換されてもよい。カルシウム結合ペプチドと結合体または部分との間の連結は、該ペプチドのアミノ末端、該ペプチドのカルボキシ末端で、または該ペプチドの内部を通して生じてもよい。ある種の態様では、該ペプチドは、例えば、トリグリシンリンカー配列などのアミノ酸リンカーを介して結合体または部分に連結することが可能である。
【0032】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、当該技術分野において知られている任意の方法によって投与することができる。このような方法には、限定されないが、経口、非経口、経皮、エアロゾル、または腸内が含まれる。「経口」投与は、歯磨き粉、ゲル、うがい薬、口内洗浄剤、丸薬、錠剤、カプセル、ゲル、または粉末を用いて達成することができる。あるいは、前記組成物は、食物、チューインガム、キャンディ、または飲料に取り込ませることが可能である。「非経口」とは、眼窩内、注入、動脈内、嚢内、心内、皮内、筋内、腹腔内、肺内、髄腔内、胸骨内、髄腔内、子宮内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜的、または経気的を含む注射と一般的に関連している投与経路を意味する。「経皮的」投与は、局所的クリーム、軟膏(ointment)、もしくは軟膏(salve)を用いて、または経皮貼布を用いて達成することができる。前記組成物が歯の状態を治療するかまたは鉱物密度などの歯の特徴を変更するために用いられているそれらの態様では、該組成物は、影響を受けているかまたは標的の歯の部位でまたはその近傍に投与されてもよい。同様に、前記組成物が骨の状態を治療するかまたは骨の特徴を変更するために用いられているそれらの態様では、該組成物は、影響を受けるかまたは標的の骨の部位でまたはその部位の近傍に投与されてもよい。
【0033】
下記の実施例は、請求された発明をより良く説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして意図されるべきではない。特定の材料が言及される範囲は、単に例示の目的のためであり、本発明を限定することは意図されない。当業者は、創作力を発揮することなく、しかも本発明の範囲から逸脱することなしに、同等な手段または反応物質を生み出すことができる。多くの変形が、本発明の範囲内で依然として維持されながら、本明細書中に記載された手順においてなし得ることが理解される。このような変形は本発明の範囲内に含まれることが本発明者らによって意図されている。
【実施例】
【0034】
実施例1:カルシウムヒドロキシアパタイトへのDSSペプチドの結合
2回(2DSS、配列番号12)、4回(4DSS、配列番号13)、6回(6DSS、配列番号14)、または8回(8DSS、配列番号15)のAsp−Ser−Ser(DSS)リピートを含む4種のDSSペプチドを生成した。ペプチドを蛍光で標識し、種々の濃度の標識ペプチド(0〜100μM)は、比表面積が100m2/gである、固定量(0.3mg)のヒドロキシアパタイト・ナノクリスタル(Berkeley Advanced Biomaterials,Inc.)と混合された。試料を10分間インキュベートし、その後、遠心分離によってヒドロキシアパタイトを除去した。この混合物中のペプチド量は、480nmの分光学的吸光度(蛍光標識のピーク吸光度)によって、ヒドロキシアパタイトの除去の前後で測定された。結合したペプチド量は、最終(Af)および初期(Ai)吸光度と初期濃度(P0)との比[P結合=(Af/Ai)P0]を比較することによって計算した。平衡状態で非結合のペプチドの濃度に対してヒドロキシアパタイト表面積1m2当り結合したペプチド量を説明するプロットを作成した。得られた等温線は、ラングミュア(Langmuir)等温線(x/m=(KANMaxCeq)/(1+KACeq))(Calis 1995)に適合させ、結合親和性(KA)および結合力(NMax)の組み合わせに関して分子の結合活性を記述する。KAは、ヒドロキシアパタイト表面に対するペプチドの親和定数を表す。この式中、x/mは、ヒドロキシアパタイトの単位表面積当りの結合したペプチドのモル量を表し、NMaxは、最大表面濃度(mol/m2)を表し、Ceqは、平衡状態での非結合ペプチドのモル濃度を表す。ラングミュア等温線は、1)全ての結合部位が該ペプチドに対して同じ親和性を有し、2)該ペプチドが該表面上で単層を形成するが、より高いレベルに蓄積できないという条件で、表面への分子の結合を示す。実験データへのラングミュア等温線の優れた当てはめは、これらの条件を有効にし、これらの親和定数は、ペプチド間の比較のために用いられた。図1Aに示されるように、ヒドロキシアパタイトに対する種々のペプチドの結合親和性は、DSSのリピート数の増加に伴って増加した(2DSS、KA=57,000M−1;4DSS、KA=94,000M−1;8DSS、KA=300,000M−1)。
【0035】
いくつかの変異DSSペプチドを試験し、結合親和性における種々のアミノ酸の変更による効果を測定した。これらの変異ペプチドには、第1位置でより長い側鎖を含む4回リピートのペプチド(4ESS、配列番号16)、第2および第3位置でより立体障害的なヒドロキシル基を含む3種の4回リピートのペプチド(4DTT、配列番号17;4NTT、配列番号18;および4ETT、配列番号19)、第1位置で帯電した基を欠損している4回リピートのペプチド(4NSS、配列番号20)、第1位置で帯電した基を欠損している8回リピートのペプチド(8ASS、配列番号21)、ならびに第2および第3位置でヒドロキシル基を欠損している2種の8回リピートのペプチド(8DAA、配列番号22;8NAA、配列番号23)が含まれた。これらの変異体の各々の結合等温線と同サイズのDSS含有ペプチドの等温線との比較によって、負に帯電した残基(4NSS、KA=41,000M−1;4NTT、KA=18,000M−1;8ASS、KA=170,000M−1)の排除(図1B、1C)、またはセリン残基をスレオニンもしくはアラニンで置換すること(4DTT、KA=161,000M−1;4ETT、KA=61,000M−1;8DAA、KA=300,000M−1)(図1B、1C)によって、結合活性が有意に減少することが測定された。第一部位での酸性残基と複数のセリンの両方の置換は、結合親和性のほぼ全体の喪失(4NTT;8NAA、KA=20,000M−1)へと導いた(図1B、1C)。アスパラギン酸残基をグルタミン酸残基で置換することにより、結合親和性の僅かな減少(4ESS、KA=81,000M−1)だけが引き起こされた(図1B)。これらのデータは、酸性残基およびセリンリピートの両方がヒドロキシアパタイト表面に対するこれらのペプチドの親和力に不可欠であることを示唆する。DSSは、ヒドロキシアパタイト結合活性を生じさせるための最適なリピート配列であることが判明し、前記変異ペプチドの全てがインビトロにおいてヒドロキシアパタイトへの結合が著しい減少することが示された。
【0036】
部分的にリン酸化された4回リピートのDSSペプチド(4DSPS、配列番号25)も試験し、4DSSの結合活性と似たヒドロキシアパタイトに対する結合活性を有することが示された(KA=83,000M−1に対して、4DSSではKA=94,000M−1)。しかしながら、4DSPSペプチドは、HA表面上に、非常に多数の利用可能な結合部位を有していた(4DSPSではNMax=1.2×10−7mol/m2に対して、4DSSでは5.8×10−8mol/m2)。
【0037】
実施例2:歯へのDSSペプチドの結合
生物組織へのDSSペプチドの結合を測定するために、矢状方向に切断したヒトの歯は、10mMのNaClおよび50mMのHEPPES、pH7.0を含む12.5μMの5(6)カルボキシフルオレセイン標識した6DSSペプチドの溶液中で10分間インキュベートされた。対照試料は、ペプチドを含めずに調製された。試料を処理後にリンスし、青色レーザー照射(励起波長(λ)=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって撮像した。強い蛍光染色は、6DSSが歯の表面に結合することを示した(図1D)。模擬処理した対照切片は蛍光を示さなかった。ペプチド結合は、象牙質に限定され(図1D、明色の領域、左側)、エナメル質領域では結合は見られなかった(図1D、暗色の領域、右側)。
【0038】
実施例3:鉱化されたマウスの骨髄結節へのDSSペプチドの結合
マウスの骨髄培養物は、DMEM+10%FBS中でコンフルエントになるまで成長させ、次に、50μg/mLアスコルビン酸4mMのβ−グリセロリン酸塩を含むaMEM+10%FBS中の2.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した6DSSまたは2.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したペプチド#3−1(スクランブルされた対照ペプチド、配列番号24)のいずれかを用いて3週間連続して処理された。培養物は、FITC励起/発光フィルターセットを用いて蛍光顕微鏡により撮像し、明視野および蛍光画像の両方を得た。強い染色がDSS処理した試料で観察され、それは、図2Bの中心結節塊に示される明色によって指示された。対照試料では染色は観察されず(図2C、2D)、6DSSペプチドがマウスの骨髄培養物中の鉱化している結節に特異的に結合することを示した。
【0039】
実施例4:固相化したDSSペプチドによるリン酸カルシウム(CaHPO4)の蓄積
4μmの平均径を有するストレプトアビジン被覆したポリスチレンビーズ(Spherotech P.L.C.)は、ビオチン結合体化した8DSSペプチドまたは非結合体化ビオチンのいずれかとともにインキュベートされた。ビーズをPBSで洗浄し、未結合ペプチド(または対照ビーズの場合には未結合ビオチン)を除去し、撮像前の12日間、PBS+1mMのCaCl2+1mMのNaHPO4の溶液中でインキュベートした。図3Aに図示されるように、ほぼ全てのDSSペプチド被覆したビーズは、沈殿した非晶質なリン酸カルシウムの大きな凝集体に取り込まれた。有効サイズの全てのリン酸カルシウム凝集体は、1以上のビーズと関連していた。比較すると、ビオチンブロックした対照試料では、ほぼ全てのビーズは凝集せず、沈殿物と関連がなかった(図3B)。ペプチド被覆したビーズのいくつかは、実験中、より秩序ある鉱物層で覆われるようになり(典型的には図3Cに示される)、被覆していない/ビオチンブロックした対照ビーズは、鉱物を蓄積しなかった(図3D)。
【0040】
実施例5:DSSペプチドによる分解した象牙質表面の再鉱化
摘出したヒトの歯は、矢状方向に切断され(Accutom−50、CA−231ダイヤモンドブレード)、19%エチレンジアミノテトラ酢酸(EDTA)ゲルを用いて1時間脱塩し、その後、脱イオン水に浸水させ、超音波処理して過剰の破片を除去した。試料を50mMのHEPESバッファー(pH7.0)中の12.5μMの8DSSペプチドで処理されるか、バッファーだけ(ペプチドなし)で処理されるか、または未処理のままであった。1時間後、試料をクウェル減感剤(Pentron technologies,LLC)、塩化カルシウムおよびリン酸カリウムの水溶液からなる再鉱化溶液で15分間再鉱化させた。走査電子顕微鏡(SEM)によって撮像する前に試料を十分にリンスした。DSS処理した象牙質試料は、連続層のリン酸カルシウム沈殿物を蓄積し、象牙質細管を完全に閉塞させた(図4B)。模擬処理した試料および未処理の試料は、非常に低いレベルの鉱物沈殿物の蓄積を示し、象牙質細管は完全に露出されたままであった(図4A、4C、4D)。
【0041】
実施例6:DSSペプチドによる歯のエナメル質および象牙質におけるヒドロキシアパタイトの核生成
最終的には組織の再鉱化をもたらし得る、種々の組織調製物にDSSを適用することがHA核生成を促進するかどうかを決定するために、(正常な臨床診療中に摘出後に得られた)矢状方向に切断された成人の歯は、ストレウルス(Streurs)研削砥石を用いて研磨され、核生成実験のために調製された。切断の半分は、35%リン酸を用いて15分間脱塩され、次に、脱イオン水で十分にリンスされた。他の半分は、未処理のままであった。その後、全ての試料は、5分間超音波で処理され、切断および研削および/または脱塩から出る余分な破片を除去した。試料は、50mMのHEPESバッファー溶液(pH7.0)に溶解した12.5μMの8DSSで処理されるか、バッファー溶液のみに処理されるか、または未処理のままであった。次に、模擬体液(SBFn)に試料を4時間浸し、これは、ヒドロキシアパタイト(HA)結晶の核生成を加速することを意味した。核生成工程に続いて、核生成したHA結晶を成長させるために、マグネシウムおよび重炭酸塩不含溶液(SBFg)に浸した。表1は、血漿と比較したSBFnおよびSBFgの組成を示す。両方の溶液は、pH6.8に調整された。SEMによる視覚化を容易にするために、結晶を成長させて、核生成した結晶を増幅させた。
【0042】
【表1】
脱塩していない、未処理の、バッファー処理したエナメル質の表面は、大部分が非晶質のままであり、これは、結晶成長がほとんどないかまたは全くない(したがって、核生成がほとんどないかまたは全くない)ことを示した(図5、上段の2列)。しかしながら、有意な結晶成長(早期および強固な核生成を示す)は、8DSSペプチドに晒された脱塩したエナメル質において観察された(図5、上段の2列)。これは、DSSペプチドが脱塩したエナメル質を特異的に認識し、その脱塩したエナメル質表面上でヒドロキシアパタイト成長の核とし得ることを示す。
【0043】
脱塩していない象牙質の表面は、未処理およびバッファー処理した試料において、ある程度の結晶成長を示した。しかしながら、最も著しい成長、したがって、最も早期であり、最も強固な核生成は、8DSSペプチドで処理した試料で発生した(図5、下段の2列)。実施例5は、脱塩した象牙質上の象牙質細管を閉塞するのに十分なリン酸カルシウムの厚い層の堆積を引き起こす、既存の再鉱化処方計画とともに、DSSペプチドの能力を示すが、これらの結果は、僅かに異なる処理で、結晶の核生成が脱塩されてない象牙質上で主に発生することを示す。このようにして、採用した特定の処置計画に依存して、DSSペプチドを用いて、脱塩した象牙質上のリン酸カルシウムの層を堆積させるか、または十分に鉱化した表面上でヒドロキシアパタイト結晶成長の強固な核生成を引き起こすことが可能である。これは、DSSペプチドを用いて、例えば、象牙質細管の露出に起因する歯の過敏症を治療するか、機械的に創面切除した象牙質に関連した虫歯を再鉱化するか、または破砕した象牙質表面を修復することができることを意味する。
