説明

カルシウム結晶化阻害タンパク質

【課題】カルシウム結晶化阻害効果を有するポリペプチド、および該ポリペプチドをコードする遺伝子に関する。さらに、該遺伝子を用いたカルシウム結晶化阻害効果を有するポリペプチドの遺伝子工学的製造方法を提供する。
【解決手段】体内でのカルシウムの結晶化を抑制し、カルシウムの腸管内での吸収を促進するカルシウム結晶化阻害活性を有するタンパク質、該タンパク質のアミノ酸配列、該タンパク質をコードする遺伝子、該タンパク質の製造方法、ならびにこれを含有してなる飲食物並びに飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の菌体から得られるタンパク質の新規な用途に関し、より具体的には、カルシウム結晶化阻害効果を有する、細菌の菌体から得られるタンパク質及びその用途に関する。また、本発明は、カルシウム結晶化阻害効果を有するポリペプチド、および該ポリペプチドをコードする遺伝子に関する。さらに、該遺伝子を用いたカルシウム結晶化阻害効果を有するポリペプチドの遺伝子工学的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を構成する無機質の中で最も多く存在するのはカルシウムといわれており、その99%が骨や歯の構成に利用されており、残りの1%は各種酵素の活性の発現、筋肉の収納、細胞の興奮の沈静あるいは血液凝固作用等の生命活動にとって重要な役割を演じている。 例えば、人間の膵臓で作られ消化作用を助ける膵液の中には、高濃度のカルシウム成分が含まれているが、何らかの理由で生体のバランスが崩れると、炭酸カルシウムの結晶化が起きて結石ができる。また、膵臓以外にも体内では種々の臓器にカルシウム結石が生じ、それが人体に悪影響を及ぼすことから、結石の予防及び治療に利用し得るカルシウムの結晶化を抑制する物質の開発が待たれている。
【0003】
このように重要なカルシウムではあるが、その摂取量を見てみれば、日本人に必要とされる所要量は成人1日当たり600mgといわれているが、厚生省保健医療局による平成6年国民栄養調査の結果報告によれば、実際の摂取量は545mgと必要量を下回っているのが実状である。カルシウムの摂取不足は、骨粗鬆症、高血圧等の重大な疾病を引き起こすことが知られており、カルシウムの摂取不足は、社会的問題となっている。さらに、食物として胃腸管内で摂取されるカルシウムは、複雑な機構で腸管から血液内に吸収されるが、カルシウム塩やカルシウム剤の腸管内における吸収率は50%以下であり、半分以上が吸収されずに体外に排出されるという報告もある。そのため、腸管内でのカルシウムの吸収性を高める物質の開発も行われている。
【0004】
その1つとして、カゼインホスホペプチド(CPP)が開発されている。CPPは、カゼインにトリプシンを作用させ、加水分解した分解物中に得られるホスホペプチドであり、カルシウムと結合して可溶性複合体を形成する。このため、水溶液中でカルシウムが沈殿するのを抑制することでカルシウムを可溶化し、カルシウムの吸収率を高めると考えられている(非特許文献1、特許文献1、2)。しかしながら、CPPは、カゼインの酵素分解物であるため、原料であるカゼインを酵素反応させる必要があり、また酵素分解の副産物であるペプチドが苦味を呈するため、飲食品へ混合する場合にはこの苦味ペプチドを十分に分離する必要がある等幾つかの問題点を有しており、また価格も高価である。
ポリ−L−グルタミン酸も腸管内でカルシウムの吸収率を高める作用(非特許文献2)を有することが知られているが、これは合成品であるため食品添加物として許可されておらず、安全性等のため利用されていない。また、微生物により産生されるポリ−γ−グルタミン酸(特許文献3)は、カルシウム結晶化抑制活性が低く、かつ溶液の粘度が極めて高いため、取扱いが不便である。
さらに、カルシウムの吸収を促進する物質としては、骨由来のペプチド(特許文献4)、酪酸を基本成分とするもの(特許文献5)があるが、これらは製造上並びに利用上の問題があり実用化には至っていない。
【特許文献1】特開昭58−17044公報
【特許文献2】特開平7−241172公報
【特許文献3】特開平3−30648公報
【特許文献4】特開平4−16165公報
【特許文献5】特開平4−108360公報
【非特許文献1】ジャパンフードサイエンス、第1巻、第21〜32頁、1990年
【非特許文献2】Biosci.Biotech.Biochem.、第58巻、第1662〜1665頁、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、体内でのカルシウムの結晶化を抑制し、カルシウムの腸管内での吸収を促進するカルシウム結晶化阻害活性を有するタンパク質、該タンパク質のアミノ酸配列、該タンパク質をコードする遺伝子、該タンパク質の製造方法、ならびに上記タンパク質を含有してなる飲食物並びに飼料の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記事情に鑑み、体内でのカルシウムの結晶化を抑制し、カルシウムの腸管内での吸収を促進するカルシウム結晶化阻害活性を有するタンパク質を得ることを目的として鋭意研究、探索の結果、目的に適した性質を有するタンパク質を生産する微生物を見出すことに成功し、該微生物よりタンパク質を単離することに成功した。
さらに、本発明者らは、上記のタンパク質をコードする遺伝子を単離することに成功し、該遺伝子を用いる遺伝子工学的手法により、本発明のカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドを簡便に製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕以下の(1)から(3)のいずれかに記載のポリペプチド;
(1)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(2)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチド;
(3)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個以上21個以下のアミノ酸の置換、欠失、付加もしくは挿入の少なくとも1つが行われたアミノ酸配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチド。
〔2〕Bacillus amyloliquefaciensより得ることのできる〔1〕記載のポリペプチド。
〔3〕以下の(1)から(5)のいずれかに記載のDNA;
(1)配列表の配列番号2に示される塩基配列を有するDNA;
(2)配列表の配列番号2に示される塩基配列と85%以上の配列同一性を示す塩基配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(3)配列表の配列番号2に示される塩基配列において、1個以上65個以下の塩基の置換、欠失、付加もしくは挿入の少なくとも1つが行われた塩基配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(4)配列表の配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(5)請求項1に記載のポリペプチドをコードするDNA。
〔4〕Bacillus amyloliquefaciensより得ることのできる〔3〕記載のDNA。
〔5〕〔3〕記載のDNAを含むベクター。
〔6〕〔5〕記載のベクターを含む形質転換体。
〔7〕Bacillus amyloliquefaciensを培養する工程、および培養物から〔1〕に記載のポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする〔1〕記載のポリペプチドの製造方法。
〔8〕〔6〕記載の形質転換体を培養する工程、および該培養物から〔1〕に記載のポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする〔1〕に記載のポリペプチドの製造方法。
〔9〕〔1〕記載のポリペプチドを有効成分とすることを特徴とするカルシウム結晶化阻害・吸収促進剤。
〔10〕〔9〕記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飲食物。
〔11〕〔9〕記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飼料。
〔12〕さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする〔10〕記載の飲食物。
〔13〕さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする〔11〕記載の飼料。
【0008】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本明細書において、カルシウム結晶化阻害とは、炭酸カルシウム結晶やリン酸カルシウム結晶の析出を抑制する効果のことをいい、その1例としては、炭酸水素ナトリウム水溶液(NaHCO水溶液)と塩化カルシウム水溶液(CaCl水溶液)の反応からCaCOが析出する反応(NaHCO+CaCl→CaCO+HCl+NaCl)を利用したカルシウム結晶化阻害で判定できる(Biochem.Biophys.Res.Comm.、110(1)、p69〜74、1983年)。すなわち、20mM、pH8.7に調整した炭酸水素ナトリウム水溶液(1.5ml)にタンパク質抽出液を30μl添加し、スターラーで良く攪拌して、20mM、pH8.7に調整した塩化カルシウム水溶液(1.5ml)を添加し、25℃において反応させた場合、炭酸カルシウムの結晶の析出がほとんど検出されず、反応開始から10分後の波長570nmにおける吸光度の変化量が、タンパク質抽出物を添加しないものと比べて1/10以下である場合、本明細書において、そのタンパク質はカルシウム結晶化阻害活性を有する。
【0009】
本発明のカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチド(タンパク質)は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。また、上記アミノ酸配列において1個以上21個以下のアミノ酸の置換、欠失、付加もしくは挿入の少なくとも1つが行われたアミノ酸配列を含み、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドも本発明の一つの様態であり、上記改変のアミノ酸の数は、好ましくは14個以下、より好ましくは7個以下、更に好ましくは3個以下である。
また、本発明のポリペプチドには、上記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するものが含まれる。配列同一性は、公知の方法で計算することが出来、この計算を行なうための任意コンピュータプログラムを用いて計算することが出来るが、本明細書においては、BLAST(Altschul、Stephen F. et al.、Nucleic Acids Res.25、3389−3402(1997))を用いたアミノ酸配列相同性解析により、決定することができる。
このように、配列番号1に記載のアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、カルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドは、例えば、BLASTで検索して得られた情報を元に、当該配列を有する生物種からPCR等により増幅した遺伝子や、人工的に合成DNA等を用いて作製した遺伝子を用いて組換え発現させることで作製することができる。
本発明のカルシウム結晶化阻害効果を有するタンパク質は、例えば炭酸カルシウム結晶やリン酸カルシウム結晶の析出を抑制する効果を有するタンパク質である。このような性質を有しているものであれば本発明のタンパク質に特に限定はないが、例えば、Bacillus属細菌、好ましくはBacillus amyloliquefaciensが生産するカルシウム結晶化阻害タンパク質が挙げられる。
本発明のカルシウム結晶化阻害効果を有するタンパク質のカルシウム結晶化阻害様式に特に限定はなく、例えば、炭酸カルシウム結晶やリン酸カルシウム結晶の析出を抑制する効果が挙げられる。
【0010】
なお、下記に示すように上記タンパク質をコードする遺伝子は単離されており、該遺伝子にコードされるアミノ酸配列も決定されている。該遺伝子にコードされるアミノ酸配列を配列表の配列番号1にそれぞれ示す。
本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質は、Bacillus amyloliquefaciens、好ましくはBacillus amyloliquefaciens NBRC14141株を培養し、該培養物から精製することができる。上記Bacillus amyloliquefaciens NBRC14141株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)より入手することができる。
また、本発明のタンパク質は、上記NBRC14141株の他に、NBRC14141株の自然的または人為的変異株、その他NBRC14141株と同じ属に属する微生物であって、本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質の産生能を有する微生物から得ることが出来る。人為的変異株は、放射線、紫外線照射や変異誘起剤処理等公知の方法により取得することができる。一般に、同じ属に属する微生物の16SrRNA遺伝子の塩基配列間の相同性は約99%以上であることが知られている。従って、NBRC14141株の16SrRNA遺伝子の塩基配列と99%以上相同な配列を有する微生物を微生物NBRC14141株と同様に本発明において使用することができる。