【0044】
実施例7:DSSペプチド結合の組織特異性:
矢状方向に切断したヒトの歯は、0.5MのEDTAとともに15分間インキュベートすることによって脱塩されるかまたは脱塩しないままであった。次に、試料は、12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSS、10mMのNaCl、および50mMのHEPES、pH7.0の溶液中で10分間インキュベートされた。対照試料は、ペプチドなしでインキュベートされた。次に、切片をリンスし、同じレーザーとカメラセットを用いてCLSMによって撮像した。
【0045】
脱塩した試料では、DSSペプチド結合は、エナメル質で主に観察され(図6、左パネル、E)、象牙質ではほとんど結合しないかまたは全く結合しなかった(図6、左パネル、D)。実施例1で検討した結果と一致して、反対のパターンが、脱塩していない試料で観察され、ここで、該ペプチドは、象牙質と主に結合し、エナメル質とはほとんど結合しないかまたは全く結合しないことが示された(図6、右パネル、DとEとを比較)。象牙質−エナメル質接合は、脱塩した試料および脱塩していない試料の両方で明確に区別された(図6、DEJ)。脱塩していないエナメル質に有意な結合は示さないが、脱塩した歯の切片のエナメル質部分に特異的に結合するDSSペプチドの能力は、DSSペプチドが、脱塩したエナメル質を特異的に認識し、脱塩したエナメル質の表面上でヒドロキシアパタイト成長を核にし得るという実施例6の見解と一致している。
【0046】
実施例8:骨の再鉱化
歯の組織について観察された再鉱化の結果が骨まで拡張可能かどうかを決定するために、ラットの大腿を共通の組織プロトコールで屠殺した動物から得た。試験試料は、19%EDTAゲルで1時間脱塩され、次に、脱イオン水に浸し、超音波処理して余分な破片を除去した。その後、試験試料は、8DSSで1時間処理され、リンスされ、試料の半分は、実施例5に記載されるように、クウェル減感剤(Pentron Clinical Technologies,LLC)を用いて再鉱化された。次に、全ての試料は、SEM用に調整され、実施例5のように撮像した。組織表面を覆っている鉱物の連続層が未処理のラットの大腿で観察された(図7、上段パネル)。脱塩した試料では、ハバース(Haversian)管が明らかに露出していた(図7、中段パネル)。しかしながら、8DSSおよびクウェル減感剤による処置に続いて、鉱物表面が回復し、該管の閉塞が観察された(図7、下段パネル)。このようにして、DSSペプチドは、歯の組織と同じく、骨の再鉱化を促進することができる。
【0047】
実施例9:ヒトの歯におけるDSSペプチドの組織特異的結合:
歯の組織へのDSSペプチド結合の組織特異性を調べるために、ヒトの歯の切片をDSSペプチドおよび変異体に晒し、次に、実施例2に記載されたようにCLSMによって撮像した。これらの実験のために利用した該ペプチドは、8DSS、8ASS、8DAA、8NAA、4DSS、4ESS、4NSS、4DTT、4ETT、4NTT、および6DSSであった。正常な臨床診療中に摘出されたヒトの歯の矢状方向の切片を研磨し、次に、10mMのNaClおよび50mMのHEPES、pH7.0を含む適切な5(6)カルボキシフルオレセイン標識したペプチド(12.5μM)の溶液中で10分間インキュベートした。対照試料は、ペプチドなしに調製された。処理後、試料を頻繁に洗浄し、青色レーザー照射(λ=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて、各試料に対して同一のカメラおよび顕微鏡セットを有するCLSMによって撮像された。各切片について、複数のスキャンは、自動モードで収集され、整理されて、大部分の場合において全切片を包含するのに十分である13×13mmの領域に相当する画像のパネルを生じさせた。実施例1において結合親和性結果によって示唆されるように、配列(DSS)nを含むペプチドは、歯の表面への最高レベルの結合を示し、6DSSおよび8DSSは、最大レベルの染色を示した。これらの実験結果は、図8に記載される。8DSS、6DSS、および4DSSはマントル象牙質に主に結合し、象牙質−エナメル質接合ははっきりと描かれ、根端象牙質または基底エナメル質への結合は低いかもしくは全くなく、皮質エナメル質またはエナメル質表面のいずれかへの結合は検出できなかった。有意な結合も歯髄腔の端に見られた。8ASS、4ESS、および4NSSは、同じパターンを示したが、結合はより低いレベルであった。8DAAは、この結合パターンとは正反対を示し、根端の象牙質および皮質エナメル質に、ならびに象牙質−エナメル質接合および歯髄腔壁に主に結合した。8DAAは、マントル象牙質、髄周象牙質、および基底エナメル質にほとんど結合しないかまたは全く結合しないことが示された。4DTTおよび4ETTは、4DSSおよび4ESSと同様の結合パターンを示したが、レベルが急減した。8NAAは、いずれの健常組織にはほとんど結合を示さず、その試料に存在する齲蝕病変に幾分結合した(下記の実施例10を参照されたい)。4NTTは、試料に付着した歯根骨の断片に強力に結合することが示されたが、健常な歯の組織への結合レベルは非常に低かった。これらの結果は、歯の特定の層が特定のペプチドを用いて高い特異性で標的化され得ることを示唆している。
【0048】
実施例10:歯の齲蝕病変へのDSSペプチドの優先的結合:
脱塩したエナメル質からなる明らかな齲蝕病変を含むヒトの歯の切片を研磨し、実施例2に記載したプロトコールを用いて、5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したDSSペプチドおよび変異体に晒した。切片を頻繁に洗浄し、青色レーザー照射(λ=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて、各ペプチドから検出されるシグナルを最適化するために各試料について調整した顕微鏡およびカメラセットを有するCLSMによって撮像した。画像を調べ、健常組織対虫歯組織におけるペプチド結合の相対レベルを特定した。4ESS、4NSS、8DAA、8NAA、4ETT、4DSS、8ASS、8DSS、および6DSSは、齲蝕病変に対して非常に特異的な結合を示し、周辺の健常なエナメル質にはほとんど結合しないかまたは全く結合しなかった(図9;これらの病変のいくつかは、同様に図8に見られる)。他のペプチドは試験しなかったが、これらの結果に基づいて、齲蝕病変への結合が推測される。これらのペプチドのうち、4ESS、4NAA、8DSS、6DSS、4DSS、8DAA、および8ASSは、例外的に齲蝕病変の強い染色を示し、周辺のエナメル質には相対的に弱い(多くの場合、全くない)結合であった。齲蝕病変に結合するこれらのペプチドの能力は、健常なエナメル質の十分に鉱化した表面にはほとんど結合しないかまたは全く結合しないことを示し、これらのペプチドを用いて、歯の象牙質の虫歯または歯の病変を同定し得ることを示す。エナメル質分解の部位での再鉱化するそれらのペプチドの能力が与えられると(実施例6)、それらは、健常な組織表面上で不適切な核生成を引き起こすことなしに、虫歯または傷害部位などのエナメル質分解の部位で再鉱化を開始するために用いることも可能である。
【0049】
実施例11:リン酸カルシウムへのDSSペプチドの選択的結合:
マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、およびストロンチウムのリン酸塩は、100mMリン酸ナトリウム(pH7.5)と100mMの前述の金属イオンの塩化物または硫化物(それぞれ、MgCl2、CaCl2、MnCl2、CoCl2、NiSO4、CuSO4、およびSrCl2)の溶液とを組み合わせることによって調製した。沈殿物を即座に回収し、脱イオン水で2回洗浄し、保存のために乾燥させた。ペプチド結合の分析に対して、懸濁液は、50mMのHEPES pH7.0、10mMのNaCl、および12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドを含む溶液で約0.5%(w/v)の濃度で各リン酸塩から作製された。各試料を室温で10分間インキュベートし、次に、50mMのHEPES pH7.0および10mMのNaClの溶液で2回洗浄し、同じバッファーに再懸濁し、蛍光顕微鏡で撮像した。同一の顕微鏡およびカメラセットを各試料について使用し、試料間で定量的な比較を可能にした。各試料について、明視野および蛍光画像は、一視野から集められた。各試料における無機リン酸塩粒子の蛍光染色の強度は、下記の通り、GIMP(http://www.gimp.org)を用いてピクセル強度を測定することによって評価された。目安として明視野画像を用いて、リン酸塩凝集体に対応する蛍光画像の範囲を選択し、これらの領域のピクセル画像を記録した。これらは、バックグラウンド領域(任意の凝集体を含まないことが分かっている領域)について記録した強度と比較した。次に、これらのデータは、染色強度(I染色)とバックグラウンド強度(Iバックグラウンド)との比として表され、等式:相対蛍光=(I染色/Iバックグラウンド)*(I染色−Iバックグラウンド)を用いて、(非常に低レベルの染色を有する試料中に存在する高いノイズレベルに対して補正するために)染色強度とバックグラウンド強度との間の差の絶対等級を掛けた。低レベルの染色はNiHPO4凝集体に見られるが、最高レベルの染色は、CaHPO4および化学的に類似したSrHPO4凝集体に見られた(図10)。これは、DSSペプチドの結合が無機沈殿物との非特異的表面付着現象ではなく、むしろ、DSSペプチドがリン酸カルシウム沈殿物とリン酸ストロンチウム沈殿物とを区別し得る限りでも、リン酸カルシウムとの非常に選択的な相互作用を伴うことを示す。
【0050】
実施例12:シュウ酸カルシウムへのDSSペプチドの結合:
シュウ酸カルシウムは、以前に記載された方法(Wang 2006)を用いて調製された。シュウ酸カルシウムの結晶は、脱イオン水で洗浄され、次に、50mMのHEPES pH7.0、10mMのNaCl、および12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドを含む溶液に再懸濁させた。結晶懸濁液を室温で10分間インキュベートした。次に、結晶を遠心分離によって回収し、50mMのHEPES pH7.0および10mMのNaClの溶液で2回洗浄し、実施例11に記載したように蛍光顕微鏡によって視覚化した。標識したペプチドの存在は、結果として、シュウ酸カルシウム凝集体の顕著な染色をもたらした(図11)。シュウ酸カルシウムは、腎臓結石(腎結石症)に存在する最も一般的な化合物であるため(Coe 2005)、これらの結果は、DSSペプチドを用いて診断または治療用途において腎臓結石を標的にすることができ、該ペプチドが腎臓結石の成長を調節し得ることを示唆する。
【0051】
実施例13:DSSペプチド−抗菌化合物の融合体の抗菌活性:
治療用化合物を鉱化した表面に送達させる標的部分として機能するDSSペプチドの適合性を決定するために、N−末端(DSS)4、(DSS)5、または(DSS)6ペプチド、トリグリシン(GGG)リンカー、および2c−4抗菌ペプチド(配列番号26)(J.He、非公開)を含むペプチドを合成した。これらの融合タンパク質の配列は、それぞれ、配列番号27〜29に記載されている。嫌気性プランクトン細菌に対するこれらのペプチドの抗菌活性は、以前に記載されたアッセイ(Qi 2005)の変形によって測定した。簡潔に言えば、Streptococcus mutans菌株UA159細胞をTodd−Hewitt(TH)ブロス培地中に約1×105cfu/mLまで希釈し、懸濁したヒドロキシアパタイト・ナノクリスタル(Berkeley Advanced Biomaterials,Inc.,0.03%w/v)、または対照試料については、等量の脱イオン水と混合した。アリコートを96ウェルプレート(Fisher)に移した。次に、連続希釈したペプチドを作製し、前記細菌に添加した。各ペプチドの最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)は、波長600nmで細胞懸濁液の吸光度によって測定されるように、約24時間のインキュベーション後、細菌成長を完全に阻害するペプチド濃度を同定することによって決定した。ペプチド2c−4は、単独で、プランクトン様S.mutansに対して2μMのMICを示す。(DSS)4部分と結合体化し、ペプチド4DSS−2c4を生成すると、そのMICは52.5μMに上昇し、有効性の顕著な喪失は、0.03%(w/v)のヒドロキシアパタイトの添加によって影響を受けない。しかしながら、実施例1に示したように、(DSS)4部分は、より多くのDSSリピートを有するペプチドよりもヒドロキシアパタイトに対して低い親和性を示し、高い正電荷の2c−4ペプチドは、高い負電荷の(DSS)4部分と相互作用して活性を幾分阻害するかもしれない。それにもかかわらず、ある程度の抗菌活性は、このペプチドによって保持される。
【0052】
あるいは、ペプチド6DSS−b−34(配列番号31)を生成するための(DSS)6部分とb−34抗菌ペプチド(配列番号30)(J.He、非公開)との結合体化は、親ペプチド(6DSS−b−34ではMIC=3.1μMに対して、b−34では5.6μM)の結合体化よりも抗菌活性における改善をもたらす。0.03%HAの追加は、6DSS−b−34の抗菌活性を幾分減少させるが、得られた12.5μMのMICは、なお、Streptococcus mutansに対して著しい活性を示す。なお別の代替において、ペプチドPL−135(配列番号32)(R.Lehrer、非公開)は、培地単独でのプランクトン様S.mutansに対して21μMのMICを示す。ペプチド5DSS−PL135(配列番号33)を生成するためにこのペプチドと(DSS)5部分との結合体化により、培地単独でのS.mutansに対するその抗菌活性を>170μMまで減少させる。該培地に0.03%ヒドロキシアパタイトの懸濁液を添加することにより、大半のこの活性の回復をもたらし、MICを42.5μMまで減少させる。
【0053】
これは、他の化合物がDSSペプチドと結合体化されると、それらの活性を維持し得ることを示す。さらに、これは、DSSペプチド標的の存在下で顕著な活性を唯一有する化合物が容易に生成され得ることを示し、石灰化した(骨、歯など)表面で唯一活性的であり、他の環境では不活性である化合物を開発する容易な手段を示唆する。このような化合物は、鉱化した組織障害に対する治療的アプローチの安全性および有効性を増大させる大きな進歩を示すことになる。
【0054】