上記微生物の培養に用いる培地には、当該微生物が利用し得る窒素源、無機物等を含み、グルコース等を炭素源として含むものを用いることができる。グルコースは、市販のものを用いることができる。窒素源としては、例えば、肉エキス、酵母エキス、カゼイン分解物、トリプトン、ペプトン等が挙げられるが、好ましくは酵母エキス、ペプトンを用いる。これらの窒素源はグルコース以外の炭素源としても使用できる。さらに、塩類としては、塩化ナトリウム、クエン酸鉄、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、臭化カリウム、塩化ストロンチウム、ホウ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、硝酸アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム等を組み合わせて用いることができる。また、上記培地中に、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等のカルシウムを培地中に添加することでカルシウム結晶化阻害タンパク質を誘導することも可能である。
【0011】
培養条件は、培地の組成によって多少異なるが、例えば、培養温度は20〜40℃、培地のpHはpH6.0〜8.0、培養時間は12〜72時間の条件で培養することが出来る。
以上のようにして培養中に産生された本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質は、菌体内に蓄積されるので、培養終了後、遠心分離等により菌体を得ることができる。
得られた菌体を、凍結乾燥等を用いて濃縮した液状酵素として、あるいは凍結乾燥法、噴霧乾燥法等により粉状タンパク質として粗酵素標品を調製することができる。また、通常用いられる精製方法、例えば硫酸アンモニウム塩析、溶媒沈澱法により本発明のタンパク質を部分精製することができる。さらに、陰イオン交換カラム、ゲル濾過カラムなどカラムクロマトグラフィー等の公知の精製操作を組み合わせて、電気泳動的に単一バンドを示す精製酵素標品を得ることができる。
【0012】
Bacillus amyloliquefaciens NBRC14141株から単離された、本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質の活性測定方法および理化学的性質、酵素化学的性質を以下に示す。
(1)酵素化学的測定方法
本発明のカルシウム結晶化阻害効果の活性測定は、以下の通りである。
炭酸水素ナトリウム水溶液(NaHCO水溶液)と塩化カルシウム水溶液(CaCl水溶液)の反応からCaCOが析出する反応(NaHCO+CaCl→CaCO+HCl+NaCl)を利用して測定する。本発明のタンパク質を添加した場合、炭酸カルシウムの結晶の析出はほとんど検出されず、波長570nmにおける吸光度の変化量を測定した結果、ほとんど検出されなかった。
(2)熱安定性
40℃から100℃で一定時間処理した酵素標品の残存活性を測定した結果、本発明のタンパク質は100℃、60分間処理で100%の活性を示した。
(3)分子量
10〜20%ポリアクリルアミド濃度勾配ゲルを使用したSDS−ポリアクリルアミド電気泳動法(SDS−PAGE)により、本発明のタンパク質の分子量は約16kDaと推定された。
(4)エドマン分解法によるアミノ酸配列
エドマン分解法により決定されたN末端アミノ酸配列はKNLVEKSMNTQLSNWFILYSKLであった。この配列は、配列番号1の1〜22番目のアミノ酸配列と同じ配列である。
【0013】
本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子は、上記したアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸の置換、欠失、付加または挿入が行われたアミノ酸を有し、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸をも包合する。
また、本発明のDNAには、配列表の配列番号2の塩基配列を有するDNAが包含され、さらに上記の塩基配列において1個以上65個以下の塩基の置換、欠失、付加または挿入が行われた塩基配列を有し、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNAも包含される。上記改変の塩基の数は、好ましくは43個以下、より好ましくは21個以下、更に好ましくは10個以下である。
また、本発明のDNAには、配列表の配列番号2に示される塩基配列と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を示す塩基配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNAが含まれる。本明細書において、配列同一性の計算はBLASTにより行い、配列番号2に示される塩基配列と85%以上の配列同一性を有し、かつ、カルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列は、BLAST検索で得られた情報を元に、当該配列を有する生物種からPCR等により増幅して作製したり、人工的に合成DNA等を用いて作製したりすることができる。
さらに、本発明のDNAには、配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNAも包合される。ハイブリダイゼーションは、例えば、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー発行、T.マニアティス(T.Maniatis)ら編集、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.)に記載の方法により実施することができる。上記ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハルト、100mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中、プローブとともに65℃で一晩保温するという条件があげられる。好ましくは65℃、0.5×SSCで洗浄、より好ましくは65℃、0.2×SSCで洗浄、更に好ましくは65℃、0.1×SSCで洗浄する条件である。
以上のようにハイブリダイゼーションの条件を記載したが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0014】
本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子のクローニングは、例えば、以下のようにして行なうことが出来る。