上述したように、前記は、本発明の種々の態様を説明するために意図されるに過ぎない。上記で検討した具体的な変形は、本発明の範囲に関する制限として解釈されるべきではない。種々の同等物、変更、および変形は、本発明の範囲から逸脱することなく実施されてもよく、このような同等な態様は、本明細書中に含まれるべきであることが理解されることは当業者に明確である。本明細書中に引用された全ての参照文献は、あたかも本明細書中に十分に記載されているかのように、参照により援用される。
【0055】
【数1】
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ヒドロキシアパタイトおよび歯の表面に対するDSSおよびDSS変異ペプチドの結合親和性。A−C.0〜100μMの範囲の濃度の蛍光標識したペプチドは、0.3mgのヒドロキシアパタイトのナノクリスタル(比表面積=100m2/g)とともに10分間インキュベートし、次に、遠心分離によってヒドロキシアパタイトを取り除いた。ヒドロキシアパタイトの除去の前後における混合物中のペプチド量は、Abs480により決定した。等温線をプロットし、ラングミュア等式に適合させ、ヒドロキシアパタイト表面に対するペプチドの親和性を反映する定数であるKAを導き出した。D.矢状方向に切断したヒトの歯を12.5μMの5(6)のカルボキシフルオレセイン標識した6DSSペプチドとともに10分間インキュベートし、次に、リンスした。歯の表面に結合しているペプチドは、青色レーザー照射(λ=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって視覚化した。左側、明色領域:象牙質。右側、暗色領域:エナメル質。
【図2】鉱化したマウス骨髄結節(mouse bone marrow nodule:MBMN)への6DSSペプチドの結合。マウス骨髄培養物は、コンフルエントになるまで成長させ、次に、2.5μMの混ぜ合わせた対照ペプチドまたは2.5μMの6DSSを用いて、3週間処理した。培養物は、FITCフィルターセットを用いた蛍光顕微鏡によって撮像された。A.6DSSで処理した培養由来の鉱化したMBMNの明視野。B.(A)において示される領域の蛍光画像。中心結節塊の強い染色(明色化)は、蛍光標識した6DSSペプチドによる結合を示す。C.混ぜ合わせた対照ペプチドを用いて処理した培養物由来の鉱化したMBMNの明視野画像。D.(C)で示される領域の蛍光画像は、MBMNへの対照ペプチドの結合の欠損、および試料内の自家蛍光の欠損の両方を図示する。
【図3】固定化8DSSペプチドとCaHPO4との相互作用。ストレプトアビジン被覆したポリスチレンビーズは、ビオチン結合体化した8DSS(AおよびC)または結合体化していないビオチン(B)および(C)とともにインキュベートした。ビーズを洗浄し、PBS+1mMのCaCl2+1mMのNaHPO4の溶液中で、撮像する前の12日間インキュベートした。A.DSS被覆ビーズの周囲に堆積した非晶質なリン酸カルシウムの凝集体の明視野顕微鏡写真。有意な大きさの全てのリン酸カルシウム凝集体は、1以上のビーズと関連していた。B.代表的なビオチンブロックしたビーズ(DSSペプチドなし)の明視野画像。有意量の沈殿物は、これらのビーズには関連しなかった。C.外部周囲にリン酸カルシウムがより秩序良く付着したDSS被覆ビーズの位相差顕微鏡写真(物体の球中心に着目されたい)。これらの物体は、(D)に図示されるように、対照試料(ビオチンブロックされた、DSSペプチドなし)では見られなかった。スケールバー=4μm。
【図4】DSSペプチドを用いた歯表面の再鉱化。抽出したヒトの歯は、矢状方向に切断し、19%EDTAゲルで1時間脱塩し、次に、脱イオン水に浸し、超音波処理して余分な破片を除去した。指示した通りに試料を処理し、次に、走査電子顕微鏡によって撮像した。スケールバー=50μm。A.脱塩した対象試料。B.8DSSで1時間処理し、リンスし、クウェル減感剤(Quell Desensitizer)を用いて再鉱化した。C.バッファーのみで処理し、クウェル減感剤を用いて再鉱化した。D.処理せずに、クウェル減感剤を用いて再鉱化した。
【図5】エナメル質(上段)および象牙質(下段)表面でのヒドロキシアパタイトの核生成。表面は、実施例6に記載されるように、表示によって指示したように、調製および処理し、その後、走査電子顕微鏡によって撮像した。上段グループ(上段の2列)は、エナメル質試料を表し、下段グループ(下段の2列)は、象牙質試料を表す。各グループ内では、上の列は、処理前に脱塩されていない試料を表し、下の列は、リン酸を用いた処理によって脱塩された試料を表す。走査電子顕微鏡写真を示し、スケールバー=10μMである。左カラム:核生成および結晶成長前にいずれの処理にも晒していない試料。中央カラム:核生成および結晶成長前にバッファーのみに晒した試料。右カラム:核生成および結晶成長前に、12.5μMの8DSSペプチドに晒した試料。結晶成長は、初期の核生成を示す。
【図6】8DSSペプチド結合の組織特異性および鉱化状態へのその依存性。脱塩したヒトの歯の試料および脱塩していないヒトの歯の試料は、実施例9に記載されるように、12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドとともにインキュベートされ、切片がリンスされ、CLSMによって撮像された。左パネルは、脱塩した組織に対する8DSSペプチドの結合パターンを示す。主要な結合は、脱塩したエナメル質(E)に対するものであって、象牙質(D)に対してはほとんどない。反対のパターンは、脱塩していない試料において観察され、そこでは、主要な結合は、象牙質(D)に対するものであって、エナメル質(E)に対してはほとんどないかまたは全くない。象牙質−エナメル質の接合部、即ち、表示したDEJは、両ケースにおいて明確に区分されている。
【図7】骨の鉱化。ラットの大腿は、共通の組織プロトコールにより、屠殺した動物から得られた。試料を脱塩し、リンスし、超音波処理して破片を除去した。試験試料は、8DSSペプチドで1時間処理され、リンスされ、クウェル減感剤を用いて再鉱化された。C.バッファーのみで処理し、実施例8に記載されるように、クウェル減感剤を用いて再鉱化され、次に、走査電子顕微鏡により撮像された。SEM画像を示す。上段:未処理試料、鉱物によって完全に覆われた骨表面を示す。中段:脱塩した試料、鉱物層の除去によって晒されたハバース管を示す。下段:8DSSおよびクウェル減感剤(水性CaCl2/K2HPO4溶液)で処理された骨、鉱物層の再構築を示す。
【図8】DSSペプチドおよび変異体の結合における組織特異性を示す蛍光顕微鏡写真。成人の歯は、脱塩せずに12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したペプチドに晒され、頻繁に洗浄され、CLSMによって撮像された。各切片について、複数のスキャンが自動モードで収集され、まとめられて、大部分の場合において切片全体を包含するのには十分である13×13mmの領域に相当する画像のパネルを生じさせる。各切片に用いられるペプチドは、各パネルの下に表示され、各パネル内には、歯が配向し、画像の上側に向って歯根があり、下側に向って歯冠がある。組織層は、次のように表示される:RTD=根端象牙質(Root Tip Dentin)、CPD=髄周象牙質(Circumpulpal Dentin);MD=マントル象牙質(Mantle Dentin);P=歯髄腔壁(Pulp Cavity Wall);DEJ=象牙質−エナメル質接合(Dentin−Enamel Junction);E=エナメル質(Enamel);BE=基底エナメル質(Basal Enamel);CE=皮質エナメル質(Cortical Enamel);CL=齲蝕病変(Carious Lesion);PB=歯周骨(Periodontal Bone)。
【図9】歯の齲蝕病変に対するDSSペプチドおよび変異体の特異的結合を示す蛍光顕微鏡写真。成人の歯は、脱塩せずに12.5uMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したペプチドに晒され、頻繁に洗浄され、CLSMによって撮像された。顕微鏡およびカメラセットは、各試料に対して別々に最適化された。各パネルは、齲蝕病変を包含する歯の切片の領域を示す。各パネルの右側の白色痕跡は、歯の表面の位置を特定し、矢印は、染色された病変の位置を示す。
【図10】様々な無機リン酸塩沈殿物に結合する8DSSの相対レベル。100mMリン酸ナトリウム(pH7.5)は、それぞれ、MgCl2、CaCl2、MnCl2、CoCl2、NiSO4、CuSO4、およびSrCl2の100mM溶液と合わせた。懸濁液は、12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドの存在下で、約0.5%(w/v)の濃度で各リン酸塩から調製された。室温で10分間のインキュベーション後、試料を洗浄し、蛍光顕微鏡で撮像した。各試料の無機リン酸塩粒子の蛍光染色の強度は、実施例11に記載されるように、GIMP(www.gimp.org)を用いたピクセル強度値を測定することによって評価した。標準化した蛍光値をここにプロットした。X軸上には、様々な無機リン酸塩沈殿物が特定される。Y軸上には、相対的蛍光強度値がプロットされる。
【図11】シュウ酸カルシウムへの8DSSペプチドの結合。シュウ酸カルシウム結晶を12.5μMの8DSSペプチドに晒し、洗浄し、実施例12に記載されるように蛍光顕微鏡により撮像した。図の左側は、染色していないシュウ酸カルシウム結晶を示す。明視野画像(上段)は、結晶の存在を確認し、同じ領域(下段)の蛍光画像は、これらの条件下で、シュウ酸カルシウムが可視蛍光を持たないことを確認する。図の右側は、5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドを用いて染色したシュウ酸カルシウム結晶を示す。明視野画像(上段)は、結晶の存在を確認し、同じ領域の蛍光画像(下段)は、標識したペプチドによる結晶の明染色を示す。
【背景技術】
【0001】
本願は、2005年9月8日に出願された、米国仮特許出願第60/722,071号に対する優先権を主張する。米国仮特許出願第60/722,071号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
背景
石灰化表面に特異的に結合する化合物には、テトラサイクリン、カルセイン、およびアリザリンなどの小蛍光分子、および象牙質リンタンパク質(dentin phosphoprotein:DPP、多くの場合、ホスホホリンと呼ばれる)およびアメロゲニンなどの巨大カルシウム結合タンパク質が含まれる。DPPは、象牙質細胞外マトリックスに見出される主要な非コラーゲン性タンパク質の1つであって、象牙質の鉱化過程でのヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite:HA)の核生成に関係していると長期間思われてきた(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。ヒトDPPは、象牙質シアロリンタンパク質(dentin sialophosphoprotein:DSPP)のタンパク質分解的切断から誘導される。ヒトDPPは、多数のAsp−Ser−Serアミノ酸のリピート(非特許文献5)から主としてなる非常に柔軟であり(非特許文献6)、非常にリン酸化された(非特許文献1)タンパク質である。DPPの生化学的特徴は、幅広く調査されている。これらの調査により、固相化したDPPは、ヒドロキシアパタイトの核生成の比率を顕著に増加させ、この効果は、溶液中のDPPまたは脱リン酸化されたDPPでは見られないことが明らかになった。さらに、高濃度のDPPは、HA結晶成長を阻害することが示されている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献7)。
【非特許文献1】Lee,S.L.ら、1980,Int J Pept Protein Res 16:231−240
【非特許文献2】Lussi,A.ら、1988,Arch Oral Biol 33:685−691
【非特許文献3】Veis,A.ら、1998,Eur J Oral Sci 106 Suppl 1:234−238
【非特許文献4】Hao,J.ら、2004,Bone 34:921−932
【非特許文献5】Gu,K.ら、2000,Eur J Oral Sci 108:35−42
【非特許文献6】Cross,K.J.ら、2005,J Pept Res 66:59−67
【非特許文献7】Saito,T.ら、2000,J Bone Miner Res 15:1615−1619
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
ある種の態様では、1以上のカルシウム結合ペプチドを含む組成物が提供される。これらのカルシウム結合ペプチドは、3個のアミノ酸のリピート配列(X−Y−Z)n、式中、Xは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンまたはグルタミンであり、YおよびZは、アラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、またはホスホスレオニンであり、nは、1〜40の数である、を含み、該カルシウム結合ペプチドはリン酸カルシウムに結合する。これらの態様のうちある種の態様では、カルシウム結合ペプチドは、約1〜約40回の3個のアミノ酸のリピート(即ち、n=1〜40)を含み、約3〜約120個のアミノ酸長を有する。これらの態様のうちある種の態様では、nは、2〜8の数である。ある種の態様では、Xは、アルパラギン酸であり、YおよびZは、セリンである。これらの態様のうちある種の態様では、カルシウム結合ペプチドは、配列番号12〜15のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有してもよい。
【0004】
ある種の態様では、本明細書中に提供されるカルシウム結合ペプチドは、1以上の結合体(conjugate)または部分に連結することができる。これらの態様のうちある種の態様では、前記結合体または部分は、例えば、発蛍光団、発色団、アフィニティータグ、抗原タグ、放射性標識、またはスピン標識などの検出可能なマーカーである。ある種の他の態様では、前記結合体または部分は、ペプチド、タンパク質、糖質、核酸、脂質、有機化合物、無機化合物、または有機金属化合物である。ある種の他の態様では、前記結合体または部分は、例えば、抗癌もしくは抗菌剤または化合物などの治療剤である。前記結合体または部分が抗菌剤であるこれらの態様のうちある種の態様では、該抗菌剤は、抗菌性ペプチド配列であってもよい。ある種の態様では、前記結合体または部分は、アミノ酸リンカーを介してカルシウム結合ペプチドに連結することができる。