上述のカルシウム結晶化阻害タンパク質を生産する微生物よりゲノムDNAを調製する。ゲノムDNAは適当な公知の方法に従って調製でき、例えば、リゾチーム処理、プロテアーゼ処理、RNase処理、フェノール処理、エタノール沈殿等の公知の操作を組合わせて調製することが出来る。このようにして得られたゲノムDNAを適当な公知の方法、例えば、超音波処理、制限酵素消化によって分解する。こうして得られたDNA断片を通常用いられている方法によってベクター、例えば、プラスミドベクターに組み込み、組み換えDNA分子を作製する。ついで、該組み換えDNA分子を適当な宿主、例えば、大腸菌に導入し、形質転換体を得る。組み換えDNA分子の作製、形質転換等の操作は、通常用いられる方法、例えば、上記したモレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル第2版等に記載の方法から、使用するベクター、宿主に応じたものを選んで用いることが出来る。このようにしてカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を有する形質転換体を含むゲノムライブラリーが得られる。
【0015】
つぎに、上記のゲノムライブラリーをスクリーニングし、カルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を有する形質転換体を選択する。当該形質転換体よりカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を単離することが出来る。スクリーニングの方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)カルシウム結晶化阻害活性の発現を指標にしたスクリーニング
ゲノムライブラリーを寒天プレート上で増殖させる。カルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を有する形質転換体は、カルシウム結晶化阻害活性を持つポリペプチドを発現し、そのカルシウム結晶化阻害活性の有無を測定しコロニーまたはプラークを選択する。
(2)抗体を用いたスクリーニング
カルシウム結晶化阻害タンパク質の粗酵素標品、部分精製酵素標品、精製酵素標品を前記した方法に従って調製し、これらの何れかを抗原として常法に従って抗カルシウム結晶化阻害タンパク質抗体を調製する。
ゲノムライブラリーをプレート上で増殖させ、生育したコロニーまたはプラークをナイロンまたはニトロセルロースのフィルターに移し取る。発現された組み換えタンパク質はコロニー、プラークと共にフィルターに移し取られる。フィルター上の組み換えタンパク質と上記の抗カルシウム結晶化阻害タンパク質抗体を反応させ、該抗体と反応するクローンを同定する。
抗体と反応するクローンの同定は、公知の方法に従って、例えば、抗カルシウム結晶化阻害タンパク質抗体を反応させたフィルターを、パーオキシダーゼ結合二次抗体と反応させた後、発色基質とインキュベートし、発色を検出することによって行なうことが出来る。
なお、上記(1)、(2)の方法に用いるゲノムライブラリーの作製に、ベクターに組み込まれたDNA上の遺伝子が高発現されるような発現ベクターを用いた場合には、容易に目的の遺伝子を有する形質転換体を選択することが出来る。
(3)DNAプローブを用いたハイブリダイゼーションによるスクリーニング
ゲノムライブラリーをプレート上で増殖させ、生育したコロニーまたはプラークをナイロンまたはニトロセルロースのフィルターに移し取り、変性処理によりDNAをフィルターに固定する。このフィルター上のDNAと標識プローブのハイブリダイゼーションを常法に従って行い、該プローブとハイブリダイズするクローンを同定する。
本スクリーニングに用いられるプローブとしては、上記したカルシウム結晶化阻害タンパク質のアミノ酸配列の情報をもとに作製したオリゴヌクレオチド、その他のアミノ酸配列の情報をもとに作製したオリゴヌクレオチド、またはこれらのアミノ酸配列の情報から作製したプライマーによって増幅したPCR断片等が挙げられる。これらのプローブの標識は特に限定はないが、例えば、ラジオアイソトープ標識、蛍光色素標識、ジゴキシゲニン標識、ビオチン標識等が挙げられる。
スクリーニングに用いるゲノムライブラリーとしては、以下の方法で作製したカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を有する形質転換体が富化されたゲノムライブラリーを使用しても良い。
【0016】
カルシウム結晶化阻害タンパク質を生産する微生物のゲノムDNAを調製し、これを適当な制限酵素で消化してアガロースゲル電気泳動で分離した後、常法に従いナイロンまたはニトロセルロースのフィルターにブロッティングする。このフィルター上のDNAと上記の標識プローブのハイブリダイゼーションを常法に従って行い、該プローブとハイブリダイズするDNA断片を検出する。このシグナルに対応するDNA断片をアガロースゲルから抽出、精製する。
【0017】
こうして得られたDNA断片を通常用いられている方法によってベクター、例えば、プラスミドベクターに組み込み、組み換えDNA分子を作製する。ついで該組み換えDNA分子を適当な宿主、例えば、大腸菌に導入し、形質転換体を得る。形質転換の方法は通常用いられる方法、例えば、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル第2版等に記載の方法から、使用するベクターに応じたものを選んで用いることが出来る。このようにしてカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を有する形質転換体が富化されたゲノムライブラリーが得られる。
該ゲノムライブラリーを用いることにより、より効率の良いスクリーニングを行なうことが出来る。
【0018】
上記(1)〜(3)の方法は、何れも形質転換体をスクリーニングして目的の遺伝子をクローニングする方法であるが、PCR法を用いることによって、形質転換体を利用することなくin vitroでクローニングを行なうことが出来る。
カルシウム結晶化阻害タンパク質を生産する微生物のゲノムDNAを調製し、これを鋳型として、カルシウム結晶化阻害タンパク質のアミノ酸配列の情報をもとに作製したプライマー対を用いたPCRを行い、カルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子を含むDNA断片を得ることが出来る。さらに、該断片をプローブとしたハイブリダイゼーションや、該断片の塩基配列をもとに作製されたプライマーを用いたPCR等により、カルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子の全長を得ることが出来る。このようにして得られた遺伝子の塩基配列は、公知の方法に従って決定することが出来る。該クローンがカルシウム結晶化阻害タンパク質のポリペプチド全長をコードしていない場合は、解読された塩基配列をもとに新たなプローブを作製し、該プローブを用いてゲノムライブラリーのスクリーニングを行い、新たなクローンを得る操作を繰り返すことにより、カルシウム結晶化阻害タンパク質のオープン・リーディング・フレーム(open reading frame、以下ORFと示す)全体が解読される。その情報をもとに、例えば、カルシウム結晶化阻害タンパク質をコードするORF全体を含むクローンを作製することが出来る。