【0005】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物を投与することによって、被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を治療する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドの投与は、歯の表面の再鉱化を誘導することができる。
【0006】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物を投与することによって、被験体における骨の脱塩または骨密度の減少によって特徴付けられる骨の欠損を治療する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドの投与は、骨表面の再鉱化および骨密度の増加を誘導することができる。
【0007】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチド、該ペプチドは検出可能なマーカーに結合体化される、を含む組成物を投与し、次に、裸眼または検出装置のいずれかを用いて、このマーカーを検出することによって、被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を同定する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドは、脱塩を示している歯の部分に選択的または優先的に結合することができる。
【0008】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチド、該ペプチドは検出可能なマーカーに結合体化される、を含む組成物を投与し、次に、裸眼または検出装置のいずれかを用いて、このマーカーを検出することによって、被験体における骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠損を同定する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドは、脱塩を示している骨の部分に選択的または優先的に結合することができる。
【0009】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチド、該ペプチドは検出可能なマーカーに結合体化される、を含む組成物を投与し、次に、裸眼または検出装置のいずれかを用いて、このマーカーを検出することによって、被験体における骨または歯以外の組織における石灰化を同定する方法が提供される。本明細書中に開示されるように、これらのカルシウム結合ペプチドは、カルシウムおよびシュウ酸カルシウムに結合することができる。この方法を用いて同定され得る石灰化には、例えば、動脈プラーク、腎臓結石、および種子が含まれる。ある種の態様では、例えば、該ペプチドを治療用部分と結合体化させ、該ペプチドを用いて、該治療用部分を石灰化部位に標的化することによって、該ペプチドがこれらの不適切な石灰化を処置するために用いることができる。
【0010】
ある種の態様では、歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠損、または骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠損の治療に使用するための、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物が提供される。ある種の態様では、これらの組成物を用いて、脱塩によって特徴付けられる歯または骨の欠陥を検出または診断することができる。
【0011】
ある種の態様では、本明細書中に開示されるカルシウム結合ペプチドを含む組成物を含むキットが提供される。これらの態様のうちある種の態様では、前記キットは、使用または投与のための取扱説明書を含む。ある種の態様では、これらのキットは、歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥、または骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠陥を治療するために用いることができる。ある種の態様では、これらの組成物を用いて、脱塩によって特徴付けられる歯または骨の欠陥を検出または診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
詳細な説明
下記の発明の説明は、発明の種々の態様を例示することを単に意図する。このように、検討されている特定の修飾は、本発明の範囲の限定として構築されるべきではない。種々の同等物、変更物、および修飾物は、本発明の範囲から逸脱することなしに実施され得ること、およびこのような同等の態様は本明細書中に含まれるべきであることは、当業者に明確となる。
省略形
下記の省略形が本明細書中に使用される:BE、基底エナメル質(basal enamel);CE、皮質エナメル質(cortical enamel);CL、齲蝕病変(carious lesion);CLSM、共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy);CPD、髄周象牙質(circumpulpal dentin);D、象牙質(dentin);DEJ、象牙質−エナメル質接合(dentin−enamel junction);DPP、象牙質リンタンパク質(dentin phosphoprotein);E、エナメル質(enamel);DSPP、象牙質シアロリンタンパク質(dentin sialophosphoprotein);HA、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite);MD、マントル象牙質(mantle dentin);MIC、最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration);P、歯髄腔壁(pulp cavity wall);PB、歯周骨(periodontal bone);SEM、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy);RTD、根端象牙質(root tip dentin);λ、励起波長(excitation wavelength)。
【0013】
アミノ酸は、下記に記載される標準的な方式を用いて省略される。
【0014】
【化1】
例えばD−Alaの「D」接頭辞によって他に指示がなければ、本明細書中に記載されるペプチド中のアミノ酸およびアミノアシル残基のアルファ−炭素の立体化学は、天然の立体配置であるかまたは「L」立体配置である。
【0015】
カルシウム結合ペプチド
脱灰された組織の直接的な再鉱化に現在利用可能な化合物は、遊離したまたはタンパク質が結合したリン酸カルシウムおよび/またはフッ化ナトリウムの様々な製剤から主になる。生物組織中での石灰化の増大は、一般的に、骨および歯の前駆細胞における細胞シグナリングを操作することによって、あるいはカルシウム強化食物、食事栄養食品、または遊離したもしくはタンパク質が結合したカルシウムに富んだ他の処置薬を用いて、全カルシウム濃度を増加させることによって達成される。従来の研究では、再鉱化を増大するために歯の表面にリン酸カルシウムを補強する製剤が記載されている(米国特許第6,780,844号を参照されたい)。しかしながら、カルシウムを直接的および特異的に標的化することによる石灰化の増大は示されていない。
【0016】
DPP中に見出されるAsp−Ser−Serモチーフの変異体から作られた一連の小カルシウム結合ペプチドが、本明細書中に開示されている。これらのペプチドは、リン酸カルシウム表面に堅固にしかも特異的に結合することが示されている。さらに、これらのペプチドは、このような表面にリン酸カルシウムを補強し、それらのリン酸化状態に関わらずに石灰化した表面に蛍光ラベルを付着させるための結合部分として使用されることが示されている。
【0017】
本明細書中に開示されているペプチドは、一般的に、DSSペプチドと呼ばれ、DPPの3個のアミノ酸Asp−Ser−Serモチーフもしくはそれらの変異体の様々な数および/または組み合わせから構成されている。利用することが可能な3個のアミノ酸のリピートの例には、限定されないが、Asp−Ser−Ser(DSS、配列番号1)、Glu−Ser−Ser(ESS、配列番号2)、Asp−Thr−Thr(DTT、配列番号3)、Glu−Thr−Thr(ETT、配列番号4)、Asn−Ser−Ser(NSS、配列番号5)、Asn−Thr−Thr(NTT、配列番号6)、Gln−Ser−Ser(QSS、配列番号7)、Gln−Thr−Thr(QTT、配列番号8)、およびそれらの変異体が挙げられる。あるいは、またはこれらのリピート配列に加えて、本明細書中に開示されているペプチドは、これらのリピートの小さな変異体を含んでもよく、限定されないが、Asp−Ser−Thr(DST、配列番号9)、Asp−Ala−Ala(DAA、配列番号10)、またはAla−Ser−Thr(AST、配列番号11)が含まれる。3個のアミノ酸のリピート内の1以上のアミノ酸残基は、化学的に修飾することができる。例えば、該ペプチドは、リン酸基の追加によって水酸基が修飾されている1以上のSerまたはThr残基を含むことが可能である。これらのペプチドは、3個から50個を越えるアミノ酸長で変化することができる。
【0018】
石灰化した表面に対する、本明細書中に開示されているペプチドの結合親和性は、リピートの組成および数を変更することによって調節可能である。例えば、1以上のAsp−Ser−Ser(配列番号1)リピートの含有によって、ペプチドの結合親和性が増加し、それは、この配列が試験した任意のリピート中で最大の親和性を示すためである。3個のアミノ酸のリピートの数を増加させることによって、該ペプチドの結合親和性を増加させることもできる。6を超えるリピートを含むペプチドは、より少ないリピートを有するペプチドよりも大きな結合親和性を示す。ある種の態様では、本明細書中に開示されているペプチドは、ヒドロキシアパタイトに対する結合親和性(KA)が15,000M−1を超えてもよい。ある種の態様では、この結合親和性は50,000M−1を超えてもよく、他の態様では100,000M−1を超え、他の態様では200,000M−1を超え、他の態様では300,000M−1を超えてもよい。
【0019】
ある種の態様では、前記ペプチドは、3個のアミノ酸のリピート配列の一部ではない1以上の追加のアミノ酸を含むことが可能である。例えば、ある種の態様では、該ペプチドのリピート部分は、追加の官能性を有するアミノ酸配列、例えば、2c−4、PL135、またはb−34ペプチド配列などの抗菌性ペプチド配列に融合されてもよい。ある種のこれらの態様では、該ペプチドのリピート部分は、リンカー配列、例えば、トリグリシン配列を介して追加のアミノ酸配列に融合されてもよい。
【0020】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているペプチドは、配列(X−Y−Z)n、式中、Xは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンおよびグルタミンから選択されるアミノ酸であり、YおよびZは、アラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、ホスホスレオニン、およびそれらの誘導体から選択されるアミノ酸であり、nは、1〜20の数である、を含む。ある種の態様では、nは1〜15であり、他の態様では、nは1〜10であり、ある種の態様では、nは3〜8である。
【0021】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドは、処置条件に応じて、脱塩したエナメル質、および脱塩した象牙質と脱塩していない象牙質との両方でリン酸カルシウム結晶の成長を増すことが示されている。同様に、該ペプチドは、骨の再鉱化を誘導することが示されている。このようにして、ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、浮遊しているリン酸カルシウム粒子を石灰化した表面に補強することによって鉱化を増大させることができる。これらのペプチドは、石灰化した表面および/または浮遊しているリン酸カルシウム凝集体に結合することが可能である。石灰化した表面および浮遊している凝集体の同時結合は、石灰化した表面近傍のリン酸カルシウム濃度を結果として増加させ、該表面の再鉱化の増大へと導く。前記ペプチドの大きさおよび結合親和性を調節することによって、該表面に結合したカルシウム量を変更することができる。ある種の態様では、歯の再鉱化は、結果として、完全であるかまたは部分的な象牙質細管の閉塞をもたらす。
【0022】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、歯を再鉱化し、歯の脱塩を阻害するかまたは遅らせ、歯の損傷、欠陥、病気、もしくは異常を治療し、歯の表面でもしくはその下で鉱物層を形成させ、歯の鉱物密度を変更し、例えば、鉱物密度を増加させるかもしくは減少させ、または歯部位を密封することが可能である。同様に、これらの組成物を用いて、骨の欠陥、傷害、腫瘍、異常成長、病気、もしくは骨の喪失を治療し、骨の表面でもしくはその下で鉱物層の形成を引き起こし、または、例えば密度を増加もしくは減少させることによって骨の密度を変更することができる。これらの態様では、上述した1以上のカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、影響を受けている骨または複数の骨の部位でまたはその近傍で適用される。ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、石灰化、石灰質病変、または動脈プラークを含む、骨以外の組織および臓器における鉱化した欠陥を治療することができる。
【0023】
状態を「治療すること」またはその「治療」とは、本明細書中で使用するとき、該状態を妨げるかもしくは修復すること、該状態の開始もしくは発症速度を遅延させるかもしくは遅らせること、該状態の発症の危険性を低下させること、該状態と関連した症状の発症を妨げるかもしくは遅延させること、該状態と関連した症状を低減させるかもしくは終わらせること、該状態の完全なもしくは部分的な退行を生じさせること、またはそれらのいくつかの組み合わせを意味し得る。
【0024】
ある種の態様では、本明細書中に開示しているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、所望の化学部分または粒子が石灰化した表面、例えば骨および歯の表面に特異的に接着するための手段として用いることが可能である。遊離したまたはタンパク質が結合したカルシウムの製剤で口腔を溢れさせることに頼る、歯の表面の再鉱化への現在のアプローチとは異なって、これらの化合物は、リン酸カルシウム凝集体が歯の表面に特異的に付着するようにさせ、したがって、カルシウムおよびリン酸塩の局所濃度を増加させ、このリン酸カルシウムが歯の所定領域に取り込まれるようになるという可能性を増加させる。石灰化した組織の傷害または疾患に対する現在の製剤治療は、ある画分が石灰化した表面と相互作用するであろうと期待して、対象とする治療化合物の遊離溶液を用いて、直接的(局所的)投与または全身投与のいずれかによって、所望の表面の領域を取り囲むことに依存する。
【0025】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、不適切な石灰化のためのインサイチュー(in situ)およびインビボアッセイ用に用いることができる。例えば、これらの組成物を用いて、石灰化、石灰性病変、または例えば動脈プラーク、腎臓結石、もしくは種子を含む、骨以外の組織および臓器における鉱化した欠陥を診断し、特定し、突き止め、または治療することができる。石灰化の存在を測定するために現在使用されているアッセイには、色素結合法、放射性同位体の取り込み、X線透過分析、および定量化学分析が挙げられる。これらの方法の各々は、ある種の欠点に悩まされている。色素結合法では、試料は、テトラサイクリン、カルセイン、またはアリザリンなどのカルシウムキレート化蛍光色素に晒され、対象とする組織に該色素の取り込みが視覚化される。この色素をインビボに導入させることはできるが、シグナルの視覚化は、対象とする組織の切除を必要とする。固定された組織の銀イオンによる処置(フォン・コッサ(von Kossa)染色)は、石灰化の部位を同定するために用いることもできるが、この方法は、インビボでは適用することができず、顕著なレベルのバックグラウンド染色を被る。45Caなどの放射性同位元素の取り込みによって、インビボでの石灰化の位置および速度についての正確であり、定量的な情報が与えられるが、実験被験体を高レベルの電離放射線に晒すという欠点を有する。X線透過分析は、高空間分解能を与え、生存動物で行うことは可能であるが、X線画像で見ることができる様々な他の特徴の中でカルシウム沈着を一意的に同定することができない。カルシウム沈着のインビトロでの定量化学分析は、存在する鉱物のタイプおよび量の直接的な測定を与えるが、これらの方法は、大きな労力を伴うものであり、結果として、関与している組織の位置および構造についての情報を失うことになる。
【0026】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、蛍光的にまたは別の方法で標識され、対象とする組織において石灰化した領域を視覚化する改良された手段として利用可能である。これらのペプチドは、容易に、高収率で合成することができ、現在利用可能な方法と比較して、改善された安全性、毒性、および使用容易性を有する。該ペプチドの配列または組成は、特異組織または表面タイプに対するペプチドの相対的親和性を変化させるために変更することが可能である。これによって、該ペプチドは、象牙質、エナメル質、骨、および他の石灰化した組織または表面の間、ならびに、健常および疾患組織の間を識別できるようになる。この特性によって、これらの化合物は、石灰化した組織における損傷または病変に対するプローブとして使用可能となる。前記ペプチドは、単独で用いられてもよく、または石灰化を検出するための他に知られている方法と併用して用いられてもよい。蛍光を保持しながらカルシウムイオンをキレートすることができるものに限定される、現在利用可能なカルシウムを結合している発蛍光団と対比して、本明細書中に記載されているペプチドは、任意の発蛍光団に付着可能である。これは、石灰化した表面を標識するために使用され得る色のパレットを大きく拡張し、それぞれ個々の実験に対する発光波長および検出技術の正確な調整を可能にする。これらのペプチドを蛍光、発色、放射活性、NMR−活性、または他の色素もしくは指示薬で結合体化し、生物試料をこれらの結合体で処理することによって、試料を固定し、大幅に妨害することなしにインサイチューおよびインビボで石灰化の程度を定量的に観察することが可能になる。高い特異性および高い結合率により、このような結合体は、フォン・コッサ/銀イオン染色法よりも低いバックグラウンド染色を与えることができる。これらのカルシウム結合ペプチドに付着され得る広範囲な標識は、結合条件および検出法に関して非常に大きな柔軟性を提供し、それによって、生物学的、生物医学的、生物工学的、環境的、および他のリサーチが実行され得る容易性および特性が大いに増加される。
【0027】
本明細書中に記載されているペプチドは、診断薬として大きな可能性を有するが、これは、視覚的または放射線観察に主として依存する、石灰化した組織の傷害、感染、腫瘍または他の病変を同定する現在の方法とは異なって、本明細書中に開示されているペプチドを用いて、ヒトの目に頼ることなしに、このようなイベントを検出することができるからである。本明細書中に開示されているDSSペプチドは、脱塩したエナメル質および脱塩していない象牙質を特異的に標的にすることが示された。特に、これらのペプチドは、虫歯病変に選択的に結合する能力を示している。さらに、種々のDSSペプチド変異体は、例えば、根端象牙質、基底エナメル質、マントル象牙質、皮質エナメル質、およびエナメル質表面などの歯の構造の正確な小部分(subportion)を標的にする能力を示している。種々の検出可能な部分、例えば、蛍光、発色、放射活性、NMR−活性または他の色素もしくは指示薬に結合体化したカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、歯の特定部分を標的化するために、ならびに脱塩または他の損傷を示す歯の特定部分を同定するために被験体に投与することができる。前記ペプチドのアミノ酸組成は、特定のタイプの組織または組織損傷が標的化され得るように選択されてもよい。これらのペプチドの使用は、あまりにも小さすぎて見られなかったかまたは他には分かりにくかったかもしれない領域を含む損傷を受けた領域の特異的な同定を可能にし、これらの病変に対する診断の容易さおよび正確さが非常に高まる。同様に、ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、X線、コンピュータ断層撮影、または磁気共鳴画像のための造影剤として用いることができる。
【0028】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、骨、歯、または他の石灰化した組織の表面に治療化合物を標的化するために用いることが可能である。例えば、ペプチドは、抗菌化合物、骨および歯の発達調節剤、または該ペプチドに付着されてもよい任意の他の化合物と結合体化することが可能である。治療化合物とこれらのペプチドの1つとの結合体化を用いて、石灰化した表面に治療化合物を局在化することができ、該化合物の局所濃度の増加および有効性の増大をもたらす。対象とする組織に該化合物を局在化することによって、これらのペプチドは、所望の効果を達成するのに必要とされる化合物濃度を減少させることになる。有効性の改善に加えて、対象とする組織に治療化合物を特異的に標的化することは、該化合物の潜在的な損傷効果から標的ではない組織を救う。該ペプチドの組成または長さは、組織の傷害領域または疾患領域に特異的な標的化を可能にするように調整されてもよい。
【0029】
ある種の態様では、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物を用いて、例えば、細菌感染などの微生物感染を治療することができる。これらの態様では、該ペプチドは、例えば、2c−4、b−34、またはPL−135ペプチド(それぞれ、配列番号:26、30、および32)などの抗菌性ペプチドに連結されてもよい。
【0030】
カルシウムまたはリン酸カルシウムに選択的に結合する、本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドの能力に基づいて、これらのペプチドを含む組成物は、飲料水、廃水、工業用溶液、食物、飲料、研究用途、カルシウムの存在の決定が望まれる任意の溶液中のカルシウムを検出するためのセンサーに組み込まれてもよい。同様に、これらの組成物を用いて、例えば、産業用途、製造用途、医療用途、研究用途、家庭用途、または個人的用途におけるカルシウム鉱物の沈着を調節することができる。さらに、これらの組成物を使用して、例えば、細胞培養、組織、実験動物、試験的なヒト被験体、または他の研究用途における種々のカルシウム鉱物の存在または量を測定することができる。
【0031】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドは、直接的であるかまたは間接的に、1以上の結合体または部分に共有結合的または非共有結合的に連結され得る。このような結合体は、部分であって、限定されないが、他のペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖質、核酸、脂質、有機化合物、無機化合物、有機金属化合物、例えば抗癌剤または抗菌剤などの治療用部分が含まれる。本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドに連結し得る結合体または部分の他の例には、例えば、発蛍光団、発色団、アフィニティータグ、放射性標識、またはスピン標識などの検出可能なマーカーが挙げられる。さらに、カルシウム結合ペプチドまたは付着した結合体もしくは部分の1以上の原子は、放射活性またはNMR活性同位元素と置換されてもよい。カルシウム結合ペプチドと結合体または部分との間の連結は、該ペプチドのアミノ末端、該ペプチドのカルボキシ末端で、または該ペプチドの内部を通して生じてもよい。ある種の態様では、該ペプチドは、例えば、トリグリシンリンカー配列などのアミノ酸リンカーを介して結合体または部分に連結することが可能である。
【0032】
本明細書中に開示されているカルシウム結合ペプチドを含む組成物は、当該技術分野において知られている任意の方法によって投与することができる。このような方法には、限定されないが、経口、非経口、経皮、エアロゾル、または腸内が含まれる。「経口」投与は、歯磨き粉、ゲル、うがい薬、口内洗浄剤、丸薬、錠剤、カプセル、ゲル、または粉末を用いて達成することができる。あるいは、前記組成物は、食物、チューインガム、キャンディ、または飲料に取り込ませることが可能である。「非経口」とは、眼窩内、注入、動脈内、嚢内、心内、皮内、筋内、腹腔内、肺内、髄腔内、胸骨内、髄腔内、子宮内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜的、または経気的を含む注射と一般的に関連している投与経路を意味する。「経皮的」投与は、局所的クリーム、軟膏(ointment)、もしくは軟膏(salve)を用いて、または経皮貼布を用いて達成することができる。前記組成物が歯の状態を治療するかまたは鉱物密度などの歯の特徴を変更するために用いられているそれらの態様では、該組成物は、影響を受けているかまたは標的の歯の部位でまたはその近傍に投与されてもよい。同様に、前記組成物が骨の状態を治療するかまたは骨の特徴を変更するために用いられているそれらの態様では、該組成物は、影響を受けるかまたは標的の骨の部位でまたはその部位の近傍に投与されてもよい。
【0033】
下記の実施例は、請求された発明をより良く説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして意図されるべきではない。特定の材料が言及される範囲は、単に例示の目的のためであり、本発明を限定することは意図されない。当業者は、創作力を発揮することなく、しかも本発明の範囲から逸脱することなしに、同等な手段または反応物質を生み出すことができる。多くの変形が、本発明の範囲内で依然として維持されながら、本明細書中に記載された手順においてなし得ることが理解される。このような変形は本発明の範囲内に含まれることが本発明者らによって意図されている。
【実施例】
【0034】
実施例1:カルシウムヒドロキシアパタイトへのDSSペプチドの結合
2回(2DSS、配列番号12)、4回(4DSS、配列番号13)、6回(6DSS、配列番号14)、または8回(8DSS、配列番号15)のAsp−Ser−Ser(DSS)リピートを含む4種のDSSペプチドを生成した。ペプチドを蛍光で標識し、種々の濃度の標識ペプチド(0〜100μM)は、比表面積が100m2/gである、固定量(0.3mg)のヒドロキシアパタイト・ナノクリスタル(Berkeley Advanced Biomaterials,Inc.)と混合された。試料を10分間インキュベートし、その後、遠心分離によってヒドロキシアパタイトを除去した。この混合物中のペプチド量は、480nmの分光学的吸光度(蛍光標識のピーク吸光度)によって、ヒドロキシアパタイトの除去の前後で測定された。結合したペプチド量は、最終(Af)および初期(Ai)吸光度と初期濃度(P0)との比[P結合=(Af/Ai)P0]を比較することによって計算した。平衡状態で非結合のペプチドの濃度に対してヒドロキシアパタイト表面積1m2当り結合したペプチド量を説明するプロットを作成した。得られた等温線は、ラングミュア(Langmuir)等温線(x/m=(KANMaxCeq)/(1+KACeq))(Calis 1995)に適合させ、結合親和性(KA)および結合力(NMax)の組み合わせに関して分子の結合活性を記述する。KAは、ヒドロキシアパタイト表面に対するペプチドの親和定数を表す。この式中、x/mは、ヒドロキシアパタイトの単位表面積当りの結合したペプチドのモル量を表し、NMaxは、最大表面濃度(mol/m2)を表し、Ceqは、平衡状態での非結合ペプチドのモル濃度を表す。ラングミュア等温線は、1)全ての結合部位が該ペプチドに対して同じ親和性を有し、2)該ペプチドが該表面上で単層を形成するが、より高いレベルに蓄積できないという条件で、表面への分子の結合を示す。実験データへのラングミュア等温線の優れた当てはめは、これらの条件を有効にし、これらの親和定数は、ペプチド間の比較のために用いられた。図1Aに示されるように、ヒドロキシアパタイトに対する種々のペプチドの結合親和性は、DSSのリピート数の増加に伴って増加した(2DSS、KA=57,000M−1;4DSS、KA=94,000M−1;8DSS、KA=300,000M−1)。