【0019】
以上のようにして得られたカルシウム結晶化阻害タンパク質をコードする遺伝子を適当な発現ベクターに連結することにより、カルシウム結晶化阻害タンパク質活性を有するポリペプチドを遺伝子工学的に大量に製造することが出来る。
また、公知の方法でカルシウム結晶化阻害タンパク質をコードする遺伝子に変異を導入することにより、変異を導入したカルシウム結晶化阻害タンパク質を製造することも出来る。変異の導入方法としては特に限定はなく、例えばオリゴヌクレオチドダブルアンバー法〔Hashimoto−Gotoh,T.,et al.;Gene,152,271−275(1995)〕、Gapped duplex法〔Kramer,W.,et al.;Nucl.Acids Res.,12,9441(1984)、Kramer,W.,et al.;Methods in Enzymology,154,350(1987)〕、Kunkel法〔Kunkel,T.A.;Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,488(1985)、Kunkel,T.A.;Methods in Enzymology,154,367(1987)〕等を用いることが出来る。
【0020】
また、発現させようとするカルシウム結晶化阻害タンパク質のN末端側にシグナル配列を付加したものをコードする遺伝子を発現させれば、目的のカルシウム結晶化阻害タンパク質を形質転換体外に分泌させることが出来る。
上記の組換えDNA分子の作製に使用されるベクターは、特に限定するものではなく、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することが出来、組換えDNAの使用目的に応じて適当なベクターを選択すれば良い。カルシウム結晶化阻害タンパク質の生産を目的として組換えDNA分子を作製する場合には、プロモーターやその他の発現調節のための領域を含むベクターが好適である。そのようなプラスミドベクターとしては、特に限定はないが、例えば、pETベクター等が挙げられる。また、形質転換体の作製に使用される宿主も、特に限定するものではなく、細菌、酵母、糸状菌等の微生物の他、哺乳動物、魚類、昆虫等の培養細胞等を使用することが出来る。形質転換体の作製には、宿主に適したベクターで作製された組換えDNA分子が使用される。
以下に、カルシウム結晶化阻害タンパク質を遺伝子工学的に製造する方法についてその概略を説明する。例えば、配列表の配列番号1のポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA断片を適当なプラスミドベクター、例えばpETベクター等に挿入したプラスミドを構築する。これらのプラスミドで形質転換した大腸菌、例えば大腸菌JM109、大腸菌BL21(DE3)pLysS等を適当な液体培地中で培養し、必要に応じてIPTG等による誘導を行い、各プラスミド上の挿入DNA断片にコードされているポリペプチドを発現させる。これらの形質転換体の発現する単位培養液あたりのカルシウム結晶化阻害活性は、通常、野生株より高い値を示す。
【0021】
以上のようにして遺伝子工学的に生産させた本発明のカルシウム結晶化阻害活性をもつタンパク質は、通常用いられる精製方法、例えば硫酸アンモニウム塩析、溶媒沈澱法により本発明のタンパク質を部分精製することができる。さらに、陰イオン交換カラム、ゲル濾過カラム等のカラムクロマトグラフィー等の公知の精製操作を組み合わせて、電気泳動的に単一バンドを示す精製酵素標品を得ることができる。
上記の方法によって得られた本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質はカルシウムの結晶化を抑制し、その結果、本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質は、カルシウムの吸収促進を目的として骨粗鬆症の予防や治療に使用したり、歯の再石灰化を促進して初期の虫歯の予防や治療に使用することができる。
【0022】
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤は、上記方法で調製したものをそのまま使用してもよいが、一般には適当な液体担体に溶解するかもしくは分散させ、または適当な粉末担体と混合するかもしくはこれに吸着させ、所望する場合にはさらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、漫透剤、湿潤剤、安定剤等を添加し、液剤、注射剤、カプセル剤、錠剤、粉剤、シロップ剤等の製剤の形で、カルシウムの吸収促進剤として、或いはリン酸カルシウムの結晶成長剤として使用することができる。
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤は、上記カルシウム結晶化阻害活性をもつタンパク質を、0.001重量%以上含有するのが好ましい。
【0023】
また、本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飲食物としては、各種飲食物、例えば、清涼飲料水、果汁飲料、醗酵飲料並びに牛乳等の飲料、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、ビスケット並びにチョコレート等の菓子、アイスクリーム、氷菓等の冷菓、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品、カマボコ、チクワ等の魚肉練り製品、パン、ホットケーキ、各種惣菜類、プリン、スープ等があげられる。
【0024】
さらには、本発明のドッグフード、キャットフード等のペットフード;家畜(産卵鶏等)の餌等の飼料は、上記カルシウム吸収促進剤、リン酸カルシウム結晶成長剤を含有してなる飼料である。
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤は、上記飲食物、飼料中に、0.001〜1重量%添加するのが好ましい。
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を、特にカルシウムの吸収促進を目的として使用する場合には、カルシウムを含有する原料、例えば、牛乳、ヨーグルト、チーズ等の乳製品に配合するか、又は、カルシウムと共に配合することで、カルシウムの吸収促進効果を一層促進することができる。
カルシウムを含有する原料やカルシウムを本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤とともに飲食物や飼料に配合する場合、カルシウム結晶化抑制・吸収促進剤に対して、カルシウム換算で0.001〜10重量%配合するのが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、カルシウム結晶化阻害活性を有する新規タンパク質が提供され、この新規タンパク質を含むカルシウム結晶化阻害・吸収促進剤、上記カルシウム結晶化阻害・吸収促進剤を含有してなる飲食物、飼料を利用して、体内でのカルシウムの結晶化を抑制し、カルシウムの腸管内での吸収を促進する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