【0035】
いくつかの変異DSSペプチドを試験し、結合親和性における種々のアミノ酸の変更による効果を測定した。これらの変異ペプチドには、第1位置でより長い側鎖を含む4回リピートのペプチド(4ESS、配列番号16)、第2および第3位置でより立体障害的なヒドロキシル基を含む3種の4回リピートのペプチド(4DTT、配列番号17;4NTT、配列番号18;および4ETT、配列番号19)、第1位置で帯電した基を欠損している4回リピートのペプチド(4NSS、配列番号20)、第1位置で帯電した基を欠損している8回リピートのペプチド(8ASS、配列番号21)、ならびに第2および第3位置でヒドロキシル基を欠損している2種の8回リピートのペプチド(8DAA、配列番号22;8NAA、配列番号23)が含まれた。これらの変異体の各々の結合等温線と同サイズのDSS含有ペプチドの等温線との比較によって、負に帯電した残基(4NSS、KA=41,000M−1;4NTT、KA=18,000M−1;8ASS、KA=170,000M−1)の排除(図1B、1C)、またはセリン残基をスレオニンもしくはアラニンで置換すること(4DTT、KA=161,000M−1;4ETT、KA=61,000M−1;8DAA、KA=300,000M−1)(図1B、1C)によって、結合活性が有意に減少することが測定された。第一部位での酸性残基と複数のセリンの両方の置換は、結合親和性のほぼ全体の喪失(4NTT;8NAA、KA=20,000M−1)へと導いた(図1B、1C)。アスパラギン酸残基をグルタミン酸残基で置換することにより、結合親和性の僅かな減少(4ESS、KA=81,000M−1)だけが引き起こされた(図1B)。これらのデータは、酸性残基およびセリンリピートの両方がヒドロキシアパタイト表面に対するこれらのペプチドの親和力に不可欠であることを示唆する。DSSは、ヒドロキシアパタイト結合活性を生じさせるための最適なリピート配列であることが判明し、前記変異ペプチドの全てがインビトロにおいてヒドロキシアパタイトへの結合が著しい減少することが示された。
【0036】
部分的にリン酸化された4回リピートのDSSペプチド(4DSPS、配列番号25)も試験し、4DSSの結合活性と似たヒドロキシアパタイトに対する結合活性を有することが示された(KA=83,000M−1に対して、4DSSではKA=94,000M−1)。しかしながら、4DSPSペプチドは、HA表面上に、非常に多数の利用可能な結合部位を有していた(4DSPSではNMax=1.2×10−7mol/m2に対して、4DSSでは5.8×10−8mol/m2)。
【0037】
実施例2:歯へのDSSペプチドの結合
生物組織へのDSSペプチドの結合を測定するために、矢状方向に切断したヒトの歯は、10mMのNaClおよび50mMのHEPPES、pH7.0を含む12.5μMの5(6)カルボキシフルオレセイン標識した6DSSペプチドの溶液中で10分間インキュベートされた。対照試料は、ペプチドを含めずに調製された。試料を処理後にリンスし、青色レーザー照射(励起波長(λ)=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって撮像した。強い蛍光染色は、6DSSが歯の表面に結合することを示した(図1D)。模擬処理した対照切片は蛍光を示さなかった。ペプチド結合は、象牙質に限定され(図1D、明色の領域、左側)、エナメル質領域では結合は見られなかった(図1D、暗色の領域、右側)。
【0038】
実施例3:鉱化されたマウスの骨髄結節へのDSSペプチドの結合
マウスの骨髄培養物は、DMEM+10%FBS中でコンフルエントになるまで成長させ、次に、50μg/mLアスコルビン酸4mMのβ−グリセロリン酸塩を含むaMEM+10%FBS中の2.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した6DSSまたは2.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したペプチド#3−1(スクランブルされた対照ペプチド、配列番号24)のいずれかを用いて3週間連続して処理された。培養物は、FITC励起/発光フィルターセットを用いて蛍光顕微鏡により撮像し、明視野および蛍光画像の両方を得た。強い染色がDSS処理した試料で観察され、それは、図2Bの中心結節塊に示される明色によって指示された。対照試料では染色は観察されず(図2C、2D)、6DSSペプチドがマウスの骨髄培養物中の鉱化している結節に特異的に結合することを示した。
【0039】
実施例4:固相化したDSSペプチドによるリン酸カルシウム(CaHPO4)の蓄積
4μmの平均径を有するストレプトアビジン被覆したポリスチレンビーズ(Spherotech P.L.C.)は、ビオチン結合体化した8DSSペプチドまたは非結合体化ビオチンのいずれかとともにインキュベートされた。ビーズをPBSで洗浄し、未結合ペプチド(または対照ビーズの場合には未結合ビオチン)を除去し、撮像前の12日間、PBS+1mMのCaCl2+1mMのNaHPO4の溶液中でインキュベートした。図3Aに図示されるように、ほぼ全てのDSSペプチド被覆したビーズは、沈殿した非晶質なリン酸カルシウムの大きな凝集体に取り込まれた。有効サイズの全てのリン酸カルシウム凝集体は、1以上のビーズと関連していた。比較すると、ビオチンブロックした対照試料では、ほぼ全てのビーズは凝集せず、沈殿物と関連がなかった(図3B)。ペプチド被覆したビーズのいくつかは、実験中、より秩序ある鉱物層で覆われるようになり(典型的には図3Cに示される)、被覆していない/ビオチンブロックした対照ビーズは、鉱物を蓄積しなかった(図3D)。
【0040】
実施例5:DSSペプチドによる分解した象牙質表面の再鉱化
摘出したヒトの歯は、矢状方向に切断され(Accutom−50、CA−231ダイヤモンドブレード)、19%エチレンジアミノテトラ酢酸(EDTA)ゲルを用いて1時間脱塩し、その後、脱イオン水に浸水させ、超音波処理して過剰の破片を除去した。試料を50mMのHEPESバッファー(pH7.0)中の12.5μMの8DSSペプチドで処理されるか、バッファーだけ(ペプチドなし)で処理されるか、または未処理のままであった。1時間後、試料をクウェル減感剤(Pentron technologies,LLC)、塩化カルシウムおよびリン酸カリウムの水溶液からなる再鉱化溶液で15分間再鉱化させた。走査電子顕微鏡(SEM)によって撮像する前に試料を十分にリンスした。DSS処理した象牙質試料は、連続層のリン酸カルシウム沈殿物を蓄積し、象牙質細管を完全に閉塞させた(図4B)。模擬処理した試料および未処理の試料は、非常に低いレベルの鉱物沈殿物の蓄積を示し、象牙質細管は完全に露出されたままであった(図4A、4C、4D)。
【0041】
実施例6:DSSペプチドによる歯のエナメル質および象牙質におけるヒドロキシアパタイトの核生成
最終的には組織の再鉱化をもたらし得る、種々の組織調製物にDSSを適用することがHA核生成を促進するかどうかを決定するために、(正常な臨床診療中に摘出後に得られた)矢状方向に切断された成人の歯は、ストレウルス(Streurs)研削砥石を用いて研磨され、核生成実験のために調製された。切断の半分は、35%リン酸を用いて15分間脱塩され、次に、脱イオン水で十分にリンスされた。他の半分は、未処理のままであった。その後、全ての試料は、5分間超音波で処理され、切断および研削および/または脱塩から出る余分な破片を除去した。試料は、50mMのHEPESバッファー溶液(pH7.0)に溶解した12.5μMの8DSSで処理されるか、バッファー溶液のみに処理されるか、または未処理のままであった。次に、模擬体液(SBFn)に試料を4時間浸し、これは、ヒドロキシアパタイト(HA)結晶の核生成を加速することを意味した。核生成工程に続いて、核生成したHA結晶を成長させるために、マグネシウムおよび重炭酸塩不含溶液(SBFg)に浸した。表1は、血漿と比較したSBFnおよびSBFgの組成を示す。両方の溶液は、pH6.8に調整された。SEMによる視覚化を容易にするために、結晶を成長させて、核生成した結晶を増幅させた。
【0042】
【表1】
脱塩していない、未処理の、バッファー処理したエナメル質の表面は、大部分が非晶質のままであり、これは、結晶成長がほとんどないかまたは全くない(したがって、核生成がほとんどないかまたは全くない)ことを示した(図5、上段の2列)。しかしながら、有意な結晶成長(早期および強固な核生成を示す)は、8DSSペプチドに晒された脱塩したエナメル質において観察された(図5、上段の2列)。これは、DSSペプチドが脱塩したエナメル質を特異的に認識し、その脱塩したエナメル質表面上でヒドロキシアパタイト成長の核とし得ることを示す。
【0043】
脱塩していない象牙質の表面は、未処理およびバッファー処理した試料において、ある程度の結晶成長を示した。しかしながら、最も著しい成長、したがって、最も早期であり、最も強固な核生成は、8DSSペプチドで処理した試料で発生した(図5、下段の2列)。実施例5は、脱塩した象牙質上の象牙質細管を閉塞するのに十分なリン酸カルシウムの厚い層の堆積を引き起こす、既存の再鉱化処方計画とともに、DSSペプチドの能力を示すが、これらの結果は、僅かに異なる処理で、結晶の核生成が脱塩されてない象牙質上で主に発生することを示す。このようにして、採用した特定の処置計画に依存して、DSSペプチドを用いて、脱塩した象牙質上のリン酸カルシウムの層を堆積させるか、または十分に鉱化した表面上でヒドロキシアパタイト結晶成長の強固な核生成を引き起こすことが可能である。これは、DSSペプチドを用いて、例えば、象牙質細管の露出に起因する歯の過敏症を治療するか、機械的に創面切除した象牙質に関連した虫歯を再鉱化するか、または破砕した象牙質表面を修復することができることを意味する。
【0044】
実施例7:DSSペプチド結合の組織特異性:
矢状方向に切断したヒトの歯は、0.5MのEDTAとともに15分間インキュベートすることによって脱塩されるかまたは脱塩しないままであった。次に、試料は、12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSS、10mMのNaCl、および50mMのHEPES、pH7.0の溶液中で10分間インキュベートされた。対照試料は、ペプチドなしでインキュベートされた。次に、切片をリンスし、同じレーザーとカメラセットを用いてCLSMによって撮像した。
【0045】
脱塩した試料では、DSSペプチド結合は、エナメル質で主に観察され(図6、左パネル、E)、象牙質ではほとんど結合しないかまたは全く結合しなかった(図6、左パネル、D)。実施例1で検討した結果と一致して、反対のパターンが、脱塩していない試料で観察され、ここで、該ペプチドは、象牙質と主に結合し、エナメル質とはほとんど結合しないかまたは全く結合しないことが示された(図6、右パネル、DとEとを比較)。象牙質−エナメル質接合は、脱塩した試料および脱塩していない試料の両方で明確に区別された(図6、DEJ)。脱塩していないエナメル質に有意な結合は示さないが、脱塩した歯の切片のエナメル質部分に特異的に結合するDSSペプチドの能力は、DSSペプチドが、脱塩したエナメル質を特異的に認識し、脱塩したエナメル質の表面上でヒドロキシアパタイト成長を核にし得るという実施例6の見解と一致している。
【0046】
実施例8:骨の再鉱化
歯の組織について観察された再鉱化の結果が骨まで拡張可能かどうかを決定するために、ラットの大腿を共通の組織プロトコールで屠殺した動物から得た。試験試料は、19%EDTAゲルで1時間脱塩され、次に、脱イオン水に浸し、超音波処理して余分な破片を除去した。その後、試験試料は、8DSSで1時間処理され、リンスされ、試料の半分は、実施例5に記載されるように、クウェル減感剤(Pentron Clinical Technologies,LLC)を用いて再鉱化された。次に、全ての試料は、SEM用に調整され、実施例5のように撮像した。組織表面を覆っている鉱物の連続層が未処理のラットの大腿で観察された(図7、上段パネル)。脱塩した試料では、ハバース(Haversian)管が明らかに露出していた(図7、中段パネル)。しかしながら、8DSSおよびクウェル減感剤による処置に続いて、鉱物表面が回復し、該管の閉塞が観察された(図7、下段パネル)。このようにして、DSSペプチドは、歯の組織と同じく、骨の再鉱化を促進することができる。
【0047】
実施例9:ヒトの歯におけるDSSペプチドの組織特異的結合:
歯の組織へのDSSペプチド結合の組織特異性を調べるために、ヒトの歯の切片をDSSペプチドおよび変異体に晒し、次に、実施例2に記載されたようにCLSMによって撮像した。これらの実験のために利用した該ペプチドは、8DSS、8ASS、8DAA、8NAA、4DSS、4ESS、4NSS、4DTT、4ETT、4NTT、および6DSSであった。正常な臨床診療中に摘出されたヒトの歯の矢状方向の切片を研磨し、次に、10mMのNaClおよび50mMのHEPES、pH7.0を含む適切な5(6)カルボキシフルオレセイン標識したペプチド(12.5μM)の溶液中で10分間インキュベートした。対照試料は、ペプチドなしに調製された。処理後、試料を頻繁に洗浄し、青色レーザー照射(λ=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて、各試料に対して同一のカメラおよび顕微鏡セットを有するCLSMによって撮像された。各切片について、複数のスキャンは、自動モードで収集され、整理されて、大部分の場合において全切片を包含するのに十分である13×13mmの領域に相当する画像のパネルを生じさせた。実施例1において結合親和性結果によって示唆されるように、配列(DSS)nを含むペプチドは、歯の表面への最高レベルの結合を示し、6DSSおよび8DSSは、最大レベルの染色を示した。これらの実験結果は、図8に記載される。8DSS、6DSS、および4DSSはマントル象牙質に主に結合し、象牙質−エナメル質接合ははっきりと描かれ、根端象牙質または基底エナメル質への結合は低いかもしくは全くなく、皮質エナメル質またはエナメル質表面のいずれかへの結合は検出できなかった。有意な結合も歯髄腔の端に見られた。8ASS、4ESS、および4NSSは、同じパターンを示したが、結合はより低いレベルであった。8DAAは、この結合パターンとは正反対を示し、根端の象牙質および皮質エナメル質に、ならびに象牙質−エナメル質接合および歯髄腔壁に主に結合した。8DAAは、マントル象牙質、髄周象牙質、および基底エナメル質にほとんど結合しないかまたは全く結合しないことが示された。4DTTおよび4ETTは、4DSSおよび4ESSと同様の結合パターンを示したが、レベルが急減した。8NAAは、いずれの健常組織にはほとんど結合を示さず、その試料に存在する齲蝕病変に幾分結合した(下記の実施例10を参照されたい)。4NTTは、試料に付着した歯根骨の断片に強力に結合することが示されたが、健常な歯の組織への結合レベルは非常に低かった。これらの結果は、歯の特定の層が特定のペプチドを用いて高い特異性で標的化され得ることを示唆している。
【0048】
実施例10:歯の齲蝕病変へのDSSペプチドの優先的結合:
脱塩したエナメル質からなる明らかな齲蝕病変を含むヒトの歯の切片を研磨し、実施例2に記載したプロトコールを用いて、5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したDSSペプチドおよび変異体に晒した。切片を頻繁に洗浄し、青色レーザー照射(λ=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて、各ペプチドから検出されるシグナルを最適化するために各試料について調整した顕微鏡およびカメラセットを有するCLSMによって撮像した。画像を調べ、健常組織対虫歯組織におけるペプチド結合の相対レベルを特定した。4ESS、4NSS、8DAA、8NAA、4ETT、4DSS、8ASS、8DSS、および6DSSは、齲蝕病変に対して非常に特異的な結合を示し、周辺の健常なエナメル質にはほとんど結合しないかまたは全く結合しなかった(図9;これらの病変のいくつかは、同様に図8に見られる)。他のペプチドは試験しなかったが、これらの結果に基づいて、齲蝕病変への結合が推測される。これらのペプチドのうち、4ESS、4NAA、8DSS、6DSS、4DSS、8DAA、および8ASSは、例外的に齲蝕病変の強い染色を示し、周辺のエナメル質には相対的に弱い(多くの場合、全くない)結合であった。齲蝕病変に結合するこれらのペプチドの能力は、健常なエナメル質の十分に鉱化した表面にはほとんど結合しないかまたは全く結合しないことを示し、これらのペプチドを用いて、歯の象牙質の虫歯または歯の病変を同定し得ることを示す。エナメル質分解の部位での再鉱化するそれらのペプチドの能力が与えられると(実施例6)、それらは、健常な組織表面上で不適切な核生成を引き起こすことなしに、虫歯または傷害部位などのエナメル質分解の部位で再鉱化を開始するために用いることも可能である。
【0049】
実施例11:リン酸カルシウムへのDSSペプチドの選択的結合:
マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、およびストロンチウムのリン酸塩は、100mMリン酸ナトリウム(pH7.5)と100mMの前述の金属イオンの塩化物または硫化物(それぞれ、MgCl2、CaCl2、MnCl2、CoCl2、NiSO4、CuSO4、およびSrCl2)の溶液とを組み合わせることによって調製した。沈殿物を即座に回収し、脱イオン水で2回洗浄し、保存のために乾燥させた。ペプチド結合の分析に対して、懸濁液は、50mMのHEPES pH7.0、10mMのNaCl、および12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドを含む溶液で約0.5%(w/v)の濃度で各リン酸塩から作製された。各試料を室温で10分間インキュベートし、次に、50mMのHEPES pH7.0および10mMのNaClの溶液で2回洗浄し、同じバッファーに再懸濁し、蛍光顕微鏡で撮像した。同一の顕微鏡およびカメラセットを各試料について使用し、試料間で定量的な比較を可能にした。各試料について、明視野および蛍光画像は、一視野から集められた。各試料における無機リン酸塩粒子の蛍光染色の強度は、下記の通り、GIMP(http://www.gimp.org)を用いてピクセル強度を測定することによって評価された。目安として明視野画像を用いて、リン酸塩凝集体に対応する蛍光画像の範囲を選択し、これらの領域のピクセル画像を記録した。これらは、バックグラウンド領域(任意の凝集体を含まないことが分かっている領域)について記録した強度と比較した。次に、これらのデータは、染色強度(I染色)とバックグラウンド強度(Iバックグラウンド)との比として表され、等式:相対蛍光=(I染色/Iバックグラウンド)*(I染色−Iバックグラウンド)を用いて、(非常に低レベルの染色を有する試料中に存在する高いノイズレベルに対して補正するために)染色強度とバックグラウンド強度との間の差の絶対等級を掛けた。低レベルの染色はNiHPO4凝集体に見られるが、最高レベルの染色は、CaHPO4および化学的に類似したSrHPO4凝集体に見られた(図10)。これは、DSSペプチドの結合が無機沈殿物との非特異的表面付着現象ではなく、むしろ、DSSペプチドがリン酸カルシウム沈殿物とリン酸ストロンチウム沈殿物とを区別し得る限りでも、リン酸カルシウムとの非常に選択的な相互作用を伴うことを示す。
【0050】
実施例12:シュウ酸カルシウムへのDSSペプチドの結合:
シュウ酸カルシウムは、以前に記載された方法(Wang 2006)を用いて調製された。シュウ酸カルシウムの結晶は、脱イオン水で洗浄され、次に、50mMのHEPES pH7.0、10mMのNaCl、および12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドを含む溶液に再懸濁させた。結晶懸濁液を室温で10分間インキュベートした。次に、結晶を遠心分離によって回収し、50mMのHEPES pH7.0および10mMのNaClの溶液で2回洗浄し、実施例11に記載したように蛍光顕微鏡によって視覚化した。標識したペプチドの存在は、結果として、シュウ酸カルシウム凝集体の顕著な染色をもたらした(図11)。シュウ酸カルシウムは、腎臓結石(腎結石症)に存在する最も一般的な化合物であるため(Coe 2005)、これらの結果は、DSSペプチドを用いて診断または治療用途において腎臓結石を標的にすることができ、該ペプチドが腎臓結石の成長を調節し得ることを示唆する。
【0051】
実施例13:DSSペプチド−抗菌化合物の融合体の抗菌活性:
治療用化合物を鉱化した表面に送達させる標的部分として機能するDSSペプチドの適合性を決定するために、N−末端(DSS)4、(DSS)5、または(DSS)6ペプチド、トリグリシン(GGG)リンカー、および2c−4抗菌ペプチド(配列番号26)(J.He、非公開)を含むペプチドを合成した。これらの融合タンパク質の配列は、それぞれ、配列番号27〜29に記載されている。嫌気性プランクトン細菌に対するこれらのペプチドの抗菌活性は、以前に記載されたアッセイ(Qi 2005)の変形によって測定した。簡潔に言えば、Streptococcus mutans菌株UA159細胞をTodd−Hewitt(TH)ブロス培地中に約1×105cfu/mLまで希釈し、懸濁したヒドロキシアパタイト・ナノクリスタル(Berkeley Advanced Biomaterials,Inc.,0.03%w/v)、または対照試料については、等量の脱イオン水と混合した。アリコートを96ウェルプレート(Fisher)に移した。次に、連続希釈したペプチドを作製し、前記細菌に添加した。各ペプチドの最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)は、波長600nmで細胞懸濁液の吸光度によって測定されるように、約24時間のインキュベーション後、細菌成長を完全に阻害するペプチド濃度を同定することによって決定した。ペプチド2c−4は、単独で、プランクトン様S.mutansに対して2μMのMICを示す。(DSS)4部分と結合体化し、ペプチド4DSS−2c4を生成すると、そのMICは52.5μMに上昇し、有効性の顕著な喪失は、0.03%(w/v)のヒドロキシアパタイトの添加によって影響を受けない。しかしながら、実施例1に示したように、(DSS)4部分は、より多くのDSSリピートを有するペプチドよりもヒドロキシアパタイトに対して低い親和性を示し、高い正電荷の2c−4ペプチドは、高い負電荷の(DSS)4部分と相互作用して活性を幾分阻害するかもしれない。それにもかかわらず、ある程度の抗菌活性は、このペプチドによって保持される。
【0052】
あるいは、ペプチド6DSS−b−34(配列番号31)を生成するための(DSS)6部分とb−34抗菌ペプチド(配列番号30)(J.He、非公開)との結合体化は、親ペプチド(6DSS−b−34ではMIC=3.1μMに対して、b−34では5.6μM)の結合体化よりも抗菌活性における改善をもたらす。0.03%HAの追加は、6DSS−b−34の抗菌活性を幾分減少させるが、得られた12.5μMのMICは、なお、Streptococcus mutansに対して著しい活性を示す。なお別の代替において、ペプチドPL−135(配列番号32)(R.Lehrer、非公開)は、培地単独でのプランクトン様S.mutansに対して21μMのMICを示す。ペプチド5DSS−PL135(配列番号33)を生成するためにこのペプチドと(DSS)5部分との結合体化により、培地単独でのS.mutansに対するその抗菌活性を>170μMまで減少させる。該培地に0.03%ヒドロキシアパタイトの懸濁液を添加することにより、大半のこの活性の回復をもたらし、MICを42.5μMまで減少させる。
【0053】
これは、他の化合物がDSSペプチドと結合体化されると、それらの活性を維持し得ることを示す。さらに、これは、DSSペプチド標的の存在下で顕著な活性を唯一有する化合物が容易に生成され得ることを示し、石灰化した(骨、歯など)表面で唯一活性的であり、他の環境では不活性である化合物を開発する容易な手段を示唆する。このような化合物は、鉱化した組織障害に対する治療的アプローチの安全性および有効性を増大させる大きな進歩を示すことになる。
【0054】
上述したように、前記は、本発明の種々の態様を説明するために意図されるに過ぎない。上記で検討した具体的な変形は、本発明の範囲に関する制限として解釈されるべきではない。種々の同等物、変更、および変形は、本発明の範囲から逸脱することなく実施されてもよく、このような同等な態様は、本明細書中に含まれるべきであることが理解されることは当業者に明確である。本明細書中に引用された全ての参照文献は、あたかも本明細書中に十分に記載されているかのように、参照により援用される。
【0055】
【数1】
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ヒドロキシアパタイトおよび歯の表面に対するDSSおよびDSS変異ペプチドの結合親和性。A−C.0〜100μMの範囲の濃度の蛍光標識したペプチドは、0.3mgのヒドロキシアパタイトのナノクリスタル(比表面積=100m2/g)とともに10分間インキュベートし、次に、遠心分離によってヒドロキシアパタイトを取り除いた。ヒドロキシアパタイトの除去の前後における混合物中のペプチド量は、Abs480により決定した。等温線をプロットし、ラングミュア等式に適合させ、ヒドロキシアパタイト表面に対するペプチドの親和性を反映する定数であるKAを導き出した。D.矢状方向に切断したヒトの歯を12.5μMの5(6)のカルボキシフルオレセイン標識した6DSSペプチドとともに10分間インキュベートし、次に、リンスした。歯の表面に結合しているペプチドは、青色レーザー照射(λ=488nm)およびFITC発光フィルターを用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって視覚化した。左側、明色領域:象牙質。右側、暗色領域:エナメル質。
【図2】鉱化したマウス骨髄結節(mouse bone marrow nodule:MBMN)への6DSSペプチドの結合。マウス骨髄培養物は、コンフルエントになるまで成長させ、次に、2.5μMの混ぜ合わせた対照ペプチドまたは2.5μMの6DSSを用いて、3週間処理した。培養物は、FITCフィルターセットを用いた蛍光顕微鏡によって撮像された。A.6DSSで処理した培養由来の鉱化したMBMNの明視野。B.(A)において示される領域の蛍光画像。中心結節塊の強い染色(明色化)は、蛍光標識した6DSSペプチドによる結合を示す。C.混ぜ合わせた対照ペプチドを用いて処理した培養物由来の鉱化したMBMNの明視野画像。D.(C)で示される領域の蛍光画像は、MBMNへの対照ペプチドの結合の欠損、および試料内の自家蛍光の欠損の両方を図示する。
【図3】固定化8DSSペプチドとCaHPO4との相互作用。ストレプトアビジン被覆したポリスチレンビーズは、ビオチン結合体化した8DSS(AおよびC)または結合体化していないビオチン(B)および(C)とともにインキュベートした。ビーズを洗浄し、PBS+1mMのCaCl2+1mMのNaHPO4の溶液中で、撮像する前の12日間インキュベートした。A.DSS被覆ビーズの周囲に堆積した非晶質なリン酸カルシウムの凝集体の明視野顕微鏡写真。有意な大きさの全てのリン酸カルシウム凝集体は、1以上のビーズと関連していた。B.代表的なビオチンブロックしたビーズ(DSSペプチドなし)の明視野画像。有意量の沈殿物は、これらのビーズには関連しなかった。C.外部周囲にリン酸カルシウムがより秩序良く付着したDSS被覆ビーズの位相差顕微鏡写真(物体の球中心に着目されたい)。これらの物体は、(D)に図示されるように、対照試料(ビオチンブロックされた、DSSペプチドなし)では見られなかった。スケールバー=4μm。
【図4】DSSペプチドを用いた歯表面の再鉱化。抽出したヒトの歯は、矢状方向に切断し、19%EDTAゲルで1時間脱塩し、次に、脱イオン水に浸し、超音波処理して余分な破片を除去した。指示した通りに試料を処理し、次に、走査電子顕微鏡によって撮像した。スケールバー=50μm。A.脱塩した対象試料。B.8DSSで1時間処理し、リンスし、クウェル減感剤(Quell Desensitizer)を用いて再鉱化した。C.バッファーのみで処理し、クウェル減感剤を用いて再鉱化した。D.処理せずに、クウェル減感剤を用いて再鉱化した。