<実施例1>活性測定法
本発明のカルシウム結晶化阻害タンパク質の精製を行なうにあたって実施した活性測定は以下のように行った。
NaHCO水溶液とCaCl水溶液との反応からCaCOが析出する反応(NaHCO+CaCl→CaCO+HCl+NaCl)を利用して、カルシウム結晶化抑制効果を判定した。すなわち、20mM、pH8.7に調整した炭酸水素ナトリウム水溶液(1.5ml)に、タンパク質抽出液を30μl添加し、スターラーで良く攪拌した。その後、20mM、pH8.7に調整した塩化カルシウム水溶液(1.5ml)を添加し、25℃において反応させた。反応過程中、波長570nmにおける吸光度を経時的に測定した。
【0027】
<実施例2>カルシウム結晶化阻害タンパク質の精製
10mlのNB培地(Nutrient Broth培地、ディフコ社製)にBacillus amyroliquefaciens NBRC14141株を接種し、30℃、120rpmで一晩培養した。得られた培養液を前培養液とした。
本培養は、以下の手順で行った。500ml容の坂口フラスコにNB培地、100mlを調製し(20本)、CaCl2を終濃度0.4%(w/v)になるように添加した。これに上記の前培養液10mlを接種し、30℃、120rpmで40時間培養し、4,700×g、30分間の遠心分離により菌体を除いた約5,000mlの上清を回収した。
これより以降の操作は4℃以下で行った。
上記菌体を50mlの緩衝液I(10mM Tris−HCl pH8.5)で懸濁し、マルチビースショッカー(安井機械社製)で破砕した。その後、9,800×g、30分間の遠心分離により上清を回収し、緩衝液Iで透析を行い、脱塩を行った。これを60℃で1時間処理し、11,900×g、25分間の遠心分離により上清を回収し、これを予め緩衝液で平衡化した金属アフィニティー担体であるIPAC(エプロージェン社製)に添加し、20分間攪拌後、3,000×g、10分間遠心することにより、非吸着画分を除去した。その後、同様にして125mlのWash Buffer1(0.1M Tris−HCl(pH7.4)、0.2M塩化カルシウム、2.0M塩化ナトリウム)、その後、125mlのWash Buffer2(0.1M Tris−HCl(pH7.5)、0.6M硫酸ナトリウム、2.0M塩化ナトリウム)で洗浄した後、最後に125mlのElution Bufer(pH6.9)(0.2Mクエン酸三ナトリウム二水和物、0.2Mリン酸カリウム、3.0M塩化ナトリウム)で吸着画分を回収した。得られた吸着画分を1mM EDTA溶液(pH8.5)で透析後、EDTAを除くために10mM Tris−HCl pH8.5で透析に対して透析して脱塩を行った。これを遠心限外濾過膜CENTRICUT(KURABO社製)を用いて約1mlに濃縮した。
この精製タンパク質をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むポリアクリルアミドゲルで電気泳動したところ、ほぼ単一に精製されており、これを最終タンパク質濃度が0.04μg/mlになるようにして実施例1の測定方法で活性測定を行った結果、図1に示すように炭酸カルシウム塩結晶化阻害活性が確認された(この際のコントロールには緩衝液Iを用いた。
【0028】
<実施例3> クローニング
(3−1)[アミノ末端アミノ酸配列]
カルシウム結晶化阻害タンパク質のアミノ末端アミノ酸配列をエドマン分解法により決定した。それぞれ約10pmol相当の酵素タンパクを含むカルシウム結晶化阻害タンパク質の精製酵素標品溶液を10〜20% ポリアクリルアミド濃度勾配ゲルを用いたSDS−PAGEに供した。泳動終了後、ゲル上で分離された酵素をプロブロット(アプライドバイオシステムズ社製)なる膜にブロッティングし、酵素が吸着した部分の膜をプロテインシークエンサー(G1000A、ヒューレット・パッカード社製)を用いて分析した。この結果、決定された両酵素のアミノ末端アミノ酸配列はKNLVEKSMNTQLSNWFILYSKLであった。
【0029】
(3−2)[Bacillus amyloliquefaciensからの染色体DNAの調製]
2mlのNB培地にBacillus amyloliquefaciens NBRC14141株をグリセロールストックより10μlを植菌し、37℃で一晩培養した。得られた培養液の1mlを100mlの同培地へ植菌し、同じく37℃で一晩培養し、8,000×g、10分間遠心することにより菌体を回収した。その菌体を10mlの緩衝液A[100mM NaClおよび10mM EDTA(pH8.0)を含む100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)]に懸濁し、0.25mlのリゾチーム溶液(20mg/ml)を添加、37℃、1時間インキュベートした。次に2.5mlの5.0% SDS含有緩衝液Aを加えた後、60℃で20分間振とうしながらインキュベートし、1.5mlのプロテアーゼK溶液(20mg/ml)を添加した。その後、37℃で一晩インキュベートし、その溶液に対してほぼ等量のフェノールを加えて室温で約10分間穏やかに振とうした。2,000×g、10分間遠心し、その上清を冷エタノールに移し、染色体DNAをガラス棒で巻き取った。染色体DNAを巻き取った後の溶液に、再びほぼ等量のフェノールを加え、同様の操作を行なって再度染色体DNAを巻き取った。得られた染色体DNAを10μlの緩衝液Aに懸濁し、ここに50μlのRNaseA溶液(10mg/ml)を添加した後、37℃で10分間インキュベートした。この溶液から染色体DNAをエタノール沈澱により回収し、5mlの緩衝液B[140mM NaClおよび1mM EDTA(pH7.5)を含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)]に懸濁し、同緩衝液で一晩透析し、約5.0mgの染色体DNAを得た。その純度をOD260nm/280nmで検定したところ、両方共に約1.8であり、以下のクローニングに使用した。
【0030】
(3−3)[カルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子のクローニング]
(3−1)で明らかにされたカルシウム結晶化阻害タンパク質のN末端側のアミノ酸配列により、配列表の配列番号3〜6、7〜10で表わされる混合プライマー1−1〜1−4、2−1〜2−4をデザインし、DNA合成機で合成し、精製した。これらのプライマーを用いてLA PCR in vitro cloning kit(宝酒造社製)によりカルシウム結晶化阻害タンパク質遺伝子のクローニングを行なった。
一次PCR反応は以下のように行なった。染色体DNAを制限酵素HindIIIで完全消化し、その末端にHindIIIアダプターをDNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結した。その一部を0.5ml容PCR用チューブにとり、5μlの10×LA PCR buffer、8μlのdNTP混合液、1μlの混合プライマー1(プライマー1−1〜1−4の混合物)、1μlのプライマーC1(LA PCR in vitro cloning kit(宝酒造社製)に添付のプライマー)、0.5μlのTaKaRa LA Taqを加え、滅菌水を加えて50μlとしたものを用いた。この溶液に50μlのミネラルオイルを重層した後、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(宝酒造社製)により反応を行なった。反応条件は94℃で5分間変性を行なった後、94℃で30秒間(変性)→45℃で30秒間(プライマーのアニーリング)→72℃で10秒間(合成反応)のサイクルを30サイクル行なった。
【0031】
次にこの反応液をテンプレートとして用い、2次PCRを行なった。1次PCR後の反応液1μlをテンプレートとし、混合プライマー2(プライマー2−1〜2−4の混合物)とプライマーC2(LA PCR in vitro cloning kit(宝酒造社製)に添付のプライマー)の組み合わせで1次PCRと同様の条件でPCRを行なった後、上層のミネラルオイルを除去し、次いで5μlを1.0%アガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロミドでDNAを染色し、増幅産物の確認を行なった。その結果、約1.4kbのDNAフラグメントが確認され、該DNAフラグメントをCa1と命名した。
この増幅フラグメントCa1をアガロースゲルより切り出し、pCR2.1に連結し、大腸菌JM109を形質転換した。該形質転換体から調製したプラスミドをもとにして、ジデオキシチェーンターミネーター法で塩基配列を決定した。その結果、145個のアミノ酸からなるタンパク質をコードするORFが見出された。
該ORFの塩基配列を配列表の配列番号2に示す。
なお、N末端アミノ酸配列は、配列番号1の1〜22番目のアミノ酸に相当する配列であった。
【0032】
(3−4)[カルシウム結晶化阻害タンパク質を発現するプラスミドの構築]
プライマー3(配列番号11)は、制限酵素NdeIの認識配列を塩基番号10〜15に持ち、さらにアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸番号1〜7に相当する塩基配列を塩基番号16〜35に持つ合成DNAである。このプライマー3と、制限酵素BamHIの認識配列を塩基番号6〜11にもち、染色体上のカルシウム結晶化阻害タンパク質の読み枠から約300bp下流の相補鎖にハイブリダイズするプライマー4(配列番号12)を用いて、以下のようにPCRを行った。0.5ml容PCR用チューブにプライマー5、6を10pmolずつ、テンプレートとして(3−2)で調製した染色体DNA 10ng、5μlの10×Ex Taq緩衝液、8μlのdNTP混合液、0.5μlのTaKaRa Ex Taqを加え、滅菌水を加えて50μlとした。これを自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(宝酒造社製)にセットし、94℃で2分間変性を行った後、94℃で1分間→55℃で2分間→72℃で2分間のサイクルを25サイクル行った。このPCR産物をエタノール沈澱により濃縮、脱塩し、制限酵素NdeI(宝酒造社製)及びBamHI(宝酒造社製)で二重消化し、1.0%アガロース電気泳動によりそのNdeI−BamHI消化物を抽出精製した。この精製したものと同酵素で消化したpET11a(宝酒造社製)を混合し、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結した。その後、ライゲーション反応液10μlを用いて大腸菌BL21(DE)を形質転換し、その形質転換体を1.5%(w/v)濃度の寒天を含むLB培地(アンピシリン50μg/ml含む)上で生育させた。白色を呈したコロニーからプラスミドを調製し、DNAシークエンシングを行い、正しくPCR産物が挿入されたプラスミドを選択し、これをpNB101と命名した。pNB101は、カルシウム結晶化阻害タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸番号1〜145のアミノ酸配列をコードするプラスミドである。
【0033】
(3−5)[発現テスト]
上記(3−4)で得られた、このpNB101を含む形質転換体を2.5mlのLB液体培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。この一部を新たに2.5mlの同培地に植菌し、37℃で対数増殖期まで培養した。ここでIPTGを終濃度1.0mMになるように添加し、培養温度を20℃にしてさらに2時間培養して目的タンパク質を発現誘導させた。その後菌体を遠心分離により集め、150μlの細胞破砕溶液[10mM 塩化ナトリウムを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.2)]に再懸濁した。超音波により菌体を破砕し、遠心分離により上澄みの抽出液と沈澱とに分離した。それぞれを試料として炭酸カルシウム結晶化阻害活性を測定したところ、上清抽出液に活性が確認された。なお、この活性は100mlの培養液当たりの活性で比較した場合、野性株のもつ活性の約25倍であった。
【0034】
下記に、カルシウム吸収促進を目的として、カルシウムと共に本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有した飲食物及び飼料の実施例を記載する。
【0035】
実施例4
下記の処方に従ってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 55.0%
ブドウ糖 23.0%
軟化剤 1.0%
炭酸カルシウム 0.5%
抽出タンパク質 0.5%
【0036】
実施例5
下記の処方に従ってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 75.0%
還元麦芽糖 3.6%
軟化剤 1.0%
第二リン酸カルシウム 0.2%
抽出タンパク質 0.2%
【0037】
実施例6
下記の処方に従って錠菓を調製した。
砂糖 74.0%
乳糖 20.0%
グリセリン脂肪酸エステル 0.2%
香料 0.4%
炭酸カルシウム 0.8%
抽出タンパク質 0.3%
精製水 4.5%
【0038】
実施例7
下記の処方に従ってチョコレートを調製した。
砂糖 41.0%
カカオマス 15.0%
全脂粉乳 25.0%
ココアバター 18.0%
炭酸カルシウム 0.3%
乳化剤 0.3%
香料 0.2%
抽出タンパク質 0.2%
【0039】
実施例8