【図5】エナメル質(上段)および象牙質(下段)表面でのヒドロキシアパタイトの核生成。表面は、実施例6に記載されるように、表示によって指示したように、調製および処理し、その後、走査電子顕微鏡によって撮像した。上段グループ(上段の2列)は、エナメル質試料を表し、下段グループ(下段の2列)は、象牙質試料を表す。各グループ内では、上の列は、処理前に脱塩されていない試料を表し、下の列は、リン酸を用いた処理によって脱塩された試料を表す。走査電子顕微鏡写真を示し、スケールバー=10μMである。左カラム:核生成および結晶成長前にいずれの処理にも晒していない試料。中央カラム:核生成および結晶成長前にバッファーのみに晒した試料。右カラム:核生成および結晶成長前に、12.5μMの8DSSペプチドに晒した試料。結晶成長は、初期の核生成を示す。
【図6】8DSSペプチド結合の組織特異性および鉱化状態へのその依存性。脱塩したヒトの歯の試料および脱塩していないヒトの歯の試料は、実施例9に記載されるように、12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドとともにインキュベートされ、切片がリンスされ、CLSMによって撮像された。左パネルは、脱塩した組織に対する8DSSペプチドの結合パターンを示す。主要な結合は、脱塩したエナメル質(E)に対するものであって、象牙質(D)に対してはほとんどない。反対のパターンは、脱塩していない試料において観察され、そこでは、主要な結合は、象牙質(D)に対するものであって、エナメル質(E)に対してはほとんどないかまたは全くない。象牙質−エナメル質の接合部、即ち、表示したDEJは、両ケースにおいて明確に区分されている。
【図7】骨の鉱化。ラットの大腿は、共通の組織プロトコールにより、屠殺した動物から得られた。試料を脱塩し、リンスし、超音波処理して破片を除去した。試験試料は、8DSSペプチドで1時間処理され、リンスされ、クウェル減感剤を用いて再鉱化された。C.バッファーのみで処理し、実施例8に記載されるように、クウェル減感剤を用いて再鉱化され、次に、走査電子顕微鏡により撮像された。SEM画像を示す。上段:未処理試料、鉱物によって完全に覆われた骨表面を示す。中段:脱塩した試料、鉱物層の除去によって晒されたハバース管を示す。下段:8DSSおよびクウェル減感剤(水性CaCl2/K2HPO4溶液)で処理された骨、鉱物層の再構築を示す。
【図8】DSSペプチドおよび変異体の結合における組織特異性を示す蛍光顕微鏡写真。成人の歯は、脱塩せずに12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したペプチドに晒され、頻繁に洗浄され、CLSMによって撮像された。各切片について、複数のスキャンが自動モードで収集され、まとめられて、大部分の場合において切片全体を包含するのには十分である13×13mmの領域に相当する画像のパネルを生じさせる。各切片に用いられるペプチドは、各パネルの下に表示され、各パネル内には、歯が配向し、画像の上側に向って歯根があり、下側に向って歯冠がある。組織層は、次のように表示される:RTD=根端象牙質(Root Tip Dentin)、CPD=髄周象牙質(Circumpulpal Dentin);MD=マントル象牙質(Mantle Dentin);P=歯髄腔壁(Pulp Cavity Wall);DEJ=象牙質−エナメル質接合(Dentin−Enamel Junction);E=エナメル質(Enamel);BE=基底エナメル質(Basal Enamel);CE=皮質エナメル質(Cortical Enamel);CL=齲蝕病変(Carious Lesion);PB=歯周骨(Periodontal Bone)。
【図9】歯の齲蝕病変に対するDSSペプチドおよび変異体の特異的結合を示す蛍光顕微鏡写真。成人の歯は、脱塩せずに12.5uMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識したペプチドに晒され、頻繁に洗浄され、CLSMによって撮像された。顕微鏡およびカメラセットは、各試料に対して別々に最適化された。各パネルは、齲蝕病変を包含する歯の切片の領域を示す。各パネルの右側の白色痕跡は、歯の表面の位置を特定し、矢印は、染色された病変の位置を示す。
【図10】様々な無機リン酸塩沈殿物に結合する8DSSの相対レベル。100mMリン酸ナトリウム(pH7.5)は、それぞれ、MgCl2、CaCl2、MnCl2、CoCl2、NiSO4、CuSO4、およびSrCl2の100mM溶液と合わせた。懸濁液は、12.5μMの5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドの存在下で、約0.5%(w/v)の濃度で各リン酸塩から調製された。室温で10分間のインキュベーション後、試料を洗浄し、蛍光顕微鏡で撮像した。各試料の無機リン酸塩粒子の蛍光染色の強度は、実施例11に記載されるように、GIMP(www.gimp.org)を用いたピクセル強度値を測定することによって評価した。標準化した蛍光値をここにプロットした。X軸上には、様々な無機リン酸塩沈殿物が特定される。Y軸上には、相対的蛍光強度値がプロットされる。
【図11】シュウ酸カルシウムへの8DSSペプチドの結合。シュウ酸カルシウム結晶を12.5μMの8DSSペプチドに晒し、洗浄し、実施例12に記載されるように蛍光顕微鏡により撮像した。図の左側は、染色していないシュウ酸カルシウム結晶を示す。明視野画像(上段)は、結晶の存在を確認し、同じ領域(下段)の蛍光画像は、これらの条件下で、シュウ酸カルシウムが可視蛍光を持たないことを確認する。図の右側は、5(6)−カルボキシフルオレセイン標識した8DSSペプチドを用いて染色したシュウ酸カルシウム結晶を示す。明視野画像(上段)は、結晶の存在を確認し、同じ領域の蛍光画像(下段)は、標識したペプチドによる結晶の明染色を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のカルシウム結合ペプチドを含む組成物であって、該カルシウム結合ペプチドの各々が、配列(X−Y−Z)nを含み、Xは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンおよびグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、YおよびZは、アラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、およびホスホスレオニンから選択されるアミノ酸であり、nは、1〜40の数であり、該カルシウム結合ペプチドはリン酸カルシウムに結合する、組成物。
【請求項2】
前記1以上のカルシウム結合ペプチドが、約3〜約100個のアミノ酸長を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
nが、2〜8個の数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Xが、アスパラギン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
YおよびZが、セリンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記カルシウム結合ペプチドが、結合体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記結合体が、発蛍光団、発色団、アフィニティータグ、抗原タグ、放射性標識、またはスピン標識からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記結合体が、ペプチド、タンパク質、糖質、核酸、脂質、有機化合物、無機化合物、または有機金属化合物からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記結合体が、抗癌化合物または抗菌化合物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗菌化合物が、抗菌ペプチドである、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記抗菌ペプチドが、アミノ酸リンカー配列を介して、前記1以上のカルシウム結合ペプチドに連結される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を治療する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該投与が、歯の再鉱化をもたらす、方法。
【請求項17】
被験体における骨密度の減少によって特徴付けられる骨の欠陥を治療する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該投与が、骨密度の増加をもたらす、方法。
【請求項18】
被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を特定する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該組成物中の前記カルシウム結合ペプチドが、検出可能なマーカーに結合体化し、該カルシウム結合ペプチドは、脱塩した歯の表面に優先的に結合する、方法。
【請求項19】
被験体における骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠陥を特定する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該組成物中の前記カルシウム結合ペプチドが、検出可能なマーカーに結合体化し、該カルシウム結合ペプチドが、脱塩した骨の表面に優先的に結合する、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の組成物を含むキット。
【請求項1】
1以上のカルシウム結合ペプチドを含む組成物であって、該カルシウム結合ペプチドの各々が、配列(X−Y−Z)nを含み、Xは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニンおよびグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸であり、YおよびZは、アラニン、セリン、スレオニン、ホスホセリン、およびホスホスレオニンから選択されるアミノ酸であり、nは、1〜40の数であり、該カルシウム結合ペプチドはリン酸カルシウムに結合する、組成物。
【請求項2】
前記1以上のカルシウム結合ペプチドが、約3〜約100個のアミノ酸長を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
nが、2〜8個の数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Xが、アスパラギン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
YおよびZが、セリンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記カルシウム結合ペプチドが、配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記カルシウム結合ペプチドが、結合体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記結合体が、発蛍光団、発色団、アフィニティータグ、抗原タグ、放射性標識、またはスピン標識からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記結合体が、ペプチド、タンパク質、糖質、核酸、脂質、有機化合物、無機化合物、または有機金属化合物からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記結合体が、抗癌化合物または抗菌化合物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗菌化合物が、抗菌ペプチドである、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記抗菌ペプチドが、アミノ酸リンカー配列を介して、前記1以上のカルシウム結合ペプチドに連結される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を治療する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該投与が、歯の再鉱化をもたらす、方法。
【請求項17】
被験体における骨密度の減少によって特徴付けられる骨の欠陥を治療する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該投与が、骨密度の増加をもたらす、方法。
【請求項18】
被験体における歯の脱塩によって特徴付けられる歯の欠陥を特定する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該組成物中の前記カルシウム結合ペプチドが、検出可能なマーカーに結合体化し、該カルシウム結合ペプチドは、脱塩した歯の表面に優先的に結合する、方法。
【請求項19】
被験体における骨の脱塩によって特徴付けられる骨の欠陥を特定する方法であって、請求項1に記載の組成物を該被験体に投与することを含み、該組成物中の前記カルシウム結合ペプチドが、検出可能なマーカーに結合体化し、該カルシウム結合ペプチドが、脱塩した骨の表面に優先的に結合する、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の組成物を含むキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−510089(P2009−510089A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533606(P2008−533606)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/037902
【国際公開番号】WO2007/038683
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(501325277)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/037902
【国際公開番号】WO2007/038683
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(501325277)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (5)
【Fターム(参考)】
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