下記の処方に従って飲料を調製した。
果糖ブドウ糖液糖 5.00%
砂糖 4.50%
酸味料 1.27%
香料 0.20%
抽出タンパク質 0.02%
塩化カルシウム 0.01%
精製水 89.00%
【0040】
実施例9
下記の処方に従って飲料を調製した。
オレンジ果汁 85.20%
砂糖 11.70%
クエン酸 2.00%
香料 1.00%
塩化カルシウム 0.05%
抽出タンパク質 0.05%
【0041】
実施例10
下記の処方に従ってアイスクリームを調製した。
果糖ブドウ糖液糖 0.3%
砂糖 8.7%
酸味料 1.0%
香料 0.2%
精製水 89.0%
安定剤 0.3%
塩化カルシウム 0.2%
抽出タンパク質 0.3%
【0042】
実施例11
下記の処方に従って産卵鶏用飼料を調製した。
トウモロコシ 51.0%
マイロ 15.3%
大豆粕 17.0%
魚粉 3.3%
米ぬか 8.2%
食塩 0.2%
動物性油脂 3.0%
ビタミンミックス 0.2%
乳酸カルシウム 1.0%
抽出タンパク質 0.8%
【0043】
実施例12
下記の処方に従ってカプセル剤を調製した。
抽出タンパク質 50.0%
乳糖 47.0%
第二リン酸カルシウム 1.0%
ステアリン酸マグネシウム 2.0%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【0044】
実施例13
下記の処方に従って注射剤を調製した。
抽出タンパク質 0.05%
ブドウ糖 1.00%
第二リン醸カルシウム 1.00%
注射用水 97.00%
上記混合溶液をメンブランフィルターで濾過後に再び除菌濾過を行い、その濾過液を無菌的にバイアルに分注し、窒素ガスを充填した後、密封して注射剤とした。
【0045】
実施例14
下記の処方に従って錠剤を調製した。
抽出タンパク質 20.0%
直打用微粒No.209(富士化学社製) 37.0%
結晶セルロース 33.0%
CMCカルシウム 8.0%
ステアリン酸マグネシウム 2.0%
上記成分を均一に混合し、その混合末を打錠して、1錠200mgの錠剤とした。
直打用微粒No.209(メタケイ酸アルミン酸マグネシウム20%、トウモロコシデンプン30%、乳糖50%)
【0046】
実施例15
下記の処方に従ってシロップ剤を調製した。
抽出タンパク質 0.1%
単シロップ 30.0%
精製水 69.8%
炭酸カルシウム 0.1%
抽出タンパク質を、精製水で完全に溶解し、シロップを加えて混合し、シロップ剤とした。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例2で得られたタンパク質について、実施例1に記載の測定方法でカルシウム結晶化阻害活性測定を行った結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)から(3)のいずれかに記載のポリペプチド;
(1)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(2)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチド;
(3)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個以上21個以下のアミノ酸の置換、欠失、付加もしくは挿入の少なくとも1つが行われたアミノ酸配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
Bacillus amyloliquefaciensより得ることのできる請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
以下の(1)から(5)のいずれかに記載のDNA;
(1)配列表の配列番号2に示される塩基配列を有するDNA;
(2)配列表の配列番号2に示される塩基配列と85%以上の配列同一性を示す塩基配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(3)配列表の配列番号2に示される塩基配列において、1個以上65個以下の塩基の置換、欠失、付加もしくは挿入の少なくとも1つが行われた塩基配列からなり、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(4)配列表の配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつカルシウム結晶化阻害活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(5)請求項1に記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項4】
Bacillus amyloliquefaciensより得ることのできる請求項3記載のDNA。
【請求項5】
請求項3記載のDNAを含むベクター。
【請求項6】
請求項5記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項7】
Bacillus amyloliquefaciensを培養する工程、および培養物から請求項1に記載のポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする請求項1記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の形質転換体を培養する工程、および該培養物から請求項1に記載のポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする請求項1に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項9】
請求項1記載のポリペプチドを有効成分とすることを特徴とするカルシウム結晶化阻害・吸収促進剤。
【請求項10】
請求項9記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飲食物。
【請求項11】
請求項9記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飼料。
【請求項12】
さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする請求項10記載の飲食物。
【請求項13】
さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする請求項11記載の飼料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−27939(P2009−27939A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192545(P2007−192545)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】